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正常眼圧緑内障におけるカリジノゲナーゼの網膜中心動脈血流への効果

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(131)8810910-1810/08/\100/頁/JCLS《原著》あたらしい眼科25(6):881884,2008cはじめに正常眼圧緑内障の治療では眼圧の無治療時ベースラインを調べ,30%以下の眼圧下降が目標とされている1).しかし,十分に眼圧を下降しても視野障害が進行する症例をしばしば経験することがある.今回筆者らは眼圧のコントロールが良好であるにもかかわらず,1年間で視野の悪化が進行する正常眼圧緑内障と視野の悪化の進行を認めない正常眼圧緑内障の網膜中心動脈血流を検討した.網膜中心動脈血流は超音波カラードップラー法(colorDopplerimaging:CDI)を用い測定した.これらの症例に対し,カリジノゲナーゼ製剤カルナクリンR(三和化学)を1日量として150単位を投与し網膜中心動脈血流に対する影響を検討した.経過観察中点眼薬は中止せず,継続とした.〔別刷請求先〕前田貴美人:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KimihitoMaeda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,South-1,West-16,Chuo-ku,Sapporo060-8543,JAPAN正常眼圧緑内障におけるカリジノゲナーゼの網膜中心動脈血流への効果前田貴美人*1舟橋謙二*2今井浩一*3三嘴肇*3大黒浩*1*1札幌医科大学医学部眼科学講座*2真駒内みどり眼科*3市立小樽病院放射線科EectofOralKallidinogenaseonCentralRetinalArteryBloodFlowinNormal-TensionGlaucomaKimihitoMaeda1),KenjiFunahashi2),KouichiImai3),KaoruMisumi3)andHiroshiOhguro1)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,2)MakomanaiMidoriGankaClinic,3)SectionofRadiologicalTechnology,OtaruMunicipalHospital緑内障患者の網膜中心動脈血流を測定し,カリジノゲナーゼが血流への影響を超音波カラードップラー法(colorDopplerimaging:CDI)を用いて検討した.市立小樽病院に通院治療中の眼圧コントロール良好な33例の緑内障患者を検査の対象とした.緑内障患者の内訳は正常眼圧緑内障25例34眼,原発開放隅角緑内障8例9眼であった.カリジノゲナーゼ投与は全員からインフォームド・コンセントを得た.点眼はカリジノゲナーゼ投与期間中も継続した.カリジノゲナーゼ150IU(or単位)投与前,および1カ月後にCDIを行い網膜中心動脈の血流速度を測定した.1カ月後にCDIの検査を行えた正常眼圧緑内障12例16眼にカリジノゲナーゼ投与前後で収縮期最高血流速度(Vmax)の有意な増加が認められた.したがって,正常眼圧緑内障において,カリジノゲナーゼは網膜中心動脈の血流改善に有効であると思われた.WeusedultrasoundcolorDopplerimaging(CDI)toinvestigatebloodowinthecentralretinalarterybeforeandonemonthafteroralkallidinogenasetreatmentinpatientswithglaucoma.Thestudyinvolved33patients(25withnormal-tensionglaucoma,8withprimaryopen-angleglaucoma),whoweretreatedafterinformedconsenthadbeenobtainedfororalkallidinogenase.Thetreatmentswerecarriedoutduringoralkallidinogenaseadminis-trationwithanti-glaucomadrugs.Wemeasuredthepeak-systolicandend-diastolicbloodowvelocityandresis-tanceindexinthecentralretinalartery.Afteronemonthtreatmentwithoralkallidinogenase,wemonitored16eyes(12patients)withnormal-tensionglaucoma.Oraladministrationofkallidinogenasesignicantlyincreasedcen-tralretinalarteryowovelocityinpatientswithnormal-tensionglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(6):881884,2008〕Keywords:正常眼圧緑内障,眼血流,超音波カラードップラー法,カリジノゲナーゼ.normal-tensionglaucoma,ocularbloodow,colorDoppolerimaging,kallidinogenase.———————————————————————-Page2882あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(132)(cm/s),Vmean(cm/s),RIの結果は表3のとおりであった.正常者群,POAG群,NTG群,OH群とでVmax,Vmin,Vmean,RIを検定したところ,正常者群とNTG群・POAG群,OH群とNTG群・POAG群ではVmaxのみ有意差を認めた(Man-Whitney’sUtest,図1).カルナクリンR投与1カ月後NTG群ではVmaxの有意な増加を認めた(p<0.05,Wilcoxonsigned-rankstest,表4).図に示していないがNTG群において,片眼視野正常は8眼であり,カルナクリンR投与前のVmaxは9.3±2.4であった.カルナクリンR投与後のVmaxは9.1±1.7であり,I対象および方法市立小樽病院に2002年4月より通院中の眼圧コントロール良好な緑内障患者と高眼圧症患者に検査の説明を行い,同意を得た患者にCDIを行った.緑内障は33例,年齢は66.9±11.0歳(平均±標準偏差),男性14例,65.6±10.2歳,女性19例,67.1±11.1歳であった.このうち原発開放隅角緑内障(POAG)は8例,65.0±9.9歳(男性3例,70.7±1.3歳,女性5例,66.6±9.9歳),正常眼圧緑内障(NTG)は25例,67.5±11.5歳(男性11例,64.2±10.6歳,女性14例,70.1±11.9歳)であった.高眼圧症(OH)は5例(男性2例,64.2±10.6,女性3例,65.6±10.1歳)であった.CDIは東芝製SSA-550Aと検査用リニア式電子プローブ12MHzを用い測定した.測定方法は報告2)にあるとおり患者を仰臥位安静にし,眼球を圧迫しないように注意し,視神経・視神経乳頭が描出する部位を選び,血流波形を得た.収縮期最高血流速度(Vmax),拡張期最低血流速度(Vmin),平均速度(Vmean),抵抗指数〔resistanceindex:RI=(VmaxVmin)/Vmax〕を血流波形から算出した.網膜中心動脈(CRA)の描出に際し,視神経陰影内,乳頭後方約3mmの部位を選び,全例同一の検者が担当した.エコーの情報の精度を高めるため,超音波でのスキャニングポイントの幅を狭くし,ドップラーエコーの感度を高くした.CRAは腹腔臓器とは異なりガスによる影響がなく,超音波進入角度が60°以上のため,描出の再現性は良好であった.