‘両眼視’ タグのついている投稿

低加入度数分節型眼内レンズ挿入眼における全距離視力

2020年2月29日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(2):226?229,2020c低加入度数分節型眼内レンズ挿入眼における全距離視力木下雄人*1織田公貴*1森洋斉*1子島良平*1南慶一郎*1宮田和典*1大鹿哲郎*2*1宮田眼科病院*2筑波大学医学医療系眼科All-DistanceVisualAcuityafterImplantationofaSegmentedIntraocularLenswith+1.5DAddPowerKatsuhitoKinoshita1),KimitakaOda1),YosaiMori1),RyoheiNejima1),KeiichiroMinami1),KazunoriMiyata1)andTetsuroOshika2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTsukuba目的:+1.5D加入の分節型眼内レンズ(IOL)挿入眼における全距離視力を前向きに検討した.方法:対象は,加齢性白内障により両眼に+1.5D加入の分節型眼内レンズ(LS-313MF15,Oculentis)を挿入した10例20眼(平均年齢:67.6±7.5歳).挿入後1,3,12カ月時に,遠方矯正下における全距離視力を単眼,両眼で測定した.結果:自覚屈折等価球面度数は,術後1カ月で?0.21±0.27D,12カ月で?0.10±0.12Dであった.術後1カ月時の全距離視力は,単眼視では遠方から0.7mまで平均0.95以上と安定し,より近方において有意に低下した(p<0.042,Sche?eの対比較).両眼視も同様に,0.5mまで視力0.76?1.11と安定し,0.3mで低下した(p<0.026).術後12カ月時も同様であったが,0.5mでの単眼視力は術後1?3カ月間で低下する傾向がみられた(p=0.051).結論:全距離視力の結果から,低加入度数分節型IOLを用いることで,単眼で遠方から0.7m,両眼で遠方から0.5mまで良好な裸眼視力を得られることが示唆された.All-distancevisualacuity(VA)afterimplantationofsegmentedintraocularlens(IOL)with+1.5diopter(D)addpowerwasprospectivelyevaluated.SegmentedIOLs(LS-313MF15,Oculentis)wereimplantedin20age-relatedcataracteyesof10patients(meanage:67.6±7.5years),anddistance-correctedall-distanceVAsweremeasuredat1-,3-,and12-monthspostoperativelyusingtheall-distancevisiontesterundermonocularandbinoc-ularvision.Themeanmanifestrefractionsphericalequivalentat1-and12-monthspostoperativelywas?0.21±0.27Dand?0.10±0.12D,respectively.At1-monthpostoperatively,themeanmonocularall-distanceVAwas0.95orbetterfromfarto0.7meters(m),anddecreasedatnearerdistances(p<0.042).Binocularly,thestableVA(0.76-1.11)wasobtaineduntil0.5m,andtheVAat0.3mwaslowerthanatotherdistances(p<0.026).Therewasnodi?erenceat12monthspostoperatively.InthemonocularVAsat0.5m,therewasaslightdecreasefrom1-to3-months(p=0.051).Theall-distanceVAresultsdemonstratedthattheuseofthelowaddpowersegmentedIOLallowedforpreferableuncorrectedVAsuntil0.7mand0.5mundermonocularandbinocularvision,respectively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(2):226?229,2020〕Keywords:低加入度数分節型眼内レンズ,全距離視力,両眼視.low-add-powersegmentedintraocularlens,all-distancevisualacuity,binocularvision.