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眼内リンパ腫の経過中にAZOOR様網膜病変を認めた1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1563.1566,2018c眼内リンパ腫の経過中にAZOOR様網膜病変を認めた1例牧野輝美1,2)小川俊平1,2)中野匡1)酒井勉1,3)*1東京慈恵会医科大学附属病院眼科*2厚木市立病院眼科*3東京慈恵会医科大学附属第三病院眼科CACaseofIntraocularLymphomawithAcuteZonalOccultOuterRetinopathy-likePhenotypeTerumiMakino1,2)C,ShumpeiOgawa1,2)C,TadashiNakano1)andTsutomuSakai1,3)1)DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,AtsugiCityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,JikeiDaisanHospitalC目的:Barileらは,眼内リンパ腫の初期病変として急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)様網膜病変を報告した.今回筆者らも同様の症例を経験したので報告する.症例:56歳,男性.2011年C6月より硝子体混濁を伴う汎ぶどう膜炎を認め,眼内リンパ腫を疑い硝子体生検を行うも確定診断は得られなかった.2012年C5月,感覚性失語,頭痛が出現し,頭部CMRIにて右側頭葉に腫瘤を認めた.びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫と診断され,化学療法と放射線療法が開始された.2014年C2月から光視症,左眼視力低下がみられた.光干渉断層計では黄斑部視細胞内節Cellipsoidzone(EZ)の不明瞭化,多局所網膜電図では黄斑部の応答密度の低下を認めた.2週後,自覚症状の改善,EZの明瞭化が確認された.2015年C2月,右眼にも同症状を認めたが自然寛解した.結論:眼内リンパ腫関連網膜症の表現型の一つとしてCAZOOR類似の網膜症に留意する必要がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCwithCacuteCzonalCoccultCouterretinopathy(AZOOR)C-likeCphenotypeCsecondaryCtoCintraocularlymphoma.Case:A56-year-oldmalepresentedwithpanuveitiswithvitreousopacityfrom2011June.DiagnosticCvitrectomyCwasCperformedCforCexaminationCofCintraocularClymphoma,CbutCtheCresultsCdidCnotCleadCtoCdiagnosisofintraocularlymphoma.In2012May,hecomplainedofheadacheandhadsensoryaphasia.BrainMRIshowedatumorintherighttemporallobe,leadingtodiagnosisofdi.uselargeB-celllymphoma.In2014Febru-ary,CheCcomplainedCofCacuteCreducedCvisionCwithCphotophobiaCinCtheCleftCeye.CFunduscopicCexaminationCofCtheCleftCeyeshowednoabnormallesion.Spectral-domainopticalcoherencetomographyrevealeddisruptionoftheellipsoidzone(EZ)andCmultifocalCelectroretinogramCdemonstratedCaCdecreaseCofCcentralCamplitude,CsuggestingCAZOOR.CTwoCweeksClater,CthereCwasCrecoveryCofCEZ,CwithCresultantCspontaneousCresolutionCofCmacularCmorphologyCandCfunctioninsixmonths.In2015February,therighteyehadthesameconditionandclinicalcourse.Conclusion:CCliniciansshouldbeawareofAZOOR-likephenotypeinatypicalmanifestationsofintraocularlymphoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1563.1566,C2018〕Keywords:眼内リンパ腫,B細胞リンパ腫,急性帯状潜在性網膜外層症,光干渉断層計,多局所網膜電図.intra-ocularlymphoma,Bcelllymphoma,AZOOR,opticalcoherencetomography,multifocalelectroretinogram.Cはじめに眼内リンパ腫には,眼および中枢神経を原発とするものと,全身の悪性リンパ腫の経過中に眼内に病変を生じるものがある.このうちとくに眼に初発するリンパ腫は,眼内原発リンパ腫(primaryintraocularlymphoma:PIOL)とよばれる.PIOLは,組織学的にその大部分が非CHodgkinびまん性大細胞型CB細胞リンパ腫に分類され,悪性度がきわめて高い1,2).加えてCPIOLは,診断に難渋するいわゆる仮面症候群の代表的疾患である.ぶどう膜炎に類似した所見は,いわゆる炎症反応とは異なり腫瘍細胞播種によるものであるが,ステロイドに反応があるため鑑別は容易ではない.眼内リンパ腫の眼底所見として,硝子体混濁,黄白色の網膜下浸潤病変,漿液性網膜.離,.胞様黄斑浮腫様所見,視神経乳頭浮腫,網膜血管炎様所見,黄斑部卵黄様病巣があげ〔別刷請求先〕牧野輝美:〒105-8461東京都港区西新橋C3-25-8東京慈恵会医科大学附属病院眼科Reprintrequests:TerumiMakino,DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine,3-25-8Nishishimbashi,Minato-ku,Tokyo105-8461,JAPANCられる.