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モバイル型の非侵襲的眼表面評価アタッチメントの使用感と その有用性についての探索

2021年9月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科38(9):1114.1117,2021cモバイル型の非侵襲的眼表面評価アタッチメントの使用感とその有用性についての探索村上沙穂*1,2川島素子*1有田玲子*1,3坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2北里大学北里研究所病院眼科*3伊藤医院CUsabilityandE.ectivenessofaMobileNon-InvasiveOcularSurfaceAnalysisDeviceSahoMurakami1,2),MotokoKawashima1),ReikoArita1,3)andKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityKitasatoInstituteHospital,3)ItohClinicC目的:モバイル型の非侵襲的眼表面評価アタッチメントの使用感とその有用性を探索すること.対象および方法:正常人C2名C4眼(男性:1名C52歳,女性:1名C43歳)を対象に,SBM社のCICPTearscopeを用いて眼表面を評価した.時間帯(朝・夜),体位(起坐位・側臥位・仰臥位・腹臥位)間での涙液メニスカス高を比較した.さらに各体位での涙液脂質層の動態を観察した.結果:当該機器を用いて,眼表面パラメータを簡便に問題なく撮影できた.平均涙液メニスカス高は,朝C0.263Cmm,夜C0.158Cmmであり,夜のほうが有意に低下した(p<0.001).起坐位,側臥位,仰臥位,腹臥位の平均涙液メニスカス高はそれぞれC0.153Cmm,0.160Cmm,0.165Cmm,0.155Cmmであり,有意差はなかった.いずれの体位でも涙液は下眼瞼から上眼瞼方向へ移動した.結論:モバイル型の非侵襲的眼表面評価アタッチメントは環境や被験者の制約を受けずさまざまな場面で簡便に測定でき,涙液動態の眼表面の各種データを把握するのに有用な可能性がある.CPurpose:Toevaluatetheusabilityande.ectivenessofamobile,non-invasive,ocularsurfaceanalysisdevice.SubjectsandMethods:InCtheCeyesCofC2Csubjects,CtheCSBMCSistemiCICPCTearscopeCdeviceCwasCusedCtoCmeasureCtearmeniscusheight,withthemeasurementsthencomparedbetweentime(morning/night)andposition(sitting/lateral/prone/supine).Thedynamicsofthetearlipidlayerineachpositionwasalsoanalyzed.Results:Usingthisdevice,theocularsurfaceparameterswereeasilyobtained.Theaveragetearmeniscusheightwas0.263CmminthemorningCandC0.158CmmCatCnight,CshowingCaCsigni.cantCdecreasedCatnight(p<0.001),CandCinCtheCsitting,Clateral,Csupine,CandCproneCpositions,Crespectively,CwereC0.153Cmm,C0.160Cmm,C0.165Cmm,CandC0.155Cmm,CwithCnoCsigni.cantCdi.erenceobserved.Inallpositions,thetearsmovedupward.Conclusion:Themobile,non-invasive,ocularsurfaceanalysisCdeviceCwasCeasyCtoCuseCinCvariousCsituations,CandCitCmayCbeCusefulCforCunderstandingCreal-worldCtearCdynamics.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(9):1114.1117,C2021〕Keywords:ドライアイ,涙液,遠隔診療.dryeye,tears,telemedicine.