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成人発症Still病に両眼の虹彩毛様体炎を発症した1例

2014年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(2):285.288,2014c成人発症Still病に両眼の虹彩毛様体炎を発症した1例平野慎一郎松田順子本庄恵沼賀二郎地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター眼科ACaseofAdult-OnsetStill’sDiseasewithBilateralIridocyclitisShinichiroHirano,JunkoMatsuda,MegumiHonjoandJiroNumagaDepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital成人発症Still病(adult-onsetStill’sdisease:AOSD)に両眼性の虹彩毛様体炎を合併した症例を経験した.症例は65歳女性で,頭部の違和感,発熱を呈し,近医を受診した.感染症と診断され,種々の抗生剤を使用するも症状の改善を認めず,膠原病などが疑われた.眼科的自覚症状はなかったが,眼科受診時両眼に非肉芽腫性の虹彩毛様体炎を認め,ステロイドの点眼を使用したが炎症の改善はみられなかった.その後,AOSDと診断され,prednisolone(PSL)の内服を開始したところ,両眼虹彩毛様体炎が改善し,間欠熱,関節痛およびリンパ節腫脹などの全身症状も改善した.現在,徐々にPSL内服量を漸減中であるが,虹彩毛様体炎や全身症状の再燃は認めず良好に経過している.AOSDの眼合併症は,自覚症状が乏しく,見逃されてしまう可能性がある.また炎症が後眼部に生じ,長期化すると視力低下に至る例も報告されており,AOSDと診断された場合に眼科を受診することと,ステロイドの内服が推奨されると考える.Wereportacaseofadult-onsetStill’sdisease(AOSD)withbilateraliridocyclitis.Thepatient,a65-year-oldfemalewhovisitedalocalclinicforheaddiscomfortwithfever,wasdiagnosedwithinfectiousdiseasesandwasprescribedseveralantibiotics,butshowednoreliefofsymptoms;suchascollagendiseasewassuspected.Atourhospital,non-granulomatousiridocyclitiswasfound,withnoophthalmicsymptoms.Steroideyedropsdidnotimprovetheinflammation.WithdiagnosisofAOSD,oralprednisolone(PSL)wasinitiated,bilateraliridocyclitis,systemicsymptoms,lymphnodeswelling,intermittentfeverandjointpainimproved.WithgradualdecreaseintheamountoforalPSL,systematicsymptomsandiridocyclitishavenotrecurredthusfar.TheeyecomplicationsofAOSDwouldhavebeenoverlookedbypoorsymptoms.Visualdegradationhasbeenreportedinsomecasesoflong-terminflammationintheposteriorsegmentoftheeye.WhenAOSDisdiagnosed,ophthalmologistconsultationandoralsteroidprescriptionarerecommended.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):285.288,2014〕Keywords:成人発症Still病,眼合併症,虹彩毛様体炎,ステロイド治療,予後.adult-onsetStill’sdisease,ocularcomplications,iridocyclitis,steroidtherapy,prognosis.はじめに成人発症Still病(adult-onsetStill’sdisease:AOSD)は,1971年にBywatersらが報告して1)以来注目されるようになった疾患であり,若年性特発性関節炎(juvenileidiopathicarthritis:JIA)の一型であるStill病が16歳以上の成人に発症したものをいう.眼合併症を生じることは稀で,その報告は数例のみである.また報告例により臨床経過はさまざまであり,いずれも比較的眼症状は重症な症例が多い2.6).今回筆者らが経験したAOSDは,両眼性の虹彩毛様体炎を合併した症例であるが,過去の報告例と比較すると軽症であった.治療に関しては過去の報告と同様にステロイドの内服を必要とした.本報告はその臨床経過とステロイドの全身投薬の必要性について考察する.