これらに加えてCBarileらは,2013年にCPIOLの初期病変として急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOOR)類似の網膜症が認められたC1症例を報告した3).今回筆者らは,眼内リンパ腫経過中にCAZOOR類似の網膜症が認められた症例を経験したので報告する.CI症例患者:56歳,男性.初診日:2011年C7月6日.主訴:両視力低下,飛蚊症.既往歴:高血圧.現病歴:2011年C6月末より両眼の視力低下,飛蚊症を自覚し,近医で両眼硝子体混濁を指摘され,同年C7月C6日東京慈恵会医科大学附属病院(以下,当院)紹介受診となった.初診時所見:視力はCVD=0.4(1.5C×-0.75D(cyl-1.25DAx95°),VS=0.3(1.5C×.1.25D(cyl.1.00DAx95°)で,眼圧は両眼C18CmmHgであった.両眼に豚脂様角膜後面沈着物,前房内細胞およびオーロラ様硝子体混濁を認めた.採血,胸部CX線に異常はなかった.硝子体混濁の改善がみられなかったため,眼内リンパ腫を疑い,同年C8月C9日左眼硝子体生検を施行した.硝子体液の精査の結果は,細胞診クラスCIII,IL-10:1,310Cpg/dl,IL-6:286Cpg/dlで,IgH再構成は認めなかった.同年C7月のCPET-CT,胸腹部造影CCT,頭部CMRIでは異常はなかった.確定診断が得られなかったこと,右眼硝子体混濁が改善しないことから,2012年C3月6日,右眼の硝子体生検を施行した.硝子体液の精査の結果は,細胞診クラスCIII,IL-10:1,320Cpg/dl,IL-6:324Cpg/dlで,IgH再構成は認めなかった.この時点で,眼内リンパ腫の確定診断は得られなかったが,眼内リンパ腫疑いとして診断した.術後に自覚症状の改善が認められ,全身精査で有意な所見がなかったことから経過観察となった.2012年C6月から頭痛,感覚性失語が出現するようになり,当院脳神経外科を受診した.頭部CMRIにて右側頭葉に約C32mmの腫瘤が指摘され(図1),6月C18日開頭生検を施行し,病理検査からびまん性大細胞型CB細胞リンパ腫(DLBCL)の診断に至った.この結果から,本症例は眼内リンパ腫(PIOL疑い)と診断し,眼病変が脳に転移した可能性を考慮した.7月C3日よりメトトレキサート(MTX)大量投与を開始するも,副作用として肝障害がみられ,2コース目以降投与量をC80%に減量し,計C4コースを行った.9月C7日より全脳照射(眼球含む)40CGy/20Cfrも開始され,11月には脳病変の寛解が得られた.この間,視覚に関する自覚症状はなかった.2014年C2月C19日に左眼視力低下,光視症を自覚し,当院眼科を再診した.再診時視力はCVD=0.4(1.5C×.0.75D(cylC.1.25DAx95°),VS=0.3(0.7C×.1.25D(cyl.1.00DAx95°)で,眼圧は両眼C18CmmHgであった.検眼鏡的に眼底に有意な所見はなかったが,自発蛍光では左眼黄斑部に軽度過蛍光領域がみられた(図2).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)において,ellipsoidCzone(EZ),interdigitationCzone(IZ)の不明瞭化(図3上)を認めたが,網膜色素上皮層には不整な所見を認めなかった.多局所網膜電図では黄斑部の応答密度の著明な低下を認めた(図3下).血液検査にて,自己抗体含め,抗網膜抗体は陰性であった.以上よりCAZOOR類似の網膜症と診断し,経過観察の方針となった.その後,2週で自覚症状および視力の改善,EZの明瞭化を認め,6カ月後に視力(1.0)となり,EZはほぼ復活した(図4).多局所網膜電図でも黄斑部応答密度の改善がみられた(図5).その後も再発なく経過.2015年C2月右眼にも同様の症状,所見を認めたが,自然に寛解した.2016年C3月に精巣への転移,7月には脳病変の再発を認め,その後肺炎を合併し,8月C23日に永眠された.CII考察本症例の特徴は,眼内リンパ腫の経過中に光視症を呈し,OCTでCEZの不明瞭化による網膜外層の形態的障害と,mfERGで応答密度の低下による網膜外層の機能的障害を認めたことであり,眼内リンパ腫の背景がなければCAZOORの診断に合致する点である.AZOORはC1992年にCGassらが報告した原因不明の網膜外層障害疾患群である4).若年から中年の健康な女性の片眼あるいは両眼に好発し,光視症,または視野障害を主症状とする.AZOORの診断は,検眼鏡的に網膜に異常所見はみられず,多局所網膜電図とCOCTで視野異常部位での網膜外層の機能・形態障害を証明することで診断される5).mfERGでは視野異常部位に一致した応答密度の低下が,OCTでは同部位に不明瞭なCEZやCIZが認められる6).また,近年では眼底自発蛍光で視野異常部位に一致して過蛍光所見がみられることが報告されている6).しかし,AZOORの病因はいまだに明らかではない.Gassらは外層網膜へのウイルス感染が原因である可能性を示唆した4).その後,原因として自己免疫性機序と炎症7,8),抗網膜抗体9,10)が重要な役割を担うとされた.これらの自己免疫による網膜の障害は,自己免疫性網膜症(autoimmuneretinopathy;AIR)とよばれる.一方,上皮由来の悪性腫瘍により自己免疫反応を生じ,視細胞を傷害するものは癌関連網膜症(cancerCassoicatedCretinopa-thy:CAR)11)とよばれ,上皮由来以外の悪性腫瘍であるリンパ腫や肉腫などによる視細胞の障害は腫瘍関連網膜症(paraneoplasticretinopathy)とよばれる.病因としては神図1頭部MRI頭部CMRIにて右側頭葉腹側に約C33Cmm大の比較的境界明瞭な腫瘤を認める.水平断(左),冠状断(右).図2眼底自発蛍光写真眼底自発蛍光では黄斑部に軽度過蛍光領域(円内)を認めた.図3多局所網膜電図多局所網膜電図では黄斑部の応答振幅の著明な低下を認めた.図5多局所網膜電図多局所網膜電図で黄斑部応答密度の改善がみられた.経組織に発現している蛋白が腫瘍組織に異所性に発現することにより,腫瘍組織に発現した蛋白と網膜の蛋白がともに非自己と認識され,自己抗体が発現し攻撃を受けることによると考えられている.CARの症状は比較的急速に進行する夜盲と視野狭窄である.AZOORで求心性視野狭窄を生じることはまれで,CARもしくはリンパ腫による腫瘍関連網膜症とは鑑別される.また,本症例において抗網膜抗体は陰性であった.本症例はCAZOORの特徴的な眼所見をすべて有しており,その診断自体は困難ではないが,眼内リンパ腫との関連が不明で,経過観察にあたっては慎重を要した.PIOLにCAZOOR類似の網膜症を呈したという報告は,筆者らが検索したところCBarileらの報告12)のみであった.Barileらの報告は,PIOLにみられた緩徐に進行したCAZOOR類似の網膜症であったが,本症例は急性発症で自然寛解が得られたこと,反対眼にも発症したことが相違点としてあげられる.