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フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ球性白血病の眼内浸潤の1例

2018年1月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(1):152.155,2018cフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ球性白血病の眼内浸潤の1例杉本恭子眞下永春田真実下條裕史大黒伸行独立行政法人地域医療機能推進機構大阪病院眼科COcularIn.ltrationinaPatientwithPhiladelphiaChromosomePositiveAcuteLymphocyticLeukemiaKyokoSugimoto,HisashiMashimo,MamiHaruta,HiroshiShimojyoandNobuyukiOhguroCDepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationOsakaHospitalフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ球性白血病(Ph+ALL)の眼内浸潤症例を経験したので報告する.患者は55歳,男性.Ph+ALLに対し血液学的寛解とされていたが,左眼霧視を自覚し,2014年C3月に当院を紹介受診した.左眼には前房細胞,角膜後面沈着物および前房蓄膿を認めたが網膜病変を認めなかった.1週間後に前房蓄膿は自然消退していた.4月に左眼に網膜前蓄膿を認めたがC1カ月後に自然軽快した.8月に左眼に前房蓄膿が再発し,軽快せず眼圧上昇をきたしたため,前房洗浄,および前房水の細胞診を施行した.BCR/ABL陽性の幼弱なリンパ球(フィラデルフィア染色体陽性)を認め,Ph+ALLの眼内浸潤と診断した.メトトレキサート硝子体注射を複数回施行し症状は軽快した.眼内浸潤およびその自然消退を繰り返す疾患にはCBehcet病があるが,本症例のように急性白血病の眼内浸潤でも自然消退することがありうる.CAC55-year-oldCmale,CinChematologicCremissionCphaseCofCPhiladelphiaCchromosomeCpositiveCacuteClymphocyticleukemia(Ph+ALL)wasCreferredCtoCourChospitalCwithCblurredCvisionCinChisCleftCeyeCinCMarchC2014.CTheCleftCeyeChadaqueouscells,keraticprecipitatesandhypopyon,butnoretinallesions.Oneweeklater,thehypopyonhaddis-appearedbyitself.InApril,preretinalabscessinthelefteyewasrevealed,butitagaindisappearedspontaneously1CmonthClater.CHeCrelapsedCwithCanteriorCuveitisCandChypopyonCinCtheCleftCeyeCinCAugust.CTheChypopyonCwasCnotCrelieved.CConsequently,CintraocularCpressureCincreased.CAnteriorCchamberCirrigationCwithCaqueousC.uidCcytologyCwasperformed,andBCR/ABL-positiveleukemiccellsconsistentwiththediagnosisofPh+ALLweredetected.HereceivedCmultipleCintravitrealCmethotrexateCinjectionsCandCtheCsymptomCwasCrelieved.CSpontaneouslyCresolvingCattacksofhypopyonuveitisarehighlycharacteristicofBehcet’sdisease.However,inthiscasetheacuteleukemiamustbeconsideredthecauseoftheattacks.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(1):152.155,C2018〕Keywords:フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ球性白血病,前房蓄膿,網膜前蓄膿,メトトレキサート,自然消失.Philadelphiachromosomepositiveacutelymphocyticleukemia,hypopyon,preretinalabscess,methotorex-ate,spontaneouslyresolving.Cはじめにこれまで,急性リンパ球性白血病の眼内浸潤の報告例は散見される.しかし,フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ球性白血病(PhiladelphiaCchromosomeCpositiveCacuteClym-phoblasticleukemia:Ph+ALL)の眼内浸潤の報告例は非常にまれである.Ph+ALLは急性リンパ球性白血病のC15.30%を占め,その他の急性リンパ球性白血病に比べて予後不良とされている1).今回,筆者らは,Behcet病における眼発作のごとく,眼内浸潤およびその自然消失を繰り返すCPh+ALL症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕杉本恭子:〒553-0083大阪府大阪市福島区福島C4-2-78独立行政法人地域医療機能推進機構大阪病院眼科Reprintrequests:KyokoSugimoto,M.D,,DepartmentofOpthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationOsakaHospital,4-2-78Fukusima,Fukusima-ku,Osaka-city,Osaka553-0083,JAPAN152(152)I症例患者:55歳,男性.主訴:左眼の霧視.現病歴:2014年C1月中旬左眼に霧視を自覚.2月上旬に他院血液内科より眼科に院内紹介された.左眼に前房細胞C2+,前房蓄膿,微細な角膜後面沈着物を認めるも後眼部には炎症所見を認めなかった.ステロイド頻回点眼および結膜下注射を数回施行するも症状は改善しなかったため,同年C3月中旬CJCHO大阪病院に紹介受診となった.既往歴:Ph+ALLに対し同種造血幹細胞移植(2013年C7月),高血圧,小児喘息.経過:初診時,視力は右眼C0.1(1.2C×sph.2.50D(cyl.1.00DCAx80°),左眼0.07(1.0C×sph.3.00D(cyl.0.75DAx140°)で,眼圧は右眼C15mmHg,左眼C15mmHgであった.陰部潰瘍,口腔粘膜のアフタ性潰瘍,皮膚症状は認めなかった.左眼細隙灯顕微鏡検査では,微細な細胞が角膜後面に付着し,前房細胞C3+であった.前房蓄膿を認めたが(図1a),前房蓄膿は頭位によって可動性を有さなかった.そのためCBehcet病のような可動性を有する好中球主体の前房蓄膿とは異なると診断した.眼底写真は前房炎症により軽度透見不良を認めたが,この時点で網膜や硝子体に明らかな病巣は認めず,視神経にも異常を認めなかった.前房水の細胞診を予定していたが,1週間後再受診したとき,前房蓄膿は自然に消退していたため,前房水の細胞診は中止となり経過観察となった(図1b).また,このとき,前房の細胞浸潤は自然に消退していた.4月受診時,網膜前にニボー様の白色塊の形成を認めたが,網膜脈絡膜病巣を認めず硝子体混濁も認めなかった(図2a).感染性ではないと判断し,経過観察したところ,1カ月後に自然消退していた(図2b).8月,左眼に再度前房蓄膿が出現したが,前回自然に消退したため自然消失する可能性を考え経過観察となった.しかし,今回は前房蓄膿が自然消失せず,徐々に増悪し,9月上旬には瞳孔領にかかるほど増悪した.また,左眼の眼圧も徐々に増悪し,47CmmHgまで上昇した(図3a).入院のうえ,左眼前房水の細胞診および前房洗浄を施行し,術中メトトレキサート(MTX)硝子体注射を行った.術中,虹彩に線維性増殖膜の付着を認め,.離除去を試みたが癒着が強く一部は残存した.細胞診の結果,classVで幼弱なリンパ球を認め,FISH法による染色体解析を行ったところ,BCR/ABL転座(フィラデルフィア染色体陽性)を認め,CPh+ALL眼内浸潤と診断した.術後,線維性増殖膜の残存部に合致して虹彩ルベオーシスが存在し,左眼にベバシズマブ硝子体注射を施行した.その後も左眼にCMTX硝子体注射を週C2回施行した.5回目のCMTX投与後,副作用による角膜上皮障害を認めたものの,前房蓄膿,虹彩ルベオーシスは軽快したためC9月下旬に退院となった(図3b).その後眼症状の再発なく,全身病状も安定していたが,2015年C5月四肢に皮膚結節,頸部に軟部腫瘤が出現し,前医にて皮膚生検の結果CPh+ALLの浸潤病巣と診断された.その後骨髄,末梢血にも白血病細胞が出現したため,9月より化学療法を開始した.同年C10月右眼に前房蓄膿を認めたためC11月入院のうえ,右眼に計C3回CMTX硝子体注射施行し,MTXによる角膜上皮障害を認めたものの,前房蓄膿は軽快し退院となった.その後眼症状の再発は認めなかったが,Ph+ALLの全身症状が増悪し,前医にてC2度目の同種造血幹細胞移植を施行された.最終受診日(2016年C6月)の視力は右眼(1.2C×sph.2.50D(cyl.1.00DCAx75°),左眼(1.2C×sph.3.5D(cyl.2.0DAx15°)で眼圧は右眼13mmHg,左眼C15CmmHgであった.CII考察前房蓄膿が生じるぶどう膜炎としてCBehcet病,急性前部ぶどう膜炎が代表的であるが,その他に潰瘍性大腸炎,糖尿病など全身疾患に伴うぶどう膜炎,眼内炎,腫瘍による仮面症候群などでも生じる.