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Computed Tomographyにより結核症の確定診断に至ったEales病の1例

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1(133)11390910-1810/09/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科26(8):11391142,2009cはじめにEales病は若年者にみられる網膜静脈周囲炎を伴う網膜出血で,病因として結核の重要性が指摘されているが,原因不明とされている.今回筆者らは若年者の両眼にみられた網膜出血から,胸部X線写真では所見が認められなかったがツベルクリン反応,胸部computedtomography(CT)などの検査により,最終的に結核の確定診断に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:17歳,男性.高校3年生.主訴:視力が下がったような気がする.現病歴:3カ月ほど前から視力低下感があり,平成19年4月6日当科初診.両眼眼底に出血・血管白線化を認めた.既往歴:3歳時から気管支喘息.現在も発作予防のため予防的内服中.家族歴:2年前に父が結核に罹患.初診時所見(平成19年4月6日):外眼部異常なし.眼〔別刷請求先〕深尾真理:〒177-8521東京都練馬区高野台3-1-10順天堂練馬病院眼科Reprintrequests:MariFukao,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoNerimaHospital,3-1-10Takanodai,Nerima-ku,Tokyo177-8521,JAPANComputedTomographyにより結核症の確定診断に至ったEales病の1例深尾真理*1工藤大介*1横山利幸*1村上晶*2*1順天堂練馬病院眼科*2順天堂大学医学部眼科学教室ACaseofEales’DiseasewithTuberculosisDiagnosedbyComputedTomographyMariFukao1),DaisukeKudo1),ToshiyukiYokoyama1)andAkiraMurakami2)1)DepartmentofOphthalmology,JuntendoNerimaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine17歳,男性が視力低下感を主訴に受診した.両眼眼底に出血・血管白線化を認めた.ツベルクリン反応が強陽性であったが胸部X線写真では異常を認めず,その他の全身疾患も否定され,若年男性,網膜出血や血管の白線化といった典型的な臨床的特徴によりEales病と診断された.胃液・喀痰検査も陰性であったが,胸部computedtomography(CT)所見にて結核に特徴的な粒状網状影を認め結核症と診断された.抗結核治療が開始されると眼症状も改善した.胸部X線写真にて異常を認めない症例に対しても,ツベルクリン反応陽性であれば胸部CTでの検索を施行する必要があると考えられた.A17-year-oldmalewasreferredtouswithcomplaintofbilateraldecreasedvisualacuity.Ocularexaminationdisclosedretinalhemorrhagesandvascularsheathingsinbotheyes.Generalexaminations,includingchestX-ray,showednoabnormality,exceptingstronglypositivereactiononthetuberculintest.Thepatientwasinitiallydiag-nosedwithEales’disease,becauseofsuchtypicalclinicalfeaturesas:healthyyoungmale,bilateralretinalhemor-rhagesandvascularsheathings.Althoughgastricanalysisandsputumculturewerenegative,hewasdiagnosedwithtuberculosisbecausechestcomputedtomography(CT)revealedthespecificreticulonodularpatternfortuberculosis.Treatmentwithanti-tuberculousdrugsimprovedtheocularsymptoms.Wheneverthetuberculintestispositive,chestCTisnecessaryevenifthechestX-rayisnormal.