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Microsporidia角結膜炎を繰り返し発症した1例

2026年2月28日 土曜日

《原著》あたらしい眼科43(2):201.204,2026cMicrosporidia角結膜炎を繰り返し発症した1例上松聖典*1井上大輔*1モハメド・タラアト・モハメド*1唐迪雅*1草野真央*1ヤッセル・ヘルミー・モハメド*1八木田健司*2大石明生*1*1長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学分野*2国立感染症研究所寄生動物部CACaseofRepeatedMicrosporidialKeratoconjunctivitisMasafumiUematsu1),DaisukeInoue1),MohamedTalaatMohamed1),DiyaTang1),MaoKusano1),YasserHelmyMohamed1),KenjiYagita2)andAkioOishi1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity,2)DepartmentofParasitology,TheNationalInstituteofInfectiousDiseasesC目的:Microsporidia角結膜炎は,土や水への曝露により発症し,とくに東南アジアやインドでの報告が多いが,日本でも発症例が増加している.本報告では,5年間にC3回CMicrosporidia角結膜炎を発症した症例を経験した.症例:27歳,男性で屋外スポーツ選手であり,グラウンドの土や水が目に飛入する機会が多かった.初発時,左眼に結膜充血,眼瞼腫脹を認め,紹介受診となった.左眼矯正視力はC0.2,角膜上皮内に散在する混濁とフルオレセイン染色陽性所見を認めた.点眼治療によりC11日めで軽快し,視力はC1.2に改善した.2年後に左眼,3年後に右眼が再発し,PCR法で角結膜炎の原因となるCMicrosporidia(Vittaformacorneae)が検出された.発症後,多発性角膜上皮下混濁が持続した.練習後の洗眼やヨード製剤点眼の指導し,4年後は発症しなかった.結論:土や水の曝露を繰り返す環境では再発のリスクがあるため,注意が必要である.CPurpose:Toreportacaseofrepeatedmicrosporidialkeratoconjunctivitis,anemerginginfectioninJapanthatisCtypicallyClinkedCtoCsoilCandCwaterCexposure.CCase:ThisCreportCinvolvedCaC27-year-oldCmaleCoutdoorCballplayerCwhoCdevelopedCmicrosporidialCkeratoconjunctivitisC3CtimesCoverCaC5-yearCperiod.CInitially,CheCpresentedCwithCcon-junctivalhyperemiaandeyelidswellinginhislefteye,withdi.usecornealepithelialopacities.Treatmentwitheyedropsledtoresolutionin11days,improvingthevisualacuityinthateyefrom0.2to1.2.Twoyearslater,hislefteyeCrelapsed,CfollowedCbyCtheCrightCeyeC1CyearClater,Cwithmicrosporidia(Vittaformacorneae)identi.edCinCcornealCscrapingsandpractice.eldsoil.Histeammatesalsodevelopedsimilarinfections.Postinfection,multiplesubepithe-lialcornealopacitiespersisted.Preventivemeasures,includingeyewashandiodine-basedeyedropsaftersoilandwaterexposure,ledtonoreoccurrencesinthe4thyear.Conclusion:RepeatedsoilexposureincreasestheriskofmicrosporidialCkeratoconjunctivitisCrecurrence,ChighlightingCtheCneedCforCspecialCattentionCinChigh-riskCenviron-ments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(2):201.204,C2026〕Keywords:微胞子虫,角結膜炎,再発,屋外スポーツ.Microsporidia,Vittaformacorneae,keratoconjunctivitis,reoccurrence,outdoorsports.Cはじめに微胞子虫(Microsporidia)は,真菌に近い特徴をもつ単細胞真核生物であり,ヒトを含む多様な宿主に感染し,おもに免疫不全者においては多臓器における感染症を引き起こす1).