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携帯式眼圧計アイケアHOMEの精度と再現性の検討

2017年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(11):1610.1616,2017c携帯式眼圧計アイケアHOMEの精度と再現性の検討塩川美菜子*1方倉聖基*1井上賢治*1狩野廉*2桑山泰明*2*1井上眼科病院*2福島アイクリニックCEvaluatingthePrecisionandReproducibilityofSelf-measuredIntraocularPressurewithIcareHOMEReboundTonometerMinakoShiokawa1),SeikiKatakura1),KenjiInoue1),KiyoshiKano2)andYasuakiKuwayama2)1)InouyeEyeHospital,2)FukushimaEyeClinic目的:アイケアCHOMEによる眼圧自己測定の精度と再現性,問題点を検討する.対象および方法:井上眼科病院と福島アイクリニックの有志職員C67例C134眼(平均年齢C31.8±10.7歳,利き手:右C61例,左C6例)を対象とした.アイケアCHOMEによる眼圧自己測定を左右各々C5回の測定値が得られるまで連続で行い,平均眼圧とCGoldmann圧平式眼圧計(GAT)による眼圧を比較した.測定値の変動幅と変動係数により再現性を評価した.測定エラーの回数を記録した.結果:アイケアCHOMEの測定値はCGATの測定値より右眼でC1.5CmmHg,左眼はC1.2CmmHg過小評価だった.変動係数は右眼C8.7±5.8%,左眼C10.5±6.8%,変動幅は右眼C2.3±1.7CmmHg,左眼C2.9±1.9CmmHgで左眼が有意に大きかった(p=0.0194).エラー回数は右眼がC1.8±3.5回,左眼がC3.3±4.8回で左眼が有意に多かった(p=0.0161).結論:アイケアCHOMEによる眼圧自己測定の精度は比較的良好だが,左眼の測定が課題である.CPurpose:Toevaluatetheprecision,variationandproblemsofself-measuringintraocularpressure(IOP)withIcareHOMEreboundtonometer.MethodsandSubjects:Botheyesof67normativevolunteersfromInouyeEyeHospitalCandCFukushimaCEyeCClinicCwereCenrolled.CIOPsCwereCself-measuredCusingCtheCIcareCHOME.CAllCsubjectsCcontinuedtomeasureuntilthecompletionof5measurements.Additionally,IOPwithGoldmannapplanationtonom-etry(GAT)wasCrecorded,CasCwereCtheCnumberCofCmeasurementCerrors.CResults:TheCmeanCdi.erenceCbetweenIcareCHOMECandCGATCmeasurementsCofCRightCeye(R)andCLeftCeye(L)wereC.1.5CmmHgCandC.1.2CmmHg,respectively.IcareHOMEunderestimatedIOPincomparisonwithGAT.Thecoe.cientofvariation(CV)was8.7C±5.8%(R)andC10.5±6.8%(L).CMeasurementCerrorCincidencesCweC1.8±3.5(R)andC3.3±4.8(L),Cmeasurementerrorsoccurringmorefrequentlywiththelefteyethanwiththeright(p=0.0161).CConclusion:IcareHOMEmaybeCusefulCasCequipmentCenablingCpatientsCtoCself-measureCIOP.CHowever,Cself-measuringCtheCIOPCofCtheCleftCeyeCrequirestraining.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(11):1610.1616,C2017〕Keywords:アイケアHOME,眼圧,自己測定,変動,測定エラー.IcareHOMEreboundtonometer,intraocularpressure,self-measurement,variation,measurementerrors.CはじめにアイケアCHOME(icareCFinland社製)は眼科医の指導のもと,患者自身による眼圧自己測定を目的に開発された携帯式眼圧計である.先行のアイケアCONEに改良を加えた機器で,わが国ではC2014年C10月に承認され,2015年C2月に発売された.アイケア1,2)(icareCFinland社製)と同様のCreboundtonometerで,プローブが角膜にあたったときの動きを電気信号へ変換することで眼圧を測定する.点眼麻酔不要で測定でき,プローブの先端が小さいため瞼裂が狭い症例や小児でも測定が可能である.アイケアCHOMEの外観を図1aに,背面パネルを図1bに示す.大きさはC11×8×3cm,重さはC150gでアイケアCONEと変わらない.測定方法もアイケアCONEと同様に直径C1.73mmのプラスチック製のヘッドがついているディスポーザブ〔別刷請求先〕塩川美菜子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:MinakoShiokawa,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN1610(126)b図1アイケアHOMEの外観a:全体,b:背面パネル.Cルのプローブを本体にセットし,ヘッドが被験者の角膜頂点からC4.8Cmmに位置するように額,頬あてを調整のうえ,被験者自身が壁掛け鏡を見ながらプローブが角膜中央に正面から垂直にあたるようにアイケアCHOMEを保持し,測定ボタンを押す.測定はC1回モードと通常モードがある.