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涙点プラグ留置後2年で太鼓締め様脱出をきたした1例の臨床経過と組織学的検討

2014年8月31日 日曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(8):1211.1214,2014c涙点プラグ留置後2年で太鼓締め様脱出をきたした1例の臨床経過と組織学的検討五嶋摩理近藤亜紀亀井裕子三村達哉松原正男東京女子医科大学東医療センター眼科Two-YearClinicalCourseandHistopathologicalInvestigationofaCaseofExtrudedPunctalPlugEncircledwithMucosalLoopExtendingfromthePunctumMariGoto,AkiKondo,YukoKamei,TatsuyaMimuraandMasaoMatsubaraDepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast目的:涙点プラグ挿入後から太鼓締め様脱出をきたすまでの2年間の経過を観察し,組織学的検討を行った症例を報告する.症例:70代,女性.ドライアイに対して涙点プラグ挿入後,1年10カ月で,プラグ留置中の2涙点が突出してきた.2年8カ月後,右上のプラグが涙点から脱出して涙点を覆うように横向きに位置し,涙点内腔と連絡した軟部組織がプラグ頸部を帯状に覆っていた.軟部組織を涙点近傍で切断し,組織学的検討を行ったところ,断裂した涙小管粘膜と考えられた.結果:涙点プラグの太鼓締め様脱出は,涙小管粘膜の断裂が原因で,涙点の突出が先行する可能性が示唆された.Purpose:Toreportonthetwo-yearclinicalcoursefollowingpunctalplugimplantationandthehistopathologicaloutcomeofacasepresentingextrudedplugencircledwithsofttissueextendingfromthepunctum.Case:Afemaleinher70sunderwentpunctalpluginsertionfordryeye.Oneyearand10monthslater,twopunctashowedprotrusion.Twoyearsand8monthslater,oneoftheplugs,havingbeenextruded,layoverthepunctumwithaloopofsofttissue,extendingfromthepunctum,firmlyencirclingtheplug.Thetissuewasdissectedandhistologicallysuggestedlaceratedmucosaofthecanalicularlumen.Findings:Itishypothesizedthatplugextrusionaccompaniedbyamucosalloopresultsfromlacerationofthecanalicularmucosa.Punctalprotrusionmayprecedeplugextrusion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(8):1211.1214,2014〕Keywords:涙点プラグ,太鼓締め様脱出,合併症,涙点突出,組織病理.punctalplug,plugextrusionaccompaniedbymucosalloop,complication,punctalprotrusion,histopathology.はじめに点眼治療のみでは効果不十分なドライアイに対し,涙点プラグは簡便に挿入や抜去ができ,有効性も高いことから,わが国でも1998年の発売以来広く普及している.ゲージを用いたプラグサイズの測定や,プラグ形状の改良などとともに,脱落,陥入,肉芽などの合併症は少なくなっているとされるが1.5),一部では,プラグの脱落や脱出時に,涙小管内に肉芽が発生する可能性が指摘されている6.8).筆者らは,涙点プラグ留置後定期受診中に太鼓締め様の涙点プラグ脱出をきたし,プラグ除去後涙点閉塞した症例を経験し,挿入から脱出までの2年間の経過観察と,摘出組織の病理組織学的検討を行ったので報告する.I症例患者:70代,女性.既往歴:右角膜変性症に対して2005年に全層角膜移植術を施行した.家族歴:特記すべきことはない.現病歴:両眼のドライアイに対して2010年2月に右上下と左下に涙点プラグ(いずれもスーパーイーグルRプラグ,〔別刷請求先〕五嶋摩理:〒116-8567東京都荒川区西尾久2-1-10東京女子医科大学東医療センター眼科Reprintrequests:MariGoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,2-1-10Nishi-ogu,Arakawa,Tokyo116-8567,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(131)1211 acdbacdb図1涙点部の突出プラグ留置後1年10カ月:右上涙点(a)と左下涙点(b)が突出してきた.プラグ留置後2年半:右上涙点(c)と左下涙点(d)の突出がやや進行していた.(点線部円内,いずれもフルオレセイン染色後)*a*b図2右上涙点におけるプラグ脱出と太鼓締め様現象プラグ留置2年8カ月後,プラグが涙点から脱出し(点線部円内),涙点と連絡した軟部組織(*)がプラグ頸部を覆っていた.a:上眼瞼反転前,b:上眼瞼反転後.1212あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(132) ×20×40vvv*図3太鼓締めをきたした組織の病理標本(ヘマトキシリン・エオジン染色)重層扁平上皮層(*)において角化は認めず,結合組織内に多数のリンパ球と少数の好中球の浸潤を認めた.上皮下には,新生血管(v)も認めた.×20×40vvv*図3太鼓締めをきたした組織の病理標本(ヘマトキシリン・エオジン染色)重層扁平上皮層(*)において角化は認めず,結合組織内に多数のリンパ球と少数の好中球の浸潤を認めた.