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岐阜大学およびその関連病院におけるアカントアメーバ角膜炎の12 症例

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(117)117《原著》あたらしい眼科29(1):117?122,2012c岐阜大学およびその関連病院におけるアカントアメーバ角膜炎の12症例大家進也*1小森伸也*1高橋伸通*1堅田利彦*1望月清文*1堀暢英*2石橋康久*3大楠清文*4呉志良*5高橋優三*5末松寛之*6浅野裕子*7*1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学*2大垣市民病院眼科*3東鷲宮病院眼科*4岐阜大学大学院医学系研究科病原体制御分野*5岐阜大学医学部寄生虫学教室*6JA岐阜中濃厚生病院検査室*7大垣市民病院検査室EpidemiologicalFeatures,MicrobiologicalDiagnosisandTreatmentOutcomeofAcanthamoebaKeratitis:ARetrospectiveStudyof12CasesShinyaOie1),ShinyaKomori1),NobumichiTakahashi1),ToshihikoKatada1),KiyofumiMochizuki1),NobuhideHori2),YasuhisaIshibashi3),KiyofumiOhkusu4),WuZhiling5),YuzoTakahashi5),NoriyukiSuematsu6)andYukoAsano7)1)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,OgakiMunicipalHospital,3)DepartmentofOphthalmology,Higashi-WashinomiyaHospital,4)DepartmentofMicrobiology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,5)DepartmentofParasitology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,6)DepartmentofClinicalLaboratory,JAGifuKoserenChunoGeneralHospital,7)DepartmentofClinicalLaboratory,OgakiMunicipalHospital目的:岐阜大学およびその関連病院眼科にてアカントアメーバ角膜炎と診断し治療を行った12例の概要報告.方法:2002年6月から2009年12月の間にアカントアメーバ角膜炎と診断された12例14眼(男性4例,女性8例)を対象に,初診時の病期,治療法や治療経過などについて検討した.結果:平均年齢は30.5歳で両眼発症が2例あった.全例がコンタクトレンズ装用者で5例が前医でヘルペス性角膜炎と診断されていた.初診時の病期は初期10眼,移行期3眼,完成期1眼であった.全症例で角膜擦過物の検鏡および培養を行い,検鏡にてシストを認めたものが11眼,培養陽性が10眼であった.Polymerasechainreaction(PCR)法を行った5眼はすべて陽性で,うち検鏡および培養ともに陰性であった3眼ではPCR法にて診断に至った.種の検索を行った5例はすべてAcanthamoebapolyphagaであった.治療として3者併用療法(病巣掻爬,抗真菌薬と消毒薬の頻回点眼,抗真菌薬の全身投与)を行い全例で瘢痕治癒を得た.最終矯正視力は1.0以上が9眼で,初診時に完成期であった1例では指数弁に留まり,早期治療の必要性が示された.結論:アカントアメーバ角膜炎の診断において培養陰性例ではPCR法が補助診断として有用であった.また,病初期からの3者併用療法は有効であるが,重症例をなくすためにもアカントアメーバ角膜炎のさらなる啓蒙が重要である.Purpose:Toreporttheclinicalfeaturesandtreatmentof12patientswithAcanthamoebakeratitisdiagnosedattheDepartmentofOphthalmologyofGifuUniversityGraduateSchoolofMedicineandUniversityofGifuaffiliatedhospitals.Methods:Thisretrospectivestudyinvolved14eyesof12patients(4males,8females)whohadbeendiagnosedwithAcanthamoebakeratitisbetweenJune2002andDecember2009.Results:Meanpatientagewas30.5years;2patientswereaffectedinbotheyes;5hadbeendiagnosedwithherpetickeratitisbeforevisitingus.Allpatientswerecontactlensusers.Ofthe14eyes,10werediagnosedasinitialstage,3astransitstageand1asestablishingstage.Allpatientsunderwentcornealbiopsy,cytologicalexaminationandculturing;11eyeswerecytologypositive;10wereculture-positive.Polymerasechainreaction(PCR)wasperformedon6eyesof5patients;alleyeswerepositiveforAcanthamoeba.ThreeofthepatientswerePCRpositive,butnegativeinbothcultureandcytology.PCRresultsshowedthatthe5patientswithpositivecultureswereinfectedwithAcanthamoebapolyphaga.Thecorneallesionsofallpatientswhounderwentcornealscrapingandsystemicadministrationofanantifungalagent,antifungaleyedropsandadditionalapplicationofdisinfectanteyedropshealedwith〔別刷請求先〕大家進也:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学Reprintrequests:ShinyaOie,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Yanagido,Gifu-shi501-1194,JAPAN118あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(118)はじめにアカントアメーバ角膜炎は1974年に英国で初めて報告された難治性疾患である1).誘因はコンタクトレンズ(CL)ではなく外傷が示唆された症例であった.1980年代に入りCLとの関連が指摘され2),1988年に石橋らにより非含水性ソフトCL(SCL)(ソフィーナR)装用者に生じた1例がわが国で最初に報告された3).当初比較的まれな疾患とされていたが,米国では2004年以降急激な増加が指摘され4)2006年の時点で推定患者数は少なくとも5,000例と報告され5),わが国でも同様に今世紀から増加傾向にある6).その要因としてCL装用者の増加,多目的用剤(multi-purposesolution:MPS)使用の増加およびそれらに付随した不適切なCL管理があげられている6,7).本症では特異的な臨床像を呈し,その確定診断には角膜病変部から採取した標本の検鏡あるいは培養が以前から行われ,最近ではpolymerasechainraction(PCR)法やレーザー共焦点顕微鏡による生体観察なども用いられている8).治療法として消毒薬および抗真菌薬による薬物療法ならびに病巣掻爬が有効とされ9),その視力予後は初期では比較的良好であるが,完成期では不良例が多い6).今回,岐阜大学(以下,当院)およびその関連病院にてアカントアメーバ角膜炎と診断された12症例につき,その疫学的特徴,臨床像,発症の契機,治療法および視力予後などについてレトロスペクティブに検討したので報告する.I対象および方法対象は2001年1月から2009年12月までの8年間に当院,大垣市民病院および中濃厚生病院眼科にて経験したアカントアメーバ角膜炎症例である.初診時の病期分類および臨床所見,前医における診断ならびに投薬内容,CL装用の有無,保存液の種類,検鏡・培養・PCR法による検出率,当院眼科における治療法ならびに視力予後などについて検討した.本研究でアカントアメーバ角膜炎と確定診断したのは,特徴ある臨床経過と臨床所見からアカントアメーバ角膜炎を疑い,病巣部の擦過標本から直接検鏡,分離培養あるいはPCR法にてアカントアメーバの存在を確認できた症例である.なお,直接検鏡にはパーカーインクKOH法,グラム染色,パパニコロウ染色あるいはファンギフローラYR染色などを用いて観察した.培養には大腸菌の死菌あるいは納豆菌を塗布した無栄養寒天培地を用いた.なお,病巣擦過物からのPCR法には標的領域18SrRNA遺伝子で増幅産物のサイズ(basepair)180および500前後とする既報10,11)に基づいて設計し2つのプライマーを用いた.今回は培養にて得られた検体のみアカントアメーバの種の同定を行った.同定には3種のAcanthamoeba(以下A.と略す)(A.polyphage,A.astronyxisおよびA.culbertsoni)を参考に標的領域を18SrRNA遺伝子としたプライマー(Primersequence;Forward:GGCCCAGATCGTTTACCGTGAA,Reverse:TCTCACAAGCTGCTAGGGGAGTCA)を新たに設計しPCRを行い,電気泳動にて行った.病期の診断には細隙灯顕微鏡所見から石橋の分類に基づいて病期分類を行った12).なお,患者から採取した検体の検索に関しては,患者に詳細な説明および十分な理解のもとに,同意を得た.II結果アカントアメーバ角膜炎と診断され加療を行った症例数は12例14眼であった.患側では右眼6例,左眼4例および両眼2例であった.性別では男性3例,女性9例で,平均年齢は30.5±12.9歳(16?54歳)で,平均経過観察期間は469.25±323.6日(37?973日)であった.なお,年齢分布では10歳代3例,20歳代4例,30歳代1例,40歳代3例および50歳代1例であった.1.原因CLならびにCL消毒剤の種類12例全例がCL装用者であった.CLの種類では,ディスポーザブルソフトコンタクトレンズ(DSCL)2例(17%),頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)5例(42%),定期交換型ソフトコンタクトレンズ(PRSCL)2例(17%)および従来型SCL3例(25%)であった.なお,ハードコンタクトレンズ(HCL)および非含水SCL症例は1例もなかった.SCL装用者の中で使用していたケア用品の記載があったものは7例であった.うち6例ではMPSを,残り1例では過酸化水素を使用していた.DSCL装用にて発症した2例でsomescarring.Best-correctedvisualacuityin9eyeswas1.0orbetter.Astothe1eyetreatedattheestablishingstage,finalvisualacuitywasfingercounting.Conclusion:TheidentificationofAcanthamoebaDNAwithPCRwasusefulintheculture-negativecasesasaconfocaldiagnosisofAcanthamoebakeratitis.CombinationtreatmentatanearlystageiseffectiveagainstAcanthamoebakeratitis.ThereisneedformoreeducationofcontactlenswearersregardingtheriskofdevelopingAcanthamoebakeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):117?122,2012〕Keywords:アカントアメーバ,角膜炎,コンタクトレンズ,遺伝子解析,地域分布.Acanthamoeba,keratitis,contactlens,geneanalysis,arealdistribution.(119)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012119は,井戸水で洗浄,その後保存(保存液不明)していた.2.発症月別症例数紹介状あるいは診療録から推定された発症月および月別症例数(図1)は,1月1例,4月2例,5月1例,7月4例,9月2例,11月1例および12月1例であった.3.発生地域12例中11例が岐阜県内で,残り1例は静岡県下田市からの紹介患者であった.図2に岐阜県内発症患者を市町村別(現住所による,就業あるいは就労先住所は不明)で示す.東濃地区の症例はなく,西濃地区5例および中濃地区6例であった.具体的には関市2例,富加町2例,郡上市1例,岐阜市1例,安八町2例,北方町1例,垂井町1例および大垣市1例であった.分離培養された8例のうち5例6眼で種の検索を行い,全例A.polyphagaが同定された.地域として関市2例,大垣市1例,郡上市1例および安八町1例であった(図2白抜き数字).4.初期症状および前医における診断ならびに治療初期自覚症状では,疼痛12例(100%),流涙(33%),充血(83%),眼脂(8%)および視力障害(83%)であった.7例で眼窩部MRI(磁気共鳴画像)を施行したところ,全例でT2強調画像にて患側涙腺のhighintensityを認めた.ヘルペス性角膜炎あるいは細菌性角膜炎として診断あるいは治療されていた症例はそれぞれ5例であった.前医でアカントアメーバ角膜炎を疑われ紹介された症例は1例のみであった.確定診断されるまでの投薬歴(重複あり)として,抗菌薬では眼軟膏3例および点眼薬10例で,うち3例では複数の点眼薬を使用していた.アシクロビル眼軟膏は5例で使用され,副腎皮質ステロイド薬では点眼薬4例,結膜下注射2例および全身投与1例であった.5.検査法およびその検出率病巣擦過標本の検鏡ならびに分離培養は14眼全例で,PCR法は5眼で施行した.検出率は,検鏡では78%(11眼/14眼),分離培養では71%(10眼/14眼)およびPCR法では100%(5眼/5眼)であった.なお,PCR法が陽性であった5眼中3眼では検鏡および分離培養ともに陰性であった.6.治療法治療として病巣掻爬,抗真菌薬と消毒薬の頻回点眼および抗真菌薬の全身投与の3者併用療法を行った(表1).点眼薬として具体的には,消毒薬では0.02%クロルヘキシジンおよび0.025%塩化ベンザルコニウムをそれぞれ12例および3例に(重複あり),抗真菌薬では0.2%フルコナゾール,0.1%ミコナゾール,0.2%ミカファンギン,1.0%ボリコナゾールおよび5%ピマリシンをそれぞれ9例,3例,3例,7例および5例に用いた(重複あり).抗菌薬として2例で0.5%硫酸フラジオマイシン点眼液を用いた.なお,二次感染予防のために全例でフルオロキノロン系点眼薬を併用した.5例で抗真菌薬である1%ピマリシン眼軟膏を用いた.抗真菌薬の全身投与薬剤ではイトラコナゾール,フルコナゾール,ミカファンギンおよびボリコナゾールをそれぞれ12例,8例,1例および2例に用いた(重複あり).なお,全例角膜病巣掻爬を併用した.7.受診時の病期および視力予後12例14眼の石橋分類による病期別症例数は,初期,移行期および完成期においてそれぞれ10眼,3眼および1眼であった.病期別初診時視力と最終視力を図3に示す.病期が初期であった10眼すべてで最終矯正視力は0.9以上であった.初診時すでに完成期であった1眼では指数弁であった.1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月1214211図1月別症例数??????????????????????????????11図2岐阜県内での発生地域黒抜き数字:種の検索を行わなかった症例.白抜き数字:種の検索の結果A.polyphagaであった症例.120あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(120)III考按本研究ではアカントアメーバ角膜炎の発症平均年齢は30歳であったが,10歳代あるいは50歳代の症例にも認められ,既報6)同様にアカントアメーバ角膜炎症例の低年齢化ならびに長期CL使用者での発症が危惧される.患側では右眼6例,左眼4例および両眼2例と左右差はほとんどなく,両眼発症に関しては石橋6)や米国の報告13)と同様な傾向であった.性別では,米国では性差はない13)とされるが,本研究では男性4例,女性8例とやや女性に多い傾向を認めた.この結果はわが国におけるCL装用者の男女比を反映したものと推定される6).アカントアメーバ角膜炎では症例の85?90%がCL装用者に発症する6)とされ,本研究においても12例全例がCL装用者であった.その内訳ではFRSCL使用例が5例(42%)と最も多く,HCL装用者は1例も認めなかった.これは,HCLがSCLより感染リスクが低いわけではなく,最近のCL販売数を反映したものと考えられる6,14).CL消毒剤としてMPSが最近の主流であるが,MPS単独ではアカントアメーバに対する消毒効果は不十分であるという16).MPSを使用する際には残存するアカントアメーバを完全に除去するために,こすり洗いとすすぎ,レンズケースの洗浄および交換の徹底による清潔管理が重要である.月別の症例数では,4月から9月の6カ月間に10例(83%)と比較的気温が高い時期に多い傾向を認めた.米国ではアカントアメーバ発生数は夏から初秋に多いと報告されてい表1アカントアメーバ角膜炎症例のCL種類と治療の概要症例年齢(歳)性別患側CL種類治療矯正視力角膜擦過局所投与全身投与消毒薬抗真菌薬ピマリシン0.5%FRMアトロピン抗真菌薬初診時最終139女性左眼DSCL+0.02%クロルへキシジン1.0%VRCZ点眼?+ITCZ,F-FLCZ0.150.2216女性右眼PRSCL+0.025%ベンザルコニウム1.0%VRCZ点眼?+ITCZ0.31.5324女性左眼FRSCL+0.025%ベンザルコニウム0.2%FLCZ─?+ITCZ,F-FLCZ0.081.0441女性右眼FRSCL+0.025%ベンザルコニウム0.2%FLCZ1.0%VRCZ0.2%MCFG点眼?+ITCZ,F-FLCZ,MCFG手動弁指数弁522女性右眼PRSCL+0.02%クロルへキシジン0.2%FLCZ1.0%VRCZ0.2%MCFG眼軟膏?+ITCZ,F-FLCZ,VRCZ1.01.0642女性右眼DSCL+0.02%クロルへキシジン0.2%FLCZ0.1%MCZ─++ITCZ,FLCZ1.01.2717男性両眼従来型SCL+0.02%クロルへキシジン0.2%FLCZ0.1%MCZ0.2%MCFG眼軟膏++ITCZ,FLCZ両眼0.4左眼1.0右眼1.2844女性左眼従来型SCL+0.02%クロルへキシジン0.2%FLCZ1.0%VRCZ眼軟膏?+ITCZ,FLCZ1.20.9916女性左眼FRSCL+0.02%クロルへキシジン0.2%FLCZ1.0%VRCZ眼軟膏?+ITCZ,F-FLCZ0.61.51054男性右眼FRSCL+0.02%クロルへキシジン1.0%VRCZ眼軟膏?+ITCZ,VRCZ0.011.21127男性右眼従来型SCL+0.02%クロルへキシジン0.2%FLCZ0.1%MCZ点眼??ITCZ0.011.01224男性両眼FRSCL+0.02%クロルへキシジン0.2%FLCZ0.2%MCFG点眼?+ITCZ両眼0.3両眼0.6SCL:ソフトコンタクトレンズ,DSCL:ディスポーザブルソフトコンタクトレンズ,FRSCL:頻回交換型ソフトコンタクトレンズ,PRSCL:定期交換型ソフトコンタクトレンズ,VRCZ:ボリコナゾール,FLCZ:フルコナゾール,MCFG:ミカファンギン,MCZ:ミコナゾール,ITCZ:イトラコナゾール,F-FLCZ:ホスフルコナゾール,FRM:フラジオマイシン.:初期:移行期:完成期1.01.00.10.10.010.01CFCFHM初診時視力最終視力*図3病期別初診時視力と最終視力*:2眼重複.(121)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012121る8)が,インドにおける外傷を契機に発症したアカントアメーバ角膜炎の検討では季節性はなかったという17).アカントアメーバの培養可能温度の上限が26?29℃で,逆に15℃前後では運動が阻害されかつ8℃以下では増殖困難になる18)ことから,わが国では季節として初夏および初秋に注意すべきと思われる.アカントアメーバ角膜炎の確定診断には,病巣部擦過標本の直接検鏡,分離培養,PCR法,病理診断あるいは電子顕微鏡検査によるアカントアメーバの同定である.