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糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術前後での網膜血管酸素飽和度の変化

2019年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(2):295.297,2019c糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術前後での網膜血管酸素飽和度の変化小山雄太*1中野裕貴*2田中茂登*1廣岡一行*2*1香川県立中央病院眼科*2香川大学医学部眼科学講座CChangesinRetinalVascularOxygenSaturationbeforeandafterPanretinalPhotocoagulationforDiabeticRetinopathyYutaKoyama1),YukiNakano2),ShigetoTanaka1)andKazuyukiHirooka2)1)DepartmentofOphthalmology,KagawaPrefecturalCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedecineC目的:糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術(PRP)前後での網膜血管酸素飽和度(SaOC2)変化を比較検討すること.対象および方法:糖尿病網膜症に対してCPRPを施行したC8例C14眼を対象とした.PRPはC2回に分けて施行し,PRP施行前,PRP1回目施行後,PRP完成C1カ月後にCOxymapT1を用いて眼底写真を撮影した.画像を解析し,網膜動静脈のCSaOC2を計測した.結果:PRP施行前の動静脈CSaOC2は,それぞれC101.9C±10.6%,59.9C±12.0%,動静脈CSaO2の差はC42.0C±9.9%.PRP1回目施行後の動静脈CSaOC2は,それぞれC104.8C±9.3%,65.5C±4.6%,動静脈CSaOC2の差はC39.3C±10.1%.PRP完成C1カ月後の動静脈CSaOC2は,それぞれC106.1C±8.7%,64.2C±6.2%,動静脈CSaOC2の差はC41.9±8.9%.結論:PRP前後で動脈CSaOC2は上昇し,静脈CSaOC2と動静脈CSaOC2の差は不変であった.CPurpose:Tocomparechangesinretinalvascularoxygensaturation(SaOC2)beforeandafterpanretinalphoto-coagulation(PRP)forCdiabeticCretinopathy.CSubjectsandMethods:PRPCwasCtreatedCinCtwoparts;fundusCphoto-graphsweretakenusingOxymapT1beforePRP,afterC.rstPRPandaftercompletionofPRP.SaO2Coftheretinalarteriesandveinsweremeasured.Results:SaO2CofarteriesandveinsbeforePRPwere101.9±10.6%CandC59.9±12.0%,respectively;theCdi.erenceCinCarteriovenousCSaO2CwasC42.0±9.9%.SaO2CofCarteriesCandCveinsCatC.rstCmonthCafterCcompletionCofCPRPCwereC106.1±8.7%CandC64.2±6.2%,respectively;theCdi.erenceCinCarteriovenousCSaO2Cwas41.9±8.9%.Conclusions:SaO2ofarteriesincreased;SaOC2Cofveinsanddi.erenceinarteriovenousSaO2CwereunchangedafterPRP,incomparisontopre-PRPvalues.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):295.297,C2019〕Keywords:糖尿病網膜症,汎網膜光凝固術,OxymapT1,酸素飽和度.diabeticretinopathy,panretinalphoto-coagulation,OxymapT1,oxygensaturation.Cはじめに糖尿病網膜症は,高血糖に伴うポリオール代謝異常による内皮障害から網膜血管障害を発症する疾患である.毛細血管が閉塞して虚血となり,さらに進行すると新生血管を形成して増殖糖尿病網膜症となる.網膜虚血により誘導される血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)などの増殖因子が病的血管新生に関与しており,それらの増殖因子産生を抑制する治療の一つとして汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)がある.PRPは網膜色素上皮を中心とする網膜外層を選択的に破壊することで網膜の酸素需要を減らし,網膜虚血を予防することを目的としている.この根拠を説明しうる報告として,健常人と糖尿病網膜症でCPRP施行済みの患者の網膜動静脈酸素飽和度(SaOC2)を比較すると,網膜静脈のCSaOC2が後者で有意に高いと報告されている1).