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抗HIV 治療中に再燃を繰り返したリファブチンによる ぶどう膜炎の1 例

2023年5月31日 水曜日

《第55回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科40(5):674.677,2023c抗HIV治療中に再燃を繰り返したリファブチンによるぶどう膜炎の1例中島幸彦*1,2榛村真智子*1高野博子*1田中克明*1蕪城俊克*1渡辺芽里*2川島秀俊*2*1自治科医科大学附属さいたま医療センター眼科*2自治医科大学眼科学講座CACaseofRecurrentUveitisCausedbyRifabutininaPatientUndergoingHIVTreatmentYukihikoNakajima1,2),MachikoShimmura1),HirokoTakano1),YoshiakiTanaka1),ToshikatsuKaburaki1),MeriWatanabe2)andHidetoshiKawashima2)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityC目的:再燃を繰り返したリファブチンによるぶどう膜炎のC1例を経験したので報告する.症例:73歳,男性.後天性免疫不全症候群に対し抗ヒト免疫不全ウイルス治療薬が,腹腔内非結核性抗酸菌症に対してクラリスロマイシン,エタンブトール,リファブチンが処方されていた.両眼性のぶどう膜炎で左眼に前房蓄膿を認めたため自治医科大学附属さいたま医療センターに紹介となった.ベタメタゾン点眼で改善するが,点眼を漸減すると再燃した.ぶどう膜炎の原因としてリファブチンを考え内服量を減量したが,ぶどう膜炎の再燃は継続した.そこでリファブチンを中止したところ,ぶどう膜炎が鎮静化したため,リファブチンによるぶどう膜炎であったと考えた.結論:原因不明のぶどう膜炎では,薬剤性の可能性を考慮に入れる必要がある.リファブチンによるぶどう膜炎では,リファブチンを減量しても内服を継続するとぶどう膜炎が再燃することがあり,そのような場合リファブチンの中止を検討する必要がある.CPurpose:Toreportacaseofrifabutin-induceduveitisthatrecurredrepeatedly.Casereport:A73-year-oldmaleCwhoCwasCundergoingCanti-humanCimmunode.ciencyCvirusCtherapeuticsCprescribedCforCacquiredCimmuneCde.ciencyCsyndromeCandCclarithromycin,Cethambutol,CandCrifabutinCprescribedCforCintraperitonealCnon-tuberculosisCmycobacteriaCwasCreferredCtoCourChospitalCdueCtoCtheCdevelopmentCofCbilateralCuveitisCandCaChypopyonCinChisCleftCeye.Theuveitisimprovedwithbetamethasoneeyedrops,butrecurredwhenthedropsweretaperedo..Consider-ingCthatCrifabutinCwasCtheCcauseCofCtheCuveitis,CtheCoralCdoseCwasCreduced,CyetCrecurrenceCofCuveitisCcontinued.CWhenCoralCadministrationCofCrifabutinCwasCdiscontinued,CtheCuveitisCsubsided.CWeC.nallyCdiagnosedCtheCpatientCasCrifabutin-induceduveitis.Conclusions:Incasesofuveitisofunknownorigin,drug-induceduveitisshouldbecon-sidered.Rifabutin-induceduveitismayrecuriforalrifabutiniscontinued,evenifthedoseisreduced,andrifabutinshouldbediscontinuedinsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(5):674.677,C2023〕Keywords:ぶどう膜炎,リファブチン.uveitis,rifabutin.はじめにぶどう膜炎にはC50種類近い原因病名があり1),治療法,再燃の頻度や起こりやすい合併症や視力予後がかなり異なる.ぶどう膜炎の治療方針を決定するにあたって,ぶどう膜炎の原因を推測し,可能な限り特定すること(鑑別診断)は非常に重要である2).ぶどう膜炎の原因としては感染や自己免疫的な機序が多いが,それ以外にも薬剤が原因となる薬剤性ぶどう膜炎が知られている3).薬剤性ぶどう膜炎は薬剤が原因ではないかと疑わないと診断に難渋するのみならず,原因薬剤の服用を継続するとぶどう膜炎の再燃を繰り返すことがある.今回,筆者らは再燃を繰り返したリファブチンによるぶど〔別刷請求先〕中島幸彦:〒329-0498栃木県下野市薬師寺C3311-1自治医科大学眼学講座Reprintrequests:YukihikoNakajima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke-City,Tochigi329-0498,JAPANC674(96)図1初診時の左眼前眼部所見毛様充血,前房蓄膿,.neKPを伴う強い前房内炎症を認めた.図3左眼再燃時の前眼部所見毛様充血,前房蓄膿,.neKPを伴う強い前房内炎症を認めた.う膜炎を経験したので報告する.CI症例患者:73歳,男性.主訴:両目の視力低下,充血.既往歴:眼科疾患の既往はなし.後天性免疫不全症候群(acquiredCimmunede.ciencyCsyndrome:AIDS)に対し抗ヒト免疫不全ウイルス(humanCimmunode.ciencyvirus:HIV)治療薬内服中,腹腔内非結核性抗酸菌(non-tuberculo-sismycobacteria:NTM)症に対しCX年C3月よりクラリスロマイシン(clarithromycin:CAM)600Cmg/日,エタンブトール(ethambutol:EB)1,000Cmg/日,リファブチン(rifabutin:RBT)300mg/日を内服中であった.現病歴:X年C6月,右眼の充血,視力低下で近医を受診した.初診時右眼矯正視力(0.4),右眼眼圧はC14CmmHgであった.右眼ぶどう膜炎と診断された.ベタメタゾン点眼,レ図2右眼再燃時の前眼部所見毛様充血,前房蓄膿,.neKPを伴う強い前房内炎症を認めた.ボフロキサシン点眼,トロピカミド・フェニレフリン点眼で症状は改善した.2週間後,左眼の視力低下が出現した.近医を再診し,左眼に前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を認めた.