経過中前房蓄膿,眼底病変が出現し自然消失するぶどう膜炎の鑑別疾患としてCBehcet病が重要である.本症例で眼内浸潤が経過観察にて自然軽快し,繰り返した点についてはCBehcet病に類似している2).しかし,今回の症例では初診時,有痛性口腔内アフタ性潰瘍,結節性紅斑などの皮疹,陰部潰瘍などCBehcet病を疑う全身症状は認めなかった.また,本症例で出現した前房蓄膿はCBehcet病に特徴的なニボーを形成したが,体位変換などで移動する前房蓄膿ではなかった点で異なっていた.白血病における眼内病変には,網膜への浸潤による網膜出血,綿花状白斑,脈絡膜浸潤による網膜.離,硝子体混濁,貧血・血小板減少・白血球増多などの造血障害により生じる網膜症,中枢性白血病に二次的に生じる乳頭浮腫や視神経萎縮などの視神経症,また日和見感染など多彩な症状があげられる.しかし,虹彩に浸潤しぶどう膜炎症状を呈することは比較的まれであるとされている.Rothovaらは仮面症候群において前房内浸潤は全体のC12%程度だと報告している3).白血病に伴うぶどう膜炎の診断は,眼所見から仮面症候群を疑い,前房穿刺,骨髄穿刺などを行い確定される.白血病の寛解期に眼症状が全身症状に先発して現れることが少なくないため,白血病の既往をもつ患者にぶどう膜炎症状が出現した場合は注意が必要である.CPh+ALLの眼内浸潤に関しては滲出性網膜.離が生じた症例や前房蓄膿が出現した症例が報告されている4,5).また,今回の筆者らの報告と同様にCPh+ALLに合併した眼症状として全身症状に先立ち前房蓄膿が生じ,前房水の細胞診によ図1a2014年3月初診時:左眼細隙灯顕微鏡写真図1b2014年3月(初診から1週間後):左眼細隙灯顕微鏡写真前房蓄膿を認める.前房蓄膿は自然消退している.図2a2014年4月:左眼眼底写真図2b2014年5月:左眼眼底写真網膜前蓄膿の出現を認めた.網膜前蓄膿はC1カ月後自然消退した.図3a2014年9月初旬:左眼細隙灯顕微鏡写真図3b2014年9月下旬:左眼細隙灯顕微鏡写真前房蓄膿が増悪し,瞳孔領にかかっている.前房蓄膿,前眼部炎症は消退し,虹彩ルベオーシスも改善している.りCPh+ALL再発が指摘された症例が報告されている5).全身所見が出現していない時点で自然消退する前房蓄膿をきたした場合,Behcet病だけでなくCALLの可能性も考慮してその後の経過を注意深くみていく必要があると思われる.以前から成人の急性リンパ球性白血病の再発・難治症例対して大量のCMTX療法が救助療法として行われてきた.最近では,成人の急性リンパ球性白血病に対する寛解後療法に大量のCMTXを用いた治療プロトコールも増えている.今回全身の眼以外でのCALLの明らかな再発がなかったため,眼内浸潤に対して局所療法(MTX硝子体注射)を複数回施行した結果,著効した.前房蓄膿によりCPh+ALLの再発を指摘された症例の報告はあるが,この報告では治療について言及されておらず6),Ph+ALLの眼内病変に対して,MTX硝子体注射により治療した報告は見つからなかった.ALLの眼浸潤で全身化学療法をしない場合(眼局所治療の場合),放射線治療が一般的であるが,今回の経験により,原発性眼内悪性リンパ腫と同様に,ALLの眼内浸潤に対してもCMTXの硝子体注射で制御できる可能性があるのではないかと考えられた.今回の症例の大きな特徴は,経過観察中に一度前房蓄膿および網膜前蓄膿が自然に改善したことである.自然消退するメカニズムはよくわかっていないが,自然消失した理由としてCgraftCversusCleukemia(GVL)効果の関与がありうる.GVL効果とは,移植されたドナーの骨髄中のCT細胞がレシピエントの白血病細胞を傷害する有益な免疫拒否反応のことである.本症例ではCPh+ALLに対しCHLA半合致骨髄移植されていた.寛解期にCPh+ALLが再発し,白血病細胞の眼内浸潤により前房蓄膿,網膜前蓄膿が出現したが,GVL効果により白血病細胞の浸潤がいったん抑えられ,自然消失した可能性が考えられる.その後炎症の改善に伴いCGVL効果が減弱し,前房蓄膿が再度出現したと推論できる.本症例はCPh+ALLの寛解期とされながらも眼内浸潤を認めた.前房蓄膿や網膜前蓄膿が自然消退する代表疾患にはBehcet病があるが,本症例のようにCALLの眼内浸潤により生じる蓄膿も自然消退することがありうるため,鑑別疾患として留意する必要がある.また自然消退しない場合,MTX眼局所治療が原発性眼内悪性リンパ腫と同様に選択肢となりうることが示された.文献1)OttmannCOG,CWassmannCB:TreatmentCofCPhiladelphiaCchromosome-postiveCacuteClymphoblastiClukemia.CHema-tologiyAmSocHematolEducProgram1:118-122,C20052)鈴木潤:前房蓄膿.所見から考えるぶどう膜炎(園田康平,後藤浩編),p81-88.医学書院,20133)RothovaCA,COoijmanCF,CKerkho.CFCetCal:UveitisCMas-queradeSyndoromes.Ophthalmology108:386-399,C20014)YiCDH,CRashidCS,CCibasCESCetCal:AcuteCunilateralCleuke-micChypopyonCinCanCadultCwithCrelapsingCacuteClympho-blasticleukemia.AmJOphthalmolC139:719-721,C20055)KimCJ,CChangCW,CSagongCM:BilateralCserousCretinalCdetachmentCasCaCpresentingCsignCofCacuteClymphoblasticCleukemia.KoreanJOphthalmolC24:245-248,C20106)Hurtado-SarrioM,Duch-SamperA,Taboada-EsteveJetal:AnteriorCchamberCin.ltrationCinCaCpatientCwithCPh+acuteClymphoblasticCleukemiaCinCremissionCwithCimatinib.CAmJOphthalmolC139:723-724,C2005***

前房蓄膿・フィブリン析出を伴う激しいぶどう膜炎を生じた流行性角結膜炎の1例

2017年6月30日 金曜日

《第53回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科34(6):880.882,2017c前房蓄膿・フィブリン析出を伴う激しいぶどう膜炎を生じた流行性角結膜炎の1例佐渡一成*1西口康二*2横倉俊二*2*1さど眼科*2東北大学病院眼科ACaseofEndophthalmitisAssociatedwithEpidemicKeratoconjunctivitisKazushigeSado1),KojiMNishiguchi2)andSyunjiYokokura2)1)SadoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmoligy,TohokuUniversity今回筆者らは,流行性角結膜炎(EKC)による眼内炎の1例を報告する.症例は48歳の男性.2日前からの右眼疼痛,発赤,視力低下を主訴に,さど眼科を土曜日の午後に受診した.初診時,右眼角膜上皮欠損だけでなく,前房蓄膿およびフィブリン析出を伴う激しいぶどう膜炎を認め,視力は右眼0.07,左眼は1.2であった.入院での精査・加療目的で紹介した東北大学病院で,アデノウイルス抗原が検出されたため,局所抗生物質とステロイドの点眼による外来での治療が選択された.16日後には治癒し,視力は0.9に回復した.筆者らが調べたかぎりでは,本例は激しいぶどう膜炎(眼内炎)を伴うEKCの最初の報告である.Wedescribeacaseofendophthalmitisassociatedwithepidemickeratoconjunctivitis(EKC).A48-year-oldmalepresentedtoourclinicwithrighteyepain,rednessandworseningvisionof2days’duration.Whenweexam-inedhim,therewasnotonlycornealerosion,butalsoahypopyon(pus)and.brinoidreactioninhisrightanteriorchamber.Visualacuitywas0.07intherighteyeand1.2intheleft.AtTohokuUniversityHospital,adenovirusantigenwasdetectedandtopicalantibioticsandsteroidweregiven.By16dayslater,hisvisionhadrecoveredto0.9.Toourknowledge,thisisthe.rstcaseofEKCwithendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):880.882,2017〕Keywords:流行性角結膜炎,前房蓄膿,フィブリン析出,ぶどう膜炎,眼内炎.epidemickeratoconjunctivitis,hypopyon,.brinoidreaction,uveitis,endophthalmitis.はじめに流行性角結膜炎(epidemickeratoconjunctivitis:EKC)は感染力がきわめて強いため,児童・生徒であれば,感染の恐れがなくなるまで登校禁止となる(学校保健安全法).また,成人の場合でも原則的に出勤停止となり,とくに入院患者や医療従事者の感染は患者への二次感染を引き起こすことがあるので,感染拡大に注意しなければならない疾患である.今回は,前房蓄膿・フィブリン析出を伴う激しいぶどう膜炎のため,当初は入院での精査・加療を想定して東北大学病院(以下,大学病院)に紹介したものの,大学病院の担当医が入院前にEKCに気づき,外来治療にて治癒した症例を経験したので考察を加えて報告する.I症例患者:48歳,男性.既往歴・家族歴:特記事項なし.