今回筆者らは,眼底カメラ型の酸素飽和度計(OxymapT1,Oxymap社,アイスランド)を用いて,同一眼のCPRP前からCPRP終了後C1カ月までの網膜動静脈CSaOC2の変化を計測し,比較検討したので報告する.〔別刷請求先〕小山雄太:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸C1750-1香川大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YutaKoyama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine,1750-1Ikenobe,Miki-cho,Kita-gun,Kagawa761-0793,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(165)C295図1OxymapT1TRC-50DX(トプコン社製)に装着する(赤矢印).I対象および方法2015年C1月.2016年C1月に香川大学医学部附属病院で前増殖糖尿病網膜症および増殖糖尿病網膜症に対してCPRPを施行した8例14眼(男性5例7眼,女性4例7眼,平均年齢C63.0C±5.6歳)を対象とした.PRPをC1回目に下方半周,2回目に上方半周とC2回に分けて施行し,PRP施行前,PRP1回目終了後,PRP完成後C1カ月の合計C3回の時期にCOxymapT1を用いて眼底写真を撮影し網膜主幹動静脈のCSaO2を測定した.COxymapT1は眼底カメラ型の網膜酸素飽和度計である(図1).眼底カメラのカメラを装着する位置に装着して眼底写真を撮影し,その写真を専用の解析ソフト(OxymapAnalyzer)を用いて解析することにより,視神経乳頭周囲での網膜主幹動静脈のCSaOC2を計測することができる.SaOC2は酸素に結合可能なヘモグロビンのうち,酸化型ヘモグロビンの割合を百分率で示したものであり,その測定原理は酸化型ヘモグロビンと還元型ヘモグロビンとの吸光度の差を利用している.OxymapT1はC570CnmとC600CnmのC2種類の単色光からなるモノクロ写真を用いてCSaOC2を測定している2).なお,同じ測定原理を用いる経皮パルスオキシメータは赤外光と赤色光を用いている.解析中の写真を図2に示す.自動で計測可能な血管に色がついて表示され,SaOC2が高い血管ほど暖色系で表示され,低い血管ほど寒色系で表示される.視神経乳頭径のC1.5倍と3倍のサークルを描き,そのC2つのサークルの間の任意の血図2OxymapAnalyzerでの解析画像管を選択すると該当部分の平均CSaOC2と平均血管径を得ることができる.複数の血管を同時に選択するとCSaOC2の平均値を得ることもできる.今回は同一症例同一眼のCPRP前後の3枚の写真すべてに共通して計測できた血管のうち,動静脈それぞれからできるだけ多くの血管を選択し,同じ血管の平均CSaOC2を比較した.動静脈の交差部は,値が不正確になるため測定範囲から除外した.硝子体出血がある症例やトリアムシノロンCTenon.下注射,抗CVEGF阻害薬硝子体注射,硝子体手術,緑内障手術の既往がある症例,眼底写真のCImagequalityの数値がC5.0以下の症例は測定値に影響を及ぼす可能性があるので除外した.統計学的検討は対応のあるCt検定を用いて,p<0.05を有意差ありとした.CII結果合計でC8例C14眼,動脈C58カ所,静脈C69カ所のCSaOC2を測定した.PRP施行前の動脈および静脈の平均CSaOC2はC101.9±10.6%とC59.9C±12.0%であり,動静脈CSaOC2の差はC42.0±9.9%であった.PRP1回目終了後の動脈および静脈の平均CSaOC2はC104.8C±9.3%とC65.5C±4.6%であり,動静脈CSaO2の差はC39.3C±10.1%であった.PRP終了後C1カ月の動脈および静脈の平均CSaOC2はC106.1C±8.7%,64.2C±6.2%であり,動静脈CSaOC2の差はC41.9C±8.9%であった.動脈,静脈,動静脈CSaOC2の差の変化を図3に示す.PRP施行前の動脈CSaO2に比べCPRP終了後C1カ月の動脈CSaOC2は有意に増加を認めた(p=0.005,対応のあるCt検定).CIII考按今回の結果よりCPRP前後で動脈CSaOC2は上昇したが,静脈CSaOC2と動静脈CSaOC2の差は不変であった.光凝固によって網膜色素上皮が破壊され,それに隣接している視細胞が障害されれば網膜の酸素消費量が減って網膜静脈CSaOC2が上昇296あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019(166)すると考えたが,異なる結果となった.今回の筆者らの結果からもわかるようにCOxymapT1で測定された動脈CSaOC2の測定値がC100%を超えることがあるが,この理由は測定値が網膜血管径や網膜色素の量に影響を受けるからであり,そのため計測値は相対的なものとして評価する必要がある3).既報では,白人の健常人の平均動脈CSaO2がC93.1C±2.3%4)やC92.2C±3.7%5)と報告されているのに対して,日本人ではC97.1C±6.9%3)と報告されている.これは人種による網膜色素量の違いが測定結果に影響を及ぼしているものと考えられる.