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原発閉塞隅角緑内障に対するレーザー虹彩切開術の角膜内皮細胞に及ぼす長期的影響

2020年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(4):490.492,2020c原発閉塞隅角緑内障に対するレーザー虹彩切開術の角膜内皮細胞に及ぼす長期的影響窪倉真樹子中元兼二白鳥宙髙野靖子高橋浩日本医科大学眼科学教室CLong-TermE.ectofLaserIridotomyonCornealEndothelialCellDensityinCasesofPrimaryAngle-ClosureGlaucomaMakikoKubokura,KenjiNakamoto,NakaShiratori,YasukoTakanoandHiroshiTakahashiCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolC日本医科大学付属病院緑内障外来を受診した患者のうち,原発閉塞隅角症(PAC)および原発閉塞隅角緑内障(PACG)患者を対象に,レーザー虹彩切開術(LI)による角膜内皮細胞密度(CD)への影響を調べた.CD減少率を目的変数,LI施行日から最終CCD検査日までの期間(観察期間)を説明変数として回帰分析を行った.PAC(G)患者は15例26眼(男性3例5眼,女性12例21眼),年齢64±12歳,LI施行日からの観察期間はC34.5±15.7月であった.CDはCLI:治療前C2,810±173個/mm2,治療後C2,682±197個/mm2で有意に減少していた(p=0.02).CD減少率と観察期間との間に有意な正の関係があった(CD減少率=.0.4+0.1×観察期間(月),p=0.046,r2=0.16).PAC(G)に対する予防的CLIでは,CDは年間C1.6%減少し,約C40年間で半減すると予測された.CWeevaluatedthee.ectoflaseriridotomy(LI)oncornealendothelialcelldensity(ECD)inprimaryangle-clo-sureandprimaryangle-closureglaucomapatients.Thesubjectswere26eyesof15cases(male:3cases,5eyes;female:12Ccases,C21eyes).CTheCmeanCpatientCageCwasC64±12Cyears,CandCtheCmeanCfollow-upCperiodCwasC34.5±15.7months.ThemeancornealECDsigni.cantlydecreasedfrom2,810±173Ccells/mm2CpreLIto2,682±197Ccells/Cmm2CpostLI(p=0.02).Asigni.cantcorrelationwasfoundbetweentherateofcornealECDreductionandlengthofthepostoperativeobservationperiod(p=0.046).CornealECDwasestimatedtodecrease1.6%peryearpostLI,withanestimatedlossof50-percentat40-yearspostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(4):490.492,C2020〕Keywords:原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角緑内障,レーザー虹彩切開術,角膜内皮細胞,長期的影響.primaryCangleclosure,primaryangleclosureglaucoma,laseriridotomy,cornealendothelialcell,long-terme.ect.Cはじめに緑内障はわが国の中途失明原因の第一位であるが1),原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG)は原発開放隅角緑内障に比し数倍失明率が高く2),臨床上注意を要する緑内障病型である.また,原発閉塞隅角症(pri-maryangleclosure:PAC)は無治療で経過観察すると,5年以内にC22%がCPACGに移行することが報告されており3),PACG発症予防のため外科的治療が必要である.わが国における緑内障の治療指針を示した緑内障診療ガイドライン第4版では,瞳孔ブロックによるCPACおよびCPACGに対しては,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)または水晶体再建術が標準治療となっている4).LIは外来で簡便に瞳孔ブロックを解除できるので有用な治療法であるが,術後長期を経て発症する水疱性角膜症の合併はいまだ皆無ではない5.7).今回,筆者らは日本医科大学付属病院眼科(以下,当科)における急性緑内障発作の既往のないCPACおよびCPACGに対するCLIが角膜内皮細胞に及ぼす影響を後ろ向きに検討し,角膜内皮障害への長期的影響が予測できたので報告する.〔別刷請求先〕窪倉真樹子:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:MakikoKubokura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPANC490(114)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(114)C4900910-1810/20/\100/頁/JCOPY3,5003,000LI後細胞密度(個/mm2)LI後眼圧(mmHg)151052,500005101520LI前眼圧(mmHg)図1LI前後の眼圧変化眼圧はCLI前後で有意差はなかった(p=0.60).C1510500102030405060702,0002,0002,5003,0003,50025LI前細胞密度(個/mm2)図2LI前後の角膜内皮細胞密度の変化角膜内皮細胞密度はCLI施行後にC129C±136個/mmC2有意に減少していた(p=0.02).しているものとした.LIの術式は全例アルゴンレーザー・Nd:YAGレーザー法であった.アルゴンレーザー(グリーン)で穿孔予定部位周囲を照射し虹彩を伸展菲薄化後,Nd:YAGレーザーで穿孔した.