‘角膜屈折力’ タグのついている投稿

低加入度数分節型眼内レンズの術後早期屈折変化に 関連する因子の検討

2022年1月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(1):112.117,2022c低加入度数分節型眼内レンズの術後早期屈折変化に関連する因子の検討川口ゆいこ*1玉置明野*1小島隆司*2澤木綾子*1加賀達志*1*1独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院眼科*2慶應義塾大学医学部眼科学教室CFactorsRelatedtoEarlyPostoperativeRefractiveChangesinEyesWithLow-Add-PowerSegmentedBifocalIntraocularLensImplantationYuikoKawaguchi1),AkenoTamaoki1),TakashiKojima2),AyakoSawaki1)andTatsushiKaga1)1)JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospitalDepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineC目的:低加入度数分節型眼内レンズと単焦点眼内レンズの術後屈折値の変化の検討.対象および方法:対象は水晶体再建術でCLS-313MF15(L群,31眼),SN60WF(S群,30眼),AN6KA(A群,30眼)を挿入した計C91例C91眼(平均年齢C73.5±7.5歳).術翌日,3カ月時の自覚等価球面度数(SE),前眼部COCTによる平均角膜屈折力(Real値),前房深度(ACD)を術翌日とC3カ月時で比較し,SE変化との関連因子について重回帰分析を行った.結果:SE変化量(D)は,L群C0.29±0.44,S群.0.11±0.38,A群.0.17±0.33でCL群は有意な遠視化を認めた(p=0.0004).ACD変化量(mm)はCL群C0.20±0.19,S群.0.18±0.13,A群.0.21±0.10でCL群のみ有意に深くなった(p=0.0071).Real値の変化はC3群とも有意な近視化を認めたが(p<0.0001),3群間に差はなかった.SE変化量を従属変数とした重回帰分析にて選択された独立変数は,ACD変化量のみであった(p=0.020).結論:L群の術後屈折値はC3カ月で遠視化し,IOLの後方移動によるCACDの増加が関連する.CPurpose:Toassessthepostoperativeaxialmovementoflow-add-powersegmentedbifocalintraocularlenses(IOLs)(LS-313MF15;Santen)andassociatedfactors.Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved91eyesof91patientswhounderwentimplantationoftheLS-313MF15IOL(GroupL:31eyes)oramonofocalIOL[SN60WFIOL;Alcon(GroupS:30eyes)andAN6KAIOL;Kowa(GroupA:30eyes)].MultipleregressionanalysiswasperformedCtoCevaluateCtheCfactorsCtoCexplainCtheCchangesCinsphericalCequivalent(SE)valuesCpostCsurgery.CResults:PostCsurgery,Csigni.cantChyperopicCshiftCofCSEchange(p=0.0004)andCdeepeningCofCanteriorCchamberdepth(ACD)(p=0.0071)wasonlyobservedinGroupL.Thechangeintotalcornealpowershowedasigni.cantmyopicshiftinallthreegroups(p<0.0001),however,nosigni.cantdi.erencewasfoundbetweenthegroups.IntheCmultipleCregressionCanalysis,CwhenCtheCSECchangeCwasCsetCasCaCdependentCvariable,ConlyCACDCchangeCwasCselectedCasCtheCindependentvariable(p=0.020).CConclusion:TheChyperopicCshiftsCofCsubjectiveCrefractionCafterCimplantationoftheLS-313MF15IOLwasassociatedwithIOLposteriorshifts.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(1):112.117,C2022〕Keywords:低加入度数分節型眼内レンズ,術後前房深度,術後屈折変化,角膜屈折力.low-add-powerCsegment-edintraocularlens,postoperativeanteriorchamberdepth,postoperativerefractivechange,totalcornealpower.Cはじめに持部の素材が異なるスリーピース型,同素材で一体型となっこれまでに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の術後安ているワンピース型やプレート型などさまざまで,素材や.定性に関する報告は多数あり1.4),IOLの形状は光学部と支収縮による.内でのCIOL位置変化の大小が術後の屈折変化〔別刷請求先〕川口ゆいこ:〒457-8510愛知県名古屋市南区三条C1-1-10独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院眼科Reprintrequests:YuikoKawaguchi,JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospitalDepartmentofOphthalmology,1-1-10Sanjo,Minami-ku,Nagoyacity,Aichi457-8510,JAPANC112(112)に関与する因子として報告されている4).スリーピースアクリルCIOLは,術後C1カ月でCIOL固定位置が前方移動し近視化するが,ワンピースアクリルCIOLは屈折変化が少ないと報告されている5.8).+1.50CDが扇状に加入された分節型CIOLレンティスコンフォート(モデルCLS-313MF15,参天製薬)は,親水性アクリル素材のプレート型CIOLで,術直後からC3カ月まで緩やかに後方移動し安定することが報告されている9).しかし,自覚的屈折値の変化量と術後前房深度変化量には相関を認めず,術後角膜屈折力の近視化傾向により,IOLの後方移動に伴う遠視化が緩和された可能性が指摘しているが,その後検証した報告はない.今回,自覚的屈折値の変化量に関連する因子について詳細に検証したので報告する.CI対象および方法対象は,2019年C1月.2020年C7月に独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院にて水晶体再建術を行い,術後C3カ月の矯正視力がC0.8以上であったC91例C91眼,平均年齢C73.5C±7.5歳である.LS-313MF15を挿入したC31例C31眼,男性9例,女性22例,平均年齢C71.4C±9.5歳をCL群とし,L群と年齢マッチングしたワンピースアクリルCIOL(SN60WF,Alcon社)を挿入した30例30眼,男性15例,女性15例,平均年齢C74.9C±5.3歳(以下,S群)と,スリーピースアクリルCIOL(AN6KA,興和)を挿入したC30例C30眼,男性C13例,女性C17例,平均年齢C74.3C±6.9歳(以下,A群)をコントロール群とした.両眼手術例は術後矯正視力がよい眼を対象とし,同一視力の場合は手術日が早い眼を対象とした.術翌日の一過性の眼圧上昇を含む術中術後合併症を認めたものは除外した.本研究は,ヘルシンキ宣言に則りCJCHO中京病院倫理審査委員会の承認を得て行われた後方視的無作為化比較試験である(承認番号#2020025).データ収集にあたっては,オプトアウトを掲示し,研究参加の拒否について配慮したうえで行った.IOL度数決定のための術前検査には,光学式眼内寸法測定装置CIOLMaster700(CarlCZeissMeditec社)を用い,角膜屈折力と前房深度(角膜前面から水晶体ないしCIOL前面までの距離)の測定には前眼部三次元画像解析装置(CASIA2トーメーコーポレーション)を用いた.IOL度数計算式は,BarrettUniversalII式を使用した.検討項目は,自覚的屈折値(等価球面度:SE),CASIA2で角膜後面を実測した全角膜屈折力(Real値),前房深度および予測屈折誤差とし,術後C3カ月の測定値から術翌日の測定値を引いた値を比較した.