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11391142,2009〕Keywords:Eales病,網膜静脈周囲炎,結核,ツベルクリン反応.Eales’disease,retinalperiphlebitis,tuberculo-sis(TB),tuberculintest.———————————————————————-Page21140あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(134)位・眼球運動異常なし.視力は右眼0.3(0.7×1.0D(cyl0.5DAx5°),左眼0.4(1.0×1.0D(cyl1.5DAx175°).眼圧は右眼14mmHg,左眼14mmHg.前眼部には炎症細胞なし.瞳孔反応異常なし.眼底には両眼周辺部網膜に出血斑,血管白線化を認めた(図1a,b).血液検査所見(平成19年5月1日):赤血球4.3×106/μl,白血球6.6×103/μl,血小板2.5×105/μl,総コレステロール6.1g/dl,C-リアクティブ・プロテイン0.1,アスパラギン酸アミノ基転移酵素17U/l,アラニンアミノ基転移酵素13U/l,アンジオテンシン変換酵素8.2IU/l,血清蛋白分画正常,血清免疫グロブリンA177mg/dl,血清免疫グロブリンG591mg/dl,血清免疫グロブリンM113mg/dl,補体蛋白C389mg/ml,C427mg/ml,CH5047.5U/dl,B型肝炎ウイルス抗原(),B型肝炎ウイルス抗体(),C型肝炎ウイルス(),ヒト免疫不全ウイルス(HIV)(),梅毒定性(),トレポネーマ・パリダム抗体(),ツベルクリン反応12×18mm,硬結(),二重発赤(+).経過:両眼網膜出血を認め,ツベルクリン反応も強陽性であったものの,胸部X線写真では明らかな異常所見はなく,明らかな全身症状も認めなかったため,眼底所見よりEales病と診断し,同時に精査目的のため当院呼吸器内科にコンサルトした.呼吸器内科にて施行された喀痰,胃液検査では菌の検出を認めなかったが,CTを施行したところ左上肺野に結核に典型的な粒状網状影を認めた(図2a).さらに,気管支肺生検を施行したところ結核菌を検出し結核症の診断に至った.診断後は結核専門病院に転院となり抗結核療法による治療が開始され,イソニアジド・リファンピシン・エタンブトール・ピラジナミドの4剤併用療法を平成19年6月11日より6カ月間施行することとなった.本症例ではフルオレセインは皮内反応陽性のため使用できず,インドシアニングリーン蛍光眼底検査を施行したところ網膜血管の狭細化・閉塞所見を認めたので,両眼周辺部網膜に対し光凝固を開始した.平成19年5月9日,右眼に68spots,同年5月19日,左眼に291spots,条件はargongreen;400μm,150mW,0.5secにて施行.抗結核治療開始後は網膜出血,血管の白線化は改善した(図1c,d).視力は右眼0.3(1.0×1.0D(cyl0.5DAx5°),左眼0.4(1.2×1.0D(cyl1.5DAx175°)と矯正視力,眼底所見ともに改善を認めている.なお,治療開始後の胸部X線所見は初診時と比較し明らかな変化はなく異常は認められなかった.治療開始後の胸部CT所見acbd図1眼底写真上段:初診時(平成19年4月6日).a:右眼,b:左眼.両眼周辺部網膜に出血,血管白線化を認めた.下段:抗結核治療開始,約3カ月経過後(平成19年9月6日).c:右眼,d:左眼.両眼周辺部網膜の出血,血管の白線化は改善した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091141(135)は治療開始前と比較し明らかに改善を認めた(図2b).II考按Eales病は1880年にHenryEalesが便秘や鼻出血を伴うが全身疾患や網膜の炎症もなく再発性網膜出血を起こした若年男性を報告したのが最初とされている.その後網膜静脈周囲炎を伴うことや,ステロイド投与により結核を発症した例などがあり病因としての結核の重要性が指摘された.そのほかにもMycobacteriumfortuitumやMycobacteriumchelonaeとの関連性を指摘する報告などがある1)が,一般的に原因不明の再発性網膜硝子体出血をEales病とよぶようになっている2).1.比較的若年男性(女性の3倍)・多くは両眼性(90%),2.ぶどう膜炎や全身疾患を伴わない原因不明の網膜静脈周囲炎(DukeElderの定義),3.イソニアジド内服投与などの治療的診断がEales病の診断に有用な基準とされているが,いまだ統一された疾患概念はない.Madhavanらによると,Eales病の報告のうちの6.2%から35%に全身性の結核が認められ,Eales病の硝子体あるいは黄斑部からの結核菌DNAの存在も指摘されている3)ことから,Eales病と結核菌あるいは抗酸菌の関係はきわめて密接と思われる.しかしEales病,眼結核症,特に結核性網膜静脈炎などについては現在一定の診断基準はなく,その概念はやや混乱している.安積4)によれば,結核性眼病変の診断は1.結核菌または結核病巣の検出〔①胸部X線,CT,②前房水polymerasechainreaction(PCR)〕,2.