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アマンタジン塩酸塩内服により片眼性の角膜浮腫を生じた一症例

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1263.1267,2018cアマンタジン塩酸塩内服により片眼性の角膜浮腫を生じた一症例井村泰輔鈴木智地方独立行政法人京都市立病院機構眼科CACaseofAmantadine-associatedUnilateralCornealEdemaTaisukeImuraandTomoSuzukiCDepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospitalOrganization目的:片眼性に生じた角膜浮腫を経験し,アマンタジン塩酸塩(以下,アマンタジン)の休薬とCROCK(Rhokinase)阻害薬の点眼により,短期間で軽快した症例を経験したので報告する.症例:69歳,男性.初診時,右眼の角膜中央から下方にかけて限局性の実質.上皮浮腫を認め,矯正視力は(0.15)と低下し,角膜中央部の内皮細胞密度(ECD)は測定不能であった.左眼は角膜所見に異常なく,視力は(1.2),ECDはC2,239/mmC2であった.アマンタジンを休薬し,フルオロメトロンC0.1%点眼液およびリパスジル塩酸塩水和物点眼液にて加療したところ,休薬C4週後に角膜浮腫は消失し,6週後にCECDはC1,334/mmC2まで回復し,8週後には視力(1.2)まで改善した.結論:アマンタジンによる角膜内皮障害は片眼性に生じることもあり,休薬とともにCROCK阻害薬点眼が早期回復に有用な可能性があると考えられた.CPurpose:ToCreportCaCunilateralCcaseCofCamantadine-associatedCcornealCedemaCthatCwasCsuccessfullyCtreatedCwithROCKinhibitoraftercessationofamantadinetreatment.Case:A69-year-oldmalewasreferredtoourhos-pitalforrightcornealedemawithDescemetfoldsof2months’duration.HisBCVAwas0.15ODand1.2OS.Intra-ocularpressurewas10CmmHgOU.Slit-lampexaminationrevealedfocalstromaledemafromcentraltoinferiorcor-neaCofCtheCrightCeye,CbutCnoCobviousCin.ammationCinCtheCanteriorCchamber.CEndothelialCcellCdensity(ECD)wasCunmeasurableCinCtheCcentralCcornea,CbutC2,547/mm2CinCtheCsuperiorCcornea.CAfterCconsultationCwithCtheCpatient’sneurologist,amantadinehydrochlorideadministrationwasceased.Additionaltreatmentinvolvedtopical0.1%.uo-rometholoneandripasudilhydrochloridehydrate.Thecornealedemaresolvedin4weeksaftercessationofaman-tadineChydrochloride.CInC6Cweeks,CECDCbecameC1,334/mm2.CBCVACimprovedCtoC1.2CODCinC8Cweeks.CConclusion:CTheCcornealCendothelialCdysfunctionCcausedCbyCamantadineCmayCoccurCunilaterally,CandCtogetherCwithCtheCwith-drawal,theROCKinhibitorinstillationmaybeusefulforearlyrecovery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(9):1263.1267,C2018〕Keywords:抗CParkinson病薬,アマンタジン塩酸塩,角膜浮腫,角膜内皮障害,ROCK阻害薬.anti-Parkinsonagent,Amantadinehydrochloride,cornealedema,cornealendotheliumdamage,ROCKinhibitor.Cはじめにアマンタジン塩酸塩(amantadineChydrochloride:以下,アマンタジン)は,当初インフルエンザCA型の予防と治療のために開発されたが,その後ドパミン作動性作用が解明され,現在は抗CParkinson病薬としても使用されている1).