はじめに白内障手術時に挿入される眼内レンズ(intraocularlens:IOL)として,乱視を矯正するトーリックIOL,遠方視力に加えて近方視力も提供可能な多焦点IOL,そして,焦点深度を拡張することで視距離が広くなった焦点深度拡張型(extend-eddepthoffocus:EDOF)IOLが臨床使用可能となり,術後に眼鏡が不要,あるいは,使用頻度が低くても支障ない術後生活を提供することが可能となっている1?3).しかしながら,近方視力への加入度数が大きいほど,多焦点IOL挿入後のコントラスト感度の低下,グレア,ハローなどの光障害〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,MD,PhD,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN226(112)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYが重度となる.そのため,近年,それらの合併症が軽減される低加入度数の多焦点IOL1,3)やEDOFIOL4)が注目されている.レンティスコンフォートLS-313MF15(Oculentis)は,わが国で承認された低加入度数分節型IOLである.親水性アクリル製,支持部はplate形状で,6mm径の光学部はIOL度数の屈折力となる部分と,扇状の+1.5D加入された下方部分とに分節されている(図1).低加入度数の領域が含まれているため,単焦点IOLより広い明視域,最小限のコントラスト感度の低下,光障害の低減が期待できる.Vou-notrypidisらの評価では,遠方,中間距離(80cm)で良好な視力が得られ,光障害の自覚は少なく(9.1%),さらに,両眼defocuscurveでは,0.20logMAR以上の視力が±1.0Dの範囲で得られている5).しかし,遠方から近方30cmまでの全距離視力と,生活視力に匹敵する両眼全距離視力は評価されていない.そこで本レンズ挿入眼における単眼視,両眼視での全距離視力を前向きに評価した.I対象および方法本レンズの多施設臨床試験(65例120眼,経過観察52週間)が2016年9月より行われた6).宮田眼科病院はその一施設として,当院の施設内審査委員会(InstitutionalReviewBoard:IRB)承認後,文書によるインフォームド・コンセントを取得し,ヘルシンキ宣言に則り実施した.対象は,超音波有水晶体乳化吸引術による白内障摘出後,水晶体?内にIOLを挿入固定でき,術後矯正視力0.7以上が期待できる10例20眼とした.IOL度数は,両眼とも正視となるように決定した.進行性の糖尿病,コントロール不良の緑内障,活動性のぶどう膜炎,虹彩血管新生,斜視など両眼視機能が異常な症例は除外した.当院における多焦点およびEDOFIOL挿入後の検査に準じて,本IOL挿入後1,3,12カ月時に,遠方(5m)での裸眼視力,矯正視力,自覚屈折等価球面度数を単眼で測定した.また,遠方矯正下で,全距離視力計(AS-15,興和)を用いて,0.3m,0.5m,0.7m,1m,2m,3m,5mでの視力を,単眼,両眼で測定した.全距離視力の経時変化はSche?eの対比較を用いて評価した.p<0.05を統計的に有意差ありとした.II結果対象の年齢は55?82歳(平均:67.6±7.5歳)で,平均眼軸長は23.5±0.8mmであった.単眼視力は全例で測定した.遠方(5m)での裸眼視力,矯正視力,自覚屈折等価球面度数を表1に示す.裸眼視力は経時的な変化はなかった(p=0.11,Freedmantest)が,術後3カ月の自覚屈折等価球面度数は1カ月に比べて有意に大きかった(p=0.001,Holm多重比較).また,左右眼の自覚屈折等価球面度数差は,術後1カ月時は0.01±0.34D,術後12カ月時は0.00±0.23Dであった.単眼視の遠方矯正下における全距離視力を図2に示す.術後1カ月時は,遠方から0.7mまで平均?0.02logMAR(小数:1.04)以上と安定し,それより近方では他の距離より有意に低下した(p<0.042,Sche?eの対比較).術後3カ月時は,遠方から0.7mまで平均0.01logMAR(小数視力:0.98)以上,それより近方では有意に低下した(p<0.0059).術後12カ月時も同様に,遠方から0.7mまで平均0.02logMAR(小数視力:0.95)以上,0.5mと0.3mで低下した(p<0.0037).また,0.5m視力は,術後1カ月と術後3カ月の間で低下傾向がみられた(p=0.052).図3に,挿入後1,3,12カ月時の遠方矯正下における両眼視時の全距離視力を示す.各観測時に測定できたのは,それぞれ8,10,7例であった.術後1カ月時は,遠方から0.5mまで平均?0.03logMAR(小数視力:1.07)以上が得られ,0.3mのみで他の距離より有意に低下した(p<0.0026).