予測屈折誤差は,術後の自覚的屈折値から予測屈折値を引いた値とした.さらに,L群の角膜屈折力の変化に関連する因子として,中心角膜厚と角膜後面屈折力について術翌日とC3カ月後の測定値を比較した.またCL群では,術後の自覚的屈折値の変化に関連する因子について,従属変数を自覚的屈折値の変化量とし,独立変数は角膜屈折力変化量,前房深度変化量,IOL度数,術後C3カ月の眼軸長(術後眼軸長)として重回帰分析を行った.さらに,角膜屈折力の変化量を眼鏡面での値に換算10)し,自覚的屈折値変化量から除いた値を従属変数とし,独立変数を前房深度変化,IOL度数,術後眼軸長,および(前房深度変化C×IOL度数)を術後眼軸長で除した値として重回帰分析を行った.統計解析ソフトはCGraphPadPrismver.6.0(GraphPad社)とCIBMCSPSSCStatisticsver.21(IBM社)を用いた.正規性の判定にCShapiro-WilkCnormalitytestを行い,2群間の比較にはCpairedt-testまたはCWilcoxonmatched-pairssignedranktestを,3群間の比較には一元配置分散分析またはKruskal-Wallis検定を用い,postChoctestとしてCHolm-Sidak’sCmultipleCcomparisonstestまたはCDunnの多重比較を行った.統計学的有意水準は5%未満とした.CII結果3群の平均年齢と術前測定値は,すべての項目において有意差はなかった(表1).C1.術後屈折変化術後自覚的屈折値の平均±標準偏差は,術翌日,術後C3カ月の順にCL群はC.0.60±0.53D,C.0.31±0.49Dで,術後C3カ月で有意に遠視化した(p=0.0004).S群はC.0.07±0.37D,C.0.18±0.39Dで有意差はなかった(p=0.134).A群はC.0.34±0.39D,C.0.51±0.43Dで術後C3カ月では有意に近視化した(p=0.0014)(図1a).術後の自覚的屈折値変化量の平均±標準偏差は,L群がC0.29C±0.44D,S群はC.0.11±0.39D,A群はC.0.17±0.33DでC3群に有意差を認め(p<0.0001),L群はS群(p=0.0003),A群(p<0.0001)より有意に遠視化した.A群とCS群に有意差はなかった(p=0.5627)(図1b).C2.前房深度の術後変化術後前房深度の平均±標準偏差は,術翌日,術後C3カ月の順にCL群はC4.40C±0.31Cmm,4.63C±0.28mm,S群ではC4.88C±0.24Cmm,4.70C±0.25Cmm,A群ではC4.57C±0.28Cmm,4.38C±0.28Cmmで,術翌日と比べて術後C3カ月にはCL群では深く,S群とCA群では有意に浅くなった(p<0.0001,p<C0.0001,Cp=0.0071)(図1c).術後前房深度の変化量は,L群がC0.20C±0.19Cmm,S群はC.0.18±0.13Cmm,A群はC.0.21C±0.10Cmmで,L群のみ術後C3カ月で深くなり,S群,A群との間に有意差(いずれもCp<0.001)を認めたが,S群とCA群に有意差はなかった(図1d).表13群の平均年齢と術前測定値L群S群A群p値年齢(歳)C71.4±9.5C74.9±5.3C74.3±6.9C0.15眼軸長(mm)C23.73±0.99C23.78±0.94C23.70±1.08C0.95平均角膜屈折力(D)C43.10±1.61C43.05±0.98C42.92±1.21C0.85前房深度(mm)C3.24±0.43C3.31±0.44C3.22±0.41C0.68水晶体厚(mm)C4.47±0.60C4.61±0.35C4.61±0.40C0.25角膜横径(mm)C11.77±0.46C11.90±0.38C11.95±0.45C0.27IOL度数(D)C19.73±2.4C21.25±3.2C20.88±2.8C0.22すべての項目でC3群間に有意差は認められなかった.a.3群の術翌日と術後3カ月の自覚的屈折値b.術後自覚的屈折値変化量1**1.51.0**術後自覚的屈折値変化量(D)術後自覚的屈折値(D)0-1-20.50.00.5-31.0L群S群A群L群S群A群c.3群の術翌日と術後3カ月の前房深度d.術後前房深度変化量6.01.0***n.s.術後前房深度変化量(mm)術後前房深度(mm)5.50.55.04.54.03.50.0-0.5L群S群A群1D:術翌日,3M:術後3カ月,**:p<0.01,***:p<0.001,n.s.:notsigni.cant.図1術翌日と術後3カ月の自覚的屈折値と前房深度の変化a:自覚的屈折値の変化を示す.L群は術後C3カ月で有意に遠視化し,A群は有意に近視化した.S群は有意な変化はなかった.Cb:術後自覚的屈折値変化量を示す.L群は他のC2群と比較し有意に遠視化したが,S群とCA群に有意差はなかった.Cc:前房深度の変化を示す.術翌日と術後C3カ月の前房深度の変化は,L群が有意に後方移動し,S群とCA群は有意に前方移動した.Cd:術後前房深度変化量を示す.L群は,他のC2群と比較し有意に深くなったが,S群とCA群には有意差はなかった.C3.平均角膜屈折力の術後変化1.13D,42.98C±1.21D(p<0.001)であった.3群とも術翌平均角膜屈折力の平均±標準偏差は,術前,術翌日,術後日が術前より有意に小さく(いずれもCp<0.001),術後C3カ3カ月の順にCL群ではC43.10C±1.61D,42.76C±1.69D,43.13月が術翌日より有意に大きくなった(いずれもCp<0.001).3C±1.59Dで,S群はC43.05C±0.98D,42.79C±1.02D,43.11C±群とも術前と術後C3カ月には有意差は認められなかった.術0.99D(p<0.001)であり,A群ではC42.92C±1.21D,42.60C±後平均角膜屈折力の変化量は,L群がC0.37C±0.40D,S群は1D3M1D3M1D3ML群S群A群a.術後平均角膜屈折力変化量b.術前平均角膜屈折力変化量(D)1.51.00.50.0-0.5-1.0L群S群A群c.術翌日d.術後3カ月図2術翌日と術後3カ月の平均角膜屈折力変化量と前眼部OCTによる右眼耳側角膜切開部と角膜形状解析a:術後平均角膜屈折力変化量を示す.術翌日と術後C3カ月の平均角膜屈折力はいずれもC3カ月時が強くなり,3群に有意差はなかった.n.s:notsigni.cant.Cb:術前右眼の前眼部COCTの結果を示す.Cc:術翌日右眼の前眼部COCTの結果を示す.Cd:術後C3カ月右眼の前眼部COCTの結果を示す.Cb~d共通:左上=AxialPower(Real),角膜後面を実測したCTotalCCornealPower,右上=AxialPower(Posterior),角膜後面屈折力,左下=水平断層像,矢頭=角膜後面の耳側切開位置,右下=Ks)強主経線の角膜屈折力,Kf)弱主経線の角膜屈折力,CYL)乱視量,Avg.K)平均角膜屈折力.術前(Cb)の角膜後面屈折力Ave.KはマイナスC6.3Dであり,術翌日(Cc)は角膜後面の浮腫により角膜後面屈折力CAvg.Kはマイナス6.8Dとなり,術後C3カ月(Cd)でマイナスC6.4Dに変化した.Real値のCAvg.Kは術翌日(Cc)42.1Dから術後C3カ月(Cd)43.1Dと強くなったことがわかる.C0.32±0.40D,CA群はC0.38C±0.42DでC3群間に有意差はなか前眼部COCTによる右眼の耳側角膜切開部と角膜形状解析った(図2a).CL群の角膜後面屈折力の平均C±標準偏差は,結果の典型例について,術前を図2b,術翌日を図2c,術後術前がC.6.23±0.24D,術翌日がC.6.40±0.29D,術後C3カ3カ月の結果を図2dに示す.C月が.6.25±0.24Dで,術前は術翌日より有意にマイナス度4.重回帰分析結果数が弱く(Cp<C0.0001),術翌日は術後C3カ月より有意にマイL群に対し,従属変数を自覚的屈折値の変化量とし,独立ナス度数が強くなった(Cp<C0.0001).術前と術後C3カ月に有変数を角膜屈折力変化量,前房深度変化量,CIOL度数,術後意差は認められなかった.CS群CA群ともに術前と比較し術3カ月の眼軸長(術後眼軸長)とした重回帰分析では,前房翌日はマイナス度数が有意に弱く(いずれもp<0C.0001),術深度変化量のみが選択され(Cp=0.02,CRC2=0.1375),標準化翌日と比較し術後C3カ月はマイナス度数が有意に強くなった係数CbはC0.371,相関係数はC0.371であった(図3a).さら(いずれもCp<C0.0001).術前と術後C3カ月に有意差は認めらに,全眼球屈折力から角膜屈折力(眼鏡面に変換)を引いたれなかった.中心角膜厚の平均C±標準偏差は,術翌日がC値を従属変数とし,独立変数を前房深度変化量,CIOL度数,574.9±39.8Cμm,術後C3カ月がC541.9C±32.4Cμmで術翌日は術後眼軸長,および(CIOL移動量C×IOL度数)を術後眼軸長有意に厚かった(p<0C.0001).C0.1339で除した値として重回帰分析を行った結果,従属変数と相関a.術後の自覚的屈折値の変化量と前房深度変化量の関係b.