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糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術前後での網膜血管酸素飽和度の変化

2019年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(2):295.297,2019c糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術前後での網膜血管酸素飽和度の変化小山雄太*1中野裕貴*2田中茂登*1廣岡一行*2*1香川県立中央病院眼科*2香川大学医学部眼科学講座CChangesinRetinalVascularOxygenSaturationbeforeandafterPanretinalPhotocoagulationforDiabeticRetinopathyYutaKoyama1),YukiNakano2),ShigetoTanaka1)andKazuyukiHirooka2)1)DepartmentofOphthalmology,KagawaPrefecturalCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedecineC目的:糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術(PRP)前後での網膜血管酸素飽和度(SaOC2)変化を比較検討すること.対象および方法:糖尿病網膜症に対してCPRPを施行したC8例C14眼を対象とした.PRPはC2回に分けて施行し,PRP施行前,PRP1回目施行後,PRP完成C1カ月後にCOxymapT1を用いて眼底写真を撮影した.画像を解析し,網膜動静脈のCSaOC2を計測した.結果:PRP施行前の動静脈CSaOC2は,それぞれC101.9C±10.6%,59.9C±12.0%,動静脈CSaO2の差はC42.0C±9.9%.PRP1回目施行後の動静脈CSaOC2は,それぞれC104.8C±9.3%,65.5C±4.6%,動静脈CSaOC2の差はC39.3C±10.1%.PRP完成C1カ月後の動静脈CSaOC2は,それぞれC106.1C±8.7%,64.2C±6.2%,動静脈CSaOC2の差はC41.9±8.9%.結論:PRP前後で動脈CSaOC2は上昇し,静脈CSaOC2と動静脈CSaOC2の差は不変であった.CPurpose:Tocomparechangesinretinalvascularoxygensaturation(SaOC2)beforeandafterpanretinalphoto-coagulation(PRP)forCdiabeticCretinopathy.CSubjectsandMethods:PRPCwasCtreatedCinCtwoparts;fundusCphoto-graphsweretakenusingOxymapT1beforePRP,afterC.rstPRPandaftercompletionofPRP.SaO2Coftheretinalarteriesandveinsweremeasured.Results:SaO2CofarteriesandveinsbeforePRPwere101.9±10.6%CandC59.9±12.0%,respectively;theCdi.erenceCinCarteriovenousCSaO2CwasC42.0±9.9%.SaO2CofCarteriesCandCveinsCatC.rstCmonthCafterCcompletionCofCPRPCwereC106.1±8.7%CandC64.2±6.2%,respectively;theCdi.erenceCinCarteriovenousCSaO2Cwas41.9±8.9%.Conclusions:SaO2ofarteriesincreased;SaOC2Cofveinsanddi.erenceinarteriovenousSaO2CwereunchangedafterPRP,incomparisontopre-PRPvalues.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):295.297,C2019〕Keywords:糖尿病網膜症,汎網膜光凝固術,OxymapT1,酸素飽和度.diabeticretinopathy,panretinalphoto-coagulation,OxymapT1,oxygensaturation.Cはじめに糖尿病網膜症は,高血糖に伴うポリオール代謝異常による内皮障害から網膜血管障害を発症する疾患である.毛細血管が閉塞して虚血となり,さらに進行すると新生血管を形成して増殖糖尿病網膜症となる.