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Mars Letter Contrast Sensitivity Test で測定される コントラスト感度に及ぼす検査距離の影響

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1454.1458,2025cMarsLetterContrastSensitivityTestで測定されるコントラスト感度に及ぼす検査距離の影響東本美於川嶋英嗣愛知淑徳大学健康医療科学部医療貢献学科視覚科学専攻CE.ectofTestDistanceonContrastSensitivityMeasuredUsingtheMarsLetterContrastSensitivityTestMioTomotoandHidetsuguKawashimaCMajorofVisionSciences,DepartmentofMedicalSciences,FacultyofHealthandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversityC目的:MarsCLetterCContrastCSensitivityTest(Marstest)において測定されるコントラスト感度に及ぼす検査距離の影響をCBangerterフィルター装用時および非装用時で検討する.対象および方法:眼疾患を有さない矯正視力C1.0以上のC14名(平均年齢C21.14±0.36歳)を対象とした.Marstestを用いて,検査距離C40Ccm,27Ccm,18CcmのC3条件におけるコントラスト感度の測定をCBangerterフィルター装用時と非装用時で行った.結果:フィルター非装用条件では,検査距離によるコントラスト感度(logCS)の有意な変化は認められなかった(p=0.19)(40Ccm:1.797±0.046ClogCS,27Ccm:1.811±0.040ClogCS,18Ccm:1.817±0.041ClogCS).一方,フィルター装用条件では,検査距離が短くなるほど測定されるコントラスト感度が有意に上昇した(p<0.001)(40Ccm:0.991±0.146ClogCS,27Ccm:1.120C±0.124ClogCS,18Ccm:1.229±0.093ClogCS).結論:Bangerterフィルターで人工的にコントラスト感度を低下させた条件下では,検査距離を短縮し,それに伴い視標サイズが大きくなることで,測定されるコントラスト感度が上昇することが示唆された.CPurpose:Toinvestigatethee.ectoftestdistanceoncontrastsensitivity(CS)measuredusingtheMarsLet-terCContrastCSensitivityCTestCwithCandCwithoutCBangerterC.lters.CSubjectsandMethods:ACtotalCofC14Csubjects(meanage:21.14±0.36years)withnooculardiseaseandcorrectedvisualacuity.1.0participatedinthisstudy.CSCwasCmeasuredCusingCtheCMarsCLetterCContrastCSensitivityCTestCatC40,C27,CandC18Ccm,CbothCwithCandCwithoutCBangerterC.lters.CResults:InCtheCun.lteredCcondition,CtestCdistanceCexertedCnoCe.ectConCS(logCS)(p=0.19)(40Ccm:1.797±0.046ClogCS;27Ccm:1.811±0.040ClogCS;18Ccm:1.817±0.041ClogCS),CwhereasCinCtheCBangerter-.lteredcondition,CSshowedsigni.cantimprovementwithadecreaseintestdistance(p<0.001)(40cm:0.991±0.146logCS;27cm:1.120±0.124logCS;18cm:1.229±0.093logCS).Conclusion:WhenCSisarti.ciallyreducedusingCBangerterC.lters,CdecreasingCtheCtestCdistanceCandCincreasingCtheCoptotypeCsizeCmayCimproveCCSCmeasure-ments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(11):1454.1458,C2025〕Keywords:コントラスト感度,MarsLetterContrastSensitivityTest,検査距離,バンガーターフィルター.Ccontrastsensitivity,MarsLetterContrastSensitivityTest,testdistance,Bangerter.lter.Cはじめにコントラスト感度とは,輝度の相対的な違いに基づく輝度コントラストの検出閾値の逆数として定義され,ロービジョン患者における物体と背景の識別や顔認知1),歩行時の段差の検出2)など,日常生活における視覚を用いた行動と密接に関係する3)視覚機能の指標である.MarsCLetterCContrastCSensitivityTest(以下,MarsCtest)4)はCPelli-RobsonCCon-trastCSensitivityChartと同じCSloan文字を視標として採用したコントラスト感度検査表である.