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レバミピド懸濁点眼液とMPC ポリマーの併用処理による ドライアイ治療効果の有用性評価

2022年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科39(7):982.987,2022cレバミピド懸濁点眼液とMPCポリマーの併用処理によるドライアイ治療効果の有用性評価後藤涼花*1勢力諒太朗*1渡辺彩花*1油納美和*1大竹裕子*1櫻井俊輔*2原田英治*2長井紀章*1*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2日油株式会社ライフサイエンス事業部CEvaluationoftheCombinedTherapyofRebamipideandMPCPolymerfortheTreatmentofDryEyeRyokaGoto1),RyotaroSeiriki1),SayakaWatanabe1),MiwaYuno1),HirokoOtake1),ShunsukeSakurai2),EijiHarata2)CandNoriakiNagai1)1)FacultyofPharmacy,KindaiUniversity,2)LifeScienceProductsDivision,NOFCorporationC本研究では市販ドライアイ治療薬であるレバミピド懸濁点眼液(REB点眼液)と生体適合性CMPCポリマー(MPCP)を併用処理した際のドライアイに対する治癒効果について検討した.REB点眼液点眼C5分後にCMPCPを処理することで,涙液中CREB濃度の滞留性向上が確認され,そのCREB眼表面滞留時間の延長はCREB点眼液単独処理群と比較し有意に高値であった.次に,N-アセチルシステイン処理ウサギ(眼表面ムチン被覆障害モデル)を用い,REB点眼液とCMPCP併用処理時のドライアイに対する治療効果を検討したところ,併用処理により,眼表面ムチン被覆障害モデルの涙液層破壊とムチン量低下は改善され,その効果はCREB点眼液単独処理群に比べ高値であった.以上,MPCP併用により,REBの涙液中薬物滞留性が高まるとともに,ムチン被覆改善作用が向上する可能性が示唆された.CInthisstudy,weinvestigatedwhetherornotacombinationofcommerciallyavailablerebamipideophthalmicsuspension(CA-REBeye-drop)and2-methacryloyloxyethylCphosphorylcholine(MPC)polymerCprovidesCanCenhancedtherapeutice.ectfordryeye.ThecombinationofCA-REBeye-dropandMPCpolymerprolongedthedrugresidenceinthelacrimal.uid.Next,thetherapeuticpotentialofthecombinationtreatmentfordryeyewasevaluatedinanN-acetylcysteine-treatedrabbitmodel.ThecombinationofCA-REBeye-dropandMPCpolymerpromotedimprovementofboththetear.lmbreakupandlevelofdecreasedmucincausedbytheN-acetylcysteinetreatment.Moreover,thetherapeutice.ectwassigni.cantlyincreasedintherabbitsinstilledwiththecombinationofCCA-REBCeye-dropCandCMPCCpolymerCinCcomparisonCwithCtheCrabbitsCinstilledCwithCCA-REBCeye-dropCalone.CTheseresultsshowthatthecombinationofCA-REBeye-dropandMPCpolymermayprovideanenhancedthera-peutice.ectforpatientsa.ictedwithdryeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):982.987,C2022〕Keywords:MPCポリマー,レバミピド,ドライアイ,眼表面,涙液.MPCpolymer,rebamipide,dryeye,ocularsurface,lacrimal.uid.Cはじめに涙液は外側から油層,水層のC2層で構成され,外側に位置する油層は内側にある水層の蒸発を抑える働きを有している1).また,水層には角膜上皮から分泌されている糖蛋白質ムチンが分布し,このムチンが涙液を角膜表面に維持させる役割を担っている2).これら,ムチンは分泌型ムチンと膜型ムチンのC2種類に大きく分類され,分泌型ムチンは主として涙液の水層に分布し,水分を保持する形で涙液中に混じり込むことで,眼表面で涙液を均一に伸展させる働きを担っている.一方,膜型ムチンは上皮細胞の表面にある微絨毛の先端〔別刷請求先〕長井紀章:〒577-8502東大阪市小若江C3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:NoriakiNagai,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KindaiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,CJAPANC982(128)CH3CH3CH2CCH2CCO-CH3COOCH2CH2OPOCH2CH2N+CH3O(CH2)17CH3OCH3l図1MPCポリマーの化学構造式に存在し,糖衣を形成することで,上皮表面の水濡れ性維持に寄与すると考えられている3,4).このようにムチンは眼表面での涙液維持に強く関与する因子であり,眼表面でのムチン量の低下はドライアイの発症に繋がる.ドライアイは涙液減少型,蒸発亢進型,涙液層破壊時間短縮型など,その機序により分類されている5).これらの治療法としては人工涙液,ヒアルロン酸点眼液を用いた涙液の補給,涙点プラグなどによる涙液滞留量の増加,温罨法や瞼縁洗浄などが行われている6,7).さらに近年では,角膜表面上に存在するムチンの産生を高めるレバミピド懸濁点眼液(REB点眼液,ムコスタ点眼液)やムチンの放出を促進するジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアス点眼液)といった点眼薬が広く用いられている.これら薬物療法は有用であるが,パソコンやスマートフォンの普及からドライアイ患者数が急増しているわが国においてさらに有用なドライアイ療法の確立が望まれているのが現状である.日油株式会社により開発されたCMPCポリマーは生体適合性,保水性および保湿性に優れ,人工臓器などの医療機器の表面処理剤として開発されている.本研究に用いたCMPCポリマーは,PC構成単位,アミド構成,疎水性構成単位のC3種の構成単位を特定の割合で有する共重合体である.それぞれの構成単位におけるCPC構成単位はC2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンエチルホスファート(MPC)であり,共重合体の生体適合性,親水性に寄与する.アミド構成単位はCN,N-ジメチルアクリルアミド(DMA)であり,高分子量化させることで共重合体の眼表面での滞留性向上が,疎水性構成単位はステアリルメタクリレート(SMA)であり,共重合体の角膜表面への接着性を向上させることが期待できるポリマーである.