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線維柱帯切除術後眼に生じた糸状角膜炎に対し レバミピド点眼が著効した1 例

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1587.1590,2023c線維柱帯切除術後眼に生じた糸状角膜炎に対しレバミピド点眼が著効した1例大田啓貴*1近間泰一郎*2木内良明*2*1広島県厚生農業協同組合連合会尾道総合病院眼科*2広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学CACaseofFilamentaryKeratitisafterTrabeculectomyinwhichTopicalRebamipidewasE.ectiveHirokiOta1),TaiichiroChikama2)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,JAHiroshimaKouseirenOnomichiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalandHealthSciencesC背景:糸状角膜炎(.lamentarykeratitis:FK)は,角膜表面に糸状物を形成する慢性,再発性の角膜疾患であり,さまざまな眼表面の病態や疾患に関連して生じる.今回,線維柱帯切除術後眼に生じたCFKに対し,レバミピド点眼(RM)が著効した症例を報告する.症例:82歳,女性.複数回の線維柱帯切除術施行後,左眼に異物感が出現しCFKがみられたことから,0.1%フルオロメトロン点眼を行った.1カ月後に,重度の点状表層角膜症(SPK)も生じたことから,点眼をすべて中止し,ホウ酸・無機塩類配合人工涙液点眼の適時使用を行った.SPKの改善はみられたが,FKの改善に乏しいため,RM単独で加療したところ,1カ月でCFKならびにCSPKは消失し,著しい改善が得られた.考察:本症例ではマイボーム腺機能不全による涙液油層の不足やCoverhangingblebによる眼表面の摩擦亢進がみられた.RMで,角膜ムチン産生を促進し,眼表面の摩擦を低下させ,眼表面の涙液が安定したことが著効した原因と考えている.CBackground:Filamentarykeratitis(FK)C,achronicrecurrentcornealdiseasethatforms.lamentsonthecor-nealsurface,isassociatedwithvariousocularsurfacedisorders.HereinwereportacaseofFKaftertrabeculecto-myCsurgeryCthatCwasCsuccessfullyCtreatedCwithCtopicalCrebamipide.CCase:AnC82-year-oldCfemaleCinCwhomCFKCdevelopedCinCherCleftCeyeCafterCmultipleCtrabeculectomyCsurgery,CunderwentCsurgicalCremovalCofCcornealC.lamentsandadministrationof0.1%.uorometholoneeyedrops.At1-monthpostoperative,severesuper.cialpunctatekera-topathy(SPK)developed,CsoCallCmedicationsCwereCdiscontinuedCandCaCcombinedCtreatmentCofCboricCacidCandCinor-ganicsaltswasadministered.AfterSPKimproved,rebamipidealonewasadministeredtotreatthepersistentFK,whichCwasCmarkedlyCimprovedCatC1Cmonth.CConclusions:InCcasesCofCFK,CadministrationCofCrebamipideCpromotesCcornealmucinproduction,reducesfrictionontheocularsurface,andstabilizestear.uidontheocularsurface,thusresultinginmarkedimprovement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(12):1587.1590,C2023〕Keywords:糸状角膜炎,レバミピド,線維柱帯切除術,ドライアイ..lamentarykeratitis,rebamipide,trabecu-lectomy,dryeye.Cはじめに糸状角膜炎Cfilamentarykeratitis(FK)は,角膜表面に連なる糸状の構造物からなる慢性,再発性の角膜疾患である.FKの発症には,さまざまな眼表面疾患や眼瞼疾患が複合的に関与しており,そのメカニズムはいまだ明確にされていない.