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3種(軟性アクリル製,シリコーン製,PMMA製)眼内レンズの術後10年における臨床成績

2013年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(10):1479.1483,2013c3種(軟性アクリル製,シリコーン製,PMMA製)眼内レンズの術後10年における臨床成績宮田章*1江口秀一郎*2林研*3*1みやた眼科*2江口眼科病院*3林眼科病院ClinicalResultsTenYearsafterIntraocularLensImplantation:Acrylic,Silicone,PMMAAkiraMiyata1),ShuuichirouEguchi2)andKenHayashi3)1)MiyataEyeClinic,2)EguchiEyeHospital,3)HayashiEyeHospital目的:白内障術後長期経過後の視力および眼内レンズ(IOL)所見をIOL材質別に検討した.対象および方法:IOL挿入後10年以上経過観察が可能であった153眼〔アクリル群64眼,シリコーン群42眼,PMMA(ポリメチルメタクリレート)群47眼〕を対象に,矯正視力,表面散乱およびグリスニング発生程度,後.切開の有無を後ろ向きに検討した.結果:矯正視力(logarithmicminimumangleofresolution:logMAR)は術後10年以降でアクリル群.0.03±0.07,シリコーン群0.01±0.08,PMMA群.0.01±0.06であった.表面散乱はアクリル群でグレード1.3が,シリコーン群ではグレード1が確認されたが,PMMA群ではみられなかった.グリスニングは,発生率は異なるが3群でみられた.表面散乱およびグリスニングの視力への影響は認めなかった.後発白内障に対する後.切開はPMMA群で最も多く施行されていた.結論:3群とも術後矯正視力は良好で,表面散乱およびグリスニングによる視力への影響は認めなかった.後.切開率はPMMA群が高く,アクリル群とシリコーン群では差がなかった.Atotalof153eyesimplantedwithintraocularlenses(IOL)wereevaluatedretrospectively.PatientswereimplantedwithIOLofacrylic(acrylicgroup),silicone(siliconegroup)orpolymethylmethacrylate(PMMA)(PMMAgroup).Best-correctedvisualacuity(BCVA),glistenings,sub-surfacenanoglistenings(SSNG)intensityandposteriorcapsulotomyratewereevaluatedandcomparedamongthegroups.The.nalvisualacuitywas.0.03±0.07intheacrylicgroup,0.01±0.08inthesiliconegroupand.0.01±0.06inthePMMAgroup.SSNGofgrade1to3wasobservedintheacrylicgroupandofgrade1inthesiliconegroup;SSNGwasnotobservedinthePMMAgroup.Althoughtheincidenceratesdi.ered,glisteningswereobservedinallgroups.SSNGorglisten-ingshadnoin.uenceonBCVA.PosteriorcapsulotomyratewashighestinthePMMAgroup;nosigni.cantdi.erencewasobservedbetweenacrylicgroupandsiliconegroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1479.1483,2013〕Keywords:アクリル製眼内レンズ,長期経過,表面散乱光,グリスニング,後.混濁.hydrophobicacrylicin-traocularlenses,long-termobservation,surfacelightscattering,glistenings,posteriorcapsuleopaci.cation.はじめに現代の白内障手術は,手術手技や超音波白内障手術装置,医療材料などの進歩により,効率的で侵襲の少ない手術になっている.そのなかで,foldable眼内レンズ(IOL)は,従来のポリメチルメタクリレート(PMMA)製IOLに比べ格段の小切開化に貢献し,現在の白内障手術にはなくてはならないものである.FoldableIOLはシリコーン製IOLが1990年より,アクリル製IOLが1994年より日本で使用が開始されたが,アクリル製IOLはPMMAと同じアクリル系樹脂であるため,PMMAの信頼性と小切開の両立性が期待された.