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骨髄移植治療中に発症した流行性角結膜炎の1例

2018年3月31日 土曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(3):381.383,2018c骨髄移植治療中に発症した流行性角結膜炎の1例髙木理那髙野博子小林未奈田中克明豊田文彦榛村真智子木下望梯彰弘自治医科大学附属さいたま医療センター眼科EpidemicKeratoconjunctivitisafterBoneMarrowTransplantation:ACaseReportRinaTakagi,HirokoTakano,MinaKobayashi,YoshiakiTanaka,FumihikoToyoda,MachikoShimmura,NozomiKinoshitaandAkihiroKakehashiCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter目的:骨髄移植治療中に無菌室で流行性角結膜炎を発症した症例を経験したので報告する.症例:45歳,男性.骨髄移植のため無菌室在室中,移植後C12日目に左眼球結膜充血と流涙,眼痛を自覚.アデノウイルス抗原迅速検査キットで流行性角結膜炎と診断し,ただちにC0.1%フルオロメトロン点眼C4回/日とC1.5%レボフロキサシン点眼C4回/日を開始した.しかし,高度免疫抑制状態であるため,症状改善やウイルス抗原消失にC4週間以上の長期間を要した.結論:無菌室であっても,完全にウイルスを排除することは困難である.アデノウイルス感染に対する予防薬や治療薬がないため,不用意なウイルスの持ち込みや,感染の拡大には細心の注意が必要であると考えた.CPurpose:Toreportapatientwhoreceivedabonemarrowtransplantanddevelopedepidemickeratoconjunc-tivitisduringhisstayinthecleanroom.Case:A45-year-oldmalewhowasaninpatientinthecleanroomhadcongestionCofCtheCbulbarCconjunctiva,Clacrimation,CandCophthalmalgiaCofCtheCleftCeyeC12CdaysCafterCboneCmarrowtransplantation.Hewasdiagnosedwithepidemickeratoconjunctivitis;0.1%.uorometholoneand1.5%levo.oxacinophthalmicCsolutionCwereCprescribedCfourCtimesCdaily.CTimeCtoCresolutionCofCtheCadenovirusCantigenCwasClengthyCbecauseofthesevereimmunosuppressivestatusafterbonemarrowtransplantation.Conclusion:Preventingexpo-suretoadenovirusisdi.culteveninthecleanroom.Becausethereisnoe.ectivetreatmentforkeratoconjunctivi-tis,utmostcautionisrequiredsoasnottointroduceandspreadadenovirusintothatenvironment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):381.383,C2018〕Keywords:流行性角結膜炎,無菌室,骨髄移植,院内感染.epidemickeratoconjunctivitis,cleanroom,bonemarrowtransplantation,nosocomialinfection.Cはじめに流行性角結膜炎(epidemickeratoconjunctivitis:EKC)はアデノウイルスによる,おもに接触感染で感染する非常に感染力の強い眼感染症である.学校感染症の一つでもあり,診断された場合は出席停止や出勤停止となる.多数の患者と接触する機会の多い医療従事者を有する医療機関では,その感染力の強さから院内感染も起きやすいとされている.院内感染が蔓延すると,感染を終息させるのはむずかしい.今回,骨髄移植治療中,無菌室在室でCEKCを発症した症例を経験したので報告する.CI症例症例はC45歳,男性.2014年骨髄異形成症候群と診断され,2016年C2月骨髄移植目的で当院血液内科に入院.同月中旬より前処置開始.抗がん剤としてブスルファン(ブスルフェクスR),シクロホスファミド(エンドキサンCR),免疫抑制としてシクロスポリン(サンディミュンCR)が投与された.前処置開始C1週間後に骨髄バンクドナーより移植施行され無菌室在室となった.その後,免疫抑制にシクロスポリン(サンディミュンR),メトトレキサート(メソトレキセートCR)投与,感染症予防にアシクロビル内服,フルコナゾール内〔別刷請求先〕髙木理那:〒330-8503埼玉県さいたま市大宮区天沼町C1-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:RinaTakagi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyJichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter,1-847CAmanuma-chou,Omiya-ku,Saitama-shi,Saitama330-8503,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(99)C381白血球数治療開始時治療開始1週間治療開始4週間治療開始5週間380服,メロペネム,ミカファンギンナトリウム(ファンガードCR),バンコマイシン塩酸塩(バンコマイシンCR)が点滴投与された.3月上旬,左眼球結膜充血と流涙,眼痛を自覚.