より細かいコントラストの段階で測定が可能であり,持ち運びが容易で簡便に利用〔別刷請求先〕川嶋英嗣:〒480-1197愛知県長久手市片平C2-9愛知淑徳大学健康医療科学部Reprintrequests:HidetsuguKawashima,Ph.D.,FacultyofHealthandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversity,2-9Katahira,Nagakute,Aichi480-1197,JAPANC1454(90)できる点が特徴である.Marstestの標準検査距離はC40Ccmに設定されており,視標の大きさは視角2.5°の1種類のみである.そのため,視力が低下すると視標の判読が困難になり,コントラスト感度の測定が制限される可能性がある.この問題への対応策として,検査距離を短縮し,視標の網膜像サイズを拡大する方法が考えられる.しかし,この方法がコントラスト感度に及ぼす影響は明らかになっていない.そこで本研究では,検査距離の短縮がCMarstestにおけるコントラスト感度測定に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.本研究は基礎的データの収集を目的としており,視覚正常者を対象とした.また,コントラスト感度が低下した状況においても,検査距離が測定値に及ぼす影響を検討した.実際のロービジョン患者を対象とする場合,視機能に個人差が大きく,同一条件下で検査距離の影響を評価することは困難である.加えて,コントラスト感度にはさまざまな視覚要因,たとえば視野異常5)や眼振6)などが影響を及ぼす可能性があり,それらすべてを統一的に制御したうえで実験を行うことは現実的にはむずかしい.さらに多数の条件を要する検討をロービジョン患者に対して実施することは,研究の初期段階においては倫理的な制約も伴う.以上の理由から本研究では,視覚正常者に対し,Bangerterフィルターを装用させて人工的にコントラスト感度を低下させた条件下で検討を行った.Bangerterフィルター装用時には,全空間周波数帯域にわたるコントラスト感度の低下を生じ,とくに高空間周波数帯域において顕著な低下が報告されている7).このような傾向は一部のロービジョン患者のコントラスト感度関数においても観察されることが報告されており8),本研究の結果は,特定のタイプのコントラスト感度低下を示すロービジョン患者の状態を模擬していると考えられる.本研究は,二つの実験で構成されている.実験C1では,検査距離がCMarstestによるコントラスト感度に及ぼす影響を検討した.実験C2では,実験C1の結果を踏まえ,視標サイズがコントラスト感度に与える影響をさらに詳細に検討した.両実験ともに,視覚正常者を対象とし,Bangerterフィルター装用の有無を条件として実施した.CI方法1.対象本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,愛知淑徳大学健康医療科学部医療貢献学科視覚科学専攻倫理委員会の承認(健視倫理C2024-05)を得て実施した.研究対象者は,眼疾患を有さず,視標を明視するために十分な調節力のある矯正視力1.0以上のC14名(平均年齢C21.14C±0.36歳)とした.実験開始前に目的と手順を研究対象者に十分説明し,自由意志によるインフォームド・コンセントを取得した.測定は,非優位眼を遮蔽し,優位眼のみで行った.優位眼はCHole-in-card法で決定した.[実験1]コントラスト感度の測定には,Marstest(MarsPercep-trix製)のC3種類の検査表を用いた(図1).この検査表はバックライトが備わっていないため,天井設置型CLED照明による室内照明下で測定を実施した.検査表表面の照度は340Clxであり,検査表の白地部分の輝度(視標背景輝度)はC85Ccd/m2であった.検査距離条件はC40Ccm,27Ccm,18Ccmの3条件(表1),フィルター条件は装用と非装用のC2条件とした.装用するCBangerterフィルター(Ryser製)は,濃度0.1およびC0.8のフィルターC2枚を重ね,ゴーグルに貼付して使用した.各研究対象者に対し,フィルター条件ごとの検査距離条件の測定順序を無作為化し,Marstestの所定の手順に基づいて測定を行い,対数コントラスト感度(logCS)を算出した.