同日,自治医科大学さいたま医療センター(以下,当院)眼科に紹介となり初診した.初診時(X年C7月)所見:矯正視力は右眼(0.5C×sph.4.00CD(cyl.1.50DCAx95°),左眼30cm指数弁(矯正不能),眼圧は右眼C7CmmHg,左眼C10CmmHgであった.右眼は炎症軽度であり,中間透光体,眼底に明らかな異常を認めなかった.左眼は毛様充血を認め,前房蓄膿,微塵様角膜後面沈着物(.nekeratoprecipitates:.neKP)を伴う強い前眼部炎症を認めた(図1).左眼は濃厚な硝子体混濁のため眼底は透見不良であった.原因検索として採血,胸部CX線撮影を行った.ぶどう膜炎の鑑別に関する採血では,末梢血白血球2,400/μl,末梢血赤血球C3.98C×106/μlと軽度低下,血清クレアチニンC1.34Cmg/dlと軽度上昇を認めたが,C反応性蛋白は正常であった.梅毒血清反応(RPR法),bDグルカンは陰性,ヘルペスウイルス抗体価は単純ヘルペスCIgG(EIA法)2.0未満(基準値:2未満),水痘・帯状ヘルペスCIgG(EIA法)3.7(基準値:2未満),サイトメガロウイルスCIgG(EIA法)157(基準値:2未満)であった.胸部CX線では明らかな異常所見を認めなかった.また,口腔内アフタ,皮膚症状,外陰部潰瘍といったCBehcet病を示唆する身体所見を認めなかった.経過:初診時時点では急性前部ぶどう膜炎がもっとも疑わしいと考え,左眼にもベタメタゾン点眼,レボフロキサシン点眼,トロピカミド・フェニレフリン点眼を開始し,症状は改善した.両眼とも点眼は漸減したところ,X年C9月,右眼ぶどう膜炎の再燃を認めた.右眼再燃時(X年C9月)所見:矯正視力右眼C30Ccm指数弁(矯正不能),左眼(0.6C×sph.5.00D(cyl.4.00DAx85°),眼圧は右眼C7CmmHg,左眼C10CmmHgであった.右眼は毛様充血を認め,前房蓄膿,.neKPを伴う強い前眼部炎症を認めた(図2).右眼は濃厚な硝子体混濁のため眼底は透見不良であった.左眼は前房内に炎症所見を認めず,中間透光体,眼底にも明らかな異常を認めなかった.本症例はCAIDSの既往があり,抗ウイルス薬内服中であった.末梢血中のCHIVウイルス量のコントロールは良好であったが,末梢血中CCD4陽性リンパ球数はC100/mmC3程度と不良であった.このことから,自己免疫機序によるぶどう膜炎は否定的と考えた.感染性ぶどう膜炎としてはヘルペスウイルスによる虹彩炎や細菌性眼内炎の可能性を考えたが,ぶどう膜炎が両眼性であること,非肉芽腫性で前房蓄膿を伴う急性虹彩毛様体炎であることからウイルス性虹彩炎は否定的であると考えた.また,ステロイド点眼だけでぶどう膜炎が消退したことから,細菌性眼内炎の可能性は考えにくく,感染性ぶどう膜炎よりもCRBTによる薬剤性ぶどう膜炎の可能性を疑った.当院内科にCRBTの中止を依頼したところ,他に適当な薬がないためCRBTの内服はC300mg/日からC150mg/日に減量となった.右眼のぶどう膜炎はベタメタゾン点眼を増量したところ,症状は改善した.ベタメタゾン点眼の回数を漸減し,X年10月点眼を終了した.しかしその後,X年C11月,左眼ぶどう膜炎の再燃を認めた.左眼再燃時(X年C11月)所見:矯正視力右眼(0.8C×sphC.4.00D(cyl.2.00DCAx100°),左眼(0.3C×sph.4.00D(cyl.4.00DAx90°),眼圧は右眼10mmHg,左眼11mmHgであった.右眼は炎症所見を認めず,中間透光体,眼底に明らかな異常を認めなかった.左眼は毛様充血を認め,前房蓄膿,.neKPを伴う強い前眼部炎症を認めた(図3).左眼は硝子体混濁のため眼底は透見不良であった.再度,当院内科にCRBTの中止を依頼し,内服中止となった.左眼にベタメタゾン点眼を再開したところ,ぶどう膜炎は改善した.ベタメタゾン点眼を漸減し,X+1年1月,両眼とも点眼を中止した.その後ぶどう膜炎の再燃を認めず,CX+1年C2月,当科終診となった.終診時,矯正視力右眼(1.2C×sph.4.25D(cyl.2.00DCAx100°),左眼(1.0C×sphC.3.50D(cyl.3.00DAx70°),眼圧は右眼11mmHg,左眼C12CmmHg,両眼とも前房内,中間透光体,眼底に異常所見を認めなかった.CII考按RBTとはマイコバクテリウム属に対する抗菌薬である.適応症は結核症,mycobacteriumCaviumcomplex(MAC)症を含むCNTM症,HIV感染患者における播種性CMAC症の発生予防である.RBTは同系統薬(リファマイシン系)のリファンピシン(RFP)の使用が困難な場合に使用するよう定められている4).RFPの使用が困難な場合の代表的な例は,本症例のようなCAIDS患者である.リファマイシン系薬剤は肝臓におけるチトクロームCP450(CYP3A4)の誘導作用が強い.CYP3A4はプロテアーゼ阻害薬や非核酸系逆転写酵素阻害薬といった抗CHIV薬の代謝を促進するため,抗CHIV作用が低下する.RFPのほうがCCYP3A4の誘導作用が強く,RFPは多くのCHIV治療薬と併用禁忌となっている.一方,RBTはCRFPよりCCYP3A4の誘導作用が弱く,抗CHIV治療薬の選択肢は多くなる5).そのため,AIDS患者にはCRBTの投与が考慮される.RBTの副作用としてぶどう膜炎が知られている4).一方で,RFPの副作用にぶどう膜炎は認められていない6).RBTによるぶどう膜炎の頻度は,特定使用成績調査ではC2.72%であった7).文献報告ではC39%8),15%9)との報告がある.RBT単体ではC1.8%だが,CAMと併用した場合はC8.5%となるとの報告もある10).これは,CAMによりCCYP3A4が阻害され,RBT濃度が上昇するためと考えられている11).RBTのぶどう膜炎の症状は急性前部ぶどう膜炎に類似しており,眼痛,羞明,霧視,視力低下,毛様充血,.neKP,前房蓄膿などを認める11).両眼発症が多いとの報告があるが8),本症例のように時間差をおいて両眼発症となることもある.RBTやその代謝物による中毒,もしくは死滅した抗酸菌または菌の放出物に対するアレルギー性炎症反応が原因と推測されているが11,12),RBTの容量依存性に発症すること,抗酸菌に未感染のCAIDS患者に対し播種性CMAC症の発症予防にCRBTを投与した場合にも発症例があることから,RBTによる中毒との説が有力である11.13).RBTの内服開始からぶどう膜炎の発症まではC2カ月前後との報告が多い8,11,12).治療はステロイド点眼による消炎と散瞳薬点眼による瞳孔管理を行う11.13).原因となるCRBTの減量もしくは休薬も必要である11.13).本症例はCAIDSを発症し抗CHIV治療中に両眼に交互に非肉芽腫性で前房蓄膿を伴う急性虹彩毛様体炎を繰り返した.末梢血中CCD4陽性リンパ球数の低下もみられたため,感染性ぶどう膜炎の可能性も考えられた.しかし,感染性ぶどう膜炎では一般に肉芽腫性の虹彩炎を呈することが多く14),とくにヘルペスウイルス属による虹彩炎では片眼性がC95%以上を占めることが知られている15).そのため,本症例はヘルペスウイルスによる可能性は低いと考えた.