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未熟児網膜症に対するラニビズマブ治療後再燃の関連因子

2024年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(4):452.457,2024c未熟児網膜症に対するラニビズマブ治療後再燃の関連因子前原央恵*1,2今永直也*1宮里智子*2澤口翔太*1湧川空子*1大城綾乃*1大庭千明*3吉田朝秀*4古泉英貴*1*1琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座*2沖縄県立南部医療センター・こども医療センター眼科*3沖縄県立南部医療センター・こども医療センター新生児内科*4琉球大学大学院医学研究科育成医学講座CClinicalFactorsRelatedtoRecurrenceofRetinopathyofPrematurityAfterIntravitrealRanibizumabInjectionTherapyHisaeMaehara1,2),NaoyaImanaga1),TomokoMiyazato2),ShotaSawaguchi1),SorakoWakugawa1),AyanoOshiro1),ChiakiOhba3),TomohideYoshida4)andHidekiKoizumi1)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,2)DepartmentofOphthalmology,OkinawaSouthernMedicalCenterandChildren’sMedicalCenter,3)DepartmentofInclusionMedicine,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,4)DepartmentofNeonatology,OkinawaSouthernMedicalCenterandChildren’sMedicalCenterC目的:未熟児網膜症(ROP)に対するラニビズマブ硝子体内注射(IVR)の再燃にかかわる因子について検討した.対象および方法:対象はC2019年C4月.2022年C3月に出生した超低出生体重児C94例.治療適応となるCROP(TR-ROP)の発症,IVR後の再燃に関する因子を後ろ向きに検討した.初回および再燃時の治療適応はCEarlyCTreatmentCforCROPStudyの基準に準じ,初回治療およびC1回目の再燃時の治療にはCIVR0.2Cmgを行った.結果:46例がCTR-ROPとなり,TR-ROP発症に関連する因子は,在胎週数,出生体重,持続陽圧呼吸療法の期間であった(すべてCp<0.05).初回CIVRでの寛解群C27例と再燃群C19例では,再燃群は初回治療時のCstageが低く,zoneが狭く,出生から初回治療までの期間が有意に短かった(すべてCp<0.05).再燃群のうちC14例がC2回目のCIVRで寛解したが,5例がC2回目の再燃をきたし,2回再燃群は再燃後寛解群に比べて出生からC2回目治療までの期間が有意に短かった(p<0.01).結論:早期のIVR,低いstage,狭いCzoneはCIVR後の再燃と関連していた.CPurpose:ToCinvestigateCfactorsCassociatedCwithCtheCrecurrenceCofCretinopathyCofprematurity(ROP)afterCintravitrealranibizumab(IVR)injectionCtherapy.CMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,CweCreviewedCtheCrecordsCof94extremely-lowbirthweight(BW)infantsbornbetweenApril2019andMarch2022toexploretheriskfac-torsfortreatment-requiringROP(TR-ROP)andrecurrenceafterIVRinjection.Results:ClinicalfactorsinvolvedinCdevelopingCTR-ROPCwereCgestationalCage,CBW,CandCdurationCofCcontinuousCpositiveCairwayCpressureCtherapy.CAfterCinitialCtreatment,CtheCrecurrencegroup(19patients)hadCaClowerCstageCatCtheC.rstCtreatment,CaCnarrowerCzone,andasigni.cantlyyoungerpostmenstrualageatthetimeofthe.rsttreatment(allp<0.05)thantheremis-siongroup(27patients).Afterthesecondtreatment,therecurrencegroup(5patients)hadasigni.cantlyyoungerpostmenstrualageatthetimeofthesecondtreatment(p<0.01)thantheremissiongroup(12patients).Conclu-sion:RecurrenceofTR-ROPafterIVRinjectionmaybeassociatedwithyoungerpostmenstrualageatthetimeofIVRinjection,lowerstage,andnarrowerzone.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(4):452.457,C2024〕Keywords:未熟児網膜症,ラニビズマブ,抗血管内皮増殖因子,硝子体内注射.retinopathyofprematurity,ra-nibizumab,vascularendothelialgrowthfactor,intravitrealinjection.Cはじめに熟児における網膜血管の発達異常を特徴とし,日本だけでな未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)は,未く世界の小児失明原因の上位を占める1).治療はこれまで網〔別刷請求先〕前原央恵:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座Reprintrequests:HisaeMaehara,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC452(86)膜冷凍凝固術や網膜光凝固術が主体であり,網膜.離を生じた場合には網膜硝子体手術を行っていた.近年では,抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法が新しい選択肢として加わるようになった.RAINBOWstudyにおいて,ROPに対する治療としてラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)の有効性が示され2),わが国でもC2019年にCIVRが承認された.しかし,IVR投与後に網膜症の再燃(reactivation)を生じ,複数回治療が必要な症例が存在する.治療を要するCROP(treatment-requiringROP:TR-ROP)発症にかかわる因子として,在胎週数,出生体重,晩期循環不全,長期間の陽圧呼吸,輸血歴3.5)などが知られているが,抗CVEGF薬硝子体内注射後にどのような小児が再燃するリスクが高いかは,明確なコンセンサスは得られていない.本研究の目的はCROPに対するIVR後の再燃に関する因子について検討したので報告する.CI対象および方法本研究は琉球大学病院の倫理委員会(承認番号:2040)の承認を受け,ヘルシンキ宣言に示された原則に従って実施された.本研究のオプトアウトは,琉球大学病院の施設審査委員会による承認後,病院のウェブサイトに表示されオプトアウトの機会を提供した.2019年C11月.2022年C3月に琉球大学病院および沖縄県立南部医療センター・こども医療センターで出生し,ROPスクリーニング検査を受けた超低出生体重児(出生体重1,000Cg未満)の診療録を後ろ向きにレビューした.眼底所見の評価は右眼を用いたが,今回の検討では片眼のみCROPおよびCTR-ROPを発症した症例はなく,TR-ROPは全症例で両眼同時に治療が行われていた.死亡例など新生児集中治療室を退院できなかった症例は除外した.初回および再燃時の治療適応はCEarlyCTreatmentCforCRetinopathyCofCPrema-turity(ETROP)Studyを遵守した.すなわち,pre-thresh-oldROPtype1zoneI,anystageROPwithplusdisease,またはCzoneI,stage3,withCorCwithoutCplusdisease,またはCzoneII,stageC2CorC3ROP,withCplusdisease以上の症例を治療対象とした.AggressiveROP症例については,stageやCzoneにかかわらず,治療を行った.治療は全例において,初回治療およびC1回目の再燃時はCIVR0.2Cmgを,2回目の再燃時は網膜光凝固術を施行した.TR-ROP発症やCROP再燃に関連する全身因子の候補として,ベースラインを反映するC3因子(在胎週数,出生体重,性別),出生時の呼吸循環機能を反映するC2因子(アプガー指数C1分,Apgar指数C5分),循環機能を反映するC4因子(敗血症の既往,赤血球濃厚液輸血単位数,結紮術を要する動脈管開存の既往,晩期循環不全の既往),呼吸機能を反映するC4因子(新生児呼吸窮迫症候群の既往,持続陽圧呼吸療法の期間,高流量経鼻酸素療法離脱までの期間,慢性肺疾患の有無),中枢神経循環能を反映する因子(脳室内出血の既往),感染症を反映するC3因子(臨床的絨毛膜羊膜炎の既往,組織学的絨毛膜羊膜炎の既往,子宮内感染の既往),その他入院時に受けた手術件数をあげた.また,眼局所要因として,aggressiveROP,ROP治療週数,治療時のCstage,zone,plusdiseaseを採用した.まず,TR-ROP発症にかかわる因子を同定するため,ROP未発症および自然消退ROP群とCTR-ROP群に分けてC2群間で臨床要因を比較した.また,再燃および再々燃にかかわる因子を同定するため,初回寛解群と再燃群,およびC2回治療群とC3回治療群を比較した.統計解析は,2群間比較ではCWilcoxonCrankCsumtest,CFisher’sexacttestを使用し,両群比較を行った.TR-ROPの検討では在胎週数,出生体重でCp値を補正した.0.05以下のCp値は,統計的に有意であるとみなされた.初回治療後およびC2回目治療後の再燃に関する因子の予測能を評価するため,それぞれについて統計学的に有意な要因で受信者動作特性(receiverCoperatingCcharacteristiccurve:ROC)曲線を作成し,areaundercurve(AUC)を算出,モデルの正当性を評価した.CII結果全症例C94例C94眼の臨床的特徴を表1に示す.TR-ROPはC46眼(48.9%)に発症し,ROP未発症および治療を要さず自然消退したCROPはC48眼(51.1%)であった.両群間の比較において,TR-ROP発症に関連する因子は,在胎週数,出生体重,持続陽圧呼吸療法の期間,持続陽圧呼吸療法+高流量経鼻酸素離脱の期間のC4項目で有意差を認めた(すべてp<0.05)(表2).TR-ROPのうち,初回CIVRで寛解を得た症例はC27眼(58.7%),再燃を生じた症例はC19眼(41.3%)であり,両群間において在胎週数,出生体重,その他全身的な要因は有意差を認めなかったが(表3),眼局所要因として,ROP治療週数,治療時のCstage,zoneで有意差を認めた(すべてCp<0.05)(表4).また,2回CIVRを必要とした症例で,寛解を得た症例はC14眼(73.7%),再々燃を生じ最終的に網膜光凝固術を要した症例はC5眼(26.3%)であり,こちらも両群間において全身的な要因は有意差を認めなかったが(表3),ROP治療週数のみで有意差を認めた(p<0.01)(表4).初回IVR後の寛解症例と再燃症例の比較において,AUCはC0.842であり,Youden’sindexにおけるCROP治療週数のカットオフ値はC35.0週であった.また,2回目CIVR後の寛解症例と再燃症例の比較において,AUCはC0.900であり,YoudenC’sindexにおけるCROP治療週数のカットオフ値はC41.4週であった(図1).表1全症例の臨床的特徴平均±標準偏差範囲眼数C94在胎週数(週)C26.2±2.122.3.C31.9出生体重(g)C739.6±168.8366.C998女性の割合(%)51(C54.3)出生時の呼吸循環機能Apgar指数C1分Apgar指数C5分C3.24±1.87C5.41±1.711.81.8循環機能敗血症(%)赤血球濃厚液輸血単位数(単位)結紮術を要する動脈管開存(%)晩期循環不全(%)10(C10.6)C4.33±4.0017(C18.1)3(3C.2)0.2C1呼吸機能新生児呼吸窮迫症候群(%)持続陽圧呼吸療法(日)持続陽圧呼吸療法+高流量経鼻酸素療法(日)慢性肺疾患(%)90(C95.7)C57.8±38.3C85.4±42.782(C87.2)5.2C705.2C70中枢神経循環能脳室内出血(stage)C0.55±1.010.4臨床的絨毛膜羊膜炎(%)32(C34.0)C感染症組織学的絨毛膜羊膜炎(stage)0.78±1.070.3子宮内感染(%)8(8C.5)その他入院時に受けた手術件数AggressiveROP(%)C0.64±1.319(9C.6)0.7表2未熟児網膜症(ROP)未発症+自然消退ROP群と治療を要するROP群の比較未発症+在胎日数・出生体重補正オッズ比自然消退CROPCTR-ROPp値(95%信頼区間)p値眼数(%)C48C46在胎週数(週)C27.5±1.8C25.0±1.6<C0.001*出生体重(g)C815.8±146.3C660.0±154.5<C0.001*女性の割合(%)28(C58.3)23(C50.0)C0.535†0.880(C0.278.C2.453)C0.730Apgar指数C1分C3.81±1.99C2.65±1.55C0.003*0.973(C0.701.C1.351)C0.871Apgar指数C5分C5.24±1.65C4.57±1.60<C0.001*0.686(C0.442.C1.063)C0.091敗血症(%)2(4C.2)8(C17.4)C0.048†1.032(C0.145.C7.350)C0.975赤血球濃厚液輸血単位数(単位)C2.46±2.73C6.23±4.20<C0.001*1.206(C0.965.C1.508)C0.100結紮術を要する動脈管開存(%)4(8C.3)20(C43.5)C0.016†2.3589(C0.650.C10.315)C0.177晩期循環不全(%)1(2C.1)2(4C.3)C0.613†0.671(C0.012.C36.098)C0.845新生児呼吸窮迫症候群(%)44(C91.7)46(C100)C0.117†999.999(C0.001.C999.999)C0.984持続陽圧呼吸療法(日)C42.9±38.4C73.3±31.6<C0.001*1.020(C1.005.C1.036)C0.010持続陽圧呼吸療法+高流量経鼻酸素療法(日)C64.8±38.5C106.9±36.0<C0.001*1.024(C1.008.C1.040)C0.003慢性肺疾患(%)37(C77.1)45(C97.8)C0.004†7.609(C0.797.C72.605)C0.078脳室内出血(stage)C0.29±0.71C0.83±1.20C0.025†1.181(C0.670.C2.080)C0.565臨床的絨毛膜羊膜炎(%)8(C16.7)24(C52.2)<C0.001C†1.746(C0.535.C5.693)C0.356組織学的絨毛膜羊膜炎(stage)C0.65±1.10C0.91±1.03C0.039†0.825(C0.493.C1.380)C0.464子宮内感染(%)4(8C.3)4(8C.7)C1.000†0.636(C0.085.C4.732)C0.658入院時に受けた手術件数C0.38±1.04C0.93±1.50C0.015†1.337(C0.874.C2.045)C0.181平均±標準偏差.*Wilcoxonranksumtest,†Fisher’sexacttest.CIII考按在胎週数,出生体重,持続的陽圧呼吸療法期間および高流量経鼻酸素療法離脱までの期間であったが,CROPに対する本研究ではCROPに対するCIVR後の再燃因子を検討した.IVR後の再燃にかかわる因子は全身要因では有意差は認め超低出生体重児におけるCTR-ROP発症にかかわる因子は,ず,初回CIVR後の再燃に関わる因子は,出生から治療まで表3初回および2回目のラニビズマブ硝子体内注射後の寛解群と再燃群の全身要因の比較初回ラニビズマブ硝子体内注射後2回ラニビズマブ硝子体内注射後寛解群再燃群p値寛解群再燃群p値眼数(%)C27C19C14C5在胎週数(週)C25.2±1.7C24.6±1.2C0.215*C24.8±1.2C24.0±1.4C0.253*出生体重(g)C679.4±179.7C632.4±107.8C0.300*C643.4±84.8C601.6±165.3C0.327*女性の割合(%)4(C14.8)5(C26.3)C0.456†2(C14.3)3(C60.0)C0.088†Apgar指数C1分14(C51.9)9(C47.4)C1.000†7(C50.0)2(C40.0)C1.000†Apgar指数C5分C2.74±1.65C2.53±1.43C0.792*C2.71±1.49C2.00±1.22C0.633*敗血症(%)7(C25.0)1(5C.3)C0.115†C4.57±1.12C4.20±1.10C0.754*赤血球濃厚液輸血単位数(単位)C6.22±5.14C6.37±2.45C0.334C5.86±2.51C7.80±1.79C0.271*結紮術を要する動脈管開存(%)8(C29.6)5(C26.3)C1.000†8(C57.1)2(C40.0)C0.632†晩期循環不全(%)2(7C.4)C0C0.504†C0C0C0.635†新生児呼吸窮迫症候群(%)27(C100)19(C100)C1.000†14(C100)5(1C00)C1.000†持続陽圧呼吸療法(日)C74.3±37.9C71.8±20.5C0.349*C71.2±23.8C73.4±7.0C0.512*持続陽圧呼吸療法+高流量経鼻酸素療法(日)C105.3±42.5C109.1±25.0C0.255*C109.6±27.1C107.6±20.4C0.521*慢性肺疾患(%)26(C96.3)19(C100)C1.000†14(C100)5(1C00)C1.000†脳室内出血(stage)C0.81±1.21C0.84±1.21C0.946†C0.86±1.29C0.80±1.10C0.730†臨床的絨毛膜羊膜炎(%)11(C40.7)13(C68.4)C0.080†10(C71.4)3(C60.0)C0.173†組織学的絨毛膜羊膜炎(stage)C0.74±0.94C1.16±1.12C0.130†C1.21±1.19C1.00±1.00C0.273†子宮内感染(%)1(3C.6)3(C15.8)C0.292†2(C15.4)1(C20.0)C0.206†入院時に受けた手術件数C0.85±1.26C1.05±1.81C0.619†C0.57±0.85C2.40±3.05C0.294†平均±標準偏差.*Wilcoxonranksumtest,†Fisher’sexacttest.表4初回および2回目のラニビズマブ硝子体内注射後の寛解群と再燃群の局所要因の比較初回ラニビズマブ硝子体内注射後2回ラニビズマブ硝子体内注射後寛解群再燃群p値寛解群再燃群p値眼数(%)C27C19C14C5ROP治療週数(週)C36.9±2.7C34.0±1.5<C0.001*C43.9±2.7C40.9±1.3C0.009*CStage1C3C5C0C0CStageCStage2C1C4C0.045†C3C2C0.570†CStage3C23C10C11C3CZone1C10C17C0C0CZoneCZone2C17C2<C0.001C†C14C5C1.000†CZone3C0C0C0C0CPlusdiseaseC26C17C0.561C14C5C1.000†CAggressiveROP4(C14.8)5(C26.3)C0.456†2(C14.3)3(C60.0)C0.088†平均±標準偏差.*Wilcoxonranksumtest,†Fisher’sexacttest.Cの日数,治療時のCzoneとCstageであり,2回CIVR後の再燃にかかわる因子は,出生から治療までの日数のみだった.これまでの検討でCTR-ROP発症にかかわる因子は多数報告されており,Eckertらは在胎週数,出生体重,輸血歴,酸素投与,体重増加量がCROP発症の要因であると報告し,彼らのCROC曲線におけるCAUCはC0.88であった4).Arimaらは在胎週数,出生体重,晩期循環不全,陽圧呼吸がCROP発症の要因であると報告し,そのCAUCはC0.95であった5).筆者らの検討では在胎週数,出生体重,持続陽圧呼吸療法の期間で有意差を認め,AUCはC0.891であり,Arimaらの検討に近いCAUCが得られ,ROP発症モデルはほぼ同等であった.高濃度酸素投与はCROP発症の主要な危険因子であることは広く知られているが6,7),超低出生体重の症例においても,より短い在胎週数,低い出生体重,陽圧呼吸を併用した長期の酸素投与はCTR-ROP発症のリスクにかかわることが示され,該当する症例はCROPの重症化に十分留意すべきである.初回CIVR治療後の再燃において,本研究における再燃症例はC19/46眼(41.3%),再燃までの平均期間はC63.8C±13.6日であった.同様にCIVRのみを使用した検討において,再燃率はC20.9.64%,再燃までの平均期間は約C55日と報告2,8,9)されており,既報と同等の再燃率で,再燃までの期間がややab1.001.000.750.75感度0.50感度0.500.250.250.000.001-特異度1-特異度図1ラニビズマブ硝子体内注射後の未熟児網膜症再燃に関する受診者動作特性曲線a:初回ラニビズマブ硝子体内注射(IVR)後の未熟児網膜症(ROP)再燃に関する受信者動作特性(ROC)曲線.Areaundercurve(AUC)はC0.842(p<0.001)で,ROP治療週数のカットオフ値はC35.0週であった.b:2回目CIVR後のCROP再燃に関するCROC曲線.AUCはC0.900(p=0.046)であり,ROP治療週数0.000.250.500.751.000.000.250.500.751.00のカットオフ値はC41.4週であった.長い傾向にあった.未熟児における診療は,国際的に生存率,酸素使用方法,ROPの認知度,眼科医のCROP診療の習熟度などさまざまな差異があり1,10),一概にはいえないが,筆者らの検討では超低出生体重児を対象としており,再燃までの期間の増加につながった可能性がある.TR-ROPに対するCIVR加療は,一定症例の再燃がみられること,再燃までの期間がやや長いため,IVR後は長期間の慎重な経過観察を要することを念頭に,治療後のフォローアップを行う必要がある.これまで,ROPに対する抗CVEGF治療後の治療後再燃のリスク要因は,全身要因として短い在胎週数1),低出生体重1),低CApgar指数11),治療後の酸素使用8),多胎児があり,局所要因として,広範囲の網膜新生血管8)および無血管領域11),網膜出血12)の存在であると報告されている.近年では,Iwahashiらがわが国におけるCTR-ROPに対する抗VEGF治療後の再燃リスクとして,35週未満の治療とCaggressiveROPを挙げている9).本検討でもCIVR後の再燃因子には早期のCIVR投与,治療時のCzoneとCstageが関連しており,ROC曲線におけるカットオフ値もCIwahashiらの報告9)と同様のC35.0週であった.超低出生体重児におけるROP治療後の再燃因子においても,出生後早期の治療,低いCstageあるいは狭いCzoneで治療が必要な症例,すなわち広範囲の網膜虚血の存在は,ROPの再燃を引き起こす可能性が高い.早期のCIVR療法は一過性に眼内の抗CVEGF濃度を低下させCROPを消退させるが,月齢が低いと呼吸機能や循環動態が未熟なため引き続きの高濃度酸素にさらされることで,生理的な網膜血管の発達が促されず,さらに広範囲の虚血がCVEGF濃度の上昇を引き起こし,再燃につながるものと思われる.また,同様に再燃症例においても,より早期のCIVR追加療法は再々燃のリスクがあり,早期にCIVR再投与を必要とした症例は,血管伸長が完了し活動性疾患が消失するまで,厳密な経過観察を行うことが推奨される.今回の検討ではCIVR後の全身および局所の明らかな合併症は認められなかった.近年,米国を中心とした多施設研究でも,抗CVEGF薬硝子体内注射後の硝子体出血,白内障形成,結膜炎,結膜下出血,角膜.離などの合併症はC0.9%とまれで,眼内炎や網膜.離のような重篤な合併症はみられなかったと報告されている10).一方で,Type1ROPに対するIVRは,網膜光凝固術よりも高い再燃率を示した報告13)もあり,漫然とCIVRを使用することは避けるべきであるが,ROPに対する抗CVEGF療法は全身状態不良で網膜光凝固術までの時間稼ぎや,破壊的な網膜光凝固術を必要とする領域を減少させることが可能であることも事実である.筆者らの検討でも初回CIVRがC32.7週以前の症例は全例再燃したが,逆にC38.3週以降の症例は全例寛解を認めている.2回目のIVRにおいてもC40.3週以前の症例は全例再燃,42.9週以降の症例は全例寛解を認めた.このことから,特定の週数以降であれば,ROPの鎮静化に破壊的な網膜光凝固術を回避する目的で,積極的なCIVR治療を検討してもよいと思われる.今回,ROPに対するラニビズマブ治療後再燃の関連因子を呈示した.TR-ROPに対するCIVRは,多くの症例で破壊的な網膜光凝固術を行うことなく鎮静化を得られたが,再燃症例も多数存在した.未熟児に対する抗CVEGF薬硝子体内注射は,全身的な影響,薬剤の選択,投与量など,まだ多くの議論の余地がある.わが国でも新しくアフリベルセプトが認可され,今後は治療の選択肢が増えるが,疾患の特徴を踏まえた治療戦略が必要である.文献1)TsaiAS,ChouHD,LingXCetal:Assessmentandman-agementofretinopathyofprematurityintheeraofanti-vascularCendothelialCgrowthfactor(VEGF)C.CProgCRetinCEyeResC88:101018,C20222)StahlCA,CLeporeCD,CFielderCACetal:RanibizumabCversusClaserCtherapyCforCtheCtreatmentCofCveryClowCbirthweightCinfantswithretinopathyofprematurity(RAINBOW):anopen-labelCrandomisedCcontrolledCtrial.CLancetC394(10208):1551-1559,C20193)BinenbaumG,YingGS,QuinnGEetal:TheCHOPpostC-natalCweightCgain,CbirthCweight,CandCgestationalCageCreti-nopathyCofCprematurityCriskCmodel.CArchCOphthalmolC130:1560-1565,C20124)EckertCGU,CFortesCFilhoCJB,CMaiaCMCetal:ACpredictiveCscoreCforCretinopathyCofCprematurityCinCveryClowCbirthweightpreterminfants.Eye(Lond)C26:400-406,C20125)ArimaM,TsukamotoS,FujiwaraKetal:Late-onsetcir-culatorycollapseandcontinuouspositiveairwaypressureareCusefulCpredictorsCofCtreatment-requiringCretinopathyCofprematurity:aC9-yearCretrospectiveCanalysis.CSciCRepC7:3904,C20176)TinW,WariyarU:Givingsmallbabiesoxygen:50yearsofuncertainty.SeminNeonatolC7:361-367,C20027)HigginsRD:OxygenCsaturationCandCretinopathyCofCpre-maturity.ClinPerinatolC46:593-599,C20198)LyuCJ,CZhangCQ,CChenCCLCetal:RecurrenceCofCretinopa-thyCofCprematurityCafterCintravitrealCranibizumabCmono-therapy:timingCandCriskCfactors.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:1719-1725,C20179)IwahashiCC,CUtamuraCS,CKuniyoshiCKCetal:FactorsCasso-ciatedwithreactivationafterintravitrealbevacizumaborranibizumabCtherapyCinCinfantsCwithCretinopathyCofCpre-maturity.RetinaC41:2261-2268,C202110)PatelCNA,CAcaba-BerrocalCLA,CHoyekCSCetal:PracticeCpatternsandoutcomesofintravitrealanti-VEGFinjectionforCretinopathyCofprematurity:anCinternationalCmulti-centerstudy.OphthalmologyC129:1380-1388,C202211)LingKP,LiaoPJ,WangNKetal:Ratesandriskfactorsforrecurrenceofretinopathyofprematurityafterlaserorintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactormono-therapy.RetinaC40:1793-1803,C202012)HuQ,BaiY,ChenXetal:RecurrenceofretinopathyofprematurityCinCzoneCIICstageC3+afterCranibizumabCtreat-ment:aCretrospectiveCstudy.CJCOphthalmolC2017:C5078565,C201713)ChangCE,CJosanCAS,CPurohitCRCetal:ACnetworkCmeta-analysisCofCretreatmentCratesCfollowingCbevacizumab,Cranibizumab,a.ibercept,andlaserforretinopathyofpre-maturity.OphthalmologyC129:1389-1401,C2022***