術IOL度数1.5D加入図1レンティスコンフォートLS?313MF15光学部はIOL度数の屈折力となる部分と,扇状の+1.5D加入された下方部分とに分節されている.表1挿入後1,3,12カ月時の裸眼視力,矯正視力,自覚屈折等価球面度数裸眼視力,logMAR(平均小数)矯正視力,logMAR(平均小数)自覚屈折等価球面度数1カ月?0.03±0.16(1.08)?0.13±0.08(1.36)?0.21±0.27D3カ月?0.04±0.15(1.09)?0.12±0.09(1.31)0.01±0.27D12カ月?0.07±0.17(1.16)?0.13±0.08(1.36)?0.10±0.12D-0.200.000.200.400.600.801.000.00.51.02.0距離(m)3.05.0-0.200.000.200.400.600.801.000.00.51.02.0距離(m)3.05.0図2術後1,3,12カ月(1M,3M,12M)時における単眼視時の遠方矯正下全距離視力0.3mと0.5mの視力はそれより遠方での視力より有意に低下した(*,p<0.001,Sche?eの対比較).図3術後1,3,12カ月(1M,3M,12M)時における両眼視時の遠方矯正下全距離視力0.3mの視力はそれより遠方での視力より有意に低下した(*,p<0.001,Sche?eの対比較).後3カ月時も,遠方から0.5mまで平均?0.05logMAR(小数視力:0.89)以上が得られ,0.3mのみで他の距離より有意に低下した(p<0.0058).術後12カ月も同様であった(p<0.005).III考按単眼視の全距離視力の結果から,本IOLの挿入により遠方から0.7mまで良好な視力を得ることが可能であることが示唆された.本IOLの近方加入度数+1.5Dは,眼鏡面では約1.0mの近方焦点に相当する.また,本IOL挿入6カ月後に行われた単眼視下の焦点深度の評価では,視力0.8以上が67cmの視距離まで得られることが示されている6).これらの知見は,本検討の結果と一致する.両眼視になると,両眼加算の効果により全距離視力は向上し,0.5mまで良好な視力を得ることが可能であった.本IOL挿入眼の両眼視の焦点深度の評価では,?0.8D加入まで0.2logMAR(小数視力:0.63)が得られると報告されており5),今回の結果と類似していた.遠方矯正下の単焦点IOL挿入眼では,近方では視力が低下する.非球面IOLのZ9000(Johnson&JohnsonSurgicalVision)を挿入した21眼の全距離視力の検討では,遠方視力は視距離1.0mまで維持されているが,0.7m以下の距離では有意に視力低下する7).一方,本IOLでは0.7mまで良好な視力が得られており,+1.5Dの近方加入度数により明視域が広くなったと考えられた.わが国で使用できるEDOFIOLとしてSymfonyZXR00V(Johnson&JohnsonSurgicalVision)があげられる.回折型の光学径により遠方と近方加入度数+1.75Dを有し,近方加入度数は0.69m近方焦点に相当する.遠方矯正下の単眼視力では,遠方から0.5mまで0.9以上の視力が得られている3).また,焦点深度においても約3.0Dの範囲で視力1.0以上が可能となっている.さらに,低加入度数(+2.5D)の多焦点IOLであるSV25T0(Alcon)の臨床試験の結果では,術後1年時の遠方矯正下の5m,1m,0.5m,0.4mでの平均両眼視力は,それぞれ?0.17,0.01,0.08,0.19logMAR(小数視力:1.48,0.98,0.83,0.65)であった8).焦点深度は,正視付近約1.5Dの範囲で視力1.0以上が得られ,?2.0Dにもう一つのピークを有している.これらのIOLと比較すると,本IOLは,加入度数が+1.5Dと一番小さいことを反映し,視距離は単焦点IOLより広いが,EDOFIOLや低加入度数多焦点IOLよりも狭かった.本IOLが使用できるようになったことで,術後の明視域においても選択肢が増え,患者の要望に合わせた老視矯正が提供するものと考えられた.限られた症例数であるが,0.5mにおいて,経時的な単眼視視力の低下傾向がみられ,この傾向は症例数が多くなると顕著になると危惧される.遠方では視力低下がみられないこと,自覚屈折値は安定していることからIOLの偏位による影響は考えにくい.多焦点IOLでは,軽度な後発白内障(posteriorcapsuleopaci?cation:PCO)でも近方視力が低下することが知られている9).国内臨床試験では,術後1年間における後?混濁の発症率は9眼(7.5%)であった6).図1のように本IOLの支持部はplate形状であるためPCOの発生率はopenloopの支持部のIOLより高いと推察される.PCOの影響を調べるために,定量的な評価が望まれる.