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2型糖尿病患者の血圧日内変動パターンと糖尿病網膜症 との関連

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1397.1402,2014c2型糖尿病患者の血圧日内変動パターンと糖尿病網膜症との関連加藤貴保子*1土居範仁*2鎌田哲郎*3山下高明*4坂本泰二*4宮田和典*1安田美穂*5石橋達朗*5*1宮田眼科病院*2今村病院分院眼科*3今村病院分院糖尿病内科*4鹿児島大学眼科*5九州大学眼科AssociationbetweenDiurnalBloodPressureVariationandDiabeticRetinopathyinType-2DiabetesMellitusKihokoKato(Dozono)1),NorihitoDoi2),TetsurouKamata3),TakehiroYamashita4),TaijiSakamoto4),KazunoriMiyata1),MihoYasuda5)andTatsurouIshibashi5)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,ImamuraBun-inHospital,3)DepartmentofDiabetesMellitus,ImamuraBun-inHospital,4)DepartmentofOphthalmology,UniversityofKagoshima,5)DepartmentofOphthalmology,UniversityofKyushu2型糖尿病患者における血圧の日内変動パターンと網膜症との関連について検討した.2型糖尿病の患者84例(男性46例,女性38例)に対して,自由行動下で24時間血圧連続測定を行った.糖尿病網膜症なし(diabeticretinopathyなし:NDR)20例,非増殖糖尿病網膜症(nonproliferativediabeticretinopathy:NPDR)24例,増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)40例の3群間に分け,血圧の日内変動を比較した.拡張期血圧では有意差は認めなかったが,収縮期血圧は1日平均,夜間血圧ともにPDRが有意に高かった.日内変動パターンにおいて,NDRは,正常な日内変動が約半数にみられたが,NPDRでは夜間血圧が高くなるパターン(nondipper,riser)が多く,PDRではその傾向が顕著だった.網膜症のある患者では,降圧薬投与にもかかわらず,夜間の血圧も下がりにくく,血圧の日内変動障害が多くなることが示唆された.Associationbetweendiurnalbloodpressure(BP)variationanddiabeticretinopathy(DR)intype-2diabetesmellitus(DM)wasevaluated.AmbulatoryBPof84patients(46males,38females)wasmeasured.VariationindiurnalBPwascomparedbetween3groups:noDR(NDR,n=20),mildtoseverenonproliferativediabeticretinopathy(NPDR,n=24),andproliferativediabeticretinopathy(PDR,n=40).SystolicBPwassignificantlyhigherinthePDRgroupduring24-hour,aswellasduringthenighttime,whiletherewasnodifferenceindiastolicBP.InregardtodiurnalBPvariation,morethanhalfoftheNDRgroupshowednormaldiurnalvariation,whilevariationpatternsthatincreasedBPduringthenighttimewereincreasedinNPDR,aswellasinPDR.InpatientswithDR,itwasdemonstratedthatdecreaseinnighttimeBPwouldnotbeanticipatedandthatabnormaldiurnalbloodpressurevariationincreased,thoughantihypertensiveagentswereused.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1397.1402,2014〕Keywords:2型糖尿病,24時間血圧,糖尿病網膜症,血圧日内変動,非降下型.type2diabetesmellitus,24hourambulatorybloodpressure,diabeticretinopathy,diurnalbloodpressurevariation,nondipper.