網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブおよびアフリベルセプト硝子体内投与の効果

2019年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科36(6):821.825,2019c網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブおよびアフリベルセプト硝子体内投与の効果小池直子*1尾辻剛*1前田敦史*1西村哲哉*1髙橋寛二*2*1関西医科大学総合医療センター眼科*2関西医科大学眼科学教室CComparativeE.cacyofIntravitrealRanibizumabandA.iberceptforCentralRetinalVeinOcclusionwithMacularEdemaNaokoKoike1),TsuyoshiOtsuji1),AtsushiMaeda1),TetsuyaNishimura1)andKanjiTakahashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityC網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫に対して,ラニビズマブ硝子体内投与(IVR)とアフリベルセプト硝子体内投与(IVA)を施行し,12カ月以上経過を追えたC38例C39眼(IVR群C17眼,IVA群C21眼)について,その効果に差があるかを後ろ向きに検討した.12カ月後のClogMAR視力は,IVR群では投与前C0.99からC0.79に,IVA群でも0.69からC0.49と両群とも有意に改善し,両群間で視力変化率には有意差はなかった.12カ月後の中心窩網膜厚はCIVR群では投与前C670.5CμmからC334.5Cμmに有意に減少し,IVA群でもC830.7CμmからC389.0Cμmに有意に減少し,両群間で有意差はなかった.12カ月までの平均投与回数はCIVR群C3.7回に対しCIVA群C2.9回と有意差はなかった.12カ月後に浮腫が消失していたものはCIVR群でC7眼(58.8%),IVA群でC16眼(76.2%)と両群間で有意差はなかった.両群とも投与後C12カ月の時点で視力と浮腫が改善し,その効果において両群間に有意差はみられなかった.CWecomparedthee.cacyofintravitrealranibizumab(IVR)anda.ibercept(IVA)formacularedemasecond-arytocentralretinalveinocclusion(CRVO)C.Thisretrospectivestudyinvolved38eyesof39patientswithmacu-larCedemaCassociatedCwithCRVO;allCwereCfollowedCupCforCmoreCthanC12months.CSeventeenCeyesCreceivedCIVRCand21eyesreceivedIVA.LogMARbestcorrectedvisualacuiby(BCVA)improvedfrom0.99to0.79inpatientstreatedCwithCIVRCandCfromC0.69toC0.49inCpatientsCtreatedCwithCIVA.CCentralCretinalthickness(CRT)decreasedCfrom670.5Cμmto334.5CμminIVRgroupandfrom830.7Cμmto389.0CμminIVAgroup.Therewasnosigni.cantdi.erenceCbetweenCtheCtwoCgroupsCinCchangeCofCBCVACandCCRT.CTheCnumberCofCinjectionsCaveragedC3.7inCIVRCgroupand2.9inIVAgroup.At12months,therewere7eyes(58.8%)withoutmacularedemainIVRgroupand16eyes(76.2%)inIVAgroup.BothIVRandIVAweree.ectiveformacularedemasecondarytoCRVOupto12months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(6):821.825,C2019〕Keywords:網膜中心静脈閉塞症,黄斑浮腫,VEGF,ラニビズマブ,アフリベルセプト.centralretinalveinoc-clusion,macularedema,vascularendotherialgrowthfactor,ranibizumab,a.ibercept.Cはじめに網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)に伴う黄斑浮腫に対する治療としては,これまでに網膜光凝固,ステロイド投与,硝子体手術が行われてきた.CRVOに対する光凝固治療としては,CVOStudyGroupによって格子状光凝固が視力向上に関しては無効と報告された1).また,硝子体手術に関しては大規模臨床研究によって効果が証明されておらず,ステロイド注射に関してはある程度の視力改善が報告されたが,高頻度で発生した合併症が問題となった2).このようにCCRVOに伴う黄斑浮腫に対しては満足できる治療法が存在しなかったのが実情であったが,現在では抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthC〔別刷請求先〕小池直子:〒570-8607大阪府守口市文園町C10-15関西医科大学総合医療センター眼科Reprintrequests:NaokoKoike,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityMedicalCenter,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8607,JAPANCfactor:VEGF)薬の硝子体内投与が治療の第一選択として広く行われるようになっている3).ラニビズマブは抗CVEGF抗体の一種で,ヒト化モノクローナル抗体のCFab断片であり,CRVOに伴う黄斑浮腫に対する効果としては,大規模研究であるCCRUISEstudyによって,偽注射に対してラニビズマブ治療の優位性が証明された3,4).わが国でもC2013年に初めてCCRVOに対するラニビズマブによる抗CVEGF療法が承認され,広く使用されるようになった.その後アフリベルセプトがCCRVOに対して使用可能となった.アフリベルセプトは,ヒト免疫グロブリン(Ig)G1のCFcドメインにヒトCVEGF受容体C1およびC2の細胞外ドメインを結合した遺伝子組み換え融合糖蛋白質であり,VEGF-Aと優れた親和性を有する5)だけでなく,その他のCVEGFファミリーであるCVEGF-B,胎盤成長因子(pla-centagrowthfactor:PlGF)とも結合することができるといった特徴がある.このアフリベルセプトもCCRVOに対する大規模臨床研究によりその有効性が示されている6,7).しかし,このラニビズマブとアフリベルセプトのCCRVOに伴う黄斑浮腫に対する効果の直接比較を行った報告は少ない.今回筆者らはCCRVOに伴う黄斑浮腫に対して,ラニビズマブの硝子体内投与(intravitrealranibizumab:IVR),あるいはアフリベルセプトの硝子体内投与(intravitreala.iber-cept:IVA)を施行し,その効果について検討した.本研究に関しては関西医科大学総合医療センター研究倫理審査委員会の承認のもと行った.CI対象および方法1.対象対象は,平成C26年C3月.平成C29年C3月に関西医科大学総合医療センター眼科にてCCRVOに伴う黄斑浮腫に対してIVRまたはCIVAを施行し,12カ月以上経過を追えたC38例39眼(IVR群18眼,IVA群21眼)である.他の抗VEGF薬の投与歴のあるものや経過中に他の治療を行ったものは除外した.治療前のCIVR群とCIVA群のそれぞれの患者の背景として,男女比,年齢,発症から初回投与までの期間,投与前視力,投与前の中心窩網膜厚(centralCretinalthickness:CRT),虚血型の割合,浮腫のタイプを調査した.虚血型の定義はフルオレセイン蛍光眼底造影のパノラマ撮影にて無灌流領域が10乳頭面積以上確認されたものとした.浮腫のタイプについては光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で.胞様黄斑浮腫(cystoidCmacularedema:CME),スポンジ状,漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)に分類し,同一症例で所見が複数存在する場合はそれぞれのタイプに重複してC1例ずつカウントした.2.方法ラニビズマブ(0.5Cmg)硝子体内投与(IVR)もしくはアフリベルセプト(2Cmg)硝子体内投与(IVA)を行い,これらの症例の投与前と投与C3,C6,C9,12カ月後の視力,OCTで測定したの変化,12カ月までの投与回数,OCTでみたC12カ月後の浮腫の消失について後ろ向きに検討した.CRTはCRTVue-100R(Optovue社)を用いて測定した.薬剤の選択はC2013年C11月までは全例CIVRで,2013年C12月以降は全身状態に問題のない症例は原則としてCIVAを行った.投与方法はCIVRまたはCIVAの初回投与後のC2回目以降は必要時投与(prorenata:PRN)で行った.PRNの再投与基準は,OCTで黄斑浮腫を認めた場合としたが,残存浮腫があってもCCRTがC1/3以下に減少するなど明らかに浮腫の減少がみられる場合は次回診察までの経過観察とした.視力低下や出血の増加のみでは再投与の基準とはしなかった.また,虚血型の症例については網膜出血がある程度減少した時期に血管アーケード外に汎網膜光凝固を行った.統計学的解析にはCIBMCSPSSstatistics(IBM社)を使用した.治療前後の視力の比較はCWilcoxonの符号付順位和検定を,CRTの値は正規分布していたためその比較には対応のあるCt検定を,両群間の視力改善,CRTの減少率および投与回数の比較にはCMann-WhitneyのCU検定を,浮腫の消失の比較にはCc2検定を用い,p<0.05を統計学的に有意とした.視力に関する検討では,小数視力をClogMAR(logarith-micCminimumCangleCofresolution)視力に換算し,logMARでC0.3以上の変化を有意とした.CII結果男女比,年齢,発症から初回投与までの期間,投与前視力,投与前のCCRT,虚血型の割合,浮腫のタイプで両群間に有意差はみられなかった(表1).対象となった全例の平均ClogMAR視力は,投与前はC0.83,3カ月後はC0.66,6カ月後はC0.62,9カ月後はC0.63,12カ月後はC0.63であった.図1のグラフに示すようにCIVR群,IVA群の平均ClogMAR視力はそれぞれ投与前C0.99,0.69で,3カ月後はC0.88,0.49,6カ月後はC0.74,0.52,9カ月後は0.75,0.54,12カ月後はC0.79,0.49であった.投与前と比べてCIVR群,IVA群ともにC3,C6,C9,12カ月で有意に改善した(p<0.05:WilcoxonCsigned-ranktest).IVR群でCIVA群に比べ投与前視力が悪かったが両群間で有意差はなかった(表1).また,投与前からC12カ月後における視力変化には両群間で有意差はなかった(p=0.59:Mann-WhitneyCUtest).12カ月後における視力変化は,IVR群では改善C6眼(35.3%),不変C10眼(58.8%),悪化C1眼(5.9%)であり,IVA群では改善C9眼(42.9%),不変C9眼(42.9%),悪化C3眼(14.3表1投与前の患者背景IVR群(18眼)IVA群(21眼)男:女6:1110:11Cp=0.33(Fisher’sexactprobabilitytest)平均年齢70.4(52.86)歳73.8(58.92)歳Cp=0.27(Student’sttest)発症から初回治療までの期間6.5カ月3.8カ月Cp=0.21(Mann-WhitneyUtest)虚血型5眼3眼p=0.23(Fisher’sexactprobabilitytest)治療前ClogMAR視力C0.99C0.69Cp=0.09(Mann-WhitneyUtest)中心窩網膜厚C648.5C670.6Cp=0.81(Student’sttest)CMEC15C20浮腫のタイプ(重複あり)スポンジ状C9C11Cp=0.98(chi-squareforindependencetest)CSRD8C11Cすべての項目において両群間に有意差なし.CME:.胞様黄斑浮腫,SRD:漿液性網膜.離.1.8表212カ月後における視力変化0.8IVR群とCIVA群の間に有意差なし(*p=0.93:Mann-Whitney1.6改善不変悪化1.4IVR6眼(35.3%)10眼(58.8%)C1.2IVA9眼(42.9%)9眼(42.9%)1眼(5.9%)3眼(14.3%)*n.s.ClogMAR視力1logMARでC0.3以上の変化を有意とした.Utest).0.60.40.21,0009000800-0.2700600500400CRT(μm)図1視力変化投与前と比べてCIVR群,IVA群ともにC3,6,9,12カ月で有意に改善した(*p<0.05:WilcoxonCsigned-ranktest).12カ月での視力改善は両群間に有意差なし(p=0.52:Mann-WhitneyUtest).300200%)であった(表2).視力悪化したC4眼のうちC12カ月後のC100n.s.時点で浮腫が残存していたものはC2眼であった.CRTに関しては,投与前はC660.7Cμm,3カ月後はC331.1μm,6カ月後はC266.1Cμm,9カ月後はC343.2Cμm,12カ月後はC308.5Cμmで,IVR群,IVA群の平均CCRTはそれぞれ投与前C670.6μm,648.5μmで,3カ月後はC360.6μm,294.6μm,6カ月後はC260.3Cμm,273.3Cμm,9カ月後はC342.3Cμm,344.3Cμm,12カ月後はC327.3Cμm,285.2Cμmと両群ともC3,6,9,12カ月後のCCRTは有意に減少(p<0.01:pairedttest)したが,両群間に有意差はなかった(p=0.92:Mann-Whit-neyUTest)(図2).12カ月までの平均投与回数は,IVR群で平均C3.7回,IVA群では平均C2.9回と有意差はなかった(p=0.06:Mann-Whit-neyCUtest)(図3).12カ月後に浮腫が消失していたものは,IVR群ではC17眼中C10眼(58.8%),IVA群ではC21眼中C16眼(76.2%)と有意差はなかった(p=0.21:Fisher’sexactprob-abilitytest)(表3).浮腫のタイプ別での浮腫消失を図4に示す.IVR群ではすべての浮腫のタイプで有意差はなかっ0投与前図2中心窩網膜厚(CRT)の変化投与前と比べてCIVR群,IVA群ともにC3,6,9,12カ月で有意に改善した(*p<0.01:pairedttest).12カ月でのCCRTの減少率は両群間に有意差なし(p=0.92:Mann-WhitneyUtest).た(p=0.58:chi-squareforindependencetest).IVA群においても浮腫のタイプにかかわりなく浮腫が消失した(p=0.98:chi-squareCforCindependencetest).すべての浮腫のタイプで両群間で消失率に有意差はなかった(FisherC’sCexactprobabilitytest).CIII考按今回筆者らはCCRVOに伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブとアフリベルセプトの効果について検討した.IVRおよびIVAはいずれもCCRVOの黄斑浮腫に対し,投与後C12カ月の時点で浮腫を軽減させる効果があった.浮腫消失率はCIVR表312カ月後における浮腫の消失消失残存8IVR10眼(58.8%)7眼(41.2%)*n.s.7IVA16眼(76.2%)5眼(23.8%)C65*p=0.21(Fisher’sexactprobabilitytest)C43p=0.28p=0.37p=0.142100眼数図312カ月までの投与回数IVR群で平均C3.7回,IVA群では平均C2.9回と有意差なし(p=0.06:Mann-WhitneyUtest).群ではC58.8%に対し,IVA群ではC76.2%と有意差はなく,平均投与回数は,IVR群で平均C3.7回,IVA群では平均C2.9回と有意差はなかった.また,視力変化やCCRTの変化には両群間で有意差はなかった.既報においても,LoteryらはCRVOにおいてC1年間の平均投与回数を比べると,IVRは4.4回,IVAはC4.7回で有意差はなかったと報告している8).また,ChatziralliらはCCRVOに対するCIVRとCIVA(導入期3回+必要時投与)ではC18カ月の時点で視力,CRTの変化ともに有意差はなく,浮腫消失率にも差はなかった(IVR群:50%,IVA群:42.9%)としている9).また,SaishinらはC6カ月の前向き検討でCCRVOに対するCIVRあるいはCIVAを隔月投与したところ,視力,CRTの変化ともに有意差はなく,前房水CVEGF濃度では投与開始C2カ月後で両群とも有意に減少したが,IVA群ではC11眼中C8眼が測定限界値以下まで減少したとしている10).今回のCCRVOの黄斑浮腫に対する後ろ向き検討のC1年間の結果において,既報と同様に視力変化やCCRTの変化,浮腫消失率,投与回数においてCIVA群とCIVR群の間に有意差はなかった.ただし,対象症例数が少なく検討項目のなかには統計学的処理においてCp値が小さいものがあるので,今後症例数が増加すれば再検討が必要であり,前向き検討も必要である.視力がClogMARでC0.3以上悪化したC4眼については,治療開始までの期間や虚血の有無など,治療前での共通した特徴はなく,治療前の予測は困難と思われた.また,このC4眼のうちC12カ月後の時点で浮腫が残存していたものはC2眼であり,一方でC10眼は浮腫が残存していても視力が維持改善できた.CRVOにおいては浮腫の残存は視力低下のおもな原因ではないのかもしれない.CRVOに伴う黄斑浮腫に対する抗CVEGF薬の投与方法については,筆者らの報告のように初回投与後のCPRNや,導入C3回投与後にCPRNといった方法が行われており,確立さ200CMEスポンジ状SRD図4浮腫のタイプ別消失率IVR群(p=0.58:chi-squareCforCindependencetest),IVA群(p=0.98:chi-squareCforCindependencetest)ともに浮腫のタイプにかかわりなく浮腫が消失した.すべての浮腫のタイプで両群間で消失率に有意差はなかった(Fisher’sexactprobabilitytest).れた治療プロトコールは存在しないが,できるだけ少ない治療回数で効果が得られるのであれば患者の経済的負担や全身的副作用の点からも望ましいと思われる.視力良好例では,滲出型加齢黄斑変性と同様に厳格な基準でのCPRNが重要であるが,投与前視力が不良のCCRVOでは浮腫の完全消失に持ち込むのは非常に困難な症例がある.一方,前述のようにCRVOにおいて浮腫の残存は視力低下のおもな原因ではないのであれば,このような難症例において浮腫の完全消失にこだわらなくてよいのかもしれない.すなわち抗CVEGF薬を繰り返し投与しても浮腫が残存するような症例では,いったん視力改善が頭打ちになった後の維持期の投与は,視力低下を再投与条件とした必要時投与で十分なのかもしれない.この研究は過去の診療録を調べることによる実臨床での後ろ向き研究で症例数も限られており,今後長期にわたる観察とさらなる検討が必要である.文献1)TheCCentralCVeinCOcclusionCStudyGroup:EvaluationCofCgridCpatternCphotocoagulationCforCmacularCedemaCinCcen-tralCveinCocclusion.CMCreport.COphthalmologyC102:1425-1433,C19952)IpCMS,CScottCIU,CVanVeldhuisenCPCCetal:ACrandomizedCtrialCcomparingCtheCe.cacyCandCsafetyCofCintravitrealCtri-amcinolonewithobservationtotreatvisionlossassociatedwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinocclusion:theStandardCarevsCoricosteroidforRetinal消失率(%)8060401回2回3回4回5回6回7回VeinOcclusion(SCORE)studyreport5.ArchOphthalmolC127:1101-1114,C20093)CampochiaroCPA,CBrownCDM,CAwhCCCCetal:SustainedCbene.tsCfromCranibizumabCforCmacularCedemaCfollowingCcentralCretinalCveinocclusion:twelve-monthCoutcomesCofCaphase3study.OphthalmologyC118:2041-2049,C20114)BrownDM,CampochiaroPA,SinghRPetal:Ranibizum-abformacularedemafollowingcentralretinalveinocclu-sion:six-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseC3study.OphthalmologyC117:1124-1133,C20105)HolashCJ,CDavisCS,CPapadopoulosCNCetal:VEGF-trap:aCVEGFCblockerCwithCpotentCantitumorCe.ects.CProcCNatlCAcadSciUSAC99:11393-11398,C20026)HolzCFG,CRoiderCJ,COguraCYCetal:VEGFCTrap-EyeCforCmacularCoedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinCocclu-sion:6-monthCresultsCofCtheCphaseCIIICGALILEOCstudy.CBrJOphthalmolC97:278-284,C20137)BoyerCD,CHeierCJ,CBrownCDMCetal:VascularCendothelialCgrowthfactorTrap-EyeformacularedemasecondarytocentralCretinalCveinocclusion:six-monthCresultsCofCtheCphaseC3COPERNICUSCstudy.COphthalmologyC119:1024-1032,C20128)LoteryAJ,RegnierS:Patternsofranibizumabanda.iber-cepttreatmentofcentralretinalveinocclusioninroutineclinicalpracticeintheUSA.EyeC29:380-387,C20159)ChatziralliI,TheodossiadisG,MoschosMMetal:Ranibi-zumabCversusCa.iberceptCforCmacularCedemaCdueCtoCcen-tralCretinalCveinocclusion:18-monthCresultsCinCreal-lifeCdata.GraefesArchClinExpOphthalmolC255:1093-1100,C201710)SaishinY,ItoY,FujikawaMetal:Comparisonbetweenranibizumabanda.iberceptformacularedemaassociatedwithcentralretinalveinocclusion.JpnJOphthalmolC61:C67-73,C2017C***

黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症に対するラニビズマブ初回およびPRN投与の短期治療成績

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):263.266,2018c黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症に対するラニビズマブ初回およびPRN投与の短期治療成績寺内稜*1,2小川俊平*1,2中野匡*1*1東京慈恵会医科大学附属病院眼科*2厚木市立病院眼科CShort-termClinicalOutcomesofInitialandProReNataCIntravitrealRanibizumabInjectionforMacularEdemaSecondarytoBranchRetinalVeinOcclusionCRyoTerauchi1,2)C,ShumpeiOgawa1,2)CandTadashiNakano1)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,AtsugiCityHospital対象および方法:対象は網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対してラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)を施行し,6カ月間経過観察できたC26例C26眼(平均C69.3C±10.6歳).最高矯正視力(best-correct-edCvisualCacuity:BCVA)と中心窩網膜厚(fovealCretinalCthickness:FRT)の経過,IVRの投与回数,視力改善に影響を与える因子について後ろ向きに検討した.初回導入後はCFRT350Cμm以上を基準としてCprorenata投与を行った.結果:投与前と投与後C6カ月のCBCVA(logMAR)はC0.36からC0.22へ,FRTはC587.3CμmからC336.4Cμmへと有意に改善し,平均投与回数はC1.7C±0.6回であった.投与前視力が悪い症例ほど大きな視力改善が得られた.結論:FRT350Cμm以上の再投与基準は,投与回数を抑制しCBCVAおよびCFRTを有意に改善させる.CMethods:WeretrospectivelyreviewedtheclinicalchartsofpatientswhounderwentIVRforMEsecondarytoCBRVO.CAllCpatientsCwereCtreatedCwithC1+PRNCregimenCoverC6Cmonths.CTheCmainCcriterionCforCPRNCinjectionwasCfovealCretinalCthickness(FRT)>350Cμm.CBest-correctedCvisualCacuity(BCVA)andCFRTCwereCmeasuredCatCpre-injection,and1,3and6monthsafterinitialinjection.WeevaluatedfactorspredictingBCVAimprovementin6CmonthsCusingCmultipleCregressionCanalysis.CResults:InCtheC26CeyesCofC26CpatientsCincludedCinCthisCstudy,CtheCmeannumberofinjectionswas1.7±0.6.BCVAinlogarithmicminimumangleofresolutionchangedsigni.cantly,from0.36atpre-injectionto0.22at6months.FRTalsoreducedsigni.cantly,from587.3Cμmto336.4Cμm.Therewassigni.cantnegativecorrelationbetweenpre-injectionBCVAandBCVAimprovement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):263.266,C2018〕Keywords:網膜静脈分枝閉塞症,黄斑浮腫,ラニビズマブ,PRN.branchretinalveinocclusion,macularedema,ranibizumab,prorenata.Cはじめに近年,網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinCocclu-sion:BRVO)に伴う黄斑浮腫(macularCedema:ME)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)薬硝子体内注射の有効性が示され1),最適な投与プロトコルが模索されている.BRVOに伴うCMEはC4.5カ月でC18%,7.5カ月でC41%が自然軽快することが知られており2),これまでに報告されてきた毎月投与1),導入期C3回+proCreCnata(3+PRN)投与3)あるいはCtreatCandCextend(TAE)法4)では過剰投与の可能性がある.現在は投与回数を抑えたC1+PRN投与が有効な投与プロトコルと考えられ広く臨床の場で行われているが,その治療効果の検討は十分とはいえない.筆者らの施設では,ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealCranibizumab:IVR)のC1+PRN投与を選択し,再投与基準を中心窩網膜厚(fovealCretinalCthickness:FRT)350Cμm以上として治療を行ってきた.今回,その治療結果を後ろ向きに検討したので報告する.〔別刷請求先〕寺内稜:〒105-8471東京都港区西新橋C3-19-18東京慈恵会医科大学附属病院眼科Reprintrequests:RyoTerauchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,3-19-18Nishishinbashi,Minato-ku,Tokyo105-8471,JAPAN表1症例の投与前背景0.6対象26眼年齢C69.3±10.6歳性別(女/男)17/9名(65.4/34.6%)発症から投与までの期間C6.99±8.69カ月投与前視力(logMAR)C0.36±0.23中心窩網膜厚C587.3±280.0Cμm黄斑部出血14眼(53.8%)0漿液性網膜.離9眼(34.6%)図1BCVA(最高矯正視力)の投与前後の推移I対象投与後C6カ月のCBCVAは,投与前と比較して有意に改善した.平均値C±標準偏差.p=0.021,厚木市立病院眼科において,2014年C3月.2015年C12月Wilcoxonの順位和検定(投与前と比較).CにCBRVOに伴うCMEに対してCIVRを実施した連続症例のうち,除外基準1)軽度白内障を除く他の眼疾患の合併,2)初700Pre1M3M6M回CIVR前のCBRVOに対する硝子体手術,他の抗CVEGF薬硝子体内注射,Tenon.下ステロイド注射もしくは網膜光凝固の既往,に該当する症例を除いたC26例C26眼を対象とした(表1).CII方法0視力障害をきたす黄斑部を含むCMEを認め,光干渉断層Pre1M3M6M計(opticalCcoherentCtomography:OCT.CCirrusC3000,CCarlZeiss)でCFRTがC250μm以上の症例に対して初回CIVR(0.5Cmg/0.05Cml)を実施した.以降はCPRN投与を行い,再投与基準は視力にかかわらずCMEの残存もしくは再発のためにFRTが350Cμm以上の場合とした.必要に応じて蛍光眼底造影検査を実施し,5乳頭径大以上の網膜無灌流領域を認めたC11例(42.3%)で局所網膜光凝固を行った.MEに対する閾値下凝固を行った症例はなかった.治療効果を検討するため,初回CIVR前,投与後C1,3,6カ月の時点で視力検査による最高矯正視力(bestCcorrectedvisualCacuity:BCVA)と,OCT画像検査によるCFRTの測定を行った.FRTはセグメンテーションエラーを回避するために,OCT検査により得られた中心窩を含む網膜断層写真をCOCT上で確認選別し,断層像で決定した中心窩の硝子体網膜界面と,網膜色素上皮層の垂線の交点までの最大の距離をCFRTとした.BCVAとCFRTの投与前後の比較にはCWilcoxonの順位和検定を用いた.少数視力はClogMAR(logarithmicCminimumangleCofCresolution)視力に換算して解析を行った.治療効果に影響を与える因子を検討するため,目的変数をC6カ月間の視力改善幅(投与後C6カ月CBCVAC.投与前CBCVA),説明変数を年齢,性別,発症から投与までの期間,黄斑部出血の有無,投与前BCVA,投与前FRT,漿液性網膜.離(serousretinalCdetachment:SRD)の有無,光凝固実施の有無,6カ月間の投与回数,として重回帰分析を行った.変数選択に図2FRT(中心窩網膜厚)の投与前後の推移投与後C6カ月のCFRTは,投与前と比較して有意に減少した.平均値±標準偏差.p<0.001,Wilcoxonの順位和検定(投与前と比較).Cはステップワイズ法を用いた.統計解析には,RCver.C3.2.1.(RCFoundationCforCStatisticalCComputing,CVienna,CAus-tria,C2014)を用い,p<0.05を有意差ありとした.本研究は厚木市立病院倫理委員会の承認(H28-06)を得て,ヘルシンキ宣言を尊守し実施された.CIII結果6カ月間の平均投与回数はC1.7C±0.6回であった.投与回数がC1回の症例はC26眼中C11眼(42.3%),2回はC13眼(50.0%),3回はC2眼(7.7%)であった.IVRに伴う重篤な全身および局所合併症は認めなかった.治療開始後C6カ月間のBCVAとCFRTの推移を示す(図1,2).BCVAは投与前C0.36C±0.23(平均C±標準偏差),投与後C6カ月C0.22C±0.22であり有意に改善した(p=0.021).logMAR0.2以上の変化を有意とした場合,投与後C6カ月の時点でC26眼中C9眼(34.6%)に視力の改善が認められ,不変であった症例はC16眼(61.5%),悪化した症例はC1眼(3.8%)であった.FRTは投与前C587.3C±279.6μm,投与後C6カ月はC336.4C±196.5μmと有意に減少した(p<0.001).視力改善に影響を及ぼす因子の検討では,ステップワイズ年齢黄斑部出血C投与前CBCVAC投与前CFRTC表2説明変数間の相関係数(r)年齢黄斑部出血投与前CBCVA投与前CFRT1.000C─C─C─.0.0241.000C─C─.0.134C.0.096C1.000C─.0.4330.098C0.366C1.000表3各説明変数の標準偏回帰係数(b)0.8bp値年齢C0.0048C0.209黄斑部出血C.0.0937C0.198投与前CBCVAC.0.4707C0.011投与前CFRTC.0.0003C0.023法により四つの説明変数(年齢,黄斑部出血,投与前CBCVA,視力改善幅(6カ月-投与前)0投与前CFRT)が選択された.説明変数間の相関係数はいずれも中等度以下であり(表2),多重共線性の問題はないと考えられた.また,自由度調整済決定係数CrC2はC0.54であった.標準偏回帰係数Cb(表3)から,投与前CBCVA(Cb=.0.47,Cp=0.011)が視力改善幅に強く影響すると考えられ,投与前視力が悪い症例ほど大きな視力改善が得られていた.単回帰分析でも投与前CBCVAと視力改善幅には有意な負の相関が認められた(r=.0.61,Cp=0.001,図3).CIV考按これまでのCBRVOに対する抗CVEGF薬のCPRN投与の報告において,再投与基準はCFRT250μm以上5),もしくは300Cμm以上6)に設定される場合が多かったが,筆者らは過剰投与のリスクを減らしながら治療効果が十分に得られる最適な投与プロトコルを模索するため,再投与基準はCFRT350μm以上に設定した.結果として,投与前と比較して投与後6カ月のCBCVAおよびCFRTはいずれも有意に改善した.坂西らはCFRT300Cμm以上を再投与基準としてC1+PRN投与を実施し,6カ月後7),12カ月後8)のCBCVAおよびCFRTは有意に改善したと報告している.平均投与回数を比較すると,本研究ではC6カ月間でC1.7回であったのに対し,坂西ら7)はC1.9回であり,本研究の投与回数のほうがわずかに少ない傾向にあった(表4).少ない投与回数は,注射に伴う合併症,患者の費用負担,医療経済などさまざまな面で利点があると考えられる.しかしながら,本研究のCBCVAとCFRTの改善幅は,坂西らのC6カ月後の結果と比較して同等もしくはわずかに小さい傾向にあり,6カ月間の投与回数の差が影響している可能性は否定できない.本研究はC6カ月間の短期治療成績を検討しており,FRT再投与基準が視力予後に与える影響については,より長期の-0.800.20.40.60.81投与前BCVA図3投与前BCVAと6カ月間の視力改善幅の関係投与前CBCVAと視力改善幅は有意な負の相関を示した(r=.0.605,Cp=0.001).視力改善幅は,正の値は視力悪化,負の値は視力改善を表す.経過観察が必要となる.また,本研究は対象がC26眼と少数であり,今後症例数を増やした検証も必要である.視力改善に影響する因子について重回帰分析を用いて検討した結果,投与C6カ月後の視力改善幅にもっとも影響を与える因子は投与前視力であり,投与前視力が悪いほど投与後に大きな視力改善が得られた.これまでにも投与前視力と視力改善が負の相関を示すという報告は存在し9),視力不良例に対しても抗CVEGF療法は有効な治療法であることが期待されている.しかしながら,本研究では投与前視力がClogMAR視力C1.0より大きな症例はなく,視力不良例についての検討は十分とはいえない.同様にCBRVOに関する大規模臨床試験であるCBRAVOCstudy1)においても,logMAR視力C1.3より大きい症例は対象から除外されており,今後は視力不良例に対する抗CVEGF療法の治療効果についてのさらなる検討が望まれる.結論として,1+PRN投与はC6カ月後のBCVAおよびFRTを改善させ,FRT350Cμm以上の再投与基準は投与回数を抑制し十分な治療効果を維持した.謝辞:本論文作成にあたり草稿をご校閲いただいた東京慈恵会医科大学の酒井勉,神野英生,堀口浩史先生,臨床評価をしていただいた吉嶺松洋,岸田桃子先生に深謝いたします.表4BRVOに対するIVRの短期治療成績を検討した本研究と既報の比較眼再投与基準(Cμm)平均投与回数(回)BCVA改善幅(logMAR)FRT改善幅(Cμm)坂西ら(2C016)C32C≧300C1.9±0.8C.0.18C.273本研究C26C≧350C1.7±0.6C.0.14C.251文献1)CampochiaroCPA,CHeierCJS,CFeinerCLCetCal:RanibizumabCforCmacularCedemaCfollowingCbranchCretinalCveinCocclu-sion:six-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseCIIICstudy.OphthalmologyC117:1102-1112,C20102)RogersCSL,CMcIntoshCRL,CLimCLCetCal:NaturalChistoryCofbranchretinalveinocclusion:anevidence-basedsystem-aticreview.OphthalmologyC117:1094-1101,C20103)MiwaCY,CMuraokaCY,COsakaCRCetCal:RanibizumabCformacularCedemaCafterCbranchCretinalCveinCocclusion:oneCinitialCinjectionCversusCthreeCmonthlyCinjections.CRetinaC37:702-709,C20174)RushCRB,CSimunovicCMP,CAragonCAVC2ndCetCal:Treat-and-extendCintravitrealCbevacizumabCforCbranchCretinalCveinCocclusion.COphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC45:212-216,C20145)BrownDM,CampochiaroPA,SinghRPetal:RanibizumC-abformacularedemafollowingcentralretinalveinocclu-sion:six-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseCIIICstudy.OphthalmologyC117:1124-1133,C20106)CampochiaroCPA,CWyko.CCC,CSingerCMCetCal:MonthlyCversusCas-neededCranibizumabCinjectionsCinCpatientsCwithretinalCveinCocclusion:theCSHORECstudy.COphthalmologyC121:2432-2442,C20147)坂西良仁,大内亜由美,伊藤玲ほか:網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射のC6カ月間治療成績.日眼会誌120:28-34,C20168)SakanishiCY,CLeeCA,CUsui-OuchiCACetCal:Twelve-monthCoutcomesCinCpatientsCwithCretinalCveinCocclusionCtreatedCwithClow-frequencyCintravitrealCranibizumab.CClinCOph-thalmolC10:1161-1165,C20169)WaiCKM,CKhanCM,CSrivastavaCSCetCal:ImpactCofCinitialCvisualCacuityConCanti-VEGFCtreatmentCoutcomesCinCpatientsCwithCmacularCoedemaCsecondaryCtoCretinalCveinCocclusionsCinCroutineCclinicalCpractice.CBrCJCOphthalmolC101:574-579,C201710)CampochiaroPA,ClarkWL,BoyerDSetal:Intravitreala.iberceptCforCmacularCedemaCfollowingCbranchCretinalveinCocclusion:theC24-weekCresultsCofCtheCVIBRANTCstudy.OphthalmologyC122:538-544,C2015***

