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原田病の既往眼に生じた黄斑円孔網膜剝離の1例

2013年5月31日 金曜日

《第46回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科30(5):665.669,2013c原田病の既往眼に生じた黄斑円孔網膜.離の1例庄田裕美*1小林崇俊*1丸山耕一*1,2高井七重*1多田玲*1,3竹田清子*1池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2川添丸山眼科*3多田眼科MacularHoleRetinalDetachmentinEyewithHistoryofVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseHiromiShoda1),TakatoshiKobayashi1),KoichiMaruyama1,2),NanaeTakai1),ReiTada1,3),SayakoTakeda1)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)KawazoeMaruyamaEyeClinic,3)TadaEyeClinic緒言:Vogt-小柳-原田病(以下,原田病)の既往眼に黄斑円孔網膜.離が生じ,硝子体手術によって復位を得た1例を経験したので報告する.症例:80歳,女性.右眼視力低下を主訴に近医を受診.精査加療目的にて大阪医科大学附属病院眼科へ紹介受診となった.既往歴として,19年前に両眼に原田病を発症し,加療にて治癒している.今回,矯正視力は右眼(0.03),左眼(0.6)で,屈折は右眼がほぼ正視,左眼は強度近視眼であった.眼底は両眼とも夕焼け状眼底で,右眼には小さな黄斑円孔を認め,網膜はほぼ全.離の状態であった.白内障・硝子体同時手術を施行し,網膜の復位を得た.術中所見では後部硝子体.離は生じておらず,肥厚した後部硝子体膜が後極部網膜と強固に癒着していた.結論:原田病の既往がある正視眼に黄斑円孔網膜.離が発症した一因として,原田病によって形成された網膜硝子体癒着が関与している可能性が示唆された.Purpose:Toreportacaseofmacularholeretinaldetachment(MHRD)inaneyewithahistoryofVogt-Koyanagi-Harada(VKH)disease.CaseReport:An80-year-oldfemalewhovisitedalocaldoctorduetodecreasedvisioninherrighteyewasdiagnosedashavingMHRDandwassubsequentlyreferredtoOsakaMedicalCollegeHospital.ShehadbeendiagnosedashavingVKHdisease19yearspreviously,andhadbeentreatedwithsystemicsteroidtherapy.Hercorrectedvisualacuitywas0.03OD.Funduscopicexaminationrevealedbilateralsunset-glowfundusandMHRDinherrighteye.Vitreoussurgerycombinedwithcataractextractionwasperformedontheeye,andtheretinawassuccessfullyreattached.Duringsurgery,theposteriorvitreousmembranewasfoundtobetautandfirmlyattachedtothemacularregion.Conclusion:ThefindingsofthisstudysuggestthatfirmvitreoretinaladhesioninthemacularregionisonecauseofMHRDdevelopment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(5):665.669,2013〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,黄斑円孔網膜.離,ぶどう膜炎,硝子体手術.Vogt-Koyanagi-Harada(VKH)disease,macularholeretinaldetachment,uveitis,vitreoussurgery.はじめにVogt-小柳-原田病(以下,原田病)は,メラノサイトを標的とする自己免疫疾患と考えられており,眼所見としては両眼性の汎ぶどう膜炎で,後極部の多発性の滲出性網膜.離を特徴とし,経過中に夕焼け状眼底に移行する1).