直接検鏡は簡便でかつ短時間に検出可能な検査であるが判定には経験を要し,その検出率は30?60%という8).分離培養での検出率は50?60%とされ8),種の同定や薬剤感受性試験への利用が可能である.PCR法は特異度100%,感度80%以上とされる8,19).本研究では直接検鏡,分離培養あるいはPCR法を用いた.その検出率は直接検鏡,分離培養およびPCR法において,それぞれ75%,67%および100%であった.よって,アカントアメーバ角膜炎の検出にはPCR法が有効と考えられたが,最も大切なことは十分な検体の採取と迅速な検体処理にあると思われる.角膜炎を惹起するアカントアメーバとしてA.castellanii,A.polyphaga,A.lenticulata,A.hatchetti,A.astronyxis,A.culbertsoniおよびA.rhysodesなどが知られている17).なかでもA.castellaniiおよびA.polyphagaが最も多いという8).本研究でも異なる地域から同種のA.polyphagaが分離され,アカントアメーバ角膜炎の原因アメーバとしてその存在が再認識された.一方で,2種のアカントアメーバによる角膜炎3)あるいは異種アカントアメーバによる時期を異にした角膜炎の報告20)もあるので,種の同定は重要といえる.ところで,18SrRNAを用いた遺伝子型分類では,遺伝子型としてT1?T15の15種類に分類され,なかでもT4がアカントアメーバ角膜炎から最も分離され角膜に対し病原性を有する可能性が示唆されている21).本研究では病巣擦過物からのPCR法にT4を含むプライマーを用いたが,得られたPCR産物の塩基配列は決定していない.しかし,アカントアメーバの種や遺伝子型の分類はアカントアメーバ角膜炎の疫学,予防,診断ならびに治療方針などの確立に重要であり,今後当施設においても検討する予定である.アカントアメーバ角膜炎の治療には①角膜病巣掻爬,②抗アメーバ作用のある薬剤の点眼,③抗真菌薬の全身投与の3者併用療法が有効15,22)とされ,今回12例全例で3者併用療法を行った.現在わが国における点眼薬の中心は消毒薬であるクロルヘキシジンで今回の12症例全例に対しても用いた.他の消毒薬では海外で使用されているpolyhexametylenebiquanide(PHMB)があり,近年わが国でもその有効例が散見される7).アゾール系抗真菌薬では初期にはフルコナゾールあるいはミコナゾールを中心に用いていたが,現在では1%ボリコナゾール23)あるいは0.1%ミカファンギンが主体となっている.抗真菌薬の全身投与ではイトラコナゾールを全例で用い,前房内炎症所見が高度な例あるいは移行期以降など病態に応じてフルコナゾールあるいはボリコナゾールなどを併用した.ところで,アカントアメーバの栄養体とシストに対しinvitroで殺菌作用を示す薬剤はPHMB,クロルヘキシジンおよびプロパミジンで,フルコナゾール,ミコナゾールおよびアムホテリシンBなどの抗真菌薬では効果がないという24).アカントアメーバに対する薬剤感受性に関してその試験法,検査基準ならびに種間での感受性などいまだ確立されておらず,今後早急に検討すべき課題といえる.最後に,アカントアメーバ角膜炎は近年増加傾向にある疾患である.今後,利便性や簡便性からFRSCLあるいはDSCLのシェア拡大が予想され,オルソケラトロジーの普及あるいはカラーCLのネット販売などにも鑑み,アカントアメーバ角膜炎症例の増加が危惧される.一方で,アカントアメーバ培養陰性例ではPCR法が補助診断として有用であったので,今後眼感染症専門検査機関での導入が望まれる.重症例をなくすためにも一般眼科医に対するアカントアメーバ角膜炎のさらなる啓蒙およびCLユーザーに対する十分な教育が重要といえる.本論文の要旨は第47回日本眼感染症学会(2010)にて発表した.文献1)NagintonJ,WatsonPG,PlayfairTJetal:Amoebicinfectionoftheeye.Lancet2(7896):1537-1540,19742)JonesDB:Acanthamoeba─theultimateopportunist?.AmJOphthalmol102:527-530,19863)石橋康久,松本雄二郎,渡辺亮子ほか:Acanthamoebakeratitisの1例─臨床像,病原体検査法および治療についての検討─.日眼会誌92:963-972,19884)ThebpatiphatN,HammersmithKM,RochaFNetal:Acanthamoebakeratitis:aparasiteontherise.Cornea26:701-706,20075)VisvesvaraGS,MouraH,SchusterFL:Pathogenicandopportunisticfree-livingamoebae:Acanthamoebaspp.,Balamuthiamandrillaris,Naegleriafowleri,andSappiniadiploidea.FEMSImmunolMedMicrobiol50:1-26,20076)石橋康久:最近増加するアカントアメーバ角膜炎─報告例の推移と自験例の分析─.眼臨紀3:22-29,20107)篠崎友治,宇野敏彦,原祐子ほか:最近11年間に経験したアカントアメーバ角膜炎28例の臨床的検討.あたらしい眼科27:680-686,20108)DartJK,SawVP,KilvingtonS:Acanthamoebakeratitis;diagnosisandtreatmentupdate2009.AmJOphthalmol148:487-499,20099)石橋康久:眼感染症Now!眼感染症医療の標準化ガイドラインのポイントはこれだアカントアメーバ角膜炎の治療のポイントは?あたらしい眼科26(臨増):38-43,2010122あたらしい眼科Vol.29,No.1,201210)QvarnstromY,VisvesvaraGS,SriramRetal:Multiplexreal-timePCRassayforsimultaneousdetectionofAcanthamoebaspp.,Balamuthiamandrillaris,andNaegleriafowleri.JClinMicrobiol44:3589-3595,200611)SchroederJM,BootonGC,HayJetal:Useofsubgenic18SribosomalDNAPCRandsequencingforgenusandgenotypeidentificationofAcanthamoebaefromhumanswithkeratitisandfromsewagesludge.JClinMicrobiol39:1903-1911,200112)石橋康久,本村幸子:眼感染症アカントアメーバ角膜炎の診断と治療.眼科33:1355-1361,199113)Stehr-GreenJK,BaileyTM,VisvesvaraGS:TheepidemiologyofAcanthamoebakeratitisintheUnitedStates.AmJOphthalmol107:331-336,198914)能美典正,近間泰一郎,守田裕希子ほか:アカントアメーバ角膜炎の臨床像の推移.臨眼63:1385-1390,200915)石橋康久:アカントアメーバ角膜炎の治療─トリアゾール系抗真菌剤の内服,ミコナゾール点眼,病巣掻爬の3者併用療法.あたらしい眼科8:1405-1406,199116)森理:マルチパーパスソリューション(MPS)の消毒効果.あたらしい眼科26:1173-1177,200917)ManikandanP,BhaskarM,RevathyRetal:Acanthamoebakeratitis─asixyearepidemiologicalreviewfromatertiarycareeyehospitalinsouthIndia.IndianJMedMicrobiol22:226-230,200418)鶴原喬,富山康,石橋康久ほか:Acanthamoebaの土壌内分布.臨眼47:1665-1669,199319)MathersWD,NelsonSE,LaneJLetal:ConfirmationofconfocalmicroscopydiagnosisofAcanthamoebakeratitisusingpolymerasechainreactionanalysis.ArchOphthalmol118:178-183,200020)TuEY,JoslinCE,ShoffMEetal:SequentialcornealinfectionwithtwogenotypicallydistinctAcanthamoebaeassociatedwithrenewedcontactlenswear.Eye24:1119-1121,201021)BootonGC,VisvesvaraGS,ByersTJetal:IdentificationanddistributionofAcanthamoebaspeciesgenotypesassociatedwithnonkeratitisinfections.JClinMicrobiol43:1689-1693,200522)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:770-809,200723)BangS,EdellE,EghrariAOetal:Treatmentwithvoriconazolein3eyeswithresistantAcanthamoebakeratitis.AmJOphthalmol149:66-69,201024)加治優一:アカントアメーバ角膜炎に対するPHMB単独療法.大橋裕一編:眼科プラクティス28,眼感染症の謎を解く,文光堂,p446-447,2009(122)***

緑膿菌性角膜潰瘍におけるドリペネム水和物の使用経験

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(113)267《原著》あたらしい眼科28(2):267.271,2011cはじめにコンタクトレンズ(CL)に関連した角膜感染症の原因微生物のなかで細菌性のものとしては緑膿菌による感染が最も多い1~3).緑膿菌性角膜潰瘍の治療ではニューキノロンおよびアミノグリコシドの局所投与が主体となるが,重症の角膜潰瘍では点眼を補う目的で点滴投与などの全身投与が行われている.しかし緑膿菌に対して優れた抗菌活性を有する抗菌薬はさほど多くはみられず,また抗菌力が強いとされるイミペネム/シラスタチン(IPM/CS)は副作用の点で第一選択薬とはなりがたい.そのような現状において2005年に発売され〔別刷請求先〕清水一弘:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhiroShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsukicity,Osaka569-8686,JAPAN緑膿菌性角膜潰瘍におけるドリペネム水和物の使用経験清水一弘勝村浩三服部昌子山上高生向井規子池田恒彦大阪医科大学感覚器機能形態医学講座眼科学教室ClinicalExperiencewithDoripenemHydrateinPseudomonasaeruginosa-relatedCornealUlcerKazuhiroShimizu,KouzouKatsumura,MasakoHattori,TakaoYamagami,NorikoMukaiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeコンタクトレンズ(CL)関連角膜感染症の原因菌として緑膿菌が多いが,緑膿菌に対して活性を有する抗菌薬は少ない.緑膿菌性角膜潰瘍治療ではニューキノロンおよびアミノグリコシドの局所投与が主体となるが,点眼を補う目的で薬物動態-薬力学(PK-PD)理論に基づきドリペネム水和物(DRPM)1日3回投与を試みたので報告する.2008年5月から6カ月間に角膜潰瘍で治療を受けた34眼中,病巣より緑膿菌が検出され入院を要した5例5眼(25~43歳)に抗菌点眼液に加えDRPM250mgの1日3回投与を行った.全例で有害症状は認められなかった.DRPMは角膜潰瘍に適応症を有し,眼組織移行性も良好で緑膿菌に対する抗菌活性はカルバペネム系抗菌薬で最も強い.また,デヒドロペプチダーゼ-Iに安定なことからカルバペネム系抗菌薬でみられる腎障害が他薬剤に比べても少ない.緑膿菌感染に対し抗菌力が強く安全性も高いDRPMは眼科領域においても安全である.AlthoughPseudomonasaeruginosaisthemaincauseofcontactlens(CL)-relatedcornealinfection,fewdrugshaveantibacterialactivityagainstP.aeruginosa.AlthoughanewquinoloneoraminoglycosideantibioticislocallyappliedtotheeyesinthecurrentstandardtreatmentofPseudomonascornealulcer,wehaveattemptedathreetimes-daily(TID)regimenofdoripenemhydrate(DRPM),basedonpharmacokinetic-pharmacodynamic(PK-PD)theory,tosupplementtheeffectofanantibioticophthalmicsolution.Weherebyreportourstudyresults.Wetreated34eyeswithcornealulcerduring6monthsbeginningMay2008,anddetectedP.aeruginosainthelesionsin5eyesof5patients(age:25to43years),whorequiredhospitalization.WeadministeredDRPM250mgTIDtothe5patients,inadditiontoanantibioticophthalmicsolution.Theclinicalefficacyratewas100%,andnoneofthesepatientshadadversereactions.DRPMisindicatedforthetreatmentofcornealulcer,andamongthecarbapenemantibioticshasthemostpotentantibacterialactivityagainstP.aeruginosa,withgoodpenetrationfromthebloodstreamintooculartissues.Sinceitisstableagainstdehydropeptidase-I,itlessfrequentlyinducesrenalimpairment,whichisoftencausedbyothercarbapenemantibiotics.DRPM,withitspotentantibacterialactivityagainstP.aeruginosainfectionanditsgoodsafetyprofile,canbesafelyusedinthefieldofophthalmology.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):267.271,2011〕Keywords:緑膿菌,角膜潰瘍,カルバペネム系抗菌薬,コンタクトレンズ,ドリペネム水和物.Pseudomonasaeruginosa,corneaulcer,carbapenemantibiotics,contactlens,doripenemhydrate.268あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(114)たドリペネム水和物(DRPM)は他科感染症領域において緑膿菌に対して抗菌力のある薬剤と認知されている4)が,比較的新しい薬剤であるため眼科領域における報告は少ない.今回,緑膿菌性角膜潰瘍治療において,薬物動態-薬力学(pharmacokinetics/pharmacodynamics:PK/PD)理論に基づくDRPM水和物1日3回投与を行った5例を経験したので報告する.I対象および方法1.対象2008年5月から6カ月間に大阪医科大学眼科(以下,当院)で角膜潰瘍の治療を行った34眼中,病巣より緑膿菌が検出され,なおかつ入院を要した重症の5症例.対象症例の内訳は女性3名,男性2名,年齢は24~43歳,全員が2週間頻回交換型CL装用者であった(表1).CLケアに問題がある症例が多くみられた.〔症例1〕24歳,女性.両眼の違和感と右眼の視力低下で近医受診,その日のうちに当院紹介受診.右眼の角膜膿瘍と周囲のすりガラス状混濁,眼脂の付着など緑膿菌感染に特徴的な所見がみられた(図1).左眼にも充血がみられた.塗抹・培養・CL保存液のすべての検体から緑膿菌が検出された.CLのケース交換はしていなかったとのこと.右眼初診時視力5cm手動弁.一般血液検査で白血球11,670/μl,生化学検査でCRP(C反応性蛋白)1.83mg/dlと上昇.基礎疾患なし.〔症例2〕31歳,女性.右眼眼痛で近医受診,翌日に当院紹介受診.右眼の輪状膿瘍と前房蓄膿,粘性眼脂の付着がみられた.病巣およびCL保存液から緑膿菌検出.右眼視力(0.2).基礎疾患なし.一般血液検査および生化学検査異常なし.〔症例3〕43歳,女性.右眼眼痛で近医受診,2日目に当院紹介受診.右眼に輪状膿瘍とその周囲のすりガラス状混濁,前房蓄膿がみられた.病巣およびCL保存液から緑膿菌検出.CLは毎日洗浄するも丁寧に擦り洗いはしていなかったとのこと.右眼視力(0.03).一般血液検査で白血球11,420/μl,生化学検査でCRP0.75mg/dlと上昇.〔症例4〕33歳,男性.右眼眼痛,充血にて来院.CLの昼夜連続装用が多く,近医で角膜上皮障害を指摘されていた.右眼の角膜膿瘍と周囲のすりガラス状混濁がみられた.病巣およびCL保存液から緑膿菌検出.右眼視力(0.01).基礎疾患なし.一般血液検査および生化学検査異常なし.〔症例5〕27歳,男性.右眼眼痛で近医受診,翌日に紹介受診.右眼の輪状膿瘍とその周囲のすりガラス状混濁がみられた.視力は30cm手動弁.基礎疾患なし.一般血液検査および生化学検査異常なし.図1症例1の右眼前眼部写真角膜膿瘍と周囲のすりガラス状混濁がみられる.視力は5cm手動弁.10日間の点滴の追加治療にて白血球・CRPとも正常化し,視力は(0.2)で瘢痕治癒した.表1対象症例の内訳症例鏡検培養CLケースから検出治療前視力治療後視力所見治療期間1G(.)菌緑膿菌緑膿菌5cm手動弁(0.2)角膜膿瘍とすりガラス状混濁,白血球・CRP上昇27日間2G(.)菌G(+)菌緑膿菌Corynebacterium緑膿菌(0.2)(0.9)輪状膿瘍,前房蓄膿28日間3G(.)菌緑膿菌緑膿菌(0.03)(0.3)輪状膿瘍,前房蓄膿,白血球・CRP上昇,すりガラス状混濁40日間4G(.)菌G(+)菌緑膿菌Coryneformbacteria緑膿菌(0.01)(0.3)角膜膿瘍とすりガラス状混濁43日間5G(.)菌緑膿菌緑膿菌30cm手動弁(0.7)輪状膿瘍,すりガラス状混濁28日間G(+):Grampositive,G(.):Gramnegative.(115)あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112692.方法初診日当日に細隙灯顕微鏡検査で角膜の輪状膿瘍とその周囲のすりガラス状混濁および粘性の眼脂など臨床的特徴から緑膿菌感染にほぼ間違いないと診断できた対象患者5症例に対し,塗抹・培養検査を施行後に入院のうえ,治療としてガチフロキサシン(GFLX)およびトブラマイシン(TOB)抗菌点眼液を1時間ごとに夜間就寝時を除いて頻回点眼した.さらに抗菌点眼液に加え初診日当日(入院日)よりDRPM250mgの1日3回点滴投与を行い安全性の検討を行った.DRPMの全身投与は症例1~5まで各々10日間,6日間,11日間,8日間,6日間,平均8.2日間行った.全例で初診時に病巣から採取した検体の塗抹・培養検査および薬剤感受性試験を行った.薬剤感受性試験は広域スペクトル型ペニシリンのアンピシリン(ABPC)とピペラシリン(PIPC),第1世代セフェム系のセファゾリン(CEZ),第3世代セフェム系のセフォタキシム(CTX),セフタジジム(CAZ),カルバペネム系のIPM,メロペネム(MEPM),DRPM,アミノグリコシド系のゲンタマイシン(GM),アミカシン(AMK),TOB,フルオロキノロン系のレボフロキサシン(LFLX),GFLX,テトラサイクリン系のミノサイクリン(MINO)の14薬剤について行った.点滴開始前に一般血液検査および生化学検査を施行し,必要に応じて追跡調査した.II結果症例1~5は各々入院期間19日間,8日間,25日間,10日間,7日間,平均13.8日間.瘢痕治癒まで各々27日間,28日間,40日間,43日間,28日間,平均33.2日間を要した.5症例のなかで最も治療期間が長かった症例3においてはDRPM投与前の一般血液検査で白血球11,420/μl,生化学検査でCRP0.75mg/dlと上昇していたが,DRPM投与5日後には白血球8,300/μl,生化学検査でCRP0.45mg/dlと改善傾向がみられ,14日後には白血球7,530/μl,生化学検査でCRP0.11mg/dlと白血球数およびCRP値とも正常化した.DRPM投与中には全例でアレルギー反応など全身的副作用は生じなかった.