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トリアムシノロンアセトニドTenon 囊下注射が奏効した妊婦の原田病の1例

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(109)711《第44回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科28(5):711.714,2011cはじめに原田病に対しては副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)の全身投与が一般的に行われているが,全身投与の副作用が問題となる症例も少なくない.ステロイドの全身投与による副作用は,易感染性,糖尿病,消化管潰瘍,精神障害,骨粗鬆症などがあり大きな問題となる.基礎疾患のない原田病の21歳の男性がステロイド大量漸減療法中に成人水痘により死亡した事例1)もある.さらに,妊婦に対してのステロイド投与は,母体のみならず胎児に対しても高い危険性を伴う.たとえば,妊娠初期では胎児の催奇形性,妊娠後期では胎児の副腎機能低下の可能性2)があるし,因果関係は不明とされているが妊娠中期でのステロイド大量漸減療法中の胎児の死亡事例の報告3)もある.そのため,妊婦の原田病の治療については,一般的な大量漸減療法のみならず,眼局所投与のみで治療した報告4.7)が散見される.今回,筆者らは原田病を発症した27歳,妊娠19週の妊婦に対しトリアムシノロンアセトニド(TA)Tenon.下注射が奏効した1例につき報告する.〔別刷請求先〕正木究岳:〒802-8555北九州市小倉北区貴船町1番1号社会保険小倉記念病院眼科Reprintrequests:NobutakeMasaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,1-1Kifunemachi,Kokurakitaku,Kitakyushucity802-8555,JAPANトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射が奏効した妊婦の原田病の1例正木究岳林良達劉百良宮原晋介小倉記念病院眼科ACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseduringPregnancyTreatedwithSub-TenonInjectionofTriamcinoloneAcetonideNobutakeMasaki,RyoutatsuHayashi,MomoyoshiLiuandShinsukeMiyaharaDepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital背景:原田病の治療は副腎皮質ステロイド薬の全身投与が一般的であるが,副作用が問題となる症例も少なくない.症例:27歳,妊娠19週の妊婦.両眼の視力低下を主訴に当科を初診した.初診時の矯正視力は両眼ともに0.5,著明な漿液性網膜.離を認め,産婦人科にて妊娠中毒症は否定されており原田病と診断し,両眼トリアムシノロンアセトニド(TA)Tenon.下注射を施行した.両眼改善傾向も左眼には漿液性網膜.離が残存し,初回注射後2週目に再度両眼TATenon.下注射を施行し,両眼とも漿液性網膜.離は消失して,視力も1.0以上へ回復した.以降7カ月間経過観察を行っているが,再発は認めていない.経過中に正常児を分娩し,母体にも全身的な合併症は認められなかった.結論:妊婦の原田病症例においてTATenon.下注射は大きな副作用もなく有効な治療法となる症例もあると考えられた.Background:PatientswithVogt-Koyanagi-Harada(VKH)diseasearegenerallytreatedwithsystemiccorticosteroid,whichsometimesleadstoseriouscomplications.Casereport:A27-year-oldfemale,inthenineteenthweekofpregnancyhadseriousretinaldetachmentinbotheyes.ShewasdiagnosedashavingVKHdiseaseandtreatedbysub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonide(TA).TheretinaldetachmentdisappearedafterthesecondinjectionofTAinbotheyes.Thebest-correctedvisualacuityinbotheyesimprovedfrom0.5to1.0,andthepatientwasdeliveredofahealthychild.Conclusion:WesuccessfullytreatedapregnantwomanwithVKHdiseasebysub-TenoninjectionofTA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):711.714,2011〕Keywords:原田病,妊婦,トリアムシノロンアセトニド,Tenon.