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円錐角膜に対する全層角膜移植と深層層状角膜移植の術後 経過の比較

2021年5月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科38(5):584.587,2021c円錐角膜に対する全層角膜移植と深層層状角膜移植の術後経過の比較關口(色川)真理奈水野未稀内野裕一榛村重人坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CComparisonofthePostoperativeCoursebetweenPenetratingKeratoplastyandDeepAnteriorLamellarKeratoplastyforKeratoconusMarina(Irokawa)Sekiguchi,MikiMizuno,YuichiUchino,ShigetoShimmuraandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineC目的:円錐角膜患者に対する全層角膜移植と深層層状角膜移植の術後経過について比較検討する.対象:2008年3月.2017年C1月に行った円錐角膜患者に対する全層角膜移植と深層層状角膜移植のうち,術後C2年以上経過を追跡できたC20症例(全層角膜移植群C11名C11眼,深層層状角膜移植群C9名C10眼)を対象とした.縫合糸は緩み,断裂,感染があった場合にのみ抜糸とした.結果:術後C3年までの眼鏡矯正視力(logMAR換算視力),球面度数,乱視度数,等価球面度数,角膜形状,角膜内皮細胞密度について,両群間に差はなかった.結論:円錐角膜患者に対する全層角膜移植群および深層層状角膜移植群のC3年までの術後経過は両群に差はなかった.CPurpose:ToCcompareCtheCpostoperativeCcourseCbetweenpenetratingCkeratoplasty(PK)andCdeepCanteriorClamellarkeratoplasty(DALK)forCkeratoconus.CMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC20CkeratoconusCpatientswhounderwentPK(PKGroup,11eyesof11patients)orDALK(DALKGroup,10eyesof9patients)atKeioCUniversityCHospital,CTokyo,CJapanCfromCMarchC2008CtoCJanuaryC2017,CandCwhoCcouldCbeCfollowedCforCmoreCthanC2-yearsCpostoperative.CInCallCpatients,CpostoperativeCbestCspectacle-correctedCvisualacuity(BSCVA;Log-MAR),CsphericalCpower,astigmatism,CsphericalCequivalent(SE),CcornealCtopography,CandCcornealCendothelialCcelldensity(ECD)wereretrospectivelyexamined,andthencomparedbetweenthetwogroups.Results:BetweenthePKGroupandDALKGroup,nodi.erencesinBSCVA,sphericalpower,astigmatism,SE,cornealtopography,andcornealCECDCwereCobservedCoverCtheC3-year-postoperativeCperiod.CConclusions:TheCpostoperativeCcourseCofCPKCandDALKforkeratoconuswasfoundtobesimilarforupto3-yearspostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(5):584.587,C2021〕Keywords:円錐角膜,全層角膜移植,深層層状角膜移植.keratoconus,penetratingkeratoplasty,deepanteriorlamellarkeratoplasty.Cはじめに円錐角膜に対する移植術として,全層角膜移植(penetrat-ingkeratoplasty:PK)または深層層状角膜移植(deepante-riorClamellarkeratoplasty:DALK)が選択される.DALKはCPKのようなCopenskysurgeryはなく,内皮型拒絶反応のリスクがないことで1),術後の長期免疫抑制が不要となる.近年,円錐角膜に対する角膜移植は障害された組織のみを置き換える選択的層状角膜移植が主流となってきている2).