この報告に関しては対象に十分な説明を行い同意を得た.I症例患者:65歳,女性.主訴:頭痛,間欠熱.〔別刷請求先〕平野慎一郎:〒173-0015東京都板橋区栄町35番2号東京都健康長寿医療センター眼科Reprintrequests:ShinichiroHirano,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,35-2Sakaecho,ItabashikuTokyo173-0015,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(125)285 表1内科入院時血液所見白血球13,110/μl↑(4,000.8,000/μl)CRP21.84mg/dl↑(0.3mg/dl以下)フェリチン718ng/ml↑(10.80ng/ml)RF6.6IU/ml(20IU/ml以下)抗ds-DNAIgG抗体陰性抗SS-A抗体陰性抗SS-B抗体陰性PR-3ANCA陰性MPO-ANCA陰性既往歴:13歳:急性虫垂炎(虫垂切除術),64歳:2型糖尿病,腺腫性甲状腺腫,高脂血症.生活社会歴:ペット(猫)の飼育歴あり,海外渡航歴なし.家族歴:父:肺癌,兄:糖尿病,腎不全.現病歴:2012年6月6日頃より悪心,嘔吐,下痢が出現したため,6月8日に近医を受診した.感染性腸炎と診断され,ノルフロキサシン,アセトアミノフェン内服で,消化器症状は改善したが,頭部の違和感が出現した.その後側頭部優位の疼痛と頭重感が生じ,夕方から夜間にかけて38℃台の発熱が続き,種々の抗生剤を投与するも改善しないため,膠原病などの精査目的で6月26日に当院内科へ入院した.眼科的自覚症状は認めなかったが,側頭動脈炎などを疑われ7月3日眼科を受診した.初診時眼所見:矯正視力は右眼0.8(1.2×+0.5D(cyl.2.0DAx85°),左眼0.8(1.2×+1.25D(cyl.2.0DAx85°).眼圧は右眼12mmHg,左眼12mmHg.両眼の前房内にcell+が認められ,両眼虹彩毛様体炎がみられた.角膜裏面沈着物(KP)は認めず,両眼隅角および眼底に異常所見はみられなかった.両眼虹彩毛様体炎に対し,ベタメタゾン,フラジオマイシン合剤(リンデロンAR)点眼5回/日,モキシフロキサシン(ベガモックスR)点眼3回/日,トロピカミドとフェミレフリン塩酸塩の合剤(ミドリンPR)点眼1回/日を開始したが,炎症の改善はみられなかった.その後,発熱時にサーモンピンク色の皮疹が出現し,皮膚掻爬法で陽性で,フェリチンおよび白血球が上昇を認めたためAOSDの可能性が考えられた(表1).山口らの診断基準で,発熱,関節痛(顎関節),典型的皮疹,白血球増加の大症状4項目とリンパ節腫脹(頸部のリンパ節)の小症状1項目を満たし,AOSDと診断された7).7月13日より,prednisolone(PSL)25mg/dayの内服を開始し,間欠熱や頭痛,リンパ節腫脹などの全身症状も速やかに改善した.PSL内服開始1週間後に両眼虹彩毛様体炎も消失し,点眼薬をすべて中止した.8月15日,蛍光造影検査を行ったが,血管炎などの異常所見は認めなかった(図1).PSLは内服開始1カ月後より徐々に量を漸減し,現在6mg/dayを内服しているが,PSLの漸減中に虹彩毛様体炎286あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014ab図12012年8月15日(眼科初診49日後)の蛍光眼底造影検査本症例の眼症状は軽症であるため,他の報告例で報告されているような乳頭浮腫,血管炎などの異常所見はみられない.a:右眼,b:左眼.や全身症状の再燃は認めていない(図2,3).II考按AOSDは,若年性特発性関節炎の全身発症型(Still病)か16歳以上の成人に発症したものである.わが国で以前まで若年性関節リウマチとよばれていたものは,現在ではJIAとよばれ,「16歳未満で発症した慢性特発性関節炎の総称」と定義される.JIAには,多関節型,少数関節型,全身型とよばれる3病型があり,多関節型は関節リウマチ(RA)と同じように慢性多発性関節炎をきたし,少数関節型は4カ所までの関節炎症にとどまる.全身型(Still病)は関節痛を伴うものの関節炎の程度は軽く,著明な発熱や一過性のサーモンピンクの皮疹,リンパ節腫脹や脾腫,心外膜炎などの臨床所見を特徴とする.JIAのぶどう膜炎の発症は1.6歳に多く,女児に多い.少関節型に多くみられ,少関節型の10.20%,リウマチ因子陰性例では5.10%に合併するとされる.リウマチ因子陽(126) abab図22013年4月19日の前眼部写真角膜後面沈着物,虹彩萎縮,瞳孔偏位などの虹彩炎,虹彩炎合併症を示す所見なく軽快した.a:右眼,b:左眼.性の多関節型,全身型ではぶどう膜炎の合併頻度は少なく,多関節型では約5%,全身型では通常発生しない.JIAのぶどう膜炎は,両眼性の非肉芽腫性の虹彩毛様体炎で,微細な角膜後面沈着物,前房に微塵な炎症細胞がみられ,線維素の析出や前房蓄膿がみられることもある.前房内のフレア値は高値を示すことが多く,虹彩後癒着は高度で全周にみられることが多い.また慢性化すると帯状角膜変性が生じ,隅角は周辺虹彩前癒着が全周性にみられることもある.