下注射.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,pregnantwoman,triamcinoloneacetonide,sub-Tenoninjection.712あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(110)I症例患者:27歳,女性.妊娠19週.主訴:両眼視力低下.既往歴・家族歴:19歳のとき甲状腺機能低下を指摘されたことがあったが,初診時には正常化していた.現病歴:4日前よりの視力低下を自覚し当院を初診した.頭痛,難聴,感冒様症状などの全身症状はなかった.初診時所見:両眼矯正視力0.5,眼圧は右眼8mmHg,左眼8mmHg.前眼部は両眼に前房細胞を認めた.隅角,虹彩には異常所見を認めなかった.眼底は両眼後極部を中心にした著明な漿液性網膜.離(図1,2)を認めた.妊娠中であり蛍光眼底造影検査および髄液検査は同意が得られず行わなかった.産婦人科にて妊娠中毒症は否定されており,採血その他の全身検査にて腎機能など正常値であったため,眼所見より原田病と診断した.ab図1初診時の眼底所見(a:右眼,b:左眼)両眼後極部に漿液性網膜.離を認める.VD=(1.0)VD=(1.0)VD=(0.5)右眼VS=(1.2)VS=(0.6)VS=(0.5)左眼初診日初回TA注射6日目2回目TA注射11日目図2光干渉断層計(OCT)所見・視力の経過初診時は両眼に漿液性網膜.離を認める.初回TA注射6日目には右眼は著明に改善したが,左眼には漿液性網膜.離が残存している.2回目TA注射11日目には両眼漿液性網膜.離は吸収され,視力も右眼1.0,左眼1.2まで改善している.(111)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011713経過:初診日よりベタメタゾン点眼液(両眼1日6回)にて治療を開始するも点眼開始10日後で矯正視力・眼底所見に改善がなく,その後の治療方針を検討することとなった.一般的には原田病に対しての治療はステロイドの全身投与であるが,局所投与のみでも治癒した症例の報告があること,当院産婦人科の見解はステロイドの一般的な副作用に加え,胎児の口蓋裂などの副作用の可能性があること,大量漸減療法で使用するステロイドは量としては多いが,母体の今後を考えるとやむをえないという判断であることを説明した.家人,本人の希望は,「点眼のみの経過観察ではなく,まずはステロイドの局所投与を行い,それで治癒しない場合は全身投与を考えたい」であった.そこで両眼TATenon.下注射(各20mg)を行った.TATenon.下注射後6日目で視力は右眼1.0,左眼0.6へと改善,右眼の漿液性網膜.離はほぼ消退するも,左眼には漿液性網膜.離は残存した(図2).右眼でのTATenon.下注射が奏効したので,初回注射後2週目に再度両眼TATenon.下注射(各20mg)を施行した.翌日より漿液性網膜.離は改善し始め2回目注射後11日目には視力は右眼1.0,左眼1.2へと改善,両眼漿液性網膜.離は消失した(図2).注射後4カ月目に2,468gの正常児を出産,注射後7カ月間経過観察を行っているが,再発は認めていない.両眼とも1.0以上の良好な視力を維持している(図3).TATenon.下注射後より眼圧が上昇し始め,注射後3カ月目には20mmHg台前半まで上昇,5カ月後より緑内障点眼開始,6カ月後よりベタメタゾン点眼液(両眼1日4回)をフルオロメトロン点眼液(両眼1日)に変更し眼圧は正常化した.II考察本症例では,本人の同意が得られず髄液検査や蛍光眼底造影検査は行っていない.妊婦に発症する漿液性網膜.離により原田病と鑑別を要するものとして,妊娠に伴う中心性漿液性脈絡網膜症,妊娠中毒に伴う妊娠中毒網膜症があげられる.前者は本症例では両眼ともぶどう膜炎所見を伴っていたこと,後者は本症例では全身的に高血圧・蛋白尿・浮腫は認められず,産婦人科で妊娠中毒症は否定されていること,眼底にも網膜細動脈の狭細化,口径不同,網膜出血,白斑などの高血圧性の眼底変化は伴っていなかったことで鑑別した.