近年筆者らは,これらCMPCポリマーがムチンと類似した水分保持作用を有することを見出すとともに,N-アセチルシステイン頻回点眼処理により作製した眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルを用い,MPCポリマーの点眼がドライアイ治療に有用であることを報告した8).本研究では,これらCMPCポリマーと市販ドライアイ治療薬であるCREB点眼液を併用処理した際のドライアイに対する治癒効果について,眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルを用いて評価した.CH2CHCONCH3CH3mn涙液採取涙液採取REBREB5minMPCP+REBMPCPREB5min5minREB+MPCPREBMPCP10min20min30min図2本研究で実施したREBとMPCポリマーの点眼処理スケジュールI対象および方法1.使用薬物および実験動物REB点眼液は,大塚製薬から購入し,MPCポリマーは日油から譲渡されたものを用いた.図1には今回用いたCMPCポリマーの構造式を示す.また,N-アセチルシステイン溶液は和光純薬製を用い,シルメル試験紙は昭和薬品化工から購入した.涙液ムチン測定キットはコスモ・バイオから得た.その他の試薬は市販特級品あるいはCHPLC用試薬を用いた.日本白色種雄性ウサギ(2.5.3.0Ckg)は清水実験材料から購入し,近畿大学実験動物規定に従い実験を行った(実験承認番号,KAPS-31-002).C2.薬物の点眼処理方法REB点眼前後にC0.1%CMPCポリマーを点眼し,点眼間隔はC5分,点眼量はC1回C30Cμlとした.また本研究では,MPCポリマー点眼C5分後にCREB点眼処理を行ったものをCMPCP+REB群,REB点眼C5分後にCMPCポリマーを点眼したものをCREB+MPCP群とした.図2にはCMPCポリマーおよびCREB点眼液併用処理時における涙液中CREB濃度を測定した際の点眼処理スケジュールを示す.C3.HPLCを用いたREB濃度の測定試料からのCREB抽出にはN,N-ジメチルホルムアミドを用い,リン酸緩衝液/アセトニトリル=83/17(v/v)を移動相としたCHPLC法にて濃度の測定を行った.HPLC法には,InertsilODS-3を接続した高速液体クロマトグラフィー装置LabSolutions(島津製作所)を用い,カラム温度C35℃(クロマトチャンバーCCTO-20AC使用),移動相の流速はC0.25Cml/ap=0.018bp=0.0202.50.5REB濃度(mg/mL)2.00.4REB濃度(mg/mL)1.50.31.00.20.50.10.00.0図3MPCポリマー(MPCP)併用処理が市販REB点眼液の涙液滞留性に与える影響a:点眼処理C10分後の涙液中CREB濃度.Cb:点眼処理C30分後の涙液中CREB濃度.平均値C±標準誤差,n=3.6.min,検出波長C254Cnm,測定時間C16分とした.試料注入量はC10Cμlとし,オートインジェクターCSIL-20ACを用いた.本研究では,REBのピークがC12.13分の間に検出された.C4.眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルの作製雄性日本白色種ウサギにC10%CN-アセチルシステイン溶液(溶媒:生理食塩液)を午前C9時から午後C7時までC2時間間隔で計C6回(各回C50Cμl)点眼処理を施すことで眼表面ムチン被覆障害モデルを作製した.本研究では,涙液状態の安定化のため,点眼処理C2日後のウサギをドライアイC0日目として研究に用いた.C5.涙液油層の干渉像の観察興和製CDR-1Caを用い,開瞼器にてC5分間開瞼したウサギの涙液油層干渉像を撮影した.撮影は薬物点眼処理C24時間後に行い,角膜中央部にフォーカスをあて干渉像を測定した.また,得られた干渉像よりドライアイスポット(涙液が伸展せず黒色で映る部分)の面積値をCImageJにて測定し,干渉像全体の面積値(40.3CmmC2)に対する比として傷害率を算出した.さらに,点眼処理群の傷害率を点眼未処理群の傷害率で除したもの(傷害率点眼群/傷害率未点眼群×100)を涙液層破壊率(%)とした.C6.涙液中ムチン量の測定結膜.内からCSchirmer試験紙にて涙液をC5分間採取し,得られた試料に存在するムチンコア蛋白質からCO-グリカンをCb脱離すると同時に糖鎖還元末端に蛍光ラベルさせることで得られる蛍光強度を測定することで,ムチン量の定量を行い,涙液量にて除したものを涙液中ムチン濃度とした.これらムチン量の定量には涙液ムチン測定キットを用い,蛍光強度は,CORONA社製蛍光プレートリーダーCSH-9000にて測定した(励起波長C336Cnm,蛍光波長C383Cnm).本実験における薬物処理時におけるムチン量は,未処理群の涙液中ムチン量に対する比(%)として表した.C7.統計解析得られたデータは平均値±標準誤差として表した.各々の実験値はCStudentのCt-testまたはCDunnettの多重比較検定にて解析した.本研究ではCp値がC0.05以下を有意差ありとした.CII結果1.REB点眼液およびMPCP併用処理におけるREB眼表面滞留性の変化図3はCREB点眼液およびCMPCP併用処理(単回)10分およびC30分後における正常ウサギ涙液中でのCREB挙動を示す.REB点眼液を単剤投与したCREB単独処理群の点眼C10分後における涙液中薬物濃度はC1.23Cmg/mlであり,点眼C30分後にはC0.10Cmg/mlまで低下した.また,MPCポリマー点眼C5分後にCREB点眼液を処理したCMPCP+REB処理群の涙液中CREB濃度変化は,REB単独処理群と類似した挙動を示した.一方,REB点眼液処理C5分後にCMPCポリマーを点眼したCREB+MPCP処理群では,眼表面でのCREB滞留性が高まり,眼表面での薬物量はCREB単独処理群のそれに比べ,点眼C10分後でC1.68倍,点眼C30分後でC2.62倍であった.C2.眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルに対するREB点眼液およびMPCP併用処理の有用性評価図4はCREB点眼液単剤処理およびCREB点眼液とCMPCポリマー併用処理を行った際の涙液油層干渉像とその眼表面障害治癒効果を示す.10%CN-アセチルシステイン溶液処理により眼表面の涙液層を破壊したのち生理食塩水連続点眼を行ったCSaline群ではC2日目,5日目における涙液層破壊率はそれぞれC99.8%,76.2%であった.一方,REB単独処理群では,連続点眼C2日目,5日目における涙液層破壊率はそれぞれC44.7%,39.9%であった.また,MPCポリマーを前点眼したCMPCP+REB処理群では,REB単独点眼処理群と同程度であった.一方,REB投与後にCMPCポリマーを点眼したCREB+MPCP処理群では,REB単独処理群と比較し,有意な傷害率の低下が認められ,連続点眼C2日目の涙液層破壊率はC28.6%,5日目ではC10.3%であった.図5は眼表面ムチaSalineREBMPCP+REBREB+MPCP0d2d5dbcp=0.003p=0.0000011201201008060涙液層破壊率(%)10080604000図4市販REB点眼液とMPCポリマー(MPCP)併用処理がウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルの角膜障害に与える影響a:連続点眼処理C2日目およびC5日目の代表的涙液油層干渉像.