現病歴:2日前からの右眼視力低下,充血,疼痛,眼瞼腫脹を訴え(眼脂の訴えはなかった),2015年8月,ロシアからの帰国後空港から直接,さど眼科(以下,当院)を受診した.初診時所見:受付で右眼の充血を認めたため視力などの検査の前に細隙灯顕微鏡で診察したところ,図1~3のような前房蓄膿,フィブリン析出,角膜上皮欠損を認めたため,この時点で大学病院に紹介すべきだと判断した(左眼には異常を認めなかった).そして,急速に悪化する可能性を考え〔別刷請求先〕佐渡一成:〒980-0021仙台市青葉区中央2-4-11水晶堂ビル2Fさど眼科Reprintrequests:KazushigeSado,M.D.,SadoEyeClinic,2-4-11ChuoAoba-ku,Sendai-shi,Miyagi980-0021,JAPAN880(122)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(122)8800910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1前房蓄膿(初診時)図3角膜上皮欠損(初診時)て,視力を確認したところ,視力は右眼0.07(矯正不能),左眼は矯正(1.2)であった.経過:土曜日の午後であったため,視力が確認できたところで大学病院眼科の当直医に電話で状況を説明し精査・加療を依頼した.大学病院に紹介して数時間後に,大学病院から「念のためアデノウイルス抗原の検出検査を行ったところ陽性であった」と電話連絡があった(塗抹検査,培養,PCRなどは行っていない).翌日(日曜日)の大学病院での再診時,びらんは改善していたため,細菌の混合感染も完全には否定できないものの,今後は当院で経過観察することになった.大学病院よりガチフロキサシン右眼1日4回点眼,フルオロメトロン0.1%右眼1日4回点眼,トロミカミド・フェニレフリン右眼1日4回点眼,オフロキサシン眼軟膏右眼1日6回点入が処方された.2日後の月曜日に当院再診.びらん,前房蓄膿,フィブリンのすべてが明らかに減少しており,3日後には,びらん消失,前房蓄膿,フィブリンともに(±).10日後には結膜充血軽度,角膜混濁軽度となり,16日後には軽度の角膜混濁が残っていた(図4)が,後眼部にも異常図2フィブリン析出(初診時)図4角膜混濁(16日後)は認めなかったことから治癒と判断した.矯正視力も(0.9)と改善していた.II考察EKCは感染力が強いため,院内感染に注意しなければならない疾患である.8型のEKC27例中3例に軽度の虹彩炎を伴っていたという報告1)はあるが,前房蓄膿やフィブリン析出を伴う激しいぶどう膜炎を伴ったEKCという報告はみつからなかった.しかし,本例はアデノウイルス抗原の検出検査が陽性であったこと,病原体に対する特異的な治療ではなく,ニューキノロン系抗菌点眼薬および眼軟膏,ステロイド点眼薬と散瞳薬による治療だけで短期間に治癒した臨床経過から(塗抹検査,培養,PCRなどの精査は行っていないが)EKCが原因であったと考えている.当院では,充血などEKCを疑う症状がある患者が来院した場合は,①他の患者との接点を減らすために受付直後に「EKCコーナー」に案内し,②問診票記入などの準備ができ次第,診察している.(123)あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017881筆者は,前房蓄膿・フィブリン析出を伴うぶどう膜炎を認めた時点でEKCの可能性をまったく考えなくなり,眼内炎として大学病院に精査・加療を依頼する必要があると判断してしまった.「アデノウイルス抗原陽性」という連絡を受けた後で振り返ってみると,患者はロシアから帰国直後に当院を受診していた.2日前から症状があったと話していたので,海外にいたこともあり,まったくの無治療で2日間放置したことが前房蓄膿・フィブリン析出の一因になったと思われるが,それでもまれなケースである.海外で罹患したEKCであることから(ウイルス分離やPCR法による型別鑑定は行っていないが)知られていない型によるEKCであった可能性もある.また,治癒後に角膜混濁を認めた(図4)ことから,当初は角膜びらんであったものが未治療であったために当院受診時には潰瘍に進行(悪化)していた可能性が高いと考えている.EKCで角膜びらんが生じることはめずらしいことではない2).また,角膜びらんに前房炎症を伴い,ぶどう膜炎などと間違われることもある3).この意味ではEKCにフィブリン析出・前房蓄膿を伴うことはありうることである.一方で,フィブリン析出・前房蓄膿が認められた場合は眼内炎の状態であり,もし感染性眼内炎であれば永続的な視力低下をきたす可能性もあるため,入院のうえ集中的に検査・治療が行われることも多い.EKCは院内感染拡大の危険が高い疾患なので,極力入院させないように注意しなければならないが,感染性眼内炎であれば,入院のうえタイミングを逃さずに必要な治療を行わなければならないということを考えると,今後は内眼手術の既往がなく,全身的に日和見感染の可能性が低い患者の眼内炎を経験した場合は,EKCの可能性を確認することが重要である.今回,大学病院の担当医が気づかなければ,院内感染とその拡大を生じた危険があった.眼内炎治療のために入院を検討する際には,アデノウイルス検査陰性のEKCの場合もあるもあることを踏まえて,慎重な判断が重要である.本稿の要旨は第53回日本眼感染症学会において報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DarougarS,GreyRH,ThakerUetal:Clinicalandepide-miologicalfeaturesofadenoviruskeratoconjunctivitisinLondon.BrJOphthalmol67:1-7,19832)下村嘉一編集:眼の感染症.p140,金芳堂,20103)井上幸次,山本哲也,大路正人ほか編集:一目でわかる眼疾患の見分け方,上巻,角結膜疾患,緑内障.p114,メジカルビュー,東京,2016***(124)

リファブチンによるぶどう膜炎の1例

2014年4月30日 水曜日

《第47回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科31(4):599.603,2014cリファブチンによるぶどう膜炎の1例岡部智子*1松本直*1岡島行伸*1渡辺博*1杤久保哲男*1坂井潤一*2*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2東京医科大学眼科学教室ACaseofRifabutin-AssociatedUveitisTomokoOkabe1),TadashiMatsumoto1),YukinobuOkajima1),HiroshiWatanabe1),TetsuoTochikubo1)JunichiSakai2)and1)1stDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity緒言:投与中の薬剤が原因となって発症する薬剤性ぶどう膜炎が近年報告されている.薬剤性ぶどう膜炎を引き起こす薬剤の一つとしてリファブチンがあるが,わが国での報告は少ない.今回筆者らはリファブチンが原因と思われる薬剤性ぶどう膜炎を経験したので報告する.症例:82歳,女性.非結核性抗酸菌症に対するリファブチンとクラリスロマイシンの内服開始2カ月後に両眼性に前房畜膿を伴うぶどう膜炎を発症した.リファブチンによる薬剤性のぶどう膜炎を疑い,内服を中止した.ステロイドの局所投与にて改善を認めた.考按:リファブチンは日本では承認されてから数年しか経っておらず,リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎の報告はまだ少ないが,今後急増する可能性があると考えられた.Inrecentyears,thedevelopmentofdrug-induceduveitisfollowingdrugadministrationhasbeenreported.Oneofthedrugscausingdrug-induceduveitisisrifabutin,buttherearefewreportsofitinthiscountry.Wereportitatthistimebecauseweexperienceddrug-induceduveitisattributabletorifabutin.Thepatient,an82-year-oldfemale,developedhypopyonuveitisinbotheyescharacteristics2monthsafterstartinginternaluseofrifabutinandclarithromycinfornontuberculousacid-fastbacterialdisease.Idoubtedrifabutin-associateduveitisandcanceledtheinternaluse.Iacceptedimprovementbylocaladministrationofsteroid.RifabutinpassedonlyforseveralyearsafteritwasapprovedinJapan,andtherewerestillfewreportsofrifabutin-associateduveitis;however,itwasthoughtthattheconditionmightincreaserapidlyinfuture.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):599.603,2014〕Keywords:リファブチン,薬剤性ぶどう膜炎,前房蓄膿.rifabutin,Drug-induceduveitis,hypopyonuveitis.はじめに投与中の薬剤が原因となって発症する薬剤性ぶどう膜炎が近年報告されている.薬剤性ぶどう膜炎を引き起こす薬剤の一つとしてリファブチンがあり,クラリスロマイシンと併用した場合,用量によっては前部ぶどう膜炎を引き起こす可能性が40%にも達するといわれている1)が,わが国での報告は少ない.今回筆者らはリファブチンが原因と思われる薬剤性ぶどう膜炎を経験したので報告する.I症例患者:82歳,女性.主訴:右眼の違和感と視力低下.