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Mars Letter Contrast Sensitivity Test で測定される コントラスト感度に及ぼす検査距離の影響

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1454.1458,2025cMarsLetterContrastSensitivityTestで測定されるコントラスト感度に及ぼす検査距離の影響東本美於川嶋英嗣愛知淑徳大学健康医療科学部医療貢献学科視覚科学専攻CE.ectofTestDistanceonContrastSensitivityMeasuredUsingtheMarsLetterContrastSensitivityTestMioTomotoandHidetsuguKawashimaCMajorofVisionSciences,DepartmentofMedicalSciences,FacultyofHealthandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversityC目的:MarsCLetterCContrastCSensitivityTest(Marstest)において測定されるコントラスト感度に及ぼす検査距離の影響をCBangerterフィルター装用時および非装用時で検討する.対象および方法:眼疾患を有さない矯正視力C1.0以上のC14名(平均年齢C21.14±0.36歳)を対象とした.Marstestを用いて,検査距離C40Ccm,27Ccm,18CcmのC3条件におけるコントラスト感度の測定をCBangerterフィルター装用時と非装用時で行った.結果:フィルター非装用条件では,検査距離によるコントラスト感度(logCS)の有意な変化は認められなかった(p=0.19)(40Ccm:1.797±0.046ClogCS,27Ccm:1.811±0.040ClogCS,18Ccm:1.817±0.041ClogCS).一方,フィルター装用条件では,検査距離が短くなるほど測定されるコントラスト感度が有意に上昇した(p<0.001)(40Ccm:0.991±0.146ClogCS,27Ccm:1.120C±0.124ClogCS,18Ccm:1.229±0.093ClogCS).結論:Bangerterフィルターで人工的にコントラスト感度を低下させた条件下では,検査距離を短縮し,それに伴い視標サイズが大きくなることで,測定されるコントラスト感度が上昇することが示唆された.CPurpose:Toinvestigatethee.ectoftestdistanceoncontrastsensitivity(CS)measuredusingtheMarsLet-terCContrastCSensitivityCTestCwithCandCwithoutCBangerterC.lters.CSubjectsandMethods:ACtotalCofC14Csubjects(meanage:21.14±0.36years)withnooculardiseaseandcorrectedvisualacuity.1.0participatedinthisstudy.CSCwasCmeasuredCusingCtheCMarsCLetterCContrastCSensitivityCTestCatC40,C27,CandC18Ccm,CbothCwithCandCwithoutCBangerterC.lters.CResults:InCtheCun.lteredCcondition,CtestCdistanceCexertedCnoCe.ectConCS(logCS)(p=0.19)(40Ccm:1.797±0.046ClogCS;27Ccm:1.811±0.040ClogCS;18Ccm:1.817±0.041ClogCS),CwhereasCinCtheCBangerter-.lteredcondition,CSshowedsigni.cantimprovementwithadecreaseintestdistance(p<0.001)(40cm:0.991±0.146logCS;27cm:1.120±0.124logCS;18cm:1.229±0.093logCS).Conclusion:WhenCSisarti.ciallyreducedusingCBangerterC.lters,CdecreasingCtheCtestCdistanceCandCincreasingCtheCoptotypeCsizeCmayCimproveCCSCmeasure-ments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(11):1454.1458,C2025〕Keywords:コントラスト感度,MarsLetterContrastSensitivityTest,検査距離,バンガーターフィルター.Ccontrastsensitivity,MarsLetterContrastSensitivityTest,testdistance,Bangerter.lter.Cはじめにコントラスト感度とは,輝度の相対的な違いに基づく輝度コントラストの検出閾値の逆数として定義され,ロービジョン患者における物体と背景の識別や顔認知1),歩行時の段差の検出2)など,日常生活における視覚を用いた行動と密接に関係する3)視覚機能の指標である.MarsCLetterCContrastCSensitivityTest(以下,MarsCtest)4)はCPelli-RobsonCCon-trastCSensitivityChartと同じCSloan文字を視標として採用したコントラスト感度検査表である.