一般的にはドライアイが多くの症例で合併しているが,そのほかの基礎疾患として,上輪部角結膜炎などの眼表面疾患,各種眼手術後,糖尿病などの全身疾患,プロスタグランジン関連薬などの点眼薬,眼瞼下垂などがある1,2).FKにおける角膜糸状物は瞬目により牽引され,角膜の知覚神経が刺〔別刷請求先〕大田啓貴:〒722-8508広島県尾道市平原C1-10-23広島県厚生農業協同組合連合会尾道総合病院Reprintrequests:OtaHiroki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JAHiroshimaKouseirenOnomichiGeberalHospital,1-10-23,CHirahara,Onomichi-shi,Hiroshima722-8508,JAPANC激されることで,強い異物感などの症状の原因となる3).FKの治療は,角膜糸状物を物理的に除去するだけでは再発を繰り返すため,完治をめざすためには発症に関与する原因疾患を治療する必要がある.保存的な治療としては,防腐剤無添加の人工涙液の頻回点眼や,低力価副腎皮質ステロイド点眼,治療用ソフトコンタクトレンズの装着が知られている4.6).このように,さまざまな治療が行われるものの,満足いく効果が得られないことが多い疾患である.今回,線維柱帯切除術後眼に生じた難治性のCFKに対し,レバミピド懸濁点眼液(ムコスタCUD点眼液C2%CR,大塚製薬)が著効した症例を経験したので報告する.CI症例82歳,女性.両眼緑内障に対し,右眼はチューブシャント手術と線維柱体切除術を施行され,左眼は線維柱帯切除術や濾過法再建術を計C4回施行された.2019年C4月頃から左眼異物感があった.両眼前眼部所見では,マイボーム腺機能不全があり,涙液メニスカス高(tearCmeniscusheight:TMH)はCnormal,涙液層破壊時間(tearC.lmCbreak-uptime:BUT)はC5秒以下だった.右眼はC11時方向にCblebがみられた.左眼はC2時,10時方向にCoverhangingblebがみられた.左眼異物感の症状は,overhangingblebによる合併症と考えられ,摩擦緩和目的にオフロキサシン眼軟膏(タリビッド眼軟膏,参天製薬)を開始した(図1a,b).眼軟膏開始後は自覚症状の改善がみられたが,2カ月経過時点で症状が再発した.症状緩和のため,同年C9月にジクアホソルナトリウム点眼(ジクアス点眼液C3%,参天製薬)を追加したところ,同年C11月に糸状角膜炎が出現した(図1c,d).ジクアホソルナトリウム点眼が要因と考えられ,ジクアホソルナトリウム点眼を中止しレバミピド懸濁点眼液をC1日C4回で開始したところ,2020年C1月には自覚症状が改善して,FKは消失した.その後,レバミピド懸濁点眼液は自己中断していたが,角膜は寛解状態を保っていた.2021年C4月に左眼眼圧がC14CmmHgまで上昇したため,タフルプロスト点眼(タプロス点眼,参天製薬)を開始した.タフルプロスト点眼開始後,左眼異物感が生じ,眼球上方結膜の充血や上皮障害がみられた.レバミピド懸濁点眼液を再開したが,自覚症状や所見の改善はなく,上輪部角結膜炎の発症と考え,0.1%フルオロメトロン点眼液(フルメトロン点眼液C0.1%,参天製薬)を開始した.しかし,0.1%フルオロメトロン点眼開始C1カ月後に左眼異物感症状の悪化があり,左眼でびまん性に点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK)とCFKの散在がみられた(図1e).中毒性角膜症の発症と考え,点眼をすべて中止し,ホウ酸・無機塩類配合剤液(人工涙液マイティア点眼液,千寿製薬)を開始したが,点眼アドヒアランスの不良もあり,改善に乏しく,FKに対して糸状物除去術を施行しつつ,経過観察を行った(図1f).2022年C3月には,左眼眼圧がC18CmmHgまで上昇したため,マイトマイシンCCを併用した濾過法再建術(needle法)を施行した.レボフロキサシン点眼液(クラビット点眼液C0.5%,参天製薬)とC0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C3回でC1週間点眼したが,所見の悪化はなかった.2022年C5月にはSPKの一定の改善がみられ,眼表面の状態は薬剤毒性が解消され,ドライアイに伴うCSPKと糸状角膜炎のみになったと判断したことから,レバミピド懸濁点眼液をC1日C2回で開始したところ,2022年C6月にはCSPKとCFKは消失し,自覚症状は改善した(図1g,h).