また,光凝固後に動脈CSaOC2が上昇した原因として,今回CSaOC2を計測したサークル内に光凝固斑が含まれている場合,その部分の網膜色素上皮は障害されているため背景の網膜色素量がCPRP施行前と変化しており,そのことが測定結果に影響した可能性がある.今回はCPRP後C1カ月までしか追跡できていないため凝固斑がまだ完全に変性していない症例も含まれている可能性がある.炎症の活動性があれば酸素消費はむしろ亢進していると推測され,網膜静脈CSaOC2は低下する可能性もある.そのため,光凝固が及ぼす網膜CSaOC2への影響を明らかにするには,3カ月後やC6カ月後まで期間を延長してさらなる検討が必要であると考えられるが,今回の症例では追跡できていない.今回CPRPを施行した患者は前増殖期以降の糖尿病網膜症であり,網膜には出血や白斑が散在している.網膜出血や白斑が血管に及んでいるとその部分は計測できない症例もあるため,計測結果に影響している可能性がある.今回の光凝固にはパターンスキャンレーザーのCPASCAL(TOPCON社製)を使用している.従来のマルチカラーレーザーでの光凝固に比べて高出力短時間照射で低侵襲なため,CSaO2への影響も少ない可能性が高い.本研究の問題点として,症例数がC8例C14眼と少ないことがあげられる.今後は症例数を増やしてさらなる検討が必要であると考える.COxymapT1の計測値は個体差が大きく,異なる個体間での比較には不向きだが同一個体では高い再現性を示す3).PRP前後の網膜動静脈CSaOC2の変化を正確に評価する手法として,今回のように同一個体の治療前後を比較することに問題はないと思われる.今後COxymapT1を用いて計測を継続していくことにより網膜光凝固のCSaOC2への影響を明らかにできる可能性がある.文献1)HardarsonSH,KarlssonRA,EysteinssonTetal:Retinal酸素飽和度の動静脈差(%)静脈酸素飽和度(%)動脈酸素飽和度(%)130*12512011511010595*:p<0.059085PRP前PRPPRP1/2終了後完成後1カ月75706560555045PRP前PRPPRP1/2終了後完成後1カ月55504540353025PRP前PRPPRP1/2終了後完成後1カ月図3汎網膜光凝固術前後の動静脈の酸素飽和度と,酸素飽和度動静脈差の変化oxygenationCafterClaserCphotocoagulationCinCpationtsCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CInvestCOphthalmolCVisCSci49:5366,C20082)HardarsonSH:RetinalCoximetry.CActaCOphthalmolC91:C489-490,C20133)NakanoY,ShimazakiT,KobayashiNetal:Retinaloxim-etryCinCaChealthyCJapaneseCpopulation.CPLoSCOneC11:Ce0159650,C20164)PalssonCO,CGeirsdottirCA,CHardarsonCSHCetal:RetinalCoximetryimagesmustbestandardized:amethodologicalanalysis.InvestOphthalmilVisSci53:1729-1733,C20125)GeirsdottirA,PalssonO,HardarsonSHetal:Retinalves-selCoxygenCsaturationCinChealthyCindividuals.CInvestCOph-thalmolVisSci53:5433-5442,C2012***(167)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C297

対糖尿病網膜症汎網膜光凝固術における従来法とパターンレーザーの比較

2013年10月31日 木曜日

《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1457.1460,2013c対糖尿病網膜症汎網膜光凝固術における従来法とパターンレーザーの比較大久保安希子森下清太家久耒啓吾鈴木浩之佐藤孝樹石崎英介喜田照代植木麻理池田恒彦大阪医科大学眼科学教室ComparisonbetweenConventionalPanretinalPhotocoagulationandPatternScanLaserPhotocoagulationforTreatingDiabeticRetinopathyAkikoOkubo,SeitaMorishita,KeigoKakurai,HiroyukiSuzuki,TakakiSato,EisukeIshizaki,TeruyoKida,MariUekiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege目的:糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固(PRP)を従来法で行った群(以下,従来群)と,パターンレーザーを用いた群(以下,パターン群)で,視力の変動および中心窩網膜厚の変化量を比較検討する.方法:対象は糖尿病網膜症でPRPの適応となった12例21眼(従来群11眼,パターン群10眼).光凝固はNIDEK社のMC-500Vixiを用いた.術前と術後1カ月のlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力の変化量および術後1カ月に撮影した光干渉断層計(OCT)で中心窩網膜厚の変化量を測定し,比較検討した.