実際に使用してみると,術後炎症が少なく,PMMAに比べ後発白内障が起こりにくいなどの臨床的評価が高く1),現在のIOLの主流材質になっている.しかし術後長年経過して,グリスニングといわれる小水泡がレンズ光学部内部に〔別刷請求先〕宮田章:〒733-0842広島市西区井口4丁目2-34みやた眼科Reprintrequests:AkiraMiyata,M.D.,MiyataEyeClinic,4-2-34Inokuchi,Nishi-ku,Hiroshima-shi,Hiroshima733-0842,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(135)1479発生する2,3)ことや,レンズ表面が白く反射して見える表面散乱光の増強4,5)なども指摘されるようになり,それらの視機能への影響が心配されるようになった.グリスニングはIOL光学部の内部にみられる数10μmの水泡で,術後数カ月からみられるようになる.これはIOL内部に侵入した水分がポリマー内の小間隙(void)に貯まることが原因と考えられている6,7).一方,表面散乱(以下,SSNG)は,IOL光学部表面が白く反射して見える現象で,術後数年してから観察される.SSNGは細隙灯顕微鏡検査において斜め(30°以上)からのスリット光を当てた際に観察され5),IOL表面に近い部分のみに発生したグリスニングよりも小さな水分の貯留と報告8)されており,グリスニングとは区別されて,最近ではsub-surfacenanoglistenings(SSNG)とよばれるようになっている.今回,IOL挿入術後長期経過(10年以上)した眼合併症をもたない症例において,術後視力,SSNG強度,グリスニングの発生程度,後発白内障に対するYAGレーザー後.切開術の有無を3種類の材質(アクリル,シリコーン,PMMA)のIOLについて検討したので報告する.I対象および方法江口眼科病院(函館市),林眼科病院(福岡市),みやた眼科(広島市)の3施設において,白内障手術後10年以上の長期経過観察が行われていた眼合併症がない153眼について後ろ向きに検討した.対象は,上記3施設を2011年12月までに外来受診した患者のうち,2001年12月以前に水晶体再建術を同施設で受け,術後早期の矯正視力が小数視力0.8以上で,視機能に影響を及ぼす眼合併症を有していない症例とした.挿入されているIOLの種類を手術記録より確認し,アクリル製IOL(以下,アクリル群),シリコーン製IOL(以下,シリコーン群),PMMA製IOL(以下,PMMA群)の3群に分けた.視力は,術後早期(術後3カ月から1年以内)の矯正視力(以下,早期視力)と術後10年以上経過した最終診察時矯正視力(以下,最終視力)を調査し,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力で表記した.SSNG強度は,最終診察時の細隙灯顕微鏡観察におけるIOL光学部前面の所見により,早田らによる分類9)(図1)を用いて,グレード0から3の4段階で評価した.グリスニング発生程度は宮田らのグレード分類3)(図2)を用いてグレード0から3の4段階で評価した.後発白内障に対する後.切開の有無は,YAGレーザー後.切開術の履歴により調査した.1480あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013図1SSNGのグレード分類(早田ら9)による)細隙灯顕微鏡でスリット幅0.2mm,スリット光角度45°でIOL光学部前面を観察し,SSNGがみられない場合をグレード0(A),角膜の散乱強度より弱い場合をグレード1(B),角膜の散乱強度と同程度の場合をグレード2(C),角膜の散乱強度より強い場合をグレード3(D)とした.グレード0グレード1グレード2グレード3輝点の数(個)=50/mm3100/mm3200/mm3図2グリスニングのグレード分類細隙灯顕微鏡にてIOL光学部を観察し,グリスニングがみられない場合をグレード0,軽度にみられる場合をグレード1,中等度にみられる場合をグレード2,高度にみられる場合をグレード3とした.II結果153眼の内訳は,アクリル群が64眼(男性26眼,女性38眼),シリコーン群が42眼(男性8眼,女性34眼)PMMA群が47眼(男性14眼,女性33眼)であった.各群,におけるIOLモデルの内訳は,アクリル群はMA60BM(アルコン)が52眼,MA30BA(アルコン)が12眼,シリコーン群はSI-40NB(エイエムオー)が26眼,SI-30NB(エイ(136)エムオー)が16眼,PMMA群はMZ60BD(アルコン)が0.004,Wilcoxonの符号付順位検定)(表1).16眼,UV25T(メニコン)が15眼,UV-55SB(HOYA)がSSNG強度は,アクリル群ではグレード3が39眼(60.98眼,ENV-13(メニコン)が2眼,812C(ファルマシア),%),グレード2が22眼(34.4%),グレード1が2眼(3.1ENV-23(メニコン),UPB320GS(IOPTEX),UV22(メニ%),グレード0が1眼(1.6%)であったのに対し,シリココン),UV-60SB(HOYA),UVM60SB(HOYA)が各1眼ーン群でグレード1が4眼(9.5%),グレード0が38眼であった.