その後,眼圧コントロールは良好で,自覚症状は落ち着いており,FKの再発もみられていない.CII考察糸状物の構造は,ムチンと変性した角膜上皮細胞により構成されている.角膜上皮障害が原因となり上皮細胞の成分周囲にムチンが絡みつき,瞬目による摩擦ストレスで基底細胞レベルから上皮が.離されることにより形成される7).FKは,多様な疾患背景のもとに生じるために,対症的な治療が行われることが多いが,完治をめざすためには所見から病態を理解して治療方針を考慮する必要がある.本症例は,両眼で線維柱体切除術を施行し,右眼は経過中にラタノプラスト(キサラタン点眼液C0.005%,ヴィアトリス製薬)やブリモニジン酒石酸塩液(アイファガン点眼液C0.1%,千寿製薬)を点眼し,マイトマイシンCCを併用した濾過法再建術(needle法)を施行後したが,異物感の症状やCFKの発症はなかった.左眼は複数回の線維柱帯切除術後で,bleb周囲の部分的輪部機能不全による上皮細胞の供給不足をきたしていると考えた.マイボーム腺機能不全による涙液油層の不足やCblebによる角膜表面の摩擦亢進もあった.ドライアイによる異物感の症状に対しジクアホソルナトリウム点眼を開始したが,ジクアホソルナトリウム点眼は杯細胞からのムチン分泌を促し,ムチン/水分比の増加や涙液の粘性の増加を促すことで,結果的に摩擦亢進を引き起こし,糸状物が形成される可能性があると考えられている8).本症例でもジクアホソルナトリウム点眼を使用した際にCFKの発症を招いた.本来摩擦を生じない間隙(Kessingspace)9)がCoverhangingblebによって狭められ,瞬目摩擦が亢進した場合もしくはCbleb周囲に異所性涙液メニスカスが形成され,meniscus-inducedCthin-ningが起こった場合10),bleb周囲に優位にCFKを発症すると考えられる.しかし,本症例では当初角膜耳側の中央から下方優位に糸状物がみられた.10時方向よりもC2時方向のblebの丈が高いことから,耳側で摩擦亢進が強くなったと推測した.また,ドライアイによる涙液安定性の低下が背景にあり,摩擦亢進と強く相互作用する場所が角膜耳側の中央図1本症例の前眼部所見とその経時的変化a,b:2時,10時方向にCoverhangingblebがある.Cc,d:ジクアホソルナトリウム点眼投与後,耳側優位に角膜糸状物が発症している.Ce:0.1%フルオロメトロン点眼後,角膜ほぼ全面にCSPKと糸状角膜炎がある.中毒性角膜症と考え,全点眼中止し,人工涙液マイティアR投与開始した.f:人工涙液マイティアR投与C2週目.改善に乏しく,マイボーム腺機能不全による影響が考えられたため,ホットパックを併用開始した.Cg:人工涙液マイティア投与C21週目.一定の改善がある.従来のドライアイによる点状表層角膜症(SPK)や糸状角膜炎(FK)と考え,レバミピド懸濁点眼液投与開始した.h:レバミピド懸濁点眼液投与C5週目,SPKと糸状角膜炎はほぼ消失している.から下方であったことから,FKが下方に優位にみられたのから糸状角膜炎が再発した.結膜充血や点状の結膜上皮障害ではないかと考えているが,FKの発症部位に関しては今後があり,上輪部角結膜炎の発症を確認したため,炎症性変化さらなる検討が必要である.レバミピド懸濁点眼液でいったに対しC0.1%フルオロメトロン点眼を開始した.しかし,0.1んはCFKの寛解状態にあったが,タフルプロスト点眼開始後%フルオロメトロン点眼により角膜上皮細胞の増殖が抑制され,中毒性角膜症を引き起こしたと推察した.ホウ酸・無機塩類配合剤液で薬剤毒性を解消し,SPKの改善を試みたが,マイボーム腺機能不全による涙液油層の不足やCbleb周囲の部分的輪部機能不全による上皮細胞の供給不足,また点眼アドヒアランスの不良もあり改善に時間を要したと考えられる.薬剤毒性が解消された後に,遷延するCSPKやCFKに対し,レバミピド懸濁点眼液単剤投与を行ったところ,著明に改善した.FKは,眼表面摩擦の亢進が要因となることが報告されている11).本症例は,左眼でCoverhangingblebによる眼表面摩擦の亢進もあった.レバミピド懸濁点眼液は,結膜杯細胞の増加作用や,角膜上皮での膜結合型ムチンの増加作用,角膜上皮創傷治癒促進作用,眼表面摩擦の軽減作用などが報告されている12.14).本症例では,すべての点眼薬の影響をいったん排除した後に,レバミピド懸濁点眼液によりムチン産生を促進し,眼表面の涙液を安定させ,眼表面の摩擦を低下させたことが糸状角膜炎に著効した原因ではないかと考えている.