症状発現からC2日後,当科コンサルトとなった.無菌室在室であるため,往診での診察であるが,左眼瞼・眼球結膜充血,濾胞形成を認めた.耳前リンパ節腫脹や角膜上皮障害は明らかではなかったが,免疫クロマト法を用いた眼科専用アデノウイルス抗原迅速検査キットのキャピリアアデノアイR(CAE)でCEKCと診断.0.1%フルオロメトロン(フルメトロン点眼液C0.1%CR)4回/日,1.5%レボフロキサシン(クラビット点眼液C1.5%CR)点眼C4回/日での治療を開始した.治療開始C1週間後には右眼にも眼瞼・眼球結膜炎を認めた.治療開始C2週間後には両眼瞼に偽膜形成,角膜上皮障害を認め,偽膜除去を行った.症状は徐々に軽快し,治療開始C4週間後には左眼CCAEは陽性であったが,眼瞼・眼球結膜充血は改善し,偽膜も消退した.治療開始C5間後に左眼CCAE陰性を確認.角膜上皮障害も改善となった.本症例は初回の非血縁からの骨髄移植が生着不全となったため,再度血縁からの末梢血幹細胞移植が行われたため,無菌室を出るのに長期間を要した.受診が可能になったC6月下旬の所見では,角膜混濁や瞼球癒着などはなく,EKCは治癒していた.CII考按骨髄異形成症候群(myelodysplasticCsyndromes:MDS)は,異形成を伴う造血細胞の異常な増殖と細胞死を起こす造血器腫瘍である.無効造血のために,骨髄が正.過形成となり末梢血は汎血球減少をきたす1).また,好中球やマクロファージの貪食機能低下による質的異常を呈し,抗がん剤投与後には好中球やマクロファージの数的異常を呈する2).本症例はCMDSに対する骨髄移植であり,抗がん剤や免疫抑制薬のために高度免疫抑制状態であった.白血球数は前処置時にはC1,090/μl(うち,好中球数C76/μl),移植時にはC380/μlに減少,その後症状出現時,EKC診断時にC20/μlとなり,右眼の症状出現,偽膜形成やCEKC改善までC150/μl以下の低い値で推移した(図1).アデノウイルスが細胞内に感染すると,自然免疫で炎症性サイトカインが産生され症状が出現する.本症例は高度免疫抑制状態であったため,偽膜形成が図2症状と白血球球数治療開始からC2週間後と症状の出現も遅く,また,偽膜形成はあったが,充血は軽度から中程度で症状は顕著ではなかった.また,ウイルス感染ではおもに獲得免疫が働くが,自然免疫同様に獲得免疫の誘導が遅く,症状発現から眼瞼結膜のアデノウイルス抗原陰性化確認までC37日を要した(図2).本症例は無菌室内でのCEKC発症例という点も特徴的である.無菌室内での感染経路として,外部者からの感染が考えられる.当センターの無菌室は外扉の中にC4つの個室があり,徹底した陽圧管理をされている.入室の際は外扉内の手洗い場で手を洗い,マスクを装着し,送風機を強風にして入室することと規定されていた.外部者との面会もC12歳以上で体調に問題ない者に限定されており,生ものや粉塵を含むような荷物の室内への持ち込みは原則として禁止されていた.しかし,外部者からの荷物や洋服にアデノウイルスが付着している場合は,無菌室内へのウイルスの侵入は完全には防止できない.無菌室内での感染経路として,二つ目に院内感染が考えられる.本症例と同時期に同病棟でもう一人CEKC患者を確認している.当患者は本症例患者の症状発症C2日前より左眼脂,流涙,結膜充血が出現.本症例と同日に眼科コンサルトとなり,EKCと診断され,個室に隔離,同日緊急退院となった.同一病棟にC2人のCEKC患者がいたことから,医療従事者を介しての感染が疑われた.アデノウイルス感染は物理的な抵抗性が強いことが,院内感染を引き起こす最大の理由とされている.ドアノブなどに付着した際,数カ月間強い感染力を保つともいわれている3).アデノウイルスには次亜塩素酸ナトリウムの使用が推奨されている.当センターでアデノウイルス発生時は,患者の個室隔離や早期退院,また,徹底した次亜塩素酸ナトリウムでの診察器具やドアノブなど室内備品の消毒を行う.また,患者接触の際は,マスク,ゴム手袋,ビニールエプロンを使用し,手指などに接触した際は,徹底した手洗いとアルコール消毒を行う決まりとなっている.しかし,アデノウイルスはアルコールに対し抵抗性が382あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018(100)強く,またアデノウイルスに有効である次亜塩素酸ナトリウムは使用時の塩素臭が強く,残存臭も問題となる.また,酸化作用により金属類や繊維類を腐食させる.そのため次亜塩素酸ナトリウムは慎重に使用しなければならない.近年,ペルオキソ一硫酸水素カリウムを主成分とする環境消毒ルビスタRが普及している.ペルオキソ一硫酸水素カリウムとその他の配合成分との反応により次亜塩素酸が生成され,次亜塩素酸の酸化作用により効果を発揮する.優れた除菌性能を有するうえ,次亜塩素酸ナトリウムと違い,皮膚,金属,プラスチックに影響が少なく安全に使用できる.また,アデノウイルスをはじめとして,ノロウイルスなどのウイルス,細菌にも有効である.当薬剤は急速に普及しており,次亜塩素酸ナトリウムに代わり,腐食性のある器材にはルビスタCRを使用することも考慮しなければならない.本症例は他に,シーツなどのリネンからの感染の可能性も考えられた4).ウイルスの潜伏期間中に使用されたリネンは感染汚染物としては扱われないため,ウイルスを媒介した可能性もある.今回はウイルス型の同定を行えなかったため,2症例が同一のウイルスであるかは不明のままであり,医療従事者を介したか外部から持ち込まれたかも判別不能である.近年,患者体内に潜伏しているアデノウイルスCDNAによる再発感染の可能性があることが報告されている.熱性呼吸器疾患の学童児のC8%の鼻洗浄液からアデノウイルスが検出されており,そのうちにC81%がCC亜属であった.