患者の視野は全員Humphrey静的量的視野30-2Sita-Standardを行った.視野悪化の評価としてMD(meandeviation)値が前回の検査,すなわち1年前と比較し3dB以上進行したものを選んだ.眼圧は全例Goldmann圧平眼圧計にて午前中に測定した.CRAの血流を測定した後に,インフォームド・コンセントを得て,カリジノゲナーゼの投与を行った.カリジノゲナーゼは三和化学株式会社のカルナクリンR1日量150単位を投与し,1カ月後に再度CRAの血流を測定した.1カ月後に再検査できた患者はNTG12例16眼,POAG2例3眼,OH5例10眼であった.他症例は1カ月以内もしくは1カ月以降に来院したため,検査から除外した.カルナクリンR投与は1カ月間と短期間のため,視野検査の追試を行わなかった.コントロールとして,全身的な基礎疾患および眼疾患のない健康体ボランティア4例8眼(男性1例,女性3例,31±10.7歳)のCRAの血流を測定した.II結果点眼薬は表1に示すとおり,各群に単剤もしくは2剤併用を行い,眼圧は治療前と比較し有意に下降していた(表2).カルナクリンR投与前のCRAの血流を測定したところ,正常者群とPOAG群,NTG群,OH群でVmax(cm/s),Vmin表1使用点眼薬遮断剤b遮断剤ab遮断剤PG製剤CAI製剤OH群02040POAG群03271NTG群525152PG製剤:プロスタグランジン系製剤,CAI製剤:炭酸脱水酵素阻害薬.表2正常眼圧緑内障(NTG)群,原発開放隅角緑内障(POAG)群,高眼圧症(OH)群の治療前後眼圧群群群眼治療前眼圧±1.8OH群17.8±1.9NTG群20.9±2.4POAG群治療後眼圧(mmHg)16.4±2.514.2±2.015.2±2.0§p=0.0051,*p<0.001,†p=0.004(Wilcoxonsigned-rankstest).§*†表3各疾患群と正常者群の網膜中心動脈血流の結果眼正常者群±2.24.0±0.77.0±1.10.7±0.1OH群1011.8±2.73.0±0.96.7±1.50.8±0.1NTG群509.1±2.62.6±0.85.3±1.20.7±0.1POAG群149.8±2.83.0±0.95.2±2.00.7±0.1収縮期最高血流速度(Vmax),拡張期最低血流速度(Vmin),平均速度(Vmean),抵抗指数(resistanceindex:RI)表4カルナクリンR投与前後での正常眼圧緑内障(NTG)群,原発開放隅角緑内障(POAG)群の網膜中心動脈収縮期血流速度群群眼治療前±2.47.3±2.1投与後Vmax(cm/s)9.2±1.78.0±2.4NTGでは有意差あり.*:p<0.05Wilcoxonsigned-rankstest.*———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008883(133)用いており,筆者らが用いた検査用リニア式電子プローブが12MHzであったため,より浅い部位の血流の信号を得やすかった可能性がある.Yehの報告にもあるように,周波数が高くなればより精密に血流のドップラーの信号を捉えることが可能である10).正常者群で得たCRAの血流値は,各疾患群と比較し若年ではあるが報告11,12)にもあるように正常範囲であった.片眼緑内障片眼正常眼で,片眼正常眼患者の眼血流(Vmax)は正常者群の血流と有意差を認めなかった.眼血流は加齢に伴い低下する11)が,正常者群よりもVmaxの低値を示した理由が加齢によるものか不明であった.レーザードップラー法でOHと正常者を比較したところ,OHでは視神経乳頭血流が速かったという報告がある13).測定方法および測定部位が異なるためか,今回の検査ではOH群では正常者群とのCRAのVmax,Vmin,Vmean,RIのいずれも有意差を認めなかった.すでに治療をされて,有意に眼圧が低下しているOHであったため,初診時にCRAの血流が正常者群と同じなのかは不明であった.POAGを発症するビーグル犬において,眼圧上昇を呈するようになる以前よりCRAのVmaxの低下を示すことが報告されている14).ヒトとビーグル犬とでは比較することはできないが,今後もOH群の初診患者では治療前にCDIを行い正常者群と差がないか検討し,また,OH群の一部は緑内障に移行することが報告されているので15),今後も注意して血流を検討する必要があると思われる.杉山らはカルナクリンR150単位/日の内服を併用した緑内障患者を10年間追跡し,重症の緑内障では視野障害の進行を抑制できなかったことを報告している16).しかし,このような視野障害が進行した症例はHumphrey視野計では検査できない重症例が多く,Humphrey視野計で測定できた患者では有意に視野障害を抑制できたことも述べている16).今回筆者らは全例Humphrey視野計で測定できる患者であったため,今後も追跡する必要があるものの,杉山らの報告のように視野障害の進行を抑制できる可能性があると思われる.NTGでの内服での治療はエビデンスがないが,カルナクリンRの神経保護作用17)も併せて考慮すると,NTG治療に点眼薬だけでは視野障害の進行を止められない患者に対し,カルナクリンRは有用である可能性が示唆された.謝辞:外来を支えてくださった市立小樽病院前院長森岡時世先生ならびに献身的に患者に対応された小樽市立病院眼科外来スタッフの皆様に心から感謝を申し上げる.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障の治療総論.日眼会誌107:143-152,2003投与前後で有意差を認めなかった.また,カルナクリンR投与前の片眼緑内障のVmaxと比較したが有意差を認めなかった.同様に正常者群と比較し,Vmaxに有意差を認めなかった.III考按NTGの原因に眼循環障害が示唆される34)一方で,緑内障治療点眼薬による眼循環改善の報告が増えている57).そのため,正常眼圧緑内障の治療に眼圧下降と眼循環改善の両面を考えることには意味があると思われる.しかし,点眼薬による眼圧のコントロールが良好であるにもかかわらず,視野の悪化を認める症例を日常診療で経験する.この場合,すでに点眼薬でfullmedicationとなっている症例ではつぎの手は多く残されてはいない.筆者らは,1カ月間ではあったが,カルナクリンR投与でCRAのVmaxの増加をCDIにて確認することができた.視野の悪化したNTG群ではさらに他剤へ変更するか,追加する方法も残っていたと思われるが,点眼薬が増えることによるコンプライアンスの低下が懸念され,内服だと楽であるとの外来患者からの声を受け,点眼を追加することを行わず,脈絡膜循環改善作用11)のあるカルナクリンRを選んだ.楊らは網膜分枝静脈閉塞症に150単位/日のカルナクリンRを投与し,CRAではVmaxの増加は認めなかったものの,網脈絡膜循環の改善を示唆している9).筆者らの症例では3例に,カルナクリンR投与後にVmaxの低下を認めたが,Vminが増加していたため,RIが低下し,結果的に眼循環の改善に変わりはなかったと思われる.楊らと筆者らとの結果が異なった理由は不明だが,楊らは7.5MHzのプローブを図1網膜中心動脈収縮期血流速度各群の網膜中心動脈収縮期血流速度(Vmax)を示す.正常者群とOH群,NTG群とPOAG群では有意差を認めなかったが,それ以外では有意差を認めた.