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手洗いチェッカー直視による光傷害の1 例

2026年2月28日 土曜日

《原著》あたらしい眼科43(2):205.209,2026c手洗いチェッカー直視による光傷害の1例岡本紀夫*1坂口裕和*2*1おかもと眼科*2広島大学大学院医学系科学研究科視覚病態学CACaseofLightDamageCausedbyDirectViewingofaHandwashingCheckerNorioOkamoto1)andHirokazuSakaguchi2)1)Okamotoeyeclinic,2)GraduateSchoolofBiomedicalSciencesDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityC目的:手洗いチェッカー直視による光傷害の長期経過を報告する.症例:患者はC38歳,女性.コンタクトレンズ処方希望でおかもと眼科を受診した.現病歴はC20歳のときに食品会社に勤務中,興味本位で手洗いチェッカーを直視したあとから視力低下を自覚した.視力は右眼(1.2),左眼(0.4Cp)で左眼の視力が低下していた.眼底検査で,右眼は正常,左眼は網膜下白斑がみられ,黄斑部の反射は不明瞭であった.光干渉断層計(OCT)で網膜色素上皮(RPE)ラインの菲薄化がみられた.フルオレセイン蛍光造影とインドシアニングリーン蛍光造影で脈絡膜新生血管はみられなかったが,眼底自発蛍光は低蛍光であった.X+5年C7月,半年前よりもやもやしたものが見えることで再診した.左眼(0.2)と低下していた.左眼の眼底所見で黄斑部の網膜変性が進行していた.OCTで初診時と比較して脈絡膜信号の増強がみられた.X+10年の左眼視力は(0.2)で,眼底所見は地図状萎縮を呈していた.OCTで,萎縮型加齢黄斑変性(AMD)でみられる外顆粒層の消失,外境界膜の途絶,脈絡膜信号の増強,RPEラインの菲薄化があった.結論:手洗いチェッカーを直視した場合は,長期間にわたって注意深く経過観察をする必要がある.CPurpose:ToCreportCtheClong-termCclinicalCcourseCinCaCcaseCofClight-relatedCocularCdamageCcausedCbyCdirectCviewingofahandwashingchecker.CaseReport:A38-year-oldfemalevisitedOkamotoEyeClinicforacontactlensCprescription.CWhenCsheCwasC20CyearsCold,CsheCwasCworkingCatCaCfoodCcompanyCwhenCsheCbecameCawareCofCvisionlossafterlookingdirectlyatahandwashingcheckeroutofcuriosity.Visualacuity(VA)was1.2intherighteyeand0.4inthelefteye,withdecreasedvisioninthelefteye.Fundusexaminationrevealednormal.ndingsintherighteyeandsubretinalwhitedotsinthelefteyewithabnormalmacularre.ection.Opticalcoherencetomog-raphy(OCT)showedCthinningCofCtheCretinalCpigmentCepithelium.CFluoresceinCandCindocyanineCgreenC.uorescenceCfundusexaminationrevealednochoroidalneovascularization,yetfundusauto.uorescencewashypo.uorescent.InJuly2015,thepatientwasseenagainduetoahazyappearancefrom6-monthsearlier,andVAinthelefteyehaddecreasedto0.2.Fundusexaminationofthelefteyerevealedprogressiveretinaldegenerationinthemaculararea,andOCTshowedenhancedchoroidalsignalcomparedtotheinitialexamination.Atafollow-upvisit10