はじめに夜間,早朝など)の血圧や,血圧変動性を評価することも重糖尿病患者の血圧管理は,大血管障害の予防だけでなく,要であり,特に,日内変動を評価する24時間血圧測定腎症や網膜症の進展抑制にも重要であることはよく知られて(ambulatorybloodpressuremonitoring:ABPM)は,血圧いる.血圧管理において,診察時だけでなく,診察外(家庭,変動性,夜間血圧,早朝血圧,中心血圧を評価でき,有用な〔別刷請求先〕加藤貴保子:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KihokoKatoDozono,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(149)1397 血圧管理法である.1型糖尿病患者においては,夜間の収縮期血圧と糖尿病網膜症の重症度とが関連する1),血圧の日内変動の障害が糖尿病合併症を悪化させる2,3)ことが報告されている.また,1型糖尿病による網膜症では,夜間の血圧が高いという報告も散見される4,5).一方,2型糖尿病患者に対しても,血圧日内変動の障害と腎症や大血管合併症との関連は指摘されている6).しかし,2型糖尿病における網膜症と血圧日内変動パターンとの関連についての報告はほとんどない.本研究では,2型糖尿病患者の24時間血圧を測定し,血圧の日内変動パターンと網膜症の重症度との関連について検討した.I方法2005年から2007年に今村病院分院糖尿病内科および眼科を受診した2型糖尿病の患者84例(男性46例,女性38例)を対象とした.84例のうち,42例は糖尿病内科に血糖コントロール目的または糖尿病性腎症のため教育入院した患者,他は糖尿病網膜症の硝子体手術目的で眼科入院した患者であった.透析,全身状態不良,および重症感染を有した症例は対象から除外した.全例にインフォームド・コンセントを得て,観察研究を行った.内服は,降圧薬内服なしは9例,単剤の降圧薬内服〔ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬),Caブロッカー,bブロッカー,ACE(アンジオテンシン変換酵素)ブロッカー〕は22例,複数投与は47例であった.患者背景として,年齢,性別,BMI(bodymassindex),HbA1C(hemoglobinA1C),HDL(highdensitylipoproteincholesterol),LDL(lowdensitylipoproteincholesterol),高感度CRP(capialreactiveprotein),logMAR視力,罹病期間,クレアチニン,GFR(glomerularfiltrationrate:糸球体濾過量),ヘモグロビン値,R-R間隔変動係数を調査した.さらに,散瞳下で検眼鏡にて眼底検査を行い,網膜症の重症度をAmericanAcademyofOphthalmology(AAO)の提唱した国際重症度分類に従い,糖尿病網膜症なし(DRなし:NDR),非増殖糖尿病網膜症(mild,moderate,severenonproliferativediabeticretinopathy:NPDR),増殖糖尿病網膜症(PDR)の3群に分け検討した.全例に対してガイドラインに基づき自由行動下で24時間血圧測定装置KENZBPMAM300(A&D社)を用いて24時間連続測定を行った.測定は収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍を,22時から6時までは2時間ごとに,7時から21時までは1時間ごとに測定した.手術前日から術後7日間には行わず,収縮期血圧が70mmHg以下または250mmHg以上,拡張期血圧が30mmHg以下または130mmHg以上,脈拍が30拍/分以下または200拍/分以上を無効とした.昼中血圧を10時から20時までの平均値とし,夜間血圧を0時か1398あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014ら6時の平均値とした.平均収縮期血圧,夜間収縮期血圧,平均拡張期血圧,夜間拡張期血圧,平均脈拍,夜間脈拍,降圧薬の有無について3群間で比較検討した.さらに,3群における血圧の日内変動パターンの分布を調べた.日内変動パターンは,日中血圧より夜間血圧が20%以上降圧する夜間過降圧型(extreme-dipper),10.20%降圧する正常型(dipper),0.10%降圧する夜間非降下型(nondipper),および昇圧する夜間昇圧型(riser)に分類した7).統計解析には分散分析(analysisofvariance:ANOVA)c2検定,Fisher直接検定法,多重比較検定(Bonferroni法)(,)を用いた.24時間血圧の経時的変化について,NDR,NPDR,PDRのそれぞれの収縮期血圧と拡張期血圧の平均値については,ANOVAによる検定結果で有意となり,かつ多重比較検定(Bonferroni法)で補正したうえでp<0.05,p<0.01であったペアをp<0.05*,p<0.01**と記載した.