現病歴:平成24年1月9日右眼の違和感と視力低下を自覚し翌日に近医を受診した.右眼に前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を認めた.ステロイドの結膜下注射を行い,0.5%レボフロキサシン点眼と0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム点眼を開始し,精査加療目的に同日,東邦大学医療センター大森病院を紹介受診となった.既往歴:当院呼吸器内科にて,非結核性抗酸菌症に対して内服加療中であった.クラリスマイシン・エタンブトール・リファンピシンの3剤にて内服治療を開始していたが,エタンブトールにて視力障害,リファンピシンにて口唇の乾燥の〔別刷請求先〕岡部智子:〒143-8541東京都大田区大森西7-5-23東邦大学医療センター大森病院眼科Reprintrequests:TomokoOkabe,1stDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine,7-5-23Omori-nishi,Ota-ku,Tokyo143-8541,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(121)599 副作用があり,平成23年11月からはリファブチン(300mg)とクラリスロマイシン(600mg)を内服していた.初診時所見:初診時,右眼視力0.04(i.d.×+4.00D),左眼視力0.5(1.0×+1.75D(cyl.1.00DAx80°),眼圧は右眼15mmHg,左眼11mmHgであった.右眼の前眼部所見として,微細な角膜後面沈着物,前房内に炎症細胞(+++),フィブリンの析出さらには比較的さらさらした前房蓄膿を認めた(図1).左眼の前眼部にも軽度の前房内炎症があり,両眼に虹彩炎が確認できた.右眼の眼底は透見不能であったが,左眼の眼底には明らかな所見は認めなかった.血液検査ではCRP(C反応性蛋白):0.9mg/dlと上昇していたが,WBC(白血球)は6,800/μlと正常範囲であった.ほか補体価:52.7,Ig(免疫グロブリン)G:1,646mg/dl,IgA:493mg/dlと上昇,ACE(アンギオテンシン変換酵素):7.3U/l,IgM:44mg/dlは低下していたが特定の疾患を疑うものは認めなかった.胸部X線では右肺野・左中下肺野の線状影や網状影を認めた.これは結核の所見と思われ,以前のX線所見とは著変は認めていなかった.経過:近医ですでに右眼にデキサメサゾンの結膜下注射を受けており,同日の当院受診時には右眼は自覚症状では改善していた.0.5%レボフロキサシン点眼と0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム点眼薬を両眼に変更し,散瞳薬を追加した.リファブチンの副作用の可能性も考えられ,本人の強い希望にて呼吸器内科と相談のうえ,翌日からリファブチン内服を中止した.翌日には両眼に前房蓄膿を認めたため,両眼にデキサメサゾン4mg結膜下注射を施行した.治療開始3日目には右眼視力(0.4)と改善を認めるものの,左眼視力(0.02)と低下し,再度両眼に結膜下注射を施行した.以後も両眼とも改善傾向は認めるが,炎症は強かったため結膜下注射を数回施行した.その後は経時的に改善を認めた.デキサメサゾン点眼ならびに連日の結膜下注射にて炎症は軽減し,視力は改善した(図2).治療開始9日目の時点で前房内炎症はほぼ消失し,眼底には両眼とも滲出斑や出血はなく,視神経乳頭発赤も認めず,網膜病変がないことが確認できた(図3).1カ月後には炎症所見は消失し,その後再発は認めていない(図4).リファブチン内服開始頃から顔の皮膚に色素沈着を認めていたが,内服中止により改善した.II考按リファブチンは,リファンピシンなどを含むリファマイシン系薬剤の一つであり,商品名をミコブティンカプセルRといい,結核症・非結核性抗酸菌症・HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染患者における播種性MAC(Mycobacteriumaviumcomplex)症の治療薬として,日本では2008年7月に承認されたものである.リファンピシンと比べると抗菌活性はより強力であるが高い副作用をもつため,リファンピシ600あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014ンに耐性があったり,副作用などでリファンピシンの使用が困難な場合に使用することとされている.リファブチンはリファンピシン耐性の結核菌の約30%に効果があるとされている.リファマイシン系薬剤の共通の副作用である血球減少症・肝機能障害などのほかに,リファブチン特有の副作用としてぶどう膜炎がある.非結核性抗酸菌症の70%を占めるのはMAC症であり,現在,肺MAC症の化学療法の原則はリファンピシン・クラリスロマイシン・エタンブトールの3剤による多剤併用が基本とされている2).そのため,リファンピシンを副作用や何らかの理由で使用できずリファブチンに変更した場合,通常リファブチンはクラリスロマイシンと併用されることになる.リファブチンはクラリスロマイシンと併用することによって血中濃度が1.5倍以上に上昇する3)といわれており,用量依存性であるリファブチンの副作用によるぶどう膜炎の発症率はその分高くなる4).リファブチン450mg単独投与でのぶどう膜炎の発症率は391例中7例(1.8%)であるのに対しリファブチン450mgとクラリスロマイシン1,000mgを併用した場合は389例中33例(8.5%)になったとの報告5)もある.また,リファブチン600mgとクラリスロマイシン1,000mgを併用した場合,前眼部ぶどう膜炎の発症頻度は40%にも達する1)ともいわれている.リファブチンによるぶどう膜炎の発症率は海外に比べてわが国では低く,筆者らが調べた限りでは7症例が報告されているにすぎない.日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会が推奨するガイドラインによれば,クラリスロマイシン併用時のリファブチンの初期投与量は150mg/日であり,6カ月以上副作用がない場合に300mg/日までの増加を可と定めており2),わが国においてリファブチンが300mgを超えて使用されることは多くはないと考えられ,そのため,日本での発症率はそれほど高くはなっていないと考えられる.これに比べ,海外ではリファブチンの投与量は300.600mgであり,ぶどう膜炎の発症頻度には大きく差がある.リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎としてわが国ですでに報告された7症例6.9)に,今回の1症例を加えた8症例の特徴を検討した(表1).発症年齢に特別の傾向はなく,性別は女性に多い.リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎の発症が用量依存性ということから,体の小さい女性のほうが体内の血中濃度が上昇しやすく,発症しやすいことにつながっている可能性があると考えられた.リファブチンの投与量は,2症例で150mg,1症例は不明であったが,5症例では300mgであった.内服を開始してから発症までの期間には2.3カ月が目立ち,今回も2カ月後であった.8症例中6症例は両眼であった.1例を除いてすべての症例でクラリスロマイシンを併用していた.前房蓄膿は1症例を除いて認めており(122) 図1右眼の初診時の前眼部写真角膜後面沈着物,前房内炎症細胞,フィブリンと前房蓄膿を認めた.図3治療開始9日目の眼底写真眼底に網膜病変は認めなかった.強い前房内炎症を伴うことがわかる.硝子体混濁は8症例中3症例で認めたが,血管炎の所見は認めなかった.治療は,リファブチンの内服中止とステロイドによる消炎が有効とされている.8症例中3症例は内服中止と,ステロイド点眼の(123)logMAR視力0.51.52.5日付0121/101/121/141/161/181/201/221/241/261/281/30:右眼:左眼デキサメサゾン4mg結膜下注射図2治療経過図4治療開始6カ月後の前眼部写真右眼に瞳孔不整は認めるが,両眼とも炎症の再発は認めていない.みにて改善したが,他3症例でステロイドの結膜下注射が必要であった.鑑別診断としては,前房蓄膿をきたすぶどう膜炎として,Behcet病・HLA(ヒト白血球抗原)-B27関連ぶどう膜炎・糖尿病虹彩炎・炎症性腸炎・リウマチ性関節炎に伴うぶどうあたらしい眼科Vol.31,No.4,2014601 表1国内でのリファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎の報告症例年齢(歳)性別RBTの内服量内服から発症までの期間発症眼前房蓄膿硝子体混濁治療齋藤ら6)91女性150mg2カ月両眼++隅角癒着解離術・硝子体切除術齋藤ら6)72女性150mg7カ月右眼++内服中止・点眼齋藤ら6)83女性300mg6カ月両眼.+内服中止・点眼石口ら7)45男性300mg3カ月両眼+.内服中止・点眼・結膜下注射飯島ら8)80女性不明2カ月両眼+.内服中止・点眼福留ら9)64女性300mg2カ月両眼+.内服中止・点眼・結膜下注射福留ら9)81女性300mg2カ月右眼+.硝子体切除術岡部ら82女性300mg2カ月両眼+.内服中止・点眼・結膜下注射膜炎・仮面症候群(悪性リンパ腫)・細菌性眼内炎(内因性・外因性)などがあげられるが,今回の症例は,①両眼に発症したこと,②リファブチン内服開始2カ月後の発症であったこと,③リファブチンとクラリスロマイシンを併用していたこと,④リファブチンの内服中止および副腎皮質ステロイド薬の局所投与によく反応したこと,⑤網膜病変を認めなかったこと,⑥全身所見や臨床検査所見で上記の鑑別疾患に合致する所見がないことより,リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎の可能性が高いと考えた.リファブチンの副作用の発症機序は,①リファブチンまたはその代謝産物による中毒症の可能性(投与量に依存する)1,3,6,10.12),②リファブチンで死滅した抗酸菌または菌の放出物に対するアレルギー性炎症反応など10,13)が考えられているが,現在はまだ解明はされていない.