これらの点から,本症例は眼内リンパ腫関連網膜症の新しい表現型の可能性が示唆される.以上,Barileらの症例と本症例の報告から,AZOORあるいはCAZOOR類似の網膜症が疑われた場合には,眼内リンパ腫の可能性があることも考慮されるべきである.眼内リンパ腫がCAZOOR類似の網膜症を引き起こす病態としては二つのことが考えられる.Barile12)らが推察する自己免疫性機序による視細胞障害の可能性とCKeinoら12)が指摘するCRPEへのリンパ球浸潤によるCRPEの機能障害と視細胞障害の可能性である.Keinoら12)はC13例C21眼の眼内リンパ腫の経時的CSD-OCT所見を検討し,経過中にC47.6%にEZの破綻,33.3%に網膜色素上皮(retinalCpigmentCepithe-lium:RPE)もしくはCRPEより内層にChyper-re.ectivenodulesが認められることを,さらにChyper-re.ectiveCnod-ulesはCMTX治療で減少あるいは消失することを報告した.本症例においては,OCT上CRPEには有意な所見を認めなかったこと,MTX大量療法後の寛解期に本病変を発症し無治療で自然寛解したことから,Barileらの自己免疫性機序による視細胞障害の可能性が疑われる.本症例では,無治療で自然寛解したが,経過観察で視機能障害の悪化が懸念される場合には,積極的な治療が必要になるかもしれない.自己免疫の関与が推察されることから,AZOORに準じて副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の全身治療が有効13,14)である可能性が示唆されるが,抗腫瘍効果を期待してCMTXやリツキシマブの硝子体内注射も考慮される必要があると考える12,15).積極的な抗腫瘍治療は,再発,反対眼の発症,他の臓器への転移を防ぐことで生命予後を改善するかもしれない.謝辞:本研究はCJSPS科研費C17K18131の助成を受けたものです.文献1)CJahnkeCK,CKorfelCA,CKommCJCetal:IntraocularClym-phoma2000-2005:resultsCofCaCretrospectiveCmulticentreCtrial.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC244:663-669,C20062)SagooCMS,CMehtaCH,CSwampillaiCAJCetal:PrimaryCintra-ocularlymphoma.SurvOphthalmolC59:503-516,C20143)BarileGR,GargA,HoodDCetal:UnilateralretinopathysecondaryCtoCoccultCprimaryCintraocularClymphoma.CDocCOphthalmolC127:261-269,C20134)GassJD:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.CDondersLecture:TheCNetherlandsCOphthalmologicalCSociety,CMaastricht,CHolland,CJuneC19,C1992.CJCClinCNeuroophthal-molC13:79-97,C19935)MrejenCS,CKhanCS,CGallego-PinazoCRCetal:AcuteCzonalCoccultCouterretinopathy:aCclassi.cationCbasedConCmulti-modalimaging.JAMAOphthalmolC132:1089-1098,C20146)FujiwaraT,ImamuraY,GiovinazzoVJetal:Fundusauto-.uorescenceCandCopticalCcoherenceCtomographicC.ndingsCinacutezonaloccultouterretinopathy.RetinaC30:1206-1216,C20107)JampolLM,WireduA:MEWDS,MFC,PIC,AMN,AIBSE,andAZOOR:OneDiseaseorMany?RetinaC15:373-378,C19958)JampolCLM,CBeckerKG:WhiteCspotCsyndromesCofCtheretina:ahypothesisbasedonthecommongenetichypoth-esisCofCautoimmune/in.ammatoryCdisease.CAmCJCOphthal-molC135:376-379,C20039)TagamiM,MatsumiyaW,ImaiHetal:Autologousanti-bodiestoouterretinainacutezonaloccultouterretinopa-thy.JpnJOphthalmolC58:462-472,C201410)QianCX,WangA,DeMillDLetal:Prevalenceofantiret-inalantibodiesinacutezonaloccultouterretinopathy:Acomprehensivereviewof25cases.AmJOphthalmolC176:C210-218,C201711)SawyerRA,SelhorstJB,ZimmermanLEetal:BlindnesscausedCbyCphotoreceptorCdegenerationCasCaCremoteCe.ectCofcancer.AmJOphthalmolC81:606-613,C197612)KeinoH,OkadaAA,WatanabeTetal:Spectral-domainopticalcoherencetomographypatternsinintraocularlym-phoma.OculImmunolIn.ammC24:268-273,C201613)ChenCSN,CYangCCH,CYangCM:SystemicCcorticosteroidsCtherapyCinCtheCmanagementCofCacuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.JOphthalmol793026,C201514)SaitoCS,CSaitoCW,CSaitoCMCetal:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathyCinJapaneseCpatients:clinicalCfeatures,CvisualCfunction,CandCfactorsCa.ectingCvisualCfunction.CPLoSCOneC10:e0125133,C201515)SouCR,COhguroCN,CMaedaCTCetal:TreatmentCofCprimaryCintraocularClymphomaCwithCintravitrealCmethotrexate.CJpnCJOphthalmolC52:167-174,C2008***

