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治療的深層層状角膜移植が奏効したヘルペス・真菌混合角膜感染症の1例

2019年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科36(8):1087.1091,2019c治療的深層層状角膜移植が奏効したヘルペス・真菌混合角膜感染症の1例伊崎亮介川村朋子下川亜希佐伯有祐内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CACaseofSuccessfulTherapeuticDeepAnteriorLamellarKeratoplastyonMixedHerpeticandFungalCornealInfectionRyosukeIzaki,TomokoTsukahara-Kawamura,AkiShimogawa,YusukeSaekiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicineC目的:ヘルペス性角膜炎として治療中に真菌重複感染が判明した症例に対し,治療的角膜移植が奏効した症例を経験したので報告する.症例:62歳,男性.2014年C3月に当科紹介受診し,前房水のCpolymerasechainreaction(PCR)法によって,右眼単純ヘルペスウイルス(HSV)角膜内皮炎と診断され,改善し近医で経過観察されていたが,2014年12月に右眼視力低下のため,抗ヘルペスウイルス治療を再開されたが,改善しないためにC2015年C1月に再診し,入院治療となった.真菌性角膜炎に対し,フルコナゾール点滴およびピマリシン眼軟膏と角膜掻爬によるC3者併用療法を開始したが,病巣は拡大した.角膜擦過物の包括的CPCR検査の結果,HSVおよび真菌C28SのCDNAが陽性であったため,抗ヘルペス治療に加えて,ボリコナゾール全身局所治療と1%ピマリシン眼軟膏を併用し,臨床所見は改善がみられた.治療期間などを考慮して,治療的角膜移植として深層層状角膜移植をC2015年C2月に施行した.術後速やかに右眼角膜所見は改善し,現在まで再発なく経過は良好で右眼視力=(0.8)である.結論:治療に抵抗する重症角膜感染症の補助診断に包括的CPCRが有効であった.HSVと真菌の混合角膜感染症例の治療に治療的深層層状角膜移植が有効であった.CPurpose:Wereportthecaseofapatienttreatedasherpetickeratitiswithcon.rmedmixedfungalinfectionduringCtheCclinicalCcourse,CwhoCwasCtreatedCwithCtherapeuticCkeratoplasty.CCase:AC62-yearColdCmaleCwasCdiag-nosedashavingkeratouveitisassociatedwithherpessimplexvirus(HSV)C,ascon.rmedbypolymerasechainreac-tion(PCR)fromanteriorchamberspecimeninMarch2014;hewasfollowedbyalocalophthalmologist.InDecem-ber2014,henotedhazyvisioninhisrighteyeandwastreatedwithantiherpeticdrugs,butwasagainreferredtoourChospitalCinCJanuaryC2015CdueCtoCclinicalCregressionCinChisCrightCeye.CInCspiteCofCanti-fungalClocalCandCsystemicCtreatment,withrepeatedcornealscrapings,thecorneallesionenlarged.HSV-DNAandfungal28SDNAwereposi-tiveCinCcomprehensiveCPCRCofCcornealCscraping.CThen,CafterCcombinationCtherapyCwithCantiviralCandCantifungalCagents,CsystemicCandClocalCvoriconazoleCwithCpimaricin1%CeyeCointment,CcornealC.ndingsCshowedCgradualCresolu-tion.Consideringthelongstandingclinicalcourse,therapeuticdeepanteriorlamellarkeratoplasty(DALK)wascar-riedCoutCinCFebruaryC2015.CPromptCcureCinCtheCrightCeyeCwasCobtainedCaftersurgery;thereCwasCnoCrecurrence,CandCbest-correctedCvisualCacuityCofC0.8CwasCmaintainedCinCtheCrightCeye.CConclusions:ComprehensiveCPCRCwasCusefulCforCdiagnosingCrefractoryCinfectiousCcornealCkeratitis.CTherapeuticCDALKCwasCe.ectiveConCmixedCherpeticCandfungalcornealinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(8):1087.1091,C2019〕Keywords:真菌性角膜炎,ヘルペス性角膜炎,深層層状角膜移植,治療的角膜移植.fungalkeratitis,herpetickeratitis,deepanteriorlamellarkeratoplasty,therapeutickeratoplasty.C〔別刷請求先〕内尾英一:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiUchio,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jonan,Fukuoka814-0180,JAPANCはじめに真菌性角膜炎は重症な角膜感染症であり,治療薬の選択が限られていることから重症化し,視力予後が不良なことも少なくない.酵母型真菌によるものと糸状菌型真菌によるものとでは臨床像も異なり,とくに臨床早期には細菌性角膜炎やヘルペス性角膜炎などとの鑑別が困難で治療が遅れる症例もある.これまでヘルペス性角膜炎と真菌性角膜炎を合併した報告は少ない1.4).今回筆者らはヘルペス性角膜炎として治療中に真菌性角膜炎の重複感染が判明した感染症例に,治療的深層層状角膜移植(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)が奏効したまれなC1例を経験したので報告する.CI症例患者:62歳,男性.高血圧の既往歴があり,内服治療中であった.現病歴:2014年C3月に近医で右眼高眼圧と右眼角膜浮腫を指摘され,当科を紹介受診した.採取した前房水をCpoly-meraseCchainreaction(PCR)法により,単純ヘルペスウイルス(herpesCsimplexvirus:HSV)が陽性であったため,HSV角膜内皮炎と診断し,バラシクロビルとプレドニゾロン内服およびベタメタゾンC0.1%点眼などの治療によって改善した.2014年C6月には右眼視力=0.8(1.2)となったため,近医で経過観察となったが,それ以降もベタメタゾンC0.1%点眼は継続されていた.2014年C12月初旬から右眼視力低下と充血を自覚し,近医を受診し,ヘルペス角膜内皮炎の再発と診断され,バラシクロビル内服を投与されいったん改善したが,2週間後に悪化がみられた.アシクロビル眼軟膏を追加投与されたが,改善しないために,2015年C1月C2日に当科を再度受診した.再診時眼所見は以下のとおりである.右眼視力=0.2(0.8C×.1.25D(cyl.1.5DAx45°),左眼視力=0.2(1.2C×.2.75D(cyl.0.5DAx175°),右眼眼圧=15mmHg,左眼眼圧=13CmmHg.左眼の前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった.右眼には,結膜充血,毛様充血が中等度みられた.角膜は中央から耳側に角膜潰瘍およびCDes-cemet膜皺襞,角膜後面沈着物が軽度あり,さらに類円形の上皮下混濁がみられた(図1).前房は正常深度で炎症細胞C2+であった.虹彩はC4時部に後癒着があり,水晶体には核性混濁がみられた.眼底には異常はなかった.外来で採取した角膜擦過物の細菌培養から表皮ブドウ球菌が検出されたため,抗菌薬の局所全身治療を開始した.このとき,真菌の培養検査も行ったが陰性であった.HSVイムノクロマト法検査(チェックメイトヘルペスアイCR)も陰性であった.しかしその後も改善がみられず,1月C22日には角膜所見から真菌性角膜炎が疑われたため入院となった.入院後,フルコナゾール点滴およびピマリシン眼軟膏と角膜掻爬による三者併用療法を行ったが,角膜病巣の拡大を認めた(図2).そこで,いったん真菌性角膜炎に対するフルコナゾール点滴およびピマリシン眼軟膏と角膜掻爬による三者併用療法を中止し,抗菌薬治療に抗ヘルペス薬治療としてファムシクロビル内服,アシクロビル眼軟膏,続いてビダラビン軟膏を行った.しかし角膜浸潤巣が拡大し,前房蓄膿も生じてきたため,抗真菌薬治療を再開した.1月C29日に角膜掻把を行い,角膜擦過物に対して原因微生物の包括的CPCR検査4)を行った.その結果から,HSV-DNA:2.04C×104copies/ml,続いて真菌C28Sr(ribosomalDNA):1.67C×102Ccopies/mlが検出され,これまでの臨床経過から真菌性角膜炎の重複感染があると診断した.ボリコナゾール点滴およびボリコナゾールC1%点眼薬をピマリシン眼軟膏に追加して抗真菌薬治療を再開した後,毛様充血が改善し前房蓄膿も消失したが,角膜浸潤,免疫輪は増悪し,右眼視力は手動弁に低下した(図3).