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LASIK 術後長期経過し外傷性フラップ偏位を認めた1 例

2026年1月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科43(1):93.98,2026cLASIK術後長期経過し外傷性フラップ偏位を認めた1例下河邉有利恵門田遊佐々木研輔佛坂扶美吉田茂生久留米大学医学部眼科学講座CLate-OnsetTraumaticFlapDislocationafterLaserInSituKeratomileusisYurieShimokobe,YuMonden,KensukeSasaki,HumiHotokezakaandShigeoYoshidaCDepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicineC目的:Laserinsitukeratomileusis(LASIK)の術後合併症の一つとして,角膜フラップ偏位をきたすことがある.LASIK術後長期経過し,頭部外傷時に角膜フラップ偏位を生じたC1例を経験したので報告する.症例:59歳,男性.10年前に久留米大学病院にて両眼CLASIKを施行.鍬で右前額部を打撲,右眼視力低下をきたしC2日後近医を受診し,当院に紹介となった.受診時に右眼視力C0.5(0.8),角膜フラップの偏位と皺襞を認め,翌日角膜フラップ下洗浄と整復術を施行した.10-0ナイロン糸にて皺襞が進展するまで単結節縫合を行い,全周C12針にて整復した.術後早期に段階的に抜糸を行い,術後C3カ月で右眼視力C1.5(n.c.)に改善した.結論:LASIK後長期経過していても,外傷によるフラップ偏位は生じることがあり,注意を要すると考えられた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCtraumaticC.apCdislocationClongCafterClaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)sur-gery.CCase:AC59-year-oldCmanCwhoCunderwentCLASIKCsurgeryC10CyearsCagoCpresentedCwithCdecreasedCvisionCafterbeinghitwithahoeinhisrightforehead.Thevisualacuity(VA)inhisrighteyewas0.5(0.8)C,andcorneal.apCdislocationCandCfoldCwereCobserved.CTheC.apCwasCsurgicallyCrepositionedCwithC12CinterruptedC10-0CnylonCsuturesandstretched.Thestitcheswereremovedgraduallyearlyaftersurgery,andtheVAimprovedto1.5(n.c.)C3monthsafterthesurgery.Conclusion:EvenlongafterLASIKsurgery,.apdislocationmayoccurduetotrau-ma,butgoodVAcanbyachievedwithsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(1):93.98,2026〕Keywords:レーシック,外傷,フラップ偏位,フラップ皺襞,フラップ整復術.LASIK,trauma,.apdislocation,.apfold,repositioningofthe.ap.CはじめにLaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)は角膜屈折矯正手術の一つで,疼痛が少なく外来手術で施行可能であり,術後の裸眼視力が比較的早期に回復することから広く施行されている.LASIK術後合併症としては角膜上皮迷入(epithelialingrowth),層間角膜炎(di.useClamellarkeratitis:DLK),感染,角膜拡張症などがあげられ,角膜フラップ偏位もその一つであるが頻度は少ない1).角膜フラップ偏位はCLASIK手術後C24時間以内が多く,目をこする,目を圧迫するなどによって起こるといわれ,長期経過した例では外傷によるものが報告されている2.9).角膜フラップ偏位により起こる所見には,角膜フラップ皺襞(fold),微細な皺襞(wrinckle),微細線条(microstriae)があり,合併症としてDLK,epithe-lialingrowth,感染があげられる.今回,LASIK術後長期経過した例で頭部外傷時に角膜フラップ偏位を生じたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:59歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:X年,両眼近視性乱視に対して久留米大学病院(以下,当院)にて両眼のCLASIK手術を受けた.マイクロケラトームはCMoria社のCM2,エキシマレーザーはアルコン社のCLADARVisionC4000を使用し,手術は問題なく終了し,その後定期的に当院へ通院していた.X+10年,農作業中に鍬が右前額部に強く当たり,右眼の視力低下を訴え受傷C2〔別刷請求先〕門田遊:〒830-0011福岡県久留米市旭町C67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YuMonden,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume,Fukuoka830-0011,JAPANC図1右眼受傷直後の前眼部写真と角膜形状解析a:散瞳後に撮影した徹照法による前眼部写真,角膜フラップに縦走するCfoldを認めた(.).b:フルオレセイン染色による前眼部写真,フラップ縁にはフルオレセインが貯留している(.).c:前眼部OCT・SS-1000AxialPower(Ketatometric).角膜不正乱視を認めた.日後に近医眼科を受診,角膜フラップ異常を認めたため当院へ紹介となった.既往歴:X年両眼正常眼圧緑内障.X年(LASIK術前)視力:右眼C0.05(1.5C×sph.8.5D(cylC.0.75DAx180°),左眼0.06(1.5C×sph.7.0D(cyl.0.75Ax10°).CX+9年時視力:右眼C0.9(1.5C×sph+1.0D),左眼C0.9(1.5C×sph+1.0D)CX+10年時(受傷直後)所見:視力は右眼C0.5(0.8C×sph+0.75D),左眼C1.2(2.0C×sph+1.0D),眼圧は右眼C7mmHg,左眼C8CmmHgであった.右眼は角膜フラップがやや耳側へ偏位し,角膜フラップに縦走するCfoldを認めた(図1a).また,フルオレセイン染色では,フラップ縁にフルオレセインが貯留していた(図1b).前眼部COCTCSS-1000CAxialCPower(Ketatometric)にて,角膜の不正乱視を認めた(図1c).以上より,頭部鈍的外傷によりCLASIKフラップの偏位が生じたものと判断し,同日入院,翌日緊急手術を施行した.手術法:手術は局所麻酔下で行った.ライトガイドでフラップの偏位,foldを確認し,フラップ縁にマーキングを施行.フラップ縁の角膜上皮をマイクロスパーテルにて.離し,フラップ下に眼内灌流液を注入してフラップの洗浄を十分に行い,整復を試みた.