通常モードではC6回測定(角膜にC6回,プローブのヘッドがあたる)をC1セットとし,6回すべてが正しく測定され,測定値が安定していれば測定が完了し本体背面パネルの「DONE」の上方にチェックマークが緑で点灯し,測定結果が本体に内蔵されたメモリに日時とともに記録される.睫毛にプローブがあたる,ポジションが悪いなどにより正しく測定できていないときや測定結果にばらつきがあると,背面パネルの「REPEAT」の上方に繰り返しを示す矢印が橙色で点灯,あるいは背面パネルのどこにも点灯,点滅しない状態で測定エラーとなり,結果は記録されず再測定となる.アイケアCONEからの改良点は,センサーで左右の測定眼を自動で識別する機能と測定位置が正しいかをプローブベースのCLEDで知らせる機能(正しければ緑が点灯し測定可,正しくなければ赤が点灯し測定不可)が加わったことである.反対にアイケアCONEでは内蔵メモリに測定結果が保存されるほかに,本体背面パネルにも眼圧(5.50CmmHg)をC11段階に分けて表示されるので,検者,被験者はおおよその眼圧測定結果をその場で知ることができたが,アイケアCHOMEでは測定結果は本体のパネルに表示されないため,IcareLinkソフトウエアを使用してパソコンで確認しない限り測定結果を知ることはできない.アイケアCONEはCGoldmann圧平式眼圧計(GoldmannCappla-nationCtonometer:GAT)との互換性が報告されており3,4),筆者らも健常者を対象にアイケアCONEを用いてC24時間眼圧自己測定を行い報告した5).今回はアイケアCHOMEによる眼圧自己測定を行い,その精度,再現性と問題点を検討した.CI対象および方法本研究の趣旨に賛同のうえ,2015年C3.8月に文書で同意を得た全身疾患,眼疾患を有しない井上眼科病院および福島アイクリニックの職員C67例C134眼を対象とした.屈折矯正手術の既往がある症例は除外した.性別は男性C19例,女性48例,年齢はC20.67歳(平均年齢C31.8C±10.7歳)であった.方法は,まず被験者に合わせてアイケアCHOMEの額,頬あてを調整し,操作と測定方法を口頭で指導した後に眼圧自己測定を数回練習し測定ができることを確認した.指導と練習は医師あるいは視能訓練士が行った.その後,右眼,左眼の順で通常モードで測定を開始しC5回測定が完了するまで連続で測定を繰り返した.さらにC5回の測定が完了するまでの測定エラーの回数を記録した.アイケアCHOMEによる眼圧自己測定時間の前あるいは後,15分以内にCGATによる眼圧測定をC1回行った.GATによる眼圧測定は井上眼科病院ではC2名,福島アイクリニックではC1名の眼科医が行った.背景因子として矯正視力,屈折,中心角膜厚(centralcor-nealthickness:CCT),瞼裂幅の測定と利き手を調査した.CCTの測定はポータブル超音波角膜厚測定装置で行い,井上眼科病院はCTOMEY社製CAL4000,福島アイクリニックはCTOMEY社製CSP100を用いた.全測定終了後にアイケアCHOMEによる眼圧自己測定についてアンケート調査を行った.項目は以下のとおりである.1)操作,取扱いはどうでしたか①簡単,②どちらかといえば簡単,③どちらかといえば難しい,④難しい2)測定は簡単でしたか①簡単,②どちらかといえば簡単,③どちらかといえば難しい,④難しい3)測定は怖かったですか①怖い,②怖くない4)左右どちらが測定しやすかったですか①右,②左,③どちらでもない5)患者でも自己測定が可能であると思いますか①できる,②できない6)自由記載測定結果の分析は以下について行った.1)アイケアCHOMEの測定値とCGATの測定値の比較アイケアCHOMEのC5回の測定結果から平均眼圧(以下,アイケア平均眼圧)を算出し,GATによる眼圧測定値と比較した.統計学的検討はCSpearman順位相関の係数を求め,さらにCBland-AltmanPlotsのC95%信頼区間を用いて評価した.2)アイケアCHOMEの再現性アイケアCHOMEによる眼圧自己測定値の再現性を検討するために変動幅(最高眼圧値C.最低眼圧値)と変動係数((標準偏差/平均値)C×100)を求めた.さらに左右眼の変動幅と変動係数を比較した.統計学的検討は対応のあるCt検定を用いた.3)測定エラーの回数測定エラーの回数を左右眼で比較した.統計学的検討には対応のあるCt検定を用いた.4)アイケアCHOMEによる眼圧自己測定の測定エラーの回数,変動幅と背景因子との相関測定エラーの回数と年齢,測定エラーの回数と変動幅,測定エラーの回数と瞼裂幅,変動幅と年齢,変動幅と瞼裂幅についてCSpearman順位相関の係数を求めた.5)アイケア平均眼圧とCCCTアイケア平均眼圧とCCCTについてCSpearman順位相関の係数を求めた.いずれにおいても左右眼の比較についての統計解析は対応のあるCt検定を用い,有意水準はCp<0.05とした.なお本研究は井上眼科病院倫理委員会の承認を得て行った.CII結果1.背.景.因.子矯正視力,屈折値,瞼裂幅,CCT,GATによる眼圧を表1に示す.矯正視力はClogMAR視力で右眼C.0.07±0.03,左眼.0.04±0.25,屈折値は右眼C.2.9±2.8D,左眼C.2.7±3.1D,瞼裂幅は右眼C9.9C±1.4mm,左眼C9.7C±1.3Cmmであった.CCTは右眼C541.9C±40.9μm,左眼C547.1C±36.0Cμm,GATによる眼圧は右眼C13.4C±1.9CmmHg,左眼C13.2C±1.9CmmHgであった.瞼裂幅が右眼のほうが左眼に比べて有意に大きいほかは左右眼に差はなかった.利き手は右がC61例,左がC6例であった.C2.アイケア平均眼圧とGATによる眼圧測定値の比較アイケア平均眼圧とCGATの眼圧は右眼が相関係数(corre-lationCcoe.cient:以下,r)r=0.455,p<0.0001,左眼がCr=0.491,p<0.0001でいずれも中等度の有意な相関があった(図2).Bland-Altman解析を図3に示す.右眼は平均がC.1.5CmmHg,95%信頼区間はC.6.8.3.9CmmHg,左眼は平均が.1.2mmHg,95%信頼区間はC.6.3.3.8CmmHgであり,右眼,左眼ともにアイケアCHOMEがCGATよりも過小評価表1症例の背景因子右眼左眼p矯正視力(logMAR)C.0.07±0.03(C.0.08.C0.05)C*.0.04±0.25(C.0.08.C2.0)0.5002屈折値(D)C.2.9±2.8(+1.5.C.11.5)C.2.7±3.1(+5.25.C.11.75)C0.5152瞼裂幅(mm)C9.9±1.4(6.12)C9.7±1.3(6.12)C0.0064CCT(Cμm)C541.9±40.9(4C03.6C88)C547.1±36.0(4C72.6C61)C0.0839GATによる眼圧(mmHg)C13.4±1.9(9.19)C13.2±1.9(9.18)C0.1024*弱視C1眼を含む.