硝子体にびまん性に微塵状の混濁が生じ,視神経乳頭炎がみられることもあり,これが長期化すると視神経乳頭上に新生血管が生じ,硝子体出血の原因になる.AOSDにぶどう膜炎が合併した症例は,国内,海外よりわずかに報告されているのみである.多田らの報告ではAOSDに合併した虹彩毛様体炎が肉芽腫性であったとしている一方,その他の報告では虹彩毛様体炎が肉芽腫性,非肉芽腫性のどちらであったかについて記載されていない2.6).AOSDに合併したぶどう膜炎で後眼部に異常を認めた症例では,視神経乳頭浮腫,網膜血管炎が共通して認められていた2.6).(127)白血球(×100)CRP(mg/dl)フェリチン(ng×10)体温(度)PSL(mg)160)(PSL内服開始34.53535.53636.53737.538020406080100120140白血球(×100)体温フェリチン(×10)CRP6月7月8月9月11月1月4月26日12日10日27日8日10日4日虹彩毛様体炎虹彩毛様体炎消失図3治療経過(2012年6月.2013年4月)AOSDが重症化すると,サイトカイン〔特にTNF(腫瘍壊死因子)-a〕が高値になり,マクロファージが異常活性化し,マクロファージ活性化症候群(macrophageactivationsyndrome)とよばれる病態を呈する8).多田らの報告では,AOSDに合併した肉芽腫性虹彩毛様体炎の角膜後面沈着物でマクロファージ系の炎症細胞の集簇を認め,PSL内服を行ったが治療に難渋したとされており,基礎にあるAOSDの重症度によって,合併する虹彩毛様体炎の病態が変化する可能性が推測される2).筆者らが経験した症例では,AOSDに両眼の非肉芽腫性虹彩毛様体炎を合併し,前房内所見は比較的乏しく,豚脂様角膜後面沈着物や虹彩後癒着などは認めず,後眼部も明らかな異常はみられなかった.内科でAOSDと確定診断される前に,虹彩毛様体炎に対してステロイドを含む点眼治療を行ったが,炎症の改善はみられず,AOSDの確定診断後PSLの内服で,両眼とも虹彩毛様体炎の改善を認めた.ステロイド点眼で前眼部炎症が改善せず,ステロイドの内服で炎症が改善するという経過は,他の報告と類似している2.6).これはAOSDの発症や症状の増悪にサイトカインが関与しているため,ステロイドの局所投与より全身投与を行ったほうが効果は高いと推測される.日本人におけるAOSDは,マクロファージ活性化症候群などの重篤な場合を除き,全般的に予後は良好で,後遺症を残すことは稀である9).しかしAOSDに併発した虹彩毛様体炎で,ステロイド内服を中止した後に再燃した例が報告されている2).そのため慎重にステロイド内服を漸減し虹彩毛様体炎の再燃に注意しながら経過観察する必要がある.本症例あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014287 ではPSLの漸減中に虹彩毛様体炎の再燃は認めなかった.AOSDの眼合併症の発症機序はいまだ解明されていない.自覚症状に乏しい場合があり,後眼部に炎症が生じた場合や,ステロイド漸減中の炎症の再燃などで炎症が長期化すると視力低下に至る可能性があるため,AOSD患者の診断の際に眼科を受診することが推奨され,本例のような軽微な虹彩毛様体炎がみられた際にもステロイド点眼で軽快しなければ,ステロイドの全身内服が考慮されるべきと判断された.文献1)BywatersEGL:Still’sdiseaseintheadult.AnnRheumDis30:121-133,19712)JiangW,TangL,DuanXetal:Acaseofuveitisinadult-onsetStill’sdiseasewithophthalomologicsymptoms.RheumatolInt:2351-2357,20113)多田花代,川野庸一,園田康平ほか:成人発症Still病に両眼性ぶどう膜炎を合併した1例.眼紀54:447-451,20034)南場研一,津田久仁子,大西勝憲ほか:成人発症Still病に虹彩毛様体炎,乳頭浮腫,網膜血管炎が合併した1例.臨眼50:1687-1690,19965)野田聡美,池田史子,岸章治:乳頭浮腫と虹彩毛様体炎を合併した成人発症Still病の1例.臨眼65:1305-1308,20116)窪田光男,森岡美穂,浜田陽ほか:成人発症Still病に網膜中心静脈閉塞症型の乳頭血管炎を合併した1症例.眼臨94:1429-1431,20007)YamaguchiM,OhtaA,TsunematsuTetal:PreliminarycriteriaforclassificationofadultStill’sdisease.JRheumatol19:424-430,19928)StephanJL,ZellerJ,HubertPetal:Macrophageactivationsyndromeandrheumaticdiseaseinchildhood:areportoffournewcases.ClinExpRheumatol11:451456,19939)OhtaA,YamaguchiM,TsunematsuTetal:AdultStill’sdisease:amulticentersurveyofJapanesepatients.JRheumatol17:1058-1063,1990***288あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(128)