結果:従来群,パターン群ともに,logMAR視力・中心窩網膜厚は術前後で有意差は認めなかった.従来群とパターン群を比較しても,視力の変化・中心窩網膜厚の変化量ともに有意な差異はなかった.結論:糖尿病網膜症に対するPRPを従来法とパターンレーザーで行っても,術後早期においては特に差異はないと考えられた.Purpose:Tocomparechangesinvisualacuity(VA)andcentralmacularthicknessfollowingconventionalpanretinalphotocoagulation(PRP)orpatternscanlaserPRPforthetreatmentofdiabeticretinopathy(DR).Methods:Thisprospectivestudyinvolved21eyesof12patientswithDRtreatedbyPRP.Ofthe21eyes,11weretreatedusingconventionalPRPand10weretreatedusingpatternscanlaserPRP.Inallcases,amulticolorscanlaserphotocoagulator(MC-500Vixi;NIDEKCo.,Ltd.,Gamagori,Japan)wasusedtoperformtheoperation.Eachpatient’sVAinlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)unitsandcentralmacularthickness,asmeasuredbyopticalcoherencetomography,wereevaluatedpreoperativelyandat1monthpostoperatively.Results:Nopatientsshowedanysigni.cantchangeinVAorcentralmacularthicknessfollowingeitherconven-tionalPRPorpatternscanlaserPRP.Conclusion:The.ndingsofthisstudysuggestthatthesetwoPRPmethodsareequallye.ectivefortreatingDR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1457.1460,2013〕Keywords:糖尿病網膜症,汎網膜光凝固術,パターンスキャンレーザー,中心窩網膜厚.diabeticretinopathy,panretinalphotocoagulation,patternscanlaser,centralmacularthickness.はじめに汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)は網膜無灌流域を有する増殖前糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症において確立された治療法である.その一方で,黄斑浮腫による視力低下や視野異常などの合併症,治療時の疼痛などが臨床上問題となる.PRPの方法として高出力短時間照射のパターンスキャンレーザーが開発され,2005年に米国FDA(食品医薬品局)で認可された後,日本でも2008年から使用可能となった.疼痛が従来よりも軽度で,凝固斑も均一に多数照射することができ,短時間で照射を行えることから,〔別刷請求先〕大久保安希子:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:AkikoOkubo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(113)1457PRPの負担軽減につながる装置としてここ数年で急激に広がりをみせている1.3).レーザー照射による網膜内層への組織障害も少ないといわれている4,5).パターンレーザーの有効性はTOPCON社のPASCALを用いての報告は散見されるが,その他の機械を用いての評価の報告はまだ少数である.今回筆者らはNIDEK社のMC-500Vixiを用いて,PRPを従来の単照射で行った群(以下,従来群)とパターンスキャンレーザーを用いて行った群(以下,パターン群)で,視力の変動および中心窩網膜厚の変化量を比較検討し,合併症の差異を検討したので報告する.I対象および方法大阪医科大学附属病院において,増殖前糖尿病網膜症(preproliferativediabeticretinopathy:PPDR)でPRPの適応となった13例21眼(従来群11眼,パターン群10眼)を対象として診療録に基づいて後ろ向きに比較検討した.平均年齢は57歳(48.73歳)で,女性8名12眼,男性5例9眼であった.白内障と屈折異常を除く眼科疾患を有する例,観察期間中にトリアムシノロンTenon.下注射を施行した例,6カ月以内の内眼手術の既往がある例,緑内障・ぶどう膜炎の既往のある例は除外した.PRPにはNIDEK社のMC-500Vixiを用いた.従来群は出力160.280mW,照射時間0.3秒,全照射数880.1,890発で,波長はすべてyellowを用い,全例4回の照射で行った.パターン群は,出力300.480mW,照射時間0.02秒,全照射数は1,349.2,582発で,波長はすべてyellowを用い,平均2回で照射を行った(表1).PRPを施行した術者は複数である.