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インターネット通販でコンタクトレンズを購入し末期緑内障に至った1例

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):998.1001,2012cインターネット通販でコンタクトレンズを購入し末期緑内障に至った1例下地貴子*1新垣淑邦*2澤口昭一*2*1ちばなクリニック眼科*2琉球大学大学院医学研究科医科学専攻眼科学講座ACaseofTerminalGlaucomainWhichContactLensesWerePurchasedviaInternetShoppingTakakoShimoji1),YoshikuniArakaki2)andShoichiSawaguchi2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibanaClinic,2)DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicineインターネット通販でコンタクトレンズ(CL)を購入し続け,受診時に末期緑内障と診断された若年者の1例を経験したので報告する.症例は24歳,男性.10年前にCL量販店でCLを購入.その処方箋で以降9年間インターネット通販にてCLを購入していた.右眼の視力低下自覚し,近医を受診したところ,緑内障と診断され,緑内障薬点眼開始.3日前から点眼液がなくなったとのことで平成22年5月14日にちばなクリニック眼科初診となった.初診時,視力は右眼(0.5),左眼(1.2).眼圧は右眼20mmHg,左眼19mmHg.Goldmann動的視野検査では右眼湖崎分類IIIb期,左眼IIIa期であった.緑内障はすべての年齢層で発症し,近視が危険因子であり,また末期まで自覚症状に乏しい場合が多い.CL処方には眼圧や眼底検査を含めた定期的な眼科一般検査が必要である.Wereportayoungcaseofadvancedglaucomavisualfielddisturbance.Thepatient,a24-year-oldmale,hadpurchasedcontactlenses(CL)atashoptenyearspreviously.For9yearssubsequently,hecontinuedpurchasingCLofthesameprescriptionviainternetshopping.Admittedtoanophthalmologistbecauseofblurredvisioninhisrighteye,hewasdiagnosedwithopenangleglaucomaandcommencedmedicaltreatmentwithanti-glaucomaeyedrops.VisualfieldtestingshowedstageIIIbrighteyeandstageIIIaleft,viaKosakiclassification.Glaucomaisadiseasenotonlyofadultbutalsoofyoungerindividuals,andmyopiaisknowntobeariskfactor.Moreover,mostglaucomapatientsareasymptomatic,unlessvisualfieldlossbecomessevere.ItisrecommendedCLusersundergoophthalmologicalexaminationincludingintraocularpressuremeasurementandfundusexamination,especiallyoftheopticnervehead.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):998.1001,2012〕Keywords:若年者,開放隅角緑内障,近視,インターネット通販,コンタクトレンズ.younggeneration,openangleglaucoma,myopia,internetshopping,contactlens.はじめにコンタクトレンズ(CL)はおもに近視眼における屈折矯正の手段として近年,広く普及している.CLの入手方法は眼科病院,眼科医院のみならず,CL量販店やインターネット通販でも購入することが可能である.後者では一般的な眼科検査が行われない,不十分にしか行われていない,あるいは眼科医以外の医師によって行われることがまれではなくこれらが相まって,潜在する眼科疾患の見逃し,あるいはCLによる合併症が少なからず報告1,2)されている.緑内障は高齢者に多くみられる疾患である3)が,若年者においても決してまれな疾患ではなく4.9),眼科日常診療上注意が必要である.今回,インターネット通販でCL購入を続け,受診時,末期緑内障と診断された若年者の1例を経験したので報告する.I症例患者:24歳,男性.主訴:右眼視力障害.家族歴,既往歴:特記すべきことなし.