一方,原田病の既往眼に裂孔原性網膜.離を生じたとする報告は少なく2,3),特に黄斑円孔網膜.離を生じた報告はきわめてまれである4).今回,筆者らは原田病の既往眼に黄斑円孔網膜.離を生じ,硝子体手術にて復位を得た1例を経験したので報告する.I症例患者:80歳,女性.主訴:右眼視力低下.現病歴:平成24年1月初めより上記症状を自覚していた.1月下旬になり近医を受診し,右眼の黄斑円孔網膜.離を指摘され,精査加療目的にて1月31日に大阪医科大学附属病院眼科(以下,当科)を紹介受診となった.〔別刷請求先〕庄田裕美:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiromiShoda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigakucho,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(87)665 図1a初診時右眼眼底写真小さな黄斑円孔を認め,上方の一部を除き,網膜はほぼ全.離の状態であった.既往歴:平成5年に原田病と診断され,当科でステロイド薬の大量漸減療法を施行し,網脈絡膜病変は軽快したが,前眼部炎症は平成17年まで再発を繰り返すなど遷延していた.平成8年には,左眼白内障に対し,超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行されていた.平成18年以降は,近医にて経過観察されていた.家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼0.01(0.03×sph+1.5D(cyl.1.0DAx180°),左眼0.09(0.6×sph.3.25D(cyl.0.5DAx90°).眼圧は右眼7mmHg,左眼8mmHg.前眼部は,両眼とも前房内に炎症細胞はみられなかったが,右眼では虹彩後癒着のため散瞳不良の状態で,中等度の白内障を認めた.左眼は眼内レンズ挿入眼で虹彩後癒着はなかった.眼底は,両眼とも夕焼け状眼底を呈し,右眼は検眼鏡的および光干渉断層計(OCT)で小さな黄斑円孔を認め,上方の一部を除き,網膜はほぼ全.離の状態であった(図1a,b).左眼は強度近視眼で後部ぶどう腫と網脈絡膜萎縮を認めた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)では,右眼は一部に血管からの軽度の蛍光漏出を認めたが,両眼とも原田病に特徴的な漿液図1b初診時の右眼OCT画像小さな黄斑円孔を認める.666あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(88) abab図2当科初診時のフルオレセイン蛍光眼底造影写真(a:右眼,b:左眼)右眼は一部に血管からの軽度の蛍光漏出を認めた.図3右眼に対する硝子体手術の術中所見後部硝子体は未.離で,黄斑円孔周囲では,肥厚した硝子体膜が網膜と強固に癒着していた.性網膜.離は認めなかった(図2a,b).入院中に測定した右眼の眼軸長は21.93mmであり,平成18年に近医へ紹介した時点の視力は,右眼0.15(0.7×sph+2.25D(cyl.1.0DAx160°),左眼は0.1(矯正0.7)であり,両眼とも虹彩後癒着の所見の記載はなかった.入院後経過:平成24年2月7日に経毛様体扁平部水晶体切除術(PPL)および経毛様体扁平部硝子体切除術(PPV)を施行した.手術は通常の3ポートシステムで,まずフラグマトームTMを用いてPPLを施行し,つぎにコアの硝子体ゲルを切除した.後部硝子体は未.離で,黄斑円孔周囲では,肥厚した硝子体膜が網膜と強固に癒着していた.硝子体鑷子も用いながら,丁寧に硝子体膜を.離除去した(図3).ついで硝子体カッターおよび硝子体鑷子を用いて視神経乳頭部から周辺部に向かって人工的後部硝子体.離を作製した.その図4a術後の右眼眼底写真網膜は復位している.後,インドシアニングリーンを使用して黄斑円孔周囲の内境界膜.離を行い,黄斑円孔から粘稠な網膜下液を可能な限り吸引したうえで,気圧伸展網膜復位術を行った.最後に20%SF6(六フッ化硫黄)によるガスタンポナーデを施行し手術を終了した.術後経過は良好で,網膜は復位しOCTでも黄斑円孔の閉鎖を確認できた.現在までに炎症の再燃も認めておらず,術後最終視力は右眼0.01(0.06×sph+13.0D(cyl.0.5DAx130°)であった(図4a,b).II考按これまでに原田病と裂孔原性網膜.離を合併したという報告は少なく,その理由として,原田病の炎症は脈絡膜や網膜(89)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013667 図4b術後OCT所見黄斑円孔は閉鎖している.色素上皮が主体であり,網膜や硝子体の炎症による変化が少なく,そのため後部硝子体.離や裂孔原性網膜.