徐々にフラップの伸展は得られたが,フラップ皺襞が残存するために皺襞が伸展する方向に10-0ナイロン糸で縫合し,最終的にC12針角膜縫合を行った.手術所要時間はC1時間であり,手術は問題なく終了した.経過:手術翌日よりレボフロキサシン点眼液C1.5%C1日C4回,ベタメタゾン点眼液C0.1%C1日C4回,トロピカミド・フェニレフリン点眼液C1日C1回点眼を開始した.また,広範囲に角膜びらんを認めたため,久留米大学倫理委員会の承認を得てC20%自己血清点眼液C1日C4回点眼を開始し,治療用ソフトコンタクトレンズ(contactlens:CL)を装用した.術翌日は角膜形状解析にて直乱視を強く認めたが,皺襞は認めなかった(図2a,b).術後C6日,角膜上皮が再生され半抜糸を施行した.半抜糸翌日の角膜形状解析では倒乱視を認め(図2c,d),右眼視力はC0.4(n.c.)であった.術後C8日に全抜糸し,術後C13日の角膜形状解析で角膜乱視はほぼ消失し(図2e,f),右眼視力はC1.2(n.c.)であった.自己血清点眼およびトロピカミド・フェニレフリン点眼は術後C14日で中止し,同日退院となった.退院後にレボフロキサシン点眼,ベタメタゾン点眼は漸減し術後C2カ月で中止とした.術後C3カ月,右眼視力はC1.5(n.c.).フラップ縁,角膜縫合部にやや角膜混濁を認めたが,フラップは整復されていた.鼻側はややフルオレセインの貯留を認めたが,foldは認めなかった(図3a,b).角膜形状解析では角膜乱視の改善を認めた(図3c).術後C2年,右眼視力はC1.2(n.c.).フラップ縁,角膜縫合部の角膜混濁は軽減し,epithelialingrowthも認めなかった.鼻側はわずかにフルオレセインの貯留を認めた(図3c,d).角膜形状解析では角膜乱視の改善を認めた(図3e).CII考按わが国では,2000年に厚生省(現厚生労働省)からエキシマレーザーが承認されて以来,LASIKは多いときには年間約C45万件が施行された.LASIK手術施行から長期間が経過するにつれて,さまざまな長期合併症が報告されるようになったが,欧米に比較して日本ではCLASIK手術施行数が少ないこともあり,国内での報告は少ないのが現状である.今回筆者らは,LASIK手術からC10年が経過し頭部外傷によるフラップ偏位をきたしたC1例を経験した.Schmackらは,LASIKフラップの周辺部の創部は正常な角膜実質のC28.1%の接着力であり,フラップ中央はそのC1/10のC2.4%であると報告しており10),Khourirらが「the.apneverheals」と図2右眼フラップ整復後の前眼部写真と角膜形状解析a:術翌日の前眼部写真.フラップの皺襞は伸展していた.Cb:術翌日の前眼部COCT〔SS-1000CAxialPower(Ketatometric),以下同様〕.直乱視を認めた.c:術後C7日の前眼部写真.半抜糸翌日フラップの皺襞は認めなかった.Cd:術後C7日の前眼部COCT.倒乱視を認めた.Ce:術後C13日の前眼部写真,全抜糸後C5日.Cf:術後C13日の前眼部OCT.倒乱視はほぼ消失している.表現しているように3),長期経過しても外傷によるフラップを要した症例の報告を表1にまとめた2.9).最長C24年が報偏位は起こりうると考えられる.2010年以降にCLASIK術告されており,さらに年数の長い報告も今後されていくと考後C10年以上が経過し,外傷によりフラップ偏位をきたし,えられる.受傷機転は,Shihらの交通事故で詳細不明な症fold,wrinckleやCmicrostriaeなどの異常を生じ,外科治療例を除き,全例で眼部に直接受傷していた(表1).本症例で図3右眼術後3カ月と2年の前眼部写真と角膜形状解析a,b:スクレラルスキャッタリング法による前眼部写真.Ca:術後C3カ月.角膜縫合部にやや角膜混濁を認めるが,フラップは整復されている.b:術後C2年:角膜縫合部の角膜混濁は軽減し,epithelialingrowthも認めなかった.Cc,d:フルオレセイン染色による前眼部写真.Cc:術後C3カ月.鼻側はややフルオレセインの貯留を認めた.d:術後C2年.鼻側はわずかにフルオレセインの貯留を認めた.Ce,f:前眼部COCT・SS-1000AxialPower(Ketatometric).e:術後C3カ月:角膜不正乱視の改善を認める.Cf:術後C2年:角膜不正乱視の改善を認める.は,本人は鍬で右前額部を受傷し,右眼は受傷していないとから,本症例は前額部の衝撃が強く,その痛みで右眼にも鍬訴えており,診察上も外眼部や前眼部には明らかな外傷は認の一部が当たっていたことに気づいてない可能性が考えられめられなかった.しかし,フラップ偏位をきたしていることた.フラップ偏位による角膜フラップのCfoldやCwrinckle,表1LASIK術後10年以上経過し外傷でフラップの異常により外科治療を要した症例の報告著者報告年(年)年齢(歳)性別LASIKから受傷までの期間受傷機転受傷から整復までの期間おもな所見整復方法整復前視力整復後視力CHolt2)C2012C59女14年尖っていない木片5週Cfold,macrostriae,ingrowth洗浄,SCLC0.71.0(C1.2)CKhoueir3)C2013C35男10年棒5時間フラップ反転洗浄,SCLC0.01C0.8CTaneri4)C2019C49男10年紙飛行機1日Cfold洗浄,SCLC0.32C1.0CTing5)2例C2019C58男14年U字型の金属5週Cfold,ingrowth洗浄0.02(C0.025)C1.0C67男10年小枝4カ月Cfold,ingrowth洗浄C0.40.8(C1.0)CChamg6)C2020C42男10年小枝6日感染による浸潤,Cingrowth洗浄,SCLC0.2C1.0CShih7)5例C2021C34女11年交通事故42時間個別の記載なし洗浄,縫合,CSCL0.77(logMAR)0.30(logMAR)C38女10年指3時間個別の記載なし洗浄,縫合,CSCL0.30(logMAR)0.00(logMAR)C43女10年ペン5時間個別の記載なし洗浄,縫合,CSCL0.77(logMAR)0.05(logMAR)C43女10年下敷き8時間個別の記載なし洗浄,SCL0.70(logMAR)0.00(logMAR)C35男10年机の角4時間個別の記載なし洗浄,縫合,CSCL0.15(logMAR)0.05(logMAR)CCarranza-Casas8)C2022C59男16年犬にひっかかれた3時間Cfold洗浄,SCL指数弁C0.8CZhang9)C2024C59男24年トウモロコシの茎6カ月Cwrinklestriarions,ingrowth層間掻爬,洗浄,SCLC0.5C0.5当院C2025C59男10年鍬(右前額部)3日後Cfold洗浄,縫合,CSCL0.5(C0.8)1.5(nc)microstriaeは瞳孔領にかかると不正乱視を引き起こし視力低下の原因となりうるため,foldやCwrinckle,microstriaeを整復する必要がある.角膜縫合を行った症例は当院を含め5例であった(表1).フラップ下洗浄のみでフラップの伸展が得られない場合,角膜縫合を追加し整復することでCfoldの伸展が得られると考えられる.本症例においては,foldが消失するまで角膜縫合を追加したこと,さらに可能な限り早期に段階的に抜糸することで縫合糸による角膜乱視が軽減し,視力が改善したと考えられた.本症例と同様(表1とは別)に,過去にCLASIK後C7年でフラップ偏位を生じた例にフラップ縫合をC9針行い,術後早期に段階的に抜糸が行われ,視力C1.0を得た報告もあった11).本症例ではCepithelialingrowthは認められなかった.