またステロイド点眼だけでぶどう膜炎が消退したことから,細菌性眼内炎も否定的であると考えた.また,抗CHIV治療中であり免疫再構築症候群としてのぶどう膜炎の可能性も考えられた.しかし,抗CHIV治療の開始はぶどう膜炎発症よりおよそC1年半前で期間がずれており,可能性は低いと考えた.本症例では,ぶどう膜炎の再燃が生じた際にCRBTによるぶどう膜炎の可能性を推測することができ,内科医にCRBTの中止を依頼することができた.本症例のような全身疾患を持つ原因不明のぶどう膜炎症例では,薬剤性ぶどう膜炎の可能性を考慮する必要がある.また,本症例ではCRBTを減量したにもかかわらず,ぶどう膜炎が再燃した.ぶどう膜炎の再燃を防ぐという意味では,RBTの減量よりも中止が好ましい.しかし,結核治療においてCRFP,RBTはイソニアジドとともに中核となる薬であり,RBTはCRFPが使用できない場合に選択される薬である16).活動性の結核患者では,RFPが使えない場合,たとえぶどう膜炎が生じたとしてもCRBTを中止することは困難である.したがって本症のようなCRBTによるぶどう膜炎では,ぶどう膜炎の再燃を防ぐために結核治療が終了するまでステロイド点眼を持続するなどの対応が必要となることもありうると考えられる.幸い本症例では,RBTを中止することによりぶどう膜炎は沈静化し,CAM,EBの継続により腹腔内CNTM症の増悪はみられなかった.RBTによるぶどう膜炎では,RBTを減量しても内服を継続するとぶどう膜炎が再燃することがあり,そのような症例ではCRBTの中止を検討する必要があると考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SonodaCKH,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJOphthalmolC65:184-190,C20212)蕪城俊克:中途失明の可能性のある疾患とその検査/治療.ぶどう膜炎の鑑別診断法を教えて下さい.あたらしい眼科C36(臨増):70-74,C20193)AgarwalCM,CDuttaCMajumderCP,CBabuCKCetal:rug-induceduveitis:ACreview.CIndianCJCOphthalmolC68:C1799-1807,C20204)ミコブティンCRカプセルC150mg添付文書https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00055823.pdf5)HIV感染症および血友病におけるチーム医療の構築と医療水準の向上を目指した研究班:抗CHIV治療ガイドライン2022年C3月https://hiv-guidelines.jp/pdf/guideline2022.Cpdf6)リファンピシンカプセルC150mg「サンド」添付文書Chttps://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00058339.pdf7)ミコブティンCRカプセルC150CmgインタビューフォームChttps://www.p.zermedicalinformation.jp/ja-jp/system/C.les/content_.les/mbt01if_0.pdf8)ShafranCSD,CDeschenesCJ,CMillerCMCetal:UveitisCandCpseudojaundiceduringaregimenofclarithromycin,rifab-utin,andethambutol.MACStudyGroupoftheCanadianHIVTrialsNetwork.NEnglJMedC330:438-439,C19949)KelleherP,HelbertM,SweeneyJetal:Uveitisassociat-edwithrifabutinandmacrolidetherapyforMycobacteri-umCaviumCintracellulareCinfectionCinCAIDSCpatients.CGeni-tourinMedC72:419-421,C199610)BensonCCA,CWilliamsCPL,CCohnCDLCetal:ClarithromycinCorCrifabutinCaloneCorCinCcombinationCforCprimaryCprophy-laxisofMycobacteriumaviumcomplexdiseaseinpatientswithAIDS:ACrandomized,Cdouble-blind,Cplacebo-con-trolledCtrial.CTheCAIDSCClinicalCTrialsCGroupC196/TerryCBeirnCCommunityCProgramsCforCClinicalCResearchConCAIDSC009CProtocolCTeam.CJCInfectCDisC181:1289-1297,C200011)齋藤智一,尾花明,土屋陽子ほか:抗酸菌症治療薬リファブチンによりぶどう膜炎を生じたC3例.日眼会誌C115:C595-601,C201112)廣田和之:PhotoQuiz20歳代後半,男性.前日からの左眼の痛み,充血.毛様充血と前房蓄膿を認める.診断は?.HIV感染症とCAIDSの治療C8:42-45,C201713)日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会,日本呼吸器学会感染症・結核学術部会:肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解─C2012年改訂.結核C87:83-86,C201214)佐藤智人:見逃してはいけないぶどう膜炎の診療ガイド.肉芽腫性前部虹彩炎.オクリスタC37:9-18,C201615)TeradaCY,CKaburakiCT,CTakaseCHCetal:DistinguishingCfeaturesCofCanteriorCuveitisCcausedCbyCherpesCsimplexCvirus,Cvaricella-zosterCvirus,CandCcytomegalovirus.CAmJOphthalmolC227:191-200,C202116)日本結核・非結核性抗酸菌症学会教育・用語委員会:結核症の基礎知識改訂第C5版.結核C96:93-123,C2021***

リファブチンによるぶどう膜炎の1例

2014年4月30日 水曜日