術後の角膜屈折力(眼鏡面換算値)を除いた自覚的屈折値変化量と前房深度変化量の関係全角膜屈折力を除いた術後自覚屈折値変化量(D)図3L群の自覚的屈折値変化量と前房深度変化量の関係a:術後の自覚的屈折値の変化量と前房深度変化量の関係を示す.術後自覚的屈折値の変化量と前房深度変化量に弱い相関を認めた(p=0.02,RC2=0.1375).b:術後の角膜屈折力(眼鏡面換算値)を除いた自覚的屈折値変化量と前房深度変化量の関係を示す.術後の角膜屈折力(眼鏡面換算値)を除いた自覚的屈折値の変化量と前房深度変化量に弱い相関を認めた(p=0.007,RC2=0.1893).関係が認められたのは,前房深度変化量(p=0.007,r=0.435)と(IOL移動量C×IOL度数)/術後眼軸長(p=0.025,Cr=0.355)であり,係数として選択されたのは前房深度変化量のみ(p=0.007,RC2=0.189)で,標準化係数CbはC0.435であった(図3b).CIII考按本研究において術後の自覚的屈折値は,ワンピースCIOL(S群)は有意な変化はなく,スリーピースCIOL(A群)は近視化し,低加入度数分節CIOL(L群)は遠視化した.術後前房深度の変化は,L群のみ深くなり,S群とCA群は浅くなった.平均角膜屈折力はすべての群で術後C3カ月は術翌日より大きく,近視化傾向を示し,L群について既報12)と同様の結果が確認された.平均角膜屈折力の変化について,大内は,術翌日は角膜厚が増加し,その後C2日以降で角膜後面の平坦化が生じ角膜屈折力は安定したと報告2)している.また,林らは,角膜切開ないし経結膜強角膜一面切開によるワンピースCIOL挿入後の平均角膜屈折力(keratometricpower)は,術翌日からC2カ月まで有意に強くなったと述べている4).本研究では角膜後面を実測して求めた平均角膜屈折力(Real値)にて術翌日と術後C3カ月時の測定値を比較し,同様な結果が確認された.L群において,中心角膜厚は術翌日と比較し術後C3カ月で薄くなり(p<0.0001),角膜後面屈折力は,切開部位の一時的な浮腫によって術翌日のみ術前と比べ有意にマイナス度数が大きくなった(p<0.0001).しかし,創傷治癒によって術後C3カ月の角膜後面屈折力は弱くなり角膜全屈折力は増加し,術翌日と比較し近視化したが,術前と同等の値に戻ったと考えられる.IOLの安定性については,支持部に角度がついているものは,光学部と支持部が同一平面にあるものと比べ,前後方向への移動が大きいことが報告11)されており,ワンピースIOLの術後前房深度は,術後早期の有意差はなく,スリーピースCIOLは有意に浅くなるとの報告5,6)がある.一方,杉山らは,低加入度数分節型CIOLは術後C4日からC3カ月まで前房深度は有意に深くなり,その後は安定したと報告9)している.本研究でも同様に,ワンピースCIOLとスリーピースIOLはともに術後翌日からC3カ月で前房深度は浅くなり,低加入度数分節型CIOLは深くなり,既報と一致していた.術後前房深度の変化は,年齢や眼軸長よりも光学部の素材やCIOL支持部の前後方向への抵抗力などの要因の影響を大きく受けること1)や,プレート型CIOLは素材上,前.収縮により周囲のプレートがやや後方に反ることで中央の光学部がやや後方に移動すると推察されている9).本研究の重回帰分析では,角膜屈折力の変化を含む自覚的屈折値の変化と術後前房深度の変化に弱い相関が認められた(RC2=0.137).しかし,前房深度の変化量が屈折値に与える影響は,IOLの度数や眼軸長に占める割合によって異なる.杉山らが指摘9)している術後の角膜屈折力の近視化による影響を除外した自覚的屈折値の変化は,前房深度変化と,眼軸長およびCIOLの(移動量×度数)との比に相関を認め,角膜屈折力変化の近視化を含む場合より決定係数(RC2=0.189)は若干大きくなり,術後早期の前房深度変化が低加入度数分節CIOLの自覚的屈折値の遠視化の一因であることが示された.しかし,いずれも決定係数は小さく,前房深度の後方移動のみで今回の自覚的屈折値の遠視化を説明することは困難である.本研究の限界として,術翌日の眼軸長は計測されておらず,術後の眼軸長の変化は不明であること,また,IOLのtiltや瞳孔径が与える影響についても不明であることがあげられ,IOLの圧縮試験を含めさらなる検証が必要である.一般的に使用頻度の高い単焦点CIOLは,デザインや素材により術後早期の位置変化が異なる1,12)ことが知られており,その挙動に伴う屈折変化を把握しておくことは,患者の裸眼視力に与える影響を説明するのに役立つ.低加入度数分節型CIOLは,中間距離(70Ccm)の良好な裸眼視力の獲得や,多焦点CIOLに特徴的なグレアやハローなどが少ないことが報告13,14)され,眼鏡依存度の低減が期待されているが,他覚的屈折値が自覚的屈折値と乖離し近視傾向を示し15),術後早期はCIOLの後方移動により遠視化することを考慮しておくことが肝要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IwaseCT,CTanakaCN,CSugiyamaK:PostoperativeCrefrac-tionchangesinphacoemulsi.cationcataractsurgerywithimplantationCofCdi.erentCtypesCofCintraocularClens.CEurJOphthalmolC18:371-376,C20082)大内雅之:白内障眼内レンズ手術後超早期の屈折変動に関する検討.あたらしい眼科34:1771-1775,C20173)石田秀俊,三田哲大,渋谷恵理ほか:3種類の単焦点眼内レンズの白内障術後の前房深度と屈折変化の比較.日本白内障学会誌32:58-62,C20204)林俊介,吉田起章,林研ほか:シングルピース疎水性アクリル眼内レンズ挿入術後早期の屈折誤差変化に関与する因子.日眼会誌124:759-764,C20205)BehrouzCMJ,CKheirkhahCA,CHashemianCHCetal:AnteriorsegmentCparameters:comparisonCofC1-pieceCandC3-pieceCacrylicCfoldableCintraocularClenses.CRandomizedCcontrolledCtrial.JCataractRefractSurgC36:1650-1655,C20106)HayashiCK,CHayashiH:ComparisonCofCtheCstabilityCofC1-pieceCandC3-pieceCacrylicCintraocularClensesCinCtheClensCcapsule.JCrataractRefractSurgC31:337-342,C20057)KoeppCC,CFindlCO,CKriechbaumCKCetal:PostoperativeCchangeine.ectivelenspositionofa3-pieceacrylicintra-ocularlens.JCrataractRefractSurgC29:1974-1979,C20038)NejimaR,MiyaiT,KataokaY,etal:Prospectiveintrapa-tientCcomparisonCofC6.0-millimeterCopticCsingle-pieceCandC3-pieceChydrophobicCacrylicCfoldableCintraocularClenses.COphthalmologyC113:585-590,C20069)杉山沙織,後藤聡,小川圭子ほか:低加入度数分節型眼内レンズの術後前房深度の経時的変化.日眼会誌C124:C395-401,C202010)KlijnS,SicamVA,ReusNJ:Long-termchangesinintra-ocularClensCpositionCandCcornealCcurvatureCafterCcataractCsurgeryCandCtheirCe.ectConCrefraction.CJCCataratCRefractCSurgC42:35-43,C201611)LaneS,CollinsS,DasKKetal:Evaluationofintraocularlensmechanicalstability.JCataratRefractSurgC45:501-506,C201912)WirtitschMG,FindlO,MenapaceRetal:E.ectofhapticdesignonchangeinaxiallenspositionaftercataractsur-gery.JCrataractRefractSurgC30:45-51,C200413)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRepC9:13117,C201914)井上康:低加入度数分節眼内レンズ・レンティスコンフォートR.眼科グラフィックC8:257-264,C201915)橋本真佑,蕪龍大,川下晶ほか:低加入度数分節型眼内レンズ挿入眼の測定機器による他覚的屈折値の相違.眼科62:69-72,C2020***

白内障眼内レンズ手術後超早期の屈折変動に関する検討