日本人における糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体 注射の長期治療成績

2018年1月31日 水曜日

《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科35(1):136.139,2018c日本人における糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の長期治療成績清水広之*1村松大弐*1若林美宏*1上田俊一郎*2馬詰和比古*1八木浩倫*1阿川毅*1川上摂子*1山本香織*1渡邉陽子*1塚原林太郎*2三浦雅博*2後藤浩*1*1東京医科大学眼科学分野*2東京医科大学茨城医療センター眼科IntravitrealInjectionofRanibizumabforDiabeticMacularEdemainJapan:Long-termOutcomeHiroyukiShimizu1),DaisukeMuramatsu1),YoshihiroWakabayashi1),ShunichiroUeda2),KazuhikoUmazume1),HiromichiYagi1),TsuyosiAgawa1),SetsukoKawakami1),KaoriYamamoto1),YokoWatanabe1),RintaroTsukahara2),MasahiroMiura2)andHiroshiGoto1)1)TokyoMedicalUniversity,DepartmentofOphthalmology,2)TokyoMedicalUniversity,IbarakiMedicalCenter,DepartmentofOphthalmology目的:日本人を対象とした糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するラニビズマブ硝子体注射(IVR)の長期治療成績の報告.対象および方法:DMEにCIVRを行い,12カ月以上観察が可能であったC68眼を対象に後ろ向きに調査した.初回IVR後C6,12,18カ月の視力と中心網膜厚,追加治療について検討した.結果:観察期間は平均C19.2カ月であった.治療前視力の平均ClogMAR値はC0.37で,治療後C6カ月でC0.25,12,18カ月後では,それぞれC0.23,0.24と有意な改善を示した.治療前の平均中心網膜厚はC477Cμmで,治療6,12,18カ月後にはC387,368,312Cμmと全期間で有意な改善を示した.治療開始後C18カ月後までのCIVR回数は平均C3.3回であり,経過中に光凝固はC23眼(33%)に,トリアムシノロンアセトニドのCTenon.下注射はC15眼(22%)に併用された.全経過観察期間中にC63眼(91%)で浮腫の再発がみられた.結論:日本人においても,IVRは長期にわたりCDMEの軽減と視機能の改善に有効であるが,再発例も多く,複数回の投与と追加治療を要する.CPurpose:Toreportthelong-terme.cacyofintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)inJapanesepatientswithdiabeticmacularedema(DME).Casesandmethods:Inthisretrospectivecaseseries,68eyesof54patientswithCDMECreceivedC0.5CmgCIVR.CCasesCwereCfollowedCupCforC12CmonthsCorClonger.CBestCcorrectedCvisualCacuity(BCVA;logCMAR)andCcentralCretinalCthickness(CRT)wereCtheCmainCoutcomeCassessments.CResults:MeanCfol-low-upperiodwas19.2months.BaselineBCVAandCRTwere0.37and477Cμm,respectively.At6months,BCVAhadCimprovedCtoC0.25CandCCRTChadCsigni.cantlyCdecreasedCtoC387Cμm,CcomparedCtoCbaseline(p<0.01).CAtC12monthsand18months,BCVAhadsigni.cantlyimprovedto0.23(p<0.01)and0.24(p<0.01),respectively;CRThaddecreasedto368Cμm(p<0.01)and312Cμm(p<0.01),respectively.TheaveragenumberofIVRwas3.3times.Amongallcases,63eyes(92%)experiencedrecurrentmacularedema.Conclusion:Intravitrealinjectionofranibi-zumabisane.ectivetreatmentforDME.However,multipleinjectionsandadditionaltreatmentsarerequired,duetofrequentrecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(1):136.139,C2018〕Keywords:ラニビズマブ,糖尿病黄斑浮腫,光凝固,トリアムシノロンアセトニド,抗CVEGF抗体.ranibizum-ab,diabeticmacularedema,photocoagulation,triamcinoloneacetonide,anti-VEGF.C〔別刷請求先〕清水広之:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学眼科学分野Reprintrequests:HiroyukiShimizu,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1NishishinjukuShinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN136(136)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(136)C1360910-1810/18/\100/頁/JCOPYはじめに糖尿病網膜症は日本の視覚障害者の主原因疾患の一つであり,なかでも糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularCedema:DME)は糖尿病網膜症における視力障害の主要因子である.DMEの病態には血管内皮増殖因子(vascularCendothelialgrowthCfactor:VEGF)が関与していることが知られており1),VEGFの抑制がCDMEの制御にとってきわめて重要である.DMEに対する治療は,近年では抗CVEGF療法が治療の主体となりつつあり2,3),抗CVEGF抗体の一種でヒト化モノクローナル抗体のCFab断片であるラニビズマブは,大規模研究であるCRISE&RIDEstudyによって,偽注射に対して治療の優位性が証明された4).また,同様の大規模研究であるアジア人種を対象としたCREVEALstudy5)によって光凝固治療に対しても優位性が証明された.しかし,これらの研究の対象には厳しい組み入れ基準があるため,実臨床とは乖離している一面があり,また薬剤の投与についても臨床研究のためきわめて数多くの注射が行われているため,実臨床における反応性や効果についてはいまだに不明な点も残されている.以上の背景をもとに,2014年C2月からわが国においてもDMEへのラニビズマブ治療が認可され,広く使用されるようになってきたことから,日本人症例に対して筆者らが行ってきた治療の長期成績について報告する.CI対象および方法対象はC2014年C3月.2014年C12月に,東京医科大学ならびに東京医科大学茨城医療センターで,DMEに対してラニビズマブ0.5mgの硝子体注射(intravitrealCinjectionCofranibizumab:IVR)で治療を開始し,12カ月以上経過観察が可能であったC54例C68眼(男性C41例,女性C13例)で,全例,日本人症例であった.治療時の年齢分布はC39.81歳で,平均年齢±標準偏差はC64.8C±10.2歳である.治療歴として,ベバシズマブからの切り替え症例がC20眼(29%)あった.また,初回CIVR施行眼はC48眼(71%)であり,これらのうちC19眼はまったくの無治療,29眼(43%)は光凝固やトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-tenonCinjec-tionCofCtriamcinoronCacetonide:STTA)による治療歴があった.治療プロトコールとして,IVRの後に毎月観察を行い,その後は必要に応じて再治療を行った(proCreCnata:PRN).再治療は,2段階以上の視力低下,もしくはC20%以上の中心網膜厚(centralCretinalCthickness:CRT)の増加がみられ,患者の同意が得られた場合に原則としてCIVRを行った.浮腫の悪化がみられてもCIVRの同意が得られなかった場合や,IVR後の浮腫の改善が不十分な場合はCSTTAを施行した.全症例のうち,蛍光眼底造影で無灌流域や黄斑部毛細血管瘤を認めたC17眼に対しては,IVRの後,1.2週の時点で計画的に光凝固(汎網膜光凝固,血管瘤直接凝固,もしくはCtargetedCretinalCphotocoagulation:TRP6))を行い,残るC51眼はCIVR単独で治療を開始し,適宜追加治療を行った.これらC51眼のうちC19眼については,眼所見が安定するまで治療開始からC1カ月ごとにC2.3回の注射を行うCIVR導入療法を施行し,その後は必要時投与とした.検討項目は,IVR後C6,12,18カ月における完全矯正視力,および光干渉断層計3D-OCTC2000(トプコン)もしくはCirrusHD-OCT(CarlZeissMeditech)を用いて計測したCCRTで,そのほかにも再発率,治療方法ならびに投与回数,投与時期について診療録をもとに後ろ向きに調査した.統計処理はStatViewを使用して,t-検定(Bonferroni補正),c2検定を行い,有意水準5%以下を有意と判断した.CII結果全C68眼の平均観察期間はC19.2C±4.0カ月(12.27カ月)であった.全症例おける治療前の平均CCRTはC476.5C±121.8Cμmであったのに対し,IVR後C6カ月の時点ではC387.2C±119.0Cμmと減少していた.CRTはC12カ月の時点でC367.6C±118.5Cμm,18カ月の時点でC312.6C±83.7Cμmと,全期間を通じ,治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.01,t-検定)(図1).全症例における治療前の視力のClogMAR値の平均はC0.37C±0.26であった.視力はCIVR後C6カ月でC0.25C±0.21へ改善し,IVR後C12,18カ月の時点でそれぞれC0.23C±0.23,0.24C±0.26であり,いずれの時点においても治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.01,t-検定)(図2).治療前後の視力変化をClogMAR0.2区切りで検討すると,治療前と比較してCIVR後C6カ月の時点で改善例はC21眼(31%),不変例はC43眼(63%),悪化例はC4眼(6%)であり,12カ月の時点で改善例はC26眼(38%),不変例はC37眼(55%),悪化例はC5眼(7%),18カ月の時点で改善例はC18眼(40%),不変例はC25眼(56%),悪化例はC2眼(4%)であり,経時的に視力改善例が増加していた.治療前の小数視力が0.5以上を示した症例はC39眼(57%)存在したが,IVR後C6カ月ではC50眼(73%),12カ月でC49眼(72%),18カ月後でC35眼(78%)と,視力良好例の占める割合も増加していた(各々p<0.05,Cc2検定).一方,全経過観察期間中にC63眼(91%)で黄斑浮腫の再発がみられた.初回の注射施行後,最初に黄斑浮腫が再発するまでの期間は平均C3.9C±3.8カ月で,中央値はC2.5カ月であった.また,再注射後もC37眼(79%)がC2回目の再発をきたした.2回目の再発までの期間は平均C3.6C±3.2カ月で,中央値はC2.5カ月であった.初回治療後C6カ月までの平均CIVR回数はC2.3C±1.2回,12カ月までではC3.0C±1.9回,18カ月までではC3.3C±2.5回であ(137)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1375000.20中心網膜厚(μm)400logMAR0.30300治療前6カ月後12カ月後18カ月後n=68n=68n=68n=45図1治療前後の中心網膜厚の経時的変化12カ月時点までの全C68眼および,追跡期間がC18カ月に達したC45眼についての各時点における中心網膜厚を示す.注射C6カ月で網膜厚は大きく減少し,その後もC12,18カ月と治療前と比較し有意に網膜厚は減少している.†p<0.01.Cった.また,全経過観察期間中に,黄斑浮腫の改善目的や網膜無灌流領域に対し光凝固を併用した症例はC23眼(33%)黄斑浮腫の改善目的にCSTTAを併用した症例はC15眼(22%),存在した.今回の症例には,光凝固を併用した群と,IVR単独で治療した群が存在し,さらにCIVR単独群は,導入を行った群と,初回投与後CPRNで治療した群が存在したが,IVRの回数と,視力改善度,平均網膜厚の変化についてC3群に分けて再検討すると,12カ月の時点での平均CIVR回数は,併用群でC2.8C±1.8回,導入群でC4.1C±2.2回,初回投与後CPRN群でC2.2±1.4回と,導入群で他のC2群よりも有意に多く(p<0.01,ANOVA検定CBonferroni補正),18カ月の時点では,併用群でC3.0C±1.9回,導入群でC4.6C±2.9回,初回投与後CPRN群でC2.5C±1.9回と,導入群で他のC2群よりも有意に多かった(p<0.05,ANOVA検定CBonferroni補正).視力改善度,網膜厚の変化についてはC12,18カ月,いずれの時点でもC3群間に有意差は認めなかった(ANOVA検定CBonferroni補正).観察期間中に,眼内炎や網膜.離などの眼局所の重篤な合併症はきたさなかった.一方,脳梗塞,心筋梗塞,急性腎不全の発症および,ネフローゼ症候群の増悪をそれぞれC1例ずつ認めた.IVRから発生までの期間は,脳梗塞および急性腎不全はそれぞれC1カ月,ネフローゼの増悪はC3カ月,心筋梗塞はC14カ月であった.脳梗塞を発症した症例では,内科と連携したうえで,その後合計C4回のCIVRを行ったが,以降脳梗塞の再発は認めなかった.CIII考按無作為二重盲検試験であるCRISEC&CRIDECstudyにより,DMEに対するラニビズマブ治療の有効性が証明されたが4),この研究における治療プロトコールでは当初のC24カ月は毎0.40治療前6カ月後12カ月後18カ月後n=68n=68n=68n=45図2治療前後の視力の経時的変化全症例の各時点における視力のClogMAR値を示す.注射C6カ月で視力は上昇し,18カ月の時点まですべての時点において,治療前と比較し有意に上昇している.†p<0.01.C月ラニビズマブ注射を行っており,多数回に及ぶ注射を要したうえでC12文字の視力改善が得られていた.その後,アジア人を対象として行われた光凝固との比較試験であるREVEALCstudyにおいては,当初のC3カ月は毎月ラニビズマブ注射を行い,それ以降はC1カ月ごとの観察を継続し,必要に応じて再治療を行っている.その結果,治療開始後C12カ月の時点において平均C7.8回の注射を要したがC6.6文字の改善を得ており,1.8文字の改善に留まった光凝固との比較において,その優位性が報告された5).当院における治療方針では,25%(n=17)の症例ではIVR後C1.2週後に毛細血管瘤に対する直接光凝固や汎網膜光凝固を計画的に併用する方法で治療した.28%(n=19)の症例ではC1カ月ごとにC2.3回の注射で導入療法を行い,その後は毎月観察を行って再発,悪化時に再投与を行う方法で臨み,47%(n=32)の症例ではC1回の注射の後にCPRNとし,12カ月間で平均C3.0回,治療後C18カ月までにC3.3回の注射を行った.治療成績については,ラニビズマブ治療の開始直後から網膜浮腫は減少し,視力も治療前と比較して治療後18カ月まで有意な向上が得られた.視力のデータをCETDRSの文字数に換算すると,12カ月の時点でC6.8文字,18カ月の時点においてC7.2文字の改善が得られた.この改善度はRISE&RIDEstudyの結果には及ばなかったが,REVEALstudyとはほぼ同等であった.なお,REVEALCstudyは組み入れ基準で治療前視力はCETDRSの文字数C39文字からC78文字までの症例に限っていたが,本研究の治療前の小数視力はC0.05.1.2までの症例を含んでおり,REVEALCstudyと比較して,より治療前視力の良好な例や,不良な例を多く含んでいたので,治療前視力が,REVEALと同等の症例のみ抽出して再検討すると,視力改善文字数はC12カ月の時点で7.3文字であり,改善度は全症例における検討よりもより良(138)好な結果となった.今回の筆者らの施設の検討で,少ない注射回数にもかかわらずCREVEALstudyと同等程度の視力改善効果を得られた理由としては,経過観察中に必要応じて積極的に毛細血管瘤への直接光凝固やCTRPと称される部分的な無灌流域に対する選択的光凝固を施行したことが考えられる.REVEALstudyにおいてもラニビズマブと光凝固の併用療法を行っている群があるが,ラニビズマブ単独治療群と比較して視力改善度はわずかに劣り,1年間の注射回数もラニビズマブ単独群で平均C7.8回であったのに対し,光凝固併用群でもC7.0回とやや少ない結果に留まっていた.しかし,この報告では光凝固の適応や凝固条件が明記されておらず,詳細は不明である.国外での臨床研究における光凝固は,後極部における格子状光凝固ならびに広範な無灌流域に対する徹底的な汎網膜光凝固が主体であり,これが筆者らの治療成績との差異につながった可能性も考えられる.その他の要因として,適宜STTAを併用したことも関係している可能性が考えられる.DMEの病態進展にはCVEGFのみならず,炎症が関与することが報告されている7.10).DMEに対してフルオシノロンアセトニド徐放剤の硝子体投与の効果を検討したCFAMECstudy11)においても,DMEの網膜厚減少や視力改善などの効果が確認されている.また,糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固時における黄斑浮腫の発生をCSTTAによって抑制可能とする報告もあることから12),本研究におけるステロイドの併用がCVEGF以外の黄斑浮腫惹起因子を抑制していた可能性もある.今回の検討では,約C8週間でC8割以上の症例が再発を繰り返していた.今後もCIVRを行う際には厳密な経過観察とともに必要に応じた追加治療が必要と考えられ,適宜,光凝固やCSTTAなどの代替え治療も必要であると考えられた.また,DMEに対するラニビズマブ治療は加齢黄斑変性や静脈閉塞症への治療と比較して改善に時間を要するため,単回の注射のみで治療効果を判断しないことも肝要である13).以上,日本人のCDMEに対するラニビズマブ治療の長期成績も良好と考えられたが,本研究は後ろ向き研究であり症例数も十分とは言いがたい.また,DMEを含む糖尿病網膜症の発症にはさまざまな全身的な要因も関与するし,因果関係ははっきりしないものの,本研究でも全身的な合併症もみられたことから,今後も長期にわたる経過観察と治療データの蓄積が必要であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FunatsuCH,CYamashitaCH,CIkedaCTCetCal:VitreousClevelsC(139)ofCinterleukin-6CandCvascularCendothelialCgrowthCfactorCareCrelatedCtoCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC110:1690-1696,C20032)ShimuraCM,CYasudaCK,CYasudaCMCetCal:VisualCoutcomeCafterCintravitrealCbevacizumabCdependsConCtheCopticalCcoherenceCtomographicCpatternsCofCpatientsCwithCdi.useCdiabeticmacularedema.RetinaC33:740-747,C20133)村松大弐,三浦雅博,岩﨑琢也ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の治療成績.あたらしい眼科C33:111-114,C20164)BrownCDM,CNguyenCQD,CMarcusCDMCetCal;RIDECandRISECResearchCGroup:Long-termCoutcomesCofCranibi-zumabCtherapyCforCdiabeticCmacularCedema:the36-monthCresultsCfromCtwoCphaseCIIICtrials:RISECandCRIDE.OphthalmologyC120:2013-2022,C20135)IshibashiT,LiX,KohAetal;REVEALStudyGroup:TheCREVEALCStudy:ranibizumabCmonotherapyCorCcom-binedCwithClaserCversusClaserCmonotherapyCinCAsianCpatientsCwithCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC122:1402-1415,C20156)TakamuraCY,CTomomatsuCT,CMatsumuraCTCetCal:TheCe.ectCofCphotocoagulationCinCischemicCareasCtoCpreventCrecurrenceCofCdiabeticCmacularCedemaCafterCintravitrealCbevacizumabCinjection.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:C4741-4746,C20147)WakabayashiCY,CUsuiCY,COkunukiCYCetCal:IncreasesCofCvitreousmonocytechemotacticprotein1andinterleukin8levelsCinCpatientsCwithCconcurrentChypertensionCandCdia-beticretinopathy.RetinaC31:1951-1957,C20118)MuramatsuCD,CWakabayashiCY,CUsuiCYCetCal:CorrelationCofcomplementfragmentC5awithin.ammatorycytokinesCinthevitreousofpatientswithproliferativediabeticreti-nopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:15-17,C20139)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:AqueoushumorlevelsCofCcytokinesCareCrelatedCtoCvitreousClevelsCandCpro-gressionofdiabeticretinopathyindiabeticpatients.Grae-fesArchClinExpOphthalmolC243:3-8,C200510)AdamisCAP,CMillerCJW,CBernalCMTCetCal:IncreasedCvas-cularCendothelialCgrowthCfactorClevelsCinCtheCvitreousCofCeyesCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CAmCJCOph-thalmolC118:445-450,C199411)CampochiaroCPA,CBrownCDM,CPearsonCACetCal;FAMEStudyCGroup:SustainedCdeliveryC.uocinoloneCacetonideCvitreousCinsertsCprovideCbene.tCforCatCleastC3CyearsCinCpatientsCwithCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC119:2125-2132,C201212)ShimuraCM,CYasudaCK,CShionoCT:PosteriorCsub-TenonC’sCcapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidepreventspan-retinalCphotocoagulation-inducedCvisualCdysfunctionCinCpatientswithseverediabeticretinopathyandgoodvision.OphthalmologyC113:381-387,C200613)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal;ANCHORStudyGroup:RanibizumabCversusCvertepor.nCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNCEnglCJCMedC355:C1432-1444,C2006Cあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C139

糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射とマイクロパルスレーザー閾値下凝固併用12カ月の治療成績