結核菌に対する免疫反応〔①細胞性免疫(ツベルクリン反応),②液性免疫〕,3.典型的な結核性眼病巣の存在,4.治療的診断(イソニアジド内服投与など),の4項目のうち3項目以上があてはまれば確定診断とすると述べられている.菌の直接検出があれば確定的だが,実際に臨床的には困難なため,画像による病巣の検出が重要となる.胸部X線は必須検査であるが,CTでは胸部X線写真で見つからなかった結核の肺内病変(小葉中心性粒状影,小葉内分岐構造,空洞形成,粟粒結節など)5)を検出できるという報告もあり6,7),X線検査で否定的な症例においても重要な検査と考えられる.個体の細胞性免疫を利用したツベルクリン反応は,日本ではBCG(BacilledeCalmetteetGuerin)ワクチンの接種により必ずしも結核の感染を示すものではないが補助的な検査としては非常に有用である.このほかに血清抗体価の検出も補助診断として有用とされており,感度,特異度ともに良好であるが,非結核性抗酸菌症などに陽性になる可能性やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)陽性患者において感度が低下するなどの問題点がある.イソニアジド内服による治療的診断については,結果が偽陽性や偽陰性に生じる可能性があり,肝機能障害などの薬剤副作用の問題点もある8).結核とは結核菌(Mycobacteriumtuberculosis)による感染症で,結核菌は抗酸菌全体の約85%を占めるといわれている.世界保健機関の統計によると,世界では新規発病患者が年間800万人発生し,年間300万人の患者が死亡している.平成16年の日本国内の新患数は29,736人で,国内の結核死亡者数は年間2,328人と,この数字は先進国のなかではきわめて悪い数字である.平成17年,およそ50年ぶりに結核予防法が改正され,BCG接種の生後6カ月以内での接種が義務化され,高齢者や医療従事者などハイリスク群に定期健診を実施することとなった.このように,結核は決して過去の感染症ではなく,現在もわれわれにとって大きな脅威とな図2胸部CT所見a:治療前(平成19年5月9日).左上肺野に粒状網状影を認める.b:抗結核治療開始,約5カ月経過後(平成19年11月16日).左上肺野の粒状網状影は改善した.ab———————————————————————-Page41142あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(136)っている.本症例は初診時に両眼網膜出血・ツベルクリン反応強陽性以外の異常所見はなく,胸部X線写真,喀痰・胃液検査においても異常が認められず,臨床的にEales病と診断した.さらに胸部CT検査を施行したことにより結核病巣が検出され,結核の治療を行い,眼症状も改善することとなった.以上のことより,現在までに原因不明のEales病として報告された症例のなかにも,潜在的に結核症の症例が含まれており,より精査を施行することで原因治療がなされ,眼症状の改善に至る可能性もあったと考えられる.以上のことより,若年性の網膜出血をみた際はツベルクリン反応検査を行い,胸部X線写真で異常を認めない症例に対しても,胸部CTでの検索を積極的に施行する必要があると思われた.文献1)ThereseKL,DeepaP,ThereseJ:Associationofmyco-bacteriawithEales’disease.IndianJMedRes126:56-62,20072)六鹿秀夫,原彰,清水由規:若年者にみられた静脈周囲炎の硝子体出血の発生機序について.眼科30:663-666,19883)MadhavanHN,ThereseKL,GunishaPetal:PolymerasechainreactionfordetectionofMycobacteriumtuberculo-sisinepiretinalmembraneinEales’disease.InvestOph-thalmolVisSci41:822-825,20004)安積淳:結核性眼疾患.日本の眼科70:1043-1046,19995)村田喜代史,高橋雅士,古川顕ほか:気道感染症のCT像.日本医放会誌59:371-379,19996)DrapkinMS,MarkEJ:A38-year-oldmanwithfever,cough,andapleuraleusion.NEnglJMed335:499-505,19967)齋藤航:結核.臨眼61:210-215,20078)安積淳:抗結核薬による治癒試験.眼科42:1721-1727,2000***

若年男性の両眼に増殖変化をきたしたEales病の1例