多局所網膜電図刺激装置(LE-4100)において適切な近見矯正レンズの選択が可能となる入力システムの改良

2017年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(11):1629.1633,2017c多局所網膜電図刺激装置(LE-4100)において適切な近見矯正レンズの選択が可能となる入力システムの改良横山健治竹中丈二木内良明広島大学病院眼科ImprovementofMultifocalElectroretinogramStimulationDevice(LE-4100)EntrySystem,EnablingChoiceofAppropriateCorrectiveLensforNearVisionKenjiYokoyama,JojiTakenakaandYoshiakiKiuchiCDepartmentofOphthalmology,HiroshimaUniversityHospital目的:多局所網膜電図(multifocalelectroretinogram:mfERG)の安定した記録のためには適切な近見矯正が重要である.筆者らは,コンタクトレンズ電極(CL電極)が他覚的屈折度数に与える影響とCmfERGの波形に与える影響について検討し,CL電極装用による矯正効果は角膜曲率半径と強い相関があること,適切な近見矯正を行うことでmfERGの振幅は有意に大きくなることを報告した.今回症例数を増やして追加検証するとともに,簡便に適切な矯正レンズを選択できるようにCLE-4100(メイヨー)の解析ソフトウェアの改良を行った.対象および方法:対象は眼疾患を有しない健常成人C9名C15眼と,2014年C5月.2016年C2月に広島大学病院眼科を受診し,mfERGを測定したC47名87眼の計C102眼である.mfERG装置は,視覚誘発装置にはCLE-4000(トーメーコーポレーション)を,刺激装置にはLE-4100を使用した.裸眼の屈折値とCCL電極装用上の屈折値の差をCCL電極による度数変化とし,裸眼の角膜曲率半径との相関関係をCPearsonの相関係数を用いて検定した.結果:角膜曲率半径が大きいほど,CL電極装用時の近視化傾向は弱くなり,角膜曲率半径とCCL電極による度数変化には強い相関があった(r=0.87,Cp<0.01).その結果をもとにCLE-4100の入力画面で,裸眼の他覚的屈折値と角膜曲率半径を入力するだけで,CL電極による屈折度数の変化を考慮した適切な推奨矯正レンズを選択できるように改良した.改良した新システムを使うと,測定の際の近見矯正レンズ度数を簡便に選択でき振幅は増大し,信頼性の高いCmfERGの結果を導き出すことができた.結論:新システムにより簡便に適切な近見矯正レンズを選択できるようになった.CPurpose:AppropriateCcorrectiveClensCforCnearCvisionCisCnecessaryCforCtheCstableCrecordingCofCmultifocalCelec-troretinograms(mfERG).Weinvestigatedcontactlenselectrode(CLelectrode)e.ectsonobjectiverefractionandmultifocalelectroretinogram(mfERG)waveform.Therewassigni.cantcorrelationbetweenmeanofcornealradiusofcurvatureandCLelectrodecorrectione.ect.AmplitudeofmfERGwassigni.cantlyimprovedbysettingappro-priateCcorrectiveClensCforCnearCvision.CInCthisCstudy,CweCinspectedCmoreCcasesCandCimprovedCtheCLE-4100(Mayo)CanalysisCsoftware,CenablingCeasyCselectionCofCtheCappropriateCcorrectiveClensCforCnearCvision.CSubjectsandMeth-ods:Subjectswere15eyesof9normalsubjectswhohadnoophthalmicdiseasesand87eyesof47patientswhovisitedtheHiroshimaUniversityHospitalDepartmentofOphthalmologyandrecordedtheirmfERGbetweenMay2014CandCFebruaryC2016.CWeCusedCLE-4000(Tomey)asCvisionCevokedCdeviceCandCLE-4100CasCstimulator.CWeCde.nedCtheCdi.erencesCbetweenCnakedCeyeCrefractionCandCCLCelectrode-wearingCeyeCasCrefractiveCchangeCbyCCLCelectrode.WealsoexaminedcorrelationbetweencornealradiusofcurvatureandrefractivechangeusingthePear-soncorrelationcoe.cient.Result:LargercornealradiusofcurvatureshowedlessmyopiawhilewearingCLelec-trode.StrongcorrelationwasobservedbetweencornealradiusofcurvatureandrefractivechangebyCLelectrode(r=0.87,p<0.01)C.Onthebasisofthisstudy,weimprovedtheanalysissoftwareoftheLE-4100,enablingchoiceofCappropriateCcorrectiveClens,CconsideredCaCchangeCofCtheCrefractionCbyCCLCelectrodeCjustCtoCinputCtheCobjectiveCrefractionClevelCofCtheCnakedCeyeCandCtheClevelCofCcornealCradiusCofCcurvature.CWeCareCableCtoCeasilyCchooseCtheC〔別刷請求先〕横山健治:〒734-8551広島市南区霞C1-2-3広島大学病院眼科Reprintrequests:KenjiYokoyama,DepartmentofOphthalmology,HiroshimaUniversityHospital,Kasumi1-2-3,Minami-ku,HiroshimaCity734-8551,JAPANappropriatecorrectivelensfornearvisionandobtainamuchmorereliableresultusingthisnewsystem.Conclu-sion:Weareabletoeasilychoosetheappropriatecorrectivelensfornearvision,usingthisnewsystem.