日本国内における円錐角膜に対する術式の違いによる経過報告はいまだ少なく,今回筆者らはCPKとCDALKのC2年の術後経過を比較検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2008年C3月.2017年C1月に慶應義塾大学病院でPKあるいはCDALKを受けた円錐角膜患者のうち,少なくとも術後C2年の経過観察ができた症例とし,PK群はC11名〔別刷請求先〕關口真理奈:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MarinaSekiguchi,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35ShinanomachiShinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC584(104)0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(104)C5840910-1810/21/\100/頁/JCOPY11眼(男性C10名,女性C1名,平均年齢C41.9C±17.2歳),DALK群は9名10眼(男性4名,女性5名,平均年齢43.5C±19.2歳)であった.平均年齢については,2群間に有意差はなかった.急性水腫の既往がある症例C2眼と内皮細胞密度が測定できない瘢痕性混濁がある症例C3眼,複数回の円錐角膜手術(有水晶体眼内レンズ挿入,角膜内リング挿入,角膜クロスリンキング)の既往がある症例C1眼はCPKを第一選択とし,DALKを予定していたが術中CPKへ変更した症例C4眼はCPK群とした.また,術後C2年以内に角膜感染をきたし,その後視力が改善しなかった症例,エキシマレーザーによる屈折矯正手術や翼状片に対する手術を施行した症例は対象から除外した.手術はC13眼(PK群C7眼,DALK群C6眼)では,ドナー角膜径C7.75Cmm,レシピエント角膜径C7.5Cmmとした.PK群のC1眼は高度円錐角膜であったためドナー角膜径C8.25Cmm,レシピエント角膜径C8.0Cmmとし,また眼軸長C25Cmm以上の症例C7眼(PK群C3眼,DALK群C4眼)ではドナー角膜径,レシピエント角膜径ともにC7.5Cmmとした.ドナー角膜径はPK群C7.70C±0.14Cmm,DALK群C7.65C±0.12Cmm(p=0.38),またレシピエント角膜径はCPK群C7.57C±0.22Cmm,DALK群7.5Cmm(p=0.35)であり,2群間に有意差はなかった.DALK群のCDescemet膜はすべて粘弾性物質を注入し.離した3).縫合法は両群ともにC10C.0ナイロン糸を用いたC24針連続縫合とし,縫合糸は緩み,断裂,感染があった場合のみ抜糸とした.術後,抗菌薬点眼はC1日C5回より開始し,上皮化が得られればC3カ月程度で減量しC6カ月程度で終了とした.ステロイド点眼はベタメタゾンC1日C5回より開始し,術後C3カ月程度より徐々に漸減,またはフルメトロンへ変更とした.また,活動性のアトピー性皮膚炎に合併した症例C2眼では強角膜炎の予防目的に術後ステロイド全身投与を行った.各群の術後半年,1年,2年,3年における術後経過をCt検定により比較検討した.評価項目は,眼鏡矯正視力(log-MAR換算視力),球面度数,乱視度数,等価球面度数,角膜形状,角膜内皮細胞密度とした.屈折度数はすべて自覚評価とした.角膜形状解析にはCTMS-2NまたはC5(トーメーコーポレーション)を用いCaveragekeratometry(AveK),CsurfaceCregularityindex(SRI),surfaceCasymmetryCindex(SAI)について評価した.合併症についても,その種類と頻度について比較検討した.なお本研究は慶應義塾大学病院倫理審査委員会の承認を得たうえで調査を開始した(承認番号:20190130).CII結果1.眼鏡矯正視力(logMAR換算視力)術前のClogMAR換算視力はCPK群C1.46C±1.10,DALK群0.99±0.56(p=0.25)でC2群間に有意差はなかった.術後C2年のClogMAR換算視力はCPK群C0.009C±0.15,DALK群C0.13C±0.29(p=0.25),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはCPK群C0.003C±0.080,DALK群C0.15C±0.32(p=0.19)であり両群間に有意差はなかった(表1).術後C2年においてハードコンタクトレンズを装用した症例はCPK群でC5眼,DALK群でC1眼であり,いずれもClogMAR換算視力はC.0.080±0であった.C2.球面度数,乱視度数,等価球面度数術前の球面度数はCPK群C.7.71±5.95D,DALK群C.11.93C±7.70D(p=0.61),術後C2年の球面度数はCPK群C0.25C±5.13D,DALK群C1.42C±4.31D(p=0.61),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはCPK群C0.58C±5.22D,DALK群C0.36±4.56D(p=0.93)であり両群間に有意差はなかった.術前の乱視度数は測定が可能であった症例においてCPK群C.1.00±2.66D,DALK群C.2.04±2.11D(p=0.50),術後C2年の乱視度数はCPK群C.4.32±2.62D,DALK群C.3.94±1.61D(p=0.71),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはPK群C.4.92±3.49D,DALK群C.4.08±1.78D(p=0.56)であり両群間に有意差はなかった(表2).