今回の症例では,緑内障点眼を再開することなく眼圧を保つことができている.しかし,緑内障点眼薬の多剤併用時に生じるCFKに対するレバミピド懸濁点眼液投与の有効性については,今後の検討課題である.文献1)KinoshitaCS,CYokoiN:FilamentaryCkeratitis.CtheCcornea,Cfourthedition(FosterCCS,CAzarCDT,CDohlmanCCHeds)C,Cp687-692,Philadelphia,20052)DavidsonCRS,CMannisMJ:FilamentaryCkeratitis.CtheCcor-nea,secondedition(KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJeds),p1179-1182,ElsevierInc,20053)HamiltonW,WoodTO:Filamentarykeratitis.AmJOph-thalmolC93:466-469,C19824)AlbietsCJ,CSan.lippoCP,CTroutbeckCRCetal:ManagementCofC.lamentaryCkeratitisCassociatedCwithCaqueous-de.cientCdryeye.OptomVisSciC80:420-430,C20035)MarshCP,CP.ugfelderSC:TopicalCnonpreservedCmethyl-prednisoloneCtherapyCforCkeratoconjunctivitisCsiccaCinCSjogrensyndrome.OphthalmologyC106:811-816,C19996)Bloom.eldSE,GassetAR,ForstotSLetal:Treatmentof.lamentarykeratitiswiththesoftcontactlens.AmJOph-thalmolC76:978-980,C19737)TaniokaCH,CFukudaCK,CKomuroCACetal:InvestigationCofCcornealC.lamentCinC.lamentaryCkeratitis.CInvestCOphthal-molVisSciC50:3696-3702,C20098)青木崇倫,横井則彦,加藤弘明ほか:ドライアイに合併した糸状角膜炎の機序とその治療の現状.日眼会誌C123:C1065-1070,C20199)KnopCE,CKnopCN,CZhivovCACetal:TheClidCwiperCandCmuco-cutaneousCjunctionCanatomyCofCtheChumanCeyelidmargins:anCinCvivoCconfocalCandChistologicalCstudy.CJAnatC218:449-461,C201110)横井則彦:涙液メニスカスの観察.ドライアイ診療CPPP(ドライアイ研究会),p25-27,メジカルビュー社,200211)北澤耕司,横井則彦,渡辺彰英ほか:難治性糸状角膜炎に対する眼瞼手術の検討.日眼会誌C115:693-698,C201112)UrashimaCH,COkamotoCT,CTakejiCYCetal:RebamipideCincreasesCtheCamountCofCmucin-likeCsubstancesConCtheCconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.CorneaC23:613-619,C200413)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreas-esCtheCmucin-likeCglycoproteinCproductionCinCcornealCepi-thelialcells.JOculPharmacolTherC28:259-263,C201214)TakahashiY,IchinoseA,KakizakiH:TopicalrebamipidetreatmentCforCsuperiorClimbicCkeratoconjunctivitisCinCpatientswiththyroideyedisease.AmJOphthalmolC157:C807-812,C2014C***

レバミピド点眼液が奏効した糸状角膜炎の3症例

