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非典型的な特徴がみられた間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の 2 症例

2022年5月31日 火曜日

《第54回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科39(5):655.659,2022c非典型的な特徴がみられた間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の2症例田口諒*1武島聡史*1御任真言*1齊間至成*1空大将*2竹内大*2梯彰弘*1蕪城俊克*1*1自治医科大学附属さいたま医療センター眼科*2防衛医科大学校眼科学教室CTwoCasesofTubulointerstitialNephritisandUveitisSyndromeWithanAtypicalCourseRyoTaguchi1),SatoshiTakeshima1),ShingenMito1),YoshinariSaima1),DaisukeSora2),MasaruTakeuchi2),AkihiroKakehashi1)andToshikatsuKaburaki1)1)DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalCenter,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollegeC目的:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(TINU)は若年女性に多い疾患である.今回,非典型的な特徴がみられたTINU症候群のC2例を経験したので報告する.症例:症例C1はC38歳,男性.10日前から右眼視力低下.矯正視力右眼0.3.右眼前房内細胞C4+,微塵様角膜後面沈着物,視神経乳頭発赤を認め,血清クレアチニンC5.6Cmg/dl,尿中Cb2MG45,000Cμg/lと高値,腎生検で尿細管間質性腎炎と診断された.ステロイド内服によりぶどう膜炎,腎障害は改善した.症例C2はC15歳,女性.8年前に両眼ぶどう膜炎を発症.尿中Cb2MG400Cμg/l高値からCTINU症候群と診断され,ステロイド点眼を継続していた.自治医科大学附属さいたま医療センター初診時の矯正視力両眼C1.2.両眼前房内細胞C1+,白色小型角膜後面沈着物,蛍光眼底造影で両眼炎症に伴う網膜新生血管がみられた.両眼トリアムシノロンCTenon.下注射を行い,炎症所見は消失し,新生血管の軽減がみられた.結論:症例C1は男性で壮年発症である点,症例C2は網膜新生血管を認めた点がCTINU症候群としては非典型的である.CPurpose:TubulointerstitialCnephritisCanduveitis(TINU)syndromeCisCcommonCinCyoungCwoman.CHereCweCreporttwocasesofTINUwithanatypicalcourse.CaseReports:Case1involveda38-year-oldmalewithongo-inglossofvisioninhisrighteyefrom10yearspriortopresentation.Uponexamination,thebest-correctedvisualacuity(BCVA)inhisrighteyewas0.3,and4+cellsintheanteriorchamber,.nekeraticprecipitates(KPs)C,andrednessoftheopticdiscwasobserved.Hisserumcreatininewas5.6Cmg/dl,hisratioofurinaryb2-microglobulin(b2-MG)wasC45000Cμg/l,CandCaCrenalCbiopsyCrevealedCTINU.CTreatmentCwithCoralCsteroidsCimprovedCtheCuveitisCandnephropathy.Case2involved15-year-oldfemalewhobecamea.ictedwithbilateraluveitis8yearspriortopresentation.ShewasdiagnosedwithTINUbasedonthehighratioofurinaryb2-MG(400Cμg/l)C,andunderwentsteroidCinstillationCforCtreatment.CHerCBCVACwasC1.2,CandC1+cellsCinCtheCanteriorCchamberCandCsmallCwhiteCKPsCwereobservedinbotheyes.Moreover,.uoresceinangiography(FA)examinationrevealedbilateralretinalneovas-cularizationCaroundCtheCopticCdisc.CBinocularCsub-Tenon’sCtriamcinoloneCacetonideCinjectionsCimprovedCtheCuveitisCandreducedtheleakagesobservedonFA.Conclusion:ThestudyinvolvedamaleTINUpatientinwhomdiseaseonsetoccurredatclosetomiddleage,andafemaleTINUpatientwithretinalneovascularization,whichareatypi-calTINUcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(5):655.659,C2022〕Keywords:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群,尿中Cb2ミクログロブリン,腎生検,壮年発症,網膜新生血管.tubu-lointerstitialnephritisanduveitis(TINU)syndrome,urinaryb2microglobulin(Cb2MG)C,renalbiopsy,middleageConset,retinalneovascularization.C〔別刷請求先〕田口諒:〒330-8503埼玉県さいたま市大宮区天沼町C1-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:RyoTaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalCenter,JichiMedicalUniversity,1-847CAmanuma-cho,Omiya-ku,Saitama-shi,Saitama330-8503,JAPANC図1症例1の初診時右眼所見a:右眼前眼部写真.右眼に毛様充血,前房内細胞C4+,フレアC3+,.neKP,フィブリンの析出を認め,非肉芽腫性ぶどう膜炎の所見であった.b:右眼眼底写真.右眼眼底に硝子体混濁C2+,視神経乳頭発赤を認めた.図2症例1の腎生検病理写真間質においてリンパ球主体の炎症細胞浸潤をびまん性に認め,急性間質性腎炎と診断された.はじめに間質性腎炎ぶどう膜炎(tubulointerstitialCnephritisCanduveitis:TINU)症候群は,急性間質性腎炎(acuteCtubuloin-terstitialnephritis:AIN)にぶどう膜炎が合併する疾患で,わが国のぶどう膜炎初診患者のC0.5%を占め1),65%は腎炎がぶどう膜炎に先行するとされている2).好発年齢はC15歳以下で小児ぶどう膜炎のC5.7%を占め,女性,両眼性が多く,肉芽腫性・非肉芽腫性はどちらもありうるとされている3).通常,急性の虹彩毛様体炎として発症し,炎症が強い場合は硝子体混濁,視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜血管炎,網膜浮腫をきたす3).今回,非典型的な特徴がみられたTINU症候群のC2例を経験したので報告する.I症例[症例1]38歳,男性.主訴:右眼痛,流涙,視力低下.既往歴:特記事項なし.現病歴:2020年C3月C1日より右眼の違和感,流涙,刺すような痛みを自覚し,一晩で視界がぼやけるようになった.3月C6日に近医で右眼ぶどう膜炎を指摘され,3月C11日に精査加療目的に自治医科大学附属さいたま医療センター(以下,当院)眼科を紹介受診となった.初診時,視力は右眼C0.1(0.3C×sph.2.50D(cyl.1.00DAx90°),左眼C0.2(1.2C×sph.1.75D).眼圧は右眼21mmHg,左眼C17CmmHg.右眼は毛様充血,前房内細胞C4+,フレアC3+,微塵様角膜後面沈着物,フィブリンの析出を認め,非肉芽腫性ぶどう膜炎の所見であった(図1a).左眼には炎症所見は認めなかった.眼底は,右眼硝子体混濁C2+,視神経乳頭発赤を認めた(図1b).左眼眼底は異常を認めなかった.OCTでは,両眼異常を認めなかった.腎機能が悪かったため,蛍光眼底造影は施行しなかった.OCTCanigi-ographyでは,両眼後極部の網膜血管に異常所見を認めなかった.この時点で鑑別診断として,中間部ぶどう膜炎で非肉芽腫性,片眼性,急性の経過であることから,急性前部ぶどう膜炎,HLA-B27関連ぶどう膜炎,Behcet病,炎症性腸疾患や乾癬に伴うぶどう膜炎などを考えた.