成長につれアデノウイルス検出率は減少し,成人するとほぼ皆無となる.咽頭組織に潜在性のCC亜属のアデノウイルスが存在し,それが生後数年間に再活性化し発症する可能性を示唆している5).他の報告では,10年前にCEKC発症した患者の涙液や結膜からアデノウイルスCDNAが検出され,かつ既感染患者の多くは慢性乳頭結膜炎があることから,結膜にアデノウイルスCDNAが超期間にわたり潜伏し,再感染につながる可能性があることが示されている6).本症例は,明らかな既感染の情報はなかったが潜伏感染の活性化による発症の可能性も否定はできない.感染経路特定には至らないが,ウイルスは運搬されなければ拡散しない.ウイルスに曝露することの多い医療従事者が運搬の担い手になる可能性は非常に高い.接触感染予防の意識を高め,正しい消毒法や減菌法の知識を共有し,ウイルスの持ち込み,持ち出しを行わないように十分な注意と教育が必要である.CIII結論骨髄移植直後の高度免疫抑制状態で,ウイルス抗原消失に長期間を要したCEKCを経験した.アデノウイルス感染は予防薬投与が困難であり,不用意なウイルスの持ち込みや,感染の拡大には細心の注意が必要であると考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)宮﨑泰司:骨髄異形成症候群の診断基準と診療の参照ガイド.長崎大学原爆後障害医療研究所,20142)神田善伸:造血幹細胞移植に伴う免疫抑制状態と感染症対策.ICUとCCCU37:613-620,C20133)平田憲:眼科における感染対策.臨床と研究C88:559-562,C20114)原田知子,広島葉子,本郷元ほか:セレウス菌菌血症のアウトブレークを経験して.日赤医学61:338-341,C20105)GarnettCCT,CTalekarCG,CMahrCJACetCal:LatentCspeciesCCCadenovirusesCinChumanCtonsilCtissues.CJCVirolC83:2417-2428,C20096)KayeCSB,CLloydCML,CWilliamsCHCetCal:EvidenceCforCper-sistenceofadenovirusinthetearfilmadecadefollowingconjunctivitis.JMedVirolC77:227-231,C2005参照キョーリンメディカルサプライ株式会社ホームページChttp://www.rubysta.jp/***(101)あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C383

前房蓄膿・フィブリン析出を伴う激しいぶどう膜炎を生じた流行性角結膜炎の1例

2017年6月30日 金曜日

《第53回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科34(6):880.882,2017c前房蓄膿・フィブリン析出を伴う激しいぶどう膜炎を生じた流行性角結膜炎の1例佐渡一成*1西口康二*2横倉俊二*2*1さど眼科*2東北大学病院眼科ACaseofEndophthalmitisAssociatedwithEpidemicKeratoconjunctivitisKazushigeSado1),KojiMNishiguchi2)andSyunjiYokokura2)1)SadoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmoligy,TohokuUniversity今回筆者らは,流行性角結膜炎(EKC)による眼内炎の1例を報告する.症例は48歳の男性.2日前からの右眼疼痛,発赤,視力低下を主訴に,さど眼科を土曜日の午後に受診した.初診時,右眼角膜上皮欠損だけでなく,前房蓄膿およびフィブリン析出を伴う激しいぶどう膜炎を認め,視力は右眼0.07,左眼は1.2であった.入院での精査・加療目的で紹介した東北大学病院で,アデノウイルス抗原が検出されたため,局所抗生物質とステロイドの点眼による外来での治療が選択された.16日後には治癒し,視力は0.9に回復した.筆者らが調べたかぎりでは,本例は激しいぶどう膜炎(眼内炎)を伴うEKCの最初の報告である.Wedescribeacaseofendophthalmitisassociatedwithepidemickeratoconjunctivitis(EKC).A48-year-oldmalepresentedtoourclinicwithrighteyepain,rednessandworseningvisionof2days’duration.Whenweexam-inedhim,therewasnotonlycornealerosion,butalsoahypopyon(pus)and.brinoidreactioninhisrightanteriorchamber.Visualacuitywas0.07intherighteyeand1.2intheleft.AtTohokuUniversityHospital,adenovirusantigenwasdetectedandtopicalantibioticsandsteroidweregiven.By16dayslater,hisvisionhadrecoveredto0.9.Toourknowledge,thisisthe.rstcaseofEKCwithendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):880.882,2017〕Keywords:流行性角結膜炎,前房蓄膿,フィブリン析出,ぶどう膜炎,眼内炎.epidemickeratoconjunctivitis,hypopyon,.brinoidreaction,uveitis,endophthalmitis.はじめに流行性角結膜炎(epidemickeratoconjunctivitis:EKC)は感染力がきわめて強いため,児童・生徒であれば,感染の恐れがなくなるまで登校禁止となる(学校保健安全法).