最終診察時の平均年齢は,アクリル群75.7±7.9(90.5%),PMMA群では全例がグレード0であった.歳(47.91歳),シリコーン群78.5±5.9歳(64.88歳),SSNGの視力への影響を検討するために,アクリル群におPMMA群72.8±10.4歳(39.88歳)であった.手術は全例いてSSNGグレード別の最終視力を調査した(表2).SSNGで超音波乳化吸引術による白内障手術が行われており,術後グレード0(1眼)の平均視力は0.00,グレード1(2眼)は平均観察期間はアクリル群12.1±1.3年,シリコーン群13.2.0.08±0.00,グレード2(22眼)は.0.04±0.05,グレード±1.8年,PMMA群13.4±1.7年であった.3(39眼)は.0.02±0.08で,SSNGのグレード別の視力に早期視力は,アクリル群.0.04±0.05,シリコーン群.有意差は認めなかった(Steel-Dwass検定).0.02±0.05,PMMA群.0.01±0.06でアクリル群とPMMAグリスニングは,アクリル群48眼(75.0%),シリコーン群で有意差を認めた(p=0.002,Tukey-KramerのHSD検群28眼(66.7%),PMMA群13眼(27.7%)にみられたが,定).最終視力はアクリル群.0.03±0.07,シリコーン群0.01アクリル群では他の群に比べてグレード2や3の高度なグリ±0.08,PMMA群.0.01±0.06で,アクリル群とシリコースニングの発現頻度が高かった.各IOL群において,グリン群に有意差を認めた(p=0.015,Tukey-KramerのHSDスニング強度と最終視力について検討したところ(表3),ア検定).早期視力から最終視力への変化(最終視力.早期視クリル群のグレード0がグレード1よりも有意に視力が低か力)は,アクリル群では0.01±0.06,シリコーン群で0.03った(p=0.036,Steel-Dwass検定).アクリル群のそのほか±0.07,PMMA群で0.00±0.06であり,シリコーン群とのグレード間およびそのほかのIOL群においてはグリスニPMMA群で有意差を認めた(p=0.036,Tukey-Kramerのンググレード別の視力に有意差を認めなかった.HSD検定).早期視力と最終視力を比較したところ,シリコ後発白内障に対するYAGレーザー後.切開術はアクリルーン群においてのみ最終視力での視力低下を認めた(p=群27眼(42.2%),シリコーン群21眼(50.0%),PMMA群表1矯正視力の変化*4ΔlogMARは症例ごとの(最終視力.早期視力)の平均値±標準偏差(SD).(*1p=0.002,*2p=0.015,*3p=0.036,Tukey-KramerのHSD検定.*4p=0.004,Wilcoxonの符号付順位検定.)表2アクリル群のSSNGグレード別の最終視力グレード0123眼数.122239平均最終視力±SD0.00.0.08±0.00.0.04±0.05.0.02±0.08表3各IOL群のグリスニングと最終視力アクリル群シリコーン群PMMA群グレード0123012012眼数16291721424434121平均最終視力±SD0.01±0.08.0.06±0.06.0.04±0.040.01±0.130.00±0.070.02±0.08.0.03±0.14.0.01±0.06.0.01±0.070.05*(*p=0.036,Steel-Dwass検定)(137)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131481後.生存率(%)1009080706050403020100020406080100120140160術後経過期間(カ月)図3各IOL群の後.生存率37眼(78.7%)で施行されていた.YAGレーザー後.切開術が施行されていない症例を後.生存症例とし,術後経過期間における後.生存率を調べた(図3).PMMA群は他の2群と比較して後.生存率は有意に低かったが(アクリル群:p<0.0001,シリコーン群:p=0.0004,Kaplan-Meier法),アクリル群とシリコーン群の間では有意な差はなかった.III考按今回筆者らは,白内障手術でIOLを挿入し10年以上経過した153眼について術後視力,グリスニングやSSNGの発生状況やそれらの視力への影響を検討した.術後視力は,術後早期のアクリル群(小数視力1.10)とPMMA群(小数視力1.02)で,最終観察時のアクリル群(小数視力1.07)とシリコーン群(小数視力0.98)でそれぞれ統計学的に有意差を認めたが,いずれも小数視力0.98以上であり,臨床的には問題のない良好な視力であった.有意差を認めた原因については,今回の検討からは特定することができなかった.