-yearslat-er,VAwas0.2inthelefteye,andfundus.ndingsshowedatrophyofthefundus.OCTshowedlossoftheoutergranularlayer,disruptionoftheouterlimitingmembrane,enhancedchoroidalsignal,andretinalpigmentepitheli-umCthinning.CConclusion:InCpatientsCwithClight-relatedCocularCdamageCdueCtoCdirectCobservationCofCaChandwashCchecker,carefullong-termfollow-upisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(2):205.209,C2026〕Keywords:手洗いチェッカー,ブラックライト,光傷害,黄斑萎縮,長期経過.handwashingchecker,blacklight,lightinjury,macularatrophy,long-termfollowup.Cはじめにーザー誤照射などの報告が散見される1).今回,コンタクト光が眼球に及ぼす作用は,熱作用,光化学作用,物理的作レンズ処方を希望にて筆者の施設(おかもと眼科)を受診し,用などがあげられる.レーザーポインターやCNd:YAGレ眼底所見で黄斑部に異常所見がみられたので,問診でC18年〔別刷請求先〕岡本紀夫:〒564-0041大阪府吹田市泉町C5-11-12-312おかもと眼科Reprintrequests:NorioOkamoto,M.D.,Ph.D.,OkamotoEyeClinic,5-11-12-312,Izumi-ChoSuita,Osaka564-0041,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(87)C205図1初診時および初診10年後の眼底写真a:初診時カラー眼底写真.黄斑部の反射は不明瞭で網膜下白斑がみられた(.).b:初診C10年後の眼底写真.地図状の萎縮がみられた.図2初診時IR画像網膜下白斑は強い高反射となっている(.).前に食品会社勤務中に手洗いチェッカーを直視したあとより視力低下を自覚したことから,手洗いチェッカーの使用されているブラックライトが原因で視力低下をきたしたと考えられたC1例を経験したので報告する.CI症例初診日:(X年C9月).患者:38歳,女性.主訴:コンタクトレンズ(contactlens:CL)処方を希望.既往歴:なし.現病歴:20歳のときに食品会社に勤務中,興味本位で手洗いチェッカーを,下から左に頸を傾け,左眼で約C10Ccmの距離より約C1分程度覗いた後から左眼の視力低下を自覚した.初診時所見:視力は右眼C0.03(1.2C×sph.7.25D),左眼0.05(0.4CpC×sph.6.00D).眼圧は正常で,前眼部,中間透光体に異常をみられなかった.眼底は,右眼は正常,左眼は網膜下白斑がみられ,中心窩の反射は不明瞭であった(図1a).赤外線画像(infraredimage:IR)では,網膜下白斑は高反射を示した(図2).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で左眼の網膜色素上皮(retinalCpig-mentepithelium:RPE)ラインの菲薄化,網膜下線維性瘢痕(高さC145Cμm)がみられた(図3a).大学病院に精査目的にて紹介した.フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCangi-ography:FA)とインドシアニングリーン蛍光造影(indocy-aninegreenangiography:IA)では脈絡膜新生血管(choroi-dalneovascularization:CNV)がみられなかったが,眼底自発蛍光は低蛍光であった.経過:半年前よりもやもやしたものが見えることでCX+5年C7月に再診した.視力は右眼C0.04(1.0C×sph.9.25D),左眼C0.01(0.2C×.7.5D)であった.変視はなかった.左眼の眼底所見で黄斑部の網膜変性が進行していた.OCTで,右眼は脈絡膜陥凹を認め,左眼は網膜下線維性瘢痕(145Cμm)に変化がなく,初診時と比較して脈絡膜信号の増強がみられ206あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026(88)ab図3初診時および5年後の眼底写真とOCTa:初診時カラー眼底写真とOCT.