また,成人の場合でも原則的に出勤停止となり,とくに入院患者や医療従事者の感染は患者への二次感染を引き起こすことがあるので,感染拡大に注意しなければならない疾患である.今回は,前房蓄膿・フィブリン析出を伴う激しいぶどう膜炎のため,当初は入院での精査・加療を想定して東北大学病院(以下,大学病院)に紹介したものの,大学病院の担当医が入院前にEKCに気づき,外来治療にて治癒した症例を経験したので考察を加えて報告する.I症例患者:48歳,男性.既往歴・家族歴:特記事項なし.現病歴:2日前からの右眼視力低下,充血,疼痛,眼瞼腫脹を訴え(眼脂の訴えはなかった),2015年8月,ロシアからの帰国後空港から直接,さど眼科(以下,当院)を受診した.初診時所見:受付で右眼の充血を認めたため視力などの検査の前に細隙灯顕微鏡で診察したところ,図1~3のような前房蓄膿,フィブリン析出,角膜上皮欠損を認めたため,この時点で大学病院に紹介すべきだと判断した(左眼には異常を認めなかった).そして,急速に悪化する可能性を考え〔別刷請求先〕佐渡一成:〒980-0021仙台市青葉区中央2-4-11水晶堂ビル2Fさど眼科Reprintrequests:KazushigeSado,M.D.,SadoEyeClinic,2-4-11ChuoAoba-ku,Sendai-shi,Miyagi980-0021,JAPAN880(122)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(122)8800910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1前房蓄膿(初診時)図3角膜上皮欠損(初診時)て,視力を確認したところ,視力は右眼0.07(矯正不能),左眼は矯正(1.2)であった.経過:土曜日の午後であったため,視力が確認できたところで大学病院眼科の当直医に電話で状況を説明し精査・加療を依頼した.大学病院に紹介して数時間後に,大学病院から「念のためアデノウイルス抗原の検出検査を行ったところ陽性であった」と電話連絡があった(塗抹検査,培養,PCRなどは行っていない).翌日(日曜日)の大学病院での再診時,びらんは改善していたため,細菌の混合感染も完全には否定できないものの,今後は当院で経過観察することになった.大学病院よりガチフロキサシン右眼1日4回点眼,フルオロメトロン0.1%右眼1日4回点眼,トロミカミド・フェニレフリン右眼1日4回点眼,オフロキサシン眼軟膏右眼1日6回点入が処方された.2日後の月曜日に当院再診.びらん,前房蓄膿,フィブリンのすべてが明らかに減少しており,3日後には,びらん消失,前房蓄膿,フィブリンともに(±).10日後には結膜充血軽度,角膜混濁軽度となり,16日後には軽度の角膜混濁が残っていた(図4)が,後眼部にも異常図2フィブリン析出(初診時)図4角膜混濁(16日後)は認めなかったことから治癒と判断した.矯正視力も(0.9)と改善していた.II考察EKCは感染力が強いため,院内感染に注意しなければならない疾患である.8型のEKC27例中3例に軽度の虹彩炎を伴っていたという報告1)はあるが,前房蓄膿やフィブリン析出を伴う激しいぶどう膜炎を伴ったEKCという報告はみつからなかった.しかし,本例はアデノウイルス抗原の検出検査が陽性であったこと,病原体に対する特異的な治療ではなく,ニューキノロン系抗菌点眼薬および眼軟膏,ステロイド点眼薬と散瞳薬による治療だけで短期間に治癒した臨床経過から(塗抹検査,培養,PCRなどの精査は行っていないが)EKCが原因であったと考えている.当院では,充血などEKCを疑う症状がある患者が来院した場合は,①他の患者との接点を減らすために受付直後に「EKCコーナー」に案内し,②問診票記入などの準備ができ次第,診察している.(123)あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017881筆者は,前房蓄膿・フィブリン析出を伴うぶどう膜炎を認めた時点でEKCの可能性をまったく考えなくなり,眼内炎として大学病院に精査・加療を依頼する必要があると判断してしまった.「アデノウイルス抗原陽性」という連絡を受けた後で振り返ってみると,患者はロシアから帰国直後に当院を受診していた.2日前から症状があったと話していたので,海外にいたこともあり,まったくの無治療で2日間放置したことが前房蓄膿・フィブリン析出の一因になったと思われるが,それでもまれなケースである.海外で罹患したEKCであることから(ウイルス分離やPCR法による型別鑑定は行っていないが)知られていない型によるEKCであった可能性もある.また,治癒後に角膜混濁を認めた(図4)ことから,当初は角膜びらんであったものが未治療であったために当院受診時には潰瘍に進行(悪化)していた可能性が高いと考えている.EKCで角膜びらんが生じることはめずらしいことではない2).また,角膜びらんに前房炎症を伴い,ぶどう膜炎などと間違われることもある3).この意味ではEKCにフィブリン析出・前房蓄膿を伴うことはありうることである.一方で,フィブリン析出・前房蓄膿が認められた場合は眼内炎の状態であり,もし感染性眼内炎であれば永続的な視力低下をきたす可能性もあるため,入院のうえ集中的に検査・治療が行われることも多い.EKCは院内感染拡大の危険が高い疾患なので,極力入院させないように注意しなければならないが,感染性眼内炎であれば,入院のうえタイミングを逃さずに必要な治療を行わなければならないということを考えると,今後は内眼手術の既往がなく,全身的に日和見感染の可能性が低い患者の眼内炎を経験した場合は,EKCの可能性を確認することが重要である.今回,大学病院の担当医が気づかなければ,院内感染とその拡大を生じた危険があった.眼内炎治療のために入院を検討する際には,アデノウイルス検査陰性のEKCの場合もあるもあることを踏まえて,慎重な判断が重要である.本稿の要旨は第53回日本眼感染症学会において報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DarougarS,GreyRH,ThakerUetal:Clinicalandepide-miologicalfeaturesofadenoviruskeratoconjunctivitisinLondon.BrJOphthalmol67:1-7,19832)下村嘉一編集:眼の感染症.p140,金芳堂,20103)井上幸次,山本哲也,大路正人ほか編集:一目でわかる眼疾患の見分け方,上巻,角結膜疾患,緑内障.p114,メジカルビュー,東京,2016***(124)