治療として右眼デキサメタゾン結膜下注射C1.2Cmg/0.3Cmlを行い,0.1%ベタメタゾンC8回点眼,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩C3回点眼を開始した.ぶどう膜炎の鑑別に関する血液検査では,BUNC29Cmg/C図3症例2の初診時両眼眼底写真両眼視神経乳頭周囲に新生血管と網膜滲出斑を認めた.図4症例2の初診時蛍光眼底造影両眼ともびまん性に毛細血管からの蛍光漏出がみられ,視神経乳頭の周囲に新生血管が多発していた.無血管領域はなく,炎症性の新生血管と考えられた.dl,クレアチニンC5.68Cmg/dlと高度の腎障害がみられ,尿検査では尿中Cb2ミクログロブリン(Cb2MG)がC45,000Cμg/lと高値で近位尿細管障害が考えられた.この時点でCTINU症候群を疑い,3月C25日に当院腎臓内科で腎生検が行われた.糸球体基底膜やメサンギウム領域の変化は目立たないが,近位尿細管上皮内へのリンパ球浸潤と間質においてリンパ球主体の炎症細胞浸潤がびまん性にみられ,AINと診断された.それを受けて眼科ではぶどう膜炎をCTINU症候群と診断した(図2).間質性腎炎に対する治療として腎臓内科でプレドニゾロン(PSL)40mg/日内服が開始された.PSL内服開始からC4週間後には右眼矯正視力C1.2となり,前房内炎症,硝子体混濁は消失し,視神経乳頭発赤も改善した.その後,1年間経過観察し,再燃を認めない.腎機能に関しては,PSL40mg/日内服1週間でクレアチニン5.68mg/dlからC2.53Cmg/dlまで改善し,その後CPSLを漸減しながら,1年間内服した結果,クレアチニンC1.34Cmg/dlまで低下した.最終観察時においてCPSL3Cmg/日を内服しており,再燃を認めない.[症例2]15歳,女性.主訴:加療目的.既往歴:特記事項なし.現病歴:2013年C5月に両眼ぶどう膜炎を指摘され,近医でステロイド点眼治療を受けていた.2018年C1月に防衛医科大学校病院眼科を紹介初診し,尿中Cb2MG400Cμg/lと高図5症例2の治療開始6カ月後の蛍光眼底造影毛細血管からの蛍光漏出と網膜新生血管の軽減がみられた.値からCTINU症候群と診断されたが,通院上の理由のため,2020年C12月当院を紹介初診した.初診時,視力は右眼C1.2(n.c.),左眼C1.0(1.2C×sph+1.00D(cyl.1.25DAx10°).眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHg.両眼前房内細胞C1+,フレアC1+,白色小型角膜後面沈着物と虹彩後癒着を認めた.眼底は,両眼視神経乳頭周囲に網膜新生血管と網膜滲出斑を認めた(図3).蛍光眼底造影では,両眼びまん性に毛細血管からの蛍光漏出がみられ,視神経乳頭の周囲に網膜新生血管が多発していた.無血管領域はなく,炎症性の新生血管と考えた(図4).ぶどう膜全検の血液検査では,BUN12Cmg/dl,クレアチニンC0.58Cmg/dlと正常であったが,尿中Cb2MG298Cμg/lと高値であり,TINU症候群と矛盾しない結果であった.当院腎臓内科に紹介し,腎臓に関しては尿細管障害が軽微なため,経過観察の方針となった.治療として両眼C0.1%ベタメタゾンC4回点眼,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩C1回点眼を行った.その後,初診時からC3カ月後に網膜新生血管に対して両眼トリアムシノロンCTenon.下注射を行った.初診時からC6カ月後,最終観察時では,炎症所見は消失しており,蛍光眼底造影でも毛細血管からの蛍光漏出と網膜新生血管の軽減がみられた(図5).CII考按TINU症候群は,AINに両眼性急性前部ぶどう膜炎が合併した疾患として,1975年にCDobrinらによって初めて報告された2).発症年齢の中央値はC15歳で,男女比はC1:3と女性に多い疾患であり,発生頻度に人種や民族間で差はないとされている3,4).原因に関しては,HLA-DRB1*0102対立遺伝子やCFOXP3+Tregulatorylymphocytes(T-reg)の関与といった遺伝的背景に加え,Epstein-BarrウイルスやCChla-mydiatrachomatisなどの先行感染,非ステロイド抗炎症薬や抗菌薬などの薬剤性についていくつか報告されているが,正確な原因の特定には至っていない4).TINU症候群のC65%は,AINがぶどう膜炎に先行するが,20%はぶどう膜炎がAINに先行し,15%は両者が同時に発症するとされている4).ぶどう膜炎は,両眼性(77%)が多く,肉芽腫性・非肉芽腫性はどちらもありうるとされており,通常,急性の虹彩毛様体炎として発症し,炎症が強い場合は硝子体混濁,視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜血管炎,網膜浮腫をきたす3).