バーはC1Cmmを示す.Cb:連続点眼処理C2日目の涙液層破壊率.Cc:連続点眼処理C5日目の涙液層破壊率.平均値C±標準誤差,n=3.6.Cp=0.0002402020ap=0.003b175175150150125100755025ムチン量(%)12510075502500図5MPCポリマー(MPCP)と市販REB点眼液併用処理がウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルの涙液中ムチン量に与える影響a:連続点眼処理C2日目の涙液中ムチン量.Cb:連続点眼処理C5日目の涙液中ムチン量.平均値C±標準誤差,n=3.6.ン被覆障害ウサギモデルに各点眼処理を行った際の涙液中ムで低下していた.これら眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルチン量の変化を示す.10%CN-アセチルシステイン溶液処理にCREB単剤点眼を行ったところ,ムチン量の増加が確認さにより,涙液中ムチン量は,正常ウサギのそれの約C70%まれ,連続点眼C5日目の涙液中ムチン量は正常群と同程度であった.また,MPCP+REB処理群においても同様のムチン量の改善が認められた.一方,REB+MPCP点眼処理群では有意に涙液中ムチン量の向上が認められ,点眼処理C5日目のムチン量は正常群の約C140%であった.CIII考按MPCポリマーは生体適合性が高く,ムチンと類似した作用を有することから,眼表面の安定化において有用な物質である8).本研究では正常ウサギを用い,MPCポリマーとドライアイ治療薬CREB点眼液の併用処理が,涙液中での薬物滞留性にどのような影響を及ぼすかについて検討を行った.また,眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルを用い,これら併用処理時におけるドライアイ治癒効果について検討した.点眼後における涙液中薬物挙動を検討するうえで,評価用動物種の選択は重要である.一般的に使用される実験動物としてはマウスやラットが知られているが,これらは眼が小さく,水晶体も人と比べ非常に大きな割合を示すなど,ヒトの眼と構造が大きく異なっている.一方で,ウサギやサルは眼表面の状態や眼構造ともにヒトのそれと類似しており,眼領域の研究において多用される動物種である.とくに,ウサギはサルに比べて飼育が容易であることからも,点眼薬の薬物動態挙動を確認するうえでもっとも用いられる実験動物種である.このため本研究ではウサギを用い,REBおよびCMPCポリマー併用処理が涙液中CREBの濃度変化におよぼす影響を検討した(図3).REB点眼液を単剤投与したところ(REB単独処理群),点眼直後から眼表面でのCREB濃度の低下が確認され,点眼C30分後の涙液中CREB濃度はC1.23Cmg/mlであった.これらCREB点眼を行ったC5分後にCMPCポリマーを追加点眼したところ(REB+MPCP処理群),涙液中でのREB濃度の増加が確認され,そのCREB眼表面持続時間の延長はCREB単独処理群と比較し有意に高値であった.一方,点眼する順番を変更し,REB点眼の前にCMPCポリマーを処理した場合(MPCP+REB処理群)では,REB眼表面滞留時間の延長は確認されず,MPCP+REB処理群とCREB単独処理群の涙液中CREB濃度に有意な差はみられなかった.筆者らの以前の報告で,MPCポリマーは涙液成分や角膜上皮の両方と親和性を有しており,点眼後上皮膜上に付着したMPCポリマーは涙液層をトラップし,眼表面の安定化が得られるということを報告している8).また,筆者らのこれまでの実験にて,REB点眼液は点眼後CREB微粒子が角膜表面に付着し,溶解したものが徐々に吸収され薬効を示すことが確認されている9).これらの背景および今回の結果から,REB点眼液点眼後の懸濁CREB微粒子が角膜表面に付着後,MPCポリマーがそれをカバーすることで,眼表面でのCREB濃度の維持が得られるのではないかと推察された.また,MPCポリマーが先に角膜上皮に付着し,その後CREB微粒子が角膜表面に接触してきた際には,これらCMPCポリマーによるCREBのカバーが十分には得られず,REB単独点眼と同程度の薬物涙液持続時間を示したのではないかと考えられた.ただ,これらの仮説の証明には今後より詳細な検討が必要と考えている.次に,REB点眼液およびCMPCポリマー併用処理した際の,ドライアイ療法としての有用性について検討を試みた.中嶋らはCN-アセチルシステインをウサギに点眼することにより眼表面のムチンを除去した実験動物モデル(眼表面ムチン被覆障害ウサギモデル)を作製している10).また,本モデルにおいて,角結膜表面の微絨毛/微ひだの消失,角膜および結膜におけるムチン様糖蛋白質の減少,および涙液安定性の低下といったヒトのドライアイ特徴を有していることを示している10).そこで今回,眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルに対しCREB点眼液およびCMPCポリマー併用処理した際の角膜中央部における涙液層破壊率の改善効果について検討を行った.その結果,10%CN-アセチルシステイン溶液処理によりウサギ眼表面の涙液層破壊と涙液中ムチン量の低下が認められ,これら眼表面障害はCREB点眼液の点眼により顕著に軽減された.本研究同様,以前の眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルを用いた報告においても,REB点眼液は角結膜でのムチン産生量を増加させ,涙液安定性の指標となるドライスポットの出現を抑制することが示されており10),今回の結果は,これら以前の研究成果を支持するものであった.さらに,REB投与後にCMPCポリマーを処理したCREB+MPCP処理群について検討したところ,REB点眼処理群に比べ,涙液層破壊とムチン量低下がともに有意に改善した.これら結果は先に示した薬物の涙液滞留時間を反映するものであった.一方,MPCポリマー自身にも涙液保持機能効果が認められることから8),MPCポリマーを前処理したCMPCP+REB処理群においても涙液層破壊の軽減が期待されたが,涙液層破壊とムチン量は,REB単独処理群と同程度であった.この要因として,MPCポリマーの濃度は低いため,後から点眼されたCREBにより希釈,排出が促進され,単独処理による眼表面の安定化を有するほどの濃度が眼表面で維持できなかった可能性があるが,このことについては今後検討が必要である.以上,市販ドライアイ治療薬であるCREB点眼液点眼後にMPCポリマーを処理することで,REBの涙液薬物滞留性が高まるとともに,眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルに対する障害修復効果が向上することが示された.この結果からREB点眼液とCMPCポリマーの併用により,ムチン被覆改善作用が向上し,MPCポリマーが眼疾患領域で有用な添加剤になりうる可能性があると考えられた.今後,MPCポリマーを配合したCREB点眼製剤を調製するとともに,そのドライアイ治療効果についても検討を進めていく予定である.