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未熟児網膜症に対するラニビズマブ治療後再燃の関連因子

2024年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(4):452.457,2024c未熟児網膜症に対するラニビズマブ治療後再燃の関連因子前原央恵*1,2今永直也*1宮里智子*2澤口翔太*1湧川空子*1大城綾乃*1大庭千明*3吉田朝秀*4古泉英貴*1*1琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座*2沖縄県立南部医療センター・こども医療センター眼科*3沖縄県立南部医療センター・こども医療センター新生児内科*4琉球大学大学院医学研究科育成医学講座CClinicalFactorsRelatedtoRecurrenceofRetinopathyofPrematurityAfterIntravitrealRanibizumabInjectionTherapyHisaeMaehara1,2),NaoyaImanaga1),TomokoMiyazato2),ShotaSawaguchi1),SorakoWakugawa1),AyanoOshiro1),ChiakiOhba3),TomohideYoshida4)andHidekiKoizumi1)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,2)DepartmentofOphthalmology,OkinawaSouthernMedicalCenterandChildren’sMedicalCenter,3)DepartmentofInclusionMedicine,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,4)DepartmentofNeonatology,OkinawaSouthernMedicalCenterandChildren’sMedicalCenterC目的:未熟児網膜症(ROP)に対するラニビズマブ硝子体内注射(IVR)の再燃にかかわる因子について検討した.対象および方法:対象はC2019年C4月.2022年C3月に出生した超低出生体重児C94例.治療適応となるCROP(TR-ROP)の発症,IVR後の再燃に関する因子を後ろ向きに検討した.初回および再燃時の治療適応はCEarlyCTreatmentCforCROPStudyの基準に準じ,初回治療およびC1回目の再燃時の治療にはCIVR0.2Cmgを行った.結果:46例がCTR-ROPとなり,TR-ROP発症に関連する因子は,在胎週数,出生体重,持続陽圧呼吸療法の期間であった(すべてCp<0.05).初回CIVRでの寛解群C27例と再燃群C19例では,再燃群は初回治療時のCstageが低く,zoneが狭く,出生から初回治療までの期間が有意に短かった(すべてCp<0.05).再燃群のうちC14例がC2回目のCIVRで寛解したが,5例がC2回目の再燃をきたし,2回再燃群は再燃後寛解群に比べて出生からC2回目治療までの期間が有意に短かった(p<0.01).結論:早期のIVR,低いstage,狭いCzoneはCIVR後の再燃と関連していた.CPurpose:ToCinvestigateCfactorsCassociatedCwithCtheCrecurrenceCofCretinopathyCofprematurity(ROP)afterCintravitrealranibizumab(IVR)injectionCtherapy.CMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,CweCreviewedCtheCrecordsCof94extremely-lowbirthweight(BW)infantsbornbetweenApril2019andMarch2022toexploretheriskfac-torsfortreatment-requiringROP(TR-ROP)andrecurrenceafterIVRinjection.Results:ClinicalfactorsinvolvedinCdevelopingCTR-ROPCwereCgestationalCage,CBW,CandCdurationCofCcontinuousCpositiveCairwayCpressureCtherapy.CAfterCinitialCtreatment,CtheCrecurrencegroup(19patients)hadCaClowerCstageCatCtheC.rstCtreatment,CaCnarrowerCzone,andasigni.cantlyyoungerpostmenstrualageatthetimeofthe.rsttreatment(allp<0.05)thantheremis-siongroup(27patients).Afterthesecondtreatment,therecurrencegroup(5patients)hadasigni.cantlyyoungerpostmenstrualageatthetimeofthesecondtreatment(p<0.01)thantheremissiongroup(12patients).Conclu-sion:RecurrenceofTR-ROPafterIVRinjectionmaybeassociatedwithyoungerpostmenstrualageatthetimeofIVRinjection,lowerstage,andnarrowerzone.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(4):452.457,C2024〕Keywords:未熟児網膜症,ラニビズマブ,抗血管内皮増殖因子,硝子体内注射.retinopathyofprematurity,ra-nibizumab,vascularendothelialgrowthfactor,intravitrealinjection.Cはじめに熟児における網膜血管の発達異常を特徴とし,日本だけでな未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)は,未く世界の小児失明原因の上位を占める1).治療はこれまで網〔別刷請求先〕前原央恵:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座Reprintrequests:HisaeMaehara,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC452(86)膜冷凍凝固術や網膜光凝固術が主体であり,網膜.離を生じた場合には網膜硝子体手術を行っていた.近年では,抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法が新しい選択肢として加わるようになった.RAINBOWstudyにおいて,ROPに対する治療としてラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)の有効性が示され2),わが国でもC2019年にCIVRが承認された.しかし,IVR投与後に網膜症の再燃(reactivation)を生じ,複数回治療が必要な症例が存在する.治療を要するCROP(treatment-requiringROP:TR-ROP)発症にかかわる因子として,在胎週数,出生体重,晩期循環不全,長期間の陽圧呼吸,輸血歴3.5)などが知られているが,抗CVEGF薬硝子体内注射後にどのような小児が再燃するリスクが高いかは,明確なコンセンサスは得られていない.本研究の目的はCROPに対するIVR後の再燃に関する因子について検討したので報告する.CI対象および方法本研究は琉球大学病院の倫理委員会(承認番号:2040)の承認を受け,ヘルシンキ宣言に示された原則に従って実施された.本研究のオプトアウトは,琉球大学病院の施設審査委員会による承認後,病院のウェブサイトに表示されオプトアウトの機会を提供した.2019年C11月.2022年C3月に琉球大学病院および沖縄県立南部医療センター・こども医療センターで出生し,ROPスクリーニング検査を受けた超低出生体重児(出生体重1,000Cg未満)の診療録を後ろ向きにレビューした.眼底所見の評価は右眼を用いたが,今回の検討では片眼のみCROPおよびCTR-ROPを発症した症例はなく,TR-ROPは全症例で両眼同時に治療が行われていた.死亡例など新生児集中治療室を退院できなかった症例は除外した.初回および再燃時の治療適応はCEarlyCTreatmentCforCRetinopathyCofCPrema-turity(ETROP)Studyを遵守した.