‘MD値’ タグのついている投稿

緑内障眼・視神経乳頭血流の波形変化:LSFG-NAVITMによる解析

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):984.987,2012c緑内障眼・視神経乳頭血流の波形変化:LSFG-NAVITMによる解析杉山哲也柴田真帆小嶌祥太植木麻理池田恒彦大阪医科大学眼科学教室AnalysisofWaveformsObtainedfromPeriodicChangeinOpticNerveHeadBloodFlowofGlaucomaPatientsUsingLaserSpeckleFlowgraphy-NAVITMTetsuyaSugiyama,MahoShibata,ShotaKojima,MariUekiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege目的:レーザースペックルフローグラフィ(LSFG)によって視神経乳頭血流の波形解析を行い,緑内障性視野障害との関連を検討した.対象および方法:対象は広義・原発開放隅角緑内障(POAG)34例と正常対照20例,各1眼を用いた.LSFG-NAVITMによって血流波形パラメータを算出し,再現性やHumphrey視野meandeviation(MD)値,MDslopeとの間の関連を検討した.結果:変動係数はPOAG,正常対照ともにおおむね10%未満で良好な再現性を示した.Skew,Blowouttime(BOT)はMD値との間に有意な相関を認めた.また,局所虚血型乳頭において,MDslopeとBOT,Fallingrateとの間には有意な相関を認めた.結論:視神経乳頭血流の波形解析によるパラメータがPOAGの進展に関与している可能性が示唆された.Purpose:Toinvestigatethecorrelationbetweenglaucomatousvisualfielddefectandwaveformsobtainedfromperiodicchangeinopticnervehead(ONH)bloodflow,usinglaserspeckleflowgraphy(LSFG).SubjectsandMethods:Subjectscomprised34patientswithprimaryopenangleglaucoma(POAG)and20normalvolunteers.SeveralindiceswerecalculatedfromthebloodflowwaveformsusingLSFG-NAVITM;reproducibility,relationshipbetweentheseindicesandmeandeviation(MD)valuesorMDslopesobtainedbyHumphreyvisualfieldanalyzerwereevaluated.Results:Coefficientsofvariationweremostlyunder10%inPOAGpatientsandnormalvolunteers.Skewandblowouttime(BOT)showedsignificantrelationshipswithMDvalues.BOTandfallingrateshowedsignificantrelationshipwithMDslopeinfocalischemictype,asassignedtoONHappearance.Conclusion:TheseresultssuggestthatsomeindicesobtainedfromtheONHbloodflowwaveformmightberelatedtothedevelopmentofPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):984.987,2012〕Keywords:レーザースペックルフローグラフィ,視神経乳頭血流,波形解析,原発開放隅角緑内障,MD値.laserspeckleflowgraphy,opticnerveheadbloodflow,analysisofwaveform,primaryopenangleglaucoma,meandeviation.はじめにパルスドップラ法などによる頸動脈,冠動脈などの血流波形解析は従来から臨床的に行われているが,眼血流についても最近,レーザースペックル法によって可能になり,動脈硬化や網膜静脈閉塞症などとの関連が検討され始めている1,2).一方,緑内障性視神経障害への眼循環障害の関与を示唆する報告はこれまでも多くなされているが,緑内障と動脈硬化との関連の有無については有るとするもの3.6)と無いとするもの7,8)の両者がある.