妊娠中期に発症した症例で2回のTATenon.下注射を要したが,局所投与のみで寛解を得られ全身的副作用は認められなかった.妊婦の原田病の過去の症例報告では,妊娠時に母体のステロイドホルモン分泌が増加している2)こともあってか,局所投与4.7)(点眼のみ1症例,点眼+結膜下注射1症例,TATenon.下注射1症例)・全身投与5,8,9)(大量漸減療法4症例)とも原田病の経過は良好である.しかしながら妊婦へのステロイド投与では妊娠初期では胎児の口蓋裂,発育阻害,妊娠後期では副腎皮質ホルモンが胎盤を通過し,胎児のACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌を抑制し副腎機能低下をきたす可能性2)があるといわれている.また,因果関係は明らかではないとされているが妊娠後期での大量漸減療法中の胎児死亡の報告3)もある.過去に原田病に対しステロイドのTenon.下注射を施行した症例(デキサメタゾンTenon.下注射1症例,TATenon.下注射5症例)ではステロイドの全身的な副作用を発症することなく寛解している.これらを踏まえ,本人・家人の意向にて全身的な副作用の可能性を減らすために,まずはステロイド局所投与で治療を始め,ステロイド局所投与のみで寛解が得られない場合は,ステロイド全身投与を行う方針で治療を開始した.2回のTATenon.下注射を要したが,局所投与のみで寛解を得られた.今回の症例では,母体・胎児とも全身的副作用は認められなかった.母親については両眼の眼圧上昇を認めたものの,ベタメタゾン点眼をフルオロメトロン点眼に変更することで速やかに正常眼圧へ下降した.眼圧上昇に関してはステロイドの全身投与から点眼局所投与まで幅広い投与法で認められる合併症であり,TATenon.下注射であっても十分に注意が必要と思われた.原田病は全身疾患であり,ステロイドの全身投与が一般的な治療法であるが,今回の妊婦症例のように全身的副作用が危惧される症例では,全身的な合併症の可能性が少ないTATenon.下注射は有効な治療法となりうると考えられた.文献1)岩瀬光:原田病ステロイド治療中の成人水痘による死亡事例.臨眼55:1323-1325,20012)蜷川映己:副腎皮質ステロイド剤の使い方婦人科領域─適応と副作用.治療60:321-325,19783)太田浩一,後藤謙元,米澤博文ほか:Vogt-小柳-原田病を発症した妊婦に対する副腎皮質ステロイド薬治療中の胎児死亡例.日眼会誌111:959-964,20074)佐藤章子,江武瑛,田村博子:妊娠早期に発症し,ステロイド局所治療で軽快した原田病不全型の1例.眼紀37:図3視力経過2回目TA注射後は両眼とも1.0以上の良好な視力を維持している.←←0.11:右眼視力:左眼視力07日21日123457(カ月)0.5矯正視力6TA注射TA注射714あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(112)46-50,19865)MiyataN,SugitaM,NakamuraSetal:TreatmentofVogt-Koyanagi-Harada’sdiseaseduringpregnancy.JpnJOphthalmol45:177-180,20016)稲川智子,三浦敦,五十嵐美和ほか:妊娠9週目にVogt-小柳-原田病を発症した一例.日産婦関東連会誌38:241,20017)松本美保,中西秀雄,喜多美穂里:トリアムシノロンアセトニドテノン.下注射で治癒した妊婦の原田病の1例.眼紀57:614-617,20068)山上聡,望月學,安藤一彦:妊娠中に発症したVogt-小柳-原田病ステロイド投与法を中心として.眼臨85:52-55,19919)渡瀬誠良,河村佳世子,長野斗志克ほか:妊婦に発症しステロイド剤の全身投与を行った原田病の1例.眼紀46:1192-1195,1995***

副腎皮質ステロイド薬にトリアムシノロンアセトニドのTenon蝗渇コ注射を併用した中年女性にみられた乳頭血管炎

