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Bangerter フィルター装用下の両眼加算の検討

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):248.250,2022cBangerterフィルター装用下の両眼加算の検討本居快服部玲奈杉浦巧知愛知淑徳大学心理医療科学研究科心理医療科学専攻視覚科学専修CExaminationofBinocularSummationbyUseoftheBangerterOcclusionFoilFilterKaiMotoori,RenaHattoriandTakutoSugiuraCDepartmentofVisualScience,MajorofPsychologyandMedicalSciences,GraduateSchoolofPsychologyandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversityC両眼加算現象の視覚系への影響を調べるために,正常な視力を有するC3人の被験者の視力を,優位眼,非優位眼,両眼のC3とおりの条件で測定した.測定にはCBangerterフィルターを用いてC3種類の濃度(フィルターなし,1.0,0.4)で両眼加算現象を検討した.他覚的屈折矯正と瞳孔径を統制することで,両眼加算現象の視覚系への影響のみを抽出することができた.その結果,Bangerterフィルターの有無にかかわらず,両眼視の視力は単眼視の視力に比べて有意に高くないことが示された.また,フィルター濃度の違いは両眼加算効果の程度にも影響を与えなかった.CInCthisCstudy,CweCinvestigatedCtheCe.ectCofCbinocularCsummationConCtheCvisualCsystem,CandCtestedCtheCvisualCsummationCofC3CsubjectsCwithCnormalCvisualacuity(VA)usingCtheCBangerterCOcclusionCFoilC.lterCinCthreeCdensi-ties.CInCallC3Csubjects,CVACwasCmeasuredCunderCthreeconditions:1)dominantCeye,2)non-dominantCeye,Cand3)CbinocularCeyes.CWithCtheCobjectiveCrefractiveCcorrectionCandCpupilCdiametersCcontrolled,CitCwasCpossibleCtoCsolelyCextractthee.ectofbinocularsummationonthevisualsystem.Theresultsshowedthateveninthenon-.ltercon-dition,binocularVAwasnotsigni.cantlyhigherthanmonocularVA.Moreover,di.erencesin.lterdensityhadnoa.ectonthelevelofthebinocularsummatione.ect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(2):248.250,C2022〕Keywords:両眼加算,視力,他覚的完全矯正,屈折統制,バンガーターフィルター.binocularsummation,visualacuity,objectiverefraction,refractioncontrol,Bangerter.lter.Cはじめに日常場面において,われわれは両眼を用いて外界の視覚情報を入手している.眼科臨床では視覚の情報処理能力を評価する際,もっとも基礎的で重要な機能として空間分解能(視力)を指標に用いている.視力を評価する際,通常は,片眼を遮閉することで各眼の屈折度数を独立に評価している.しかし,単眼視より両眼視の視力が向上する報告は多く存在し,単眼よりも両眼での機能が高くなる現象として両眼加算現象がある1).この現象に寄与する要因として,おもに視覚系要因,光学系要因,刺激要因の三つが指摘されている.視覚系要因としては,弱視などによって脳内の処理系が未発達であることが影響して両眼視機能が成立していない実験参加者を用いた場合,加算効果が減弱したと報告されている2).光学系要因としては,両眼視より単眼視のほうが瞳孔の収縮による収差の影響を受けにくく視力が向上するとの報告3,4),瞳孔径自体の面積が大きいほうが網膜照度との関係で加算効果は高くなるなどの影響が報告されている5).また,刺激要因としては,視標コントラストの低下や6),凸レンズによる網膜像のピンボケ7)により,加算効果が向上することが報告されている.また,視覚系要因と刺激要因の相互作用の効果も生じ,片眼弱視患者は日常視状況では加算効果が低いが,健眼にCNDC.lterを用いることで,加算効果が高くなるとの報告もある8).このように両眼加算は,三つの要因が複雑に相互作用することによって生じている.