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低加入度数分節型眼内レンズの囊内固定方向の違いによる 立体視機能の比較

2023年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科40(11):1491.1495,2023c低加入度数分節型眼内レンズの.内固定方向の違いによる立体視機能の比較福田莉香子蕪龍大岩崎留己松本栞音古島京佳竹下哲二上天草市立上天草総合病院眼科CComparisonofStereopsisbyDi.erenceinIntracapsularFixationDirectionafterBi-aspheric,Segmented,RotationallyAsymmetricIntraocularLensImplantationRikakoFukuda,RyotaKabura,RumiIwasaki,KanonMatsumoto,KyokaFurushimaandTetsujiTakeshitaCDepartmentofOphthalmology,KamiamakusaGeneralHospitalC低加入度数分節型眼内レンズであるレンティスコンフォートおよび同トーリック(以下,LC,LCT)の.内固定方向の違いによる立体視機能について比較検討した.両眼ともCLCまたはCLCTを挿入したC49例C98眼を術翌日に散瞳し,前眼部解析装置OPDScanIIIの徹照像でトーリックレンズ軸が60.120°だった28例56眼を縦群,30°以下および150°以上だった21例42眼を横群とした.StereoCFlyTest(以下,Fly)で立体視機能を測定し,Flyの視差は対数変換(log秒)して,WelchC’sCttestを用いたC2群間比較を行った.5Cm矯正片眼視力は縦群と横群で有意差はなかった.遠見矯正下C40Ccm片眼視力も両群で有意差はなかった.遠見矯正下C40Ccm両眼視力は縦群が有意に良好だった(p<0.01).Flyは縦群がC1.94C±0.33(87秒),横群がC2.16C±0.45(145秒)で縦群は横群よりも良好だった(p<0.05).LC・LCTは両眼に挿入した場合,横方向に固定した場合よりも縦方向に固定した場合のほうが立体視が良好だった.CPurpose:TocomparethepostoperativestereoscopicfunctionofLentisComfortandLentisComfortToric(LC/LCT)intraocularlens(IOL)implantedCeyesCwithCdi.erentCintracapsularC.xationCdirections.CSubjectsandMeth-ods:ThisCstudyCinvolvedC98CeyesCofC49patients(verticalgroup[VG]:28patients;horizontalgroup[HG]:21patients)whounderwentcataractsurgeryandIOLimplantationfrom2018to2022.Postimplantation,stereopsiswasCmeasuredCusingCtheCStereoCFlyTest(Fly)C.CResults:ThereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCmonocularCvisualCacuityat40CcmunderdistancecorrectionbetweentheVGandtheHG,andbinocularvisualacuityat40Ccmunderdistancecorrectionwasnotsigni.cant;Fly:1.94C±0.33(logseconds)fortheVGand2.16±0.45fortheHG(p<0.05)C.CConclusion:ThestereopsisoftheimplantedLC/LCTwasbetterintheVGthanintheHG,anddi.erencesinnearstereopsiswereobserveddependingonthedirectionofintracameral.xationofthelens.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(11):1491.1495,C2023〕Keywords:レンティスコンフォート,立体視,低加入度数分節型眼内レンズ.LentisComfort,stereopsis,bi-aspheric-segmented-rotationallyasymmetricintraocularlens.Cはじめに近年,明視域を拡張させる眼内レンズ(intraocularlens:IOL)が次々と開発され,白内障手術は屈折矯正および老視矯正としての意味合いが強くなった1).2019年発売のレンティスコンフォート(モデル名:LS-313MF15,参天製薬,以下CLC)は光学部上部が遠用部,下方に+1.50ジオプトリー(D)を加入した低加入度数分節型CIOLである.2020年には乱視矯正効果も併せもつレンティスコンフォートトーリック(モデル名:LS-313MF15T1-3,以下CLCT)が発売となり,幅広い症例に適用できるようになった.LC・LCTはループをもたないプレートハプティクス型IOLで,国内で保険診療適用のCIOLには類似した形状と光学特性をもつものはない2).トーリックモデルを含む単焦点IOLや回折型多焦点CIOLなど,同心円形状のレンズの場合は,.内固定の方向による収束点の位置に変化はない.LCTは弱主経線(軸マーク)が縦方向にあり,角膜倒乱視眼〔別刷請求先〕福田莉香子:〒866-0293熊本県上天草市龍ヶ岳町高戸C1419-19上天草市立上天草総合病院眼科Reprintrequests:RikakoFukuda,DepartmentofOphthalmology,KamiamakusaGeneralHospital,1419-19RyugatakemachiTakado,Kamiamakusa,Kumamoto866-0293,JAPANCノントーリックor直乱視右眼遠用部左眼加入度数部倒乱視右眼【加入度数部同側パターン】加入度数部【加入度数部両鼻側パターン】加入度数部左眼図1LCおよびLCTの.内固定方向のイメージノントーリックモデルまたは角膜直乱視眼の場合,加入度数部を下方にした縦方向に.内固定するのが一般的だが,角膜倒乱視眼ではIOLの軸マークが縦方向にあるため水平方向に倒した状態に固定する.その際,加入度数部の位置が左右同側のパターンと両耳側,または両鼻側のパターンが生じる.では水平に固定して乱視矯正を行う(図1)ため,加入度数部の位置が患者ごとに異なる.過去の報告で固定方向の違いによる視力へ影響はないとしたが3),視力が良好であるにもかかわらず日常視の違和感から不満を訴える患者も一定数存在する4).両眼CIOL挿入の際,立体視を含む両眼視機能の改善は患者満足度の向上につながる5).多焦点CIOLは単焦点CIOLよりも立体視は良好であり,満足度も高い6).一方で両眼多焦点CIOLであっても近用焦点の異なるCIOLインプラントの場合は立体視が低下するとの報告があり,両眼とも同じ光学設計であることが術後立体視を改善する要因となる7).しかし,LCTの場合,両眼の近用焦点が同程度であっても左右眼の.内固定方向の違いによって網膜像の遠用部と加入度数部の収束点の位置に違いが生じることになり,それが立体視機能にどのように影響するか疑問のあるところである.LCの.内固定方向の違いによる術後立体視機能の影響について比較検討した.CI対象および方法対象はC2018年C12月.2022年C5月に上天草総合病院で白内障手術を行い,両眼ともCLC・LCTを挿入したC49例C98眼(男性C15例,女性C34例,72.4C±4.7歳:平均C±標準偏差,以下同様).術翌日散瞳し,前眼部解析装置COPDCScanIII(ニデック)の徹照画像でIOLの固定方向がC60.120°だったC28例56眼を縦群,30°以下およびC150°以上だったC21例42眼を横群とし,後ろ向きに情報収集した.