右眼左眼20r=0.455p<0.0001r=0.491p<0.0001n=6720アイケ平均眼圧(mmHg)151015105551015205101520GAT(mmHg)GAT(mmHg)図2アイケアHOMEとGATの眼圧測定値の相関(128)右眼左眼アイケア平均-GAT(mmHg)86420-2-4-6-8-1061116(GAT+アイケア平均)/2(mmHg)図3Bland.Altman解析によるアイケアHOMEとGATの眼圧測定値の比較右眼左眼右眼左眼6~10mmHg5mmHg4.5%0mmHg6~10mmHg0mmHg1.5%1.5%5mmHg7.5%1.5%4mmHg7.5%7.5%4回1.5%平均:1.8±3.5回平均:3.3±4.8回**p=0.0161対応のあるt検定図4アイケアHOMEによる5回の眼圧自己測定の変動幅表2測定エラーの回数および測定値の変動幅と年齢,瞼裂幅の関係右眼左眼Cprprエラー回数と変動幅C0.2858C.0.133C0.7780C0.035エラー回数と瞼裂幅C0.4741C.0.089C0.3048C0.128エラー回数と年齢C0.1848C.0.164C0.3561C.0.115変動幅と瞼裂幅C0.4474C.0.095C0.1938C.0.161変動幅と年齢C0.1258C0.189C0.0191C0.285であった.C3.アイケアHOMEによる眼圧自己測定値の再現性アイケア平均眼圧は右眼C11.9C±3.0mmHg,左眼C12.0C±2.9mmHgであった.眼圧変動幅がC0.2CmmHgと少なかった症例は右眼で約C70%であった.左眼はC50%に満たなかった(図4).平均変動幅は右眼C2.3C±1.7mmHg,左眼C2.9C±1.9mmHgで左眼が有意に大きかった(p<0.0194).平均変動係数は右眼C8.7C±5.8%,左眼C10.5C±6.8%,変動係数C10%以図5アイケアHOMEによる5回の眼圧自己測定における測定エラーの回数下の症例は右眼でC74.6%,左眼でC55.2%であった.C4.測定エラーの回数測定エラーの回数は右眼がC1.8C±3.5回,左眼がC3.3C±4.8回で左眼が有意に多かった(p=0.0161,図5).C5.測定エラーの回数および変動幅と背景因子の相関(表2)測定エラーの回数と変動幅,瞼裂幅,年齢,および変動幅と瞼裂幅の間に有意な相関はなかった.変動幅と年齢では右眼は相関がなかったが,左眼に有意な弱い相関があった(r=0.281,p<0.05).右利き(n=61)の症例では右眼はC1.8C±3.5回,左眼はC3.5C±5.0回と左眼の測定エラー回数が有意に多かった(p<0.05).左利きの症例(n=6)では右眼はC1.0C±1.7回,左眼はC1.2C±1.2回で有意差はなかった.C6.アイケア平均眼圧とCCT(図6)アイケア平均眼圧とCCCTは右眼においてはCr=0.004,p=0.9758で相関はなかった.左眼においてはCr=0.256,p=0.0361で弱い相関があった.右眼左眼p=0.9758r=0.00420p=0.0361r=0.256201818y=0.0039x+9.8282y=0.0207x+0.7058アイケア平均眼圧(mmHg)16141210864アイケア平均眼圧(mmHg)161412108642200400500600700400500600700中心角膜厚(μm)中心角膜厚(μm)図6アイケア平均眼圧とCCTの関係■簡単操作,取り扱いはどうか■どちらかといえば簡単■どちらかといえば難しい測定は簡単か■難しい0%50%100%■怖くない測定は怖かったか■怖い0%50%100%■右左右どちらが■どちらでもない測定しやすいか■左0%50%100%患者でも自己■できる測定できるか■できない0%50%100%図7眼圧自己測定後のアンケート調査結果7.アンケート調査(図7)60例から回答を得た.1)「操作,取扱い」については約C80%の症例が難しくないと回答した.2)「測定」についてはC70%の症例が測定は難しくないと回答した.3)測定は「怖くなかった」がC45例C75%であった.4)測定しやすかったのは「右眼」または「どちらでもない」が大多数を占めた.5)「患者でも自己測定できる」との回答はC34例C56.7%であった.自由記載で多かった意見として,「高齢者や視機能障害者による眼圧自己測定は困難と思う」(28例),「慣れれば眼圧自己測定は容易」(24例),「裸眼視力が悪いので位置をあわせるのが難しい」(11例)「眼圧自己測定は他者の監視下で行うほうがよい」(8例)など,があった.CIII考按緑内障診療を行ううえで眼圧日内変動を把握することは有益である.しかし,日内変動を知るためには患者を入院という非日常の環境においたうえでC24時間の眼圧測定を行わなければならず,医師にとっても患者にとっても負担を強いるため容易ではない.携帯式眼圧計による眼圧自己測定ができれば,簡便に眼圧日内変動を知ることが可能になるが,実際に緑内障患者に眼圧自己測定を行ってもらうためには使用する眼圧計の安全性,再現性,操作性と精度を検証する必要がある.さらに種々の背景因子と眼圧自己測定結果の関連を知ることは患者の眼圧自己測定の可否,結果の信憑性を評価するうえで参考となる.本研究においてアイケアCHOMEの測定値とCGATの測定値には有意な相関があったが,アイケアCHOMEの測定値はGATの測定値よりも過小評価される傾向にあった.GATとアイケアCHOMEの眼圧測定値を比較した研究は調べた限りではまだ少ない6.9).DabasiaらはC76例を対象にアイケアHOMEを用いて検者による眼圧測定と眼圧自己測定をC3回ずつ行い,GATによる眼圧測定と比較しアイケアCHOMEの眼圧自己測定値はCGATの測定値よりもC0.3CmmHg過小評価であったと報告している6).Termuhlenらは緑内障患者を含むC154例を対象にアイケアCHOME,アイケアCONEを用いた医師による眼圧測定と患者による眼圧自己測定,GATによる眼圧測定を比較した研究で,アイケアCHOMEによる医師による眼圧測定と患者による眼圧自己測定の結果は同等で,アイケアCHOMEの医師による眼圧測定とCGATの測定結果を比較するとアイケアCHOMEはCGATよりもC0.82mmHg過小評価であったと報告している7).Noguchiらは若年健常者C43例を対象にC8.18時までC2時間ごとにアイケア,GATによる測定とアイケアCHOMEによる眼圧自己測定を行った研究で,アイケアCHOMEの眼圧自己測定値はCGATの測定値よりもC1.03CmmHgの過小評価であったと報告している8).Mudieらは緑内障患者(疑いを含む)189例を対象にアイケアによる眼圧測定とアイケアCHOMEによる眼圧自己測定,GATによる眼圧測定を行い,すべての測定が可能であった164例を解析した結果,アイケアCHOMEの眼圧自己測定値はCGATの測定値よりもC0.33CmmHgの過小評価であったと報告している9).