眼局所への副作用はC1%以下とされているが,角膜浮腫,斑状上皮下混濁による視覚障害,注視発作,角膜炎や瞳孔散大などが報告されている1).とくにアマンタジンによる角膜浮腫は「両眼性の双子様浮腫」が特徴とされ,角膜内皮細胞密度(endothelialCcellCdensity:ECD)の減少をきたす2.9).一般的に,アマンタジンの休薬と低濃度ステロイド点眼治療により,角膜浮腫は数カ月で軽快するが,ECDの低下は残存する1.10).角膜内皮細胞は再生能をもたず,外傷などで細胞が脱落し〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2京都市立病院眼科Reprintrequests:TomoSuzuki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,1-2Higashitakada,Mibu,Nakagyo-ku,Kyoto604-8845,JAPANた部分は,周囲の正常内皮細胞が徐々に伸展し細胞面積を拡大することで修復し,角膜の透明性を維持している11,12).ECDがC500/mmC2以下になると代償機能が破綻し,水疱性角膜症を生じるが,治療はこれまで角膜移植しか選択肢がなかった.近年,動物実験において,ROCK(RhoCkinase)阻害薬点眼による角膜内皮細胞障害に対する創傷治癒促進作用が報告されており,またヒトに対しても同様の効果が得られる可能性が示唆されている11,12).今回,アマンタジン内服中の患者に片眼性に進行性の角膜浮腫を生じ,アマンタジンの休薬とCROCK阻害薬点眼により,短期間で視力が回復し,ECDも改善した症例を経験したので報告する.CI症例症例はC69歳,男性.近医神経内科で抗うつ薬,抗てんかん薬,抗CParkinson病薬などを内服中であった.2016年C5月に右眼のしみるような痛みと視力低下を主訴に近医眼科を受診した.右眼の角膜下方にCDescemet膜皺襞を伴う上皮びらんを認め,点眼治療が開始された.10日程度で上皮びらんは治癒するも角膜浮腫の改善を認めないため,7月C16日当院へ紹介受診となった.初診時,右眼の矯正視力はC0.15で,前房内炎症は明らかではなく,角膜中央から下方にCDescemet膜皺襞を伴う角膜実質.上皮の浮腫を認めた(図1).ECDは,右眼は角膜中央部では測定不能であったが,上方ではC2,547/mmC2であった.左眼矯正視力はC1.2,ECDは角膜中央でC2,239/mmC2であった.眼圧は両眼ともにC10CmmHgであった.右眼病変部のCECDを計測できなかったことから,片眼性の局所的な内皮細胞の脱落が考えられ,ウイルス性角膜内皮炎の可能性を疑い,前房水を採取しポリメラーゼ連鎖反応法(polymerasechainreaction:PCR法)に供した.内皮細胞障害の進行抑制を目的として,適応外使用ではあるが医師の裁量のもとに0.4%リパスジル塩酸塩水和物(グラナテックCR)点眼液C1日2回,角膜上皮浮腫による自覚軽減を目的にC2%レバミピド(ムコスタCR)点眼液をC1日C4回で開始した.1週間後の再診時にはCDescemet膜皺襞,角膜浮腫はやや軽快し,矯正視力はC0.3となった.前房水CPCR法では単純ヘルペスウイルス,帯状疱疹ウイルス,サイトメガロウイルス,すべて陰性であった.念のため,ヘルペスウイルスの関与を除外する目的でバラシクロビル塩酸塩(バルトレックスCR)錠C1,000Cmg/日で5日間内服を行ったが,効果はみられなかった.その後,0.1%フルオロメトロン(フルオメソロンCR)点眼液1日2回を開始した.非炎症性,非感染性の角膜内皮細胞障害を積極的に疑い,全身疾患に対して処方されている内服薬を詳細に確認したところ,抗CParkinson病薬として投与されているアマンタジン(シンメトレルCR)が原因薬である可能性が考えられた.かかりつけ神経内科へ内服調整を依頼し,アマンタジンを休薬したところ,1週間後の再診時には右眼のCDes-cemet膜皺襞,角膜浮腫ともに著明な改善を認め(図2),矯正視力もC0.8と改善し,薬剤性角膜内皮障害との診断に至った.その後は,症状の増悪なく良好な経過をたどり,休薬C4週後には角膜浮腫は完全に消失し(図3),休薬C6週後に,右眼のCECDも中央部で測定可能となり(1,334/mmC2),休薬C8週後には右眼の矯正視力はC1.2まで改善した.CII考按本症例は,Parkinson病治療薬であるアマンタジンによる片眼性の角膜浮腫と考えられた.アマンタジンによる角膜浮腫は販売当初から報告されており,両眼性であること,内服期間の長短にかかわらず発症すること,1日当たりの内服量が多いほど発症しやすいこと,などが特徴としてあげられている9).