症例C2でみられた網膜新生血管に関しては,Koreishiらが,TINU症候群と診断された患者C17例のうちC1例(6%)に視神経乳頭部の新生血管と硝子体出血がみられたと報告しており5),TINU症候群に網膜新生血管を伴う症例は少ないと思われる.眼症状は,眼痛と充血(77%),視力低下(20%),羞明(14%)などを呈し3),全身症状は,発熱(53%),体重減少(47%),全身倦怠感(44%),食思不振(28%),筋肉痛(28%),腹部・側腹部痛(28%)などを呈する.血液検査ではCBUN,クレアチニンの上昇に加え,血沈亢進(89%),貧血(96%)を認め,尿検査では尿中Cb2MG上昇のほか,低レベルの蛋白尿(86%)を認める2).TINU症候群の診断基準(表1)は,2001年にCMandevilleらによって報告された3).AINが組織診断か臨床診断か,およびぶどう膜炎が典型的か非典型的かの組み合わせで,「確定例」,「ほぼ確実例」,「疑い例」に診断される.AIN組織診断は,腎生検で尿細管間質性腎炎像を呈するかどうかで診断される.AIN臨床診断は,表1にあるように,腎機能障害,尿検査異常,2週間以上持続する全身症状と検査値異常のC3項目すべてを満たせば完全型臨床診断群,2項目以下で表1TINU症候群の診断基準(文献C3より抜粋)TINU症候群の診断基準確定診断(de.nite)AIN組織診断群またはCAIN完全臨床診断群(※1)+典型ぶどう膜炎(※2)ほぼ確実(probable)AIN組織診断群+非典型ぶどう膜炎またはAIN不全型臨床診断群+典型的ぶどう膜炎疑い(possible)AIN不全型臨床診断群+非典型ぶどう膜炎※C1CAIN臨床診断群:以下C3項目すべてを満たすものを「完全型」,2項目以下のものを「不全型」と診断する.1.腎機能障害:血清クレアチニン上昇,クレアチニンクリアランス低下.2.尿検査異常:Cb2MG上昇,ネフローゼ症候群よりも軽度の蛋白尿(尿蛋白C2+以下,尿蛋白/尿クレアチニン比<3.0Cg/gクレアチニン,大人で蛋白尿<3,0g/日,小児で蛋白尿<3.5Cg/1.73CmC2/日),尿中好酸球,感染のない膿尿または血尿,白血球円柱,糖尿病のない尿糖.3.以下の症状(Ca)と検査異常(Cb)がC2週間以上続く.(a)発熱,体重減少,食欲不振,倦怠感,(側)腹痛,関節痛,筋肉痛,発疹.(b)貧血,肝機能異常,好酸球増加,赤沈≧40mm/hr.※C2ぶどう膜炎:以下C2項目すべてを満たすものを「典型的」,1項目以下のものを「非典型的」と診断する.1.両眼性前部ぶどう膜炎(中間部,後部ぶどう膜炎の合併を問わない).2.発症時期がCAIN発症のC2カ月前.12カ月後までの間に存在する.あれば不全型臨床診断群となる.同様に,ぶどう膜炎は,両眼性前部ぶどう膜炎(中間部,後部ぶどう膜炎の合併を問わない)かつ発症時期がCAIN発症のC2カ月以前.12カ月以後までの間に存在する場合を典型的,それ以外の場合を非典型的と診断する3,4).症例C1は腎生検陽性であったが,ぶどう膜炎が非典型的なので「ほぼ確実例」となる.症例C2は,腎生検は行われておらず,ぶどう膜炎と腎症の発症時期にC5年間の開きがあるため,ぶどう膜炎が非典型的であり,診断としては「疑い例」となる.腎障害は,TINU症候群を疑う重要な根拠となるため,ぶどう膜炎初診患者にはスクリーニング検査として血液検査(BUN,クレアチニン)と尿検査を行い,腎機能が悪いとわかった時点でCTINU症候群の可能性を考えて尿中Cb2MGを測定し,尿中Cb2MG高値ならばTINU症候群確定診断のために腎生検含め,腎臓内科にコンサルトするべきであると考える3).治療成績に関しては,Mandevilleらは過去に報告されたTINU症候群C133例をCreviewして報告している.それによると,ぶどう膜炎に対してはステロイド点眼に加え,80%にステロイド内服治療が行われていた.治療の反応は良好だが,41%でぶどう膜炎の再発がみられ,14%でぶどう膜炎がC3カ月以上遷延した.ぶどう膜炎再発例にはステロイド点眼に加え,プレドニゾロン内服,免疫抑制薬(アザチオプリンなど)が使用されていた.腎障害については,ステロイド内服に反応良好で,自然回復例もあるとされている.腎炎の再発はまれで,腎不全はC8.3%のみと報告されている3).今回,症例C1は男性で比較的高齢発症であること,症例C2は網膜新生血管を認めた点がCTINU症候群としては非典型的であった.TINU症候群はわが国のぶどう膜炎初診患者の0.5%と頻度が低い疾患であるが,早期に診断してステロイド全身投与を行わないと腎不全となる可能性がある.しかし,TINU症候群には今回のC2例のような非典型的な症例もあり,TINU症候群を眼所見だけから推測することは困難である.