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1369.1373,2014cレバミピド点眼液が奏効した糸状角膜炎の3症例池川和加子山口昌彦白石敦坂根由梨原祐子鄭暁東鈴木崇井上智之井上康大橋裕一愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野EfficacyofRebamipideOphthalmicSolutionforTreatment-ResistantFilametaryKeratitis:ThreeCaseReportsWakakoIkegawa,MasahikoYamaguchi,AtsushiShiraishi,YuriSakane,YukoHara,XiaodongZheng,TakashiSuzuki,TomoyukiInoue,YasushiInoueandYuichiOhashiDepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine背景:糸状角膜炎(filamentarykeratitis:FK)は,角膜上皮障害を起点に角膜糸状物を形成する慢性疾患で,強い異物感を伴い治療に難渋することも多い.今回レバミピド点眼液(RM)が奏効した糸状角膜炎の3例を報告する.症例:症例1:79歳,女性.Sjogren症候群.両総涙小管閉塞にて涙小管チューブ挿入術後にドライアイが顕性化し,角膜全面にFKが多発した.ヒアルロン酸点眼,ベタメタゾン点眼,ソフトコンタクトレンズ(SCL)連続装用にて軽快せず,RMを追加したところSCL非装用でもFKの出現は認められず,RM単独で18カ月間寛解状態である.症例2:90歳,男性.両角膜実質炎後混濁の角膜移植後で,0.1%フルオロメソロン点眼(FL)が投与されている.ドライアイによる点状表層角膜症(SPK)が出現し,ジクアホソルナトリウム点眼(DQ)を追加したところFKが出現した.DQを中止したが軽快せず,RMを開始したところFKは消失し,RM単独で18カ月間寛解状態である.症例3:67歳,女性.右顔面神経麻痺の既往.最初右下方,両角膜下方にFKが出現するようになり,DQ,FLを投与したが軽快せず,DQをRMに変更したところFKは消失し,RM単独で15カ月間寛解状態である.結論:従来の治療に抵抗性のFKに対してRMは有効であると考えられた.Threecasesoffilamentarykeratitis(FK)inwhichrebamipideophthalmicsolution(RM)waseffectivearereported.Case1:FKappearedalloverthebilateralcornealsurfaces.SinceFKtherapycomprisinghyaluronicacid,betamethasoneophthalmicsolutionandsoftcontactlens(SCL)continuouswearwasnoteffective,RMwasadministrated.Subsequently,FKhasbeencontrolledwithoutSCLfor18months,withRMonly.Case2and3:DiquafosolNaophthalmicsolution(DQ)and0.1%fluorometholonewereadministratedfordry-eyetherapy;howeverFKdidnotimprove.AfterDQwasreplacedwithRM,FKimprovedimmediatelyandhasbeencontrolledfor18monthsinCase2and15monthsinCase3,withRMonly.RMisefficaciousforconventionaltreatment-resistantFK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1369.1373,2014〕Keywords:糸状角膜炎,レバミピド点眼液,ドライアイ,角膜上皮障害,炎症,ムチン.filamentarykeratitis,rebamipideophthalmicsolution,dryeye,cornealepithelialdisorder,inflammation,mucin.はじめに糸状角膜炎(filamentarykeratitis:FK)は,種々の眼表面疾患や眼瞼疾患が複合的に関与して発症し,眼手術後や眼外傷後などに発症頻度が高まることが知られている1,2).FKの治療は,綿棒などにより角膜糸状物を物理的に除去した後,多くの症例で合併しているドライアイに対して,人工涙液点眼やヒアルロン酸点眼などを用い,ほとんどの例において眼表面炎症が病態に関与しているため,低濃度ステロイド点眼やシクロスポリン点眼を併用する.