そこで,2004.2015年に報告されたアマンタジンによる角膜浮腫の症例報告(9論文,計C11症例)1.8,10)の系統的レビューを行い,1)発症年齢,2)アマンタジンのC1日投与量,3)角膜浮腫が現れるまでの投与期間,4)角膜浮腫が現れてからアマンタジンの休薬までに要した期間,5)休薬後から眼所見の軽快傾向が認められるまでに要した期間,6)眼所見が完全に軽快した段階でのCECD,の臨床的特徴について検討し,本症例と比較した(表1,2).11症例はすべて両眼性で,発症年齢はC1例のみC14歳と若年であったが平均はC55歳,アマンタジンC1日投与量は245Cmg,角膜浮腫が出現までの投与期間はC736日,角膜浮腫出現からアマンタジンの休薬までに要した期間はC73日であり,休薬後角膜浮腫の軽快傾向が認められるまでに要した期間はC49日であった.すべての症例でアマンタジンの休薬によって角膜浮腫は軽快したが,ECDは低下したままであった.右眼C643C±139/mm2,左眼C679C±208/mm2と左右差は認めなかった(表1).本症例は片眼性であったが,発症年齢,1日投与量,発症までの内服期間とアマンタジン休薬までに要した期間は既存の報告との間に差はなかった.軽快傾向がみられるまでに要した期間はC7日と短く,最終的に測定可能となったCECDはC1,334/mm2にまで回復していた.僚眼のCECDは観察期間中に明らかな変化を認めなかった(表2).アマンタジンによる角膜浮腫の発症機序に関してはいまだ不明である.薬剤性角膜障害であり,休薬すれば経時的に角膜浮腫は軽快するため,病理組織学的評価が行われにくいことや,内服中の前房内アマンタジン濃度などの状態を評価するのが困難なことが要因と考えられる.アマンタジン内服中に,原因不明の角膜浮腫として全層角膜移植が行われた症例では,摘出角膜の内皮細胞に何らかの損傷は確認できるものの,特異的な変化は認めなかったと報告されている6).図1右眼前眼部写真(初診時)a:角膜中央.下方にCDescemet膜皺襞を伴う角膜実質.上皮浮腫を認める.Cb:フルオレセイン染色所見.局所的な上皮浮腫が認められる.C図2右眼前眼部写真(アマンタジン休薬1週間後)a:Descemet膜皺襞がやや軽快し,角膜浮腫の範囲も縮小傾向を認める.Cb:フルオレセイン染色所見.上皮浮腫の軽快傾向が認められる.C図3右眼前眼部写真(アマンタジン休薬4週間後)a:Descemet膜皺襞は消失し,角膜浮腫も認めない.Cb:フルオレセイン染色所見.上皮の不整も認めない.表1アマンタジンによる角膜浮腫をきたした過去の報告著者年齢性別主病名内服畳(内服期間)休薬までの期間予後(軽快までの期間)ECD(/mmC2)CYang1)46歳男性うつ病200mg/日(3年間)4カ月軽快(4カ月)右眼:7C02左眼:7C07CAvendano2)64歳女性Parkinson病300mg/日(2年間)4日軽快(4C0日)右眼:7C98左眼:8C53CHotehama3)77歳女性振戦150mg/日(1C5日)3カ月軽快(1C4日)右眼:9C01左眼:C1,134CGha.arlyoh4)68歳女性Parkinson病200mg/日(2年間)6カ月軽快(6カ月)不明CChang5)52歳女性Parkinson病250mg/日(6C5年間)2カ月軽快(1C4日)右眼:5C74左眼:4C60C55歳女性多発性硬化症200mg/日(6年間)17カ月全層角膜移植施行その後,休薬右眼:4C95左眼:5C64Jeng6)57歳男性多発性硬化症200mg/日(2カ月)2カ月軽快(1C4日)右眼:6C01左眼:6C1644歳女性双極性障害200mg/日(3カ月)2カ月軽快(5週間)右眼:4C70左眼:4C80CKubo7)64歳男性Parkinson病300mg/日(8カ月)不明軽快(8日)不明CHughes8)14歳男性不明300mg/日(1年間)数カ月軽快(1カ月)不明CKim10)63歳女性Parkinson病400mg/日(7カ月)1週間軽快(1カ月)右眼:6C08左眼:6C21表2本症例と過去の報告との比較過去の報告C11例平均±標準偏差(範囲)本症例年齢(歳)C54.9±15.9(C14.C77)C69内服量(mg/日)C245±68.9(C150.C400)C200内服期間(日)C736±796(C15.C2,370)C730休薬までの期間(日)C72.6±54.2(C4.C180)C78軽快傾向までの期間(日)C角膜内皮細胞密度右眼(/mm2)左眼C48.5±53.4(C8.C180)C643±139(C470.C901)C679±208(C460.C1,134)C71,334(C2,388)本症例は,片眼性に角膜浮腫が出現し,患眼のみでCECDの低下が認められた.本来,両眼性に発症するとされている角膜浮腫が片眼のみに出現した原因として,アマンタジンの内服前から,何らかの理由で患眼のみCECDの低下が生じていた可能性,あるいは前房内微小環境に左右差があり,患眼のみに角膜浮腫が先に出現し,片眼性となった可能性が考えられる.ECDの低下の原因としては,角膜ヘルペスや虹彩毛様体炎の既往,続発緑内障や偽落屑の存在,内眼手術歴やレーザー虹彩切開術などが考えられるが,本症例ではいずれも認められなかった.ROCK阻害薬の一つであるC0.4%リパスジル塩酸塩水和物(グラナテックCR)点眼液は線維柱帯細胞の形状を変化させ,前房水の流出量を増加することから緑内障治療薬として使用されている12).