[実験2]フィルター装用条件下と非装用条件下で実施した.視標はCMarstestと同じCSloan文字であり,iMac21.5Cinch(Apple製)で動作するPsykinematix(v2.6GPUedition,KyberVision製)9)でガンマ補正を行ったCCRTディスプレイ(MITSUBISHI製CRDF223H)上に無作為順でC1文字ずつ呈示した.測定は暗室内で行い,視標背景輝度はC85Ccd/mC2であった.視標サイズ条件はC0.068.2.18ClogMAR(視角C0.098.12.66°)の範囲のC7条件であり,視標サイズ条件ごとに階段法によるコントラスト感度の測定を行った.CII結果[実験1]フィルター装用条件における平均視力はC0.14(0.85C±0.13logMAR),非装用条件では平均視力1.58(C.0.20±0.06logMAR)であった.測定結果を図2に示す.対応のある二元配置分散分析の結果,検査距離の主効果(F(2,26)=52.31,p<0.001),フィルターの主効果(F(1,13)=764.00,p<0.001),検査距離とフィルターの交互作用(F(2,26)=36.51,p<0.001のいずれも統計的に有意であった.交互作用の解釈のために,検査距離の単純主効果検定を行った.その結果,フィルター非装用条件では検査距離による有意な差は認められなかった(p=0.19).一方,フィルター装用条件では検査距離の単純主効果が有意であった(p<0.001).多重比較(Sha.er法)により検査距離条件間の比較を行った結果,フィルター装用条件ではすべての検査距離条件間で有意差が認められた(p<0.001).以上の結果から,検査距離を短くすることで視標の網膜像サイズが大きくなった場合に,フィルター非装用条件ではコントラスト感度の変化は認められなかった.一方で,フィルター装用条件では検査距離が短いほどコントラスト感度が有意に上昇することが示された.図1MarsLetterContrastSensitivityTest左からCForm1,Form2,Form3.表1検査距離条件と対応する視標の視角,logMAR,小数視力,空間周波数検査距離視標の視角ClogMAR小数視力空間周波数(cycles/degree)C40CcmC2.5°C1.48C0.033C1.00C27CcmC3.7°C1.65C0.023C0.68C18CcmC5.6°C1.82C0.015C0.45C[実験2]図3では,視標サイズ(logMAR)を横軸,対数コントラスト感度(logCS)を縦軸にとり,フィルター条件別にデータをプロットしている.それぞれのフィルター条件ごとに二次関数をあてはめた.図2から曲線の形状はフィルター条件によって異なっていることが確認された.フィルター非装用条件では視標サイズが大きい場合と小さい場合の両側でコントラスト感度が低下し,ピーク付近でなだらかに変化する区間を示した.一方で,フィルター装用条件では視標サイズ(logMAR)が大きいほどコントラスト感度が上昇する形状を示した.さらに,図2に示したCMarstestを三つの検査距離条件(40cm,27cm,18cm)で実施した際の視標サイズに相当する大きさ(1.48,1.65,1.82ClogMAR)に注目した.これらのデータが二次関数の曲線上で含まれる区間は,フィルター条件によって異なっていた.非装用条件では,これらのデータはピーク付近のなだらかに変化する区間に位置していた.一方で,装用条件では曲線の増加区間に位置していた.このことから,Marstestにおける検査距離の影響の違いは,フィルター条件ごとにCSloan文字を視標としたときのコントラスト感度関数の形状が異なるためであることが示唆された.CIII考按Marstestによるコントラスト感度の測定において,検査距離を短くしても,フィルター非装用条件ではコントラスト感度に大きな変化は認められなかった.一方で,Bangerterフィルターを装用して人工的に感度を低下させた条件では,検査距離を短くするほどコントラスト感度が上昇する傾向が確認された(実験1).この結果は,視標として文字刺激を用いたときのコントラスト感度関数の形状に起因することが示唆された(実験2).視覚正常者においては,正弦波グレーティングを用いたコントラスト感度関数は,一般に高空間周波数および低空間周波数で感度が低下するバンドパス型の形状を示す10).一方で,視標として文字を用いた場合には,視標サイズが大きくなるにつれてコントラスト感度が上昇するローパス型の傾向が報告されている11).本研究では,先行研究11)で検討された最大視標サイズ(1.18logMAR)よりもさらに大きいC2.18logMARまで測定範囲を拡張し,コントラスト感度を測定した.その結果,図3に示すとおり,大きな視標サイズの範2.0相当するMarstestの検査距離40cm3.0対数コントラスト感度(logCS)対数コントラスト感度(logCS)2.01.00.001020304050検査距離(cm)図2検査距離と対数コントラスト感度の関係エラーバーは標準偏差を示している.