離を生じることは少ないとする報告が散見される2,3,5).さらに,原田病の既往眼に黄斑円孔網膜.離が発症したとする報告はきわめてまれであり,筆者らが調べた限りでは,国内外を通じてわが国の越山らの報告の1例4)を認めるのみであった.その報告では,80歳女性が6年前に原田病を発症し,軽快と再燃を繰り返していたところ経過中に黄斑円孔網膜.離が生じ,硝子体手術によって治癒したとしている.また,術中所見として後部硝子体.離は起こっておらず,薄い後部硝子体が網膜全面に広く付着しており,黄斑周囲には索状の硝子体の付着を認めたと記載されている.本症例でも越山らの報告と同様に後部硝子体.離は生じていなかったが,原田病に黄斑円孔を合併した報告6,7)や,黄斑円孔網膜.離を合併した上記の報告4)にあるように,術中に網膜と硝子体の強固な癒着を認めた.それらの報告のうちKobayashiら7)は,術中に採取した内境界膜を電子顕微鏡で観察し,網膜色素上皮細胞様の細胞を認めたと述べており,急性期に原田病の炎症によって遊走した細胞が内境界膜の上で増殖し,その結果網膜と硝子体の接着に影響を与え,回復期に後部硝子体.離の進行とともに黄斑円孔を生じる誘因になったと推測している.一方,本症例は測定した眼軸長が21.93mmであり,平成18年当時の等価球面度数も+1.75D程度であることから,強度近視眼ではない眼に黄斑円孔網膜.離が生じた症例でもある.正視眼に黄斑円孔網膜.離を生じた過去の報告8,9)でも,本症例のように網膜と硝子体の強固な癒着を認めた例があり,硝子体による網膜の前後方向の牽引が黄斑円孔網膜.離の発生機序と推察されている.以上の点から,おそらく原田病の長期間の慢性的な炎症のために網膜と硝子体の強固な癒着が形成され,そのことが今回の黄斑円孔網膜.離を生じた一因となったと考えている.本症例の平成18年以降の詳細な経過は不明ではあるが,平成8年から平成18年までの当科への通院中に前眼部炎症が再燃を繰り返すなど,炎症が遷延化していたことが診療録から判明している.また,平成18年の時点で虹彩後癒着がなく,今回の初診時に前房内に炎症細胞がないにもかかわらず右眼に虹彩後癒着を認めたことから,平成18年以降も慢性的な炎症が存在したことが推測でき,上記の考えを示唆する所見と捉えている.668あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(90) 一方,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に伴う.胞様黄斑浮腫が黄斑円孔の原因となったとする報告10,11)や,原田病以外のぶどう膜炎に黄斑円孔を合併した報告も散見される12,13).Wooらは,ぶどう膜炎7例の症例(Behcet病1例,サイトメガロウイルス網膜炎1例,特発性脈絡膜炎1例,特発性ぶどう膜炎4例)でみられた黄斑円孔の発生機序について,黄斑上膜による接線方向の牽引や,.胞様黄斑浮腫,層状黄斑円孔などが原因であったと述べている12).法師山らの,Behcet病に合併した両眼性黄斑円孔の報告では,術中の内境界膜.離の際,通常の特発性黄斑円孔とは異なり接着が強く,.離が困難であったと述べている.そして黄斑円孔の原因として,反復するぶどう膜炎による硝子体の変性や残存後部硝子体皮質の牽引,.胞様黄斑浮腫による網膜の脆弱化・破綻などを可能性としてあげている13).本症例でも過去の原田病発病時に滲出性網膜.離を生じており,また,遷延化した炎症のため生じた.胞様黄斑浮腫によって黄斑部網膜が脆弱となり,黄斑円孔形成の一因となった可能性も否定できない13).本症例は現時点で網膜は復位しており,術後炎症も軽度で,術後から現在に至るまで原田病の再発を認めていない.しかし,過去には視力予後不良の症例の報告もある14)ことから,今後も慎重な経過観察が必要であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)宮永将,望月學:Vogt-小柳-原田病.眼科50:829837,20082)山口剛史,江下忠彦,篠田肇ほか:原田病の回復期に裂孔原性網膜.離を合併した1例.眼紀55:147-150,20043)清武良子,吉貫弘佳,中林條ほか:網膜裂孔および裂孔原性網膜.離を発症したVogt-小柳-原田病の5症例.眼臨93:491-493,20074)越山佳寿子,平田憲,根木昭ほか:原田病遷延例にみられた黄斑円孔網膜.離.眼臨93:1358-1360,19995)廣川博之:ぶどう膜炎における硝子体変化の意義.日眼会誌92:2020-2028,19886)川村亮介,奥田恵美,篠田肇ほか:原田病回復期に認められた黄斑円孔の1例.眼臨97:1081-1084,20037)KobayashiI,InoueM,OkadaAAetal:VitreoussurgeryformacularholeinpatientswithVogt-Koyanagi-Haradadisease.ClinExperimentOphthalmol36:861-864,20088)上村昭典,出田秀尚:正視眼の黄斑円孔網膜.