はじめに眼科では,細隙灯顕微鏡を駆使して眼球および眼付属器を観察することが診察の基本であり,またすべての眼科医にとって必須の手技である.一般的に,細隙灯顕微鏡は診察室に据え置かれた機器であり,起座位(正面視)のまま測定する.座位で測定できない乳幼児や寝たきりの患者に対しても使用できる手持ちスリットランプでの診察も可能だが,頭部が安定せず詳細な所見は取りづらい.一方,精度でいえば,近年多様な眼表面の涙液動態をみる検査機器が開発された.たとえば,脂質層を定性的に評価するCDR-1a(興和)1),脂質層を定量的に評価するCLipiViewIIinterferometer(JohnsonC&Johnson社)2),OculusCKeratograph5M(Oculu社)3),idra(SBM社)があるが,いずれも据え置き型のため,起座位かつ正面視での測定のみである.また,これらの高性能な機器〔別刷請求先〕川島素子:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MotokoKawashima,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC1114(132)を用いた日常的な診療は,基本的に日中に医療機関で行われる.したがって,起床時や夜間などの時間帯や異なる体位での眼表面の詳細な評価はまだ十分とはいいがたい.日常生活における眼表面の各種データを正確に測定できれば,種々の前眼部疾患や涙液動態に関する新しい知見が得られる可能性がある.モバイル型の非侵襲的眼表面評価アタッチメントCICPTearscope(SBM社)は,iPad(Apple社)に装着して眼表面を観察できるデバイスである(図1).筆者らは当該機器を用いて,その機器の有用性と,涙液メニスカス高の時間帯や各体位における違い,各体位での涙液脂質層の動態について検討を行った.CI対象および方法対象は,全身疾患,眼疾患,眼科手術歴,点眼使用のいずれも有しない日本人正常人C2名C4眼(男性:1名C52歳,女性:1名C43歳)とした.測定にはCiPad第C5世代に装着したCICPTearscopeを使用した.使用するCiPadには専用のアプリケーション「I.C.P.bySBMSistemi(SBM社)」をあらかじめダウンロードしておいた.当該アプリケーションソフト内の涙液メニスカス高を測定する機能を用いて,後述の時間帯,体位における開瞼直後の涙液メニスカス高を測定し,画像として記録した.さらに,同ソフト内の干渉スペキュラー像を記録できる機能を用いて,それぞれの体位における涙液脂質層の動態を動画として記録した.なお,保存可能なデータ容量の関係上,今回はC2名分のみを記録し,これを予備検討とした.測定はC2017年C8月に無風の同一室内環境下で実施したものである.撮影時の室内の明るさについては,通常の部屋の明るさ(明室状態)で測定した.個人情報保護の観点から,iPadはネットワークから切断した状態で使用した.C①時間帯:起坐位かつ正面視の状態で,同時期の朝(7時.8時),夜(20.21時)の合計C2回の涙液メニスカス高を定量的に測定した.C②体位:起坐位,側臥位,仰臥位,腹臥位それぞれの体位・顔位の状態で,すべて同日のC21.22時における涙液メニスカス高を定量的に測定した.さらに,同様にそれぞれの体位の状態で自然瞬目時の涙液脂質層の動態を観察し,少なくともC10秒以上動画として記録した.目視にて涙液脂質層の移動方向を確認した.統計処理は統計ソフトCSPSSver26(SPSS社)を使用し,有意水準は両側C5%,p値はC0.05未満を有意差ありとした.CII結果ICPTearscopeを用いた眼表面診察でも,細隙灯顕微鏡やスリットランプと同様に簡便に測定,撮影,解析をすることが可能であった(図2).また,当該機器は特殊な筒形のカメラを眼前にフィットさせて,白色均一な光源を被験者の眼の図1ICPTearscope(SBM社製)本体をCiPadに装着し,カメラの筒部分を眼窩縁にフィットさせることで安定感が増し手ぶれが減る.表面に直接投影するため,撮影者や照明の映り込み反射を生じずに鮮明に記録することができた.朝と夜の平均涙液メニスカス高は,それぞれC0.263C±0.008Cmm,0.158C±0.005Cmmであり,夜と比較して朝の時間帯のほうが有意に高かった(p<0.001).また,4眼いずれの眼においても,夜と比較して朝の時間帯のほうが涙液メニスカス高が高い結果となった(図3).