*:p<0.05,**:p<0.01(Man-Whitney’sUtest).NS*1614121086420正常者群NTG群POAG群Vmax(cm/s)*NS****OH群———————————————————————-Page4884あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(134)tionalvascularassessmentwithultrasound.IEEETransMedImaging23:1263-1275,200411)ButtZ,O’BrienC,McKillopGetal:Dopplerimaginginuntreatedhigh-andnormal-pressureopen-angleglauco-ma.InvestOphthalmolVisSci38:690-696,199712)GalassiF,NuzzaciG,SodiAetal:Possiblecorrelationsofocularbloodowparameterswithintraocularpressureandvisual-eldalterationsinglaucoma:astudybymeansofcolorDopplerimaging.Ophthalmologica208:304-308,199413)FekeGT,SchwartzB,TakamotoTetal:Opticnerveheadcirculationinuntreatedocularhypertension.BrJOphthalmol79:1088-1092,199514)GelattKN,MiyabayashiT,Gelatt-NicholsonKJetal:ProgressivechangesinophthalmicbloodvelocitiesinBea-gleswithprimaryopenangleglaucoma.VetOphthalmol6:77-84,200315)HigginbothamEJ,GordonMO,BeiserJAetal:Topicalmedicationdelaysorpreventsprimaryopen-angleglau-comainAfricanAmericanindividuals.ArchOphthalmol122:113-120,200416)杉山哲也,植木麻理:正常眼圧緑内障の10年間の視野障害進行と治療薬の検討.FrontiersinGlaucoma6:126-129,200517)XiaCF,YinH,BorlonganCVetal:Kallikreingenetrans-ferprotectsagainstischemicstrokebypromotingglialcellmigrationandinhibitingapoptosis.Hypertension434:452-459,20042)丹羽義明,山本哲也,松原正幸ほか:緑内障眼の眼窩内血流動態に対する二酸化炭素の影響─超音波カラードップラー法による検討─.日眼会誌102:130-134,19983)YamazakiY,DranceSM:Therelationshipbetweenpro-gressionofvisualelddefectsandretrobulbarcirculationinpatientswithglaucoma.AmJOphthalmol124:217-295,19974)NicolelaMT,WalmanBE,BuckleyARetal:Variousglaucomatousopticnerveappearances.Acolordopplerimagingstudyofretrobulbarcirculation.Ophthalmology103:1670-1679,19965)井戸正史,大澤俊介,伊藤良和ほか:イソプロピルウノプロストン(レスキュラR)点眼が正常眼圧緑内障患者における眼循環動態に及ぼす影響.あたらしい眼科16:1557-1579,19996)西村幸英,岡本紀夫:イソプロピルウノプロストン(レスキュラR)点眼が眼動脈血流速度に及ぼす影響─正常眼圧緑内障眼における検討─.あたらしい眼科15:211-214,19917)MizunoK,KoideT,SaitoNetal:Topicalnipradilol:eectsonopticnerveheadcirculationinhumansandperioculardistributioninmonkeys.InvestOphthalmolVisSci43:3243-3250,20028)小林ルミ,森和彦,石橋健ほか:カリジノゲナーゼの網脈絡膜血流に対する影響.臨眼57:885-888,20039)楊美玲,望月清文,丹羽義明ほか:カリジノゲナーゼの網脈絡膜循環に及ぼす影響.あたらしい眼科17:1433-1436,200010)YehCK,FerraraKW,KruseDE:High-resolutionfunc-***

正常眼圧緑内障患者における塩酸ブナゾシン点眼追加療法の36 カ月間の効果

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(129)7050910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(5):705709,2008cはじめに緑内障治療の目標は残存視野を維持することである.視野維持に対して眼圧下降のみが高いエビデンスを得ている1).眼圧下降のために第一選択として抗緑内障点眼薬を用いることが多い.まず単剤点眼を行うが,眼圧下降効果が不十分な場合は,点眼薬の変更や作用機序の異なる薬剤の併用が必要となる.これら併用療法における長期的な眼圧下降効果の検討は十分に行われていない.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN正常眼圧緑内障患者における塩酸ブナゾシン点眼追加療法の36カ月間の効果井上賢治*1塩川美菜子*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座AdditiveEfectofBunazosinHydrochloridefor36MonthsinPatientswithNormal-TensionGlaucomaKenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬による単剤点眼治療中の正常眼圧緑内障患者26例に2剤目として塩酸ブナゾシン点眼を1日2回追加投与し,36カ月間の経過観察を行った.追加投与前,投与6,12,18,24,30,36カ月後の眼圧,副作用を調査した.さらに投与前と投与12,24,36カ月後の視野障害度を比較した.塩酸ブナゾシン追加前の使用薬剤はb遮断薬が14例,プロスタグランジン関連薬が12例,眼圧は16.7±1.6mmHgであった.塩酸ブナゾシン投与後の眼圧は36カ月にわたり14.115.0mmHgで有意に下降した(p<0.0001).さらにa1b遮断薬,(狭義)b遮断薬,ラタノプロスト使用例に分けて眼圧を検討したが,(狭義)b遮断薬とラタノプロスト使用例では塩酸ブナゾシン追加投与により眼圧が有意に下降した(p<0.0001)が,a1b遮断薬使用例では眼圧下降率が弱かった.投与前と投与36カ月後までのHumphrey視野のmeandeviation値は同等であった.副作用として軽度の点状表層角膜炎,結膜充血が合計6例7件に出現した.