一方,ROCK阻害薬は角膜内皮細胞同士の接着を高め,増殖を促進し,細胞死を抑制する可能性も報告されている11,12).本症例は,既存の報告と比較して,アマンタジンによる角膜浮腫が出現後休薬に至るまでの経過に明らかな差を認めなかったが,休薬直後から短期間で角膜浮腫は軽快し,休薬C6週間後にはCECD>1,000/mmC2に改善が認められた.その要因として,0.4%リパスジル塩酸塩水和物(グラナテックR)点眼液による角膜内皮細胞への創傷治癒促進作用が関連している可能性が推測される.すでに,リパスジル塩酸塩水和物を用いた家兎実験では,角膜内皮細胞の保護作用,創傷治癒の促進作用が認められており12),今後角膜内皮障害治療薬としての開発が期待される.アマンタジンによる薬剤性角膜内皮障害は片眼性に生じることもある.非感染性角膜内皮障害を認めた場合には,併用薬の確認を詳細に行い,原因薬の休薬とともに,現在はまだ適応外使用ではあるがCROCK阻害薬の点眼を行うことで角膜浮腫の早期の消退とCECDの改善が期待できる可能性があり,今後さらなる検討が望まれる.文献1)YangY,TejaS,BaigK:Bilateralcornealedemaassociat-edwithamantadine.CMAJC187:1155-1158,C20152)AvendanoCC,CCelisCS,CMesaCVCetCal:CornealCtoxicityCdueCtoamantadine.ArchSocEspOftalmolC87:290-293,C20123)HotehamaCA,CMimuraCT,CUsuiCTCetCal:SuddenConsetCofCamantadine-inducedCreversibleCbilateralCcornealCedemaCinanelderlypatient:casereportandliteraturereview.JpnJOphthalmolC55:71-74,C20114)Gha.arlyohCA,CHonarpishehCN:Amantadine-associatedCcornealedema.ParkinsonismRelatDisordC16:427,C20105)ChangCKC,CKimCMK,CWeeCWRCetCal:CornealCendothelialCdysfunctionCassociatedCwithCamantadineCtoxicity.CCorneaC27:1182-1185,C20086)JengCBH,CGalorCA,CLeeCMSCetCal:Amantadine-associatedCcornealedemapotentiallyirreversibleevenaftercessationofthemedication.OphthalmologyC115:1540-1544,C20087)KuboCS,CIwatakeCA,CEbiharaCNCetCal:VisualCimpairmentCinCParkinson’sCdiseaseCtreatedCwithCamantadine:caseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CParkinsonismCRelatCDisordC14:166-169,C20088)HughesCB,CFeizCV,CStebenCBCetCal:ReversibleCamanta-dine-inducedcornealedemainanadolescent.CorneaC23:C823-824,C20049)LeeCPY,CTuCHP,CLinCCPCetCal:AmantadineCuseCasCaCriskfactorCforCcornealCedema:ACnationwideCcohortCstudyCinCTaiwan.AmJOphthalmolC171:122-129,C201610)KimCYE,CYunCJY,CYangCHJCetCal:AmantadineCinducedCcornealedemainapatientwithprimaryprogressivefreez-ingCofgait.JMovDisordC6:34-36,C201311)OkumuraN,KoizumiN,KayEPetal:TheROCKinhibi-toreyedropacceleratescornealendotheliumwoundheal-ing.InvestOphthalmolVisSciC54:2493-2502,C201312)OkumuraN,OkazakiY,InoueRetal:E.ectoftheRho-associatedkinaseinhibitoreyedrop(Ripasudil)oncornealendothelialwoundhealing.InvestOphthalmolVisSciC57:C1284-1292,C2016***