離.眼臨89:997-1000,19959)向井規子,大林亜季,今村裕ほか:正視眼に発症した黄斑円孔網膜.離の1例.眼科45:515-518,200310)UnokiN,NishijimaK,KitaMetal:Lamellarmacularholeformationinpatientswithdiabeticcystoidmacularedema.Retina29:1128-1133,200911)TsukadaK,TsujikawaA,MurakamiTetal:Lamellarmacularholeformationinchroniccystoidmacularedemaassociatedwithretinalveinocclusion.JpnJOphthalmol55:506-513,201112)WooSJ,YuHG,ChungH:Surgicaloutcomeofvitrectomyformacularholesecondarytouveitis.ActaOphthalmol88:e287-e288,201013)法師山至,廣瀬美央,中村竜大:ベーチェット病に合併した両眼性黄斑円孔の1例.眼臨101:790-793,200714)太田敬子,高野雅彦,中村聡ほか:ぶどう膜炎に対する硝子体手術成績.臨眼55:1199-1202,2001***(91)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013669

乳頭浮腫型Vogt-小柳-原田病の1 例

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)293《原著》あたらしい眼科28(2):293.296,2011cはじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)は全身のメラノサイトに対する特異的な自己免疫疾患であり,ぶどう膜炎などの眼症状と感音性難聴,無菌性髄膜炎などの眼外症状を呈する1).交感性眼炎との相違は穿孔性眼外傷,あるいは内眼手術の既往の有無のみである2).国際診断基準として,両眼性であり,病初期にはびまん性脈絡膜炎を示唆する所見,すなわち限局性の網膜下液あるいは胞状滲出性網膜.離が示されている.これが明確でない場合にはフルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FAG)による限局性の脈絡膜還流遅延,多発性点状漏出や大きな斑状過蛍光,網膜下蛍光貯留または乳頭蛍光染色,および超音波によるびまん性脈絡膜肥厚が眼所見として必要である.今回,早期に視神経乳頭の発赤・腫脹は明らかであったが眼底検査では滲出性網膜.離はみられず,後に著明となりVKHと確定診断した症例を経験したので報告する.I症例患者:59歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:糖尿病.〔別刷請求先〕平田菜穂子:〒232-8555横浜市南区六ツ川2-138-4神奈川県立こども医療センター眼科Reprintrequests:NaokoHirata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildren’sMedicalCenter,2-138-4Mutsukawa,Minami-ku,Yokohama-city,Kanagawa232-8555,JAPAN乳頭浮腫型Vogt-小柳-原田病の1例平田菜穂子*1林孝彦*2山根真*3水木信久*4竹内聡*2*1横浜南共済病院眼科*2横須賀共済病院眼科*3横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科*4横浜市立大学附属病院眼科ACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDiseasewithPapillitisNaokoHirata1),TakahikoHayashi2),ShinYamane3),NobuhisaMizuki4)andSatoshiTakeuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokosukaKyosaiHospital,3)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversityMedicalCenter,4)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversityHospitalVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)の典型例では頭痛や内耳症状などの全身症状,両眼性の汎ぶどう膜炎,滲出性網膜.