これらの両眼加算に関する従来の研究報告では,実験に用いた独立変数の効果だけでなく,さまざまな要因の影響につ〔別刷請求先〕本居快:〒460-1197愛知県長久手市片平C2-9愛知淑徳大学心理医療科学研究科視覚科学専修Reprintrequests:KaiMotoori,C.O.,DepartmentofVisualScience,GraduateSchoolofPsychologyandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversity,2-9Katahira,Nagakutecity,Aichi460-1197,JAPANC248(116)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(116)C2480910-1810/22/\100/頁/JCOPYいても同時に指摘しており,本現象に直接的な影響を及ぼす本質的な要因は特定されていない.そこで本研究では,視覚系要因における視力の加算効果の有無について,基礎的なデータを測定し,確定することを目的とした.この点を検討するにあたって,光学系要因の統制が重要となる.晴眼者を用いた両眼加算について報告している先行研究の屈折統制は,「logMAR0.0以上の視覚機能をもつ被験者」という記述が多くみられる.眼科臨床において使用される視力表は,一般的にClogMARC.0.3(小数視力2.0)までのものが多く,視力矯正をする際の上限視力が決まっている.しかし,人間の分解能を最大限まで計測すると,小数視力C2.0以上が観察される場合も報告もされており9),上述した,「logMAR0.0以上の視覚機能をもつ被験者」を光学系統制に用いた研究方法では,単眼視力が最大限に引き出されておらず,純粋に両眼視力との比較ができていない可能性がある.また,視力を従属変数とする研究では,自覚的屈折値ではなく,網膜に焦点が結像している他覚的な保証が必要であろう.さらに,両眼加算は,瞳孔径の影響3.5)も示唆されており,光学系要因を排除するためには,ピンホールを用いて瞳孔径の統制を行う必要がある.このように光学系要因を統制することで,視覚系要因の検討が可能となる.加えて,視覚系要因と刺激要因の相互作用についても検討する.本研究は,刺激要因として,両眼にCBangerterフィルターを挿入することにより,視覚が不利な状況を想定した.視覚が不利になると両眼加算が向上することが報告されており,このことは視覚系が何らかの処理の重みづけすることを意味する7).本研究では,光学系統制をしたうえで,不利になった視覚を補完するように,加算効果が生じるのかについても検討した.CI対象および方法対象は,軽度屈折異常以外に眼科系の器質的疾患を有さない実験参加者C3名(23.66C±0.94歳)である.3名とも視力はlogMAR0.0以上で,立体視はCTNOステレオテストがC15秒で,本筆者である.本実験は,愛知淑徳大学心理医療科学研究科倫理委員会の規定に基づき行われた(承認番号:2020-08).本実験の屈折統制は,自覚的屈折検査に基づいた完全矯正ではなく,他覚的完全矯正であった.実験参加者の他覚的完全矯正は,ソフトコンタクトレンズを装用してオートレフラクトメーターによる測定を用いて球面度数と乱視度数の調整を行った(等価球面度数の絶対値平均:RC0.00DC±0.14,LC0.08D±0.07).また,瞳孔収縮による視力値に対する影響を減衰させるために,人工瞳孔としてピンホール(3Cmm)を装用した.視距離はC7.5Cmとし,視力測定時には実験参加者の頭部を顔面固定器(竹井機器)で固定した.測定は明室で行い,MacBookAir(macOSCCatalineCver.C10.15.7,解像度C2,560C×1,600Cpix,リフレッシュレート60CHz)で刺激を制御し呈示した.刺激は,PsychoPy(ver3.0.7)10)で作製したCLandolt環刺激を用いた視力検査プログラムを使用した.モニター画面中央に刺激を配置し,サイズは,logMAR1.0.C.1.0間でClogMAR0.1刻みで設定した.背景は白地(sRGB:0,C0,0)で平均輝度C218.62Ccd/mC2,Landolt環刺激色は黒色(sRGB:255,0,0)で輝度はC2.92Ccd/Cm2,刺激輝度コントラストはC97.36%であった.視力は「優位眼視」「非優位眼視」「両眼視」のC3条件で測定した.また,フィルター要因として,Bangerterフィルターを使用しない「NonFilter」と,Bangerterフィルター濃度値C1.0の「Filter1.0」,同C0.4の「Filter0.4」のC3種類の条件を設定した.つまり本実験は,呈示眼要因(3種類)とフィルター要因(3種類)のC2要因分散分析モデル実験計画であった.実験参加者の優位眼は,Miles&PortaTestsを用いて決定した11,12).実験参加者にはCLandolt環の切れ目の方向を回答するよう教示した.刺激呈示時間の制限はなかった.実験は,臨床的視力検査ではなく極限法の完全上下法を用いて行った.各実験条件をランダマイズしC16回の繰り返しを行った.CII結果図1に測定の結果を示した.NonFilter条件では,一般的に使用される視力値の下限であるClogMAR.0.3に達しており,他覚的完全矯正が自覚的にも保証された.