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視力良好な加齢黄斑変性症例に対するラニビズマブ単独療法の1年成績

2012年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(10):1429.1434,2012c視力良好な加齢黄斑変性症例に対するラニビズマブ単独療法の1年成績澤雄大*1,2河野剛也*2米田丞*2山本学*2芳田裕作*2岩見久司*2戒田真由美*2平林倫子*3白木邦彦*2*1泉大津市立病院眼科*2大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学*3白庭病院眼科One-YearResultsofIntravitrealRanibizumabforExudativeAge-RelatedMacularDegenerationinPatientswithGoodVisualAcuityYutaSawa1),TakeyaKohno2),TasukuYoneda2),ManabuYamamoto2),YusakuYoshida2),HisashiIwami2),MayumiKaida2),MichikoHirabayashi3)andKunihikoShiraki2)1)DepartmentofOphthalmology,IzumiotsuMunicipalHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,OsakaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,ShiraniwaHospital目的:視力良好な滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対するラニビズマブ硝子体内注射(IVR)単独療法の1年成績を報告する.対象および方法:対象は,治療前小数視力が0.7以上かつ初回治療としてIVR単独療法を施行し1年間経過を追ったAMD症例24例24眼である.方法は,導入期IVRを1カ月ごとに連続3回施行し,1カ月ごとに滲出性変化を評価し,必要に応じてIVR追加を行った.維持期のIVRも1カ月ごとに連続3回投与を行った.IVR導入期直後でのIVR追加群と追加なし群に分けて,12カ月間の視力経過・IVR施行回数・漿液性網膜.離の消退の有無について検討した.結果:IVR追加群8眼では12カ月の間視力維持にとどまったが,追加なし群16眼では改善がみられた.IVR施行回数は,追加群では平均9.5回,追加なし群では平均4.5回であった.漿液性網膜.離は,12カ月の時点で追加群の2眼,追加なし群の11眼で消失した.結論:視力良好な広義AMD症例に対してIVR単独療法は1年間では視力維持に有効であった.Purpose:Toreportone-yearresultsofintravitrealranibizumabtherapy(IVR)forage-relatedmaculardegeneration(AMD)inpatientswithgoodvisualacuity.Mehods:Twenty-foureyesof24patientswithtreatment-naiveAMDwhohadbest-correctedvisualacuity(BCVA)betterthan0.7weretreatedwith3monthlyIVRsandfollowedupmonthlyfor12months.Theeyeshadanadditionalsessionof3monthlyIVRs,asneeded.Visualacuity,numberofIVRsessionsandpresenceofserousretinaldetachment(SRD)at12monthswereevaluatedaccordingtothenecessityofadditionalIVR(IVR+and.groups)justaftertheloadingphase.Result:The8eyesoftheIVR+groupmaintainedtheirBCVA,butthe16eyesoftheIVR.grouphadimprovedBCVAat12months.TheaveragenumberofIVRswas9.5and4.5intheIVR+and.groups,respectively.SRDhaddisappearedin2and11eyesoftheIVR+and.groups,respectively.Conclusion:InAMDeyeswithgoodvisualacuity,IVRwaseffectiveformaintaininggoodvisionoveraperiodof12months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(10):1429.1434,2012〕Keywords:視力良好,加齢黄斑変性,ラニビズマブ.goodvisualacuity,age-relatedmaculardegeneration,ranibizumab.