それぞれのレーザー設定と照射数は,アルゴンレーザーにて第一段階としてC200Cμm,0.2秒,200CmWでC4発,第二段階としてC50Cμm,0.02秒,1,000CmWでC10.20発したのち,Nd:YAGレーザーにてC1.5CmJで1.2発照射とし,全例この範囲で施行した.CD減少率(%)-5観察期間(月)図3CD減少率と観察期間との関係CD減少率と観察期間との間に有意な正の関係があった(CD減少率=0.4+0.1×観察期間(月),rC2=0.16,Cp=0.046).CI対象および方法2016年C6月.2016年C11月に当科を受診した患者のうち,緑内障専門医(K.N.)が施行した予防的CLI後のCPACおよびPACG患者を対象とした.内訳は,年齢(平均値C±標準偏差)C64±12歳(39.78歳),男性C3例(5眼),女性C12例(21眼)のC15例C26眼であった.病型の内訳は,PACがC11例C19眼,PACGがC4例C7眼であった.選択基準は,LI前後に角膜内皮細胞測定が行われているものとした.除外基準は,内眼手術の既往,滴状角膜,Fuchs角膜内皮ジストロフィなど,緑内障以外の眼疾患を有するものとした.PACおよびCPACGの診断は,LI術前のカルテ所見より行った.緑内障診療ガイドライン4)に準じて,PACは,原発隅角閉塞によって眼圧上昇(少なくともC20CmmHgをC1回でも超える)をきたしている,もしくは周辺虹彩前癒着があるが緑内障性視神経症がないものとした.PACGはCPACに緑内障性視神経症を有角膜内皮細胞はスペキュラマイクロスコープCSP-2000P(トプコン)を用いて測定し,角膜中央部のデータを解析に用いた.視力,眼圧,角膜内皮細胞密度(celldensity:CD)(個/Cmm2)をCLI前後で比較した(WilcoxonCsigned-ranktest).また,CD減少率を[(LI前CCD-最終観察時CCD)/LI前CCD]C×100(%)として算出し,目的変数をCCD減少率,説明変数をCLI施行日から最終角膜内皮細胞検査日までの期間(観察期間)として,直線回帰分析を行った.統計解析は,JMP8(SASInstitute社)を用いて,有意水準p<0.05(両側検定)で検定した.CII結果1.視力(logMAR)および眼圧の変化視力については,LI前後で視力測定が行われていたC15例24眼で検討した.LI前(平均値C±標準誤差):.0.06±0.04(.0.08.0),LI後:0.02C±0.20(C.0.08.0.7)(p=0.03)であり,白内障進行により有意に低下した.また,眼圧の検討では,LI前:13.8C±3.8CmmHg(7.5.21CmmHg),LI後:C13.5±3.7CmmHg(8.21CmmHg)であり,LI前後に有意差はなかった(p=0.60,図1).C2.CDの変化およびCD減少率と観察期間との関係観察期間はC34.5C±15.7月であった.角膜内皮細胞数はCLI前:2,810C±173/mm2,LI後:2,682C±197mm2であり,LI(115)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C491施行後にC129C±136個/mmC2有意に減少していた(p=0.02,図2).また,目的変数をCCD減少率(%),説明変数を観察期間(月)として直線回帰分析を行ったところ,両者に有意な正の関係があった〔CD減少率=0.4+0.1×観察期間(月),Cr2=0.16,Cp=0.046,図3〕.CIII考按今回,アルゴンレーザー・Nd:YAGレーザー法によるLIが施行されたCPACおよびCPACG患者を対象に,LIの角膜内皮細胞への影響について後ろ向きに検討したところ,LI後のCCD減少率はC1.6%/年であり,加齢によるCCD減少率は0.3.0.7%/年8)に比し早かった.また,これは同様の検討をした宇高らの報告9)におけるCCD減少率C1%/年より早かった.本検討の結果から算出すると,CDはCLI施行後約C40年間で半減することがわかった.ただし,回帰式の決定係数はCr2=0.16と低く,回帰式の精度の問題がある.PACGにおけるCLI後では,通常,眼圧は有意に下降することが多いが10),今回の検討では有意な眼圧下降はなかった.この原因として,対象にCPACGの割合が少ないこと,治療前に眼圧下降薬が使用されている症例が含まれていることなどが考えられる.本検討の問題点および限界としては,①CCDがCLI前後で1回ずつしか測定されていないため,測定値の精度が低い可能性があること,②大学病院での後ろ向き研究のため,通院困難などの理由で近医に転院した症例が多く,結果として症例数が少ないこと,③今回対象から除外された症例のなかには,LIではなく水晶体再建術が施行されたものも多く,とくに隅角閉塞機序に水晶体因子の影響が強い症例などは除外されている可能性が高いこと,などがあげられる.最近,白内障のないCPACおよびCPACGを対象としたCLIと水晶体再建術の前向き比較試験(EAGLEstudy)10)の結果が報告され,水晶体再建術のほうが,LIより生活の質,経済面および眼圧コントロールにおいて優れていることが高いエビデンス・レベルで実証された.そのため,最近ではPACおよびCPACGにおける第一選択は水晶体再建術となりつつある11).しかし,PACおよびCPACGに対する水晶体再建術は通常の手術に比し手術難易度が高いため,術中合併症のリスクがより高くなることが知られている4).元来,水晶体再建術でもCCDは減少し,ときに水疱性角膜症もきたしうるという問題もある5).ただし,角膜内皮細胞の再生医療の進歩は目覚ましく12),将来は,LIによるものも含めて水疱性角膜症が現在ほど重篤な合併症の扱いではなくなる可能性がある.今回の結果からCPACおよびCPACGに対するCLIによって,CD減少率は年間C1.6%/年減少し,CDはCLI後約C40年間で半減すると予測された.LIは簡便で瞳孔ブロック解除に有用な治療法であるが,現時点では年齢およびCLI前のCCDを考慮して慎重に適応を決める必要がある.