〔別刷請求先〕下地貴子:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学大学院医学研究科医科学専攻眼科学講座Reprintrequests:TakakoShimoji,M.D.,DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicine,207AzaUehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN998998998あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(122)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY ab現病歴:10年前にCL量販店でCLを処方され,その後,その処方箋で以降9年間インターネット通販にてCLを購入していた.ちばなクリニック(以下,当科)受診1カ月前に右眼の視力低下を主訴に近医を受診したところ,両眼の緑内障と診断された.処方は両眼への1%ブリンゾラミド点眼液,0.5%チモロールマレイン酸点眼液,0.005%ラタノプロスト点眼液であった.3日前から点眼液がなくなったとのことで平成22年5月14日に当科初診となった.初診時所見:視力は右眼0.02(0.5×.6.5D(cyl.0.5DAx10°),左眼0.06(1.2×.6.5D(cyl.1.0DAx180°).眼圧は右眼20mmHg,左眼19mmHg.前眼部,中間透光体ab図1眼底所見(a:右眼,b:左眼)両眼ともに進行した緑内障性視神経萎縮を認める.には異常なく,隅角は開放(Shaffer分類4°)であったが,虹彩の高位付着は認めず,軽度虹彩突起が観察された.眼底は緑内障視神経萎縮が著明であり,特に右眼は末期の緑内障性変化と著明な萎縮の所見を認めた(図1).HRT(HeidelbergRetinaTomograph)-II,SD-OCT(spectraldomainopticalcoherencetomography)による眼底画像解析の結果は両眼とも進行した陥凹の拡大と,神経線維の高度な欠損が観察された(図2,3).念のため頭部の画像〔コンピュータ断層撮影(CT),磁気共鳴画像(MRI)〕を調べたが,異常は検出されなかった.Humphrey静的視野検査では両眼とも進行した視野異常を認め,特に右眼は中心視野がわずかに残存した末期の緑内障性視野異常であった.Goldmann動的視野検査では右眼湖崎分類IIIb期,左眼IIIa期であった(図4).II臨床経過当科初診時より1%ブリンゾラミド点眼液,0.5%チモロールマレイン酸点眼液,0.004%ラタノプロスト点眼液の両眼への点眼治療を再開した.また,CL装用継続希望があり,アドヒアランスを考慮し点眼薬数と点眼回数の減少を図り,平成23年8月11日よりトラボプロスト点眼液,ドルゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合点眼液に切り替えた.その後眼圧は13.16mmHgで推移している.図2HRT.II(a:右眼,b:左眼)著明な乳頭陥凹の所見を認める.(123)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012999 III考按インターネット通販で約10年間CLを購入し,末期緑内障で受診した若年者の緑内障患者を経験した.患者は右眼の視力低下を自覚し来院した.初診時右眼の矯正視力は0.5と不良であり,またGoldmann視野検査は湖崎分類で右眼IIIb期,左眼IIIa期の進行した視野障害を認めた.両眼とも等価球面度数でおよそ.7Dの高度近視であった.緑内障薬物治療に反応し,眼圧コントロールは良好である.図3SD.OCT乳頭周囲の視神経線維の高度な菲薄化を認める.緑内障の多くは成人以降に発症し,40歳以降の成人人口の5%が罹患していることがわが国の疫学調査で明らかにされた3).一方,ホスピタルベースのデータではあるが,眼科クリニックを受診した40歳未満の緑内障患者は0.12%と報告され4),若年者の緑内障にも注意が必要とされている.若年者の緑内障の特徴として屈折が近視であることが報告されている5.7).本症例も両眼とも等価球面度数で約.7Dの強い近視眼であった.また,若年者の正常眼圧緑内障患者も青壮年以降発症のそれと比べ,有意に近視眼が多いことが知られており6),近視性の屈折異常はこの点に十分に注意して眼科検査を行う必要がある.このように若年者の緑内障は近視眼に多く,その発見の契機はCLや眼鏡作製時の偶然の眼底検査やときに眼圧上昇であることが知られている7,8).今回の症例は10年前に量販店のコンタクトレンズセンターでCLを処方されており,その際にどのような眼科的検査が行われていたかは明らかではない.一般的には近視,特に強い近視を伴う緑内障では視神経乳頭の形状異常や視神経線維層欠損が見逃しやすいなど,緑内障性変化の検出が困難なことも多く,専門の眼科医での検査が重要である.近年,わが国において,近視の有病率が急速に増加している.13年間で17歳以下の近視有病率は49.5%から65.6%に増加しており,また10歳以上の学童の屈折は有意に近視にシフトしていることが明らかとなっている10).