2008年12月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(123)17310910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(12):17311735,2008cはじめにEales病の硝子体出血の発生メカニズムについては,これまで特発性,結核菌の関与,炎症性か非炎症性かなどさまざまな病因が議論される1)も,結論は得られていない.このため,硝子体出血の原因が不明の場合にEales病と診断されることが多い2).今回筆者らは,ツベルクリン反応(ツ反)強陽性であった若年男性の両眼に網膜血管閉塞と増殖変化をきたしたEales病と思われる1例に対し,硝子体手術を施行し術後比較的良好な視機能回復が得られたので報告する.I症例患者:23歳,男性.初診日:2004年4月30日.主訴:両眼の視力低下.既往歴:特記事項なし.家族歴:特記事項なし.海外渡航歴および動物飼育歴:特記事項なし.現病歴:2004年1月頃より左眼視力低下を自覚していたが放置.4月中旬頃より右眼の視力低下も自覚したので近医眼科を受診.精査目的にて中濃厚生病院眼科紹介受診となる.〔別刷請求先〕望月清文:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KiyofumiMochizuki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Yanagido,Gifu-shi501-1194,JAPAN若年男性の両眼に増殖変化をきたしたEales病の1例村瀬寛紀*1,2望月清文*1,3澤田明*3鈴木崇*4川上秀昭*3,5*1JA岐阜厚生連中濃厚生病院眼科*2県立下呂温泉病院眼科*3岐阜大学医学部眼科学教室*4愛媛大学医学部眼科学教室*5岐阜市民病院眼科ACaseofPresumedEales’DiseasewithBilateralRetinitisProliferansinaYoungMaleHirokiMurase1,2),KiyofumiMochizuki1,3),AkiraSawada3),TakashiSuzuki4)andHideakiKawakami3,5)1)DepartmentofOphthalmology,JAGifuKoserenChunoGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,GifuPrefectualGeroHotSpringHospital,3)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,GifuCityHospital患者は生来健康な23歳,男性,主訴は両眼の視力低下,初診時矯正視力は右眼0.1,左眼手動弁であった.両眼に広汎な網膜出血と網膜血管床閉塞,牽引性網膜離および硝子体出血などの増殖性変化をきたしていた.全身検索で,ツベルクリン反応強陽性以外の異常はみられなかった.また,術中採取した硝子体液の検索にても異常は検出されなかった.以上より,本症例をEales病と診断した.両眼とも硝子体手術を施行後,病態は鎮静化し良好な視機能回復が得られた.Ahealthy23-year-oldmalewhohaddevelopedacutediminishedvisioninbotheyeswasdiagnosedwithEales’disease.Theexaminationrevealedbilateralvitreousandretinalhemorrhage,proliferativemembraneandtractionalretinaldetachmentrelatedtoextensiveretinalperivasculitis.Laboratorytestsshowednoabnormalities,exceptingtheMantouxtuberculinskintest,inwhichthepatienthadanindurationdiameterofmorethan10mm.Heunderwentbothparsplanavitrectomyandpanretinalphotocoagulationinbotheyes.Ata9-monthfollow-upafterthesurgicalinterventions,completeregressionofthediseasewasachieved,withtheimprovementofvisualacuities.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(12):17311735,2008〕Keywords:閉塞性網膜血管症,Eales病,ツベルクリン反応.occlusiveretinalvasculopathy,Eales’disease,Mantouxtuberculinskintest.———————————————————————-Page21732あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(124)初診時眼科的所見:眼位は正位.眼球運動に制限なし.視力は右眼0.1(n.c.),左眼手動弁(n.c.),眼圧は右眼24mmHg,左眼15mmHgであった.両眼とも,広隅角だが右眼のみ隅角および虹彩に新生血管がみられ,前房内に炎症細胞はなかったが前部硝子体に細胞性混濁がみられた.