また,呈示眼要因とフィルター要因のC2要因分散分析の結果,呈示眼要因とフィルター要因の交互作用は認められなかった(NS).また,フィルター要因の主効果が認められ(F(2,207)=191.77,p<0.001),多重比較を行った結果,すべてのフィルター条件間で有意差が認められ(p<0.001),Filter0.4条件>Filter1.0条件>NonFilter条件の順に,有意な視力低下が確認された(図1).また,呈示眼要因の主効果が認められた(F(2,207)=13.02,p<0.001).多重比較を行った結果,両眼視と優位眼視条件は非優位眼視条件よりも有意に視力が高く(p<0.001),優位眼視条件は,非優位眼視条件より有意差傾向だが視力が高いことが示唆された(p=0.06).また,両眼視と優位眼視では,両眼視のほうが視力値が高い結果ではあったが,統計的な有意差は生じなかった(NS).CIII考按本実験の結果,他覚的に光学系要因(屈折矯正,瞳孔径)を統制した場合,優位眼視力を有意に超える両眼視力は生じなかった.この結果は,実験参加者を自覚的屈折視力検査にて,限界視力まで矯正・測定したとき,両眼加算が生じない(117)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C249視力(logMAR)0.0-0.2-0.4NonFilter1.0FilterBangerterフィルター濃度図1フィルター濃度別・測定眼別のlogMAR値エラーバーは標準誤差を示す.との報告9)と同様の結果であった.このことは,自覚的または他覚的に単眼視力を限界まで屈折矯正した場合,優位眼視力を有意に超える両眼視力は生じない可能性を示唆する.本所見は,完全屈折統制下で両眼加算現象に関する実験を行うことの重要性を示唆する結果でもある.また,視覚が不利になると両眼加算が向上するとの報告7)から,フィルター要因の検討において,フィルターが濃くなることにより,加算効果が向上し,視覚の補完が生じることが予測された.しかし,有意な両眼視力の向上が認められなかった.視覚系による両眼加算はレンズ付加による網膜像のピンボケを補正するとの報告7)は,自然瞳孔で行っているなど光学系の統制が厳格ではなかった.両眼加算は,両眼視時に光学系が介入することによって影響が大きくなることが報告されており3.5),これらを考慮すると,視覚系が網膜像のピンボケを補正するとの報告7)は,両眼加算による視覚系の補正効果ではなく,光学系の影響が介入している可能性も否定できない.また,網膜像のピンボケは,焦点が中心窩に結像していないことから,瞳孔径による焦点深度の影響などが介入している可能性や,フィルターによるボケは焦点が中心窩に結像している点,刺激の質が異なる可能性がある.この点については,光学系統制を行ったうえで,今後検討する必要がある.上記のとおり,光学系要因を統制したとき,優位眼と比較して,有意な両眼視力の向上は生じないことが示された.両眼加算現象は,視覚系による効果が弱く,光学系の介入が大きい可能性がある.両眼加算の視覚系の影響を検討するためには,瞳孔径の統制に加えて,他覚的屈折矯正によって各片眼の屈折値を統制する重要性が示された.本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない.本論文の提出にあたり,ご指導をいただいた愛知淑徳大学健康医療科学部,高橋啓介教授に,感謝の意を表します.文献1)CambelFW,GreenDG:Monocularversusbinocularvisu-alacuity.Nature,C208:191-192,C19652)VedamurthyCI,CSuttleCCM,CAlexanderCJCetal:InterocularCinter-actionsCduringCacuityCmeasurementCinCchildrenCandCadults,andinadultswithamblyopia.VisionResC47:179-188,C20073)魚里博,川守田拓志:両眼視と単眼視下の視機能に及ぼす瞳孔径と収差の影響.あたらしい眼科22:93-95,C20054)鈴木任里江,魚里博,石川均ほか:検査距離が両眼加算に及ぼす影響.あたらしい眼科C26:857-860,C20095)MedinaJM,JimenezJR,JimenezdelBarcoL:Thee.ectofCpupilCsizeConCbinocularCsummationCatCsuprathresholdCconditions.CurrEyeResC26:327-334,C20036)BearseMA,FreemenRD:Binocularsummationinorien-tationCdiscriminationCdependsConCstimulusCcontrastCandCduration.VisionResC34:19-29,C19947)SotirisCP,CDionysiaCP,CTrisevgeniCGCetal:BinocularCsum-mationCimprovesCperformanceCtoCdefocus-inducedCblur.CInvestOphthalmolVisSciC52:2784-2789,C20118)BakerCDH,CMeeseCTS,CMansouriCBCetal:BinocularCsum-mationofcontrastremainsintactinstrabismicamblyopia.InvestOphthalmolVisSciC48:5532-5538,C20079)鈴木賢治,新井田孝裕,山田徹人ほか:青年健常者の視力の分布.