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Microsporidia角結膜炎を繰り返し発症した1例

2026年2月28日 土曜日

《原著》あたらしい眼科43(2):201.204,2026cMicrosporidia角結膜炎を繰り返し発症した1例上松聖典*1井上大輔*1モハメド・タラアト・モハメド*1唐迪雅*1草野真央*1ヤッセル・ヘルミー・モハメド*1八木田健司*2大石明生*1*1長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学分野*2国立感染症研究所寄生動物部CACaseofRepeatedMicrosporidialKeratoconjunctivitisMasafumiUematsu1),DaisukeInoue1),MohamedTalaatMohamed1),DiyaTang1),MaoKusano1),YasserHelmyMohamed1),KenjiYagita2)andAkioOishi1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity,2)DepartmentofParasitology,TheNationalInstituteofInfectiousDiseasesC目的:Microsporidia角結膜炎は,土や水への曝露により発症し,とくに東南アジアやインドでの報告が多いが,日本でも発症例が増加している.本報告では,5年間にC3回CMicrosporidia角結膜炎を発症した症例を経験した.症例:27歳,男性で屋外スポーツ選手であり,グラウンドの土や水が目に飛入する機会が多かった.初発時,左眼に結膜充血,眼瞼腫脹を認め,紹介受診となった.左眼矯正視力はC0.2,角膜上皮内に散在する混濁とフルオレセイン染色陽性所見を認めた.点眼治療によりC11日めで軽快し,視力はC1.2に改善した.2年後に左眼,3年後に右眼が再発し,PCR法で角結膜炎の原因となるCMicrosporidia(Vittaformacorneae)が検出された.発症後,多発性角膜上皮下混濁が持続した.練習後の洗眼やヨード製剤点眼の指導し,4年後は発症しなかった.結論:土や水の曝露を繰り返す環境では再発のリスクがあるため,注意が必要である.CPurpose:Toreportacaseofrepeatedmicrosporidialkeratoconjunctivitis,anemerginginfectioninJapanthatisCtypicallyClinkedCtoCsoilCandCwaterCexposure.CCase:ThisCreportCinvolvedCaC27-year-oldCmaleCoutdoorCballplayerCwhoCdevelopedCmicrosporidialCkeratoconjunctivitisC3CtimesCoverCaC5-yearCperiod.CInitially,CheCpresentedCwithCcon-junctivalhyperemiaandeyelidswellinginhislefteye,withdi.usecornealepithelialopacities.Treatmentwitheyedropsledtoresolutionin11days,improvingthevisualacuityinthateyefrom0.2to1.2.Twoyearslater,hislefteyeCrelapsed,CfollowedCbyCtheCrightCeyeC1CyearClater,Cwithmicrosporidia(Vittaformacorneae)identi.edCinCcornealCscrapingsandpractice.eldsoil.Histeammatesalsodevelopedsimilarinfections.Postinfection,multiplesubepithe-lialcornealopacitiespersisted.Preventivemeasures,includingeyewashandiodine-basedeyedropsaftersoilandwaterexposure,ledtonoreoccurrencesinthe4thyear.Conclusion:RepeatedsoilexposureincreasestheriskofmicrosporidialCkeratoconjunctivitisCrecurrence,ChighlightingCtheCneedCforCspecialCattentionCinChigh-riskCenviron-ments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(2):201.204,C2026〕Keywords:微胞子虫,角結膜炎,再発,屋外スポーツ.Microsporidia,Vittaformacorneae,keratoconjunctivitis,reoccurrence,outdoorsports.Cはじめに微胞子虫(Microsporidia)は,真菌に近い特徴をもつ単細胞真核生物であり,ヒトを含む多様な宿主に感染し,おもに免疫不全者においては多臓器における感染症を引き起こす1).