視力に関して各症例の初診時と治療後の瘢痕治癒時の矯正視力の経過をみたところ,各々,症例1は5cm手動弁→(0.2),症例2は(0.3)→(0.9),症例3は(0.03)→(0.3),症例4は0.01(矯正不能)→(0.3),症例5は30cm手動弁→(0.7)と全例改善傾向を示した.薬剤感受性試験の結果,全例ともカルバペネム系のDRPM,IPM/CS,MEPM,アミノグリコシド系のGM,TOB,ニューキノロン系のLFLX,GFLXなどの感受性が高かった.点眼液との併用で全例で瘢痕治癒に持ち込めた.III考按CL関連角膜感染症の多くはCLケアに問題があるといわれている5)が,なかでも緑膿菌性角膜感染症は点眼液のみで透明治癒する軽症例から角膜に瘢痕が残存したり,なかには角膜穿孔に至る重症例まで存在する.緑膿菌性角膜潰瘍にはアミノグリコシドの局所投与が有効であるが,角膜混濁などによる著しい視力低下などの後遺症の発現が予想される重症例においては入院による点滴治療が望ましいと考えられる.現状でも多くの施設で重症の角膜潰瘍に対しては抗菌薬の点滴治療を施行されているが,点滴をせずに視力障害が残った場合,十分な治療を行わなかったと判断される可能性もある6).頻回点眼のほうが角膜内濃度の上昇に有効であるが,夜間は点眼は困難となるため,それを補うため点滴を行うことは妥当であったと考えられる.このような現状において多種存在する抗菌薬のなかから全身投与を行うとすれば何が適当か検討する必要があると考えた.今回はDRPMの眼科領域での使用に問題が生じないかの判定を主眼としたため症例を限定し,①角膜潰瘍の病巣部より緑膿菌が検出された,②基礎疾患など全身的には問題のない症例,③ニューキノロン(GFLX)およびアミノグリコシド系(TOB)抗菌点眼液を各1剤投与されている以外に点眼液を使用されていない症例を対象とした.緑膿菌性角膜潰瘍におけるニューキノロンおよびアミノグリコシドの抗菌点眼液の頻回点眼は,治療としてゴールデンスタンダードとなっている7)ため,すでに投与されている場合は継続投与とした.視力に関しては全例で角膜潰瘍は消失するも角膜上皮下および実質層に角膜混濁が残存し,瘢痕治癒に至ったため矯正視力(1.0)以上を獲得することはできなかったが,5症例とも初診時より改善した.5cm手動弁~(0.2)であった5症例の治療前視力が治療後は(0.2)~(0.9)となり,5症例すべてで改善した.治療前視力のよかったほうが治療後の視力がよい傾向にあった.教科書などにも緑膿菌性角膜潰瘍の治療に関して推奨される薬剤の処方例が掲載されているが,点滴に関しては特に統一性はなく医師の経験に基づいて投与されていることが多いようである.このような現状において抗菌薬の全身投与を行うなら適応症と適応菌種を考慮して投与することが望ましいと思われた.角膜潰瘍を適応症として取得しているおもだった注射用抗菌薬にはカルバペネム系のIPM/CS,DRPM,セフェム系の塩酸セフォゾプラン(CZOP),セフトリアキソンナトリウム(CTRX),モノバクタム系のアズトレオナム(AZT)などがあり,よく使用されているセフェム系のCAZは緑膿菌を適応菌種として認められているが,角膜潰瘍の適応症は認められていない.そのなかで緑膿菌にも適応菌種を持ち合わせて270あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(116)いるのはIPM/CS,DRPM,CZOPだけである(表2).近年抗菌薬の臨床効果と相関を示すPK/PD理論に基づく投与法が推奨されており,カルバペネム系抗菌薬の臨床効果は原因菌の最小発育阻止濃度(minimalinhibitoryconcentration:MIC)を血中濃度が上回る時間すなわちtimeaboveMIC(%)を40%以上獲得することで最大殺菌作用が得られるといわれている8)(図2).キノロンなどは濃度依存性に効果を発揮するが,カルバペネム系は時間依存的に殺菌効果がある(表3).特に抗菌力が強いとされているIPM/CS,DRPMが入るカルバペネム系は時間依存的に殺菌作用があることから2回投与よりも3回投与にして投与間隔を短くすることでより高い臨床効果が期待できるとされている9).DRPMのデヒドロペプチダーゼ-I(DHP-I)に対する代謝安定性に関しては,IPM/CSは腎臓に多く存在するDHP-Ⅰという酵素により速やかに分解されてしまうが,DRPMは90分後で20%しか分解されず安定性が高くなっている10)(図3).DHP-Iによって生じた分解産物により腎毒性が生じるといわれている11)ためで,DHP-Iに安定なDRPMはカルバペネム系抗菌薬のなかでも腎障害が少ないのも特長である.大阪医科大学眼科の緑膿菌31株に対するおもだった薬剤のMICを比較した結果において,全例で瘢痕治癒に持ち込めたことより点眼も含めた抗菌薬の臨床効果における有効率は高いと考えられる.今回の症例の薬剤感受性試験の結果もアミノグリコシド系のGM,TOB,ニューキノロン系のLFLX,GFLXは良好で,緑膿菌に対する薬剤感受性は従来いわれているのと同様の結果を得た.さらに注射薬ではIPM/CS,MEPM,DRPMの感受性が良好で,カルバペネム系の緑膿菌に対する抗菌力の強さが改めて示された.症例1と3においては点滴施行前に角膜潰瘍に伴った炎症によると思われる白血球数上昇とCRP高値がみられたが,点滴施行によっても悪化することはなく,消炎とともに数値の改善がみられたことより肝臓,腎臓機能を含めた全身への影響は少ないと考えられた.また,DRPM投与中にアレルギー反応など全例で全身的な副作用は生じなかった.対象症例が角膜潰瘍を患っているものの基礎疾患がなく高齢者のいない群であることも考慮する必要があるが,CL関連角膜潰瘍罹患者層の背景はおおむね同じ年代の健康者と考えられるため,この一群の疾患に使用するなら安全と考えてよいと思われる.DRPMは緑膿菌に最も優れた抗菌力を示し,眼科領域にも適応症が取れており,組織移行が良く12),腎毒性が少ない時間血中濃度Cmax(最高血中濃度)MICTimeaboveMICTAM)Cmax/MICAUCAUC/MIC(血中濃度時間曲線下面積)(MIC以上の持続時間)(CmaxとMICの比)(AUCとMICの比)図2PK.PDパラメータ1008060402000306090反応時間(min):DRPM:MEPM:IPM残存率(%)図3ヒト腎由来DHP.Iに対する代謝安定性(invitro)加水分解活性:0.500U/ml(GDPA基質).表3抗菌薬の効果と相関するPK.PDパラメータ抗菌薬臨床効果と関連が強いPK/PDパラメータ抗菌活性の特徴キノロン系薬ケトライド系薬アミノグリコシド系薬AUC/MICCmax/MIC濃度依存性の殺菌作用ペニシリン系薬セフェム系薬カルバペネム系薬TimeaboveMIC(TAM)時間依存性の殺菌作用表2注射用抗生物質製剤の適応症と適応菌種薬剤名角膜潰瘍緑膿菌PIPC.+CPR.+CZOP++CFPM.+SBT/CPZ.+IPM++MEPM.+PAPM.+BIPM.+DRPM+++:適応症+:適応菌(117)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011271ことが特長と思われる.今回はニューキノロンおよびアミノグリコシドの局所投与や他の点滴薬剤との比較検討を行ったわけではないので明らかな有効性は論じられないが,健康人に投与する限り重大な合併症をひき起こす可能性は少ないものと思われる.対象症例が10~40歳代のCLユーザー層であったため,より高齢者にDRPMが安全かどうかはさらなる検討が必要と思われる.以上のことより緑膿菌感染に対して抗菌力が強く,比較的安全性も高いため緑膿菌性角膜潰瘍の重症例に点滴を行うとすればDRPMも選択肢の一つと考えられた.本論文の要旨は第46回日本眼感染症学会にて発表した.文献1)秦野寛:コンタクトレンズと細菌感染.日コレ誌38:122-124,19962)中村行宏,松本光希,池間宏介ほか:NTT西日本九州病院における感染性角膜炎.あたらしい眼科26:395-398,20093)福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科80:693-698,20094)吉田勇,藤村享滋,伊藤喜久ほか:各種抗菌薬に対する2004年臨床分離好気性グラム陰性菌の感受性サーベイランス.日化療会誌56:562-579,20085)宇野俊彦:コンタクトレンズケア.日本の眼科80:699-702,20096)深谷翼:判例にみる眼科医療過誤(その2)細菌性(緑膿菌性)角膜潰瘍と医師の治療上の過失.眼臨80:2430-2433,19867)井上幸次,日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,20078)DrusanoGL:Preventionofresistance:agoalfordoseselectionforantimicrobialagents.ClinInfectDis36:42-50,20039)CraigWA:Pharmacokinetic/pharmacodynamicparameters:rationaleforantibacterialdosingofmiceandmen.ClinInfectDis26:1-10,199810)山野佳則,川井悠唯,湯通堂隆ほか:Doripenemのヒトdehydropeptidase-Iに対する安定性.日化学療会誌53:92-95,200511)灘井雅行,長谷川高明:腎における薬物の排泄機構.医学のあゆみ215:495-500,200512)大石正夫,宮永嘉隆,大野重昭ほか:Doripenemの眼組織移行性と眼科領域感染症に対する臨床効果.日化療会誌53:313-322,2005***

最近11年間に経験したアカントアメーバ角膜炎の28例の臨床的検討

2010年5月31日 月曜日

680あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(00)《原著》あたらしい眼科27(5):680.686,2010cはじめにアカントアメーバ角膜炎(AK)は,1974年Nagingtonら1)によって初めて報告され,わが国では1988年石橋ら2)がソフィーナRの装用者に初めて報告した比較的新しい角膜感染症である.病原体に対する特異的治療法がないために,罹病すると長期間の加療を要するほか,高度の視機能低下をきたす例も少なくない.アカントアメーバは土壌,砂場,室内の塵,淡水など自然界に広く生息し,栄養体あるいはシストとして存在する.栄養体は細菌や酵母を餌として増殖するが,貧栄養・乾燥などの悪条件下ではシスト化する.シストは強靱な耐乾性・耐薬品性をもっており,AKが難治性である理由の一つとされている3).〔別刷請求先〕篠崎友治:〒793-0027西条市朔日市269番地1済生会西条病院眼科Reprintrequests:TomoharuShinozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiSaijouHospital,269-1Tsuitachi,Saijou-shi,Ehime793-0027,JAPAN最近11年間に経験したアカントアメーバ角膜炎28例の臨床的検討篠崎友治*1宇野敏彦*2原祐子*3山口昌彦*4白石敦*3大橋裕一*3*1済生会西条病院眼科*2松山赤十字病院眼科*3愛媛大学医学部眼科学教室*4愛媛県立中央病院眼科ClinicalFeaturesof28CasesofAcanthamoebaKeratitisduringaRecent11-YearPeriodTomoharuShinozaki1),ToshihikoUno2),YukoHara3),MasahikoYamaguchi4),AtsushiShiraishi3)andYuichiOhashi3)1)DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiSaijouHospital,2)MatsuyamaRedCrossHospital,3)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicineEhimeUniversity,4)DepartmentofOphthalmology,EhimePrefecturalCentralHospital目的:近年アカントアメーバ角膜炎(AK)の増加が問題となっている.今回,筆者らは最近11年間の愛媛大学眼科(以下,当科)にて加療したAK症例の臨床像を検討したので報告する.対象および方法:対象は1998年から2008年の間に当科を受診,加療したAK28例(男性14例,女性14例,平均年齢33.4±14.2歳)で,経年的な症例数の変化,初診時の病期と臨床所見,当科受診前の診断と治療内容,コンタクトレンズ(CL)の使用状況,当科における治療内容,視力予後などを診療録から調査,検討した.結果:近年症例数は増加傾向で2007年発症例は8例,2008年は6例であった.28例中,初期は20例であり,角膜上皮・上皮下混濁は全例に,放射状角膜神経炎,偽樹枝状角膜炎も高頻度に認めた.完成期は8例であり,このうち輪状浸潤は4例,円板状浸潤は4例であった.当科加療前に角膜ヘルペスが疑われた症例は10例あった.前医の治療でステロイド点眼薬が使用された症例は19例あった.28例中25例がCL装用者であり,うち16例は頻回交換型ソフトCLを使用していた.視力予後は初期の症例で良好であった.完成期のうち5例は治療的角膜移植を必要とした.結論:AKの症例は近年増加傾向にあるが,特徴的な臨床所見,患者背景をもとに初期例を検出し,早期に治療を行うことが視力予後の観点から重要である.ToelucidatetheclinicalfeaturesofAcanthamoebakeratitis(AK),wereportoncasesofAKdiagnosedandtreatedatEhimeUniversitybetween1998and2008.The28patientsinthisstudyaveraged33.4yearsofage.As8and6caseswereexperiencedin2007and2008respectively,theincreasingtendencyinthenumberofcaseswasconfirmed.Ofthe28patients,20werediagnosedasearlystage,8aslatestage.Epithelialand/orsubepithelialopacity,radialkeratoneuritisandpseudodendriticlesionwerecommonintheearlystage.Ultimately,10patientswerediagnosedwithherpetickeratitis;19hadusedtopicalsteroidbeforevisitingourfacilityand25werecontactlensusers.Visualprognosisisfairintheearlystagecases;5casesinthelatestageunderwenttherapeuticcornealtransplantation.EarlydiagnosisofAKiscriticalforabetterprognosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):680.686,2010〕Keywords:アカントアメーバ角膜炎,コンタクトレンズ,角膜ヘルペス,放射状角膜神経炎.Acanthamoebakeratitis,contactlens,herpetickeratitis,radialkeratoneuritis.(108)0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(109)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010681米国WillsEyeHospitalは2004年以降,急激にAK症例数が増加していることを報告4)しているが,コンタクトレンズ(CL)および眼感染症学会が共同で行った全国アンケート調査結果や学会における報告数が示すように,わが国でも増加傾向にあると推定される.AKがCL装用者に圧倒的に多いことはよく知られているが,先のWillsの報告によれば,米国でのCL使用者は2003年の3,500万人から,2006年には4,500万人を超えたとされており5),CL装用者の増加がAK症例数の増加の一因としてあげられている.これはわが国においても同様で,現在,1,700万人程度の装用者が存在し,経年的に増加している.現時点におけるユーザーのトレンドはソフトコンタクトレンズ(SCL)にあり,2週間を代表とする頻回交換型と1日使い捨てのSCLがシェアを二分している.このうち,前者の頻回交換型SCLでは,毎日のレンズケアが安全な装用に不可欠であるが,こすり洗いなどが十分に実施されていない状況が種々のアンケート調査で浮き彫りとなっている.また,ケア用品の主流である多目的用剤(MPS)の消毒効果が従来の煮沸消毒あるいは過酸化水素に比べて弱いことがAK増加の要因の一つとなっている可能性が指摘されている.愛媛大学医学部附属病院眼科(以下,当科)においても,近年AKの診断治療を行う機会が多くなった.今回筆者らは,過去11年間に経験したAK症例について,その臨床像・発症の契機・視力予後などをレトロスペクティブに検討したので報告する.I対象および方法対象は1998年から2008年の間に当科において加療を行ったAK28例(男性14例,女性14例,平均年齢33.4±14.2歳)である.各年における症例数,初診時の病期分類と臨床所見,当科受診前の前医における診断と治療内容,CL装用の有無とその使用状況,当科における治療内容,視力予後について診療録内容を調査した.なお,病型分類および臨床所見は日眼会誌111巻10号「感染性角膜炎診療ガイドライン」6)に準じた.また,前医における診断と治療内容は紹介状における記載内容に従った.角膜上皮擦過物から検鏡あるいは培養にてアカントアメーバを検出された症例を診断確定例とした.検鏡は擦過物をスライドグラスに塗抹後KOHパーカーインク染色,グラム染色,ファンギフローラYR染色などを用いて観察した.培養は大腸菌の死菌〔マクファーランド(Mcfarland)5以上の新鮮大腸菌懸濁液を60℃1時間加熱処理〕をNN寒天培地に塗布したものを用い,25℃2週間を目処に観察を行った.なお今回,検鏡,培養がともに陰性であっても特徴的な臨床所見を有し,その治療経過がAKに矛盾しなかった症例も推定例として検討に含めた.II結果1.検鏡・培養によるアカントアメーバの検出対象となった28例のうち検鏡にてアカントアメーバを検出した症例は14例(50%),培養で同定された症例は検鏡でも検出されている3例を含め6例(21%)であった.検鏡,培養ともに陰性の症例は11例(39%)であった.2.経年的な症例数変化および病期分類対象28例の概要を表1に示した.1998年から2002年までは,年間1.2例程度で推移している.その後,年によるばらつきはあるが,2005年は4例,2007年は8例,2008年は6例とAK症例は次第に増加傾向を示している(図1).病期別では,初期が20例(20/28,71%),完成期が8例(8/28,29%)であったが,特に,2005年以降は初期の症例数の増加傾向が著しい.3.初診時臨床所見初期の症例における初診時所見を図2に示す.角膜上皮・上皮下混濁は全例(20/20,100%)に認められた.このほか,放射状角膜神経炎は16例(16/20,80%),偽樹枝状角膜炎は12例(16/20,60%)と高頻度にみられた.一方,完成期は輪状浸潤が認められたもの4例(4/8,50%),円板状浸潤1998年1999年2000年2001年2002年2003年2004年2005年2006年2007年2008年9876543210症例数■:初期■:完成期図1アカントアメーバ角膜炎症例数および病期分類60%05101520症例数偽樹枝状角膜炎放射状角膜神経炎80%角膜上皮・上皮下混濁100%図2初期20症例の初診時臨床所見682あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(110)が認められたもの4例(4/8,50%)であった.なお,今回の検討対象において,移行期7)あるいは成長期8)に相当するものはみられなかった.4.前医における診断および治療前医における診断(疑いを含む)を表2に示す.アカントアメーバ角膜炎の診断(疑いを含む)で紹介されたものが10例(10/28,36%),ヘルペス性角膜炎の診断で紹介されたものも同じく10例であった.角膜浮腫の3例はいずれもその原因がCL装用に起因するものと判断されて紹介受診されたものである.一方,前医においてステロイド点眼薬が使用されていた症例は19例(19/28,68%)であった.発症から当科初診までの期間(表1)は調査期間の後半で短くなってい表2前医の診断前医の診断(疑いを含む)症例数*アカントアメーバ角膜炎10ヘルペス性角膜炎10角膜浮腫3角膜炎3真菌感染1角膜外傷1不明1*重複あり.