眼臨紀C7:421-425,C201410)BeckyCT,CKatieCR,CImogenCRCetal:BUILDINGEXPER-MENTSCPsychopy.SAGEpublicationsLtd.,201811)CrovitzCHF,CZenerK:ACgroup-testCforCassessingChand-andeye-dominance.AmJPsycholC75:271-276,C196212)MilesWR:Oculardominanceinhumanadults.JournalofGeneralPsychologyC3:412-420,C1930***(118)

検査距離が両眼加算に及ぼす影響

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(133)8570910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(6):857860,2009cはじめに両眼加算(binocularsummation)とは,両眼視下の視機能が単眼視下の視機能を上回る状態であり1),弱視斜視領域2,3)や屈折矯正術後4)などさまざまな領域における視機能評価として用いられている.しかし,これらの報告はいずれも,ある一定の検査距離に限った評価によるものが多い.一方,モノビジョンでは近見視,中間視,遠見視における両眼加算を評価することによって,より日常を反映した視機能評価を行っている5,6).このように,日常の視機能を評価するうえでは,さまざまな検査距離における両眼加算の状態を知る必要があるが,健常人における報告はいまだ認められない.そこで今回筆者らは,健常人において検査距離が両眼加算に及ぼす影響について検討した.I対象および方法対象は1831歳(23.8±4.9歳:平均値±標準偏差)の,軽度屈折異常以外に器質的眼疾患を有さない有志者10例(男性2例,女性8例)である.優位眼および非優位眼の自覚的平均等価球面値は,それぞれ+0.10±0.24(平均値±標準偏差)D(0.25+0.50D),+0.15±0.17D(0+0.50D),であり,両者に有意差を認めない(pairedt-test,p=0.44).また,優位眼および非優位眼の裸眼視力(logMAR値を用いて平均値を算出後,少数視力に換算)はともに1.4(1.02.0)であった.北里大式眼優位性定量チャート7)を使用して評価〔別刷請求先〕鈴木任里江:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻Reprintrequests:MarieSuzuki,C.O.,DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Sagamihara-shi228-8555,JAPAN検査距離が両眼加算に及ぼす影響鈴木任里江*1魚里博*1石川均*1庄司信行*1清水公也*2*1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻*2北里大学医学部眼科学教室EectsofTestDistanceonBinocularSummationMarieSuzuki1),HiroshiUozato1),HitoshiIshikawa1),NobuyukiShoji1)andKimiyaShimizu2)1)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity検査距離が両眼加算に及ぼす影響について検討した.対象は正視有志者10例.近見(0.46m)および遠見(3m)注視時のコントラスト感度および瞳孔径を,両眼開放下および優位眼単眼視下で測定し,両眼加算比,両眼開放時の瞳孔変化量および瞳孔面積を比較した.空間周波数3,6,12,18cycles/degreeにおける両眼加算比は,近見視時に比べ遠見視時にて大きく有意差を認めた.また,両眼開放時の瞳孔変化量は,近見視時に比べ遠見視時のほうが小さく有意差を認めた.一方,両眼開放時の瞳孔面積は,遠見視時のほうが大きかったが有意差は認めなかった.