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改良型AcrySof®眼内レンズにおける表面散乱光の加速劣化試験による評価

2013年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(6):875.877,2013c改良型AcrySofR眼内レンズにおける表面散乱光の加速劣化試験による評価松永次郎丸山葉子本坊正人南慶一郎宮田和典宮田眼科病院AcceleratedAgingModelofSurfaceLightScatteringinImprovedAcrySofRIntraocularLensJiroMatsunaga,YokoMaruyama,MasatoHonbou,KeiichiroMinamiandKazunoriMiyataMiyataEyeHospital術後長期で眼内レンズ(IOL)に起こる表面散乱光の増加を,IOLを加速劣化させinvitroにて評価した.試料は,SA60AT(Alcon社),製造工程を最適化したSN60WF(Alcon社),およびZCB00(AMO社)とした.各IOLを20枚ずつ劣化年数0,3,5,10年の4群に分け,BSS(balancedsaltsolution)に浸して90℃下で加速劣化を行った.表面散乱光をScheimpflugカメラで測定し,劣化年数による散乱光強度の変化を検討した.SA60ATでは,表面散乱光は劣化年数に伴って増加した(p<0.001,r2=0.78)が,SN60WFとZCB00では増加はなかった.加速劣化によるinvitroでの評価は,臨床における表面散乱光の発生を検証するのに有効であると考えられた.また,製造工程の最適化により表面散乱光は抑制されていると示唆された.Increasedsurfacelightscatteringinintraocularlens(IOL)wassimulatedinvitrobyacceleratedaging.SamplesconsistedofSA60AT(Alcon)andSN60WF(Alcon),madeusingtheoptimizedproductionprocess,andZCB00(AMO).Ofeachmodel,20IOLswereacceleratedlyagedfor0,3,5and10yearsat90℃.SurfacelightscatteringintheagedIOLwasmeasuredwithaScheimpflugcamera.Changewithagingwasevaluated.InSA60AT,surfacelightscatteringincreasedwithaging(p<0.001,r2=0.78),althoughtherewasnoincreaseinSN60WForZCB00.Invitroexaminationusingacceleratedagingwaseffectiveinsimulatingtheincidenceofsurfacelightscattering.Itisdemonstratedthatoptimizedproductionsuppressessurfacelightscattering.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(6):875.877,2013〕Keywords:表面散乱光,軟性アクリル眼内レンズ,加速劣化.surfacelightscattering,foldableacrylicintraocularlens,acceleratedaging.はじめに現在,普及している眼内レンズ(IOL)の光学部には,軟性アクリルが最も広く使用されている.これは,小切開から挿入可能,後発白内障の発生率が低い1)などの利点があるためである.しかし一方で,術後におけるIOLの透明性の維持が問題となっている.平均寿命の高齢化,白内障手術症例の若年化,および高機能IOLの普及による術後視機能への期待などにより,術後長期における透明性維持はより重要となっている.ところが,疎水性アクリルIOLAcrySofR(Alcon社)では,IOL表面の散乱光が経年的に増加することが報告されている2.4).IOL表面の散乱光の増加は,視機能に影響を与えないという報告5)がある一方で,矯正視力4)やコントラスト感度6)の低下のリスクも懸念されている.表面散乱光の原因は,IOL表層に微細な水の粒子が侵入し,相分離が起こるためと考えられる7).発生機序は,IOL内部にできるグリスニングと類似しているが,ナノオーダーの水隙がIOL表層に局在することからSSNG(sub-surfacenanoglistering)ともよばれる.AcrySofRは,注型成形(cast-molding)により製造される.型(cast)にアクリルモノマーを注入し,重合すること〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(153)875 で,IOL形状に成形される.SSNGは,IOL製造工程の環境条件により起こると考えられ,製造工程における環境条件を最適化した改良型が開発された.筆者らは,IOLを加速劣化させ,改良されたIOLの術後長期における表面散乱光をinvitroにて検討した.I試料および方法試料は,軟性疎水性アクリル製IOL240枚である.その内訳は,従来型AcrySofRとしてSA60AT(Alcon社)80枚,製造工程を最適化した改良型としてSN60WF(Alcon社)80枚,コントロールとしてZCB00(AMO社)80枚である.使用したIOLの度数は20.0.30.0Dの範囲とした.3種類のIOLを20枚ずつ無作為に,劣化0年群,劣化3年群,劣化5年群,劣化10年群に分けた.劣化3年,5年,10年の群は加速劣化を行った.加速劣化は,環境温度が高くなると化学反応が速く進行することを利用し,短時間で経年劣化をさせる手法である7).BSS(balancedsaltsolution)5mlを入れた滅菌ガラスバイアル内にIOLを入れ,キャップで密閉した後,送風定温乾燥機に90℃で保管した.劣化に要する日数は,眼内温度36℃としてアレニウス式より算出した(それぞれ24日,40日,81日).加速劣化後に2時間放冷し,バイアルからIOLを取り出して,超純水で洗浄した.真空乾燥機でIOLを乾燥し,密閉保管した.IOLの表面散乱光は,BSSに浸し室温で24時間以上十分に水和させたIOLをBSSで充.した模擬眼に装着し,表面散乱光をScheimpflugカメラEAS-1000(NIDEK社)で測劣化0年劣化3年従来型AcrySofR改良型AcrySofRZCB00図1劣化年数0,3,5,10年の3種IOLの典型的なEAS.1000写真定した.表面散乱光は,臨床における検討と同様に,IOL前面の中心3.0mm以内の表面散乱強度を計測した2,4,7).各IOLに対して,劣化0年,3年,5年,10年での散乱光強度の変化を,Kruskal-Wallis検定とSteel-Dwass多重比較で検討した.p<0.05を統計的に有意差ありとした.II結果劣化年数0,3,5,10年における3種IOLのEAS-1000写真例を図1に示す.