今回,筆者らは視神経乳頭血流の波形解析を緑内障患者において行い,緑内障病期や視野障害進行との関連について検討した.I対象および方法対象は大阪医科大学附属病院眼科外来通院中の広義・原発〔別刷請求先〕杉山哲也:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TetsuyaSugiyama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN984984984あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(108)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY 開放隅角緑内障(POAG)患者および正常対照者のうち本研究参加に同意を得られた例である.POAGは乳頭陥凹拡大や乳頭辺縁部の狭小化,網膜神経線維層欠損など緑内障性視神経障害があり,隅角検査で正常開放隅角であり,Humphrey自動視野検査(プログラム中心30-2SITAスタンダード)で以下の基準(1)(2)のいずれかを連続する2回の検査で認める者とした.(1)(,)緑内障半視野検査で正常範囲外もしくはパターン標準偏差でp<5%であること,(2)パターン偏差確率プロットでp<5%の点が最周辺部でない検査点に3つ以上連なって存在し,かつそのうち1点がp<1%であること.POAGのうち他の眼疾患の合併,手術歴を有する者は除外した.正常対照者は正常眼圧・正常開放隅角であり,精密眼底検査にて緑内障性視神経障害を認めず,軽度.中等度近視(.7D以下の近視),軽度白内障(Grade1以下の白内障)以外の眼疾患を認めない者とした.いずれの群からも糖尿病,高血圧,治療を要する高脂血症を合併する例や喫煙者は除外した(問診を主としたが,内科での血液検査結果も参考にした).POAGは34例で,緑内障病期(Anderson分類9))の内訳は初期群16例,中期群10例,後期群8例,また正常対照は20例であった.POAG各群および正常対照群の年齢,性別,眼圧,Humphrey視野meandeviation(MD)値,MDslope,緑内障点眼の内訳は表1のごとくであるが,MD値以外は群間に有意差は認めなかった.POAG群では本研究期間中を通して同様の点眼治療を継続していたが,表1のごとく治療点眼薬に偏りはなかった(c2検定).また,POAGは全例両眼性であり,すべての対象において解析眼を無作為に選択し,1例1眼としてデータを使用した.血流測定・解析には,レーザースペックルフローグラフィ(LAFG-NAVITM,ソフトケア,福岡)を用いた.0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)で散瞳後,同一検者が視神経乳頭血流の測定を同一眼について3回ずつ行い,その後,波形解析を行った.LSFG測定ソフト(ソフトケア,福岡)で記録したスペックル画像からLSFG解析ソフト,プラグインlayerviewer(いずれもソフトケア)を用いて,視神経乳頭全体を選択し,血流波形の特徴を示すパラメータ(Fluctuation,Skew,Blowoutscore,Blowouttime,Risingrate,Fallingrate)を算出した〔ソフトケア.LSFGAnalyzerInstructionManual(Rev.1.16),2011〕.これらはこの解析ソフト用に独自に開発されたパラメータであり,それぞれ以下の意義をもつと考えられている.1)Fluctuation:分散に相当する血流の変動率であり,血流の不安定さを表す指標である.2)Skew:分布の非対称性(歪度)を表し,確立密度関数の偏りの違いを示す統計量,確立変数の三次モーメントで定義されている.3)Blowoutscore:次式によって算出され,血流の通り抜けやすさ(血管抵抗の逆数)を表す指標とされる.(1.AC/2DC)×100(%).ただし,AC:血流の最大値.最小値,DC:血流の平均値.4)Blowouttime(BOT):次式によって算出され,高い血流値が維持されている時間の割合(末梢への血流供給の十分さ)を表すとされ,CW/Fから算出された.ただし,C:比例定数W:半値(最大値.最小値)以上を呈した時間,F:1心拍の時間.5)Risingrate:波形の上昇領域のAreaundercurveの面表1対象の背景正常対照初期群POAG中期群後期群例数2016108年齢(歳)59.0±12.259.8±11.860.3±11.964.9±5.8性別(男/女)8/126/104/64/4眼圧(mmHg)13.4±2.112.0±2.513.2±2.612.9±2.6MD(dB).0.03±0.87.3.02±1.39.8.78±2.48.13.32±3.25MDslope(dB/year).0.18±0.64.0.11±1.26.1.02±1.58緑内障点眼の内訳(例数)PG剤865b遮断薬532その他422なし430POAG:広義・原発開放隅角緑内障,PG:プロスタグランジン.(平均±標準偏差)(109)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012985 積比から算出され,急速に上昇するほど大きい値となる.6)Fallingrate:波形の下降領域のAreaovercurveの面積比から算出され,急速に下降するほど大きい値となる.