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治療前に光干渉断層計所見の著明な改善を認めたAcute Syphilitic Posterior Placoid Chorioretinitis(ASPPC)の 1 例

2022年5月31日 火曜日

《第54回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科39(5):660.665,2022c治療前に光干渉断層計所見の著明な改善を認めたAcuteSyphiliticPosteriorPlacoidChorioretinitis(ASPPC)の1例永田篤加藤大輔日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院眼科ACaseofAcuteSyphiliticPosteriorPlacoidChorioretinitis(ASPPC)inwhichOCTFindingsRevealedSpontaneousResolutionBeforeTreatmentAtsushiNagataandDaisukeKatoCDepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossAichiMedicalCenterNagoyaDainiHospitalC目的:AcuteCsyphiliticCposteriorCplacoidchorioretinitis(ASPPC)に特徴的なCOCT像は多く報告されているが,病態は不明である.今回治療前早期に急速にCOCT像の改善を認めたC1例を報告する.症例:52歳,男性.1週間前に急に右中心暗点を自覚し近医より紹介受診.視力は右眼C0.03(0.15),左眼C0.05(1.0),右眼黄斑部に黄白色非隆起性病変(placoidlesion:PL)を認めた.眼底自発蛍光,フルオレセイン蛍光造影で過蛍光所見,インドシアニングリーン蛍光造影で低蛍光をCPLより縦に広い範囲に認めた.OCT所見はCellipsoidzone(EZ)の消失,PL部位の色素上皮ラインの不正隆起を認めた.梅毒反応陽性を認めCASPPCと診断した.受診C23日後のCOCTでCPLの消失とCOCT所見の改善を認めた.結論:画像所見から免疫機序の炎症反応が示唆された.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCacuteCsyphiliticCposteriorCplacoidchorioretinopathy(ASPPC)inCwhichCopticalCcoherencetomography(OCT)imagingCrevealedCspontaneousCimprovementCinCtheCearlyCstageCpriorCtoCtreatment.CCaseReport:ThisCstudyCinvolvedCaC52-year-oldCmaleCwithCcentralCscotomaCinChisCrightCeyeCforC1CweekCpriorCtoCpresentation.Hisbest-correctedvisualacuitywas0.15ODand1.0OS,andayellowishplacoidlesionwasobservedinCtheCmacularCregionCofCtheCrightCeye.CFundusCauto.uorescenceCandC.uoresceinCangiographyCshowedChyper.uorescence,CandCindocyanineCgreenCangiographyCrevealedChypocianescenceCinCtheCupperCmacularCregion.COCT.ndingsshoweddisruptionoftheellipsoidzone(EZ)andnodularthickeningoftheretinalpigmentepitheli-um(RPE),whichcorrespondedtothelesionoftheangiographicallydamagedarea.Syphilisserology.ndingswerepositive,CandCheCwasCdiagnosedCasCASPPC.CHowever,CatC23-daysCpostCpresentation,COCTCimagingCrevealedCresolu-tionoftheinitialEZandRPE.ndings.Conclusion:Inthiscase,multimodalretinalimaging.ndingssuggestedanimmuneresponsetoASPPC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(5):660.665,C2022〕Keywords:梅毒,ASPPC,梅毒性ぶどう膜炎,光干渉断層計.syphilis,ASPPS,syphiliticuveitis,opticalcoher-encetomography.Cはじめに床像を示すため診断に難渋することが多い.