これまですでに再発後C50日以上の薬物治療経過もあることを考慮し,眼球深部への真菌の波及を防ぐ目的などから,治療的角膜移植としてCDALKをC2月C24日に行った.角膜実質深部まで空気注入を繰り返しながら,膿瘍病変を除去し,厚みを揃えたC8Cmm径の角膜を移植した.手術後速やかに右眼角膜所見は改善し,現在まで再発なく経過は良好で右眼視力=(0.8C×HCL)である(図4).なお切除角膜切片の細菌培養検査は陰性で,病理標本からも真菌は検出されなかった.これまでの本症例の治療経過を図5に示す.CII考按ヘルペス角膜炎に真菌性角膜炎を合併した症例は少なく,わが国では現在までC4例報告されているのみである1.3).塩田らはその臨床的特徴について地図状潰瘍,角膜中央部が不透明で凹凸不整である,および潰瘍周辺部がジグザグで強い浸潤を伴う特徴があると報告している1).しかしその臨床所見はヘルペス角膜炎と真菌性角膜炎のいずれかにみられるものであり,臨床像による診断は容易ではない.海外でも同様の症例は少なく,筆者らの渉猟した限りではヘルペス角膜炎の既往があり,治療中にCPaecilomyceslilacinusによる真菌性角膜炎となった症例の報告がある4).活動性と考えられるヘルペス角膜炎とは必ずしもいえないので,同様の重複感染とはいえないかもしれないが,この症例は消炎のために複数回の全層角膜移植を必要としたと報告されている4).ヘルペス角膜炎と真菌性角膜炎の重複感染の確定診断を行うためには,病巣である角膜擦過物からのウイルス分離と真菌の直接顕鏡あるいは分離培養検査が必要であるが,臨床の現場では最近はCPCR法が広く行われており,多種類の病原微生物が推定される状況では包括的CPCR検査がしばしば行われている5).今回の症例では,迅速診断法のイムノクロマト法ではHSVは陰性であったが,角膜擦過物からCHSV-DNAが陽性であり,DNAコピー数も多かったことからCHSVによるヘ図1当科初診時右眼角膜所見(2015年1月2日)中央耳側に角膜潰瘍があり,Descemet膜皺襞,角膜後面沈着物および類円形角膜上皮下混濁がみられた.図32015年2月23日の右眼角膜所見抗真菌薬と抗ヘルペス薬治療併用後,毛様充血の改善などがみられたが,視力は手動弁となった.ルペス角膜炎と診断した.一方,包括的CPCR検査における真菌C28SrDNAはC1.67C×102copies/mlと少量であり,角膜擦過物は眼外検体であることからコンタミネーションの可能性も否定できなかったが,抗真菌薬を再開後に今回は明らかに臨床所見が改善したことなどから,真菌性角膜炎の合併もあると診断した.この症例の経過はこれまで述べたように複雑で,最初の抗真菌薬を含む三者併用療法に反応しなかったにもかかわらず,包括的CPCR検査判明後のC2回目の抗真菌薬治療に反応した理由としては,点滴薬剤がフルコナゾールからボリコナゾールに変更されたこと,また内服薬ではあるがファムシクロビルも投与されており,第一回目の三者併用療法の際とは異なり,抗ウイルス薬治療も同時に行われてい図22015年1月26日の右眼角膜所見抗真菌薬治療にもかかわらず,角膜潰瘍の拡大がみられた.図4最終受診時の右眼角膜所見その後白内障手術も行われ,右眼視力は(0.8)である.たことの効果のC2点が考えられた.結局この症例からは真菌の同定はできなかったが,ボリコナゾールとフルコナゾールへの治療反応の相違などから6,7)は,酵母型のCCandidaよりも糸状菌型のCFusariumなどが示唆される6).薬物治療に抵抗性の重症型角膜感染症に対する外科的治療の方法や適応については,まだ広く認められたものはない.ただし,とくに重症である真菌性角膜炎8,9)やアカントアメーバ角膜炎10,11)に関しては,治療的角膜移植の成績についてこれまでもいくつかの報告がある.いずれも,DALKの治療成績9,11)が全層角膜移植(penetratingCkeratoplasty:PK)8,10)よりも優れており,アカントアメーバ角膜炎では混濁治癒後の光学的移植であるCPKが治療的なCPKよりも治療成績が優真菌28S-PCR陽性HSV-PCR陽性視力入院治療的DALK0.80.60.40.21/21/121/222/22/122/24日付LVFX:レボフロキサシンMOFX:モフロキサシンCMX:セフメノキシムGM:ゲンタマイシンCEPM:セフェピムCZOP:セフォゾプランMEPM:メロペネムVACV:バラシクロビルFCV:ファムシクロビルAra-C:ビダラビンVRCZ:ボリコナゾールFLCZ:フルコナゾールPMR:ピマリシン図5本症例の入院治療経過上側に局所治療薬物,下側に全身治療薬物を示す.HSV:単純ヘルペスウイルス,PCR:polymerasechainreaction,DALK:深層層状角膜移植をそれぞれ示す.れていると報告されている12).真菌性角膜炎は一般にアカントアメーバ角膜炎よりも重症であり,XieらはCFusariumが60%を占める多数例の真菌性角膜炎の検討で,治療的なDALKは治療有効例がC93%で,術後C2週以内の再発率がC7%と低く,ほとんどの症例で視力C0.3以上が得られたと報告しており9),三者併用療法の一つである病巣掻爬を可能な限り広く行うCDALKは,PKに多くみられる拒絶反応などの合併症もほとんどなく,有用な治療法であったと考える.