文献1)白神史雄:厚生労働科学研究研究費補助金,難治性疾患克服研究事業2)QuigleyCHA,CBromanAT:TheCnumberCofCpeopleCwithCglaucomaCworldwideCinC2010CandC2020.CBrCJCOphthalmolC90:262-267,C20063)ThomasCR,CParikhCR,CMuliyilCJCetal:Five-yearCriskCofCprogressionofprimaryangleclosuretoprimaryangleclo-sureglaucoma:ACpopulation-basedCstudy.CActaCOphthal-molScandC81:480-485,C20034)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌C122:5-53,C20185)ShimazakiJ,AmanoS,UnoTetal:NationalsurveryonbullouskeratopathyinJapan.CorneaC26:274-278,C20076)SchwartzAL,MartinNF,WeberPAetal:Cornealdecom-pensationCafterCargonClaserCiridectomy.CArchCOphthalmolC106:1572-1574,C19887)LimLS,HoCL,AngLPetal:Inferiorcornealdecompen-sationfollowinglaserperipheraliridotomyinthesuperioriris.AmJOphthalmolC142:166-168,C20068)天野史郎:正常者の角膜内皮細胞.あたらしい眼科C26:C147-152,C20099)宇高靖,横内裕敬,木本龍太ほか:レーザー虹彩切開術が角膜内皮細胞密度に与える長期的影響.あたらしい眼科C28:553-557,C201110)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetal:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreatmentCofCprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcon-trolledtrial.LancetC388:1389-1397,C201611)KimCYY,CJungHR:ComparisonCofC2007-2012CKoreanCtrendsinlaserperipheraliridotomyandcataractsurgeryrates.JpnJOphthalmolC58:40-46,C201412)KinoshitaCS,CKoizumiCN,CUenoCMCetal:InjectionCofCcul-turedcellswithaROCKinhibitorforbullouskeratopathy.NEnglJMedC378:995-1003,C2018***(116)

原発閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術併用外方線維柱帯切開術の術後長期成績

2018年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(8):1139.1143,2018c原発閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術併用外方線維柱帯切開術の術後長期成績中村芽衣子徳田直人塚本彩香北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CLong-termOutcomesofTrabeculotomyAbExternoCCombinedwithGoniosynechialysisforPrimaryAngleClosureGlaucomaCMeikoNakamura,NaotoTokuda,AyakaTsukamoto,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,SchoolofMedicine目的:原発閉塞隅角緑内障(PACG)に対する水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(PEA+IOL),隅角癒着解離術(GSL),外方線維柱帯切開術(LOT)の併用について検討する.対象:PACGに対し初回緑内障手術としてCPEA+IOL+GSL(以下,GSL群),またはCPEA+IOL+GSL+LOT(以下,GSL+LOT群)を施行し,術後C36カ月以上経過観察が可能であったC40例C57眼(平均年齢C70.2C±11.2歳)を対象とした.結果:眼圧,薬剤スコアについては両群ともに術前に比し有意に下降した.累積生存率は術後C36カ月でCGSL群C82.4%,GSL+LOT群C91.3%であった.角膜内皮細胞密度はCGSL+LOT群では術前後で有意差を認めなかったが,GSL群では術後C3年で有意に減少した.結論:PACG眼に対するCPEA+IOL+GSL+LOTは中長期的に有効な緑内障手術である可能性が示唆された.WeCevaluatedCtheClong-termCoutcomesCofCtrabeculotomy(LOT)combinedCwithCgoniosynechialysis(GSL)C,phacoemulsi.cationCandCaspirationCintraocularClensCimplantation(PEA+IOL)C,CforCprimaryCangleCclosureCglaucoma(PACG).Fortypatients(57eyes)whounderwentPEA+IOL+GSL(GSLgroup)orPEA+IOL+GSL+LOT(GSL+LOTgroup)werefollowedupfor36monthspostoperatively.Intraocularpressureanduseofeyedropsshowedsigni.cantdecreaseafterthesurgeryinbothgroups.Thecumulativesurvivalratewas82.4%intheGSLgroupand91.3%intheGSL+LOTgroup.PostoperativecornealendothelialcelldensityintheGSL+LOTgroupwasnotsigni.cantlydi.erentfromthepreoperativevalue.However,intheGSLgroupitwassigni.cantlydecreasedat3yearsaftersurgerycomparedtothepreoperativevalue.WeconcludethatPEA+IOL+GSL+LOTisane.ectivetreatmentforPACGintermsofmedium-andlong-termoutcomes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(8):1139.1143,C2018〕Keywords:原発閉塞隅角緑内障,線維柱帯切開術,隅角癒着解離術,緑内障手術.primaryangleclosureglauco-ma,trabeculotomy,goniosynechialysis,glaucomasurgery.Cはじめに原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureCglaucoma:PACG)の治療法は眼圧上昇の原因がどこに生じているかにより異なる.