2017年6月30日 金曜日

《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(6):883.887,2017c糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射とマイクロパルスレーザー閾値下凝固併用12カ月の治療成績高綱陽子*1岡田恭子*1大岩晶子*1山本修一*2*1千葉労災病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学E.cacyof12Months’Anti-VEGFDrugIntravitrealInjectionCombinedwithSubthresholdMicropulseLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdemaYokoTakatsuna1),KyokoOkada1),ShokoOiwa1)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandvisualscience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対して,抗VEGF薬硝子体内注射にマイクロパルスレーザー閾値下凝固(SMLP)を併用した治療成績を検討した.対象および方法:対象は千葉労災病院にてDMEと診断され,ラニビズマブまたはアフリベルセプト硝子体注射とSMLPを併用し,12カ月以上経過観察できた11人12眼.平均年齢63.3歳.平均HbA1C6.7%.各症例の視力(logMAR換算)と中心窩網膜厚(CRT)について,治療前および1,3,6,12カ月後について後ろ向きに検討した.結果:1年間の硝子体注射の回数は平均2.5回で,初回治療の平均3.1カ月後にSMLPを施行した.視力は治療前0.33から,1,3,6,12カ月後はそれぞれ0.26,0.23,0.17,0.21となり,6,12カ月後では有意に改善した.CRTは,治療前500.6μmから,1,3,6,12カ月後でそれぞれ365.3,427.0,320.9,372.6μmとなり,1,6,12カ月後では有意に改善した.結論:DMEに対する抗VEGF薬注射は,SMLPとの併用により,少ない注射回数でも12カ月にわたり治療効果が維持できる可能性が示唆された.Purpose:Toassessthee.cacyofintravitrealinjectionofanti-VEGFdrugcombinedwithsubthresholdmicropulselaserphotocoagulation(SMLP)fordiabeticmacularedema(DME).Methods:Inaretrospectivecaseseries,12eyesof11patientswithDMEwhoreceived0.5mganti-VEGFdrugs(ranibizumabora.ibercept)com-binedwithSMLPwerefollowedupfor12months.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andopticalcoherencetomography-determinedcentralretinalthickness(CRT)wereevaluatedbeforeand1,3,6and12months(M)afterthe.rstanti-VEGFdruginjection.Results:Thenumberofanti-VEGFdruginjectionsaveraged2.5times.SMLPwasperformedafter3.1months(averaged)fromthe.rstinjection.BaselineBCVAandCRTwere0.33and500.6μm,respectively.Atmonths1and3,BCVAdidnotshowsigni.cantdi.erence(1M:0.26,3M:0.23),thoughatmonths6and12itshowedsigni.cantdi.erence(6M:0.17,12M:0.21).Atmonths1,6and12,CRTshowedsigni.cantdi.erence(1M:365.3,6M:320.9,12M:372.6μm).Atmonth3,CRTdidnotshowsigni.cantdi.erence(3M:427.0μm).Conclusion:Anti-VEGFdrugtherapycombinedwithSMLPise.ectiveforDMEdur-ing12months,evenatthelowerlevelsofanti-VEGFdruginjection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):883.887,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,抗VEGF薬,ラニビズマブ,アフリルベセプト,マイクロパルスレーザー閾値下凝固.diabeticmacularedema,anti-VEGFdrugs,ranibizmab,a.ibercept,subthresholdmicropulselaserphotocoagula-tion.はじめに(vascularendotherialgrowthfactor:VEGF)が,高濃度に糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の病態存在していることが解明され1),DMEにおいて,VEGFが解明が進み,DME患者の硝子体内では,血管内皮増殖因子重要な因子となっていることが明らかになった.また,多く〔別刷請求先〕高綱陽子:〒290-0003千葉県市原市辰巳台東2-16千葉労災病院眼科Reprintrequests:YokoTakatsuna,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2-16Tatsumidai-higashi,Ichihara,Chiba290-0003,JAPANの大規模臨床試験により,抗VEGF薬のDMEに対する良好な治療成績が示されてきた.これまでのレーザー治療やステロイドと比べ,効果発現までの期間は短く,非常に優れた治療効果が示されてきた2.4).そのため,わが国におけるDMEに対する治療は,これまでのレーザー治療,硝子体手術,ステロイド治療から,2014年に発売された抗VEGF薬硝子体注射が間違いなく主流になってきたといえる.しかしながら,多くの大規模臨床試験の示す投与回数は年間8回もの繰り返し投与が必要とされ,頻回の外来受診とその高い薬剤費用が患者,医療者の双方に次第に大きな負担となっているのではないかという側面も見え始めている.また,加齢黄斑変性では,抗VEGF薬長期投与の結果,色素上皮の萎縮につながる可能性も指摘されている5).一方,筆者らが以前から取り組んできたマイクロパルスレーザー閾値下凝固(sub-thresholdmicropulselaserphotocoagulation:SMLP)6.8)は,レーザー連続照射時間がきわめて短くなることにより,温度上昇が網膜色素上皮に限局し,側方にも広がらない特徴をもつもの9)で,副作用の少ない低侵襲な治療である.視力は維持のみで,単独治療としてはまだ十分とはいえなかったが,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)は12カ月持続して改善できた7).これまでの大規模臨床試験では,レーザー治療と抗VEGF薬との併用効果はないとされていた3)が,LavinskyらはDMEに対するレーザー治療として,通常の連続波によるレーザー治療と比較して,マイクロパルスレーザーの優位性を示している10).今回,抗VEGF薬をまず投与して浮腫を消退させ,その後に,SMLPを併用することにより抗VEGF薬硝子体注射回数を減らしたうえで,よりよい治療成績が期待できるのではないかと考えた.今回,当院を受診したDME患者で,抗VEGF薬注射とSMLP併用治療に同意が得られ,12カ月経過観察できた症例について,その治療成績を後ろ向きに検討した.I対象および方法対象は2014年7月.2015年3月の期間に千葉労災病院にて,DMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射とSMLP併用療法に同意した患者.以下のものは,対象から除外した.すべての期間で抗VEGF薬投与の既往があるもの,硝子体手術既往,3カ月以内にDMEに対するレーザーや薬剤投与歴のあるもの,HbA1C10%以上のコントロール不良例.抗VEGF薬は,ラニビズマブまたはアフリルベセプトを使用し,硝子体注射を行った.術前の20%以上,または300μm以下になるまでは1カ月ごとに抗VEGF薬の注射を行い,浮腫の改善が得られたのちに,SMLPを施行した.SMLPは,レーザー瘢痕がぎりぎり見える閾値を決めたあとは,200ms,10%dutycycle,200μm,閾値の2倍のパワー(実際には120.170mW)で,浮腫の残存している領域にレーザー照射を行った.同時に,浮腫の原因となっていると考えられる毛細血管瘤(microaneurysm:MA)がある場合には,連続波モードで,MAがかろうじて白くなる程度のパワーで直接凝固した.1カ月ごとに経過観察を行い,100μm以上の浮腫の再発,2段階以上の視力の低下があった場合には,抗VEGF薬の再投与を勧めた.SMLP施行は原則1回とした.その後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR換算),CRTについて,治療前,1,3,6,12カ月後について後ろ向きに検討した.統計処理は,Wil-coxon順位和検定による.II結果11人12眼が対象である.平均年齢63.3歳.平均HbA1C6.7%.1年間の抗VEGF薬硝子体注射の回数は平均2.5回で,初回治療の平均3.1カ月後にマイクロパルスレーザーを施行した.マイクロパルスレーザーは全例が1回のみの施行であった.視力(logMAR換算)は治療前0.33から,1カ月後0.26,3カ月後0.23,6カ月後0.17,12カ月後0.21となり,術後6,12カ月では有意に改善した(p<0.05)(図1).logMAR0.2以上の変化で3カ月後には,悪化が1眼(8%),改善が4眼(33%),不変が7眼(58%)であったが,12カ月後には改善が4眼(33%),不変が8眼(67%)で,悪化はなかった.CRTは,治療前500.6μmから,1カ月後365.3μm,3カ月後427.0μm,6カ月後320.9μm,12カ月後372.6μmとなり,3カ月後でやや再燃傾向を認めたが,1,6,12カ月後では,有意に改善した(1カ月後p<0.05,6,12カ月後p<0.01)(図2).CRT20%以上の変化で,3カ月後では,改善7眼(58%),不変4眼(33%),増悪1眼(8%)であったが,12カ月後では,改善6眼(50%),不変6眼(50%)で,増悪はなかった.代表的な症例を示す.視力は小数視力で表示する.症例1(図3):64歳,女性.治療前視力(0.3),CRT601μm.ラニビズマブ硝子体注射後の1カ月後の視力は(0.4),CRT217μmと改善がみられたので,SMLPを施行した.3カ月後の視力は(0.5),CRT395μm.3カ月後でやや再燃はあったが,6カ月後の視力は(0.6),CRT242μmと改善がみられ,12カ月後まで,視力は(0.5),CRT258μmと安定していた.6カ月後,12カ月後の眼底では,レーザーの瘢痕は認められない.症例2(図4):57歳,男性,右眼.治療前視力(0.5),CRT479μm.ラニビズマブ硝子体注射1回施行後に,CRT273μmと改善し,SMLPを施行した.3カ月後の視力は(0.15),CRT725μmと,視力,CRTが,ともに著明に増悪した.その後,2回のアフリルベセプト硝0.45600*p<0.05,**p<0.010.4*5004003002000.1中心窩網膜厚(μm)0.050before1M3M6M12M期間図1視力(logMAR)の経過治療前,1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の視力(logMAR).治療前0.33,1カ月後0.26,3カ月後0.23,6カ月後0.17,12カ月後0.21となり,6,12カ月後では有意に改善した(p<0.05).1000before1M3M6M12M期間図2中心窩網膜厚の経過中心窩網膜厚(CRT)は,治療前500.6から,1カ月後365.3,3カ月427.0,6カ月320.9,12カ月372.66μmとなり,1,6,12カ月後では,有意に改善した(1カ月後p<0.05,6,12カ月後ではp<0.01).BeforeIVR1Before1Mマイクロパルスレーザ3M6M6M12M12M図3症例1(64歳,女性)治療前視力(0.3),CRT601μm.ラニビズマブ硝子体注射(IVR)を1回施行後に,マイクロパルスレーザー閾値下凝固を施行した.IVR1カ月後の視力は(0.4),CRT217μm.3カ月後の視力は(0.5),CRT395μm.6カ月後の視力は(0.6),CRT242μm.12カ月後の視力は(0.5),CRT258μm.6カ月後,12カ月後ともに眼底にはレーザーによる瘢痕は認められない.子体注射を行い,6カ月後の視力は(0.7),CRT261μm.1212カ月後の視力は(1.0),CRT305μmと維持ができている.カ月後の視力は(0.5),CRT231μmとなった.症例2(図5):57歳,男性,左眼.III考按図4で示した症例2の左眼である.右眼の初回治療から約DMEのメカニズムとして,まず,高血圧,高血糖,高脂6カ月後に治療開始した.血症の全身因子が重要である.それらを基盤として,低酸治療前視力(0.7p),CRT597μm.アフリルベセプト硝素,酸化ストレス,炎症といった機転より,VEGFをはじ子体注射2回施行後に,CRT288μm,視力(1.0)と改善し,めとするさまざまサイトカインが放出され,血液網膜柵破SMLPを施行した.6カ月後の視力は(1.0),CRT304μm,綻,血管透過性亢進の結果,DMEが発症すると説明されてBefore1MIVR13MIVA翌日マイクロパルスレーザIVA16MIVA212MBefore図4症例2(57歳,男性,右眼)治療前視力(05),CRT479μm.ラニビズマブ硝子体注射(IVR)1カ月後に,視力(05),CRT273μmと改善が得られ,マイクロパルスレーザー閾値下凝固を施行した.3カ月後の視力は(0.15),CRT725μmと著しく増悪した.その後,2回のアフリルベセプト硝子体注射(IVA)を施行し,6カ月後の視力は(0.7),CRT261μm.12カ月後の視力は(0.5),CRT231μmと安定している.BeforeIVA11WIVA21MBeforeマイクロパルスレーザ3M6M12M図5症例2(57歳,男性,左眼)治療前視力(0.7p),CRT579μm.アフリルベセプト硝子体注(IVA)1カ月ごとに2回施行後に,マイクロパルスレーザーを施行した.IVA初回の1カ月後,視力(0.7),CRT298μm.3カ月後の視力は(1.0),CRT288μm.6カ月後の視力は(1.0),CRT304μm.12カ月後の視力は(1.0),CRT305μmと安定している.いる11)が,VEGFは1990年代より血管新生や血管透過性亢進に大きく関与し,DMEで重要なサイトカインであると注目されてきた.マイクロパルスレーザーの奏効機序には諸説があるが,筆者らはこれまでの治療経験をもとに,SMLPは色素上皮を刺激することにより,色素上皮のポンプ機能を賦活化させ,網膜内浮腫を改善させるのではないかという作用機序を支持してきた.また,これまでに810nm波長の機種において,視力は維持にとどまり,有意な改善は示せなかったが,CRTは12カ月にわたる持続した有意な改善を示すことができ7),即効性には欠けるが,持続性があると考えていた.また,577nm波長の新しい機種においては,577nmの波長特性を生かし,SMLP治療を行う際に,浮腫の原因と考えられるMAがあれば,同時に治療を行うことも簡単にできるようになり,照射1カ月後では視力,CRTともに有意差がなかったが,3カ月では,CRTは有意に改善した8).わが国において,2014年にラニビズマブ,アフリルベセプトにDMEへの適用が認可され,その有効性は認められたが,頻回投与が次第に問題となってきた.このような状況のなかで,筆者らは,抗VEGF薬とSMLPの併用療法を行えば,よりよい臨床効果とともに,患者負担の軽減につながるのではないかと考えた.今回示した治療成績では,3カ月後にCRTが増悪しているが,抗VEGF薬注射回数が平均2.5回では,効果が不十分であった可能性と,症例1,2が示すように,SMLP施行直後の増悪であった可能性が考えられる.SMLPは低侵襲レーザーで悪化はないとの報告が多いが,これまでにSMLP施行後,漿液性.離(serousretinaldetachment:SRD)があった症例で,SMLP施行1カ月後に増悪した例を経験している6).今回の症例2の右眼もSRDを伴うタイプであり,SMLP施行直後にCRTの著明な増悪があったので,SRD型では,慎重に対応したほうがよいと考えられる.筆者らのこれまでのSMLP単独の12カ月の治療成績7)では,視力は維持であったのに対し,今回の併用療法では,視力についても有意な改善が得られ,SMLPの単独療法を上回る結果となった.今後のDME治療において,SMLPは抗VEGF薬とは作用機序が異なる治療法であり,抗VEGF薬注射数が大規模臨床研究と比較して,より少ない本数でも,治療効果が維持できる可能性を示すことができたものではないかと考える.本研究は症例数も少なく,後ろ向き研究である.今後は,DMEの治療として,従来の連続波によるレーザーではなく,より低侵襲であるSMLPを用いて,抗VEGF薬との併用の効果を検討することが,今後のDME治療の方向性を考えるうえで重要ではないかと考え,継続して取り組んで行きたいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-rialgrowthfactorinocular.uidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NewEnglJMed331:1480-1487,19942)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREStudyGroup:TheRESTOREstudy:ranibizumabmono-therapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,20113)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal;RIDEandRISEResearchGroup:Longtermoutcomesofranibi-zumabtherapyfordiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20134)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-reala.iberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gy121:2247-2254,20145)GrunwaldJE,DanielE,HuangJetal:Riskofgeographicatrophyinthecomparisonofage-relatedmaculardegen-erationtreatmentstrials.Ophthalmology121:150-161,20146)高綱陽子,中村洋介,新井みゆきほか:糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス閾値下凝固6カ月の治療成績.眼臨101:848-852,20077)TakatsunaY,YamamotoS,NakamuraYetal:Long-termtherapeutice.cacyofthesubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol55:365-369,20118)高綱陽子,水鳥川俊夫,渡辺可奈ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する577nmマイクロパルスレーザー光凝固装置の治療経験.あたらしい眼科30:1445-1449,20139)PankratovMM:Pulsedeliveryoflaserenergyineperi-mentaltheramalretinalphotocoagulation.ProcSocPhotoOptInstrumEng1202:205-213,199010)LavinskyD,CardillioJA,MeloLAJretal:RandomizedclinicaltrialevaluatingETDRSversusnormalorhighdensitymicropulsephotocoagulationfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSci52:4314-4324,201111)DasA,McGuirePG,RangasamyS:Diabeticmacularedema:Pathophysiologyandnoveltherapeutictargets.Ophthalmology122:1375-1394,2015***

千葉労災病院における糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):744.748,2017c千葉労災病院における糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績高綱陽子*1岡田恭子*1大岩晶子*1山本修一*2*1千葉労災病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学IntravitrealInjectionofAnti-VEGFDrugforDiabeticMacularEdemaYokoTakatsuna1),KyokoOkada1),ShokoOiwa1)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績を検討する.対象および方法:千葉労災病院において2014年3.8月にDMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR換算)と中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)について,治療前,治療1,2,3,6,9,12カ月後に検討した.3カ月以上前のステロイドTenon.下注射,毛細血管瘤への直接凝固などのDMEに対する先行治療は含まれる.結果:17人18眼.平均年齢64.8歳.平均HbA1C6.8%.3カ月までに使用した抗VEGF薬はすべてラニブズマブであり,3カ月間のラニビズマブ注射回数は平均1.7回で,その後の12カ月まででは,アフリルベセプトも含まれるが,抗VEGF薬総注射回数は2.4回.期間中,抗VEGF薬以外の追加治療は,ステロイドTenon.下注射2眼,閾値下凝固3眼,局所レーザー5眼.治療前の視力(logMAR換算)は0.524で,治療1,2,6,9カ月後で,それぞれ0.428,0.425,0.386,0.381となり,有意に改善した(1,2,6カ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).3,12カ月後では有意差はなかった(3M:0.422,12M:0.424).CRTは,治療前540.8μmで,治療1,2,3,9,12カ月後ではそれぞれ407.4,398.9,415.2,391.7,386.2μmとなり,有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カ月後ではp<0.05).6カ月後では有意差はなかった(6M:415.5μm).結論:当院でのDMEに対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績は,総注射回数2.4回で,治療効果は12カ月にわたり維持できていた.Purpose:Toevaluatethee.cacyofintravitrealinjectionofanti-VEGFdrugfordiabeticmacularedema(DME)overaperiodof12months.Methods:FromMarch2014toAugust2014,18eyesof12patientswithDMEwhoreceived0.5mganti-VEGFdrug(ranibizumab)werefollowedupfor12months.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andopticalcoherencetomography-determinedcentralretinalthickness(CRT)wereevaluatedbeforeandat1,3,6,9and12months(M)afterthe.rstinjection.Results:Injectionincidenceaveraged1.7dur-ingthe.rstthreemonthsand2.4duringthe12months.BaselineBCVAandCRTwere0.52and544.8μm,respectively.Atmonths1,2,6and9,BCVAshowedsigni.cantdi.erence(1M:0.428,2M:0.425,6M:0.386,9M:0.381),thoughmonths3and12didnotshowsigni.cantdi.erence(3M:0.422,12M:0.424μm).Atmonths1,2,3,9and12,CRTshowedsigni.cantdi.erence(1M:407.4,2M:398.9,3M:415.2,9M:391.7,12M:386.2μm).Atmonth6,CRTdidnotshowsigni.cantdi.erence(6M:415.5μm).Conclusion:Anti-VEGFdrugise.ectiveforDMEduringa12-monthperiod,evenatupto2.4injections.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):744.748,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,抗VEGF薬,ラニビズマブ,アフリルベセプト,併用療法,光凝固.diabeticmacu-laredema,anti-VEGFdrugs,ranibizmab,a.ibercept,combinedtherapy,photocoagulation.〔別刷請求先〕高綱陽子:〒290-0003市原市辰巳台東2-16千葉労災病院眼科Reprintrequests:YokoTakatsuna,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2-16Tatsumidai-higashi,Ichihara,Chiba290-0003,JAPAN744(142)はじめにわが国における糖尿病患者数の動向は厚生労働省国民健康・栄養調査結果によれば,調査が始まった平成9年度の糖尿病が強く疑われる者の数は690万人であったのに対し,平成14年度では740万人,平成19年度では890万人,平成24年度では950万人となっている.また,糖尿病網膜症は,糖尿病罹病期間の延長とともに累積的に増加し,後天性視覚障害の主要な原因となってきた.最近の報告では,若い世代では,高齢者と比較し,重症な増殖網膜症の発症頻度が2倍近く高く,また,年齢別にまた進展と重症化の割合も,65歳以上の高齢者に比べ,40歳未満の若年者においてより高く,若年者では,重症化した網膜症患者が増えていることが示されている1).また,網膜症の重症度が増すにつれ,黄斑浮腫合併の割合も増えるとされており,働く世代における糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)への対策が社会的にも非常に重要になっていると考えられる.これまでにレーザー治療,90年代からは硝子体手術,ステロイド治療などが行われてきたが,さまざまな問題点もあり,黄斑浮腫に対する治療は十分確立されたものとはいえないものであった.このようななかで,筆者らは,マイクロパルスレーザーに取り組んできた2).マイクロパルスレーザーは,レーザー連続照射時間がきわめて短くなることにより,温度上昇が網膜色素上皮に限局し,側方にも広がらない特徴をもつもので,副作用の少ない低侵襲な治療として行ってきたが,12カ月の治療成績では,中心窩網膜厚の改善はできたが,視力は維持のみで,単独治療としては,まだ十分とはいえなかった2).DMEの病態解明が進み,血管内皮増殖因子(vas-cularendotherialgrowthfactor:VEGF)が,DMEの硝子体中では高濃度に存在していることが解明された3).加齢黄斑変性症の治療薬としてすでに認可されていたラニビズマブが,DMEにおいても大規模臨床試験でその有用性が示され4,5),わが国においても,2014年には,ラニブズマブ,ついで,アフリルベセプトと2種類の抗VEGF薬にDMEの適応が拡大された.抗VEGF薬は,これまでのレーザーや,ステロイド治療に比較して,即効性があり,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の改善のみならず,視力も改善できるなど,これまで以上の大変優れた治療効果が示されたが,年間7,8回以上もの繰り返し投与が必要とされ,頻回の外来受診と高額な薬剤費用が大きな負担になってくると思われる.このような背景のもとで,筆者らは,DMEに対する治療として,抗VEGF薬硝子体注射を行うようになり,1年間の治療成績を診療録より後ろ向きにまとめたので報告する.I対象および方法2014年3.8月に千葉労災病院にて,DMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射を施行された症例で,その後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR値),CRTについて,治療前および治療1,2,3,6,9,12カ月後について診療録より後ろ向きに検討した.これらの症例で,DMEに対する治療歴がまったくないものは3眼で,先行治療があるものも多く含まれている.3カ月以上前に施行された,毛細血管瘤(microaneurysm:MA)へのレーザー5眼,汎網膜光凝固4眼,白内障手術施行2眼,2年前にDMEに対して硝子体手術施行の1眼である.3カ月以内に何らかの治療を受けているものはすべて除外した.硝子体手術については6カ月以上の経過が空いていることとした.基本的な治療方針としては,ラニビズマブ硝子体注射(intravitrealinjectionofranibizumab:IVR)を行い,その後は2段階以上の視力の悪化または20%以上のCRTの増悪があった場合には,再燃と考え,IVRを繰り返す方針であるが,患者の同意が得られない場合には,必ずしもその限りではない.6カ月以降での再注射には,新しく発売されたアフリルベセプト使用も含まれる.また,経過中にMAの出現がみられた場合や,造影検査で,無血管野の残存があった場合にはレーザー追加すること,また,硝子体注射を希望しない場合の追加治療として,マイクロパルスレーザーや,ステロイドTenon.下注射もできることをあらかじめ説明した.統計処理は,Wilcoxon順位和検定による.II結果18人19眼が対象で,6カ月までは全例が経過観察できたが,2眼は6カ月経過後に網膜症の活動性が増し,硝子体出血発症などのため硝子体手術適応となり,16人17眼について検討した.平均年齢64.5歳,平均HbA1C6.8%であった.3カ月までの抗VEGF薬は,すべてラニビズマブが用いられ,IVRの3カ月間の回数は平均1.7回で,3カ月以降12カ月までの期間で追加投与した抗VEGF薬には,アフリルベセプトも含まれているが,12カ月間の抗VEGF薬総注射回数は2.4回であった.期間中の抗VEGF薬硝子体注射以外の追加治療は,ステロイドTenon.下注射2眼,閾値下凝固3眼,局所レーザー5眼であった.視力(logMAR換算)は治療前0.524より,1,2,3,6,9,12カ月後でそれぞれ,0.428,0.425,0.422,0.386,0.381,0.424となり,1,2,6,9カ月後で有意に改善した(1,2,6カ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).3,12カ月後では有意差はなかった(図1,表1).CRTは,治療前540.8μmより,1,2,3,6,9,12カ月後では,それぞれ407.4,398.9,415.2,415.5,391.7,386.2μmとなり,1,2,3,9,12カ月後では有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カ月後では,0.7*p<0.05**p<0.01700*p<0.05,**p<0.010.6600*500*******0.5視力(logMAR)中心窩網膜厚(μm)0.40.34003002001000.20.10Before1M2M3M6M9M12M0Before1M2M3M6M9M12M図1視力(logMAR)の経過図2中心窩網膜厚の経過投与前,1,2,3,6,9,12カ月後の視力.投与前中心窩網膜厚(CRT)は,治療前540.8μmで,1カ月後0.524,1カ月後0.428,2カ月後0.425,3カ月後0.422,407.4,2カ月後398.9,3カ月後415.2,9カ月後391.7,6カ月後0.386,9カ月後0.381,12カ月後0.424とな12カ月後386.2μmとなり,1,2,3,9,12カ月後では,り,術後1,2,6,9カ月では有意に改善した(1,2,6有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カカ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).月後ではp<0.05).6カ月後では,有意差はなかった.表1視力(logMAR)の経過before1M2M3M6M9M12M視力(logMAR)0.524±0.0740.428±0.0730.425±0.0760.422±0.0890.386±0.0600.381±0.0700.424±0.074p値0.0150.0300.1550.0200.0010.083表2中心窩網膜厚の経過before1M2M3M6M9M12M中心窩網膜厚(mm)540.8±29.9407.4±25.3398.9±30.9415.2±27.7415.5±34.8391.7±23.3386.2±29.8p値0.0040.0020.0110.0550.0120.008p<0.05).6カ月後では有意差はなかった(図2,表2).代表的な症例を2例示す.〔症例1〕60歳,女性.3カ月以上前に,中心窩上方の毛細血管瘤へのレーザー施行歴はあるが,視力(0.6),CRT715μmで,漿液性.離を伴う黄斑浮腫が持続していた.IVRを1カ月ごとに2回行い,視力(0.7),CRT465μmとやや改善したが,3回目の注射は希望されなかったため,初回IVR施行から3カ月後にステロイドTenon.下注射を施行し,さらにその3カ月後に,まだ残存している毛細血管瘤へのレーザー光凝固を施行した.12カ月後の視力(0.5),CRT249μmと改善が認められた.網膜全体の出血斑,白斑も減少している(図3).〔症例2〕58歳,女性.3カ月以上前に,輪状行性白斑内の毛細血管瘤を凝固したが,視力(0.2),CRT653μmと黄斑浮腫が持続していた.IVRを1カ月ごとに3回行い,視力(0.4),CRT295μmと改善がみられた.6カ月後に再燃し,その後4回のアフリルベセプト硝子体内注射を行い,12カ月後の視力(0.5),CRT229μmと改善した.12カ月後の眼底では,抗VEGF薬投与前と比較し,眼底全体の硬性白斑や出血斑が著明に減少している(図4).III考按これまでに,DMEに対するIVRについては,大規模臨床試験4,5)により,その高い臨床効果は示されており,現在のDME治療の第一選択の位置にあることは明らかなものとなっている.しかしながら,大規模臨床試験での総投与回数は1年間で,7,8回以上となっており,繰り返しの注射は,さまざまな新たな問題につながっている.高額な医療費の経済的な負担のほか,頻回の外来通院は,患者側,医療者側にも負担になる.また,繰り返し注射は眼内炎のリスクにつながるものであり,そのような因子を考慮すると,大規模臨床試験の示す頻回の注射回数をそのまま実際の日常診療には適応しにくい.DMEの患者の硝子体中のサイトカインを調べた研究では,DME患者では,非常に高濃度のVEGFが発現しているが,それ以外にも,IL-6ほか,炎症性サイトカインもあり6),ステロイド投与は,理論的にも治療法として有効であると考えられる.また,血管透過性が亢進し,漏出しているMAがあれば,直接的凝固により,浮腫が速やかに改善でき図3症例1(60歳,女性)左:眼底写真.上段:注射前,中段:6カ月後,下段:12カ月後.右:OCT所見.上段より,注射前,1カ月後,2カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後.3カ月以上前に,中心窩上方の毛細血管瘤へのレーザー施行歴はあるが,視力(0.6),中心窩網膜厚(CRT)715μm,漿液性.離を伴う黄斑浮腫が持続していた(写真上段).ラニビズマブ硝子体注射を1カ月ごとに2回行い,視力(0.7),CRT465μmとやや改善した(右3段目).3カ月後にステロイドTenon.下注射を施行し,さらに,残存する毛細血管瘤へのレーザーを6カ月後に施行した(眼底は左中段,OCTは右5段目).12カ月後では視力(0.5),CRT249μmと改善した(右下段).網膜全体の出血斑,白斑も減少している(左下段).視力の表示は小数視力による.ることは,1985年から推奨されており7),今回の症例においても,経過中に浮腫の原因となっていると思われるMAが新たに出現した場合には,凝固を行った.筆者らは,これまでにDMEに対するマイクロパルスレーザー閾値下凝固に取り組んできたが,色素上皮を刺激することにより,色素上皮のポンプ機能を賦活化し,網膜内浮腫を改善させるのではないかという作用機序を支持してきたが,即効性にはやや欠けるが,12カ月にわたる持続した治療効果を示し2),今回も追加治療として行っている.また,Takamuraらは,1回の抗VEGF薬投与でも,無血管野へのレーザー光凝固の併用により浮腫の再燃を抑制でき,レーザー光凝固が内因性のVEGFを減少させると考察しており8),今回の筆者らの治療図4症例2(58歳,女性)左:眼底写真.上段:注射前,中段:2カ月後,下段:12カ月後.右:OCT所見.上段より,注射前,1カ月後,2カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後.3カ月以上前に,輪状行性白斑内の毛細血管瘤を凝固したが,視力(0.2),中心窩網膜厚(CRT)653μm,黄斑浮腫が持続していた(眼底左上段,OCT右上段).ラニビズマブ硝子体注射1カ月ごとに3回行い,3カ月後には視力(0.4),CRT295μmと改善した(OCT右4段)が,6カ月後に再燃がったので,さらに4回のアフリルベセプト硝子体内注射を行った.12カ月後の視力(0.5),CRT229μmと改善した(眼底左下段,OCT右下段).12カ月後の眼底(左下段)では,抗VEGF薬投与前と比較し,眼底全体の硬性白斑と出血斑が減少し,病期が改善している.視力の表示は小数視力による.においても,経過中に残存した無血管野が確認できた場合には,光凝固の追加を行うようにした.筆者らは,DMEの病態を考えると,このような異なる作用機序をもつ治療法を併用して対応することが重要ではないかと考えて治療に取り組んできたので,今回の治療成績は,純粋に抗VEGF薬のみの治療効果を検討したものではない.今回の対象でも,事前治療がまったくなかったものは3眼のみであり,残りの14眼はさまざまな事前治療があり,また,10眼についてレーザー,ステロイドなどの追加治療がなされている.したがって,1年間当たり平均2.4回の少ない注射回数にもかかわらず,有意な視力改善とCRTの改善がほぼ1年にわたり維持できたことは,併用療法も重要な役割を果たしたものと考えられる.また,12カ月後の眼底は,全体として,血管透過性亢進が改善し,浸出斑や出血斑が減少し,網膜症としての病期が軽快したと思われる症例も多く経験した.実際に,ラニビズマブ投与3年の治療成績では,病期を改善する効果もあると報告されている9).とくに若年層では,重症網膜症が増えている1)ことを考えると,抗VEGF薬の網膜症の改善効果については,今後もDMEへの治療効果とともに,注目していきたいところである.この論文の6カ月までの経過は,第20回日本糖尿病眼学会総会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KatoS,TakemoriM,KitanoSetal:Retinopathyinolderpatientswithdiabetesmellitus.DiabetesResClinPract58:187-192,20022)TakatsunaY,YamamotoS,NakamuraYetal:Long-termtherapeutice.cacyofthesubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol55:365-369,20113)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-rialgrowthfactorinocular.uidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19944)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREStudygroup:TheRESTOREstudy:ranibi-zumabmonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthal-mology118:615-625,20115)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal;RIDEandRISEResearchgroup:Longtermoutcomesofranibizum-abtherapyfordiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Oph-thalmology120:2013-2022,20136)FunatsuH,NomaH,MiuraTetal:Associationofvitre-ousin.ammatoryfactorswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology116:73-79,20097)EarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol103:1796-1806,19858)TakamuraY,TonomatsuT,MatsumuraTetal:Thee.ectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,20149)IpMS,DomalpallyA,SunJKetal:Long-terme.ectsoftherapywithranibizumabondiabeticretinopathyseveri-tyandbaselineriskfactorsforworseningretinopathy.Ophthalmology122:367-374,2015***