しかし,これらの保存療法だけでは再発を繰り返す場合も多く,バンデージ効果を図るためにメディカルユースソフトコンタクレンズ(MSCL)の連続装用を行うが,寛解状態を保つためには,〔別刷請求先〕山口昌彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野Reprintrequests:MasahikoYamaguchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(121)1369 しばしばMSCLから離脱困難となり,継続中に角膜感染症の発生などが問題となる.このように,FKに対してはさまざまな治療が行われるものの,治癒させるのはきわめて困難な疾患であるといえる.レバミピド点眼液(ムコスタRUD点眼液2%,大塚製薬,以下RM)は,2012年1月にドライアイ治療薬として発売され,実験的には,結膜杯細胞増加作用3),角膜ムチン様物質増加作用3,4),角膜上皮創傷治癒促進作用3,4)を有することが報告されている.また臨床的にも,ドライアイの自他覚症状を改善させる5,6)ことが明らかになっており,新しい作用機序をもったドライアイ治療薬として注目されている.今回筆者らは,これまでの既存の治療には抵抗性であったFKに対し,RMを投与することによって,長期寛解状態に持ち込めた3症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕69歳,女性.既往例として,Sjogren症候群が存在する.2006年10月,両側の総涙小管狭窄症による流涙症に対して,両側の鼻涙管シリコーンチューブ挿入術を施行した.2008年5月から両眼の乾燥感を自覚し始め,軽度の角結膜上皮障害がみられたため,人工涙液点眼(ソフトサンティア点眼液,参天製薬)と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレインR点眼液0.1%,参天製薬)をそれぞれ両眼に1日6回投与し,途中からヒアルロン酸点眼液を防腐剤無添加の0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,日本点眼薬研究所)に変更して経過観察していた.2012年2月8日に左眼角膜下方にFKが出現し異物感が増強してきたため,オフロキサシン眼軟膏(タリビッドR眼軟膏,参天製薬,以下TV)を開始したが軽快せず,2週間後には左眼角膜中央にも多数のFK(図1b)がみられるようになってきたため,消炎が必要と考えて0.1%ベタメタゾン点眼液(リンベタPF眼耳鼻科用液0.1%,日本点眼薬研究所)を左眼に1日3回で開始した.しかし,左眼はFKによる異物感が軽快しないため,MSCL連続装用を開始したところ,異物感はコントロール可能になり,左眼の0.1%ベタメタゾン点眼は中止した.4月5日には右眼にもFKを認めるようになり異物感が増強してきたため(図1a),両眼ともMSCL連続装用となった.その後,右眼はMSCL装用を中止しても異物感のコントロールは可能であったが,左眼はMSCL装用を止めるとFKが増悪する状態を繰り返したため,左眼はMSCL継続のまま6月21日にRM両眼1日4回を開始した.右眼は8月2日以降FKがほとんど認められなくなり(図1c),左眼は9月6日以降MSCLを中止してもFKの再発はみられず(図1d),異物感も消失した.その後,ときに軽微なFKの再発がみられるものの,強い異物感を訴えるようなFKの出現はなくなり,RM単独投与で18カ月間,寛解状態を維持している.〔症例2〕60歳,男性.両眼の角膜実質炎後の角膜混濁に対して,右眼は表層角膜移植術,左眼は全層角膜移植術をacbd図1症例1a:右眼FK多発期.角膜中央.下方にFKを認める.b:左眼FK多発期.角膜ほぼ全面にFKを認める.c:右眼RM投与6週目.FKはほぼ消失している.d:左眼RM投与11週目.FKはほぼ消失している.1370あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(122) acbdacbd図2症例2a:右眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.b:左眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.c:右眼RM投与3週目.FKは消失している.d:左眼RM投与3週目.FKはほぼ消失している.