中間から高空間周波数領域における両眼加算比は遠見視時ほど大きくなることが示唆された.Weevaluatedtheinuenceoftestdistanceonbinocularsummationin10emmetropes.Contrastsensitivityandpupildiameterweremeasuredatnear(0.46m)andfar(3m)distancesunderbinocularandmonocularconditions.Thebinocularsummationratio,rateofpupillarychangebetweenbinocularandmonocularconditions,andpupilareaunderbinocularconditionwerecomparedbetweenthetwotestdistances.Thebinocularsummationratioatfardistancewasbetterthanthatatnear,withinthespatialfrequencyrangeof3.0,6.0,12.0and18.0cyclesperdegree.Moreover,therateofpupillarychangeatfardistancewassignicantlysmallerthanthatatnear.Incon-trast,thebinocularpupilareaatfardistancewaslargerthanthatatnear,althoughthedierencewasnotsignicant.Thissuggeststhatinthemoderatetohighspatialfrequencyrange,binocularsummationbecomesgreaterwithdistance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):857860,2009〕Keywords:両眼加算,検査距離,瞳孔径,眼位.binocularsummation,testdistance,pupildiameter,eyeposition.———————————————————————-Page2858あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(134)したsensorydominanceは63.0±17.0(平均値±標準偏差)%(4090%)であった.Alternateprismcovertestによる眼位は,近見(0.46m)5.0±3.7(平均値±標準偏差)Δ(010Δ)外斜位,遠見(3m)2.2±1.8Δ(04Δ)外斜位であり,両者に有意差を認めた(pairedt-test,p<0.01).両眼加算の評価には,コントラスト感度および瞳孔径を用いた.コントラスト感度の測定には,functionalacuitycontrasttest(FACT)(StereoOptical社)の近点検査用視標および遠点検査用視標を使用した.測定距離は0.46m,3mの2点とし,両眼開放下および優位眼単眼視下コントラスト感度を測定した.なお,単眼視下コントラスト感度の測定時には,非検査眼をガーゼにて遮閉した.0.46mにおける測定にはFACTの近点検査用視標を,3mにおける測定には遠点検査用視標を使用した.両距離における各視標の視角は1.7°である.視標面照度は400lxに設定した.各検査距離および空間周波数領域におけるコントラスト感度は3回測定し,その平均値を解析に用いた.両眼加算の評価には,両眼加算比〔両眼開放下コントラスト感度/優位眼単眼視下コントラスト感度〕2)を使用し,各検査距離における両眼加算比を比較した.なお,あらかじめ優位眼と非優位眼のコントラスト感度に有意差がないことを確認したうえで,今回は優位眼単眼視下のコントラスト感度を評価に用いた.また,測定順序は被検者によって無作為に決定した.統計には二元配置分散分析法ならびにBonferoni/Dunn法を用いた.瞳孔径の測定にはFP-10000(TMI社)を使用した.測定距離は0.46m,3mの2点とし,両眼開放時および優位眼単眼視時の優位眼の瞳孔径を測定した.測定はコントラスト感度測定と同時に行った.瞳孔の横径から瞳孔面積〔(横径/2)2×3.14〕を求め,各検査距離における瞳孔面積を比較した.さらに,単眼視時から両眼開放にしたときの瞳孔面積の変化量〔(単眼視時瞳孔面積両眼視時瞳孔面積)/単眼視時瞳孔面積〕を,検査距離ごとに比較した.統計にはWilcox-on符号順位検定を用いた.II結果図1に対数コントラスト感度の結果を示す.いずれの検査距離においても,両眼開放下コントラスト感度は単眼視下コントラスト感度を上回った(二元配置分散分析法,p<0.01).図2は両眼加算比の結果である.空間周波数1.5cycles/2.01.01.536空間周波数(cycles/degree)182.01.01.536121218対数コントラスト感度B)対数コントラスト感度A)図1対数コントラスト感度A)は検査距離0.46m,B)は検査距離3mにおける対数コントラスト感度の結果を示す.実線は両眼開放下,点線は優位眼単眼視下の対数コントラスト感度を示す.3.02.01.00空間周波数(cycles/degree)両眼加算比1.5361218*******図2両眼加算比白色のバーは近見視時,灰色のバーは遠見視時の両眼加算比を示す.*:p<0.05,**:p<0.01(Bonferoni/Dunn法).0.50.40.30.20.10近見視時遠見視時瞳孔変化量*図3両眼開放時の瞳孔変化量白色のバーは近見視時,灰色のバーは遠見視時の瞳孔変化量を示す.