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Candida albicans による尿路感染症に起因する両眼内因性 真菌性眼内炎を発症した2 型糖尿病患者の1 例

2026年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科43(4):453.456,2026cCandidaalbicansによる尿路感染症に起因する両眼内因性真菌性眼内炎を発症した2型糖尿病患者の1例田中桂樹清水美穂緑川崇芳山崎光理森潤也今泉寛子宮本寛知市立札幌病院眼科CACaseofBinocularEndogenousFungalEndophthalmitiswithType2DiabetesAssociatedwithUrinaryTractInfectionCausedbyCandidaalbicansCKeijuTanaka,MihoShimizu,SuoMidorikawa,HikariYamasaki,JunyaMori,HirokoImaizumiandHirotomoMiyamotoCDepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospitalCCandidaalbicansによる尿路感染症から内因性真菌性眼内炎をきたしたC2型糖尿病患者症例を経験したので報告する.症例はC71歳,男性.15年来の長期にわたる糖尿病の背景あり.発熱,食思不振を主訴に近医を受診し,癌胎児性抗原(CEA)および糖鎖抗原(CA)19-9高値,腎機能障害を指摘され市立札幌病院(以下,当院)内科を紹介.血液培養でカンジダ菌血症と診断されたが,感染病巣が不明で,発熱後飛蚊症があり当院眼科を受診.初診時視力右(0.9),左(0.5),眼圧は両眼ともC10CmmHg,両眼軽度前房炎症細胞,広範囲に多発性の網膜斑状出血,円形白色滲出斑と硝子体混濁がみられた.経過と所見から真菌性眼内炎と診断し両眼硝子体切除術,水晶体摘出術を施行.両眼術中採取の硝子体液からCC.albicansが検出された.全身検索では,尿培養の真菌陽性以外に感染病巣は特定されず,腎盂腎炎が原因病巣と診断した.長期にわたる糖尿病患者は,その易感染性により尿路感染症からでも真菌性眼内炎を発症する可能性があり,早期発見治療のためにも他科との連携が重要である.CWereportacaseofbinocularendogenousfungalendophthalmitiscausedbyCandidaalbicansCoriginatingfromaurinarytractinfectionina71-year-oldmanwithlong-standingdiabetes.Hewasreferredtoourhospitalduetofever,anorexia,elevatedtumormarkers,andrenaldysfunction.Bloodculturesrevealedcandidemia,butthesourceofCinfectionCwasCunclear.CHisCvisualCacuityCwasC0.9CODCandC0.5COS,CandCintraocularCpressureCinCbothCeyesCwasC10CmmHg.Anteriorchamberinflammation,macularretinalhemorrhage,whiteexudativespots,andvitreousopacitywasCobservedCinCbothCeyes.CTheCdiagnosisCwasCfungalCendophthalmitis,CsoCvitrectomyCandClensectomyCwasCper-formedonbotheyes.Systemicexaminationrevealednofociofinfectionotherthanapositiveurinecultureforfun-gi,andpyelonephritiswasdiagnosed.Thiscasehighlightsthatpatientswithlong-standingdiabetesmaydevelopfungalCendophthalmitisCevenCfromCurinaryCtractCinfections,CsoCearlyCdiagnosisCandCinterdepartmentalCcollaborationCareessential.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(4):453.456,C2026〕Keywords:内因性真菌性眼内炎,尿路感染症,2型糖尿病,カンジダ.endogenousfungalendophthalmitis,uri-narytractinfections,type2diabetesmellitus,Candidaalbicans.Cはじめに内因性真菌性眼内炎は,全身の真菌血症により真菌が血行性に脈絡膜血管に移行し発症する疾患であり,通常経中心静脈栄養や各種カテーテル留置に伴うことが多く,とくに免疫抑制療法や悪性腫瘍,糖尿病など免疫能が低下している状態で生じやすい.一般的な起因菌としてCCandidaalbicans,Aspergillusniger,Fusariumsolaniが知られている.