受けている.2008年ごろから両眼のSPKが増加し,FKを繰り返すようになった.2011年4月,右眼に再度表層角膜移植を行い,0.1%フルオロメソロン点眼液(フルメトロンR点眼液0.1%,参天製薬,以下FL)とレボフロキサシン点眼液(クラビットR点眼液0.5%,参天製薬)を1日3回投与していた.2012年1月,両眼角膜中央の点状表層角膜症(superficialpunctatekeratitis:SPK)が軽快せず,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)も両眼とも1秒と短縮していたため,ドライアイ改善の目的でジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%,参天製薬,以下DQ)を追加したが,同年3月に右眼角膜下方に,4月に左眼角膜下方にFKを認めるようになった(図2a,b).FKが改善しないため,DQとFLを中止し,RMを両眼に1日4回で開始したところ,投与後3週目に両眼のFKが消失した(図2c,d).その後,RM投与のみとしたが,自覚症状を伴うようなFKの出現はなくなり,RM単独投与で18カ月間,寛解状態を保っている.〔症例3〕57歳,女性.右側顔面神経麻痺の既往はあるが,閉瞼状態は回復しており,明らかな兎眼はみられなかった.2011年7月,右眼の充血,流涙感,異物感を訴え,両眼のBUTは1秒,両角膜下方にSPKが存在し,右眼角膜下方にはFKがみられたため,ドライアイ治療の目的でDQとFLを開始した.その後,右眼のFKは出現,消失を繰り返していたが,2012年6月には左眼角膜下方にもFKを認(123)めるようになったため,TVOを追加した(図3a,b).同年8月再診時,両眼のFKが軽快しないため,DQを中止し,RMを両眼に1日4回で開始したところ,投与2週間目にFKは消退した(図3c,d).その後,RM単独投与で15カ月間,寛解状態を維持している.3症例のまとめを表1に示す.II考察Taniokaらは,臨床例から得られた角膜糸状物サンプルを免疫組織化学的に解析し,その発生メカニズムについて詳細に考察している7).すなわち,角膜上皮障害を起点として,上皮細胞成分をコアにその周囲にムチンが絡みつき,瞬目に伴う摩擦ストレスの影響下に基底細胞レベルから上皮が.離されることにより形成されるという.その結果,瞬目とともに糸状物が動くことで角膜知覚が刺激され,持続的な異物感を伴うようになる.したがって,治療戦略としては,起点となっている角膜上皮障害を速やかに修復させるとともに,炎症などによる分泌型ムチンの増加を抑制し,ドライアイやその他の要因による涙液クリアランスの悪化を改善させ,炎症起因物質やムチンをできる限り早く眼表面から排除することが必要である.しかし,SCLによる眼表面保護効果を除けば,ヒアルロン酸など,これまでの点眼薬治療では,上記の病態を持続的に改善させるのは困難であった.RMは,動物実験や培養角膜上皮による実験から,結膜杯あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141371 acbdacbd図3症例3a:右眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.b:左眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.c:右眼RM投与2週目.FKは消失している.d:左眼RM投与2週目.FKは消失している.表1糸状角膜炎3症例の所見と治療(まとめ)症例1(79歳,女性)症例2(90歳,男性)症例3(67歳,女性)全身疾患Sjogren症候群――眼疾患の既往総涙小管閉塞にて両)涙小管チューブ挿入術後角膜実質炎にて両)角膜移植後右)顔面神経麻痺(閉瞼不全なし)FK出現部位両)角膜全面,右<左両)下方,右≒左両)下方,右≒左RM投与前治療軟膏――オフロキサシン眼軟膏ステロイド点眼0.1%ベタメタゾン点眼0.1%フルオロメトロン点眼0.1%フルオロメトロン点眼ドライアイ治療0.1%ヒアルロン酸点眼ジクアホソル点眼ジクアホソル点眼SCL装用+――RM投与後FK消失までの期間右)6週,左)11週両)3週両)2週RM投与後FK寛解持続期間18カ月18カ月15カ月FK:filamentarykeratitis,RM:rebamipideophthalmicsolution.細胞増加作用3),角膜ムチン様物質増加作用3,4),角膜上皮創傷治癒促進作用3,4)が確認されている.また,治験における結果から,臨床的にもドライアイの治療に有効であることが報告されている5,6).さらに,抗炎症作用を介して,角膜上皮の治癒促進に働く可能性が示されている8,9).RMは,分泌型および膜結合型ムチンの増加による涙液安定性の向上と抗炎症作用を含む角膜上皮創傷治癒作用によって,FKの起点となる遷延性の角膜上皮障害を改善させ,FKの再発を抑制している可能性がある.症例2と3においては,ドライアイによる角膜上皮障害の1372あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014悪化と考えられたため,DQを追加したがFKは改善しなかった.DQには,RMと同様に分泌型ムチンおよび膜結合型ムチンを増やす作用があり,そのうえ,結膜上皮細胞からの水分移動作用があるため,RMと同様に涙液安定性を向上させて,ドライアイを改善し,FK抑制の方向へ働くことが予想される.