新しいアデノウイルス迅速診断法「クイックナビ-アデノ」の臨床評価

2012年5月31日 木曜日

《第48回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科29(5):659.663,2012c新しいアデノウイルス迅速診断法「クイックナビ-アデノ」の臨床評価宮永嘉隆*1中川尚*2秦野寛*3井上賢治*4市側稔博*5内野美樹*6鴨下泉*7北川均*8熊谷謙次郎*9栗山茂*10小林康彦*11小見山和也*12佐藤信祐*13佐野友紀*14髙嶋隆行*15高橋京一*16高橋義徳*17田中律子*18沼崎啓*19林真*20深川和己*21*1西葛西・井上眼科病院*2徳島診療所*3ルミネはたの眼科*4お茶の水井上眼科クリニック*5ひまわり眼科*6両国眼科クリニック*7鴨下眼科クリニック*8北川眼科クリニックふたわ*9熊谷眼科クリニック*10栗山眼科クリニック*11こばやし眼科クリニック*12こみやま眼科*13養明堂眼科*14佐野眼科医院*15たかしまアイクリニック*16たかはし眼科クリニック*17立川通クリニック*18やはしら眼科*19国際医療福祉大学病院*20薬円台眼科*21飯田橋眼科クリニックEvaluationofaNewRapidDiagnosisKitforAdenovirus,Quick-NaviTM-AdenoYoshitakaMiyanaga1),HisashiNakagawa2),HiroshiHatano3),KenjiInoue4),ToshihiroIchikawa5),MikiUchino6),IzumiKamoshita7),HitoshiKitagawa8),KenjiroKumagai9),ShigeruKuriyama10),YasuhikoKobayashi11),KazuyaKomiyama12),NobutakaSato13),TomonoriSano14),TakayukiTakashima15),KyoichiTakahashi16),YoshinoriTakahashi17),RitsukoTanaka18),KeiNumazaki19),MakoHayashi20)andKazumiFukagawa21)1)Nishikasai-InouyeEyeHospital,2)TokushimaEyeClinic,3)HatanoEyeClinic,4)OchanomizuInouyeEyeClinic,5)HimawariEyeClinic,6)RyogokuEyeClinic,7)KamoshitaEyeClinic,8)KitagawaEyeClinicFutawa,9)KumagaiEyeClinic,10)KuriyamaEyeClinic,11)KobayashiOphthalmologyClinic,12)KomiyamaEyeClinic,13)YoumeidoEyeClinic,14)SanoEyeClinic,15)TakashimaEyeClinic,16)TakahashiEyeClinic17)TachikawaDoriClinic,18)YahashiraEyeClinic,19)InternationalUniversityofHealthandWelfareHospital,20)YakuendaiEyeClinic,21)IidabashiEyeClinic2009年8月.2010年9月に21施設の医療機関へ結膜炎症状で受診した計592名を対象に迅速診断を行った.うち324例はクイックナビとチェックAdを,その他268例はキャピリアアデノを同時検査した.試料は各社スワブで採取した角結膜拭い液を用い添付文書に準じて測定した.クイックナビは判定時間8分,他2製品は15分を要した.確認法としてpolymerasechainreaction(PCR)検査を実施した.クイックナビとチェックAd,クイックナビとキャピリアアデノとの陽性一致率はそれぞれ91.2%,100%,陰性一致率は98.4%,99.0%,全体一致率96.9%,99.3%と良好であった.また,クイックナビとPCR法との全体一致率は90.2%であった.Wecarriedoutaquickdiagnosisof592patientswhopresentedwithconjunctivitissymptomsatatotalof21hospitalsandclinicsfromAugust2009toSeptember2010.Wetested324ofthepatientswithQuickNaviTM-AdenoandCheckAd,andtheother268withQuickNaviTM-AdenoandCapiliaAdeno,atthesametime.Wecollectedconjunctivalsamplesfromthecorneroftheeyeusingthesterileswabincludedwitheachkit;thetestswereperformedaccordingtothemanufacturer’srespectiveprotocol.QuickNaviTM-Adenorequired8minforjudgment,theothersrequired15min.Polymerasechainreaction(PCR)assaywasalsoperformed,asaconfirmationmethod.ThepositiveagreementratesforQuickNaviTM-AdenoandCheckAd,andQuickNaviTM-AdenoandCapiliaAdenowere91.2%and100%,respectively.Thenegativeagreementrateswere98.4%and99.0%,andtheoverallagreementrateswere96.9%and99.3%,allshowinggoodconcordance.TheoverallagreementratebetweenQuickNaviTM-AdenoandthePCRassaywas90.2%.