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副腎皮質ステロイド薬にトリアムシノロンアセトニドのTenon蝗渇コ注射を併用した中年女性にみられた乳頭血管炎

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(141)4230910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):423426,2009cはじめに乳頭血管炎は主として健康な若年者の片眼に発症し,視神経乳頭部もしくは篩板付近の網膜中心静脈の炎症によるもので,視神経乳頭の著しい発赤・腫脹や網膜中心静脈閉塞症様の所見で発症する疾患である.治療は副腎皮質ステロイド薬の全身投与による加療が一般的である15).乳頭血管炎は一般的に予後良好ではあるものの,乳頭上の新生血管の形成や白鞘化を残すという報告もある.筆者らは中年女性に発症した本症に副腎皮質ステロイド薬内服とトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用し,著効を示した症例を経験したので報告する.I症例患者:52歳,女性.主訴:左眼霧視.現病歴:2007年10月22日頃から左眼霧視を自覚し,1〔別刷請求先〕田片将士:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:MasashiTakata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,Mukogawacho1-1,Nishinomiya,Hyogo663-8501,JAPAN副腎皮質ステロイド薬にトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用した中年女性にみられた乳頭血管炎田片将士*1,2岡本紀夫*1村上尊*2岡本のぶ子*2三村治*1*1兵庫医科大学眼科学教室*2岡本病院眼科Sub-TenonInjectionofTriamcinoloneAcetonideCombinedwithSystemicAdministrationofOralCorticosteroidforOpticDiscVasculitisinMiddle-agedFemaleMasashiTakata1,2),NorioOkamoto1),TakashiMurakami2),NobukoOkamoto2)andOsamuMimura1)1)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,OkamotoHospital乳頭血管炎(typeⅠ)に副腎皮質ステロイド薬の内服とトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用し,著効を示した症例を経験した.症例は52歳の女性,左眼の霧視にて岡本病院眼科を受診した.眼底検査で左眼視神経乳頭の発赤・腫脹を認めたが,限界フリッカ値や静的視野検査は正常であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で視神経乳頭より蛍光色素の漏出を認めた.以上より左眼乳頭血管炎と診断し副腎皮質ステロイド薬を開始した.しかし,視神経乳頭の所見の改善がみられないのでトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用したところ速やかに乳頭血管炎が消失した.乳頭血管炎が強い場合は副腎皮質ステロイド薬の全身投与に加えてトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用することが有効と考えられた.Wereportcaseofopticdiscvasculitistreatedeectivelywithsub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonideandsystemicadministrationofcorticosteroid.Thepatient,a52-year-oldfemale,presentedwithblurringinherlefteye.Ophthalmoscopicexaminationdisclosedareddishandswollenopticdiscintheeye.Criticalickerfrequencyandstaticvisualeldexaminationwerenormal.Fluoresceinangiographydemonstrateddyeleakagefromtheleftopticdisc.Wediagnosedopticdiscvasculitisinthelefteye,andadministeredcorticosteroidorally;however,thetherapywasinsucienttoreducetheopticdiscvasculitis.Triamcinoloneacetonidewasthereforeinjectedtothesub-Tenonspaceinthelefteye.Afterinjection,theopticdiscvasculitisimprovedquickly.Sub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonide,incombinationwithsystemicadministrationofcorticosteroid,maybeeectiveinthetreatmentofsevereopticdiscvasculitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):423426,2009〕Keywords:乳頭血管炎,トリアムシノロンアセトニド,Tenon下注射.opticdiscvasculitis,triamcinoloneacetonide,sub-Tenoninjection.———————————————————————-Page2424あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(142)週間後から左眼に白点の地図状のものが見えはじめたとのことで,10月29日に岡本病院眼科を受診した.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼1.0(1.5×sph+4.50D),左眼0.5(1.5×sph+4.75D),眼圧は右眼16mmHg,左眼17mmHg.前眼部・中間透光体に異常はなく,眼球運動は制限なく眼位も正位であった.対光反射は迅速かつ十分で相対的瞳孔求心路障害は認めなかった.眼底検査で右眼は正常,左眼は視神経乳頭の高度腫脹・発赤と一部網膜血管の蛇行・拡張がみられた(図1).限界フリッカ値は右眼30Hz,左眼29Hzと左右差は認めなかった.静的視野検査では両眼とも正常範囲内であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)では腕網膜循環時間,網膜内循環時間ともに正常範囲内であり,後期にかけては視神経乳頭からの旺盛な蛍光漏出がみられた(図2,3).頭蓋内,眼窩内の磁気共鳴画像(MRI)撮影を行ったが,異常所見はみられなかった.初診時の血液データを表1に示す.経過:年齢は中年であるが,臨床所見より左眼視神経乳頭血管炎と診断した.プレドニゾロン錠30mgを14日連続投与し,20mgからはそれぞれ7日間ごとに5mgずつ漸減投与し,その後5mg隔日投与を3回行った(総量はプレドニゾロン換算で885mg).経過中11月9日再診時(プレドニゾロン30mg内服中)に視神経乳頭の発赤・腫脹の軽快がみられなかったため,トリアムシノロンアセトニド12mgのTenon下注射を併用した(図4).トリアムシノロンアセトニドのTenon下注射4日後には受診時視神経乳頭の発赤・腫脹の著明な改善を認めた.網膜血管の蛇行・拡張もほぼ消失した.1月8日受診時には,視神経乳頭・網膜血管の所見は消失表1初診時の血液データT-Cho202mg/dlRBC394×104/μlHDL-Cho59mg/dlHb11.8g/dlTG122mg/dlHt36.2%空腹時血糖77mg/dlPlt22.8×104/μlCRP0mg/dl血沈1h15mmWBC7,200/μl2h37mm検査項目に異常値を認めなかった.T-Cho:総コレステロール,HDL-Cho:高比重リポ蛋白コレステロール,TG:中性脂肪,CRP:C反応性蛋白,WBC:白血球数,RBC:赤血球数,Hb:ヘモグロビン,Ht:ヘマトクリット,Plt:血小板数.図3図2と同一症例の蛍光眼底写真(9分42秒)視神経乳頭からの蛍光漏出を認めた.図12007年10月29日時点の左眼眼底写真左眼視神経乳頭の高度腫脹・発赤と一部網膜血管の蛇行・拡張がみられた.図22007年10月29日時点の蛍光眼底写真(34.7秒)FAで初期は腕網膜循環時間は約12秒とほぼ正常で,網膜内循環時間も約10秒とほぼ正常内であった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009425(143)していた(図5).II考察乳頭血管炎は1972年にHayreh6)がopticdiscvasculitisの疾患概念を提唱し,乳頭腫脹が強くみられるtypeⅠと網膜中心静脈閉塞症様所見が前面にみられるtypeⅡに分類した.また,HayrehはtypeⅠは篩板前部での毛様血管の非特異的炎症によるもので,typeⅡは乳頭部もしくは篩板後部での網膜中心静脈の炎症ではないかとの見解を示している.一般的に乳頭血管炎はおもに若年者の片眼性に認められ,Mariotte盲点の拡大以外は視機能の異常は認められないとされている.