より細かいコントラストの段階で測定が可能であり,持ち運びが容易で簡便に利用〔別刷請求先〕川嶋英嗣:〒480-1197愛知県長久手市片平C2-9愛知淑徳大学健康医療科学部Reprintrequests:HidetsuguKawashima,Ph.D.,FacultyofHealthandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversity,2-9Katahira,Nagakute,Aichi480-1197,JAPANC1454(90)できる点が特徴である.Marstestの標準検査距離はC40Ccmに設定されており,視標の大きさは視角2.5°の1種類のみである.そのため,視力が低下すると視標の判読が困難になり,コントラスト感度の測定が制限される可能性がある.この問題への対応策として,検査距離を短縮し,視標の網膜像サイズを拡大する方法が考えられる.しかし,この方法がコントラスト感度に及ぼす影響は明らかになっていない.そこで本研究では,検査距離の短縮がCMarstestにおけるコントラスト感度測定に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.本研究は基礎的データの収集を目的としており,視覚正常者を対象とした.また,コントラスト感度が低下した状況においても,検査距離が測定値に及ぼす影響を検討した.実際のロービジョン患者を対象とする場合,視機能に個人差が大きく,同一条件下で検査距離の影響を評価することは困難である.加えて,コントラスト感度にはさまざまな視覚要因,たとえば視野異常5)や眼振6)などが影響を及ぼす可能性があり,それらすべてを統一的に制御したうえで実験を行うことは現実的にはむずかしい.さらに多数の条件を要する検討をロービジョン患者に対して実施することは,研究の初期段階においては倫理的な制約も伴う.以上の理由から本研究では,視覚正常者に対し,Bangerterフィルターを装用させて人工的にコントラスト感度を低下させた条件下で検討を行った.Bangerterフィルター装用時には,全空間周波数帯域にわたるコントラスト感度の低下を生じ,とくに高空間周波数帯域において顕著な低下が報告されている7).このような傾向は一部のロービジョン患者のコントラスト感度関数においても観察されることが報告されており8),本研究の結果は,特定のタイプのコントラスト感度低下を示すロービジョン患者の状態を模擬していると考えられる.本研究は,二つの実験で構成されている.実験C1では,検査距離がCMarstestによるコントラスト感度に及ぼす影響を検討した.実験C2では,実験C1の結果を踏まえ,視標サイズがコントラスト感度に与える影響をさらに詳細に検討した.両実験ともに,視覚正常者を対象とし,Bangerterフィルター装用の有無を条件として実施した.CI方法1.対象本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,愛知淑徳大学健康医療科学部医療貢献学科視覚科学専攻倫理委員会の承認(健視倫理C2024-05)を得て実施した.研究対象者は,眼疾患を有さず,視標を明視するために十分な調節力のある矯正視力1.0以上のC14名(平均年齢C21.14C±0.36歳)とした.実験開始前に目的と手順を研究対象者に十分説明し,自由意志によるインフォームド・コンセントを取得した.測定は,非優位眼を遮蔽し,優位眼のみで行った.優位眼はCHole-in-card法で決定した.[実験1]コントラスト感度の測定には,Marstest(MarsPercep-trix製)のC3種類の検査表を用いた(図1).この検査表はバックライトが備わっていないため,天井設置型CLED照明による室内照明下で測定を実施した.検査表表面の照度は340Clxであり,検査表の白地部分の輝度(視標背景輝度)はC85Ccd/m2であった.検査距離条件はC40Ccm,27Ccm,18Ccmの3条件(表1),フィルター条件は装用と非装用のC2条件とした.装用するCBangerterフィルター(Ryser製)は,濃度0.1およびC0.8のフィルターC2枚を重ね,ゴーグルに貼付して使用した.各研究対象者に対し,フィルター条件ごとの検査距離条件の測定順序を無作為化し,Marstestの所定の手順に基づいて測定を行い,対数コントラスト感度(logCS)を算出した.[実験2]フィルター装用条件下と非装用条件下で実施した.視標はCMarstestと同じCSloan文字であり,iMac21.5Cinch(Apple製)で動作するPsykinematix(v2.6GPUedition,KyberVision製)9)でガンマ補正を行ったCCRTディスプレイ(MITSUBISHI製CRDF223H)上に無作為順でC1文字ずつ呈示した.測定は暗室内で行い,視標背景輝度はC85Ccd/mC2であった.