糖尿病網膜症の程度と,血圧の日内変動パターンとの分割表にはFisherの正確確率検定,両者間の相関関係に関してはSpearmanの相関係数を用いた.p<0.05を統計的に有意差ありとした.II結果各群の内訳は,NDR20例,NPDR24例,PDR40例であった.各群の背景と血圧値を表1に示す.年齢,性別,BMI,HbA1C,HDL,LDL,高感度CRPは3群間で有意差を認めなかった.LogMAR視力は,PDR群で0.36±0.4となり不良であり,他群に対して有意差を認めた(p<0.01).罹病期間(年)は,NPDR,PDRで有意に長かった(p=0.039).クレアチニン(mg/dl)は,PDRでは有意に悪く(p=0.017),腎症ステージ4の症例も多かった.GFRは,網膜症が重症化するほど有意に低下した(p=0.022).ヘモグロビン値は,PDR群で低かった(p<0.01).R-R間隔変動係数が2%未満の割合はPDR群で有意に増えていた.収縮期血圧は,1日平均,夜間血圧ともにPDR群が有意に高かった(p<0.01)が,拡張期血圧は,1日平均,夜間血圧ともに有意差は認めなかった.脈拍,降圧薬の有無では群間差はなかった.網膜症を有する症例(NPDRおよびPDR)の日内変動パターンは,収縮期血圧で正常パターン(dipper)/それ以外のパターンが11/53例,拡張期血圧で16/48例と,網膜症がない場合の8/12例,10/10例と比較して,正常パターン(dipper)が有意に少なかった(p=0.038,0.036).24時間血圧の経時的変化について,NDR,NPDR,PDRのそれぞれの収縮期血圧と拡張期血圧の平均値を図1に示す.NDRでは夜間に血圧が昼間より低下するというおおむね正常な血圧日内変動を示したが,NPDRではその傾向が崩れ,PDRでは夜間の血圧と昼間の血圧は差がなくなり,(150) 表1糖尿病網膜症なし,非増殖糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症の3群の背景と測定血圧値網膜症なし(n=20)非増殖網膜症(n=24)増殖網膜症(n=40)p値平均年齢(歳)性別(男/女)視力(logMAR)罹病期間(年)BMI(kg/m2)HbA1C(%)(JDS値)HbA1C(%)(NGSP値)クレアチニン(mg/dl)GFRヘモグロビン(g/dl)HDL-cholesterol(mg/dl)LDL-cholesterol(mg/dl)高感度CRPR-R間隔変動2%未満(有/無)収縮期血圧,1日平均(mmHg)収縮期血圧,夜間平均(mmHg)拡張期血圧,1日平均(mmHg)拡張期血圧,夜間平均(mmHg)脈拍,1日平均脈拍,夜間平均降圧薬(有/無)6012/80.0063±0.0098.6±7.426±4.27.9±1.48.3±1.40.8±0.273±2314±1.353±14124±320.09±0.100/9136±13127±1683±1076±1271±963±717/36211/130.0094±0.1814.8±9.024±5.08.1±2.08.5±2.01.0±0.668±3213±2.645±8116±250.09±0.097/12132±12127±1678±774±1071±1063±918/65921/190.36±0.413.7±8.724±3.78.1±2.18.5±2.11.4±1.253±3112±1.948±16125±4.70.11±0.1221/14148±18143±2283±1080±1172±1066±836/40.630.640.005*0.039*0.630.930.930.017*0.022*<0.01*0.160.630.54<0.01*<0.01*<0.01*0.0750.0630.860.250.27BMI=bodymassindex,GFR=glomerularfiltrationrate,HDL=highdensitylipoproteincholesterol,LDL=lowdensitylipoproteincholesterol,高感度CRp=capialreactiveprotein.ANOVA検定(*p<0.05),c2検定,Fisher直接検定法(*p<0.05)現行のHbA1C(%)(NGSP値)はJDS値+0.4%である.ほぼflatになっていた.収縮期血圧では16時から6時にかけてPDRで高い傾向にあった(図1).3群間での日内変動パターンの割合を図2に示す.NDRではdipperが多くみられ,NPDRではdipperの占める割合が減少し,PDRではnondipper,riserが半数以上を占めた.図3は,血圧日内変動パターン別の網膜症の重症度をみたものである.dipperでは,NDRが約半数を占め,nondipper,riserではNDRが減少し,NPDR,PDRの割合が増加していた.糖尿病網膜症の程度と,血圧の日内変動パターンとの傾向に関しては,収縮期血圧では分割表の検定では有意な傾向はなく(p=0.24),Spearmanの相関係数でも有意な傾向はなかった(R=.0.16,p=0.14).