わが国における緑内障診療ガイドラインのなかでも眼圧上昇の原因が相対的瞳孔ブロックによる場合はレーザー虹彩切開術あるいは虹彩切除術による瞳孔ブロック解除が第一選択とされている1).また,水晶体乳化吸引術(phaco-emulsi.cationCandCaspiration:PEA)は毛様体C,硝子体などの水晶体後方の因子を除く,あらゆる隅角閉塞機序に対して有効であり,PACGに対してCPEAを行うことの有効性についても報告されている2).また,広範囲の周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorCsynechia:PAS)により,線維柱帯が慢性的に閉塞し不可逆的な変化をきたしていることが予想される症例の場合,PEAのみでは眼圧下降が不十分であることが予測され,隅角癒着解離術(goniosynechialysis:GSL)などの緑内障手術との同時手術が選択される3,4).しかし,〔別刷請求先〕中村芽衣子:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:MeikoNakamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversity,SchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANGSLを併用したCPEAにおいても眼圧コントロールが困難な症例が存在する.このようなことを想定して線維柱帯切除術(trabeculectomy:LEC)という選択肢もあるが,PACGに対するCLECは悪性緑内障5)や術後浅前房などの合併症を発症する可能性が高く危険を伴う.そこで筆者らはCPEAおよび眼内レンズ挿入術(intraocularlensimplantation:PEA+IOL)にCGSLと線維柱帯切開術(trabeculotomyabexterno:LOT)を併用すること(PEA+IOL+GSL+LOT)で,より安全にさらなる眼圧下降の維持が可能なのではないか考えた.このたびCPACG眼に対するCPEA+IOL+GSL+LOTの有効性について検討した.CI対象および方法2008年C4月.2013年C3月に聖マリアンナ医科大学病院にて,白内障を併発したCPACGに対して,初回緑内障手術としてCPEA+IOL+GSL(以下,GSL群),またはCPEA+IOL+GSL+LOT(以下,GSL+LOT群)を施行し,術後C36カ月以上経過観察が可能であったC40例C57眼(平均年齢C70.2C±11.2歳)を対象とした.なお,PACGは発症速度により急性と慢性に分けられる1)が,臨床においては急性型と慢性型の中間型といえる亜急性,または間欠性といえるような症例もあるため,今回の対象においては発症速度による分類は行っていない.術前後の眼圧,薬剤スコア,角膜内皮細胞密度の推移,累積生存率について検討した.薬剤スコアは,抗緑内障点眼薬1剤につきC1点(緑内障配合点眼薬についてはC2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服はC2点として計算した.累積生存率については,術後眼圧がC2回連続して基準C1(21CmmHg以上またはC4CmmHg未満)を記録した時点,もしくは,基準C2(16CmmHg以上またはC4CmmHg未満)を記録した時点を死亡と定義とした.基準C1,2とも再手術になった時点も死亡とした.術後経過観察期間中に抗緑内障点眼薬が追加となった症例も存在するが,その時点では死亡として扱わず,生存症例とした.手術は全例同一術者(N.T.)により施行された.2008年C4月.2011年C3月までは全例CPEA+IOL+GSLを施行し,2011年C4月.2013年C3月までは目標眼圧がC14CmmHg以下の症例についてはCPEA+IOL+GSL+LOTを施行し,目標眼圧がC15CmmHg以上の症例についてはCPEA+IOL+GSLを施行した.手術方法は,GSL群ではまずスワンヤコブオートクレーバルブゴニオプリズム(アールイーメディカル)と上野式極細癒着解離針(Inami)を用いてCGSLを施行(上方1象限を除く約C270°)し,その後CPEA+IOLを施行し手術終了とした.GSL+LOT群は,GSL群と同様にCGSLを施行(上方C1象限を除く約C270°)し,その後,結膜輪部を切開し,強膜弁を作製,同一創からCPEA+IOLを施行した.その後,強膜内方弁を作製しCSchlemm管を同定し線維柱帯を切開した.統計学的な検討は対応のあるCt検定,またはCMann-Whit-neyUtestを使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.なお,本研究は診療録による後ろ向き研究である.CII結果表1に両群の術前の詳細について示す.年齢,眼圧,術前角膜内皮細胞密度に有意差を認めなかったが,Humphrey自動視野計によるCmeandeviation,薬剤スコア,PASindexについては両群間に有意差を認めた(Mann-WhitneyCUtest).図1に各群の術前後の眼圧推移を示す.眼圧はCGSL群では術前平均C29.4C±11.7CmmHgが術後12カ月でC14.3C±3.9mmHg,24カ月でC13.6C±3.2CmmHg,36カ月でC13.3C±3.2CmmHg,CGSL+LOT群で術前C26.3C±8.8CmmHgが術後C12カ月でC13.7C±5.2CmmHg,24カ月でC12.9C±2.0CmmHg,36カ月でC12.8C±表1両群の背景GSL群CGSL+LOT群p値症例数(男女比)2C5例C34眼男性:C8例C11眼女性:1C7例C23眼15例23眼8例14眼7例9眼C.