利益相反長井紀章(カテゴリーF,クラス:III,日油株式会社)原田英治,櫻井俊輔(カテゴリーE)後藤涼花,勢力諒太朗,渡辺彩花,油納美和,大竹裕子(なし)文献1)真鍋礼三,木下茂,大橋裕一ほか:角膜クリニック第C2版(井上幸次,渡辺仁,前田直之ほか).p2-5,医学書院,C20032)GipsonCIK,CHoriCY,CArguesoP:CharacterCofCocularCsur-faceCmucinsCandCtheirCalterationCinCdryCeyeCdisease.COculCSurfC2:131-148,C20043)InatomiCT,CSpurr-MichaudCS,CTisdaleCASCetal:Expres-sionofsecretorymucingenesbyhumanconjunctivalepi-thelia.InvestOphthalmolVisSciC37:1684-1692,C19964)UchinoCY,CUchinoCM,CYokoiCNCetal:AlterationCofCtearCmucinC5ACCinCo.ceCworkersCusingCvisualCdisplayCtermi-nals:TheOsakaStudy.JAMAOphthalmolC132:985-992,C20145)ドライアイ研究会:ドライアイの定義および診断基準委員会:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).ドライアイ研究会,1-5,20166)MoshirfarCM,CPiersonCK,CHanamaikaiCKCetal:Arti.cialCtearspotpourri:aliteraturereview.ClinOphthalmolC8:C1419-1433,C20147)FoulksCGN,CBronAJ:MeibomianglandCdysfunction:aCclinicalCschemeCforCdescription,Cdiagnosis,Cclassi.cation,Candgrading.OculSurfC1:107-126,C20038)NagaiCN,CSakuraiCS,CSeirikiCRCetal:MPCCpolymerCpro-motesrecoveryfromdryeyeviastabilizationoftheocu-larsurface.PharmaceuticsC13:168,C20219)NagaiCN,CItoCY,COkamotoCNCetal:SizeCe.ectCofCrebamip-ideophthalmicnanodispersionsonitstherapeutice.cacyforcornealwoundhealing.ExpEyeResC151:47-53,C201610)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科C29:1147-1151,C2012***

モバイル型の非侵襲的眼表面評価アタッチメントの使用感と その有用性についての探索

2021年9月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科38(9):1114.1117,2021cモバイル型の非侵襲的眼表面評価アタッチメントの使用感とその有用性についての探索村上沙穂*1,2川島素子*1有田玲子*1,3坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2北里大学北里研究所病院眼科*3伊藤医院CUsabilityandE.ectivenessofaMobileNon-InvasiveOcularSurfaceAnalysisDeviceSahoMurakami1,2),MotokoKawashima1),ReikoArita1,3)andKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityKitasatoInstituteHospital,3)ItohClinicC目的:モバイル型の非侵襲的眼表面評価アタッチメントの使用感とその有用性を探索すること.対象および方法:正常人C2名C4眼(男性:1名C52歳,女性:1名C43歳)を対象に,SBM社のCICPTearscopeを用いて眼表面を評価した.時間帯(朝・夜),体位(起坐位・側臥位・仰臥位・腹臥位)間での涙液メニスカス高を比較した.さらに各体位での涙液脂質層の動態を観察した.結果:当該機器を用いて,眼表面パラメータを簡便に問題なく撮影できた.平均涙液メニスカス高は,朝C0.263Cmm,夜C0.158Cmmであり,夜のほうが有意に低下した(p<0.001).起坐位,側臥位,仰臥位,腹臥位の平均涙液メニスカス高はそれぞれC0.153Cmm,0.160Cmm,0.165Cmm,0.155Cmmであり,有意差はなかった.いずれの体位でも涙液は下眼瞼から上眼瞼方向へ移動した.結論:モバイル型の非侵襲的眼表面評価アタッチメントは環境や被験者の制約を受けずさまざまな場面で簡便に測定でき,涙液動態の眼表面の各種データを把握するのに有用な可能性がある.CPurpose:Toevaluatetheusabilityande.ectivenessofamobile,non-invasive,ocularsurfaceanalysisdevice.SubjectsandMethods:InCtheCeyesCofC2Csubjects,CtheCSBMCSistemiCICPCTearscopeCdeviceCwasCusedCtoCmeasureCtearmeniscusheight,withthemeasurementsthencomparedbetweentime(morning/night)andposition(sitting/lateral/prone/supine).Thedynamicsofthetearlipidlayerineachpositionwasalsoanalyzed.Results:Usingthisdevice,theocularsurfaceparameterswereeasilyobtained.Theaveragetearmeniscusheightwas0.263CmminthemorningCandC0.158CmmCatCnight,CshowingCaCsigni.cantCdecreasedCatnight(p<0.001),CandCinCtheCsitting,Clateral,Csupine,CandCproneCpositions,Crespectively,CwereC0.153Cmm,C0.160Cmm,C0.165Cmm,CandC0.155Cmm,CwithCnoCsigni.cantCdi.erenceobserved.Inallpositions,thetearsmovedupward.Conclusion:Themobile,non-invasive,ocularsurfaceanalysisCdeviceCwasCeasyCtoCuseCinCvariousCsituations,CandCitCmayCbeCusefulCforCunderstandingCreal-worldCtearCdynamics.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(9):1114.1117,C2021〕Keywords:ドライアイ,涙液,遠隔診療.dryeye,tears,telemedicine.はじめに眼科では,細隙灯顕微鏡を駆使して眼球および眼付属器を観察することが診察の基本であり,またすべての眼科医にとって必須の手技である.一般的に,細隙灯顕微鏡は診察室に据え置かれた機器であり,起座位(正面視)のまま測定する.座位で測定できない乳幼児や寝たきりの患者に対しても使用できる手持ちスリットランプでの診察も可能だが,頭部が安定せず詳細な所見は取りづらい.一方,精度でいえば,近年多様な眼表面の涙液動態をみる検査機器が開発された.たとえば,脂質層を定性的に評価するCDR-1a(興和)1),脂質層を定量的に評価するCLipiViewIIinterferometer(JohnsonC&Johnson社)2),OculusCKeratograph5M(Oculu社)3),idra(SBM社)があるが,いずれも据え置き型のため,起座位かつ正面視での測定のみである.