全距離視力の結果から,低加入度数分節型IOLを用いることで,単眼で遠方から0.7m,両眼で遠方から0.5mまで良好な裸眼視力を得られることが示唆された.得られる明視域は,単焦点IOLより広く,低加入度多焦点IOL,EDOFIOLより狭いことから,患者の希望する明視域に対して,より多くの選択肢が提供できると期待される.文献1)AlioJL,Plaza-PucheAB,Fernandez-BuenagaRetal:Multifocalintraocularlenses:Anoverview.SurvOphthal-mol62:611-634,20172)BreyerDRH,KaymakH,AxTetal:Multifocalintraocu-larlensesandextendeddepthoffocusintraocularlenses.AsiaPacJOphthalmol(Phila)6:339-349,20173)平沢学,太田友香,大木伸一ほか:エシェレット回折デザインを用いた焦点深度拡張型多焦点眼内レンズの術後視機能.あたらしい眼科36:291-294,20194)PedrottiE,BruniE,BonacciEetal:Comparativeanaly-sisoftheclinicaloutcomeswithamonofocalandanextend-edrangeofvisionintraocularlens.JRefractSurg32:436-442,20165)VounotrypidisE,DienerR,WertheimerCetal:Bifocalnondi?ractiveintraocularlensforenhanceddepthoffocusincorrectingpresbyopia:Clinicalevaluation.JCataractRefractSurg43:627-632,20176)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRep11:13117,20197)片岡康志,大谷伸一郎,加賀谷文絵ほか:回折型多焦点非球面眼内レンズ挿入眼の視機能に対する検討.眼科手術23:277-281,20108)ビッセン宮島先生,林研,平沢学ほか:着色非球面+2.5D近方加入多焦点眼内レンズSN6AD2(SV25T0)の臨床試験成績.日眼会誌119:511-520,20159)ElgoharyMA,BeckingsaleAB:E?ectofposteriorcapsu-laropaci?cationonvisualfunctioninpatientswithmono-focalandmultifocalintraocularlenses.Eye(Lond)22:613-619,2008◆**

偏光フィルタを用いた視野異常検出の試み

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(145)1467《原著》あたらしい眼科27(10):1467.1471,2010cはじめに視野異常を示す疾患は多数あり,健康診断において視野異常を早期発見することによって早期治療につながる疾患も多数ある.しかし,視野検査は自治体健康診断において法律で義務化されておらず,検査機器や労力が必要であるため実施している自治体はごくわずかであると思われる1).特に,視野異常をきたす代表的な疾患である緑内障の有病率は40歳以上で5.0%であり,そのうえ約90%の患者は未治療の潜在患者であると推定された2).緑内障は現在,中途失明の原因疾患の第1位となっており3),緑内障性視神経障害および視野障害は基本的には進行性・非可逆性であり,多くの場合,患者の自覚なしに障害が徐々に進行するため,早期発見・早期治療が特に重要な疾患である.現在までに視野のスクリーニング機器としてFrequency〔別刷請求先〕望月浩志:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医療系研究科臨床医科学群眼科学Reprintrequests:HiroshiMochizuki,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityGraduateSchool,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0373,JAPAN偏光フィルタを用いた視野異常検出の試み望月浩志*1庄司信行*1,2柳澤美衣子*1浅川賢*1平澤一法*1福田真理*2*1北里大学医療系研究科臨床医科学群眼科学*2北里大学医療系研究科感覚・運動統御医科学群視覚情報科学AttempttoDetectVisualFieldDefectsUsingPolarizingFilterHiroshiMochizuki1),NobuyukiShoji1,2),MiekoYanagisawa1),KenAsakawa1),KazunoriHirasawa1)andMariFukuda2)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KitasatoUniversity,2)DepartmentofVisualScience,GraduateSchoolofMedicalScience,KitasatoUniversity偏光フィルタを用い,両眼開放下で視野異常を検出する方法について検討を行った.