《第47回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科31(4):599.603,2014cリファブチンによるぶどう膜炎の1例岡部智子*1松本直*1岡島行伸*1渡辺博*1杤久保哲男*1坂井潤一*2*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2東京医科大学眼科学教室ACaseofRifabutin-AssociatedUveitisTomokoOkabe1),TadashiMatsumoto1),YukinobuOkajima1),HiroshiWatanabe1),TetsuoTochikubo1)JunichiSakai2)and1)1stDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity緒言:投与中の薬剤が原因となって発症する薬剤性ぶどう膜炎が近年報告されている.薬剤性ぶどう膜炎を引き起こす薬剤の一つとしてリファブチンがあるが,わが国での報告は少ない.今回筆者らはリファブチンが原因と思われる薬剤性ぶどう膜炎を経験したので報告する.症例:82歳,女性.非結核性抗酸菌症に対するリファブチンとクラリスロマイシンの内服開始2カ月後に両眼性に前房畜膿を伴うぶどう膜炎を発症した.リファブチンによる薬剤性のぶどう膜炎を疑い,内服を中止した.ステロイドの局所投与にて改善を認めた.考按:リファブチンは日本では承認されてから数年しか経っておらず,リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎の報告はまだ少ないが,今後急増する可能性があると考えられた.Inrecentyears,thedevelopmentofdrug-induceduveitisfollowingdrugadministrationhasbeenreported.Oneofthedrugscausingdrug-induceduveitisisrifabutin,buttherearefewreportsofitinthiscountry.Wereportitatthistimebecauseweexperienceddrug-induceduveitisattributabletorifabutin.Thepatient,an82-year-oldfemale,developedhypopyonuveitisinbotheyescharacteristics2monthsafterstartinginternaluseofrifabutinandclarithromycinfornontuberculousacid-fastbacterialdisease.Idoubtedrifabutin-associateduveitisandcanceledtheinternaluse.Iacceptedimprovementbylocaladministrationofsteroid.RifabutinpassedonlyforseveralyearsafteritwasapprovedinJapan,andtherewerestillfewreportsofrifabutin-associateduveitis;however,itwasthoughtthattheconditionmightincreaserapidlyinfuture.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):599.603,2014〕Keywords:リファブチン,薬剤性ぶどう膜炎,前房蓄膿.rifabutin,Drug-induceduveitis,hypopyonuveitis.はじめに投与中の薬剤が原因となって発症する薬剤性ぶどう膜炎が近年報告されている.薬剤性ぶどう膜炎を引き起こす薬剤の一つとしてリファブチンがあり,クラリスロマイシンと併用した場合,用量によっては前部ぶどう膜炎を引き起こす可能性が40%にも達するといわれている1)が,わが国での報告は少ない.今回筆者らはリファブチンが原因と思われる薬剤性ぶどう膜炎を経験したので報告する.I症例患者:82歳,女性.主訴:右眼の違和感と視力低下.現病歴:平成24年1月9日右眼の違和感と視力低下を自覚し翌日に近医を受診した.右眼に前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を認めた.ステロイドの結膜下注射を行い,0.5%レボフロキサシン点眼と0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム点眼を開始し,精査加療目的に同日,東邦大学医療センター大森病院を紹介受診となった.既往歴:当院呼吸器内科にて,非結核性抗酸菌症に対して内服加療中であった.クラリスマイシン・エタンブトール・リファンピシンの3剤にて内服治療を開始していたが,エタンブトールにて視力障害,リファンピシンにて口唇の乾燥の〔別刷請求先〕岡部智子:〒143-8541東京都大田区大森西7-5-23東邦大学医療センター大森病院眼科Reprintrequests:TomokoOkabe,1stDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine,7-5-23Omori-nishi,Ota-ku,Tokyo143-8541,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(121)599 副作用があり,平成23年11月からはリファブチン(300mg)とクラリスロマイシン(600mg)を内服していた.初診時所見:初診時,右眼視力0.04(i.d.×+4.00D),左眼視力0.5(1.0×+1.75D(cyl.1.00DAx80°),眼圧は右眼15mmHg,左眼11mmHgであった.右眼の前眼部所見として,微細な角膜後面沈着物,前房内に炎症細胞(+++),フィブリンの析出さらには比較的さらさらした前房蓄膿を認めた(図1).左眼の前眼部にも軽度の前房内炎症があり,両眼に虹彩炎が確認できた.右眼の眼底は透見不能であったが,左眼の眼底には明らかな所見は認めなかった.血液検査ではCRP(C反応性蛋白):0.9mg/dlと上昇していたが,WBC(白血球)は6,800/μlと正常範囲であった.ほか補体価:52.7,Ig(免疫グロブリン)G:1,646mg/dl,IgA:493mg/dlと上昇,ACE(アンギオテンシン変換酵素):7.3U/l,IgM:44mg/dlは低下していたが特定の疾患を疑うものは認めなかった.胸部X線では右肺野・左中下肺野の線状影や網状影を認めた.これは結核の所見と思われ,以前のX線所見とは著変は認めていなかった.経過:近医ですでに右眼にデキサメサゾンの結膜下注射を受けており,同日の当院受診時には右眼は自覚症状では改善していた.0.5%レボフロキサシン点眼と0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム点眼薬を両眼に変更し,散瞳薬を追加した.リファブチンの副作用の可能性も考えられ,本人の強い希望にて呼吸器内科と相談のうえ,翌日からリファブチン内服を中止した.翌日には両眼に前房蓄膿を認めたため,両眼にデキサメサゾン4mg結膜下注射を施行した.治療開始3日目には右眼視力(0.4)と改善を認めるものの,左眼視力(0.02)と低下し,再度両眼に結膜下注射を施行した.以後も両眼とも改善傾向は認めるが,炎症は強かったため結膜下注射を数回施行した.その後は経時的に改善を認めた.デキサメサゾン点眼ならびに連日の結膜下注射にて炎症は軽減し,視力は改善した(図2).治療開始9日目の時点で前房内炎症はほぼ消失し,眼底には両眼とも滲出斑や出血はなく,視神経乳頭発赤も認めず,網膜病変がないことが確認できた(図3).1カ月後には炎症所見は消失し,その後再発は認めていない(図4).