網膜色素上皮(RPE)ラインの菲薄化がみられ(),網膜下線維性瘢痕(高さC145Cμm)がある(.).b:5年後の眼底写真とCOCT.眼底写真は,初診時と比較して萎縮が進行している(.).OCTで網膜下線維性瘢痕に変化がないが,脈絡膜信号の増強がある(.).図4初診10年後の黄斑萎縮のOCT(水平断)CompleteRPEandouterretinalatrophy(cRORA)のCOCT所見と類似している.た(図3b).で認められる外顆粒層の消失,外境界膜の途絶,脈絡膜信号CX+10年C3月に精査希望で再診した.視力は右眼C0.04(1.0の増強,RPEラインの菲薄化がみられた.網膜下線維性瘢痕に変化はなかった(図4).プロジェクション画像で脈絡膜眼底所見は地図状萎縮を呈していた(図1b).OCTで,萎縮中大血管が明瞭にみられ,光干渉断層血管撮影(OCTCangi-型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)ography:OCTA)でも脈絡膜中大血管が明瞭にみられるが,5D)であった.左眼のC.7×.,左眼0.01(0.29.25D).sph×(89)あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026207図5初診10年後のプロジェクション画像(a)とOCTangiography(OCTA)(b)脈絡膜中大血管が明瞭にみられる.脈絡膜新生血管(CNV)はみられない.CNVはみられなかった(図5).X+10年C6月軽度の白内障がみられた.CII考按食品を扱う会社では,衛生管理のため紫外線を使用した機器が設置されている.殺菌灯,害虫灯,手洗いチェッカーがあり,それぞれ紫外線の波長が異なっている.ブラックライトとは,おもに紫外線を放射するライトで,蛍光物質を光らせる性質を利用したものである.紫外線は可視域外であるが,蛍光物質に当たると可視光線として反射して見えるため,さまざまな用途で使用されている.手洗いの際に洗い残しをチェックするために使われるブラックライトは,特殊な蛍光ローション(汚れに見立てた蛍光物質)を手に塗ったあと,手洗いをし,ブラックライトで照射することで洗い残しが光って見えるようにする機器である.これにより,手洗いの正確さを確認し,より衛生的な手洗いを実践するのに役立つ.食品を取り扱う人の手洗いをチェックし,食品衛生管理の向上に貢献している.本症例の眼底所見は,尾花の光傷害の報告のうち,410nmのブラックライトの照射をC2日間受けた症例の眼底所見とCOCTが類似している2).受傷C2カ月後のCOCTでは網膜の菲薄化と脈絡膜反射の亢進がみられたと報告している2).本症例は,30年近く前のことであるのでブラックライトの正確な数値は不明である.手洗いチェッカーに市販されているブラックライトの波長はC365.405Cnmであり,本症例は手洗いチェッカーに使用されているブラックライトを直視したことが原因で網脈絡膜症を発症した可能性がある.尾花の報告例2)と異なり,受傷後C18年経過してからの所見であC208あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026るが,尾花らのCOCT所見と一致していた.本症例はC10年間経過観察し,黄斑部の網膜変性が進行し地図状萎縮を呈した.光化学作用による傷害程度は網膜上の照射強度と照射時間の積で決まる3).波長はC380.550Cnmの青色光が物質励起をきたす.本症例はブラックライトを短距離で直視したため光化学作用を起こしたと考えた.本症例は初診時C38歳であり,経過観察中に軟性ドルーゼンがみられなかったのでCAMDは否定的である.近視性黄斑症にみられる,牽引黄斑症,CNV,網膜分離症を,経過観察中のCOCTでみられなかったので否定的である.トキソプラズマ網脈絡膜炎については,血液検査を行っていないが,眼底に両眼性で,特徴的な限局性黒色色素沈着病巣と灰白色のグリア増殖からなる境界明瞭な陳旧性瘢痕病巣が黄斑部に観察される.本症例ではみられなかったので否定的である.黄斑ジストロフィについては,ガイドラインの眼底所見で両眼の黄斑部に対称性の萎縮性病変,黄斑分離,あるいは沈着物などがみられると記載されている.本症例は片眼なので否定的である4).萎縮型CAMDは,加齢によるCRPE,視細胞,脈絡膜毛細血管の萎縮性変化を特徴とする疾患である.Bruch膜の肥厚・変性に伴い視機能が低下する.進行は緩やかで,通常10.20年ほどかけて徐々に進行する4).