各々3回の血流測定の再現性を表す指標として変動係数を下記の式によって算出した.変動係数=(標準偏差/平均値)×100(%)視野障害進行の指標としてMDslopeを用いた.すなわち,血流測定以後,2年以上(平均±標準偏差:28.7±5.2カ月)にわたり5回以上(平均±標準偏差:5.09±0.29回)のHumphrey視野MD値を測定し,MDslopeを求めた.血流波形パラメータと年齢,眼圧,平均血圧,眼灌流圧との間の関連性の有無についてPearsonの相関係数を求め,有意性を検定した.POAG群においては同様に血流波形パラメータと視野MD値,MDslopeとの間の相関の有無を検討し,また乳頭形態分類(Nicolelaら10))によって局所虚血型,加齢性硬化型,近視型,全体的拡大型の4群に分けたうえ,これらの関連性の有無を検討した.II結果血流波形の各パラメータの変動係数は表2のごとくで,最20-2y=3.302-0.90xr=0.37,p=0.032-4-6-8-10-12MD値(dB)-14-16-1867891011121314151617も大きいSkewが約11%であったが,他のパラメータはいずれも10%未満であり,またPOAG群と正常対照群の間に有意差は認めなかった.POAGにおいて視野MD値と各パラメータの間の関連を検討した結果,有意な相関を認めたのはSkewとBOTで,前者は負の,後者は正の相関を認めた(図1,2).眼圧,平均血圧,眼灌流圧と各パラメータの間の関連性を検討した結果,いずれも有意な相関は認めなかった.つぎに,POAGにおいてMDslopeと各パラメータの間の関連性を検討した結果,POAG全体では有意な相関はみら表2血流波形パラメータの変動係数正常対照POAGFluctuation6.39±3.645.46±5.40Skew11.30±9.3711.06±11.71Blowoutscore1.83±1.061.84±2.81Blowouttime6.75±4.985.95±6.95Risingrate5.90±3.314.98±3.36Fallingrate6.05±5.214.49±4.29POAG:広義・原発開放隅角緑内障.(%,平均±標準偏差)20-2y=-26.469+0.386xr=0.34,p=0.046MD値(dB)-4-6-8-10-12-14-16-184244464850525456586062SkewBlowouttime図1視野MD値とSkewの相関図2視野MD値とBlowouttimeの相関視野MD値はSkewとの間に有意な負の相関を認めた.視野MD値はBlowouttimeとの間に有意な正の相関を認めた.1.21.2MDslope(dB/year)10.80.60.40.20-0.2-0.4y=13.352-1.016xr=0.80,p=0.009y=-5.874+0.121xr=0.61,p=0.049MDslope(dB/year)10.80.60.40.20-0.2-0.4-0.6-0.6-0.8-0.81212.212.412.612.81313.213.413.6424446485052545658FallingrateBlowoutTime図3局所虚血型POAG眼におけるMDslopeとFllingrate図4局所虚血型POAG眼におけるMDslopeとBlowoutの相関timeの相関MDslopeはFallingrateとの間に有意な負の相関を認めた.MDslopeはBlowouttimeとの間に有意な正の相関を認めた.986あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(110) れなかった.乳頭形態分類では局所虚血型9例,加齢性硬化以上,視神経乳頭の血流波形解析によって,動脈硬化性変型7例,近視型11例,全体的拡大型7例であったが,局所化を含む血流動態の変化がPOAGの病態や進展に関与して虚血型においてのみ,MDslopeとFallingrateとの間に負いることが示唆されたが,臨床的意義をより明らかにするたの,BOTとの間に正の有意な相関をそれぞれ認めた(図3,めにはさらなる検討が必要であると考える.4).III考按利益相反:利益相反公表基準に該当なし今回の検討の結果,POAGおよび正常対照の視神経乳頭血流波形パラメータは変動係数が1.8%から11.3%であった.文献視神経乳頭において同様の血流波形パラメータの変動係数を1)岡本兼児,高橋則善,藤居仁:LaserSpeckleFlowgra検討した報告はこれまでになく,直接比較はできないが,同phyを用いた新しい血流波形解析手法.あたらしい眼科じレーザースペックル法で正常者・視神経乳頭血流〔NB26:269-275,2009(normalblur)値〕を測定した再現性指数は11.7%と報告さ2)小暮朗子,田村明子,三田覚ほか:網膜静脈分枝閉塞症れており11),筆者らは今回と同じLAFG-NAVITMで正常者における静脈血流速度と黄斑浮腫.