今回の所見は,細菌由来のエンドトキシン(LPS)をラットやマウスに接種して惹起したendotoxin-induceduveitis14)の所見ときわめて類似していることから,本症においてもリファブチンの投与により結核菌の細胞壁から遊離したLPSが発症に関与している可能性も考えられた.リファブチンを継続すると高率に再発するため,リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎は早期に診断して内服薬の中止と副腎皮質ステロイド薬の局所投与による消炎治療が必要である.リファブチンは日本では承認されてから数年しか経っておらずリファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎の報告はまだ少ないが,今後急増する可能性があると推測された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ShafranSD,DeschenesJ,MillerMetal:Uveitisandpseudojaundiceduringaregimenofclarithromycin,rifabutinandethanbutol.MACStudyGroupoftheCanadianHIVTrialNetwork.NEnglMed330:438-439,1994602あたらしい眼科Vol.31,No.4,20142)日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会,日本呼吸学会感染症・結核学術部会:肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解-2008暫定.結核83:731-733,20083)HafnerR,BethelJ,PowerMetal:Toleranceandpharmacokineticinteractionsofrifabutinandclarithromycininhumanimmunodeficiencyvirus-infectedvolunteers.AntimicrobAgentsChemother42:631-639,19984)ShafranSD,SingerJ,ZarownyDPetal:Determinantsofrifabutin-associateduveitisinpatientstreatedwithrifabutin,clarithromycin,andethambutolforMycobacteriumaviumcomplexbacteremia:amultivariateanalysis.CanadianHIVTrialsNetworkProtocol010StudyGroup.JInfectDis177:252-255,19985)BensonCA,WilliamsPL,CohnDLetal:ClarithromycinorrifabutinaloneorinconbinationforprimaryprophylaxisofMycobacteriumaviumcomplexdiseaseinpatientswithAIDS:Arandomized,double-blind,placebo-controlledtrial.TheAIDSClinicalTrialsGroup196/TerryBeirnCommunityProgramsforClinicalResearchonAIDS009ProtocolTeam.JInfectDis181:1289-1297,20006)斎藤智一,尾花明,土屋陽子ほか:抗酸菌症治療薬リファブチンによりぶどう膜炎を生じた3例.日眼会誌115:595-601,20117)石口奈世理,上野久美子,栁原万里子ほか:リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎を生じた後天性免疫不全症候群の1例.日眼会誌114:683-686,20108)飯島敬,市邉義章,清水公也:リファアブチンに関連した前房畜膿を伴うぶどう膜炎.あたらしい眼科28:693695,20119)福留みのり,佐々木香る,中村真樹ほか:リファブチン関連ぶどう膜炎の2例.臨眼64:1587-1592,201010)KellerherP,HelbertM,SweeneyJetal:UveitisassociatedwithrifabutinandmacrolidetherapyforMycobacteriumaviumintracellulareinfectioninAIDSpatients.GenitourinMed72:419-421,199611)HavilirD,TorrianiF,DubeM:Uveitisassociatedwithrifabutinprophylaxis.AnnInternMed121:510-512,199412)KarbassiM,NikouS:Acuteuveitisinpatientswithasquiredimmunodeficiencysyndromereceivingprophylacticrifabutin.ArchOphthalmol113:699-701,199513)JacobsDS,PilieroPJ,KuperwaserMGetal:Acute(124) uveitisassociatedwithrifabutinuseinpatientswith14)RosenbaumJT,McDevittHO,GussRBetal:Endotoxinhumanimmunodeficiencyvirusinfection.AmJOphthal-induceduveitisinratasamodelforhumandisease.mol118:716-722,1994Nature286:611-613,1980***(125)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014603

緑膿菌角膜炎における臨床所見の検討 ―新しい代表的所見としてのブラシ状混濁の提言―

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):255.259,2013c緑膿菌角膜炎における臨床所見の検討―新しい代表的所見としてのブラシ状混濁の提言―佐々木香る*1稲田紀子*2熊谷直樹*1出田隆一*1庄司純*2澤充*2*1出田眼科病院*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野ClinicalCharacteristicsofInfectiousKeratitisCausedbyPseudomonasaeruginosa─ProposalofBrush-likeOpacityasNewRepresentativeAppearance─KaoruAraki-Sasaki1),NorikoInada2),NaokiKumagai1),RyuichiIdeta1),JunShoji2)andMitsuruSawa2)1)IdetaEyeHospital,2)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine目的:緑膿菌角膜炎でみられる臨床所見の出現頻度,発症から各臨床所見出現までの日数(発症後日数)を調査し,相互関係を検討すること.対象および方法:対象は,緑膿菌角膜炎32例33眼.代表的所見,潰瘍の形状,その他の所見の出現頻度を算出し,発症後日数との関係をロジスティック回帰解析した.結果:各所見の出現頻度は,輪状膿瘍13眼(39.4%),スリガラス状浸潤31眼(93.9%),前房蓄膿10眼(30.3%),ブラシ状混濁14眼(42.4%)であった.潰瘍の形状は小円形9眼(27.3%),円形.不整形24眼(72.7%)であった.平均発症後日数は,小円形潰瘍1.7日,スリガラス状浸潤1.9日,ブラシ状混濁2.4日,円形.不整形潰瘍2.7日,前房蓄膿2.9日,輪状膿瘍3.4日であった.発症後3日以上の症例で輪状膿瘍の出現頻度が有意に高かった(p=0.007,オッズ比9.00).結論:緑膿菌角膜炎は,代表的所見を示さない症例も多いが,一定の傾向をもって変化すると考えられた.ブラシ状混濁は今後注目に値する所見である.Thepurposeofthisstudywastorevealtheincidenceofclinicalcharacteristicsin33eyeswithinfectiouskeratitiscausedbyPseudomonasaeruginosaandanalyzetherelationshipsbetweenincidenceanddurationfromonset,usinglogisticanalysis.Ringabscesswasrecognizedin39.4%,diffuseinfiltrationin93.9%,hypopyonin30.3%andbrush-likeopacityin42.4%.Ulcerformwasdividedintotwotypes:smallround(27.3%)androundorirregular(72.7%).Thesmallroundulcerappearedat1.7daysafteronset,onaverage.Diffuseinfiltration(1.9days),brush-likeopacity(2.4days),roundorirregularulcer(2.7days),hypopyon(2.9days)andringabscess(3.4days)subsequentlyappeared.Thefrequencyofringabscesswashigherincasesthatlastedmorethan3days(p=0.007,oddsrate:9.00).Inconclusion,theclinicalappearanceofPseudomonaskeratitischangeswiththetimecourse.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):255.259,2013〕Keywords:緑膿菌,輪状膿瘍,感染性角膜炎,ブラシ状混濁,前房蓄膿,臨床所見.Pseudomonasaeruginosa,ringabscess,infectiouskeratitis,brush-likeopacity,hypopyon,clinicalcharacteristics.