また,アンケート調査ではCLを装用開始する年齢層は小学校高学年13%,中学生59%,高校生では24%となっており11),これらの年齢層での眼疾患,特に緑内障のスクリーニングはきわめて重要といえる.このような近視人口の増加に伴うCL装用者の増加とともに患者側の問題点としてアンケート調査12,13)が行われたが,2008.2009年にインターネットでのCL購入者が12.4%から22.9%と増加していること,処方時に眼科医を含めた医師の診察を受けていない症例が6.7%にab図4Goldmann視野検査(a:右眼,b:左眼)湖崎分類で右眼IIIb期,左眼IIIa期の進行した視野異常を認める.1000あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(124) 上ること,また約半数の45.5%が不定期ないし定期検査を受けていないことが明らかにされた.CL処方時のスクリーニング検査の問題点としては2005年にコンタクトレンズ診療ガイドラインが示され14),問診に始まり,他覚的屈折検査,自覚的屈折検査を始め,13項目の眼科検査項目が列挙されている.そのなかで眼圧検査と眼底検査は緑内障を含めた眼科標準検査項目であるにもかかわらず,ルーチンの検査とはされず,検査は医師の裁量に任されている.緑内障は青壮年以降に好発する疾患であり,真の発症時期に関しては当然ではあるがより若年層である可能性が推察される.また,眼圧は緑内障進行・悪化の重要かつ最大の危険因子であり,その変動も緑内障進行悪化に影響すると考えられている.今回の症例のように若年者でも高眼圧を伴った開放隅角緑内障を認める可能性もあり,自覚症状も乏しいことから眼科専門医による確実,かつ精度の高い検査がきわめて重要と言える.IVまとめ成人以降の緑内障は末期に至るまで自覚症状に乏しく,多くの潜在患者がいることが報告された3).一方で,緑内障はすべての年齢層で発症し,余命が長いほど失明に至る可能性が増加する.若年者の緑内障は近視性の屈折異常が多く,CLあるいは眼鏡作製で眼科を受診するときが発見の好機となる.一方で,近視眼では陥凹の境界が不鮮明かつ乳頭辺縁(リム)が不鮮明である,乳頭が傾斜していることがある,視神経線維層欠損が検出しにくい,など眼科医でも診断に苦慮する場合が少なくない.この観点からも緑内障の診断には最終的には専門の眼科医の診察が重要である.さらに医療側だけでなく患者側に対してもCL処方時の診察と定期検査の必要性,重要性についての教育が重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)植田喜一,宇津見義一,佐野研二ほか:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計報告(平成21年度).日本の眼科81:408-412,20102)熊川真樹子,稲田紀子,庄司純ほか:KingellaKingaが検出されたコンタクトレンズ関連角膜感染症の1例.眼科52:319-323,20103)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20044)岡田芳春:若年者における緑内障.臨眼57:997-1000,20035)林康司,中村弘,前田利根ほか:若年者の正常眼圧緑内障.あたらしい眼科14:1235-1241,19976)林康司,中村弘,前田利根ほか:若年者と中高年者の正常眼圧緑内障の比較.あたらしい眼科16:423-426,19997)末廣久美子,溝上志朗,川崎史朗ほか:初診時に中期の視野障害が認められた若年者正常眼圧緑内障の1例.あたらしい眼科23:697-700,20088)小川一郎:若年性正常眼圧緑内障.臨眼89:1631-1639,19959)丸山亜紀,屋宜友子,神前あいほか:若年発症した正常眼圧緑内障の視神経乳頭.臨眼99:297-299,200510)MatsumuraH,HiraiH:Prevalenceofmyopiaandrefractivechangesinstudentsfrom3to17yearsofage.SurvOphthalmol44(Suppl1):S109-S115,199911)鳥居秀成,不二門尚,宇津見義一:学校近視の現況に関する2010年度アンケート調査報告.日本の眼科82:531541,201112)植田喜一,上川眞巳,田倉智之(日本コンタクトレンズ協議会)ほか:インターネットを利用したコンタクトレンズ装用者のコンプライアンスに関するアンケート調査.日本の眼科81:394-407,201013)植田喜一,上川眞巳,田倉智之(日本眼科医会医療対策部)ほか:インターネットを利用したコンタクトレンズ装用者の実態調査.日本の眼科80:947-953,200914)糸井素純,稲葉昌丸,植田喜一ほか:コンタクトレンズ診療ガイドライン.日眼会誌109:637-665,2005***(125)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121001