正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼を2剤目として併用することは眼圧および視野維持効果の点から36カ月間にわたり有効であった.Westudiedtheclinicalusefulnessofcombinedtherapywiththeadjunctionofbunazosinhydrochloridein26patientswithnormal-tensionglaucomawhohadbeentreatedwithb-blocker(14patients)orprostaglandin-related(12patients)ophthalmicsolution.Thepatientsweretreatedwithbunazosinhydrochlorideasthesecondagent;intraocularpressureexaminationandadverseeectsweremonitoredbeforeandat6,12,18,24,30and36monthsafteradministration.Visualelddefectwasmonitoredandcomparedbeforeandat12,24and36monthsafteradministration.Meanintraocularpressuresignicantlydecreasedto14.115.0mmHgat6,12,18,24,30and36monthsafteradministration(p<0.0001),comparedto16.7±1.6mmHgbeforeadministration.Meanintraocularpressurealsodecreasedsignicantlyafteradministrationinpatientstreatedwithbothb-blockerandlatanoprost(p<0.0001).Visualelddefectsweresimilarbeforeandat12,24and36monthsafteradministration.Adverseeectssuchassupercialpunctatekeratitisandhyperemiawereobservedin6patients(7cases).Bunazosinhydrochlorideisdeemedeectiveforadditionaltreatmentofnormal-tensionglaucomapatientsfor36months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):705709,2008〕Keywords:塩酸ブナゾシン,眼圧,視野障害,正常眼圧緑内障,併用効果.bunazosinhydrochloride,intraocularpressure,visualelddefect,normal-tensionglaucoma,combination.———————————————————————-Page2706あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(130)の場合は右眼を解析眼とした.投与前と投与6,12,18,24,30,36カ月後の眼圧の比較にはANOVA(analysisofvariance)および多重比較(Bonferroni/Dunnet法)を用いた.a1b遮断薬,(狭義)b遮断薬,ラタノプロストの眼圧下降率の比較にはANOVAおよび多重比較(Bonferroni/Dunnet法)を用いた.投与前と投与12,24,36カ月後のHumphrey視野のMD値の比較にはANOVAおよび多重比較(Bonferroni/Dunnet法)を用いた.有意水準は,p<0.05とした.各検査は趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果全症例の眼圧は,投与6,12,18,24,30,36カ月後はそれぞれ14.6±1.4mmHg,14.6±1.5mmHg,15.0±1.9mmHg,14.6±1.4mmHg,14.3±1.5mmHg,14.1±1.2mmHgで,投与後は投与前に比べ有意に下降していた(p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法)(図1).塩酸ブナゾシン追加投与前からの眼圧変化量は投与6,12,18,24,30,36カ月後でそれぞれ2.1±1.4mmHg,2.0±1.0mmHg,1.8±1.6mmHg,2.1±1.3mmHg,2.5±1.1mmHg,2.6±1.6mmHgであった.眼圧下降率は投与6,12,18,24,30,36カ月後でそれぞれ12.3±8.0%,12.5±5.5%,10.2±10.3%,12.1±7.3%,14.7±6.2%,14.9±9.1%であった.投与36カ月後の眼圧下降率は,5%未満が2例,510%が3例,1015%が7例,1520%が5例,20%以上が9例であった.塩酸ブナゾシン投与前に使用していた点眼薬別の眼圧は,a1b遮断薬では投与前が16.7±2.2mmHg,投与6,12,18,24,30,36カ月後はそれぞれ14.8±1.0mmHg,15.3±2.0mmHg,16.8±1.1mmHg,15.0±1.3mmHg,14.6±2.2mmHg,15.2±1.0mmHgであった.(狭義)b遮断薬では投与前が17.4±1.1mmHg,投与6,12,18,24,30,36カ月後はそれぞれ14.9±1.0mmHg,14.8±1.0mmHg,15.1塩酸ブナゾシンは選択的交感神経a1受容体遮断作用によりぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進することにより眼圧を下降させる点眼液である2).さらに視神経乳頭周囲血管や脈絡膜,網膜の血流増加作用もあると報告されている3,4).塩酸ブナゾシン点眼の正常人や緑内障患者への単剤使用310)や他の緑内障点眼薬との併用使用1124)の報告では,おおむね良好な眼圧下降効果が示されている.これらの報告の対象はおもに原発開放隅角緑内障や高眼圧症の患者が多く820),正常眼圧緑内障の患者は比較的少ない57,2124).正常眼圧緑内障患者を対象に塩酸ブナゾシン点眼を使用した報告は単剤投与57),2剤目2123)や23剤目24)として追加投与したものである.2剤目として追加投与した報告は投与期間が2週間21)あるいは12週間22)と短期であった.そこで筆者らはb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬点眼を単剤で使用している正常眼圧緑内障患者を対象に塩酸ブナゾシンを2剤目として12カ月間投与した際の眼圧下降効果,視野維持効果および副作用を報告した23).今回はさらに塩酸ブナゾシンの投与期間を36カ月間に延長して再検討した.I対象および方法平成16年2月から9月までの間に井上眼科病院に通院中の正常眼圧緑内障患者で,(広義)b遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬点眼による単剤治療を1カ月以上行っているにもかかわらず,眼圧下降効果が不十分あるいは視野障害が進行している26例を対象とした.男性6例,女性20例,年齢は4178歳,59.7±9.1歳(平均±標準偏差)であった.塩酸ブナゾシン追加投与前の眼圧は16.7±1.6mmHg(1319mmHg)であった.Humphrey視野中心30-2プログラムのmeandeviation(MD)値は9.1±6.3dB(24.11.3dB)であった.使用中の点眼薬は(広義)b遮断薬が14例(ニプラジロール4例,マレイン酸チモロール4例,ゲル化マレイン酸チモロール3例,塩酸レボブノロール2例,塩酸ベタキソロール1例),プロスタグランジン関連薬が12例(ラタノプロスト10例,イソプロピルウノプロストン2例)であった.内眼手術,レーザー手術の既往例は除外した.使用中の点眼薬はそのまま継続し,2剤目として塩酸ブナゾシン点眼(1日2回朝夜点眼)を追加し,投与前,投与6,12,18,24,30,36カ月後の眼圧を調査した.各来院時に副作用,投与12,36カ月後に点眼状況を調査した.使用中の点眼薬をa1b遮断薬6例(ニプラジロール+塩酸レボブノロール),(狭義)b遮断薬8例(マレイン酸チモロール+ゲル化マレイン酸チモロール+塩酸ベタキソロール),ラタノプロスト10例に分けて,眼圧と眼圧下降率を検討した.投与12,24,36カ月後にHumphrey視野中心30-2プログラムを行った.両眼投与症例では投与前眼圧が高いほうを,同値図1ブナゾシン点眼追加投与前後の眼圧***p<0.0001:ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法.