術後C3カ月以上経過観察し,視力検査(5Cmの片眼裸眼および片眼矯正,70Ccm,50Ccmの片眼遠方矯正下,40Ccmの片眼遠方矯正下および両眼遠方矯正下),自覚的屈折検査(乱視矯正は乱視表を用いた雲霧法),他覚的屈折検査(TONOREFII:ニデック),術後満足度のアンケートを行った.5Cm視力は単点灯式CLandolt環字づまり視標(イナミ)を用い,70Ccm,50Ccm,40Ccm視力はCCランドルト近距離・中距離視力表(テイエムアイ)をハロゲン球のペンライトMini-cCliplampe(HEINE社)で照射し測定した.術後の近見眼位検査で顕性の眼位ずれがないことを確認した後,StereoCFlyTest(STEREOOPTICAL社:以下,Fly)を用いて近見立体視の測定を行った.検査距離は40Ccmを保ち,circle視標のみを使用し,遠方矯正下にて測定した.表1対象者背景および群別比較(術後)縦群横群変数(28例56眼)(21例42眼)p値年齢(歳)C73.4±3.9C71.4±5.2C0.94性別男性C8/女性C20男性C7/女性C14C1.005Cm裸眼視力(logMAR)C.0.06±0.04C.0.04±0.09C0.135Cm矯正視力(logMAR)C.0.07±0.02C.0.06±0.04C0.3270Ccm視力C※(logMAR)C0.02±0.12C0.06±0.13C0.1250Ccm視力C※(logMAR)C0.10±0.15C0.18±0.16C0.0640Ccm視力C※(logMAR)C0.18±0.17C0.21±0.15C0.44両眼C40Ccm視力C※(logMAR)C0.05±0.09C0.18±0.14<0.01自覚等価球面値(D)C.0.04±0.31C.0.11±0.33C0.34他覚等価球面値(D)C.0.76±1.09C.0.73±0.45C0.87C※70cm,50cm,40cm,両眼C40Ccm視力は遠方矯正下.平均値±標準偏差性別以外CWelch’st検定性別のみCFisher’s正確検定術後アンケートは白内障患者の生活の質の評価尺度であるCCatquest-9SF8)(英語版)を用いて,日常生活に関する項目である「新聞・読書」「値札・ラベル」「裁縫等」の満足度について評価した.回答は「満足」「やや不満」「そこそこ不満」「大変不満」のC4件法とした.満足度の高い順に最大C4点からC1点ずつ減じたスコアの平均値でした.視力は小数視力表で測定し,統計解析の際は小数視力値をlogMARに変換した.自覚屈折値および他覚屈折値は球面度数から円柱度数(絶対値)のC2分のC1を引いた等価球面値(sphericalequivalent:SE)で解析した.近見立体視の視差は対数(log秒)に変換して統計解析を行った.統計解析はCRおよびCRコマンダーの機能を拡張した統計ソフトウェアのCEZRVer1.54を使用した9).Shapiro-Wilk検定にて正規性を確認し,Welch’st検定を用いて評価した.両眼視力値と立体視の相関分析にはCPearsonの関率相関係数を用いた.統計学的有意水準は5%未満(両側検定)とした.本研究は,上天草総合病院の倫理審査委員会の承認(承認番号C2021-001,2021/5/14)を得たのち,ヘルシンキ宣言10)に準拠して実施した.CII結果対象者の群別基本属性は縦群C73.4C±3.9歳(男性8名,女性C20名),横群C71.4C±5.2歳(男性C7名,女性C14名)で年齢(p=0.94)および性別(p=1.00)に有意差はなかった.5m片眼視力は縦群,横群の順に裸眼がC.0.06±0.04,C.0.04±0.09(p=0.13),矯正がC.0.07±0.02,C.0.06±0.04(p=0.32)でいずれも有意差はなかった.遠方矯正下のC70Ccm片眼視力はC0.02C±0.12,0.06C±0.13で有意差はなかった(p=0.12).同じく遠方矯正下のC50cm片眼視力はC0.10C±0.15,0.18C±0.16で有意差はなかった(p=0.06).さらに遠方矯正下の40Ccm片眼視力はC0.18C±0.17,0.21C±0.15でこれも有意差は(log秒)p<0.05*2.752.502.252.001.751.50図2術後立体視機能の群別比較グラフの縦軸はCFly(秒)を対数換算した(log秒).立体視は数値が低いほど良好となる.縦群はC1.94C±0.33(87.1秒),横群はC2.16±0.45(144.5秒)となり,縦群のほうが有意に良好な成績となった.なかった(p=0.44).遠方矯正下のC40Ccm両眼視力はC0.05C±0.09,0.18C±0.14で縦群のほうが有意に良好だった(p<0.01).屈折値は縦群,横群の順に自覚CSEはC.0.04±0.31D,C.0.11±0.33D(p=0.34),他覚CSEはC.0.76±1.09D,C.0.73C±0.45D(p=0.87)で有意差はなかった(表1).Flyは縦群がC1.94C±0.33(87.1秒),横群がC2.16C±0.45(144.5秒)で縦群のほうが有意に良好だった(p<0.05)(図2).両眼視力(logMAR)と立体視(log秒)の間には縦群で有意な相関を認め,視力がよいほど立体視も良好だった.横群では相関を認めなかった(全例;r=0.44,p<0.01,図3a,縦群;r=0.62,p<0.01,図3b,横群;r=.0.11,p=0.72,図3b).日常生活満足度は縦群,横群の順に,「新聞・読書」はC3.40±0.68,3.38C±0.87(p=0.96),「値札・ラベル」はC3.90縦群横群Welch’st検定a-0.1b-0.1000.10.10.30.3全例横群0.4r=0.440.4r=-0.11p<0.01p=0.720.50.52.752.251.751.252.752.251.751.25(log秒)(log秒)縦群横群縦群横群Pearsonの関率相関検定r:相関係数図3立体視機能と視力の相関a:縦群および横群の全例の結果を示す.両眼視力が良好になるほど立体視機能も良好となる.Cb:群別の相関を示す.縦群は両眼視力と立体視機能との相関を認めたが,横群は有意とはならなかった.■縦群■横群ったと考えられる.疋田ら12)は同心円状屈折型多焦点CIOL(点)p=0.96p=0.14p<0.05*によるC70Ccm,50Ccm,30Ccmの両眼加算視力は単眼視と比C4logMARlogMAR0.20.2較し平均C2段階良好となったと報告した.本研究の縦群40Ccm両眼視力も同様に,小数視力換算でC2段階程度良好となった.LCTの場合,参天製薬が公開しているトーリック21Welch’st検定図4日常生活満足度アンケートスコアの比較アンケートスコアが高いほど満足度も高い.文字視認である「新聞」や「値札・ラベル」では有意差は認めなかったが,奥行き知覚が必要な「裁縫等」では縦群の満足度が高かった.C±0.31,3.69C±0.48(p=0.14)で有意差はなかったが,「裁縫等」はC3.60C±0.50,3.00C±1.15(p<0.05)で縦群の満足度が高かった(図4).CIII考按LC・LCTは横固定よりも縦固定のほうが両眼視力および立体視が良好だった.LCの.内固定方向に根拠を示した報告はないが,LCの場合は縦方向に固定することが一般的である11).LC・LCTを両眼とも縦固定した場合,同時視の際には遠用部,加入度数部それぞれから投影される網膜像の収束点の位置はほぼ同じになり,左右眼で重なり(オーバーラップ)が生じることから視力の両眼加算効果が得られる.そのため縦群のほうが横群よりも両眼C40Ccm視力が良好だカリキュレーターでは,加入度数部が水平より下方になる向きに挿入するよう表示される.角膜乱視が倒乱視の場合は加入度数部が耳側や鼻側に大きく傾くケースが発生する.たとえば予定軸が片眼C1°,僚眼179°のような場合,加入度数部が両耳側もしくは両鼻側となる.そのため同時視をすると片眼の遠用部と僚眼の加入度数部の網膜像が重なり,不同視様状態となることから,両眼加算の有無が両眼視力に影響を与えたと推察する.両眼加算の有無は立体視機能にも影響を与えたと考えられる.立体視の成立条件は視力の左右差がないこと,不等像視がないことがあげられている13).LCの立体視について言及している報告は調べた範囲ではなかったが,多焦点CIOLでは明視域拡張によってもたらされる近方視力の向上により立体視もおおむねC80秒以上と報告されている14).本研究では縦群で類似した結果が得られた.LCTは縦群,横群の片眼視力には差がなかったものの,横群では網膜像のオーバーラップがなく両眼加算が得られなかったため立体視は劣っていたと思われる.これは「裁縫等」の奥行き知覚を必要とする日常生活動作の満足度が縦群のほうが良好だったことにも表れている.