拡張期血圧では,分割表の検定では有意な傾向はなかった(p=0.15)が,Spearmanの相関係数では有意な傾向があり(R=.0.26,p=0.017),拡張期では血圧と糖尿病網膜症の間で有意な相関関係を認め,網膜症の病期が悪化するほど,riser,nondipperが増加し,dipperが減少する傾向にあった.III考按今回の検討では,84例中71例で糖尿病内科専門医による(151)降圧薬治療がされているにもかかわらず,網膜症(NPDRおよびPDR)症例では正常な血圧日内変動は少なかった.その理由として,対象が血糖コントロール不良や腎症の教育入院,網膜症のため硝子体手術を要した症例であり,糖尿病の病期の進行した症例が多かったことが考えられる.Kleinらによる,アルブミン尿がなく血圧が正常な1型糖尿病患者194人を対象にした検討では,NDR32%mildNPDRは55%moderateNPDR.PDR13%で,そのうちnondipperの割合はそれぞれ19%,28%,36%であった1).これらの結果は,網膜症が重症化するほどnondipperの割合が増加し,夜間収縮期血圧が高いと網膜症が重症化しやすい可能性を示唆している.このなかでのnondipperの定義は今回筆者らが用いた定義と異なり夜間/昼間>0.9であり,本検討でのnondipperとriserを合わせたものに相当する.今回の検討では,2型糖尿病でアルブミン尿なしに限定しておらず,腎症のある例を多く含み,重症化した網膜症が多いという点も,Kleinらの検討と異なる1).とはいえ,本検討でも重症化した網膜症患者におけるnondipperとriserの割合は,夜間の拡張期血圧および収縮期血圧が高く,Kleinらと同様の結果となった.Kleinらと比較しNDRの患者でも夜間の血圧が高い例があたらしい眼科Vol.31,No.9,20141399 180160140120100806040200S0S4S7S9S11S13S15S17S19S21*************:NDR:NPDR:PDR拡張期血圧(mmHg)収縮期血圧(mmHg)1009080706050403020100*:NDR:NPDR:PDRD0D4D7D9D11D13D15D17D19D21図124時間血圧の経時変化横軸に0時,2時,6時,7.22時までは1時間ごとの時刻を,縦軸に糖尿病網膜症なし,非増殖糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症の平均血圧を示す.糖尿病網膜症なしでは夜間に血圧が昼間より低下するというおおむね正常な血圧日内変動を示したが,非増殖糖尿病網膜症ではその傾向が崩れ,増殖糖尿病網膜症では夜間の血圧と昼間の血圧は差がなくなり,ほぼflatになり夜間血圧が高くなっていた.収縮期血圧では8時,16時,17時は糖尿病網膜症なしと増殖糖尿病網膜症のみ*p<0.05,18時から6時までは2時以外糖尿病網膜症なしと増殖糖尿病網膜症,非増殖糖尿病網膜症と増殖糖尿病網膜症で有意差があった(*p<0.05,**p<0.01,多重比較検定(Bonferroni法).多かった理由としては,アルブミン尿なし,および正常血圧症例に限定していないことが考えられる.また,今回の症例でも,過去の報告と同じように,罹病期間(年)は,NDRで8.6±7.4(年),NPDRで14.8±9.0(年)で,罹病期間が長くなると網膜症を有する割合が増加していた.1型糖尿病患者において,網膜症の進行と発症に尿中アルブミン排泄量(UAE)と24時間および昼間の拡張期血圧が関連する5),夜間の血圧の上昇によりアルブミン尿を引き起こしやすく,網膜症ありも腎症悪化の要因であった6)との報告があり,これらの関与が考えられる.慢性腎臓病を含め腎機能障害の悪化はnondipperの増加をもたらすことは既報で報告8)されており,今回の結果は腎障害の結果を反映し1400あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014■:riser■:nondipper%■:dipper:extreme-dipper100806040200NDRNPDRPDR収縮期血圧1535401033.345.816.74.2403017.512.5100806040200NDRNPDRPDR拡張期血圧1030501033.329.22512.532.537.5255図23群間における日内変動パターン糖尿病網膜症なしではdipperが約半数であり,非増殖糖尿病網膜症ではdipperの割合が減り,正常でない日内変動を示すnondipper,riser,extreme-dipperが増え,増殖糖尿病網膜症ではその傾向が顕著だった.ている可能性もある.夜間の血圧(特に収縮期血圧)が下がりすぎる,すなわちextreme-dipperにも,網膜症を有する割合が高く,PDRを多く認めた.これについては過去に報告はないが,夜間の血圧の低下は心疾患や脳血管障害のリスクファクター7)であり,眼にも何らかの影響があると思われる.本検討では,網膜症が重症化するほど夜間の血圧が高い傾向にあった.84例中71例が降圧薬内服中であり,複数使用例も多数含むにもかかわらず,夜間の血圧が高かった.