手術施行時平均年齢(歳)C72.0±10.4C67.5±12.0C0.30(Mann-WhitneyUtest)CMeandeviation(dB)C.16.4±4.8C.19.7±4.4C0.02(Mann-WhitneyUtest)眼圧(mmHg)C29.4±11.7C26.3±8.8C0.47(Mann-WhitneyUtest)薬剤スコア(点)C2.4±1.4C3.1±1.3C0.04(Mann-WhitneyUtest)CPASindex(%)C80.9±24.6C64.1±19.2C0.006(Mann-WhitneyUtest)角膜内皮細胞密度(/mm2)C2,395±697C2,697±443C0.13(Mann-WhitneyUtest)54薬剤スコア(点)眼圧(mmHg)3210100術前術後術後術後術後術前術後術後術後術後6カ月12カ月24カ月36カ月6カ月12カ月24カ月36カ月図1各群の術前後の眼圧推移図2各群の術前後の薬剤スコアの推移両群ともに術前と比較し術後有意な眼圧下降を示した.両群ともに術後C1カ月目より薬剤スコアが有意に減少した.*:GSL群Cvs.GSL+LOT群:p<0.05.C*:GSL群Cvs.CGSL+LOT群:p<0.05,**:GSL群Cvs.CGSL+LOT群:p<0.01.C11GSL+LOT群0.80.8GSL群0.6累積生存率累積生存率0.60.40.40.20.20012243601224360観察期間(カ月)観察期間(カ月)図3各群の術後累積生存率(基準1)図4各群の術後累積生存率(基準2)術後C36カ月の累積生存率はCGSL群C82.4%,GSL+LOT術後C36カ月の累積生存率はCGSL群C79.0%,GSL+LOT群C91.3%であった(Logranktestp=0.3701).C群C67.6%であった(Logranktestp=0.2095).C1.9CmmHgと両群ともに術前に比し有意な眼圧下降を示した4,000*(対応のあるCt検定p<0.01).また,術後C21カ月とC33カ月の時点においてCGSL+LOT群はCGSL群よりも有意に眼圧が低くなっていた(Mann-WhitneyUtestp=0.04).図2に各群の術前後の薬剤スコア推移を示す.薬剤スコアはCGSL群では術前平均C2.4C±1.4点が術後C12カ月でC0.3C±0.5点,24カ月でC0.5C±0.6点,36カ月でC0.6C±0.8点,GSL+LOT群で術前C3.1C±1.3点が術後C12カ月でC0.9C±1.0点,24角膜内皮細胞密度(/mm2)3,0002,0001,000カ月でC0.9C±0.9点,36カ月でC0.9C±0.9点と両群ともに術前に比し有意な薬剤スコアの下降を示した(対応のあるCt検定p<0.01).また,術後C9カ月,12カ月,15カ月の時点においてCGSL+LOT群はCGSL群よりも有意に薬剤スコアが高くなっていた(Mann-WhitneyUtestp<0.01).図3,4に各群の術後累積生存率について示す.基準C1では,GSL群,GSL+LOT群の術後C36カ月おける累積生存率(135)0術前術後術前術後GSL+LOT群GSL群図5各群の術前後の角膜内皮細胞密度の推移GSL群では術前後で角膜内皮細胞の有意な減少を認めた(p<0.01).あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1141はそれぞれC82.4%,91.3%であり,両群間に有意差を認めなかった.基準C2では,GSL群,GSL+LOT群の術後C36カ月おける累積生存率はそれぞれC67.6%,79.0%であり,両群間に有意差を認めなかった.なお,緑内障再手術を施行した症例はCGSL群ではなく,GSL+LOT群ではC1例存在した.緑内障再手術としてはCLECを施行した.図5に各群の術前後の角膜内皮細胞密度の推移について示す.GSL+LOT群では術前C2,696.8C±443.2/mm2が術後C2,603.2±654.0/mm2と術前後で有意差を認めなかったが,GSL群では術前C2,395.3C±696.5/mm2が術後C1,967.0C±614.6/Cmm2と術後C3年で有意に下降した.CIII考按PACGにおいて,房水流失障害が隅角のみに生じているのか,それとも線維柱帯,Schlemm管以降にまで及んでいるのかは術後の経過をみてみないことには確かなことはいえない.PACGに対してCPEA+IOL+GSLを施行しても眼圧コントロールが得られない症例は少なからず存在する.これらの症例についてCLOTまで行っていればさらなる眼圧下降が得られた可能性があると考え,2011年C4月.2013年C3月までに手術適応となったCPACG症例については,目標眼圧がC14CmmHg以下の場合はCPEA+IOL+GSLに加えCLOTを施行し,目標眼圧がC15CmmHg以上の場合はCPEA+IOL+GSLのみを施行した.そのためCGSL+LOT群のほうが術前meanCdeviationは低く,薬剤スコアも高値となっていた.このように今回の対象についてはセレクションバイアスがかかっているため,本検討は今後CPEA+IOL+GSL+LOTの有効性を示すためのパイロットスタディと考えるべきである.以下,今回の結果について考察する.術後眼圧,薬剤スコアについては,両群ともに術前に比し有意な下降を認め,PACGに対するCPEA+IOL+GSL,CPEA+IOL+GSL+LOTの有効性が示された.安藤ら6)はCPEA+IOL+GSLを施行したC65例C78眼について術後有意な眼圧下降を示し,術後C36カ月の眼圧はC15.2C±2.6CmmHgであり,薬剤スコアについても低下したと報告している.そのほかにも同様の報告3,4)は散見され,Schlemm管以降に抵抗がない症例ではCPACGに対するCPEA+IOL+GSLの有効性については異論がないと考える.CPEA+IOL+GSL+LOTは,閉塞隅角の状態をCGSLで開放隅角にしてからCLOTを行う術式である.森村らはCPACGに対してCPEA+IOLにCLOTを併用し,18CmmHg以下への眼圧コントロールが得られた症例はC91%であったが,15mmHg以下となるとC50%であったと報告している7).また,PASがC50%以上の症例においても良好な眼圧下降を示したとされているが,累積生存率については触れられていない.筆者らの検討では,GSL+LOT群の術前CPASはすべての症例においてC50%以上であったものの,術後C16CmmHg以下に眼圧コントロールができた症例は術後C36カ月でC79.0%とGSL群と比較して有意差は認めないものの良好な成績であった.また,術後C21カ月とC33カ月の時点においてCGSL+LOT群はCGSL群よりも有意に眼圧が低くなっていた.安藤らの報告6)ではCPEA+IOL+GSL施行後に眼圧コントロール不良であった症例について,術後CPASがC30%以下であった症例がC3眼(3.8%)に存在し,これらの症例が眼圧コントロール不良となった原因については線維柱帯機能不全としている.