フラップ偏位に伴うCepithe-lialingrowthの場合,フラップが偏位したことにより角膜上皮細胞がフラップ縁から迷入することで発症するため,受傷からフラップ整復までの時間が長い場合に起こりやすい傾向にあると考えられる.Fernandez-Barrientosらは,受傷から整復までの時間が長いほどCepithelialCingrowthになりやすいと報告している1).EpithelialCingrowthがフラップ辺縁のみで進行が止まっている場合は慎重な経過観察でよいが,Cepithelialingrowthが瞳孔領にかかった場合や角膜融解に至った場合には視機能に大きな影響が出るため,フラップ下洗浄やデブリードマンなどの手術介入が必要となる.本症例では受傷からフラップ整復までC3日と比較的早期に整復できたこと,術中にフラップ内を十分洗浄したことでCepithelialingrowthを防ぐことができた可能性がある.また,フラップ整復後にはCepithelialCingrowthやCDLKなどの合併症を防ぐため,フラップ側とベッド側の接着を良好にしておく必要があると考える.角膜間の接着を良好にする方法として,フラップ整復術の際に眼内灌流液を蒸留水でC2倍希釈し意図的に角膜フラップに浮腫を起こす報告もあった12).本症例では角膜縫合と治療用CCL装用により角膜の接着が良好となり,術後にCepithelialCingrowthやCDLKなどの発症がなかったと考えられた.CIII結論今回CLASIK術後C10年という長期経過後,外傷によりフラップ偏位が生じた症例を経験した.LASIK術後長期経過していても,外傷によるフラップ偏位は生じることがあり,注意が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Fernandez-BarrientosCY,COrtega-UsobiagaCJ,CBeltran-SanzCJCetal:E.cacyCandCsafetyCofCsurgicallyCmanagedClatetraumaticLASIK.apdisplacementsinastudyof66cases.JRefractSurgC38:270-276,C20222)HoltCDG,CSikderCS,CMi.inMD:SurgicalCmanagementCofCtraumaticCLASIKC.apCdislocationCwithCmacrostriaeCandCepithelialCingrowthC14CyearsCpostoperatively.CJCCataractCRefractSurgC38:357-361,C20123)KhoueirZ,HaddadNM,SaadAetal:Traumatic.apdis-locationC10CyearsCafterCLASIK.CcaseCreportCandCliteratureCreview.JFrOphtalmolC36:82-86,C20134)TaneriS,RostA,KieslerSetal:Traumatic.apdisloca-tionbypaperairplane10yearsafterLASIK.AmJOph-thalmolCaseRepC15:100514,C20195)TingCDSJ,CDanjouxJP:Late-onsetCtraumaticCdislocationCoflaserinsitukeratomileusiscorneal.aps:acaseserieswithCmanyCclinicalClessons.CIntCOphthalmolC39:1397C-1403,C20196)ChangCYC,CLeeYC:TraumaticClaserCinCsituCkeratomileu-sis.apdislocationwithepithelialingrowth,propionibacte-riumacnesinfection,anddi.uselamellarkeratitis:acasereport.Medicine(Baltimore)C99:e19257,C20207)ShihCLY,CPengCKL,CChenJL:TraumaticCdisplacementCofClaserCinCsituCkeratomileusis.aps:anCintegratedCclinicalCcasepresentation.BMCOphthalmolC21:177,C20218)Carranza-CasasCM,CAnaya-BarraganCF,CCedilloCGCetal:CManagementCofClateCtraumaticCLASIKC.apCdislocationCrelatedCtoCdogCscratchC16CyearsCpostoperatively.CAmJOphthalmolCaseRepC25:101270,C20229)ZhangX,WangH,GaoXetal:Late-onsettraumaticcor-neal.apdislocationandsecondaryepithelialingrowth24yearsCafterCLASIK.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC36:C102180,C202410)CSchmackCI,CDawsonCDG,CMcCareyBE:CohesiveCtensileCstrengthCofChumanCLASIKCwoundsCwithChistologic,Cultra-structural,CandCclinicalCcorrelations.CJCRefractCSurgC21:C433-445,C200511)MoshirfarCM,CAndersonCE,CTaylorCNCetal:ManagementCofCaCtraumaticC.apCdislocationCsevenCyearsCafterCLASIK.CCaseRepOphthalmolMedC2011:514780,C201112)UrseaCR,CFengMT:TraumaticC.apCstriaeC6CyearsCafterLASIK:casereportandliteraturereview.JRefractSurgC26:899-905,C2010***

レーシック術後に層間混濁を生じた顆粒状角膜ジストロフィの3症例

2015年12月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科32(12):1749.1752,2015cレーシック術後に層間混濁を生じた顆粒状角膜ジストロフィの3症例北澤耕司*1,2,3稗田牧*3北澤世志博*4木下茂*2,3*1バプテスト眼科山崎クリニック*2京都府立医科大学感覚器未来医療学*3京都府立医科大学視覚機能再生外科学*4神戸神奈川アイクリニックExacerbationofGranularCornealDystrophyafterLASIKinJapanKojiKitazawa1,2,3),OsamuHieda2),YoshihiroKitazawa4)andShigeruKinoshita2,3)1)BaptistYamasakiEyeClinic,2)DepartmentofFrontierMedicalTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,4)KobeKanagawaEyeClinic目的:レーシック術後に顆粒状角膜ジストロフィ患者で層間混濁を生じることが知られている.筆者らは,術後に層間混濁を生じた日本人の症例を経験したので報告する.症例および経過:レーシックを施行2.5年後にフラップ層間に混濁を認め,視力低下を自覚し当院を受診した3症例.