近方の立体視作業が必要な倒乱視の症例の場合は,同心円型の多焦点CIOLを選択するか,レンティスコンフォートを挿入したのちに近用眼鏡を処方する必要があるかもしれない.とはいえ,横群でも遠見矯正下でのC40Ccm両眼視力は小数視力換算でC0.66,立体視は秒換算でC144秒と,従来の単焦点CIOLに劣ることなく日常生活に影響はないと考える.筆者らは,LCおよびCLCT挿入後の慣れや満足度は若年層のほうが俊敏であると報告した4).若年層では角膜直乱視の割合が高いため,LCTの適応であっても縦方向へ.内固定する場合が多い.しかし,高齢者では加齢に伴う倒乱視化15)によって横方向に固定する例が多くなる.今回の研究では縦群と横群の年齢に有意差がなかったため,若年層のほうが見え方の慣れが早く満足度が高い理由が固定方向の違いによるものなのかは判断できなかった.両眼視力と立体視能について縦群では視力が良いほど立体視能も良いという相関が得られたのに対し,横群では相関がみられなかった.今回固定角度が30°以下およびC150°以上だった場合を横群としたが,そのなかには加入度数部が同方向(両眼とも右方もしくは左方)の症例と異方向(両耳側もしくは両鼻側)の症例が混在している.加入度数部の位相によって視力良好例と立体視良好例が異なる可能性がある.また,先述のように,両眼視力や立体視能が網膜像のオーバーラップに依存するのであれば,横群であっても加入度数部を同方向に挿入した場合は縦群と同等の両眼視力や立体視が得られるかもしれない.その場合,倒乱視症例では加入度数部の方向は上下よりも左右を優先すべきとなる.今回は症例数が少なかったため,横群での加入度数部位相の影響については検討できなかった.今後症例を増やして再検討する必要がある.分節状屈折型CIOLであるCLC・LCTは両眼に挿入した場合,横方向に固定した場合よりも縦方向に固定した場合のほうが立体視が良好だった.文献1)神谷和孝:眼内レンズ度数計算の現状と今後.視覚の科学C42:39-43,C20212)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRepC9:13117,C20193)川下晶,岩崎留己,蕪龍大ほか:低加入度数分節型トーリック眼内レンズの術後成績.あたらしい眼科C39:118-122,C20224)蕪龍大,川下晶,岩崎留己ほか:レンティスコンフォートR挿入後における満足度に影響する因子の検討.CIOL&RSC35:623-631,C20215)大木伸一,ビッセン宮島弘子,中村邦彦ほか:回折型多焦点眼内レンズ挿入眼後の立体視.IOL&RSC23:371-374,C20096)VaronCC,CGilCMA,CAlba-BuenoCFCetal:Stereo-acuityCinCpatientsCimplantedCwithCmultifocalCintraocularlenses:isCthechoiceofstereotestrelevant?CurrEyeResC39:711-719,C20147)ZhuCM,CFanCW,CZhangG:StereopsisCandCvisualacuity:CBilateralCtrifocalCversusCblendedCextendedCdepthCofCfocusCandCdi.ractiveCbifocalCintraocularClenses.CFrontCMed(Lausanne)C9:1042101,C20228)LundstromCM,CPesudovsK:Catquest-9SFCpatientCout-comesquestionnaire:nine-itemCshort-formCRasch-scaledCrevisionCofCtheCCatquestCquestionnaire.CJCCataractCRefractCSurgC35:504-513,C20099)KandaY:InvestigationCofCtheCfreelyCavailableCeasyCto-useCsoftware‘EZR’CforCmedicalCstatistics.CBoneCMarrowCTransplantC48:452-458,C201310)WorldCMedicalCAssociation,CWorldCMedicalCAssociation,CDeclarationCofHelsinki:EthicalCprinciplesCforCmedicalCresearchCinvolvingChumanCsubjects.CJAMAC27:2191-2194,C201311)井上康:低加入度数分節眼内レンズ・レンティスコンフォートR.眼科グラフィックC8:257-264,C201912)疋田朋子,清水公也,藤澤邦俊ほか:多焦点眼内レンズ挿入眼の視機能評価.IOL&RSC20:43-47,C200613)矢ヶ崎悌司:立体視検査法の問題点.神経眼科C23:416-427,C200614)ChangDF:ProspectivefunctionalandclinicalcomparisonofCbilateralCReZoomCandCReSTORCintraocularClensesCinCpatients70yearsoryounger.JCataractRefractSurgC34:C934-941,C200815)NambaCH,CSuganoCA,CNishiCKCetal:Age-relatedCvaria-tionsincornealgeometryandtheirassociationwithastig-matism:TheYamagataCStudy(Funagata)C.CMedicine(Baltimore)C97:e12894,C2018***

低加入度数分節型眼内レンズの術後早期屈折変化に 関連する因子の検討

2022年1月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(1):112.117,2022c低加入度数分節型眼内レンズの術後早期屈折変化に関連する因子の検討川口ゆいこ*1玉置明野*1小島隆司*2澤木綾子*1加賀達志*1*1独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院眼科*2慶應義塾大学医学部眼科学教室CFactorsRelatedtoEarlyPostoperativeRefractiveChangesinEyesWithLow-Add-PowerSegmentedBifocalIntraocularLensImplantationYuikoKawaguchi1),AkenoTamaoki1),TakashiKojima2),AyakoSawaki1)andTatsushiKaga1)1)JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospitalDepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineC目的:低加入度数分節型眼内レンズと単焦点眼内レンズの術後屈折値の変化の検討.対象および方法:対象は水晶体再建術でCLS-313MF15(L群,31眼),SN60WF(S群,30眼),AN6KA(A群,30眼)を挿入した計C91例C91眼(平均年齢C73.5±7.5歳).術翌日,3カ月時の自覚等価球面度数(SE),前眼部COCTによる平均角膜屈折力(Real値),前房深度(ACD)を術翌日とC3カ月時で比較し,SE変化との関連因子について重回帰分析を行った.結果:SE変化量(D)は,L群C0.29±0.44,S群.0.11±0.38,A群.0.17±0.33でCL群は有意な遠視化を認めた(p=0.0004).ACD変化量(mm)はCL群C0.20±0.19,S群.0.18±0.13,A群.0.21±0.10でCL群のみ有意に深くなった(p=0.0071).Real値の変化はC3群とも有意な近視化を認めたが(p<0.0001),3群間に差はなかった.SE変化量を従属変数とした重回帰分析にて選択された独立変数は,ACD変化量のみであった(p=0.020).結論:L群の術後屈折値はC3カ月で遠視化し,IOLの後方移動によるCACDの増加が関連する.CPurpose:Toassessthepostoperativeaxialmovementoflow-add-powersegmentedbifocalintraocularlenses(IOLs)(LS-313MF15;Santen)andassociatedfactors.Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved91eyesof91patientswhounderwentimplantationoftheLS-313MF15IOL(GroupL:31eyes)oramonofocalIOL[SN60WFIOL;Alcon(GroupS:30eyes)andAN6KAIOL;Kowa(GroupA:30eyes)].MultipleregressionanalysiswasperformedCtoCevaluateCtheCfactorsCtoCexplainCtheCchangesCinsphericalCequivalent(SE)valuesCpostCsurgery.CResults:PostCsurgery,Csigni.cantChyperopicCshiftCofCSEchange(p=0.0004)andCdeepeningCofCanteriorCchamberdepth(ACD)(p=0.0071)wasonlyobservedinGroupL.Thechangeintotalcornealpowershowedasigni.cantmyopicshiftinallthreegroups(p<0.0001),however,nosigni.cantdi.erencewasfoundbetweenthegroups.IntheCmultipleCregressionCanalysis,CwhenCtheCSECchangeCwasCsetCasCaCdependentCvariable,ConlyCACDCchangeCwasCselectedCasCtheCindependentvariable(p=0.020).CConclusion:TheChyperopicCshiftsCofCsubjectiveCrefractionCafterCimplantationoftheLS-313MF15IOLwasassociatedwithIOLposteriorshifts.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(1):112.117,C2022〕Keywords:低加入度数分節型眼内レンズ,術後前房深度,術後屈折変化,角膜屈折力.low-add-powerCsegment-edintraocularlens,postoperativeanteriorchamberdepth,postoperativerefractivechange,totalcornealpower.Cはじめに持部の素材が異なるスリーピース型,同素材で一体型となっこれまでに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の術後安ているワンピース型やプレート型などさまざまで,素材や.定性に関する報告は多数あり1.4),IOLの形状は光学部と支収縮による.内でのCIOL位置変化の大小が術後の屈折変化〔別刷請求先〕川口ゆいこ:〒457-8510愛知県名古屋市南区三条C1-1-10独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院眼科Reprintrequests:YuikoKawaguchi,JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospitalDepartmentofOphthalmology,1-1-10Sanjo,Minami-ku,Nagoyacity,Aichi457-8510,JAPANC112(112)に関与する因子として報告されている4).スリーピースアクリルCIOLは,術後C1カ月でCIOL固定位置が前方移動し近視化するが,ワンピースアクリルCIOLは屈折変化が少ないと報告されている5.8).+1.50CDが扇状に加入された分節型CIOLレンティスコンフォート(モデルCLS-313MF15,参天製薬)は,親水性アクリル素材のプレート型CIOLで,術直後からC3カ月まで緩やかに後方移動し安定することが報告されている9).しかし,自覚的屈折値の変化量と術後前房深度変化量には相関を認めず,術後角膜屈折力の近視化傾向により,IOLの後方移動に伴う遠視化が緩和された可能性が指摘しているが,その後検証した報告はない.今回,自覚的屈折値の変化量に関連する因子について詳細に検証したので報告する.CI対象および方法対象は,2019年C1月.2020年C7月に独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院にて水晶体再建術を行い,術後C3カ月の矯正視力がC0.8以上であったC91例C91眼,平均年齢C73.5C±7.5歳である.LS-313MF15を挿入したC31例C31眼,男性9例,女性22例,平均年齢C71.4C±9.5歳をCL群とし,L群と年齢マッチングしたワンピースアクリルCIOL(SN60WF,Alcon社)を挿入した30例30眼,男性15例,女性15例,平均年齢C74.9C±5.3歳(以下,S群)と,スリーピースアクリルCIOL(AN6KA,興和)を挿入したC30例C30眼,男性C13例,女性C17例,平均年齢C74.3C±6.9歳(以下,A群)をコントロール群とした.両眼手術例は術後矯正視力がよい眼を対象とし,同一視力の場合は手術日が早い眼を対象とした.術翌日の一過性の眼圧上昇を含む術中術後合併症を認めたものは除外した.本研究は,ヘルシンキ宣言に則りCJCHO中京病院倫理審査委員会の承認を得て行われた後方視的無作為化比較試験である(承認番号#2020025).データ収集にあたっては,オプトアウトを掲示し,研究参加の拒否について配慮したうえで行った.IOL度数決定のための術前検査には,光学式眼内寸法測定装置CIOLMaster700(CarlCZeissMeditec社)を用い,角膜屈折力と前房深度(角膜前面から水晶体ないしCIOL前面までの距離)の測定には前眼部三次元画像解析装置(CASIA2トーメーコーポレーション)を用いた.IOL度数計算式は,BarrettUniversalII式を使用した.検討項目は,自覚的屈折値(等価球面度:SE),CASIA2で角膜後面を実測した全角膜屈折力(Real値),前房深度および予測屈折誤差とし,術後C3カ月の測定値から術翌日の測定値を引いた値を比較した.予測屈折誤差は,術後の自覚的屈折値から予測屈折値を引いた値とした.さらに,L群の角膜屈折力の変化に関連する因子として,中心角膜厚と角膜後面屈折力について術翌日とC3カ月後の測定値を比較した.またCL群では,術後の自覚的屈折値の変化に関連する因子について,従属変数を自覚的屈折値の変化量とし,独立変数は角膜屈折力変化量,前房深度変化量,IOL度数,術後C3カ月の眼軸長(術後眼軸長)として重回帰分析を行った.さらに,角膜屈折力の変化量を眼鏡面での値に換算10)し,自覚的屈折値変化量から除いた値を従属変数とし,独立変数を前房深度変化,IOL度数,術後眼軸長,および(前房深度変化C×IOL度数)を術後眼軸長で除した値として重回帰分析を行った.統計解析ソフトはCGraphPadPrismver.6.0(GraphPad社)とCIBMCSPSSCStatisticsver.21(IBM社)を用いた.正規性の判定にCShapiro-WilkCnormalitytestを行い,2群間の比較にはCpairedt-testまたはCWilcoxonmatched-pairssignedranktestを,3群間の比較には一元配置分散分析またはKruskal-Wallis検定を用い,postChoctestとしてCHolm-Sidak’sCmultipleCcomparisonstestまたはCDunnの多重比較を行った.統計学的有意水準は5%未満とした.CII結果3群の平均年齢と術前測定値は,すべての項目において有意差はなかった(表1).C1.術後屈折変化術後自覚的屈折値の平均±標準偏差は,術翌日,術後C3カ月の順にCL群はC.0.60±0.53D,C.0.31±0.49Dで,術後C3カ月で有意に遠視化した(p=0.0004).S群はC.0.07±0.37D,C.0.18±0.39Dで有意差はなかった(p=0.134).A群はC.0.34±0.39D,C.0.51±0.43Dで術後C3カ月では有意に近視化した(p=0.0014)(図1a).