はじめに緑膿菌角膜炎の代表的臨床所見として,「輪状膿瘍,スリガラス状浸潤,前房蓄膿」の3所見が同時期に観察されることがよく知られている1,2).このうち,輪状膿瘍は緑膿菌の産生するエラスターゼと好中球とが反応する場所と報告されている3).スリガラス状浸潤は緑膿菌の内毒素であるLPS(リポ多糖)に対する反応として,角膜実質層間に沿って遊走してきた好中球の遊走とそれに伴う実質障害,さらには内皮障害や角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫とされている4).また,前房蓄膿は,フィブリンを多く含み流動性が乏しく,Behcet病でみられる好中球による前房蓄膿とは異なる性状を示すことが特徴である5,6).しかし,日常診療では,これらの代表的所見以外の臨床所見を含む緑膿菌角膜炎例にも遭遇する.たとえば,小円形の浸潤病巣や,棘状あるいはブラシ状とよばれる角膜潰瘍辺縁部にみられる針状の混濁または刷毛で掃いたような混濁(以下,ブラシ状)などが非代表的臨〔別刷請求先〕佐々木香る:〒860-0027熊本市中央区西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:KaoruAraki-Sasaki,M.D.,Ph.D.,IdetaEyeHospital,39Nishi-tojincyo,Chuo-ku,Kumamoto860-0027,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(121)255 床所見としてあげられる.また,逆に代表的臨床所見とされる輪状膿瘍や前房蓄膿がみられない場合もある.これらを踏まえて,今回,緑膿菌角膜炎と確定診断された症例において,臨床所見の出現頻度,発症から臨床所見出現までの日数(発症後日数),および患者背景の調査と相互関係について検討した.I対象および方法本研究は,日本大学医学部附属板橋病院および出田眼科病院における臨床研究審査委員会の承認を得たうえで施行した.1.対象対象は日本大学医学部附属板橋病院眼科,出田眼科病院において平成21年1月から平成23年12月までの約3年間に,角膜擦過物の細菌分離培養検査により確定診断した緑膿菌角膜炎32例33眼である.緑膿菌角膜炎の誘因は,32眼が何らかの種類のソフトコンタクトレンズ装用であり,1眼が外傷であった.2.方法緑膿菌角膜炎の臨床所見は,初診時に細隙灯顕微鏡検査により得られた所見について検討した.臨床所見は,代表的所見として「輪状膿瘍」「スリガラス状浸潤」および「輪状膿瘍」,潰瘍の形状として「小円形潰瘍」および「円形.不整形潰瘍」,その他の所見として「ブラシ状混濁」に分け,初診時における出現頻度を検討した.潰瘍は直径3mm未満のものを小円形,3mm以上のものを円形.不整形とした.また,自覚症状出現から初診日までの日数を発症後日数として検討した.3.統計学的解析各臨床所見の出現と有意に関係がある背景因子を選ぶために,年齢,性別,発症後日数との関係をロジスティック回帰解析で検討した.なお,年齢は,40歳未満と40歳以上,発症後日数は2日以内と3日以上との2値変数とした.p<0.05の危険率を有意として判定した.II結果1.代表症例a.代表症例128歳,男性.2週間頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(以下,2W-FRSCL)を装用したまま就寝し,充血,疼痛を感じ,2日目に受診した.初診時の前眼部写真および所見を図1に示す.潰瘍の形状は小円形で,輪状膿瘍や前房蓄膿は認めず,局所的なスリガラス状浸潤がみられた.なお,ブラシ状混濁はなかった.b.代表症例215歳,男性.2W-FRSCL装用中に眼痛が出現.2日目に256あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013代表的所見潰瘍の形状その他の所見輪状膿瘍(.)小円形ブラシ状混濁(.)スリガラス状浸潤(局所+)前房蓄膿(.)図1代表症例1の前眼部写真(28歳,男性)代表的所見潰瘍の形状その他の所見輪状膿瘍(.)不整形ブラシ状混濁(+)スリガラス状浸潤(局所+)前房蓄膿(.)図2代表症例2の前眼部写真(15歳,男性)矢印で示したブラシ状混濁を認める.受診した.初診時の前眼部写真および所見を図2に示す.潰瘍の形状は不整形で,輪状膿瘍がみられ,前房蓄膿はみられず,局所的なスリガラス状浸潤がみられた.病変周辺に棘状のブラシ状混濁がみられた.(122) (%)図4代表的所見およびブラシ状混濁の出現頻度の比較前房蓄膿ブラシ状混濁全体スリガラス状浸潤局所輪状混濁円型/不整形角膜潰瘍小円型0123456発症後日数(日)図5各臨床所見のみられた平均発症後日数スリガラス状浸潤(局所・全体)前房蓄膿輪状膿瘍12345(発症後日数)0ブラシ状混濁小円形潰瘍不整形潰瘍図6代表的所見の平均発症後日数からみたブラシ状混濁の出現時期見の平均発症後日数を時系列で示す.3.臨床所見出現の背景因子の検討輪状膿瘍を呈する所見の危険因子を検討したところ,発症後3日以上経過した症例に有意に多くみられた(p=0.007,オッズ比9.00).スリガラス状混濁は,有意差はないが,発症後3日以上経過した症例でやや多い傾向にあった(p=0.033).さらに,発症後3日以上の症例に限って,輪状膿瘍の出現頻度が高い因子を検討したところ,前房蓄膿がみられないこと(p=0.005),40歳未満であること(p=0.024),円形.不整形潰瘍がみられること(p=0.019)が有意な因子であった.また,ブラシ状混濁がない(p=0.050)傾向があったが,有意ではなかった.あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013257代表的所見潰瘍の形状その他の所見輪状膿瘍(+)不整形ブラシ状混濁(+)スリガラス状浸潤(全体+)前房蓄膿(.)図3代表症例3の前眼部写真(29歳,男性)矢印で示した大きなブラシ状混濁を認める.c.代表症例329歳,男性.1日使い捨てソフトコンタクトレンズを自己判断で3日間使用した後,眼痛を自覚し,3日目に受診した.初診時の前眼部所見は,不整形の潰瘍に輪状膿瘍と角膜全体にわたるスリガラス状浸潤を認めた.前房蓄膿はなかったが,ブラシ状混濁がみられた(図3).2.臨床所見の出現頻度および発症後日数今回,対象となった症例は,男性20例,女性12例,33眼,平均年齢は31.5歳(レンジ:16.86歳)であり,自覚症状出現から受診までの平均発症後日数は2.4日(レンジ:0.7日)であった.その内訳は0日2眼,1日4眼,2日14眼,3日10眼,4日0眼,5日,6日,7日はそれぞれ1眼ずつであった.臨床所見の出現頻度は,輪状膿瘍13眼(39.4%),角膜全体にわたるスリガラス状浸潤19眼(57.6%),局所的なスリガラス状浸潤は12眼(36.4%),前房蓄膿10眼(30.3%)で,一方,ブラシ状混濁は14眼(42.4%)でみられた.潰瘍の形状は小円形9眼(27.3%)および円形.不整形24眼(72.7%)であった.各代表的所見とブラシ状混濁の出現頻度の比較を図4に示した.各々の所見がみられた平均発症後日数は,小円形潰瘍1.7日,スリガラス状浸潤1.9日,ブラシ状混濁2.4日,円形.不整形潰瘍2.7日,前房蓄膿2.9日,輪状膿瘍3.4日であった.図5は各臨床所見の平均発症後日数を標準偏差とともに表わしたものである.また,図6にブラシ状混濁と各臨床所(123)020406080100輪状膿瘍スリガラス状混濁前房蓄膿ブラシ状混濁 つぎに,ブラシ状混濁を呈する所見の危険因子を検討したが,年齢・性別・輪状膿瘍・潰瘍の形状・スリガラス状浸潤・前房蓄膿のいずれの項目とも有意な関係はみられなかった.逆に,ブラシ状混濁を呈さない所見の危険因子としては,「発症後3日以上経過しており,男性であること」(p=0.047)があげられた.III考按今回の検討から,緑膿菌角膜炎は初診時にはいわゆる代表的所見を示さない症例が多く,特にブラシ状混濁は輪状膿瘍や前房蓄膿と同程度にみられ,注目すべき所見であることがわかった.ブラシ状混濁は,いくつかの論文ですでに指摘されている所見であり2,7.9),真菌でみられるhyphatelesionとの鑑別が必要な所見ではあるが,緑膿菌角膜炎でみられる特徴的な角膜浸潤病巣とされている.その本態は病巣辺縁の細胞浸潤あるいは実質細胞の反応などと推測されている.今回の検討により,その出現頻度が非常に高いものであることが確認され,今後注目すべき所見と考えられた.このブラシ状混濁の平均出現日数は,小円形潰瘍と円形.不整形潰瘍の平均出現日数の間であり,スリガラス状浸潤より遅く,前房蓄膿や輪状膿瘍より早い日数であった.症例数が限られており,それぞれの平均発症日数は僅差であることから断言はできないが,緑膿菌が定着して感染が成立した後,輪状混濁や前房蓄膿といった生体防御の免疫機構が著しくなる前にブラシ状混濁が出現する可能性がある.すなわち,病巣辺縁の菌の増殖とそれに対する細胞浸潤あるいは周辺実質細胞の反応という考えを支持する結果と考えられた.一方,輪状膿瘍や前房蓄膿は緑膿菌角膜炎の代表所見と認識されていながら,その出現頻度は意外と低いことが明らかとなった.緑膿菌角膜炎の臨床所見を検討し,分類を提唱した中島らも,初診時の所見としては輪状膿瘍よりも円形膿瘍のほうが多いことを指摘している2).平均受診日数が2.4日と比較的早期に受診する例が多く,一昔前と違ってMIC(最小発育阻止濃度)の低い広域抗菌薬の使用が容易であるため,最終像を呈する前に受診し,回復に向かった症例が多いと考えられる.したがって「輪状膿瘍,スリガラス状浸潤,前房蓄膿」の3つの代表所見が同時期にみられるのはあくまでも最終像であり,そのまま診断基準には該当しないと考えられ,臨床診断において注意が必要であることが示唆された.潰瘍の形状については,小円形が円形.不整形よりも早期に出現する傾向から,臨床所見が時間経過とともに一定の傾向で進行することが示唆された.