近年では,免疫正常者においても角結膜炎の原因病原体として報告されており,とくに東南アジアやインドでは多くの症例が報告されている2.4).Microsporidia角結膜炎は,特徴的な角膜上皮内の顆粒状浸潤を呈するが,非特異的な角膜炎と鑑別が困難な場合が多い.診断には塗抹標本による好酸性染色やポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)検査が有用である5).治療に関しては未だ治療法は確立されていないのが現〔別刷請求先〕上松聖典:〒852-8501長崎県長崎市坂本C1-7-1長崎大学大学院医歯薬総合研究科眼科・視覚科学分野Reprintrequests:MasafumiUematsu,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity,1-7-1Sakamoto,Nagasaki-city,Nagasaki852-8501,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(83)C201状である.自然軽快することもあるが,抗菌薬,抗真菌薬,殺菌消毒用点眼薬の点眼,アルベンダゾールの内服や角膜擦過による治療が有効とされている6).Microsporidiaはおもに汚染された土や水を介して伝播すると考えられており,農業従事者や屋外スポーツ選手に多く発症がみられる5).今回,5年間にC3回CMicrosporidia角結膜炎を発症した症例を経験したため,その臨床経過について報告する.CI症例患者:27歳,男性.主訴:左眼充血,羞明.既往歴:なし.眼科受診歴:なし.経過中も含めコンタクトレンズ使用歴なし.職業:屋外スポーツ選手.現病歴:患者は,屋外スポーツ活動中にグラウンドの土が頻繁に眼に飛入していた.X年C10月に左眼の結膜充血と眼瞼腫脹を認め,近医眼科を受診した.流行性角結膜炎が疑われ,1.5%レボフロキサシンおよびC0.1%フルオロメトロン点眼による治療を受けたが,症状は改善しなかった.数日後には他院眼科を受診し,左眼に毛様充血,点状角膜混濁,樹枝状潰瘍様の所見を認めた.ステロイド点眼は中止され,セフメノキシム点眼およびアシクロビル眼軟膏で治療が行われたが改善しなかった.アデノチェック検査は陰性であった.精査加療目的に長崎大学病院(以下,当院)へ紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼C1.0(矯正C1.5),左眼C0.2(矯正不能)であった.眼圧は両眼ともC16CmmHgであった.眼瞼結膜の所見として,右眼に異常は認めなかったが,左眼には充血と乳頭形成を認めた.眼球結膜に関しても,右眼は異常なく,左眼に充血を認めた.角膜所見では,右眼は清明であったが(図1a,b),左眼では上皮内に散在する楕円形や勾玉状の浸潤が認められ,フルオレセイン染色で陽性を示した(図1c,d).前房は両眼とも正常深度であり,炎症細胞は認められなかった.水晶体および眼底所見にも異常はなかった.ウイルス感染の鑑別として実施したチェックメイトヘルペスアイ検査は陰性であった.経過:左眼星状角膜炎およびアレルギー性結膜炎を疑い0.1%ベタメタゾンおよびエピナスチン点眼を開始したところ,11日後に症状は軽快し(図1e,f),終診となった.後日に,特徴的な所見と経過からCMicrosporidia角結膜炎が疑われた.X+1年には発症はなかった.CX+2年夏には同じスポーツチームに属する同僚C5名が本症例と同様の所見を示す角結膜炎を発症し,うちC4例の角膜上皮擦過物とグラウンドの土からCPCR検査で角結膜炎の原因となるCMicrosporidia(Vittaformacorneae)が検出され,Microsporidia角結膜炎の集団発生と判断された7).X+3年夏にも同僚C9名も同様の症状を呈した.そのうち,本症例を含めたC2例の角膜上皮擦過物と,グラウンドの土から,PCR検査でCMicrosporidia(V.corneae)が検出された.本症例においてもCX+2年夏に左眼に同様の所見を示す角結膜炎を発症したが,当院は受診せずに近医で加療を受けた.X+3年春には左眼羞明を訴えたため当院を受診した.左眼多発性角膜上皮内混濁を認め,0.1%フルオロメトロン点眼を処方し,症状は軽減した.同年夏には右眼に同様の角結膜炎(図2a,b)を発症したため当院を受診し,Microspo-ridia角結膜炎と診断した.