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(11):1629.1633,C2017〕Keywords:多局所網膜電図,コンタクトレンズ電極,LE-4000,LE-4100.multifocalelectroretinogram,contactlenselectrode,LE-4000,LE-4100.Cはじめに多局所網膜電図(multifocalCelectroretinogram:mfERG)は,後極部網膜における障害の範囲,程度が定量的に測定可能であり,網膜の他覚的機能検査として有用であることがわかっている1.5).筆者らは過去に,測定に使用するコンタクトレンズ電極(CL電極)が他覚的屈折度数に与える影響とmfERGの波形に与える影響について検討した.そして,CL電極装用による矯正効果は角膜曲率半径と強い相関があること,適切な近見矯正を行うことで,mfERGの振幅は有意に大きくなること,またCmfERGの安定した記録のためには適切な近見矯正が重要であることを報告した6).今回症例数を増やして追加検証するとともに,簡便に適切な矯正レンズを選択できるようにCLE-4100の解析ソフトウェアの改良を行った.CI対象および方法対象は,健常者C9名C15眼(男性C3名,女性C6名,32.8C±7.5歳,平均C±標準偏差)と,2014年C5月.2016年C2月に広島大学病院眼科を受診し,錐体杆体ジストロフィやCoccultmacularCdystrophyなどの遺伝性黄斑疾患疑いのためにmfERGを測定した47名87眼(男性26名,女性21名,C45.9±19.4歳)の計C56名C102眼である.疾患の内訳は,黄斑ジストロフィC42眼,ぶどう膜炎C6眼,視神経炎C5眼,緑内障C4眼,網膜色素変性症C3眼,網膜動脈分枝閉塞症C2眼,屈折値の差=(裸眼-CL電極)矯正効果(D)2.000.00-2.00-4.00-6.00-8.007.207.407.607.808.008.208.408.60角膜曲率半径の平均(mm)図1角膜曲率半径の平均値とCL電極装用による度数変化の相関関係度数変化=裸眼等価球面度数C.CL電極装用上等価球面度数とする.角膜曲率半径の平均値とCCL電極装用による度数変化には,有意な正の相関が認められた(r=0.87,p<0.01).その他C25眼であった.方法は,トロピカミドC0.5%・フェニレフリン塩酸塩C0.5%(サンドールCPCR)で散瞳した後,オートレフケラトメータKR-800(トプコン)で裸眼の屈折値と,CL電極CEC-103装用上の屈折値を測定した.なお,CL電極の角膜部曲率半径はC8.00mmである.mfERGの測定は,測定装置であるLE-4000と刺激装置であるCLE-4100を用い行った.また,CL電極にはCEC-103(メイヨー)を用いた.CL電極による屈折度数の変化は,裸眼の等価球面度数とCL電極装用上の等価球面度数の差を度数変化とし,裸眼の角膜強主経線と弱主経線の曲率半径の平均値との相関関係をPearsonの相関係数を用い検定した.なお,本研究はヘルシンキ宣言の理念に則り,個人情報保護法および関連する指針に準拠し対象者の自由意思による同意を得た.CII結果今回の研究においても,角膜曲率半径とCCL電極装用による度数変化には有意な正の相関があった(r=0.87,Cp<0.01,図1).この相関が有意で強いことと,CL電極上から屈折度数を測定するのが煩雑であるため,裸眼の屈折度数と曲率半径を入力するだけで推奨近見矯正レンズを表示できるように入力システムの改良を行った.新しく改良された新システムの入力画面(図2)では以前の入力画面になかった裸眼の他覚的屈折度数,曲率半径,使用電極サイズを入力する項目があり,値を入力することで推奨矯正レンズ値が表示されるようになった.推奨矯正レンズの算出法について説明する.CL電極による度数変化CDadj(D)は,今回のデータの近似直線を利用して求められる.つまり,Dadj=5.8309×角膜曲率半径の平均値.48.232(D)である.被検者の等価球面度数CDeqv(D)を入力された他覚的屈折度数から計算する.Deqv=球面度数+円柱度数/2(D).検査距離がC164.135Cmmであることから,正視(0D)の場合に使用するレンズをC6.092546Dとする.ここから推奨矯正レンズCDrecm(D)をつぎの式を用いて計算する.Drecm=Deqv+6.092546-Dadj(D).Drecmの度数にもっとも近くて,実在する矯正レンズを選択する.この新システムを使用して強度近視のC28歳,女性,健常者のCmfERGを測定した(症例1).CL電極装用による度数C図2LE-4100の新システムの入力画面裸眼の他覚的屈折度数,ケラト値,使用電極サイズを入力することで自動で推奨矯正レンズ値を表示できるようになった.【従来の方法】【新システム】図3症例1(強度近視,28歳,健常者)の新旧システムで測定したmfERGの結果新システムで中心部の反応が向上している.【従来の方法】【新システム】図4症例2(中程度乱視,51歳,健常者)の新旧システムで測定したmfERGの結果新システムで中心部の反応が向上し,全波形表示においても全体的に向上している.変化は,裸眼の他覚的屈折度数のC.7.25DCcyl.0.75DCAx150°からCCL電極装用後はC.2.75DCcyl.0.50DCAx73°へと大きな度数変化があった.また従来の方法と,新システムで測定した結果をみると(図3),中心の陽性波振幅は従来の方法でC60.49CnV/degC2,新システムでC75.59CnV/degC2となり,新システムで上昇した.つぎに中程度乱視があるC51歳,女性,健常者のCmfERGを測定した(症例2).CL電極装用による度数変化は,裸眼の他覚的屈折度数の.6.50DCcyl.2.50DCAx173°からCCL電極装用後は.3.00DCcyl.0.25DCAx84°へと大きく,乱視度数もCCL電極が角膜乱視を打ち消すことから,大きく減少した.