はじめにノクローナル抗体を遺伝子組み換えによりヒト化した中和抗Ranibizumabは抗血管内皮増殖因子(vascularendothelial体からFabフラグメントを基本構造として作製された蛋白growthfactor:VEGF)製剤の一つで,マウス抗VEGFモ製剤であり,bevacizumabと同様にアイソフォーム非選択〔別刷請求先〕澤雄大:〒545-8585大阪市阿倍野区旭町1-4-3大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学Reprintrequests:YutaSawa,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,OsakaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-4-3Asahimachi,Abeno-ku,OsakaCity545-8585,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(113)1429 的にすべてのVEGFアイソフォームを阻害する1).わが国でも滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対するranibizumab硝子体内注射(IVR)単独療法は視力改善の効果が得られ2),平成21年3月に認可された.MARINAstudy3)・ANCHORstudy4)に代表される臨床治験では小数視力で(0.06).(0.5)の中等度視力低下のあるものが対象であったため,視力が比較的良好な群での効果については報告が少なく,筆者らの知る限りではわが国においても6カ月間と1年間の経過について報告したものが各々1つ5,6)しかない.そこで今回筆者らは小数視力で0.7以上の比較的視力良好なAMD症例に対するIVR単独療法1年間の治療成績を報告する.I対象および方法1.対象対象は平成21年4月から平成22年3月の間に大阪市立大学医学部附属病院(当院)眼科を受診した矯正視力(0.7)以上のAMD症例で,初回治療としてIVR単独療法を施行し,1年間の経過を追うことができた24例24眼である.男性15例15眼,女性9例9眼,年齢は55.80歳,平均69.9歳であった.2.方法初回投与前に,Landolt環による小数視力測定,生体細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),フルオレセイン蛍光眼底造影(FA),インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)を施行した.そして,FA所見から脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)のタイプを,predominantlyclassicCNV,minimallyclassicCNV,occultwithnoclassicCNVに分類した.また,IAにて脈絡膜異常血管網とポリープ状脈絡膜血管拡張像の両者または後者のみがみられるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)を,前述の狭義AMDとは区別して分類した.IVRは以下のとおりに行った.5%ポビドンヨードにて眼周囲の皮膚および結膜.内を消毒後,耳上側の毛様体扁平部から30ゲージ針を用いてranibizumab(0.5mg/0.05ml)を硝子体内投与した.導入期は1カ月ごとに連続3回IVRを施行した.初回のIVR3回投与後の維持期では,1カ月ごとに視力検査,OCT検査,眼底検査を施行し,漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)などの滲出性変化の出現または増加がみられた場合にはFA/IAを施行したうえで,IVRの追加投与を行った.この維持期のIVRも1カ月ごとに連続3回施行した.導入期のIVR3回を施行した翌月,つまり初回投与後3カ月の時点で,IVRを追加した群を3M追加群,IVRを追1430あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012加しなかった群を3M追加なし群とし,両群の12カ月間の平均視力の経過と,AMDのサブタイプ別に両群について12カ月間のIVR施行回数,SRDの消退の有無,PCVではポリープ状脈絡膜血管拡張部の消退について検討した.なお,視力に関する検討では,小数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力に換算し,2段階の悪化までのものを視力の維持とした.また,統計学的検討はIVR施行回数の比較にはMann-WhitneyU検定を,平均logMAR矯正視力の経過の検討にはWilcoxon符号付順位和検定を用い,有意水準5%で検討した.II結果1.CNVサブタイプ別にみた黄斑所見と初回投与後3カ月における追加の有無症例をCNVのサブタイプ別に分類すると,predominantlyclassicCNV症例はなく,minimallyclassicCNV症例が3例3眼,occultwithnoclassicCNV症例が7例7眼,PCV症例が14例14眼であった.初回投与前のサブタイプ別の黄斑所見はSRDを全例に,網膜色素上皮.