網膜虚血により誘導される血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)などの増殖因子が病的血管新生に関与しており,それらの増殖因子産生を抑制する治療の一つとして汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)がある.PRPは網膜色素上皮を中心とする網膜外層を選択的に破壊することで網膜の酸素需要を減らし,網膜虚血を予防することを目的としている.この根拠を説明しうる報告として,健常人と糖尿病網膜症でCPRP施行済みの患者の網膜動静脈酸素飽和度(SaOC2)を比較すると,網膜静脈のCSaOC2が後者で有意に高いと報告されている1).今回筆者らは,眼底カメラ型の酸素飽和度計(OxymapT1,Oxymap社,アイスランド)を用いて,同一眼のCPRP前からCPRP終了後C1カ月までの網膜動静脈CSaOC2の変化を計測し,比較検討したので報告する.〔別刷請求先〕小山雄太:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸C1750-1香川大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YutaKoyama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine,1750-1Ikenobe,Miki-cho,Kita-gun,Kagawa761-0793,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(165)C295図1OxymapT1TRC-50DX(トプコン社製)に装着する(赤矢印).I対象および方法2015年C1月.2016年C1月に香川大学医学部附属病院で前増殖糖尿病網膜症および増殖糖尿病網膜症に対してCPRPを施行した8例14眼(男性5例7眼,女性4例7眼,平均年齢C63.0C±5.6歳)を対象とした.PRPをC1回目に下方半周,2回目に上方半周とC2回に分けて施行し,PRP施行前,PRP1回目終了後,PRP完成後C1カ月の合計C3回の時期にCOxymapT1を用いて眼底写真を撮影し網膜主幹動静脈のCSaO2を測定した.COxymapT1は眼底カメラ型の網膜酸素飽和度計である(図1).眼底カメラのカメラを装着する位置に装着して眼底写真を撮影し,その写真を専用の解析ソフト(OxymapAnalyzer)を用いて解析することにより,視神経乳頭周囲での網膜主幹動静脈のCSaOC2を計測することができる.SaOC2は酸素に結合可能なヘモグロビンのうち,酸化型ヘモグロビンの割合を百分率で示したものであり,その測定原理は酸化型ヘモグロビンと還元型ヘモグロビンとの吸光度の差を利用している.OxymapT1はC570CnmとC600CnmのC2種類の単色光からなるモノクロ写真を用いてCSaOC2を測定している2).なお,同じ測定原理を用いる経皮パルスオキシメータは赤外光と赤色光を用いている.解析中の写真を図2に示す.自動で計測可能な血管に色がついて表示され,SaOC2が高い血管ほど暖色系で表示され,低い血管ほど寒色系で表示される.視神経乳頭径のC1.5倍と3倍のサークルを描き,そのC2つのサークルの間の任意の血図2OxymapAnalyzerでの解析画像管を選択すると該当部分の平均CSaOC2と平均血管径を得ることができる.複数の血管を同時に選択するとCSaOC2の平均値を得ることもできる.今回は同一症例同一眼のCPRP前後の3枚の写真すべてに共通して計測できた血管のうち,動静脈それぞれからできるだけ多くの血管を選択し,同じ血管の平均CSaOC2を比較した.動静脈の交差部は,値が不正確になるため測定範囲から除外した.硝子体出血がある症例やトリアムシノロンCTenon.下注射,抗CVEGF阻害薬硝子体注射,硝子体手術,緑内障手術の既往がある症例,眼底写真のCImagequalityの数値がC5.0以下の症例は測定値に影響を及ぼす可能性があるので除外した.統計学的検討は対応のあるCt検定を用いて,p<0.05を有意差ありとした.CII結果合計でC8例C14眼,動脈C58カ所,静脈C69カ所のCSaOC2を測定した.PRP施行前の動脈および静脈の平均CSaOC2はC101.9±10.6%とC59.9C±12.0%であり,動静脈CSaOC2の差はC42.0±9.9%であった.PRP1回目終了後の動脈および静脈の平均CSaOC2はC104.8C±9.3%とC65.5C±4.6%であり,動静脈CSaO2の差はC39.3C±10.1%であった.PRP終了後C1カ月の動脈および静脈の平均CSaOC2はC106.1C±8.7%,64.2C±6.2%であり,動静脈CSaOC2の差はC41.9C±8.9%であった.