このうちC1例(1.3%)については抗緑内障点眼薬で眼圧コントロールが得られず,再手術としてCLOTを施行し,その後眼圧コントロールが良好になったとしている.つまりPACGに対してCGSLを行い,線維柱帯がCPASで覆われていない状態で行うCLOTの有効性を示した症例といえる.この報告と今回の結果を合わせて考えると,GSLにCLOTを追加することでさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられる.ただし,今回の検討では術前のCPASCindexがCGSL群のほうが有意に高かったことが術後の眼圧推移に影響した可能性も否定できない.薬剤スコアが術後CGSL+LOT群のほうが有意に高い時期が存在したが,視野異常が進行している症例が多かったため術後早期から積極的に点眼加療を再開した症例が多かったためと考える.今回の検討において,GSL群で術後に眼圧コントロール不良となった症例は,緑内障性視神経障害が軽微であり目標眼圧が高めに設定されていた,または目標眼圧は上回っているものの術前眼圧よりもかなり眼圧下降が得られていた,などの理由で再手術を施行していなかった.GSL+LOT群についてはC1例のみ再手術が必要であった.再手術の術式としては,眼圧上昇の原因が線維柱帯やCSchlemm管以降の房水流出障害あると考えられたため,流出路再建術で眼圧コントロールを得ることは困難と判断し線維柱帯切除術を施行した.術後良好な眼圧下降が維持できている.角膜内皮細胞密度については,GSL+LOT群はCLOTを行う分CGSL群よりも手術手技が多くなるため,GSL+LOT群のほうが術後に角膜内皮細胞密度の減少が大きいと予想したが,GSL群のほうが角膜内皮細胞密度への影響が大きかった.この理由として,GSL群はCGSL+LOT群と比較し術前PASが多かったことや,有意差は認めないものの術前の角膜内皮細胞密度が少なかったことなどが影響していると考えられた.前房内から隅角にアプローチする術式では角膜内皮細胞密度がもともと少ない症例やCPASが多い症例では角膜内皮細胞密度の減少について注意すべきと考える.以上,PACG眼に対するCPEA+IOL+GSL+LOTの有効性について検討した.PACGに対しCGSL後にCLOTを追加することによりさらなる眼圧下降が得られる可能性があるため,PACGのなかでも目標眼圧が低い症例などにはCPEA+IOL+GSL+LOTはよい適応となりうると考える.今回の検討は診療録による後ろ向き検討であるため症例間の偏りが存在した.今後はさらに症例数を増やし前向き検討によりCPEA+IOL+GSL+LOTの有効性について検討すべきと考える.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌116:7-46,C20122)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetCal:E.ectivenessCofearlylensextractionforthetreatmentofprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcontrolledCtrial.LancetC388:1389-1397,C20163)TaniharaH,NishiwakiK,NagataM:Surgicalresultsandcomplicationsofgoniosynechialysis.GraefesArchClinExpCOphthalmolC230:309-313,C19924)早川和久,石川修作,仲村佳巳ほか:白内障手術と隅角癒着解離術併用の適応と効果.臨眼60:273-278,C20065)EltzCH,CGloorCB:TrabeculectomyCinCcaseCofCangleCcloserCglaucoma-successesCandCfailures.CKlinCMonatsblCAugen-heilkdC177:556-561,C19806)安藤雅子,黒田真一郎,永田誠:閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術と白内障同時手術の長期経過.眼科手術C18:229-233,C20057)森村浩之,伊藤暁,高野豊久ほか:閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術+超音波乳化吸引水晶体再建術の効果.あたらしい眼科26:957-960,C2009***

治療経過中に視神経乳頭陥凹・網膜神経線維層厚の変動を認めた急性原発閉塞隅角緑内障の1例

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):597〜600,2016©治療経過中に視神経乳頭陥凹・網膜神経線維層厚の変動を認めた急性原発閉塞隅角緑内障の1例石崎典彦*1大須賀翔*2大野淳子*3木村大作*2佐藤孝樹*2小嶌祥太*4植木麻理*4杉山哲也*5池田恒彦*4*1八尾徳州会総合病院眼科*2高槻赤十字病院眼科*3南大阪病院眼科*4大阪医科大学眼科学教室*5中野眼科医院ChangesinCup-to-DiscRatioandRetinalNerveFiberLayerThicknessinaCaseofAcutePrimaryAngle-ClosureGlaucomaDuringTreatmentNorihikoIshizaki1),ShouOosuka2),JunkoOono3),DaisakuKimura2),TakakiSato2),ShotaKojima4),MariUeki4),TetsuyaSugiyama5)andTsunehikoIkeda4)1)DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiRedCrossHospital,3)DepartmentofOphthalmology,MinamiosakaHospital,4)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,5)NakanoEyeClinic目的:急性原発閉塞隅角緑内障(APACG)の治療経過中に視神経乳頭陥凹比(C/D),視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFL)が変動した症例の報告.症例:56歳,女性,左眼痛,充血があり,左眼の眼圧は61mmHg,左眼のC/Dは0.7だった.左眼APACGと診断した.