したがって,TINU症候群を見落とさないためにも,ぶどう膜炎の鑑別に関する血液検査には腎機能検査を含めるべきであると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SonodaCKH,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJOphthalmol65:184-190,C20212)DobrinCRS,CVernierCRL,CFishAL:AcuteCeosinophilicCinterstitialnephritisandrenalfailurewithbonemarrow-lymphnodegranulomasandanterioruveitis.Anewsyn-drome.AmJMedC59:325-333,C19753)MandevilleCJT,CLevinsonCRD,CHollandGN:TheCtubuloint-erstitialCnephritisCandCuveitisCsyndrome.CSurvCOphthalmolC46:195-208,C20014)AmaroD,Carren.oE,SteeplesLRetal:TubulointerstitialnephritisCanduveitis(TINU)syndrome:aCreview.CBrJOphthalmolC104:742-747,C20205)KoreishiCAF,CZhouCM,CGoldsteinDA:TubulointerstitialCnephritisCandCuveitissyndrome:CharacterizationCofCclini-calfeatures.OculImmunolIn.ammC29:1312-1317,C2020

TINU症候群が疑われた3歳児に発症した両眼性ぶどう膜炎

2015年5月31日 日曜日

《第48回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科32(5):721.724,2015cTINU症候群が疑われた3歳児に発症した両眼性ぶどう膜炎髙木誠二*1,2昌原英隆*2江口秀一郎*2富田剛司*1藤野雄次郎*3*1東邦大学医療センター大橋病院眼科*2江口眼科病院*3JCHO東京新宿メディカルセンター眼科ACaseofTubulointerstitialNephritisandUveitisSyndromeina3-Year-OldInfantSeijiTakagi1,2),HidetakaMasahara2),ShuichiroEguchi2),GojiTomita1)andYujiroFujino3)1)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityMedicalCenterOohashiHospital,2)EguchiEyeClinic,3)JapanCommunityHealthCareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter目的:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(tubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome:TINU症候群)が疑われた3歳男児を経験したので報告する.症例:初診時,左眼に強い前房内炎症と前房畜膿および虹彩後癒着を認めた.右眼は虹彩後癒着がみられた.眼圧は正常で中間透光体や眼底に異常は認めなかった.尿中b2ミクログロブリン(b2MG)5,100mg/mlと高値であったが,その他の腎機能は正常範囲であった.腎生検は行わなかったが,両眼の前部ぶどう膜炎と尿中b2MG高値がみられ,他疾患を疑う所見がないことからTINU症候群が疑われた.結論:本症候群では腎機能障害がない,とくに小児例では腎生検が行われないことが多く臨床的診断が重要となる.本症もMandevilleらの診断基準に従い可能性例として臨床診断した.TINU症候群では全身症状がないことや尿所見が正常なことも多く,小児のぶどう膜炎では尿中b2MGの測定は重要である.Purpose:Toreportapossiblecaseoftubulointerstitialnephritisanduveitis(TINU)syndromeina3-yearoldinfantmale.CaseReport:Thepatientvisitedourhospitalwithbilateralanteriorchamberinflammationandposteriorsynechia,aswellashypopyoninhislefteye.Onlaboratoryexamination,onlyanelevatedurinarylevelofb2-microgloblin(5,100μg/ml)wasobserved,withoutanyotherrenalinsufficiency.Moreover,additionallaboratorydataexcludedotherdiseasesknowntocauseuveitisandinterstitialnephritis.HewassubsequentlydiagnosedasapossiblecaseofTINUsyndromeaccordingtodiagnosticcriteriaofMandeville.Conclusions:Thefindingsofthisstudyshowthatclinicaldiagnosisisveryimportant,asitisdifficulttoperformarenalbiopsycaseswithoutrenalinsufficiency,especiallyininfantcases.Monitoringofb2-microgloblinshouldbeperformedwhenfollowinganinfantcaseofuveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(5):721.724,2015〕Keywords:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群,b2MG,前房畜膿,小児ぶどう膜炎.TINUsyndrome,b2MG,hypopyon,uveitisinchildhood.はじめに間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(tubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome:TINU症候群)とは尿細管間質性腎炎にぶどう膜炎を合併した疾患群で,1971年にDubrinらにより初めて報告された1).本症は高年齢でも発症するが比較的小児に発症することが多く,思春期にぶどう膜炎をきたす疾患のなかでは決してまれな疾患ではないとされている2).しかしながら10歳以下での報告はまれである3).今回,筆者らはTINU症候群が疑われる前房畜膿を伴う3歳児の症例を経験したので報告する.I症例患者は3歳,男子.「左眼の黒目の下半分が白い」と母親が気づき,近医を受診したところ,前房畜膿の診断を受け,精査目的にて2013年4月に江口眼科病院を紹介受診した.患児は出生発達に異常なく,既往歴もない.家族歴も特記す〔別刷請求先〕高木誠二:〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科Reprintrequests:SeijiTakagi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityMedicalCenterOohashiHospital,2-17-6Oohashi,Meguro-ku,Tokyo153-8515,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(111)721 図1初診時前眼部所見左:右眼.フレア1+,細胞2+,虹彩後癒着(5,7時)を認めた.右:左眼.フレア3+,細胞3+,前房畜膿を認めた.表1おもな全身検査所見血液検査所見RBC450104/μlWBC6.6103/μlPLT27.9104/μlCRP0.00mg/dlBUN6.8mg/dlCr0.26mg/dlリゾチーム16.1μg/mlACE20.4IU/ml赤沈1h8mm抗核抗体40未満IgG1,104mg/dlIgA80mg/dlIgM134mg/dl血清補体価39.5CH50U/mlC3110mg/dlC420mg/dlトキソプラズマ抗体陰性HSV1抗体陰性サイトメガロウイス抗体陰性EBVCA抗体陰性尿一般検査PH7.5蛋白(.)糖(.)白血球(.)ウロビリノゲン(.)ビリルビン(.)ケトン体(.)比重1.008b2MG5,100μg/mlRBC:赤血球,WBC:白血球,PLT:血小板,CRP:C反応性蛋白,BUN:血中尿素窒素,Cr:クレアチン,ACE:アンジオテンシン変換酵素,IgG:免疫グロブリンG,HSV:単純ヘルペスウイルス,EBVCA:EBウイルスの外殻抗原722あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015べきことはない.初診時所見:眼位は正位で,眼球運動に制限はなかった.屈折値は右眼+1Dcyl.0.25D153°,左眼+1Dcyl.0.25D2°で矯正視力は測定できなかったが,裸眼視力は両眼とも0.4であった.眼圧は小児のため測定不可であったが,触診法にて正常域であった.左眼に軽度の結膜充血を認めた.両眼とも角膜に微細な角膜後面沈着物と虹彩後癒着を認めた.瞳孔反応は制限があった.右眼は軽度のフレアと2+の細胞(図1a),左眼は強いフレア,3+の細胞と前房畜膿を認めた(図1b).隅角検査は施行できなかった.