近年では,免疫正常者においても角結膜炎の原因病原体として報告されており,とくに東南アジアやインドでは多くの症例が報告されている2.4).Microsporidia角結膜炎は,特徴的な角膜上皮内の顆粒状浸潤を呈するが,非特異的な角膜炎と鑑別が困難な場合が多い.診断には塗抹標本による好酸性染色やポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)検査が有用である5).治療に関しては未だ治療法は確立されていないのが現〔別刷請求先〕上松聖典:〒852-8501長崎県長崎市坂本C1-7-1長崎大学大学院医歯薬総合研究科眼科・視覚科学分野Reprintrequests:MasafumiUematsu,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity,1-7-1Sakamoto,Nagasaki-city,Nagasaki852-8501,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(83)C201状である.自然軽快することもあるが,抗菌薬,抗真菌薬,殺菌消毒用点眼薬の点眼,アルベンダゾールの内服や角膜擦過による治療が有効とされている6).Microsporidiaはおもに汚染された土や水を介して伝播すると考えられており,農業従事者や屋外スポーツ選手に多く発症がみられる5).今回,5年間にC3回CMicrosporidia角結膜炎を発症した症例を経験したため,その臨床経過について報告する.CI症例患者:27歳,男性.主訴:左眼充血,羞明.既往歴:なし.眼科受診歴:なし.経過中も含めコンタクトレンズ使用歴なし.職業:屋外スポーツ選手.現病歴:患者は,屋外スポーツ活動中にグラウンドの土が頻繁に眼に飛入していた.X年C10月に左眼の結膜充血と眼瞼腫脹を認め,近医眼科を受診した.流行性角結膜炎が疑われ,1.5%レボフロキサシンおよびC0.1%フルオロメトロン点眼による治療を受けたが,症状は改善しなかった.数日後には他院眼科を受診し,左眼に毛様充血,点状角膜混濁,樹枝状潰瘍様の所見を認めた.ステロイド点眼は中止され,セフメノキシム点眼およびアシクロビル眼軟膏で治療が行われたが改善しなかった.アデノチェック検査は陰性であった.精査加療目的に長崎大学病院(以下,当院)へ紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼C1.0(矯正C1.5),左眼C0.2(矯正不能)であった.眼圧は両眼ともC16CmmHgであった.眼瞼結膜の所見として,右眼に異常は認めなかったが,左眼には充血と乳頭形成を認めた.眼球結膜に関しても,右眼は異常なく,左眼に充血を認めた.角膜所見では,右眼は清明であったが(図1a,b),左眼では上皮内に散在する楕円形や勾玉状の浸潤が認められ,フルオレセイン染色で陽性を示した(図1c,d).前房は両眼とも正常深度であり,炎症細胞は認められなかった.水晶体および眼底所見にも異常はなかった.ウイルス感染の鑑別として実施したチェックメイトヘルペスアイ検査は陰性であった.経過:左眼星状角膜炎およびアレルギー性結膜炎を疑い0.1%ベタメタゾンおよびエピナスチン点眼を開始したところ,11日後に症状は軽快し(図1e,f),終診となった.後日に,特徴的な所見と経過からCMicrosporidia角結膜炎が疑われた.X+1年には発症はなかった.CX+2年夏には同じスポーツチームに属する同僚C5名が本症例と同様の所見を示す角結膜炎を発症し,うちC4例の角膜上皮擦過物とグラウンドの土からCPCR検査で角結膜炎の原因となるCMicrosporidia(Vittaformacorneae)が検出され,Microsporidia角結膜炎の集団発生と判断された7).X+3年夏にも同僚C9名も同様の症状を呈した.そのうち,本症例を含めたC2例の角膜上皮擦過物と,グラウンドの土から,PCR検査でCMicrosporidia(V.corneae)が検出された.