今回の検討においてグリスニングはアクリル製IOL以外にもみられた.1984年にBallinらがPMMA製IOLに発生したグリスニングを報告している10).今日の臨床ではアクリル製IOLが多く使われるため,グリスニングはアクリル製IOLの問題と考えられがちである.しかし,各種材質のIOLにグリスニングが発生する報告11.13)もあり,グリスニングは疎水性のIOL材質全般における問題であると再認識した.グリスニングの視機能への影響は,WilkinsらがPMMA製IOL(SurgidevB20/20,Surgidev社)のグリスニングについて調査し,73眼中65眼(89%)にグリスニングが発生しており,それらの視力への影響はなかったと報告している14).Makiらは,5社のPMMA製IOLについて調査し,163眼中15眼でグリスニングの発生があり,molding製法とlathecutting製法の両方にグリスニング発生があったが,視力への影響はなかったと結論している15).今回の筆者らの1482あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013検討でもシリコーン製IOLやPMMA製IOLに発生するグリスニングは視力に影響がない結果であった.シリコーン製IOLやPMMA製IOLに発生するグリスニングは軽度で,注意深く観察しないと気がつかない程度であるため,視機能への影響はないと考えられた.一方,アクリル製IOLのグリスニングは高度な場合が多いため,視機能への影響がシリコーン製IOLやPMMA製IOLよりも懸念される.Oshikaらはアクリル製IOLにグリスニングモデルを作製して光学特性を測定し,臨床で経験するグリスニンググレードではIOLの光学特性に影響しないと結論している16).今回の筆者らの検討でも,アクリル群の75.0%にグリスニングの発生がみられたが,グリスニングが増強しても視力への影響はみられず,グリスニングは視機能に影響しないという既報を支持する結果であった.今回対象となったアクリル製IOLはすべてAcrySofRモデルMA60BMまたはMA30BAで,高度なSSNGがみられたが,MiyataらはSSNG強度と矯正視力の低下には統計学的な相関はなかったと報告しており17),Monestamらも,アクリル製IOLを術後10年以上経過観察した結果,SSNGやグリスニンググレードと矯正視力および低コントラスト視力には統計学的な有意差はなかったと報告している18).今回の筆者らの検討においても,これまでの報告と同様,SSNG強度と視力には統計学的な有意差はなかった.しかし,SSNGは術後期間とともにその強度が増加していると報告されており17),また高度なSSNGの視機能への影響を懸念する報告19)もあることから,今後も注意深く経過観察していく必要があると考えられる.後.混濁の発生にはIOLデザイン20,21),IOL材質22)などが関与していると報告されているが,いまだ不明な要因もある.Liらは,シャープエッジのアクリル製IOLは,シャープエッジのシリコーン製IOLと後.混濁発生率に差はないが,ラウンドエッジのシリコーンIOLやPMMAIOLより後.混濁発生率は低いと報告している23).一方で,Ronbeckらは,シャープエッジのアクリル製IOLとラウンドエッジのシリコーン製IOLで後.混濁発生率には差がなく,ラウンドエッジのPMMA製IOLで後.混濁発生率が最も高かったと報告している24).今回の筆者らの検討で対象となったIOLのエッジ形状は,アクリル製IOLがシャープエッジであったのに対し,シリコーン製IOLとPMMA製IOLは非シャープエッジであった.アクリル製IOLとシリコーン製IOLの後.切開率に有意差がなかったことや,PMMA製IOLでYAGレーザー後.切開率が最も高かったことは,Ronbeckらの報告と同様の結果であった.今回筆者らは,IOL挿入手術後10年以上の長期経過後のIOLについて検討し,IOLにSSNGやグリスニングがみられても患者の視力に影響を与えず,良好な視力であることが(138)わかった.しかし,このようなIOL光学部の変化は起こらないほうが良いことは言うまでもない.より安定した材質のIOLを期待するとともに,今後も各種IOLにおける視機能について注意深く経過観察を続けていきたい.文献1)大鹿哲郎:アクリルソフト眼内レンズ術後2年の臨床成績.臨眼48:1463-1468,19942)DhaliwalDK,MamalisN,OlsonRJetal:Visualsigni.-canceofglisteningsseenintheAcrySofintraocularlens.JCataractRefractSurg22:452-457,19963)宮田章,鈴木克則,朴智華ほか:アクリルレンズに発生する輝点.臨眼51:729-732,19974)谷口重雄,千田実穂,西原仁ほか:アクリルソフト眼内レンズ挿入術後長期観察例にみられたレンズ表面散乱光の増強.