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):659.663,2012〕〔別刷請求先〕宮永嘉隆:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:YoshitakaMiyanaga,M.D.,Nishikasai-InouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(79)659 〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):000.000,2012〕Keywords:アデノウイルス,イムノクロマトグラフィ,流行性角結膜炎,迅速診断キット.adenovirus,immunochromatography,epidemickeratoconjunctivitis,rapiddiagnosiskit.はじめにアデノウイルスによる流行性角結膜炎は日常診療で頻繁に遭遇するウイルス性結膜炎の一つである.その感染力の強さから,家庭内のみならず学校・院内感染をもひき起こし,しばしば問題となる.現在,適確な治療薬となる抗ウイルス薬などはないが故に,眼所見からの判断と迅速かつ簡便な検査でアデノウイルス角結膜炎と診断することが感染防止につながる.現在,わが国においてはイムノクロマトグラフィ法による迅速診断キットが用いられている1.4).確定診断にはウイルス分離や血清学的診断などが確実であるが,その場での迅速な診断が必要であるため特別な機器を使用しない迅速キットが汎用されている.今回筆者らは新しく開発された迅速診断キット「クイックナビ-アデノ(以下,クイックナビ)」について臨床評価の機会を得た.そこで本キットと従来品2製品との基礎検討を行うとともに臨床評価をすることを目的とした.I対象および方法1.基礎検討a.診断キットの検出感度培養したウイルス株を用いて表1に示したクイックナビ,キャピリアアデノ(以下,キャピリア),チェックAd(以下,チェック)の3種の診断キットについて,検出感度の比較を行った.デンカ生研㈱で保有している血清型同定済みのアデノウイルス臨床分離株の希釈液30μlを試料として各キットに添付の検体浮遊液に浮遊後,それぞれの添付文書に従って測定した.b.採取用スワブにおける採取効率の検討クイックナビの採取用綿棒である植毛スワブと,従来のコットンスワブとの採取量について,擬似検体を用いて比較した.市販のソフトゼリー(原材料:デキストリン,増粘多糖類)を4%に調製し,シャーレに分注しゼリー状に固めたものを擬似検体とした.あらかじめ各スワブの重さを計量し,擬似検体を専用機器〔デジタルフォースゲージAD-4932A50N,エー・アンド・デイ㈱〕を用いて一定の力を加え擦過した.擦過後,各スワブを計量し擬似検体の採取量を比較した(各測定n=10).2.臨床評価患者から採取した角結膜拭い液について,診断キットおよびpolymerasechainreaction(PCR)法の結果を比較した.a.対象2009年8月.2010年9月までに全国21施設の眼科診療施設を受診し,ウイルス性結膜炎が疑われた患者計592名を対象にアデノウイルス迅速診断を行った.b.方法検体は同意の得られた患者1人につき,各診断キットに付属の綿棒各々をA,Bとし,角結膜拭い液を同時に2本採取した.今回の検討では擦過回数や順序などの細かな方法の指定はしておらず各施設任意の擦過方法で採取した.c.診断キット診断キットは表1のクイックナビ,キャピリア,チェックを使用した.患者1人につき前出の綿棒Aをクイックナビ,綿棒Bをキャピリアまたはチェックで同時検査し,それぞれの添付文書に従い結果を判定した.陽性の判定はテストラインが出現し,かつコントロールラインも出現した時点で行った.陰性の判定はクイックナビが8分後,キャピリアとチェックは15分後に行った.計592例のうち268例はクイックナビとキャピリアを,324例はクイックナビとチェックを同時に検査することができた.d.PCR法確認法として診断キットの試料残液を凍結保存し,その後デンカ生研㈱においてQIAampMinEluteVirusSpinKit(QIAGEN)にてウイルスDNAを抽出した.PCRはFujimotoらの方法5)およびEchavarriaらの方法6)に従い,アデノウイルスのヘキソン部分にプライマーを設定した.表1検討に用いたアデノウイルス診断キットクイックナビ-アデノキャピリアアデノチェックAd製造元/販売元測定原理標識物質判定までの所要時間形態採取用綿棒デンカ生研/大塚製薬イムノクロマト法着色ラテックス8分デバイス型植毛タイプタウンズ/わかもと製薬イムノクロマト法金コロイド15分デバイス型コットンタイプ大蔵製薬/参天製薬イムノクロマト法金コロイド15分デバイス型コットンタイプ660あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(80) II結果1.基礎検討a.診断キットの検出感度各キットともに血清型によって検出感度にばらつきがみられたものの,クイックナビの各血清型に対する検出感度はキャピリアの2.4倍,チェックの4倍と他の診断キットに比べ良好な結果であった(表2).b.