眼圧(mmHg)08101214161820投与前6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月******************n=26n=26n=26n=24n=24n=26n=26投与後———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008707(131)副作用は6例7件で出現し,結膜充血が4件,点状表層角膜炎が3件であったが,いずれも塩酸ブナゾシン点眼治療を中止するほど重篤ではなかった.点眼状況は,12カ月後には全例で毎日きちんと点眼していた.36カ月後には塩酸ブナゾシン点眼は週に一度程度忘れる1例,月に一度程度忘れる5例,毎日きちんと点眼する20例,プロスタグランジン関連薬あるいはb遮断薬は月に一度程度忘れる2例,毎日きちんと点眼する24例であった.III考按塩酸ブナゾシン点眼の単剤使用は(狭義)原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症患者に対して,短期投与では眼圧下降幅および眼圧下降率は,それぞれ4週間投与で3.0mmHgと12.7%9),3.0mmHgと12.9%10),6週間投与で1.5mmHgと6.9%11)と報告されている.長期投与では52週間投与で投与前眼圧23.2±1.6mmHgが52週間にわたり18.219.6mmHgに有意に下降していた8).正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼を単剤で投与した際の眼圧下降効果は,12週間投与で眼圧が17.7±1.8mmHgから0.9mmHg下降したが差はなかった4),48週間投与で眼圧が15.8±2.7mmHgから12.4±1.9mmHgに有意に下降した5)との報告があり,一定の見解は得られていない.塩酸ブナゾシン点眼の併用使用に関しては,(狭義)原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症への2剤目としてマレイン酸チモロールあるいはラタノプロストに短期的に追加投与した報告がある1215).マレイン酸チモロールに追加投与した際の眼圧下降幅および眼圧下降率は,4週間投与(投与前眼圧23.7±1.8mmHg)で2.33.1mmHgと9.713.1%15),12週間投与(投与前眼圧22.5±3.5mmHg)で2.62.8mmHgと11.612.4%13)であった.今回の(狭義)b遮断薬の結果(2.33.1mmHgと15.119.6%)は,眼圧下降幅はほぼ同等で,眼圧下降率は投与前眼圧(17.4±1.1mmHg)が低いため良好であった.ラタノプロストに追加投与した際の眼圧下降幅および眼圧下降率は,8週間投与(投与前眼圧18.2±3.4mmHg)で1.11.6mmHgと6.08.8%14),12週間投与(投与前眼圧22.3±3.0mmHg)で1.12.8mmHgと5.312.0%13),12週間投与(投与前眼圧21.4±2.2mmHg)で1.23.3mmHgと4.715.8%12)であった.(広義)原発開放隅角緑内障への2剤目としてラタノプロストに6週間追加投与した際(投与前眼圧17.4mmHg)の眼圧下降幅は0.7mmHg,眼圧下降率は4.0%であった11).一方,(広義)原発開放隅角緑内障への2剤目としてウノプロストンに24週間追加投与した際に,眼圧が15.0±3.6mmHgから13.3±3.4mmHgに有意に下降し,眼圧下降幅および眼圧下降率は1.7mmHgと11.0%であった20).今回のラタノプロストの結果(2.13.0mmHgと15.419.8%)は過去の報告より良好±1.1mmHg,15.1±1.1mmHg,14.7±1.0mmHg,14.3±1.3mmHgであった.ラタノプロストでは投与前が16.5±1.4mmHg,投与6,12,18,24,30,36カ月後はそれぞれ14.4±1.7mmHg,14.3±1.4mmHg,14.4±1.7mmHg,14.3±1.3mmHg,13.8±1.3mmHg,13.5±0.9mmHgであった.(狭義)b遮断薬,ラタノプロストでは投与後すべての観察時で眼圧が投与前に比べ有意に下降した(p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法)(図2).a1b遮断薬では投与6,24,30,36カ月後では眼圧が投与前に比べ有意に下降した(p<0.05,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法).塩酸ブナゾシン投与前に使用していた点眼薬別の眼圧下降率は投与6,12,18,24,30,36カ月後でそれぞれa1b遮断薬が12.3±12.0%,8.8±5.8%,0.1±11.6%,11.3±13.6%,15.6±10.5%,7.7±13.4%,(狭義)b遮断薬が17.1±7.7%,18.0±5.5%,16.3±7.3%,15.1±6.8%,19.6±6.9%,17.9±6.1%,ラタノプロストが15.5±11.8%,15.7±7.8%,15.4±11.3%,15.8±10.1%,19.8±8.3%,17.8±6.4%であった.投与12カ月後にa1b遮断薬と(狭義)b遮断薬間に,投与18カ月後にa1b遮断薬と(狭義)b遮断薬間,a1b遮断薬とラタノプロスト間に有意差を認めた.Humphrey視野のMD値は,投与12,24,36カ月後はそれぞれ9.9±7.1dB,9.2±6.2dB,10.0±7.2dBで,投与前と同等であった(ANOVA).図2ブナゾシン追加投与前に使用していた点眼薬別の眼圧変化**p<0.0001,*p<0.05:ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法.0101214161820投与前カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月****(6)(6)(5)(6)(6)(5)(6)************************(8)(8)(8)(7)(8)(7)(8)(10)(10)(10)(10)(10)(10)(10)()内は,症例a1b遮断薬眼圧(mmHg)0101214161820投与前6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月(狭義)b遮断薬眼圧(mmHg)0101214161820投与前6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月ラタノプロスト眼圧(mmHg)———————————————————————-Page4708あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(132)12カ月間投与(33例)23)から今回(36カ月間投与)までに9例(25.7%)が脱落し,2例が新規に登録された.脱落例は理由なく来院が途絶えた4例,投与12カ月後に視野障害が進行したためウノプロストンをラタノプロストに変更した1例,投与18カ月後に充血で塩酸ブナゾシンを中止した1例,投与18カ月後に眼痛で塩酸ブナゾシンを中止した1例,投与24カ月後に眼圧が15mmHgから18mmHgに上昇したため塩酸ブナゾシンをラタノプロストに変更した1例であった.12カ月間以上の長期投与を行っている症例においても副作用が出現する可能性があり,副作用に対する注意深い経過観察が必要である.正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼をb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬に追加投与することにより36カ月間にわたり眼圧の有意な下降がみられ,視野は維持された.しかし36カ月間に5例(16.1%)が副作用出現,視野障害進行,あるいは眼圧上昇で点眼中止を余儀なくされた.