水晶体および硝子体には異常はなかった.眼底は倒像鏡検査にてとくに大きな変化を認めず,蛍光眼底造影は行わなかった.血液生化学検査(表1)では白血球増多はなく,LDH(lactasedehydrogenase)の軽度上昇を認めた.BUN(bloodureanitorgen)およびクレアチニンは正常範囲内であった.免疫グロブリンも正常値であった.血清補体価も正常範囲内で,抗核抗体,抗トキソプラズマ抗体,抗HTLV1(humanT-lymphotropicvirus1)抗体,抗サイトメガロウイルス抗体も陰性であった.尿検査では蛋白および糖などは認めなかったが,b2ミクログロブリン(b2MG)は5,100μg/ml(正常値:230μg/ml以下)と高値を示した.24時間クレアチニンクリアランスは正常範囲内であった.胸部X線写真ではとくに異常なく,発熱や食欲不振などの先行する全身症状も認めなかった.治療経過:0.1%ベタメタゾンとトロピカミド・フェニレフリン点眼にて治療を開始した.治療開始3週間後に左眼の前房畜膿は消失したが,炎症の増加を何度か認め前房内フレアの消失には半年を要した.その後,眼症状の再燃はない.視力もしだいに上昇し,2013年11月に両眼矯正0.6,2014年3月の時点で両眼矯正1.0であった.全身的には,その後もb2MG高値が持続しており,近位(112) 表2MandevilleらによるTINU症候群の診断基準DifiniteTINU症候群病理組織学的もしくは臨床診断基準(completecriteria)を満たしたAINと,typicalぶどう膜炎ProbableTINU症候群臨床的診断基準(incompletecriteria)を満たしたAINとtypicalぶどう膜炎PossibleTINU症候群臨床的診断基準(incompletecriteria)を満たしたAINとatypicalぶどう膜炎間質性腎炎の診断基準病理組織学的診断:腎生検で尿細管間質腎炎がみられる臨床的診断:ぶどう膜の特徴Completecriteria:下記の3項目を満たすものTypicalIncompletecriteria:1あるいは2項目を満たす1.両眼性の前部ぶどう膜炎1.腎機能異常2.間質性腎炎発症の前2.後12カ月の間にCreの上昇,Creクリアランスの上昇発症2.尿検査異常b2MGの増加Atypical軽度の蛋白尿,好酸球尿3.2週間以上持続する全身の病的状態1.片眼の前,中間部,後部ぶどう膜炎2.間質性腎炎発症の前2.後12カ月の間にa:症状:発熱,体重減少,食欲不振発症倦怠感,易疲労,発疹,関節痛b:検査項目:貧血,肝機能障害好酸球増多症,血沈40mm/hr以上尿細管障害をきたしている間質性腎炎の状態が考えられたが,b2MG以外の腎機能検査では異常がないため腎生検は行わなかった.本症例は血液検査で感染症を疑わせる白血球増多やCRP(C-reactiveprotein)の亢進がなく,抗核抗体陰性,ACE(angiotensin-convertingenzyme)正常,また薬剤投与の既往もなかった.唯一,尿検査でb2MGが高値であり,両眼性のぶどう膜炎を伴うことからTINU症候群が疑われた.II考按今回,筆者らの経験した症例は尿中b2MGが高値であった.腎機能検査では異常を認めておらず腎生検の適応がないため確定診断ができなかったが,強くTINU症候群を疑われた.3歳という非常に低年齢で発症し前房畜膿を認めたため報告した.急性間質性腎炎(acuteinterstitialnephritis:AIN)と確定診断するためには腎生検をする必要があるが,通常,年少者の腎生検は全身麻酔下で開腹により施行する侵襲の大きい検査(開放腎生検)であるため,腎機能障害が軽度の症例では施行しないことが多い.本症例でも尿中b2MGの上昇のみの検査異常のため腎生検を行わなかったので,AINの病理組織学診断はできなかった.腎生検が適応にならない場合には臨床診断が重要となるが,Mandevilleらが2001年にTINU症候群の診断基準(表2)を提案している4).そのなかではAINとぶどう膜炎のそれぞれの診断基準の組み合わせからdefinite,probable,possibleTINUを定義している.AINの診断は病理組織学的(113)診断と臨床的診断があり,臨床的診断として,①機能異常(クレアチニンの上昇あるいはクレアチニンクリアランスの低下),②検査異常(b2MGの増加,軽度の蛋白尿,好酸球尿など),③2週間以上持続する全身の病的状態の3項目があげられている.この基準を用いると,本症例の腎症については尿中b2MGの増加という臨床的診断基準(incompletecriteria)を満たしたAINとなる.また,本症例のぶどう膜炎の特徴は両眼性のぶどう膜炎であるが,b2MGの異常がいつから生じたのかは不明のため,TINUのatypicalな特徴を有するぶどう膜炎となり,両者からpossibleTINUと診断された.TINU疾患群では本症例のように腎機能が異常を呈さないか,あっても軽度の場合も多く,Godaらは血清クレアチニンの上昇は全体の25%にしかみられないとしている5).