術前の等価球面度数は測定が可能であった症例においてPK群C.8.21±6.38D,DALK群C.12.95±7.28D(p=0.27),術後C2年の等価球面度数はCPK群C.1.91±4.79D,DALK群C.0.56±4.48(p=0.54),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはCPK群C.1.88±4.68D,DALK群C.1.68±4.88D(p=0.94)であり両群間に有意差はなかった(表2).C3.角.膜.形.状角膜形状解析では,術前のCSRI,SAI,AveKにおいて両群間に有意差はなく,術後C2年のCAveKはCPK群C43.68C±5.14D,DALK群C44.05C±5.16D(p=0.88),SRIはPK群1.49C±0.56D,DALK群C1.56C±0.86D(p=0.84),SAIはCPK群C1.84±1.11D,DALK群C1.60C±1.03D(p=0.64)であり両群間に有意差はなかった.術後C3年の経過を追跡できた症例においてもC2群間に有意差はなかった(表3).C4.角膜内皮細胞密度術前の角膜内皮細胞密度はCPK群C2,750C±375Ccell/mm2,DALK群C2,527C±228Ccell/mm2(p=0.16),術後C2年の角膜内皮細胞密度はCPK群C1,678C±736Ccell/mm2,DALK群C2,100C±605Ccell/mm2(p=0.20),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはCPK群C1,487C±658Ccell/mm2,DALK群C1,868C±554Ccell/mm2(p=0.29)であり両群間に有意差はなかった(図1).C5.合併症術後C3年以内の合併症はCPK群にて高眼圧症C2眼,真菌性角膜潰瘍C1眼,DALK群では高眼圧症C3眼(そのうち手術加療が必要となった症例はC1眼)を認めた.それ以降の合併症(105)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C585表1眼鏡矯正視力(logMAR換算視力)の比較表2等価球面度数,乱視度数の比較PK群DALK群p値PK群DALK群p値視力(logMAR)等価球面度数術前C1.46±1.10(11)C0.99±0.56(10)C0.25術前C.8.21±6.38D(6)C.12.95±7.28D(7)C0.27術後2年C0.009±0.15(11)C0.13±0.29(10)C0.25術後2年C.1.91±4.79D(11)C.0.56±4.45D(9)C0.54術後3年C0.003±0.08(10)C0.15±0.32(10)C0.19術後3年C.1.88±4.68D(9)C.1.68±4.88D(9)C0.94()内は眼数を表す.PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角乱視度数膜移植.2群間に有意差はなかった(t-test).術前C.1.00±2.66D(6)C.2.04±2.11D(7)C0.50術後2年C.4.32±2.62D(11)C.3.94±1.61D(9)C0.71術後3年C.4.92±3.49D(9)C.4.08±1.78D(9)C0.56表3角膜形状解析の比較()内は眼数を表す.PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角PK群DALK群p値膜移植.2群間に有意差はなかった(t-test).CAveK術前C46.03±6.75(11)C46.14±4.36(9)C0.97術後2年C43.68±5.14(11)C44.05±5.16(9)C0.88C3,500術後3年C43.04±5.35(8)C44.55±6.41(8)C0.64Cn=8PK群SRIC3,000術前C2.73±0.76(11)C2.88±0.60(9)C0.65術後2年C1.49±0.56(11)C1.56±0.86(9)C0.84C術後3年C1.33±0.50(8)C1.70±0.83(8)C0.34CSAIC術前C4.15±1.84(C11)C3.91±1.01(C9)C0.73術後2年C1.84±1.11(C11)C1.60±1.03(C9)C0.64術後3年C1.58±0.79(C8)C1.62±0.84(C8)C0.94()内は眼数を表す.PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角膜移植.AveK:averagekeratometry,SRI:surfaceregular-角膜内皮細胞密度(cell/mm2)2,5002,0001,5001,000n=10ityindex,SAI:surfaceCasymmetryindex.2群間に有意差はなかった(t-test).表4合併症PK群DALK群高眼圧症C2C3真菌性角膜潰瘍C1C0縫合糸感染0(1)0(1)ヘルペス角膜炎C00(2)拒絶反応0(1)C0()内は術後C3年以降の眼数を表す.PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角膜移植.