日眼会誌106:109-111,20025)NishiharaH,YaguchiS,OnishiTetal:Surfacescatter-inginimplantedhydrophobicintraocularlenses.JCata-ractRefractSurg29:1385-1388,20036)MiyataA,UchidaN,NakajimaKatal:Clinicalandexperimentalobservationofglisteninginacrylicintraocu-larlenses.JpnJOphthalmol45:564-569,20017)MiyataA,YaguchiS:Equilibriumwatercontentandglisteningsinacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg30:1768-1772,20048)MatsushimaH,MukaiK,NagataMetal:Analysisofsur-facewhiteningofextractedhydrophobicacrylicintraocu-larlenses.JCataractRefractSurg35:1927-1934,20099)早田光孝,廣澤槇子,入戸野晋ほか:疎水性アクリル眼内レンズに生じる表面散乱光の簡易分類.IOL&RS26:442-447,201210)BallinN:Glisteningsininjection-moldedlens.(letter)JAmIntra-OcularImplantSoc10:473,198411)TognettoD,TotoL,SanguinettiGetal:Glisteninginfoldableintraocularlenses.JCataractRefractSurg28:1211-1216,200212)RonbeckM,BehndigA,TaubeMetal:Comparisonofglisteningsinintraocularlenseswiththreedi.erentmate-rials:12-yearfollow-up.ActaOphthalmol89:1-5,201113)宮田章,内田信隆,中島潔ほか:シリコーン眼内レンズのグリスニング発生実験.日眼会誌106:112-114,200214)WilkinsE,OlsonRJ:Glisteningswithlong-termfollow-upoftheSurgidevB20/20polymethylmethacrylateintraocularlens.AmJOphthalmol132:783-785,200115)MakiT,IzumiS,AyakiMetal:GlisteningsinPMMAintraocularlenses.ShowaUnivJMedSci16:75-82,200416)OshikaT,ShiokawaY,AmanoSetal:In.uenceofglis-teningontheopticalqualityofacrylicfoldableintraocularlens.BrJOphthalmol85:1034-1037,200117)MiyataK,HonboM,OtaniSetal:E.ectonvisualacuityofincreasedsurfacelightscatteringinintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:221-226,201218)MonestamE,BehndigA:Impactonvisualfunctionfromlightscatteringandglisteninginintraocularlenses,along-termstudy.ActaOphthalmol89:724-728,201119)YoshidaS,MatsushimaH,NagataMetal:Decreasedvisualfunctionduetohigh-levellightscatteringinahydrophobicacrylicintraocularlens.JpnJOphthalmol55:62-66,201120)NagataT,WatanabeI:Opticsharpedgeorconvexity:comparisonofe.ectsonposteriorcapsularopaci.cation.JpnJOphthalmol40:397-403,199621)NagamotoT,EguchiG:E.ectofintraocularlensdesignonmigrationoflensepithelialcellsontotheposteriorcap-sule.JCataractRefractSurg23:866-872,199722)VasavadaAR,RajSM,ShahGetal:Comparisonofpos-teriorcapsuleopaci.cationwithhydrophobicacrylicandhydrophilicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg37:1050-1059,201123)LiN,