フィルター非装用条件では0.01.02.03.0検査距離によるコントラスト感度の違いは認められなかった.一方で,フィルター装用条件では,検査距離が短くなるほどコントラスト感度が有意に上昇した.囲において顕著な感度の低下は観察されなかった.文字視標のコントラスト感度関数がローパス型の傾向を示す要因としては,広範囲の空間周波数成分を含む文字刺激の認識において,文字サイズの拡大に伴う認識に寄与する空間周波数帯域の変化が関係していることが示唆されている12).しかし,このメカニズムの詳細は十分に解明されておらず,今後のさらなる検討が求められる.ロービジョン患者のコントラスト感度関数には,(A)高空間周波数帯域のみでの感度低下,(B)全空間周波数帯域にわたる均一な感度低下,(C)全空間周波数帯域にわたる不均一な感度低下,(D)中間周波数帯域のみでの感度低下のC4種類8)があるとされている.しかし,この分類は正弦波グレーティングを用いたコントラスト感度の測定結果に基づくものである.ロービジョン患者において,文字刺激を視標とした場合に,視標サイズごとのコントラスト感度から得られるコントラスト感度関数の種類については十分に明らかになっていない.文字刺激を視標とした場合のコントラスト感度関数の形状が,正弦波グレーティングを視標とした場合と同様に複数種類存在するのであれば,Marstestにおける検査距離の短縮に伴うコントラスト感度の変化は,これらの形状に依存する可能性がある.たとえば,図3に示したフィルター装用条件のように,視標サイズが小さい区間で顕著にコントラスト感度が低下する場合,検査距離を短くするほどコントラスト感度が上昇する可能性がある.一方で,コントラスト感度が視標サイズ全体にわたって均一に低下する場合には,検査距離を短くしてもコントラスト感度に変化は生じない可能視標サイズ(logMAR)図3視標サイズと対数コントラスト感度の関係横軸は視標サイズを示しており,logMAR値が大きいほど視標サイズが大きくなる.曲線は,各条件に当てはめた二次関数の回帰曲線であり,フィルター非装用条件ではCy=.0.552×2+1.858x+0.150,フィルター装用条件ではCy=.0.713×2+3.046x.2.206であった.また,Marstestを三つの検査距離条件(40Ccm,27cm,18Ccm)で実施したときに視標サイズに相当するClogMAR値(1.48,1.65,1.82ClogMAR)が回帰曲線上でどの区間に含まれるかが,フィルター条件によって異なっていた.性がある.コントラスト感度関数において,とくにピークコントラスト感度は,歩行時の段差の検出など,視覚を用いた行動との関連から重要な指標とされている2).Marstestはこのピーク感度を測定する検査表として位置づけられている4).本研究のフィルター装用条件において,検査距離を短縮することでコントラスト感度が上昇したことは,標準検査距離C40Ccmでは視標サイズが小さく,ピーク感度に達していないことを示唆している.ただし,検査距離を短縮することは調節の影響が出る可能性がある.加えて,実験C1で使用した最短距離(18Ccm)でも視標サイズの拡大は検査距離C40Ccmのときと比べて約C2.2倍にとどまり,十分な視標サイズの種類を確保するには限界がある.したがって,視標サイズの選択肢を広げるためには,検査距離C1Cmで使用されるCPelli-RobsonCon-trastCSensitivityChartの活用が有効と考えられる.この検査表の視標サイズ(2.8°)はCMarstest(2.5°)とほぼ同等であり,本研究の知見を応用できる可能性があると期待される.あるいは,FreiburgCVisionCTest13)を大型ディスプレイ上で使用すれば,任意の視標サイズで測定が可能となり,測定方法の柔軟性をさらに高めることができる.検査距離を短くして視標サイズを拡大するときに,コントラスト感度がピークに達する視標サイズが明らかでない点は新たな課題となる.この点に関しては,文字視力値からピーク感度が得られる視標サイズを推定し,Pelli-RobsonCCon-trastCSensitivityChartにおける最適な検査距離を算出する方法が提案されている14).しかし,本研究では視力測定にLandolt環を用いたため,この推定方法の妥当性を検証することはできなかった.本研究にはいくつかの限界がある.本研究の結果は,Bangerterフィルターの装用により人工的にコントラスト感度を低下させた視覚正常者を対象としており,実際の眼疾患に起因する感度低下とは異なる条件下で得られたものである.このため,本研究の結果がすべてのロービジョン患者に当てはまるとは限らない.実際のロービジョン患者のコントラスト感度関数は多様であり8),異なる結果が得られる可能性もある.