眼圧測定値の差は報告によって異なるが,これまでのところアイケアCHOMEの眼圧測定値はCGATの眼圧測定値よりも過小評価であるという点は一致しており,本研究結果も既報と同様であった.アイケアCHOMEの測定値がCGATの測定値よりも過小評価となる一因として,プローブが角膜中央に正確にあたっていなかった可能性がある.アイケアCHOMEの測定ボタンはアイケアと異なり図1に示したように本体の上方に位置している.タッチ式ではないためボタンを押すために力を加えた際に本体の保持が不安定であると,本体ごとプローブが下方に移動する.それによりプローブが角膜中央にあたらず,プローブと角膜の距離も変わるため反跳に変化が生じたと考えた.アイケアCHOMEの眼圧自己測定値の再現性では,平均変動幅は左眼が有意に大きく,平均変動係数は左右差があり,測定エラーの回数は左眼が有意に多かった.Mudieらは,アイケアCHOMEでC3回眼圧自己測定を行い,変動係数は最初のC2回の測定ではC7.02%,3回すべての測定ではC8.20%であったと報告しており9),本研究のほうが変動係数は高かった.Mudieらの研究は対象がC1例C1眼で,測定回数も異なるため一概に比較はできないが,Mudieらの研究でC2回の測定よりもC3回の測定で変動係数が高くなっていたこと,本研究の測定回数がC5回であったことから,本研究における変動係数は右眼についてはCMudieらの研究とほぼ同等と推察された.左眼の再現性が低く測定エラーが多い要因としては,左眼の測定時に機器保持が不安定になりやすいことが考えられた.本研究では測定時のアイケアCHOMEの把持は各被験者に一任したため,右眼は右手,左眼は左手で把持,両眼とも利き手で把持,両眼とも両手で把持など被験者により異なったため角膜中央にプローブが正確にあたっていなかった症例もあったと考えられた.また,優位眼が右眼の場合に左眼の位置決めが不正確になることも一因と考えられた.本研究では調査しなかったが,今後は優位眼と測定エラーの関連についても検討する必要がある.測定エラーの回数と変動幅,測定エラーの回数と瞼裂幅,測定エラーの回数と年齢,変動幅と瞼裂幅に相関はなかった.アイケアCHOMEはプローブの先端が小さいため瞼裂幅が狭い症例でも測定が可能であることが機器の長所の一つであり,今回の結果からも瞼裂幅にかかわらず自己測定が可能であることが示唆された.変動幅と年齢では統計学的には左眼のみに有意な弱い相関があったが,左眼は測定エラー,変動が多く測定自体が右眼よりも不正確であると考えられることから信頼性に乏しいと解釈した.年齢については,比較的若年者では自己測定が可能な症例が多いと思われるが,本研究の対象は高齢者がほとんど含まれていなかったため,今後高齢者に対する調査が必要である.アイケア平均眼圧とCCCTは右眼では相関がなかったが左眼では弱い相関があったCDabasiaらの報告ではCCCTがC500μmより薄い症例ではアイケアCHOMEはCGATよりもC1.9mmHgの過小評価,500.600CμmではアイケアCHOMEはGATよりもC0.1CmmHgの過大評価,600Cμmより厚い症例ではアイケアCHOMEはCGATよりもC1.0CmmHgの過小評価となっている6).Termuhlenらの報告では右眼においてアイケアCHOMEの測定値と中心角膜厚の相関はなかったが,左眼では有意な正の相関があったとしている7).CCTとアイケアCHOMEの眼圧測定値の関連については症例数を増やしてさらに検討が必要である.アンケート調査では約C80%の症例が操作,取扱い,測定は難しくないと回答し,70%の症例が測定は難しくないと回答した.アイケアCHOMEの眼圧自己測定はCDabasiaらの報告6)ではC84%,Noguchiらの報告8)ではC86%が難しくないと回答しており本研究結果と同様であった.これらのことからアイケアCHOMEは比較的簡便に眼圧自己測定を施行できる機器であると考えられた.一方で,25%の症例は測定が怖いと回答しており,自己測定にあたっては事前に十分に練習を行って機器に慣れる必要があることも示唆された.本研究結果からアイケアCHOMEはCGATよりも過小評価であるが相関があり,比較的簡便に眼圧自己測定を可能にする携帯式眼圧計として一定レベルの有用性が期待できると考えた.しかし,左眼は変動幅が大きく測定エラー回数も多かったことから左眼の測定は課題であり,これらの原因究明と測定精度を向上させるための練習や測定の要領を見出す必要があると考えた.さらにアンケート調査でも高齢者や視機能障害者による眼圧自己測定は困難,裸眼視力が悪いので位置をあわせるのが難しい,眼圧自己測定は他者の監視下で行うほうがよいなどの意見があった.緑内障患者でC24時間眼圧自己測定を完了するにはプローブをプローブベースにセットする作業や機器の操作,測定を医療従事者の監視なしですべて患者自身が行わなければならないため.アイケアCHOMEによるC24時間眼圧自己測定の可否には裸眼視力,屈折,視野障害の程度やパターン,年齢,さらには手指の関節や筋力の状態,使用経験のない機械への苦手意識,自己測定への意欲など種々の要因を考慮しなければならないと考えられる.本研究は健常者を対象に行ったが,今後は緑内障患者を対象に自己測定を行い,さらなる検証を進めたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)中村誠:新しい眼圧計アイケア.あたらしい眼科C23:893-894,C20062)坂田礼:アイケア眼圧計の使い方について教えてください.あたらしい眼科27(臨増):176-178,C20103)GandhiCNG,CPrakalapakornCSG,CEL-DairiCMACetCal:IcareCONEreboundversusGoldmannapplanationtonometryinchildrenCwithCknownCorCsuspectedCglaucoma.CAmCJCOph-thalmolC154:843-849,C20124)SakamotoM,KanamoriA,FujiharaMetal:AssessmentofIcareONEreboundtonometerforself-measuringintra-ocularpressure.ActaOphthalmolC92:243-248,C20145)塩川美菜子,方倉聖基,井上賢治ほか:携帯式眼圧計アイケアCONECRによるC24時間眼圧自己測定の検討.