表1当院におけるアカントアメーバ角膜炎の28症例症例番号初診年年齢(歳)性別病期初診時矯正視力発症から当院初診までの日数発症時装用していたコンタクトレンズ点眼薬,眼軟膏1199853男性完成期0.0240HCLペンタ,FLCZ,MCZ,CHX2199841女性完成期光覚弁52HCLペンタ,FLCZ,MCZ,CHX3199949女性完成期0.47使用なしペンタ,FLCZ,MCZ,CHX,PMR-oint4200070男性完成期0.15138使用なしFLCZ,MCZ,PHMB,IPM,AMK5200040女性初期1.28HCLFLCZ,MCZ,PHMB,OFLX-oint6200119女性初期0.0619従来型SCLFLCZ,MCZ,CHX,PMR-oint7200228男性初期0.216HCLFLCZ,MCZ,CHX,PMR-oint8200358男性完成期指数弁32不明FLCZ,MCZ,LVFX9200356女性完成期手動弁210HCLMCFG,MCZ,PMR-oint10200319男性完成期手動弁13FRSCLMCZ,FLCZ,LVFX,PMR-oint11200517男性初期1.239FRSCLGFLX,MCZ,CHX,PMR-oint,ACV-oint12200536女性完成期指数弁11FRSCLGFLX,FLCZ,MCZ,CHX,PMR-oint13200519女性初期0.412FRSCLGFLX,FLCZ,MCZ,CHX,VRCZ,PMR-oint14200526男性初期0.4524FRSCLGFLX,FLCZ,MCZ,CHX,VRCZ,PMR-oint,LVFX,Rd15200758女性完成期0.0590FRSCLMCZ,CHX,VRCZ,PMR-oint16200725女性初期0.9514FRSCLGFLX,MCZ,CHX,VRCZ,PMR-oint17200723男性初期0.427FRSCLMCZ,CHX,VRCZ,PMR-oint18200736男性初期0.1590従来型SCLMCZ,CHX,VRCZ,PMR-oint19200718女性初期0.0314FRSCLGFLX,CHX,VRCZ,PMR-oint20200725女性初期0.520FRSCLMCZ,CHX,VRCZ,PMR-oint21200724男性初期0.516定期交換SCLGFLX,CHX,VRCZ,PMR-oint22200735男性初期0.6141daydisposableGFLX,CHX,VRCZ,PMR-oint23200819男性初期0.665FRSCL加療なし(前医でAK加療後)24200825女性初期0.227FRSCLCHX,VRCZ,PMR-oint25200825女性初期0.64FRSCLLVFX,CHX,VRCZ,PMR-oint,PHMB26200833男性初期手動弁32FRSCLGFLX,CHX,VRCZ,AMPH,PMR-oint,PHMB27200828女性初期1.260FRSCLCHX,VRCZ,PMR-oint28200830男性初期0.416FRSCLGFLX,CHX,VRCZ,PMR-ointペンタ:イセチオン酸ペンタミジン(ベナンバックスR),FLCZ:フルコナゾール(ジフルカンR),MCZ:ミコナゾール(フロリードR),CHX:グルコン酸クロルヘキジン(ステリクロンR),PMR-oint:ピマリシン眼軟膏(ピマリシンR眼軟膏),OFLX-oint:オフサロキサシン眼軟膏(タリビッドR眼軟膏),LVFX:レボフロキサシン(クラビットR),GFLX:ガチフロキサシン水和物(ガチフロR),VRCZ:ボリコナゾール(ブイフェンドR),AMPH:アムホテリシンB(ファンギゾンR),PHMB:ポリヘキサメチレンビグアニジン,MCFG:ミカファンギン(ファンガードR),IPM:イミペネム水和物(チエナムR),AMK:硫酸アミカシン(アミカシンR),Rd:合成副腎皮質ホルモン,ITCZ:イトラコナゾール(イトリゾールR),ACV:アシクロビル(ゾビラックスR),カルバ:クエン酸ジエチルカルバマジン(スパトニンR),-oint:眼軟膏,-po:内服,-div:点滴,PKP:全層角膜移植,LKP:表層角膜移植,TR:トラベクレクトミー,HCL:ハードコンタクトレンズ,FRSCL:頻回交換型ソフトコンタクトレンズ.(111)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010683る傾向が認められた.5.患者の背景因子とCLの使用状況(表3)CL装用者は25例(25/28,89%)であり,装用歴のない症例が2例(2/28,7%),不明が1例(1/28,4%)であった.CL装用者では,頻回交換ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者が16例と最も多く,続いてハードコンタクトレンズ(HCL)5例,使い捨てSCL2例,従来型SCL2例であった.CLのケア状況については診療録に記載があった範表1つづき症例番号結膜下注射全身投与薬外科的治療角膜擦過回数入院日数最終観察時矯正視力1MCZ,FLCZカルバ-po61401.22MCZ,FLCZITCZ-poPKP1118指数弁3MCZ,FLCZITCZ-po,ACV-po121151.24MCZ,FLCZITCZ-po,IPM-divPKP22061.25MCZ,FLCZITCZ-po2441.26MCZITCZ-po,MCZ-div3771.27MCZITCZ-po,FLCZ-div78418MCZ,FLCZMCZ-divPKP0580.89MCFGMCFG-divPKP,TR0590.0510MCZMCZ-div3380.811ITCZ-po5431.212MCZITCZ-poLKP1901.513ITCZ-po6330.614ITCZ-po5951.215VRCZ-po8671165291.2179371.5185590.41911510.8202121.22113680.8227321.223001241101.2252181.226VRCZ-po1580.02271111.228101表3AK発症の契機となったCLの種類と使用状況発症時使用していたCL症例数(%)こすり洗いをしなかったケアに水道水を使用CLケースをまったく交換したことがない頻回交換ソフトコンタクトレンズ(SCL)16(57%)942ハードコンタクトレンズ(HCL)5(18%)使い捨てSCL2(7%)11従来型SCL2(7%)1装用なし2(7%)不明1(4%)合計28(100%)1053表4使用されていた保存液の種類使用されたCL洗浄保存液症例数ロートCキューブR7レニューR2アイネスR2コンプリートR2オプティ・フリーR1684あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(112)囲に限られるが,「こすり洗いをしなかった」が10例,「SCLのケアに水道水を使用」が5例,「レンズケースの交換をまったくしたことがない」が4例あった.SCL装用者のなかで使用していたケア用品について記載があったものが14例あった.この14例はすべてMPSを使用していた.その内訳を表4に示す.6.治療内容とその経年的変遷初期の一部症例を除いて,アゾール系薬剤および消毒剤であるpolyhexamethylenebiguanide(PHMB,0.02%に調整)を,あるいはchlorhexidinedigluconate(CHX,0.02%に調整),ピマリシン眼軟膏が治療の主体であった(表1).アゾール系薬剤の結膜下注射および全身投与は2005年頃まで行っていたが,2007年頃からは施行していない.角膜病巣部掻爬については症例ごとのばらつきが大きいが,近年は初期例の紹介が増えたこともあって,その施行回数は減少傾向であり,診断目的を含めた初診時の1回のみで治癒できた症例も少なくなかった.7.視力予後初診時および最終観察時点での矯正視力を図3に示す.初期症例のうち17例(17/20,85%)は最終矯正視力0.8以上が得られた.完成期8症例のうち点眼など,内科的治療のみで比較的良好な視機能を確保した症例は3例(3/8,38%)あり,いずれも最終矯正視力0.8以上であった(表1).角膜移植を施行したのは5症例(5/8,63%)で,そのうち3症例は最終矯正視力0.8以上を得た.残りの2症例は矯正視力0.05および指数弁であった.III考按近年,日本コンタクトレンズ学会および日本眼感染症学会の主導でコンタクトレンズ装用が原因と考えられる角膜感染症で入院治療をした症例を対象とする全国調査が行われた.平成19年4月からの1年間の中間報告9)では,233例のうち,角膜擦過物の塗抹検鏡にて40例,分離培養では32例でアカントアメーバが検出されている.これはCL関連角膜感染症の代表的な起炎菌である緑膿菌が角膜病巣より分離された47例に匹敵する症例数であり,AKがわが国においてすでに普遍的な感染症になっていることを物語っている.AK症例の増加についてはこれまでにもいくつかの指摘4,10)があるが,中四国地域から紹介を受けることの多い当院においても,2007年以降同様の増加傾向がみられることが確認できた.AKの確定診断は患者の角膜擦過物からアカントアメーバを同定することによりなされるべきである.当院では前医においてアカントアメーバが同定されている症例,あるいは前医での治療ですでに瘢痕化しつつあるような症例を除き,全例で角膜病巣部を擦過しファンギフローラYR染色などののち検鏡を行っている.検鏡にてアカントアメーバが確認できない場合,複数回角膜擦過をくり返す症例を中心に一部の症例で培養検査も行っている.今回対象となった症例で培養陽性は6例と少なかったが,これは培養検査に供した検体数が限定されていた要因が大きく,培養陽性率についての検討はできなかった.一方,AKにおいてはきわめて特徴的な臨床所見がみられることが多く,典型例ではかなりの確度で臨床診断することも可能である.筆者らの検討においても,AK初期症例の80%に放射状角膜神経炎が認められたほか,角膜上皮・上皮下混濁,偽樹枝状角膜炎の所見を呈する頻度も高いため,これらの所見を把握しておくことはAKの早期診断に最も重要なことと考えられる.AKの病期に着目すると,完成期の症例は減少傾向だが,初期の症例が増加傾向であった.これにはさまざまな要因が考えられるが,AKに対する眼科医の認知度が近年非常に高まり,比較的早期に診断あるいは疑いをもたれて専門の医療機関に紹介される症例が増加していることの結果と推察される.筆者らの検討においても前医にてAKの診断をうけていたものが10例もあり,第一線における眼科医の診断レベルの向上がうかがわれる.AKでは,特にヘルペス性角膜炎との鑑別が問題となることが多い1,11,12).筆者らの検討においても10例(36%)がAK診断前にヘルペス性角膜炎が疑われていた.円板状角膜炎など実質型のヘルペス性角膜炎が疑われれば抗ウイルス薬のほかにステロイド点眼あるいは内服が使用されることが多い.このほか,角膜上皮の混濁がアデノウイルス感染の混濁と類似していることも多く13,14),抗菌薬とステロイド点眼が使用されている場合もある.AKにおいてステロイド点眼が使用されると一時的に結膜充血や角膜浸潤が軽減し,AKの診断が遅れて病状を悪化させることになるので注意が必要である1,12).また,ステロイド存在下においてアカントアメー0.010.1初診時矯正視力最終矯正視力10.01◆:初期0.1■:完成期1図3初診時視力と最終視力(ただし,視力0.01以下はすべて0.01としてグラフに示した)(113)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010685バのシスト,栄養体ともに増加し,症状が進行するといった動物モデルでの報告もある15).AKの症例の多くがCL装用者である4,10,11,16).これは,言い換えれば,CL装用がAK発症の最大の危険因子であることを意味している.しかし,最近におけるAK症例の増加はCL装用者人口の増加のみで単純に説明しえるものではない.今回対象となった症例のなかにも,発症前にCLを不適切に使用されている例が多く認められ,極端な例では,使い捨てCLでありながら保存して再使用し,かつ不適切に保存していた.CLの不適切な管理はAK発症の契機であり,これが昨今のAK症例の増加の一因であることが考えられる.CLケースは洗面所など水回りに保管されることがほとんどのため,環境菌に汚染されやすいが,アメーバはそれらの細菌を栄養源にして生息している.このように,汚染したCLケースがアメーバや緑膿菌などの感染の温床となっていると考えられる16,17).レンズケースの洗浄,乾燥と定期的な交換,こすり洗いやすすぎなど,レンズケアの重要性について広く啓発していく必要がある.レンズ消毒の主流であるMPSのアメーバに対する消毒効果については議論の多いところである.基本的に,MPSのシストへの有効性は栄養体に比べてはるかに劣る.MPSへの浸漬時間を8時間と仮定したとき,アメーバシストに対して有効とされるMPSはいくつかあるが,多くのMPSでは十分な効果は期待できない18).また,たとえアカントアメーバ自体に対して有効であったとしても,CLに付着しているアメーバに対しMPSが有効に機能しない可能性はある16).結論として,MPSのアカントアメーバに対する消毒効果は不十分と考えるべきであり19),確実な消毒剤の開発は今後の大きな課題と思われる.AKの治療としては,いわゆる“三者併用療法”が従来から提唱されている6,20).これは,①フルコナゾール,ピマリシンなどの抗真菌薬の点眼または軟膏塗布,②イトラコナゾール,ミコナゾールなどの抗真菌薬の内服または経静脈投与,③外科的病巣掻爬を並行して行うものである.抗真菌薬は栄養体に対して一定の効果が確認されているが,シストにはほぼ無力であり21),その分,病巣掻爬を含めた外科的治療に依存する部分が多かったと考えられる.最近では,抗シスト薬として,消毒薬であるPHMBまたはCHXを0.02%に調整のうえで点眼投与することが一般的となり,当科においても今回対象となった症例のほとんどでCHXを,一部の症例でPHMBの点眼を使用している.AKに対するPHMB,CHXの治療効果は同等であるとされ22),治療にPHMBやCHXが用いられるようになってから治療成績が向上しているとの報告もある11,23,24).どのような治療の組み合わせが最も効果的か,今後の検討が望まれるところである.視力予後については,初期の症例で比較的良好な結果であった.完成期においても最終視力が良好であった症例が多くを占めたが,その過半数において治療的角膜移植が施行されていた.AKに対して角膜移植を行った症例数については,米国のWillsEyeHospitalは31症例中2症例(6%)4),英国のMoorfieldsEyeHospitalは56症例中5症例(9%)22)と報告している.診断の遅れにより重症化し,角膜移植などの外科的治療の必要性が高まることはこれまでにもしばしば指摘されているところである12,25)が,当科において角膜移植症例が多いのは今回の調査期間の前半に完成期の症例が多かったためと考えられる.今後,AKの早期診断率がさらに向上し,角膜移植を必要とする割合は減少することが大いに期待される.文献1)NagingtonJ,WatsonPG,PlayfairTJetal:Amoebicinfectionoftheeye.Lancet2:1537-1540,19742)石橋康久,松本雄二郎,渡辺亮ほか:Acanthamoebakeratitisの1例.日眼会誌92:963-972,19883)大橋裕一,望月學:アカントアメーバ.眼微生物事典.p260-267,メジカルビュー社,19964)ThebpatiphatN,HammersmithKM,RochaFNetal:Acanthamoebakeratitis:Aparasiteontherize.Cornea26:701-706,20075)FoulksGN:Acanthamoebakeratitisandcontactlenswear.EyeContactLens33:412-414,20076)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:770-809,20077)石橋康久,本村幸子:アカントアメーバ角膜炎の臨床所見─初期から完成期まで─.日本の眼科62:893-896,19918)塩田洋,矢野雅彦,鎌田泰夫ほか:アカントアメーバ角膜炎の臨床経過の病期分類.臨眼48:1149-1154,19949)福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査委員会コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科80:693-698,200910)AwwadST,PetrollWM,McCulleyJPetal:UpdatesinAcanthamoebakeratitis.EyeContactLens33:1-8,200711)ButlerKH,MalesJJ,RobinsonLPetal:Six-yearreviewofAcanthamoebakeratitisinNewSouthWales,Australia1997-2002.ClinExperimentOphthalmol33:41-46,200512)太刀川貴子,石橋康久,藤沢佐代子ほか:アメーバ角膜炎.日眼会誌99:68-75,199513)GoodallK,BrahmaA,RidgwayA:Acanthamoebakeratitis:Masqueradingasadenoviralkeratitis.Eye10:643-644,199614)TabinG,TaylorH,SnibsonGetal:AtypicalpresentationofAcanthamoebakeratitis.Cornea20:757-759,200115)McClellanK,HowardK,NiederkornJYetal:EffectofsteroidsonAcanthamoebacystsandtrophozoites.InvestOphthalmolVisSci42:2885-2893,200116)IllingworthCD,StuartD,CookSD:Acanthamoebakeratitis.SurveyOphthalmol42:493-508,199817)LarkinDFP,KilvingtonS,EastyDL:Contaminationof686あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010contactlensstoragecasesbyAcanthamoebaandbacteria.BrJOphthalmol74:133-135,199018)HitiK,WalochnikJ,MariaHallerSchoberEetal:EfficacyofcontactlensstoragesolutionsagainstdifferentAcanthamoebastrains.Cornea25:423-427,200619)KilvingtonS,HeaselgraveW,LallyJMetal:EncystmentofAcanthamoebaduringincubationinmultipurposecontactlensdisinfectantsolutionsandexperimentalformulations.EyeContactLens34:133-139,200820)石橋康久:アカントアメーバ角膜炎の治療─トリアゾール系抗真菌剤の内服,ミコナゾール点眼,病巣掻爬の3者併用療法.あたらしい眼科8:1405-1406,199121)ElderMJ,KilvingtonS,DartJK:AclinicopathologicstudyofinvitrosensitivitytestingandAcanthamoebakeratitis.InvestOphthalmolVisSci35:1059-1064,199422)LimN,GohD,BunceCetal:ComparisonofpolyhexamethylenebiguanideandchlorhexidineasmonotherapyagentsinthetreatmentofAcanthamoebakeratitis.AmJOphthalmol145:130-135,200823)BaconAS,FrazerDG,DartJKetal:Areviewof72consecutivecasesofAcanthamoebakeratitis1984-1992.Eye7:719-725,199324)DuguidIG,DartJK,MorletNetal:OutcomeofAcanthamoebakeratitistreatedwithpolyhexamethylbiguanideandpropamidine.Ophthalmology104:1587-1592,199725)Perez-SantonJJ,KilvingtonS,HughesRetal:PersistentlyculturepositiveAcanthamoebakeratitis.Ophthalmology110:1593-1600,2003(114)***

鳥取大学における若年者の角膜感染症の現状