本症例においてもCX+2年夏に左眼に同様の所見を示す角結膜炎を発症したが,当院は受診せずに近医で加療を受けた.X+3年春には左眼羞明を訴えたため当院を受診した.左眼多発性角膜上皮内混濁を認め,0.1%フルオロメトロン点眼を処方し,症状は軽減した.同年夏には右眼に同様の角結膜炎(図2a,b)を発症したため当院を受診し,Microspo-ridia角結膜炎と診断した.ボリコナゾール点眼液,ピマリシン眼軟膏,ガチフロキサシン点眼液,殺菌消毒用点眼薬(サンヨード),および多発性角膜上皮内混濁の予防のため0.1%フルオロメトロン点眼液を処方した.その後に受診はなかったが,症状は改善したとの報告を受けた.チームに予防のため点眼型洗眼薬(ウェルウォッシュアイ)および殺菌消毒用点眼薬(サンヨード)の使用を勧めた.X+4年夏には,同僚で感染者が生じたものの,本症例におけるCMicro-sporidia角結膜炎の発症は認められなかった.CII考按Microsporidiaによる眼感染症には,大きく分けてC2タイプがある.一つは,おもに免疫不全の症例で重度の感染を引き起こす角膜実質炎型,もう一つは健常者でも角結膜上皮に感染を生じる角結膜炎型である8).Microsporidia角膜実質炎に関しては,2016年に友岡らが,ステロイド点眼投与中に真菌感染を伴うCMicrosporidia角膜実質炎を発症した症例を日本で初めて報告した9).さらに,2019年にはCUenoらが,角膜内皮移植後にステロイド点眼を投与中の患者で,真菌感染を併発したCMicrosporidia角膜実質炎を報告している10).一方で,Microsporidia角結膜炎については,2020年に鈴木らが,シンガポールで感染し,日本に一時帰国中にMicrosporidia角膜炎を発症した症例を報告した11).さらに2023年には,筆者らがCMicrosporidia角結膜炎の集団発生を報告した7).本症例は,この集団発生のC2年前に発症しており,日本国内で感染したCMicrosporidia角結膜炎の初めての症例報告と考えられる.本症例はCX年に初発した際,Microsporidia角結膜炎とは診断されなかった.しかし,その後の特徴的な所見と経過を検討した結果,Microsporidia角結膜炎の可能性が疑われた.2年後,本症例と同様の所見を示すC5名の同僚が発症し,角結膜擦過物およびグラウンドの土からCMicrosporidia(V.Ccor-neae)が検出されたことから,集団発症と判断した.同時期に本症例も同様の角結膜炎を発症し,近医で加療した.さらに翌年には,本症例を含む同僚C9名が右眼にCMicrosporidia角結膜炎を発症し,近隣の別のチームの選手C1名にも罹患が認202あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026(84)b右眼cdef図1初診時および11日後の前眼部写真右眼は清明であったが(Ca,b),左眼では角膜上皮内に散在する楕円形や勾玉状の浸潤が認められ,フルオレセイン染色で陽性を示した(Cc,d).11日後には角膜は清明となり,フルオレセイン染色も陰性となった(Ce,f).められた.また,当院で確認されたCMicrosporidia角結膜炎の症例はすべて同一の屋外競技(サッカー)に関連しており,この競技の特性が発症に関与している可能性が示唆された.この競技では,ボールと頭が接触する機会があり,ボールに付着した水や土が眼に飛入する可能性がある.また,特定のプレーヤーは手でボールを扱うことができるが,捕球の際にグラウンドに寝そべることがあるため,その際にグラウンドの水や土が眼に入るリスクがある.本症例の所属チームは,養育された芝の上で競技を行っており,芝の上に寝そべる動作やボールを眼の前で扱う機会が多い.芝の養育には肥料が使用されるため,夏季の高温多湿の環境と相まってMicrosporidiaの増殖が促進された可能性も考えられる.最近では,関東地方の同じ競技のクラブチームでも集団発生が確認された(角膜カンファランスC2025,97,2025).他の競技では,ラグビー3)やゴルフ12)においてCMicrosporidia角結膜炎の発症が報告されている.また,Microsporidia角結膜炎の発症は夏季の高温多湿の環境下で多く,とくに降雨後の発症が多いとされており12),本症例の発症時期も同様の気候であった.感染の条件や経路の特定のため,今後さらなる調査が求められる.(85)あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026C203図2X+3年後の右眼前眼部写真右眼角膜上皮内に散在する楕円形や勾玉状の浸潤が認められ(Ca),フルオレセイン染色で陽性を示した(Cb).