症例1,症例2に対してはフラップ裏面および角膜実質ベッドをエキシマレーザーにて一部切除した.また,再発予防のためにマイトマイシンC塗布を行い,現在のところ混濁および視力は改善している.症例3は混濁があるものの裸眼視力が良好であるため,経過観察中である.結論:日本人においても顆粒状角膜ジストロフィ患者でレーシック術後に層間混濁を生じた症例を経験した.レーシック手術前の家族歴を含めた詳細な診察は重要であり,顆粒状角膜ジストロフィ患者に対するレーシック手術は不適応と考えられる.Wereport3casesofgranularcornealdystrophyexacerbatedbyuncomplicatedlaserinsitukeratomileusis(LASIK)formyopiainJapan.Allpatientsnoteddecreasedvisualacuity(VA)between2and5yearsafterLASIK;finewhitegranularopacitieswereseenbeneaththeLASIKflapuponpresentation.Patients1and2underwentsurgeryinwhichtheLASIKflapwasliftedandopacitiesbetweenflapandstromalbedwerescraped;mitomycinCwasthenapplied.Todate,bothpatients’depositshavenotincreased.Cornealdepositsonbotheyesofpatient3werenotedintheinterfaceoftheflaps;thatpatientiscurrentlyonlybeingfollowed,astheuncorrectedVAiswithinthenormalrange.Weencountered3caseswithexacerbationofgranularcornealdystrophyafterLASIKinJapan,similartocasesreportedinKorea.DetailedpatientinterviewsandexaminationsshouldthereforebeconductedpriortoperformingLASIK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(12):1749.1752,2015〕Keywords:顆粒状角膜ジストロフィ,レーシック,層間混濁.granularcornealdystrophy,LASIK,opacitiesbetweentheLASIKflap.はじめに顆粒状角膜ジストロフィII型(MIM#607541)は常染色体優性遺伝形式をもつ角膜ジストロフィである.5番染色体長腕にあるTGFBI(transforminggrowthfactorbeta-inducedgene)遺伝子の124番塩基のアルギニンからヒスチジンへの置換(R124H)が原因とされている.ヘテロ変異は角膜異常が軽度にとどまるが,ホモ変異になると進行も早く,混濁のサイズや密度および深さが増加し,著明な視力低下を引き起こす1).臨床病型としては,ヒアリンやアミロイドの沈着を角膜上皮下から実質浅層および中層にかけて認め,顆粒状および格子状の角膜混濁をきたす2).不連続な顆粒状の角膜混濁は早期から出現するが,視力は晩期まで保たれることが多い.顆粒状角膜ジストロフィI型(R555W)と間違えられることが多く,臨床病型だけでなく遺伝子検査に〔別刷請求先〕北澤耕司:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科山崎クリニックReprintrequests:KojiKitazawa,M.D.,Ph.D.,BaptistYamasakiEyeClinic,12Kamiikedacho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(117)1749 ABC図1症例1A:両眼ともにフラップ層間に混濁を認める.右眼手術前(左),左眼(右).B:右眼手術後6カ月(左).左眼(右).C:右眼手術後3年.よる診断が有用である.顆粒状角膜ジストロフィII型の角膜混濁に対してエキシマレーザー治療的角膜切除(phototherapeutickeratectomy:PTK)が視力改善に有効である.しかし,わずかな角膜混濁例に対し,近視治療を目的にlaserinsitukeratomileusis(LASIK:以下レーシック)を施行すると,術後数年で層間混濁を引き起こし,著明に視力が低下する3.11).これらは韓国を中心に,米国,イタリアでも報告されているが,わが国での報告は筆者らが知る限りまだない.今回,日本人における顆粒状角膜ジストロフィ患者に対してレーシック手術を行い,術後にフラップの層間混濁を生じた3症例を経験したので報告する.I症例および経過〔症例1〕59歳,男性.1997年(41歳時)に近視矯正クリニックで両眼のレーシックを施行された.術後5年程度は視力良好であったが,次第に視力低下が進行したため近医を受診.両眼のフラップ下混濁の診断で2011年2月に紹介受診となった(図1A).初診時視力は右眼0.04(0.1×.4.25D(.1.75DAx60°),左眼0.3(0.7×.3.25D(.0.50DAx40°)であった.患者にインフォームド・コンセントを行い,同意のうえで末梢血からゲノムDNAを抽出した.TGFBI遺伝子にR124H変異を認め,顆粒状角膜ジストロフィII型と確定診断した.2011年4月,右眼の層間混濁除去目的のためエキシマレーザーの照射,および再発予防のために0.02%マイトマイシンCを2分間塗布した.角膜実質ベッドを10μm切除し,フラップの裏面はフラップ表面から混濁の強い部位をマーキングし,フラップを翻転して40μm切除した.混濁は除去できたが強い白内障のため視力は0.07(0.1×.4.00D)にとどまったため,2011年8月に白内障手術を施行した.術後は初期の加齢黄斑変性を認めるものの,0.4(0.7×.1.50D)に改善した.現在,わずかな混濁の再発を認めるが,角膜の透明性は手術後3年を経過しても保たれている(図1B,C).〔症例2〕45歳,男性.2008年8月に近視矯正クリニックを受診し,両眼レーシックを施行された(38歳時).初診時から軽度の顆粒状角膜混濁を認めていたが,視力は右眼0.06(1.5×.5.50D(.1.75DAx5°),左眼0.07(1.5×.5.50D(.1.50DAx5°)と矯正視力は良好であった.術後1年頃から霞みを自覚し,2010年に再度レーシックを施行.手術後,右眼1.2(1.2×.1.00D(.1.50DAx133°),左眼1.0(1.0×.0.25D(.0.25DAx19°)に改善した.しかし,その後霞視,羞明の増悪を自覚し,近医を受診したところ角膜混濁の増悪を認め,2013年4月に当院紹介受診.フラップ下に層間混濁を認め,視力は右眼0.7(矯正不能),左眼0.9(1.0×+0.5D)であった(図2A).2013年10月に右眼フラップ裏面(40μm)および実質ベッド(40μm)のエキシマレーザーによる切除および1分間0.02%マイトマイシンCの塗布を行い,術後の右眼視力は(1.0×+2.00D(.1.00DAx20°)に改善した(図2B).1750あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(118) AB図2症例2A:フラップに一致して角膜混濁が増悪している.