視標サイズ条件はC0.068.2.18ClogMAR(視角C0.098.12.66°)の範囲のC7条件であり,視標サイズ条件ごとに階段法によるコントラスト感度の測定を行った.CII結果[実験1]フィルター装用条件における平均視力はC0.14(0.85C±0.13logMAR),非装用条件では平均視力1.58(C.0.20±0.06logMAR)であった.測定結果を図2に示す.対応のある二元配置分散分析の結果,検査距離の主効果(F(2,26)=52.31,p<0.001),フィルターの主効果(F(1,13)=764.00,p<0.001),検査距離とフィルターの交互作用(F(2,26)=36.51,p<0.001のいずれも統計的に有意であった.交互作用の解釈のために,検査距離の単純主効果検定を行った.その結果,フィルター非装用条件では検査距離による有意な差は認められなかった(p=0.19).一方,フィルター装用条件では検査距離の単純主効果が有意であった(p<0.001).多重比較(Sha.er法)により検査距離条件間の比較を行った結果,フィルター装用条件ではすべての検査距離条件間で有意差が認められた(p<0.001).以上の結果から,検査距離を短くすることで視標の網膜像サイズが大きくなった場合に,フィルター非装用条件ではコントラスト感度の変化は認められなかった.一方で,フィルター装用条件では検査距離が短いほどコントラスト感度が有意に上昇することが示された.図1MarsLetterContrastSensitivityTest左からCForm1,Form2,Form3.表1検査距離条件と対応する視標の視角,logMAR,小数視力,空間周波数検査距離視標の視角ClogMAR小数視力空間周波数(cycles/degree)C40CcmC2.5°C1.48C0.033C1.00C27CcmC3.7°C1.65C0.023C0.68C18CcmC5.6°C1.82C0.015C0.45C[実験2]図3では,視標サイズ(logMAR)を横軸,対数コントラスト感度(logCS)を縦軸にとり,フィルター条件別にデータをプロットしている.それぞれのフィルター条件ごとに二次関数をあてはめた.図2から曲線の形状はフィルター条件によって異なっていることが確認された.フィルター非装用条件では視標サイズが大きい場合と小さい場合の両側でコントラスト感度が低下し,ピーク付近でなだらかに変化する区間を示した.一方で,フィルター装用条件では視標サイズ(logMAR)が大きいほどコントラスト感度が上昇する形状を示した.さらに,図2に示したCMarstestを三つの検査距離条件(40cm,27cm,18cm)で実施した際の視標サイズに相当する大きさ(1.48,1.65,1.82ClogMAR)に注目した.これらのデータが二次関数の曲線上で含まれる区間は,フィルター条件によって異なっていた.非装用条件では,これらのデータはピーク付近のなだらかに変化する区間に位置していた.一方で,装用条件では曲線の増加区間に位置していた.このことから,Marstestにおける検査距離の影響の違いは,フィルター条件ごとにCSloan文字を視標としたときのコントラスト感度関数の形状が異なるためであることが示唆された.CIII考按Marstestによるコントラスト感度の測定において,検査距離を短くしても,フィルター非装用条件ではコントラスト感度に大きな変化は認められなかった.一方で,Bangerterフィルターを装用して人工的に感度を低下させた条件では,検査距離を短くするほどコントラスト感度が上昇する傾向が確認された(実験1).この結果は,視標として文字刺激を用いたときのコントラスト感度関数の形状に起因することが示唆された(実験2).視覚正常者においては,正弦波グレーティングを用いたコントラスト感度関数は,一般に高空間周波数および低空間周波数で感度が低下するバンドパス型の形状を示す10).一方で,視標として文字を用いた場合には,視標サイズが大きくなるにつれてコントラスト感度が上昇するローパス型の傾向が報告されている11).本研究では,先行研究11)で検討された最大視標サイズ(1.18logMAR)よりもさらに大きいC2.18logMARまで測定範囲を拡張し,コントラスト感度を測定した.その結果,図3に示すとおり,大きな視標サイズの範2.0相当するMarstestの検査距離40cm3.0対数コントラスト感度(logCS)対数コントラスト感度(logCS)2.01.00.001020304050検査距離(cm)図2検査距離と対数コントラスト感度の関係エラーバーは標準偏差を示している.フィルター非装用条件では0.01.02.03.0検査距離によるコントラスト感度の違いは認められなかった.一方で,フィルター装用条件では,検査距離が短くなるほどコントラスト感度が有意に上昇した.囲において顕著な感度の低下は観察されなかった.文字視標のコントラスト感度関数がローパス型の傾向を示す要因としては,広範囲の空間周波数成分を含む文字刺激の認識において,文字サイズの拡大に伴う認識に寄与する空間周波数帯域の変化が関係していることが示唆されている12).しかし,このメカニズムの詳細は十分に解明されておらず,今後のさらなる検討が求められる.ロービジョン患者のコントラスト感度関数には,(A)高空間周波数帯域のみでの感度低下,(B)全空間周波数帯域にわたる均一な感度低下,(C)全空間周波数帯域にわたる不均一な感度低下,(D)中間周波数帯域のみでの感度低下のC4種類8)があるとされている.しかし,この分類は正弦波グレーティングを用いたコントラスト感度の測定結果に基づくものである.