本症例の初発時にはCMicrosporidia角結膜炎の診断に至らず,ステロイド点眼および抗アレルギー点眼で治療が行われた.抗真菌薬や消毒薬の点眼や,アルベンダゾールの内服,角膜上皮擦過は実施されなかったが,11日後には角膜は清明となった.免疫不全のない本症例では,免疫反応によって病原体が排除され,自然軽快した可能性が考えられる.ステロイド点眼は感染の遷延や,重症なCMicrosporidia角膜実質炎の発症を引き起こす可能性があるため9,10),慎重に使用すべきである.本症例では,必要に応じて点眼型洗眼薬および殺菌消毒用点眼薬を推奨したところ,4年後は新たな発症は認められなかった.競技後の洗眼や異物飛入時の殺菌消毒用点眼薬の使用がCMicrosporidia角結膜炎の予防に有効であるかについては,今後さらなる検討が必要である.また,本症例はコンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者ではなかったが,X+2年の集団発生ではC5例中C3例がCCL装用者であり7),CL装用との関連の検討も望まれる.Microsporidia角結膜炎は繰り返し発症する可能性があるため,リスクの高い環境にいる人々への予防策の啓発が重要である.本症例では,スポーツ活動中の土や水の曝露がおもな感染経路と考えられ,同僚にも集団発生が認められた.今後は,日本においてもCMicrosporidia角結膜炎の発症が増加する可能性があり,注意が必要である.利益相反上松聖典【N】,井上大輔【N】,モハメドタラアトモハメド【N】,唐迪雅【N】,草野真央【N】,ヤッセルヘルミーモハメド【N】,八木田健司【N】,大石明生【N】文献1)DidierCES,CWeissCLM.Microsporidiosis:currentCstatus.C204あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026CurrOpinInfectDis19:485-492,C20062)FanNW,WuCC,ChenTLetal:MicrosporidialkeratitisinCpatientsCwithChotCspringsCexposure.CJCClinCMicrobiolC50:414-418,C20123)KwokCAK,CTongCJM,CTangCBSCetal:OutbreakCofCmicro-sporidialkeratoconjunctivitiswithrugbysportduetosoilexposure.Eye(Lond)C27:747-754,C20134)MalikCS,CIshaqCM,CNayyarCSCetal:MicrosporidialCkerati-tis-FirstCcaseCseriesCofCaCrareCpathogenCinCtheCwakeCofC.ooddisastersof2022inPakistan.JCollPhysiciansSurgPakC32:SS165-SS167,C20225)SharmaCS,CDasCS,CJosephCJCetal:MicrosporidialCkerati-tis:needCforCincreasedCawareness.CSurvCOphthalmolC56:C1-22,C20116)SabhapanditCS,CMurthyCSI,CGargCPCetal:MicrosporidialCstromalkeratitis:clinicalCfeatures,CuniqueCdiagnosticCcri-teria,andtreatmentoutcomesinalargecaseseries.Cor-neaC35:1569-1574,C20167)UematsuM,MohamedYH,KusanoMetal:Microsporid-ialCkeratoconjunctivitis-FirstCoutbreakCinCJapan.CBMCCInfectDisC23:752,C20238)MoshirfarM,SomaniSN,ShmunesKMetal:Anarrativereviewofmicrosporidialinfectionsofthecornea.Ophthal-molTherC9:265-278,C20209)友岡真美,鈴木崇,鳥山浩二ほか:真菌感染を併発したMicrosporidiaによる角膜炎のC1例.あたらしい眼科C31:C737-741,C201410)UenoCS,CEguchiCH,CHottaCFCetal:MicrosporidialCkeratitisCretrospectivelyCdiagnosedCbyCultrastructuralCstudyCofCformalin-.xedCpara.n-embeddedCcornealtissue:aCcaseCreport.AnnClinMicrobiolAntimicrobC18:17,C201911)鈴木崇,岡野喜一朗,鈴木厚ほか:シンガポールから日本に一時帰国中に認められたCMicrosporidiaによる角膜炎の1例.