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1771.1775,2017c白内障眼内レンズ手術後超早期の屈折変動に関する検討大内雅之大内眼科CChangeinRefractiveStatusinVeryEarlyPostoperativeDaysinCataractSurgeryMasayukiOuchiCOuchiEyeClinic目的:白内障眼内レンズ(IOL)手術の術後超早期の屈折変化を調べ,翌日のみ遠視化傾向となる割合,その因子を検討した.方法:白内障CIOL手術を受けたC200眼を,0.25Cdiopter(D)より大きな差を有意として,術翌日がC2日目よりも遠視寄りだった症例(A群),翌日がC2日目より近視寄りだった症例(B群),2日間の変動がC±0.25D以内の症例(C群)に分け,術翌日.2日目の,眼圧,前房深度,角膜屈折力,角膜中央厚の変動を測定計算した.結果:組み入れされたC189眼の内訳は,A群C66眼,B群C38眼,C群C85眼であった.前房深度の変動はC3群間に差はなかった.角膜屈折力の変動はC3群に差があり,A群はCB群に比べ有意に大きく(p=0.02),A群では,角膜屈折力の変動と角膜中央厚の変動に有意な負の相関がみられた(p=0.01)が,術後C2日目以降は屈折変化がみられなかった.結論:白内障IOL手術の約C35%の症例で,術翌日は最終屈折より遠視寄りになり,それは,一時的な角膜厚の増加に伴う角膜屈折力の減少が因子となっている可能性が示唆された.CPurpose:Tostudytheincidenceofearlypostoperativerefractivechangeineyeswithhyperopicshiftonly,at1dayCpostCcataractCsurgery.CMethods:200CeyesCthatCunderwentCintraocularClens(IOL)implantationCwereCdividedinto3groupsbasedontheamountofdiopter(D)changeinrefractivestatusbetweendays1and2postoperative-ly:GroupCA:eyesCwith>0.25DChyperopicCchangeCinCsphericalCequivalent(SE)atCdayC1CasCcomparedCtoCdayC2postoperatively;GroupB:eyeswith>0.25Dmyopicchangeinsphericalequivalent(SE)atday1ascomparedtodayC2Cpostoperatively;GroupCC:eyesCwithinC0.25DCofCrefractiveCchangeCbetweenCdayC1CandCdayC2.CChangeCinanteriorchamberdepth(ACD),cornealpower(K),intraocularpressure(IOP)andcornealthicknessbetweendays1CandC2CpostoperativelyCwereCevaluated.CResults:OfCtheC200CoperatedCeyes,CthereCwereC66CeyesCinCGroupCA,C38eyesinGroupBand85eyesinGroupC;11eyeswereexcludedduetonotmeetingtheinclusioncriteria.EveninGroupAeyes,norefractivechangewasobservedat1week,1monthand6monthspostoperatively.Althoughnodi.erenceCinCACDCchangeCwasCfoundCbetweenCtheCgroups,Csigni.cantCdi.erenceCwasCseenCinCchangeCofCK,CwhichwasCsigni.cantlyClargerCinCGroupCACthanCinCGroupCB(p=0.02)C.CMoreover,Csigni.cantCnegativeCcorrelationCwasfoundCbetweenCchangeCofCKCandCchangeCofCcornealCthicknessCinCGroupCA(p=0.01)C.CConclusions:Ofthe189includedeyes,35%showedhyperopicchangeonlyatday1postoperativelyduetotheKvaluedecreasecausedbythetemporaryincreaseofcornealthickness.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(12):1771.1775,C2017〕Keywords:眼内レンズ,術後屈折,遠視化,前房深度,角膜屈折力,角膜厚.intraocularlens,post-operativere-fraction,hyperopicchange,anteriorchamberdepth,cornealpower,cornealthickness.Cはじめにが開発されており,それらの多くは,眼軸長(axiallength:近年の白内障手術においては,小切開手術と光学式眼軸長AL)に加えて,角膜屈折力(K値)や前房深度(anterior測定器の登場で,術後球面度数の精度は向上してきた1).さchamberdepth:ACD)が重要な計算因子として用いられてらに,より正確な術後屈折を求めて,さまざまな度数計算式いる2,3).〔別刷請求先〕大内雅之:〒601-8453京都市南区唐橋羅城門町C47-1大内眼科Reprintrequests:MasayukiOuchi,M.D.,Ph.D.,OuchiEyeClinic,47-1Karahashi-Rajomon-cho,Minami-ku,Kyoto601-8453,CJAPAN術後屈折誤差の因子として,以前はCALがもっとも大きいとされていたが4),光学式眼軸長測定器の登場以後はその比重は小さくなり,術後の眼内レンズ(IOL)深度(e.ectivelensposition:ELP)の予測精度が最大の因子であり5),つぎに,とくに屈折矯正手術既往眼や角膜形状異常眼などで,K値が重要因子と考えられている6).一方,術式の進歩に加えてプレミアムCIOLの普及に伴い,早期の屈折安定が求められているが,白内障CIOL手術では,術翌日の超早期のみ,屈折値が最終値よりも遠視寄りになる症例をしばしば経験する.しかし,この術後超早期の屈折変化について論じた報告はない.本論文では,IOL手術後超早期の屈折変化を調べ,さらに,術翌日に遠視寄りの屈折を示す症例については,その因子を検討した.CI対象および方法本研究は,当院倫理委員会の審理を経て行われた前向き研究で,すべての組み入れ症例から,本研究への組み入れに対し文書による同意を得た.対象は,同一術者同一手技で水晶体摘出,同一CIOLの挿入を行った連続C134例C200眼で,組み入れ基準は,眼軸長がC22.0Cmm以上C28.0Cmm未満,術前角膜屈折力C42.0ジオプトリー(D)以上46.0D以下,水晶体核硬度Cemery分類CIII以下,円錐角膜などの角膜形状異常がない,水晶体以外に混濁を有さない,黄斑浮腫を有さない,術前に光学的眼軸長測定器CIOLマスター(CarlCZeissCMeditec社)による眼軸長測定が可能,術中合併症がなく,IOLが.内固定されている,術後に細隙灯顕微鏡で確認できるCDescemet膜皺襞,角膜浮腫,創口閉鎖不全がないことを条件とした.術式は,2.2CmmBENT透明角膜切開から,連続円形前.切開,ハイドロダイセクションの後,0.9mmミニフレアABSチップ,0.9Cmmウルトラスリーブを装着した超音波白内障手術装置CCENTURION(いずれもCAlcon社)を用いて水晶体を摘出し,同創からCDカートリッジを装.した電動IOL挿入機CAutoSertを用いてCSN60WF(いずれもCAlcon社)を挿入した.術翌日,術後C2日目に,他覚的屈折(等価球面値),角膜屈折力,ACD,角膜中央厚,眼圧を,術後C1週,1カ月,6カ月には,他覚的屈折と角膜屈折力をそれぞれ測定した.他覚的屈折検査は,オートレフラクトメーターCARK560A(NIDEK社),眼圧は非接触式眼圧計CNT4000(NIDEK社)で,ACDは光学式眼軸長測定装置CIOLマスターC700(CarlZeissCMeditec社),角膜中央厚は超音波眼軸長測定装置AL-2000(TOMEY社)で測定した.角膜厚の測定に関しては,健常角膜では,光学的測定器機の再現性が高いとされるが7,8),術後などのわずかな浮腫や混濁があると,超音波パキメーターよりも過小評価される9,10)ことから,今回は,絶対値よりも,経時的変化の評価を重視し,超音波測定機器を用いた.これらの値より,以下の検討を行った.C1.グループ分けまず術翌日,2日目の他覚的屈折における等価球面値(それぞれCSE1,SE2とする)を求め,以下の群に分類した.・A群:SE2-SE1<C.0.25D;術翌日がC2日目よりも遠視寄りだったもの・B群:SE2-SE1>0.25D;術翌日がC2日目よりも近視寄りだったもの(ただし,2日間の差がC0.25D以内のものは,ボーダー群として,以下のCC群に分類する)・C群:C.0.25≦SE2-SE1≦0.25;術翌日とC2日目との差がC±0.25D以内のものC2.