としては,PK群にて縫合糸感染C1眼,拒絶反応C1眼,DALK群ではヘルペス角膜炎C2眼,縫合糸感染C1眼を認めた(表4).CIII考按今回,円錐角膜に対するCPKとCDALKの術後成績を比較した.海外の報告では,円錐角膜に対するCPKとCDALKの術後半年からC5年にかけての追跡で,術後視力の中央値はPK群のほうが良好であったが統計学的には有意な差がなかった4.6).国内の植松らの報告では,術後C12カ月では術後500術前術後半年1年2年3年図1角膜内皮細胞密度の経時的変化PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角膜移植.経時的に角膜内皮細胞密度の減少が認められたが,2群間に有意差はなかった(t-test).視力はCPK群で有意に良好であったが,術後C24カ月程度では両群で有意差を認めなかった7).本検討では,術後半年,1年,2年における経過を比較できたCPK群C11眼,DALK群C10眼で,術後視力に有意差はなかった.また,術後C3年まで経過を追えたCPK群C10眼,DALK群C10眼で比較しても,術後視力に有意差はなかった.両群の術後視力に有意差はないもののCPK群において視力が良好であったのは,DALK群においてCDescemet膜露出が不十分な症例が含まれていたことなどが要因として考えられる8).術後等価球面度数は,両群間で差がないという報告と4,7,9),DALK群のほうがより近視が強いという報告がある5,6).本検討では,術後半年,1年,2年における経過を比較できたPK群C11眼,DALK群C9眼で,術後等価球面度数に有意差はなかった.また,術後C3年まで経過を追えたCPK群C9眼,DALK群C9眼で比較しても,等価球面度数に有意差はなか(106)った.角膜形状解析に関しては,SRIのみCPK群で有意に高値であったとの報告がある7).本検討ではCAveK,SRI,SAIいずれの項目においても両群に有意差はなかった.術後拒絶反応に関しては,海外のCWatsonらの報告では,PKではC28%の症例において術後に拒絶反応を認め,DALKではC8%の症例で拒絶反応を認めたが,実質型拒絶反応または上皮型拒絶反応のみで内皮型拒絶反応は認められなかった5).国内では,PKにおいて,植松らの報告ではC6.3%,安達らの報告ではC4.8%の症例において術後に拒絶反応を認めたが,DALKでは軽度の拒絶反応のみであった7,9,10).本検討では,PK群のC11眼中C1眼(9.1%)に内皮型拒絶反応を認め,DALK群では認めなかった.これらの結果からCDALKは術後の内皮型拒絶反応のリスクを減らすと考えられた.PKはCDALKと比較して,術後角膜内皮細胞密度が有意に低く,最終角膜内皮細胞減少率が有意に高いとの報告ある7,9).しかし,本検討では術後の角膜内皮細胞密度は両群間に有意差はなかった.円錐角膜は若年者に多く,残存した角膜周辺の角膜内皮機能が保たれている可能性が示唆された.DALKによる術後経過はCPKと同等であり,内皮型拒絶反応のリスクなしに有効な治療効果が期待できる.今後症例数と経過観察期間を増やし,さらなる術後長期予後について検討していく必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ShimazakiCJ,CShimmuraCS,CIshiokaCMCetal:RandomizedCclinicalCtrialCofCdeepClamellarCkeratoplastyCvsCpenetratingCkeratoplasty.AmJOphthalmolC134:159-165,C20022)島﨑潤:これで完璧角膜移植.p10-13,南山堂,20093)ShimmuraCS,CShimazakiCJ,COmotoCMCetal:DeepClamellarCkeratoplastyCinCkeratoconusCpatientsCusingCviscoadptiveCviscoelastics.CorneaC24:178-181,C20054)CohenAW,GoinsKM,SutphinJEetal:Penetratingker-atoplastyCversusCdeepCanteriorClamellarCkeratoplastyCforCtheCtreatmentCofCkeratoconus.CIntCOphthalmolC30:675-681,C20105)WatsonSL,RamsayA,DartJKetal:ComparisonofdeeplamellarCkeratoplastyCandCpenetratingCkeratoplastyCinCpatientsCwithCkeratoconus.COphthalmologyC111:1676-1682,C20046)JonesCMN,CArmitageCWJ,CAyli.eCWCetal:Penetratinganddeepanteriorlamellarkeratoplastyforkeratoconus:CaCcomparisonCofCgraftCoutcomesCinCtheCUnitedCKingdom.CInvestOphthalmolVisSciC50:5625-5629,C20097)植松恵,横倉俊二,大家義則ほか:円錐角膜に対する全層角膜移植と深層表層角膜移植の術後経過の比較.