離,視神経乳頭浮腫がみられる.しかし,乳頭浮腫型VKHは視神経所見の出現後数週間を経た後に前房内の炎症所見や滲出性網膜.離が出現するので病初期には確定診断が困難であることが多い.今回,初診時の眼底検査では網膜下液が明らかではなく眼外の自覚症状もなかったが,約2週間後に網膜下液がみられたことから乳頭浮腫型VKHと考えられる症例を経験した.ただし,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)ではわずかな網膜下液や脈絡膜皺襞を認めていたことから,従来乳頭浮腫型VKHとされていた症例でもOCTでは初期より網膜・脈絡膜に変化がみられる可能性があり,早期診断・治療に有用と考えられる.IntheclassictypeofVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH),headache,innerearsymptom,panuveitis,exudativeretinaldetachmentandneuritisaresystemicallymanifested.InthistypeofVKH,becauseanteriorchamberinflammationandexudativeretinaldetachmentoccurtwoweeksaftertheappearanceofneuritis,definitediagnosisisdifficultinthefirststageofthesickness.WesawthetypeofVKH.However,slightexudativeretinaldetachmentandchoroidwrinklingappearunderopticalcoherencetomography(OCT)inthefirststage;therefore,thetypereportedinthepasthasthesamepossibility.ThesefindingsthereforeshowthatOCTisusefulforearlydiagnosisandtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):293.296,2011〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,乳頭炎,うっ血乳頭,滲出性網膜.離,光干渉断層計.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,papillitis,chokeddisk,exudativeretinaldetachment,opticalcoherencetomography.294あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(140)現病歴:平成20年4月末に左眼視力低下を自覚し4月28日に近医を受診した.視力は右眼(0.8×.0.50D(cyl.2.00DAx30°),左眼(0.2×.2.0D(cyl.3.00DAx120°),特記すべき所見はなかった.5月16日,視力変化はなかったが両視神経乳頭からの出血・発赤腫脹が出現したため,横須賀共済病院眼科(以下,当院)へ紹介され,5月20日受診となった.初診時所見:視力は右眼0.5(0.7×.0.50D(cyl.2.00DAx30°),左眼0.3(0.4×.2.0D(cyl.3.00DAx120°),眼圧は右眼11mmHg,左眼11mmHgであった.両眼に相対的瞳孔求心路障害はなく,中心フリッカー値(criticalflickerfrequency:CFF)は右眼35Hz,左眼34Hz,前房内炎症細胞は右眼±,左眼±,両眼視神経乳頭からの出血・発赤腫脹があり,Goldmann視野検査では両眼にMariotte盲点が拡大していた.うっ血乳頭の可能性も考え,頭部computedtomography(CT)を施行したが特記すべき所見はなかった.翌日21日,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では両眼にわずかな網膜下液の貯留や脈絡膜皺襞があり,視神経乳頭が腫脹していた(図1).FAGでは早期より両眼の視神経乳頭から漏出を認め,視神経乳頭炎を考えたABCD図1初診翌日の眼底写真とOCT所見A:5月21日右眼の眼底写真.B:同日左眼の眼底写真.視神経乳頭からの出血・発赤腫脹(破線矢印)を認めた.C:同日右眼のOCT.D:同日左眼のOCT.視神経乳頭の腫脹(破線矢印),網膜下液の貯留(実線矢印)を認めた.ABCD図2初診翌日,10日後のFAG所見A:5月21日右眼のFAG.B:同日左眼のFAG.