ChenX,ZhangJetal:E.ectofAcrySofversussili-coneorpolymethylmethacrylateintraocularlensonpos-teriorcapsuleopaci.cation.Ophthalmology115:830-838,200824)RonbeckM,ZetterstromC,WejdeGetal:Comparisonofposteriorcapsuleopaci.cationdevelopmentwith3intraocularlenstype.Five-yearprospectivestudy.JCata-ractRefractSurg35:1935-1940,2009***(139)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131483

改良型AcrySof®眼内レンズにおける表面散乱光の加速劣化試験による評価

2013年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(6):875.877,2013c改良型AcrySofR眼内レンズにおける表面散乱光の加速劣化試験による評価松永次郎丸山葉子本坊正人南慶一郎宮田和典宮田眼科病院AcceleratedAgingModelofSurfaceLightScatteringinImprovedAcrySofRIntraocularLensJiroMatsunaga,YokoMaruyama,MasatoHonbou,KeiichiroMinamiandKazunoriMiyataMiyataEyeHospital術後長期で眼内レンズ(IOL)に起こる表面散乱光の増加を,IOLを加速劣化させinvitroにて評価した.試料は,SA60AT(Alcon社),製造工程を最適化したSN60WF(Alcon社),およびZCB00(AMO社)とした.各IOLを20枚ずつ劣化年数0,3,5,10年の4群に分け,BSS(balancedsaltsolution)に浸して90℃下で加速劣化を行った.表面散乱光をScheimpflugカメラで測定し,劣化年数による散乱光強度の変化を検討した.SA60ATでは,表面散乱光は劣化年数に伴って増加した(p<0.001,r2=0.78)が,SN60WFとZCB00では増加はなかった.加速劣化によるinvitroでの評価は,臨床における表面散乱光の発生を検証するのに有効であると考えられた.また,製造工程の最適化により表面散乱光は抑制されていると示唆された.Increasedsurfacelightscatteringinintraocularlens(IOL)wassimulatedinvitrobyacceleratedaging.SamplesconsistedofSA60AT(Alcon)andSN60WF(Alcon),madeusingtheoptimizedproductionprocess,andZCB00(AMO).Ofeachmodel,20IOLswereacceleratedlyagedfor0,3,5and10yearsat90℃.SurfacelightscatteringintheagedIOLwasmeasuredwithaScheimpflugcamera.Changewithagingwasevaluated.InSA60AT,surfacelightscatteringincreasedwithaging(p<0.001,r2=0.78),althoughtherewasnoincreaseinSN60WForZCB00.Invitroexaminationusingacceleratedagingwaseffectiveinsimulatingtheincidenceofsurfacelightscattering.Itisdemonstratedthatoptimizedproductionsuppressessurfacelightscattering.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(6):875.877,2013〕Keywords:表面散乱光,軟性アクリル眼内レンズ,加速劣化.surfacelightscattering,foldableacrylicintraocularlens,acceleratedaging.はじめに現在,普及している眼内レンズ(IOL)の光学部には,軟性アクリルが最も広く使用されている.これは,小切開から挿入可能,後発白内障の発生率が低い1)などの利点があるためである.しかし一方で,術後におけるIOLの透明性の維持が問題となっている.平均寿命の高齢化,白内障手術症例の若年化,および高機能IOLの普及による術後視機能への期待などにより,術後長期における透明性維持はより重要となっている.ところが,疎水性アクリルIOLAcrySofR(Alcon社)では,IOL表面の散乱光が経年的に増加することが報告されている2.4).IOL表面の散乱光の増加は,視機能に影響を与えないという報告5)がある一方で,矯正視力4)やコントラスト感度6)の低下のリスクも懸念されている.