リパスジル点眼追加治療12カ月の成績

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):967.970,2018cリパスジル点眼追加治療12カ月の成績上原千晶新垣淑邦力石洋平與那原理子酒井寛琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座CTwelve-monthResultofAdd-onTherapywithRipasudilOphthalmicSolutionChiakiUehara,YoshikuniArakaki,YouheiChikaraishi,MichikoYonaharaandHiroshiSakaiCDepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus緑内障点眼加療中の患者で,リパスジル点眼追加治療を行ったC76例C105眼を後ろ向きに調査した.3カ月以上継続使用し経過を追えたC52例C79眼(原発開放隅角緑内障C40眼,原発閉塞隅角緑内障C19眼,続発緑内障C20眼,平均点眼スコアはC3.7)の平均眼圧は追加前C17.7CmmHgからC12カ月後ではC15.0CmmHgに下降(下降率C10.6%)した.点眼スコアC3以下とC4以上では,それぞれC19.2CmmHgからC15.2CmmHg,17.7CmmHgからC15.0CmmHgへと,12カ月時点まで両群とも有意に眼圧下降した.リパスジル投与前眼圧C15CmmHg以上とC15CmmHg未満の比較ではC15CmmHg以上群では全時点で眼圧は下降(12カ月後下降率C14.5%)したが,15CmmHg未満群では全時点で有意な眼圧下降はなかった.3カ月以降継続群C79眼での点眼中止は眼圧下降不十分C14眼と副作用による中止C9眼の計C23眼(30.4%)であった.CInCaCretrospectiveCreviewCofC105CeyesCofC76CpatientsCwithCglaucomaCinsu.cientlyCcontrolledCunderCmultipleCmedicaltherapy,79eyesof52patientsweretreatedformorethan3monthswithtopicalRipasudiladd-onthera-py.CInCtheC79Ceyes,CintraocularCpressure(IOP)wasCreducedC10.6%Coverall.CIOPCwasCsigni.cantlyCreducedCinCbothgroupsoflow(3orless)andhighscore(4ormore)ofanti-glaucomamedications.AmongeyeswithIOP15CmmHgorChigher,CIOPCreductionCwasCsigni.cantCatCallCtimeCpoints,CbutCthisCwasCnotCtheCcaseCinCeyesCwithCIOPClessCthan15CmmHg.23eyes(30.4%)discontinuedtheRipasudiladd-ontherapybecauseofinsu.cientIOPcontrolorocularsidee.ects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):967.970,C2018〕Keywords:緑内障,点眼,ROCK阻害薬,リパスジル,多剤併用.glaucoma,eyedrop,ROCKinhibitor,Ripa-sudil,multiplemedicaltherapy.CはじめにRhoキナーゼ阻害薬であるリパスジルは,線維柱帯細胞,Schlemm管内皮細胞の細胞骨格を修飾することにより,房水の主流出経路を促進し眼圧を下降させる1).既存の緑内障点眼薬と作用機序が異なるため,これまで眼圧下降が不十分であった症例に対しても効果が期待されているが,新しい薬剤であり,長期の効果と安全性の報告は少ない.今回,筆者らは既存の緑内障点眼薬で治療中であり眼圧下降が不十分でリパスジル点眼薬を追加投与した症例について,1年間の眼圧下降効果と安全性について後ろ向きに検討した.CI対象および方法当科にて緑内障治療中の患者のうち,眼圧下降が不十分と考えられ,2014年C12月.2016年C2月にリパスジル点眼薬1日C2回点眼を追加した症例はC106例C147眼である.3カ月以内の内眼手術既往のあるC9例C9眼,処方後C3カ月未満で転院,未来院となったC22例C33眼を除外したC76例C105眼を安全性解析対象とした.76例C105眼のうち,手術を前提として追加点眼しC2カ月以内に手術施行したのがC14例C14眼(レーザー線維柱帯形成術C2例C2眼,水晶体再建術C3例C3眼,濾過手術C9例C9眼),眼圧上昇による中止がC1眼,追加時または追加C2カ月以内に併用薬剤を変更したのがC10例C11眼であった.