すなわち,pre-thresh-oldROPtype1zoneI,anystageROPwithplusdisease,またはCzoneI,stage3,withCorCwithoutCplusdisease,またはCzoneII,stageC2CorC3ROP,withCplusdisease以上の症例を治療対象とした.AggressiveROP症例については,stageやCzoneにかかわらず,治療を行った.治療は全例において,初回治療およびC1回目の再燃時はCIVR0.2Cmgを,2回目の再燃時は網膜光凝固術を施行した.TR-ROP発症やCROP再燃に関連する全身因子の候補として,ベースラインを反映するC3因子(在胎週数,出生体重,性別),出生時の呼吸循環機能を反映するC2因子(アプガー指数C1分,Apgar指数C5分),循環機能を反映するC4因子(敗血症の既往,赤血球濃厚液輸血単位数,結紮術を要する動脈管開存の既往,晩期循環不全の既往),呼吸機能を反映するC4因子(新生児呼吸窮迫症候群の既往,持続陽圧呼吸療法の期間,高流量経鼻酸素療法離脱までの期間,慢性肺疾患の有無),中枢神経循環能を反映する因子(脳室内出血の既往),感染症を反映するC3因子(臨床的絨毛膜羊膜炎の既往,組織学的絨毛膜羊膜炎の既往,子宮内感染の既往),その他入院時に受けた手術件数をあげた.また,眼局所要因として,aggressiveROP,ROP治療週数,治療時のCstage,zone,plusdiseaseを採用した.まず,TR-ROP発症にかかわる因子を同定するため,ROP未発症および自然消退ROP群とCTR-ROP群に分けてC2群間で臨床要因を比較した.また,再燃および再々燃にかかわる因子を同定するため,初回寛解群と再燃群,およびC2回治療群とC3回治療群を比較した.統計解析は,2群間比較ではCWilcoxonCrankCsumtest,CFisher’sexacttestを使用し,両群比較を行った.TR-ROPの検討では在胎週数,出生体重でCp値を補正した.0.05以下のCp値は,統計的に有意であるとみなされた.初回治療後およびC2回目治療後の再燃に関する因子の予測能を評価するため,それぞれについて統計学的に有意な要因で受信者動作特性(receiverCoperatingCcharacteristiccurve:ROC)曲線を作成し,areaundercurve(AUC)を算出,モデルの正当性を評価した.CII結果全症例C94例C94眼の臨床的特徴を表1に示す.TR-ROPはC46眼(48.9%)に発症し,ROP未発症および治療を要さず自然消退したCROPはC48眼(51.1%)であった.両群間の比較において,TR-ROP発症に関連する因子は,在胎週数,出生体重,持続陽圧呼吸療法の期間,持続陽圧呼吸療法+高流量経鼻酸素離脱の期間のC4項目で有意差を認めた(すべてp<0.05)(表2).TR-ROPのうち,初回CIVRで寛解を得た症例はC27眼(58.7%),再燃を生じた症例はC19眼(41.3%)であり,両群間において在胎週数,出生体重,その他全身的な要因は有意差を認めなかったが(表3),眼局所要因として,ROP治療週数,治療時のCstage,zoneで有意差を認めた(すべてCp<0.05)(表4).また,2回CIVRを必要とした症例で,寛解を得た症例はC14眼(73.7%),再々燃を生じ最終的に網膜光凝固術を要した症例はC5眼(26.3%)であり,こちらも両群間において全身的な要因は有意差を認めなかったが(表3),ROP治療週数のみで有意差を認めた(p<0.01)(表4).初回IVR後の寛解症例と再燃症例の比較において,AUCはC0.842であり,Youden’sindexにおけるCROP治療週数のカットオフ値はC35.0週であった.また,2回目CIVR後の寛解症例と再燃症例の比較において,AUCはC0.900であり,YoudenC’sindexにおけるCROP治療週数のカットオフ値はC41.4週であった(図1).表1全症例の臨床的特徴平均±標準偏差範囲眼数C94在胎週数(週)C26.2±2.122.3.C31.9出生体重(g)C739.6±168.8366.C998女性の割合(%)51(C54.3)出生時の呼吸循環機能Apgar指数C1分Apgar指数C5分C3.24±1.87C5.41±1.711.81.8循環機能敗血症(%)赤血球濃厚液輸血単位数(単位)結紮術を要する動脈管開存(%)晩期循環不全(%)10(C10.6)C4.33±4.0017(C18.1)3(3C.2)0.2C1呼吸機能新生児呼吸窮迫症候群(%)持続陽圧呼吸療法(日)持続陽圧呼吸療法+高流量経鼻酸素療法(日)慢性肺疾患(%)90(C95.7)C57.8±38.3C85.4±42.782(C87.2)5.2C705.2C70中枢神経循環能脳室内出血(stage)C0.55±1.010.4臨床的絨毛膜羊膜炎(%)32(C34.0)C感染症組織学的絨毛膜羊膜炎(stage)0.78±1.070.3子宮内感染(%)8(8C.5)その他入院時に受けた手術件数AggressiveROP(%)C0.64±1.319(9C.6)0.7表2未熟児網膜症(ROP)未発症+自然消退ROP群と治療を要するROP群の比較未発症+在胎日数・出生体重補正オッズ比自然消退CROPCTR-ROPp値(95%信頼区間)p値眼数(%)C48C46在胎週数(週)C27.5±1.8C25.0±1.6<C0.001*出生体重(g)C815.8±146.3C660.0±154.5<C0.001*女性の割合(%)28(C58.3)23(C50.0)C0.535†0.880(C0.278.C2.453)C0.730Apgar指数C1分C3.81±1.99C2.65±1.55C0.003*0.973(C0.701.C1.351)C0.871Apgar指数C5分C5.24±1.65C4.57±1.60<C0.001*0.686(C0.442.C1.063)C0.091敗血症(%)2(4C.2)8(C17.4)C0.048†1.032(C0.145.C7.350)C0.975赤血球濃厚液輸血単位数(単位)C2.46±2.73C6.23±4.20<C0.001*1.206(C0.965.C1.508)C0.100結紮術を要する動脈管開存(%)4(8C.3)20(C43.5)C0.016†2.3589(C0.650.C10.315)C0.177晩期循環不全(%)1(2C.1)2(4C.3)C0.613†0.671(C0.012.C36.098)C0.845新生児呼吸窮迫症候群(%)44(C91.7)46(C100)C0.117†999.999(C0.001.C999.999)C0.984持続陽圧呼吸療法(日)C42.9±38.4C73.3±31.6<C0.001*1.020(C1.005.C1.036)C0.010持続陽圧呼吸療法+高流量経鼻酸素療法(日)C64.8±38.5C106.9±36.0<C0.001*1.024(C1.008.C1.040)C0.003慢性肺疾患(%)37(C77.1)45(C97.8)C0.004†7.609(C0.797.C72.605)C0.078脳室内出血(stage)C0.29±0.71C0.83±1.20C0.025†1.181(C0.670.C2.080)C0.565臨床的絨毛膜羊膜炎(%)8(C16.7)24(C52.2)<C0.001C†1.746(C0.535.C5.693)C0.356組織学的絨毛膜羊膜炎(stage)C0.65±1.10C0.91±1.03C0.039†0.825(C0.493.C1.380)C0.464子宮内感染(%)4(8C.3)4(8C.7)C1.000†0.636(C0.085.C4.732)C0.658入院時に受けた手術件数C0.38±1.04C0.93±1.50C0.015†1.337(C0.874.C2.045)C0.181平均±標準偏差.