リファブチン内服開始頃から顔の皮膚に色素沈着を認めていたが,内服中止により改善した.II考按リファブチンは,リファンピシンなどを含むリファマイシン系薬剤の一つであり,商品名をミコブティンカプセルRといい,結核症・非結核性抗酸菌症・HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染患者における播種性MAC(Mycobacteriumaviumcomplex)症の治療薬として,日本では2008年7月に承認されたものである.リファンピシンと比べると抗菌活性はより強力であるが高い副作用をもつため,リファンピシ600あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014ンに耐性があったり,副作用などでリファンピシンの使用が困難な場合に使用することとされている.リファブチンはリファンピシン耐性の結核菌の約30%に効果があるとされている.リファマイシン系薬剤の共通の副作用である血球減少症・肝機能障害などのほかに,リファブチン特有の副作用としてぶどう膜炎がある.非結核性抗酸菌症の70%を占めるのはMAC症であり,現在,肺MAC症の化学療法の原則はリファンピシン・クラリスロマイシン・エタンブトールの3剤による多剤併用が基本とされている2).そのため,リファンピシンを副作用や何らかの理由で使用できずリファブチンに変更した場合,通常リファブチンはクラリスロマイシンと併用されることになる.リファブチンはクラリスロマイシンと併用することによって血中濃度が1.5倍以上に上昇する3)といわれており,用量依存性であるリファブチンの副作用によるぶどう膜炎の発症率はその分高くなる4).リファブチン450mg単独投与でのぶどう膜炎の発症率は391例中7例(1.8%)であるのに対しリファブチン450mgとクラリスロマイシン1,000mgを併用した場合は389例中33例(8.5%)になったとの報告5)もある.また,リファブチン600mgとクラリスロマイシン1,000mgを併用した場合,前眼部ぶどう膜炎の発症頻度は40%にも達する1)ともいわれている.リファブチンによるぶどう膜炎の発症率は海外に比べてわが国では低く,筆者らが調べた限りでは7症例が報告されているにすぎない.日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会が推奨するガイドラインによれば,クラリスロマイシン併用時のリファブチンの初期投与量は150mg/日であり,6カ月以上副作用がない場合に300mg/日までの増加を可と定めており2),わが国においてリファブチンが300mgを超えて使用されることは多くはないと考えられ,そのため,日本での発症率はそれほど高くはなっていないと考えられる.これに比べ,海外ではリファブチンの投与量は300.600mgであり,ぶどう膜炎の発症頻度には大きく差がある.リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎としてわが国ですでに報告された7症例6.9)に,今回の1症例を加えた8症例の特徴を検討した(表1).発症年齢に特別の傾向はなく,性別は女性に多い.リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎の発症が用量依存性ということから,体の小さい女性のほうが体内の血中濃度が上昇しやすく,発症しやすいことにつながっている可能性があると考えられた.リファブチンの投与量は,2症例で150mg,1症例は不明であったが,5症例では300mgであった.内服を開始してから発症までの期間には2.3カ月が目立ち,今回も2カ月後であった.8症例中6症例は両眼であった.1例を除いてすべての症例でクラリスロマイシンを併用していた.前房蓄膿は1症例を除いて認めており(122) 図1右眼の初診時の前眼部写真角膜後面沈着物,前房内炎症細胞,フィブリンと前房蓄膿を認めた.図3治療開始9日目の眼底写真眼底に網膜病変は認めなかった.強い前房内炎症を伴うことがわかる.硝子体混濁は8症例中3症例で認めたが,血管炎の所見は認めなかった.治療は,リファブチンの内服中止とステロイドによる消炎が有効とされている.8症例中3症例は内服中止と,ステロイド点眼の(123)logMAR視力0.51.52.5日付0121/101/121/141/161/181/201/221/241/261/281/30:右眼:左眼デキサメサゾン4mg結膜下注射図2治療経過図4治療開始6カ月後の前眼部写真右眼に瞳孔不整は認めるが,両眼とも炎症の再発は認めていない.みにて改善したが,他3症例でステロイドの結膜下注射が必要であった.鑑別診断としては,前房蓄膿をきたすぶどう膜炎として,Behcet病・HLA(ヒト白血球抗原)-B27関連ぶどう膜炎・糖尿病虹彩炎・炎症性腸炎・リウマチ性関節炎に伴うぶどうあたらしい眼科Vol.31,No.4,2014601 表1国内でのリファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎の報告症例年齢(歳)性別RBTの内服量内服から発症までの期間発症眼前房蓄膿硝子体混濁治療齋藤ら6)91女性150mg2カ月両眼++隅角癒着解離術・硝子体切除術齋藤ら6)72女性150mg7カ月右眼++内服中止・点眼齋藤ら6)83女性300mg6カ月両眼.+内服中止・点眼石口ら7)45男性300mg3カ月両眼+.内服中止・点眼・結膜下注射飯島ら8)80女性不明2カ月両眼+.内服中止・点眼福留ら9)64女性300mg2カ月両眼+.内服中止・点眼・結膜下注射福留ら9)81女性300mg2カ月右眼+.硝子体切除術岡部ら82女性300mg2カ月両眼+.内服中止・点眼・結膜下注射膜炎・仮面症候群(悪性リンパ腫)・細菌性眼内炎(内因性・外因性)などがあげられるが,今回の症例は,①両眼に発症したこと,②リファブチン内服開始2カ月後の発症であったこと,③リファブチンとクラリスロマイシンを併用していたこと,④リファブチンの内服中止および副腎皮質ステロイド薬の局所投与によく反応したこと,⑤網膜病変を認めなかったこと,⑥全身所見や臨床検査所見で上記の鑑別疾患に合致する所見がないことより,リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎の可能性が高いと考えた.リファブチンの副作用の発症機序は,①リファブチンまたはその代謝産物による中毒症の可能性(投与量に依存する)1,3,6,10.12),②リファブチンで死滅した抗酸菌または菌の放出物に対するアレルギー性炎症反応など10,13)が考えられているが,現在はまだ解明はされていない.今回の所見は,細菌由来のエンドトキシン(LPS)をラットやマウスに接種して惹起したendotoxin-induceduveitis14)の所見ときわめて類似していることから,本症においてもリファブチンの投与により結核菌の細胞壁から遊離したLPSが発症に関与している可能性も考えられた.リファブチンを継続すると高率に再発するため,リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎は早期に診断して内服薬の中止と副腎皮質ステロイド薬の局所投与による消炎治療が必要である.