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy-Group:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpres-sure.AmJOphthalmol126:487-497,19982)OshikaT,AraieM,SugiyamaTetal:Eectofbunazosinhydrochlorideonintraocularpressureandaqueoushumordynamicsinnormotensivehumaneyes.ArchOphthalmol109:1569-1574,19913)福島淳志,白柏基宏,八百枝潔ほか:健常眼における塩酸ブナゾシン点眼の視神経乳頭微小循環への影響.あたらしい眼科20:1173-1175,20034)今野伸介,田川博,大塚賢二:塩酸ブナゾシン点眼の正常人眼視神経乳頭末梢循環に及ぼす影響.あたらしい眼科20:1301-1304,20035)杉山哲也,徳岡覚,守屋伸一ほか:低眼圧緑内障に対する塩酸ブナゾシン点眼の効果─眼脈流量を中心に.臨眼45:327-329,19916)中島正之,徳岡覚,菅澤淳ほか:低眼圧緑内障に対する塩酸ブナゾシン長期点眼の効果─その1:眼圧について─.あたらしい眼科11:1093-1096,19947)徳岡覚,東郁郎,中島正之ほか:低眼圧緑内障に対する塩酸ブナゾシン長期点眼の効果─その2:視野について─.あたらしい眼科11:1097-1101,19948)東郁郎,北澤克明,塚原重雄ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液の長期投与試験.あたらしい眼科11:631-635,19949)東郁郎,北澤克明,塚原重雄ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液の後期第二相臨床試験─多施設二重盲検比較試験─.あたらしい眼科11:423-429,199410)瀬川雄三,西山敬三,栗原和之ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液の第三相臨であった.今回は正常眼圧緑内障症例での眼圧下降効果を検討したが,過去の(狭義)原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症例より良好であった.その理由として,後者では追加点眼期間が424週間と短かったこと,今回は36カ月間の長期投与で,30カ月後や36カ月後に良好な眼圧下降を示したためと考えられる.塩酸ブナゾシン点眼はb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬点眼に追加投与した際に長期的に眼圧下降が得られる可能性がある.正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼を2剤目として短期21,22)および長期23)に投与した報告がある.ラタノプロストを使用中で投与前眼圧16.8±1.7mmHgの症例に対し,塩酸ブナゾシン点眼を2週間追加投与した際に眼圧は有意に下降した21).b遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬を使用中で投与前眼圧16.8±1.7mmHgの症例に対し,塩酸ブナゾシン点眼を12週間投与22)した際に眼圧は有意に下降し,眼圧下降幅は1.92.3mmHg,眼圧下降率は10.813.5%,12カ月間投与23)した際に眼圧は有意に下降し,眼圧下降幅は1.72.2mmHg,眼圧下降率は10.212.8%であった.今回の全症例での眼圧下降幅1.82.6mmHgと眼圧下降率10.214.9%は過去の報告22,23)とほぼ同等であった.一方,正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼を23剤目として52週間投与した際に眼圧は有意に下降し,眼圧下降幅は1.72.5mmHgであった24).塩酸ブナゾシン投与前に使用していた点眼薬別に眼圧下降効果を比較したが,(狭義)b遮断薬とラタノプロストがa1b遮断薬に比べ良好であった.塩酸ブナゾシンが選択的交感神経a1受容体遮断作用を有するため,同じ作用を有するa1b遮断薬では眼圧下降効果が減弱する可能性が考えられる.塩酸ブナゾシン点眼による視野維持効果は,正常眼圧緑内障症患者に塩酸ブナゾシン単剤を48週間投与した報告がある7).Humphrey視野のMD値が投与前7.76±8.31dBが投与48週後に7.09±7.70dBとなり有意に改善した(p=0.035).正常眼圧緑内障症患者でb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬を使用中に塩酸ブナゾシン点眼を12カ月間投与した報告では,Humphrey視野のMD値は,投与前(10.1±6.2dB)と投与12カ月後(10.8±6.5dB)で変化がなかった23).今回の投与12,24,36カ月後のMD値は投与前に比べ改善はなかったが,悪化もせず,視野が維持できたと考えられる.塩酸ブナゾシン点眼の副作用は,結膜充血,異物感,刺激感,痒感,角膜びらん,点状表層角膜炎,ぼやける,しみる,頭重感などである1124).副作用の出現頻度は,041.7%と報告により差が大きいが,結膜充血が今回と同様に多く報告されている.今回は6例7件に結膜充血や点状表層角膜炎が出現したが,いずれも重篤なものではなかった.しかし———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008709(133)359-362,200418)尾辻剛,安藤彰,福井智恵子ほか:ラタノプロスト,b遮断薬併用例における塩酸ブナゾシン併用時の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科21:955-956,200419)橋本尚子,原岳,久保田俊介ほか:第3併用薬としての塩酸ブナゾシン点眼薬の眼圧下降効果.臨眼59:359-362,200520)佐々木満,風間成泰,嶋千絵子:原発開放隅角緑内障患者におけるイソプロピルウノプロストン点眼液に対する塩酸ブナゾシン点眼液の併用効果.あたらしい眼科24:1091-1094,200721)清水美穂,今野伸介,前田祥恵ほか:ラタノプロスト点眼中の正常眼圧緑内障患者に対する塩酸ブナゾシン点眼液の眼循環と眼圧における併用効果の検討.臨眼59:283-287,200522)塩川美菜子,井上賢治,若倉雅登ほか:正常眼圧緑内障患者における塩酸ブナゾシン点眼追加療法の効果.あたらしい眼科22:991-994,200523)井上賢治,塩川美菜子,若倉雅登ほか:正常眼圧緑内障患者における塩酸ブナゾシン点眼追加療法の長期効果.あたらしい眼科23:669-672,200624)YoshikawaK,KatsushimaH,KimuraTetal:Additionoforswitchtotopicalbunazosinhydrochlorideinelderlypatientswithnormal-tensionglaucoma:aone-yearfol-low-upstudy.JpnJOphthalmol50:443-448,2006床試験─0.1%塩酸ジピベフリン点眼液との比較試験─.眼臨88:1386-1390,199411)MaruyamaK,ShiratoS,HanedaM:Evaluationoftheadditiveeectofbunazosinonlatanoprostinprimaryopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol49:61-62,200512)仲村佳巳,仲村優子,酒井寛ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症のラタノプロスト点眼液に対する塩酸ブナゾシン点眼液の併用効果の検討.