あたらしい眼科C37:332-335,C202012)LohCRS,CChanCCM,CTiCSECetal:EmergingCprevalenceCofCmicrosporidialCkeratitisCinSingapore:epidemiology,Cclini-calfeatures,andmanagement.OphthalmologyC116:2348-2353,C2009(86)

市中眼科診療所におけるアデノウイルスの院内汚染調査

2011年12月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科28(12):1743.1746,2011c市中眼科診療所におけるアデノウイルスの院内汚染調査石岡みさき*1,2伊藤典彦*2*1みさき眼科クリニック*2横浜市立大学医学部眼科学教室SurveillanceofNosocomialContaminationbyAdenovirusatUrbanEyeClinicMisakiIshioka1,2)andNorihikoItoh2)1)MisakiEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmologyYokohamaCityUniversitySchoolofMedicine新規開業の眼科診療所において,アデノウイルスの院内感染予防マニュアルを作成・実施し,同ウイルスの院内汚染を調査した.みさき眼科クリニックは外来診療のみの診療所で,内眼手術,レーザー治療,コンタクトレンズ処方のいずれも行っていない.アデノウイルスの院内汚染を調べるために11カ所の検出ポイントを設定し,開業前から開業後1年6カ月にわたり毎月拭き取り調査を行った.アデノウイルスの検出には定性polymerasechainreaction(PCR)法を用いた.アデノウイルス感染が疑われる患者にはウイルスの迅速診断キットを施行した.期間中アデノウイルスによる結膜炎疑いの患者は34名,ウイルス迅速診断キット陽性患者は7名,院内感染が疑われる症例はみられなかった.調査全期間を通してすべての検出ポイントからウイルスDNAは検出されなかった.外来診療のみの小規模眼科診療所においては,感染予防対策を施すことで施設内がアデノウイルスにより汚染される可能性は低い.Wecreatedandfollowedaprotocolofinfectioncontrolforadenovirusatanewlyopenedeyeclinicandsurveyednosocomialcontaminationbythisvirus.Theclinichasnowardsanddoesnotperformintraocularsurgery,lasertreatmentorcontactlensprescription.Weset11pointsfordetectingadenovirusandcheckedforviralcontaminationusingpolymerasechainreaction(PCR)beforestartingtheclinicandateverymonthfor18months.Anadenovirusrapiddiagnosiskitwasusedonpatientswithsymptomsofadenoviruskeratoconjunctivitis.Duringthestudyperiod,34patientsshowedsymptomsofadenoviruskeratoconjunctivitis;7ofthemshowedpositiveusingthediagnosiskit.Nopatientsweresuspectedofhavinganosocomialinfection.Duringthestudyperiod,noviralDNAwasdetectedatanydetectionpoint.Atasmalleyeclinicwithnowards,thepotentialfornosocomialcontaminationbyadenovirusmaybekeptlowwiththisprotocolofinfectioncontrol.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(12):1743.1746,2011〕Keywords:アデノウイルス,角結膜炎,院内感染,ウイルス汚染,PCR.adenovirus,keratoconjunctivitis,nosocomialinfection,viralcontamination,PCR.