近年,ソフトコンタクトレンズ装用患者において,ブドウ球菌による角膜炎に類似した小円形の緑膿菌角膜炎が指摘されており10),株による差,時間経過,患者自身の個体差,局所における酸素分圧の影響な258あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013どが考えられているが,今回の結果からは,感染成立後の早期の所見である可能性が示唆された.各検討項目のロジスティック回帰解析の結果からは,輪状膿瘍は発症3日以上が有意な危険因子であることが判明した.輪状膿瘍は緑膿菌の産生するエラスターゼと感染により角膜輪部から遊走する好中球が出会って反応することが本態と報告されている3).播種された菌量にもよるが,一般的な臨床症例において,感染成立後,輪状膿瘍を呈するに十分な免疫反応を惹起するためには,3日以上の日数が必要であることが示唆された.前房蓄膿に関しても,平均発症日数は3日弱であり,有意差はみられなかったが同様の経過と考えられた.さらに,輪状膿瘍は,前房蓄膿やブラシ状混濁を伴わない症例に多くみられる傾向にあった.ブラシ状に伸展していく菌に対して好中球が多量に浸潤して,輪状膿瘍を形成することでブラシ状所見をマスクした可能性や,輪状膿瘍により菌と免疫反応の均衡がとれ,前房の反応を生じなかった可能性が推測される.極早期の緑膿菌角膜炎では,輪状膿瘍や前房蓄膿は形成されず,加えて,緑膿菌の株によってエラスターゼの産生能は異なっており,輪状膿瘍が出現しない症例もあると考えられる.したがって,患者背景から緑膿菌角膜炎が疑われるが,輪状膿瘍や前房蓄膿がみられない症例においては,ブラシ状混濁を探すことが一つの診断補助になると考えられた.本検討においては,できるだけ個人による臨床所見の取り方に偏りがないように配慮して,角膜を専門とする医師3人で症例の所見を確認した.しかし,それでもなお,ブラシ状混濁の有無については,ややわかりにくい症例が存在し,今後も症例数を増やして検討することが必要であると考えられた.ブラシ状混濁の意義についても,モデルを用いた実験的検討や共焦点レーザー顕微鏡を用いた観察が必要である.緑膿菌角膜炎は,菌体そのものの活動性以外に,外毒素による炎症反応を強く惹起する.臨床所見を詳細に解析し,どのような病態であるかを推測することは,早期発見のみならず,再燃の危険なく消炎を図るための有用な情報と考えられた.本稿の要旨は第49回日本眼感染症学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)堀眞輔:コンタクトレンズ診療における感染性角膜炎の診断と眼科臨床検査.日コレ誌53:219-223,20112)伊豆野美帆,亀井裕子,松原正男:コンタクトレンズ装用者に発症した緑膿菌角膜潰瘍3例の検討.日コレ誌52:270-273,20103)IjiriY,MatsumotoK,KamataRetal:Suppressionof(124) polymorphonuclearleucocytechemotaxisbyPseudomonasaeruginosaelastaseinvitro:astudyofthemechanismsandthecorrelationwithringabscessinpseudomonalkeratitis.IntJExpPathol75:441-451,19944)VanHornDL,DavisSD,HyndiukRAetal:ExperimentalPseudomonaskeratitisintherabbit:bacteriologic,clinical,andmicroscopicobservations.InvestOphthalmolVisSci20:213-221,19815)後藤浩:【眼内炎症診療のこれから】診察前眼部.眼科プラクティス16,p24-29,文光堂,20076)杉田直:【眼感染症の謎を解く】臨床所見から推理する!前房蓄膿.眼科プラクティス28,p48-50,文光堂,20097)宇野敏彦:CLケア教室(第36回)CL装用者の角膜浸潤.日コレ誌52:285-287,20108)熊谷聡子,崎元丹,稲田紀子ほか:コンタクトレンズ関連角膜潰瘍の1例.眼科51:923-926,20099)中島基宏,稲田紀子,庄司純ほか:コンタクトレンズ装用者に発症した緑膿菌角膜炎23例の臨床所見の検討.眼科53:1029-1035,201110)細谷友雅,神野早苗,榊原智子ほか:コンタクトレンズ関連緑膿菌感染へのステロイド投与の影響.眼科54:173179,2012***(125)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013259

リファブチンに関連した前房蓄膿を伴うぶどう膜炎

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(91)693《第44回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科28(5):693.695,2011cはじめに2008年に抗酸菌に対する治療薬として新たにリファブチンがリファマイシン系薬剤としてわが国で承認された.リファブチン特有の副作用の一つとしてぶどう膜炎があげられている.海外では1992年から承認されていたこともあり,リファブチンに関連したぶどう膜炎の症例報告が散見される.国内では呼吸器内科医からの報告1)と眼科医からの報告2)があるが,後者はフィリピン人の後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の症例である.今回筆者らはリファブチン内服中に前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を発症し,リファブチン内服中止と0.1%ベタメタゾンの点眼にて著明に改善した日本人症例を経験したので報告する.I症例患者:80歳,女性.主訴:右眼の霧視.既往歴:2003年10月に両眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)挿入術施行.心房細動にて塩酸ベラパミル,アスピリン内服中であった.2003年,肺非定型抗酸菌症に対して内科にてリファンピシン,クラリスロマイシン,エタンブトールによる治療を開始した.その後,排菌が持続し,投薬が長期化したため,〔別刷請求先〕飯島敬:〒252-0374相模原市南区北里1丁目15番1号北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KeiIijima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0374,JAPANリファブチンに関連した前房蓄膿を伴うぶどう膜炎飯島敬市邉義章清水公也北里大学医学部眼科学教室Rifabutin-associatedHypopyonUveitisKeiIijima,YoshiakiIchibeandKimiyaShimizuDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity抗酸菌に対する治療薬として新たにリファブチン(RBT)がリファマイシン系薬剤としてわが国でも使用されている.本剤の副作用の一つにぶどう膜炎があり,海外からの報告は散見される.国内では呼吸器内科医からの報告と眼科医からの報告があるが,後者はフィリピン人の後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の症例である.今回筆者らはリファブチン内服中に前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を発症し,リファブチン内服中止と0.1%ベタメタゾンの点眼にて著明に改善した日本人症例を経験したので報告する.症例は80歳,女性.6年前に両眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)挿入術が施行されていた.肺非定型抗酸菌症に対してのRBT内服約2カ月後に右眼霧視を自覚.前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を認め,ステロイドの点眼を開始したところ2日後に前房蓄膿は消失したが,右眼発症の10日後に左眼にも発症.RBTによる副作用も考え投与を中止した.中止後から視力は改善していき,発症40日目に前房の炎症はほぼ消失した.RBTの使用中は前房蓄膿を伴う両眼性非肉芽腫性ぶどう膜炎に注意する必要がある.Wereportacaseinwhichhypopyonuveitisappearedduringtreatmentwithrifabutin(RBT)andclarithromycinformycobacteriumaviumcomplex(MAC)pulmonaryinfection.Thepatient,an80-year-oldfemalewhohadbeentakingRBTfor2months,presentedwithblurringinherrighteye.Slit-lampexaminationoftheeyeatthattimeshowedmarkedhypopyon,whichresolvedwithin48hoursoftopicalsteroidadministration.Tendaysaftertheonsetofuveitisintherighteye,thepatientnotedblurringinherlefteye,andslit-lampexaminationshoweduveitisinthateye.ThevisualacuityanduveitisinbotheyesimprovedafterRBTwasdiscontinued.Therewerenoabnormalitiesineithertheopticnerveorretina.Cautionisnecessarywhentreatingbilateralnon-granulomatoushypopyonuveitiswithRBT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):693.695,2011〕Keywords:リファブチン,前房蓄膿,ぶどう膜炎.rifabutin,hypopyon,uveitis.694あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(92)2008年8月,投薬をすべて中止した.