術後の自覚的屈折値変化量の平均±標準偏差は,L群がC0.29C±0.44D,S群はC.0.11±0.39D,A群はC.0.17±0.33DでC3群に有意差を認め(p<0.0001),L群はS群(p=0.0003),A群(p<0.0001)より有意に遠視化した.A群とCS群に有意差はなかった(p=0.5627)(図1b).C2.前房深度の術後変化術後前房深度の平均±標準偏差は,術翌日,術後C3カ月の順にCL群はC4.40C±0.31Cmm,4.63C±0.28mm,S群ではC4.88C±0.24Cmm,4.70C±0.25Cmm,A群ではC4.57C±0.28Cmm,4.38C±0.28Cmmで,術翌日と比べて術後C3カ月にはCL群では深く,S群とCA群では有意に浅くなった(p<0.0001,p<C0.0001,Cp=0.0071)(図1c).術後前房深度の変化量は,L群がC0.20C±0.19Cmm,S群はC.0.18±0.13Cmm,A群はC.0.21C±0.10Cmmで,L群のみ術後C3カ月で深くなり,S群,A群との間に有意差(いずれもCp<0.001)を認めたが,S群とCA群に有意差はなかった(図1d).表13群の平均年齢と術前測定値L群S群A群p値年齢(歳)C71.4±9.5C74.9±5.3C74.3±6.9C0.15眼軸長(mm)C23.73±0.99C23.78±0.94C23.70±1.08C0.95平均角膜屈折力(D)C43.10±1.61C43.05±0.98C42.92±1.21C0.85前房深度(mm)C3.24±0.43C3.31±0.44C3.22±0.41C0.68水晶体厚(mm)C4.47±0.60C4.61±0.35C4.61±0.40C0.25角膜横径(mm)C11.77±0.46C11.90±0.38C11.95±0.45C0.27IOL度数(D)C19.73±2.4C21.25±3.2C20.88±2.8C0.22すべての項目でC3群間に有意差は認められなかった.a.3群の術翌日と術後3カ月の自覚的屈折値b.術後自覚的屈折値変化量1**1.51.0**術後自覚的屈折値変化量(D)術後自覚的屈折値(D)0-1-20.50.00.5-31.0L群S群A群L群S群A群c.3群の術翌日と術後3カ月の前房深度d.術後前房深度変化量6.01.0***n.s.術後前房深度変化量(mm)術後前房深度(mm)5.50.55.04.54.03.50.0-0.5L群S群A群1D:術翌日,3M:術後3カ月,**:p<0.01,***:p<0.001,n.s.:notsigni.cant.図1術翌日と術後3カ月の自覚的屈折値と前房深度の変化a:自覚的屈折値の変化を示す.L群は術後C3カ月で有意に遠視化し,A群は有意に近視化した.S群は有意な変化はなかった.Cb:術後自覚的屈折値変化量を示す.L群は他のC2群と比較し有意に遠視化したが,S群とCA群に有意差はなかった.Cc:前房深度の変化を示す.術翌日と術後C3カ月の前房深度の変化は,L群が有意に後方移動し,S群とCA群は有意に前方移動した.Cd:術後前房深度変化量を示す.L群は,他のC2群と比較し有意に深くなったが,S群とCA群には有意差はなかった.C3.平均角膜屈折力の術後変化1.13D,42.98C±1.21D(p<0.001)であった.3群とも術翌平均角膜屈折力の平均±標準偏差は,術前,術翌日,術後日が術前より有意に小さく(いずれもCp<0.001),術後C3カ3カ月の順にCL群ではC43.10C±1.61D,42.76C±1.69D,43.13月が術翌日より有意に大きくなった(いずれもCp<0.001).3C±1.59Dで,S群はC43.05C±0.98D,42.79C±1.02D,43.11C±群とも術前と術後C3カ月には有意差は認められなかった.術0.99D(p<0.001)であり,A群ではC42.92C±1.21D,42.60C±後平均角膜屈折力の変化量は,L群がC0.37C±0.40D,S群は1D3M1D3M1D3ML群S群A群a.術後平均角膜屈折力変化量b.術前平均角膜屈折力変化量(D)1.51.00.50.0-0.5-1.0L群S群A群c.術翌日d.術後3カ月図2術翌日と術後3カ月の平均角膜屈折力変化量と前眼部OCTによる右眼耳側角膜切開部と角膜形状解析a:術後平均角膜屈折力変化量を示す.術翌日と術後C3カ月の平均角膜屈折力はいずれもC3カ月時が強くなり,3群に有意差はなかった.n.s:notsigni.cant.Cb:術前右眼の前眼部COCTの結果を示す.Cc:術翌日右眼の前眼部COCTの結果を示す.Cd:術後C3カ月右眼の前眼部COCTの結果を示す.Cb~d共通:左上=AxialPower(Real),角膜後面を実測したCTotalCCornealPower,右上=AxialPower(Posterior),角膜後面屈折力,左下=水平断層像,矢頭=角膜後面の耳側切開位置,右下=Ks)強主経線の角膜屈折力,Kf)弱主経線の角膜屈折力,CYL)乱視量,Avg.K)平均角膜屈折力.術前(Cb)の角膜後面屈折力Ave.KはマイナスC6.3Dであり,術翌日(Cc)は角膜後面の浮腫により角膜後面屈折力CAvg.Kはマイナス6.8Dとなり,術後C3カ月(Cd)でマイナスC6.4Dに変化した.Real値のCAvg.Kは術翌日(Cc)42.1Dから術後C3カ月(Cd)43.1Dと強くなったことがわかる.C0.32±0.40D,CA群はC0.38C±0.42DでC3群間に有意差はなか前眼部COCTによる右眼の耳側角膜切開部と角膜形状解析った(図2a).CL群の角膜後面屈折力の平均C±標準偏差は,結果の典型例について,術前を図2b,術翌日を図2c,術後術前がC.6.23±0.24D,術翌日がC.6.40±0.29D,術後C3カ3カ月の結果を図2dに示す.C月が.6.25±0.24Dで,術前は術翌日より有意にマイナス度4.重回帰分析結果数が弱く(Cp<C0.0001),術翌日は術後C3カ月より有意にマイL群に対し,従属変数を自覚的屈折値の変化量とし,独立ナス度数が強くなった(Cp<C0.0001).術前と術後C3カ月に有変数を角膜屈折力変化量,前房深度変化量,CIOL度数,術後意差は認められなかった.CS群CA群ともに術前と比較し術3カ月の眼軸長(術後眼軸長)とした重回帰分析では,前房翌日はマイナス度数が有意に弱く(いずれもp<0C.0001),術深度変化量のみが選択され(Cp=0.02,CRC2=0.1375),標準化翌日と比較し術後C3カ月はマイナス度数が有意に強くなった係数CbはC0.371,相関係数はC0.371であった(図3a).さら(いずれもCp<C0.0001).術前と術後C3カ月に有意差は認めらに,全眼球屈折力から角膜屈折力(眼鏡面に変換)を引いたれなかった.中心角膜厚の平均C±標準偏差は,術翌日がC値を従属変数とし,独立変数を前房深度変化量,CIOL度数,574.9±39.8Cμm,術後C3カ月がC541.9C±32.4Cμmで術翌日は術後眼軸長,および(CIOL移動量C×IOL度数)を術後眼軸長有意に厚かった(p<0C.0001).C0.1339で除した値として重回帰分析を行った結果,従属変数と相関a.術後の自覚的屈折値の変化量と前房深度変化量の関係b.術後の角膜屈折力(眼鏡面換算値)を除いた自覚的屈折値変化量と前房深度変化量の関係全角膜屈折力を除いた術後自覚屈折値変化量(D)図3L群の自覚的屈折値変化量と前房深度変化量の関係a:術後の自覚的屈折値の変化量と前房深度変化量の関係を示す.術後自覚的屈折値の変化量と前房深度変化量に弱い相関を認めた(p=0.02,RC2=0.1375).b:術後の角膜屈折力(眼鏡面換算値)を除いた自覚的屈折値変化量と前房深度変化量の関係を示す.術後の角膜屈折力(眼鏡面換算値)を除いた自覚的屈折値の変化量と前房深度変化量に弱い相関を認めた(p=0.007,RC2=0.1893).関係が認められたのは,前房深度変化量(p=0.007,r=0.435)と(IOL移動量C×IOL度数)/術後眼軸長(p=0.025,Cr=0.355)であり,係数として選択されたのは前房深度変化量のみ(p=0.007,RC2=0.189)で,標準化係数CbはC0.435であった(図3b).CIII考按本研究において術後の自覚的屈折値は,ワンピースCIOL(S群)は有意な変化はなく,スリーピースCIOL(A群)は近視化し,低加入度数分節CIOL(L群)は遠視化した.