*Wilcoxonranksumtest,†Fisher’sexacttest.CIII考按在胎週数,出生体重,持続的陽圧呼吸療法期間および高流量経鼻酸素療法離脱までの期間であったが,CROPに対する本研究ではCROPに対するCIVR後の再燃因子を検討した.IVR後の再燃にかかわる因子は全身要因では有意差は認め超低出生体重児におけるCTR-ROP発症にかかわる因子は,ず,初回CIVR後の再燃に関わる因子は,出生から治療まで表3初回および2回目のラニビズマブ硝子体内注射後の寛解群と再燃群の全身要因の比較初回ラニビズマブ硝子体内注射後2回ラニビズマブ硝子体内注射後寛解群再燃群p値寛解群再燃群p値眼数(%)C27C19C14C5在胎週数(週)C25.2±1.7C24.6±1.2C0.215*C24.8±1.2C24.0±1.4C0.253*出生体重(g)C679.4±179.7C632.4±107.8C0.300*C643.4±84.8C601.6±165.3C0.327*女性の割合(%)4(C14.8)5(C26.3)C0.456†2(C14.3)3(C60.0)C0.088†Apgar指数C1分14(C51.9)9(C47.4)C1.000†7(C50.0)2(C40.0)C1.000†Apgar指数C5分C2.74±1.65C2.53±1.43C0.792*C2.71±1.49C2.00±1.22C0.633*敗血症(%)7(C25.0)1(5C.3)C0.115†C4.57±1.12C4.20±1.10C0.754*赤血球濃厚液輸血単位数(単位)C6.22±5.14C6.37±2.45C0.334C5.86±2.51C7.80±1.79C0.271*結紮術を要する動脈管開存(%)8(C29.6)5(C26.3)C1.000†8(C57.1)2(C40.0)C0.632†晩期循環不全(%)2(7C.4)C0C0.504†C0C0C0.635†新生児呼吸窮迫症候群(%)27(C100)19(C100)C1.000†14(C100)5(1C00)C1.000†持続陽圧呼吸療法(日)C74.3±37.9C71.8±20.5C0.349*C71.2±23.8C73.4±7.0C0.512*持続陽圧呼吸療法+高流量経鼻酸素療法(日)C105.3±42.5C109.1±25.0C0.255*C109.6±27.1C107.6±20.4C0.521*慢性肺疾患(%)26(C96.3)19(C100)C1.000†14(C100)5(1C00)C1.000†脳室内出血(stage)C0.81±1.21C0.84±1.21C0.946†C0.86±1.29C0.80±1.10C0.730†臨床的絨毛膜羊膜炎(%)11(C40.7)13(C68.4)C0.080†10(C71.4)3(C60.0)C0.173†組織学的絨毛膜羊膜炎(stage)C0.74±0.94C1.16±1.12C0.130†C1.21±1.19C1.00±1.00C0.273†子宮内感染(%)1(3C.6)3(C15.8)C0.292†2(C15.4)1(C20.0)C0.206†入院時に受けた手術件数C0.85±1.26C1.05±1.81C0.619†C0.57±0.85C2.40±3.05C0.294†平均±標準偏差.*Wilcoxonranksumtest,†Fisher’sexacttest.表4初回および2回目のラニビズマブ硝子体内注射後の寛解群と再燃群の局所要因の比較初回ラニビズマブ硝子体内注射後2回ラニビズマブ硝子体内注射後寛解群再燃群p値寛解群再燃群p値眼数(%)C27C19C14C5ROP治療週数(週)C36.9±2.7C34.0±1.5<C0.001*C43.9±2.7C40.9±1.3C0.009*CStage1C3C5C0C0CStageCStage2C1C4C0.045†C3C2C0.570†CStage3C23C10C11C3CZone1C10C17C0C0CZoneCZone2C17C2<C0.001C†C14C5C1.000†CZone3C0C0C0C0CPlusdiseaseC26C17C0.561C14C5C1.000†CAggressiveROP4(C14.8)5(C26.3)C0.456†2(C14.3)3(C60.0)C0.088†平均±標準偏差.*Wilcoxonranksumtest,†Fisher’sexacttest.Cの日数,治療時のCzoneとCstageであり,2回CIVR後の再燃にかかわる因子は,出生から治療までの日数のみだった.これまでの検討でCTR-ROP発症にかかわる因子は多数報告されており,Eckertらは在胎週数,出生体重,輸血歴,酸素投与,体重増加量がCROP発症の要因であると報告し,彼らのCROC曲線におけるCAUCはC0.88であった4).Arimaらは在胎週数,出生体重,晩期循環不全,陽圧呼吸がCROP発症の要因であると報告し,そのCAUCはC0.95であった5).筆者らの検討では在胎週数,出生体重,持続陽圧呼吸療法の期間で有意差を認め,AUCはC0.891であり,Arimaらの検討に近いCAUCが得られ,ROP発症モデルはほぼ同等であった.高濃度酸素投与はCROP発症の主要な危険因子であることは広く知られているが6,7),超低出生体重の症例においても,より短い在胎週数,低い出生体重,陽圧呼吸を併用した長期の酸素投与はCTR-ROP発症のリスクにかかわることが示され,該当する症例はCROPの重症化に十分留意すべきである.初回CIVR治療後の再燃において,本研究における再燃症例はC19/46眼(41.3%),再燃までの平均期間はC63.8C±13.6日であった.同様にCIVRのみを使用した検討において,再燃率はC20.9.64%,再燃までの平均期間は約C55日と報告2,8,9)されており,既報と同等の再燃率で,再燃までの期間がややab1.001.000.750.75感度0.50感度0.500.250.250.000.001-特異度1-特異度図1ラニビズマブ硝子体内注射後の未熟児網膜症再燃に関する受診者動作特性曲線a:初回ラニビズマブ硝子体内注射(IVR)後の未熟児網膜症(ROP)再燃に関する受信者動作特性(ROC)曲線.Areaundercurve(AUC)はC0.842(p<0.001)で,ROP治療週数のカットオフ値はC35.0週であった.b:2回目CIVR後のCROP再燃に関するCROC曲線.AUCはC0.900(p=0.046)であり,ROP治療週数0.000.250.500.751.000.000.250.500.751.00のカットオフ値はC41.4週であった.長い傾向にあった.未熟児における診療は,国際的に生存率,酸素使用方法,ROPの認知度,眼科医のCROP診療の習熟度などさまざまな差異があり1,10),一概にはいえないが,筆者らの検討では超低出生体重児を対象としており,再燃までの期間の増加につながった可能性がある.TR-ROPに対するCIVR加療は,一定症例の再燃がみられること,再燃までの期間がやや長いため,IVR後は長期間の慎重な経過観察を要することを念頭に,治療後のフォローアップを行う必要がある.これまで,ROPに対する抗CVEGF治療後の治療後再燃のリスク要因は,全身要因として短い在胎週数1),低出生体重1),低CApgar指数11),治療後の酸素使用8),多胎児があり,局所要因として,広範囲の網膜新生血管8)および無血管領域11),網膜出血12)の存在であると報告されている.近年では,Iwahashiらがわが国におけるCTR-ROPに対する抗VEGF治療後の再燃リスクとして,35週未満の治療とCaggressiveROPを挙げている9).本検討でもCIVR後の再燃因子には早期のCIVR投与,治療時のCzoneとCstageが関連しており,ROC曲線におけるカットオフ値もCIwahashiらの報告9)と同様のC35.0週であった.超低出生体重児におけるROP治療後の再燃因子においても,出生後早期の治療,低いCstageあるいは狭いCzoneで治療が必要な症例,すなわち広範囲の網膜虚血の存在は,ROPの再燃を引き起こす可能性が高い.早期のCIVR療法は一過性に眼内の抗CVEGF濃度を低下させCROPを消退させるが,月齢が低いと呼吸機能や循環動態が未熟なため引き続きの高濃度酸素にさらされることで,生理的な網膜血管の発達が促されず,さらに広範囲の虚血がCVEGF濃度の上昇を引き起こし,再燃につながるものと思われる.また,同様に再燃症例においても,より早期のCIVR追加療法は再々燃のリスクがあり,早期にCIVR再投与を必要とした症例は,血管伸長が完了し活動性疾患が消失するまで,厳密な経過観察を行うことが推奨される.今回の検討ではCIVR後の全身および局所の明らかな合併症は認められなかった.近年,米国を中心とした多施設研究でも,抗CVEGF薬硝子体内注射後の硝子体出血,白内障形成,結膜炎,結膜下出血,角膜.離などの合併症はC0.9%とまれで,眼内炎や網膜.離のような重篤な合併症はみられなかったと報告されている10).一方で,Type1ROPに対するIVRは,網膜光凝固術よりも高い再燃率を示した報告13)もあり,漫然とCIVRを使用することは避けるべきであるが,ROPに対する抗CVEGF療法は全身状態不良で網膜光凝固術までの時間稼ぎや,破壊的な網膜光凝固術を必要とする領域を減少させることが可能であることも事実である.筆者らの検討でも初回CIVRがC32.7週以前の症例は全例再燃したが,逆にC38.3週以降の症例は全例寛解を認めている.2回目のIVRにおいてもC40.3週以前の症例は全例再燃,42.9週以降の症例は全例寛解を認めた.このことから,特定の週数以降であれば,ROPの鎮静化に破壊的な網膜光凝固術を回避する目的で,積極的なCIVR治療を検討してもよいと思われる.今回,ROPに対するラニビズマブ治療後再燃の関連因子を呈示した.TR-ROPに対するCIVRは,多くの症例で破壊的な網膜光凝固術を行うことなく鎮静化を得られたが,再燃症例も多数存在した.