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(91)8150910-1810/09/\100/頁/JCLS45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(6):815819,2009cはじめに近年,角膜感染症の若年化が問題となっており,2003年に行われた感染性角膜炎の全国サーベイランス1)においても,年齢分布は二峰性を示し,60歳代以外に20歳代にもピークを生じていた.さらに,若年層ではコンタクトレンズ(CL)使用中の感染が9割以上を占め,わが国の感染性角膜炎の発症の低年齢化の大きな原因として,CLの使用がある1,2).この10数年間に,使い捨てソフトCL(DSCL)や頻回交換ソフトCL(FRSCL)の登場により,装用者は急激に増加し,CLの使用状況は大きく変わっている.約1,500万人を超えるといわれるCL装用者がいるなか,近年,CL使用の低年齢化が起こり,10歳代,20歳代の若者の使用が増〔別刷請求先〕池田欣史:〒683-8504米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学Reprintrequests:YoshifumiIkeda,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishi-cho,Yonago,Tottori683-8504,JAPAN鳥取大学における若年者の角膜感染症の現状池田欣史稲田耕大前田郁世大谷史江清水好恵唐下千寿石倉涼子宮大井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学CurrentStatusofInfectiousKeratitisinStudentsatTottoriUniversityYoshifumiIkeda,KohdaiInata,IkuyoMaeda,FumieOtani,YoshieShimizu,ChizuToge,RyokoIshikura,DaiMiyazakiandYoshitsuguInoueDivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity近年,角膜感染症の若年化が問題となっており,重症例が増加している.今回,当院での若年者の角膜感染症の現状を報告する.2004年1月2008年2月に入院加療した角膜感染症患者のうち,発症年齢が30歳未満であった13例14眼を対象に,コンタクトレンズ(CL)使用状況・治療前後の視力・起炎菌について検討した.発症年齢1428歳.男性5例5眼,女性8例9眼.11例で頻回交換ソフトCL,1例でハードCLを使用していた.初診時視力が0.5以下は9例10眼,0.1以下は6例7眼であった.治療後の最高視力は比較的良好であったが,0.04にとどまった例が1例,治療的角膜移植施行例が1例あった.推定起炎菌はアカントアメーバ4眼,細菌10眼であり,分離培養で確認されたものは緑膿菌2眼,黄色ブドウ球菌2眼,セラチア1眼,コリネバクテリウム1眼であった.若年者角膜感染症でも特に重症例が増加しており,早期の的確な診断・治療の重要性とともにCL装用における感染予防策の必要性が示唆された.WereportthecurrentstatusofinfectiouskeratitisinstudentsatTottoriUniversity.Wereviewedtherecordsof14eyesof13patientsbelow30yearsofageamongthosetreatedforinfectiouskeratitisatTottoriUniversityHospitalfromJanuary2004toFebruary2008.Patientswereevaluatedastomethodofcontactlensuse,visualacuitybeforeandaftertreatmentandmicrobiologicaletiology.Theagedistributionrangedfrom14to28years.Ofthe13patients,11usedfrequent-replacementsoftcontactlensesand1usedhardcontactlenses.Atinitialvisit,thevisualacuityof10eyes(9patients)waslessthan20/40,andthatof7eyes(6patients)waslessthan20/200.Bettervisualacuitywasnotedaftertreatmentinallbut2cases,1ofwhichhadpoorvisualacuity,theotherhav-ingreceivedpenetratingkeratoplasty.ThepresumedcausativeagentswereAcanthamoebaspeciesin4eyesandbacteriain10eyes.SomeofthesewereprovenbyculturingtobePseudomonasaeruginosa(2eyes),Staphylococ-cusaureus(2eyes),Serratiamarcescens(1eye)andCorynebacterium(1eye).Reportsofyoungercasesofcontactlens-relatedsevereinfectiouskeratitishavebeenontheincrease.Theimportanceofearlyproperdiagnosisandtreatmentisindicated,asistheneedforstrategyinpreventingcontactlens-relatedinfectiouskeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):815819,2009〕Keywords:角膜感染症,若年者,アカントアメーバ,緑膿菌,コンタクトレンズ.infectiouskeratitis,younggeneration,Acanthamoeba,Pseudomonasaeruginosa,contactlens.———————————————————————-Page2816あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(92)加している.今後ますます若年者のCL原因の感染性角膜炎が増加すると予想される.啓発活動も含めた意味で,今回筆者らは,鳥取大学における角膜感染症のうち,特に30歳未満の若年者を対象に,CLの使用状況・起炎菌・初診時視力・治療後視力などについて検討し,予防策について考察したので報告する.I対象および方法対象は,鳥取大学医学部附属病院眼科において2004年1月から2008年2月までの約4年間に,入院加療を要した角膜感染症117症例(ヘルペス感染を含む)のうち,30歳未満の13例14眼(男性5例5眼,女性8例9眼)である.117症例に対する若年者の割合と若年者全例の年齢・性別・発症から当院紹介までの日数・初診時視力・治療後最高視力・起炎菌・前医での治療の有無・ステロイド使用歴の有無・CLの種類や使用状況についての検討を行った.II結果角膜感染症117症例全体の若年者の年代別の割合を図1に示す.2004年は5.9%,2005年は0%,2006年は9.5%と低かったが,2007年には21.4%と上昇し,2008年には1月,2月のみで,42.9%と高かった.なお,30歳未満13例表1全症例(13例14眼)の内訳症例年齢(歳)性別患眼発症から当院初診までの日数起炎菌初診時視力治療後最高視力前医での治療114女右42アカントアメーバ0.81.2あり(ステロイド)217女右4細菌0.81.2なし322男右11細菌0.091.0なし注1415女左3セラチア0.91.2あり528女右14アカントアメーバ0.21.0あり(ステロイド)621男左22アカントアメーバ0.41.5あり719男左2緑膿菌0.51.0あり(ステロイド)816女左3細菌手動弁/30cm0.9あり928男左3細菌1.21.5なし1024女右4黄色ブドウ球菌0.030.9なし24女左4黄色ブドウ球菌0.011.2なし1118女左33アカントアメーバ指数弁/15cm1.2注2あり(ステロイド)1216女左4緑膿菌手動弁/10cm0.04あり1323男左2コリネバクテリウム0.030.6なし注1:知的障害およびアレルギーあり.注2:治療的全層角膜移植術施行後の視力.症例CLの種類CL誤使用の有無1FRSCL(1M)無2FRSCL(2W)有(就寝時装用)3なし4FRSCL(2W)無5FRSCL(2W)無6FRSCL(2W)無7FRSCL(1M)有(使用期限超え,消毒不適切)8FRSCL(1M)有(連続装用,消毒不適切)9FRSCL(2W)有(連続装用,消毒不適切)10HCL有(消毒不適切)HCL有(消毒不適切)11FRSCL(1M)有(消毒不適切)12FRSCL(1M)有(就寝時装用,消毒不適切)13FRSCL(2W)有(連続装用,消毒不適切)05101520253035402004年2005年2006年2007年2008年(12月):30歳以上:30歳未満2/34(5.9)0/27(0)2/21(9.5)6/28(21.4)3/7(42.9)症例数(人)図1鳥取大学における角膜感染症の若年者の割合の推移(13/117症例)上段の数値は年別の若年者数/全症例数(若年者の割合)を示す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009817(93)14眼の内訳(表1)は,男性5例5眼,女性8例9眼で,発症年齢は1428歳(平均20±5歳)であり,10歳代が7例と半数近くを占めていた.初診時矯正視力は0.5以下が9例10眼で,0.1以下が6例7眼と重症例が目立った.治療後最高視力は0.6以上が11例12眼で,1.0以上が9例9眼と比較的良好であった.しかし,最終的に1例は治療的角膜移植術を行い,1例は最終視力0.04と視力不良であった.症例3は知的障害とアレルギー性結膜炎があり,角膜潰瘍を生じた例で,それ以外は,全例CL使用者で,11例にFRSCL,1例にハードCL(HCL)の装用を認めた.なお,CLの洗浄,擦り洗い,CLケースの定期交換などの適切な消毒を行っていない症例や,CLの使用期限を守らない,就寝時装用,連続装用など不適切なCL装用状況が8例9眼で認められた.推定起炎菌は細菌が10眼,アカントアメーバが4眼で,細菌10眼のうち6眼が分離培養できたが,アカントアメーバは分離培養できておらず,検鏡にて確認した.HCL使用の1例2眼で黄色ブドウ球菌が検出され,FRSCLでは緑膿菌が2眼,セラチアとコリネバクテリウムが1眼ずつ検出された.なお,セラチアは主要な細菌性角膜炎の起炎菌であり1),病巣部より分離培養できたことから起炎菌と判断した.コリネバクテリウムは結膜の常在菌であり,角膜での起炎性は低いが,この例では病巣部よりグラム陽性桿菌を多量に認め,分離培養結果も一致し,好中球の貪食像も認められたため起炎菌とした.また,発症から当院へ紹介されるまでの日数は平均11日であるが,アカントアメーバ角膜炎は平均28日と約1カ月かかっていた.さらに,前医で治療を受けた8例中半数の4例にステロイドの局所または全身投与がなされており,そのうち,3例がアカントアメーバであった.ここで重症例の症例11と12の経過を報告する.〔症例11〕18歳,女性.現病歴:平成19年12月7日左眼眼痛と充血を主訴に近医を受診し,角膜上皮障害にてSCL装用を中止し,抗菌薬,図3症例11:左眼前眼部写真(平成20年1月22日)ステロイド中止後に角膜混濁は悪化した.図5症例11:ホスト角膜の切片(ファンギフローラYR染色)ホスト角膜にアカントアメーバシスト(矢印)が散在した.図2症例11:初診時左眼前眼部写真(平成20年1月8日)角膜中央に円形の角膜浸潤と毛様充血を認め,角膜擦過物よりアカントアメーバシストを認めた.VS=15cm/指数弁.図4症例11:左眼前眼部写真(平成20年3月12日)2月26日に治療的全層角膜移植術を施行した.VS=(1.0).———————————————————————-Page4818あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(94)角膜保護薬の点眼にて経過観察されていた.12月26日に,角膜後面沈着物が出現し,ヘルペス性角膜炎と診断され,ステロイド点眼・内服を追加されるも,改善しないため,平成20年1月7日に鳥取大学医学部附属病院眼科を紹介となった.なお,CLは1日15時間以上使用し,CLの消毒はマルチパーパスソリューション(multi-purposesolution:MPS)を使用し,週に23回しか消毒しておらず,CLケースもほとんど交換していなかった.初診時所見:左眼視力は15cm指数弁で,角膜中央に円形で境界不明瞭な角膜浸潤と角膜浮腫および上皮欠損を生じており,特に下方では潰瘍となっていた(図2).治療:角膜擦過物のファンギフローラYR染色にてアカントアメーバシストが確認されたため,アカントアメーバ角膜炎との診断で,ステロイド中止のうえ,角膜掻爬に加え,イトラコナゾール内服,0.02%クロルヘキシジン・フルコナゾール・1%ボリコナゾール点眼,オフロキサシン眼軟膏の三者併用療法を開始した.ステロイド中止後,角膜混濁は悪化し(図3),ピマリシン点眼に変更するも,治療に反応せず,角膜混濁もさらに悪化したため,平成20年2月26日に治療的全層角膜移植術を施行した(図4).術後,再発を認めず,矯正視力1.2と安定した.なお,角膜移植時に切除したホスト角膜片の病理検査でのファンギフローラYR染色にてアカントアメーバシストが認められた(図5).〔症例12〕16歳,女性.現病歴:平成20年2月7日からの左眼眼痛にて翌日近医を受診し,角膜上皮離の診断にて点眼加療された.2月9日角膜混濁が出現し,抗菌薬の点眼・内服を追加されるも改善せず,2月10日に,角膜潰瘍と前房蓄膿が出現したため,同日,鳥取大学医学部附属病院眼科を紹介となった.なお,CLは1日16時間以上使用し,毎日MPSにて消毒はしていたが,擦り洗いは週に1回程度であり,ときどき装用して就寝することもあった.初診時所見:左眼視力は10cm手動弁で,角膜中央に輪状膿瘍,角膜潰瘍を認め,さらに,前房蓄膿を伴っていた(図6).治療:急速な進行と臨床所見から,緑膿菌感染と判断し,イミペネムの点滴,ミクロノマイシン点眼,オフロキサシン眼軟膏にて治療を開始した.角膜擦過物の塗抹鏡検にてグラム陰性桿菌を認め,後日培養にて緑膿菌を検出した.治療にはよく反応し,翌日には前房蓄膿は消失し,角膜潰瘍は徐々に軽快した.しかし,最終的に角膜中央に混濁を残して治癒し(図7),最終視力は0.04と良好な視力を得られなかった.III考按2003年の角膜サーベイランス1)での年齢分布のグラフにおけるCL非使用の感染性角膜炎の年齢分布は,1972年から1992年にかけての報告を集計した金井らの論文にみられる60歳代にピークをもつ感染性角膜炎の年齢分布2)とあまり変わっていない.このことから,使用しやすいSCL(DSCL,FRSCL)の登場により,CL使用者(おもに若年者)が急激に増加し,その安易な使用によって,CL使用者の感染性角膜炎が上乗せされた形となり,10歳代,20歳代にもう1つのピークが生じたとみてとれる.さらに,10歳代の感染はほぼ100%CL関連であり,20歳代もCL使用が89.8%であったと報告されている.しかも,20歳代の割合が60歳代を上回る状況となっている1,3).20歳代のCL関連の感染の増加はCL使用割合がその年代に多いためと推察されるが,10年後,20年後には,これがさらに上の年代へと拡大していく危険性をはらんでいる.今回,筆者らは30歳未満の若年者を対象にデータ解析を行ったが,CL関連が92.3%であり,レンズの不適切な使用によると思われる感染が大半を占めていた.若年者の失明は以後のQOL(qualityoflife)を大きく損なうため,早期発見と適切な早期治療が必須である.図6症例12:初診時左眼前眼部写真(平成20年2月10日)角膜中央に輪状膿瘍と前房蓄膿を認めた.VS=10cm/手動弁.図7症例12:左眼前眼部写真(平成20年3月11日)最終的に角膜中央に混濁を残して治癒した.VS=0.04(n.c.).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009819(95)今回の4例のアカントアメーバ角膜炎では,症状発生から適切な治療までに2週間から約1カ月半が経過しており,そのうち3例はヘルペス感染との診断にて,ステロイド加療がされており,最終的に1例に治療的角膜移植術を施行した.そのため,眼科医の早期の適切な診断と治療が重要となってくる.CL装用者の場合には,ヘルペスと思われる上皮・実質病変が存在しても,ヘルペスよりもアカントアメーバの感染をまず念頭に置き,前房内炎症が生じていても,ステロイド投与の開始については慎重に考慮する必要がある.また,SCL装用による両眼性アカントアメーバ角膜炎も報告46)されており,診断,治療が困難な場合には,早急に角膜疾患の専門家のいる病院へ紹介することが重要である.一方,細菌感染の場合は,アメーバと異なり進行が速いため,症状発生から紹介までは約4日と短く,抗菌薬頻回点眼・点滴を含めた早期治療が大切となる.細菌性角膜感染炎ではアカントアメーバ角膜炎よりも診断が容易であるが,緑膿菌では進行が速く,重症化するため,症例12のように治癒しても社会的失明の状態となる.若年者の角膜感染による失明を防止するには,CL関連感染角膜感染症の存在とその予防策について,若年のCL装用者に十分知識をもってもらうことが重要である.さらに,CLケースの洗浄や交換が行われていなかった例や,インターネットにて購入した例もあり,眼科専門医の適切な指導のもと,CLの処方のみならず,洗浄液も処方箋による販売が行われる体制が望ましいのではないかと思われる.現にシリコーンハイドロゲルレンズにおいて,洗浄液との相性があわず,上皮障害をひき起こす場合もあり79).眼科医がしっかりとCL装用者のCL使用状況を把握するうえでも,CLと洗浄液とを同時に眼科医が処方できるようにすべきではないかと考える.今回の症例に使用されたSCLはすべてFRSCLであり,適切に使用した症例でも,感染をひき起こしていることを考慮すると,感染予防という点では,現行のMPSでは限界があり,煮沸消毒に及ばないと考えられる10).また,適切に使用すれば外部からの細菌の持ち込みがないという点において,DSCLへの変更も留意する必要がある.一番の問題点はCL使用者がCLの利便性のみにとらわれ,CLの危険性に関して無知であることである.これは,各CLメーカーの宣伝の影響が大きいと考える.SCLのパンフレットには注意事項は裏面に小さな字で記載されているのみで,内容も「調子よく使用し,異常がなくても,定期検査は必ず受けてください」・「少しでも異常を感じたら,装用を中止し,すぐに眼科医の診察を受けてください」といった,当たり障りのない文句が書かれている.適切な使用を怠ると,感染性角膜炎になり,失明する可能性があることを説明し,実際の感染性角膜炎の写真を掲載するなどして,視覚的に訴えていく必要がある.タバコの外箱に記載されている肺癌の危険性と同様に,常時手にとるCLのパッケージへも失明の可能性ありとの記載があると,CL装用者への啓発となると考える.今後も,若年性CL関連角膜感染症は増加していくと推察されるため,CL装用指導と角膜感染症発症についてのCL装用者への啓発の重要性を改めて認識する必要性がある.文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,20062)金井淳,井川誠一郎:我が国のコンタクトレンズ装用による角膜感染症.日コレ誌40:1-6,19983)宇野敏彦:コンタクトレンズの角膜感染症予防法.あたらしい眼科25:955-960,20084)WilhelmusKR,JonesDB,MatobaAYetal:Bilateralacanthamoebakeratitis.AmJOphthalmol145:193-197,20085)VoyatzisG,McElvanneyA:Bilateralacanthamoebakera-titisinanexperiencedtwo-weeklydisposablecontactlenswearer.EyeContactLens33:201-202,20076)武藤哲也,石橋康久:両眼性アカントアメーバ角膜炎の3例.日眼会誌104:746-750,20007)JonesL,MacdougallN,SorbaraLG:Stainingwithsili-cone-hydrogelcontactlens.OptomVisSci79:753-761,20028)植田喜一,稲垣恭子,柳井亮二:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49:187-191,20079)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,200510)白石敦:マルチパーパスソリューション(MPS)の現況および問題点.日本の眼科79:727-732,2008***

入院加療を要したコンタクトレンズ装用が原因と考えられる感染性角膜炎の検討