表面散乱光の原因は,IOL表層に微細な水の粒子が侵入し,相分離が起こるためと考えられる7).発生機序は,IOL内部にできるグリスニングと類似しているが,ナノオーダーの水隙がIOL表層に局在することからSSNG(sub-surfacenanoglistering)ともよばれる.AcrySofRは,注型成形(cast-molding)により製造される.型(cast)にアクリルモノマーを注入し,重合すること〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(153)875 で,IOL形状に成形される.SSNGは,IOL製造工程の環境条件により起こると考えられ,製造工程における環境条件を最適化した改良型が開発された.筆者らは,IOLを加速劣化させ,改良されたIOLの術後長期における表面散乱光をinvitroにて検討した.I試料および方法試料は,軟性疎水性アクリル製IOL240枚である.その内訳は,従来型AcrySofRとしてSA60AT(Alcon社)80枚,製造工程を最適化した改良型としてSN60WF(Alcon社)80枚,コントロールとしてZCB00(AMO社)80枚である.使用したIOLの度数は20.0.30.0Dの範囲とした.3種類のIOLを20枚ずつ無作為に,劣化0年群,劣化3年群,劣化5年群,劣化10年群に分けた.劣化3年,5年,10年の群は加速劣化を行った.加速劣化は,環境温度が高くなると化学反応が速く進行することを利用し,短時間で経年劣化をさせる手法である7).BSS(balancedsaltsolution)5mlを入れた滅菌ガラスバイアル内にIOLを入れ,キャップで密閉した後,送風定温乾燥機に90℃で保管した.劣化に要する日数は,眼内温度36℃としてアレニウス式より算出した(それぞれ24日,40日,81日).加速劣化後に2時間放冷し,バイアルからIOLを取り出して,超純水で洗浄した.真空乾燥機でIOLを乾燥し,密閉保管した.IOLの表面散乱光は,BSSに浸し室温で24時間以上十分に水和させたIOLをBSSで充.した模擬眼に装着し,表面散乱光をScheimpflugカメラEAS-1000(NIDEK社)で測劣化0年劣化3年従来型AcrySofR改良型AcrySofRZCB00図1劣化年数0,3,5,10年の3種IOLの典型的なEAS.1000写真定した.表面散乱光は,臨床における検討と同様に,IOL前面の中心3.0mm以内の表面散乱強度を計測した2,4,7).各IOLに対して,劣化0年,3年,5年,10年での散乱光強度の変化を,Kruskal-Wallis検定とSteel-Dwass多重比較で検討した.p<0.05を統計的に有意差ありとした.II結果劣化年数0,3,5,10年における3種IOLのEAS-1000写真例を図1に示す.従来型のみ,劣化年数増加に伴う表面散乱光の増加が確認された.従来型の平均表面散乱光は,劣化0年群で17.6±3.1CCT(computercompatibletape),劣化3年群で40.4±2.9CCT,劣化5年群で46.4±4.9CCT,劣化10年群で58.3±9.2CCTであった(図2).表面散乱光は劣化0年群と比べ,劣化3年,5年,10年群で有意に高かった(p<0.002).回帰分析の結果,表面散乱光は劣化年数に従って有意に増加し(p<0.001,r2=0.78),その増加量は3.9CCT/年であった.改良型の表面散乱光は,劣化0年群で16.6±1.8CCT,劣化3年群で15.7±0.9CCT,劣化5年群で16.4±2.0CCT,劣化10年群で18.0±2.3CCTであった(図2).劣化3年と10年群で有意な差を認めた(p=0.0017)が,その差は2.3CCTであった.コントロールIOL(ZCB00)の表面散乱光は,劣化0年群で15.4±0.7CCT,劣化3年群で15.7±1.3CCT,劣化5年群で16.5±1.1CCT,劣化10年群で18.2±2.0CCTであった(図3).劣化0年と3年,5年群の間(p<0.014),および劣化3年,5年と10年群の間(p<0.03)で有意な差を認め,劣化5年劣化10年876あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(154) 808070706060平均表面散乱光(CCT)平均表面散乱光(CCT)5040302050403020101000年3年5年10年図2従来型(●)と改良型(○)のAcrySofRにおける,劣化年数による表面散乱光の変化それらの差は0.3.2.5CCTであった.III考按加速劣化によるinvitroな評価では,従来型AcrySofRは劣化年数が増加するに伴って,表面散乱光は増加した.コントロールIOLは,有意差はあったものの,劣化年数による増加は0.3.2.5CCTであった.