離をそれぞれ1眼,3眼,6眼に,網膜下出血をそれぞれ3眼,7眼,10眼に,灰白色病変をそれぞれ2眼,1眼,6眼に認めた.全24眼のうち3M追加群は8眼,3M追加なし群は16眼で,minimallyclassicCNV症例では3眼すべてが3M追加なし群,occultwithnoclassicCNV症例では3M追加群が2眼,3M追加なし群が5眼,PCV症例では3M追加群が6眼,3M追加なし群が8眼であった(表1).2.平均logMAR矯正視力の推移12カ月間の平均logMAR矯正視力の経過を図1に示す.3M追加群では初回投与後3カ月,6カ月,9カ月,12カ月,いずれの時点においても初回投与前と比べて視力の改善は認めず,維持にとどまった(****:p>0.05).一方,3M追加なし群ではいずれの時点でも視力の改善を認めた(**:p<0.01,***:p<0.05)が,その改善幅は.0.08..0.11と小さいものであった.表1症例の内訳(眼)全体3M追加群3M追加なし群全体24816MinimallyclassicCNV303OccultwithnoclassicCNV725PCV1468性別:男性15眼,女性9眼.年齢:55.80歳(平均69.9歳).AMD:Age-relatedmaculardegeneration.CNV:Choroidalneovascularization.PCV:Polypoidalchoroidalvasculopathy.(114) ****:p>0.05,***:p<0.05,**:p<0.01Wilcoxonsignedranktestvs0M**logMAR-0.02-0.04-0.06-0.08-0.10-0.12初回投与後3M初回投与後6M初回投与後9M初回投与後12M0.080.060.040.020.00***********************0M0.01±0.130.02±0.140.02±0.14-0.02±0.16-0.03±0.153M追加群0.07±0.09-0.01±0.12-0.03±0.11-0.02±0.13-0.04±0.153M追加なし群図1平均logMAR矯正視力の経過初回投与前と比べて初回投与後3カ月,6カ月,9カ月,12カ月いずれの時点でも3M追加群では改善を認めず,3M追加なし群では改善を認めた.初回投与後12カ月における改善幅はそれぞれ0.04,0.11であった.3.初回投与後3カ月ごとにおける視力の分布初回投与前および初回投与後3カ月ごとの視力分布を図2に示す.初回投与後3カ月,6カ月,9カ月,12カ月でそれぞれ全24眼中21眼(87.5%),22眼(91.7%),20眼(83.3%),21眼(87.5%)が小数視力で(0.7)以上であり,視力を維持していたのはそれぞれ全24眼中23眼(95.8%),24眼(100%),23眼(95.8%),23眼(95.8%)であった.4.IVR施行回数12カ月間のIVR施行回数を図3に示す.全24眼の平均IVR施行回数は6.2回であった.3M追加群では平均9.5回,一方3M追加なし群では平均4.5回と有意にIVR施行回数が少なかった(*:p<0.001).また,狭義AMD症例では平均5.2回,PCV症例では平均6.9回であり,両者のIVR施行回数に有意差は認めなかった(****:p>0.05).導入期以降に初回投与後12カ月までIVRの追加を行わなかった症例は,全体で24眼中10眼(42%),minimallyclassicCNV症例で3眼中2眼(67%),occultwithnoclassicCNV症例で7眼中4眼(57%),PCV症例で14眼中4眼(29%)であった.5.3M追加群,3M追加なし群それぞれのIVR回数と所見の推移a.3M追加群(occultwithnoclassicCNV2眼,PCV6眼)OccultwithnoclassicCNV症例2眼は12カ月間で平均9.5回のIVRを施行したが,初回投与後12カ月の時点でもSRDは減少するも残存していた(表2).PCV症例6眼はすべて初回投与後6カ月以降もIVRの追加を行い,12カ月間で平均9.5回のIVRを施行した.初回投与後3カ月から初回投与後12カ月の間で,SRD悪化が1眼から2眼,SRD不変が2眼から0眼,減少が3眼から2(115)矯正小数視力■:1.0以上■:0.7~0.9:0.6以下3M追加群53初回投与前3M追加なし群412初回投与後3M追加群5213カ月3M追加なし群1222初回投与後3M追加群5216カ月3M追加なし群1231初回投与後3M追加群629カ月3M追加なし群1312初回投与後3M追加群61112カ月3M追加なし群12220%20%40%60%80%100%図2初回投与前および初回投与後3カ月ごとの視力分布小数視力で(0.7)以上の症例数は初回投与後3カ月,6カ月,9カ月,12カ月でそれぞれ21眼(87.5%),22眼(91.7%),20眼(83.3%),21眼(87.5%)であった.視力を維持していた症例は初回投与後6カ月では24眼(100%),3カ月,9カ月,12カ月で23眼(95.8%)であった.眼,消失が0眼から2眼となった(表2).初回投与後3カ月でのポリープ状病巣の消失は0眼,初回投与後12カ月で1眼であった(表3).b.3M追加なし群(minimallyclassicCNV3眼,occultwithnoclassicCNV5眼,PCV8眼)MinimallyclassicCNV症例3眼のうち,2眼は初回投与後3カ月でSRDは消失し,初回投与後12カ月までの経過観察中に再発はなかった.