ロービジョン患者において,文字刺激を視標とした場合に,視標サイズごとのコントラスト感度から得られるコントラスト感度関数の種類については十分に明らかになっていない.文字刺激を視標とした場合のコントラスト感度関数の形状が,正弦波グレーティングを視標とした場合と同様に複数種類存在するのであれば,Marstestにおける検査距離の短縮に伴うコントラスト感度の変化は,これらの形状に依存する可能性がある.たとえば,図3に示したフィルター装用条件のように,視標サイズが小さい区間で顕著にコントラスト感度が低下する場合,検査距離を短くするほどコントラスト感度が上昇する可能性がある.一方で,コントラスト感度が視標サイズ全体にわたって均一に低下する場合には,検査距離を短くしてもコントラスト感度に変化は生じない可能視標サイズ(logMAR)図3視標サイズと対数コントラスト感度の関係横軸は視標サイズを示しており,logMAR値が大きいほど視標サイズが大きくなる.曲線は,各条件に当てはめた二次関数の回帰曲線であり,フィルター非装用条件ではCy=.0.552×2+1.858x+0.150,フィルター装用条件ではCy=.0.713×2+3.046x.2.206であった.また,Marstestを三つの検査距離条件(40Ccm,27cm,18Ccm)で実施したときに視標サイズに相当するClogMAR値(1.48,1.65,1.82ClogMAR)が回帰曲線上でどの区間に含まれるかが,フィルター条件によって異なっていた.性がある.コントラスト感度関数において,とくにピークコントラスト感度は,歩行時の段差の検出など,視覚を用いた行動との関連から重要な指標とされている2).Marstestはこのピーク感度を測定する検査表として位置づけられている4).本研究のフィルター装用条件において,検査距離を短縮することでコントラスト感度が上昇したことは,標準検査距離C40Ccmでは視標サイズが小さく,ピーク感度に達していないことを示唆している.ただし,検査距離を短縮することは調節の影響が出る可能性がある.加えて,実験C1で使用した最短距離(18Ccm)でも視標サイズの拡大は検査距離C40Ccmのときと比べて約C2.2倍にとどまり,十分な視標サイズの種類を確保するには限界がある.したがって,視標サイズの選択肢を広げるためには,検査距離C1Cmで使用されるCPelli-RobsonCon-trastCSensitivityChartの活用が有効と考えられる.この検査表の視標サイズ(2.8°)はCMarstest(2.5°)とほぼ同等であり,本研究の知見を応用できる可能性があると期待される.あるいは,FreiburgCVisionCTest13)を大型ディスプレイ上で使用すれば,任意の視標サイズで測定が可能となり,測定方法の柔軟性をさらに高めることができる.検査距離を短くして視標サイズを拡大するときに,コントラスト感度がピークに達する視標サイズが明らかでない点は新たな課題となる.この点に関しては,文字視力値からピーク感度が得られる視標サイズを推定し,Pelli-RobsonCCon-trastCSensitivityChartにおける最適な検査距離を算出する方法が提案されている14).しかし,本研究では視力測定にLandolt環を用いたため,この推定方法の妥当性を検証することはできなかった.本研究にはいくつかの限界がある.本研究の結果は,Bangerterフィルターの装用により人工的にコントラスト感度を低下させた視覚正常者を対象としており,実際の眼疾患に起因する感度低下とは異なる条件下で得られたものである.このため,本研究の結果がすべてのロービジョン患者に当てはまるとは限らない.実際のロービジョン患者のコントラスト感度関数は多様であり8),異なる結果が得られる可能性もある.今後は,実際のロービジョン患者を対象とした実証的な検討を進めることが課題である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)OwsleyCC,CSloaneME:ContrastCsensitivity,Cacuity,CandCtheCperceptionCof‘real-world’Ctargets.CBrCJCOphthalmolC71:791-796,C19872)MarronCJA,CBaileyIL:VisualCfactorsCandCorientation-mobilityperformance.AmJOptomPhysiolOptC59:413-426,C19823)WestCSK,CMunozCB,CRubinCGSCetal:FunctionCandCvisualCimpairmentCinCaCpopulation-basedCstudyCofColderCadults.CTheCSEECproject.CSalisburyCEyeCEvaluation.CInvestCOph-thalmolVisSciC38:72-82,C19974)ArditiA:ImprovingCtheCdesignCofCtheCletterCcontrastCsensitivitytest.InvestOphthalmolVisSciC46:2225-2229,C20055)HyvarinenL,RovamoJ,LaurinenPetal:Contrastsensi-tivityCfunctionCinCevaluationCofCvisualCimpairmentCdueCtoCretinitispigmentosa.ActaOphthalmol(Copenh)C59:763-773,C19816)HertleCRW,CReeseM:ClinicalCcontrastCsensitivityCtestingCinCpatientsCwithCinfantileCnystagmusCsyndromeCcomparedCwithage-matchedcontrols.AmJOphthalmolC143:1063-1065,C20077)鵜飼一彦,波呂栄子:バンガーターフィルターによるコントラスト感度の低下.VISIONC4:71-72,C19928)ChungSTL,LeggeGE:ComparingtheshapeofcontrastsensitivityCfunctionsCforCnormalCandClowCvision.CInvestCOphthalmolVisSciC57:198-207,C20169)BeaudotWHA:Psykinematix:ACnewCpsychophysicalCtoolforinvestigatingvisualimpairmentduetoneuraldys-functions.VISIONC21:19-32,C200910)CampbellFW,Robson,JG:Applicationoffourieranalysistothevisibilityofgratings.JPhysiolC197:551-566,C196811)AlexanderCKR,CDerlackiCDJ,CFishmanGA:ContrastCthresholdsCforCletterCidenti.cationCinCretinitisCpigmentosa.CInvestOphthalmolVisSciC33:1846-1852,C199212)MajajCNJ,CPelliCDG,CKurshanCPCetal:TheCr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検査距離が両眼加算に及ぼす影響

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(133)8570910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(6):857860,2009cはじめに両眼加算(binocularsummation)とは,両眼視下の視機能が単眼視下の視機能を上回る状態であり1),弱視斜視領域2,3)や屈折矯正術後4)などさまざまな領域における視機能評価として用いられている.しかし,これらの報告はいずれも,ある一定の検査距離に限った評価によるものが多い.一方,モノビジョンでは近見視,中間視,遠見視における両眼加算を評価することによって,より日常を反映した視機能評価を行っている5,6).このように,日常の視機能を評価するうえでは,さまざまな検査距離における両眼加算の状態を知る必要があるが,健常人における報告はいまだ認められない.そこで今回筆者らは,健常人において検査距離が両眼加算に及ぼす影響について検討した.I対象および方法対象は1831歳(23.8±4.9歳:平均値±標準偏差)の,軽度屈折異常以外に器質的眼疾患を有さない有志者10例(男性2例,女性8例)である.優位眼および非優位眼の自覚的平均等価球面値は,それぞれ+0.10±0.24(平均値±標準偏差)D(0.25+0.50D),+0.15±0.17D(0+0.50D),であり,両者に有意差を認めない(pairedt-test,p=0.44).また,優位眼および非優位眼の裸眼視力(logMAR値を用いて平均値を算出後,少数視力に換算)はともに1.4(1.02.0)であった.北里大式眼優位性定量チャート7)を使用して評価〔別刷請求先〕鈴木任里江:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻Reprintrequests:MarieSuzuki,C.O.,DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Sagamihara-shi228-8555,JAPAN検査距離が両眼加算に及ぼす影響鈴木任里江*1魚里博*1石川均*1庄司信行*1清水公也*2*1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻*2北里大学医学部眼科学教室EectsofTestDistanceonBinocularSummationMarieSuzuki1),HiroshiUozato1),HitoshiIshikawa1),NobuyukiShoji1)andKimiyaShimizu2)1)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity検査距離が両眼加算に及ぼす影響について検討した.対象は正視有志者10例.近見(0.46m)および遠見(3m)注視時のコントラスト感度および瞳孔径を,両眼開放下および優位眼単眼視下で測定し,両眼加算比,両眼開放時の瞳孔変化量および瞳孔面積を比較した.空間周波数3,6,12,18cycles/degreeにおける両眼加算比は,近見視時に比べ遠見視時にて大きく有意差を認めた.