動脈,静脈,動静脈CSaOC2の差の変化を図3に示す.PRP施行前の動脈CSaO2に比べCPRP終了後C1カ月の動脈CSaOC2は有意に増加を認めた(p=0.005,対応のあるCt検定).CIII考按今回の結果よりCPRP前後で動脈CSaOC2は上昇したが,静脈CSaOC2と動静脈CSaOC2の差は不変であった.光凝固によって網膜色素上皮が破壊され,それに隣接している視細胞が障害されれば網膜の酸素消費量が減って網膜静脈CSaOC2が上昇296あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019(166)すると考えたが,異なる結果となった.今回の筆者らの結果からもわかるようにCOxymapT1で測定された動脈CSaOC2の測定値がC100%を超えることがあるが,この理由は測定値が網膜血管径や網膜色素の量に影響を受けるからであり,そのため計測値は相対的なものとして評価する必要がある3).既報では,白人の健常人の平均動脈CSaO2がC93.1C±2.3%4)やC92.2C±3.7%5)と報告されているのに対して,日本人ではC97.1C±6.9%3)と報告されている.これは人種による網膜色素量の違いが測定結果に影響を及ぼしているものと考えられる.また,光凝固後に動脈CSaOC2が上昇した原因として,今回CSaOC2を計測したサークル内に光凝固斑が含まれている場合,その部分の網膜色素上皮は障害されているため背景の網膜色素量がCPRP施行前と変化しており,そのことが測定結果に影響した可能性がある.今回はCPRP後C1カ月までしか追跡できていないため凝固斑がまだ完全に変性していない症例も含まれている可能性がある.炎症の活動性があれば酸素消費はむしろ亢進していると推測され,網膜静脈CSaOC2は低下する可能性もある.そのため,光凝固が及ぼす網膜CSaOC2への影響を明らかにするには,3カ月後やC6カ月後まで期間を延長してさらなる検討が必要であると考えられるが,今回の症例では追跡できていない.今回CPRPを施行した患者は前増殖期以降の糖尿病網膜症であり,網膜には出血や白斑が散在している.網膜出血や白斑が血管に及んでいるとその部分は計測できない症例もあるため,計測結果に影響している可能性がある.今回の光凝固にはパターンスキャンレーザーのCPASCAL(TOPCON社製)を使用している.従来のマルチカラーレーザーでの光凝固に比べて高出力短時間照射で低侵襲なため,CSaO2への影響も少ない可能性が高い.本研究の問題点として,症例数がC8例C14眼と少ないことがあげられる.今後は症例数を増やしてさらなる検討が必要であると考える.COxymapT1の計測値は個体差が大きく,異なる個体間での比較には不向きだが同一個体では高い再現性を示す3).PRP前後の網膜動静脈CSaOC2の変化を正確に評価する手法として,今回のように同一個体の治療前後を比較することに問題はないと思われる.今後COxymapT1を用いて計測を継続していくことにより網膜光凝固のCSaOC2への影響を明らかにできる可能性がある.文献1)HardarsonSH,KarlssonRA,EysteinssonTetal:Retinal酸素飽和度の動静脈差(%)静脈酸素飽和度(%)動脈酸素飽和度(%)130*12512011511010595*:p<0.059085PRP前PRPPRP1/2終了後完成後1カ月75706560555045PRP前PRPPRP1/2終了後完成後1カ月55504540353025PRP前PRPPRP1/2終了後完成後1カ月図3汎網膜光凝固術前後の動静脈の酸素飽和度と,酸素飽和度動静脈差の変化oxygenationCafterClaserCphotocoagulationCinCpationtsCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CInvestCOphthalmolCVisCSci49:5366,C20082)HardarsonSH:RetinalCoximetry.CActaCOphthalmolC91:C489-490,C20133)NakanoY,ShimazakiT,KobayashiNetal:Retinaloxim-etryCinCaChealthyCJapaneseCpopulation.CPLoSCOneC11:Ce0159650,C20164)PalssonCO,CGeirsdottirCA,CHardarsonCSHCetal:RetinalCoximetryimagesmustbestandardized:amethodologicalanalysis.InvestOphthalmilVisSci53:1729-1733,C20125)GeirsdottirA,PalssonO,HardarsonSHetal:Retinalves-selCoxygenCsaturationCinChealthyCindividuals.CInvestCOph-thalmolVisSci53:5433-5442,C2012***(167)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C297