あたらしい眼科C32:1173-1178,C20156)DabasiaCPL,CLawrensonCJG,CMurdochCIE:EvaluationCofCaCnewreboundtonometerforself-measurementofintraocu-larpressure.BrJOphthalmolC100:1139-1143,C20167)TermuhlenCJ,CMihailovicCN,CAlnawaisehCMCetCal:Accura-cyCofCMeasurementsCWithCtheCiCareCHOMECReboundCTonometer.JGlaucomaC25:533-538,C20168)NoguchiA,NakakuraS,FujioYetal:ApilotevaluationassessingCtheCeaseCofCuseCandCaccuracyCofCtheCnewCself/Chome-tonometerCIcareCHOMECinChealthyCyoungCsubjects.CJGlaucomaC25:835-841,C20169)MudieL,LaBarreS,VaradarajVetal:TheIcareHOME(TA022)studyCperformanceCofCanCintraocularCpressureCmeasuringCdeviceCforCself-tonometryCbyCglaucomaCpatients.OphthalmologyC123:1675-1684,C2016***

携帯式眼圧計アイケアONE®による24 時間眼圧自己測定の検討

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1173.1178,2015c携帯式眼圧計アイケアONERによる24時間眼圧自己測定の検討塩川美菜子*1方倉聖基*1井上賢治*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院EvaluationofSelf-Measured24-hourIntraocularPressureVariationwiththeIcareONEReboundTonometerMinakoShiokawa1),SeikiKatakura1),KenjiInoue1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:アイケアONER(アイケアONE)による24時間眼圧自己測定の精度と問題点を検討する.対象および方法:井上眼科病院の有志職員20例40眼を対象とした.方法は,レボブノロールの1日1回片眼へ点眼の期間4.5週間を挟んで,その前後に1回ずつ,アイケアONEによる24時間眼圧自己測定を行った.測定は午前9時から3時間ごととし,測定開始時にGoldmann圧平式眼圧計(GAT)による眼圧測定,血圧,脈拍測定も行った.結果:アイケアONEとGATの眼圧測定値には相関があった(r=0.51,p<0.001).レボブノロール点眼施行眼では,9時,12時,18時の眼圧は点眼後に有意に下降した.このうち,午前9時の眼圧はGATで点眼前13.8±2.1mmHg,点眼後11.7±1.5mmHg,アイケアONEで点眼前13.4±3.0mmHg,点眼後11.5±2.9mmHgで,ともに点眼後眼圧が有意に下降した(p<0.05).結論:アイケアONEによる24時間眼圧自己測定の精度は比較的良好である.Purpose:Toevaluatetheprecisionandpossibleproblemsassociatedwithself-measuring24-hourintraocularpressure(IOP)withtheIcareONEreboundtonometer.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved40eyesofnormalvolunteersubjectsenrolledatInouyeEyeHospital.Ineachsubject,IOPwasself-measuredevery3hoursbyuseoftheIcareONEreboundtonometer.Inaddition,atthestartoftheeachmeasurement,thesubject’sbloodpressure,pulse,andIOPbyuseofGoldmannapplanationtonometry(GAT)wererecordedandthencomparedwithmeasurementstakenbeforeandat4-5weeksaftertheuseoflevobunolol.Results:Inallsubjects,amoderatecorrelationwasfoundbetweentheIcareONEandGATIOPmeasurements(r=0.51).LevobunololsignificantlydecreasedtheIOPsatthehoursof9:00,12:00,and18:00.TheIOPsmeasuredwithGATbeforeandaftertheinstallationoflevobunololwere13.8±2.1and11.7±1.5mmHg,respectively,whilethosemeasuredwithIcareONEwere13.4±3.0and11.5±2.9mmHgrespectively.Bothfiguresshowedasignificantdecreaseaftertheinstallationoflevobunolol(p<0.05).Conclusions:Self-measuring24-hourIOPismoderatelyprecisewithIcareONEreboundtonometer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1173.1178,2015〕Keywords:アイケアONER,レボブノロール,24時間眼圧,自己測定.IcareONEreboundtonometer,levobunorol,24hourintraocularpressurevariation,self-measurement.