正常若年者6名に,Bangerterfilterを検眼レンズの鼻上側もしくは鼻下側に貼り付けて直径約15°の比較暗点を作成した.偏光の原理を用いたディスプレイ(縦27.5°,横42.8°)に,右眼だけに見える赤い円と左眼だけに見える青い円を交互に配置した映像を提示した.偏光フィルタを装用し,中心の固視標を固視しているとき赤および青い円の見えない部位を答えてもらい,HumphreyRFieldAnalyzerで測定した視野異常とどの程度一致するかを検討した.10°以内の感度は95.0%,特異度は94.7%,10°.20°の感度は34.4%,特異度は97.0%であった.Mariotte盲点を除くと10°.20°の感度は67.6%となった.HumphreyRFieldAnalyzerで測定点の閾値が6dB以上低下する測定点ではおよそ50%以上の検出率が得られた.本法により,中心視野異常を検出できる可能性が示唆された.Weattemptedtodetectvisualfielddefects(VFD)usingapolarizingfilter,underbinocularvision;VFD15°indiameterweresimulatedwithaBangerterfilter.Inthe6youngvolunteersinvolvedinthisstudy,2patternsofVFDweresimulated:oneuppernasalandonelowernasal.Aredcirclethatcouldbeseenontherighteyeandabluecirclethatcouldbeseenonthelefteye,withapolarizingfilter,werealternatelyprojectedonapolarizingdisplay.Thesubjectslookedatacentralfixationtargetandindicatedtheplaceatwhichtheycouldnotseetheredorbluecircle.CorrespondencesoftheVFDwiththeHumphreyRFieldAnalyzer(HFA)andwiththedisplaywereinvestigated.Sensitivitywas95.0%inside10°and34.4%withinthecircularareafrom10°to20°;specificitywas94.7%and97.0%,respectively.Sensitivitywas67.6%withinthecircularareafrom10°to20°withouttheblindspotofMariotte.Wewereabletodetect50%ormoreofthemeasurementpointsinthedisplaywhenthethresholdofthemeasurementpointonHFAdecreased6dBormore.TheseresultsindicatethatthismethodcoulddetectcentralVFD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1467.1471,2010〕Keywords:視野,視野異常,両眼視,偏光フィルタ.visualfield,visualfielddefect,binocularvision,polarizingfilter.1468あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(146)DoublingTechnology(FDT)やノイズフィールドテスト,鈴木式アイチェックチャートなどいくつかの方法が提案されている.しかし,これらの機器はいずれも片眼ずつ行う機器である.そこで筆者らは,両眼同時に視野検査ができれば従来の方法に比べて測定時間が短く効率的に視野異常のスクリーニングができるのではないかと考えた.両眼開放下で視野異常を検出するには,両眼で見た状態と片眼で見た状態で見え方に違いがあればよい.そこで考えられる方法として,赤緑フィルタを用いる方法と偏光フィルタを用いる方法があげられる.赤緑フィルタを用いる方法は,2009年の国際視野学会にてSuzukiらが報告している4).赤緑フィルタを使用した場合,両眼で見ると赤と緑の混色に見えるが,視野の一部分に暗点がある場合は両眼開放の状態ではその部分で片眼でしか見ていないことになり,赤もしくは緑の単色に見えるという原理である.