処方中止,または併用薬剤の変更となった上記の25例C26眼を除いたC55例C79眼を有効性解析対象とした(図1).追加前,追加後C1カ月,2カ月,3カ月,6カ月,12カ月の診察日時の眼圧を集計した.各時点で来院がなかったも〔別刷請求先〕上原千晶:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学部眼科学講座Reprintrequests:ChiakiUehara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(117)C967のはその月のみの欠損値とし,3カ月以降で点眼中止となった例はそれ以降の解析から除外した.全例で診察日朝の点眼は施行するよう指示されていた.統計には,リパスジル点眼薬の追加前と追加後それぞれの測定時期での眼圧は,対応のあるCt検定を,点眼スコア別,追加前眼圧別の眼圧下降値,下降率はCWilcoxonの符号付順位検定を用いた.CII結果眼圧解析対象のC55例C79眼は原発開放隅角緑内障(prima-ryopenangleglaucoma:POAG)40眼,原発閉塞隅角緑内障C19眼,続発緑内障C20眼(落屑緑内障C6眼,ステロイド緑内障C5眼,ぶどう膜炎続発緑内障C3眼,血管新生緑内障C6眼)で,年齢C66.8C±14.0(30.86)歳,男性28例42眼,女性C24例C37眼,追加投与開始前眼圧C17.7C±4.7(12.38)mmHg,1点眼薬をC1点,アセタゾラミド内服をC2点としたときの点眼スコアC3.7C±1.0(1.5)点(1点:4眼,2点:4眼,3点:18眼,4点:44眼,5点:8眼,6点:1眼),Humphrey静的視野計CSITAスタンダードC24-2または30-2によるCMD値はC.14.0±7.1CdBであった.リパスジル点眼薬を追加後,眼圧はすべての期間で有意に下降した(図2).平均眼圧は追加前C17.7CmmHgからC12カ月後ではC15.0CmmHgに下降(C.2.1CmmHg,下降率C10.6%)した.点眼スコアがC3以下とC4以上の群の追加前と追加C12カ月後の平均眼圧は,それぞれC19.2mmHgからC15.2mmHg,17.7CmmHgからC15.0CmmHgへと,両群ともに有意に下降し10リパスジル(*p<0.05,対応のあるt検定)投与前1M2M3M6M12M(n=79)(n=77)(n=58)(n=77)(n=77)(n=52)下降値(mmHg)C2.0±4.0C1.4±3.0C1.6±4.3C2.3±3.7C2.1±3.9下降率(%)C9.1±16.1C7.2±17.1C6.3±17.8C11.1±16.5C10.6±21.0図2眼圧の推移(全体)C968あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(118)眼圧(mmHg)2422201816141210リパスジル1M2M3M6M12M追加前(*p<0.05:Wilcoxonの符号付順位検定)スコア3以下(n=26)(n=25)(n=14)(n=24)(n=26)(n=15)スコア4以上(n=53)(n=52)(n=44)(n=53)(n=51)(n=37)下降率(%)スコアC3以下C10.1±16.9C10.6±11.7C12.1±18.3C13.9±18.4C14.2±16.8スコアC4以上C8.6±16.1C6.1±18.6C3.7±17.2C9.7±15.6C9.2±22.7図3点眼スコア別眼圧の推移24眼圧(mmHg)22201816141210リパスジル追加前(*p<0.05:Wilcoxonの符号付順位検定)15mmHg以上(n=59)(n=58)(n=41)(n=58)(n=57)(n=35)15mmHg未満(n=20)(n=19)(n=17)(n=19)(n=20)(n=17)下降率(%)15CmmHg以上C11.6±15.7C8.0±18.2C8.9±18.2C12.4±15.7C14.5±20.815CmmHg未満C1.5±15.9C5.1±14.9C.1.8±14.3C7.4±18.8C2.3±20.0C図4リパスジル追加前眼圧別眼圧の推移はC9眼で,そのうちC4眼は眼瞼炎によるものであり,すべて投与後C6カ月以降に出現していた.掻痒感はC2眼がC3カ月に,3眼がC6カ月以降に出現していた.投与開始C3カ月後以降継続群C79眼のうちC12カ月までの点眼中止例はC23眼(30.4%;95%CCI,C20.2.40.5%)であり,内訳は眼圧下降不十分14眼(17.7%;95%CCI,C9.3.26.1%),前述した副作用による中止例C9眼であった.12カ月時点での未来院のC4眼は分母から除外した.眼圧下降不十分C14眼の内訳は点眼変更C4眼,併用薬変更C6眼,緑内障手術追加C2眼,レーザー治療追加C2眼であった.CIII考察Taniharaら2)はCPOAG,落屑緑内障,高眼圧症を対象としたリパスジル点眼追加治療C1年の前向き研究においては,プロスタグランジン製剤(PG)+b遮断薬に追加したときにおけるC12カ月後の眼圧下降値はC1.7CmmHg(下降率C9.9%)であったと報告した.