白内障手術前後の網膜血管酸素飽和度および血管径の測定

2015年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科32(4):587.590,2015c白内障手術前後の網膜血管酸素飽和度および血管径の測定中川拓也コンソルボ上田朋子林篤志富山大学附属病院眼科MeasurementofRetinal-VesselOxygenSaturationandVesselWidthbeforeandafterCataractSurgeryTakuyaNakagawa,TomokoUeda-ConsolvoandAtsushiHayashiDepartmentofOphthalmology,ToyamaUniversityHospital目的:白内障手術前後で網膜血管の酸素飽和度と血管径の測定を行い,白内障の影響を検討する.方法:健常人34名34眼を対象とし,OxymapT1TMを用いて網膜血管の酸素飽和度と血管径の健常人のデータを得た.また,白内障手術を施行した32名32眼を対象とし,術前後で同様に測定した.眼底を4象限に分け,白内障により網膜血管境界が不明瞭となった象限を除外した場合の白内障手術前後での測定結果も検討した.結果:健常眼では網膜血管の酸素飽和度および血管径ともに再現性は良好であった.白内障手術前後の比較では,網膜血管の酸素飽和度は術後に有意に高値であったが,血管径は有意差がなかった.白内障により網膜血管境界が不明瞭になった象限を除外した場合は,血管酸素飽和度および血管径ともに術前後で有意差がなかった.結論:OxymapT1TMは良好な結果の再現性を有する.白内障手術前後で網膜血管酸素飽和度と血管径は変化がなかった.Objective:Toexaminetheeffectsofcataractonthemeasurementsofretinal-vesseloxygensaturationandvesselwidth.Methods:Afunduscamera-basedoximeter(OxymapT1TM;Oxymapehf.,Reykjavik,Iceland)wasusedtomeasureretinal-vesseloxygensaturationandvesselwidthin34eyesof34healthyindividuals,andin32eyesof32patientsbeforeandaftercataractsurgery.Thefundusphotographofeachsubjectwasdividedintofourquadrants.Afterthequadrantswithobscuredretinalvesselsduetocataractwereexcluded,thepre-andpostoperativevalueswerecompared.Results:Retinal-vesseloxygensaturationandvesselwidthshowedgoodreproducibilityinthehealthyindividuals.Inthecataractpatients,thepostoperativeretinal-vesseloxygensaturationvaluesweresignificantlyhigherthanthepreoperativevalues,yettherewasnosignificantdifferenceinvesselwidth.Afterthequadrantswithobscuredretinalvesselswereexcluded,nosignificantdifferencebetweenthepre-andpostoperativevalueswasfound.Conclusions:TheresultsobtainedbyuseoftheOxymapT1TMshowedgoodreproducibility,andshowednosignificantdifferenceinretinal-vesseloxygensaturationorvesselwidthpreandpostcataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):587.590,2015〕Keywords:OxymapT1TM,酸素飽和度,網膜血管,網膜血管径,白内障.OxymapT1TM,oxygensaturation,retinalvessel,vesseldiameter,cataract.