一方,起坐位,側臥位,仰臥位,腹臥位の各体位における平均涙液メニスカス高は,それぞれC0.153C±0.011Cmm,0.160C±0.015Cmm,0.165C±0.024Cmm,0.155C±0.006mmであり,いずれの体位においても涙液メニスカス高に大きな変化を認めなかった(図4).また,涙液脂質層はいずれの体位においても,瞬目運動に伴って下眼瞼側から角膜表面涙液を均質に覆いながら上眼瞼側へ引き上げられ,一定の方向へ移動することが確認できた.CIII考按今回の検討において,モバイル型の非侵襲的眼表面評価アタッチメントCICPTearscopeは他の前眼部診療機器と遜色なく診察することができ,さらに顎台などが不要で非接触で測定するため,場所の制約や感染症などの影響を受けることなく,簡単に眼表面の涙液動態を評価できる便利なツールであることが判明した.今回の測定では,朝の涙液メニスカス高は平均C0.263Cmmであった.KanayaらやCPrabhasawatらの調査においても,ドライアイを認めていない被験者の涙液メニスカス高はC0.22.0.27Cmmと報告されており4,5),筆者らの検討で使用したICPTearscopeでの測定においても,通常の細隙灯顕微鏡で確認する涙液メニスカス高と同程度の測定精度が得られていると考える.朝の涙液メニスカス高と比較すると,夜間のほうが涙液メニスカス高が有意に低いという結果を得た.これは,光干渉断層計(opticalCcoherencetomographer:OCT)で涙液メニ図2涙液メニスカス高の測定涙液メニスカスも鮮明に撮影できるので,正確にメニスカス高を計測できる.Caスカス高の日内変動を測定し,単調な減少を認めたというSrinivasanらの既報6)や,涙液メニスカス量の日内変動を非侵襲的手法である涙液ストリップメニスコメトリーで調査した結果,涙液メニスカス量は起床時にもっとも高く,夕方になるにつれて徐々に減少するというCAyakiらの既報7)と矛盾しない.ICPTearscopeでの測定においても,起床から時間が経過すると眼表面の涙液量が減少したことを確認できた.一方,涙液メニスカス高と体位の関係については過去に検討されたことがなく,今回が初めての試みであった.起坐位,側臥位,仰臥位,腹臥位のいずれの体位を比較しても,今回の検討では有意差を認めなかったものの,ICPCTear-scopeでもそれぞれの体位に応じた涙液動態を測定することが可能であった.したがって,ドライアイや結膜弛緩,眼瞼内反,眼瞼下垂,眼科手術後,コンタクトレンズ装用など,種々の角結膜の状態における涙液動態と体位や顔位との関係を明らかにできる可能性がある.また,瞬目運動に伴う涙液移動はいずれの体位でも下眼瞼から上眼瞼方向という既報8)と同パターンであり,涙液の移動方向に重力は影響しないことが示唆された.今回,日内変動,体位いずれの検討においても,被験者が少なかったため,より多い被験者で再検討する必要があるとCb涙液メニスカス高(mm)p値朝夜男性C52歳右眼C男性C52歳左眼C女性C43歳右眼C女性C43歳左眼C0.25C0.25C0.27C0.28C0.160.150.150.17平均C0.263±0.015C0.158±0.010C0.00051CTMH(mm)涙液メニスカス高の日内比較(朝・夜)0.35**0.30**:p<0.0010.250.200.150.100.050.00朝夜図3正常人(2名)における涙液メニスカス高の日内比較a:各眼における涙液メニスカス高の日内比較の表.いずれの眼においても夜より朝のほうが高かった.Cb:aをグラフ化したもの.TMH:tearmeniscusheight.夜と比較して朝の時間帯のほうが有意に高かった.Cab涙液メニスカス高(mm)起坐位側臥位仰臥位腹臥位男性C52歳右眼C男性C52歳左眼C女性C43歳右眼C女性C43歳左眼C0.14C0.13C0.16C0.18C0.15C0.13C0.20C0.16C0.14C0.11C0.20C0.21C0.160.140.150.17平均C0.153±0.011C0.160±0.015C0.165±0.024C0.155±0.006CTMH(mm)涙液メニスカス高の体位比較0.250.200.150.100.050.00起座位側臥位仰臥位腹臥位図4正常人(2名)における涙液メニスカス高の体位間の比較a:各眼における涙液メニスカス高の体位間比較の表.Cb:aをグラフ化したもの.TMH:tearmeniscusheight.いずれの群を比較しても有意差は認めなかった.思われる.また,涙液量の日内変動に及ぼす因子の検討も必要だろう.