このような場合には確定診断ができないことが,眼科からの報告が少ない3,4)理由の一つになっていると考えられる.津留のまとめた51例でも眼科からの報告は10例だけであり,その他は腎不全を管理する腎臓科や小児科からの報告からであった3).尿中b2MGの値と眼症状の病勢は並行するとも6)並行しないとも7)報告がある.今回は前房フレア消失後もb2MGの異常高値は持続しており発症後1年半で15,200μg/mlであり,眼症状は腎炎の活動性との一致はなかった.TINU症候群のぶどう膜炎は前眼部炎症を呈する症例が多いとされていて,虹彩毛様体炎,角膜後面沈着物,虹彩後癒着などが認めるとされている8).本症例では初診時に前房畜膿を認めているが,筆者らが調べた限りではGodaらの報あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015723 告5)に再発時に認めた1症例の記載があるほかに報告はなく,Mandevilleらがまとめた133例4),津留がまとめた51例3)でも前房畜膿の報告はなかった.小児に前房畜膿を伴うぶどう膜炎を認めた場合には本疾患も考えておく必要もあると考えられた.本症の発生頻度は不明ではあるが,合田らはわが国10.15歳の小児ぶどう膜炎の原因疾患のうち,サルコイドーシスについで多いと報告しており2),deBoerらは16歳以下のぶどう膜炎のなかで2%程度を占めると報告9)している.また発症年齢に関しては,高年齢でも発症するが,多くは10歳代に発症することが多いとされている3.5).筆者らの調べた限りではわが国での報告のうちもっとも低い発症年齢は8歳であり3),今回の筆者らが経験した3歳の症例はこれまでの報告に比べ低年齢であった.本症例は幸い現在までのところ腎機能異常が出現しておらず,また眼症状も軽快しているが,今後も腎症,眼症の発現に注意して経過観察する必要があると考える.小児ぶどう膜炎の診察においては今回の症例のように,ぶどう膜炎を起こした幼児についてもTINU症候群の可能性も念頭に置く必要があり,尿中b2MGの測定は簡便かつ重要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DobrinRS,VernierRL,FishAJ:Acuteeosinophilicinterstitialnephritisandrenalfailurewithbonemarrow-lymphnodegranulomasandanterioruveitis.AmJMed59:325-333,19752)合田千穂,小竹聡,笹本洋一ほか:北海大学眼科における小児ぶどう膜炎の臨床統計.臨眼49:1595-1599,19953)津留徳:Tubulo-interstitialnephritisanduveitissyndrome(TINU症候群)本邦報告例51例の臨床病態学的解析.小児科37:951-956,19964)MandevilleJT,LevinsonRD,HollandGNetal:Thetubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome.SurvOphthalmol46:195-208,20015)GodaC,KotakeS,IchiishiAetal:Clinicalfeaturesintubulointerstitialnephritisanduveitis(TINU)syndrome.AmJOphthalmol140:637-641,20056)ThomassenVH,RingT,ThaarupJetal:Tubulointerstitialnephritisanduveitis(TINU)syndrome:acasereportandreviewoftheliterature.ActaOphthalmol87:676679,20097)GionN,StavrouP,FosterS:Immunomodulatorytherapyforchronictubulointerstitialnephritis-associateduveitis.AmJOphthalmol129:764-768,20008)合田千穂,北市伸義,大野重昭:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群.臨眼61:1958-1601,20079)deBoerJ,WulffraatN,Rothova1A:Visuallossinuveitisofchildhood.BrJOphthalmol87:879-884,2003***724あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(114)