右眼眼底は,視神経乳頭の新生血管および増殖膜,広汎な網膜前出血,網膜出血および硝子体出血,網膜出血の中に白鞘化,白線化した網膜血管を認めた(図1).左眼眼底は,硝子体出血のため透見不能であった.蛍光眼底造影検査では,右眼は視神経乳頭からの強い蛍光漏出と周辺部網膜血管床の広汎な閉塞がみられた(図2).左眼は撮影不可であった.網膜電位図では両眼のsingleashERG(electroretinogram)および30HzickerERGともに振幅が減弱し(図3),超音波B-modeでは網膜の肥厚および硝子体による網膜の牽引がみられた(図4).超音波生体顕微鏡による毛様体付近の異常や超音波カラードップラーによる眼窩血流動態の異常はみられな図1初診時眼底(右眼)広汎な網膜前出血,網膜出血と硝子体出血,視神経乳頭に新生血管と増殖膜,周辺部網膜には白鞘血管(矢印)がみられた.図2初診時眼底蛍光造影(右眼)視神経乳頭から旺盛な蛍光漏出と耳側周辺部には広汎な網膜血管閉塞がみられた.図3網膜電位図両眼のsingleashERGおよび30HzickerERGともに振幅が減弱していた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081733(125)かった.全身検査所見:身長188.0cm,体重115.0kg,血圧は137/71,脈拍は79で前腕での計測に左右差はなかった.IgEが638U/mlとやや高値であったが,空腹時血糖値100mg/dlで,末梢血液像検査および血液凝固検査に異常なく,抗tuberculo-glycolipid(TBGL)抗体0.4U/ml,ループスアンチコアグラント1.19,RPR(迅速血漿レアギン試験)(),TPHA(梅毒トレポネーマ血漿凝集反応)(),抗HTLV図5術中所見マイクロ鉗子で増殖膜を軽く挙上しただけで容易に網膜裂孔が形成された.図4超音波Bmode右眼に網膜肥厚(右),および左眼に硝子体による網膜の牽引(左)がみられた.左眼右眼左眼右眼6術後眼底(H16.11.12)硝子体手術,光凝固術により,両眼とも増殖膜および新生血管などの再増殖性変化は認めず,網膜症は鎮静化した.右眼はシリコーンオイル注入眼である.———————————————————————-Page41734あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(126)(ヒトT細胞白血病ウイルス)-1抗体(),ACE値正常,抗核抗体40倍未満,抗DNA抗体(),抗Sm抗体(),サイトメガロ抗体(),トキソプラズマIgG抗体3IU/ml以下,クラミジアトラコマチス抗体(),トキソカラ抗体(),単純ヘルペス抗体32倍,水痘帯状ヘルペス抗体(+),Epstein-Barrウイルス抗体160倍であった.ツ反は,長径15mmで硬結に二重発赤を伴う強陽性であった.HLA(ヒト白血球抗原)の血清対応型タイピングではA*11,A*31,B*15,B*39,DRB1*04およびDRB1*08が検出された.その他,心電図,胸部X線,頭部および胸部造影コンピュータ断層,頭部磁気共鳴画像などに異常所見はなかった.経過:5月7日精査および加療のため入院し,全身精査のため脳神経外科,循環器および呼吸器内科において検査施行するも,両眼の出血原因となる異常は検出されなかった.診断および治療目的で,5月14日左眼,6月4日右眼に対して硝子体切除術,網膜光凝固術,シリコーンオイル(s/o)注入およびトリアムシノロン20mgTenon下注入を施行した.術中所見は,両眼とも後極全面に強固な網膜硝子体癒着と網膜全体に虚血が原因と考えられる高度な浮腫が存在し,マイクロ鉗子で増殖膜を軽く挙上しただけで容易に網膜裂孔が形成される状態であった(図5).その後の経過は良好であり,左眼は9月9日にs/o抜去およびSF6(六フッ化硫黄)ガス注入,2006年2月1日に水晶体再建術(眼内レンズを含む)を施行した.右眼は,2004年12月10日にs/o抜去,水晶体再建術(眼内レンズを含む)およびSF6ガス注入を施行した.2006年5月10日現在,増殖性変化の再発や併発はなく(図6),視力は右眼0.2(0.9),左眼0.08(0.6)と改善し,眼圧は右眼17mmHg,左眼17mmHgで安定している.なお,5月14日および6月4日に採取した硝子体液では,結核菌DNA陰性,抗TBGL抗体0.1未満,細胞診にて悪性所見はみられず,インターロイキン(IL)-6(pg/ml)およびIL-10(pg/ml)は右眼ではそれぞれ140および2以下,左眼ではそれぞれ62.7および2以下であった.II考按Eales病は,一般に2030歳代の若年男性(8090%)の両眼性(90%)に多いとされる疾患で,1882年に鼻出血と便秘を伴った若年男性において硝子体出血をくり返す症例をEalesが報告したのが最初である3).現在において,Eales病の診断は原因不明の硝子体出血例において他疾患を除外した結果としてなされている.一般にEales病と鑑別を要する疾患として,増殖糖尿病網膜症,高安病,サルコイドーシス,Behcet病,全身性エリテマトーデス,鎌状赤血球症,網膜静脈閉塞症,家族性滲出性硝子体網膜症,Coats病および結核性ぶどう膜炎などがあげられる.