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角膜形状データと光線追跡に基づいた度数計算法OKULIX®とSRK/T 法の比較

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(131)131《原著》あたらしい眼科28(1):131.134,2011cはじめに近年,球面収差を低減する非球面眼内レンズ(IOL)1),遠近視力が得られる多焦点IOL2),術後乱視を減らすトーリックIOL3)といった高機能IOLが広く使用されている.これらの高機能IOLの効果を得るには,術後裸眼視力が良好であることが必要である.そのため,高い精度のIOL度数計算が求められている.IOL度数計算の誤差を生じるおもな要因は,術後前房深度の予想(35%)と術前眼軸長測定(17%)と考えられている4).眼軸長に関しては,光干渉法を用いた測定が開発され,簡便に高精度を得られるようになってい〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN角膜形状データと光線追跡に基づいた度数計算法OKULIXRとSRK/T法の比較三根慶子大谷伸一郎森洋斉加賀谷文絵本坊正人南慶一郎宮田和典宮田眼科病院ComparisonofIntraocularLensPowerCalculationbyOKULIXR,UsingTopographicDataandRayTracingMethod,withSRK/TFormulaKeikoMine,ShinichiroOtani,YosaiMori,FumieKagaya,NaotoHonbou,KeiichiroMinamiandKazunoriMiyataMiyataEyeHospital目的:角膜形状データと光線追跡に基づいた眼内レンズ(IOL)の度数計算法OKULIXRとSRK/T式を前向きに比較検討した.対象および方法:対象は,白内障手術でIOLFY-60AD(HOYA)を挿入した65例108眼(年齢:71.3±8.2歳).挿入IOLの度数はSRK/T式で求め,同時に,角膜形状解析装置TMS-4A(TOMEY)で角膜形状データを測定し,OKULIXRで挿入IOL度数における予想術後屈折値を計算した.術後1カ月の自覚等価球面度数と両方法で得られた予想屈折値との誤差を比較した.また,眼軸長および角膜形状の離心率の影響も検討した.結果:屈折誤差では,OKULIXRは.0.002±0.46DとSRK/T式の.0.11±0.50Dに比べ有意に小さかった(p=0.014).SRK/T式は離心率により屈折誤差が有意に変化した(p=0.0075)が,OKULIXRは変化しなかった.結論:OKULIXRによる度数計算は,角膜の非球面性に依存せず,より高精度の度数計算が可能であると考えられた.Purpose:Toprospectivelycompareintraocularlens(IOL)powercalculationbyOKULIXR,usingtopographicdataandraytracingmethod,withtheSRK/Tformula.Subjectandmethod:Subjectscomprised108eyesof65patientswhounderwentcataractsurgerywithimplantationofIOLFY-60AD(HOYA).Subjectmeanagewas71.3±8.2(SD)years.ThepoweroftheIOLforimplantationwascalculatedusingtheSRK/Tformula.Simultaneously,topographicdatawasmeasuredwiththeTMS-4A(TOMEY);predictedpostoperativerefractionfortheimplantedIOLpowerwasthencalculatedusingOKULIXR.Errorsbetweenmanifestrefractionat1monthpostoperativelyandtherefractionpredictionsobtainedbybothmethodswerecompared.Effectsofaxiallengthandcornealsurfaceeccentricitywerealsoevaluated.Results:RefractionerrorofOKULIXRwas.0.002±0.46D,significantlysmallerthanthe.0.11±0.05DofSRK/T(p=0.