今後は,実際のロービジョン患者を対象とした実証的な検討を進めることが課題である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)OwsleyCC,CSloaneME:ContrastCsensitivity,Cacuity,CandCtheCperceptionCof‘real-world’Ctargets.CBrCJCOphthalmolC71:791-796,C19872)MarronCJA,CBaileyIL:VisualCfactorsCandCorientation-mobilityperformance.AmJOptomPhysiolOptC59:413-426,C19823)WestCSK,CMunozCB,CRubinCGSCetal:FunctionCandCvisualCimpairmentCinCaCpopulation-basedCstudyCofColderCadults.CTheCSEECproject.CSalisburyCEyeCEvaluation.CInvestCOph-thalmolVisSciC38:72-82,C19974)ArditiA:ImprovingCtheCdesignCofCtheCletterCcontrastCsensitivitytest.InvestOphthalmolVisSciC46:2225-2229,C20055)HyvarinenL,RovamoJ,LaurinenPetal:Contrastsensi-tivityCfunctionCinCevaluationCofCvisualCimpairmentCdueCtoCretinitispigmentosa.ActaOphthalmol(Copenh)C59:763-773,C19816)HertleCRW,CReeseM:ClinicalCcontrastCsensitivityCtestingCinCpatientsCwithCinfantileCnystagmusCsyndromeCcomparedCwithage-matchedcontrols.AmJOphthalmolC143:1063-1065,C20077)鵜飼一彦,波呂栄子:バンガーターフィルターによるコントラスト感度の低下.VISIONC4:71-72,C19928)ChungSTL,LeggeGE:ComparingtheshapeofcontrastsensitivityCfunctionsCforCnormalCandClowCvision.CInvestCOphthalmolVisSciC57:198-207,C20169)BeaudotWHA:Psykinematix:ACnewCpsychophysicalCtoolforinvestigatingvisualimpairmentduetoneuraldys-functions.VISIONC21:19-32,C200910)CampbellFW,Robson,JG:Applicationoffourieranalysistothevisibilityofgratings.JPhysiolC197:551-566,C196811)AlexanderCKR,CDerlackiCDJ,CFishmanGA:ContrastCthresholdsCforCletterCidenti.cationCinCretinitisCpigmentosa.CInvestOphthalmolVisSciC33:1846-1852,C199212)MajajCNJ,CPelliCDG,CKurshanCPCetal:TheCr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Bangerter フィルター装用下の両眼加算の検討

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):248.250,2022cBangerterフィルター装用下の両眼加算の検討本居快服部玲奈杉浦巧知愛知淑徳大学心理医療科学研究科心理医療科学専攻視覚科学専修CExaminationofBinocularSummationbyUseoftheBangerterOcclusionFoilFilterKaiMotoori,RenaHattoriandTakutoSugiuraCDepartmentofVisualScience,MajorofPsychologyandMedicalSciences,GraduateSchoolofPsychologyandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversityC両眼加算現象の視覚系への影響を調べるために,正常な視力を有するC3人の被験者の視力を,優位眼,非優位眼,両眼のC3とおりの条件で測定した.測定にはCBangerterフィルターを用いてC3種類の濃度(フィルターなし,1.0,0.4)で両眼加算現象を検討した.他覚的屈折矯正と瞳孔径を統制することで,両眼加算現象の視覚系への影響のみを抽出することができた.その結果,Bangerterフィルターの有無にかかわらず,両眼視の視力は単眼視の視力に比べて有意に高くないことが示された.