はじめにアイケアONER(icareFinland社製,以下,アイケアONE)は眼科医の指導のもと,患者自身による眼圧自己測定を目的に開発された携帯式眼圧計である.アイケアR(icareFinland社製)と同様,reboundtonometerであり,プローブが角膜に当たったときの動きを電気信号に変換することで眼圧を測定する.点眼麻酔不要で,プローブの先端が小さいので瞼裂が狭い症例や小児でも測定が可能である1,2).アイケアONEの外観を図1に示す.横11cm,縦8cm,幅3cm,重さ150gの軽量の機器で,プローブの先端には〔別刷請求先〕塩川美菜子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:MinakoShiokawa,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(107)1173 図1アイケアONEの外観11cm8cm3cm電源・測定ボタン11cm8cm3cm電源・測定ボタン直径1.73mmのプラスチック製のヘッドがついている.測定にあたっては本体にディスポーザブルのプローブをセットし,プローブの先端が被験者の角膜頂点から4.8mmに位置するように額,頬あてを調整のうえ,自己測定の場合は被験者自身が壁掛け鏡を見ながら,プローブが角膜中央に正面から垂直に当たるようにアイケアONEを保持し,測定ボタンを押す.通常モードでは連続6回測定を行い,測定結果が有効の場合緑のランプが点灯し,眼圧(5.50mmHg)が11段階にわけて表示され,検者,被験者はおおよその眼圧測定結果をその場で知ることができる.図2aでは18と21の間に点灯しており,この場合の眼圧は18mmHg以上21mmHg未満であることを示す.内蔵されたメモリには測定日時,正確な眼圧測定値(図2aのように18と21の間に点灯している症例であれば18,19,20mmHgのいずれか)が自動記録され,IcareRLinkソフトウエアを使用してパソコンにデータを保存できる.アイケアONEには左右を認識する機能がなく最初の測定値は右眼,2番目の測定値は左眼と表示されるので,測定時には必ず右眼,左眼の順に測定を行う必要がある.睫毛や眼瞼にプローブが触れるなどにより6回連続測定ができなかったり,6回の測定値間のばらつきが大きすぎる場合はエラーとなり,「REPEAT」または「POSITION」に赤いランプが点灯し再測定が必要となる(図2b).アイケアONEにより測定された眼圧はGoldmann圧平式眼圧計(Goldmannapplanationtonometer,以下GAT)により測定された眼圧との互換性があると報告されている3,4).アイケアONEの利便性や24時間眼圧自己測定の精度が確認できれば,患者自身による自宅での眼圧日内変動の測定が可能となり医師や患者に時間的,身体的負担をかけることな1174あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015ab図2アイケアONEによる測定a:測定結果(18.21)に緑のランプが点灯.眼圧は18mmHg以上,21mmHg未満であることを示す.b:エラーの場合は「POSITION」または「REPEAT」に赤いランプが点灯.く眼圧日内変動を知ることができる.それは緑内障診療にとって有益であり,さらには患者自身の疾患への関心やアドヒアランスの向上も期待できるかもしれない.そこで今回,健常者を対象にアイケアONEによる24時間眼圧自己測定を行い,その精度と問題点を検討した.I対象および方法本研究の趣旨に賛同のうえ,2014年1月.7月に文書で同意を得た全身疾患,眼疾患を有しない井上眼科病院の職員20例,40眼を対象とした.屈折矯正手術の既往がある症例は除外し,コンタクトレンズの使用は可にした.職種は医師8例,視能訓練士5例,看護師2例,事務職員5例で,性別は男性12例,女性8例,年齢は24.59歳(平均年齢35.6±9.2歳)であった.方法はまず事前に被験者に合わせてアイケアONEの額,頬あてを調整,操作と測定方法を口頭で指導した後に自己測定を数回施行し,測定ができることを確認した.アイケアONEによる24時間眼圧自己測定は午前9時より開始し,翌日の午前9時まで3時間ごとに計9回(9,12,15,18,21,0,3,6,9時)施行した.測定は右眼,左眼の順に行い,いずれの測定時間においても±15分の誤差は許可した.夜間の測定においては仰臥位から座位に姿勢を変えて5分後に測定を行った.コンタクトレンズを使用している症例では,24時間眼圧自己測定中はコンタクトレンズ装用を中止のうえ,測定を行った.測定開始時の午前9時±15分以内にGATによる眼圧を1回測定,全自動血圧計(UDEX-super)による血圧,脈拍数測定も行った.1回目の24時間眼圧自己測定施行後に,レボブノロール(108) 点眼の片眼のみ投与を開始した.点眼は朝1回,起床後に行い,4.5週間継続したのち,1回目と同様の方法で2回目の24時間眼圧自己測定を施行した.点眼の励行率について事前に配布した調査シートに各自で記入してもらう方法で調査した.測定終了後に自己測定を行った感想についてアンケート調査を行った.項目は以下のとおりである.1)操作,取扱いはどうでしたか①簡単,②むずかしくない,③むずかしい2)測定は上手にできましたか①上手にできた,②まあまあ上手にできた,③上手くできなかった3)エラーは何回ありましたか①0.数回,②5.9回,③10回以上4)フリーコメントなお,アイケアONEの指導およびGATによる眼圧測定は2名の眼科医が行った.分析はアイケアONEの眼圧測定値とGATによる眼圧測定値の相関についてスピアマンの相関係数を求めた.前後2回のアイケアONEによる24時間眼圧,GATによる眼圧,血圧,脈拍の測定結果の比較の統計解析はいずれも対応のあ2.点眼励行率と24時間眼圧自己測定レボブノロール平均点眼励行率は92.1±9.5%であった.24時間眼圧自己測定の全例の平均眼圧を図4に示す.点眼施行眼では開始時9時,12時,15時,18時,21時,0時,3時,6時,終了時9時で各時の眼圧は点眼前が13.4±3.0,13.8±2.9,12.6±3.1,13.4±2.7,11.2±2.8,11.6±4.4,13.5±3.2,15.0±3.9,15.1±4.2mmHg,点眼後が11.5±2.9,11.9±2.5,11.8±2.8,11.4±1.7,10.7±3.4,10.1±2.4,12.5±3.2,13.2±4.7,12.5±3.4mmHgであった.