虹彩炎,強膜梅毒患者はC2010年以降わが国では急速に増加しており,炎,網膜血管炎,硝子体混濁などを認めるが,特異的な所見日常診療の場で遭遇する機会が増えてくると考えられる.梅はないためぶどう膜炎の鑑別には常に梅毒を考慮する必要が毒による眼病変は多彩で,そのなかのぶどう膜炎も多彩な臨ある.一方acutesyphiliticposteriorchorioretinitis(ASPPC)〔別刷請求先〕永田篤:〒466-8650愛知県名古屋市昭和区妙見町C2-9日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院眼科Reprintrequests:AtsushiNagata,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossAichiMedeicalCenterNagoyaDainiHospital,2-9Myokencho,Syowa-ku,Nagoya-shi,Aichi466-8650,JAPANC660(110)はC1988年に初めて報告され1),Gassらが後にCASPPCと命名した梅毒性ぶどう膜炎の一つである2).所見が特徴的で,さらに最近は光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)像も多く報告され3,5,6),鑑別を要する類似したOCT像を呈する疾患もあるが,この眼底所見とCOCT所見の特徴を知っていれば,梅毒血性反応を行い,陽性となれば診断は比較的容易である.しかし,ASPPCの病態はよくわかっていない.今回治療前早期に急速にCOCT像の改善を認めたC1例を経験したので,その特徴につき考察する.CI症例患者:52歳,男性.主訴:右中心暗点.既往歴:1年前亀頭に皮疹が出現し皮膚科で経過観察し自然に改善した.2019年C5月頃口内炎がよくできた.現病歴:2019年C11月C24日に急に右中心暗点を自覚し近医を受診し,原因不明の視力障害精査目的にてC12月C2日に当院を紹介受診した.当科初診時視力は右眼C0.03(0.15C×.8.0D),左眼C0.05(1.0C×.7.5D(cyl.1.5DAx170°),眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部,中間透光体に異常所見は認めず,眼底には,右眼黄斑部に境界明瞭な淡い非隆起性の黄色網膜外層病変(placoidlesion:PL)を認めた.左眼は異常所見を認めなかった(図1).黄斑部CPLはCOCT所見の網膜色素上皮(retinalCpigmentCepithe-lium:RPE)ラインの不整隆起を認め,一部は結節状の小隆起を認めた.Ellipsoidzone(EZ)の消失も認めた.さらに,冠状断では逆三角で示す範囲の外境界膜ラインの消失,EZの消失や不連続所見,RPEラインの結節状隆起を認めた(図2).冠状断連続切片ではCPLの範囲の横径の幅で上方に帯状に同様の網膜外層異常を認めた.初診時の右眼眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF),フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCfundusangiography:FA),インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)で各々の検査はCPL以外の広い範囲の障害部位を描出した.FAは時間の経過とともに過蛍光を示し,IAではCPLは造影後期で強い低蛍光,その他の病巣も顆粒状の低蛍光を示した.またC3検査で描出された異常部位範囲はおおよそ一致し,その縦の範囲はCOCT冠状断の異常部位と一致していた(図3).左眼はいずれも異常を認めなかった.以上の所見より,また年齢,性別,既往歴から梅毒性ぶどう膜炎を疑い,とくにCASPPCを疑い採血を行った.梅毒血性反応CrapidplasmaCregain(RPR)128倍,treponemaCpallidumChemag-glutination(TPHA)81,920倍,HIV陰性,HBs抗原陰性,HCV陰性であった.その他の全身所見に異常は認めなかった.RPR,TPHAの抗体価高値より梅毒性ぶどう膜炎,ASPPCと診断した.当院総合内科にて髄液検査を施行し,CTPHA10,240倍を認め,第C2期梅毒と診断された.初診からC15日後のC12月C17日の右眼視力は矯正C0.4に改善し中心暗点の自覚症状も改善を認めた.右眼眼底のCPLは消退しOCTではCPL部位のCRPEラインの不整隆起も改善を示し,12月C25日にはCEZも改善を認めた.視力は矯正C0.5に改善を認めた.しかし,FAFの過蛍光領域は拡大を示した(図4).治療はC12月C26日から開始し総合内科にてセフトリアキソンC2CgをC1日のみ注射し,翌日よりペニシリンCGをC400万単位,6日間点滴治療を行った.