術後前房深度の変化は,L群のみ深くなり,S群とCA群は浅くなった.平均角膜屈折力はすべての群で術後C3カ月は術翌日より大きく,近視化傾向を示し,L群について既報12)と同様の結果が確認された.平均角膜屈折力の変化について,大内は,術翌日は角膜厚が増加し,その後C2日以降で角膜後面の平坦化が生じ角膜屈折力は安定したと報告2)している.また,林らは,角膜切開ないし経結膜強角膜一面切開によるワンピースCIOL挿入後の平均角膜屈折力(keratometricpower)は,術翌日からC2カ月まで有意に強くなったと述べている4).本研究では角膜後面を実測して求めた平均角膜屈折力(Real値)にて術翌日と術後C3カ月時の測定値を比較し,同様な結果が確認された.L群において,中心角膜厚は術翌日と比較し術後C3カ月で薄くなり(p<0.0001),角膜後面屈折力は,切開部位の一時的な浮腫によって術翌日のみ術前と比べ有意にマイナス度数が大きくなった(p<0.0001).しかし,創傷治癒によって術後C3カ月の角膜後面屈折力は弱くなり角膜全屈折力は増加し,術翌日と比較し近視化したが,術前と同等の値に戻ったと考えられる.IOLの安定性については,支持部に角度がついているものは,光学部と支持部が同一平面にあるものと比べ,前後方向への移動が大きいことが報告11)されており,ワンピースIOLの術後前房深度は,術後早期の有意差はなく,スリーピースCIOLは有意に浅くなるとの報告5,6)がある.一方,杉山らは,低加入度数分節型CIOLは術後C4日からC3カ月まで前房深度は有意に深くなり,その後は安定したと報告9)している.本研究でも同様に,ワンピースCIOLとスリーピースIOLはともに術後翌日からC3カ月で前房深度は浅くなり,低加入度数分節型CIOLは深くなり,既報と一致していた.術後前房深度の変化は,年齢や眼軸長よりも光学部の素材やCIOL支持部の前後方向への抵抗力などの要因の影響を大きく受けること1)や,プレート型CIOLは素材上,前.収縮により周囲のプレートがやや後方に反ることで中央の光学部がやや後方に移動すると推察されている9).本研究の重回帰分析では,角膜屈折力の変化を含む自覚的屈折値の変化と術後前房深度の変化に弱い相関が認められた(RC2=0.137).しかし,前房深度の変化量が屈折値に与える影響は,IOLの度数や眼軸長に占める割合によって異なる.杉山らが指摘9)している術後の角膜屈折力の近視化による影響を除外した自覚的屈折値の変化は,前房深度変化と,眼軸長およびCIOLの(移動量×度数)との比に相関を認め,角膜屈折力変化の近視化を含む場合より決定係数(RC2=0.189)は若干大きくなり,術後早期の前房深度変化が低加入度数分節CIOLの自覚的屈折値の遠視化の一因であることが示された.しかし,いずれも決定係数は小さく,前房深度の後方移動のみで今回の自覚的屈折値の遠視化を説明することは困難である.本研究の限界として,術翌日の眼軸長は計測されておらず,術後の眼軸長の変化は不明であること,また,IOLのtiltや瞳孔径が与える影響についても不明であることがあげられ,IOLの圧縮試験を含めさらなる検証が必要である.一般的に使用頻度の高い単焦点CIOLは,デザインや素材により術後早期の位置変化が異なる1,12)ことが知られており,その挙動に伴う屈折変化を把握しておくことは,患者の裸眼視力に与える影響を説明するのに役立つ.低加入度数分節型CIOLは,中間距離(70Ccm)の良好な裸眼視力の獲得や,多焦点CIOLに特徴的なグレアやハローなどが少ないことが報告13,14)され,眼鏡依存度の低減が期待されているが,他覚的屈折値が自覚的屈折値と乖離し近視傾向を示し15),術後早期はCIOLの後方移動により遠視化することを考慮しておくことが肝要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IwaseCT,CTanakaCN,CSugiyamaK:PostoperativeCrefrac-tionchangesinphacoemulsi.cationcataractsurgerywithimplantationCofCdi.erentCtypesCofCintraocularClens.CEurJOphthalmolC18:371-376,C20082)大内雅之:白内障眼内レンズ手術後超早期の屈折変動に関する検討.あたらしい眼科34:1771-1775,C20173)石田秀俊,三田哲大,渋谷恵理ほか:3種類の単焦点眼内レンズの白内障術後の前房深度と屈折変化の比較.日本白内障学会誌32:58-62,C20204)林俊介,吉田起章,林研ほか:シングルピース疎水性アクリル眼内レンズ挿入術後早期の屈折誤差変化に関与する因子.日眼会誌124:759-764,C20205)BehrouzCMJ,CKheirkhahCA,CHashemianCHCetal:AnteriorsegmentCparameters:comparisonCofC1-pieceCandC3-pieceCacrylicCfoldableCintraocularClenses.CRandomizedCcontrolledCtrial.JCataractRefractSurgC36:1650-1655,C20106)HayashiCK,CHayashiH:ComparisonCofCtheCstabilityCofC1-pieceCandC3-pieceCacrylicCintraocularClensesCinCtheClensCcapsule.JCrataractRefractSurgC31:337-342,C20057)KoeppCC,CFindlCO,CKriechbaumCKCetal:PostoperativeCchangeine.ectivelenspositionofa3-pieceacrylicintra-ocularlens.JCrataractRefractSurgC29:1974-1979,C20038)NejimaR,MiyaiT,KataokaY,etal:Prospectiveintrapa-tientCcomparisonCofC6.0-millimeterCopticCsingle-pieceCandC3-pieceChydrophobicCacrylicCfoldableCintraocularClenses.COphthalmologyC113:585-590,C20069)杉山沙織,後藤聡,小川圭子ほか:低加入度数分節型眼内レンズの術後前房深度の経時的変化.日眼会誌C124:C395-401,C202010)KlijnS,SicamVA,ReusNJ:Long-termchangesinintra-ocularClensCpositionCandCcornealCcurvatureCafterCcataractCsurgeryCandCtheirCe.ectConCrefraction.CJCCataratCRefractCSurgC42:35-43,C201611)LaneS,CollinsS,DasKKetal:Evaluationofintraocularlensmechanicalstability.JCataratRefractSurgC45:501-506,C201912)WirtitschMG,FindlO,MenapaceRetal:E.ectofhapticdesignonchangeinaxiallenspositionaftercataractsur-gery.JCrataractRefractSurgC30:45-51,C200413)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRepC9:13117,C201914)井上康:低加入度数分節眼内レンズ・レンティスコンフォートR.眼科グラフィックC8:257-264,C201915)橋本真佑,蕪龍大,川下晶ほか:低加入度数分節型眼内レンズ挿入眼の測定機器による他覚的屈折値の相違.眼科62:69-72,C2020***

低加入度数分節型眼内レンズ挿入眼における全距離視力

2020年2月29日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(2):226?229,2020c低加入度数分節型眼内レンズ挿入眼における全距離視力木下雄人*1織田公貴*1森洋斉*1子島良平*1南慶一郎*1宮田和典*1大鹿哲郎*2*1宮田眼科病院*2筑波大学医学医療系眼科All-DistanceVisualAcuityafterImplantationofaSegmentedIntraocularLenswith+1.5DAddPowerKatsuhitoKinoshita1),KimitakaOda1),YosaiMori1),RyoheiNejima1),KeiichiroMinami1),KazunoriMiyata1)andTetsuroOshika2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTsukuba目的:+1.5D加入の分節型眼内レンズ(IOL)挿入眼における全距離視力を前向きに検討した.方法:対象は,加齢性白内障により両眼に+1.5D加入の分節型眼内レンズ(LS-313MF15,Oculentis)を挿入した10例20眼(平均年齢:67.6±7.5歳).挿入後1,3,12カ月時に,遠方矯正下における全距離視力を単眼,両眼で測定した.結果:自覚屈折等価球面度数は,術後1カ月で?0.21±0.27D,12カ月で?0.10±0.12Dであった.術後1カ月時の全距離視力は,単眼視では遠方から0.7mまで平均0.95以上と安定し,より近方において有意に低下した(p<0.042,Sche?eの対比較).両眼視も同様に,0.5mまで視力0.76?1.11と安定し,0.3mで低下した(p<0.026).術後12カ月時も同様であったが,0.5mでの単眼視力は術後1?3カ月間で低下する傾向がみられた(p=0.051).結論:全距離視力の結果から,低加入度数分節型IOLを用いることで,単眼で遠方から0.7m,両眼で遠方から0.5mまで良好な裸眼視力を得られることが示唆された.All-distancevisualacuity(VA)afterimplantationofsegmentedintraocularlens(IOL)with+1.5diopter(D)addpowerwasprospectivelyevaluated.SegmentedIOLs(LS-313MF15,Oculentis)wereimplantedin20age-relatedcataracteyesof10patients(meanage:67.6±7.5years),anddistance-correctedall-distanceVAsweremeasuredat1-,3-,and12-monthspostoperativelyusingtheall-distancevisiontesterundermonocularandbinoc-ularvision.Themeanmanifestrefractionsphericalequivalentat1-and12-monthspostoperativelywas?0.21±0.27Dand?0.10±0.12D,respectively.At1-monthpostoperatively,themeanmonocularall-distanceVAwas0.95orbetterfromfarto0.7meters(m),anddecreasedatnearerdistances(p<0.042).Binocularly,thestableVA(0.76-1.11)wasobtaineduntil0.5m,andtheVAat0.3mwaslowerthanatotherdistances(p<0.026).Therewasnodi?erenceat12monthspostoperatively.InthemonocularVAsat0.5m,therewasaslightdecreasefrom1-to3-months(p=0.051).Theall-distanceVAresultsdemonstratedthattheuseofthelowaddpowersegmentedIOLallowedforpreferableuncorrectedVAsuntil0.7mand0.5mundermonocularandbinocularvision,respectively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(2):226?229,2020〕Keywords:低加入度数分節型眼内レンズ,全距離視力,両眼視.low-add-powersegmentedintraocularlens,all-distancevisualacuity,binocularvision.はじめに白内障手術時に挿入される眼内レンズ(intraocularlens:IOL)として,乱視を矯正するトーリックIOL,遠方視力に加えて近方視力も提供可能な多焦点IOL,そして,焦点深度を拡張することで視距離が広くなった焦点深度拡張型(extend-eddepthoffocus:EDOF)IOLが臨床使用可能となり,術後に眼鏡が不要,あるいは,使用頻度が低くても支障ない術後生活を提供することが可能となっている1?3).しかしながら,近方視力への加入度数が大きいほど,多焦点IOL挿入後のコントラスト感度の低下,グレア,ハローなどの光障害〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,MD,PhD,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN226(112)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYが重度となる.そのため,近年,それらの合併症が軽減される低加入度数の多焦点IOL1,3)やEDOFIOL4)が注目されている.レンティスコンフォートLS-313MF15(Oculentis)は,わが国で承認された低加入度数分節型IOLである.親水性アクリル製,支持部はplate形状で,6mm径の光学部はIOL度数の屈折力となる部分と,扇状の+1.5D加入された下方部分とに分節されている(図1).低加入度数の領域が含まれているため,単焦点IOLより広い明視域,最小限のコントラスト感度の低下,光障害の低減が期待できる.Vou-notrypidisらの評価では,遠方,中間距離(80cm)で良好な視力が得られ,光障害の自覚は少なく(9.1%),さらに,両眼defocuscurveでは,0.20logMAR以上の視力が±1.0Dの範囲で得られている5).しかし,遠方から近方30cmまでの全距離視力と,生活視力に匹敵する両眼全距離視力は評価されていない.そこで本レンズ挿入眼における単眼視,両眼視での全距離視力を前向きに評価した.I対象および方法本レンズの多施設臨床試験(65例120眼,経過観察52週間)が2016年9月より行われた6).宮田眼科病院はその一施設として,当院の施設内審査委員会(InstitutionalReviewBoard:IRB)承認後,文書によるインフォームド・コンセントを取得し,ヘルシンキ宣言に則り実施した.対象は,超音波有水晶体乳化吸引術による白内障摘出後,水晶体?内にIOLを挿入固定でき,術後矯正視力0.7以上が期待できる10例20眼とした.IOL度数は,両眼とも正視となるように決定した.進行性の糖尿病,コントロール不良の緑内障,活動性のぶどう膜炎,虹彩血管新生,斜視など両眼視機能が異常な症例は除外した.当院における多焦点およびEDOFIOL挿入後の検査に準じて,本IOL挿入後1,3,12カ月時に,遠方(5m)での裸眼視力,矯正視力,自覚屈折等価球面度数を単眼で測定した.また,遠方矯正下で,全距離視力計(AS-15,興和)を用いて,0.3m,0.5m,0.7m,1m,2m,3m,5mでの視力を,単眼,両眼で測定した.全距離視力の経時変化はSche?eの対比較を用いて評価した.p<0.05を統計的に有意差ありとした.II結果対象の年齢は55?82歳(平均:67.6±7.5歳)で,平均眼軸長は23.5±0.8mmであった.単眼視力は全例で測定した.遠方(5m)での裸眼視力,矯正視力,自覚屈折等価球面度数を表1に示す.裸眼視力は経時的な変化はなかった(p=0.11,Freedmantest)が,術後3カ月の自覚屈折等価球面度数は1カ月に比べて有意に大きかった(p=0.001,Holm多重比較).また,左右眼の自覚屈折等価球面度数差は,術後1カ月時は0.01±0.34D,術後12カ月時は0.00±0.23Dであった.単眼視の遠方矯正下における全距離視力を図2に示す.