014).WiththeSRK/Tformula,refractionerrorvariedwitheccentricity(p=0.0075),althoughwithOKULIXRitdidnotchange.Conclusion:IOLpowerascalculatedwithOKULIXRwasinvariantwithcornealasphericity;OKULIXRcouldprovidemoreaccurateIOLpowercalculation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):131.134,2011〕Keywords:眼内レンズ度数計算,光線追跡,離心率.intraocularlenspowercalculation,raytracing,eccentricity.132あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(132)る.また,術後屈折値をもとにA定数も修正することで,SRK/T式5)でも単焦点IOLに十分な精度は得ることが可能になった.しかし,長眼軸あるいは短眼軸の症例では屈折誤差が大きくなる6,7).また,これまでのIOL度数計算法では,角膜形状のデータは十分に加味されず,円錐角膜やレーザー屈折矯正術後の症例8)では良好な裸眼視力を得ることはむずかしい.正確なIOL度数を求めるには,症例ごとに光線追跡を行い計算する9)のが理想的である.しかし,光線追跡を行うには特別なソフト処理が必要なうえに,IOLの形状および特性のデータの入手が必要であるためほとんど普及しなかった.Preussnerは,角膜形状データと光線追跡に基づいた度数計算を行うソフトOKULIXRを開発した10).度数計算ソフトOKULIXRは,角膜形状解析装置で測定した角膜形状データと眼軸長のデータから,IOLの特性データを用いて,光線追跡を行う.このため,屈折誤差がより小さい度数計算が可能と考えられる.筆者らは,通常の白内障手術に対しても光線追跡を用いたIOL度数計算法の効果を評価するために,手術歴のない白内障症例に挿入したIOLに対して,光線追跡を用いた度数計算ソフトOKULIXRとSRK/T式とを前向きに比較検討した.I対象および方法対象は,2008年11月から2009年2月に宮田眼科病院にて,同一術者(KM)により超音波白内障手術を行い,IOLFY-60AD(HOYA)を挿入した65例108眼(男性27名,女性38名)である.本研究は,宮田眼科病院倫理審査委員会にて承認され,患者からインフォームド・コンセントを得て実施した.手術歴がある症例,および白内障以外に眼疾患をもっている症例は除外した.平均年齢は71.3±8.2(SD)歳,眼軸長は23.46±1.29mm,角膜曲率半径はK1が44.80±1.54diopter(D),K2が44.08±1.53Dであった.術前に,角膜曲率半径をオートケラトメータ(ARK-730A,NIDEK)にて,眼軸長を超音波法(AL-2000,TOMEY)および光干渉法(IOLMaster,Zeiss)にて測定し,IOL度数をSRK/T式を用いて計算した.さらに,角膜形状解析装置(TMS-4A,TOMEY)で角膜形状データを測定し,同機に組み込まれている度数計算ソフトOKULIXRで挿入度数に対する術後屈折値を計算した.度数計算ソフトOKULIXRは,角膜前面屈折力,眼軸長の測定データから,IOLの特性(前後面の曲率,厚さ,屈折率)データを用いて,IOL度数を求める10).図1に示したように,屈折面は角膜の前後面,IOLの前後面の4面とし,網膜中心窩から角膜方向へ,角膜中心から,(瞳孔半径/2)1/2離れた位置をベストフォーカスとして1本の光線追跡を行う.角膜前面からの射出角qよりIOL挿入眼の眼屈折力を求め,IOL度数を決定する.角膜前面の曲率半径は,角膜形状データの直径6mm内の前面曲率を円錐曲線に近似し,角膜中心部の値を算出する.予想前房深度(ACD)は,SRK/T式では角膜曲率半径より算出するが,OKULIXRでは眼軸長(mm)より下式から求める11).予想ACD(mm)=4.6×(眼軸長/23.6)0.7術後1カ月時の自覚屈折値を測定し,屈折誤差を比較した.屈折誤差は,術後等価球面度数から予想屈折度数への差とした.さらに,屈折誤差と眼軸長,あるいは角膜前面の離心率との関係も検討した.離心率は非球面性の指標で,球面では0,楕円面では0から1の間の値になる.視軸が楕円面の長軸か短軸かで正負の符号をつけ,角膜前面形状がoblateの場合は.1<離心率<0,prolateの場合は0<離心率<1となる(図2).