未熟児に対する抗CVEGF薬硝子体内注射は,全身的な影響,薬剤の選択,投与量など,まだ多くの議論の余地がある.わが国でも新しくアフリベルセプトが認可され,今後は治療の選択肢が増えるが,疾患の特徴を踏まえた治療戦略が必要である.文献1)TsaiAS,ChouHD,LingXCetal:Assessmentandman-agementofretinopathyofprematurityintheeraofanti-vascularCendothelialCgrowthfactor(VEGF)C.CProgCRetinCEyeResC88:101018,C20222)StahlCA,CLeporeCD,CFielderCACetal:RanibizumabCversusClaserCtherapyCforCtheCtreatmentCofCveryClowCbirthweightCinfantswithretinopathyofprematurity(RAINBOW):anopen-labelCrandomisedCcontrolledCtrial.CLancetC394(10208):1551-1559,C20193)BinenbaumG,YingGS,QuinnGEetal:TheCHOPpostC-natalCweightCgain,CbirthCweight,CandCgestationalCageCreti-nopathyCofCprematurityCriskCmodel.CArchCOphthalmolC130:1560-1565,C20124)EckertCGU,CFortesCFilhoCJB,CMaiaCMCetal:ACpredictiveCscoreCforCretinopathyCofCprematurityCinCveryClowCbirthweightpreterminfants.Eye(Lond)C26:400-406,C20125)ArimaM,TsukamotoS,FujiwaraKetal:Late-onsetcir-culatorycollapseandcontinuouspositiveairwaypressureareCusefulCpredictorsCofCtreatment-requiringCretinopathyCofprematurity:aC9-yearCretrospectiveCanalysis.CSciCRepC7:3904,C20176)TinW,WariyarU:Givingsmallbabiesoxygen:50yearsofuncertainty.SeminNeonatolC7:361-367,C20027)HigginsRD:OxygenCsaturationCandCretinopathyCofCpre-maturity.ClinPerinatolC46:593-599,C20198)LyuCJ,CZhangCQ,CChenCCLCetal:RecurrenceCofCretinopa-thyCofCprematurityCafterCintravitrealCranibizumabCmono-therapy:timingCandCriskCfactors.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:1719-1725,C20179)IwahashiCC,CUtamuraCS,CKuniyoshiCKCetal:FactorsCasso-ciatedwithreactivationafterintravitrealbevacizumaborranibizumabCtherapyCinCinfantsCwithCretinopathyCofCpre-maturity.RetinaC41:2261-2268,C202110)PatelCNA,CAcaba-BerrocalCLA,CHoyekCSCetal:PracticeCpatternsandoutcomesofintravitrealanti-VEGFinjectionforCretinopathyCofprematurity:anCinternationalCmulti-centerstudy.OphthalmologyC129:1380-1388,C202211)LingKP,LiaoPJ,WangNKetal:Ratesandriskfactorsforrecurrenceofretinopathyofprematurityafterlaserorintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactormono-therapy.RetinaC40:1793-1803,C202012)HuQ,BaiY,ChenXetal:RecurrenceofretinopathyofprematurityCinCzoneCIICstageC3+afterCranibizumabCtreat-ment:aCretrospectiveCstudy.CJCOphthalmolC2017:C5078565,C201713)ChangCE,CJosanCAS,CPurohitCRCetal:ACnetworkCmeta-analysisCofCretreatmentCratesCfollowingCbevacizumab,Cranibizumab,a.ibercept,andlaserforretinopathyofpre-maturity.OphthalmologyC129:1389-1401,C2022***

調節麻痺屈折検査後に閉塞隅角緑内障を発症した小児網膜疾患の2例

2019年8月31日 土曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(8):1065.1069,2019c調節麻痺屈折検査後に閉塞隅角緑内障を発症した小児網膜疾患の2例石龍悠村上祐介有馬充塚本晶子池田康博園田康平九州大学大学院医学研究院眼科学CTwoCasesofAcuteAngle-closureGlaucomaSecondarytoPediatricRetinalDiseasesHarukaSekiryu,YusukeMurakami,MitsuruArima,ShokoTsukamoto,YasuhiroIkedaandKoh-heiSonodaCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversityC目的:小児網膜疾患の診療において定期的な散瞳検査および調節麻痺屈折検査は必須である.小児網膜疾患の散瞳検査後に急性閉塞隅角緑内障(acuteangle-closureglaucoma:AACG)の発症が疑われた小児網膜疾患のC2例について報告する.症例:症例C1は家族性滲出性硝子体網膜症のC2歳C8カ月の男児.調節麻痺屈折検査C2日後に頭痛および左眼充血が出現した.左眼眼圧がC43CmmHgと上昇しておりCAACGの状態であった.症例C2は瘢痕期未熟児網膜症のC4歳C3カ月の男児.調節麻痺屈折検査C3日後に右眼充血,眼瞼腫脹が出現した.いったん症状は改善したが,その後右眼眼圧がC60CmmHgと上昇し,入院となった.2例とも周辺虹彩切除術(peripheraliridectomy:PI)により前房深度の改善を認め,眼圧下降が得られた.結論:小児網膜疾患の散瞳検査後にCAACG発症が疑われたC2例を経験し,両症例でPIが有効であった.調節麻痺検査が緑内障発症に関与した可能性があり,検査時には注意が必要である.CPurpose:Thecycloplegicrefractiontestisoneoftheroutineexaminationsforchildrenwhohaveretinaldis-eases.Thepurposeofthisstudywastoreport2cases,withsuspectedacuteangle-closureglaucoma(AACG)fol-lowingCfamilialCexudativevitreoretinopathy(FEVR)C,CandCretinopathyCofprematurity(ROP)C.CCases:Case1wasa2-year-oldmalewithFEVRinbotheyes.Twodaysafterthecycloplegicrefractiontest,hepresentedwithhead-acheandrednessofthelefteye.HislefteyedevelopedAACGwithintraocularpressure(IOP)of43CmmHg.Case2wasa4-year-oldmalewithcicatricialROPinbotheyes.Threedaysafterthecycloplegicrefractiontest,hepre-sentedwithrednessoftherighteyeandswellingoftheeyelid;thesesymptomswereimprovedtemporarily.Onemonthaftertherefractiontest,IOPelevation(60mmHg)wasobservedinhisrighteye.Peripheraliridectomy(PI)CwasperformedforboththesecasesandIOPwasdecreasedtonormalvalues,alongwithincreasedanteriorcham-berdepth.Conclusions:PIwase.ectivein2caseswithsuspectedAACGassociatedwithpediatricretinaldiseas-es.ThesecasesillustratethatthecycloplegicrefractiontestmayposetheriskofinducingAACGinchildrenwithretinalvasculardiseases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(8):1065.1069,C2019〕Keywords:急性閉塞隅角緑内障発作,調節麻痺検査,未熟児網膜症,家族性滲出性硝子体網膜症,周辺部虹彩切除術.acuteangle-closureglaucoma,cycloplegicrefractiontest,retinopathyofprematurity,familialexudativevit-reoretinopathy,peripheraliridectomy.Cはじめに未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)を初めとする小児網膜疾患に続発する合併症の一つとして閉塞隅角緑内障(angle-closureCglaucoma:ACG)があり,頻度は比較的少ないものの急性閉塞隅角緑内障(acuteACG:AACG)の報告も散見される1.11).治療としては周辺虹彩切除術(peripheralCiridectomy:PI)や水晶体切除術,線維柱帯切除術などが行われてきたが,標準的な治療法は確立されていない.小児網膜疾患を有する小児では,狭隅角の場合にも屈折矯〔別刷請求先〕村上祐介:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学Reprintrequests:YusukeMurakami,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPANC正や眼底評価のために散瞳検査が必須である.しかし,過去の報告において,散瞳検査後にCAACGを発症したCROPの症例がC1例報告されており,注意が必要である.今回,調節麻痺屈折検査後にCAACGを発症した家族性滲出性硝子体網膜症(familialCexudativevitreoretinopathy:FEVR)のC1例と,AACG発症が疑われたCROPのC1例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕2歳C8カ月,男児.既往歴:正常満期産で出生.4カ月時に両眼CFEVRと診断された.2歳C2カ月時に右眼網膜光凝固術を施行された.現病歴:定期受診の際に当科でC1%シクロペントラートによる調節麻痺屈折検査を施行された.屈折値はスキアスコープで右眼.11D,左眼C.10Dであった.受診2日後に頭痛,左眼結膜充血が出現し,その翌日に当科を受診した.左眼浅前房,高眼圧を認めたため,同日入院となった.入院時所見:矯正視力は右眼C0.6,左眼C0.05,眼圧は右眼16CmmHg,左眼C43CmmHg,無散瞳下で等価球面度数は右眼C.10.50D,左眼C.16.00Dであった.左眼の対光反射は消失し,結膜の毛様充血,角膜浮腫を呈していた(図1a).前房はほぼ消失し,水晶体後面に線維膜を認めた(図1b).右眼は浅前房を認めるほか,前眼部に特記所見はなかった.右眼眼底は耳側に線維性増殖組織を認め,その周囲および鼻側周辺部に網膜光凝固斑を認めた.左眼眼底は視神経乳頭から耳側にかけて黄斑低形成,鎌状ひだを認め,耳下側に線維性増殖組織を認めた.入院後経過:タフルプロスト,ドルゾラミド塩酸塩,チモロールマレイン酸,1%ピロカルピン点眼,マンニトールおよびアセタゾラミドの点滴療法を開始した.治療開始後も眼圧下降が得られず,全身麻酔下にCPIを施行した.術中に施行した超音波生体顕微鏡検査(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)では全周性に虹彩の前弯,隅角閉塞を認めた(図2).角膜横径は両眼ともC10mmで,眼軸長は右眼C23.32mm,左眼は測定値にばらつきがあるもののC21.55Cmm程度であった.術後眼圧はC16CmmHgまで下降し,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),および細隙灯にて前房深度の増加を認めた(図3).術後の左眼矯正視力はC0.05であり,黄斑低形成のため低視力であった.その後は,術後3年C8カ月現在まで左眼眼圧はC15CmmHg前後で経過している.〔症例2〕4歳C3カ月,男児.既往歴:在胎C23週,387Cgで出生.両眼CROPの診断で,4カ月時に網膜光凝固術を施行された.現病歴:定期受診の際に,前医でC1%シクロペントラートによる調節麻痺屈折検査を施行された.等価球面度数は右眼C.5.00D,左眼+2.50Dであった.受診C3日後の起床時より活気がなく,右眼充血,白色角膜と眼瞼腫脹を認めたため,近医小児科を受診し,補液によって症状は改善した.翌日に前医を受診した際には右眼の球結膜充血を認めるのみで角膜は透明であった.受診C1カ月後に,再び起床時より活気がなく,前医を受診した.右眼の浅前房ならびに高眼圧(60mmHg)を認め,ラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩液,ドルゾラミド点眼を開始された.点眼開始後も高眼圧が遷延したため,当科を紹介受診,入院となった.入院時所見:矯正視力は右眼C0.1,左眼C0.6,眼圧は右眼36CmmHg,左眼C16CmmHg,無散瞳下で等価球面度数は右眼C.27.00D,左眼+2.50Dであった.入院時には右眼の結膜図1症例1:術前の前眼部写真a:角膜浮腫,浅前房を認める.b:水晶体後面に線維膜を認める(.).図2症例1:術前のUBMの所見(耳側)図3症例1:術後の前眼部OCT所見(耳側)虹彩の前弯,隅角閉塞を認める.図4症例2:術前の前眼部写真a:浅前房を認める.b:水晶体後面に線維膜を認める(.).図6症例2:術前のUBMの所見(下方)虹彩の前弯,隅角閉塞を認める.図5症例2:術後の眼底写真牽引乳頭,周辺部全周に網膜光凝固斑を認める.充血や角膜浮腫は軽度であり(図4a),浅前房ではあるものの検眼鏡的には瞳孔ブロックは明らかではなかった.また,水晶体後面の線維膜を認めた(図4b).左眼は浅前房を認めるほか,前眼部に特記所見を認めなかった.眼底はCROPの厚生労働省瘢痕期分類で右眼Cstage4(図5),左眼CstageC1であり,右眼は周辺部全周,左眼は周辺部耳側半周に網膜光表1瘢痕期ROPに続発しAACGを発症した症例年齢・性別瘢痕期分類治療PCの既往1)Pollardら(1C984)7カ月・男児5度CPPLなし同上1)3歳・男児5度CPPLなし2)伊比ら(2C002)2歳・男児2度CPIあり3)大嶋ら(2C003)5歳・男児4度CPIあり4)Ueharaら(2C004)8カ月・女児2度CPIあり5)石崎ら(2C011)7歳・男児4度CPEA+A-vitありCSmith19846)26女性3度CLIなし同上6)28女性2度CLIなし同上6)20歳女性3度CPIなしCUeda19887)22男2中等度CPIなし瓜田C19928)18男性2度強度CLIなし今田C20009)34女性2度CPEA+IOLなしPPL:parsplanalensectomy,PI:peripheraliridectomy,PEA:phacoemulsi.cationandaspi-ration,A-vit:anteriorvitrectomy.凝固斑を認めた.入院後経過:全身麻酔下に検査を施行した.術中に施行した隅角鏡検査では全周で隅角が閉塞しており,UBMでは全周性に虹彩の前弯,隅角閉塞を認め(図6),相対的瞳孔ブロックの関与を考えCPIを施行した.角膜横径は右眼C10.0Cmm,左眼C10.5mm,眼軸長は右眼C20.45mm,左眼C19.68mm,前房深度は右眼C2.02mm,左眼C2.27mm,水晶体厚は右眼C4.20mm,左眼C4.72Cmmであった.術後眼圧はC14CmmHgまで下降し,細隙灯検査で前房深度の増加を認めた.