治療後の経過ではCOCTの外層の異常所見は翌年のC2月C7日時点でほぼ改善を認め,図1初診時眼底右眼黄斑部に境界明瞭な淡い非隆起性の黄色網膜外層病変(placoidlesion)が認められる.図2初診時右眼OCT所見a:冠状断.黄斑部CPL部位(→)の範囲のCRPEラインの不整隆起を認め,一部は結節状の小隆起を認めた.EZの消失も認めた.で示す範囲(黄斑部上方)の外境界膜ラインの消失,EZの消失や不連続所見,RPEラインの結節状隆起を認めた.Cb:水平断.PL部位(→)の範囲にCRPEラインの不整隆起を認めた.bdf図3右眼の初診時所見a:カラー眼底写真.淡いCPLを認めた.Cb:FAF.PLから上方に帯状に過蛍光を認めた.Cc:FA(1分C9秒).わずかに黄斑部上方に点状の過蛍光を認めた.Cd:FA(15分C17秒).PLを含んで上方に過蛍光所見を認めた.Ce:IA(1分C9秒).PLにわずかな低蛍光像を認めた.Cf:IA(15分C17秒).PLは強い低蛍光像を示し,PLと連続して顆粒状の低蛍光所見を認めた.図4右眼治療前のOCT水平断像とFAF所見a,b:12月C17日.初診からC15日後でCFAFは初診時より過蛍光領域の拡大を認める.OCTではCPL部位のCRPEの肥厚の改善を認めた.c,d:12月C25日.FAFはさらに過蛍光領域の拡大を認める.OCTではCPL部位はCRPEの肥厚は消退しCEZの回復を認めた.黄斑上方のCEZも一部断続的であるが改善を認めた.FAFも過蛍光領域は消失した.3月C6日には視力は矯正C1.0に改善した(図5).全身的にはその後もとくに異常所見は認めなかった.CII考按Enandiらの報告では過去に報告されたCASPPCの論文をレビューしC16症例のCASPPCの患者の臨床的,血管造影的特徴を考察している4).平均発症年齢C40歳,9例が両眼性,7例がC2期梅毒の皮膚粘膜所見の既往あり,9例がCHIV陽性であった.眼底後極部に大きなCPLを認めCFAで病変部の過蛍光所見を認め,抗菌薬治療により短期間にCPLの消失と視力の改善を認めている.ASPPCは眼に起こる梅毒病変のなかで頻度はまれではあるがはっきりとした特徴的な所見を示すと結論づけている.OCT所見の特徴としてはCPLに一致して外境界膜,EZ,interdigitationzoneの消失,RPEの不整隆起,凹凸変化,結節状の小隆起を認めることが報告されている3.6).本症例は片眼の黄斑部CPLとその範囲以上の広範囲に網膜外層障害所見を認めた.さらに当院受診のC1年前に陰茎亀頭の皮疹が出現していた.これらのことから梅毒感染,ASPPCを強く疑い診断に至った.HIV感染の合併も可能性としてあるため抗体検査を行ったが陰性であった.当院で経験した症例の所見の特徴として,PLはC2週間という短期間で,かつ無治療の段階で自然消失を認め,OCTではCRPEラインの不整隆起像も同様に急速に改善を認めた.無治療で早期に改善した理由は不明であったが,このことは既報でも同様の報告があるが7,8)これらの報告でもCHIV感染はなく,免疫状態が正常で他の全身徴候がなく軽い状態のASPPCであったためと考察している.本症例でもCHIVは陰性であったため同様のことが考えられるが,EnandiらはHIV陽性患者と陰性患者で臨床的特徴と長期の視力予後で違いはなかったと述べている4).つぎに本症例では検眼鏡所見ではほとんどわからないCPL以外の病変をCOCT,FA,FAF,IAのマルチモーダルイメージングで明瞭に描出した.初診時これらの検査ではCOCT冠状断のCEZ,RPEラインの異常範囲とCFAF,FA,IAの異常範囲は一致を認めた.OCTでは網膜外層の障害の特徴図5右眼治療後のOCT水平断像とFAF所見a,b:2020年C1月C6日.FAFで一部過蛍光領域の残存を認める.OCT所見はわずかにCEZの不整を認めるのみであった.視力は矯正C0.7に改善した.Cc,d:202年C2月C7日.FAFで過蛍光所見は消退を認め,OCT所見はほぼ正常となった.視力は矯正C0.8に回復した.と範囲を示し,FAFでは障害の範囲におおよそ一致した高輝度所見を明瞭に示した.時間的経過とともに範囲は拡大し視力やCOCTの改善にやや遅れて改善を認めた.FAFでは過去の報告でも高輝度を示すことが報告されているが4,5,9)CPLに一致かその周辺の同心円状の高輝度所見の報告が多く,本症例のようにCPLから連続して縦に長く認めた例は筆者らが調べた限りではなかった.高輝度を示す理由としてCMatus-motoら9)は高輝度の範囲はCPLの範囲に限局していてCRPEの機能不全によるリポフスチンの蓄積と一部視細胞外節の不完全な貪食とによるとし,それが眼底所見のCPLとして認めると考察している.さらに本症例ではCIA所見で異常部位を明瞭に描出している.ASPPCのCIA所見はCPL部位の低蛍光を認めるが4,5),本症例では後期相においてCPL部位の強い低蛍光と上方に連続した病変の顆粒状の低蛍光を認めた.低蛍光部位はCFAFの高輝度部位,FAの後期相とほぼ一致を認めた.