ボリコナゾール点眼液,ピマリシン眼軟膏,ガチフロキサシン点眼液,殺菌消毒用点眼薬(サンヨード),および多発性角膜上皮内混濁の予防のため0.1%フルオロメトロン点眼液を処方した.その後に受診はなかったが,症状は改善したとの報告を受けた.チームに予防のため点眼型洗眼薬(ウェルウォッシュアイ)および殺菌消毒用点眼薬(サンヨード)の使用を勧めた.X+4年夏には,同僚で感染者が生じたものの,本症例におけるCMicro-sporidia角結膜炎の発症は認められなかった.CII考按Microsporidiaによる眼感染症には,大きく分けてC2タイプがある.一つは,おもに免疫不全の症例で重度の感染を引き起こす角膜実質炎型,もう一つは健常者でも角結膜上皮に感染を生じる角結膜炎型である8).Microsporidia角膜実質炎に関しては,2016年に友岡らが,ステロイド点眼投与中に真菌感染を伴うCMicrosporidia角膜実質炎を発症した症例を日本で初めて報告した9).さらに,2019年にはCUenoらが,角膜内皮移植後にステロイド点眼を投与中の患者で,真菌感染を併発したCMicrosporidia角膜実質炎を報告している10).一方で,Microsporidia角結膜炎については,2020年に鈴木らが,シンガポールで感染し,日本に一時帰国中にMicrosporidia角膜炎を発症した症例を報告した11).さらに2023年には,筆者らがCMicrosporidia角結膜炎の集団発生を報告した7).本症例は,この集団発生のC2年前に発症しており,日本国内で感染したCMicrosporidia角結膜炎の初めての症例報告と考えられる.本症例はCX年に初発した際,Microsporidia角結膜炎とは診断されなかった.しかし,その後の特徴的な所見と経過を検討した結果,Microsporidia角結膜炎の可能性が疑われた.2年後,本症例と同様の所見を示すC5名の同僚が発症し,角結膜擦過物およびグラウンドの土からCMicrosporidia(V.Ccor-neae)が検出されたことから,集団発症と判断した.同時期に本症例も同様の角結膜炎を発症し,近医で加療した.さらに翌年には,本症例を含む同僚C9名が右眼にCMicrosporidia角結膜炎を発症し,近隣の別のチームの選手C1名にも罹患が認202あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026(84)b右眼cdef図1初診時および11日後の前眼部写真右眼は清明であったが(Ca,b),左眼では角膜上皮内に散在する楕円形や勾玉状の浸潤が認められ,フルオレセイン染色で陽性を示した(Cc,d).11日後には角膜は清明となり,フルオレセイン染色も陰性となった(Ce,f).められた.また,当院で確認されたCMicrosporidia角結膜炎の症例はすべて同一の屋外競技(サッカー)に関連しており,この競技の特性が発症に関与している可能性が示唆された.この競技では,ボールと頭が接触する機会があり,ボールに付着した水や土が眼に飛入する可能性がある.また,特定のプレーヤーは手でボールを扱うことができるが,捕球の際にグラウンドに寝そべることがあるため,その際にグラウンドの水や土が眼に入るリスクがある.本症例の所属チームは,養育された芝の上で競技を行っており,芝の上に寝そべる動作やボールを眼の前で扱う機会が多い.芝の養育には肥料が使用されるため,夏季の高温多湿の環境と相まってMicrosporidiaの増殖が促進された可能性も考えられる.最近では,関東地方の同じ競技のクラブチームでも集団発生が確認された(角膜カンファランスC2025,97,2025).他の競技では,ラグビー3)やゴルフ12)においてCMicrosporidia角結膜炎の発症が報告されている.また,Microsporidia角結膜炎の発症は夏季の高温多湿の環境下で多く,とくに降雨後の発症が多いとされており12),本症例の発症時期も同様の気候であった.感染の条件や経路の特定のため,今後さらなる調査が求められる.(85)あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026C203図2X+3年後の右眼前眼部写真右眼角膜上皮内に散在する楕円形や勾玉状の浸潤が認められ(Ca),フルオレセイン染色で陽性を示した(Cb).本症例の初発時にはCMicrosporidia角結膜炎の診断に至らず,ステロイド点眼および抗アレルギー点眼で治療が行われた.抗真菌薬や消毒薬の点眼や,アルベンダゾールの内服,角膜上皮擦過は実施されなかったが,11日後には角膜は清明となった.免疫不全のない本症例では,免疫反応によって病原体が排除され,自然軽快した可能性が考えられる.ステロイド点眼は感染の遷延や,重症なCMicrosporidia角膜実質炎の発症を引き起こす可能性があるため9,10),慎重に使用すべきである.本症例では,必要に応じて点眼型洗眼薬および殺菌消毒用点眼薬を推奨したところ,4年後は新たな発症は認められなかった.