また,多剤併用例におけるC3カ月の下降効果は,塚原ら3)の報告では下降率C9.3%,Inazaki4)らは下降値C2.8mmHg(下降率C15.5%),またCSatoら5)の報告の6カ月では下降値C3.1CmmHg(下降率約C15%)であった.今回の結果は平均点眼スコア3.7,12カ月の眼圧下降値C2.1mmHg(下降率C10.6%)と過去の報告とほぼ同様であった.(119)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C969追加前眼圧がC15mmHg以上の群では,眼圧下降値は14CmmHg以下の群と比べて有意に大きかったと中谷ら6)の報告がある.今回は眼圧下降が不十分で投薬を中止された例を除いた検討であったが,追加前眼圧C15CmmHg以上の群ではC12カ月において有意な眼圧下降を認めたが,15CmmHg未満の群では有意な眼圧下降はなかった.一方,術前点眼数にかかわらず眼圧下降が観察されたが,これはリパスジルが房水の主流出経路に作用し,既処方薬とは異なる作用機序であるためと考えられた.リパスジルの副作用は,処方後C2.3カ月以上経過して発症する眼瞼炎7),アレルギー性結膜炎や眼瞼炎(中止例は14.4%)2)の報告がある.今回の検討でも同様の結果であった.病型ごとの検討は症例数が少なく行っておらず,眼圧測定時間にも幅があることは後ろ向き研究であるための限界である.今回の検討は多剤併用の多い緑内障専門外来での検討であったため,眼圧下降不十分や副作用などで約C3割の症例で処方を中止した.より少ない点眼数で検討した臨床研究と後ろ向きの症例検討との相違であると考えられた.したがって,今回の結果を軽症例のより多い一般臨床現場に当てはめることはできない.より少ない併用数の症例を対象とした検討が必要である.病型別の検討ができなかったことも課題であり,今後症例数を増やして検討する必要がある.CIV結論リパスジル点眼薬は多剤併用例に対しても併用薬の数にかかわらず眼圧下降効果があり,追加前眼圧C15CmmHg以上の症例において有効であった.長期使用では眼瞼炎などの副作用に注意が必要である.利益相反:酒井寛(カテゴリーCP:トーメーコーポレーション)文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectofrho-asso-ciatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632ConCintraocularCpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:137-144,C20012)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calCevaluationCofC0.4%Cripasudil(K-115)inCpatientCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CActaCOph-thalmolC94:e26-e34,C20163)塚原瞬,榎本暢子,石田恭子ほか:リパスジル点眼薬による眼圧下降効果の検討.臨眼71:611-616,C20174)InazakiCH,CKobayashiCS,CAnzaiCYCetCal:E.cacyCofCtheCadditionalCuseCofCripasudil,CaCrho-kinaseCinhibitor,CinCpatientsCwithCglaucomaCinadequatelyCcontrolledCunderCmaximummedicaltherapy.JGlaucomaC26:96-100,C20175)SatoCS,CHirookaCK,CNaritaCECetCal:AdditiveCintraocularCloweringCe.ectsCofCtheCrhoCkinaseCinhibitor,CripasudilCinCglaucomaCpatientsCnotCableCtoCobtainCadequateCcontrolCafterothermaximaltoleratedmedicaltherapy.AdvTher33:1628-1634,C20166)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンのC4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼薬の追加処方.あたらしい眼科C33:1063-1065,C20167)富重明子,齋藤雄太,高橋春男:開放隅角緑内障に対するリパスジル点眼薬の短期的な眼圧下降効果.臨眼C71:1105-1109,C2017***970あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(120)