はじめにアデノウイルスは眼科における院内感染の原因となる.患者にとってはもちろんのこと,医療側にも社会的・経済的な損害は重大となる.院内感染発生時の汚染源は,医療従事者の手指1,2),点眼瓶1,3),眼圧計1,2,4),などがあげられているが,実際の院内感染発生時に特定できない場合が多い.アデノウイルス院内感染予防のマニュアルに従っても,院内汚染そして感染は起きるのか,院内感染発生時にウイルスの院内汚染は発生しているのか,そして,院内汚染発生時に院内感染は起きるのか,これらはいずれも未解決である.今回新規開設の眼科診療所で,無理なく実施可能な院内感染予防のマニュアルを作成,実施し,アデノウイルスの院内汚染と結膜炎発症症例を1年6カ月にわたり追跡した.I方法2008年5月,渋谷区に開業した眼科診療所,みさき眼科クリニック(以下,当院)にて調査を実施した.当院は外来診療のみで,観血的手術は霰粒腫の切開のみを施行し,レーザー治療は施行せず,コンタクトレンズの取り扱いは行っていない.医師は1名,コメディカルは常勤1名と非常勤が1〔別刷請求先〕石岡みさき:〒151-0064東京都渋谷区上原1-22-6みさき眼科クリニックReprintrequests:MisakiIshioka,M.D.,MisakiEyeClinic,1-22-6Uehara,Shibuya-ku,Tokyo151-0064,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(81)1743 表1当院の院内感染予防マニュアル1日常診療(1)初診,再診とも,まず診察を行う.(2)患者ひとりごとに診察後薬用液体ハンドソープ,流水にて手洗いを施行する.ペーパータオルを使用後,速乾性手指消毒剤をすりこむ.(3)眼表面に触れる検査・処置器具は患者ごとに取り換え,高圧蒸気滅菌を施行する.高圧蒸気滅菌が不可能な器具は次亜塩素酸ナトリウムにて消毒する.2内装(1)水栓(診察室,検査室,トイレ)はセンサー式自動水栓を採用.(2)待合室に雑誌は置かない.(3)待合室ソファ,受付カウンターはアルコールで清拭できる材質を使用.3清拭市販のアルコールタオルにて,午前・午後外来終了時に以下の場所を清拭する.(1)待合室ソファ(2)受付カウンター(3)診察室ドア取っ手(4)診察用椅子(5)入口自動ドアタッチセンサー(6)トイレドアノブ,鍵4点眼散瞳薬,麻酔薬,抗菌薬の点眼は5ml瓶を1カ月ごとに交換する.5結膜炎患者受診時(1)濾胞性結膜炎の症状を呈し,アデノウイルス感染の可能性が高い患者に対して,アデノウイルス迅速診断キットを施行する.(2)ウイルス迅速診断キット施行時は点眼麻酔薬を使用し,そのつど点眼瓶は破棄する.(3)患者帰宅後,清拭施行.(場所は3に前述.)名勤務していた.日本眼科学会が作成した「ウイルス性結膜炎のガイドライン」5)に準拠し策定した当院の院内感染予防マニュアルを表1に示す.診療は1カ所の診察室を使用し,細隙灯顕微鏡で行った.通常の細隙灯顕微鏡での検査が困難な乳幼児の場合のみ,手持ちの細隙灯顕微鏡を使用した.初診時および再診患者で次回の検査指示が出されていた場合でも,各種検査前に医師の診察を行った.診察時に使い捨て手袋は使用しなかった.睫毛鑷子,硝子棒は患者1人ごとに交換し,使用後は洗浄のうえ高圧蒸気滅菌を施行し再使用した.眼圧計のチップは測定ごとに交換し,0.1%次亜塩素酸ナトリウム(ミルトンR)に30分以上浸漬後(途中攪拌),流水にて洗浄しペーパータオルにて水気を拭き取り使用した.スリーミラーなどの接触型レンズは水洗後ミルトンRに30分以上浸漬し,流水にて洗浄後風乾した.患者が触れると想定される院内施設については,午前・午後の診療終了時,アデノウイルス感染の可能性が高い結膜炎の患者が受診した際は随時,アルコールタオル(商品名メディクロス,エタノール76.9.81.4vol%)にて清拭を施行した.濾胞性結膜炎の症状を呈し,アデノウイルス感染の可能性が高い患者に対しては,アデノウイルスの迅速診断キット(キャピリアアデノアイR,わかもと製薬)を施行した.迅速診断施行時には点眼麻酔薬(防腐剤入りオキシブプロカイン,ベノキシールR,参天製薬)を使用し,そのつど点眼瓶は破棄した.診察後,医師は液体ハンドソープ,流水にて手洗いし,ペーパータオル使用後に速乾性手指消毒剤をすりこんだ.患者帰宅後,待合室ソファ,受付カウンター,診察室ドア取っ手,診察用椅子,入り口自動ドアタッチセンサー(同患者が使用すればトイレドアノブ,鍵)をアルコールタオルにて清拭施行した.