高血圧は網膜症を進行させるリスクファクターの一つである10,11)が,血圧の検査は通常診察中や自己測定血圧装置によって行われるため,夜間高血圧はABPMを用いないとみつかりにくい.降圧薬により昼間の血圧はある程度下がっていても,夜間高血圧が残っていると網膜症は重症化する可能性があると考えられる.さらに糖尿病という疾患そのものが患者に与える心理的ストレスにより夜間高血圧がある可能性も考えら(152) れる.また,網膜症の重症化している病期では,降圧薬に抵抗して夜間の血圧が下がりにくい状態にあるのかもしれない.さらに,PDRでは,自律神経障害を伴う症例(R-R間隔変動2%未満)が多かった.Kleinらは,夜間の血圧と網膜症の重症化は,自律神経障害および網膜血管のpoorautoregulationが関与する1)のではないかと考察している.網膜血管のpoorautoregulationにより,網膜血流が増加し,網膜動脈やcapillarybedsに障害を与えるのではないかと推察されている.網膜症悪化や血圧日内変動障害に自律神経障害が関与している可能性が示唆された.高感度CRPについては3群間で特に有意差を認めなかった.高感度CRPと関連のある因子として喫煙,年齢,高脂血症,糖尿病,肝機能,炎症などがあげられるが,症例数が少ないこと,およびさまざまな因子が複雑に絡み合うため9),3群間では有意差がでなかったものと思われる.糖尿病合併症の予防に血圧管理が大変重要なことは周知の事実10,11)であり,2004年のUKPDS69で1,148人の2型糖尿病患者において厳格な血圧コントロールを行った群では7.5年後に硬性白斑,網膜細動脈瘤,軟性白斑の数が少なく,厳格な血圧コントロールは網膜症の進行と視力低下を減らすと報告されている11).また,降圧薬についてはACE,bブロッカーでは有意差はなく11),症例数は少ないが筆者らも同様の結果であった.今回の研究において,網膜症のある患者では降圧薬の投与にもかかわらず,血圧日内変動パターンの障害(nondipper,riser,extreme-dipper)が多いことに加えて,網膜症の進行に先立って夜間高血圧が起こることが示唆された.夜間高血圧への安定した治療介入効果の高い降圧薬の開発により網膜症の発症や進展の抑制をもたらしてくれるかもしれないが,夜間の血圧急降下は心疾患,脳血管疾患などのリスクを高めるため,早期発見,早期治療がやはり重要であると思われる.本研究の限界としては糖尿病は多因子疾患であり,患者のもっている背景すなわち遺伝,生活習慣,環境,体格,性格などひとりとして同一でないことである.また,統計について,NDR,NPDR,PDRの3群比較に関してはANOVAで行い,それぞれの群間比較をBonferroni補正で行った.しかし,この検定を20回行っており,偶然約1回は有意になることになる.収縮期血圧では11の時点で有意差があり偶然にしては有意な時点が多いことと,図表(折れ線グラフ)でも明らかな差があり,有意な差があると判定した.しかしながら,拡張期血圧はグラフ上差はあるが,1回しか有意ではなく偶然有意になった可能性があり,本研究の限界となっている.本論文は第14回日本糖尿病眼学会で発表した.(153)Prevalence(%)Prevalence(%■:糖尿病網膜症なし:非増殖糖尿病網膜症50■:増殖糖尿病網膜症454035302520151050104.212.54016.717.53545.8301533.340Extreme-dipperDipperNondipperRisern=8n=19n=30n=27収縮期血圧504540353025201510501012.555025253029.237.51033.332.5Extreme-dipperDipperNondipperRisern=8n=26n=28n=23拡張期血圧図3血圧日内変動パターン別の網膜症の重症度Dipperでは,糖尿病網膜症なしが多くを占めたが,nondipperでは非増殖糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症の割合が増え,riserでは増殖糖尿病網膜症が多かった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KleinR,MossSE,SinaikoARetal:Therelationofambulatorybloodpressureandpulseratetoretinopathyintype1diabetesmellitus:therenin-angiotensinsystemstudy.Ophthalmology113:2231-2236,20062)daCostaRodriguesT,PecisM,AzevedoMJetal:Ambulatorybloodpressuremonitoringandprogressionofあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141401 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