検討項目は,術前術後1カ月のlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)により計測した中心窩網膜厚の2項目で比較検討を行った.検定にはpaired-ttestを用いた.II結果従来群ではlogMAR視力は術前0.3±0.32,術後0.22±0.35で,術前後1カ月間で有意差は認めなかった(p=0.54).OCTにより測定した中心窩網膜厚は術前277±229.8μm,術後301±176.0μmで,こちらも同様に術前後で有意な変化は認めなかった(p=0.94)(図1).パターン群においても,logMAR視力は術前0.025±0.26,術後0±0.33で,術前後表1対象従来群パターン群症例照射数出力(mW)照射回数症例照射数出力(mW)照射回数64歳女性,右眼1,142250.280448歳男性,右眼2,240350.3902左眼1,127260.2804左眼2,073350.360246歳女性,右眼1,562220.260448歳男性,右眼1,8214502左眼1,070180.2204左眼1,349450.480158歳女性,右眼1,312160.200455歳女性,右眼2,067350258歳女性,左眼880160.200458歳女性,左眼2,330350273歳男性,右眼1,105160.180464歳女性,右眼1,718300.3802左眼1,066160.1804左眼2,148340.380370歳男性,右眼1,856160.230470歳女性,右眼2,5823002左眼1,890160.2004左眼1,989350272歳男性,左眼1,011160.2004従来群とパターン群の属性を表に示す.従来群は,出力160.280mW,照射時間0.3秒,照射数880.1,890発で全例照射回数は4回行った.パターン群は,出力300.480mW,照射時間0.02秒,照射数は1,349.2,582発で,照射回数の平均は2回で行った.従来群パターン群1.4PRP前PRP後1.4PRP前PRP後図1PRP前後のlogMAR視力の変化量PRP前後でlogMAR視力の変化量を比較した.従来群は術前0.3±0.32,術後0.22±0.35で0.90.9logMAR視力logMAR視力PRP前後で有意差を認めず(p=0.54),パタ0.40.4-0.1-0.1ーン群でも術前0.025±0.26,術後0±0.33と有意差を認めなかった(p=0.52).-0.6-0.61458あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(114)従来群パターン群900PRP前PRP後900PRP前PRP後800中心窩網膜厚(μm)中心窩網膜厚(μm)400300200700300200群は術前277±229.8μm,術後301±176.0μmでPRP前後で有意差を認めず(p=0.94),パターン群でも術前220±151.3μm,術後227±178.5μmと有意差を認めなかった(p=0.35).100100000.2従来群パターン群100従来群パターン群0.10-100-200中心窩網膜厚(μm)図3logMAR視力と中心窩網膜厚の変化量の比較0logMAR視力従来群とパターン群間で視力の変化量と中心窩網膜厚の変化量をそれぞれ比較した.logMAR視力の変化量はp=-0.10.29,中心窩網膜厚の変化量はp=0.69で有意差はみられ-0.2-300なかった.-0.3-0.4で有意差は認めず(p=0.52),中心窩網膜厚は術前220±151.3μm,術後227±178.5μmで,同様に術前後で有意差は認めなかった(p=0.35)(図2).従来群とパターン群の視力の変化量と中心窩網膜厚の変化量を比較検討したが,どちらも視力変化(p=0.29),中心窩網膜厚の変化量(p=0.69)とも有意差は認めなかった(図3).III考按本報告は,PPDR症例に対してのPRPをMC-500Vixiを用いて,従来法とパターン法で行い,視力と中心窩網膜厚の変化を後ろ向きに比較検討したものである.PRP終了後1カ月の時点における比較ではあるが,2項目とも有意な差異は認めなかった.パターンスキャンレーザーの特徴は,従来法と異なり,1ショット当たりの基本設定が高出力かつ短照射時間で,複数のショットを一度にパターン照射することができるところである.1ショット当たりの照射エネルギーが少ないことで,患者への疼痛が軽減され,また網膜への組織障害も少ないとされる.合計で要する照射時間も短時間で済み,PRP完成に要する回数も少なく,総時間も短くなる3).PASCALを用いた過去の報告では,光凝固の効果も同等であるとされている6.8).組織障害については,ウサギ眼において,0.005秒から0.1秒の照射を行い,網膜の組織変化を4カ月間観察した実験(115)-400-500で,照射時間が短いほど網膜組織の障害が少ないことが示されている9).実際に臨床的にも,術前と術1カ月後のOCT画像を比較すると,従来法では網膜内層まで波及していた高輝度反射が,パターン法では網膜色素上皮周囲のみに限局していたとの報告もある5).また,黄斑浮腫などの網膜組織障害に起因する合併症が,パターン法において従来法よりも軽減されている可能性が示唆されている10).また,今回は全例PPDRの症例に対しての照射を検討したが,従来法で施行するか,パターン法を用いるかの選択は術者の主観的基準で選ばれた.