瞳孔変化量は遠見視時のほうが小さく,有意差を認めた.*:p<0.05(Wilcoxon符号順位検定).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009859(135)degree(cpd)を除くすべての空間周波数領域において,遠見視時の両眼加算比は近見視時の両眼加算比を上回り,有意差を認めた(Bonferoni/Dunn法,3.0cpdp<0.05,6.018.0cpdp<0.01).なお,全例の両眼加算比は,検査距離および空間周波数にかかわらず1.0以上であった.図3は両眼開放時の瞳孔変化量,図4は両眼開放時の瞳孔面積の結果である.両眼開放時の瞳孔変化量は,近見視時に比べ遠見視時に小さくなり有意差を認めた(Wilcoxon符号順位検定,p<0.05).一方,遠見視時の瞳孔面積は近見視時に比べ大きい傾向にあるが,有意差は認められなかった.III考按今回の結果から,1.5cpdを除くすべての空間周波数領域において,遠見視時の両眼加算比が近見視時に比べ大きくなることがわかった.また,両眼開放時の瞳孔変化量は,遠見視時に比べ近見視時に大きくなった.川守田ら8)は,単眼視下における瞳孔径および高次収差の総和は,両眼開放時に比べ有意に高値を示したことより,単眼視下では網膜結像特性の低下を導くことを示唆している.言い換えれば,両眼開放下では単眼視下に比べ瞳孔径が小さくなることにより網膜結像特性が上昇し,視機能も向上するということである.すなわち,両眼開放時の瞳孔変化量が大きいほど両眼加算に有利になると考えられる.さらに,近見視時には近見反応として輻湊,調節,縮瞳の3反応が誘発される9)ことから,近見視時のほうが遠見視時に比べ両眼開放時の瞳孔変化量は大きくなり,両眼加算に有利になることが予想される.しかし,本実験の結果では,瞳孔変化量の小さい遠見視時のほうが近見視時に比べ両眼加算比が大きくなっており,上述に反する結果となった.したがって,両眼開放時の瞳孔変化量が大きいからといって必ずしも両眼加算比が大きくなるとは限らないことが推察された.一方,Medinaら10)は,瞳孔径が大きいほど両眼加算が大きくなることを示しており,網膜照度の影響を示唆している.本実験においても,両眼加算比が大きい遠見視時の両眼開放時瞳孔面積は,近見視時に比べ大きい傾向にあり,Medinaらの報告を支持するものである.しかし,Medinaらの実験は低照度下で行っているのに対し,本実験の視標面照度は400lxと高照度であり,実験条件が異なっているため,今後さらなる検討が必要であると考える.また,本実験の被験者の眼位は全例10Δ以内の外斜位であり,斜位角は遠見視時のほうが近見視時に比べ有意に小さかった.Ogleら11,12)は,斜位角の大きさによってxationdisparityが変化することを報告しており,Jampolskyら13)は,外斜位の場合,近見視時には斜位角が増加するにつれxationdisparityが増加することを報告している.さらに,xationdisparityと両眼加算の関係についてはこれまでにも多くの実験が行われており,一貫してxationdisparityが大きくなるほど両眼加算が減少すると報告されている14,15).以上のことから,本実験の被験者は,近見視時には外斜位の影響によりxationdisparityが大きかったために両眼加算比が減少し,対して遠見視時にはxationdisparityの影響が小さかったために,近見視時に比べ両眼加算比が大きくなったことが推察される.また,Jaschinski16)は,proximity-xation-disparitycurves,すなわち視距離の近接によりxationdisparityが増加することを報告していることから,眼位にかかわらず近見視時にはxationdisparityが大きくなり,両眼加算が減少する可能性が推察された.両眼加算の影響因子についてはこれまでにも多くの報告があり,眼優位性5),視標サイズ17),刺激する網膜部位17,18)などがあげられている.このうち,眼優位性に関しては,両眼の視機能に左右差がある場合にその影響が生じると考えられるが,本実験の被験者の眼優位性は平均的な強さであったことから,本結果の影響因子としては考えにくい.また,本実験では検査距離にかかわらず視標の視角は1.7°と一定であったことから,視標サイズの影響も考えにくい.刺激網膜部位に関しては,永井ら18)が,中心視野および下方視野で,若山ら17)が,刺激網膜部位が中心窩から偏心するほど,両眼加算が大きくなることを報告している.しかし,本実験では刺激網膜部位についての影響は検討していないため,今後さらなる検討が必要である.また,一般に両眼加算比は2であることが知られている1)が,本実験では検査距離や空間周波数によってさまざまな両眼加算比を示した.安達19)は,6種の空間周波数の縦縞を視標に用い,片眼視時および両眼視時にてVECP(視覚誘発脳波)を記録した結果,両眼視時の振幅は片眼視時の2030%増大したと報告している.