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(125)5570910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):557560,2009cはじめに感染性角膜炎全国サーベイランスによると,2003年に全国24施設に来院した感染性角膜炎患者の年齢分布は20歳代と60歳代にピークを認める二峰性を示し,20歳代の患者のコンタクトレンズ(CL)使用率は89.8%であったという1).2002年以降の東邦大学医学部医療センター大森病院(以下,当院)にて入院を要した感染性角膜炎の症例においても同様の傾向を示しており,2005年,2006年では約半数がCL使用者であった.近年,CL装用は従来型のハードコンタクトレンズ(HCL)やソフトコンタクトレンズ(SCL)からディス〔別刷請求先〕岡島行伸:〒143-8451東京都大田区大森西7-5-23東邦大学医学部医療センター大森病院眼科学教室Reprintrequests:YukinobuOkajima,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine,7-5-23Omori-nishi,Ota-ku,Tokyo143-8451,JAPAN入院加療を要したコンタクトレンズ装用が原因と考えられる感染性角膜炎の検討岡島行伸小早川信一郎松本直平田香代菜杤久保哲男東邦大学医学部眼科学教室EvaluationofClinicalandEpidemiologicalFindingsinContactLens-RelatedInfectiousCornealUlcersRequiringHospitalizationatTohoUniversity,OmoriHospitalYukinobuOkajima,ShinichiroKobayakawa,TadashiMatsumoto,KayonaHirataandTetsuoTochikuboDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine2005年1月から2007年12月の期間に東邦大学医学部大森病院にて入院加療を要したコンタクトレンズ(CL)が起因と思われる感染性角膜炎18例19眼(男性8例8眼,女性10例11眼,平均年齢25.5±7.9歳)を対象に,①視力(入院時および治療終了時),②種類,③装用方法,④原因と推測される検出細菌の種類と検出経路,⑤発生年について検討した.入院時視力は0.1未満が7眼(36%),0.1から0.6以下は6眼(31%)であり,治療終了時視力は0.7以上が18眼(94%)であった.種類は,使い捨てソフトコンタクトレンズ(DSCL)が3眼(16%),頻回交換型SCL(FRSCL)が9眼(47%)であった.装用方法は,守っていなかった例が8眼(42%)であった.角膜擦過から2眼(11%),CLあるいはCL保存液からは12眼中9眼(75%),細菌あるいはアカントアメーバが検出された.種類は角膜擦過から全例Pseudomonasaeruginosaが検出され,CLあるいはCL保存液からはPseudomonasaeruginosa8例,Serratiamarce-scens5例,Acanthamoeba1例などが検出された.発生数は,2005年2眼(11%),2006年9眼(47%),2007年8眼(42%)であった.CL使用についてさらなる啓蒙が必要であると考えられた.AretrospectiveanalysiswascarriedoutinTohoUniversity,OmoriHospitaltoevaluatetheclinicalandepide-miologicalaspectsofcontactlens(CL)-relatedinfectiouscornealulcersrequiringhospitalization.Allpatientsinfor-mationastocultures,type,usage,outcomeandyearwasobtainedfromthe18patients(19eyes)includedinthestudy.Thevisualacuityof13eyesathospitalizationwasbelow12/20.ThreeeyesuseddailydisposableCL,9eyesusedfrequentlyreplacementCL.CLusagewasincorrectin8eyes.Bacteriawereculturedfromthecorneain2eyes,andfromCLstoragein10eyes.ThemostfrequentlyculturedorganismswerePseudomonas(8cases)andSerratia(5cases);Acanthamoebawasculturedin1case.Thenalvisualacuityof18eyeswasabove14/20.Therehadbeennooutbreakbefore2004;infectionoccurredin9eyesduring2006andin8eyesduring2007.ItiscriticaltoeducateCLwearersregardingproperwearingtechniques.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):557560,2009〕Keywords:コンタクトレンズ,感染性角膜炎,使い捨てソフトコンタクトレンズ(DSCL),頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(FRSCL),Pseudomonasaeruginosa.contactlens,infectiouskeratitis,disposablesoftcontactlens,frequentlyreplacementcontactlens,Pseudomonasaeruginosa.———————————————————————-Page2558あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(126)ポーザブルコンタクトレンズ(DSCL)や頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)へと急速に変化しており,さらにインターネットによって高度医療管理機器であるCLを眼科受診することなく購入できる環境となっている.今回,CLに関連した感染性角膜炎の動向を把握する目的で,当院にて入院加療を要した感染性角膜炎(角膜潰瘍)の症例について,検討を行った.I対象および方法対象は,2005年1月から2007年12月の3年間に当院に入院加療を要したCLに起因した感染性角膜炎(角膜潰瘍)18例19眼(男性8例8眼,女性10例11眼)で,平均年齢は25.5±7.9歳(1748歳)であった.入院加療の適応は,CLに起因した明らかな感染性角膜炎(角膜潰瘍)かつ角膜全体の混濁を認め,初診医が入院加療の必要性を認めた症例とした.各々の症例について,①視力(入院時および治療終了時),②使用CLの種類,③CLの装用方法,④原因と推測される検出細菌の種類と検出経路,⑤発生年,⑥その他特記すべき背景について検討した.③CLの装用方法については,問診にて装用時間とCLケア方法を調査した.④病原体の分離,検出は,患者の同意を得たうえで病巣部(角膜)擦過およびCLやCLケースからの培養を施行した.角膜擦過は開瞼器をかけ,点眼麻酔下にて,円刃などを使用し病巣部の周辺部から中心へ擦過した.角膜擦過の検体,患者の使用していたCLおよびCLケース内の保存液は,シードスワブ2号(栄研化学㈱)および蒸留水入り滅菌試験管の2つに保存し当院検査部にて,培養を施行した.入院後の治療は,培養結果が得られるまで,レボフロキサシン(クラビッドR)またはガチフロキサシン(ガチフロR),トブラマイシン(トブラシンR),および塩酸セフメノキシム(ベストロンR)の計4種類の点眼を1時間ごと,オフサロキサシン眼軟膏(タリビッド眼軟膏R)の1日4回点入,および病巣部擦過を全症例に行った.さらに症状に応じて角膜掻破,抗菌薬の点滴および内服を追加した.培養結果が得られた後,計4種の点眼薬は適宜漸減した.なお,アカントアメーバが検出された症例では,イトラコナゾール(イトリゾールR)およびピマリシン(ピマリシン5%点眼液R)を追加した.対象となった症例に対しては治療経過中に臨床研究への参加の同意を得た.II結果1.視力(入院時および治療終了時)入院時視力:入院時0.01未満が5眼(26%),0.010.1以下が2眼(11%),0.1以上0.6以下が6眼(35%),0.7以上が4眼(21%),測定不能が2眼(11%)であった(図1).測定不能とは,痛みが強く検査に協力が得られず,正確な測定が行えなかった症例とした.7眼(37%)が入院時0.1未満であり,0.6以下は計13眼(68%)であった.治療終了時視力:治療終了時の矯正視力は,0.10.6が1眼(5%),0.7以上が18眼(95%)であった(図1).0.10.6の1眼は0.6であった.図中には示していないが,1.0以上得られた症例が14眼(74%)認められた.2.使用CLの種類入院前に使用されていたCLの種類については,不明の3眼(16%)を除き全例SCLが使用されていた(図2).DSCLが3眼(16%),FRSCL(2週間型)が9眼(47%),従来型SCLが4眼(21%)で,FRSCL(2週間型)を使用していた症例が最も多かった.3.CLの装用方法入院時に装用時間とCLケア方法について問診を行った.装用時間を守り,正しくケアを行っていた症例が7眼(37%),両方ともに怠っていた症例が8眼(42%),不明が4眼(21%)であった(図3).ほぼ行っていた,ときどき行っていなかったなどの回答は,守っていなかったと判定した.10.10.01LP治療終了時視力LPHMCF0.010.11入院時視力図1入院時および治療終了時の視力(n=19)LP:Lightperception(光覚弁),HM:Handmotion(手動弁),CF:Countingngers(指数弁).不明(3眼16%)従来型SCL(4眼21%)FRSCL(9眼47%)DSCL(3眼16%)図2使用CLの種類(n=19)DSCL:使い捨てSCL,FRSCL:頻回交換型SCL,SCL:softcontactlens.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009559(127)4.原因と推測される検出菌の種類と検出経路入院時に行った病巣部擦過および提供されたCLあるいはCLケース内の保存液の培養を行った(表1a,b).角膜擦過は全例(n=19),CLあるいはCLケース内の保存液の培養は12眼施行可能であった.角膜擦過では2眼(11%)のみ検出されたのに対し,CLあるいはCLケース内保存液からは9眼(47%)検出された.検出細菌の種類については,角膜擦過の検体からは,全例Pseudomonasaeruginosaが検出された(表1a).一方,CLあるいはCLケース内保存液からは,Pseudomonasaeruginosa8例,Serratiamarcescens5例,Flavobacteriumindologenes4例,Bacillus属1例,Acanthamoeba1例が検出された(表1b).同一検体から複数の細菌が検出されることが多かった.5.発生年時2005年2眼,2006年9眼,2007年8眼であった(図4).2005年以降の増加が著しくみられた.2004年以前には入院治療となるような重症例はみられなかった.6.その他特記すべき背景両眼発症が1例2眼,過去に同様のトラブルを起こして加療したことがある症例が2例2眼(10%),アトピー性皮膚炎4例4眼(20%),カラーCL使用例が1例1眼(5%)であった.III考按現在,わが国でのCL使用者人口は1,500万人ともいわれている.特にDSCLやFRSCLは多様化し,利用者はさらに増加傾向にある.今回,筆者らが特に印象的であったのは,入院加療を要したCL由来の感染性角膜炎(角膜潰瘍)の症例が2005年以降急増していたことであった.この原因については,CL人口の自然増加にあるためとは考えにくく,むしろDSCLやFRSCL使用者を取り巻く環境や使用者の意識の変化といったものが関与していると思われる.平成18年6月から平成19年7月までに日本コンタクトレンズ協議会が行った,CLの装用が原因と思われる眼のトラブルによりCLの装用中止あるいは一時装用中止を経験したことのある人を対象とした調査では,眼科医療機関に併設する販売店から購入しているユーザーは全体の35.5%にすぎず,53.254.6%のユーザーは眼鏡店または量販店から,3.53.9%のユーザーはインターネットで購入している2).さらに同報告では,トラブル経験者では,27.649.2%のユーザーは定期検査すら受けていない.筆者らの結果,あるいは感染性角膜炎全国サーベイランスの結果から1),DSCLやFRSCLのトラブル例は20歳代が中心である.20歳代のユーザーが量販店やインターネットでCLを購入,定期検査をほとんど受けないで使用し,その結果感染性角膜炎を発症し医療機関を受診するという実態が浮かび上がる.また,症例にFRSCL装用者が多いことは,一度の購入価格が比較的低いことが影響しているのであろう.CLは高度医療管理機器であり,眼科医の管理下で適切に使用すべきであることをこれまで以上に社会に発信していくべきであると考える.今回筆者らは入院加療を要した症例を対象に検討を行ったが,病巣部あるいはCLケースや保存液からの検出菌はPseudomonasaeruginosaやSerratia属,Flavobacterium属といったグラム陰性菌が多数を占めた.感染性角膜炎の原因菌は,かつてPseudomonasaeruginosaが最大の原因菌であ不明(4眼21%)守っていなかった(8眼42%)守っていた(7眼37%)図3CLの装用方法(n=19)表1原因と推測される検出菌a:角膜擦過からの検出細菌ならびに検出数(n=19)Pseudomonasaeruginosa2眼検出されず17眼b:CLやCL保存液からの検出細菌ならびに検出数(n=19)検体提出なし(検査不可)7眼検体提出あり(検査可)12眼(検出なし3眼,検出あり9眼同一検体からの複数の細菌が検出)検出菌症例数P.aeruginosa8例Serratia属5例Flavobacterium属4例Bacillus属1例Acanthamoeba1例02468102005年2006年症例数2007年2例11%8例42%9例47%図4発生年———————————————————————-Page4560あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(128)ったが,1980年代以降はグラム陰性桿菌よりもグラム陽性球菌,特にStaphylococcusaureus,Staphylococcusepider-midis,Streptococcuspneumoniaeがかなりの割合を占めるとされる1).CL障害による角膜感染症では,通常の角膜感染症よりもグラム陰性菌の比率が高いとされ3),なかでもPseudomonasaeruginosaが最も多く検出される4,5).各施設,地域により原因菌の種類には差が出ると予測されるが,前者の報告は入院外来の別を問わず集計されたものであり,後者は大学病院における結果である.筆者らが今回対象としたような入院が必要な程度の角膜炎(重篤な症例)では,やはりPseudomonasaeruginosaが最多となるのであろう.さらに,難治例や特殊例の集中する施設では真菌やアカントアメーバが検出される割合が高い6).今回の筆者らの結果からは,真菌は検出されず,アカントアメーバが1例,CL保存液から検出されたが,原因病原体と考えるには疑わしい経過であった.今後,PseudomonasaeruginosaやSerratia属といったグラム陰性桿菌はもちろんのこと,真菌,アカントアメーバの可能性も念頭におく必要性があると考えられた.また,角膜擦過で細菌が検出された症例は全体の11%(2眼)にすぎなかったが,CLや保存液からは47%の症例にて細菌が検出された.すでに他院にて治療が行われていたこと,擦過するときに十分な協力が得られなかったことなども考えられるが,他の報告においても病巣からの検出率とCLからの検出率は一致しにくいとされる7).高浦らも述べているが,角膜感染症の起因菌はグラム陰性菌,特に緑膿菌の比率が非常に高く,CLや保存液からの検出菌もグラム陰性菌が高率に検出されることからCLや保存液,ケースの汚染が発症に深く関与していると考えられる8).大橋らは,感染様式として環境菌によるレンズケースの汚染+不完全なレンズケア→レンズの汚染→細菌性角膜炎発症という考えを述べているが,筆者らの症例の大部分はまさにその様式に該当するものと考えられる9).今回検討したなかでは,装用方法を正しく守っていたとされる例が8眼(40%)存在する.このことは,定期的なレンズケースの管理および洗浄の重要性を装用方法の順守とともに,医療従事者も含め,強く指導していく必要があると思われる.今回の結果では,来院時視力(入院時視力)はおおむね不良であったが,治療終了時の矯正視力は良好(0.7以上が95%)であった.症例の大部分が20歳代の健常人であることも大きく影響しているが,全般的に転帰は悪いものではなかった.しかし,潰瘍の位置によっては視力の数字だけでは評価できない影響があることは容易に想像され,長期加療による経済的損失も大きい.特に10歳代,20歳代のCL使用者に対しては,適切なCL管理の必要性を指導していくことが重要であると考えられる.文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌110:961-972,20062)日本コンタクトレンズ協議会:コンタクトレンズ眼障害アンケート調査の集計結果報告.日本の眼科78:1378-1387,20073)庄司純:細菌性角膜潰瘍.臨眼57(増刊号):162-169,20034)Mah-SadorraJH,YavuzSG,NajjarDMetal:Trendsincontactlens-relatedcornealulcers.Cornea24:51-58,20055)VerhelstD,KoppenC,VanLooverenJetal:BelgianKeratitisStudyGroup.Clinical,epidemiologicalandcostaspectsofcontactlensrelatedinfectiouskeratitisinBel-gium:resultsofaseven-yearretrospectivestudy.BullSocBelgeOphtalmol297:7-15,20056)三木篤也,井上幸次,大黒伸行ほか:大阪大学眼科における角膜感染症の最近の動向.あたらしい眼科17:839-843,20007)白根授美,福田昌彦,宮本裕子ほか:近畿大学眼科におけるコンタクトレンズによる細菌性角膜潰瘍.日コレ誌43:57-60,20018)高浦典子:コンタクトレンズにおける感染症と角結膜障害.臨眼58:2242-2246,20049)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,2006***

NTT 西日本九州病院眼科における感染性角膜炎