リファブチンは日本では承認されてから数年しか経っておらずリファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎の報告はまだ少ないが,今後急増する可能性があると推測された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ShafranSD,DeschenesJ,MillerMetal:Uveitisandpseudojaundiceduringaregimenofclarithromycin,rifabutinandethanbutol.MACStudyGroupoftheCanadianHIVTrialNetwork.NEnglMed330:438-439,1994602あたらしい眼科Vol.31,No.4,20142)日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会,日本呼吸学会感染症・結核学術部会:肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解-2008暫定.結核83:731-733,20083)HafnerR,BethelJ,PowerMetal:Toleranceandpharmacokineticinteractionsofrifabutinandclarithromycininhumanimmunodeficiencyvirus-infectedvolunteers.AntimicrobAgentsChemother42:631-639,19984)ShafranSD,SingerJ,ZarownyDPetal:Determinantsofrifabutin-associateduveitisinpatientstreatedwithrifabutin,clarithromycin,andethambutolforMycobacteriumaviumcomplexbacteremia:amultivariateanalysis.CanadianHIVTrialsNetworkProtocol010StudyGroup.JInfectDis177:252-255,19985)BensonCA,WilliamsPL,CohnDLetal:ClarithromycinorrifabutinaloneorinconbinationforprimaryprophylaxisofMycobacteriumaviumcomplexdiseaseinpatientswithAIDS:Arandomized,double-blind,placebo-controlledtrial.TheAIDSClinicalTrialsGroup196/TerryBeirnCommunityProgramsforClinicalResearchonAIDS009ProtocolTeam.JInfectDis181:1289-1297,20006)斎藤智一,尾花明,土屋陽子ほか:抗酸菌症治療薬リファブチンによりぶどう膜炎を生じた3例.日眼会誌115:595-601,20117)石口奈世理,上野久美子,栁原万里子ほか:リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎を生じた後天性免疫不全症候群の1例.日眼会誌114:683-686,20108)飯島敬,市邉義章,清水公也:リファアブチンに関連した前房畜膿を伴うぶどう膜炎.あたらしい眼科28:693695,20119)福留みのり,佐々木香る,中村真樹ほか:リファブチン関連ぶどう膜炎の2例.臨眼64:1587-1592,201010)KellerherP,HelbertM,SweeneyJetal:UveitisassociatedwithrifabutinandmacrolidetherapyforMycobacteriumaviumintracellulareinfectioninAIDSpatients.GenitourinMed72:419-421,199611)HavilirD,TorrianiF,DubeM:Uveitisassociatedwithrifabutinprophylaxis.AnnInternMed121:510-512,199412)KarbassiM,NikouS:Acuteuveitisinpatientswithasquiredimmunodeficiencysyndromereceivingprophylacticrifabutin.ArchOphthalmol113:699-701,199513)JacobsDS,PilieroPJ,KuperwaserMGetal:Acute(124) uveitisassociatedwithrifabutinuseinpatientswith14)RosenbaumJT,McDevittHO,GussRBetal:Endotoxinhumanimmunodeficiencyvirusinfection.AmJOphthal-induceduveitisinratasamodelforhumandisease.mol118:716-722,1994Nature286:611-613,1980***(125)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014603

リファブチンに関連した前房蓄膿を伴うぶどう膜炎

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(91)693《第44回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科28(5):693.695,2011cはじめに2008年に抗酸菌に対する治療薬として新たにリファブチンがリファマイシン系薬剤としてわが国で承認された.リファブチン特有の副作用の一つとしてぶどう膜炎があげられている.海外では1992年から承認されていたこともあり,リファブチンに関連したぶどう膜炎の症例報告が散見される.国内では呼吸器内科医からの報告1)と眼科医からの報告2)があるが,後者はフィリピン人の後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の症例である.今回筆者らはリファブチン内服中に前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を発症し,リファブチン内服中止と0.1%ベタメタゾンの点眼にて著明に改善した日本人症例を経験したので報告する.I症例患者:80歳,女性.主訴:右眼の霧視.既往歴:2003年10月に両眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)挿入術施行.心房細動にて塩酸ベラパミル,アスピリン内服中であった.2003年,肺非定型抗酸菌症に対して内科にてリファンピシン,クラリスロマイシン,エタンブトールによる治療を開始した.