競技後の洗眼や異物飛入時の殺菌消毒用点眼薬の使用がCMicrosporidia角結膜炎の予防に有効であるかについては,今後さらなる検討が必要である.また,本症例はコンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者ではなかったが,X+2年の集団発生ではC5例中C3例がCCL装用者であり7),CL装用との関連の検討も望まれる.Microsporidia角結膜炎は繰り返し発症する可能性があるため,リスクの高い環境にいる人々への予防策の啓発が重要である.本症例では,スポーツ活動中の土や水の曝露がおもな感染経路と考えられ,同僚にも集団発生が認められた.今後は,日本においてもCMicrosporidia角結膜炎の発症が増加する可能性があり,注意が必要である.利益相反上松聖典【N】,井上大輔【N】,モハメドタラアトモハメド【N】,唐迪雅【N】,草野真央【N】,ヤッセルヘルミーモハメド【N】,八木田健司【N】,大石明生【N】文献1)DidierCES,CWeissCLM.Microsporidiosis:currentCstatus.C204あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026CurrOpinInfectDis19:485-492,C20062)FanNW,WuCC,ChenTLetal:MicrosporidialkeratitisinCpatientsCwithChotCspringsCexposure.CJCClinCMicrobiolC50:414-418,C20123)KwokCAK,CTongCJM,CTangCBSCetal:OutbreakCofCmicro-sporidialkeratoconjunctivitiswithrugbysportduetosoilexposure.Eye(Lond)C27:747-754,C20134)MalikCS,CIshaqCM,CNayyarCSCetal:MicrosporidialCkerati-tis-FirstCcaseCseriesCofCaCrareCpathogenCinCtheCwakeCofC.ooddisastersof2022inPakistan.JCollPhysiciansSurgPakC32:SS165-SS167,C20225)SharmaCS,CDasCS,CJosephCJCetal:MicrosporidialCkerati-tis:needCforCincreasedCawareness.CSurvCOphthalmolC56:C1-22,C20116)SabhapanditCS,CMurthyCSI,CGargCPCetal:MicrosporidialCstromalkeratitis:clinicalCfeatures,CuniqueCdiagnosticCcri-teria,andtreatmentoutcomesinalargecaseseries.Cor-neaC35:1569-1574,C20167)UematsuM,MohamedYH,KusanoMetal:Microsporid-ialCkeratoconjunctivitis-FirstCoutbreakCinCJapan.CBMCCInfectDisC23:752,C20238)MoshirfarM,SomaniSN,ShmunesKMetal:Anarrativereviewofmicrosporidialinfectionsofthecornea.Ophthal-molTherC9:265-278,C20209)友岡真美,鈴木崇,鳥山浩二ほか:真菌感染を併発したMicrosporidiaによる角膜炎のC1例.あたらしい眼科C31:C737-741,C201410)UenoCS,CEguchiCH,CHottaCFCetal:MicrosporidialCkeratitisCretrospectivelyCdiagnosedCbyCultrastructuralCstudyCofCformalin-.xedCpara.n-embeddedCcornealtissue:aCcaseCreport.AnnClinMicrobiolAntimicrobC18:17,C201911)鈴木崇,岡野喜一朗,鈴木厚ほか:シンガポールから日本に一時帰国中に認められたCMicrosporidiaによる角膜炎の1例.あたらしい眼科C37:332-335,C202012)LohCRS,CChanCCM,CTiCSECetal:EmergingCprevalenceCofCmicrosporidialCkeratitisCinSingapore:epidemiology,Cclini-calfeatures,andmanagement.OphthalmologyC116:2348-2353,C2009(86)