また,両眼開放時の瞳孔変化量は,近見視時に比べ遠見視時のほうが小さく有意差を認めた.一方,両眼開放時の瞳孔面積は,遠見視時のほうが大きかったが有意差は認めなかった.中間から高空間周波数領域における両眼加算比は遠見視時ほど大きくなることが示唆された.Weevaluatedtheinuenceoftestdistanceonbinocularsummationin10emmetropes.Contrastsensitivityandpupildiameterweremeasuredatnear(0.46m)andfar(3m)distancesunderbinocularandmonocularconditions.Thebinocularsummationratio,rateofpupillarychangebetweenbinocularandmonocularconditions,andpupilareaunderbinocularconditionwerecomparedbetweenthetwotestdistances.Thebinocularsummationratioatfardistancewasbetterthanthatatnear,withinthespatialfrequencyrangeof3.0,6.0,12.0and18.0cyclesperdegree.Moreover,therateofpupillarychangeatfardistancewassignicantlysmallerthanthatatnear.Incon-trast,thebinocularpupilareaatfardistancewaslargerthanthatatnear,althoughthedierencewasnotsignicant.Thissuggeststhatinthemoderatetohighspatialfrequencyrange,binocularsummationbecomesgreaterwithdistance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):857860,2009〕Keywords:両眼加算,検査距離,瞳孔径,眼位.binocularsummation,testdistance,pupildiameter,eyeposition.———————————————————————-Page2858あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(134)したsensorydominanceは63.0±17.0(平均値±標準偏差)%(4090%)であった.Alternateprismcovertestによる眼位は,近見(0.46m)5.0±3.7(平均値±標準偏差)Δ(010Δ)外斜位,遠見(3m)2.2±1.8Δ(04Δ)外斜位であり,両者に有意差を認めた(pairedt-test,p<0.01).両眼加算の評価には,コントラスト感度および瞳孔径を用いた.コントラスト感度の測定には,functionalacuitycontrasttest(FACT)(StereoOptical社)の近点検査用視標および遠点検査用視標を使用した.測定距離は0.46m,3mの2点とし,両眼開放下および優位眼単眼視下コントラスト感度を測定した.なお,単眼視下コントラスト感度の測定時には,非検査眼をガーゼにて遮閉した.0.46mにおける測定にはFACTの近点検査用視標を,3mにおける測定には遠点検査用視標を使用した.両距離における各視標の視角は1.7°である.視標面照度は400lxに設定した.各検査距離および空間周波数領域におけるコントラスト感度は3回測定し,その平均値を解析に用いた.両眼加算の評価には,両眼加算比〔両眼開放下コントラスト感度/優位眼単眼視下コントラスト感度〕2)を使用し,各検査距離における両眼加算比を比較した.なお,あらかじめ優位眼と非優位眼のコントラスト感度に有意差がないことを確認したうえで,今回は優位眼単眼視下のコントラスト感度を評価に用いた.また,測定順序は被検者によって無作為に決定した.統計には二元配置分散分析法ならびにBonferoni/Dunn法を用いた.瞳孔径の測定にはFP-10000(TMI社)を使用した.測定距離は0.46m,3mの2点とし,両眼開放時および優位眼単眼視時の優位眼の瞳孔径を測定した.測定はコントラスト感度測定と同時に行った.瞳孔の横径から瞳孔面積〔(横径/2)2×3.14〕を求め,各検査距離における瞳孔面積を比較した.さらに,単眼視時から両眼開放にしたときの瞳孔面積の変化量〔(単眼視時瞳孔面積両眼視時瞳孔面積)/単眼視時瞳孔面積〕を,検査距離ごとに比較した.統計にはWilcox-on符号順位検定を用いた.II結果図1に対数コントラスト感度の結果を示す.いずれの検査距離においても,両眼開放下コントラスト感度は単眼視下コントラスト感度を上回った(二元配置分散分析法,p<0.01).図2は両眼加算比の結果である.空間周波数1.5cycles/2.01.01.536空間周波数(cycles/degree)182.01.01.536121218対数コントラスト感度B)対数コントラスト感度A)図1対数コントラスト感度A)は検査距離0.46m,B)は検査距離3mにおける対数コントラスト感度の結果を示す.