今回,筆者らが経験した症例は乳頭腫脹が非常に強くみられ,FAの結果や臨床所見からも網膜中心静脈閉塞症様の所見とは異なっているため,typeⅠに分類されると思われる.また,HayrehはtypeⅠに関しては副腎皮質ステロイド薬の全身投与が効果的であると述べている.本症例の特殊性としてはつぎの点があげられる.わが国での他の報告ではほとんどが若年者であり1030歳代がおもである13,5).本症例は52歳と中年であり,比較的まれであるといえる.さらに高度遠視が認められ,強い乳頭浮腫が認められている.高度遠視には強膜の相対的肥厚や小乳頭を伴うことが多く,本症例の危険因子と考えられる.つまり,篩板前域の乳頭血管の非特異的炎症により血管透過性の亢進がみられ,粗な篩板前域組織に組織液の貯留がみられる.それにより強い乳頭浮腫が生じ,篩板前域の静脈路が圧迫される6).それに加えて高度遠視眼での相対的強膜肥厚と小乳頭が加わり,さらに篩板前域の静脈路の圧迫が強化されるという機序が予想される.乳頭血管炎の加療としては,副腎皮質ステロイド薬の全身投与16)や本疾患が一般的に予後良好であることから自然治癒を期待し無治療にて様子をみている報告7,8)もある.一方で予後不良例も報告されている.しかし,初診時の眼底所見や経過で予後良好か不良かを判断する指標が示されていないのが現状である.城間ら4)は抗リン脂質抗体陽性を示した乳頭血管炎で視力不良であった症例を報告している.小暮ら5)は後遺症として乳頭上新生血管や乳頭上の静脈の白鞘形成がみられた症例を,窪田ら8)は無治療にて経過観察を行い,自然治癒を得たものの視神経乳頭の軽度萎縮と乳頭の上下に白鞘を後遺症として残した症例を報告している.Hayreh6)は副腎皮質ステロイド薬を投与せず経過観察を行った症例で発症前の視力に回復するのに4カ月以上かかり,発症約8カ月で視神経乳頭腫脹は消失したものの視神経乳頭の蒼白化を生じた症例に言及するとともに,副腎皮質ステロイド薬の積極的な使用はより早急な加療で後遺症の発現を防ぎ,病期の短縮を図るためにも有用であるとしている.また,別の報告9)では45歳以上で病期が長引くこと,ステロイド治療群と無治療群との比較において前者で病期の短縮を図れたこと,無治療で中心視野欠損を生じた症例があることなどを報告している.本症例では年齢が中年齢で45歳以上であることなどから積極的加療を行った.副腎皮質ステロイド薬内服で加療を開始し,さらにプレドニゾロン30mg内服後も劇的な改善が得られないためトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用した.その結果,内服開始の約1週間後,Tenon下注射の4日後には左眼の視神経乳頭の発赤や腫脹および網膜血管の拡張・蛇行が軽快している.今回筆者らは副腎皮質ステロイド薬の内服投与に加えてトリアムシノロンのTenon下注射を行い著効を得た.トリアムシノロンアセトニドのTenon下注射の単独加療も有用ではないかと思われるが,これに関しては今後単独加療での検討が必要であると思われた.文献1)吉田祐介,伴由利子,小林ルミ:抗カルジオリピン抗体図52008年1月8日時点の左眼眼底写真ほとんど視神経乳頭や網膜血管の病変は消失した.35302520151050プレドニゾロン錠(mg)H19.11.6H19.11.13H19.11.20H19.11.27H19.12.4H19.12.11H19.12.18図4副腎皮質ステロイド薬投与量の推移トリアムシノロンアセトニド12mgのTenon下注射を11月9日(矢印)に施行した.———————————————————————-Page4426あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(144)陽性であった乳頭血管炎の1例.臨眼61:1341-1345,20072)小栗真千子,近藤永子,近藤峰生ほか:14歳の女子に発症した乳頭血管炎の1例.眼臨99:389-391,20053)井内足輔,白石久子:長時間のVDT作業をしていた24歳女性に発症した乳頭血管炎.眼臨紀1:131-133,20084)城間正,照屋明子,早川和久ほか:抗リン脂質抗体陽性を示した乳頭血管炎の1症例.眼紀52:886-888,20015)小暮奈津子,阿部真知子,大西裕子ほか:乳頭血管炎と思われる8症例について.眼臨71:1236-1241,19776)HayrehSS:Opticdiscvasculitis.BrJOphthalmol56:652-670,19727)山本正洋,西尾陽子,大賀正一:視神経乳頭血管炎を呈した慢性活動性EBウイルス感染症の1例.臨眼53:975-977,19998)窪田靖夫,野村恭子:乳頭血管炎の1例.眼臨73:1431-1434,19799)OhKT,OhDM,HayrehSS:Opticdiscvasculitis.GraefesArchClinExpOphthalmol238:647-658,2000***