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(113)3950910-1810/09/\100/頁/JCLS45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(3):395398,2009cはじめに近年の優れた広域スペクトルの抗菌薬の開発・使用によって感染性角膜炎の治癒率は向上してきた感がある.一方において,耐性菌の出現や抗菌薬が無効である真菌やアカントアメーバによる角膜炎の増加,角膜感染の契機として重要なコンタクトレンズ(CL)の普及と消毒方法の変化に伴い,感染性角膜炎の様相も変化してきている1).そこで,筆者らはNTT西日本九州病院眼科(以下,当科)における最近の感染性角膜炎の動向を検討したので報告する.I対象および方法対象は平成18年11月より平成20年2月までの1年4カ月間に当科を受診し,細菌,真菌,あるいはアカントアメーバによると考えられる感染性角膜炎患者(菌が分離されていないが塗抹鏡検で診断されたものや,臨床所見からのみ診断されたものも含む)で入院治療を行った41例41眼(男性17例17眼,女性24例24眼)である.これらの①年齢分布,②感染の誘因,③起炎菌,④治療経過,⑤視力予後について検討した.また,その結果を感染性角膜炎全国サーベイラン〔別刷請求先〕中村行宏:〒862-8655熊本市新屋敷1丁目17-27NTT西日本九州病院眼科Reprintrequests:YukihiroNakamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NTTWestKyushuGeneralHospital,1-17-27Shinyashiki,Kumamoto862-8655,JAPANNTT西日本九州病院眼科における感染性角膜炎中村行宏*1松本光希*1池間宏介*1谷原秀信*2*1NTT西日本九州病院眼科*2熊本大学大学院医学薬学研究部視機能病態学InfectiousKeratitisDiagnosedandTreatedatNTTWestKyushuGeneralHospitalYukihiroNakamura,KokiMatsumoto,KousukeIkema1)andHidenobuTanihara2)1)DepartmentofOphthalmology,NTTWestKyushuGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KumamotoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences目的:NTT西日本九州病院眼科における感染性角膜炎の最近の動向を検討した.方法:対象は平成18年11月より平成20年2月までに入院治療を行った41例41眼である.年齢分布,誘因,起炎菌,治療経過および視力予後について検討し,感染性角膜炎全国サーベイランス(2003)と比較検討した.結果:年齢分布は20代と60代にピークを認めた.誘因はコンタクトレンズ(CL)によるものが最多であった.起炎菌は緑膿菌が8株,Corynebacteriumspp.4株,アカントアメーバ4株などであった.7眼に観血的手術が必要であった.初診時失明眼を除き,全例に視力改善を認めた.結論:起炎菌は若年者ではCLに関連した緑膿菌やアカントアメーバが多く,中高齢者では既存の角膜疾患でのCorynebacteriumが目立った.今回の結果は全国サーベイランスと酷似し,全国的な傾向を反映していた.ToinvestigatethecurrentstatusofinfectiouskeratitisatourHospital,wereviewedthemedicalrecordsof41eyesof41patientswithinfectiouskeratitistreatedfromNovember2006toFebruary2008,inregardtoagedistri-bution,predisposingfactor,causativemicroorganism,diseaseprocess,andvisualprognosis.WecomparedtheseresultswiththeNationalSurveillanceStudyofinfectiouskeratitisinJapan(2003).Agedistributiondemonstrated2peaksinthe20sandinthe60s.Themostpredisposingfactorwascontactlens(CL)wear.ThemostfrequentlyisolatedmicroorganismwasPseudomonasaeruginosa(8),followedbyCorynebacteriumspp.(4),Acanthamoeba(4),etc.Seveneyesrequiredsurgery.Visualacuityimprovedinalleyes,exceptingthoseblindatrstvisit.P.aerugi-nosasandAcanthamoebawerefoundtocausekeratitispredominantlyinyoungerCLwearers,whereasCorynebac-teriumspp.wererelatedtoexistingcornealdiseasesinelderly.Theseresultsweresimilartothoseofthenationalstudy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):395398,2009〕Keywords:感染性角膜炎,コンタクトレンズ,発症誘因,起炎菌,サーベイランス.infectiouskeratitis,contactlens,predisposingfactor,causativemicroorganism,surveillance.———————————————————————-Page2396あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(114)ス(2003)と比較した.II結果1.年齢分布年齢は293歳(平均47.9歳)であったが,その分布は図1に示すように20代を中心とする前半のピークと60代以降に後半のピークを認める二峰性の分布パターンを示した.性差では60代以降に女性が多い傾向にあった.2.感染の誘因感染の誘因と考えられたものは,ソフトコンタクトレンズ(SCL)が最多で17眼(42%),ついで水疱性角膜症や角膜白斑などの既存の角膜疾患が10眼(25%),外傷3眼(7%),コントロール不良の糖尿病(DM)2眼(5%),睫毛乱生2眼(5%),兎眼2眼(5%),慢性涙炎1眼(2%),巨大乳頭結膜炎(GPC)1眼(2%),不明が3眼(7%)であった(図2).これらの誘因を年代別にまとめたものを図3に示す.誘因として最も多かったSCLでは,実に17眼中16眼(94%)が30代までに集中していた.特に20代では10眼全例(100%),10代では6眼中5眼(83%),30代では2眼中1眼(50%)がSCLに関連するものと考えられた.50代以降にSCLが誘因となったものは治療用SCL使用の1眼のみであった.対照的に50代以降の誘因として最も多かったのは,既存の角膜疾患で,10眼(24%)であった.ついで外傷3眼(7%),コントロール不良のDM2眼(5%),などであった.3.起炎菌対象になった41例41眼すべてにおいて初診時に角膜擦過が施行されていた.うち25眼で起炎菌が同定でき,検出率は61%であった.このうち複数の菌が検出されたものが3眼あったが,塗抹鏡検にての菌量や培養結果,角膜の所見より起炎菌と考えられるものはそれぞれ1菌種であった.緑膿菌が最多で8眼(20%),ついでアカントアメーバが4眼(10%),Corynebacteriumspp.が4眼(10%),肺炎球菌が3眼(7%),Moraxellaspp.が2眼(5%),真菌が2眼(5%),Staphylococcusaureus(MSSA)が1眼(2%),Streptcoccusspp.が1眼(2%)より同定された(図4).これらの起炎菌と感染の誘因の関連を図5に示す.特徴的なものは,同定された起炎菌のなかで,最多であった緑膿菌はSCL装用に関連したものが多く,実に8眼中6眼(75%)を占めていた.アカントアメーバが認められた4眼はすべて(100%)SCL装用眼であった.そのほかではCorynebacteri-umspp.感染が4眼に認められ,2株はレボフロキサシン耐性であった.また,ここでもSCLの関与が1眼あり,残りの3眼は80代の既存の角膜疾患と90代の慢性涙炎の患者であった.4.治療経過発症から当科受診日までの期間は,230日(平均8.7日)であった.41例中36例(88%)が治療目的の紹介患者であ024681012:男性:女性眼数0990代80代70代60代50代40代年齢(歳)30代20代10代図1年齢分布と性差眼代代代代代代年齢()代代代炎眼角膜図3年代別誘因眼()眼()眼()性炎眼()眼眼()眼()眼()眼()角膜眼()図2感染の誘因菌眼()ンー眼()菌眼()眼()眼()炎菌眼()眼()眼()眼()図4起炎菌———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009397(115)った.保存的療法で角膜炎が鎮静化したものが34眼(83%)であった.手術療法を要した症例が7眼(17%)であった.ただし,この7眼はすべて紹介患者であり,うち6眼は初診時にすでに穿孔していた.手術内容は,4眼はすでに光覚がないことが確認できたため,眼球内容除去術を施行した.その他の3眼に対しては,可及的速やかに治療的全層角膜移植術を施行した.穿孔した7眼から検出された菌は,緑膿菌が3株,肺炎球菌1株,Staphylococcusaureus(MSSA)1株,Corynebacte-riumspp.1株,起炎菌不明のものが1眼であった.潰瘍消失までの期間は,手術施行例や,アカントアメーバ角膜炎など潰瘍に至らなかったものは除外した場合,246日(平均10.3日)であった.入院期間は547日(平均17.8日)であった.5.視力予後初診時および最終視力を対数表示したものを図6に示す.初診時すでに光覚がなかったものを除くと,当院での治療後で視力が低下したものはなく,穿孔例も手術治療によって視力向上が得られた.III考察〈感染性角膜炎全国サーベイランス(2006)1)との比較検討〉今回の検討で当科を受診した感染性角膜炎の年齢分布は,20代と60代にそのピークを認める二峰性の分布パターンを示しており,これは感染性角膜炎全国サーベイランス(2006)におけるわが国での感染性角膜炎のものとほぼ一致した1).さらに,CL使用例が42%を占めていたが,全国サーベイランスでも41.8%とほぼ同率の報告であった.そのうち,特に前半のピークでは,10代での角膜炎発症症例の83%(全国サーベイランス96.3%),20代での発症症例の100%(サーベイランス89.8%)がCL使用によるものであった.当科でのCL使用例の年齢分布も全国サーベイランスときわめて類似しており,CL使用による感染性角膜炎の増加と低年齢化は全国的規模で進んでいることが窺えた.起炎菌についてはグラム陰性桿菌である緑膿菌が最多(8株20%)であり,グラム陽性球菌は5株(12%)に留まった.一方,全国サーベイランスではグラム陽性球菌が261例中63株(24.1%)で最多であり,緑膿菌は9株(3.4%)のみであった.かねてより熊本では緑膿菌やSerratiaなどのグラム陰性桿菌が多いことは報告されていた2,3)が,今回もそれを裏付ける結果となった.海外では香港で同じように緑膿菌が多いとの報告があり4),気候的な要因があるかもしれない.アカントアメーバについては4株(10%)認められ,全国サーベイランス2株(0.7%)と比較しても多かった.最近の学会などの印象ではCLの普及とその消毒法の変化によってアカントアメーバ角膜炎が確実に増加していると思われる.その他ではCorynebacteriumspp.が4株(10%)(サーベイランス10株3.8%)認められた.Corynebacteriumが角膜炎の起炎菌に成りうるのかについては議論のあるところであるが,最近の報告5,6)と当科で認められた症例をみる限り,CLの不適切な使用や免疫不全,既存の角膜疾患など条件が揃えば起炎菌に成りうるかと思われた.このうち2株はレボフロキサシン耐性であり,1株において角膜移植後の患者より検出された.長期にわたるレボフロキサシン点眼による耐性化の可能性も考えられた.また,レボフロキサシン耐性株ではないものの,1株は穿孔例から分離されていた.Corynebac-teriumが角膜を穿孔に至らしめるとは考えにくいが,手術時に切除した角膜自体から分離培養されており,起炎菌である可能性はあると考えている.CLと起炎菌の関連について,緑膿菌8例中6例(75%),アカントアメーバ4例全例(100%)がCL装用者であり,関連性が高かった.全国サーベイランスでも緑膿菌が検出された9例中6例(66.6%),表皮ブドウ球菌が検出された17例中10例(58.8%)にCL装用が関与しており,この2菌種眼数:不明:GPC:涙炎:兎眼:睫毛乱生:DM:外傷:角膜疾患:SCLMSSAStreptcoccusspp.真菌Moraxellaspp.肺炎球菌Corynebacteriumspp.アカントアメーバ緑膿菌0123456789図5誘因と起炎菌的治療治療視力視力図6視力予後———————————————————————-Page4398あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(116)が他と比べて多かったとしている.CL普及に伴い角膜感染症の誘因として増加していること,また,若年齢化をきたしていること,さらに当県は以前より緑膿菌感染が多く認められることは前述のとおりであり2,3),これらを踏まえると今後当県におけるCL関連性角膜炎の増加や重症化が危惧される.今回の検討では緑膿菌に関しては幸いレボフロキサシン耐性菌はなく,治療予後は比較的良好であったが,フルオロキノロン全盛となっている昨今,耐性菌の出現も懸念される.治療経過では潰瘍消失までの平均日数が17.8日,平均入院日数が19.8日と全国サーベイランスの治療平均日数が28.7日であったことと比べて良好であった.今回,穿孔が7例みられたが,当科で治療したにもかかわらず穿孔に至ったものは1例(2%)のみであった.一般的に視力予後が悪いとされている緑膿菌による角膜潰瘍でも7),全例視力の向上が得られており,比較的良好な治療成績であったと思われる.その要因としては,まず,感染性角膜炎が疑われる症例に対しては全例に角膜擦過を行い,起炎菌検索を行っていることがあげられる.前医ですでに抗菌薬が使用されていたものが29例(71%)あるものの(全国サーベイランス39%),当科での起炎菌の検出率は61%(全国サーベイランス43.3%)と比較的良好であり,早期に治療方針が立てられ,これが治療成績につながったと思われる.北村ら8)も報告しているように,治療方針決定に際して何らかの形で微生物的検査の結果が反映されることが重要である.つぎに,重症例に対しては夜間も頻回点眼を行うなど積極的な治療が有効であったと思われる.しかし,このような治療でも穿孔に至った症例もあり,進行した感染性角膜炎に対しては抗菌薬のみでの治療では十分といえず,プロテアーゼインヒビターなどの新しい治療薬の開発が強く望まれる7).今回の検討では起炎菌として緑膿菌が多いという地域性が認められたものの,年齢分布,誘因において感染性角膜炎全国サーベイランスとほぼ同様の結果であった.特に感染の誘因として重要であったCLの装用率まで酷似していた.今回の検討は全国的な感染性角膜炎の動向を反映し,CL関連の感染性角膜炎が増加し,低年齢化しているという全国サーベイランスの結果を裏付けるものとなった.謝辞:本稿を終えるにあたり,塗抹鏡検および分離培養にご尽力いただいた当院臨床検査科細菌室江藤雄史氏に深謝いたします.文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディーグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌110:961-972,20062)宮嶋聖也,松本光希,奥田聡哉ほか:熊本大学における過去20年間の細菌性角膜潰瘍の検討.あたらしい眼科15:223-226,19983)宮嶋聖也,松本光希,奥田聡哉ほか:熊本大学における過去3年間の細菌性角膜潰瘍症例の検討.あたらしい眼科17:390-394,20004)LamDSC,HouangE,FanDSPetal:IncidenceandriskfactorsformicrobialkeratitisinHongKong:comparisonwithEuropeandNorthAmerica.Eye16:608-618,20025)RubinfeldRS,CohenEJ,ArentsenJJetal:Diphtheroidsasocularpathogens.AmJOphthalmol108:251-254,19896)柿丸晶子,川口亜佐子,三原悦子ほか:レボフロキサシン耐性コリネバクテリウム縫合糸感染の1例.あたらしい眼科21:801-804,20047)McLeodSD,LaBreeLD,TayyanipourRetal:Theimportanceofinitialmanagementinthetreatmentofsevereinfectiouscornealulcers.Ophthalmology102:1943-1948,19958)北村絵里,河合政孝,山田昌和:感染性角膜炎に対する細菌学的検査の意義.眼紀55:553-556,2004***

培養角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現に対するマルチパーパスソリューションの影響

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(97)15670910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15671572,2008cはじめに最近,ソフトコンタクトレンズ(SCL)ユーザーでの細菌性角膜炎の発症が問題になっており1),マルチパーパスソリューション(MPS)の使用との関連性が議論されている2).細菌性角膜炎の原因としては,MPSの不十分な殺菌効力3)やユーザーのコンプライアンスの低さ4)などが想定されるが,MPSの細胞毒性が角膜上皮細胞に及ぼす影響も考慮に入れる必要がある.柳井ら5)は14種類の市販MPSを比較し,主成分が同じポリヘキサメチルビグアニド(PHMB)であっても,添加剤の種類によって細胞毒性や殺菌効力が大きく異なることを報告した.一方,角膜上皮細胞は外傷を受けるなどのストレス状態にさらされると炎症性細胞を誘導するためにサイトカインを分泌することが知られている6).毒性の強いMPSの使用は角膜にストレスを与えると考えられる〔別刷請求先〕今安正樹:〒487-0032愛知県春日井市高森台5-1-10(株)メニコン総合研究所Reprintrequests:MasakiImayasu,Ph.D.,CentralR&DLab.,MeniconCo.,Ltd.,5-1-10Takamoridai,Kasugai-shi,Aichi-ken487-0032,JAPAN培養角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現に対するマルチパーパスソリューションの影響今安正樹*1,3白石敦*2大橋裕一*2島田昌一*3*1(株)メニコン総合研究所*2愛媛大学医学部眼科学教室*3名古屋市立大学医学部第2解剖学講座EectsofMultipurposeSolutionsonCytokineGeneExpressionofCornealEpithelialCellsMasakiImayasu1,3),AtsushiShiraishi2),YuichiOhashi2)andShoichiShimada3)1)CentralR&DLab.,MeniconCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,EhimeUniversity,3)DepartmentofAnatomy,NagoyaCityUniversityMedicalSchool目的:コンタクトレンズ用マルチパーパスソリューション(MPS)の角膜への影響を明確にするため,角膜上皮細胞を市販MPSまたは配合成分で処理したときのサイトカイン遺伝子発現量および産生量を解析する.方法:培養ヒト角膜上皮細胞を用い,7種のMPSまたは配合成分を添加した培養液で3,6,24時間培養した.RNAを抽出し,サイトカイン遺伝子〔インターロイキン(IL)-8,トランスフォーミング増殖因子(TGF)-b2,IL-18,IL-1b,IL-6〕発現量をreal-timepolymerasechainreaction(PCR)法で,培養上清中のサイトカイン産生量を抗体アレイで定量した.結果:ホウ酸を含むMPSではIL-8,TGF-b2,IL-18,IL-6の発現量が36時間後に増加し,その後減少した.これらのMPSでは24時間後のIL-8産生量も増加した.配合成分のなかでは,ホウ酸のみがサイトカイン遺伝子発現量を増加させた.結論:MPSの配合成分であるホウ酸が炎症性サイトカインの産生に関与している可能性が示された.Inordertoclarifytheeectsofmultipurposesolutions(MPS)onthecornea,weanalyzedthecytokinegeneexpressionandproteinlevelofcornealepithelialcellstreatedwithMPSoringredients.Humancornealepithelialcellswereculturedfor3,6or24hoursinmediumcontainingcommerciallyavailableMPSoringredients.AfterRNAextraction,geneexpressionsofinterleukin(IL)-8,transforminggrowthfactor(TGF)-b2,IL-18,IL-1bandIL-6wereanalyzedbyreal-timepolymerasechainreaction(PCR).Proteinlevelsweredeterminedbyantibodyarray.MPScontainingboricacidcausedup-regulationofIL-8,TGF-b2,IL-18andIL-6after3and6hours,whichthendecreasedat24hours.TheMPSalsopromotedIL-8productionduring24hour-incubation.Oftheingredientstested,onlyboricacidhadsignicanteectsongeneandproteinexpressionsofinammatorycyto-kines.Theseresultsdemonstratethatboricacidmayhavesignicanteectoninammatorycytokineproductionincornealepithelialcells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15671572,2008〕Keywords:角膜上皮細胞,サイトカイン,マルチパーパスソリューション,コンタクトレンズ.cornealepithelialcells,cytokine,multipurposesolution,contactlens.