従来型のみ,劣化年数増加に伴う表面散乱光の増加が確認された.従来型の平均表面散乱光は,劣化0年群で17.6±3.1CCT(computercompatibletape),劣化3年群で40.4±2.9CCT,劣化5年群で46.4±4.9CCT,劣化10年群で58.3±9.2CCTであった(図2).表面散乱光は劣化0年群と比べ,劣化3年,5年,10年群で有意に高かった(p<0.002).回帰分析の結果,表面散乱光は劣化年数に従って有意に増加し(p<0.001,r2=0.78),その増加量は3.9CCT/年であった.改良型の表面散乱光は,劣化0年群で16.6±1.8CCT,劣化3年群で15.7±0.9CCT,劣化5年群で16.4±2.0CCT,劣化10年群で18.0±2.3CCTであった(図2).劣化3年と10年群で有意な差を認めた(p=0.0017)が,その差は2.3CCTであった.コントロールIOL(ZCB00)の表面散乱光は,劣化0年群で15.4±0.7CCT,劣化3年群で15.7±1.3CCT,劣化5年群で16.5±1.1CCT,劣化10年群で18.2±2.0CCTであった(図3).劣化0年と3年,5年群の間(p<0.014),および劣化3年,5年と10年群の間(p<0.03)で有意な差を認め,劣化5年劣化10年876あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(154) 808070706060平均表面散乱光(CCT)平均表面散乱光(CCT)5040302050403020101000年3年5年10年図2従来型(●)と改良型(○)のAcrySofRにおける,劣化年数による表面散乱光の変化それらの差は0.3.2.5CCTであった.III考按加速劣化によるinvitroな評価では,従来型AcrySofRは劣化年数が増加するに伴って,表面散乱光は増加した.コントロールIOLは,有意差はあったものの,劣化年数による増加は0.3.2.5CCTであった.従来型と同じ条件で製造されたMA60BMおよびSA60ATと,光学部がコントロールIOLと同一素材であるAR40/e(AMO社)の3種類のIOLの術後3年間における表面散乱光の変化を検討した報告では,MA60BMおよびSA60ATは術後1年以降,経年的に表面散乱光が増加したのに対して,AR40/eでは増加を認めなかった2).これは,本検討の結果とよく一致した.本検討において,従来型の表面散乱光の増加量は,加速劣化3年までで年間7.6CCT,5年までで年間5.8CCT,10年までで年間4.1CCTと,劣化年数が長期になるに従って低下した.一方,invivoの報告では,術後10年以上にわたって年間11.5CCTの割合で表面散乱光が継時的に増加している4).加速劣化を用いた検討は,その増加がinvivoの結果より少ない傾向があるが,表面散乱光が術後長期で発生するかを検証する方法としては有効であったと考えられた.Ongらは,術後10年以上の摘出MA60BMを水和下で観察すると表面散乱光が確認できることを報告している7).さらに,IOLの割面断層の走査型電子顕微鏡(SEM)像では表層120μm以内に直径200nm以下の水隙が観察されている.加速劣化後の従来型では同様の相分離が生じていると考えられる.加速劣化は,散乱光の増加がinvivoより少ないのは,水隙の大きさや数が異なるためと考えられた.詳細に検討するためには,加速劣化IOLのSEM観察が必要である.改良型では劣化年数による表面散乱光の顕著な増加を認めなかった.劣化年数3年と10年間では有意な増加がみられたが,劣化10年全体の変化は1.4CCTと測定分解能(1CCT)と同程度と小さい,コントロールIOLにおける変化と同程(155)00年3年5年10年図3ZCB00における,劣化年数による表面散乱光の変化度であることから,改良型は表面散乱光の増加が抑制されていると示唆された.Yaguchiらは,従来型AcrySofRの20年までの加速劣化を行い,素材の変化はほとんどないと報告している8).従来型で発生する相分離は,素材の劣化の可能性は低く,製造工程の環境条件に起因することが支持される.改良型の表面散乱光は,臨床像を反映しているかを確認する必要がある.今後,改良型AcrySofRの臨床経過を検討することが重要である.文献1)HollicEJ,SpaltonDJ,UrsellPGetal:Biocompatibilityofpoly(methylmethacrylate),silicone,andAcrySofintraocularlenses:Randomizedcomparisonofthecellularreactionontheanteriorlenssurface.JCataractRefractSurg24:361-366,19982)MiyataK,OtaniS,NejimaRetal:Comparisonofpostoperativesurfacelightscatteringofdifferentintraocularlenses.BrJOphthalmol93:684-687,20093)谷口重雄,千田実穂,西原仁ほか:アクリルソフト眼内レンズ挿入術後長期観察例にみられたレンズ表面散乱光の増強.日眼会誌106:109-111,20024)MiyataK,HonboM,OtaniSetal:Effectonvisualacuityofincreasedsurfacelightscatteringinintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:221-226,20125)MonestamE,BehndingA:Impactonvisualfunctionfromlightscatteringandglisteninginintraocularlenses,along-termstudy.ActaOphthalmol89:724-728,20116)YoshidaS,MatsushimaH,NagataMetal:Decreasedvisualfunctionduetohigh-levellightscatteringinahydrophobicacrylicintraocularlenses.JpnJOphthalmol55:62-66,20117)OngMD,CallaghanTA,PeiRetal:Etiologyofsurfacelightscatteringonhydrophobicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:1833-1844,20128)YaguchiS,NishiharaH,KambhiranondWetal:LightscatteronthesurfaceofAcrySofintraocularlenses:PartII.Anylysisoflensesfollowinghydrolyticatabilitytesting.OphthalmicSurgLasersImaging39:214-216,2008あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013877