他のASPPCの報告を調べても筆者らが調べた限り当症例のようにCPL以外の範囲にも非常に明瞭な低蛍光像,顆粒状の低蛍光像を示した報告は認めなかった.ASSPPCの病態ついてはいまだ明らかではない.本症例で得られた異常所見から推測すると,他の報告同様9,10),病変は急性の局所性炎症によりCRPEの障害を起こしリポフスチンがおもに黄斑部のCRPE上に沈着しそれが眼底所見ではPLとして観察され,またCOCTでみられる顆粒状のCRPEの隆起所見も部分的な沈着であり,それはCIAで認めた顆粒状の低蛍光所見として認め,異常部位全体が低蛍光を示したのは沈着によるブロックと考えた.広い範囲の外層障害を起こしたが,それはCOCTのCEZの消失として認め,黄斑部にCPL所見を示したのは周辺網膜と黄斑部の代謝や解剖学的な違いからか,障害の程度の違いからか,リポフスチンの沈着を多く認めたためではないかと推測した.縦に帯状に障害を認めた理由は不明である.炎症反応をCRPEに起こす機序は依然不明であるが梅毒感染後に起こるなんらかの免疫応答が推測され,本症例ではCHIV感染がなく正常の免疫応答が働き早期の炎症の改善に伴い駆梅治療前の短期間に良好な視力に改善したと考えた.今回筆者らが経験した症例はCplacoidlesionのみならず広い範囲に網膜外層障害を認めたC1例で,マルチモーダルイメージングが診断の助けとなった.今後梅毒やCHIV感染の増加に伴い日常診療でCOCTで網膜外層異常を認めた場合ASPPCも重要な鑑別候補にあがると考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DeSouzaEC,JalkhAE,TrempleCLetal:Unusualcen-tralCchorioretinitisCasCtheC.rstCmanifestationCofCearlyCsec-ondarysyphilis.AmJOphthalmolC105:271-276,C19982)GassJD,BraunsteinRA,ChenowethRG:Acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis.OphthalmologyC97:1288-1297,C19903)BristoP,PenasS,CarneioAetal:Spectral-domainopti-calcoherencetomographyfeaturesofacutesyphiliticpos-teriorretinitis:theroleofautoimmuneresponseinpatho-genesis.CaseRepOphthalmolC2:39-44,C20114)EnandiCCM,CNeriCP,CAdelmanCRACetal:AcuteCsyphiliticCposteriorCplacoidchorioretinitis:reportCofCaCcaseCseriesCandCcomprehensiveCreviewCofCtheCliterature.CRetinaC32:C1915-1941,C20125)PichiCF,CGiardellaCAP,CCunninghamCETCJrCetal:SpectralCdomainopticalcoherencetomography.ndingsinpatientswithCacuteCsyphiliticCposteriorCplacoidCchorioretinopathy.CRetinaC34:373-384,C20146)BurkholderBM,LeungTG,OstheimerTAetal:SpectraldomainCopticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCinCacuteCsyphiliticCposteriorCplacoidCchorioretinitis.CJCOphthalmicCIn.ammInfectC4:2,C20147)JiYS,YangJM,ParkSW:EarlyresolvedacutesyphiliticposteriorCplacoidCchorioretinitis.COptomCVisCSciC92:S55-S58,C20158)BaekCJ,CKimCKS,CLeeWK:NaturalCcourseCofCuntreatedCacuteCsyphiliticCposteriorCplacoidCchorioretinitis.CClinCExperimentOpthalmolC44:431-433,C20169)MatsumotoCY,CSpaideRF:Auto.uorescenceCimagingCofCacuteCsyphiliticCposteriorCplacoidCchorioretinitis.CRetinalCCases&BriefReportsC1:123-127,C200710)佐藤茂,橋田徳康,福島葉子ほか:Acutesyphiliticpos-teriorCplacoidchorioretinitis(ASPPC)を呈した梅毒性ぶどう膜炎のC3例.臨眼72:1263-1272,C2018***