偏光フィルタを用いる方法は,偏光の原理を用いて左右眼それぞれに別の映像を提示する方法である.赤緑フィルタは装用すると赤と緑のフィルタ越しに見るため日常視の状態とはかけ離れた見え方になるが,偏光フィルタを装用した状態では日常両眼視の状態と見え方に大差がなく,高解像度の映像を提示できるという利点がある.現在,エンターテイメントの分野では立体(3D)映像が脚光を浴びており3D映画や3Dデジタルカメラなどが注目されているが,そこでおもに使用されている方式が偏光フィルタ方式であり,関連機器が手に入りやすいという利点もある5,6).今回,筆者らは従来の方法と比較して短時間で視野異常のスクリーニングを行うために両眼開放の状態での視野異常の検出を目指して,正常若年者にBangerterfilterを用いて作成した疑似的な視野異常と偏光フィルタで左右眼それぞれに別の映像を同時に提示したときに自覚した視野異常がどの程度一致するかを検討した.I対象および方法1.対象対象は,屈折異常以外に眼疾患を有さない正常若年者6名(23.0±2.4歳)で,TitmusStereoTestにて一般的に正常値といわれている100sec.ofarcよりも良好であることを確認した.また,HumphreyRFieldAnalyzer(CarlZeissMeditecInc.)にて,Anderson-Patellaの視野異常の判定基準7)に照らし合わせ有意な視野異常がないことを確認した.2.方法a.疑似視野異常の作成方法(図1)疑似的な視野異常は,直径10mmのBangerterfilterを検眼レンズに貼り付けて全員共通の右眼に作成した.このBangerterfilterにて直径約15°の比較暗点が作成できる.視野異常作成位置は,HumphreyRFieldAnalyzerのアイモニタにおいてBangerterfilterで瞳孔の鼻上側および鼻下側が少しだけ隠れるようにBangerterfilterを貼り付けた検眼レンズの位置を調整し1人につき鼻上側および鼻下側視野異常の2パターンを作成した.今回作成した全視野異常のHumphreyRFieldAnalyzer(HFA)30-2SITA-Standardにおける,meandeviation(MD)値の平均は.3.21dB,patternstandarddeviation(PSD)値の平均は4.90dBであった.b.使用機器円偏光の原理により立体映像を映し出すことのできる機器として市販されている3D平面ディスプレイZM-M220W(ZalmanTech.Co.,Ltd.)を用いた.ディスプレイの大きさは22インチ(縦29.3cm×横47.0cm)で,ディスプレイから60cm離れた位置で垂直27.5°×水平42.8°の視野が得られる.すなわちディスプレイの中心を見た場合,上下それぞれに約14°左右それぞれに約21°の視野範囲に映像を提示するBangerterfilter(直径10mm)図1疑似視野異常の作成上図:直径10mmのBangerterfilterを貼り付けた検眼レンズ(右眼鼻上側視野異常作成の場合).下図:Bangerterfilterを貼り付けた検眼レンズに対応する視野異常.視野異常はおよそ直径15°の比較暗点になる.(147)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101469ことができる.c.使用映像(図2)映像は,赤い円と青い円が交互に並んでおり,中心部には小さな黒い円を5つ配置し,そのうちの中心の1点を固視標として配置したものを使用した.偏光を利用し,右眼には赤い円のみが見え,左眼には青い円のみが見えるように提示した.すなわち,右眼に視野異常がある場合は赤い円が消えて見え,左眼に視野異常がある場合は青い円が消えて見える.赤と青の円の配置はHumphreyRFieldAnalyzer(HFA)30-2の測定点に準じ,HFAの1つの測定点に赤い円と青い円がそれぞれ1つずつ提示できるような配置とした.d.測定手順はじめにHFA30-2SITA-Standardにて,疑似的な視野異常を右眼に作成した状態で片眼ずつの視野を測定した.つぎに,ディスプレイにて,まず中心の固視標を固視した状態で赤と青の円が交互に見えるかを確認し,つぎに固視標を固視したまま赤と青の円のうち消えて見えるもの・ぼやけて見えるものを記録用紙に記入してもらった.ディスプレイにおける固視の状態については被験者の斜め前方から目視にて確認し,必要に応じて固視標を固視し続けるよう声かけを行った.1人につき,HFAおよびディスプレイの測定を上鼻側・下鼻側の2パターンにて行った.検眼レンズにて視野異常を作成する場合,レンズの位置が眼に対して少しでもずれてしまうと視野異常の位置が大きくずれてしまう.HFAとディスプレイでの視野異常の位置を一致させるために,HFAで通常使用するレンズホルダーは使用せず検眼枠を使用してHFAにて視野を測定し,そのまま検眼枠を装用した状態でディスプレイにて測定した.