はじめに眼底網膜血管は高血圧や動脈硬化などの全身状態を反映し,それらの指標として臨床で使用されている1).近年,網膜血管の酸素飽和度を眼底写真より算出する方法が考案され,臨床研究が行われている2.5).Hardarsonらは,非侵襲的に網膜血管の酸素飽和度を測定するためにオキシヘモグロビンの吸光が高い波長である600nmとヘモグロビンの吸光が高い波長である570nmの2つの異なる波長で同時に眼底写真を撮像することにより,ヘモグロビンの酸素飽和度を算出し,網膜血管上にカラーマップで画像化し可視化できるOxymapT1TM(Oxymapehf.,Reykjavik,Iceland)を開発し,臨床使用している2.5).わが国では,OxymapT1TMは未承認の機器である.Geirsdottirらは,健常人のOxymapT1TMを用いた網膜〔別刷請求先〕中川拓也:〒930-0194富山市杉谷2630富山大学附属病院眼科Reprintrequests:TakuyaNakagawa,2630Sugitani,Toyama,Toyama930-0194,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(123)587 血管の酸素飽和度および血管径を報告したが3),対象被験者はすべて白人健常者であった.今回,筆者らは,OxymapT1TMを用いて日本人の健常者を対象とし,OxymapT1TMによる網膜血管の酸素飽和度および血管径を測定し,結果の再現性を検討した.また,中間透光体である水晶体の混濁によりOxymapT1TMの測定結果が影響を受ける可能性が考えられる.筆者らはOxymapT1TMによる網膜血管の酸素飽和度と血管径の測定に対する白内障の影響を検討するため,白内障症例の術前,術後で検討した.I対象日本人におけるOxymapT1TMの結果の再現性を検討するため,屈折異常以外に眼疾患のない15.70歳(平均年齢46.4±15.0歳)の男性21名,女性13名,計34名34眼を対象とした.また,白内障のOxymapT1TMの結果に与える影響を検討するため,富山大学附属病院において白内障手術を施行した白内障以外に眼底疾患のない59.82歳(平均年齢75.7±6.4歳)の男性15名,女性17名,計32名32眼を対象とした.すべての対象者に対してインフォームド・コンセントを行い,文書にて同意を得て研究を行った.II方法1.眼底写真撮像OxymapT1TMは,眼底カメラ(TRC-50-DX;トプコン社,東京)の本体に特殊なフィルターのあるカメラユニットを装着したものである.すべての症例で片眼のみを測定した.撮像前の散瞳にはトロピカミドとフェニレフリン塩酸塩の点眼液を使用し,散瞳を確認後に撮像した.撮像は暗室で図1OxymapT1で撮像した眼底写真の網膜血管の解析範囲A:1乳頭径.B:Aを基準とし,Aの直径1.5倍の円.C:Aを基準とし,Aの直径3倍の円.BとCの間にある白色の血管を解析した.行い,画角は50°,フラッシュ光量は50Wsに設定した.眼底写真は視神経乳頭が中央に位置するように撮像した5).再現性の検討には,健常眼を異なる日で2回撮像した.また,白内障手術症例は手術前と術後1カ月で眼底を撮像した.2.解析撮像した眼底写真を付属のソフトウェア(OxymapAnalyzer:version2.4.0)で解析した.血管酸素飽和度と血管径の解析には,既報に従い2.5),各眼底写真における視神経乳頭を円で囲み,その円を1乳頭径として,直径1.5乳頭径と3乳頭径の円を書き,1.5乳頭径と3乳頭径の円の間の6pixel以上の幅をもつ血管を選択し,解析した(図1).血管分岐部あるいは血管交叉部が選択範囲内にある場合は,その前後で15pixelの長さを除外した.選択した血管を上耳側,下耳側,上鼻側,下鼻側の4象限に分け,動脈と静脈のそれぞれで酸素飽和度および血管径を解析した.統計学的解析は,pairedt-testで行い,p<0.05を有意とした.III結果1.健常眼における再現性健常眼34眼での網膜4象限の網膜動脈の平均酸素飽和度は1回目99.1%±6.5%(平均±標準偏差),2回目98.1%±5.2%で有意な差はなかった(p=0.1,n=34).網膜動脈の血管径の平均値は1回目110.4μm±11.1μm,2回目112.8μm±12.8μmで有意な差はなかった(p=0.24,n=34).網膜静脈の酸素飽和度の平均値は1回目54.3%±6.0%,2回目53.5%±6.3%で有意差はなかった(p=0.21,n=34).網膜静脈の血管径の平均値は1回目146.0μm±12.8μm,2回目149.6μm±14.9μmで有意差はなかった(p=0.06,n=34).また,4象限それぞれの網膜血管の酸素飽和度および血管径の平均値を各眼で算出した.健常眼の各象限別の網膜動脈および網膜静脈の酸素飽和度と網膜動脈および網膜静脈の血管径は,各象限ですべて有意差はなかった.2.