本症例のCX+10年のCOCTの水平断の所見は,萎縮型CAMDに類似している.近年,OCTに基づいた黄斑部萎縮の新しい定義が提唱され6,7),AMDにみられる黄斑萎縮はC4分類された.そのなかでCcompleteCRPECandCouterCretinalatrophy(cRORA)は,C①C250Cμm以上の後方の脈絡膜信号の増強領域,②C250Cμm以上のCRPEラインの菲薄化,消失,③視細胞変性所見(90)(ellipsoidzone,interdigitationzone,externalClimitedmembrane,外顆粒層の消失),④CRPEに裂孔所見がない,以上のすべてを満たすものである.本症例は,日本の萎縮型AMDの新定義の眼底所見の必須所見と画像所見(cRORAの①.④,自発蛍光所見)が一致していることから7),除外規定の一つに加えられるべきと考えた.本症例はブラックライトを直視したことにより,数十年後には萎縮型CAMD様の所見になった.尾花1)は白熱球から蛍光灯,LEDへと変わるにつれ,光障害をきたしやすい青色光の曝露量は増加することから,一生に受ける青色光曝露量が確実に増加することを示唆している.近年,温暖化によりさらに青色光の曝露量も増加し,AMDの増加につながる可能性がある.Kimら8)は,夜間の屋外人工灯が滲出性CAMDの危険因子である可能性を示唆している.柳9)は,萎縮型AMDを漫然と眼底検査のみを行い経過観察することだけは禁物であり,少なくともCOCTを使ってフォローアップし,必要に応じてCOCTAを行うことと記載している.Teoら10)は,萎縮型CAMDについて,日本人,ハワイ在住日系人,ハワイ在住白人,のC3群で比較を行い,日本とハワイの比較で紫外線曝露量の違いがあげられている.本症例は一度に大量の紫外線を曝露したことにより萎縮型CAMD様の病変を発症したと考えた.本症例は,18年前に手洗いチェッカーのブラックライトを直視したため黄斑萎縮をきたし,筆者の施設受診C10年間で萎縮型CAMD様に進行していることから,今後もさらに進行する可能性が高いので注意深く経過観察をする必要がある.近年,ブラックライトは,電車の台車の点検,ネイルサロンのジェルネイルの硬化などにも使用されているので,直視しないよう啓発する必要がある.文献1)尾花明:光による眼の障害.照明学会誌C97:621-626,C20132)ObanaCA,CBrinkmannCR,CGotoCYCetal:ACcaseCofCretinalCinjuryCbyCaCvioletClightCemittingCdiode.CRetinCCasesCBriefCRepC5:223-226,C20113)尾花明:光が眼に与える影響.日レ医誌C32:438-443,C20124)近藤峰生,寺崎浩子,辻川明孝ほか:黄斑ジストロフィの診断ガイドライン.日眼会誌123:424-442,C20195)高橋寛二,白神史雄,石田晋ほか:萎縮型加齢黄斑変性の診断基準.日眼会誌119:671-677,C20156)SaddaSR,GuymerR,HolzFGetal:Consensusde.nitionforatrophyassociatedwithage-relatedmaculardegener-ationonOCT:classi.cationofatrophyreport3.Ophthal-mologyC125:537-548,C20187)上田奈央子:萎縮型加齢黄斑変性の診断と治療.あたらしい眼科42:23-30,C20258)KimCSH,CKimCYK,CShinCYICetal:NighttimeCoutdoorCarti.cialClightCandCriskCofCage-relatedCmacularCdegenera-tion.JAMANetwOpenC7:e2351650,C20249)柳靖雄:高齢者の網膜色素上皮隆起.診断力がアップする!OCT・OCTAパーフェクト読影法,p104-113,羊土社,202310)TeoCKYC,CFujimotoCS,CSaddaCSRCetal:GeographicCatro-phyCphenotypesCinCsubjectsCofCdi.erentethnicity:Asia-Paci.cCOcularCImagingCSocietyCWorkCGroupCReportC3.COphthalmolRetinaC7:593C604,C2023***(91)あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026C209