本機器は涙液メニスカス高以外にも,脂質層・水層・ムチン層の層別分析,フルオレセイン染色を必要としない非侵襲的涙液破壊時間(non-invasiveCtearCbreakCuptime:NIBUT)測定の機能が含有されており,涙液の基礎分泌・反射性分泌の量的評価,機能性や安定性などの質的評価が可能である.前眼部,とくにドライアイ診療においては,近年眼表面の層別診断(tearC.lmCorienteddiagnosis:TFOD),およびそれを基に治療法を決定する眼表面の層別治療(tearC.lmCorientedtherapy:TFOT)の有用性が重視されている9).本機器によって,短時間・簡便かつ詳細な涙液の層別分析によるドライアイ診断があらゆる場面や環境で可能となり,個々の症例に応じた評価・介入を的確に行うことが可能となる.また,通信機能のあるタブレット機器で撮影できるため,昨今話題になっている遠隔眼科診療にも活用できると考えられる.現在,通信機器に装着できるアタッチメント型の眼科診療機器が増えつつあり,その普及によって診療したい部位や詳細度合いに応じて使い分けられる選択肢が出てきた10,11).最先端の専門的な眼科診療を,世界中どこにいても適切に受けられる可能性がある.今後はこのようなモバイル型かつ非侵襲的な精密機器を用いることで,日常生活における眼表面の各種データを反映した眼表面研究や診療の発展に寄与できると考えられる.文献1)坂根由梨,山口昌彦,白石敦ほか:涙液スペキュラースコープCDR-1を用いた涙液貯留量の評価.日眼会誌C114:512-519,20102)JungJW,ParkSY,KimJSetal:Analysisoffactorsasso-ciatedCwithCtheCtearCfilmClipidClayerCthicknessCinCnormalCeyesandpatientswithdryeyesyndrome.InvestOphthal-molVisSciC57:4076-4083,C20163)LanW,LinL,YangXetal:Automaticnoninvasivetearbreakuptime(TBUT)andCconventionalCfluorescentCTBUT.OptomVisSciC91:1412-1418,C20144)金谷芳明,堀裕一,村松理奈ほか:フルオレセイン染色法の違いによる涙液メニスカス高への影響.あたらしい眼科C30:1750-1753,20135)PrabhasawatCP,CPinitpuwadolCW,CAngsrirasertCDCetal:CTearC.lmCchangeCandCocularCsymptomsCafterCreadingCprintedbookandelectronicbook:acrossoverstudy.JpnJOphthalmolC63:37-144,C20196)SrinivasanS,ChanC,JonesL:Apparenttime-dependentdi.erencesininferiortearmeniscusheightinhumansub-jectsCwithCmildCdryCeyeCsymptoms.CClinCExpCOptomC90:C345-350,C20077)AyakiCM,CTachiCN,CHashimotoCYCetal:DiurnalCvariationCofhumantearmeniscusvolumemeasuredwithtearstripmeniscometryself-examination.PLoSOneC14:e0215922,C20198)OwensCH,CPhillipsJ:SpreadingCofCtheCtearsCafterCablink:velocityandstabilizationtimeinhealthyeyes.Cor-neaC20:484-487,C20019)TsubotaK,YokoiN,ShimazakiJetal:NewperspectivesonCdryCeyeCde.nitionCanddiagnosis:aCconsensusCreportCbytheAsiaDryEyeSociety.OculSurfC15:65-76,C201710)花田一臣,石子智士,木ノ内玲子ほか:前眼部撮影用アタッチメントを装着したスマートフォンと医療用CsocialCnet-workingservice(SNS)を用いた眼科診断支援.眼科C62:399-406,202011)清水映輔,矢津啓之:スマートフォンによる遠隔眼科診療前眼部.OCULISTAC88:35-42,2020***