点眼非施行眼では各測定時間の眼圧は点眼前が13.4±2.6,13.0±2.6,13.1±2.4,13.1±2.7,11.5±2.6,12.4±3.8,12.0±3.6,14.2±3.0,15.1±3.3mmHg,点眼後が13.0±2.5,13.2±3.0,13.4±3.1,12.5±2.6,11.2±2.6,10.5±2.3,12.0±3.4,13.1±2.7,12.3±3.5mmHgであった.点眼施行眼に(mmHg)252015レボブノロール点眼の前後に行った24時間眼圧自己測定の開始時(午前9時)に測定した全測定値(n=80)を用いて0分析した,アイケアONEとGATの眼圧測定値の相関を図0510152025(mmHg)3に示す.アイケアONEとGATの眼圧測定値には有意なGAT相関があった(r=0.51,p<0.001).図3アイケアONEとGATの眼圧測定値の相関点眼施行眼点眼非施行眼アイケアONEるt検定を用い,有意水準はp<0.05とした.II結果1.アイケアONEとGATの眼圧測定値の相関10520(mmHg)20(mmHg)*******15151010550時09121518210369時点眼前点眼後9121518210369点眼前点眼後図424時間眼圧自己測定(全例平均)(109)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151175 おいて24時間眼圧自己測定開始時の9時と12時,18時,測定終了時の9時において平均眼圧は点眼後に有意に下降した(開始時9時:p<0.05,12時,18時,終了時9時:p<0.01).点眼非施行眼においては点眼前後の眼圧に有意な変化はなかった.3.点眼前後のGATとアイケアONEの眼圧測定値の比較(図5)24時間眼圧自己測定開始時の午前9時の眼圧は点眼施行眼でGATによる眼圧が点眼前は13.8±2.1mmHg,点眼後は11.7±1.5mmHg,アイケアONEによる眼圧が点眼前は13.4±3.0mmHg,点眼後は11.5±2.9mmHgであり,GAT,アイケアONEともに点眼後の眼圧測定値が有意に下降した(p<0.05).一方,点眼非施行眼ではGATによる眼圧が点点眼施行眼眼前は13.5±2.1mmHg,点眼後は12.5±1.5mmHg,アイケアONEによる眼圧が点眼前は13.4±2.6mmHg,点眼後は13.0±2.5mmHgであり,GAT,アイケアONEともに点眼前後の眼圧に有意な変化はなかった(GATp=0.188,アイケアONEp=0.769).4.血圧・脈拍数の測定平均血圧は点眼前が収縮期121.5±12.1mmHg,拡張期72.7±9.7mmHg,点眼後は収縮期122.8±9.6mmHg,拡張期70.6±8.9mmHgで差はなかった(収縮期:p=0.668,拡張期:p=0.170).脈拍数も点眼前が71.9±11.2回/分,点眼後が70.0±10.2回/分で差はなかった(p=0.257).5.アンケート調査1)「操作,取扱いはどうでしたか」という問いに対しては点眼非施行眼(mmHg)(mmHg)2020151510アイケアONE10■GAT550点眼前点眼後点眼前点眼後013.5±13.42.1±2.613.012.5±2.51.5±図5点眼前後のGATとアイケアONEの眼圧測定値の比較13.8±2.113.4±3.011.7±1.511.5±2.9**むずかしかった25%簡単40%15%60%点眼前(自己測定1回目)むずかしくなかった50%点眼後10%25%60%15%(自己測定2回目)0%50%100%■上手にできたまあまあ上手にできた■上手くできなかった図7アンケート調査結果「②測定はうまくできましたか」点眼前35%55%10%(自己測定1回目)点眼後50%45%5%図6アンケート調査結果「①操作,取扱いはどうでしたか」(自己測定2回目)0%50%100%■0~数回5~9回■10回以上図8アンケート調査結果「③エラーは何回ありましたか」1176あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(110) 「簡単」40%,「むずかしくない」50%,「むずかしい」10%であり,90%の症例が操作,取扱いはむずかしくないと回答した(図6).フリーコメントでは「利き手が右なので左眼が測定しにくい」「左眼でエラーがでやすい」「強度近視なので鏡がよく見えない」という意見があった.2)「測定は上手くできましたか」という問いに対しては自己測定1回目は「上手くできた」が15%,「まあまあ上手くできた」が60%,「上手くできなかった」が25%であった.しかし,自己測定2回目は「上手くできた」が25%,「まあまあ上手くできた」が60%,「上手くできなかった」が15%であった(図7).3)「エラーは何回ありましたか」という問いに対しては自己測定1回目は「0.数回」が35%,「5.9回」が55%,「10回以上」が10%であった.自己測定2回目では「0.数回」が50%,「5.9回」が45%,「10回以上」が5%であった(図8).III考按アイケアONEは,患者自身による眼圧自己測定を可能にすることを目的として開発された数少ない機器である.アイケアONEによる24時間眼圧自己測定の精度が検証されれば,医師にとっても患者にとっても,少ない負担で眼圧日内変動の把握が可能となる.アイケアONEによる24時間眼圧自己測定の精度の検証には,入院のうえ全測定時にGATでの医師による眼圧測定とアイケアONEによる眼圧自己測定を施行し比較することが理想的であるが,被験者の負担を考慮し,本研究ではレボブノロール点眼前後の結果を比較することにより検討を行った.アイケアONEとGATの眼圧測定値には有意な相関があった.しかし,強い相関ではなかった.Sakamotoら3)は24例の健常者と81例の緑内障患者を対象とした検証を行い,その結果,眼圧測定値はGATで3.31mmHg,アイケアONEによる自己測定では5.31.7mmHgであった(R2=0.683,p<0.001),Nandiniら4)は60例の小児を対象とし眼圧測定値2.35mmHgで検討を行い(R2=0.83),いずれもアイケアONEとGATの強い相関を報告している.本研究では眼圧測定値がGATで9.18mmHg,アイケアONEによる自己測定の眼圧測定値は7.24mmHgであり,多くは眼圧15mmHg以下で,眼圧の幅が少なかったことが強い相関が得られなかった一因と推察される.GATとの相関については幅広い眼圧値でさらに検証する必要がある.24時間眼圧自己測定では,点眼施行眼において自己測定開始時の9時と12時,18時,測定終了時の9時において,点眼後の平均眼圧は有意に下降した.