臨眼65:1609-1614,2011とPOAGの視神経乳頭血流〔MBR(meanblurrate)値〕を3)OmotiAE,EdemaOT:Areviewoftheriskfactorsin測定した際の変動係数がいずれも10%未満であったと報告primaryopenangleglaucoma.NigerJClinPract10:している12).また,laserDopplerflowmetryによって正常79-82,2007者と緑内障患者(高血圧なし)の視神経乳頭血流(Flow)を4)Pavljasevi.S,As.eri.M:Primaryopen-angleglaucomaandserumlipids.BosJBasicMedSci9:85-88,2009測定した際の変動係数は各々21%,13%であったと報告さ5)GungorIU,GungorL,OzarslanYetal:Issymptomaticれている13).これらと比較しても今回測定した視神経乳頭血atheroscleroticcerebrovasculardiseaseariskfactorfor流波形パラメータは再現性が良好であり,各種の解析に適しnormal-tensionglaucoma?MedPrincPract20:220-224,たものと考えられた.なお,今回は病期ごとに年齢を合致さ20116)SiasosG,TousoulisD,SiasosGetal:Theassociationせ,かつ特別な全身疾患を有する例を除外したPOAGにつbetweenglaucoma,vascularfunctionandinflammatoryいての検討なので,加齢や他疾患の影響を受けず,緑内障のprocess.IntJCardiol146:113-115,2011病態と血流波形パラメータとの関連の検討ができたと考えら7)deVoogdS,WolfsRC,JansoniusNMetal:Atheroscleroれる.sis,C-reactiveprotein,andriskforopen-angleglaucoma:theRotterdamstudy.InvestOphthalmolVisSci47:POAGにおいて視野MD値とSkew,BOTとの間に有意3772-3776,2006な相関を認めたことより,緑内障性視野障害と血流波形との8)ChibaT,ChibaN,KashiwagiK:Systemicarterial間に何らかの関連があることが推察された.Skewは動脈硬stiffnessinglaucomapatients.JGlaucoma17:15-18,化度を反映すると考えられており1),緑内障の病態に動脈硬20089)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry,化が関連している可能性が示唆された.BOTは末梢への血2ndedition,p121-190,Mosby,StLouis,1999流維持の十分さを示す値であることから,末梢血流の維持が10)NicolelaMT,DranceSM:Variousglaucomatousoptic保たれているかどうかも緑内障の病態に関連していることがnerveappearances:clinicalcorrelations.Ophthalmology示唆された.103:640-649,199611)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Real-timemeasureまた,血流波形解析後(約2年間)のMDslopeとBOTmentofhumanopticnerveheadandchoroidcirculation,やFallingrateが局所虚血型の症例において有意に相関してusingthelaserspecklephenomenon.JpnJOphthalmolいたことより,POAGの少なくとも一部では血流波形が緑41:49-54,1997内障進行の予測因子となり得る可能性が示唆された.BOT12)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVITMを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしいに関しては緑内障病期との関連のみならず,進行との関連も眼科27:1279-1285,2010認めたことより,末梢血流の維持が緑内障の病態に深く関わ13)GrunwaldJE,PiltzJ,HariprasadSMetal:Opticnerveっている可能性が示唆された.また,Fallingrateは血流波bloodflowinglaucoma:effectofsystemichypertension.形の下降領域の急峻さを反映するものであり,動脈硬化性変AmJOphthalmol127:516-522,1999化が緑内障の進行と関わる一因子であると考えられた.***(111)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012987