その後,排菌が持続し,投薬が長期化したため,〔別刷請求先〕飯島敬:〒252-0374相模原市南区北里1丁目15番1号北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KeiIijima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0374,JAPANリファブチンに関連した前房蓄膿を伴うぶどう膜炎飯島敬市邉義章清水公也北里大学医学部眼科学教室Rifabutin-associatedHypopyonUveitisKeiIijima,YoshiakiIchibeandKimiyaShimizuDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity抗酸菌に対する治療薬として新たにリファブチン(RBT)がリファマイシン系薬剤としてわが国でも使用されている.本剤の副作用の一つにぶどう膜炎があり,海外からの報告は散見される.国内では呼吸器内科医からの報告と眼科医からの報告があるが,後者はフィリピン人の後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の症例である.今回筆者らはリファブチン内服中に前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を発症し,リファブチン内服中止と0.1%ベタメタゾンの点眼にて著明に改善した日本人症例を経験したので報告する.症例は80歳,女性.6年前に両眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)挿入術が施行されていた.肺非定型抗酸菌症に対してのRBT内服約2カ月後に右眼霧視を自覚.前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を認め,ステロイドの点眼を開始したところ2日後に前房蓄膿は消失したが,右眼発症の10日後に左眼にも発症.RBTによる副作用も考え投与を中止した.中止後から視力は改善していき,発症40日目に前房の炎症はほぼ消失した.RBTの使用中は前房蓄膿を伴う両眼性非肉芽腫性ぶどう膜炎に注意する必要がある.Wereportacaseinwhichhypopyonuveitisappearedduringtreatmentwithrifabutin(RBT)andclarithromycinformycobacteriumaviumcomplex(MAC)pulmonaryinfection.Thepatient,an80-year-oldfemalewhohadbeentakingRBTfor2months,presentedwithblurringinherrighteye.Slit-lampexaminationoftheeyeatthattimeshowedmarkedhypopyon,whichresolvedwithin48hoursoftopicalsteroidadministration.Tendaysaftertheonsetofuveitisintherighteye,thepatientnotedblurringinherlefteye,andslit-lampexaminationshoweduveitisinthateye.ThevisualacuityanduveitisinbotheyesimprovedafterRBTwasdiscontinued.Therewerenoabnormalitiesineithertheopticnerveorretina.Cautionisnecessarywhentreatingbilateralnon-granulomatoushypopyonuveitiswithRBT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):693.695,2011〕Keywords:リファブチン,前房蓄膿,ぶどう膜炎.rifabutin,hypopyon,uveitis.694あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(92)2008年8月,投薬をすべて中止した.しかし,2009年10月に肺病変の悪化を認め,投薬を再開した.このとき,抗菌力向上を目的として,リファンピシンからリファブチンに切り替えた.再治療開始約2カ月後,右眼の霧視を自覚し当院眼科初診となった.初診時,視力は右眼矯正(0.9),左眼矯正(1.0).眼圧は右眼12mmHg,左眼14mmHg.右眼に前房蓄膿を伴う非肉芽腫性の虹彩炎を認めた(図1).眼底は散瞳不良のため観察が困難であったが,Bモードエコー上,明らかな硝子体混濁はなかった.限界フリッカー値は両眼30Hz台前半,角膜内皮細胞密度も両眼2,400/mm2台後半と左右差なく,Humphreyの静的視野検査(HFA30-2)でも両眼左右差なく特記すべき所見はなかった.血液検査ではHSV(単純ヘルペスウイルス)のIg(免疫グロブリン)MとHLA(ヒト白血球抗原)でB51が陽性以外に特記すべき異常はなかった.初診時,感染性眼内炎も疑い右眼より前房水を採取しておいたが,培養では細菌,真菌ともに陰性であった.その他,頭部造影MRI(磁気共鳴画像)でも異常所見は認めず,眼外所見として皮疹や口内炎も認めなかった.II経過発症2日目から0.1%ベタメタゾンの点眼を開始した.開始2日目,角膜にDescemet膜の皺襞が出現し,右眼矯正視力は0.3に低下したが,前房蓄膿は急激に消失していた.右眼発症10日後に左眼の霧視を自覚.患者本人の自己判断で0.1%ベタメタゾンの点眼を開始し,左眼発症4日後に来院した.左眼矯正視力は0.15と低下し,前房蓄膿はないものの,前房の炎症とDescemet膜の皺襞を認めた.発症形式からリファブチンによるぶどう膜炎が考えられたため,初発の右眼発症23日目に内科医に相談し,肺非定型抗酸菌症の状態が安定していることを確認してリファブチン,クラリスロマイシン,エタンブトールの投与を中止した.その後,視力と炎症所見は改善し,リファブチン投与中止後40日目に右眼矯正は1.0,73日目に左眼矯正は0.9に改善した.両眼,Descemet膜の皺襞や前房の炎症はほぼ消失した.経過中,眼底,OCT(光干渉断層計)には異常を認めなかった.その後1カ月現在,再発は認めていない.III考按前房蓄膿をきたすぶどう膜炎としてBehcet病,HLA関連急性前部ぶどう膜炎,仮面症候群(悪性リンパ腫),そして眼内炎(内因性,外因性)などがあげられる.本例は発症6年前に白内障手術を受けているので遅発性眼内炎の可能性もあり,初診時,ただちに前房水培養を施行したが結果的には陰性であった.急激な発症や短期間での前房蓄膿消失からも否定的である.Behcet病,HLA関連急性前部ぶどう膜炎は年齢や性別,また前者に対しては皮疹や口内炎などの眼外症状がなく可能性は低いと思われるが,HLA-B51は陽性で完全に否定することはできない.仮面症候群(悪性リンパ腫)は頭部造影MRIなどより否定的であった.海外では1992年から承認されていたこともありリファブチンに関連したぶどう膜炎の症例報告が散見される.