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(141)4230910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):423426,2009cはじめに乳頭血管炎は主として健康な若年者の片眼に発症し,視神経乳頭部もしくは篩板付近の網膜中心静脈の炎症によるもので,視神経乳頭の著しい発赤・腫脹や網膜中心静脈閉塞症様の所見で発症する疾患である.治療は副腎皮質ステロイド薬の全身投与による加療が一般的である15).乳頭血管炎は一般的に予後良好ではあるものの,乳頭上の新生血管の形成や白鞘化を残すという報告もある.筆者らは中年女性に発症した本症に副腎皮質ステロイド薬内服とトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用し,著効を示した症例を経験したので報告する.I症例患者:52歳,女性.主訴:左眼霧視.現病歴:2007年10月22日頃から左眼霧視を自覚し,1〔別刷請求先〕田片将士:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:MasashiTakata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,Mukogawacho1-1,Nishinomiya,Hyogo663-8501,JAPAN副腎皮質ステロイド薬にトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用した中年女性にみられた乳頭血管炎田片将士*1,2岡本紀夫*1村上尊*2岡本のぶ子*2三村治*1*1兵庫医科大学眼科学教室*2岡本病院眼科Sub-TenonInjectionofTriamcinoloneAcetonideCombinedwithSystemicAdministrationofOralCorticosteroidforOpticDiscVasculitisinMiddle-agedFemaleMasashiTakata1,2),NorioOkamoto1),TakashiMurakami2),NobukoOkamoto2)andOsamuMimura1)1)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,OkamotoHospital乳頭血管炎(typeⅠ)に副腎皮質ステロイド薬の内服とトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用し,著効を示した症例を経験した.症例は52歳の女性,左眼の霧視にて岡本病院眼科を受診した.眼底検査で左眼視神経乳頭の発赤・腫脹を認めたが,限界フリッカ値や静的視野検査は正常であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で視神経乳頭より蛍光色素の漏出を認めた.以上より左眼乳頭血管炎と診断し副腎皮質ステロイド薬を開始した.しかし,視神経乳頭の所見の改善がみられないのでトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用したところ速やかに乳頭血管炎が消失した.乳頭血管炎が強い場合は副腎皮質ステロイド薬の全身投与に加えてトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用することが有効と考えられた.Wereportcaseofopticdiscvasculitistreatedeectivelywithsub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonideandsystemicadministrationofcorticosteroid.Thepatient,a52-year-oldfemale,presentedwithblurringinherlefteye.Ophthalmoscopicexaminationdisclosedareddishandswollenopticdiscintheeye.Criticalickerfrequencyandstaticvisualeldexaminationwerenormal.Fluoresceinangiographydemonstrateddyeleakagefromtheleftopticdisc.Wediagnosedopticdiscvasculitisinthelefteye,andadministeredcorticosteroidorally;however,thetherapywasinsucienttoreducetheopticdiscvasculitis.Triamcinoloneacetonidewasthereforeinjectedtothesub-Tenonspaceinthelefteye.Afterinjection,theopticdiscvasculitisimprovedquickly.Sub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonide,incombinationwithsystemicadministrationofcorticosteroid,maybeeectiveinthetreatmentofsevereopticdiscvasculitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):423426,2009〕Keywords:乳頭血管炎,トリアムシノロンアセトニド,Tenon下注射.opticdiscvasculitis,triamcinoloneacetonide,sub-Tenoninjection.