今回筆者らは,C.albicansによる尿路感染症から内因性真菌性眼内炎を発症した糖尿病患者のC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕田中桂樹:〒C060-8604札幌市中央区北C11条西C13-1-1市立札幌病院眼科Reprintrequests:KeijuTanaka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital,13-1-1Kita11-joNishi,Chuou-ku,Sapporo060-8604,JAPANC図1初診時眼底写真両眼に硝子体混濁および黄白色円形滲出斑C,網膜出血を認める.I症例患者:71歳,男性.主訴:飛蚊症.全身既往歴:2型糖尿病(HbA1c7.7%),胸部大動脈瘤,右総腸骨動脈瘤,胃癌,腎腫瘍.現病歴:2022年C4月CX日にC10日前からの発熱,食思不振を主訴に近医を受診し,癌胎児性抗原(carcinoembryonicantigen:CEA)および糖鎖抗原(carbohydrateCantigen:CA)19-9高値,腎機能障害,胸部大動脈瘤の拡大を指摘され,同日に市立札幌病院(以下,当院)消化器内科を紹介受診した.体温はC37.7℃.生化学的所見はCWBC12,000/μl,C反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)13.0Cmg/dl,β-DグルカンC509.1pg/mlと播種性真菌感染症を疑う所見であった.また,血清クレアチニン(Cr)1.82Cmg/dl,尿素窒素(bloodCureamitrogen:BUN)62.6Cmg/dl,推算糸球体濾過量(estimatedglomerularfiltrationrate:eGFR)29.6Cml/分C/1.73m2と腎機能障害を認めた.胸腹部CCTでは左腎臓に22Cmmの結節と背側にC47Cmmの.胞を認めたが,感染を疑う所見はなかった.X日からフルコナゾールC200Cmg/日で抗真菌薬の点滴が開始された.入院時に採取された血液培養および尿培養からはCC.albicansが検出された.発熱後から飛蚊症の訴えがあり,感染巣は不明なままC4月CX+4日に当院眼科(以下,当科)受診となった.初診時現症:視力は右眼(0.9C×sph-1.0DCcyl-2.0DAx85°),左眼(0.5C×sph-1.25DCcyl-1.25DAx95°).眼圧は両眼C10CmmHg.左眼にごく軽度の角膜上皮浮腫,両眼軽度の前房炎症細胞があり,両眼底に広範囲に多発性の網膜斑状出血,多発性円形黄白色滲出斑と硝子体混濁を伴っていた(図1).同日施行したフルオレセイン蛍光造影(fluoresce-inangiography:FA)(図2)では造影早期に滲出斑に一致した低蛍光,造影後期には滲出斑の辺縁,網膜静脈,視神経乳頭からの蛍光漏出,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)(図3)では造影早期後期ともに滲出斑に一致した低蛍光斑とそれ以外にも多数の低蛍光斑が散在していた.眼科経過:初診後の経過観察にて徐々に滲出斑は増加して黄斑部にも出現し,硝子体混濁も増強してきたため,X+7日に左眼,X+10日に右眼の硝子体切除術および水晶体摘出術を施行した.眼内灌流液中にはフルコナゾールをC10μl/mlで添加した.術中採取した両眼硝子体液からはCC.albicansが検出された.薬剤感受性試験ではフルコナゾールへの感受性は良好であった.術後眼内炎症反応は軽減し,当科初診からC3カ月後に両眼内レンズ挿入術を施行,当科初診からC6カ月後に視力は両眼ともに(1.0)まで改善,網膜滲出斑は瘢痕化し網膜出血は消退した.全身経過:諸検査を行ったが尿路以外での感染巣は認めず,C.albicansによる腎盂腎炎が確定診断となった.X+16日には血清CCr1.05Cmg/dl,BUN20.6Cmg/dl,eGFR53.9ml/分/1.73CmC2と腎機能は改善,X+40日にはCEA,CA19-9は正常化し,炎症による一過性の上昇と考えられた.X日からC19日間のフルコナゾール全身投与とその後のC36日間のフルコナゾール内服により,カンジダ菌血症は治癒した.CII考按内因性眼内炎は全身の菌血症により血行性に眼内に移行し発症する疾患であり,内眼手術や外傷によって直達的に起因菌が眼内に及んで生じる外因性眼内炎と比べ頻度は少なく,眼内炎全体のC2.15%である1).内因性眼内炎の約C50%において起因菌が真菌であり2),C.albicans,A.niger,F.solaniの順に頻度が多い.内因性真菌性眼内炎のリスクファクターとしては中心静脈栄養(intravenoushyperalimentation:IVH),尿管カテーテル,外科手術,心疾患,呼吸器疾患,血液疾患,糖尿病,免疫抑制薬投与などがあげられ,とくに図2初診時フルオレセイン蛍光造影(FA)上段:造影早期.滲出斑に一致した類円形低蛍光斑.網膜出血による低蛍光がみられる..下段:造影後期.滲出斑の辺縁,網膜静脈,視神経乳頭および毛細血管からの蛍光漏出がみられる.図3初診時インドシアニングリーン蛍光造影(IA)造影早期(上段).後期(下段).滲出斑に一致した低蛍光斑以外にも多数の低蛍光斑が散在.