群.間.比.較術翌日とC2日目の眼圧の差(眼圧変動),ACDの差(ACD変動),K値の差(K値変動)を群間比較した.C3.相関の検討ACDの変動とCK値の変動について,それぞれの要因を検討するため,ACD変動と眼圧変動の相関,K値変動と術後角膜厚変化の相関を調べた.統計学的解析は,眼圧変動,ACD変動,K値変動は,Bartlett検定にてC3群が等分散であれば一元配置分散分析法でC3群間比較を行い,有意差があった場合は,多重比較検定(Tukey-Kramer法)を行った.分散が等しくなければ,Kruskal-Wallis検定にてC3群間比較を行った.ACD変動と眼圧変動,K値変動と角膜中央厚の各相関はCSpearman順位相関係数検定で行った.統計学的有意水準は5%とした.CII結果200眼中,細隙灯顕微鏡で確認できる術翌日のCDescemet膜皺襞,角膜浮腫,データ取得不完全からC11眼は除外された.組み入れ症例C189眼中,翌日が遠視寄りだったCA群は66眼,近視寄りだったCB群はC38眼,術翌日とC2日目の差が0.25D未満の境界例:C群がC85眼であった.A群の他覚屈折の経時的変化を図1に示す.術後C2日目以降は近視寄りになり,6カ月まで変化はなく,遠視寄りだったのは翌日だけであることが確認できる.眼圧変動(2日目の値C.翌日の値)は,A群CB群CC群の順に,.2.60±3.83,C.2.98±4.81,C.4.52±5.36(mmHg)ですべて翌日が高く,3群間に差はなかった(p=0.28).ACD変動(2日目の値C.翌日の値)は,A群B群C群の順に,C.0.05±0.83,C.0.02±1.05,0.08C±0.97(mm)で,3群間に差はなかった(p=0.90)(図2).さらに,A群C66眼のうちC30眼は,術翌日が遠視寄りであったにもかかわらず,ACDは翌日のほうが浅かった.また,ACD変動はC.1.59.0.30.10.080.20.060.1前房深度の変化(mm)A群B群C群等価球面屈折値(D)0-0.1-0.21日2日1週1カ月6カ月0.040.020-0.02-0.3-0.4図1A群の等価球面値の経時変化他覚屈折値は,術翌日のみ遠視寄りを呈し,2日目以降は変化がみられない.*0.25-0.04-0.06図2術翌日から2日目までの前房深度の変化(2日目の値.翌日の値)3群間に有意な差はみられない.p=0.90(一元配置分散分析法).C44.5術後K値の変化(D)4443.54342.50.2K値の変化(D)0.150.10.054241.5-0.051日2日1週1カ月6カ月-0.1図4A群の角膜屈折力の経時変化図3術翌日から2日目までの角膜屈折力の変動(2A群では術翌日のみ角膜の平坦化が起っていることが日目の値.翌日の値)示唆される.これはC2日目には改善され,それ以降は変K値の変動は,3群間で有意な差がみられた(p=0.02化がみられない.C:一元配置分散分析法).A群はC2日間でのCK値の変動がもっとも大きく,多重比較にてCB群との間に有意差がみられた(*p=0.02:Tukey-Kramer法).角膜中央厚の変化(μm)150100500-50y=-11.441x+0.3426(p=0.01)角膜屈折力の変化(D)-100-2.5-2-1.5-1-0.500.511.522.5図5A群の術翌日から2日目の角膜中央厚の変化と角膜屈折力の変化の相関両者の間には有意な負の相関がみられた(p=0.01:Spearman順位相関係数検定).D:CDioptryC1.36Cmmに分布しており,眼圧の変動と相関はなかった(p=0.51).図3は,A群CB群CC群のCK値変動である.各群順に,0.20C±0.43,C.0.08±0.50,0.04C±0.47(D)で,A群,C群では,術翌日のほうがCK値が小さく,2日間での変動はCA群がもっとも大きかった.3群のCK値変動には有意差があり(p=0.02),多重比較ではA群とB群に有意差を認めた(p=0.02).このことより,A群では術翌日にもっとも角膜の平坦化が起っていることが示唆された.A群における術後CK値の経時変化をみると,術後C2日目以降は最終観察期間まで変化がなく,角膜が平坦化していたのは術翌日だけであることが示された(図4).このCK値変動の因子を検討するために,A群におけるCK値変動と角膜中央厚変化の関係を調べたのが図5である.2日目-翌日におけるCK値変動と角膜中央厚変化の間には,有意な負の相関がみられた(p=0.01).CIII考察白内障眼内レンズ手術後,約C35%の症例で術翌日は屈折が最終安定位よりも遠視化しており,この傾向はC2日目にはなくなり,以後安定した.術翌日遠視寄りだった症例:A群は,その他の症例と比べて,術後C2日間でのCK値変動が有意に大きく,このCK値変動は角膜中央厚の変化と有意に相関した.術翌日の遠視化傾向は,角膜屈折力の変化がおもな要因で,その理由は,術翌日は角膜厚増加により角膜の平坦化が起こっていることが示唆された.一方,ACD変動はC3群の間に差はなく,術後超早期の屈折変化の要因ではなかった.また,眼圧の変動は群間に差はなく,ACD変動とも相関がなかった.つまり,術後超早期の眼圧がCACDに影響し,屈折が変動する,というメカニズムは示唆されなかった.IOL手術後の屈折変化については,過去にもさまざまな報告がある.Behrouzらは,3ピースCIOLは術後前方移動して前房角度,前房容積も浅くなり,術後C1週からC3カ月にかけて約C0.3D近視化したと報告しているが11),Iwaseらは術後C1週からC6カ月にかけて,IOLは前方移動するも屈折は変わらなかったとしている12).一方,シリコーンCIOL挿入眼では,術後C48週の間に,平均C0.53D近視化し,近視化のうちC60%(0.33D)はCIOLの前方移動量で説明できるが,残りの近視化分は原因不明とした報告がある13).これらの報告はすべてC3ピースCIOLでの報告であるが,シングルピースCIOL14),とくに今回使用したCSN60WFは,術後のCELP変化がC3ピースCIOLよりも有意に少ないことが報告されている15).さらに,シングルピースCIOLにおいて,術後C1カ月からC1年の間の屈折変化は,平均C0.25Dの遠視化であったが,IOLの後方偏位は平均0.03mmで,この変化はC0.05Dの屈折変化にしか相当せず,それに対し,角膜曲率の変化は0.17Dであり,術後の屈折変化と相関していたとする報告がある16).しかし,これらの報告は,いずれも術後数週間から数カ月の中長期的な変化を検討したもので,比較的短期の検討では,deJuanらが術翌日から1週間目の間に平均で1.01D近視化したと報告している17)ほか,Koepplらが,3ピースレンズ挿入眼では,術後C1週間でCACDがやや浅くなることを報告している18).しかし,術翌日からC2日目にかけての超早期の屈折変化とその関連因子を調べたものは,本報告が初めてである.一般に,術後視機能は屈折安定期のデータで評価されるが,術後早期の屈折安定が,患者満足度を上げるとする報告もあるとおり19),術者が患者と対面する臨床現場では,翌日の屈折状態は重要である.このようなCIOL手術後の屈折変化の要因については,ACDの変化11),ELPの変化12),角膜屈折力の変化などが予想されるが,すべての症例で,術後超早期に屈折変化をきたすわけではない.Klijnらは,長期の観察であるが,59眼の検討のなかで近視化したものがC19.32%,遠視化したものが28.48%で,術後屈折変化は,個々の症例で異なる特徴を有する可能性があるとしている16).そこで本研究では,まず,術後C2日間での屈折変動変動によってC3グループに分けて,ACD変動とCK値変動の両方に着目した.その結果,術翌日に遠視化傾向がみられた症例では,みられない症例と比べて,K値の変化が大きかったことが示された一方,ACD変動は関与していなかった.さらに本研究では,K値変動の理由として角膜中央厚の変化が示唆されたが,同じく術翌日は,角膜中央厚がC17.3%増加していたとするCdeJuanらの報告17)とも合致する.本論文の限界として,オートレフラクトメータでの球面度数,円柱度数はいずれもC0.25D刻みであるため,各眼の等価球面値はC0.125D刻みの精度である点である.また,角膜曲率の自然な動揺が,術後16,20)あるいは非手術眼21)でもみられるとする報告もあり,さらに詳細な検討が望まれる.以上より,白内障CIOL手術症例の約C35%で術翌日は最終屈折より遠視寄りになり,それは角膜厚の増加に伴う一時的なCK値の減少が因子となっている可能性が示唆された.IOL術後の,より早期の屈折安定に向けて,今後も検討を重ねてゆきたい.