パターン法は網膜内層への組織障害が少ないとされる反面,網膜内層の虚血に対する有効性は低いとも考えられる.PDR症例の鎮静化という観点では照射設定によっては不十分であったという報告もある11).短期では糖尿病網膜症の治療効果としてパターン法は従来法と遜色ないことが報告されている6.8)が,長期成績についてはいまだ不明で,今後特に増殖性変化の抑制効果などについては多数例での検討が必要である.どのような症例に対してパターン法を選択するのが適切であるか,また,より低侵襲でかつ治療効果の得られる照射条件はどのようなものであるかなど,さらなる検討が必要であると考える.従来法とパターン法の比較に関しては,PASCALを用いての報告が過去にいくつかなされているが,疼痛の軽減,照射時間の短縮,照射回数の減少などが共通した利点としてあげられている.本報告では疼痛に関しては検討しなかったが,実際PASCALを用いて従来法と比較した臨床試験では,あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131459痛みの自覚が有意に少なかったと報告されている12,13).これは,疼痛のおもな原因は光凝固による脈絡膜への熱拡散とされており,パターン法では障害が網膜色素上皮周囲に限局することと矛盾しない.また,PRP完成にかかる術回数は通常,従来法で平均4回,パターン法では平均2回と短期間で終了できるため,患者,術者ともに負担軽減になることは確かである.治療効果,合併症に長期予後の差異がないとすれば,疼痛や所要時間を考慮すると,パターン法のほうが有利かつ効率的であると考える.いずれにせよ,長期予後に関してはさらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)福田恒輝:マルチカラーパターンスキャンレーザー光凝固装置.眼科手術25:239-243,20122)野崎実穂:PASCAL.眼科手術21:459-462,20083)加藤聡:パターンスキャンレーザー.眼科54:63-67,20124)JainA,BlumenkranzMS,PaulusYetal:E.ectofpulsedurationonsizeandcharacteroflesioninretinalphotoco-agulation.ArchOphthalmol126:75-85,20085)植田次郎,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:網膜光凝固後の組織反応の光干渉断層計による評価─PASCALと従来レーザーとの比較.臨眼64:1111-1115,20106)須藤史子,志村雅彦,堀貞夫ほか:糖尿病網膜症における汎網膜光凝固術─従来法とパターン高出力短照射時間法との比較.臨眼65:693-698,20117)MuqitMM,MarcellinGR,StangaPEetal:Single-sessionvsmultiple-sessionpatternscanninglaserpanretinalpho-tocoagulationinproliferativediabeticretinopathy.ArchOphthalmol128:525-533,20108)MuqitMM,MarcellinoGR,StangaPEetal:PASCALpanretinalablationandregressionanalysisinproliferativediabeticretinopathy:ManchesterPascalStudyReport4.Eye25:1447-1456,20119)PaulusYM,JainA,MarmorMetal:Healingofretinalphotocoagulationlesions.InvestOphthalmolVisSci49;5540-5545,200810)MuqitMM,MarcellinoGR,StangaPEetal:Randomizedclinicaltrialtoevaluatethee.ectsofPASCALpanretinalphotocoagulationonmacularnerve.berlayer:Man-chesterPascalStudyReport3.Retina31:1699-1707,201111)ChappelowAV,TanK,KaiserPKetal:Panretinalpho-tocoagulationforproliferativediabeticretinopathy:Pat-ternscanlaserversusargonlaser.AmJOphthalmol153:137-142,201212)Al-HussainyS,DodsonPM,GibsonJM:Painresponseandfollow-upofpatientsundergoingpanretinallaserpho-tocoagulationwithreducedexposuretimes.Eye22:96-99,200813)MuqitMMK,MarcellinGR,StangaPEetal:PainresponsesofPASCAL20msmulti-spotand100mssin-gle-spotpanretinalphotocoagulation:ManchesterPascalStudyReport2.BrJOphthalmol94:1493-1498,2010***1460あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(116)