しかし,この2症例ではDQの追加投与では改善がみられず,RMへの変更によって改善が得られた.このことは,RMが眼表面ムチンを増やすうえに,角膜上皮障害の治癒促進という作用も持ち合わせているため,FKの発症をその機序のより上流で抑制している可能性があるのではない(124) かと推察される.また,3症例とも最終的には,ヒアルロン酸点眼やステロイド点眼を使用せずにRMのみでFKがコントロールできている点においても,FKに対するRMの有効性が示されているところであると思われた.他方,眼瞼下垂や眼瞼内反症などの眼瞼疾患においては,涙液クリアランスの悪化や眼表面摩擦の亢進がFK発症の原因になることが知られている10).これらのケースではFKの発症部位もドライアイによるものとは異なっており,観血的な眼瞼異常の是正により初めて寛解する.今回の3症例には,眼瞼下垂や眼瞼内反症などの要因はみられなかったが,眼瞼異常が主因となって生じるFKに対するRM投与の有効性については今後の検討課題である.以上,種々の治療に対する反応が不良で,RMへの変更投与が奏効したFKの3症例を提示した.RMは,その薬理作用によって種々のFKの発症要因を抑制し,長期間にわたって自覚症状および他覚所見を寛解させるのではないかと考えられた.文献1)KinoshitaS,YokoiN:Filamentarykeratitis.TheCorneafourthedition(FosterCS,AzarDT,DohlmanCHeds),p687-692,Philadelphia,20052)DavidsonRS,MannisMJ:Filamentarykeratitis.Cornea2ndedition(KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJeds),p1179-1182,ElsevierInc,20053)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,20044)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreasesthemucin-likeglycoproteinproductionincornealepithelialcells.JOculPharmacolTher28:259-263,20125)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Rebamipide(OPC-12759)inthetreatmentofdryeye:arandomized,double-masked,multicenter,placebo-controlledphaseIIstudy.Ophthalmology119:2471-2478,20126)KashimaT,AkiyamaH,MiuraFetal:Resolutionofpersistentcornealerosionafteradministrationoftopicalrebamipide.ClinOphthalmol6:1403-1406,20127)TaniokaH,YokoiN,KomuroAetal:Investigationofcornealfilamentinfilamentarykeratitis.InvestOphthalmolVisSci50:3696-3702,20098)KimuraK,MoritaY,OritaTetal:ProtectionofhumancornealepithelialcellsfromTNF-a-induceddisruptionofbarrierfunctionbyrebamipide.InvestOphthalmolVisSci54:2572-2760,20139)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:RebamipideincreasesbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancornealepithelialcells.BrJOphthalmol97:912-916,201310)北澤耕司,横井則彦,渡辺彰英ほか:難治性糸状角膜炎に対する眼瞼手術の検討.日眼会誌115:693-698,2011***(125)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141373