糖尿病黄斑浮腫に対するRanibizumab単回投与後の経過に関する検討

2017年2月28日 火曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(2):280.282,2017c糖尿病黄斑浮腫に対するRanibizumab単回投与後の経過に関する検討藤井誠士郎本田茂大塚慶子三木明子今井尚徳楠原仙太郎中村誠神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野E.ectofSingleInjectionofRanibizumabinDiabeticMacularEdemaSeishiroFujii,ShigeruHonda,KeikoOtsuka,AkikoMiki,HisanoriImai,SentaroKusuharaandMakotoNakamuraDepartmentofSurgery,DevisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するranibizumab硝子体注射(IVR)単回投与後の経過に関する検討を行った.対象および方法:対象は2014年3月.2015年4月にDMEに対してIVR0.5mgを1回施行し,2カ月以上再投与なしで経過観察した連続症例22例26眼(男性17例,女性5例).光干渉断層計にて計測した平均中心網膜厚(CRT)を,IVR投与前と投与後1,2カ月で比較し,その変化量を評価した.結果:平均CRTはIVR前と比較し,IVR後1カ月,2カ月では有意に減少した(各p=3.4×10.5,2.1×10.3).一方,IVR後1カ月と2カ月間の平均CRTには有意差を認めなかった(p=0.10).また,IVR前と比べて,IVR後CRTが30%以上減少した症例の割合は1カ月で35.7%,2カ月で28.6%であった.結論:DMEに対するIVR単回投与で1カ月後には有意なCRTの改善が得られ,2カ月後においても治療効果は持続した.Purpose:Weevaluatedthee.ectofasingleinjectionofranibizumab(IVR)inpatientswithdiabeticmacularedema(DME).PatientsandMethods:Twenty-seveneyesof22diabeticpatients(17males,5females)withDMEdiagnosedfromMarch2014toApril2016wereenrolledinthestudy.Patientswerefollowedfor2monthsafterasingledoseof0.5mgIVR.Centralretinalthickness(CRT)wasmeasuredbyopticalcoherenttomography.Results:Asigni.cantdecreaseinaverageCRTwasobservedat1and2monthsafterIVRinjection(p=3.4×10.5,2.1×10.3).Nodi.erencewasobservedbetweenthe1and2monthperiods(p=0.10).Thepercentageofeyesshowing>30%decreaseinCRTwas35.7%at1monthand28.6%at2months.Conclusions:Asigni.cantdecreaseinCRTcanbeobtainedwithasingledoseofIVR.Thischangeismaintainedupto2monthspost-treat-ment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):280.282,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,ラニビズマブ,血管内皮増殖因子,単回投与,中心網膜厚.diabeticmacularede-ma,ranibizumab,vascularendothelialgrowthfactor,singleinjection,centralretinalthickness.はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)により黄斑部網膜に細胞外液が貯留することで発症し,DRのすべての病期に生じる可能性がある.DMEの発症は,患者のQOV(qualityofvision)を低下させるため1),その治療法の確立は眼科臨床の重要な課題となっている.以前より,本症に対する治療法として,網膜光凝固,ステロイド局所投与,硝子体手術などが行われてきた.近年では,眼内の血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)濃度と血管透過性やDMEの重症度にも相関が報告され2),VEGFをターゲットとする抗VEGF薬がわが国でも使用されるようになり,ranibizumab硝子体注射(injectionofranibizumab:IVR)が行われるようになった.今後,抗VEGF療法はDME治療の第一選択になると考えられている.〔別刷請求先〕藤井誠士郎:〒650-0071兵庫県神戸市中央区楠町7-5-2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野Reprintrequests:SeishiroFujii,M.D.,DepartmentofSurgery,DevisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,7-5-2Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe-shi,Hyogo-ken650-0071,JAPAN280(138)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(138)2800910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1症例の内訳患眼(右眼)26(15眼)性別(男性)17(77.3%)年齢67.0±11.0術前logMAR視力0.42±0.35術前CRT(μm)427.8±98.9IVR前治療有*17(66.7%)IVR後PRP開始4(15.4%)IVR後硝子体手術1(3.8%)IVR後網膜局所光凝固5(19.2%)*前治療(17例)の内訳汎網膜光凝固術16網膜局所光凝固3ステロイドTenon.下注射1(同一症例での重複含む)一方で,IVRの投与回数,投与間隔に関しては,近年さまざまな臨床試験が行われているものの,確立したプロトコールはなく,さまざまであるのが現状である.筆者らは,今回,DMEに対するIVR単回施行後の経過に関する検討を行った.I目的・方法1.研究デザイン診療録に基づく後ろ向き調査.2.対象2014年3月.2015年4月にDMEに対してIVR(0.5mg)を1回のみ施行し,2カ月以上経過観察した連続症例22例26眼(男性17例,女性5例)を対象とした.そのうち,2カ月の間に硝子体手術を行ったものが1例,汎網膜光凝固術を行ったものが4例あった(表1).3.主要評価項目治療開始後1カ月,2カ月の各時点における,視力(log-MAR),および中心網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の変化につき検討した.視力に関する統計処理は,最高矯正小数視力をlogMAR値に換算して行った.光干渉断層計(OCT)(CirrusHDR,CarlZeiss)にてretinalmap(macularcube200×200protocol)を測定し,黄斑部網膜厚マップの中心円(直径1mm)内における網膜厚をCRTとして解析に用いた.平均値の経時的比較には対応のあるt検定を使用し,p<0.05を有意水準とした.II結果全体の平均CRTは,IVR前の438.2μmに対し,IVR後1カ月で323.3μm,2カ月で359.8μmと有意に減少した(各p=3.4×10.5,2.1×10.3)(図1).一方,IVR後1カ月と2カ月間の平均CRTには有意差を認めなかった(p=0.10).Baseline1M2M図1Ranibizumab硝子体内投与後CRTの変化logMAR視力0.60.50.40.30.2全体前治療あり***p<0.05前治療なしBaseline1M2M図2logMAR視力また,IVR前と比べて,IVR後CRTが30%以上減少した症例の割合は,1カ月で35.7%,2カ月で28.6%であった.また,IVR前の治療の有無によって群分けした解析において,無治療群ではIVR後1カ月,2カ月ともに有意なCRT減少がみられたのに対し,有治療群ではIVR後1カ月のみ有意なCRT減少を認めた.視力に関しては,治療前と比べIVR後1カ月で有意に改善していたが(p=2.5×10.2)(図2),2カ月目では有意差を認めなかった.IVR後1カ月と2カ月の間では有意差はなかった.また,IVR前の治療歴があった群では1カ月後の有意な視力改善を認めたが,治療歴がなかった群では視力の有意な改善はみられなかった.III考按VEGFは虚血や高血糖で発現が増加して血管透過性亢進や血管新生に関与しており,DMEの病態において非常に重要な因子である.眼内のVEGF濃度は,血管透過性やDMEの重症度にも相関が報告されている.DMEに対しての治療はステロイド注射,網膜光凝固が一般的であったが,わが国において2014年2月に抗VEGF薬であるranibizumabが承認された.RanibizumabはVEGF-Aを阻害するモノクローナル抗体のFab断片の,さらに親和性を高めたものであ(139)あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017281る.DMEに対するranibizumab治療はすでに多数の大規模前向き臨床試験が行われており,3年という比較的長期間の経過も報告されている.おもなものはRESOLVE試験3),READ-2試験4,5),RESTORE試験6),RISE/RIDE試験7,8),REVEAL試験9)で,DMEに対する治療効果が立証されているが,いずれも導入療法として複数回のIVRを条件としている.本研究のDMEに対するIVR単回施行後の経過に関する検討では,IVR投与前の平均CRT438.2μmに対して,IVR後1カ月では323.3μm,IVR後2カ月では359.8μmといずれも有意な減少を認めた.一方でIVR後1カ月と2カ月の平均CRT間には有意差を認めなかった.また,治療前と比べてIVR後CRTが30%以上減少した症例の割合は1カ月で35.7%,2カ月で28.6%であった.視力に関しては,治療前と比べIVR後1カ月でに有意に改善しているが,IVR後2カ月では有意差はなかった.なかにはIVR1回施行により良好なCRT減少,視力改善が得られる症例もあるが,2カ月後にDMEが再発する例,IVRに反応しない例もみられた.現在,抗VEGF治療はDMEに対するおもな治療として使用されるようになっている.一方で,治療効果を維持するためには反復治療が必要という問題がある.今回の検討に関しても,IVR単回施行による反応は症例によってさまざまであり,今後IVR投与方法に関するさらなる検討が必要と考えられた.本研究では対象症例数が比較的少なかったため,解析項目によっては差が有意水準に達しなかった可能性もある.今後,さらに症例数を増やした検討が望まれる.IV結語DMEに対するIVR単回投与は,1カ月後の視力と黄斑浮腫を有意に改善させた.また,IVR後2カ月においても治療効果は持続した.今後,IVR投与方法に関するさらなる検討が必要と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)WatkinsPJ:Retinopathy.BMJ326:924-926,20032)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:Increasedlevelofvascularendothelialgrowthfactorandinterleukin-6intheaqueoushumorofdiabeticswithmacularedema.AmJOphthalmol133:70-77,20023)MassinP,BandelloF,GarwegJGetal:Safetyande.ca-cyofranibizumabindiabeticmacularedema(RESOLVEStudy):a12-month,randomized,controlled,double-masked,multicenterphaseIIstudy.DiabetesCare33:2399-2405,20104)NguyenQD,ShahSM,KhwajaAAetal:Two-yearout-comesoftheranibizumabforedemaofthemaculaindia-betes(READ-2)study.Ophthalmology117:2146-2151,20105)DoDV,NguyenQD,KhwajaAAetal:Ranibizumabforedemaofthemaculaindiabetesstudy.3-yeartreatment.JAMAOphthalmol131:139-145,20136)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREstudygroup:TheRESTOREstudy:ranibi-zumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,20117)NguyenQD,BrownDM,MarcusDMetal;RISEandRIDEReseachGroup:Ranibizumabfordiabeticmacularedema:resultsfrom2phaseIIIrandomizedtrials:RISEandRIDE.Ophthalmology119:789-801,20108)IpMS,DomalpallyA,HopkinsJJetal:Long-terme.ectsofranibizumabondiabeticretinopathyseverityandpro-gression.ArchOphthalmol130:1145-1152,20129)OhjiM,IshibashiT,REVEALstudygroup:E.cacyandsafetyofranibizumab0.5mgasmonotherapyoradjunc-tivetolaserversuslasermonotherapyinAsianpatientswithvisualimpairmentduetodiabeticmacularedema:12-monthresultsoftheREVEALstudy.InvestOphthal-molVisSci53:ARVOE-abstract4664,2012***(140)