図1施設内ウイルス検出ポイント①:入口自動ドアタッチセンサー,②:待合室ソファ,③:診察室ドア取っ手,④:受付カウンター,⑤:非接触眼圧計エアーノズル,⑥:トイレドアノブ,⑦:眼圧計チップ,⑧:接触型レンズ(スリーミラー),⑨:医師の手,⑩:点眼麻酔薬,⑪:散瞳薬.(ただし,⑦.⑪は図中では省略)1744あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(82) アデノウイルス結膜炎疑い患者数(人/月)543210:アデノウイルス結膜炎疑い患者:迅速診断キット陽性患者受けることができないことは,患者側の不利益となる可能性があり回避されるべきである.全国約650カ所の定点観測7)によると,流行性角結膜炎の平均症例数は35.65例/年/1施設である.この定点観測は「重症な急性濾胞性結膜炎に角膜上皮下混濁,あるいは耳前リンパ節の腫脹・圧痛を伴う症例」という臨床症状に基づく診断である.当院のウイルス性結膜炎疑い例が1年半の間に34名というのは定点観測と比べると少ない発症数であるが,定点観測を報告している施設の規模はさまざまであり,症例数の多い施設は受診患者数自体が多い可能性もある.東京都眼科医会が毎年6月分と11月分の保険請求を調査している1010ト陽性患者数.9月図月別結膜炎患者数と迅速診断キット陽性数2濾胞性結膜炎の症状を呈し,アデノウイルス感染の可能性が高い患者の月別人数と,そのうちのアデノウイルス迅速診断キッ院内汚染調査は開業前から開業後1年6カ月にわたり定期1回,午前の診療終了後院内清拭前に(点眼瓶交換前)綿棒にて①から⑨の検出ポイントを擦過した.点眼麻酔薬,散瞳薬はノズル先端を綿棒にて擦過し同時に点眼残液を浸透させた.アデノウイルスDNAの検出は定性polymerasechain6)reaction(PCR)法にて行った.調査期間中における月平均外来患者数は153名(1日平均8名),そのうちの濾胞性結膜炎患者数とアデノウイルス迅速診断キット陽性患者数を図2に示す.期間中アデノウイルスによる結膜炎疑いは34名,アデノウイルス迅速診断キット陽性患者は7名であった.院内感染を疑わせる症例はなかった.調査全期間を通して,すべての検出ポイントからアデノウイルスDNAは検出されなかった.的に行った.計11カ所の検出ポイントを図1に示す.月にII結果9月III考察今回,眼科診療所院内のウイルス汚染調査を新規開業診療所において1年半にわたり行った.ウイルス迅速診断キット結果が陽性であるアデノウイルス結膜炎患者が受診していたにもかかわらず,院内のウイルス汚染は検出されなかった.ウイルス性結膜炎患者は通常診療に使用される診療室・診察機器で検査を受けており,当院策定のウイルス対策マニュアルに沿った診療業務を行うことにより,ウイルス性結膜炎患者が受診しても院内がウイルスに汚染され,院内感染が発生する可能性は低いと考えられた.ウイルスの院内汚染をおそれるあまりに,ウイルス性結膜炎疑いの患者が十分な診察を(83)月8月7月6月5月11が,手術を行っていない施設の2010年6月の請求件数は平月11128月7月6月5月4月3月2月1月月月均765件であり,ここ10年は大きく変動していない8).こ月のデータと比較すると,当院の外来患者数は手術をしていない眼科施設としても少ないほうであるため,結膜炎の患者数が少なくウイルス汚染が起きにくかったとも考えられる.わが国では入院施設がある病院での院内感染報告が主である5)が,海外では外来における院内感染の報告1),院内感染発症の主体が外来患者という報告4)もあり,当院が外来診療のみのため院内感染が起きなかったとは言い切れない.受診患者数,その他の施設条件(入院施設の有無,コンタクトレンズ処方の有無,手術施行の有無など)の相違も,院内汚染・院内感染の検討課題になりうるであろう.流行性角結膜炎流行時のケースコントロールスタディでは,点眼瓶,眼圧計が危険因子であると報告されている1,2,4).流行性角結膜炎患者の指がウイルス汚染されていること9),ウイルスは乾燥した場所でも長く生き残る報告10)を踏まえると,患者が接触するすべての院内施設の汚染の可能性は十分に考えられる.施設によってはウイルス性結膜炎が疑われる患者の動線を変更,専用の細隙灯顕微鏡で診察を行っている.当院においては当該結膜炎患者の隔離は行っていないが,施設内のウイルス汚染は起きていない.しかし,流行性角結膜炎の院内感染発生時に結膜炎疑いの患者を隔離するまで流行が終焉しなかったという報告もあり1,4),施設汚染は院内感染の重要な危険因子となりうるであろう.実際に汚染が起こるのか,そしてそれはどこに起きるのかを明確にするさまざまな規模の施設が参加した前向き調査を期待したい.調査時に開院直後で患者数の少なかった当院でも,数年たち患者数が増えたところで追試を検討したい.