国内では呼吸器内科医からの報告が最初である1)が,眼科医からの詳細な報告は2報ある2,7).石口らの報告はフィリピン人の後天性免疫不全症表1過去の報告文献HIV症例(数)発症までの投与期間僚眼発症前房蓄膿前房蓄膿消失時間視力回復までの期間KelleherP(1996)陽性10平均2カ月4/10例あり3/10例あり不明平均8日DanielA(1998)陰性11.5カ月ありあり1日6週BhagatN(2001)陰性32週~9カ月ありあり1~2日1~3週FinemanSM(2001)陰性22週~2カ月なしあり数日4週~18カ月石口(2010)陽性12カ月ありあり1日3カ月福留(2010)陰性22~3カ月なしあり2日1カ月本症例陰性12カ月ありあり2日6週HIV:ヒト免疫不全ウイルス.図1右眼前眼部(リファブチン投与開始後2カ月)(93)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011695候群患者2)で,福留らの報告は日本人の後天性免疫不全症候群を合併していない2例である7).福留らの報告と本例は発症期間や経過はほぼ同様であるが,僚眼に発症していない点が異なっていた.他の報告と同様に僚眼発症にも注意する必要があると思われる.発症機序としては中毒性が考えられている.過去の症例報告をまとめると,片眼ずつ発症し,前房蓄膿を伴うが早期に消失して視力回復も早いことが特徴であり3~7)(表1),本症例でも同様であった.発症頻度は体重当たりの投与量に依存するとされている.過去の文献によると,リファブチンを1日600mg投与した場合のぶどう膜炎発症頻度は,体重65kg以上で14%,55kgから65kgの間で45%,55kg未満で64%と報告されている8).さらにクラリスロマイシンと併用した場合,血中濃度が1.5倍以上に上昇し9),発症頻度は高くなる6,10).過去の報告によると,クラリスロマイシン併用時のリファブチン初期投与量は150mg/日,6カ月以上の経過で副作用がない場合は300mgまで増量可としている11).本症例はリファブチン150mg/日と少量であったが,本症例患者の体重が30kgと少なくクラリスロマイシンを併用していたため,副作用が出現しやすい状況にあったと考えられる.また,本症は0.1%ベタメタゾンの点眼が有効で,視力や所見が改善した可能性もあるが,リファブチンの投与を中止してからの視力改善が著明であったことから薬剤性の要素が大きいと考える(図2).薬剤性の眼副作用は前述したように過量投与によるものをしばしば経験する.高齢者の場合,体重が低いことや,腎機能,肝機能低下によって血中濃度が上がり,副作用が起きやすい状況にある場合が想定される.今まで薬剤性の眼副作用といえば視神経や網膜に関する報告が多いが,今後はぶどう膜炎にも注目する必要があろう.IV結語リファブチン投与中に前房蓄膿を伴い片眼ずつ発症する両眼性急性非肉芽腫性ぶどう膜炎を経験した.リファブチンは特有の副作用としてぶどう膜炎があげられ注意が必要である.文献1)永井英明:ミコブティンRカプセル.呼吸28:151-155,20092)石口奈世里,上野久美子,原栁万里子ほか:リファブチンによる薬剤性ぶどう膜炎を生じた後天性免疫不全症候群患者の1例.日眼会誌114:683-686,20103)BhagatN,ReadRW,RaoNAetal:Rifabutin-associaterdhypopyonuveitisinhumanimmunodeficiencyvirus-negativeimmunocompetentindividuals.Ophthalmology108:750-752,20014)FinemanSM,VanderJ,RegilloCDetal:HypopyonuveitisinimmunocompetentpatientstreatedforMycobacteriumaviumcomplexpulmonaryinfectionwithrifabutin.Retina21:531-533,20015)JewlewiczDA,SchiffWM,BrownSetal:Rifabutin-associateduveitisinanimmunosuppressedpediatricpatientwithoutacquiredimmunodeficiencysyndrome.AmJOphthalmol125:872-873,19986)KelleherP,HelbertM,SweeneyJetal:UveitisassociatedwithrifabutinandmacrolidetherapyforMycobacteriumaviumintradellulareinfectioninAIDSpatients.GenitourinMed72:419-421,19967)福留みのり,佐々木香る,中村真樹ほか:リファブチン関連ぶどう膜炎の2例.臨眼64:1587-1592,20108)ShafranSD,ShingerJ,ZarownyDPetal:Determinantsofrifabutin-associateduveitisinpatientstreatedwithrifabutin,clarithromycin,andethambutolforMycobacteriumaviumcomplexbacteremia.Amultivariateanalysis.CanadianHIVTrialsNetworkProtocol010StudyGroup.JInfectDis177:252-525,19989)HafnerR,BethalJ,PowerMetal:Toleranceandpharmacokineticinteractionsofrifabutinandclarithromycininhumanimmunodeficiencyvirus-infectedvolunteers.AntimicrobAgentsChemother42:631-639,199810)BensonCA,WilliamsPL,CohnDLetal:ClarithromycinorrifabutinaloneorcombinationforprimaryprophylaxisofMycobacteriumaviumcomplexdiseaseinpatientswithAIDS.Arandomized,double-blind,placebo-controlledtrial.TheAIDSClinicalTrialsGroup196/TerryBeirnCommunityProgramsforClinicalRsearchonAIDS009ProtocolTeam.JInfectDis181:1289-1297,200011)日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会日本呼吸器学会感染症・結核学術部会:肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解─2008暫定.結核83:731-733,2008小数視力初発0日2週4週6週8週10週12週14週16週経過期間0.11:VD:VS(0.2)(0.15)(1.0)(0.9)投与中止後から徐々に改善初発23日目RBT投与中止図2視力の経過***