右眼(左),左眼(右).B:右眼のフラップ裏面および角膜ベッドを角膜切除し,マイトマイシンC処理を行い混濁は軽減した.AB図3症例3LASIKフラップ層間にびまん性の混濁を認める.A:右眼,B:左眼.〔症例3〕38歳,女性.10歳代の頃から角膜混濁を指摘されていた.2010年(33歳時)に近医眼科で両眼のレーシックを施行された.術後2年程から両眼の霧視を自覚し,2014年12月に当院受診.初診時視力は右眼0.8(1.0×+1.25D(.1.0DAx180°),左眼0.8(1.2×+1.0D(.0.5DAx170°)であり,フラップ下に層間混濁を認めた(図3).霧視の自覚症状が強いが裸眼視力が保たれているため,混濁除去手術はせずに経過観察中である.II考按顆粒状角膜ジストロフィII型患者でレーシック術後にフラップの層間混濁を生じた症例が2002年に初めて報告されて以来,数多くの症例が報告されている3.11).今回のいずれの症例もフラップの層間に混濁が存在し,過去の報告と同様に特徴的な所見を示し,混濁はレーシック術後2.5年で認められた.症例3は現在も裸眼視力が良好であり,角膜切除をすると遠視化による裸眼視力の低下につながるため,経過観察中である.症例1,症例2に対してはフラップ直下と実質ベッドの角膜切除に加えてマイトマイシンCの塗布を行った.マイトマイシンCは顆粒状角膜ジストロフィII型患者において再発予防に有効でないという報告もある12)が,十分な時間をかけて塗布することで,両症例とも現在も良好な視力を維持している.レーシックフラップ作製により角膜実質が傷害をうけると,TGF-bの発現亢進が誘導され,角膜線維芽細胞(ケラトサイト)が活性化する.活性化したケラトサイトはサイトカイン産生,グリコサミノグリカンおよび細胞外基質を産生する13,14)ことで組織修復を行うが,ときにhazeを引き起こす15).TGFBI遺伝子はTGF-bによって活性化されるため,顆粒状角膜ジストロフィII型のようなTGFBI遺伝子変異疾患では,フラップの作製により異常TGFBI蛋白の発現が亢進する.顆粒状角膜ジストロフィ患者でレーシック術後に生じた層間混濁に対して角膜移植を行った症例の組織学的検討によると,フラップの層間に一致して好酸性の沈着物を認め,マッソントリクローム染色陽性であった7,9,11).しかし,コンゴレッド染色では弱陽性または検出できず,混濁はアミロイドではなく,ヒアリンがおもな構成成分であることがわかった.また,角膜フラップを走査型電子顕微鏡で観察したところ,コラーゲン線維に顆粒状の塊が無数に絡まり合い,シート上に折り重なるようにしてフラップ層間に存在していた6).このことから,層間混濁はもとの病態と同様の機序により生じていると考えられる.フラップ作製によるTGF-bの局所の発現亢進,またフラップによってパックされることで分泌されたTGF-bの局所濃縮が起こり,術後数年かけて異常TGFBI蛋白が集積していったものと思われる.そのた(119)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151751 めヘテロタイプであっても本症例のように強い混濁の再発が起こるものと想像される.TGFBI遺伝子異常による角膜ジストロフィはその変異部位によって,顆粒状角膜ジストロフィII型(R124H)以外に,顆粒状角膜ジストロフィ-I型(R555W),Reis-Bucklers角膜ジストロフィ(R124L),Thiel-Behnke角膜ジストロフィ(R555Q),格子状角膜ジストロフィ(R124C)の5つの病型を示す16,17).症例2および症例3は遺伝子検査を行っていないので臨床所見からの診断ではあるが,レーシック術後の角膜混濁の発症機序がTGF-bを介して生じているとすると,人種差を超えて同様のことが生じると考えられる.このことはわが国においても屈折矯正手術前にわずかな角膜混濁の有無を含めた詳細な観察,および家族歴の問診が重要であることを示唆する.また,通常は家族歴および診察所見でほぼ診断されるが,確定できない場合はTGFBIの遺伝子検査も有用であるかもしれない.レーシック術後に顆粒状角膜ジストロフィ患者でフラップの層間混濁を生じた症例は,韓国からの報告が多いが,日本人においても同様な症例を経験した.そのため,わが国においても顆粒状角膜ジストロフィII型においてレーシック手術は不適応と考えられる.文献1)InoueT,WatanabeH,YamamotoSetal:DifferentrecurrencepatternsafterphototherapeutickeratectomyinthecornealdystrophyresultingfromhomozygousandheterozygousR124HBIG-H3mutation.AmJOphthalmol132:255-257,20012)HollandEJ,DayaSM,StoneEMetal:Avellinocornealdystrophy.Clinicalmanifestationsandnaturalhistory.Ophthalmology99:1564-1568,19923)WanXH,LeeHC,StultingRDetal:ExacerbationofAvellinocornealdystrophyafterlaserinsitukeratomileusis.Cornea21:223-226,20024)JunRM,TchahH,KimTIetal:AvellinocornealdystrophyafterLASIK.Ophthalmology111:463-468,20045)BanningCS,KimWC,RandlemanJBetal:ExacerbationofAvellinocornealdystrophyafterLASIKinNorthAmerica.Cornea25:482-484,20066)RohMI,GrossniklausHE,ChungSHetal:AvellinocornealdystrophyexacerbatedafterLASIK:scanningelectronmicroscopicfindings.Cornea25:306-311,20067)AldaveAJ,SonmezB,ForstotSLetal:AclinicalandhistopathologicexaminationofacceleratedTGFBIpdepositionafterLASIKincombinedgranular-latticecornealdystrophy.AmJOphthalmol143:416-419,20078)ChiuEK,LinAY,FolbergRetal:Avellinodystrophyinapatientafterlaser-assistedinsitukeratomileusissurgerymanifestingasgranulardystrophy.ArchOphthalmol125:703-705,20079)LeeWB,HimmelKS,HamiltonSMetal:ExcimerlaserexacerbationofAvellinocornealdystrophy.JCataractRefractSurg33:133-138,200710)MantelliF,LambiaseA,DiZazzoAetal:SandsofsaharaafterLASIKinavellinocornealdystrophy.CaseRepOphthalmolMed2012:413010,201211)AwwadST,DiPascualeMA,HoganRNetal:Avellinocornealdystrophyworseningafterlaserinsitukeratomileusis:furtherclinicopathologicobservationsandproposedpathogenesis.AmJOphthalmol145:656-661,200812)HaBJ,KimTI,ChoiSIetal:MitomycinCdoesnotinhibitexacerbationofgranularcornealdystrophytypeIIinducedbyrefractivesurfaceablation.Cornea29:490496,201013)ChenC,Michelini-NorrisB,StevensSetal:MeasurementofmRNAsforTGFssandextracellularmatrixproteinsincorneasofratsafterPRK.InvestOphthalmolVisSci41:4108-4116,200014)BrownCT,ApplebaumE,BanwattRetal:Synthesisofstromalglycosaminoglycansinresponsetoinjury.JCellBiochem59:57-68,199515)KajiY,SoyaK,AmanoSetal:Relationbetweencornealhazeandtransforminggrowthfactor-beta1afterphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg27:1840-1846,200116)WeissJS,MollerHU,AldaveAJetal:IC3Dclassificationofcornealdystrophies─edition2.Cornea34:117-159,201517)HiedaO,KawasakiS,WakimasuKetal:ClinicaloutcomesofphototherapeutickeratectomyineyeswithThiel-Behnkecornealdystrophy.AmJOphthalmol155:66-72e61,2013***1752あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(120)

近視LASIK後非対称性が強い角膜における角膜屈折力および眼内レンズ度数計算

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1047.1051,2014c近視LASIK後非対称性が強い角膜における角膜屈折力および眼内レンズ度数計算渡辺純一*1福本光樹*1,2井手武*1,3市橋慶之*1,3戸田郁子*1,3*1南青山アイクリニック*2防衛医科大学校眼科*3慶応大学医学部眼科CornealPowerandAccuracyofIOLCalculationforAsymmetricCorneaafterMyopicLASIKSurgeryJunichiWatanabe1),TerukiFukumoto1,2),TakeshiIde1,3),YoshiyukiIchihashi1,3)andIkukoToda1,3)1)MinamiaoyamaEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,3)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine目的:近視LASIK(laserinsitukeratomileusis)後に非対称性が強い角膜の角膜屈折力および眼内レンズ度数計算精度の検討.対象および方法:対象は当院で水晶体再建術を施行した33例43眼.症例を非対称性が強い非対称(+)群と非対称性が弱い非対称(.)群に分けて解析を行った.結果:角膜屈折力は,非対称(+)群では非対称(.)群に比べてオートレフケラトメータ平均角膜屈折力と瞳孔中心付近3mm範囲内の平均角膜屈折力の差に有意差を認めた.術後屈折予測値は非対称(+)群ではオートレフケラトメータの角膜屈折力を使用した場合,非対称(.)群に比べて実際の結果との差に有意差を認めたが,瞳孔中心付近3mm範囲内の平均角膜屈折力を使用した場合には有意差はなかった.結論:近視LASIK後に非対称性が強い角膜の眼内レンズ度数計算の際には,適切な方法で測定した角膜屈折力を使用することが重要である.Purpose:Todeterminethecornealpowerandaccuracyofintraocularlens(IOL)calculationforasymmetriccorneaaftermyopiclaserinsitukeratomileusis(LASIK)surgery.Methods:Thisstudyincluded43eyesof33patientswithahistoryofmyopia/myopicastigmatismcorrectionusingLASIKsurgery,whounderwentphacoemulsification(PEA)+IOL.Theyweredividedintotwogroups:theasymmetricgroup(29eyes;surfaceasymmetryindex[SAI]≧0.5)andthenon-asymmetricgroup(14eyes;SAI<0.5).Theobtaineddatawereanalyzedretrospectively.Results:Estimatedcornealpower,asmeasuredbytwodifferentmethods,wasstatisticallysignificantlydifferent,themeasuredpowerbeinggreaterintheasymmtricgroupthaninthenon-asymmetricgroup.Withcornealpowermeasuredusinganautorefractometer,expectedandactualrefractivepowersdifferedsignificantlyinbothgroups.However,whenweusedtheaveragepowerinpupildata,nosignificantdifferencewasobserved.Conclusion:ItisimportanttouseaccuratecornealpowermeasurementswhencalculatingtheIOLpowerforasymmetriccorneaaftermyopicLASIKsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1047.1051,2014〕Keywords:白内障,レーシック,非対称角膜,照射中心ずれ,眼内レンズ計算式,角膜屈折力.cataract,laserinsitukeratomileusis,decentration,IOLcalculation,cornealpower.はじめにLaserinsitukeratomileusis(LASIK)後の眼内レンズ度数計算は結果に誤差が生じやすいことが知られているが,良好な結果も報告され始めている1.3).誤差が生じる原因の一つとして角膜屈折力の測定精度が悪いことがあげられる.その理由として,角膜屈折力を測定するときに広く利用されるオートケラトメータの測定方式がある4).オートケラトメータは角膜前面の4点のみを測定し,角膜前面と後面の曲率比が一定であるという前提のうえ,4点から得られる角膜前面の曲率から角膜全屈折力を推定している.このためLASIK〔別刷請求先〕渡辺純一:〒107-0061東京都港区北青山3-3-11ルネ青山ビル4階南青山アイクリニックReprintrequests:JunichiWatanabe,MinamiaoyamaEyeClinic,RenaiAoyamaBuilding4F,3-3-11Kitaaoyama,Minato-ku,Tokyo107-0061,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(121)1047 48D-6D42D-6D本来ならば-6DのLASIK42D36D48D-6D42D-5.25D一定の比率で計算すると-6DのLASIK42D36.75D図1角膜屈折値の過大評価1オートケラトメータは前面のみしか測定できないので,前面と後面が一定の比率であるとして,換算屈折率を用いて角膜前面の値から角膜全屈折力を推定している.本来上図のように屈折値は変化するが,下図のように角膜前面と後面が一定の比率で変化しているとみなした場合,0.5D以上過大評価となる(36.75.36=0.75).後の眼では角膜前面曲率が大きく変化しているにもかかわらず,後面も同様の変化をしているものとして全屈折力が推定されている.したがって,近視LASIK後は角膜屈折力が実際よりも大きな数値として評価され眼内レンズ度数が低く選択される.その結果手術後の屈折が予定よりも遠視側にずれる(図1).近視LASIKでは角膜中央部が平坦化しているため,オートケラトメータの測定部位が正常眼よりも周辺となる(図2).加えて,照射中心ずれやもともとの角膜の形状により非対称性が強い角膜では照射部位のうち照射部から非照射部にかけての移行部の急峻な部分が測定部位内に入ることもあるため,角膜屈折力は大きく測定される.結果としてさらに過大評価されてしまう.瞳孔中心付近の1,000ポイント以上の平均角膜屈折力〔OPD-ScanARK-10000(NIDEKCo.,Ltd.:以下,OPD)のaveragepowerinpupil:以下,APP〕などを用いることによって,より正確な角膜屈折力を得ることができるようになってきた1).今回筆者らは非対称性が強い眼と弱い眼とで複数の装置で測定した角膜屈折力の差および眼内レンズ度数計算の結果に差があるかを比較検討した.1048あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014I対象および方法2008年11月から2012年11月までに南青山アイクリニックで水晶体再建術を施行した症例のうち,下記の条件を満たすものを対象とした.術中・術後全身および眼合併症がない.近視LASIK手術後でTMS-4(TOMEYCo.,Ltd.)のsurfaceasymmetryindex5)(以下,SAI)が機器の設定上異常値と定義されている0.5以上である22例29眼〔非対称(+)群〕および同0.5未満である11例14眼〔非対称(.)群〕.これらの2群に対して術後レトロスペクティブに解析を行った.眼軸長はAscanAL-2000(TOMEYCo.,Ltd.)で測定した値を用いた.前房深度と水晶体厚についてもAL-2000で測定した値を用いた.A定数は全期間ともメーカー推奨値の超音波式用の値を使用した.1.角膜屈折力オートレフラクトケラトメーターARK-700A(NIDEKCo.,Ltd.)で計測した平均角膜屈折力(以下,レフケラ)とOPDの瞳孔中心付近3mmのAPP(以下,APP3mm)との差を2群間で比較した.統計学的検討はSPSSStatisticsbase18(SPSS社)を用い,有意差の判定はtwosamplet検定を用いてp<0.05を有意差ありとした.2.術後屈折予測値と実際の結果の差レフケラ,APPそれぞれの角膜屈折力とLASIKの屈折矯正量を使用してCamellin-Calossi式6.8)で計算した術後予測屈折値(等価球面度数)と術後1カ月目の自覚等価球面度数の差について,平均値および絶対値平均を2群間で比較した.統計学的検討はMann-WhitneyのU検定を用いてp<0.05を有意差ありとした.II結果1.角膜屈折力非対称(+)群におけるレフケラの平均は38.48±1.56D(35.44.42.46D),APP3mmの平均は37.8±1.92D(33.09.42.03D)で差は0.68±0.55D,絶対値の差は0.70±0.53Dであった.一方,非対称(.)群におけるレフケラの平均は39.6±1.13D(38.10.42.00D),APP3mmの平均は39.4±1.21(37.82.41.98D)Dで差は0.19±0.20D,絶対値の差は0.20±0.19Dであった.レフケラについては非対称(+)群と(.)群の間で有意な差はなかったが,APP3mmについては有意な差があった.また,非対称(+)群では非対称(.)群に比べてレフケラの角膜屈折力とOPDのAPP3mmの差および絶対値の差が有意に大きかった(表1).2.術後屈折予測値と実際の結果の差非対称(+)群でAPP3mmを使用して計算した場合の術後屈折予測値と実際の結果の差は0.53±0.74D(.0.39.+2.11D),非対称(.)群で同様に計算した場合の差は0.12±(122) 水平経線上の屈折角膜曲率半径(mm)角膜屈折力(D)測定径(mm)7.743.833.339.037.503.909.535.534.11力の値-6D43D-5.375D本来ならば42Dであるはずが-6DのLASIK36D37.625D図2角膜屈折値の過大評価2オートケラトメータでの測定部位は角膜が平坦化すると,正常眼より周辺部となる.正常眼(上図左側)では測定部位と角膜中央部との屈折力の差は少ないが,近視LASIK眼(上図右側)では差が大きい.図では1.5D以上過大評価となる(37.625.36=1.625).表1両群のレフケラとAPP,およびその差レフケラAPP@3mm差差(絶対値)非対称(.)39.6±1.13D39.4±1.21D0.19±0.2D0.2±0.19D非対称(+)38.48±1.56D37.8±1.92D0.68±0.55D0.7±0.53D0.33D(.0.50.+0.59D)で結果に有意な差はなかった.一方,非対称(+)群でレフケラを使用して計算した場合の術後屈折予測値と実際の結果の差は1.22±1.06D(.0.19.+3.44D),非対称(.)群で同様に計算した場合の差は0.27±0.32D(.0.18D.+0.63D)で結果に有意な差があった(図3).絶対値の差についても同様で非対称(+)群でAPP3mmを使用した場合は0.65±0.64D,非対称(.)群でAPP3mmを使用した場合は0.27±0.21Dと有意な差はなく,(123)*p<0.01Twosamplettest非対称(+)群でレフケラを使用した場合は1.23±1.05D,非対称(.)群でレフケラを使用した場合は0.32±0.26Dと結果に有意な差があった(図4).III考察近視LASIK後の白内障手術においては結果として術後の屈折が遠視側にずれやすい2,3).近視LASIK後は角膜屈折力が過大評価され,結果として選択される眼内レンズ度数が低あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141049 (D)(D)(D)**2.521.510.50-0.5非対称(-)■非対称(+)APP3mm0.120.53レフケラ0.271.22*p<0.01Mann-Whitneytest図3術後屈折予測値と実際の結果の差APP3mmを使用して計算した場合には両群間に有意な差はないが,レフケラを使用した場合には有意な差が認められた(p<0.01).2.521.510.50非対称(-)■非対称(+)APP3mm0.270.65レフケラ0.321.23*p<0.01Mann-Whitneytestくなり術後の屈折が遠視側にずれてしまう.