疑似的な視野異常の再現性を確かめるために対象者2名でBangerterfilterを貼付した検眼枠を装用してHFA30-2SITA-Standardを5分の休憩を挟んだ3回の視野測定を行った.それぞれの測定点の閾値の変動係数は平均で10%以下であり良好な再現性が得られた.e.検討項目HFAのパターン偏差確率プロットに対しディスプレイの自覚的な見え方について,以下の式で感度・特異度を算出した.感度=HFAの確率プロットで異常ありかつディスプレイにて視野異常を検出した測定点の数/HFAにて異常があった測定点の数×100特異度=HFAの確率プロットで異常なしかつディスプレイにて視野異常を検出しなかった測定点の数/HFAにて異常がなかった測定点の数×100視野異常を作成した右眼のHFAパターン偏差における測定点ごとの感度低下量とディスプレイにおける視野異常検出率の関係についても検討した.II結果まず,フィルタをつけずに右眼と左眼の映像を同時視することができるかどうかを確認したところ,被験者全員において可能であり,赤と青の円が交互に並んだ映像を得ることができた.視野全体の感度は,HFAパターン偏差確率プロットにおいて<0.5%と表示された測定点では42.5%,確率プロットが<5%と表示された測定点では38.5%であった.視野10°以内では,確率プロットが<0.5%と表示された測定点では95.0%,確率プロットが<5%と表示された測定点でも66.8%と良好であった.しかし,視野10°より周辺側では,確率プロットが<0.5%と表示された測定点では34.4%,確率プロットが<5%と表示された測定点では33.8%と感度は低下した.視野10°より周辺側でMariotte盲点を除いた感度は,確率プロットが<0.5%と表示された測定点では67.6%,確率プロットが<5%と表示された測定点では49.6%と,Mariotte盲点を含んだ感度より良好であった.特異度は,視野全体,10°以内,10°より周辺側のすべてで90%以上が得られた(表1).今回の方法では,ディスプレイにおいて視野異常の検出率左眼同時視固視標●:青色●:赤色右眼図2使用映像左図:右眼に赤い円・左眼に青い円を等間隔に配置した映像を提示し,両眼融像すると赤と青の円が交互に並んだ映像が得られる.右眼および左眼の映像の中心部の小さな黒い5つの円は融像図形で,中心の1点は固視標も兼ねる.右図:HumphreyRFieldAnalyzer30-2の1つの測定点に対して赤と青の円がそれぞれ1つずつ提示できるように配置した.1470あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(148)50%以上を得るにはHFAパターン偏差における感度低下量で6dB以上の感度低下が必要であった(図3).III考按偏光フィルタを用いて両眼開放下で視野異常の検出を試み,20°より内側の視野で感度は約40%,10°より内側の感度は約70.90%,10°より外側の感度は約30%であり,周辺部では感度が低かった.従来から知られているように,視力は中心窩の部位を頂点として中心から離れると視力は大幅に低下する.その低下量は,中心窩の視力が1.0のとき周辺10°では視力0.2,周辺20°では視力0.1程度と急激に低下する8).そのほかに,空間周波数閾値やコントラスト感度においても周辺部で低下することが報告されている9,10).また,解剖学的に中心窩から離れるほど錐体の密度は減少し11),錐体と網膜神経節細胞の接続も中心窩近くでは1つの錐体に2つの網膜神経節細胞が接続しているが周辺部では錐体1つあたりに接続する網膜神経節細胞の数は低下してゆく12).これらの事実から,視野周辺部では視覚情報の質的・量的低下が起こり,他の視機能と同様に周辺部で立体視力が低下し,視野異常の検出率が低下したものと考えられる.10°より外側の感度はMariotte盲点を除いた場合は40.60%であったが,Mariotte盲点を含めた場合は30%と,Mariotte盲点の検出が困難であった.この理由としてfilling-in(視覚充.)現象の影響が考えられる.Filling-in現象とは,ある背景の上に別パターンをもった小さな領域があるとき,その小さな領域が背景によって充.される現象で,Mariotte盲点や暗点の自覚を妨げる要因として知られている13.15).Filling-in現象は,何らかの理由で出現した暗点よりも生理的なMariotte盲点できわめて迅速に働くことから,作成した疑似的な視野異常よりもMariotte盲点でその作用が強く働き,Mariotte盲点の検出感度の低下につながったのではないかと考えられる13.15).また,長年存在した視野障害に対してもfilling-in現象が生じる可能性があるため検出しづらいことが予想され,今後実際の患者での検討が必要である.