臨眼C65:1413-1417,C20118)NavidA,ScottH,JamesCMetal:QualityofvisionandgraftCthicknessCinCdeepCanteriorClamellarCandCpenetratingCcornealallografts.AmJOphthalmolC143:228-235,C20079)安達さやか,市橋慶之,川北哲也ほか:深層層状角膜移植術と全層角膜移植術の長期成績比較.臨眼67:85-89,C201310)谷本誠治,長谷部治之,増本真紀子ほか:円錐角膜に対する深層角膜移植術の成績.臨眼54:789-793,C2000***(107)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C587

治療的深層層状角膜移植が奏効したヘルペス・真菌混合角膜感染症の1例

2019年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科36(8):1087.1091,2019c治療的深層層状角膜移植が奏効したヘルペス・真菌混合角膜感染症の1例伊崎亮介川村朋子下川亜希佐伯有祐内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CACaseofSuccessfulTherapeuticDeepAnteriorLamellarKeratoplastyonMixedHerpeticandFungalCornealInfectionRyosukeIzaki,TomokoTsukahara-Kawamura,AkiShimogawa,YusukeSaekiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicineC目的:ヘルペス性角膜炎として治療中に真菌重複感染が判明した症例に対し,治療的角膜移植が奏効した症例を経験したので報告する.症例:62歳,男性.2014年C3月に当科紹介受診し,前房水のCpolymerasechainreaction(PCR)法によって,右眼単純ヘルペスウイルス(HSV)角膜内皮炎と診断され,改善し近医で経過観察されていたが,2014年12月に右眼視力低下のため,抗ヘルペスウイルス治療を再開されたが,改善しないためにC2015年C1月に再診し,入院治療となった.真菌性角膜炎に対し,フルコナゾール点滴およびピマリシン眼軟膏と角膜掻爬によるC3者併用療法を開始したが,病巣は拡大した.角膜擦過物の包括的CPCR検査の結果,HSVおよび真菌C28SのCDNAが陽性であったため,抗ヘルペス治療に加えて,ボリコナゾール全身局所治療と1%ピマリシン眼軟膏を併用し,臨床所見は改善がみられた.治療期間などを考慮して,治療的角膜移植として深層層状角膜移植をC2015年C2月に施行した.術後速やかに右眼角膜所見は改善し,現在まで再発なく経過は良好で右眼視力=(0.8)である.結論:治療に抵抗する重症角膜感染症の補助診断に包括的CPCRが有効であった.HSVと真菌の混合角膜感染症例の治療に治療的深層層状角膜移植が有効であった.CPurpose:Wereportthecaseofapatienttreatedasherpetickeratitiswithcon.rmedmixedfungalinfectionduringCtheCclinicalCcourse,CwhoCwasCtreatedCwithCtherapeuticCkeratoplasty.CCase:AC62-yearColdCmaleCwasCdiag-nosedashavingkeratouveitisassociatedwithherpessimplexvirus(HSV)C,ascon.rmedbypolymerasechainreac-tion(PCR)fromanteriorchamberspecimeninMarch2014;hewasfollowedbyalocalophthalmologist.InDecem-ber2014,henotedhazyvisioninhisrighteyeandwastreatedwithantiherpeticdrugs,butwasagainreferredtoourChospitalCinCJanuaryC2015CdueCtoCclinicalCregressionCinChisCrightCeye.CInCspiteCofCanti-fungalClocalCandCsystemicCtreatment,withrepeatedcornealscrapings,thecorneallesionenlarged.HSV-DNAandfungal28SDNAwereposi-tiveCinCcomprehensiveCPCRCofCcornealCscraping.CThen,CafterCcombinationCtherapyCwithCantiviralCandCantifungalCagents,CsystemicCandClocalCvoriconazoleCwithCpimaricin1%CeyeCointment,CcornealC.ndingsCshowedCgradualCresolu-tion.Consideringthelongstandingclinicalcourse,therapeuticdeepanteriorlamellarkeratoplasty(DALK)wascar-riedCoutCinCFebruaryC2015.CPromptCcureCinCtheCrightCeyeCwasCobtainedCaftersurgery;thereCwasCnoCrecurrence,CandCbest-correctedCvisualCacuityCofC0.8CwasCmaintainedCinCtheCrightCeye.CConclusions:ComprehensiveCPCRCwasCusefulCforCdiagnosingCrefractoryCinfectiousCcornealCkeratitis.CTherapeuticCDALKCwasCe.ectiveConCmixedCherpeticCandfungalcornealinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(8):1087.1091,C2019〕Keywords:真菌性角膜炎,ヘルペス性角膜炎,深層層状角膜移植,治療的角膜移植.fungalkeratitis,herpetickeratitis,deepanteriorlamellarkeratoplasty,therapeutickeratoplasty.C〔別刷請求先〕内尾英一:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiUchio,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jonan,Fukuoka814-0180,JAPANCはじめに真菌性角膜炎は重症な角膜感染症であり,治療薬の選択が限られていることから重症化し,視力予後が不良なことも少なくない.酵母型真菌によるものと糸状菌型真菌によるものとでは臨床像も異なり,とくに臨床早期には細菌性角膜炎やヘルペス性角膜炎などとの鑑別が困難で治療が遅れる症例もある.これまでヘルペス性角膜炎と真菌性角膜炎を合併した報告は少ない1.4).今回筆者らはヘルペス性角膜炎として治療中に真菌性角膜炎の重複感染が判明した感染症例に,治療的深層層状角膜移植(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)が奏効したまれなC1例を経験したので報告する.CI症例患者:62歳,男性.高血圧の既往歴があり,内服治療中であった.現病歴:2014年C3月に近医で右眼高眼圧と右眼角膜浮腫を指摘され,当科を紹介受診した.採取した前房水をCpoly-meraseCchainreaction(PCR)法により,単純ヘルペスウイルス(herpesCsimplexvirus:HSV)が陽性であったため,HSV角膜内皮炎と診断し,バラシクロビルとプレドニゾロン内服およびベタメタゾンC0.1%点眼などの治療によって改善した.2014年C6月には右眼視力=0.8(1.2)となったため,近医で経過観察となったが,それ以降もベタメタゾンC0.1%点眼は継続されていた.2014年C12月初旬から右眼視力低下と充血を自覚し,近医を受診し,ヘルペス角膜内皮炎の再発と診断され,バラシクロビル内服を投与されいったん改善したが,2週間後に悪化がみられた.アシクロビル眼軟膏を追加投与されたが,改善しないために,2015年C1月C2日に当科を再度受診した.再診時眼所見は以下のとおりである.右眼視力=0.2(0.8C×.1.25D(cyl.1.5DAx45°),左眼視力=0.2(1.2C×.2.75D(cyl.0.5DAx175°),右眼眼圧=15mmHg,左眼眼圧=13CmmHg.左眼の前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった.右眼には,結膜充血,毛様充血が中等度みられた.角膜は中央から耳側に角膜潰瘍およびCDes-cemet膜皺襞,角膜後面沈着物が軽度あり,さらに類円形の上皮下混濁がみられた(図1).前房は正常深度で炎症細胞C2+であった.虹彩はC4時部に後癒着があり,水晶体には核性混濁がみられた.眼底には異常はなかった.外来で採取した角膜擦過物の細菌培養から表皮ブドウ球菌が検出されたため,抗菌薬の局所全身治療を開始した.このとき,真菌の培養検査も行ったが陰性であった.HSVイムノクロマト法検査(チェックメイトヘルペスアイCR)も陰性であった.しかしその後も改善がみられず,1月C22日には角膜所見から真菌性角膜炎が疑われたため入院となった.入院後,フルコナゾール点滴およびピマリシン眼軟膏と角膜掻爬による三者併用療法を行ったが,角膜病巣の拡大を認めた(図2).そこで,いったん真菌性角膜炎に対するフルコナゾール点滴およびピマリシン眼軟膏と角膜掻爬による三者併用療法を中止し,抗菌薬治療に抗ヘルペス薬治療としてファムシクロビル内服,アシクロビル眼軟膏,続いてビダラビン軟膏を行った.しかし角膜浸潤巣が拡大し,前房蓄膿も生じてきたため,抗真菌薬治療を再開した.1月C29日に角膜掻把を行い,角膜擦過物に対して原因微生物の包括的CPCR検査4)を行った.