文献1)FindlO,DrexlerW,MenapaceRetal:Improvedpredic-tionCofCintraocularClensCpowerCusingCpartialCcoherenceCinterferometry.JCataractRefractSurgC27:861-867,C20012)Retzla.CJA,CSandersCDR,CKra.CMC:DevelopmentCofCtheCSRK/Tintraocularlensimplantpowercalculationformula.CJCataractRefractSurgC16:333-340,C19903)HaigisCW:TheCHaigisCFormula.CIn:IntaocularCLensCPowerCCalculationsCeditedCbyCShammasCHJ.Cp41-57,CSLACK,NJ,20034)OlsenCT:SourcesCofCerrorCinCintraocularClensCpowerCcal-culation.JCataractRefractSurgC18:125-129,C19925)OlsenCT:PredictionCofCtheCe.ectiveCpostoperative(intra-ocularClens)anteriorCchamberCdepth.CJCCataractCRefractCSurgeC32:419-424,C20066)StakheevAA,BalashevichLJ:Cornealpowerdetermina-tionafterpreviouscornealrefractivesurgeryforintraocu-larlenscalculation.CorneaC22:214-220,C20037)MartinCR,CdeCJuanCV,CRodriguezCGCetCal:ContactClens-inducedCcornealCperipheralCswelling:OrbscanCrepeatabili-ty.OptomVisSciC86:340-349,C20098)ChristensenCA,CNarva´ezCJ,CZimmermanCG.CComparisonCofCcentralCcornealCthicknessCmeasurementsCbyCultrasoundCpachymetry,CKonanCnoncontactCopticalCpachymetry,CandCOrbscanpachymetry.CorneaC27:862-865,C20089)Altan-YayciogluCR,CPelitCA,CAkovaCYA:ComparisonCofCultrasonicCpachymetryCwithCOrbscanCinCcornealChaze.CGraefesArchClinExpOphthalmolC245:1759-1763,C200710)FakhryMA,ArtolaA,BeldaJIetal:Comparisonofcor-nealpachymetryusingultrasoundandOrbscanII.JCata-ractRefractSurg28:248-252,C200211)BehrouzCMJ,CKheirkhahCA,CHashemianCHCetCal:AnteriorsegmentCparameters:comparisonCofC1-pieceCandC3-pieceCacrylicfoldableintraocularlenses.JCataractRefractSurgC36:1650-1655,C201012)IwaseCT,CSugiyamaCK:InvestigationCofCtheCstabilityCofCone-pieceCacrylicCintraocularClensesCinCcataractCsurgeryCandCinCcombinedCvitrectomyCsurgery.CBrCJCOphthalmolC90:1519-1523,C200613)IwaseCT,CTanakaCN,CSugiyamaCK:PostoperativeCrefracC-tionchangesinphacoemulsi.cationcataractsurgerywithimplantationCofCdi.erentCtypesCofCintraocularClens.CEurJOphthalmolC18:371-376,C200814)WirtitschMG,FindlO,MenapaceRetal:E.ectofhapticdesignonchangeinaxiallenspositionaftercataractsur-gery.JCataractRefractSurgC30:45-51,C200415)EomY,KangSY,SongJSetal:Comparisonoftheactualamountofaxialmovementof3asphericintraocularlensesusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CJCataractRefractSurgC39:1528-1533,C201316)KlijnS,SicamVA,ReusNJ:Long-termchangesinintra-ocularClensCpositionCandCcornealCcurvatureCafterCcataractCsurgeryCandCtheirCe.ectConCrefraction.CJCCataractCRefractCSurgC42:35-43,C201617)deJuanV,HerrerasJM,PerezIetal:Refractivestabili-zationandcornealswellingaftercataractsurgery.OptomVisSciC9:31-36,C201318)KoepplCC,CFindlCO,CKriechbaumCKCetCal:PostoperativeCchangeine.ectivelenspositionofa3-pieceacrylicintra-ocularlens.JCataractRefractSurgC29:1974-1979,C200319)RohartC,FajnkuchenF,Nghiem-Bu.etSetal:CataractsurgeryCandCage-relatedCmaculopathy:bene.tsCinCtermsCofvisualacuityandqualityoflife─aprospectivestudy.JFrOphtalmolC31:571-577,C200820)NorrbyS,HirnschallN,NishiYetal:FluctuationsincorC-nealCcurvatureClimitCpredictabilityCofCintraocularClensCpowerCcalculations.CJCCataractCRefractCSurgC39:174-179,C201321)ShammasHJ,Ho.erKJ:Repeatabilityandreproducibilityofbiometryandkeratometrymeasurementsusinganon-contactopticallow-coherencere.ectometerandkeratom-eter.AmJOphthalmolC153:55-61,C2012***

近視LASIK後非対称性が強い角膜における角膜屈折力および眼内レンズ度数計算

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1047.1051,2014c近視LASIK後非対称性が強い角膜における角膜屈折力および眼内レンズ度数計算渡辺純一*1福本光樹*1,2井手武*1,3市橋慶之*1,3戸田郁子*1,3*1南青山アイクリニック*2防衛医科大学校眼科*3慶応大学医学部眼科CornealPowerandAccuracyofIOLCalculationforAsymmetricCorneaafterMyopicLASIKSurgeryJunichiWatanabe1),TerukiFukumoto1,2),TakeshiIde1,3),YoshiyukiIchihashi1,3)andIkukoToda1,3)1)MinamiaoyamaEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,3)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine目的:近視LASIK(laserinsitukeratomileusis)後に非対称性が強い角膜の角膜屈折力および眼内レンズ度数計算精度の検討.対象および方法:対象は当院で水晶体再建術を施行した33例43眼.症例を非対称性が強い非対称(+)群と非対称性が弱い非対称(.)群に分けて解析を行った.結果:角膜屈折力は,非対称(+)群では非対称(.)群に比べてオートレフケラトメータ平均角膜屈折力と瞳孔中心付近3mm範囲内の平均角膜屈折力の差に有意差を認めた.術後屈折予測値は非対称(+)群ではオートレフケラトメータの角膜屈折力を使用した場合,非対称(.)群に比べて実際の結果との差に有意差を認めたが,瞳孔中心付近3mm範囲内の平均角膜屈折力を使用した場合には有意差はなかった.