非球面性の指標Q値とは,Q=.(離心率)2で変換できる10,12).健常人の角膜形状は,平均離心率が約0.5(Q値で.0.26)のprolateである13).離心率は,OKULIXRt:角膜厚,ACD:予想前房深度,AXL:眼軸長,d:IOL厚.n,Rは各境界面での屈折値と曲率半径.角膜IOL網膜tqn1R1R2R3R4n2n3n4n5ACDAXLd図1光線追跡による眼内レンズの度数計算の原理球面形状(離心率=0)非球面:prolate(0<離心率<1)非球面:oblate(-1<離心率<0)図2角膜の前面形状の非球面性と離心率(133)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011133内で計算された値を用いた.屈折誤差の比較は対応のあるt検定で検定し,眼軸長と離心率の影響は回帰分析を行った.p値が0.05以下を統計学的に有意差ありとした.II結果SRK/T式,OKURIXRにおける屈折誤差を図3に示す.屈折誤差はSRK/T式では.0.11±0.50D,OKULIXRで.0.002±0.46Dとなり,OKURIXRは有意に屈折誤差が小さかった(p=0.014).屈折誤差が1D以下の症例数は,SRK/Tで94.4%,OKULIXRで97.2%,屈折誤差が0.5D以下は,それぞれ74.1%,73.2%で,計算方法による有意差はなかった(c2検定).眼軸長の屈折誤差への影響を図4に示す.両方法において有意な相関はなかった.角膜前面形状の非球面性を示す離心率の分布を図5に示す.平均は0.32±0.28で,0.5を超える高度なprolate形状と,oblate形状が24%,14%存在した.離心率による屈折誤差への影響を図6に示す.SRK/T式では,離心率により屈折誤差は変化し,有意な相関を認めた(p=0.0075).回帰曲線の傾きは.0.45で,oblateであると遠視化し,高度にprolateな場合は近視化する傾向を示した.OKULIXRでは,屈折誤差は離心率によって変化しなかった.III考按角膜形状データと光線追跡を用いた度数計算OKULIXRと,従来のSRK/T式を比較すると,術後の屈折誤差および眼軸長の影響は同等であったが,SRK/T式では角膜の非球面性が強くなると度数の精度が低下した.角膜の非球面性がSRK/T式へ影響した要因として,角膜曲率の測定位置,予想ACDの算出が考えられる.角膜曲率の測定位置では,SRK/T式で用いる角膜曲率は,通常,オートケラトメータで測定された値を用いる.この曲率半径は,角膜中心から約3mm径の傍中心で測定されたもので,角膜中心の値ではない14).角膜前面が球面であれば,角膜中心と傍中心との曲率半径は変化しないが,非球面性がある場合は,離心率の絶対値が大きくなると角膜中心と傍中心との差が大きくなる.SRK/T式では,角膜曲率は予想ACDの算出に用いられるため,角膜曲率の誤差の影響は大きいと考えられる.一方,OKULIXRでは,角膜形状データより角膜中心の曲率半径が得られるので,非球面性に影響されにくいと考えられる.予想ACDの算出には,SRK/T式を含め,Holladay-I式,Hoffer-Q式などの第3世代の度数計算では,角膜形状が球面であると想定し,角膜曲率半径からACDを算出する5~7).角膜矯正手術を受けていない眼にも高度なprolate形状が14SRK/TOKULIXR眼軸長1.51.00.50-0.5-1.0-1.5202530(D)(mm)眼軸長1.51.00.50-0.5-1.0-1.5202530(D)(mm)屈折誤差図4術後1カ月時のSRK/T式とOKULIXRによる屈折誤差への眼軸長の影響-3.0-2.0-1.001.02.03.0(D)-0.11±0.50SRK/T屈折誤差-3.0-2.0-1.001.02.03.0-0.002±0.46OKULIXR(D)50403020100p=0.014pairedt-test50403020100眼数眼数図3術後1カ月時のSRK/T式とOKULIXRによる屈折誤差の比較0510152025-0.6-0.4-0.20.00.20.40.60.8離心率眼数(眼)図5対象眼の離心率分布離心率y=0.05x-0.011.51.00.5-0.5-1.0-1.5-2.0-0.50.5(D)離心率1.01.51.00.5-0.5-1.0-1.5-2.0-0.50.5(D)1.0y=-0.45x+0.04p=0.0075SRK/TOKULIXR屈折誤差図6術後1カ月時のSRK/T式とOKULIXRによる屈折誤差への離心率の影響134あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(134)%含まれていた.