実線は両眼開放下,点線は優位眼単眼視下の対数コントラスト感度を示す.3.02.01.00空間周波数(cycles/degree)両眼加算比1.5361218*******図2両眼加算比白色のバーは近見視時,灰色のバーは遠見視時の両眼加算比を示す.*:p<0.05,**:p<0.01(Bonferoni/Dunn法).0.50.40.30.20.10近見視時遠見視時瞳孔変化量*図3両眼開放時の瞳孔変化量白色のバーは近見視時,灰色のバーは遠見視時の瞳孔変化量を示す.瞳孔変化量は遠見視時のほうが小さく,有意差を認めた.*:p<0.05(Wilcoxon符号順位検定).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009859(135)degree(cpd)を除くすべての空間周波数領域において,遠見視時の両眼加算比は近見視時の両眼加算比を上回り,有意差を認めた(Bonferoni/Dunn法,3.0cpdp<0.05,6.018.0cpdp<0.01).なお,全例の両眼加算比は,検査距離および空間周波数にかかわらず1.0以上であった.図3は両眼開放時の瞳孔変化量,図4は両眼開放時の瞳孔面積の結果である.両眼開放時の瞳孔変化量は,近見視時に比べ遠見視時に小さくなり有意差を認めた(Wilcoxon符号順位検定,p<0.05).一方,遠見視時の瞳孔面積は近見視時に比べ大きい傾向にあるが,有意差は認められなかった.III考按今回の結果から,1.5cpdを除くすべての空間周波数領域において,遠見視時の両眼加算比が近見視時に比べ大きくなることがわかった.また,両眼開放時の瞳孔変化量は,遠見視時に比べ近見視時に大きくなった.川守田ら8)は,単眼視下における瞳孔径および高次収差の総和は,両眼開放時に比べ有意に高値を示したことより,単眼視下では網膜結像特性の低下を導くことを示唆している.言い換えれば,両眼開放下では単眼視下に比べ瞳孔径が小さくなることにより網膜結像特性が上昇し,視機能も向上するということである.すなわち,両眼開放時の瞳孔変化量が大きいほど両眼加算に有利になると考えられる.さらに,近見視時には近見反応として輻湊,調節,縮瞳の3反応が誘発される9)ことから,近見視時のほうが遠見視時に比べ両眼開放時の瞳孔変化量は大きくなり,両眼加算に有利になることが予想される.しかし,本実験の結果では,瞳孔変化量の小さい遠見視時のほうが近見視時に比べ両眼加算比が大きくなっており,上述に反する結果となった.したがって,両眼開放時の瞳孔変化量が大きいからといって必ずしも両眼加算比が大きくなるとは限らないことが推察された.一方,Medinaら10)は,瞳孔径が大きいほど両眼加算が大きくなることを示しており,網膜照度の影響を示唆している.本実験においても,両眼加算比が大きい遠見視時の両眼開放時瞳孔面積は,近見視時に比べ大きい傾向にあり,Medinaらの報告を支持するものである.しかし,Medinaらの実験は低照度下で行っているのに対し,本実験の視標面照度は400lxと高照度であり,実験条件が異なっているため,今後さらなる検討が必要であると考える.また,本実験の被験者の眼位は全例10Δ以内の外斜位であり,斜位角は遠見視時のほうが近見視時に比べ有意に小さかった.Ogleら11,12)は,斜位角の大きさによってxationdisparityが変化することを報告しており,Jampolskyら13)は,外斜位の場合,近見視時には斜位角が増加するにつれxationdisparityが増加することを報告している.さらに,xationdisparityと両眼加算の関係についてはこれまでにも多くの実験が行われており,一貫してxationdisparityが大きくなるほど両眼加算が減少すると報告されている14,15).以上のことから,本実験の被験者は,近見視時には外斜位の影響によりxationdisparityが大きかったために両眼加算比が減少し,対して遠見視時にはxationdisparityの影響が小さかったために,近見視時に比べ両眼加算比が大きくなったことが推察される.また,Jaschinski16)は,proximity-xation-disparitycurves,すなわち視距離の近接によりxationdisparityが増加することを報告していることから,眼位にかかわらず近見視時にはxationdisparityが大きくなり,両眼加算が減少する可能性が推察された.両眼加算の影響因子についてはこれまでにも多くの報告があり,眼優位性5),視標サイズ17),刺激する網膜部位17,18)などがあげられている.このうち,眼優位性に関しては,両眼の視機能に左右差がある場合にその影響が生じると考えられるが,本実験の被験者の眼優位性は平均的な強さであったことから,本結果の影響因子としては考えにくい.また,本実験では検査距離にかかわらず視標の視角は1.7°と一定であったことから,視標サイズの影響も考えにくい.刺激網膜部位に関しては,永井ら18)が,中心視野および下方視野で,若山ら17)が,刺激網膜部位が中心窩から偏心するほど,両眼加算が大きくなることを報告している.しかし,本実験では刺激網膜部位についての影響は検討していないため,今後さらなる検討が必要である.また,一般に両眼加算比は2であることが知られている1)が,本実験では検査距離や空間周波数によってさまざまな両眼加算比を示した.安達19)は,6種の空間周波数の縦縞を視標に用い,片眼視時および両眼視時にてVECP(視覚誘発脳波)を記録した結果,両眼視時の振幅は片眼視時の2030%増大したと報告している.