———————————————————————-Page2424あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(142)週間後から左眼に白点の地図状のものが見えはじめたとのことで,10月29日に岡本病院眼科を受診した.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼1.0(1.5×sph+4.50D),左眼0.5(1.5×sph+4.75D),眼圧は右眼16mmHg,左眼17mmHg.前眼部・中間透光体に異常はなく,眼球運動は制限なく眼位も正位であった.対光反射は迅速かつ十分で相対的瞳孔求心路障害は認めなかった.眼底検査で右眼は正常,左眼は視神経乳頭の高度腫脹・発赤と一部網膜血管の蛇行・拡張がみられた(図1).限界フリッカ値は右眼30Hz,左眼29Hzと左右差は認めなかった.静的視野検査では両眼とも正常範囲内であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)では腕網膜循環時間,網膜内循環時間ともに正常範囲内であり,後期にかけては視神経乳頭からの旺盛な蛍光漏出がみられた(図2,3).頭蓋内,眼窩内の磁気共鳴画像(MRI)撮影を行ったが,異常所見はみられなかった.初診時の血液データを表1に示す.経過:年齢は中年であるが,臨床所見より左眼視神経乳頭血管炎と診断した.プレドニゾロン錠30mgを14日連続投与し,20mgからはそれぞれ7日間ごとに5mgずつ漸減投与し,その後5mg隔日投与を3回行った(総量はプレドニゾロン換算で885mg).経過中11月9日再診時(プレドニゾロン30mg内服中)に視神経乳頭の発赤・腫脹の軽快がみられなかったため,トリアムシノロンアセトニド12mgのTenon下注射を併用した(図4).トリアムシノロンアセトニドのTenon下注射4日後には受診時視神経乳頭の発赤・腫脹の著明な改善を認めた.網膜血管の蛇行・拡張もほぼ消失した.1月8日受診時には,視神経乳頭・網膜血管の所見は消失表1初診時の血液データT-Cho202mg/dlRBC394×104/μlHDL-Cho59mg/dlHb11.8g/dlTG122mg/dlHt36.2%空腹時血糖77mg/dlPlt22.8×104/μlCRP0mg/dl血沈1h15mmWBC7,200/μl2h37mm検査項目に異常値を認めなかった.T-Cho:総コレステロール,HDL-Cho:高比重リポ蛋白コレステロール,TG:中性脂肪,CRP:C反応性蛋白,WBC:白血球数,RBC:赤血球数,Hb:ヘモグロビン,Ht:ヘマトクリット,Plt:血小板数.図3図2と同一症例の蛍光眼底写真(9分42秒)視神経乳頭からの蛍光漏出を認めた.図12007年10月29日時点の左眼眼底写真左眼視神経乳頭の高度腫脹・発赤と一部網膜血管の蛇行・拡張がみられた.図22007年10月29日時点の蛍光眼底写真(34.7秒)FAで初期は腕網膜循環時間は約12秒とほぼ正常で,網膜内循環時間も約10秒とほぼ正常内であった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009425(143)していた(図5).II考察乳頭血管炎は1972年にHayreh6)がopticdiscvasculitisの疾患概念を提唱し,乳頭腫脹が強くみられるtypeⅠと網膜中心静脈閉塞症様所見が前面にみられるtypeⅡに分類した.また,HayrehはtypeⅠは篩板前部での毛様血管の非特異的炎症によるもので,typeⅡは乳頭部もしくは篩板後部での網膜中心静脈の炎症ではないかとの見解を示している.一般的に乳頭血管炎はおもに若年者の片眼性に認められ,Mariotte盲点の拡大以外は視機能の異常は認められないとされている.今回,筆者らが経験した症例は乳頭腫脹が非常に強くみられ,FAの結果や臨床所見からも網膜中心静脈閉塞症様の所見とは異なっているため,typeⅠに分類されると思われる.また,HayrehはtypeⅠに関しては副腎皮質ステロイド薬の全身投与が効果的であると述べている.