白内障手術前後における変化白内障手術症例32眼の網膜4象限の網膜動脈の酸素飽和度は,術前95.8%±9.5%,術後100.2%±6.5%(p<0.001,n=32)で有意差がみられた.網膜動脈血管径は術前110.2μm±15.8μm,術後112.4μm±13.1μm(p=0.19,n=32)で有意差はなかった.また,網膜静脈の酸素飽和度は,術前48.1%±9.0%,術後59.1%±6.5%(p<0.001,n=32)で有意差がみられた.網膜静脈血管径では,術前157.0μm±16.1μm,術後で157.4μm±16.3μm(p=0.88,n=32)で有意差はなかった(表1A).白内障手術全症例の各象限別の網膜動脈の酸素飽和度の術前後の比較では,4象限すべてで有意差がみられた.網膜静脈の酸素飽和度も同様にいずれの象限でも術前後で有意差がみられた(表2A).588あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(124) 表1白内障眼(A)と境界不明瞭な血管を除いた白内障眼(B)の網膜4象限を含めた平均酸素飽和度と血管径の比較酸素飽和度〔%〕血管径〔μm〕術前術後p術前術後p〔A〕網膜動脈(n=34)95.8±9.5100.2±6.5<0.001110.2±15.8112.4±13.10.19網膜血管(n=32)48.1±9.059.1±6.5<0.001157.0±16.1157.4±16.30.88〔B〕網膜動脈(n=23)98.4±8.999.7±7.50.54111.1±15.4111.6±12.30.76網膜静脈(n=9)55.8±6.757.2±6.20.21152.4±21.0150.2±19.10.54表2白内障症例(A)と境界不明瞭な血管を除いた白内障手術症例(B)の各象限における網膜血管酸素飽和度の術前後の比較網膜動脈網膜静脈酸素飽和度(%)術前術後p術前術後p〔A〕上耳側92.9±13.496.9±8.90.021(n=32)50.9±10.560.2±7.1<0.001(n=32)下耳側95.0±10.099.4±7.00.003(n=32)49.1±12.254.6±9.1<0.001(n=32)上鼻側101.4±10.9104.3±9.00.001(n=32)51.7±11.062.7±7.9<0.001(n=32)下鼻側93.8±14.5100.2±9.60.002(n=32)47.7±12.059.6±8.9<0.001(n=32)〔B〕上耳側95.3±12.195.9±8.90.59(n=24)55.3±5.357.5±3.80.07(n=10)下耳側98.0±10.298.5±7.50.66(n=22)51.1±4.452.1±5.50.47(n=5)上鼻側103.0±10.2103.6±9.00.41(n=27)58.5±7.958.5±7.40.98(n=11)下鼻側96.3±12.398.7±9.20.06(n=16)58.4±6.258.4±5.80.12(n=10)白内障手術症例の各象限別の網膜動脈の血管径の術前後の比較では,血管径はすべての象限で有意差はなかった.網膜静脈の血管径の術前後の比較も同様に,すべての象限で有意差はなかった.次に,白内障は4象限で均一に混濁しているわけではないため,570nmでの眼底写真を撮像し,その写真上で白内障により網膜血管境界が不明瞭となった象限を除外して網膜血管の解析を行い,術前後の比較を行った.網膜動脈の酸素飽和度は術前98.4%±8.9%,術後99.7%±7.5%(p=0.54,n=23)で有意差はなく,網膜動脈血管径も術前111.1μm±15.4μm,術後111.6μm±12.3μm(p=0.76,n=23)で有意差はなかった(表1B).また,網膜静脈の酸素飽和度は,術前56.7%±4.5%,術後58.9%±4.7%(p=0.21,n=9)で有意差はなく,網膜静脈血管径でも術前152.4μm±21.0μm,術後で150.2μm±19.1μm(p=0.54,n=9)で有意差はなかった(表1B).白内障手術前後でも境界が不明瞭な血管の象限を除いた場合の各象限別の網膜動脈および静脈の血管酸素飽和度,血管径は,術前後ですべての象限で有意差はなかった(表2B).IV考按Palssonらの報告によると,健常人26人の同一血管での反復測定による網膜血管酸素飽和度の標準偏差の差は動脈で1.0%,静脈で1.4%であり,繰り返しの測定でも高い再現性があることがわかっている6).また血管径については,健常(125)人12人に対しての反復測定の変動係数が第1分岐の動脈で3.5%,第2分岐の動脈で5.4%,第1分岐の静脈で2.8%,第2分岐の静脈で4.0%であり,高い再現性が確認されている7).今回,健常眼で異なる日に2回撮像した結果では,網膜動静脈の平均酸素飽和度の差が1.4%(p=0.06),静脈で0.8%(p=0.10)であった.