採取用スワブにおける採取効率の検討植毛スワブおよびコットンスワブに加えた力(N:ニュートン)に対し,それぞれの擬似検体採取量をプロットした(図1).採取量を比較すると,植毛スワブはコットンスワブに対し約5倍の採取能力があることがわかった(p<0.05).2.臨床検討クイックナビとキャピリア,クイックナビとチェックで同時検査ができた計592例のうち,クイックナビで陽性になったのは130例(陽性率21.9%),陰性となったのは462例であった.a.クイックナビとキャピリアの相関性試験クイックナビとキャピリアを同時検査できた計268例において陽性一致率は100.0%(62/62),陰性一致率は99.0%(204/206)であり,全体一致率は99.3%(266/268)であっ50403020100図1採取用スワブにおける採取効率の検討各測定n=10,*p<0.05.た(表3).このうちクイックナビ陽性,キャピリア陰性の2検体はPCR法陽性であった.b.クイックナビとチェックの相関性試験クイックナビとチェックを同時検査できた計324例において陽性一致率は91.2%(62/68),陰性一致率は98.4%(252/256)であり,全体一致率は96.9%(314/324)であった(表4).このうちクイックナビ陽性,チェック陰性の4検体のうち,3検体はPCR陽性,1検体は陰性であった.クイックナビ陰性,チェック陽性の6検体はすべてPCR陽性であった.ゼリー採取量(mg)****:植毛スワブ:コットンスワブ0.040.060.080.10綿棒に加える力(N:ニュートン)表2培養ウイルスによる検出限界比較アデノウイルス8型ウイルス力価:5.6×107(TCID50/ml)アデノウイルス8型検体希釈倍数検出感度キット1×1032×1034×1038×10316×10332×103TCID50/mlクイックナビ(8分)+++++.3.5×103キャピリア++++..7×103チェック+++…1.4×104アデノウイルス19型ウイルス力価:5.6×107(TCID50/ml)アデノウイルス19型検体希釈倍数検出感度キット1×1032×1034×1038×10316×10332×103TCID50/mlクイックナビ(8分)++++..7×103キャピリア++.N.T.N.T.N.T.2.8×104チェック++.N.T.N.T.N.T.2.8×104アデノウイルス37型ウイルス力価:1.8×108(TCID50/ml)アデノウイルス37型検体希釈倍数検出感度キット1×1032×1034×1038×10316×10332×103TCID50/mlクイックナビ(8分)+++++.1.1×104キャピリア+++.N.T.N.T.4.5×104チェック+++.N.T.N.T.4.5×104TCID50:50%組織培養感染量,N.T.:NotTested.(81)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012661 表3クイックナビにおける対照品キャピリアとの相関性キャピリア+.計+62264.0204204計クイックナビ62206268陽性一致率100.0%(62/62).陰性一致率99.0%(204/206).全体一致率99.3%(266/268).表5PCR法と比較した各キットの感度・特異性診断キットクイックナビ感度特異性70.6%(125/177)98.6%(411/417)キャピリア感度特異性75.6%(59/78)98.4%(187/190)チェック感度特異性67.3%(66/98)99.1%(222/224)c.PCR法と比較した各キットの感度・特異性各キットの感度・特異性を示した(表5).クイックナビにおいてPCR法で確認ができた計594例のうちクイックナビとPCR法との感度は70.6%(125/177),特異性は98.6%(411/417),全体一致率は90.2%(536/594)であった.キャピリアにおいてPCR法で確認ができた計268例のうちキャピリアとPCR法との感度は75.6%(59/78),特異性は98.4%(187/190),全体一致率は91.8%(246/268)であった.チェックにおいては,PCR法用の検体2例が不足していたためPCR法で確認ができたのは計322例であった.チェックとPCR法との感度は67.3%(66/98),特異性は99.1%(222/224),全体一致率は89.4%(288/322)であった.III考察今回筆者らは新しく開発されたクイックナビ-アデノの臨床評価を行った.従来品と比べ反応時間も8分と従来品の約1/2であり迅速性に優れていた.感度・特異性も良好であった.クイックナビの特長は,最終判定時間が8分と従来品に比べ短いこと,付属の採取用綿棒は綿球部分がフロック加工された植毛スワブという点にある.この植毛スワブでは従来のコットンスワブに比べ,より多くの上皮細胞を回収することができ,検体浮遊液への放出効率が高いという結果も報告されている7,8).アデノウイルス迅速診断キットでは,できるだけ多くの感染結膜上皮細胞を採取することが推奨されてい662あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012表4クイックナビにおける対照品チェックとの相関性チェック+.計+62466.6252258計クイックナビ68256324陽性一致率91.2%(62/68).陰性一致率98.4%(252/256).全体一致率96.9%(314/324).る9)が,植毛スワブでは従来のコットンスワブに比べて1/2程度の力で角結膜上皮細胞を回収できる可能性が示唆され,検体採取時における被験者の苦痛などの負担軽減につながると思われる.今回の臨床評価では,検体採取順序や擦過回数などの細かな指定をしなかった.そのためいくつかの症例で結果が乖離し,原因として検体採取誤差の影響が考えられた.