術後1カ月時は,遠方から0.7mまで平均?0.02logMAR(小数:1.04)以上と安定し,それより近方では他の距離より有意に低下した(p<0.042,Sche?eの対比較).術後3カ月時は,遠方から0.7mまで平均0.01logMAR(小数視力:0.98)以上,それより近方では有意に低下した(p<0.0059).術後12カ月時も同様に,遠方から0.7mまで平均0.02logMAR(小数視力:0.95)以上,0.5mと0.3mで低下した(p<0.0037).また,0.5m視力は,術後1カ月と術後3カ月の間で低下傾向がみられた(p=0.052).図3に,挿入後1,3,12カ月時の遠方矯正下における両眼視時の全距離視力を示す.各観測時に測定できたのは,それぞれ8,10,7例であった.術後1カ月時は,遠方から0.5mまで平均?0.03logMAR(小数視力:1.07)以上が得られ,0.3mのみで他の距離より有意に低下した(p<0.0026).術IOL度数1.5D加入図1レンティスコンフォートLS?313MF15光学部はIOL度数の屈折力となる部分と,扇状の+1.5D加入された下方部分とに分節されている.表1挿入後1,3,12カ月時の裸眼視力,矯正視力,自覚屈折等価球面度数裸眼視力,logMAR(平均小数)矯正視力,logMAR(平均小数)自覚屈折等価球面度数1カ月?0.03±0.16(1.08)?0.13±0.08(1.36)?0.21±0.27D3カ月?0.04±0.15(1.09)?0.12±0.09(1.31)0.01±0.27D12カ月?0.07±0.17(1.16)?0.13±0.08(1.36)?0.10±0.12D-0.200.000.200.400.600.801.000.00.51.02.0距離(m)3.05.0-0.200.000.200.400.600.801.000.00.51.02.0距離(m)3.05.0図2術後1,3,12カ月(1M,3M,12M)時における単眼視時の遠方矯正下全距離視力0.3mと0.5mの視力はそれより遠方での視力より有意に低下した(*,p<0.001,Sche?eの対比較).図3術後1,3,12カ月(1M,3M,12M)時における両眼視時の遠方矯正下全距離視力0.3mの視力はそれより遠方での視力より有意に低下した(*,p<0.001,Sche?eの対比較).後3カ月時も,遠方から0.5mまで平均?0.05logMAR(小数視力:0.89)以上が得られ,0.3mのみで他の距離より有意に低下した(p<0.0058).術後12カ月も同様であった(p<0.005).III考按単眼視の全距離視力の結果から,本IOLの挿入により遠方から0.7mまで良好な視力を得ることが可能であることが示唆された.本IOLの近方加入度数+1.5Dは,眼鏡面では約1.0mの近方焦点に相当する.また,本IOL挿入6カ月後に行われた単眼視下の焦点深度の評価では,視力0.8以上が67cmの視距離まで得られることが示されている6).これらの知見は,本検討の結果と一致する.両眼視になると,両眼加算の効果により全距離視力は向上し,0.5mまで良好な視力を得ることが可能であった.本IOL挿入眼の両眼視の焦点深度の評価では,?0.8D加入まで0.2logMAR(小数視力:0.63)が得られると報告されており5),今回の結果と類似していた.遠方矯正下の単焦点IOL挿入眼では,近方では視力が低下する.非球面IOLのZ9000(Johnson&JohnsonSurgicalVision)を挿入した21眼の全距離視力の検討では,遠方視力は視距離1.0mまで維持されているが,0.7m以下の距離では有意に視力低下する7).一方,本IOLでは0.7mまで良好な視力が得られており,+1.5Dの近方加入度数により明視域が広くなったと考えられた.わが国で使用できるEDOFIOLとしてSymfonyZXR00V(Johnson&JohnsonSurgicalVision)があげられる.回折型の光学径により遠方と近方加入度数+1.75Dを有し,近方加入度数は0.69m近方焦点に相当する.遠方矯正下の単眼視力では,遠方から0.5mまで0.9以上の視力が得られている3).また,焦点深度においても約3.0Dの範囲で視力1.0以上が可能となっている.さらに,低加入度数(+2.5D)の多焦点IOLであるSV25T0(Alcon)の臨床試験の結果では,術後1年時の遠方矯正下の5m,1m,0.5m,0.4mでの平均両眼視力は,それぞれ?0.17,0.01,0.08,0.19logMAR(小数視力:1.48,0.98,0.83,0.65)であった8).焦点深度は,正視付近約1.5Dの範囲で視力1.0以上が得られ,?2.0Dにもう一つのピークを有している.これらのIOLと比較すると,本IOLは,加入度数が+1.5Dと一番小さいことを反映し,視距離は単焦点IOLより広いが,EDOFIOLや低加入度数多焦点IOLよりも狭かった.本IOLが使用できるようになったことで,術後の明視域においても選択肢が増え,患者の要望に合わせた老視矯正が提供するものと考えられた.限られた症例数であるが,0.5mにおいて,経時的な単眼視視力の低下傾向がみられ,この傾向は症例数が多くなると顕著になると危惧される.遠方では視力低下がみられないこと,自覚屈折値は安定していることからIOLの偏位による影響は考えにくい.多焦点IOLでは,軽度な後発白内障(posteriorcapsuleopaci?cation:PCO)でも近方視力が低下することが知られている9).国内臨床試験では,術後1年間における後?混濁の発症率は9眼(7.5%)であった6).図1のように本IOLの支持部はplate形状であるためPCOの発生率はopenloopの支持部のIOLより高いと推察される.PCOの影響を調べるために,定量的な評価が望まれる.全距離視力の結果から,低加入度数分節型IOLを用いることで,単眼で遠方から0.7m,両眼で遠方から0.5mまで良好な裸眼視力を得られることが示唆された.得られる明視域は,単焦点IOLより広く,低加入度多焦点IOL,EDOFIOLより狭いことから,患者の希望する明視域に対して,より多くの選択肢が提供できると期待される.文献1)AlioJL,Plaza-PucheAB,Fernandez-BuenagaRetal:Multifocalintraocularlenses:Anoverview.SurvOphthal-mol62:611-634,20172)BreyerDRH,KaymakH,AxTetal:Multifocalintraocu-larlensesandextendeddepthoffocusintraocularlenses.AsiaPacJOphthalmol(Phila)6:339-349,20173)平沢学,太田友香,大木伸一ほか:エシェレット回折デザインを用いた焦点深度拡張型多焦点眼内レンズの術後視機能.あたらしい眼科36:291-294,20194)PedrottiE,BruniE,BonacciEetal:Comparativeanaly-sisoftheclinicaloutcomeswithamonofocalandanextend-edrangeofvisionintraocularlens.JRefractSurg32:436-442,20165)VounotrypidisE,DienerR,WertheimerCetal:Bifocalnondi?ractiveintraocularlensforenhanceddepthoffocusincorrectingpresbyopia:Clinicalevaluation.JCataractRefractSurg43:627-632,20176)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRep11:13117,20197)片岡康志,大谷伸一郎,加賀谷文絵ほか:回折型多焦点非球面眼内レンズ挿入眼の視機能に対する検討.眼科手術23:277-281,20108)ビッセン宮島先生,林研,平沢学ほか:着色非球面+2.5D近方加入多焦点眼内レンズSN6AD2(SV25T0)の臨床試験成績.日眼会誌119:511-520,20159)ElgoharyMA,BeckingsaleAB:E?ectofposteriorcapsu-laropaci?cationonvisualfunctioninpatientswithmono-focalandmultifocalintraocularlenses.Eye(Lond)22:613-619,2008◆**