本症例の特殊性としてはつぎの点があげられる.わが国での他の報告ではほとんどが若年者であり1030歳代がおもである13,5).本症例は52歳と中年であり,比較的まれであるといえる.さらに高度遠視が認められ,強い乳頭浮腫が認められている.高度遠視には強膜の相対的肥厚や小乳頭を伴うことが多く,本症例の危険因子と考えられる.つまり,篩板前域の乳頭血管の非特異的炎症により血管透過性の亢進がみられ,粗な篩板前域組織に組織液の貯留がみられる.それにより強い乳頭浮腫が生じ,篩板前域の静脈路が圧迫される6).それに加えて高度遠視眼での相対的強膜肥厚と小乳頭が加わり,さらに篩板前域の静脈路の圧迫が強化されるという機序が予想される.乳頭血管炎の加療としては,副腎皮質ステロイド薬の全身投与16)や本疾患が一般的に予後良好であることから自然治癒を期待し無治療にて様子をみている報告7,8)もある.一方で予後不良例も報告されている.しかし,初診時の眼底所見や経過で予後良好か不良かを判断する指標が示されていないのが現状である.城間ら4)は抗リン脂質抗体陽性を示した乳頭血管炎で視力不良であった症例を報告している.小暮ら5)は後遺症として乳頭上新生血管や乳頭上の静脈の白鞘形成がみられた症例を,窪田ら8)は無治療にて経過観察を行い,自然治癒を得たものの視神経乳頭の軽度萎縮と乳頭の上下に白鞘を後遺症として残した症例を報告している.Hayreh6)は副腎皮質ステロイド薬を投与せず経過観察を行った症例で発症前の視力に回復するのに4カ月以上かかり,発症約8カ月で視神経乳頭腫脹は消失したものの視神経乳頭の蒼白化を生じた症例に言及するとともに,副腎皮質ステロイド薬の積極的な使用はより早急な加療で後遺症の発現を防ぎ,病期の短縮を図るためにも有用であるとしている.また,別の報告9)では45歳以上で病期が長引くこと,ステロイド治療群と無治療群との比較において前者で病期の短縮を図れたこと,無治療で中心視野欠損を生じた症例があることなどを報告している.本症例では年齢が中年齢で45歳以上であることなどから積極的加療を行った.副腎皮質ステロイド薬内服で加療を開始し,さらにプレドニゾロン30mg内服後も劇的な改善が得られないためトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用した.その結果,内服開始の約1週間後,Tenon下注射の4日後には左眼の視神経乳頭の発赤や腫脹および網膜血管の拡張・蛇行が軽快している.今回筆者らは副腎皮質ステロイド薬の内服投与に加えてトリアムシノロンのTenon下注射を行い著効を得た.トリアムシノロンアセトニドのTenon下注射の単独加療も有用ではないかと思われるが,これに関しては今後単独加療での検討が必要であると思われた.文献1)吉田祐介,伴由利子,小林ルミ:抗カルジオリピン抗体図52008年1月8日時点の左眼眼底写真ほとんど視神経乳頭や網膜血管の病変は消失した.35302520151050プレドニゾロン錠(mg)H19.11.6H19.11.13H19.11.20H19.11.27H19.12.4H19.12.11H19.12.18図4副腎皮質ステロイド薬投与量の推移トリアムシノロンアセトニド12mgのTenon下注射を11月9日(矢印)に施行した.———————————————————————-Page4426あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(144)陽性であった乳頭血管炎の1例.臨眼61:1341-1345,20072)小栗真千子,近藤永子,近藤峰生ほか:14歳の女子に発症した乳頭血管炎の1例.眼臨99:389-391,20053)井内足輔,白石久子:長時間のVDT作業をしていた24歳女性に発症した乳頭血管炎.眼臨紀1:131-133,20084)城間正,照屋明子,早川和久ほか:抗リン脂質抗体陽性を示した乳頭血管炎の1症例.眼紀52:886-888,20015)小暮奈津子,阿部真知子,大西裕子ほか:乳頭血管炎と思われる8症例について.眼臨71:1236-1241,19776)HayrehSS:Opticdiscvasculitis.BrJOphthalmol56:652-670,19727)山本正洋,西尾陽子,大賀正一:視神経乳頭血管炎を呈した慢性活動性EBウイルス感染症の1例.臨眼53:975-977,19998)窪田靖夫,野村恭子:乳頭血管炎の1例.眼臨73:1431-1434,19799)OhKT,OhDM,HayrehSS:Opticdiscvasculitis.GraefesArchClinExpOphthalmol238:647-658,2000***