また,フィルター濃度の違いは両眼加算効果の程度にも影響を与えなかった.CInCthisCstudy,CweCinvestigatedCtheCe.ectCofCbinocularCsummationConCtheCvisualCsystem,CandCtestedCtheCvisualCsummationCofC3CsubjectsCwithCnormalCvisualacuity(VA)usingCtheCBangerterCOcclusionCFoilC.lterCinCthreeCdensi-ties.CInCallC3Csubjects,CVACwasCmeasuredCunderCthreeconditions:1)dominantCeye,2)non-dominantCeye,Cand3)CbinocularCeyes.CWithCtheCobjectiveCrefractiveCcorrectionCandCpupilCdiametersCcontrolled,CitCwasCpossibleCtoCsolelyCextractthee.ectofbinocularsummationonthevisualsystem.Theresultsshowedthateveninthenon-.ltercon-dition,binocularVAwasnotsigni.cantlyhigherthanmonocularVA.Moreover,di.erencesin.lterdensityhadnoa.ectonthelevelofthebinocularsummatione.ect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(2):248.250,C2022〕Keywords:両眼加算,視力,他覚的完全矯正,屈折統制,バンガーターフィルター.binocularsummation,visualacuity,objectiverefraction,refractioncontrol,Bangerter.lter.Cはじめに日常場面において,われわれは両眼を用いて外界の視覚情報を入手している.眼科臨床では視覚の情報処理能力を評価する際,もっとも基礎的で重要な機能として空間分解能(視力)を指標に用いている.視力を評価する際,通常は,片眼を遮閉することで各眼の屈折度数を独立に評価している.しかし,単眼視より両眼視の視力が向上する報告は多く存在し,単眼よりも両眼での機能が高くなる現象として両眼加算現象がある1).この現象に寄与する要因として,おもに視覚系要因,光学系要因,刺激要因の三つが指摘されている.視覚系要因としては,弱視などによって脳内の処理系が未発達であることが影響して両眼視機能が成立していない実験参加者を用いた場合,加算効果が減弱したと報告されている2).光学系要因としては,両眼視より単眼視のほうが瞳孔の収縮による収差の影響を受けにくく視力が向上するとの報告3,4),瞳孔径自体の面積が大きいほうが網膜照度との関係で加算効果は高くなるなどの影響が報告されている5).また,刺激要因としては,視標コントラストの低下や6),凸レンズによる網膜像のピンボケ7)により,加算効果が向上することが報告されている.また,視覚系要因と刺激要因の相互作用の効果も生じ,片眼弱視患者は日常視状況では加算効果が低いが,健眼にCNDC.lterを用いることで,加算効果が高くなるとの報告もある8).このように両眼加算は,三つの要因が複雑に相互作用することによって生じている.これらの両眼加算に関する従来の研究報告では,実験に用いた独立変数の効果だけでなく,さまざまな要因の影響につ〔別刷請求先〕本居快:〒460-1197愛知県長久手市片平C2-9愛知淑徳大学心理医療科学研究科視覚科学専修Reprintrequests:KaiMotoori,C.O.,DepartmentofVisualScience,GraduateSchoolofPsychologyandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversity,2-9Katahira,Nagakutecity,Aichi460-1197,JAPANC248(116)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(116)C2480910-1810/22/\100/頁/JCOPYいても同時に指摘しており,本現象に直接的な影響を及ぼす本質的な要因は特定されていない.そこで本研究では,視覚系要因における視力の加算効果の有無について,基礎的なデータを測定し,確定することを目的とした.この点を検討するにあたって,光学系要因の統制が重要となる.晴眼者を用いた両眼加算について報告している先行研究の屈折統制は,「logMAR0.0以上の視覚機能をもつ被験者」という記述が多くみられる.眼科臨床において使用される視力表は,一般的にClogMARC.0.3(小数視力2.0)までのものが多く,視力矯正をする際の上限視力が決まっている.