その結果から,HSV-DNA:2.04C×104copies/ml,続いて真菌C28Sr(ribosomalDNA):1.67C×102Ccopies/mlが検出され,これまでの臨床経過から真菌性角膜炎の重複感染があると診断した.ボリコナゾール点滴およびボリコナゾールC1%点眼薬をピマリシン眼軟膏に追加して抗真菌薬治療を再開した後,毛様充血が改善し前房蓄膿も消失したが,角膜浸潤,免疫輪は増悪し,右眼視力は手動弁に低下した(図3).これまですでに再発後C50日以上の薬物治療経過もあることを考慮し,眼球深部への真菌の波及を防ぐ目的などから,治療的角膜移植としてCDALKをC2月C24日に行った.角膜実質深部まで空気注入を繰り返しながら,膿瘍病変を除去し,厚みを揃えたC8Cmm径の角膜を移植した.手術後速やかに右眼角膜所見は改善し,現在まで再発なく経過は良好で右眼視力=(0.8C×HCL)である(図4).なお切除角膜切片の細菌培養検査は陰性で,病理標本からも真菌は検出されなかった.これまでの本症例の治療経過を図5に示す.CII考按ヘルペス角膜炎に真菌性角膜炎を合併した症例は少なく,わが国では現在までC4例報告されているのみである1.3).塩田らはその臨床的特徴について地図状潰瘍,角膜中央部が不透明で凹凸不整である,および潰瘍周辺部がジグザグで強い浸潤を伴う特徴があると報告している1).しかしその臨床所見はヘルペス角膜炎と真菌性角膜炎のいずれかにみられるものであり,臨床像による診断は容易ではない.海外でも同様の症例は少なく,筆者らの渉猟した限りではヘルペス角膜炎の既往があり,治療中にCPaecilomyceslilacinusによる真菌性角膜炎となった症例の報告がある4).活動性と考えられるヘルペス角膜炎とは必ずしもいえないので,同様の重複感染とはいえないかもしれないが,この症例は消炎のために複数回の全層角膜移植を必要としたと報告されている4).ヘルペス角膜炎と真菌性角膜炎の重複感染の確定診断を行うためには,病巣である角膜擦過物からのウイルス分離と真菌の直接顕鏡あるいは分離培養検査が必要であるが,臨床の現場では最近はCPCR法が広く行われており,多種類の病原微生物が推定される状況では包括的CPCR検査がしばしば行われている5).今回の症例では,迅速診断法のイムノクロマト法ではHSVは陰性であったが,角膜擦過物からCHSV-DNAが陽性であり,DNAコピー数も多かったことからCHSVによるヘ図1当科初診時右眼角膜所見(2015年1月2日)中央耳側に角膜潰瘍があり,Descemet膜皺襞,角膜後面沈着物および類円形角膜上皮下混濁がみられた.図32015年2月23日の右眼角膜所見抗真菌薬と抗ヘルペス薬治療併用後,毛様充血の改善などがみられたが,視力は手動弁となった.ルペス角膜炎と診断した.一方,包括的CPCR検査における真菌C28SrDNAはC1.67C×102copies/mlと少量であり,角膜擦過物は眼外検体であることからコンタミネーションの可能性も否定できなかったが,抗真菌薬を再開後に今回は明らかに臨床所見が改善したことなどから,真菌性角膜炎の合併もあると診断した.この症例の経過はこれまで述べたように複雑で,最初の抗真菌薬を含む三者併用療法に反応しなかったにもかかわらず,包括的CPCR検査判明後のC2回目の抗真菌薬治療に反応した理由としては,点滴薬剤がフルコナゾールからボリコナゾールに変更されたこと,また内服薬ではあるがファムシクロビルも投与されており,第一回目の三者併用療法の際とは異なり,抗ウイルス薬治療も同時に行われてい図22015年1月26日の右眼角膜所見抗真菌薬治療にもかかわらず,角膜潰瘍の拡大がみられた.図4最終受診時の右眼角膜所見その後白内障手術も行われ,右眼視力は(0.8)である.たことの効果のC2点が考えられた.結局この症例からは真菌の同定はできなかったが,ボリコナゾールとフルコナゾールへの治療反応の相違などから6,7)は,酵母型のCCandidaよりも糸状菌型のCFusariumなどが示唆される6).薬物治療に抵抗性の重症型角膜感染症に対する外科的治療の方法や適応については,まだ広く認められたものはない.ただし,とくに重症である真菌性角膜炎8,9)やアカントアメーバ角膜炎10,11)に関しては,治療的角膜移植の成績についてこれまでもいくつかの報告がある.いずれも,DALKの治療成績9,11)が全層角膜移植(penetratingCkeratoplasty:PK)8,10)よりも優れており,アカントアメーバ角膜炎では混濁治癒後の光学的移植であるCPKが治療的なCPKよりも治療成績が優真菌28S-PCR陽性HSV-PCR陽性視力入院治療的DALK0.80.60.40.21/21/121/222/22/122/24日付LVFX:レボフロキサシンMOFX:モフロキサシンCMX:セフメノキシムGM:ゲンタマイシンCEPM:セフェピムCZOP:セフォゾプランMEPM:メロペネムVACV:バラシクロビルFCV:ファムシクロビルAra-C:ビダラビンVRCZ:ボリコナゾールFLCZ:フルコナゾールPMR:ピマリシン図5本症例の入院治療経過上側に局所治療薬物,下側に全身治療薬物を示す.HSV:単純ヘルペスウイルス,PCR:polymerasechainreaction,DALK:深層層状角膜移植をそれぞれ示す.れていると報告されている12).