術後の右眼矯正視力はC0.7まで回復し,術後C2年C6カ月現在まで前医で経過観察され再発なく経過している.CII考察ROPを初めとする小児網膜疾患に続発する晩期合併症の一つとしてCACGが知られており,その原因として周辺網膜の虚血によって前眼部の発育不全が起こり,その結果,水晶体・虹彩根部の前方付着や水晶体厚の肥厚といった変化が生じ浅前房となる可能性が考えられている11).臨床的には成人期に慢性閉塞隅角緑内障(chronicACG:CACG)を発症する症例に遭遇することが多いが,AACGを発症することもまれではなく,表1に示すように瘢痕期CROPに続発したAACGは複数報告されている1.9).FEVRに続発したCAACGに関する症例報告は少ないが,田原らは思春期にCAACGを発症したC2例を報告している10).1例はC12歳,女性で,患眼の眼底には網膜鎌状ひだを認めた.もうC1例はC15歳,女性で,患眼の眼底には,牽引乳頭と黄斑偏位を認め,両症例とも網膜病変に対して治療歴はなかった.いずれもCPIで眼圧下降が得られた.今回の症例は発症年齢がC2歳と若年であり,同年齢での報告は過去にない.ROP瘢痕期に続発したCAACGの症例は瘢痕期分類C2度以上であり,正期産児と比較してCROP眼で浅前房化,近視化することが知られている11.13).とくに網膜光凝固術,硝子体手術,強膜内陥術後の幼少期の症例が多いとされており11),網膜光凝固術後に近視化,浅前房化するという報告もあるが14,15),その一方,八木らは早期に網膜光凝固による治療介入を行うことで,重症瘢痕を防ぎ近視化が軽減されたと報告している16).このことから,網膜光凝固術が浅前房の要因となるのではなく,ROPの重症度や周辺網膜の虚血の程度が浅前房化の要因となっている可能性が考えられる.近年CEarlyCTreatmentCforROP(ETROP)Studyの治療基準に準じた早期治療が普及してきており,早期治療後の長期的な眼球形態の変化については今後の報告が待たれる.散瞳検査後に急性閉塞隅角緑内障を発症した活動期CROPの症例は過去にC1例報告されている.5歳,女児で活動期CStage4Aに対して強膜内陥術後であった.定期の散瞳検査のためC1%トロピカミド,10%フェニレフリンを点眼した直後にCAACGを発症し,保存的加療で改善せず線維柱帯切除術を施行している17).今回の症例ではC2例とも調節麻痺屈折検査にC1%シクロペントラートを使用しており,同薬はアセチルコリン拮抗薬として作用し瞳孔括約筋,毛様体筋を弛緩させる.散瞳作用時間はC48.72時間とされている.症例C1では検査C2日後にCAACGを発症し,また症例C2では検査C3日後に全身状態不良,眼瞼腫脹,結膜充血といったCAACGを疑う症状を呈していた.また,両症例とも入院時の屈折検査は無散瞳下のため,正確な屈折値ではないが,患眼は明らかに近視化している傾向があった.これまでC1%シクロペントラート点眼後にCAACGを発症した報告はなく,点眼による影響は明らかではない.しかし,点眼検査後からCAACG発症までの時間がC1%シクロペントラートの作用時間にほぼ一致していたこと,発症時に近視化があったことから,1%シクロペントラートの作用が消失した際に毛様体筋が過剰収縮となり,水晶体厚の増加,および水晶体の前方移動が起こり,このことがCAACGを発症の契機となった可能性を考えられた.調節麻痺屈折検査は小児の日常診療において必要不可欠であり,浅前房を伴う症例では,AACGのリスクについて事前の説明やハイリスクと思われる症例では数日後の診察が必要と考えられる.治療に関しては,12歳以下の瘢痕期CROPに続発したAACGのC6例中C3例でCPI,3例で水晶体切除が施行され,いずれも眼圧下降が得られたと報告されている(表1)1.5).また,12歳以下のCFEVRに続発したCAACGはC1例のみであるが,PIが有効であった.水晶体切除術では狭隅角を改善できる可能性がある一方で,小児に対する水晶体切除術では術後の弱視治療,眼内レンズ移植の適応,その屈折度数決定などの問題点のほか,緑内障や網膜.離といった術後合併症のリスクがある18,19).水晶体切除術後の網膜.離発症のリスクはC16歳以下の症例ではC10年間でC5.5%,成人例ではC20年間でC1.79%と報告されており,小児で高率である.また,今回の症例のように水晶体後面の増殖膜の処理を要する場合には術後の炎症や再増殖が懸念され,その適応は慎重にすべきある.これらのことから,小児網膜疾患に続発するAACGでは,PIが低侵襲な治療法として有用と考える.CIII結語小児網膜疾患に続発してCAACGの発症が疑われたC2症例に対して,PIが有効であった.調節麻痺検査が緑内障発症に関与した可能性があり,浅前房化を伴う小児網膜疾患の検査時には注意が必要である.利益相反:池田康博(カテゴリーCP:網膜色素変性症,緑内障に対する遺伝子治療に関する特許申請中)園田康平(カテゴリーCP:眼内内視鏡支援ロボット開発に関する特許申請中)文献1)PollardZF:Lensectomyforsecondaryangle-closureglau-comaCinCadvancedCcicatricialCretrolentalC.broplasia.COph-thalmologyC91:395-398,C19842)大嶋柴補,松永紀子,松原明久ほか:閉塞隅角緑内障を発症した瘢痕期未熟児網膜症のC1例.臨眼C57:1015-1019,C2003C3)伊比健児,今居由佳理,西尾陽子ほか:瘢痕期C2度未熟児網膜症に急性閉塞隅角緑内障を発症した幼児のC1例.あたらしい眼科19:679-681,C20024)UeharaCA,CKurokawaCT,CGotohCNCetal:AngleCclosureCglaucomaCafterClaserCphotocoagulationCforCretinopathyCofCprematurity.BrJOphthalmolC88:1099-1100,C20045)石崎英介,福本雅格,鈴木浩之ほか:瘢痕期未熟児網膜症に白内障と閉塞隅角緑内障を続発したC1例.眼臨紀C4:C364-367,C20116)SmithJ,ShivitzI:Angle-closureglaucomainadultswithcicatricialCretinopathyCofCprematurity.CArchCOphthalmolC102:371-372,C19847)UedaN,OginoN:Angle-closureglaucomawithpupillaryblockmechanismincicatricialretinopathyofprematurity.OphthalmologicaC196:15-18,C19888)瓜田千紗子,周藤憲治,柘久保哲男ほか:閉塞隅角緑内障を合併した瘢痕期未熟児網膜症のC1例.あたらしい眼科9:C1375-1378,C19929)今田昌輝,廣田篤,谷本誠治ほか:未熟児網膜症に続発した閉塞隅角緑内障のC1例.あたらしい眼科C17:1024-1026,C200010)田原弘恵,重藤真理子,宇部裕恵ほか:緑内障を併発した家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)のC3例.臨眼46:690-691,C199211)ChangCSHL,CLeeCYS,CWuCSCCetal:AnteriorCchamberCangleCandCanteriorCsegmentCstructureCofCeyeCinCchildrenCwithCearlyCstagesCofCretinopathyCofCprematurity.CAmJOphthalmolC179:46-54,C201712)上田直子,大竹弘子,加藤研一ほか:閉塞隅角緑内障の発生と関係する瘢痕期未熟児網膜症の眼内諸要素.臨眼C43:C1337-1347,C198913)ChoiMY,ParkIK,YuYS:LongtermrefractiveoutcomeinCeyesCofCpretermCinfantsCwithCandCwithoutCretinopathyCofprematurity:comparisonCofCkeratometricCvalue,CaxialClength,CanteriorCchamberCdepth,CandClensCthickness.CBrJOphthalmolC84:138-143,C200014)MclooneCEM,CO’KeefeCM,CMclooneCSFCetal:Long-termCrefractiveCandCbiometricCoutcomesCfollowingCdiodeClaserCtherapyCforCretinopathyCofCprematurity.CJCAAPOSC10:C454-459,C200615)YangCS,WangAG,ShihYFetal:Long-termbiometricopticcomponentsofdiodelaser-treatedthresholdretinop-athyCofCprematurityCatC9CyearsCofCage.CActaCOphthalmolC91:276-282,C201316)八木浩倫,村松大弐,上田俊一郎ほか:網膜光凝固を行った未熟児網膜症の臨床像と治療成績.