上皮下には,新生血管(v)も認めた.イーグルビジョン社,米国)を挿入した.プラグサイズはいずれもゲージ測定で決定した.右下のプラグは半年で脱落した.経過1:2カ月ごとの診察中,プラグ挿入後1年10カ月で右上と左下の涙点が突出してきた(図1a,b).挿入後2年半で,両涙点突出に若干の進行がみられたが(図1c,d),この時点まで自覚症状はなかった.プラグ挿入から2年8カ月後,右眼の異物感と眼脂を訴えて受診した.右上涙点のプラグが涙点から脱出して涙点を覆うように横向きに位置し,プラグの頸部に,涙点内腔と連絡した軟部組織が強固に巻きついていた(図2).涙点近傍で軟部組織を切断し,プラグと軟部組織を摘出した.組織学的検討:摘出した軟部組織を,ヘマトキシリン・エオジン染色後,病理組織学的に検討した.角化を認めない重層扁平上皮で覆われた結合組織内に,多数のリンパ球と少数の好中球の浸潤を認めた.上皮下には新生血管も認めた(図3).摘出部位と組織学的特徴から涙小管粘膜と考えられた.経過2:プラグ留置後2年9カ月で,今度は左下涙点の突出がさらに進行し(図4),異物感が出現したため,プラグを抜去した.抜去時抵抗はなかった.プラグ抜去後,2涙点は,いずれも完全閉鎖した(図5).(133)ab図4左下涙点部の突出進行プラグ留置2年9カ月後,左下の涙点突出が進行し(a),涙点周囲粘膜が浮腫状となり(b),異物感が出現した.直後にプラグを抜去した.II考按西井・横井6)が,涙点プラグの特異な脱出様式として,“太鼓締め”様脱出と形容したように,本例は,涙点プラグの頸部に涙点内腔とつながった粘膜が強固に巻きついた状態になっていた.太鼓締め様脱出は,プラグによる機械的刺激が続いた結果,涙小管粘膜が断裂をきたし,肉芽形成も起こって,断裂部より近位の涙小管垂直部がプラグに巻きついたままプラグが脱出した状態と考えられるが,パンクタルプラグR(FCI社,フランス)7)以外での詳細な報告はみられない.このような特徴的なプラグ脱出の発生には,プラグの形状やサイズの不適合が関係していると推測されている7).本例で使用したスーパーイーグルRプラグは,パンクタルプラグRと同様に,プラグのノーズ径がシャフト幅と比べて幅広くなっているという特徴がある4).このため,プラグが脱落しにくい反面,ノーズが瞬目などのたびに涙小管粘膜を刺激する可能性があり,こうしたプラグの形状が涙小管粘膜の断裂に関与したと考えられる8).一方,サイズに関しては,本あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141213 ab図5プラグ抜去後の涙点右上涙点(a),左下涙点(b)ともにプラグ抜去後閉鎖した(点線部円内).ab図5プラグ抜去後の涙点右上涙点(a),左下涙点(b)ともにプラグ抜去後閉鎖した(点線部円内).例では,ゲージによるプラグサイズの選択を行っており,挿入後2年間プラグが安定していたことからも,挿入時にサイズの不適合はなかったといえる.太鼓締め様脱出出現時の自覚症状として,本例では異物感や眼脂が出現しており,無症状,ないしは軽度の掻痒感のみであったパンクタルプラグR留置例7)と対照的であった.スーパーイーグルRプラグは,パンクタルプラグRと比べてノーズ先端の角度がやや鋭角であるため,瞬目や眼球運動に伴い,脱出プラグのノーズ先端が球結膜や涙丘を刺激しやすかった可能性がある.本例においては,右上涙点からのプラグ脱出から1カ月後に左下涙点部の異物感と涙点の突出進行がみられ,右上プラグ脱出時と同様の症状であったことから,プラグ脱出の前駆症状である可能性を考えてプラグを抜去した.過去の報告でも,プラグが脱出した部位は,上涙点が4例,下涙点が2例で7),上下涙点いずれでも起こりうる合併症といえる.プラグ脱出に先行してみられた涙点部の突出は,涙小管粘膜の断裂に伴う内腔の収縮を示唆している可能性がある.また,プラグ除去後,両涙点は閉鎖したため,涙小管内に肉芽を形成していたと考える.涙点の完全閉鎖では,プラグと同等の効果を維持することができるため,患者にとっては有益な面があるといえる.本例は,涙点プラグ留置後,定期受診中に,涙点突出が徐々に進行し,留置後2年でプラグの太鼓締め様脱出をきたすまでの経過を観察できた初めての報告である.プラグ脱落の過程で太鼓締め様脱出が生じた可能性が考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Horwath-WinterJ,ThaciA,GruberAetal:Long-termretentionratesandcomplicationsofsiliconepunctalplugsindryeye.AmJOphthalmol144:441-444,20072)西井正和,横井則彦,小室青ほか:新しい涙点プラグ(フレックスプラグR)の脱落についての検討.日眼会誌108:139-143,20043)SakamotoA,KitagawaK,TatamiA:EfficacyandretentionrateoftwotypesofsiliconepunctalplugsinpatientswithandwithoutSjogrensyndrome.Cornea23:249-254,20044)五嶋摩理:涙点プラグ挿入・抜去のトラブルと対策.若倉雅登監修,宮永嘉隆・中村敏編,眼科小手術と処置,p98104,金原出版,20125)海道美奈子:BUT短縮型タイプのドライアイに対する治療法.あたらしい眼科53:1575-1579,20116)西井正和,横井則彦:肉芽に対する処置.あたらしい眼科23:1189-1190,20067)FayetB,AssoulineM,HanushSetal:Siliconepunctalplugextrusionresultingfromspontaneousdissectionofcanalicularmucosa.Ophthalmology108:405-409,20018)薗村有紀子,横井則彦,小室青ほか:スーパーイーグルRプラグにおける脱落率と合併症の検討.日眼会誌117:126-131,2013***1214あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(134)