結論:近視LASIK後に非対称性が強い角膜の眼内レンズ度数計算の際には,適切な方法で測定した角膜屈折力を使用することが重要である.Purpose:Todeterminethecornealpowerandaccuracyofintraocularlens(IOL)calculationforasymmetriccorneaaftermyopiclaserinsitukeratomileusis(LASIK)surgery.Methods:Thisstudyincluded43eyesof33patientswithahistoryofmyopia/myopicastigmatismcorrectionusingLASIKsurgery,whounderwentphacoemulsification(PEA)+IOL.Theyweredividedintotwogroups:theasymmetricgroup(29eyes;surfaceasymmetryindex[SAI]≧0.5)andthenon-asymmetricgroup(14eyes;SAI<0.5).Theobtaineddatawereanalyzedretrospectively.Results:Estimatedcornealpower,asmeasuredbytwodifferentmethods,wasstatisticallysignificantlydifferent,themeasuredpowerbeinggreaterintheasymmtricgroupthaninthenon-asymmetricgroup.Withcornealpowermeasuredusinganautorefractometer,expectedandactualrefractivepowersdifferedsignificantlyinbothgroups.However,whenweusedtheaveragepowerinpupildata,nosignificantdifferencewasobserved.Conclusion:ItisimportanttouseaccuratecornealpowermeasurementswhencalculatingtheIOLpowerforasymmetriccorneaaftermyopicLASIKsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1047.1051,2014〕Keywords:白内障,レーシック,非対称角膜,照射中心ずれ,眼内レンズ計算式,角膜屈折力.cataract,laserinsitukeratomileusis,decentration,IOLcalculation,cornealpower.はじめにLaserinsitukeratomileusis(LASIK)後の眼内レンズ度数計算は結果に誤差が生じやすいことが知られているが,良好な結果も報告され始めている1.3).誤差が生じる原因の一つとして角膜屈折力の測定精度が悪いことがあげられる.その理由として,角膜屈折力を測定するときに広く利用されるオートケラトメータの測定方式がある4).オートケラトメータは角膜前面の4点のみを測定し,角膜前面と後面の曲率比が一定であるという前提のうえ,4点から得られる角膜前面の曲率から角膜全屈折力を推定している.このためLASIK〔別刷請求先〕渡辺純一:〒107-0061東京都港区北青山3-3-11ルネ青山ビル4階南青山アイクリニックReprintrequests:JunichiWatanabe,MinamiaoyamaEyeClinic,RenaiAoyamaBuilding4F,3-3-11Kitaaoyama,Minato-ku,Tokyo107-0061,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(121)1047 48D-6D42D-6D本来ならば-6DのLASIK42D36D48D-6D42D-5.25D一定の比率で計算すると-6DのLASIK42D36.75D図1角膜屈折値の過大評価1オートケラトメータは前面のみしか測定できないので,前面と後面が一定の比率であるとして,換算屈折率を用いて角膜前面の値から角膜全屈折力を推定している.本来上図のように屈折値は変化するが,下図のように角膜前面と後面が一定の比率で変化しているとみなした場合,0.5D以上過大評価となる(36.75.36=0.75).後の眼では角膜前面曲率が大きく変化しているにもかかわらず,後面も同様の変化をしているものとして全屈折力が推定されている.したがって,近視LASIK後は角膜屈折力が実際よりも大きな数値として評価され眼内レンズ度数が低く選択される.その結果手術後の屈折が予定よりも遠視側にずれる(図1).近視LASIKでは角膜中央部が平坦化しているため,オートケラトメータの測定部位が正常眼よりも周辺となる(図2).加えて,照射中心ずれやもともとの角膜の形状により非対称性が強い角膜では照射部位のうち照射部から非照射部にかけての移行部の急峻な部分が測定部位内に入ることもあるため,角膜屈折力は大きく測定される.結果としてさらに過大評価されてしまう.瞳孔中心付近の1,000ポイント以上の平均角膜屈折力〔OPD-ScanARK-10000(NIDEKCo.,Ltd.:以下,OPD)のaveragepowerinpupil:以下,APP〕などを用いることによって,より正確な角膜屈折力を得ることができるようになってきた1).今回筆者らは非対称性が強い眼と弱い眼とで複数の装置で測定した角膜屈折力の差および眼内レンズ度数計算の結果に差があるかを比較検討した.1048あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014I対象および方法2008年11月から2012年11月までに南青山アイクリニックで水晶体再建術を施行した症例のうち,下記の条件を満たすものを対象とした.術中・術後全身および眼合併症がない.近視LASIK手術後でTMS-4(TOMEYCo.,Ltd.)のsurfaceasymmetryindex5)(以下,SAI)が機器の設定上異常値と定義されている0.5以上である22例29眼〔非対称(+)群〕および同0.5未満である11例14眼〔非対称(.)群〕.これらの2群に対して術後レトロスペクティブに解析を行った.眼軸長はAscanAL-2000(TOMEYCo.,Ltd.)で測定した値を用いた.前房深度と水晶体厚についてもAL-2000で測定した値を用いた.A定数は全期間ともメーカー推奨値の超音波式用の値を使用した.1.角膜屈折力オートレフラクトケラトメーターARK-700A(NIDEKCo.,Ltd.)で計測した平均角膜屈折力(以下,レフケラ)とOPDの瞳孔中心付近3mmのAPP(以下,APP3mm)との差を2群間で比較した.統計学的検討はSPSSStatisticsbase18(SPSS社)を用い,有意差の判定はtwosamplet検定を用いてp<0.05を有意差ありとした.2.術後屈折予測値と実際の結果の差レフケラ,APPそれぞれの角膜屈折力とLASIKの屈折矯正量を使用してCamellin-Calossi式6.8)で計算した術後予測屈折値(等価球面度数)と術後1カ月目の自覚等価球面度数の差について,平均値および絶対値平均を2群間で比較した.統計学的検討はMann-WhitneyのU検定を用いてp<0.05を有意差ありとした.II結果1.角膜屈折力非対称(+)群におけるレフケラの平均は38.48±1.56D(35.44.42.46D),APP3mmの平均は37.8±1.92D(33.09.42.03D)で差は0.68±0.55D,絶対値の差は0.70±0.53Dであった.一方,非対称(.)群におけるレフケラの平均は39.6±1.13D(38.10.42.00D),APP3mmの平均は39.4±1.21(37.82.41.98D)Dで差は0.19±0.20D,絶対値の差は0.20±0.19Dであった.レフケラについては非対称(+)群と(.)群の間で有意な差はなかったが,APP3mmについては有意な差があった.また,非対称(+)群では非対称(.)群に比べてレフケラの角膜屈折力とOPDのAPP3mmの差および絶対値の差が有意に大きかった(表1).2.術後屈折予測値と実際の結果の差非対称(+)群でAPP3mmを使用して計算した場合の術後屈折予測値と実際の結果の差は0.53±0.74D(.0.39.+2.11D),非対称(.)群で同様に計算した場合の差は0.12±(122) 水平経線上の屈折角膜曲率半径(mm)角膜屈折力(D)測定径(mm)7.743.833.339.037.503.909.535.534.11力の値-6D43D-5.375D本来ならば42Dであるはずが-6DのLASIK36D37.625D図2角膜屈折値の過大評価2オートケラトメータでの測定部位は角膜が平坦化すると,正常眼より周辺部となる.正常眼(上図左側)では測定部位と角膜中央部との屈折力の差は少ないが,近視LASIK眼(上図右側)では差が大きい.図では1.5D以上過大評価となる(37.625.36=1.625).表1両群のレフケラとAPP,およびその差レフケラAPP@3mm差差(絶対値)非対称(.)39.6±1.13D39.4±1.21D0.19±0.2D0.2±0.19D非対称(+)38.48±1.56D37.8±1.92D0.68±0.55D0.7±0.53D0.33D(.0.50.+0.59D)で結果に有意な差はなかった.