今回院内汚染は検出されなかったが,検出された場合どれくらいのウイルス数を院内感染の原因と判定するかはむずかしいところもある.施設のウイルス汚染を調べる場合には院内感染の動向も調べ,汚染が感染の原因になっているか定量的なウイルスDNAによる確認が必要と考えられる.迅速診断キットの陽性率は100%ではなく,採取方法や発症時期による検体のウイルス量によっても陽性率が異なってくる.アあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111745 デノウイルスによる結膜炎を疑い迅速診断キットが陰性であった場合でもこのウイルスによる感染を完全に否定することはむずかしいため,院内汚染・院内感染調査時にはキットを施行した患者についてPCRにてもチェックすることを検討したほうがよいと考えられる.手指がウイルス汚染した場合には洗っても完全に除去することができないという報告がある2).当院では手袋の使用は行われなかったが,医療従事者が使い捨ての手袋を使用したほうが良いかは検討の余地があると考えられた.一方,点眼瓶汚染の可能性は高いとされ,当院でも疑い症例への使用後は廃棄を行っている.処置用点眼薬を小分けし使用ごとに破棄する方法も推奨されている1).麻酔薬,抗生物質には使い切りの点眼がすでに販売され,小分けにする手間を省くことが可能である.アデノウイルスによる結膜炎は,眼科であればどのような規模の施設でも避けては通ることのできない疾患である.一般診療所でも今回策定したような実践可能な感染対策マニュアルで院内汚染,院内感染への対策が可能であると思われる.外来患者数の多い施設においては,検査などの再来時にまず医師の診察がむずかしいことも考えられ,コメディカルスタッフの教育も重要である.文献1)VineyKA,KehoePJ,DoyleBetal:AnoutbreakofepidemickeratoconjunctivitisinaregionalophthalmologyclinicinNewSouthWales.EpidemiolInfect136:11971206,20082)JerniganJA,LowryBS,HaydenFGetal:Adenovirustype8epidemickeratoconjunctivitisinaeyeclinic:riskfactorsandcontrol.JInfectDis167:1307-1313,19933)UchioE,IshikoH,AokiKetal:Adenovirusdetectedbypolymerasechainreactioninmultidoseeyedropbottlesusedbypatientswithadenoviralkeratoconjunctivitis.AmJOphthalmol134:618-619,20024)WarrenD,NelsonKE,FarrarJAetal:Alargeoutbreakofepidemickeratoconjunctivitis:Problemsincontrollingnosocomialspread.JInfectDis160:938-943,19895)塩田洋,大野重昭,青木功喜ほか:アデノウイルス結膜炎院内感染対策ガイドライン.日眼会誌113:25-46,20096)AokiK,IshikoK,KonnoTetal:Epidemickeratoconjunctivitisduetothenovelhexon-chimeric-intermediate22,37/H8humanadenovirus.JClinMicrobiol46:32593269,20087)国立感染症研究所サーベイランス感染症発生動向調査http://idsc.nih.go.jp/idwr/ydata/report-Jb.html8)健康保険請求状況調査報告平成22年6月診療分.東京都眼科医会報213:32-36,20109)AzarMJ,DhaliwalDK,BowerKSetal:Possibleconsequenceofshakinghandswithyourpatientswithepidemickeratoconjunctivitis.AmJOphthalmol121:711-712,199610)GordonYJ,GordonRY,RomanowskiEetal:Prolongedrecoveryofdesiccatedadenovirusserotypes5,8,and19fromplasticandmetalsurfaceinvitro.Ophthalmology100:1835-1840,1993***1746あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(84)