あたらしい眼科20:697-700,200313)KobayashiH,KobayashiK,OkinamiS:Ecacyofbunazosinhydrochloride0.01%asadjunctivetherapyoflatanoprostortimolol.JGlaucoma13:73-80,200414)TsukamotoH,JianK,TakamatsuMetal:Additiveeectofbunazosinonintraocularpressurewhentopicallyaddedtotreatmentwithlatanoprostinpatientswithglaucoma.JpnJOphthalmol47:526-528,200315)東郁郎,北澤克明,塚原重雄ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液とマレイン酸チモロール点眼液の併用効果.あたらしい眼科19:261-266,200216)勝島晴美,吉川啓司,山林茂樹ほか:ラタノプロストとb遮断薬の併用患者における塩酸ブナゾシンの効果.あたらしい眼科21:675-677,200417)岩切亮,小林博,小林かおりほか:多剤併用時におけるブナゾシンのラタノプロストへの併用効果.臨眼58:***

初診時に中期の視野障害が認められた若年者正常眼圧緑内障の1例

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(121)6970910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(5):697700,2008cはじめに正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)は,眼圧が統計学的正常範囲であるにもかかわらず緑内障性視神経障害をきたす原発開放隅角緑内障のサブタイプであり,先の緑内障疫学調査(TajimiStudy)によって,わが国における40歳以上のNTGの有病率は3.6%であること,および加齢に伴い有病率が増加することが明らかにされた1).しかし,その一方で頻度こそ低いものの,若年者を含む40歳以下の年齢においてもNTGが発症することが知られており,日常臨床での注意が必要である28).また,上方視神経乳頭低形成(superiorsegmentaloptichypoplasia:SSOH)913)は,先天性の視神経乳頭形態異常の一つとして注目を集めているが,わが国における有所見率が0.3%と頻度が高いため13),若年者における緑内障性視神経乳頭との鑑別がきわめて重要である.今回筆者らは初診時,片眼に正常眼圧緑内障による中期の視野障害を,僚眼にSSOHの所見を認めた17歳,女性の興味深い1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕末廣久美子:〒767-0001香川県三豊市高瀬町上高瀬1339医療法人明世社白井病院Reprintrequests:KumikoSuehiro,M.D.,ShiraiHospital,1339Kamitakase,Takase-cho,Mitoyo-shi,Kagawa767-0001,JAPAN初診時に中期の視野障害が認められた若年者正常眼圧緑内障の1例末廣久美子*1溝上志朗*2川崎史朗*2水川憲一*1大橋裕一*2*1医療法人明世社白井病院*2愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学ACaseofJuvenileNormal-TensionGlaucomawithModeratelyProgressedVisualFieldDisturbanceatInitialVisitKumikoSuehiro1),ShiroMizoue2),ShiroKawasaki2),KenichiMizukawa1)andYuichiOhashi2)1)ShiraiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine初診時にすでに中期の視野障害が認められた若年者の正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)を経験した.症例は17歳の女性,コンタクトレンズの処方目的で受診した.眼圧は右眼15mmHg,左眼12mmHgで,両眼ともに正常の開放隅角であった.右眼には上方視神経乳頭低形成(superiorsegmentaloptichypoplasia:SSOH)の所見が,左眼には耳下側視神経乳頭辺縁部の狭小化と同部に付随した神経線維層欠損(nerveberlayerdefect:NFLD)が認められた.Humphrey視野検査を施行したところ,右眼には鼻下側の感度低下,左眼には弓状暗点,Aulhorn分類Greve変法によるstageIIの視野障害が認められた.眼圧日内変動は両眼ともに10mmHgから16mmHgの間で推移しており,MRI(磁気共鳴画像)検査にて頭蓋内病変は検出されなかった.Wereportacaseofjuvenilenormal-tensionglaucoma(NTG)withmoderatelyprogressedvisualelddistur-banceatinitialvisit.Thepatient,a17-year-oldfemale,hadconsultedourhospitalforcontactlensformulation.Herintraocularpressurewas15mmHgrighteyeand12mmHglefteye.Gonioscopicndingswerenormal.Theopticdiscoftherighteyehadndingsofsuperiorsegmentaloptichypoplasia(SSOH).Theopticdiscofthelefteyeshowednarrowingoftheinferotemporaldiscrimandnerveberlayerdefect(NFLD).ThevisualeldoftherighteyeshowedreducedinferonasalsensitivityonHumpheryFieldAnalyzer.ThevisualeldofthelefteyewasstageⅡbyAulhorn’sclassicationwithGreve’smodication.Intraocularpressurevariedfrom10to16mmHg.Magneticresonanceimagingdisclosednointracranialpathology.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):697700,2008〕Keywords:正常眼圧緑内障,若年者,上方視神経乳頭低形成.normal-tensionglaucoma,juvenile,superiorseg-mentaloptichypoplasia.———————————————————————-Page2698あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(122)隅角所見:両眼ともにShaer分類4度,色素沈着01度,正常開放隅角であり,発育異常を疑わせる所見は認めない.視神経乳頭所見(図1):右眼:網膜中心動脈の鼻上方偏位,乳頭上半の蒼白化,上方の神経線維層の菲薄化,および下方の乳頭辺縁部の皿状化を認める.左眼:下方乳頭辺縁部のノッチ形成と同部に対応する網膜神経線維層欠損(nerveberlayerdefect:NFLD)の所見を認める.視神経乳頭形状解析(図2):Discarea:右眼3.16mm2,左眼2.41mm2.Cuparea:右眼1.78mm2,左眼1.39mm2.Rimarea:右眼1.38mm2,左眼1.02mm2.Rimvolume:右眼0.40cmm,左眼0.31cmm.