レボブノロール点眼は,わが国で行われた研究で,マレイン酸チモロール点眼と同等の眼圧下降効果を有することが検証されている5).さら(111)に,日内変動については7例(点眼前平均眼圧,右眼22.6±3.2mmHg,左眼22.0±2.5mmHg)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に行った研究で,24時間にわたり眼圧下降が得られたと報告されている6).今回の研究では対象が健常者であったこと,点眼前の平均眼圧が13.8±2.1mmHgと低かったことが24時間にわたって下降効果が得られなかったことに影響した可能性がある.一方で,一般にb遮断薬は昼間の眼圧下降効果が高く,夜間は下降効果が減弱するといわれており7.9),本研究の結果は理に適った結果であるともいえる.点眼前後のGATとアイケアONEの眼圧測定値の比較ではGAT,アイケアONEともに点眼前と比較して点眼後の眼圧測定値は有意に下降した.レボブノロール点眼単剤の眼圧下降効果については過去に当院で正常眼圧緑内障を対象に研究を行っている10,11).レボブノロール点眼前眼圧17.2mmHgが点眼6カ月間で眼圧下降幅2.7.3.1mmHg,眼圧下降率15.7.18.0%を記録し10),点眼前眼圧16.5mmHgが点眼12カ月後で眼圧下降幅2.2±2.1mmHg,眼圧下降率13.0±11.3%を記録したと報告している11).本研究は健常者が対象であり,点眼開始約1カ月後の眼圧測定のため一概に比較はできないが,おおむね同等の眼圧下降が確認された.さらにアイケアONEによる測定結果がGATによる測定結果と同等であったことから,アイケアONEによる自己測定でもある程度は信頼に足る精度が期待できる可能性が示唆された.アンケート調査でアイケアONEの操作,取扱いが「むずかしい」と回答した症例が10%であったことから,操作は被験者にとって比較的簡便である印象を受ける.しかし,本研究の被験者は医師,視能訓練士,看護師といった日常から眼科機器と眼の扱いに慣れている職種が大部分であったため,今後は患者や眼科機器に接する機会のない症例を対象としたさらなる検証も必要である.また,アイケアONEによる眼圧自己測定は2回目(点眼後)の測定のほうが1回目の測定よりも上手にでき,エラーの回数が減ったことから,練習により精度が増す可能性があり,自己測定にあたっては十分な指導と練習が重要であるといえる.一方で右利きなので左眼の測定がしにくい,左眼でエラーが多い,強度近視で鏡がみえないという意見があった.アイケアONEによる自己測定は鏡をみながら行うため,鏡がみづらいと測定に支障がでる可能性があることが問題点として考えられ,屈折,裸眼の近方視力,視野障害進行の程度,さらに利き手,瞼裂幅などを自己測定にあたり考慮する必要がある.さらに,アイケアONEでは中心角膜厚が厚いと眼圧が高めに測定され,GATとの比較でも角膜厚が厚いほどより高く測定されるということが報告されており3),この点についても考慮を要する.今後さらなる検証でアイケアONEの特徴を把握し眼圧あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151177 自己測定において,より信頼性の高い結果を得るための適否を検討しなければならない.本研究でアイケアONEを用いてアイケアONEとGATの測定値は有意な相関を示し,また24時間眼圧自己測定を行い,測定精度を検討したところ,レボブノロール点眼施行眼では点眼後に有意に眼圧が下降していたことから,アイケアONEの眼圧自己測定の精度は比較的良好であると考えられた.アイケアONEは軽量かつ簡便であり,患者による眼圧自己測定を可能にする携帯式眼圧計として一定レベルの有用性が期待できる.しかし,緑内障患者に患者自身でプローブのセットと24時間眼圧自己測定を行ってもらうには,裸眼視力,屈折,視野障害の進行度,年齢などにより可否が生じる.今後はこれらの詳細な検討による症例の適否の決定,再現性の検証が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)中村誠:緑内障セミナー新しい眼圧計アイケア.あたらしい眼科23:893-894,20062)坂田礼:アイケア眼圧計の使い方について教えてください.あたらしい眼科27(臨増):176-178,20103)SakamotoM,KanamoriA,FujiharaMetal:AssessmentofIcareONEreboundtonometerforself-measuringintraocularpressure.ActaOphthalmol92:243-248,20144)GandhiNG,PrakalapakornSG,EI-DairiMAetal:IcareONEreboundversusGoldmannapplanationtonometryinchildrenwithknownorsuspectedglaucoma.AmJOphthalmol154:843-849,20125)北澤克明,東郁郎,白土城照ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するAG-901点眼液の第III相臨床試験.あたらしい眼科16:1315-1325,19996)山本哲也:AG(塩酸レボブノロール)点眼液の1回点眼時の眼圧下降作用.あたらしい眼科14:1119-1125,19977)中元兼二:緑内障点眼薬─選択のポイント眼圧日内変動への影響.あたらしい眼科25:783-788,20088)馬場哲也:緑内障セミナー夜間眼圧上昇眼に対する緑内障点眼薬の効果.あたらしい眼科27:1691-1692,20109)吉冨健志,春野功:低眼圧緑内障の眼圧日内変動に対するチモロールの効果.あたらしい眼科10:965-967,199310)InoueK,EzureT,WakakuraMetal:Theeffectofonce-dailylevobunolononintoraocularpressureinnomal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmol49:58-59,200511)比嘉利沙子,井上賢治,若倉雅登ほか:正常眼圧緑内障におけるレボブノロール点眼の長期効果.臨眼61:835-839,2007***1178あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(112)