残りの1眼では初回投与後6カ月からIVRの追加を行い,12カ月間で9回のIVRを施行したがSRDは悪化し,視力も小数視力で0.8から0.6へlogMAR視力で2段階の低下を認めた(表2).あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121431 表2SRDの経過3M追加群(眼)3M追加なし群(眼)時期初回投与後3カ月初回投与後12カ月初回投与後3カ月初回投与後12カ月SRD消失減少不変悪化消失減少不変悪化消失減少不変悪化消失減少不変悪Minimally3眼211)0020011)Occult7眼012)12)0022)00413)00413)00PCV14眼034)25)16)2202620052017)SRD:Serousretinaldetachment,Minimally:MinimallyclassicCNV,Occult:OccultwithnoclassicCNV,PCV:Polypoidalchoroidalvasculopathy,CNV:Choroidalneovascularization,IVR:Intravitrealranibizumab.1)初回投与後6カ月からIVR追加し12カ月間で9回IVR施行.2)初回投与後3・6カ月からIVR追加し12カ月間で平均9.5回IVR施行.3)初回投与後6カ月からIVR追加し12カ月間で6回IVR施行.4)12カ月間で9回,9回,10回IVR施行,初回投与後12カ月で3眼中2眼はSRD減少,1眼は悪化.5)12カ月間で8回,12回IVR施行,初回投与後12カ月で2眼中1眼はSRD消失,1眼は悪化.6)初回投与後3・6カ月からIVR追加し12カ月間で9回IVR施行,初回投与後12カ月でSRD消失.7)初回投与後3カ月でSRD消失,IVR追加なしも初回投与後12カ月でポリープ状病巣再発.109876543210(眼)■:Minimally(眼)■:Occult(眼):PCV(眼)24433111111113回追加群追加なし群4回追加群追加なし群5回追加群追加なし群6回追加群追加なし群7回追加群追加なし群8回追加群追加なし群9回追加群追加なし群10回追加群追加なし群11回追加群追加なし群12回追加群追加なし群平均IVR施行回数全症例:6.2回追加群:9.5回(*)追加なし群:4.5回狭義AMD:5.2回****Minimally:5.0回Occult:5.3回PCV:6.9回*:p<0.001,****:p>0.05Mann-WhitneyUtest追加群:3M追加群追加なし群:3M追加なし群図312カ月間のIVR施行回数1年間のIVR施行回数は3.12回,全症例の平均6.2回であった.3M追加群は平均9.5回,3M追加なし群は平均4.5回であり有意にIVR施行回数が少なかった.狭義AMDでは平均5.2回,PCVは平均6.9回であり両者に有意差は認めなかった.導入期のIVR3回以降に初回投与後12カ月までIVRを追加しなかったものは24眼中10眼(41.7%)であった.AMD:Age-relatedmaculardegeneration,Minimally:MinimallyclassicCNV,Occult:OccultwithnoclassicCNV,PCV:Polypoidalchoroidalvasculopathy.表3PCV症例のポリープ状病巣の変化時期初回投与後3カ月初回投与後12カ月PCVPolyp消失縮小不変増大消失縮小不変増大(14眼)3M追加群033010413M追加なし群440043011)OccultwithnoclassicCNV症例5眼中4眼では初回投与後3カ月においてSRDは消失し,初回投与後12カ月まで再燃を認めなかった.残り1眼は初回投与後6カ月から3回IVRの追加を行い,初回投与後12カ月においてSRDは減少し残存はしていたものの視力は維持されていた(表2).PCV:Polypoidalchoroidalvasculopathy.PCV症例8眼中4眼は導入期以降初回投与後12カ月まで1)初回投与後12カ月でポリープ状病巣が再発.IVRの追加を行わず,残りの4眼は12カ月間で平均6.8回のIVRを施行した(図3).初回投与後3カ月で全例SRDは消失,または減少し,初回投与後12カ月ではポリープ状病1432あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(116) 巣の再発の1眼はSRDが悪化し5眼でSRDは消失,2眼でSRDは減少したが残存していた(表2).初回投与後3カ月,12カ月でのポリープ状病巣の消失/縮小はそれぞれ4眼/4眼,4眼/3眼であった(表3).6.合併症全24眼においてIVR実施後に血管梗塞性疾患・眼圧上昇・硝子体出血・眼内炎・網膜.離などの重篤な合併症は認めなかった.III考按今回,当院では光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)は小数視力で0.6以下の症例に施行しており,0.7以上の視力良好なAMD症例に対するIVR単独療法の1年間の効果について検討した.