〔HeidelbergRetinaTomographII(HRTII)R,HeidelbergEngineering社による測定〕I症例患者:17歳,女性.主訴:コンタクトレンズの処方希望で来院,眼科的自覚症状はない.現病歴:白井病院を受診した際に,両眼の視神経乳頭陥凹の拡大を初めて指摘された.既往歴:頭部外傷の既往,ステロイドの局所的および全身的な使用歴はない.家族歴:両親ともに緑内障の既往はない.母親に糖尿病の既往はない.視力:右眼0.03(1.5×5.50D),左眼0.06(1.5×5.50D(cyl0.50DAx160°)初診時眼圧:右眼15mmHg,左眼12mmHg.前眼部・中間透光体:両眼ともに異常所見を認めない.中心角膜厚:右眼510μm,左眼520μm(PentacamR,オクルス社による測定).図1視神経乳頭所見右眼(上):網膜中心動静脈の鼻上方偏位,乳頭上部の蒼白,上鼻側辺縁部の狭小化,および耳下側の乳頭辺縁部の皿状化を認める.左眼(下):下方乳頭辺縁部のノッチ形成と,網膜神経線維層欠損の所見を認める.図2HRTIIによる視神経乳頭形状解析両眼ともに視神経乳頭陥凹の拡大を認め,右眼(上)は鼻上側,左眼(下)は耳下側のrimの菲薄化を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008699(123)差があるか否かは興味のあるところである.これについて,林らは,40歳以下の若年者と41歳以上の非若年者のNTGを比較した結果,眼圧レベルは両群間に差は認めないが,若年群は非若年群よりも近視度が強く,特に若年女性例には眼圧動態が正常な者が多い6)ことを報告し,これらの理由として,進行原因としての眼圧非依存因子の介在を示唆している.そのほかにも,診断時の病期は初期から早期の場合が多い5)ことを報告し,その理由として発症からの経過時間が比較的短いのではと考察している.つまり,本症例においては,眼圧レベルは10mmHg台前半と比較的低いレベルで推移しているにもかかわらず,初診時にすでにstageIIまで視野障害が進行していたことから,進行要因として眼圧非依存因子の関与が大きいことが強く示唆される症例といえる.本症例の右眼の視神経乳頭は,網膜中心動脈の鼻上方偏位,乳頭上部の蒼白化,および上方の神経線維層の菲薄化などSSOHに特徴的な所見11)を有していた.わが国におけるSSOHの有所見率は,Yamamotoらにより0.3%と報告されているが,このなかで本症例のような片眼例を37症例中20例と,約半数に認められたことを明らかにしている13).本症例の右眼であるが,視神経乳頭所見は下方の乳頭辺縁部の皿状化を認めるのみの極初期の緑内障性の変化であり,かつ,視野所見にも視神経乳頭所見に対応する明らかな異常を認めなかったことより,鼻下側の感度低下はSSOHによるものが考えやすい.なお,SSOHの発症に母親の糖尿病の有無がHumphrey静的視野検査所見(図3):右眼には鼻下側の感度低下を,左眼には弓状暗点を認める.眼圧日内変動:右眼:1016mmHg,左眼:1016mmHg.両眼ともに午後6時に最高値を,右眼は午前0時,左眼は午前6時に最低値を示した.頭部MRI(磁気共鳴画像):異常所見は認めない.以上の所見より,本症例を右眼に上方視神経乳頭低形成を伴うNTGと診断した.診断後は外来にて定期的にベースラインレベルの測定を行っているが,眼圧は右眼1316mmHg,左眼1216mmHgで推移しており,現在までに眼圧レベルの上昇や,明らかな視野異常の進行は認めていない.II考按本症例の左眼は視神経乳頭およびNFLDの所見と合致する定型的な視野障害を認める点,眼圧日内変動が21mmHg以下である点,および頭蓋内病変を認めない点よりNTGの診断基準を満たすと考えられる.また初診時の17歳の時点で,すでに左眼のHumphrey視野検査ではmeandeviation(MD)値が11dB,Aulhorn分類Greve変法によるstageIIまで進行していた.なお,今回提示したHumphrey視野は4回目の測定結果であり,それまでに測定した3回の結果もほぼ同様の所見を示していた.若年者にみられるNTGと中高年者のNTGの臨床所見に〔右眼〕〔左眼〕図3静的視野検査所見右眼は鼻下側に孤立暗点を認め,左眼については弓状暗点を認める.———————————————————————-Page4700あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(124)4)小川一郎:若年性正常眼圧緑内障.眼臨89:1631-1639,19955)林康司,中村弘,前田利根ほか:若年者の正常眼圧緑内障.あたらしい眼科14:1235-1241,19976)林康司,中村弘,前田利根ほか:若年者と中高年者の正常眼圧緑内障の比較.あたらしい眼科16:423-426,19997)岡田芳春:若年者における緑内障.臨眼57:997-1000,20038)丸山亜紀,屋宜友子,神前あいほか:若年発症した正常眼圧緑内障の視神経乳頭.眼臨99:297-299,20059)PetersenRA,WaltonDS:Opticnervehypoplasiawithgoodvisualacuityandvisualelddefects:astudyofchildrenofdiabeticmothers.ArchOphthalmol95:254-258,197710)LandauK,BajkaJD,KircheschlagerBM:ToplessopticdisksinchildrenofmotherswithtypeⅠdiabetesmelli-tus.AmJOphthalmol125:605-611,198811)KimRY,HoytWF,LessellSetal:Superiorsegmentaloptichypoplasia.Asignofmaternaldiabetes.ArchOph-thalmol107:1312-1315,198912)UnokiK,OhbaN,HoytWF:Opticalcoherencetomogra-phyofsuperiorsegmentaloptichypoplasia.BrJOphthal-mol86:910-914,200213)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimieyehealthcareprojectpartici-pants.JpnJOphthalmol48:578-583,2004関与するとの報告は多い9,11)が,本症例では認められていない.筆者らが知る限り,これまでにSSOHの所見がある眼にNTGを合併した症例や,もしくは本症例のようにSSOHの片眼例で,その僚眼にNTGを合併したという報告はない.またSSOH眼における視神経乳頭構造の脆弱性やNTGの発症リスクに関してはいまだ明らかなデータも存在しないため,今後多数例を対象とした追跡調査が必要と考えられる.今回,若年発症のNTG症例を報告したが,このような症例においては早期診断,早期治療が重要である.このためには,すべての眼科医が日常診療において,年齢や受診理由にかかわらず常に視神経乳頭を注意深く観察すること以外に方法はない.視神経乳頭の異常を把握する能力を今後これまで以上に高めておく必要があるだろう.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese.TheTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)BennettSR,AlwardWLM,FolbergR:Anautosomaldominantformoflow-tensionglaucoma.AmJOphthalmol108:238-244,19893)田村雅弘,飯島裕幸,山口哲ほか:小児2例にみられた低眼圧緑内障.臨眼45:433-437,1991***