しかし,人間の分解能を最大限まで計測すると,小数視力C2.0以上が観察される場合も報告もされており9),上述した,「logMAR0.0以上の視覚機能をもつ被験者」を光学系統制に用いた研究方法では,単眼視力が最大限に引き出されておらず,純粋に両眼視力との比較ができていない可能性がある.また,視力を従属変数とする研究では,自覚的屈折値ではなく,網膜に焦点が結像している他覚的な保証が必要であろう.さらに,両眼加算は,瞳孔径の影響3.5)も示唆されており,光学系要因を排除するためには,ピンホールを用いて瞳孔径の統制を行う必要がある.このように光学系要因を統制することで,視覚系要因の検討が可能となる.加えて,視覚系要因と刺激要因の相互作用についても検討する.本研究は,刺激要因として,両眼にCBangerterフィルターを挿入することにより,視覚が不利な状況を想定した.視覚が不利になると両眼加算が向上することが報告されており,このことは視覚系が何らかの処理の重みづけすることを意味する7).本研究では,光学系統制をしたうえで,不利になった視覚を補完するように,加算効果が生じるのかについても検討した.CI対象および方法対象は,軽度屈折異常以外に眼科系の器質的疾患を有さない実験参加者C3名(23.66C±0.94歳)である.3名とも視力はlogMAR0.0以上で,立体視はCTNOステレオテストがC15秒で,本筆者である.本実験は,愛知淑徳大学心理医療科学研究科倫理委員会の規定に基づき行われた(承認番号:2020-08).本実験の屈折統制は,自覚的屈折検査に基づいた完全矯正ではなく,他覚的完全矯正であった.実験参加者の他覚的完全矯正は,ソフトコンタクトレンズを装用してオートレフラクトメーターによる測定を用いて球面度数と乱視度数の調整を行った(等価球面度数の絶対値平均:RC0.00DC±0.14,LC0.08D±0.07).また,瞳孔収縮による視力値に対する影響を減衰させるために,人工瞳孔としてピンホール(3Cmm)を装用した.視距離はC7.5Cmとし,視力測定時には実験参加者の頭部を顔面固定器(竹井機器)で固定した.測定は明室で行い,MacBookAir(macOSCCatalineCver.C10.15.7,解像度C2,560C×1,600Cpix,リフレッシュレート60CHz)で刺激を制御し呈示した.刺激は,PsychoPy(ver3.0.7)10)で作製したCLandolt環刺激を用いた視力検査プログラムを使用した.モニター画面中央に刺激を配置し,サイズは,logMAR1.0.C.1.0間でClogMAR0.1刻みで設定した.背景は白地(sRGB:0,C0,0)で平均輝度C218.62Ccd/mC2,Landolt環刺激色は黒色(sRGB:255,0,0)で輝度はC2.92Ccd/Cm2,刺激輝度コントラストはC97.36%であった.視力は「優位眼視」「非優位眼視」「両眼視」のC3条件で測定した.また,フィルター要因として,Bangerterフィルターを使用しない「NonFilter」と,Bangerterフィルター濃度値C1.0の「Filter1.0」,同C0.4の「Filter0.4」のC3種類の条件を設定した.つまり本実験は,呈示眼要因(3種類)とフィルター要因(3種類)のC2要因分散分析モデル実験計画であった.実験参加者の優位眼は,Miles&PortaTestsを用いて決定した11,12).実験参加者にはCLandolt環の切れ目の方向を回答するよう教示した.刺激呈示時間の制限はなかった.実験は,臨床的視力検査ではなく極限法の完全上下法を用いて行った.各実験条件をランダマイズしC16回の繰り返しを行った.CII結果図1に測定の結果を示した.NonFilter条件では,一般的に使用される視力値の下限であるClogMAR.0.3に達しており,他覚的完全矯正が自覚的にも保証された.また,呈示眼要因とフィルター要因のC2要因分散分析の結果,呈示眼要因とフィルター要因の交互作用は認められなかった(NS).また,フィルター要因の主効果が認められ(F(2,207)=191.77,p<0.001),多重比較を行った結果,すべてのフィルター条件間で有意差が認められ(p<0.001),Filter0.4条件>Filter1.0条件>NonFilter条件の順に,有意な視力低下が確認された(図1).また,呈示眼要因の主効果が認められた(F(2,207)=13.02,p<0.001).多重比較を行った結果,両眼視と優位眼視条件は非優位眼視条件よりも有意に視力が高く(p<0.001),優位眼視条件は,非優位眼視条件より有意差傾向だが視力が高いことが示唆された(p=0.06).また,両眼視と優位眼視では,両眼視のほうが視力値が高い結果ではあったが,統計的な有意差は生じなかった(NS).CIII考按本実験の結果,他覚的に光学系要因(屈折矯正,瞳孔径)を統制した場合,優位眼視力を有意に超える両眼視力は生じなかった.