今回,正常若年者にBangerterfilterを用いて視野異常を作成しているため,HFAをレンズホルダーではなく検眼枠で測定するという工夫をしたにもかかわらず,少し眼の位置が変わったり顔の向きが変わってしまうと視野異常の位置が変わってしまうという様子がみられた.より正確な視野異常の作成でさらなる視野異常の感度の向上する可能性がある.この検査の特性上,両眼視機能に異常のある被験者には検査できないが,より多くの被験者に検査を行うことのできるような提示映像を今後検討する必要がある.Mariotte盲点:検出可:検出不可05101520402040608010006視野異常検出率(%)パターン偏差における低下量(dB)図3HFAのパターン偏差における感度低下量と3Dディスプレイにおける視野異常検出率の関係横軸:HumphreyRFieldAnalyzerのパターン偏差における感度低下量(dB),縦軸:3D平面ディスプレイにおける視野異常検出率(%).ディスプレイにおいて視野異常の検出率50%以上を得るには,HFAパターン偏差における感度低下量で6dB以上の感度低下が必要であった.表1視野部位別の感度・特異度感度特異度HFAパターン偏差確率プロット<0.5%HFAパターン偏差確率プロット<1%HFAパターン偏差確率プロット<2%HFAパターン偏差確率プロット<5%全体42.540.838.138.596.010°以内95.080.073.166.894.710°.20°34.434.130.933.897.010°.20°(Mariotte盲点除く)67.664.141.249.697.0(149)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101471文献1)緑内障フレンド・ネットワーク「プレスリリース2006年10月2日付け:全国自治体健康診断実態調査(全国)」<http://xoops.gfnet.gr.jp/pdf/2006/061002_Zenkoku.pdf>(最終アクセス2009年12月9日)2)岩瀬愛子:緑内障:多治見・久米島スタディ.日本の眼科79:1685-1689,20083)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正ほか:長寿社会と眼疾患─最近の視覚障害原因の疫学調査から─.GeriatMed44:1221-1224,20064)SuzukiT:Trialmodelofperimeterformeasuringbinocularandmonocularvisualfieldsseparatelywhileopeningbotheyes.18thInternationalVisualField&ImagingSymposiumprogram&abstractbook:37,20085)柴垣一貞:メガネを用いた両眼視差による立体映像技法の考察.熊本電波工業高等専門学校研究紀要23:77-84,19966)増田忠英:いよいよ「3D」の時代が到来!?.続々と実用化される3次元映像の技術.(前編).労働の科学64:240-243,20097)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,19998)WertheimTH:Peripheralvisualacuity.AmJOptomPhysiolOpti57:915-924,19809)ThibosLN,CheneyFE,WalshDJ:Retinallimitstothedetectionandresolutionofgratings.JOptSocAmA4:1524-1529,198710)ThibosLN,StillDL,BradleyA:Characterizationofspatialaliasingandcontrastsensitivityinperipheralvision.VisionRes36:249-258,199611)CurcioCA,SloanKR,KalinaREetal:Humanphotoreceptortopography.JCompNeurol292:497-523,199012)CurcioCA,AllenKA:Topographyofganglioncellsinhumanretina.JCompNeurol300:5-25,199013)RamachandranVS,GregoryRL:Preceptualfilinginofartificiallyinducedscotomasinhumanvision.Nature350:699-702,199114)ZurD,UllmanS:Filling-inofretinalscotomas.VisionRes43:971-982,200315)DeWeerdP:Perceptualfiling-in:Morethantheeyecansee.ProgBrainRes154:227-245,2006***