また,従来の方法と,新システムで測定した結果をみると(図4),中心の陽性波振幅は従来の方法でC22.35nV/Cdeg2,新システムでC40.01CnV/degC2となり,新システムで上昇した.また,全体の陽性波振幅も新システムで上昇した.CIII考按今回の研究においても,CL電極の矯正効果と角膜曲率半径の相関が強いことを確認した.裸眼の角膜曲率半径の平均値と,CL電極の角膜部曲率半径であるC8.00Cmmとの差が大きいほど,裸眼の屈折値とCCL電極装用上の屈折値との度数変化が大きかった.その理由として,CL電極と角膜との間の涙液や角膜保護剤が涙液レンズの役割を果たし,CL電極による屈折矯正効果が大きく現れたのではないかと考えた.近藤7)は刺激画面の像が不鮮明な状態で記録を行うと,刺激に対応した網膜からの反応が低下することが予想されると述べている.また,森ら8)はレンズに貼付することができる,不透明な薄い膜である眼鏡箔で健常者の視力を低下させてmfERGを記録した結果,中心部の振幅の低下が認められたと報告している.筆者ら6)は前回の研究でCCL電極による屈折度数の変化は,測定時の適切な矯正レンズ度数の選択に誤差を与え,とくに中心部のCmfERGの波形にも影響を与えると報告した.mfERGのもう一つの代表的な記録装置であるCVERIS(visualevokedresponseimagingsystem,Electro-Diagnos-ticImaging)はオプションにより刺激装置に取り付けるレフラクター・カメラにより屈折矯正を行うことができる9.11).このリフラクター・カメラは屈折矯正用のレンズと被験者の固視監視用のCTVカメラで構成され,本体側面のダイアルを調節することで屈折矯正が可能であり,屈折矯正用の球面レンズを必要としない.小片ら12)はレフラクター・カメラの使用時と非使用時でCmfERGの振幅を比較した結果,レフラクター・カメラ使用時に中心部からの反応が有意に増大したと報告している.これまでCLE-4100には適切な近見矯正装置が装備されておらず,裸眼の屈折値から検者が算出した近用レンズをレンズホルダークリップに装着,矯正して測定13)しなければならなかった.したがって,今まではCLE-4100の測定において,CL電極による度数変化により近見矯正レンズ度数に誤差が生じて指標が不鮮明になり,正しい検査結果が得られない可能性もあったと考えられる.今回の研究結果をもとにCLE-4100の入力画面で,裸眼の他覚的屈折値と角膜曲率半径を入力するだけで,CL電極による屈折度数の変化を考慮した適切な推奨矯正レンズを選択できるように改良した.改良した新システムを使用することにより,測定の際の近見矯正レンズを簡便に選択でき,信頼性の高いCmfERGの結果を導き出すことができると考える.本論文の要旨は第C64回日本臨床視覚電気生理学会にて発表した.文献1)近藤峰生:多局所網膜電図の基礎と臨床応用について教えてください.あたらしい眼科19(臨増):28-33,C20022)大黒浩,高谷匡雄,三浦道子ほか:多局所CERG(網膜電図)の信頼性についての検討.あたらしい眼科C14:277-279,C19973)堀口正之:多局所網膜電図(MultifocalCERG)の臨床応用.臨眼51:1764-1768,C19974)近藤峰生,三宅養三,堀口正之ほか:正常者における多局所網膜電図の応答密度の検討.日眼会誌C100:810-816,C19965)近藤峰生,三宅養三,堀口正之ほか:多局所CERG.眼紀C46:469-477,C19956)横山健治,近間泰一郎,木内良明:多局所網膜電図波形に対するコンタクトレンズ電極が及ぼす影響.日本視能訓練士協会誌45:315-321,C20167)近藤峰生:4多局所CERGを臨床に生かす.どうとる?どう読む?ERG(山本修一ほか編),p58-61,メジカルビュー社,20048)森敏郎,加藤千晶,中島理子ほか:多局所網膜電図の応答と視力の相関.臨眼51:485-488,C19979)堀口正之:多局所網膜電図.眼科プラクティスC2(樋田哲夫編),p179-183,文光堂,200510)川端秀仁,村山耕一郎,安達恵美子:近視眼における多局所網膜電図第C1報.眼紀C47:509-513,C199611)島田佳明:多局所ERG.眼科56:983-988,C201412)小片一葉,林昌宣,山本修一:屈折矯正・固視監視装置が多局所網膜電図に及ぼす影響.あたらしい眼科C20:420-422,C200313)島田佳明:最新の多局所CERG記録装置の有用性について教えてください.あたらしい眼科27(臨増):113-116,C2010***

慎重な鑑別を要したLeber遺伝性視神経症の1例

2014年8月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(8):1227.1231,2014c慎重な鑑別を要したLeber遺伝性視神経症の1例青木優典*1竹内篤*1田口朗*2*1関西電力病院眼科*2大阪赤十字病院眼科AnAtypicalCaseofLeber’sHereditaryOpticNeuropathyMasanoriAoki1),AtushiTakeuchi1)andHogaraTaguchi2)DepartmentofOphthalmology,1)KansaiElectricPowerHospital,2)DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossOsakaHospital症例は家族歴のない47歳,男性.急激な両眼視力低下を主訴に関西電力病院眼科を受診.30歳代に手足が2度にわたって動きにくくなるという全身の既往から多発性硬化症による視神経炎を,一時的な光視症の訴えから急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)を鑑別する必要があったが,最終的に遺伝子検査にてミトコンドリアDNA11778変異が見つかり,Leber遺伝性視神経症(LHON)の診断が確定した.LHONの確定診断は遺伝子検査によってなされ確度の高いものである.