臨眼C71:1265-1269,C201717)WuSC,LeeYS,WuWCetal:Acuteangle-closureglau-comaCinCretinopathyCofCprematurityCfollowingCpupilCdila-tion.BMCOphthalmolC15:96,C201518)AgarkarCS,CGokhaleCVV,CRamanCRCetal:Incidence,CriskCfactors,CandCoutcomesCofCretinalCdetachmentCafterCpediat-riccataractsurgery.OphthalmologyC125:36-42,C201819)AmbrozSC,Toteberg-HarmsM,HansonJVMetal:Out-comeCofCpediatricCcataractCsurgeriesCinCaCtertiaryCcenterCinSwitzerland.JOphthalmol,C2018C

40歳未満の視覚障害者の原因疾患

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(141)743《原著》あたらしい眼科28(5):743.746,2011cはじめに新規視覚障害認定者の原因疾患に関する全国調査の結果が最近発表され,緑内障が原因疾患の第1位であったと報告された1,2).また,筆者らは平成16年から平成21年にかけて三重県にて新規視覚障害認定者の全例調査を行ったところ,視覚障害者の原因疾患上位4位までは前述の全国調査と同じ結果であった3).これらの調査結果から高齢化社会の到来などによると考えられる緑内障や加齢黄斑変性を原因とした視覚障害者の増加が明らかとなったが,一方,壮年期以前の視覚障害者を対象とした報告は少ない.さて厚生労働省は,5年に一度,身体障害児・者実態調査の結果を公表しており,直近の報告は平成18年度のものである.このなかで18歳未満の身体障害児についての調査結果が報告されているが,調査方法が対象者本人による調査票記入によることなどから原因疾患についての詳細な分類は行われていない.筆者らは,前述の報告3)で三重県における調査結果として40歳未満の視覚障害者は,視覚障害者全体の6.6%を占めており(原因疾患の第1位は網膜色素変性で40歳未満の対象者の19.5%),さらに15歳以下の者は,全体の1.7%(原因疾患の第1位は未熟児網膜症で15歳以下の対象者の34.8%)であったと報告したが,今回はその詳細について検討したの〔別刷請求先〕生杉謙吾:〒514-8507津市江戸橋2丁目174番地三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学Reprintrequests:KengoIkesugi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu-city514-8507,JAPAN40歳未満の視覚障害者の原因疾患生杉謙吾*1,2佐宗幹夫*1宇治幸隆*1*1三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学*2名張市立病院眼科CausesofVisualImpairmentinThoseBelow40YearsofAgeKengoIkesugi1,2),MikioSasoh1)andYukitakaUji1)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,NabariCityHospital今回筆者らは,40歳未満の視覚障害者を対象にその原因疾患について調査した.対象者は2004年4月から2009年3月の間に三重県において身体障害者福祉法に基づき新規に視覚障害者と認定された1,322名のうち,認定時の年齢が40歳未満であった87名である.対象者の身体障害者診断書・意見書を基に年齢・性別・原因疾患・認定等級などを調べた.結果,18歳未満の視覚障害児は23名,18歳以上40歳未満の視覚障害者は64名であった.原因疾患のなかで最も多かったのは,18歳未満では未熟児網膜症(23.4%),18歳以上40歳未満では網膜色素変性(34.8%),40歳未満の対象者全体では網膜色素変性(19.5%)であった.認定等級1級および2級の重度視覚障害者は,対象者全体の62.0%であった.Thepurposeofthisstudywastodeterminethecausesofvisualimpairmentinthosebelow40yearsofage.ThestudywasconductedbetweenApril2004andMarch2009inMiePrefecture.Enrolledwere1,322visuallydisabledpersons,asdefinedbytheActonWelfareofPhysicallyDisabledPersons.Ofthe87individualswhowereunder40yearsofage,23wereunder18yearsofageand64werebetween18and39yearsofage.Wereviewedage,sex,causeofvisualimpairmentanddegreeofdisability.Inthoseunder18,themajorcauseofvisualimpairmentwasretinopathyofprematurity(23.4%);inthosebetween18and39,themajorcausewasretinitispigmentosa(34.8%).Themajorcauseofvisualimpairmentinthoseundertheageof40wasretinitispigmentosa(19.5%).Severelyvisuallydisabledpersonswithdisabilityofdegree1or2comprised62%ofallsubjects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):743.746,2011〕Keywords:疫学,視覚障害,網膜色素変性,未熟児網膜症.epidemiology,visualimpairment,retinitispigmentosa,retinopathyofprematurity.744あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(142)で改めて報告する.I対象および方法調査期間は2004年4月から2009年3月まで(平成16年度.20年度)の5年間で,対象者は三重県において身体障害者福祉法に基づき新規に視覚障害の認定をうけた1,322名のうち,認定時の年齢が40歳未満であった87名(男性58名・女性29名,全体の6.6%)である(図1).対象者は調査期間内に新規に視覚障害者として認定された者のみであり再認定者(継続認定者)は対象外としている.各診療担当医より提出された身体障害者診断書・意見書を基に年齢・原因疾患・認定等級などを調査した.原因疾患の項目に複数の疾患が記載されている場合は,主となっていると考えられるものを原因疾患とした.また,障害等級については最終的に認定された等級であり,提出された視覚障害者診断書・意見書に不備がある例などでは三重県障害者相談支援センターから提出医への再確認が行われている.調査はヘルシンキ宣言の倫理規定に基づき,プライバシー保護に最大限配慮された.個人名・生年月日・住所などは完全にマスクされた連結不可能匿名化済の資料が三重県障害者相談支援センターから提供され,本調査が行われている.II結果三重県における2004年4月から2009年3月(平成16年度から平成20年度)までの身体障害者福祉法に基づく40歳未満の新規視覚障害認定者数は,前述のとおり87名である.調査期間の5年間に認定された87名の年齢別分布を図2に示す.1~9歳が20名(23.0%),10.19歳が6名(6.9%),20~29歳が20名(23.0%),30~39歳が41名(47.1%)であった.特に未成年者(視覚障害児)である18歳未満は23名(26.4%)であった.表1に40歳未満の新規視覚障害認定者の原因疾患を示す.40歳未満の対象者全体では,網膜色素変性が原因疾患として最も多く17名(19.5%),以下,視神経萎縮12名(13.8%),糖尿病網膜症11名(12.6%)などとなった.