しかし術後にステロイド点眼薬を使用することを含め,術後経過観察は注意深く行う必要がある.当科では術前の抗真菌薬の全身・局所投与を少なくともC2週間行い,前房に炎症が生じる時期に至る前にCDALKを行う方針としているが,このような真菌性角膜炎に対する早期治療的CDALKは近年多くの施設で行われてきている.一方で,薬物治療によって,真菌性角膜炎を治療できることも従来から報告13)されているため,薬物治療と外科的治療の選択が重要と思われる.本症例では薬物治療を継続することも考慮したが,前房蓄膿の合併やステロイド点眼が予後不良となる危険因子であること,また病巣の確実な掻爬を併用することによって,治癒率は90%を超えるという報告14)もあり,長期間のステロイド点眼を背景因子に有する本症例には,確実な掻爬の延長としてのCDALKが有効であったと考えられる.文献1)塩田洋,西内貴子,井上須美子:角膜ヘルペスと角膜真菌症の合併したC2例.臨眼C35:1331-1334,C19812)阿部真知子,田村修,高岡裕子:角膜ヘルペスに真菌(Fusarium)感染を合併した角膜潰瘍のC1症例.臨眼C40:C154-155,C19863)四宮加容:角膜ヘルペスと角膜真菌症を合併したC1例.あたらしい眼科C15:117-119,C19984)MalechaMA,TarigopulaS,MalechaMJ:Successfultreat-mentCofPaecilomyceslilacinuskeratitisinapatientwithahistoryCofCherpesCsimplexCvirusCkeratitis.CCorneaC25:C1240-1242,C20065)SugitaCS,COgawaCM,CShimizuCNCetal:UseCofCaCcompre-hensivepolymerasechainreactionsystemfordiagnosisofocularCinfectiousCdiseases.COphthalmologyC120:1761-1768,C20136)MarangonFB,MillerD,GiaconiJAetal:InvitroCinvesti-gationofvoriconazolesusceptibilityforkeratitisandendo-phthalmitisfungalpathogens.AmJOphthalmolC137:520-525,C20047)WiederholdNP:Antifungalresistance:currentCtrendsCandCfutureCstrategiesCtoCcombat.CInfectCDrugCResistC10:C249-259,C20178)ChenWL,WuCY,HuFRetal:TherapeuticpenetratingkeratoplastyCforCmicrobialCkeratitisCinCTaiwanCfromC1987CtoC2001.CAmJOphthalmolC137:736-743,C20049)XieCL,CShiCW,CLiuCZCetal:LamellarCkeratoplastyCforCtheCtreatmentoffungalkeratitis.CorneaC21:33-37,C200210)RobaeiD,CarntN,MinassianDCetal:TherapeuticandopticalkeratoplastyinthemanagementofAcanthamoebakeratitis:riskCfactors,Coutcomes,CandCsummaryCofCtheClit-erature.Ophthalmology122:17-24,C201511)SarnicolaCE,CSarnicolaCC,CSabatinoCFCetal:EarlyCdeepCanteriorClamellarkeratoplasty(DALK)forCacanthamoebaCkeratitisCpoorlyCresponsiveCtoCmedicalCtreatment.CCorneaC35:1-5,C201612)SabatinoCF,CSarnicolaCE,CSarnicolaCCCetal:EarlyCdeepCanteriorClamellarCkeratoplastyCforCfungalCkeratitisCpoorlyCresponsiveCtoCmedicalCtreatment.Eye(Lond)C31:1639-1646,C201713)BourcierT,SauerA,DoryAetal:Fungalkeratitis.JFrOphtalmolC40:e307-e313,C201714)WangJY,WangDQ,QiXLetal:Modi.edulcerdebride-mentinthetreatmentofthesuper.cialfungalinfectionofthecornea.IntJOphthalmolC11:223-229,C2018***