しかし,2009年10月に肺病変の悪化を認め,投薬を再開した.このとき,抗菌力向上を目的として,リファンピシンからリファブチンに切り替えた.再治療開始約2カ月後,右眼の霧視を自覚し当院眼科初診となった.初診時,視力は右眼矯正(0.9),左眼矯正(1.0).眼圧は右眼12mmHg,左眼14mmHg.右眼に前房蓄膿を伴う非肉芽腫性の虹彩炎を認めた(図1).眼底は散瞳不良のため観察が困難であったが,Bモードエコー上,明らかな硝子体混濁はなかった.限界フリッカー値は両眼30Hz台前半,角膜内皮細胞密度も両眼2,400/mm2台後半と左右差なく,Humphreyの静的視野検査(HFA30-2)でも両眼左右差なく特記すべき所見はなかった.血液検査ではHSV(単純ヘルペスウイルス)のIg(免疫グロブリン)MとHLA(ヒト白血球抗原)でB51が陽性以外に特記すべき異常はなかった.初診時,感染性眼内炎も疑い右眼より前房水を採取しておいたが,培養では細菌,真菌ともに陰性であった.その他,頭部造影MRI(磁気共鳴画像)でも異常所見は認めず,眼外所見として皮疹や口内炎も認めなかった.II経過発症2日目から0.1%ベタメタゾンの点眼を開始した.開始2日目,角膜にDescemet膜の皺襞が出現し,右眼矯正視力は0.3に低下したが,前房蓄膿は急激に消失していた.右眼発症10日後に左眼の霧視を自覚.患者本人の自己判断で0.1%ベタメタゾンの点眼を開始し,左眼発症4日後に来院した.左眼矯正視力は0.15と低下し,前房蓄膿はないものの,前房の炎症とDescemet膜の皺襞を認めた.発症形式からリファブチンによるぶどう膜炎が考えられたため,初発の右眼発症23日目に内科医に相談し,肺非定型抗酸菌症の状態が安定していることを確認してリファブチン,クラリスロマイシン,エタンブトールの投与を中止した.その後,視力と炎症所見は改善し,リファブチン投与中止後40日目に右眼矯正は1.0,73日目に左眼矯正は0.9に改善した.両眼,Descemet膜の皺襞や前房の炎症はほぼ消失した.経過中,眼底,OCT(光干渉断層計)には異常を認めなかった.その後1カ月現在,再発は認めていない.III考按前房蓄膿をきたすぶどう膜炎としてBehcet病,HLA関連急性前部ぶどう膜炎,仮面症候群(悪性リンパ腫),そして眼内炎(内因性,外因性)などがあげられる.本例は発症6年前に白内障手術を受けているので遅発性眼内炎の可能性もあり,初診時,ただちに前房水培養を施行したが結果的には陰性であった.急激な発症や短期間での前房蓄膿消失からも否定的である.Behcet病,HLA関連急性前部ぶどう膜炎は年齢や性別,また前者に対しては皮疹や口内炎などの眼外症状がなく可能性は低いと思われるが,HLA-B51は陽性で完全に否定することはできない.仮面症候群(悪性リンパ腫)は頭部造影MRIなどより否定的であった.海外では1992年から承認されていたこともありリファブチンに関連したぶどう膜炎の症例報告が散見される.国内では呼吸器内科医からの報告が最初である1)が,眼科医からの詳細な報告は2報ある2,7).石口らの報告はフィリピン人の後天性免疫不全症表1過去の報告文献HIV症例(数)発症までの投与期間僚眼発症前房蓄膿前房蓄膿消失時間視力回復までの期間KelleherP(1996)陽性10平均2カ月4/10例あり3/10例あり不明平均8日DanielA(1998)陰性11.5カ月ありあり1日6週BhagatN(2001)陰性32週~9カ月ありあり1~2日1~3週FinemanSM(2001)陰性22週~2カ月なしあり数日4週~18カ月石口(2010)陽性12カ月ありあり1日3カ月福留(2010)陰性22~3カ月なしあり2日1カ月本症例陰性12カ月ありあり2日6週HIV:ヒト免疫不全ウイルス.図1右眼前眼部(リファブチン投与開始後2カ月)(93)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011695候群患者2)で,福留らの報告は日本人の後天性免疫不全症候群を合併していない2例である7).福留らの報告と本例は発症期間や経過はほぼ同様であるが,僚眼に発症していない点が異なっていた.他の報告と同様に僚眼発症にも注意する必要があると思われる.発症機序としては中毒性が考えられている.過去の症例報告をまとめると,片眼ずつ発症し,前房蓄膿を伴うが早期に消失して視力回復も早いことが特徴であり3~7)(表1),本症例でも同様であった.発症頻度は体重当たりの投与量に依存するとされている.過去の文献によると,リファブチンを1日600mg投与した場合のぶどう膜炎発症頻度は,体重65kg以上で14%,55kgから65kgの間で45%,55kg未満で64%と報告されている8).さらにクラリスロマイシンと併用した場合,血中濃度が1.5倍以上に上昇し9),発症頻度は高くなる6,10).過去の報告によると,クラリスロマイシン併用時のリファブチン初期投与量は150mg/日,6カ月以上の経過で副作用がない場合は300mgまで増量可としている11).本症例はリファブチン150mg/日と少量であったが,本症例患者の体重が30kgと少なくクラリスロマイシンを併用していたため,副作用が出現しやすい状況にあったと考えられる.また,本症は0.1%ベタメタゾンの点眼が有効で,視力や所見が改善した可能性もあるが,リファブチンの投与を中止してからの視力改善が著明であったことから薬剤性の要素が大きいと考える(図2).薬剤性の眼副作用は前述したように過量投与によるものをしばしば経験する.高齢者の場合,体重が低いことや,腎機能,肝機能低下によって血中濃度が上がり,副作用が起きやすい状況にある場合が想定される.今まで薬剤性の眼副作用といえば視神経や網膜に関する報告が多いが,今後はぶどう膜炎にも注目する必要があろう.IV結語リファブチン投与中に前房蓄膿を伴い片眼ずつ発症する両眼性急性非肉芽腫性ぶどう膜炎を経験した.リファブチンは特有の副作用としてぶどう膜炎があげられ注意が必要である.文献1)永井英明:ミコブティンRカプセル.呼吸28:151-155,20092)石口奈世里,上野久美子,原栁万里子ほか:リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎を生じた後天性免疫不全症候群患者の1例.日眼会誌114:683-686,20103)BhagatN,ReadRW,RaoNAetal:Rifabutin-associaterdhypopyonuveitisinhumanimmunodeficiencyvirus-negativeimmunocompetentindividuals.Ophthalmology108:750-752,20014)FinemanSM,VanderJ,RegilloCDetal:HypopyonuveitisinimmunocompetentpatientstreatedforMycobacteriumaviumcomplexpulmonaryinfectionwithrifabutin.Retina21:531-533,20015)JewlewiczDA,SchiffWM,BrownSetal:Rifabutin-associateduveitisinanimmunosuppressedpediatricpatientwithoutacquiredimmunodeficiencysyndrome.AmJOphthalmol125:872-873,19986)KelleherP,HelbertM,SweeneyJetal:UveitisassociatedwithrifabutinandmacrolidetherapyforMycobacteriumaviumintradellulareinfectioninAIDSpatients.GenitourinMed72:419-421,19967)福留みのり,佐々木香る,中村真樹ほか:リファブチン関連ぶどう膜炎の2例.臨眼64:1587-1592,20108)ShafranSD,ShingerJ,ZarownyDPetal:Determinantsofrifabutin-associateduveitisinpatientstreatedwithrifabutin,clarithromycin,andethambutolforMycobacteriumaviumcomplexbacteremia.Amultivariateanalysis.CanadianHIVTrialsNetworkProtocol010StudyGroup.JInfectDis177:252-525,19989)HafnerR,BethalJ,PowerMetal:Toleranceandpharmacokineticinteractionsofrifabutinandclarithromycininhumanimmunodeficiencyvirus-infectedvolunteers.AntimicrobAgentsChemother42:631-639,199810)BensonCA,WilliamsPL,CohnDLetal:ClarithromycinorrifabutinaloneorcombinationforprimaryprophylaxisofMycobacteriumaviumcomplexdiseaseinpatientswithAIDS.Arandomized,double-blind,placebo-controlledtrial.TheAIDSClinicalTrialsGroup196/TerryBeirnCommunityProgramsforClinicalRsearchonAIDS009ProtocolTeam.JInfectDis181:1289-1297,200011)日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会日本呼吸器学会感染症・結核学術部会:肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解─2008暫定.結核83:731-733,2008小数視力初発0日2週4週6週8週10週12週14週16週経過期間0.11:VD:VS(0.2)(0.15)(1.0)(0.9)投与中止後から徐々に改善初発23日目RBT投与中止図2視力の経過***