対象者を18歳未満と18歳以上で分けると,18歳未満では上位から表140歳未満の視覚障害認定者の原因疾患順位全体(1~39歳:対象者87名)18歳未満(1~17歳:対象者23名)18歳以上(18~39歳:対象者64名)1網膜色素変性(17名・19.5%)未熟児網膜症(8名・34.8%)網膜色素変性(15名・23.4%)2視神経萎縮(12名・13.8%)視神経萎縮(3名・13.0%)糖尿病網膜症(11名・17.2%)3糖尿病網膜症(11名・12.6%)小眼球(2名・8.7%)視神経萎縮(9名・14.1%)4未熟児網膜症(10名・11.5%)脈絡網膜萎縮(2名・8.7%)脳卒中・脳腫瘍(7名・10.9%)5脳卒中・脳腫瘍(7名・8.0%)網膜色素変性(2名・8.7%)緑内障(5名・7.8%)対象者全体および年齢層別に上位5疾患を示した.40歳未満(6.6%)40~49歳(4.2%)50~59歳(13.3%)60~69歳70~79歳(18.9%)(27.5%)80~89歳(24.2%)90歳以上(5.3%)図1三重県における視覚障害認定者の年齢分布(文献3より改変)1~9歳(23.0%)10~19歳20~29歳(6.9%)(23.0%)30~39歳(47.1%)18歳未満(26.4%)図240歳未満の視覚障害認定者の年齢分布認定等級(級)31.013530252015105031.0213.8310.4410.453.46(%)図340歳未満の視覚障害認定者の認定等級別分布(143)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011745未熟児網膜症8名(34.8%),視神経萎縮3名(13.0%),小眼球・脈絡網膜萎縮・網膜色素変性がそれぞれ,2名(8.7%)であった.また,18歳以上では,上位より網膜色素変性15名(23.4%),糖尿病網膜症11名(17.2%),視神経萎縮9名(14.1%)などとなった.図3に40歳未満の新規視覚障害認定者の認定等級別分布を示す.1級および2級の該当者である重度視覚障害者が全体の62.0%(1級,2級それぞれ31.0%)を占めていた.III考察視覚障害者の原因疾患やその背景に関する疫学調査の結果は今までにいくつか報告されているが,40歳または50歳以上を対象者としているものが多く,いわゆる壮年期以前や若年者を対象に詳細な検討を行った報告は少ない4.7).前述の中江らの報告1,2)は,全国を6ブロックに分け1ブロックから1県または1政令指定都市を抽出したサンプル調査として行われ,現在のところ視覚障害認定者についての調査としては最も大きな規模で行われたものであるが,この全国調査も対象者は18歳以上となっている.さて,筆者らの今回の調査では,40歳未満の視覚障害者は全年齢層の6.6%,特に15歳以下の視覚障害児は,全体の1.7%と少数であった3).これは,山本らの報告4)での15歳以下の小児の視覚障害者は全体の1.3%であったという結果と似た数字であり,視覚障害者全体に占める壮年期以前の者,特に乳幼児や若年者の割合は大変少ない.調査対象者が少ないため,まとまった調査がむずかしく過去に若年者を対象とした同様の報告が少ないのではないかと考えられる.視覚障害の原因疾患についてであるが,本報告における18歳未満と,山本らの報告4)における15歳以下の視覚障害児の原因疾患第一位は,いずれも未熟児網膜症であった.全国の盲学校在籍者の失明原因として,未熟児網膜症の占める割合は1970年から1996年にかけて,1%から13%へと著しい増加がみられる8)と報告されており,今回の筆者らの調査結果でも,特に視覚障害児の原因疾患として未熟児網膜症の占める割合が多かった.また原因疾患の第二位以下は視神経萎縮,小眼球,脈絡網膜萎縮,網膜色素変性などとなったが,いずれも対象者は少なく未熟児網膜症以外の原因疾患としては,まとまった傾向がみられなかった.一方,40歳未満の対象者全体および18歳以上40歳未満の群では網膜色素変性が原因疾患として最も多い結果となった.前述の中江らの報告1)によると,18歳以上60歳未満の視覚障害者の主原因の第一位も同様に網膜色素変性であった.本疾患はいまだに明確な治療法がない遺伝性疾患であるが,近年の遺伝子分野の研究の進歩とともに何らかの治療方法の開発が期待されており,今回の調査結果より改めて若年から中年層の視覚障害者の原因疾患として重要であると考えられた.さて厚生労働省は,5年に一度,身体障害児・者実態調査結果を発表しているが,最近では,平成20年3月に平成18年7月現在の調査結果を発表している.平成18年身体障害児・者実態調査結果(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/108-1.html)によると,特に18歳未満の身体障害児のうち視覚障害のある者の原因疾患は,「網脈絡膜・視神経系疾患」が38.8%で最も多く,以下「脳性まひ」と「その他の脳神経疾患」が6.1%であり,「その他」が24.5%,「不明・不詳」が24.4%という結果であった.視覚障害に特化した調査でないことや調査方法が原則,調査対象者本人による調査票への記入によることなどから,今回の筆者らの調査とは異なった結果になっていると思われる.一方,筆者らの調査結果は身体障害者意見書の提出によるものである.申請漏れや医療機関を受診していない対象者が一定数いると考えられ,結果,本来の視覚障害者の背景とは異なっている可能性がある点にも注意を要する.視覚障害者の障害者手帳取得率については,過去の報告では30.54%と報告され,一般に年代が高くなるほど取得率が低下することが知られている9.11).一方,小児については正確な視力測定ができなかったり成長過程であることが考慮され,障害固定の判定が困難な例が少なくない.また先天性疾患などの場合,眼科への通院や手帳の取得を望まない保護者もいて,小児の手帳取得率に影響している可能性がある.壮年期以前,特に小児の手帳取得率についての詳細な報告は過去にないため今後の検討課題と考える.また手帳取得率は原因疾患によっても異なる特徴があり,糖尿病網膜症や網膜色素変性では70%を超えるのに対し,緑内障や黄斑変性では40%台であったと報告されている9).40歳未満の視覚障害者の認定等級については,1,2級の認定者が全体の62.0%と半数以上を占めていたが,これは筆者らが以前報告した視覚障害者全体(1.98歳)では1,2級の対象者は全体の48.9%であったことと比較すると,40歳未満の視覚障害認定者では特に重症の視覚障害者が多い結果となった.前述のように若年者や特に発育中の小児では疾患の障害固定が困難なことなどが考えられ,結果として等級の低い認定者が少なくなった可能性があると考えられる.今回筆者らは,40歳未満の視覚障害者についての背景調査を行ったが,前述のように厚生労働省の視覚障害児・者実態調査以外に,最近,若年者の視覚障害者に関する疫学調査の報告はほとんどなく,今回の報告は特に視覚障害児の実態の一端を理解するためにも貴重な調査結果であると考えられる.文献1)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正ほか:長寿社会と眼疾患746あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(144)─最近の視覚障害原因の疫学調査から.GeriatricMedicine44:1221-1224,20062)中江公裕,増田寛次郎,石橋達朗:日本人の視覚障害の原因─15年前との比較.医学のあゆみ225:691-693,20083)生杉謙吾,築留英之,八木達哉ほか:最近5年間の三重県における新規視覚障害認定者の原因疾患.日眼会誌114:505-511,20104)山本節:身体障害者手帳の視覚障害児.眼臨96:43-45,20025)松本順子,馬嶋昭生:身体障害者更生相談所での視覚障害者の分析.臨眼46:1368-1372,19926)OshimaY,IshibashiT,MurataTetal:PrevalenceofagerelatedmaculopathyinarepresentativeJapanesepopulation:theHisayamastudy.BrJOphthalmol85:1153-1157,20017)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1354-1362,20068)中島章:VISION2020と小児の失明予防.日本の眼科78:1319-1323,20079)谷戸正樹,三宅智恵,大平明弘:視覚障害者における身体障害者手帳の取得状況.あたらしい眼科17:1315-1318,200010)堀田一樹,佐生亜希子:視覚障害による身体障害者手帳取得の現況と課題.日本の眼科74:1021-1023,200311)藤田昭子,斉藤久実子,安藤伸朗ほか:新潟県における病院眼科通院患者の身体障害者手帳(視覚)取得状況.臨眼53:725-728,1999***