同様にBakerら2)も,コントラスト感度を用いた実験によって,両眼加算比1.7を示す健常者がいたと報告していることか2520151050近見視時遠見視時瞳孔面積(mm)NS図4両眼開放時の瞳孔面積白色のバーは近見視時,灰色のバーは遠見視時の瞳孔面積を示す.NS:notsignicant(Wilcoxon符号順位検定).———————————————————————-Page4860あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(136)ら,両眼加算比は検査条件などにより変動し,2を超える場合もあることが示唆された.以上のことから,遠見視時の両眼加算比は近見視時に比べ大きく,瞳孔径および眼位が影響している可能性が推察された.今後,両眼加算を視機能評価として用いる際には,検査距離による影響も加味する必要性が示唆された.本研究の一部は科研費(若手研究(B)19791288)の助成を受けたものである.文献1)SteinmanSB,SteinmanBA,GarziaRP:Binocularsum-mation.FoundationsofBinocularVision,p153-171,TheMcGraw-HillCompanies,NewYork,20002)BakerDH,MeeseTS,MansouriBetal:Binocularsum-mationofcontrastremainsintactinstrabismicamblyopia.InvestOphthalmolVisSci48:5332-5338,20073)PardhanS,GlichristJ:Binocularcontrastsummationandinhibitioninamblyopia.Theinuenceoftheinteroculardierenceonbinocularcontrastsensitivity.DocOphthal-mol82:239-248,19924)BoxerWachlerBS:EectofpupilsizeonvisualfunctionundermonocularandbinocularconditionsinLASIKandnon-LASIKpatients.JCataractRefractSurg29:275-278,20035)新田任里江,清水公也,新井田孝裕:モノビジョン法における眼優位性の影響─第一報:優位眼の矯正状態による視機能への影響─.日眼会誌111:435-440,20076)清水公也:モノビジョン白内障手術による老視治療.あたらしい眼科22:1067-1072,20057)半田知也,魚里博:眼優位性検査法とその臨床応用.視覚の科学27:50-53,20068)川守田拓志,魚里博:両眼視と単眼視下における瞳孔径が昼間視と薄暮視下の視機能に与える影響.視覚の科学26:71-75,20059)石川均:瞳孔系のみかた2)輻湊調節障害.臨床神経眼科学(柏井聡編),p135-139,金原出版,200810)MedinaJM,JimenezJR,JimenezdelBarcoL:Theeectofpupilsizeonbinocularsummationatsuprathresholdconditions.CurrEyeRes26:327-334,200311)OgleKN,PrangenAD:Furtherconsiderationsofxationdisparityandthebinocularfusionalprocesses.AmJOph-thalmol34:57-72,195112)OgleKN:Fixationdisparity.AmOrthoptJ4:33-39,195413)JampolskyA,FlomBC,FreidAN:Fixationdisparityinrelationtoheterophoria.AmJOphthalmol43:97-106,195714)Heravian-ShandizJ,DouthwaiteWA,JenkinsTC:Eectofinducedxationdisparitybynegativelensesonthevisuallyevokedpotentialwave.OphthalmicPhysiolOpt13:295-298,199315)TunnaclieAH,WilliamsAT:Theeectofhorizontaldierentialprismonthebinocularcontrastsensitivityfunction.OphthalmicPhysiolOpt6:207-212,198616)JaschinskiW:Theproximity-xation-disparitycurveandthepreferredviewingdistanceatavisualdisplayasanindicatorofnearvision.OptomVisSci79:158-169,200217)若山暁美:両眼視野におけるbinocularsummationの影響.あたらしい眼科23:721-727,200618)永井紀博,木村至,大出尚郎ほか:Multifocalvisualevokedpotentialsによる両眼加算の解析.眼紀55:711-714,200419)安達惠美子:両眼視におけるVECP振幅vs.空間周波数曲線.日眼会誌83:298-301,1979***