一方,非対称(+)群でレフケラを使用して計算した場合の術後屈折予測値と実際の結果の差は1.22±1.06D(.0.19.+3.44D),非対称(.)群で同様に計算した場合の差は0.27±0.32D(.0.18D.+0.63D)で結果に有意な差があった(図3).絶対値の差についても同様で非対称(+)群でAPP3mmを使用した場合は0.65±0.64D,非対称(.)群でAPP3mmを使用した場合は0.27±0.21Dと有意な差はなく,(123)*p<0.01Twosamplettest非対称(+)群でレフケラを使用した場合は1.23±1.05D,非対称(.)群でレフケラを使用した場合は0.32±0.26Dと結果に有意な差があった(図4).III考察近視LASIK後の白内障手術においては結果として術後の屈折が遠視側にずれやすい2,3).近視LASIK後は角膜屈折力が過大評価され,結果として選択される眼内レンズ度数が低あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141049 (D)(D)(D)**2.521.510.50-0.5非対称(-)■非対称(+)APP3mm0.120.53レフケラ0.271.22*p<0.01Mann-Whitneytest図3術後屈折予測値と実際の結果の差APP3mmを使用して計算した場合には両群間に有意な差はないが,レフケラを使用した場合には有意な差が認められた(p<0.01).2.521.510.50非対称(-)■非対称(+)APP3mm0.270.65レフケラ0.321.23*p<0.01Mann-Whitneytestくなり術後の屈折が遠視側にずれてしまう.非対称(+)群でAPP3mmを使用して計算した場合の術後屈折予測値と実際の結果の差と,非対称(.)群で同様に計算した場合は,結果に有意な差はなかった.一方,非対称(+)群でレフケラを使用して計算した場合の術後屈折予測値と実際の結果の差と,非対称(.)群で同様に計算した場合は結果に有意な差があった.APP3mmについては非対称の有無にかかわらず数値に有意な差はなく,またAPP3mmを用いた計算では非対称の有無で術後の屈折に有意な差がなかった.LASIK後に非対称な角膜の眼内レンズ度数計算においては,一般的に広く使用されているレフケラの値を使用して計算をすると,結果が遠視側にずれる傾向がある.これは照射部から非照射部にかけての急峻な部分が測定部位内に入ってきてしまうため,測定値が過大評価となることによるが8,9),非対称があると角膜屈折力がさらに過大評価となる.これにより眼内レンズ度数が低く選択され,結果として手術後の屈折が予定よりも遠視側にずれる.このため計算にあたっては,角膜屈折力の選択につき特に注意が必要である.レフケラとAPP3mmの値を比較すると,非対称がある場合にはその差は大きなものとなる.今回計算に使用したCamellin-Calossi式は計算式に実際に測定した前房深度や水晶体の厚さを使用するが,多くの施設で採用されているSRK/T式は角膜屈折力を用いて前房深度を計算するため,実際の前房深度と合致しない場合がある9,10).レフケラによる角膜屈折力測定では角膜前面と後面が同様に変化しているものとしているため,LASIK後の平坦化した角膜ではこの点も誤差を生じる原因となりうる.つまり計算式と計算に用いる数値双方での誤差が生じることとなる.加えてLASIKでの矯正量が大きい場合にはさらに誤1050あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014図4術後屈折予測値と実際の結果の差(絶対値)図3と同様にAPP3mmを使用して計算した場合には両群間に有意な差はないが,レフケラを使用した場合には有意な差が認められた(p<0.01).差が生じることもある.今回筆者らの計算ではSRK/T式での計算は行わなかったが,SRK/T式を用いた計算では他の計算式を用いた場合に比べて精度が劣る報告もすでにされている11).今後Camellin-Calossi式との比較も検討する必要がある12).すでに多くの施設でLASIKをはじめとする近視矯正手術後の眼内レンズ度数計算が必要とされている現状があるが,「何をどのようにして計算をすればよいか」ということが広く普及していない.施設によってはLASIKなどの近視矯正手術後であってもレフケラのデータを用いてSRK/T式で計算をしていることがある.今回の筆者らの結果において一般的な眼科施設で使用されているレフケラの角膜屈折力を使用したものでは,非対称がある眼では結果に影響を及ぼすことがわかった.しかしこれについてはAPPを使用するなど,測定を工夫することにより精度がよくなると考えられた.エキシマレーザーに搭載されているトラッキングなどの機器の発達により照射ずれによる角膜の非対称が発生する可能性は以前に比べて少なくなったものの,まったくなくなっているわけではないので注意は必要である.APPなどの平均角膜屈折力を測定できる機器があるならば,特にLASIK後の計算には積極的に用いるべきである.ただし,トポグラフィーがない施設では非対称か否かの判断ができない.このため予測よりも大きく遠視側にずれてしまう可能性も十分考えられる.場合によっては専門の施設で非対称がないこと,さらにAPPなどの平均角膜屈折力やトポグラフィー,前眼部OCT(光干渉断層計)などを測定したうえで度数計算をすることが望ましい.なお,APPについてはTMSや前眼部OCTのCASIAのACCP(averagecentralcornealpower)と測定原理が同様であり,非常に近い値であることからACCPを用(124) いることも可能である.ASCRSの屈折矯正手術後眼の計算サイト(http://iolcalc.org/)では同じ欄にいずれかの数値を入力する形態になっている.日本国内で眼科専門医によるLASIKをはじめとする屈折矯正手術が行われるようになり,すでに15年以上が経過している.LASIKが広く普及している現在,その後に白内障手術が必要になった場合の眼内レンズ度数計算は喫緊の課題である.屈折矯正手術後に白内障手術を行うにあたっては,現時点での眼軸や角膜屈折力さえあれば正確に計算できるものではない.より精度を高めるためには手術前のデータの存在はもちろんのこと,適切な測定データと計算式の使用が求められる.これによりその計算精度は屈折矯正手術眼ではない眼に近づけることができると考えられる.LASIK後眼に対する眼内レンズ度数計算がこれまでよりもさらに簡便かつ高精度になれば,どの施設でも積極的にLASIK後の白内障手術を受け入れることができるようになる.筆者らはLASIKを数多く手がけてきた施設として今回の検証結果をさらに発展させて,現在使用している計算式よりもさらに精度が高い計算式を開発することを目標に今後も研究を重ねていきたい.文献1)渡辺純一,福本光樹,井手武:近視LASIK後の白内障手術における眼内レンズ度数計算精度.あたらしい眼科27:1689-1690,20102)魚里博:屈折矯正手術後眼の眼内レンズ度数計算.あたらしい眼科15:665-666,19983)中村友昭:LASIK術後眼のIOL度数計算.IOL&RS24:609-615,20104)魚里博:角膜曲率半径.眼科プラクティス25眼のバイオメトリー,p242-246,文光堂,20095)富所敦男,大鹿哲郎:ビデオケラトグラフティーによる角膜不整乱視の定量化.あたらしい眼科18:1349-1356,20016)CamellinM:Proposedformulaforthedioptricpowerevaluationoftheposteriorcornealsurface.RefractCornealSurg6:261-264,19907)CamellinM,CalossiA:Anewformulaforintraocularlenspowercalculationafterrefractivecornealsurgery.JRefractSurg22:187-199,20068)尾藤洋子,稗田牧:特殊角膜における眼内レンズ度数決定3.エキシマレーザー近視矯正手術後眼の眼内レンズ度数決定.あたらしい眼科30:607-614,20139)飯田嘉彦:屈折矯正手術後の白内障手術.IOL&RS22:39-44,200810)飯田嘉彦:眼内レンズ度数計算式の考え方.あたらしい眼科30:581-586,201311)ShammasHJ,ShammasMC:No-historymethodofintraocularlenspowercalculationforcataractsurgeryaftermyopiclaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg33:31-36,200712)SaviniG,HofferKJ,CarbonelliMetal:Intraocularlenspowercalculationaftermyopicexcimerlasersurgery:Clinicalcomparisonofpublishedmethods.JCataractRefractSurg36:1455-1465,2010***(125)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141051