同様にBakerら2)も,コントラスト感度を用いた実験によって,両眼加算比1.7を示す健常者がいたと報告していることか2520151050近見視時遠見視時瞳孔面積(mm)NS図4両眼開放時の瞳孔面積白色のバーは近見視時,灰色のバーは遠見視時の瞳孔面積を示す.NS:notsignicant(Wilcoxon符号順位検定).———————————————————————-Page4860あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(136)ら,両眼加算比は検査条件などにより変動し,2を超える場合もあることが示唆された.以上のことから,遠見視時の両眼加算比は近見視時に比べ大きく,瞳孔径および眼位が影響している可能性が推察された.今後,両眼加算を視機能評価として用いる際には,検査距離による影響も加味する必要性が示唆された.本研究の一部は科研費(若手研究(B)19791288)の助成を受けたものである.文献1)SteinmanSB,SteinmanBA,GarziaRP:Binocularsum-mation.FoundationsofBinocularVision,p153-171,TheMcGraw-HillCompanies,NewYork,20002)BakerDH,MeeseTS,MansouriBetal:Binocularsum-mationofcontrastremainsintactinstrabismicamblyopia.InvestOphthalmolVisSci48:5332-5338,20073)PardhanS,GlichristJ:Binocularcontrastsummationandinhibitioninamblyopia.Theinuenceoftheinteroculardierenceonbinocularcontrastsensitivity.DocOphthal-mol82:239-248,19924)BoxerWachlerBS:EectofpupilsizeonvisualfunctionundermonocularandbinocularconditionsinLASIKandnon-LASIKpatients.JCataractRefractSurg29:275-278,20035)新田任里江,清水公也,新井田孝裕:モノビジョン法における眼優位性の影響─第一報:優位眼の矯正状態による視機能への影響─.日眼会誌111:435-440,20076)清水公也:モノビジョン白内障手術による老視治療.あたらしい眼科22:1067-1072,20057)半田知也,魚里博:眼優位性検査法とその臨床応用.視覚の科学27:50-53,20068)川守田拓志,魚里博:両眼視と単眼視下における瞳孔径が昼間視と薄暮視下の視機能に与える影響.視覚の科学26:71-75,20059)石川均:瞳孔系のみかた2)輻湊調節障害.臨床神経眼科学(柏井聡編),p135-139,金原出版,200810)MedinaJM,JimenezJR,JimenezdelBarcoL:Theeectofpupilsizeonbinocularsummationatsuprathresholdconditions.CurrEyeRes26:327-334,200311)OgleKN,PrangenAD:Furtherconsiderationsofxationdisparityandthebinocularfusionalprocesses.AmJOph-thalmol34:57-72,195112)OgleKN:Fixationdisparity.AmOrthoptJ4:33-39,195413)JampolskyA,FlomBC,FreidAN:Fixationdisparityinrelationtoheterophoria.AmJOphthalmol43:97-106,195714)Heravian-ShandizJ,DouthwaiteWA,JenkinsTC:Eectofinducedxationdisparitybynegativelensesonthevisuallyevokedpotentialwave.OphthalmicPhysiolOpt13:295-298,199315)TunnaclieAH,WilliamsAT:Theeectofhorizontaldierentialprismonthebinocularcontrastsensitivityfunction.OphthalmicPhysiolOpt6:207-212,198616)JaschinskiW:Theproximity-xation-disparitycurveandthepreferredviewingdistanceatavisualdisplayasanindicatorofnearvision.OptomVisSci79:158-169,200217)若山暁美:両眼視野におけるbinocularsummationの影響.あたらしい眼科23:721-727,200618)永井紀博,木村至,大出尚郎ほか:Multifocalvisualevokedpotentialsによる両眼加算の解析.眼紀55:711-714,200419)安達惠美子:両眼視におけるVECP振幅vs.空間周波数曲線.日眼会誌83:298-301,1979***