しかし,そこに至るまでの各種検査,すなわち瞳孔検査,眼底検査,蛍光眼底造影検査,光干渉断層法(OCT),磁気共鳴画像法(MRI),多局所網膜電図(ERG)などはいずれも決定的なものではなく,これらを総合して鑑別を進め,慎重かつ円滑に診断すべきであると思われた.A47-year-oldmalewithnofamilyhistorycomplainedofsubacutevisualdisturbance.Best-correctedvisualacuity(BCVA)was0.6and0.6pinhisrightandlefteye.Hehadpathologicalevents,hislimbmovementsbecomingpoortwiceinhisthirties;thecauseswereunknown.Theinitialdiagnosiswasopticneuritisassociatedwithmultiplesclerosis.Theseconddiagnosiswasacutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR),basedonacomplaintoftemporaryphotopsia.MitochondrialDNAanalysisrevealedpointmutationat11778,leadingtoadefinitediagnosisofLeber’shereditaryopticneuropathy(LHON).NumeroustypesofexaminationsaredonebeforeDNAanalysis:pupillaryreaction,funduscopy,fluoresceinangiography,opticalcoherecetomography(OCT),magneticresonanceimaging(MRI)andmultifocalelectroretinogram(ERG);however,theseexaminationsdonotnecessarilyclearlyrevealcharacteristicfindingsofLHON.LHONshouldbediagnosed,exclusiveofotherdisorders,consideringallexaminationfindingscarefullyandcomprehensively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(8):1227.1231,2014〕Keywords:Leber遺伝性視神経症,視神経炎,急性帯状潜在性網膜外層症,眼窩MRI,多局所網膜電図.Leber’shereditaryopticneuropathy,opticneuropathy,AZOOR,orbitalMRI,multifocalERG.はじめにLeber遺伝性視神経症(Leber’shereditaryopticneuropathy:LHON)は,10.30歳代の男性に好発し,両眼性に急性あるいは亜急性の視力低下をきたす遺伝性疾患である.やや稀な疾患であるために,一般眼科医が確定診断を下すまでにはさまざまな迷いが生じる場合も多いと考えられる.今回筆者らは,家族歴のはっきりしない47歳発症の1症例を経験したので,多少の文献的考察を加えて報告する.I症例患者:47歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:30歳代に2回手足が動きにくくなった(原因不明),外傷の既往なし.生活歴:喫煙1日20本,飲酒:1日にビール大ビン5本と焼酎ロック数杯.中毒歴はなく,栄養状態も良好.家族歴:特記すべき事項なし.現病歴:2012年12月頃より両眼の視力低下を自覚.翌〔別刷請求先〕青木優典:〒553-0003大阪市福島区福島2-1-7関西電力病院眼科Reprintrequests:MasanoriAoki,DepartmentofOphthalmology,KansaiElectricPowerHospital,2-1-7Hukushima,Hukushima-ku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(147)1227 2013年1月10日関西電力病院眼科初診.初診時視力は右眼0.6,左眼0.6pで眼圧は右眼20mmHg,左眼18mmHg.眼位・眼球運動に異常なく,眼球運動痛もなかった.瞳孔・対光反応に異常なく,RAPD(relariveafferentpupillarydefect)は陰性であった.中心フリッカ値は右眼25Hz,左眼21Hz.前眼部・中間透光体にも異常を認めなかった.眼底は視神経に明らかな発赤・腫脹を認めず,黄斑部および周辺網膜にも明らかな異常はなかった(図1).Goldmann視野計では両眼の比較中心暗点と左眼のMariotte盲点の拡大を認めた(図2).特徴的な全身の既往から,まずは多発性硬化症による視神経炎の可能性を考えたが,全身の神経学的検査では特に異常を認めず,頭部および脊髄の磁気共鳴画像(MRI)も正常であった.同年1月29日,視力は右眼0.4,図1初診時の眼底写真左眼の視神経は軽度発赤し,下耳側血管アーケードに沿って神経線維層の混濁も認められる.しかし,初診時にこれらを有意な所見と捉えることは困難であった.左眼0.2と低下しており,蛍光眼底造影検査(FA)と眼窩MRIを施行した.FAでは両眼とも腕─網膜時間の延長はなく,視神経乳頭からの蛍光漏出も認められなかった.眼窩MRIでは,右副鼻腔に炎症所見を認めたが,視神経に炎症所見はなかった(図3).視神経炎を積極的に考えることはむずかしい検査結果であった.続いて問診上,モニター画面を見ると光っており文字が見えにくいという訴えが1月下旬頃にあったため,急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の可能性も考慮し,多局所網膜電図(ERG)を施行した.中心固視がやや悪く,ノイズの多い波形ではあったが,視野の中心暗点に一致する中心部波形の振幅の低下は認められなかった(図4).網膜疾患であるAZOORは一応否定してよいと思われた.また,SRLに提出していた抗AQP4抗体の結果が陰性と判明した.以上の経過や検査結果だけでは,少なくとも視神経炎は完全には否定できないことと,患者の希望があったことから,同年2月20日入院のうえ,ステロイドパルス(1g×3日間)を1クール施行したが,反応はなかった.そこで改めて眼底をよく見ると,両眼とも上下の乳頭黄斑線維束の腫脹を認めた(図5).これがLHONに特有の所見1)であることと,経過・問診などから他の視神経症や視神経炎お図2Goldmann視野検査両眼の比較中心暗点と左眼のMariotte盲点の拡大を認める.1228あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(148) よび網膜疾患がおおむね否定的であることから,患者に遺伝子検査を勧めたが,患者は他の医師の診察を希望された.そこで神経眼科を専門にしている医師を紹介し,遺伝子検査を施行していただいた結果,同年3月27日ミトコンドリアDNA11778変異が見つかり,LHONと確定診断した.同医師に指摘され,FA写真を拡大して見ると,LHONに特徴的とされる乳頭周囲の毛細血管拡張所見を認めた(図6).また,初診時の眼底写真においても,特に血管アーケード下方の神経線維層の混濁を指摘された(図1).II考按LHONについては,本症例のように,発症年齢や眼底所見(特に視神経乳頭の発赤)が典型的でない症例や家族歴がはっきりしない症例も多い.