各キットの偽陽性率はクイックナビ(6/131=4.58%),キャピリア(2/68=2.94%),チェック(3/62=4.84%)となり,偽陽性数が少ないことから統計的な有意差を議論することはできないが,どのキットも同じ程度の偽陽性率といってよいと考えられる.このデータはキットの偽陽性であるとともに,一方ではPCR法の偽陰性の可能性も否定できない.PCR法は検体由来の阻害物質の影響や,検体中でのDNAの保存安定性の影響を完全に排除することは困難であり,ある程度の偽陰性は発生するものと考えられる.既報1.4)では偽陽性の報告はなかったが,アデノウイルスの上気道感染症による既報10.13)ではわずかながら偽陽性も報告されており,検討結果は妥当なものであると考えられた.今回PCR法では定量を行わなかったため検出感度以下のウイルス量であったのか,また診断キットで使用する抗体はそれぞれ異なるが,それら抗体の反応性の違いが若干の差異につながったのかは不明である.クイックナビのPCR法を対照とした感度・特異性は従来品と有意な差は認められなかった(p>0.05).それぞれの診断キットの感度は既報2.4)と比較してほぼ同等であったが,クイックナビの開発時における咽頭拭い液のデータでは陽性例の90%程度が3分以内に陽性と判定できており10),本キットの反応時間は短く迅速性に優れていた.感染力が強く二次感染の恐れのある感染症に対し,検査において約1/2の時間短縮は,院内感染の機会を減らすことに有効であると考える.現在市販されている診断キットは測定原理上PCR法の感度には及ばないが,診断キットで陽性であればアデノウイルス感染症と診断は可能である.しかし,今日診断キットでの陽性率は臨床でアデノウイルスを疑って検査するとその陽性率はいずれも20.25%くらいであり,他の多くは陰性にな(82) る.陰性であった症例はどのような被験者であったかを十分考察しなくてはならない.恐らく疑わしきはすべて入れてしまうという臨床上の慣例から,正確に言うとウイルス性結膜炎ではない,細菌性結膜炎あるいはアレルギー性結膜炎の被験者を捉えてアデノウイルス検査していることが考えられる.今回検討を行った2009年および2010年のアデノウイルス結膜炎の流行状況は過去10年間で最も低い流行レベルであった13).これらが陽性率の低さの原因につながったであろうと思われる.診断キットの感度は検体採取部位や採取時期,採取者の手技熟練度,ウイルスの血清型や増殖の程度など,さまざまな要因によって影響を受ける可能性がある.症状があるにもかかわらずキットで陽性にならない場合などは診断キットの性能や限界を十分に理解したうえで使用することが求められる.今後はごく微量のウイルスも捉えるような診断法の開発が陰性率を大幅に減少させるであろうことも考えると,さらなる開発が望まれる.文献1)UchioE,AokiK,SaitoWetal:RapiddiagnosisofadenoviralconjunctivitisonconjunctivalSwabby10-minuteimmunochromatography.Ophthalmology104:1294-1299,19972)大口剛司,有賀俊英,三浦里香ほか:アデノウイルス迅速診断キット「キャピリアアデノ」の検討.臨眼59:11891192,20053)有賀俊英,三浦里香,田川義継ほか:改良版アデノチェックの臨床的検討.臨眼59:1183-1188,20054)竹内聡,中川尚,米本淳一ほか:高感度アデノウイルス結膜炎迅速診断キットの評価─アデノウイルス結膜炎迅速診断キット,キャピリアアデノとアデノチェックの比較─.あたらしい眼科23:921-924,20065)FujimotoT,OkafujiT,OkafujiTetal:Evaluationofabedsideimmunochromatographictestfordetectionofadenovirusinrespiratorysamples,bycomparisontovirusisolation,PCR,andreal-timePCR.JClinMicrobiol42:5489-5492,20046)EchavarriaM,FormanM,TicehurstJetal:PCRmethodfordetectionofadenovirusinurineofhealthyandhumanimmunodeficiencyvirus-infectedindividuals.JClinMicrobiol36:3323-3326,19987)DaleyP,CastricianoS,CherneskyMetal:Comparisonofflockedandrayonswabsforcollectionofrespiratoryepithelialcellsfromuninfectedvolunteersandsymptomaticpatients.JClinMicrobiol44:2265-2267,20068)齋藤玲子,QianY,MaiLほか:新しいインフルエンザウイルス抗原迅速診断薬クイックナビTM-Fluの検討.医学と薬学60:323-324,20089)中川尚:ウイルス性結膜炎のガイドライン第4章検査.日眼会誌107:17-23,200310)三田村敬子,清水英明,山崎雅彦ほか:新しいアデノウイルス迅速診断薬クイックナビTM-アデノの検討.医学と薬学60:143-150,200811)原三千丸:アデノウイルス気道感染症のイムノクロマト法キットによる迅速診断.小児科臨床61:195-202,200812)高崎好生,進藤静生,山下祐二ほか:白金・金コロイドを用いた新しいアデノウイルス迅速診断キット“イムノエースアデノ”の評価.臨牀と研究86:672-675,200913)国立感染症研究所感染症情報センター:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/15EKC.html***(83)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012663