血管径においては,2回測定の平均値の差が動脈で2.5μm(p=0.19),静脈で3.6μm(p=0.06)であり,OxymapT1TMは再現性が高いことが確認できた.また,健常眼の上下耳鼻側の4象限で各象限別に解析した結果も異なる日で撮像してもすべての象限において有意な差はなく,象限によって網膜血管酸素飽和度の解析に影響を受けることはないことが確認された.白内障症例においては,網膜動静脈の酸素飽和度の平均値は術前後で動脈で4.3%(p<0.001),静脈で11.0%(p<0.001)と有意差が認められ,白内障術後に網膜血管酸素飽和度の測定値が高くなることがわかった.網膜血管径においては,動脈で2.2μm(p=0.11),静脈で0.4μm(p=0.84)と有意な差はなく,白内障は網膜血管径の解析には影響が少ないことがわかった.人水晶体の可視光の透過曲線では,白内障がない場合は80%以上が透過することが知られているが8),加齢とともに白内障が進行してくると400nmから600nmにかけての波長は,それよりも長波長の光に比べ透過率がより低下することが知られている8).今回使用したOxymapT1TM眼底カメあたらしい眼科Vol.32,No.4,2015589 ラは570nmと600nmの波長を用いているが,白内障により570nmと600nmの光の透過が不均一に低くなったため,眼底写真上の差分から計算される血管酸素飽和度で白内障の影響が血管径よりも大きく出た可能性が考えられる.570nmで撮像した眼底写真上で白内障により血管境界が不明瞭な象限を除外して網膜血管酸素飽和度を測定すると白内障手術前後では有意差がなかったことから,白内障術後1カ月後では術前と比べ網膜血管酸素飽和度と血管径は変化しないと考えられる.今後の研究においてOxymapT1TMで解析する際,白内障により網膜血管が不明瞭な場合は網膜血管酸素飽和度が変化することを考慮に入れる必要がある.OxymapT1TMは,糖尿病網膜症や網膜血管閉塞症などの疾患において網膜血管酸素飽和度および血管径の変化を経時的に追うことができ,治療の評価や予後予測などに有用である可能性が考えられる.文献1)所敬,吉田晃敏,谷原秀信:網膜・硝子体疾患.現代の眼科学改訂第11版,p150-209,金原出版,20122)JorgensenCM,HardarsonSH,BekT:Theoxygensaturationinretinalvesselsfromdiabeticpatientsdependsontheseverityandtypeofvision-threateningretinopathy.ActaOphthalmol92:34-39,20143)VandewalleE,PintoLA,OlafsdottirOBetal:Oximetryinglaucoma:correlationofmetabolicchangewithstructuralandfunctionaldamage.ActaOphthalmol92:105110,20144)HardarsonSH,HarrisA,KarlssonRAetal:Automaticretinaloximetry.InvestOphthalmolVisSci47:50115016,20065)GeirsdottirA,PalssonO,HardarsonSHetal:Retinalvesseloxygensaturationinhealthyindividuals.InvestOphthalmolVisSci53:5433-5442,20126)PalssonO,GeisdottirA,HardarsonSHetal:Retinaloximetryimagesmustbestandardized:amethodologicalanalysis.InvestOphthalmolVisSci53:1729-1733,20127)BlondalR,SturludottirMK,HardarsonSHetal:Reliabilityofvesseldiametermeasurementswitharetinaloximeter.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1311-1317,20118)BoultonME,RozanowskaM,WrideM:Biophysicsandagechangesofthecrystallinelens,Albert&Jakobiec’sPrinciplesandPracticeofOphthalmology,Vol2,Canada:SaundersElsevier,p1365-1374,2008***590あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(126)