さらに,本症の確定診断に必要な遺伝子検査は,料金面(SRLに依頼する場合,11778変異だけで実費2.5万円)からも気軽に実施できるものではないため,スムーズに本症の確定診断をすることは,一般眼科医にとって必ずしも容易ではないかもしれない.遺伝子検査に持ち込むまでの各種検査について,今回の症例を通して留意図3眼窩MRISTIR冠状断にて視神経内に高信号を認めなかった.検査データ右眼検査データ左眼鼻側耳側耳側鼻側視野視野視野視野図4多局所ERG中心固視が悪いためノイズの多い波形であるが,視野の暗点に一致した中心部の振幅の低下は認めない.(149)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141229 図5光干渉断層計LHONの急性期においては,まず下耳側のRNFLの肥厚が顕著となる1).図6蛍光眼底造影検査強拡大にして初めて,乳頭周囲の毛細血管の拡張所見を確認できた.特に下方に顕著である.すべき点がいくつかあると感じられたので,つぎに記したい.まず一つは,初診の段階で想定されることが最も多いと考えられる視神経炎2)を鑑別・除外する場合に必要となる眼窩MRIについてである.造影MRI脂肪抑制の冠状断と水平断において高信号がないことを確認して活動性のある視神経炎を否定したうえで,STIRにおいても高信号がないことが,LHONの診断を支持する所見となる3).しかしながらLHONであっても,剖検にて視交叉部を含む視神経に炎症所見を認1230あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014めた報告4)や造影効果が認められた症例5,6),T2での増強効果が視神経から視索に至るまで認められた症例7),さらには多発性硬化症(MS)による視神経炎に引き続いてLHONを発症したと思われる症例8)も存在するため,本症が疑われる場合の眼窩MRI所見については,慎重な解釈が必要な場合もあると思われる.LHONとMSの合併したものは,Leber’s‘plus’ssyndromeなどともよば(disease)あるいはHarding’れ,Harding9)以来,数多くの報告がなされている.本症例のようにMS様の神経学的症状の既往がある場合は特に,頭部および視神経脊髄における脱髄の有無については,今後の合併の可能性も含め,より厳密に評価すべきであろうと思われる.また,視神経炎とまぎらわしい疾患として言及されることの多い網膜疾患AZOOR10)についても,本症例のように鑑別しておくほうが好ましい場合もあるかもしれない.この場合,網膜疾患の除外目的で多局所ERGや高解像度の光干渉断層法(OCT)などを施行することになる.本症例において多局所ERGを施行したのは初診より36日後で,中心固視が悪いため良好な波形が得られなかった.もう少し早期に施行しないと信頼度の高い結果は得られないと考えられる.その一方で,急性期を過ぎて以降のLHONの多局所ERG所見について,中村らの報告11)によると,視野の中心暗点に一致して最中心領域の応答密度が低下し,周辺部の応答密度は正常範囲となるようである.網膜疾患を鑑別する際,発症より数カ月以上経過した症例の多局所ERG所見については慎重な解釈が必要となるであろう.また,OCT所見については,RNFL(網膜神経線維層)が肥厚を示し,まだ減少に(150) 転じていない発症早期においてもganglioncell(GCIPL厚)は経時的に減少を示す12)ことが判明し,LHONの早期診断および病態生理の解明に向けて有力な情報が得られるものと期待される.詳細な問診に加えて,視力の経過や視野,瞳孔反応に着目しつつ,OCT,MRI,眼底写真やFA写真の精緻な読み取り,多局所ERGなど,各種検査所見を総合的に判断したうえで,遺伝子検査へと進み,LHONの確定診断を円滑に行いたいものと反省させられた1症例であった.文献1)BarboniP,CarbonelliM,SaviniGetal:NaturalhistoryofLeber’shereditaryopticneuropathy:longitudinalanalysisoftheretinalnervefiberlayerbyopticalcoherencetomography.Ophthalmology117:623-627,20102)設楽幸治,村上晶,金井淳:視神経炎と考えステロイドパルス療法を施行した21例31眼の検討.臨眼56:1563-1566,20023)中尾雄三:視神経疾患の画像診断─撮像法の工夫と臨床応用.臨眼61:1624-1633,20074)井街譲:レーベル氏病.日眼会誌77:1658-1735,19735)VaphiadesMS,NewmannNJ:OpticnerveenhancementonorbitalmagneticresonanceimaginginLeber’shereditaryopticneuropathy.JNeuroophthalmol19:238-239,19996)OngE,BiottiD,AbouafLetal:Teachingneuroimages:chiasmalenlargementinLeberhereditaryopticneuropathy.Neurology81:126-127,20137)vanWestenD,HammarB,BynkeG:MagneticresonancefindingsinthepregeniculatevisualpathwaysinLeberhereditaryopticneuropathy.JNeuroophthalmol31:48-51,20118)坂本英久,西岡木綿子,山本正洋ほか:レーベル病と多発性硬化症が合併した1例.臨眼53:167-171,19999)HardingAE,SweeneyMG,MillerDHetal:Occurrenceofamultiplesclerosis-likeillnessinwomenwhohaveaLeber’shereditaryopticneuropathymitochondrialDNAmutation.Brain115:979-989,199210)大出尚郎:視神経炎と誤りやすい網膜症・視神経網膜症.あたらしい眼科20:1069-1074,200311)中村誠,妹尾健治,田口浩司ほか:視神経疾患の多局所網膜電図.眼紀48:845-850,199712)AkiyamaH,KashimaT,LiDetal:RetinalganglioncellanalysisinLeber’shereditaryopticneuropathy.Ophthalmology120:1943-1944,2013***(151)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141231