また,これらの高性能な機器〔別刷請求先〕川島素子:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MotokoKawashima,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC1114(132)を用いた日常的な診療は,基本的に日中に医療機関で行われる.したがって,起床時や夜間などの時間帯や異なる体位での眼表面の詳細な評価はまだ十分とはいいがたい.日常生活における眼表面の各種データを正確に測定できれば,種々の前眼部疾患や涙液動態に関する新しい知見が得られる可能性がある.モバイル型の非侵襲的眼表面評価アタッチメントCICPTearscope(SBM社)は,iPad(Apple社)に装着して眼表面を観察できるデバイスである(図1).筆者らは当該機器を用いて,その機器の有用性と,涙液メニスカス高の時間帯や各体位における違い,各体位での涙液脂質層の動態について検討を行った.CI対象および方法対象は,全身疾患,眼疾患,眼科手術歴,点眼使用のいずれも有しない日本人正常人C2名C4眼(男性:1名C52歳,女性:1名C43歳)とした.測定にはCiPad第C5世代に装着したCICPTearscopeを使用した.使用するCiPadには専用のアプリケーション「I.C.P.bySBMSistemi(SBM社)」をあらかじめダウンロードしておいた.当該アプリケーションソフト内の涙液メニスカス高を測定する機能を用いて,後述の時間帯,体位における開瞼直後の涙液メニスカス高を測定し,画像として記録した.さらに,同ソフト内の干渉スペキュラー像を記録できる機能を用いて,それぞれの体位における涙液脂質層の動態を動画として記録した.なお,保存可能なデータ容量の関係上,今回はC2名分のみを記録し,これを予備検討とした.測定はC2017年C8月に無風の同一室内環境下で実施したものである.撮影時の室内の明るさについては,通常の部屋の明るさ(明室状態)で測定した.個人情報保護の観点から,iPadはネットワークから切断した状態で使用した.C①時間帯:起坐位かつ正面視の状態で,同時期の朝(7時.8時),夜(20.21時)の合計C2回の涙液メニスカス高を定量的に測定した.C②体位:起坐位,側臥位,仰臥位,腹臥位それぞれの体位・顔位の状態で,すべて同日のC21.22時における涙液メニスカス高を定量的に測定した.さらに,同様にそれぞれの体位の状態で自然瞬目時の涙液脂質層の動態を観察し,少なくともC10秒以上動画として記録した.目視にて涙液脂質層の移動方向を確認した.統計処理は統計ソフトCSPSSver26(SPSS社)を使用し,有意水準は両側C5%,p値はC0.05未満を有意差ありとした.CII結果ICPTearscopeを用いた眼表面診察でも,細隙灯顕微鏡やスリットランプと同様に簡便に測定,撮影,解析をすることが可能であった(図2).また,当該機器は特殊な筒形のカメラを眼前にフィットさせて,白色均一な光源を被験者の眼の図1ICPTearscope(SBM社製)本体をCiPadに装着し,カメラの筒部分を眼窩縁にフィットさせることで安定感が増し手ぶれが減る.表面に直接投影するため,撮影者や照明の映り込み反射を生じずに鮮明に記録することができた.朝と夜の平均涙液メニスカス高は,それぞれC0.263C±0.008Cmm,0.158C±0.005Cmmであり,夜と比較して朝の時間帯のほうが有意に高かった(p<0.001).また,4眼いずれの眼においても,夜と比較して朝の時間帯のほうが涙液メニスカス高が高い結果となった(図3).一方,起坐位,側臥位,仰臥位,腹臥位の各体位における平均涙液メニスカス高は,それぞれC0.153C±0.011Cmm,0.160C±0.015Cmm,0.165C±0.024Cmm,0.155C±0.006mmであり,いずれの体位においても涙液メニスカス高に大きな変化を認めなかった(図4).また,涙液脂質層はいずれの体位においても,瞬目運動に伴って下眼瞼側から角膜表面涙液を均質に覆いながら上眼瞼側へ引き上げられ,一定の方向へ移動することが確認できた.CIII考按今回の検討において,モバイル型の非侵襲的眼表面評価アタッチメントCICPTearscopeは他の前眼部診療機器と遜色なく診察することができ,さらに顎台などが不要で非接触で測定するため,場所の制約や感染症などの影響を受けることなく,簡単に眼表面の涙液動態を評価できる便利なツールであることが判明した.今回の測定では,朝の涙液メニスカス高は平均C0.263Cmmであった.KanayaらやCPrabhasawatらの調査においても,ドライアイを認めていない被験者の涙液メニスカス高はC0.22.0.27Cmmと報告されており4,5),筆者らの検討で使用したICPTearscopeでの測定においても,通常の細隙灯顕微鏡で確認する涙液メニスカス高と同程度の測定精度が得られていると考える.朝の涙液メニスカス高と比較すると,夜間のほうが涙液メニスカス高が有意に低いという結果を得た.これは,光干渉断層計(opticalCcoherencetomographer:OCT)で涙液メニ図2涙液メニスカス高の測定涙液メニスカスも鮮明に撮影できるので,正確にメニスカス高を計測できる.Caスカス高の日内変動を測定し,単調な減少を認めたというSrinivasanらの既報6)や,涙液メニスカス量の日内変動を非侵襲的手法である涙液ストリップメニスコメトリーで調査した結果,涙液メニスカス量は起床時にもっとも高く,夕方になるにつれて徐々に減少するというCAyakiらの既報7)と矛盾しない.ICPTearscopeでの測定においても,起床から時間が経過すると眼表面の涙液量が減少したことを確認できた.一方,涙液メニスカス高と体位の関係については過去に検討されたことがなく,今回が初めての試みであった.起坐位,側臥位,仰臥位,腹臥位のいずれの体位を比較しても,今回の検討では有意差を認めなかったものの,ICPCTear-scopeでもそれぞれの体位に応じた涙液動態を測定することが可能であった.したがって,ドライアイや結膜弛緩,眼瞼内反,眼瞼下垂,眼科手術後,コンタクトレンズ装用など,種々の角結膜の状態における涙液動態と体位や顔位との関係を明らかにできる可能性がある.また,瞬目運動に伴う涙液移動はいずれの体位でも下眼瞼から上眼瞼方向という既報8)と同パターンであり,涙液の移動方向に重力は影響しないことが示唆された.今回,日内変動,体位いずれの検討においても,被験者が少なかったため,より多い被験者で再検討する必要があるとCb涙液メニスカス高(mm)p値朝夜男性C52歳右眼C男性C52歳左眼C女性C43歳右眼C女性C43歳左眼C0.25C0.25C0.27C0.28C0.160.150.150.17平均C0.263±0.015C0.158±0.010C0.00051CTMH(mm)涙液メニスカス高の日内比較(朝・夜)0.35**0.30**:p<0.0010.250.200.150.100.050.00朝夜図3正常人(2名)における涙液メニスカス高の日内比較a:各眼における涙液メニスカス高の日内比較の表.いずれの眼においても夜より朝のほうが高かった.Cb:aをグラフ化したもの.TMH:tearmeniscusheight.夜と比較して朝の時間帯のほうが有意に高かった.Cab涙液メニスカス高(mm)起坐位側臥位仰臥位腹臥位男性C52歳右眼C男性C52歳左眼C女性C43歳右眼C女性C43歳左眼C0.14C0.13C0.16C0.18C0.15C0.13C0.20C0.16C0.14C0.11C0.20C0.21C0.160.140.150.17平均C0.153±0.011C0.160±0.015C0.165±0.024C0.155±0.006CTMH(mm)涙液メニスカス高の体位比較0.250.200.150.100.050.00起座位側臥位仰臥位腹臥位図4正常人(2名)における涙液メニスカス高の体位間の比較a:各眼における涙液メニスカス高の体位間比較の表.Cb:aをグラフ化したもの.TMH:tearmeniscusheight.