初回投与後3カ月におけるIVR追加の有無にかかわらず,すべての期間において24眼中23眼(95.8%)で視力を維持していた.川上らはベースライン視力0.6以上の比較的視力良好なAMD症例27眼のIVR単独療法の6カ月成績を報告5)し,96.3%の症例で視力を維持できたとしているが,今回の検討でも同等の結果が得られた.また,ベースライン視力6/12Snellen以上のAMD症例に対するIVR単独療法の1年経過について検討したRajaらは12カ月間で平均7.2回のIVRを施行し,14眼中13眼で矯正視力6/10以上を維持できたと報告7)しており,Williamsらは12カ月間で平均5.6回のIVRを施行し,88眼中82眼においてETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)の文字スコアで.15文字以内の悪化までの視力を維持できたと報告8)している.わが国では,Saitoらはベースライン視力20/40以上の比較的視力良好なAMD症例40眼のIVR単独療法の12カ月成績を検討し,そのなかで初回治療の16眼に対して平均4.8回のIVRで全例視力を維持できたと報告6)している.当院では導入期の投与にならって残存・再発時の血管新生の活動性をより確実に抑えるために維持期のIVRを1カ月ごとの連続3回投与で行っており,12カ月間のIVRの施行回数は平均6.2回とSaitoらの報告6)に比してやや多いが,前述の海外の報告7,8)とはほぼ同程度のIVR施行回数で,視力も同等の結果が得られた.今回,初回投与後3カ月の時点での追加の有無で症例を分けて検討し,IVRの平均施行回数に12カ月間で5.0回の差がみられた.これは維持期のIVRも3回連続投与していることが一因として考えられるが,それを考慮しても初回投与後3カ月の時点での追加が必要な症例は治療回数が大きくなる可能性があると考えられた.実際3M追加なし群では16眼中12眼において初回投与後3カ月の時点でSRDの消失がみられ,ポリープ状病巣が再発した1眼を除いて初回投与後12カ月の時点でSRDは消失しており視力も維持していた.しかし,初回投与後3カ月の時点でSRD減少にとどまった4眼については,その後にIVRを追加したが初回投与後12カ月でもSRDの消失には至っていなかった.さらに,3M追加群のうちoccultwithnoclassicCNV症例の2眼でも12カ月間で平均9.5回のIVR施行にもかかわらず,SRDは消失しなかった.このように,検討症例は少ないものの狭義AMDに対する初回治療でranibizumabによる治療効果が不十分な場合には,IVRの回数を増やしても十分な治療効果が得られない症例の存在することが考えられる.同じ3M追加群でもPCVの6眼では,IVR施行回数が9.5回と多かったが全例視力を維持していた.また,表2のように,初回投与後12カ月でのポリープ状病巣の再発例が1眼あり,SRDの悪化例が2眼となっていたが,全体としてはSRDが減少の方向に向かっていた.すなわち,PCV症例ではIVR導入期後SRDが残存していても,その後にIVRを続けることにより滲出性変化を減少させて視力維持,向上につなげることができる可能性があると思われる.しかし,ポリープ状病巣の消失は6眼中1眼にとどまっていた.以前よりPCVの治療にはPDTが有効という報告9,10)があり,EVERESTstudy11)でも初回投与後6カ月ではあるがIVR単独療法に比べてPDT単独療法またはIVRとPDTの併用療法のほうがポリープ状病巣の閉塞率が高いことが示されている.PCV症例では経過観察中に大量の網膜下出血のリスクもあることから,導入期3回のIVRでSRDの減少およびポリープ状病巣の消失縮小がみられない症例では追加治療としてPDT単独療法や,PDTとIVRの併用療法が選択肢になる可能性が考えられる.ただし,これまでの報告12.14)にあるように,PDT後に網膜下出血・硝子体出血・黄斑円孔・網膜色素上皮裂孔などの合併症を起こして結果として重篤な視力低下をきたすことがあり,照射部での脈絡膜循環低下のリスクも踏まえるとPDTの際は低照射エネルギーPDTも一つの選択肢になる可能性がある.特に視力良好例については,PDTによる相応のリスクと滲出性変化の持続による長期視力への影響が不明であることを考慮したうえで,今後さらなる検討を重ねる必要がある.文献1)澤田智子,大路正人:加齢黄斑変性の治療─(2)薬物治療.あたらしい眼科25:1230-1234,20082)TanoY,OhjiM:EXTEND-I:safetyandefficacyofranibizumabinJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.ActaOphthalmol88:309-316,20103)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetalfortheMARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,2006(117)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121433 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