非対称(+)群でAPP3mmを使用して計算した場合の術後屈折予測値と実際の結果の差と,非対称(.)群で同様に計算した場合は,結果に有意な差はなかった.一方,非対称(+)群でレフケラを使用して計算した場合の術後屈折予測値と実際の結果の差と,非対称(.)群で同様に計算した場合は結果に有意な差があった.APP3mmについては非対称の有無にかかわらず数値に有意な差はなく,またAPP3mmを用いた計算では非対称の有無で術後の屈折に有意な差がなかった.LASIK後に非対称な角膜の眼内レンズ度数計算においては,一般的に広く使用されているレフケラの値を使用して計算をすると,結果が遠視側にずれる傾向がある.これは照射部から非照射部にかけての急峻な部分が測定部位内に入ってきてしまうため,測定値が過大評価となることによるが8,9),非対称があると角膜屈折力がさらに過大評価となる.これにより眼内レンズ度数が低く選択され,結果として手術後の屈折が予定よりも遠視側にずれる.このため計算にあたっては,角膜屈折力の選択につき特に注意が必要である.レフケラとAPP3mmの値を比較すると,非対称がある場合にはその差は大きなものとなる.今回計算に使用したCamellin-Calossi式は計算式に実際に測定した前房深度や水晶体の厚さを使用するが,多くの施設で採用されているSRK/T式は角膜屈折力を用いて前房深度を計算するため,実際の前房深度と合致しない場合がある9,10).レフケラによる角膜屈折力測定では角膜前面と後面が同様に変化しているものとしているため,LASIK後の平坦化した角膜ではこの点も誤差を生じる原因となりうる.つまり計算式と計算に用いる数値双方での誤差が生じることとなる.加えてLASIKでの矯正量が大きい場合にはさらに誤1050あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014図4術後屈折予測値と実際の結果の差(絶対値)図3と同様にAPP3mmを使用して計算した場合には両群間に有意な差はないが,レフケラを使用した場合には有意な差が認められた(p<0.01).差が生じることもある.今回筆者らの計算ではSRK/T式での計算は行わなかったが,SRK/T式を用いた計算では他の計算式を用いた場合に比べて精度が劣る報告もすでにされている11).今後Camellin-Calossi式との比較も検討する必要がある12).すでに多くの施設でLASIKをはじめとする近視矯正手術後の眼内レンズ度数計算が必要とされている現状があるが,「何をどのようにして計算をすればよいか」ということが広く普及していない.施設によってはLASIKなどの近視矯正手術後であってもレフケラのデータを用いてSRK/T式で計算をしていることがある.今回の筆者らの結果において一般的な眼科施設で使用されているレフケラの角膜屈折力を使用したものでは,非対称がある眼では結果に影響を及ぼすことがわかった.しかしこれについてはAPPを使用するなど,測定を工夫することにより精度がよくなると考えられた.エキシマレーザーに搭載されているトラッキングなどの機器の発達により照射ずれによる角膜の非対称が発生する可能性は以前に比べて少なくなったものの,まったくなくなっているわけではないので注意は必要である.APPなどの平均角膜屈折力を測定できる機器があるならば,特にLASIK後の計算には積極的に用いるべきである.ただし,トポグラフィーがない施設では非対称か否かの判断ができない.このため予測よりも大きく遠視側にずれてしまう可能性も十分考えられる.場合によっては専門の施設で非対称がないこと,さらにAPPなどの平均角膜屈折力やトポグラフィー,前眼部OCT(光干渉断層計)などを測定したうえで度数計算をすることが望ましい.なお,APPについてはTMSや前眼部OCTのCASIAのACCP(averagecentralcornealpower)と測定原理が同様であり,非常に近い値であることからACCPを用(124) いることも可能である.ASCRSの屈折矯正手術後眼の計算サイト(http://iolcalc.org/)では同じ欄にいずれかの数値を入力する形態になっている.日本国内で眼科専門医によるLASIKをはじめとする屈折矯正手術が行われるようになり,すでに15年以上が経過している.LASIKが広く普及している現在,その後に白内障手術が必要になった場合の眼内レンズ度数計算は喫緊の課題である.屈折矯正手術後に白内障手術を行うにあたっては,現時点での眼軸や角膜屈折力さえあれば正確に計算できるものではない.より精度を高めるためには手術前のデータの存在はもちろんのこと,適切な測定データと計算式の使用が求められる.これによりその計算精度は屈折矯正手術眼ではない眼に近づけることができると考えられる.LASIK後眼に対する眼内レンズ度数計算がこれまでよりもさらに簡便かつ高精度になれば,どの施設でも積極的にLASIK後の白内障手術を受け入れることができるようになる.筆者らはLASIKを数多く手がけてきた施設として今回の検証結果をさらに発展させて,現在使用している計算式よりもさらに精度が高い計算式を開発することを目標に今後も研究を重ねていきたい.文献1)渡辺純一,福本光樹,井手武:近視LASIK後の白内障手術における眼内レンズ度数計算精度.あたらしい眼科27:1689-1690,20102)魚里博:屈折矯正手術後眼の眼内レンズ度数計算.あたらしい眼科15:665-666,19983)中村友昭:LASIK術後眼のIOL度数計算.IOL&RS24:609-615,20104)魚里博:角膜曲率半径.眼科プラクティス25眼のバイオメトリー,p242-246,文光堂,20095)富所敦男,大鹿哲郎:ビデオケラトグラフティーによる角膜不整乱視の定量化.あたらしい眼科18:1349-1356,20016)CamellinM:Proposedformulaforthedioptricpowerevaluationoftheposteriorcornealsurface.RefractCornealSurg6:261-264,19907)CamellinM,CalossiA:Anewformulaforintraocularlenspowercalculationafterrefractivecornealsurgery.JRefractSurg22:187-199,20068)尾藤洋子,稗田牧:特殊角膜における眼内レンズ度数決定3.エキシマレーザー近視矯正手術後眼の眼内レンズ度数決定.あたらしい眼科30:607-614,20139)飯田嘉彦:屈折矯正手術後の白内障手術.IOL&RS22:39-44,200810)飯田嘉彦:眼内レンズ度数計算式の考え方.あたらしい眼科30:581-586,201311)ShammasHJ,ShammasMC:No-historymethodofintraocularlenspowercalculationforcataractsurgeryaftermyopiclaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg33:31-36,200712)SaviniG,HofferKJ,CarbonelliMetal:Intraocularlenspowercalculationaftermyopicexcimerlasersurgery:Clinicalcomparisonofpublishedmethods.JCataractRefractSurg36:1455-1465,2010***(125)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141051