いずれの群を比較しても有意差は認めなかった.思われる.また,涙液量の日内変動に及ぼす因子の検討も必要だろう.本機器は涙液メニスカス高以外にも,脂質層・水層・ムチン層の層別分析,フルオレセイン染色を必要としない非侵襲的涙液破壊時間(non-invasiveCtearCbreakCuptime:NIBUT)測定の機能が含有されており,涙液の基礎分泌・反射性分泌の量的評価,機能性や安定性などの質的評価が可能である.前眼部,とくにドライアイ診療においては,近年眼表面の層別診断(tearC.lmCorienteddiagnosis:TFOD),およびそれを基に治療法を決定する眼表面の層別治療(tearC.lmCorientedtherapy:TFOT)の有用性が重視されている9).本機器によって,短時間・簡便かつ詳細な涙液の層別分析によるドライアイ診断があらゆる場面や環境で可能となり,個々の症例に応じた評価・介入を的確に行うことが可能となる.また,通信機能のあるタブレット機器で撮影できるため,昨今話題になっている遠隔眼科診療にも活用できると考えられる.現在,通信機器に装着できるアタッチメント型の眼科診療機器が増えつつあり,その普及によって診療したい部位や詳細度合いに応じて使い分けられる選択肢が出てきた10,11).最先端の専門的な眼科診療を,世界中どこにいても適切に受けられる可能性がある.今後はこのようなモバイル型かつ非侵襲的な精密機器を用いることで,日常生活における眼表面の各種データを反映した眼表面研究や診療の発展に寄与できると考えられる.文献1)坂根由梨,山口昌彦,白石敦ほか:涙液スペキュラースコープCDR-1を用いた涙液貯留量の評価.日眼会誌C114:512-519,20102)JungJW,ParkSY,KimJSetal:Analysisoffactorsasso-ciatedCwithCtheCtearCfilmClipidClayerCthicknessCinCnormalCeyesandpatientswithdryeyesyndrome.InvestOphthal-molVisSciC57:4076-4083,C20163)LanW,LinL,YangXetal:Automaticnoninvasivetearbreakuptime(TBUT)andCconventionalCfluorescentCTBUT.OptomVisSciC91:1412-1418,C20144)金谷芳明,堀裕一,村松理奈ほか:フルオレセイン染色法の違いによる涙液メニスカス高への影響.あたらしい眼科C30:1750-1753,20135)PrabhasawatCP,CPinitpuwadolCW,CAngsrirasertCDCetal:CTearC.lmCchangeCandCocularCsymptomsCafterCreadingCprintedbookandelectronicbook:acrossoverstudy.JpnJOphthalmolC63:37-144,C20196)SrinivasanS,ChanC,JonesL:Apparenttime-dependentdi.erencesininferiortearmeniscusheightinhumansub-jectsCwithCmildCdryCeyeCsymptoms.CClinCExpCOptomC90:C345-350,C20077)AyakiCM,CTachiCN,CHashimotoCYCetal:DiurnalCvariationCofhumantearmeniscusvolumemeasuredwithtearstripmeniscometryself-examination.PLoSOneC14:e0215922,C20198)OwensCH,CPhillipsJ:SpreadingCofCtheCtearsCafterCablink:velocityandstabilizationtimeinhealthyeyes.Cor-neaC20:484-487,C20019)TsubotaK,YokoiN,ShimazakiJetal:NewperspectivesonCdryCeyeCde.nitionCanddiagnosis:aCconsensusCreportCbytheAsiaDryEyeSociety.OculSurfC15:65-76,C201710)花田一臣,石子智士,木ノ内玲子ほか:前眼部撮影用アタッチメントを装着したスマートフォンと医療用CsocialCnet-workingservice(SNS)を用いた眼科診断支援.眼科C62:399-406,202011)清水映輔,矢津啓之:スマートフォンによる遠隔眼科診療前眼部.OCULISTAC88:35-42,2020***

最大開瞼時間(MBI)および最大開瞼時間と涙液破壊時間の差(MBD)はドライアイ患者の複合的な角結膜知覚を鋭敏に反映する指標である

2015年9月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科32(9):1345.1348,2015c最大開瞼時間(MBI)および最大開瞼時間と涙液破壊時間の差(MBD)はドライアイ患者の複合的な角結膜知覚を鋭敏に反映する指標である鳥山直樹村戸ドール遠藤安希子冨田大輔葛西梢平山裕美子山口剛史島﨑聖花佐竹良之島﨑潤東京歯科大学市川総合病院眼科MaximalBlinkInterval(MBI)andMaximumBlinkInterval-BreakupDifference(MBD)asIntegralIndicatorsofCornealSensitivityinDryEyePatientsNaokiToriyama,DogruMurat,AkikoEndo,DaisukeTomida,KozueKasai,YumikoHirayama,TakeshiYamaguchi,SeikaDen-Shimazaki,YoshiyukiSatakeandJunShimazakiDepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeIchikawaHospital目的:最大開瞼時間(maximumblinkinterval:MBI)はドライアイ診療における有用な指標である.筆者らはMBIを利用し,乾燥環境が涙液機能に与える影響とその評価法としての有用性を検討した.対象および方法:ドライアイ疑い例13名26眼(男性:4名,女性:9名;平均年齢:34.5歳)および正常人8名16眼(男性:4名,女性:4名;平均年齢:36歳)を対象に送風機を用い風に10分間曝露させた.曝露前後でMBI,瞬目回数測定,涙液層破壊時間(BUT),角膜知覚を施行した.また,MBIとBUTの差(MBD)との関連についても検討した.結果:風負荷後では正常人においてMBIの有意な差を認めなかったがドライアイ群ではMBI値が有意に低下した(p<0.01).MBDにおいて正常人に有意な変化がなかったが(p=0.19)ドライアイ群では有意差を認めた(p<0.0002).