真菌性角膜炎は一般にアカントアメーバ角膜炎よりも重症であり,XieらはCFusariumが60%を占める多数例の真菌性角膜炎の検討で,治療的なDALKは治療有効例がC93%で,術後C2週以内の再発率がC7%と低く,ほとんどの症例で視力C0.3以上が得られたと報告しており9),三者併用療法の一つである病巣掻爬を可能な限り広く行うCDALKは,PKに多くみられる拒絶反応などの合併症もほとんどなく,有用な治療法であったと考える.しかし術後にステロイド点眼薬を使用することを含め,術後経過観察は注意深く行う必要がある.当科では術前の抗真菌薬の全身・局所投与を少なくともC2週間行い,前房に炎症が生じる時期に至る前にCDALKを行う方針としているが,このような真菌性角膜炎に対する早期治療的CDALKは近年多くの施設で行われてきている.一方で,薬物治療によって,真菌性角膜炎を治療できることも従来から報告13)されているため,薬物治療と外科的治療の選択が重要と思われる.本症例では薬物治療を継続することも考慮したが,前房蓄膿の合併やステロイド点眼が予後不良となる危険因子であること,また病巣の確実な掻爬を併用することによって,治癒率は90%を超えるという報告14)もあり,長期間のステロイド点眼を背景因子に有する本症例には,確実な掻爬の延長としてのCDALKが有効であったと考えられる.文献1)塩田洋,西内貴子,井上須美子:角膜ヘルペスと角膜真菌症の合併したC2例.臨眼C35:1331-1334,C19812)阿部真知子,田村修,高岡裕子:角膜ヘルペスに真菌(Fusarium)感染を合併した角膜潰瘍のC1症例.臨眼C40:C154-155,C19863)四宮加容:角膜ヘルペスと角膜真菌症を合併したC1例.あたらしい眼科C15:117-119,C19984)MalechaMA,TarigopulaS,MalechaMJ:Successfultreat-mentCofPaecilomyceslilacinuskeratitisinapatientwithahistoryCofCherpesCsimplexCvirusCkeratitis.CCorneaC25:C1240-1242,C20065)SugitaCS,COgawaCM,CShimizuCNCetal:UseCofCaCcompre-hensivepolymerasechainreactionsystemfordiagnosisofocularCinfectiousCdiseases.COphthalmologyC120:1761-1768,C20136)MarangonFB,MillerD,GiaconiJAetal:InvitroCinvesti-gationofvoriconazolesusceptibilityforkeratitisandendo-phthalmitisfungalpathogens.AmJOphthalmolC137:520-525,C20047)WiederholdNP:Antifungalresistance:currentCtrendsCandCfutureCstrategiesCtoCcombat.CInfectCDrugCResistC10:C249-259,C20178)ChenWL,WuCY,HuFRetal:TherapeuticpenetratingkeratoplastyCforCmicrobialCkeratitisCinCTaiwanCfromC1987CtoC2001.CAmJOphthalmolC137:736-743,C20049)XieCL,CShiCW,CLiuCZCetal:LamellarCkeratoplastyCforCtheCtreatmentoffungalkeratitis.CorneaC21:33-37,C200210)RobaeiD,CarntN,MinassianDCetal:TherapeuticandopticalkeratoplastyinthemanagementofAcanthamoebakeratitis:riskCfactors,Coutcomes,CandCsummaryCofCtheClit-erature.Ophthalmology122:17-24,C201511)SarnicolaCE,CSarnicolaCC,CSabatinoCFCetal:EarlyCdeepCanteriorClamellarkeratoplasty(DALK)forCacanthamoebaCkeratitisCpoorlyCresponsiveCtoCmedicalCtreatment.CCorneaC35:1-5,C201612)SabatinoCF,CSarnicolaCE,CSarnicolaCCCetal:EarlyCdeepCanteriorClamellarCkeratoplastyCforCfungalCkeratitisCpoorlyCresponsiveCtoCmedicalCtreatment.Eye(Lond)C31:1639-1646,C201713)BourcierT,SauerA,DoryAetal:Fungalkeratitis.JFrOphtalmolC40:e307-e313,C201714)WangJY,WangDQ,QiXLetal:Modi.edulcerdebride-mentinthetreatmentofthesuper.cialfungalinfectionofthecornea.IntJOphthalmolC11:223-229,C2018***