従来型と同じ条件で製造されたMA60BMおよびSA60ATと,光学部がコントロールIOLと同一素材であるAR40/e(AMO社)の3種類のIOLの術後3年間における表面散乱光の変化を検討した報告では,MA60BMおよびSA60ATは術後1年以降,経年的に表面散乱光が増加したのに対して,AR40/eでは増加を認めなかった2).これは,本検討の結果とよく一致した.本検討において,従来型の表面散乱光の増加量は,加速劣化3年までで年間7.6CCT,5年までで年間5.8CCT,10年までで年間4.1CCTと,劣化年数が長期になるに従って低下した.一方,invivoの報告では,術後10年以上にわたって年間11.5CCTの割合で表面散乱光が継時的に増加している4).加速劣化を用いた検討は,その増加がinvivoの結果より少ない傾向があるが,表面散乱光が術後長期で発生するかを検証する方法としては有効であったと考えられた.Ongらは,術後10年以上の摘出MA60BMを水和下で観察すると表面散乱光が確認できることを報告している7).さらに,IOLの割面断層の走査型電子顕微鏡(SEM)像では表層120μm以内に直径200nm以下の水隙が観察されている.加速劣化後の従来型では同様の相分離が生じていると考えられる.加速劣化は,散乱光の増加がinvivoより少ないのは,水隙の大きさや数が異なるためと考えられた.詳細に検討するためには,加速劣化IOLのSEM観察が必要である.改良型では劣化年数による表面散乱光の顕著な増加を認めなかった.劣化年数3年と10年間では有意な増加がみられたが,劣化10年全体の変化は1.4CCTと測定分解能(1CCT)と同程度と小さい,コントロールIOLにおける変化と同程(155)00年3年5年10年図3ZCB00における,劣化年数による表面散乱光の変化度であることから,改良型は表面散乱光の増加が抑制されていると示唆された.Yaguchiらは,従来型AcrySofRの20年までの加速劣化を行い,素材の変化はほとんどないと報告している8).従来型で発生する相分離は,素材の劣化の可能性は低く,製造工程の環境条件に起因することが支持される.改良型の表面散乱光は,臨床像を反映しているかを確認する必要がある.今後,改良型AcrySofRの臨床経過を検討することが重要である.文献1)HollicEJ,SpaltonDJ,UrsellPGetal:Biocompatibilityofpoly(methylmethacrylate),silicone,andAcrySofintraocularlenses:Randomizedcomparisonofthecellularreactionontheanteriorlenssurface.JCataractRefractSurg24:361-366,19982)MiyataK,OtaniS,NejimaRetal:Comparisonofpostoperativesurfacelightscatteringofdifferentintraocularlenses.BrJOphthalmol93:684-687,20093)谷口重雄,千田実穂,西原仁ほか:アクリルソフト眼内レンズ挿入術後長期観察例にみられたレンズ表面散乱光の増強.日眼会誌106:109-111,20024)MiyataK,HonboM,OtaniSetal:Effectonvisualacuityofincreasedsurfacelightscatteringinintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:221-226,20125)MonestamE,BehndingA:Impactonvisualfunctionfromlightscatteringandglisteninginintraocularlenses,along-termstudy.ActaOphthalmol89:724-728,20116)YoshidaS,MatsushimaH,NagataMetal:Decreasedvisualfunctionduetohigh-levellightscatteringinahydrophobicacrylicintraocularlenses.JpnJOphthalmol55:62-66,20117)OngMD,CallaghanTA,PeiRetal:Etiologyofsurfacelightscatteringonhydrophobicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:1833-1844,20128)YaguchiS,NishiharaH,KambhiranondWetal:LightscatteronthesurfaceofAcrySofintraocularlenses:PartII.Anylysisoflensesfollowinghydrolyticatabilitytesting.OphthalmicSurgLasersImaging39:214-216,2008あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013877