結論:MBIおよびMBDはドライアイ診療のパラメータとして乾燥環境が眼表面および涙液機能に及ぼす影響の評価に有用であると考えられた.Toevaluatetheinfluenceofadryenvironmentontearfunctions,weemployedthe“maximumblinkinterval”(MBI)andassessedtheusefulnessofMBIasadry-eyeexaminationmethod.Inthisstudy,weexposed26eyesof13probabledryeyepatientsand16eyesof8normal,healthycontrolsubjectswithoutdryeyestowind.Ineachsubject,MBI,blinkfrequency,andtear-filmbreakuptime(BUT)wasexaminedandCochet-Bonnetcornealesthesiometrywasperformed.WealsoexaminedtheMBI-BUTdifference(MBD)ineachsubject.Ourfindingsshowedthatwithexposuretowind,theMBIdidnotchangeinthenormalcontrolsubjectsbutsignificantlydecreasedinthedry-eyepatients(p<0.01).MBDsignificantlydecreasedinthedry-eyepatients(p<0.0002),yetnosignificantchangeswereobservedinthenormalcontrolsubjects(p=0.19).ThefindingsofthisstudyshowthatMBIandMBDcanbeusefulexaminationparametersfortheevaluationoftheeffectsofexposuretoadryenvironmentontearfunctionsandtheocularsurface.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(9):1345.1348,2015〕Keywords:最大開瞼時間,乾燥環境,涙液.maximumblinkinterval,dryenvironment,tears.はじめにとも指摘されているが,臨床応用可能な検査法はなかった.ドライアイでは自覚症状と他覚症状が相関しない症例がし筆者らは最大開瞼時間(maximumblinkinterval:MBI)ばしばみられる.この相違には角結膜知覚が関連しているこおよびMBIと涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)の差〔別刷請求先〕鳥山直樹:〒272-8513千葉県市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科Reprintrequests:NaokiToriyama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeIchikawaGeneralHospital,5-11-13Sugano,Ichikawa,Chiba272-8513,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(117)1345 (MBI-BUTdifference:MBD)が角結膜知覚と関連すると推測し,ドライアイ診療において簡便に施行可能な指標として有用であると考えている.MBIは1997年に中森らによって初めて提唱された1).MBIに関しては今回が初めての論文報告となる.これまで人工的に乾燥環境を負荷するcontrolledadversechamberenvironment(CACE)を用いた研究が知られている.湿度や温度,送風などの乾燥環境負荷により,自覚症状や涙液蒸発量,BUT,染色スコアなどの涙液機能に関するパラメータを悪化させ,その変化の程度で薬剤やコンタクトレンズのドライアイに対する作用を調べるといったものである2.4).今回,筆者らは,同一湿度,温度下の環境で,送風負荷を一定時間行うことで乾燥負荷を与え,ドライアイと正常人の比較を行うこととした.比較を行ううえでのパラメータとして,MBIおよびMBDを利用し,送風負荷による乾燥環境が涙液機能に与える影響とその評価法としての有用性を検討した.I対象および方法対象は日本ドライアイ研究会診断基準にてドライアイ疑い例と診断された13名26眼(男性:4名,女性:9名)で,平均年齢は34.5歳であった.また,全身疾患,眼疾患,眼科手術歴,点眼使用とマイボーム腺機能不全を有しない正常人8名16眼(男性:4名,女性:4名)をコントロール群とした.正常人の平均年齢は36歳であった.下記の①から⑧の順でMBIを含む眼科学的な検査を行った.また,同一環境下で一定の風速による風負荷を試行した直後に①から⑧の検査を再度行った後,Schirmer試験を最後に行った.検査はドライアイワークショップの指針2)に従い,侵襲性の低いものから順に行った.①VisualAnalogScaleによる各症状の評価乾燥感,眼精疲労,異物感に関して,100点満点のVisualAnalogScaleで評価した.0点を症状がもっとも軽いとして,もっとも耐えがたい状態を100点とした.②瞬目回数1分間の瞬目回数を調べた.測定は被験者に瞬目を意識させずに行い,3回計測し平均値を求めた.③涙液蒸発量TEROSRを用いて,涙液蒸発量を測定した5).装置を被験者の顔に密着させ3回測定し,平均値を求めた.④最大開瞼時間(MBI)無理をしない程度にできるだけ開瞼させ,眼不快感が出現したときに閉瞼してもらい,開瞼の持続時間を測定した.測定は同一環境下で行い,温度は27℃,湿度は42%であった.開瞼の際は5m先の視標を見てもらった.測定は送風前後1346あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015で1回ずつ測定を行った.⑤涙液貯留量検査ストリップメニスコメトリーを用いて,涙液の貯留量を測定した.ストリップメニスコメトリーはメニスカスの定量に有用である6).⑥涙液層破壊時間の検査(BUT)1μlの1%フルオレセインナトリウム染色液を球結膜6時方向より滴下し,まばたきをさせた.その直後,開瞼から涙が破壊しはじめる時間を測定した.細隙灯顕微鏡を用いて,涙液層が破綻するまでの時間を3回測定し,その平均値を求めた.5秒以下をドライアイ陽性所見とした7).⑦フルオレセイン生体染色BUT測定1分後に角膜上皮におけるフルオレセイン染色の程度を評価した.9点満点で評価し,3点以上をドライアイ陽性所見とした8).⑧角膜知覚検査Cochet-Bonnet知覚計を用いて,角膜知覚を評価した.以上,①.⑧の順に検査を試行し,下記の条件で送風負荷を行った.送風負荷5m先の指標を固視したうえで送風負荷を行った.送風曝露時間は10分とし,風速は7m/secとした.温度は27℃,湿度は42%であった.送風負荷後すぐに再度①.⑦の順に検査を再度試行した後,Schirmer試験I法を行った.各検査項目の統計解析はWilcoxonの符号付順位和検定を行った.有意水準は両側1%とした.II結果異物感自覚症状スコアは,送風前後において,ドライアイ疑い群は有意に増加している(p<0.01)が,正常人においては有意差がみられなかった.涙液蒸発量は,ドライアイ疑い群において有意な増加がみられた(p<0.01).涙液貯留量は,ドライアイ疑い群,正常人ともに有意差がなかった(p>0.01).平均BUT値はドライアイ群では有意に短縮したが(p<0.0003),正常人では有意差がなかった(p=0.06).フルオレセイン染色スコアの比較においては,ドライアイ疑い群も正常群も有意差がなかった(p>0.01).