本症例では,臨床検査データならびに全身検索からツ反強陽性以外に全身的結核感染を含む異常は認められなかった.しかしながら,全身的に結核感染が否定されたツ反陽性の症例において抗結核薬の試験的投与にて結核性ぶどう膜炎の診断に至った報告4)もあり,本症例が眼局所における結核感染の可能性はある.眼内の結核菌の有無を調べる手段として,前房水あるいは硝子体液を用いて抗TBGL抗体の検索やpolymerasechainreaction(PCR)法による結核菌DNAの検出がある.TBGLは,結核菌の細胞膜表層を構成する複数の糖脂質成分(cf:cordfactorなど)の一つであり,抗TBGL抗体陽性の場合,結核菌の感染が示唆される5,6).Biswasらは,Eales病患者の硝子体液を用いPCR法により結核菌DNAを検討したところ陽性率が41.6%であったという7).本症例でも硝子体液を用いた抗TBGL抗体および結核菌DNAの検出を試みたが,いずれも陰性であった.また,結核性胸膜炎では胸腔内には多数のTリンパ球が集積し,可溶型IL-2受容体,IL-6,IL-8,インターフェロン(INF)-gや腫瘍壊死因子(TNF)-aなどが産生され,胸水中のサイトカインの検索は結核性胸膜炎の診断に有用とする報告8)もあり,硝子体手術時に得られた硝子体液の測定が結核性ぶどう膜炎の鑑別診断に有用となるかもしれない.本症例においても硝子体液の検索でIL-10に比しIL-6の軽度上昇がみられたが,その有用性に関する報告は少ないため今後の課題といえる.以上,本症例は,若年男性で両眼性であること,閉塞性網膜血管炎に伴う硝子体出血をきたしたこと,その原因として先にあげた鑑別疾患が既往歴,血液検査,内科および皮膚科においてすべて否定的でありその原因が不明であることから,Eales病と診断した.Eales病の治療は,一般に網膜血管閉塞領域に対する網膜光凝固が奏効するとされている9).しかしながら,硝子体出血による眼底透見不良例や網膜出血のため,レーザー光凝固が困難例および網膜前増殖組織や牽引性網膜離などにより視力障害をきたした症例では,硝子体手術が選択されている10).本症例は,両眼とも網膜出血および硝子体出血のため網膜光凝固が不可能であり,超音波B-mode上硝子体による網膜の牽引がみられたため硝子体手術を選択した.網膜最周辺部までの汎網膜光凝固術,増殖膜と周辺部硝子体の徹底郭清,抗炎症としてトリアムシノロンTenon下注入や再増殖抑制目的としてシリコーンオイルタンポナーデなどの併用により,術後再出血,続発緑内障あるいは網膜離などの再増殖性変化はみられず,比較的良好な視機能の回復を得ることができた.最後に,若年者に発症した原因不明の硝子体出血では,全身検索を行うと同時に硝子体手術に至った症例ではPCR法などによる結核菌やサイトカインを指標とした眼内液の検索を要すると思われた.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081735(127)文献1)BiswasJ,SharmaT,GopalLetal:Ealesdisease─Anupdate.SurvOphthalmol47:197-214,20022)平形明人:Eales病.眼科42:1476-1480,20003)EalesH:Casesofretinalhemorrhageassociatedwithepistaxisandconstipation.BirminghamMedRev9:262-273,18804)安積淳:抗結核薬による治療試験.眼科42:1721-1727,20005)SakaiJ,MatsuzawaS,UsuiMetal:NewdiagnosticapproachforoculartuberculosisbyELISAusingthecordfactorasantigen.BrJOphthalmol85:130-133,20016)矢野郁也:コードファクター.結核73:37-42,19987)BiswasJ,ThereseL,MadhavanHNetal:Useofpoly-merasechainreactionindetectionofMycobacteriumtuberculosiscomplexDNAfromvitreoussampleofEales’disease.BrJOphthalmol83:994,19998)青江啓介,平木章夫,村上知之:結核性胸膜炎の診断と治療─とくに胸水中サイトカイン測定の意義について─.結核79:289-295,20049)三木徳彦,河野剛也:Eales病に対する網膜レーザー光凝固.眼科43:1529-1534,200110)El-AsrarAM,Al-KharashiSA:Fullpanretinalphotoco-agulationandearlyvitrectomyimproveprognosisofreti-nalvasculitisassociatedwithtuberculoproteinhypersensi-tivity(Eales’disease).BrJOphthalmol86:1248-1251,2002***