この結果は,実験参加者を自覚的屈折視力検査にて,限界視力まで矯正・測定したとき,両眼加算が生じない(117)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C249視力(logMAR)0.0-0.2-0.4NonFilter1.0FilterBangerterフィルター濃度図1フィルター濃度別・測定眼別のlogMAR値エラーバーは標準誤差を示す.との報告9)と同様の結果であった.このことは,自覚的または他覚的に単眼視力を限界まで屈折矯正した場合,優位眼視力を有意に超える両眼視力は生じない可能性を示唆する.本所見は,完全屈折統制下で両眼加算現象に関する実験を行うことの重要性を示唆する結果でもある.また,視覚が不利になると両眼加算が向上するとの報告7)から,フィルター要因の検討において,フィルターが濃くなることにより,加算効果が向上し,視覚の補完が生じることが予測された.しかし,有意な両眼視力の向上が認められなかった.視覚系による両眼加算はレンズ付加による網膜像のピンボケを補正するとの報告7)は,自然瞳孔で行っているなど光学系の統制が厳格ではなかった.両眼加算は,両眼視時に光学系が介入することによって影響が大きくなることが報告されており3.5),これらを考慮すると,視覚系が網膜像のピンボケを補正するとの報告7)は,両眼加算による視覚系の補正効果ではなく,光学系の影響が介入している可能性も否定できない.また,網膜像のピンボケは,焦点が中心窩に結像していないことから,瞳孔径による焦点深度の影響などが介入している可能性や,フィルターによるボケは焦点が中心窩に結像している点,刺激の質が異なる可能性がある.この点については,光学系統制を行ったうえで,今後検討する必要がある.上記のとおり,光学系要因を統制したとき,優位眼と比較して,有意な両眼視力の向上は生じないことが示された.両眼加算現象は,視覚系による効果が弱く,光学系の介入が大きい可能性がある.両眼加算の視覚系の影響を検討するためには,瞳孔径の統制に加えて,他覚的屈折矯正によって各片眼の屈折値を統制する重要性が示された.本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない.本論文の提出にあたり,ご指導をいただいた愛知淑徳大学健康医療科学部,高橋啓介教授に,感謝の意を表します.文献1)CambelFW,GreenDG:Monocularversusbinocularvisu-alacuity.Nature,C208:191-192,C19652)VedamurthyCI,CSuttleCCM,CAlexanderCJCetal:InterocularCinter-actionsCduringCacuityCmeasurementCinCchildrenCandCadults,andinadultswithamblyopia.VisionResC47:179-188,C20073)魚里博,川守田拓志:両眼視と単眼視下の視機能に及ぼす瞳孔径と収差の影響.あたらしい眼科22:93-95,C20054)鈴木任里江,魚里博,石川均ほか:検査距離が両眼加算に及ぼす影響.あたらしい眼科C26:857-860,C20095)MedinaJM,JimenezJR,JimenezdelBarcoL:Thee.ectofCpupilCsizeConCbinocularCsummationCatCsuprathresholdCconditions.CurrEyeResC26:327-334,C20036)BearseMA,FreemenRD:Binocularsummationinorien-tationCdiscriminationCdependsConCstimulusCcontrastCandCduration.VisionResC34:19-29,C19947)SotirisCP,CDionysiaCP,CTrisevgeniCGCetal:BinocularCsum-mationCimprovesCperformanceCtoCdefocus-inducedCblur.CInvestOphthalmolVisSciC52:2784-2789,C20118)BakerCDH,CMeeseCTS,CMansouriCBCetal:BinocularCsum-mationofcontrastremainsintactinstrabismicamblyopia.InvestOphthalmolVisSciC48:5532-5538,C20079)鈴木賢治,新井田孝裕,山田徹人ほか:青年健常者の視力の分布.眼臨紀C7:421-425,C201410)BeckyCT,CKatieCR,CImogenCRCetal:BUILDINGEXPER-MENTSCPsychopy.SAGEpublicationsLtd.,201811)CrovitzCHF,CZenerK:ACgroup-testCforCassessingChand-andeye-dominance.AmJPsycholC75:271-276,C196212)MilesWR:Oculardominanceinhumanadults.JournalofGeneralPsychologyC3:412-420,C1930***(118)