正常人においてMBIの有意な差を認めなかったが,ドライアイ群ではMBI値が有意に低下した(p<0.01).MBDにおいて正常人に有意な変化がなかったが(p=0.19),ドライアイ群では有意差を認めた(p<0.0002).瞬目回数は正常人ならびにドライアイ例では有意に増加した(p<0.01).角膜知覚はドライアイ群では有意に低下したが(p<0.002),正常人では変化を認めなかった(p>0.05).以上の結果を表1に示し,有意差についての結果のまとめを表2に示す.(118) 表1送風負荷前後でのドライアイ群および正常人における各パラメータ変化ドライアイ群ドライアイ群送風前後での有意差正常人正常人送風前後での有意差異物感スコア(%)13.8±6.31.2±3.529.6±11.3p<0.0116.2±27.2p>0.01閉瞼回数(回/分)22.4±8.339.1±16.4p<0.0128±1236.8±15.7p<0.01涙液蒸発量3.8±3.66.1±4.0(10.7g/cm2/秒)10.1±6.2p<0.017.4±4.0p>0.01MOT(秒)27.5±3.07.6±4.0p<0.0124.6±15.314±10.6p>0.01涙液貯留量(mm)1.4±1.21.5±1.1p>0.012.6±1.93.2±2.5p>0.01BUT(秒)4.7±1.83.5±1.1p<0.00037.6±2.06.1±1.8p=0.06フルオレセイン0.19±0.560.06±0.25スコア(点)0.3±0.6p>0.010.12±0.34p>0.01角膜知覚(mm)58.6±2.255.3±3.7p<0.00259.3±1.759.2±1.7p>0.05MBD(秒)27±153.9±4.1p<0.000217±167.9±9.2p=0.19III考按今回の研究において,送風負荷前後において正常人で有意に変化したのは瞬目回数のみであったが,ドライアイ群では,瞬目回数,異物感スコア,涙液蒸発量が増加し,角膜知覚,BUT,MBI,MBDが有意に減少していた.送風負荷後に瞬目回数が増えたのは,乾燥環境に対する代償作用であり3),眼表面の刺激を増すことにより瞬目回数が増加した1)と考えられた.ドライアイ群では,瞬目回数の他にMBI,MBDを含む7個のパラメータの変化を認め,正常人よりも乾燥環境の影響を受けやすいことが示唆された.ドライアイ群において,乾燥負荷により角膜知覚が低下したにもかかわらず,異物感スコアは増加している.これは,異物感スコアが,Cochet-Bonnet知覚計によって測定される角膜の痛覚だけでなく,温度感覚や浸透圧変化などによって生じる複合的な角結膜知覚を反映するためと思われる.また,正常人よりも知覚過敏状態にあると思われるドライアイ群では,乾燥環境を負荷することで,正常人より多くの反射性分泌が生じ,涙液の分泌量が増えたものと考えられる.涙液の分泌量は増えたが,涙液蒸発量も亢進したため,涙液貯留量にはさほど変化を及ぼさなかった.また,今回の実験では送風による乾燥負荷の時間が短時間であったこと,そして,今回の実験でのドライアイ群にはもともと角膜上皮障害の少ないタイプが多かったため,送風前後においてフルオレ(119)表2送風負荷前後でのドライアイ群および正常人における各パラメータ変化と有意差瞬目回数異物感スコア涙液蒸発量涙液貯留染色スコア角膜知覚BUTMBIMBDドライアイ群正常人↑↑↑→↑→→→→→↓→↓→↓→↓→送風前後で↑:有意差を認めて増加→:有意差なし↓:有意差を認めて低下セイン染色スコアに有意差が生じなかったと考えられる.より長時間の負荷を与えた場合,送風前後において,すべてのパラメータに変化が生じた可能性もあると思われた.MBIおよびMBDは,フルオレセイン染色や涙液貯留量の変化としてとらえることのできない程度の乾燥負荷を反映して変化すると推測される.乾燥環境負荷など眼表面の刺激が増えることにより,瞬目回数が増え,逆にMBIは減少すると中森らはすでに指摘している1)が,今回の実験ではドライアイ群ではそのとおりになったものの正常人ではMBIの有意な変化がなかった.まあたらしい眼科Vol.32,No.9,20151347 た,ドライアイ群の乾燥負荷前後の変化量については,瞬目回数の変化よりも,MBIとMBD,とくにMBDの変化量が著しかった.このことは,おそらくドライアイ群の痛覚を除く複合的な角結膜知覚が正常人よりも過敏であることがMBIそしてとくにMBDにおいて,鋭敏に反映されたものと思われる.ドライアイ群において乾燥負荷前後で変化量がもっとも多いパラメータはMBDであり,その次にMBIであった.このことはMBIおよびとくにMBDが自覚症状と他覚症状が相関しないドライアイ症例において,両者をつなぐ有用な検査法であることを示唆している.今回の臨床研究により,最大開瞼時間(MBI)および最大開瞼時間と涙液破壊時間の差(MBD)はドライアイ患者の複合的な角結膜知覚を鋭敏に反映する指標であると考えられた.文献1)NakamoriK,OdawaraM,NakajimaTetal:Blinkingiscontrolledprimarilybyocularsurfaceconditions.AmJOphthalmol124:24-30,19972)ReportoftheClinicalTrialsSubcommitteeoftheInternationalDryEyeWorkShop:Designandconductofclinicaltrials.OculSurf5:153-162,20073)KojimaT,MatsumotoY,IbrahimOMetal:Effectofcontrolledadversechamberenvironmentexposureontearfunctionsinsiliconhydrogelandhydrogelsoftcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci52:8811-8817,20114)OuslerGW3rd,AndersonRT,OsbornKEetal:TheeffectofsenofilconAcontactlensescomparedtohabitualcontactlensesonoculardiscomfortduringexposuretoacontrolledadverseenvironment.CurrMedResOpin24:335-341,20085)EndoK,SuzukiN,HoshiMetal:Theevaluationofepoxyresincoatedquartzcrystalhumiditysensorandthemeasurementofwaterevaporationfromhumansurfaces.JSurfFinishSocJpn52:708-712,20016)DogruM,IshidaK,MatsumotoYetal:Stripmeniscometry:anewandsimplemethodoftearmeniscusevaluation.InvestOphthalmolVisSci47:1895-1901,20067)KaidoM,IshidaR,DogruMetal:Efficacyofpunctumplugtreatmentinshortbreak-uptimedryeye.OptomVisSci85:758-763,20088)GotoE,EndoK,SuzukiAetal:Tearevaporationdynamicsinnormalsubjectsandsubjectswithobstructivemeibomianglanddysfunction.InvestOphthalmolVisSci44:533-539,2003***1348あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(120)