表1内因性真菌性眼内炎の病期分類Ⅰ期前房内と硝子体中に炎症性細胞の遊出する時期Ⅱ期後極部に円形白色病変をみる時期Ⅲ期Ca上記に加えて硝子体中に軽度の限局性の混濁をみる時期Ⅲ期Cb限局性の硝子体混濁が中等度になる時期Ⅳ期上記に加えて網膜.離がある,または高度の硝子体混濁のため眼底が透見できない時期IVHはリスクが高く真菌性眼内炎の原因のC90%を占めるという報告もある3,4).本症例では,HbA1c7.7%の糖尿病と2007年に腹部外科手術の既往はあったが,IVHやカテーテルの留置はなく,とりわけハイリスクであったとはいいがたい.また,カンジダ菌血症患者における眼病変発現率はC2.2.9.3%である5)ことや,国内での尿路感染症からの内因性真菌性眼内炎の報告は数例にとどまる6.8)こと,カンジダ尿のほとんどが保菌であり臨床的意義が少ないことからも,真菌性腎盂腎炎から眼内炎にまで進展することは比較的まれであるといえる.また,本症例では当院消化器内科を受診してから休日を挟んでC4日後に当科に紹介となった.初診日のX日は診療時間外帯に受診したこと,翌日にβ-Dグルカン上昇を確認したこともふまえると,当院初診から当科受診までC4日間を要したものの,診療科間での連携はとれており早期発見・治療介入につながった.長期にわたる糖尿病という易感染性の状況下においては,尿路感染症からも眼内炎発症を考慮に入れた注意深い経過観察とともに,腎臓内科,泌尿器科,眼科など関連診療科の密な連携が重要であると考える.現在の臨床現場で,真菌性眼内炎の治療においては抗真菌薬の全身投与と硝子体手術が選択肢として存在する.石橋ら9)は真菌性眼内炎を眼内所見から病期分類し,Ⅲa期までは抗真菌薬の全身投与で改善を見込めるが,ⅢCb期を超えると硝子体手術の併用が望ましいと報告した(表1).また,佐藤ら10)の報告ではⅢCb期に硝子体手術を行った場合に最終視力がC0.03未満の症例はなく,半数以上の症例でC0.5以上であったが,Ⅳ期に進行してから硝子体手術を行った場合はすべての症例で最終視力は手動弁であった.日本医真菌学会の侵襲性カンジダ症の診断・治療ガイドラインでは,抗真菌薬の投与が基本であるとされている11).軽.中等症ではC1.2週間後に抗真菌薬の効果判定を行い抗菌薬の変更を検討するが,経過観察中に所見の悪化や初診時から重症であった場合は硝子体手術や,保険適用外ではあるが抗真菌薬の硝子体内注射を行う11).本症例では,当科初診時すでに抗真菌薬の全身投与が開始されてC5日経っており,眼所見も石原分類でⅢa期の状態から数日でⅢCb期への進行を認めたため硝子体手術を施行した.ガイドラインに即して早期に硝子体手術に踏み切る決断をしたことが術後視力改善に大きく寄与したと考える.おわりに尿路感染症から播種性カンジダ症,真菌性眼内炎を発症したC2型糖尿病のC1例を経験した.経過が長期にわたる糖尿病患者はその易感染性により尿路感染症からでも播種性カンジダ症,真菌性眼内炎を発症する可能性を常に考慮し診療する必要がある.また,真菌性眼内炎は病期を判断し適切なタイミングで硝子体手術を選択することで視力予後が見込める治療可能な疾患であり,早期発見・治療介入のためにも眼科と他科との連携が重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SchiedlerV,ScottIU,FlynnHW:Culture-provenendog-enousendophthalmitis:clinicalfeaturesandvisualacuityoutcomes.AmJOphthalmol137:725-731,20042)BinderCMI,CChuaCJ,CKaiserCPK:EndogenousCendophthal-mitis:an18-yearCreviewCofCculture-positiveCcasesCatCaCtertiaryCcareCcenter.Medicine(Baltimore)82:97-105,20033)川上秀昭,田中大貴,望月清文:真菌性眼内炎.臨眼C73:C282-289,C20194)西村哲哉,岸本直子,宇山昌延:真菌性眼内炎の経過と硝子体手術の適応.臨眼C47:641-645,C19935)大矢佳美,土屋嘉昭,石峰ほか:カンジダ血症患者に対する眼底検査の再検討―全身管理医師への意識調査から―.日眼会誌116:476-484,C20126)小川令,福岡秀記,永田健児ほか:複雑性腎盂腎炎に関連した両眼性内因性真菌性眼内炎のC1例.日眼会誌C123:C1095-1100,C20197)及川拓,藤原貴光,町田繁樹ほか:尿路結石を契機とする腎盂腎炎からの両眼性真菌性眼内炎のC1例.臨眼C59:C209-213,C20058)SuzukiCR,CKurodaCH,CMatsubayashiCHCetal:CandidemiaCfromanupperurinarytractinfectioncomplicatedbyCan-didaEndophthalmitis.CInternMedC54:2693-2698,C20159)石橋康久,本村幸子,渡辺享子:本邦における内因性真菌性眼内炎.日眼会誌92:952-958,C198810)佐藤幸裕,宮坂忍,島田宏之:内因性真菌性眼内炎の治療成績と石橋分類の有用性.日眼会誌105:37-41,C200111)二木芳人,三鴨廣繁,詫間隆博ほか:侵襲性カンジダ症の診断・治療ガイドラインCExecutivesummary集.MedCMycolCJC54:147-251,C2013***