投薬で隅角の閉塞が解除され,その後の眼圧は13〜16mmHgだった.初診の1週間後に左眼C/Dが0.5に減少し,治療前と比較して視神経乳頭陥凹底深度が浅化,RNFLが増加した.1カ月後に左眼C/Dが0.7に増加し,左眼RNFLが治療前と比較して減少傾向で,その後も進行した.点眼加療により左眼眼圧は11〜12mmHgとなったが,2〜4カ月後にかけて左眼の視野障害が進行した.結論:APACGは眼圧が正常化しても形態的,機能的変化に注意が必要である.Purpose:Toreportchangesincup-to-disc(C/D)ratioandperipapillaryretinalnervefiberlayer(RNFL)thicknessinapatientwithacuteprimaryangle-closureglaucoma(APACG)duringtreatment.Case:A56-yearoldfemalepresentedwithpainandhyperemiainherlefteye.Intraocularpressure(IOP)inthateyewas61mmHg;C/Dratiowas0.7.WethereforediagnosedAPACG.Afterangle-closureintheeyehadbeenreleasedbymedication,IOPrangedfrom13-16mmHg.C/Dratiointheeyewasreducedto0.5,opticdisccuppingdepthbecameshallowerthanatfirstvisit,andRNFLshowedatendencytodecrease.IOPintheeyewasfurtherdecreasedto11-12mmHgwithmedication,yetvisualfielddefectprogressedfrom2to4monthspost-treatment.Conclusions:CloseattentionshouldbepaidtomorphologicalandfunctionalchangeintheopticnerveofpatientswithAPACG,evenwhenIOPisnormalized.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):597〜600,2016〕Keywords:原発閉塞隅角緑内障,視神経乳頭陥凹比,網膜神経線維層.primaryangle-closureglaucoma,cup-todiscratio,retinalnervefiberlayer.はじめに小児の緑内障では,眼圧の正常化とともに拡大していた視神経乳頭陥凹が縮小することがある1〜3).成人でも同様の現象が報告されている4〜6)が,小児と比較して稀である.今回,急性原発閉塞隅角緑内障(acuteprimaryangle-closureglaucoma:APACG)の治療経過中に視神経乳頭陥凹比(cup-to-discratio:C/D),視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚(peripapillaryretinalnervefiberlayerthickness:RNFL)が変動した1例を経験したので報告する.I症例患者:56歳,女性.主訴:左眼の痛み,充血.既往歴:精神発達遅滞,統合失調症,てんかん.現病歴:2013年11月に3日前からの左眼の痛み,充血があり,近医を受診し,左眼の隅角閉塞による眼圧上昇と診断された.同日,加療目的に高槻赤十字病院眼科へ紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.5(0.8×sph+2.0D(cyl−0.5DAx90°),左眼0.4(0.6p×sph−0.5D).眼圧は右眼19mmHg,左眼61mmHg.前眼部所見では両眼ともに浅前房,左眼に充血,軽度の角膜浮腫,周辺前房の消失を認めた.左眼の瞳孔は中等度散瞳しており,対光反射は認めなかった.中間透光体は両眼ともに軽度の白内障を認めた.眼底はC/Dが右眼0.4,左眼0.7だった.光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)(カールツァイス社製シラスHD-OCT)では右眼と比較して,陥凹底は左眼が深く,RNFLは左眼が厚かった.経過:20%D-マンニトール400ml,アセタゾラミド500mgの点滴投与を行ったところ,眼圧は右眼5mmHg,左眼12mmHgに低下し,隅角の閉塞が解除された.隅角閉塞の再発予防のために2%ピロカルピン点眼を左眼に開始し,両眼ともに水晶体再建術を予定した.初診後6日後に左眼,20日後に右眼に超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行した.術中,術後合併症はとくになく,手術後の前房深度は正常となり,矯正視力は1.0に改善した.ピロカルピン点眼は中止した.左眼のC/Dは初診後6日後に0.5に減少し,15日後には0.5,49日後以降は0.7と経時的に変化した(図1).左眼のRNFLは初診時から6日後にかけて増加,以降は経時的に減少傾向を示した(図2).Humphrey自動視野計(プログラムSITA-STANDARD)により測定した左眼の視野は49〜128日後にかけて,平均偏差(meandeviation:MD)が低下傾向を示し,視野障害が進行した(図3).手術後の左眼眼圧は13〜16mmHgだった.視野障害の進行を認めたため,128日後からラタノプロスト点眼を左眼に開始し,眼圧は11〜12mmHgに低下した.視野障害がさらに進行したので161日後からラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩の配合剤に変更し,眼圧は12mmHg程度となった.161日後以降の視野検査では視野障害の増悪は認めておらず,経過観察中である(図3,4).II考察小児緑内障は,眼圧の上昇により早期に視神経乳頭陥凹が拡大し,眼圧の正常化により陥凹の改善がみられることがある.成人,乳児の検死,献体の実験的研究により,乳児は篩状板のコラーゲン組織が未完成であるため,圧により視神経乳頭組織が圧迫もしくは後方移動すると考えられている7).成人における可逆性視神経乳頭陥凹は,これまでにも複数の報告4〜6)があるが,小児と比較して強膜の伸縮性が低いため稀とされている3).急性原発閉塞隅角症において,眼圧下降後に篩状板,前篩状板組織の位置が前方移動することがOCTにより観察されたと報告されている8).