———————————————————————-Page21568あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(98)ため,サイトカイン遺伝子の発現量が増加する可能性が想定される.角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現を解析することにより,角膜へのストレスを高感度で定量的に評価できる方法が構築できると思われる.そこで本論文では,ヒト角膜上皮細胞を,種々のMPS製品または配合成分を添加した培養液で培養し,MPSまたは配合成分を添加しない培養液で培養した場合とのサイトカイン遺伝子の発現量の差をreal-timepolymerasechainreac-tion(PCR)法により定量的に解析した.また,蛋白質レベルでの評価のため,培養液中のサイトカイン産生量を抗体アレイで定量した.I実験材料および方法1.実験材料実験に使用したMPSとおもな配合成分を表1に示す.MPS-AからMPS-Gまでの7種類の市販MPSを用いた.主成分の殺菌剤にはPHMB,AlexidineまたはPolyquadが使用されている.このなかでMPS-AとMPS-B以外は緩衝剤としてホウ酸を含む.配合成分単独での実験に使用した成分名,濃度などを表2に示す.MPSに一般的に使用されている界面活性剤,殺菌剤,緩衝剤を実際の配合濃度に近い濃度で使用した.2.実験方法a.培養細胞の準備培養細胞として,SV40ウイルス感染により不死化したヒト角膜上皮細胞(以下,HCET細胞)7)を理化学研究所細胞バンクより購入して使用した.HCET細胞を6cm組織培養用ディシュにコンフルエントになるまで培養した.培養液はDMEM/F12(GIBCO)+5%ウシ胎仔血清(FBS)(GIBCO)を用いた.血清無添加の培養液に各種MPSまたは配合成分を10%添加した試験液を準備し,組織培養用ディシュに4ml添加して37℃,5%CO2で3,6,24時間培養した.b.培養細胞からのRNAの抽出および定量組織培養用ディシュの培養液を捨て,冷PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄後,1mlのTRIZOLR試薬(invitrogen)を添加した(氷冷下).セルスクレーパーを用いてディシュ表面に付着している細胞を離させた(氷冷下).20ゲージの注射針を取り付けた2.5mlのシリンジで,TRIZOLR試薬の吸引を20回程度くり返した後,1.5mlのマイクロチューブに回収した.以下,TRIZOLR試薬の取扱説明書に従ってtotalRNAを精製し,30μlのDEPC(diethylpyrocarbonate)処理水に溶解させた.c.逆転写反応およびrealtimereversetranscription(RT)PCRパーソナルスペクトルモニター(AmershamBiosciences,GeneQuantpro)で260nmの吸光度を測定することによりRNA濃度を定量し,サンプル濃度を800ng/μlに調整した.PrimeScriptTMRTreagentsKit(TaKaRa)の取扱説明書に従い,50μlの反応系にてcDNAに変換した.つぎに,SYBRRPremixExTaqTM(TaKaRa)の取扱説明書に従い,25μlの反応系にてreal-timePCRを行った(TaKaRa,表2実験に使用したMPS配合成分配合成分種類濃度製造元HCO界面活性剤1.0%日光ケミカルズTetronic1107界面活性剤1.0%BASFJapanPoloxamer407界面活性剤1.0%BASFJapanAlexidine殺菌剤1ppmTrontoResearchPHMB殺菌剤1ppmアーチケミカルズホウ酸(Boricacid)緩衝剤0.5%日興製薬1.0%表1実験に使用した市販MPSMPS殺菌剤界面活性剤ホウ酸の有無MPS-APHMB*HCO**MPS-BPHMBPoloxamerMPS-CPHMBTetronic+MPS-DAlexidinePoloxamer/Tetronic+MPS-EPolyquadTetronic+MPS-FPolyquadTetronic+MPS-GPHMB不明+*PHMB:polyhexamethylbiguanid.**HCO:PEGhydrogenatedcastoroil.表3RealtimeRTPCRに使用したプライマーペアの塩基配列ヒト遺伝子F/Rプライマー塩基配列b-actinFATTGCCGACAGGATGCAGARGAGTACTTGCGCTCAGGAGGAIL-8FAAGGAACCATCTCACTGTGTGTAAACRATCAGGAAGGCTGCCAAGAGTGF-b2FGGATGCGGCCTATTGCTTTARCATTTCCACCCTAGATCCCTCTTIL-18FGCCACCTGCTGCAGTCTACARATCTGGAAGGTCTGAGGTTCCTTIL-1bFCCTCTGGATGGCGGCARTGCCTGAAGCCCTTGCTGIL-6FAAAAAGGCAAAGAATCTAGATGCAARGTCAGCAGGCTGGCATTTGTFはセンス,Rはアンチセンスを示す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081569(99)TP800).サイトカインとしてIL-8,TGF-b2,IL-18,IL-1b,IL-6の5種類の遺伝子の発現量を解析した.ハウスキーピング遺伝子としては,角膜上皮細胞での発現量が安定なb-actinを選択し(予備実験で確認),b-actin発現量に対する各遺伝子の相対発現量を求めた.さらに,各遺伝子について,MPS(または配合成分)処理群に対するPBS(+)処理群の相対発現量の比を求め,これを指標とした.なお,各サイトカイン遺伝子およびb-actinのreal-timePCR用プライマーはNCBI(NationalCenterforBiotechnologyInformation)の遺伝子データベースよりmRNAの塩基配列を検索し,PrimerExpress(AppliedBio)でプライマーペア候補を検索し,イントロンをはさんだ配列を選択して,SigmaGenosys社に合成を依頼した.プライマーペアの塩基配列を表3に示す.なお,実験は独立して3回くり返し,平均値と標準偏差を求めた.d.抗体アレイによる培養上清のサイトカイン産生量の定量24時間培養した細胞については培養液を回収し,そのままサイトカイン産生量定量に供試した.アレイ基板としてBS-X1324(住友ベークライト)を使用し,抗ヒトIL-8マウスモノクローナル抗体(BIOSORCE),抗ヒトIL-6マウスモノクローナル抗体(ENDOGEN),抗ヒトTGF-b2マウスモノクローナル抗体(RDS)のプロットを住友ベークライトに依頼した.抗体アレイチャンバー(GenTel,12well)に抗体アレイを固定し,培養液を50μl添加して室温で1時間振盪した.PBSで洗浄後,3種類のサイトカインに対するビオチン化抗体混合液〔抗ヒトIL-8ビオチン化抗体(BIO-SOURCE),抗ヒトIL-6ビオチン化抗体(ENDOGEN),抗ヒトTGF-b2ビオチン化抗体(RDS)〕を調整し,50μl添加して室温で1時間振盪した.PBSで洗浄後,Cy5標識ストレプトアビジン(JacksonImmunoResearch)50μlを添加し,室温で1時間振盪した.PBSで洗浄後,乾燥させ,アレイスキャナー(GSILuminocs,ScanArray5000)でCy5蛍光画像を取得した.各プロットの蛍光強度をアレイ用画像処理ソフト(ScanAlyze)で数値化した.各サイトカインの標準液としてヒトIL-8(Acris),ヒトIL-6(Acris),ヒトTGF-b2(Acris)を5,10,20,40,80pg/mlに調整して用いた.なお,実験は独立して3回くり返し,平均値と標準偏差を求めた.II結果a.サイトカイン遺伝子発現に対するMPSの影響MPSで3,6および24時間処理したときの対照〔PBS(+)〕に対するサイトカイン遺伝子発現比を図1a,bおよびcに示す.MPS処理3時間後ではMPS-CGでIL-8が35.030.025.020.015.010.05.00.0MPS-AMPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-GExpressionratio:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図1aMPSで3時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.25.020.015.010.05.00.0MPS-AMPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-GExpressionratio:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図1cMPSで24時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.45.040.035.030.025.020.015.010.05.00.0MPS-AMPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-GExpressionratio:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図1bMPSで6時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.———————————————————————-Page41570あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(100)約1025倍に増加した.TGF-b2およびIL-6も増加した.一方,MPS処理6時間後においても,MPS-CGではIL-8が高いレベルを維持したが,特にMPS-EGが約20倍高い発現量を示した.MPS-EおよびMPS-FではIL-6が約2030倍に増加した.MPS処理24時間後においては,全体的にサイトカイン発現比はかなり回復し,特にMPS-Cではほぼ正常レベルになった.MPS-DGではIL-8は回復したが,IL-18とIL-6が約510倍高いレベルを維持していた.すべての処理時間において,MPS-AおよびBではすべてのサイトカイン遺伝子に関し,発現量の増加は認められなかった.すべてのMPS処理において,IL-1bの発現量増加は認められず,IL-8の発現量増加をもたらしたMPS-CGではむしろ発現量が減少する傾向を示した.b.サイトカイン産生量に対するMPSの影響培養24時間で産生されたサイトカイン(IL-8,TGF-b2およびIL-6)を抗体アレイで定量した結果を図2に示す.対照のPBS(+)でのサイトカイン産生量はIL-8が0.5±0.2pg/ml,TGF-b2が4.3±1.3pg/ml,IL-6が0.3±0.2pg/mlであった.対照と比較してMPS-Aではサイトカイン産生量の増加は認められなかったが,MPS-BおよびCではTGF-b2の増加が認められた.MPS-D,EおよびGでは3種のサイトカインすべてが増加した.MPS-FではIL-8が増加した.全体的にサイトカイン産生量が最も大きく増加したのはMPS-Eであった.c.サイトカイン遺伝子発現に対する配合成分の影響図1で示されたMPSによるサイトカイン遺伝子発現量の増加がMPSのどの配合成分によるかを明確にするため,配合成分単独での遺伝子発現に対する影響を検討した.配合成分処理3時間および24時間後の結果を図3aおよび3bに示す.3時間処理では,配合成分のなかでホウ酸のみがIL-8,TGF-b2,IL-6発現量を増加させ,1%濃度ではそれぞれ約45倍,5倍,15倍となった.24時間後では1%ホウ酸の効果は3時間と比較してかなり回復したが,IL-8およびIL-6はまだ高いレベルを維持しており,IL-18発現量への影響もみられた.1%HCOは0.5%ホウ酸と同程度の効果を示した.d.サイトカイン産生量に対する配合成分の影響配合成分単独で24時間作用させたときのサイトカイン産生量への影響を検討した結果を図4に示す.界面活性剤60.050.040.030.020.010.00.0:IL-8:TGF-b2:IL-6pg/m?MPS-APBS(+)MPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-G図2MPSで24時間処理したHCET細胞のサイトカイン産生量b2:IL-18:IL-1b:IL-6図3a配合成分で3時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.20.015.010.05.00.0Expressionratio1%HCO1%Tetronic1%Poloxamer1ppmAlexidine1ppmPHMB0.5%Boricacid1.0%Boricacid:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図3b配合成分で24時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081571(101)(HCO,TetronicおよびPoloxamer)および殺菌剤(Alexi-dineおよびPHMB)はTGF-b2産生量を有意に増加させた.ホウ酸は濃度依存的にIL-8産生量を増加させ,1%濃度では約70pg/mlにも達した.TGF-b2産生量への影響も認められた.III考按今回,ヒト角膜上皮細胞へのMPS投与で変化する可能性のあるサイトカイン遺伝子としてIL-8,TGF-b2,IL-18,IL-1b,IL-6を採択した.予備実験においてはその他のサイトカインとしてIL-1a,IFN-g,TNF-aなども検討したが,変化が少なかったため対象から除外した.MPSの影響としては,3時間後にIL-8が,6時間後にIL-8に加えてIL-6が,24時間後にはIL-6とTGF-b2の発現量増加が目立った.IL-8およびIL-6が増加したMPSでは,IL-1bの発現量が減少していた.Xueら8)が報告しているように,IL-1はIL-6やIL-8などの炎症性サイトカインの産生を促進する急性的サイトカインであるため,IL-6・IL-8の増加によるフィードバック制御によって,経時的に発現量が下がったと考えられる.TGF-b2は角膜上皮細胞の増殖,遊走,分化,接着制御など多くの生理作用をもつサイトカインであり,角膜上皮創傷治癒過程において発現量が増加することが知られている9).また,IL-18はマウス角膜に緑膿菌を感染させたときに,24時間後以降に発現量が増加することが知られている10).今回の実験においては,TGF-b2とIL-18は624時間と長時間作用させた場合に発現量が増加しており,外傷や細菌感染などの重篤な障害で初めて発現するサイトカインと考えられる.7種類のMPSを比較すると,MPS-AおよびMPS-Bではサイトカイン遺伝子の変化が認められなかったが,MPS-C,MPS-D,MPS-E,MPS-FおよびMPS-GではIL-8,TGF-b2,IL-6において顕著な発現量増加を示した.前2者のMPSがホウ酸を含まないのに対し,後5者がホウ酸を含むことより,ホウ酸がサイトカイン遺伝子発現に関与した可能性が考えられる.そこで,代表的なMPS配合成分7種類を選択してサイトカインへの影響を検討したところ,ホウ酸のみが顕著な影響を示し,IL-8,IL-6遺伝子発現量を増加させた.また,抗体アレイによるサイトカイン産生量の測定実験においても,ホウ酸を含むMPSおよび0.51.0%のホウ酸が24時間後のサイトカイン産生量を増加させることを確認した.ホウ酸が実使用濃度よりも低い0.1%で細胞毒性を有することは,Santodomingoら11)のV79細胞を用いたコロニー形成阻害試験により報告されている.今回の実験ではサイトカイン遺伝子発現および産生量の増加として細胞毒性が検出されたと考えられる.一方,筆者らは角膜上皮細胞のタイトジャンクション(特にZO-1)に対するMPSの影響を細胞生物学的および電気生理学的手法で検討し,配合成分にホウ酸を含むMPSのみがタイトジャンクションの構造を破壊することを報告している12).サイトカイン遺伝子発現の増加がタイトジャンクションの構造破壊をひき起こすメカニズムの詳細は不明であるが,IL-1やIL-8などの炎症性サイトカインはストレス応答性のMAPK(mitogen-activatedproteinkinase)の活性化をひき起こすことが知られており,MAPKカスケードなどの細胞内シグナル伝達系の活性化を通してタイトジャンクションが破壊されたと考えられる13).角膜上皮最表層細胞のタイトジャンクションは角膜のバリア機能においてきわめて重要な役割を担っているため,その構造破壊は緑膿菌などの病原菌の角膜への侵入を容易にし,細菌性角膜炎感染のリスクを増大させると考えられる1).すなわち,コンタクトレンズ装用とケア用品(特にMPS)使用による細菌性角膜炎発症のリスクをなるべく低くするには,角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現への影響の少ないMPSを選択し,角膜バリア機能をなるべく健全に保つことが重要と考えられる.文献1)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20062)InoueN,ToshidaH,MamadaNetal:Contactlens-inducedkeratitisinJapan.EyeContactLens33:65-69,20073)LevyB,HeilerD,NortonS:ReportontestingfromaninvestigationofFusariumkeratitisincontactlenswear-90.080.070.060.050.040.030.020.010.00.0:IL-8:TGF-b2:IL-6pg/m?1%HCOPBS(+)1%Tetronic1%Poloxamer1ppmAlexidine1ppmPHMB0.5%Boricacid1.0%Boricacid図4配合成分で24時間処理したHCET細胞のサイトカイン産生量———————————————————————-Page61572あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(102)ers,EyeContactLens32:256-261,20064)星合竜太郎,濱田いずみ:レンズケアに対するコンタクトレンズ使用者の意識.日コレ誌49:119-123,20075)柳井亮二,植田喜一,西田輝夫ほか:市販多目的剤の消毒効果と細胞毒性の比較.日コレ誌49(補遺):S13-S18,20076)外園千恵,今西二郎:サイトカイン.眼科NewInsight5(木下茂編),p154-165,メジカルビュー社,19957)Araki-SasakiK,OhashiY,SasabeTetal:AnSV40-immortalizedhumancornealepithelialcelllineanditscharacterization.InvestOphthalmolVisSci36:614-621,19958)XueML,ZhuH,WillcoxMDP:TheroleofIL-1betaintheregulationofIL-8andIL-6inhumancornealepitheli-alcellsduringPseudomonasaeruginosacolonization.CurrEyeRes23:406-414,20019)山下英俊:トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-b)スーパーファミリーの眼組織における作用.日眼会誌101:927-947,199710)HuangX,McClellanSA,BarrettRPetal:IL-18contrib-utestohostresistanceagainstinfectionwithPseudomo-nasaeruginosathroughinductionofIFN-gammaproduc-tion.JImmunol168:5756-5763,200211)Santodomingo-RubidoJ,MoriO,KawaminamiS:Cyto-toxicityandantimicrobialactivityofsixmultipurposesoftcontactlensdisinfectingsolutions.OphthalPhysiolOpt26:476-482,200612)ImayasuM,ShiraishiA,OhashiYetal:Eectsofmulti-purposesolutionsoncornealepithelialtightjunctions.EyeContactLens34:50-55,200813)WangY,ZhangJ,YiXetal:ActivationofERK1/2MAPkinasepathwayinducestightjunctiondisruptioninhumancornealepithelialcells.ExpEyeRes78:125-136,2004***