日本人における糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の6 カ月治療成績

2017年2月28日 火曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(2):259.263,2017c日本人における糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の6カ月治療成績村松大弐*1若林美宏*1上田俊一郎*2馬詰和比古*1八木浩倫*1木村圭介*1川上摂子*1飯森さやか*1根本怜*1阿川毅*1塚原林太郎*2三浦雅博*2後藤浩*1*1東京医科大学眼科学分野*2東京医科大学茨城医療センター眼科IntravitrealInjectionofRanibizumabforDiabeticMacularEdemainJapan:6Months’OutcomeDaisukeMuramatsu1),YoshihiroWakabayashi1),ShunichiroUeda2),KazuhikoUmazume1),HiromichiYagi1),KeisukeKimura1),SetsukoKawakami1),SayakaIimori1),ReiNemoto2),TsuyoshiAgawa1),RintaroTsukahara2),MasahiroMiura2)andHiroshiGoto1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,IbarakiMedicalCenter,TokyoMedicalUniversity目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するラニビズマブ硝子体注射(IVR)の効果を検討する.対象および方法:DMEにIVRを行い,6カ月以上観察が可能であった78眼を対象に,後ろ向きに調査した.初回IVR後1,3,6カ月と最終受診時の視力と中心網膜厚,追加治療について検討した.初回注射の後は毎月観察を行い,必要に応じて再治療を行った.結果:観察期間は平均9.9カ月であった.治療前視力の平均logMAR値は0.4で,治療1カ月で0.32と改善傾向を示し,3,6カ月後および最終受診時には,それぞれ0.29,0.26,0.27と有意な改善を示した(p<0.05).治療前の網膜厚は488μmで,治療1,3,6カ月後,および最終受診時には388,404,392,372μmと全期間で有意な改善を示した(p<0.05).最終観察時までのIVR回数は平均2.9回であり,経過中に光凝固は22眼(28%)に,トリアムシノロンTenon.下注射は9眼(12%)に併用された.視力が改善(logMAR0.2以上)した症例の割合は全体の36%であり,74%の症例は最終時に小数視力0.5以上となった.結論:IVRはDMEの軽減と視機能の改善に有効であるが,再発も多く,複数回の投与と追加治療を要する.Purpose:Toassessthee.cacyofintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)inJapanesepatientswithdia-beticmacularedema(DME).Casesandmethods:Inthisretrospectivecaseseries,78eyesof63patientswithDMEreceived0.5mgIVR.Caseswerefollowedupfor6monthsorlonger.Bestcorrectedvisualacuity(BCVA;logMAR)andcentralretinalthickness(CRT)werethemainmeasurements.Results:Meanfollowupperiodwas9.9months.BaselineBCVAandCRTwere0.4and488μm,respectively.At1month,BCVAhadimprovedto0.32andCRThadsigni.cantlydecreasedto388μmcomparedtobaseline(p<0.01).At6monthsand.nalvisit,BCVAhadsigni.cantlyimprovedto0.26(p<0.05)and0.27(p<0.05),respectively;CRThaddecreasedto392μm(p<0.01)and372μm(p<0.01),respectively.AverageIVRincidencewas2.9times.Visualacuityindigitswas0.5oroverin74%ofpatients.Conclusion:Intravitrealinjectionofranibizumabisane.ectivetreatmentforDME.However,multipleinjectionsandadditionaltreatmentsarerequired,duetofrequentrecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):259.263,2017〕Keywords:ラニビズマブ,糖尿病黄斑浮腫,光凝固,トリアムシノロンアセトニド,抗VEGF.ranibizumab,dia-beticmacularedema,photocoagulation,triamcinoloneacetonide,anti-VEGF.〔別刷請求先〕村松大弐:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学分野Reprintrequests:DaisukeMuramatsu,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPANはじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は糖尿病網膜症における視力障害の主要因子の一つであり,病態には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が関与していることが知られている.わが国における糖尿病網膜症の有病率は,久山町研究1)によると40歳以上の人口の15%,舟形町研究2)によると35歳以上の人口の14.6%と高率であり,糖尿病網膜症は日本の視覚障害者の主原因疾患の一つであるため,その制御はきわめて重要である.DMEに対する治療は,近年では抗VEGF療法が治療の主体となりつつある3.5).抗VEGF抗体の一種であり,ヒト化モノクローナル抗体のFab断片であるラニビズマブはDMEの治療にも適応が拡大され,大規模研究であるRISE&RIDEstudyによって,偽注射に対して治療の優位性が証明された6).また,同様の大規模研究であるRESTOREstudyにより,光凝固への優位性も証明された7).しかし,これらの研究の対象は約95%が白人やアフリカンアメリカン人種であることに加え,薬剤の投与についても臨床研究のため多数の注射が行われており,日本人をはじめとするアジア人における実臨床における反応性や効果についてはいまだに不明である.2014年2月からわが国においてもDMEへのラニビズマブ治療が認可され,広く使用されるようになってきたことから,日本人患者に対して行われた治療成績を報告する.I対象および方法対象は2014年3月.2014年12月に,東京医科大学病院ならびに東京医科大学茨城医療センター眼科において加療したびまん性黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症で,ラニビズマブ0.5mgの硝子体注射(intravitrealinjectionofranibizum-ab:IVR)で治療を行い,6カ月以上の観察が可能であった日本人症例73例78眼(男性50例,女性23例)である.治療時の年齢は43.83歳,平均(±標準偏差)は66.4±9.9歳である.治療前の光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)による浮腫のタイプ8)は網膜膨化型が50眼(64%),.胞様浮腫が35眼(45%),漿液性網膜.離が22眼(28%)であり,これらの所見は同一症例で混合している場合もあった.治療歴として,ベバシズマブからの切り替え症例が23眼あった.また,初回抗VEGF抗体治療眼は55眼(71%)であり,これらのうち20眼はまったくの無治療,35眼(45%)は光凝固やトリアムシノロンアセトニドテノン.下注射(sub-Tenoninjectionoftriamcinoronacetonide:STTA)による治療歴があった.治療プロトコールとして,IVRの後に毎月観察を行い,その後は必要に応じて再治療を行った(prorenata:PRN).再治療は,2段階以上の視力低下,もしくは20%以上の中心網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の増加がみられ,患者の同意が得られた場合に原則IVRを行った.浮腫の悪化があってもIVRに同意されなかった場合や,IVR後の浮腫改善が不十分な場合はSTTAを施行している.全症例のうち,蛍光眼底造影で無灌流域や網膜毛細血管瘤を認めた18眼に対しては,IVRの後,1.2週の時点で計画的に光凝固(汎網膜光凝固や血管瘤直接凝固)を行い,残りの60眼はIVR単独で治療を開始して,適宜追加治療を行った.これら60眼のうち23眼においては,眼所見が安定するまで1カ月ごとに2.3回の注射を行うIVR導入療法を施行し,その後はPRNとした.検討項目は,IVR後,1,3,6カ月ならびに最終来院時における完全矯正視力,および光干渉断層計3D-OCT2000(トプコン)もしくはCirrusHD-OCT(CarlZeissMeditech)を用いて計測したCRTで,そのほかにも再発率,治療方法ならびに投与回数,投与時期について診療録を基に後ろ向きに調査した.II結果全78眼の平均観察期間は9.9±2.4カ月(6.14カ月)であった.全症例における治療前の平均CRTは488.1±131.3μmであったのに対し,IVR後1カ月の時点では388.0±130.1μmと減少していた.CRTは3カ月の時点で404.1±145.9μm,6カ月では392.1±117.3μm,最終来院時では372.8±120.1μmと,全期間を通じ,治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.01,t-検定Bonferroni補正)(図1).全症例における治療前の視力のlogMAR値の平均は0.39±0.28であった.視力はIVR後1カ月で0.32±0.25,IVR後3カ月では0.29±0.50と有意に上昇した.その後6カ月,最終来院の時点で,それぞれ0.26±0.54,0.27±0.22であり,IVR後3,6カ月,および最終来院時において有意な改善を示した(p<0.05,t-検定Bonferroni補正)(図2).全症例の治療前後の視力変化をlogMAR0.2で区切って検討すると,IVR後1カ月の時点で改善例は17眼(22%),不変例は60眼(77%),悪化例は1眼(1%),3カ月の時点で改善例は23眼(29%),不変例は51眼(65%),悪化例は4眼(5%),6カ月の時点で改善例は25眼(32%),不変例は48眼(62%),悪化例は5眼(6%),最終来院時には改善例は28眼(36%),不変例は46眼(59%),悪化例は4眼(5%)であり,経時的に視力改善例が増加していた(表1).全症例のうち,治療前の小数視力が0.5以上を示した症例は41眼(53%)存在したが,IVR後1カ月では50眼(64%)3カ月で51眼(65%),6カ月で51眼(65%),最終来院時,で58眼(74%)と,これら視力良好例においても経時的に視力改善例の占める割合が増加していた(表2).520IVR(n=0)0.22500PC(n=12)0.24STTA(n=1)0.26480IVR(n=32)0.28††*†400†中心網膜厚(μm)0.3460PC(n=5)logMAR0.324400.34PC(n=2)4200.360.380.4†380360340治療前1カ月3カ月6カ月最終図1治療前後の中心網膜厚の経時的変化全症例の各時点における中心網膜厚を示す.注射1カ月で網膜厚は大きく減少し,その後も3,6カ月,最終時と治療前と比較し有意に網膜厚は減少している.†p<0.01.経過中の追加治療の内訳と施行眼数を示す.PC:光凝固,IVR:ラニビズマブ硝子体注射,STTA:トリアムシノロンアセトニドテノン.下注射.表12段階以上の視力変化の割合改善不変悪化1カ月17眼(22%)60眼(77%)1眼(1%)3カ月23眼(29%)51眼(65%)4眼(5%)6カ月25眼(32%)48眼(62%)5眼(6%)最終28眼(36%)46眼(59%)4眼(5%)表3最終視力との関連因子関連因子眼数最終視力0.5以上の割合p値治療前視力あり40眼98%(39眼)0.5以上なし38眼50%(19眼)p<0.01あり34眼82%(28眼).胞様浮腫なし44眼68%(30眼)p=0.24あり22眼73%(16眼)漿液性.離なし56眼75%(42眼)p=0.99あり48眼71%(34眼)網膜膨化なし30眼80%(24眼)p=0.52c2検定経過中に浮腫が完全に消失したことがある症例は41眼(53%)であった.このうち,初回注射後1カ月の時点での完全消失は20眼(26%)であり,6カ月以内に完全消失した例は32眼(41%)であった.最終来院時まで浮腫の完全消失が持続した症例は4眼(5%)のみであった.浮腫消失が持続した例における個別の背景として,1例は白内障手術に起因して発生した急性期の浮腫であり,2回のIVRで寛快した.もう1例は光凝固直後に発生した急性期浮腫に対し,20.420.44治療前1カ月3カ月6カ月最終図2治療前後の視力の経時的変化全症例の各時点における視力のlogMAR値を示す.注射1カ月で視力は上昇し,その後も経時的に向上している.3,6カ月,最終時にはおいては治療前と比較し有意に改善している.*p<0.05,†p<0.01.表2治療前後の各時点における小数視力0.5以上の割合治療前41眼(53%)1カ月50眼(64%)3カ月51眼(65%)6カ月51眼(65%)最終58眼(74%)回のIVRを施行して寛快しており,さらに別の1例は血管瘤への直接光凝固の併用例であった.経過観察中には浮腫の再発を63眼(81%)で認めた.注射後から浮腫再発までの期間の平均値は10.4±8.8週であったが,その幅は4.48週とさまざまであり,再発までの中央値は8週であった.注射を施行しても無反応だった症例が5眼(6%)に存在した.初回治療後6カ月までの平均IVR回数は2.2±2.3回(1.6回),最終観察時までのIVR回数は2.9±1.8回(1.8回)であった.また,光凝固を追加した症例は22眼(28%),STTAを追加した症例は9眼(12%)存在した.今回の症例には,光凝固やSTTAを併用した群と,IVR単独で治療した群が存在したが,IVRの回数について両群について比較すると,初回治療後6カ月までの平均IVR回数は併用療法群では1.9±1.1回であり,IVR単独群では2.4回±1.2回であり,最終観察時までのIVR回数は併用療法群では2.3±1.3回であり,IVR単独群では3.2回±1.9回であり,最終観察時において有意な差を認めた(p<0.05,pairedt-検定).最終視力が0.5以上得られた場合の術前因子をc二乗検定で解析すると,術前視力が0.5以上あることが有意な関連因子であったが,術前の浮腫タイプなどとは関連性がなかった(表3).III考按無作為二重盲検試験であるRISE&RIDEstudyにより,糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ治療の有効性が証明されたが6),この研究における治療プロトコールでは,当初の24カ月は毎月ラニビズマブ注射を行っており,多数の注射を要したうえで12文字の視力改善が得られていた.その後に行われた光凝固との比較試験であるRESTOREstudyにおいては,当初の3カ月は毎月ラニビズマブ注射を行い,それ以降は1カ月ごとの観察を通じて,必要に応じた再治療を行っている.そして12カ月の時点において6.1文字の改善を得ており,0.9文字の改善に留まった光凝固との比較において優位性が報告された7).今回は,23%(18眼)の症例ではIVR後1.2週のちに毛細血管瘤に対する直接光凝固や汎網膜光凝固を計画的に併用する方法で治療した.29%(23眼)の症例では1カ月ごとに2.3回の注射で導入療法を行い,その後は毎月観察を行って再発,悪化時に再投与を行うPRNで治療を行い,47%(37眼)の症例では1回の注射の後にPRNとし,6カ月間で平均2.2回,最終来院時までに2.9回の注射を行った.治療成績については,ラニビズマブ治療の開始直後から網膜浮腫は劇的に減少し,視力も治療前と比較して最終来院時には有意な向上が得られた.視力のデータをETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)の文字数に換算すると,最終来院時において7文字の改善が得られた結果となった.この改善度はRISE&RIDEstudyには及ばなかったが,RESTOREstudyの結果とは同等であった.本研究において,少ない注射回数にもかかわらずRESTOREstudyと同等程度の視力改善効果を得られた理由として,観察期間が短いことが大きな理由の一つと考えられる.したがって今後,治療期間の延長とともに注射回数も増加していく可能性はある.少ない注射回数であったもう一つの理由として,本研究においては積極的に毛細血管瘤への直接光凝固や無灌流域への選択的光凝固を併用,追加していることがあげられる.RESTOREstudyにおいてもラニビズマブと光凝固の併用療法を行っている群があるが,ラニビズマブ単独治療群と比較して視力改善度はやや劣り,1年間の注射回数もラニビズマブ単独群で平均7回であったのに対し,光凝固併用群でも6.8回とそれほど大きな差が認められなかった.しかし,この報告では光凝固の適応や凝固条件が明記されておらず,詳細は不明である.米国における光凝固は,後極部における格子状光凝固ならびに広範な無灌流域に対する徹底的な汎網膜光凝固が主体であり,わが国で一般的に行われている網膜毛細血管瘤に対する直接光凝固や,targetedretinalphotoco-agulation(TRP)とも称される9)部分的な無灌流域に対する選択的光凝固は行われていないため,これが本研究の治療成績との差異につながった可能性も考えられる.また近年では,眼底に凝固斑が出現しない,より低侵襲な光凝固による良好な治療成績も報告されており10),今後はこういった新しい低侵襲光凝固をラニビズマブと併用することにより,黄斑浮腫への治療効果もよりいっそう向上していくかもしれない.もう一つの理由として,適宜トリアムシノロンアセトニドのテノン.下注射を併用していることも関係している可能性が考えられる.糖尿病網膜症やDMEの病態進展にはVEGFのみならず,炎症が関与することが報告されている11.15).また,糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固時における黄斑浮腫の発生をトリアムシノロンアセトニドテノン.下注射によって抑制可能とする報告もあるので16),本研究におけるステロイドの併用がVEGF以外の浮腫を惹起する因子を抑制していた可能性もある.IVRを行う時期に関する一つの知見として,RISE&RIDEstudyにおいては偽注射群も研究開始後2年目からIVRを施行されたが,初回から治療した群と比較して視力改善率が低かったことが重要であると思われる.本研究においても前報と同様に治療後の良好な視力に有意に関連する事象として,治療前の視力が良好であることが示された.これらを考え併せると,黄斑浮腫が遷延化し,視細胞に障害が出現して視力が低下する前,すなわち浮腫発生後,早い段階でラニビズマブ治療を開始したほうが良好な治療成績が得られる可能性が高いのかもしれない.また今回の検討では,約8週間で8割以上の症例が再発をきたしていたので,今後IVRを行う際には,厳密なチェックならびに追加治療が必要であると考えられ,それが不可能な場合には早急に光凝固やトリアムシノロンテノン.下注射などの代替治療が必要であると考えられる.以上,日本人に対するラニビズマブ治療も短期的には有効と考えられたが,本研究は後ろ向き研究であり,症例数も十分とは言い難い.また,糖尿病網膜症にはさまざまな全身的な要因も絡むため,今後も長期にわたる経過観察と治療データの蓄積が必要であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)安田美穂:世界の眼科の疫学研究のすべて久山町研究.あたらしい眼科28:25-29,20112)田邉祐資,川崎良,山下英俊:世界の眼科の疫学研究のすべて舟形町研究.あたらしい眼科28:30-35,20113)ShimuraM,YasudaK,YasudaMetal:Visualoutcomeafterintravitrealbevacizumabdependsontheopticalcoherencetomographicpatternsofpatientswithdi.usediabeticmacularedema.Retina33:740-747,20134)志村雅彦:糖尿病黄斑浮腫.眼科55:1525-1536,20135)村松大弐,三浦雅博,岩﨑琢也ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の治療成績.あたらしい眼科33:111-114,20166)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal;RIDEandRISEResearchGroup:Long-termoutcomesofranibi-zumabtherapyfordiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20137)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREstudygroup:TheRESTOREstudy:ranibi-zumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,20118)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmac-ularedemawithopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol127:688-693,19999)TakamuraY,TomomatsuT,MatsumuraTetal:Thee.ectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,201410)稲垣圭司,伊勢田歩美,大越貴志子:糖尿病黄斑浮腫に対する直接凝固併用マイクロパルス・ダイオードレーザー閾値下凝固の治療成績の検討.日眼会誌116:568-574,201211)WakabayashiY,UsuiY,OkunukiYetal:Increasesofvitreousmonocytechemotacticprotein1andinterleukin8levelsinpatientswithconcurrenthypertensionanddia-beticretinopathy.Retina31:1951-1957,201112)WakabayashiY,KimuraK,MuramatsuDetal:Axiallengthasafactorassociatedwithvisualoutcomeaftervitrectomyfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSci54:6834-6840,201313)MuramatsuD,WakabayashiY,UsuiYetal:CorrelationofcomplementfragmentC5awithin.ammatorycytokinesinthevitreousofpatientswithproliferativediabeticreti-nopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol251:15-17,201314)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:Aqueoushumorlevelsofcytokinesarerelatedtovitreouslevelsandpro-gressionofdiabeticretinopathyindiabeticpatients.Grae-fesArchClinExpOphthalmol243:3-8,200515)AdamisAP,MillerJW,BernalMTetal:Increasedvas-cularendothelialgrowthfactorlevelsinthevitreousofeyeswithproliferativediabeticretinopathy.AmJOph-thalmol118:445-450,199416)ShimuraM,YasudaK,ShionoT:Posteriorsub-Tenon’scapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidepreventspan-retinalphotocoagulation-inducedvisualdysfunctioninpatientswithseverediabeticretinopathyandgoodvision.Ophthalmology113:381-387,2006***

糖尿病黄斑浮腫におけるベバシズマブ反応不良例のラニビズマブへのスイッチ療法の検討

2016年2月29日 月曜日

《第20回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科33(2):295.299,2016c糖尿病黄斑浮腫におけるベバシズマブ反応不良例のラニビズマブへのスイッチ療法の検討平野隆雄鳥山佑一松田順繁時光元温京本敏行千葉大村田敏規信州大学医学部眼科学教室EvaluationofResponsetoTherapySwitchfromBevacizumabtoRanibizumabinDiabeticMacularEdemaTakaoHirano,YuichiToriyama,YorishigeMatsuda,MotoharuTokimitsu,ToshiyukiKyoumoto,DaiChibaandToshinoriMurataDepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine目的:ベバシズマブ硝子体内投与(intravitrealbevacizumab:IVB)反応不良の糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)症例においてラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumb:IVR)へのスイッチ療法の効果を検討する.対象および方法:対象はDMEに対しIVB施行されるも反応不良のためIVRへスイッチした7例7眼.最終IVBと初回IVRにおいて投与前と投与1カ月後の中心窩網膜厚,最高矯正視力(logMAR)について検討した.結果:最終IVBの中心窩網膜厚は投与前が476.1±119.2μm,投与1カ月後が484.0±99.7μmと有意差は認められなかった.初回IVRの中心窩網膜厚は投与前が520.1±82.1μm,投与1カ月後343.3±96.8μmと有意な改善を認めた(p=0.0156).最高矯正視力は最終IVB,初回IVRともに投与前,投与1カ月後で有意差は認められなかった.結論:IVB反応不良のDMEではIVRへのスイッチ療法が有効な症例があることが示唆された.Purpose:Toevaluatetheefficacyofswitchingtoranibizumabtherapyfollowingbevacizumabtreatmentfailureineyeswithdiabeticmaculaedema(DME).Methods:Weenrolled7eyesof7patientswithDMEwhoreceivedranibizumabinjectionsfollowingbevacizumabtreatmentfailure.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andcentralretinalthickness(CRT)accordingtospectral-domainOCTwereevaluatedbeforeandat1monthafterthelastbevacizumabinjectionandthefirstranibizumabinjection,respectively.Results:MeanCRTshowednosignificantchangeat1monthafterthelastbevacizumabtreatment(before:476.1±119.2;after:484.0±99.7μm),buthaddecreasedsignificantly(p=0.0156)at1monthafterthefirstranibizumabtreatment(before:520.1±82.1μm;after:343.3±96.8μm).BCVAdidnotdiffersignificantlybetweenbeforeand1monthafterthelastbevacizumabandthefirstranibizumabtreatment.Conclusions:RanibizumabtherapywaseffectiveinreducingCRTineyesthathadfailedbevacizumabtherapy.Theresultssuggestthatswitchingbetweenanti-vascularendothelialgrowthfactordrugsmaybeusefulineyeswithDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):295.299,2016〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,抗VEGF薬,スイッチ療法,ベバシズマブ,ラニビズマブ.diabeticmacularedema,antiVEGFdrug,switchingtherapy,bevacizumab,ranibizumab.はじめに従来,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmaculaedema:DME)はレーザー網膜光凝固,薬物療法,硝子体手術によって治療されてきたが,実臨床の場では治療困難な症例も散見された.そのような状況のなか,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が糖尿病網膜症の硝子体内で濃度が上昇することが報告され,DMEの病因としても重要な役割を果たすことが明らかとなり1).その後,多くの大規模臨床研究において抗VEGF薬のDMEに対する良好な治療成績が報告されている2.4).わが国ではDME治療〔別刷請求先〕平野隆雄:〒390-8621長野県松本市旭3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakaoHirano,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-8621,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(135)295 における抗VEGF薬としてベバシズマブ(アバスチンR)が適用外使用ながら用いられていたが,ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)がそれぞれ平成26年2月と11月にDMEまで適用拡大され,DME治療における抗VEGF薬の選択肢は広がりつつある.DMEに先駆けて抗VEGF薬が認可された加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)では,近年,抗VEGF薬に対する反応不良例として,投与開始時から薬剤に反応しないnon-responder(無反応)5),治療開始当初は良好な効果がみられるが投与を繰り返すうちに効果が減弱するtachyphylaxis・tolerence(耐性)6)が報告されている.このような抗VEGF薬反応不良のAMD症例に対しては,抗VEGF薬を他の種類に変更するスイッチ療法の良好な成績が報告されている7).今回,筆者らは,ベバシズマブ硝子体内投与(intravitrealbevacizumab:IVB)反応不良のDME症例においてラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumb:IVR)へのスイッチ療法の効果を検討したので報告する.I対象および方法2013年6月.2014年8月に信州大学附属病院でDMEに対し3回以上IVB施行するも反応不良のため,抗VEGF薬をラニビズマブへスイッチした症例で既報に準じ8),下記の選択基準を満たし除外基準を含まない患者を対象とした.選択基準:①20歳以上の2型糖尿病患者,②スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)による中心窩を中心とした直径1mmの網膜厚の平均である中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)が初回IVB治療前に350μm以上,③IVBを3回以上施行するも反応不良のためIVRへスイッチ.反応不良とはIVB後1カ月で.胞様黄斑浮腫や漿液性網膜.離を伴い,CRTがIVB初回治療前よりも20%以上の改善を認めない,もしくはCRTが350μm以上と定義した.除外基準:①本研究前の局所的もしくは全身的な抗VEGF療法の既往,②3カ月以内の何らかの網膜光凝固術・局所ステロイド治療の既往,③AMD・硝子体黄斑牽引・黄斑上膜・眼内炎症などDME以外に黄斑に影響を与える疾患の既往,④6カ月以内の白内障手術歴・時期を伴わない硝子体手術歴.⑤重症心疾患,脳血管障害,血液疾患,悪性腫瘍などの重篤疾患の既往.IVBはベバシズマブとして1回当たり1.25mgを0.05mlに調整し,4.6週ごとにCRTが350μm以上で投与するいわゆるPRN(ProReNata)投与で行った.最終IVBと初回IVRにおいて投与前と投与1カ月後のCRT,最高矯正視力(bestcorrectedvisualacuity:BCVA)について検討した.SD-OCTはCirrusHD-OCT(CarlZeissMeditec)を用い296あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016た.統計処理はGraphPadPrismRversion6(GraphPadSoftware)を用い,Wilcoxon符号順位和検定によるノンパラメトリック検定を行い危険率5%(p<0.05)をもって有意差ありとした.なお,本研究は信州大学附属病院倫理委員会の承認を得て行った(臨床研究No.2256)II結果症例内訳は男性4例4眼,女性3例3眼,年齢60±11(平均±標準偏差)歳であった.IVB前のDME治療歴は網膜局所光凝固術が3.3±1.4回,局所ステロイド治療が2.0±1.1回であった.初回IVB前のCRTは566.1±93.8μmで投与1カ月後464.0±56.5μmと有意な減少を認めた(p=0.0481)(図1a).IVBによる治療期間中,治療前と比較してCRTは最高で平均161.3±86.8(53-300)μmの減少を認め,全症例においてCRTの改善では一定の治療効果がみられた.その後,IVB反応不良のためIVRへスイッチする直前の最終IVBのCRTは投与前が476.1±119.2μm,投与1カ月後484.0±99.7μmで有意差は認められなかった(p=0.8125)(図1b).初回IVRのCRTは投与前が520.1±82.1μm,投与1カ月後343.3±96.8μmと有意な改善を認めた(p=0.0156)(図1c).BCVA(logMAR)は初回IVBで統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.40±0.20,投与1カ月後0.32±0.14と改善傾向を認めた(p=0.1875)(図2a).最終IVBのBCVAは投与前0.35±0.31,投与1カ月後0.38±0.29と改善傾向なくむしろ悪化傾向を認めた(p=0.5000)(図2b).初回IVRでは統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.37±0.24,投与1カ月後0.30±0.21と改善傾向を認めた(p=0.5625)(図2c).なお,IVRへスイッチする前のIVB回数は平均で7.4±2.3回であった.また,最終IVBから初回IVRまでの平均期間は1.50±0.65(1.2.5)カ月であった.代表症例の経過を図3に示す.71歳,男性.2002年に糖尿病を指摘されるも放置.2009年より内服にて糖尿病治療を開始.2010年に右眼)汎網膜光凝固施行.その後,右眼)DME認めたため2012年当科初診.網膜局所光凝固術を5回,局所ステロイド治療を3回施行も浮腫の軽減認めなかったため,患者の同意を得たうえで2013年,初回IVBを施行.初回IVB前はCRT629μm,BCVA(少数)0.3であったが,投与1カ月後にはCRTが507μmと減少を認め,BCVA(少数)0.5まで改善を認めた(図3a,b).その後,IVB6回行われるも徐々に治療効果が減弱し,最終IVB前はCRT637μm,BCVA(少数)0.4で,投与1カ月後にはCRT609μm,BCVA(少数)0.4と反応不良となった(図3c,d).患者希望もあり,いったんIVBを中止.最終IVBより3カ月後に初回IVR施行したところCRTは628μmから285μmと減少を認め,BCVA(少数)も0.2から0.5へ改善を認めた(136) a:初回IVBb:最終IVBc:初回IVR800800800中心窩網膜厚(μm)*2002002000投与前投与1カ月後0投与前投与1カ月後0*投与前投与1カ月後中心窩網膜厚μm)図1初回IVB,最終IVB,初回IVR投与前後の中心窩網膜厚の変化a:初回IVBのCRTは投与前が566.1±93.8μm,投与1カ月後464.0±56.5μmと有意な改善を認めた(p=0.0481).b:最終IVBのCRTは投与前が476.1±119.2μm,投与1カ月後484.0±99.7μmで有意差は認められなかった(p=0.8125).c:初回IVRのCRTは投与前が520.1±82.1μm,投与1カ月後343.3±96.8μmと有意な改善を認めた(p=0.0156).a:初回IVBb:最終IVBc:初回IVR中心窩網膜厚(μm)6006006004004004001.0最高矯正視力(logMAR)最高矯正視力(logMAR)0.00.20.40.80.61.0最高矯正視力(logMAR)1.00.80.60.40.20.00.80.60.40.20.0投与前投与1カ月後投与前投与1カ月後投与前投与1カ月後図2初回IVB,最終IVB,初回IVR投与前後の最高矯正視力(logMAR)の変化a:初回IVBのBCVA(logMAR)は統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.40±0.20,投与1カ月後0.32±0.14と改善傾向を認めた(p=0.1875).b:最終IVBのBCVA(logMAR)は投与前0.35±0.31,投与1カ月後0.38±0.29と改善傾向なく,むしろ悪化傾向を認めた(p=0.5000).c:初回IVRのBCVA(logMAR)は統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.37±0.24,投与1カ月後0.30±0.21と改善傾向を認めた(p=0.5625).(図3e,f).DMEの症状が安定したため,初回IVRから9対する良好な治療成績が報告されている2.4).わが国ではカ月後に白内障手術を施行.計6回IVR施行し,初回IVR2014年2月にラニビズマブ(ルセンティスR)がDMEまでから12カ月後の最終受診時にはCRT261μm,BCVA(少数)保険適用が拡大される以前は,DME治療で保険適用のある1.2と良好な治療効果が得られており,今後もDMEの悪化抗VEGF薬が存在しなかったため,各施設の倫理委員会のを認めるようならIVRを施行する予定である(図3g).承認を得たうえで,ベバシズマブ(アバスチンR)が適用外III考按使用ながら用いられていた.過去の大規模臨床研究の結果と同様に,実臨床の場でもDMEに対して良好な治療効果を示VEGFが眼内の血管新生や血管透過性亢進に深くかかわすことが多いIVBであったが,一方で治療抵抗性や治療効っていることが1994年に報告され1),その後登場した抗果の減弱といった問題も報告されるようになった9).本研究VEGF薬については多くの大規模臨床研究においてDMEにでも7眼すべてにおいて初回IVB後1カ月の平均CRTは有(137)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016297 1.21a629cd637631e628b511537609520526507456424f337332285266246262240297g261CRT(μm)BCVA(少数)白内障手術0.80.60.40.20002M4M6M8M10M12M14M16M18M20M1M3M5M7M9M11M13M15M17M19Mabcdefg図3代表症例の経過グラフの左縦軸はCRT(μm),右縦軸はBCVA(少数),横軸は初回IVBからの経過日数(月)を表す..はIVBを△はIVRを表す.a:初回IVB投与前,CRT629μm,BCVA(少数)0.4.b:初回IVB投与後1カ月,CRT507μm,BCVA(少数)0.5.c:最終IVB投与前,CRT637μm,BCVA(少数).d:最終IVB投与後1カ月,CRT609μm,BCVA(少数)0.4.e:初回IVR投与前,CRT628μm,BCVA(少数)0.2.f:初回IVR投与後1カ月,CRT285μm,BCVA(少数)0.5.g:最終受診時,CRT261μm,BCVA(少数)1.2.298あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(138) 意に減少を認めたが,平均7.4回のIVB後,CRTは有意な減少を認めず反応不良となった.DMEに先駆けて抗VEGF薬が認可されたAMDでは,このような抗VEGF薬反応不良のAMD症例において,抗VEGF薬を他の種類に変更するスイッチ療法の良好な成績が報告されている7).本研究でもIVB反応不良のDME症例7眼すべてにおいて初回IVRへスイッチすることにより1カ月後にCRTの有意な減少を認めた.IVB反応不良のDME症例においてIVRへのスイッチ療法が有効であることの詳細なメカニズムについては明らかになっていない.AMDでは抗VEGF薬治療中に効果が減弱し反応不良となる理由として,抗VEGF薬に対する中和抗体の産生,標的組織での脱感受性,標的組織でのVEGF産生亢進などが考えられている10).同様の原因により本研究で対象としたDME症例においても,徐々にIVBに対して治療抵抗性となっていた可能性は高いと考えられる.また,KaiserらがIVB反応不良のAMD症例においてIVRへのスイッチ療法が有効な理由として,ラニビズマブがベバシズマブより分子量が小さく,VEGFへの親和性が高いためと考察しているように,Fc領域の有無といった両者の根本的な創薬デザインの相違も大きく影響していると考えられる11).本研究は症例数が7症例と少なく,観察期間も短いため,今後,より多くの症例と長期間の観察が必要と思われる.また,ラニビズマブ反応不良症例において,ベバシズマブやアフリベルセプトなど他の抗VEGF薬へのスイッチ療法の効果についても検討する必要があると思われる.本研究では,ベバシズマブ反応不良となったDME症例において,ラニビズマブへのスイッチ療法が有効な症例があることが示唆された.DMEに対する抗VEGF療法において,反応不良例では一つの抗VEGF薬にこだわらず,抗VEGF薬を変更するスイッチ療法を選択肢の一つとして検討することは重要と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothelialgrowthfactorinocularfluidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19942)MichaelidesM,KainesA,HamiltonRDetal:Aprospectiverandomizedtrialofintravitrealbevacizumaborlasertherapyinthemanagementofdiabeticmacularedema(BOLTstudy)12-monthdata:report2.Ophthalmology117:1078-1086e1072,20103)NguyenQD,ShahSM,KhwajaAAetal:Two-yearoutcomesoftheranibizumabforedemaofthemAculaindiabetes(READ-2)study.Ophthalmology117:21462151,20104)DoDV,Schmidt-ErfurthU,GonzalezVHetal:TheDAVINCIStudy:phase2primaryresultsofVEGFTrap-Eyeinpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology118:1819-1826,20115)OtsujiT,NagaiY,ShoKetal:Initialnon-responderstoranibizumabinthetreatmentofage-relatedmaculardegeneration(AMD).ClinOphthalmol7:1487-1490,20136)GasperiniJL,FawziAA,KhondkaryanAetal:Bevacizumabandranibizumabtachyphylaxisinthetreatmentofchoroidalneovascularisation.BrJOphthalmol96:14-20,20127)BakallB,FolkJC,BoldtHCetal:Aflibercepttherapyforexudativeage-relatedmaculardegenerationresistanttobevacizumabandranibizumab.AmJOphthalmol156:15-22e11,20138)HanhartJ,ChowersI:Evaluationoftheresponsetoranibizumabtherapyfollowingbevacizumabtreatmentfailureineyeswithdiabeticmacularedema.CaseRepOphthalmol6:44-50,20159)AielloLP,BeckRW,BresslerNMetal:Rationaleforthediabeticretinopathyclinicalresearchnetworktreatmentprotocolforcenter-involveddiabeticmacularedema.Ophthalmology118:e5-e14,201110)BinderS:Lossofreactivityinintravitrealanti-VEGFtherapy:tachyphylaxisortolerance?BrJOphthalmol96:1-2,201211)KaiserRS,GuptaOP,RegilloCDetal:Ranibizumabforeyespreviouslytreatedwithpegaptaniborbevacizumabwithoutclinicalresponse.OphthalmicSurgLasersImaging43:13-19,2012***(139)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016299

糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の治療成績

2016年1月31日 日曜日

《第20回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科33(1):111.114,2016c糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の治療成績村松大弐*1三浦雅博*1岩崎琢也*1阿川哲也*1伊丹彩子*1三橋良輔*1後藤浩*2*1東京医科大学茨城医療センター*2東京医科大学病院IntravitrealInjectionofRanibizumabforDiabeticMacularEdemainJapanDaisukeMuramatsu1),MasahiroMiura1),TakuyaIwasaki1),TetsuyaAgawa1),AyakoItami1),RyosukeMitsuhashi1)andHiroshiGoto2)1)TokyoMedicalUniversity,IbarakiMedicalCenter,2)TokyoMedicalUniversityHospital目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するラニビズマブ硝子体注射(IVR)の効果を検討する.対象および方法:2014年3.11月にDMEにIVRを行い,3カ月間以上観察が可能であった28例34眼を対象に,後ろ向きに調査した.初回IVR後1,2,3カ月と最終受診時の視力と中心網膜厚,追加治療について検討した(抗VEGF抗体初回投与25眼,ベバシズマブ注射から切り替え9眼).初回注射の後は毎月観察を行い,必要に応じて再治療を行った.結果:経過観察期間は平均7.6カ月であった.治療前の網膜厚は509.7μmで,治療1,2,3カ月後,および最終受診時には392.6,399.7,385.4,386.7μmと全期間で有意な改善を示した(p<0.01).治療前の完全矯正視力の平均logMAR値は0.45で,治療1,2,3カ月後はそれぞれ0.39,0.36,0.33であり,最終受診時には0.31と有意な改善を示した(p<0.05).3カ月までの平均IVR回数は1.8回,最終観察時までは2.9回であった.光凝固の追加は13眼,トリアムシノロンTenon.下注射の追加は9例であった.70%の症例は最終時に小数視力0.5以上となり,治療前と比較してlogMAR0.2以上の改善も38%で認められた.結論:IVRは短期的にはDMEの軽減に有効である.Purpose:Toassesstheefficacyofintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)inJapanesepatientswithdiabeticmacularedema(DME).Casesandmethods:Inthisretrospectivecaseseries,34eyesof28patientswithDMEwhoreceived0.5mgIVR(25anti-VEGFnaivecasesand9casesswitchingfrombevacizumab)werefollowedupfor3monthsorlonger.BestcMAR)andcentralretinalthickness(CRT)werethemainoutcomemeasures.Results:BaselineBCVAandCRTwere0.45and509.7μm,respectively.Atmonth1,BCVAhadimprovedto0.39andCRThadsignificantlydecreasedto392.6μmascomparedtobaseline(p<0.01).Atthefinalvisit,BCVAhadsignificantlyimprovedto0.31(p<0.05)andCRThaddecreasedto386.7μm(p<0.01).ThenumberofIVRaveraged2.9times.Visualacuityindigitswas0.5oroverin70%ofpatients.Conclusion:IntravitrealinjectionofranibizumabisaneffectivetreatmentforDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(1):111.114,2016〕Keywords:ラニビズマブ,糖尿病黄斑浮腫,光凝固,トリアムシノロンアセトニド,抗VEGF.ranibizumab,diabeticmacularedema,photocoagulation,triamcinoloneacetonide,anti-vascularendothelialgrowthfactor.はじめにわが国における糖尿病網膜症の有病率は,久山町研究1)によると40歳以上の人口の15%,舟形町研究2)によると35歳以上の人口の14.6%であると報告されている.なかでも糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は視力障害の主要因子の一つといえ,病態には眼内で増加する血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が関与していることが知られている.DMEに対する治療は,これまでは網膜光凝固3,4)が標準的治療とされ,その他にも硝子体手術5)やステロイド治療6)などが行われてきたが,VEGFを直接阻害する薬剤が使用可能となった近年では,抗VEGF療法が治療の主体となりつつある7,8).抗VEGF抗体の一種であり,ヒト化モノクローナル抗体のFab断片であるラニビズマブは,当初は加齢黄〔別刷請求先〕村松大弐:〒300-0395茨城県稲敷郡阿見町中央3-20-1東京医大茨城医療センターReprintrequests:DaisukeMuramatsu,M.D.,Ph.D.,TokyoMedicalUniversity,IbarakiMedicalCenter,3-20-1Chu-ou,Amimachi,Inashiki-gun,Ibaraki300-0395,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(111)111 斑変性に対する治療薬として開発されたが,近年ではDMEにも適応が拡大され,大規模研究であるRISEandRIDEstudyによって,偽注射に対して治療の優位性が証明された9).また,同様の大規模研究であるRESTOREstudyにより光凝固への優位性も証明された10).しかし,これらの研究の対象は約95%が白人やアフリカンアメリカン人種であり,日本人をはじめとするアジア人における反応性や効果についてはいまだに不明である.2014年2月から,わが国においてもDMEへのラニビズマブ治療が認可され,広く使用されるようになってきたことから,東京医大茨城医療センター眼科(以下,当院)における日本人患者への治療成績を報告する.I対象および方法対象は2014年3月.2014年11月の期間に,当院において加療したびまん性黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症で,ラニビズマブ0.5mgの硝子体注射(intravitrealinjectionofranibizumab:IVR)にて治療を行い,3カ月以上の観察が可能であった28例34眼(男性20例,女性8例)で,全例,日本人の症例であった.治療時の年齢分布は39.81歳で,平均年齢±標準偏差は65.9±9.0歳である.治療前の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による浮腫のタイプは,網膜膨化型が22眼,.胞様浮腫が14眼,漿液性網膜.離が12眼であり,これらの所見は同一症例で混合している場合もあった.過去の治療歴として,ベバシズマブからの切り替え例が9眼であり,初回抗VEGF抗体治療眼が25眼であり,このうちの9眼はまったくの無治療であり,16眼では光凝固やトリアムシノロンTenon.下注射での治療歴があった.本研究時の治療プロトコールとして,初回IVRの後に毎月観察を行い,その後は必要に応じて再治療を行った(prorenata:PRN).再治療は,2段階以上の視力低下,もしくは20%以上の中心網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の増加がみられ,患者の同意が得られた場合に原則IVRを行った.浮腫の悪化があってもIVRに同意しなかった場合や,IVR後の浮腫改善が不十分な場合はトリアムシノロンTenon.下注射を施行している.全症例のうち,蛍光眼底造影で無灌流域や網膜毛細血管瘤を認めた10眼に対しては,IVRの後1.2週の時点で計画的に光凝固(汎網膜光凝固や血管瘤直接凝固)を行う併用療法を行い,残りの24眼はIVR単独で治療を開始し,適宜追加治療を行った.これら24眼のうち18眼においては,眼所見が安定するまで当初の1カ月ごとに2.3回の注射を行うIVR導入療法を施行し,その後はPRNとした.検討項目は,IVR後,1,2,3カ月ならびに最終来院時における完全矯正視力,および3D-OCT2000(トプコン)を用いて計測したCRTで,そのほかにも再発率,治療方法ならびに投与回数,投与時期112あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016について診療録を基に後ろ向きに調査した.II結果全34眼の平均観察期間は7.6±2.5カ月(3.12カ月)であった.全症例における治療前の平均CRTは509.7±157.3μmであったのに対し,IVR後1カ月の時点では392.6±158.8μmと減少していた.CRTは2カ月の時点で399.7±163.8μm,3カ月では385.4±158.0μm,最終来院時では386.7±147.3μmと,全期間を通じ,治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.01,t-検定)(図1).全症例における治療前の視力のlogMAR値の平均は0.45±0.28であった.視力はIVR後1カ月で0.39±0.28へ上昇し,IVR後2,3カ月,最終来院の時点で,それぞれ0.36±0.30,033.±0.29,0.31±0.29であり,最終来院時において有意な改善を示した(p<0.05,t-検定)(図2).全症例を,治療前後の視力変化をlogMAR0.2で区切って検討すると,IVR後1カ月の時点で改善例は8眼(24%)不変例は26眼(76%),悪化例は0眼(0%)であり,3カ月(,)の時点で改善例は12眼(35%),不変例は21眼(62%),悪化例は1眼(3%),最終来院時には改善例は13眼(28%)不変例は20眼(59%),悪化例は1眼(3%)であり,経時的(,)に視力改善例が増加していた(表1).全症例において,治療前の小数視力が0.5以上を示した症例は13眼(38%)存在したが,IVR後1カ月では18眼(53%),2カ月で20眼(59%),3カ月で22眼(65%),最終来院時で24眼(70%)と,これら視力良好例の占める割合も増加していた(表2).経過中に浮腫が完全に消失したことがある症例は14眼(41%)であった.このうち,初回注射の1カ月の時点での完全消失は5眼であり,3カ月以内に完全消失した例は10眼であった.最終来院時まで完全消失が持続した症例は3眼のみであった.経過観察中には浮腫の再発を繰り返す症例がみられ,初回治療後3カ月までの平均IVR回数は1.8±0.9回,最終観察時までのIVR回数は2.9±1.9回(1.7回)であった.また,光凝固を追加した症例は13眼(38%),トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を追加した症例は9例(26%)存在し,光凝固やTenon.下注射併用例での平均IVR回数は2.6±1.9回であり,IVRのみで追加治療した例での平均IVR回数3.3±1.8回よりも少なかった.また,1回注射の後に浮腫の再発を認めなかった例が3例存在したが,いずれも網膜血管瘤への光凝固を併用した症例であった.最終視力が0.5以上得られた場合の術前因子をc二乗検定にて解析すると,術前視力が0.5以上あることが有意な関連性があった.しかし,併用療法の有無や,術前の浮腫のタイプなどは関連性がなかった(表3).(112) 治療前1カ月2カ月3カ月最終n=3434343434=3434343434図1治療前後の中心網膜厚の経時的変化全症例の各時点における中心網膜厚を示す.注射1カ月で網膜厚は大きく減少しその後も2,3カ月,最終時と治療前と比較し有意に網膜厚は減少している.†p<0.01.経過中の追加治療の内訳と施行眼数を示す.IVR:ラニビズマブ硝子体注射,PC:光凝固,TA:トリアムシノロンTenon.下注射.表12段階以上の視力変化の割合改善不変悪化1カ月8眼24%26眼76%0眼0%3カ月12眼35%21眼62%1眼3%最終13眼38%20眼59%1眼3%表3最終視力との関連因子関連因子眼数最終視力0.5以上の割合p値治療前視力0.5以上ありなし24眼10眼100%(24眼)0%(10眼)p<0.01併用療法ありなし19眼15眼74%(14眼)67%(10眼)p=0.94漿液性.離ありなし12眼22眼75%(9眼)68%(15眼)p=0.98c2検定III考按DMEに対するラニビズマブ治療の有効性を証明した大規模研究として,RISEandRIDEstudyがあげられる.この研究では対象を無作為に偽注射群とラニビズマブ治療群に割り当てし,治療開始から24カ月において,偽注射群ではETDRS視力で2.5文字の改善にとどまっていたが,ラニビズマブ治療群では12.0文字の改善と,ラニビズマブ治療の優位性が報告された9).しかし,この研究における治療プロトコールでは,当初の24カ月は毎月ラニビズマブ注射を行っており,多数の注射を要していた.その後に行われた光凝(113)340360380400420440460480500520540560††††IVRn=16PCn=0TAn=3IVRn=12PCn=0TAn=1IVRn=0PCn=10TAn=1中心網膜厚(μm)0.50.450.40.350.30.25p=0.4*p=0.04p=0.08p=0.2logMAR治療前1カ月2カ月3カ月最終n=3434343434図2治療前後の視力の経時的変化全症例の各時点における視力のlogMAR値を示す.注射1カ月で視力は上昇し,その後も経時的に向上している.最終時にはおいては治療前と比較し有意に改善している.*p<0.05.表2治療前後の各時点における小数視力0.5以上が占める割合治療前13眼(38%)1カ月18眼(53%)2カ月20眼(59%)3カ月22眼(65%)最終24眼(70%)固との比較試験であるRESTOREstudyにおいては,当初の3カ月は毎月ラニビズマブ注射を行い,それ以降は1カ月ごとの観察を通じて,必要に応じた再治療を行っている.そして12カ月の時点において6.1文字の改善を得ており,0.9文字の改善にとどまった光凝固への優位性が報告された10).当院における今回の治療方法では,29%(n=10)の症例ではIVR後1.2週で毛細血管瘤に対する直接光凝固や汎網膜光凝固を計画的に併用する方法で治療した.53%(n=18)の症例では1カ月ごとに2.3回の注射で導入療法を行い,その後は毎月観察を行って再発,悪化時に再投与を行う方法(PRN)で治療を行い,18%(n=6)の症例では1回の注射の後にPRNとし,3カ月間で平均1.8回,最終来院時までに2.9回の注射を行った.治療成績については,ラニビズマブ治療の開始直後から網膜浮腫は劇的に減少し,視力も治療前と比較して最終来院時には有意な向上が得られた.視力のデータをlogMARさらにETDRSの文字数に換算すると,最終来院時において7文字の改善が得られた結果となった.この改善度はRISEandRIDEstudyには及ばなかったが,RESTOREstudyの結果とは同等であった.本研究において,少ない注射回数でRESTOREstudyと同等程度の視力改善効果を得られた理由として観察期間が短いことが大きな理由の一つであり,今後,治療期間の延長とあたらしい眼科Vol.33,No.1,2016113 ともに注射回数も増加していく可能性はある.少ない注射数であったもう一つの理由として,本研究においては積極的に毛細血管瘤への直接光凝固や無灌流域への選択的光凝固を併用,追加していることや,適宜トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を併用していることも関係しているのかもしれない.RESTOREstudyにおいてもラニビズマブと光凝固の併用療法を行っている群があるが,ラニビズマブ単独治療群と比較して視力改善度はやや劣り,1年間の注射回数もラニビズマブ単独群で平均7回であったのに対し,光凝固併用群でも6.8回とそれほど大きな差が認められなかった.しかし,この報告では光凝固の適応や凝固条件が明記されておらず,詳細は不明である.米国における光凝固は,後極部における格子状光凝固ならびに広範な無灌流域に対する徹底的な汎網膜光凝固が主体であり,わが国で一般的に行われている網膜毛細血管瘤に対する直接光凝固や,部分的な無灌流域に対する選択的光凝固は行われていないため,これが本研究の治療成績との差異につながった可能性も考えられる.IVRを行う時期に関する一つの知見として,RISEandRIDEstudyにおいては偽注射群が研究開始後2年目からはIVRを施行されたが,初回から治療した群と比較して視力改善率が低かったことが重要であると思われる.本研究においても治療後の良好な視力に有意に関連する事象として,治療前の視力が良好であることが示された.これらを考え併せると,黄斑浮腫が遷延化して視力が低下する前,すなわち浮腫発生後,早い段階でラニビズマブ治療を開始したほうが良好な治療成績が得られる可能性が高い.以上より,日本人に対するラニビズマブ治療も短期的には有効と考えられたが,本研究は後ろ向き研究であり,症例数も十分とは言えない.今後も長期にわたる経過観察と,治療データの蓄積が必要であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)安田美穂:世界の眼科の疫学研究のすべて久山町研究.あたらしい眼科28:25-29,20112)田邉祐資,川崎良,山下英俊:世界の眼科の疫学研究のすべて舟形町研究.あたらしい眼科28:30-35,20113)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchgroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyreportnumber1.ArchOphthalmol103:1796-1806,19854)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Earlyphotocoagulationfordiabeticretinopathy.ETDRSreportnumber9.Ophthalmology98:766-785,19915)KumagaiK,FurukawaM,OginoNetal:Long-termfollow-upofvitrectomyfordiffusenontractionaldiabeticmacularedema.Retina29:464-472,20096)JonasJB,SofkerA:Intraocularinjectionofcrystallinecortisoneasadjunctivetreatmentofdiabeticmacularedema.AmJOphthalmol132:425-427,20017)ShimuraM,YasudaK,YasudaMetal:Visualoutcomeafterintravitrealbevacizumabdependsontheopticalcoherencetomographicpatternsofpatientswithdiffusediabeticmacularedema.Retina33:740-747,20138)志村雅彦:糖尿病黄斑浮腫.眼科55:1525-1536,20139)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal:RIDEandRISEResearchGroup:Long-termoutcomesofranibizumabtherapyfordiabeticmacularedema:the36monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,201310)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal:RESTOREStudyGroup:TheRESTOREstudy:ranibizumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,2011***114あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(114)