また,暗室うつむき試験により15mmHg以上の眼圧上昇を認めた原発閉塞隅角症疑いにおいて,試験前と比較して試験直後に視神経乳頭陥凹の深さは深化,視神経乳頭陥凹幅は拡大,乳頭リムの幅は縮小に有意な変化がOCTにより観察されたと報告されている9).本症例における初診時の視神経乳頭陥凹の深さ,C/Dの拡大はこれらの現象の極端に大きなものと推測される.急性緑内障の動物実験研究から軸索の水腫変性による視神経乳頭浮腫が4日以内に発生すること10),OCTによる臨床研究からAPACGは発症から3日以内に顕著にRNFLが増加し,その後減少したとの報告11)は,本症例のRNFLの変化と一致している.本症例のC/Dの変化とRNFL変化についてOCT所見,静的視野検査所見より以下のように推測した.初診時は高眼圧により篩状板が後方移動したことによりC/Dが増加していた.高眼圧に伴う視神経乳頭浮腫のためRNFLは増加しており,治療による眼圧の低下に伴って篩状板の位置が戻ったことによりC/Dが減少した.浮腫によりいったん増加していたRNFLは視神経乳頭浮腫の軽減と緑内障性視神経障害の進行に伴い減少し,再度C/Dが増加した.緑内障性と考えられる視野異常が約4カ月間進行したが,以降は停止した.眼圧下降点眼薬の投与により,超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術直後の眼圧よりも眼圧の下降が得られたため,自然経過なのか,眼圧の下降による効果なのかは不明である.APACGは眼圧低下後も形態的,機能的変化をきたすことがあり,眼圧が正常化した後も注意が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KessingSV,GregersenE:Thedistendeddiscinearlystagesofcongenitalglaucoma.ActaOphthalmol(Copenh)55:431-435,19772)QuigleyHA:Childhoodglaucoma:resultswithtrabeculotomyandstudyofreversiblecupping.Ophthalmology89:219-226,19823)MochizukiH,LesleyAG,BrandtJD:Shrinkageofthescleralcanalduringcuppingreversalinchildren.Ophthalmology118:2008-2013,20114)KatzLJ,SpeathGL,CantorLBetal:Reversibleopticdiskcuppingandvisualfieldimprovementinadultswithglaucoma.AmJOphthalmol107:485-492,19895)鈴村弘隆:検眼鏡的に乳頭陥凹の改善をみた続発緑内障の1例.あたらしい眼科23:665-668,20066)KakutaniY,NakamuraM,Nagai-KusuharaAetal:Markedcupreversalpresumablyassociatedwithscleralbiomechanicsinacaseofadultglaucoma.ArchOphthalmol128:139-141,20107)QuigleyHA:Thepathogenesisofreversiblecuppingincongenitalglaucoma.AmJOphthalmol74:358-370,19778)ParkHY,ShinHY,JungKetal:Changesinthelaminaandprelaminaafterintraocularpressurereductioninpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandacuteprimaryangle-closure.InvestOphthalmolVisSci55:233-239,20149)JiangR,XuL,LiuXetal:Opticnerveheadchangesaftershort-termintraocularpressureelevationinacuteprimaryangle-closuresuspects.Ophthalmology122:730-737,201510)ZimmermanLE,DeVeneciaG,HamasakiDI:Pathologyoftheopticnerveinexperimentalacuteglaucoma.InvestOphthalmol6:109-125,196711)LiuX,LiM,ZhongYMetal:Damagepatternsofretinalnervefiberlayerinacuteandchronicintraocularpressureelevationinprimaryangleclosureglaucoma.IntJOphthalmol3:152-157,2010〔別刷請求先〕石崎典彦:〒581-0011大阪府八尾市若草町1番17号八尾徳州会総合病院眼科Reprintrequests:NorihikoIshizaki,DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,1-17Wakakusachou,Yao-shi,Osaka581-0011,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(115)597図1左眼視神経乳頭部写真a:初診時乳頭.C/D0.7.b:6日後.C/D0.3.c:15日後.C/D0.5.d:49日後.C/D0.7.図2視神経乳頭部OCTa:初診時.b:6日後.c:15日後.d:79日後.初診時は左眼(OS)の乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFL)が右眼(OD)と比較して厚く,6日後にかけてさらに肥厚した.15日後以降はOSのRNFLは菲薄化した.初診時の視神経乳頭陥凹底は深くなっており,6日後には浅くなっていた.598あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(116)図3左眼Humphrey自動視野計視野異常が初診49〜128日後にかけて悪化傾向を認める.図4左眼の経過(117)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016599600あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(118)