このような角膜に対しては,曲率半径から求めた予想ACDは,本来の値より大きく見積もられてしまい,度数誤差(近視化)の原因となると考えられる.OKULIXRでは,予想ACDを眼軸長より経験的な式から求めるため,角膜形状の非球面性の影響を受けない.このことは,非球面性が強い,軽度な円錐角膜症例や,角膜屈折矯正術後15)に対しても有効であると示唆される.今回の検討から,角膜手術歴がない白内障症例でも,角膜の非球面性が高度なprolate,あるいはoblateであるものが38%含まれていることが確認された.これらの症例では,角膜形状のデータが十分に加味されないため,SRK/T式では度数誤差が大きくなるという問題が示唆された.角膜形状データと光線追跡に基づいた度数計算法OKULIXRでは,角膜の非球面性に影響を受けにくく,より高精度の度数計算が可能であり,通常の白内障症例に対しても一般的に使用する意義があると考えられた.文献1)OhtaniS,MiyataK,SamejimaTetal:Intraindividualcomparisonofasphericalandsphericalintraocularlensesofsamematerialandplatform.Ophthalmology116:896-901,20092)片岡康志,大谷伸一郎,加賀谷文絵ほか:回折型多焦点非球面眼内レンズ挿入眼の視機能に対する検討.眼科手術23:277-181,20103)BauerNJ,deVriesNE,WebersCAetal:AstigmatismmanagementincataractsurgerywiththeAcrySoftoricintraocularlens.JCataractRefractSurg34:1483-1488,20084)NorrbyS:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercalculation.JCataractRefractSurg34:368-376,20085)RetzlaffJA,SandersDR,KraffMC:DevelopmentoftheSRK/Tintraocularlensimplantpowercalculationformula.JCataractRefractSurg16:333-340,19906)ShammasH:IntraocularLensPowerCalculations.p15-24,SLACK,Thorofare,NJ,20047)禰津直久:眼内レンズの術後屈折誤差予測.あたらしい眼科15:1651-1656,19988)GimbelHV,SunR:Accuracyandpredictabilityofintraocularlenspowercalculationafterlaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg27:571-576,20019)石川隆,平野東,村井恵子ほか:光線追跡法による光学的角膜表層切除術術後眼の眼内レンズパワー決定法の考案.日眼会誌104:165-169,200010)PreussnerP,WahlJ,WeitzelD:Topography-basedintraocularlenspowerselection.JCataractRefractSurg31:525-533,200511)PreussnerP,OlsenT,HoffmannPetal:Intraocularlenscalculationaccuracylimitsinnormaleyes.JCataractRefractSurg34:802-808,200812)大鹿哲郎:LASIKにおける眼光学.あたらしい眼科17:1507-1513,200013)EdmundC,SjentoltE:Thecentral-peripheralradiusofthenormalcornealcurvature.Aphotokeratoscopicstudy.ActaOphthalmol(Copenh)63:670-677,198514)橋本行弘:オートレフラクトメータとフォトケラトスコープ機種の比較.前田直之,大鹿哲郎,不二門尚編:角膜トポグラファーと波面センサー,メジカルビュー,200215)RabsilberTM,ReulandAJ,HolzerMPetal:Intraocularlenspowercalculationusingraytracingfollowingexcimerlasersurgery.Eye21:697-701,2006***