視神経乳頭からの漏出(実線矢印)を認めた.C:5月30日右眼のFAG.D:同日左眼のFAG.さらに後極に蛍光漏出・貯留(破線)を認めた.(141)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011295(図2A,B).VKHも疑われたが所見が強くないことから経過観察とした.経過:5月23日,自覚症状に変化はなく,視力は右眼(0.8×.0.50D(cyl.2.00DAx30°),左眼(0.5×.2.0D(cyl.3.00DAx120°)と改善し,所見に変化はなかった.しかし5月30日,右眼(0.3×.0.50D(cyl.2.00DAx30°),左眼(0.4×.2.0D(cyl.3.00DAx120°)と低下,CFFは右眼32Hz,左眼33Hz,前房内炎症細胞は右眼±,左眼+と若干増加,視神経乳頭からの出血・発赤腫脹は変わらず,後極に滲出性網膜.離が出現した.OCTでは網膜下液が増加し(図3),FAGでは後期に後極の網膜下に蛍光漏出・貯留が出現した(図2C,D).VKHが強く疑われ,髄液検査を行ったところ,細胞数6/μl,単核球6/μl,多形核球1/μl以下と単球優位の細胞数が増加しており,VKHと診断した.なお,採血検査にて炎症反応はなかった.同日よりステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン点滴500mg/日3日間,以後プレドニゾロン内服40mg/日から漸減),および局所療法(ベタメタゾンリン酸エステルナABCD図3初診時より10日後の眼底写真とOCT所見A:5月30日右眼の眼底写真.B:同日左眼の眼底写真.さらに滲出性網膜.離(破線)を認めた.C:同日右眼のOCT.D:同日左眼のOCT.網膜下液(実線矢印)の増加を認めた.ABCD図4初診時より20日後の眼底写真とOCT所見A:6月10日右眼の眼底写真.B:同日左眼の眼底写真.視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜下液の改善傾向を認めた.C:同日右眼のOCT.D:同日左眼のOCT.網膜下液(実線矢印)の減少を認めた.296あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(142)トリウム点眼両眼4回/日,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼両眼3回/日)を開始した.6月2日(治療開始3日目)には視神経乳頭の腫脹・黄斑部の網膜下液が減少した.6月10日(11日目)には右眼(0.6×.2.00D(cyl.2.50DAx30°),左眼(0.5×.3.00D(cyl.2.25DAx145°),視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜下液は著明に改善した(図4).6月25日(26日目)には右眼(0.6×.2.50D(cyl.1.50DAx25°),左眼(0.5×.3.00D(cyl.2.25DAx150°),視神経乳頭の腫脹は消失し,網膜下液はわずかになった.8月8日(70日目)には右眼(0.9×.2.50D(cyl.1.50DAx25°),左眼(0.8×.2.75D(cyl.2.00DAx150°),視神経乳頭の発赤はさらに低下,前房内炎症細胞と網膜下液は消失した.経過中,眼外症状は出現しなかった.II考按VKHに対するステロイド大量療法(プレドニゾロン点滴200mg/日2日間,150mg/日2日間,100mg/日2日間と漸減)とパルス療法(メチルプレドニゾロン点滴1,000mg/日3日間投与後,プレドニゾロン内服40mg/日14日間,30mg/日14日間と漸減)の比較では治療後の視力・炎症は同等であり,再発,遷延例の頻度に有意差はなかった3)が,大量療法では夕焼け状眼底を呈する頻度が有意に高く4),この場合コントラスト感度の低下傾向や色覚異常の出現報告がある5).また,ステロイドパルス1,000mgと500mg投与例ではその後消炎に要したステロイド内服投与期間,総投与量に有意差がなかったとの報告6)があり,今回ステロイドパルス療法(点滴500mg/日3日間の後内服漸減投与)を施行した.VKHの典型例では頭痛や内耳症状などの全身症状,両眼性の汎ぶどう膜炎を起こし,乳頭浮腫,虹彩炎,滲出性網膜.離,視神経乳頭浮腫が出現する.乳頭浮腫型と後極部型に分類され,乳頭浮腫型では頭痛,髄液細胞数増多,難聴を伴う例が多く7),視神経所見の出現後数週間を経て前房内の炎症所見や滲出性網膜.離が出現するので,全身症状が明確でない場合は,特に病初期での確定診断は困難であることが多い8,9).乳頭浮腫型VKHの鑑別疾患として,頭蓋内圧亢進によるうっ血乳頭があげられる.この原因としては,脳腫瘍などの頭蓋内占拠性病変だけではなく,静脈洞血栓症や肥厚性硬膜炎などがあげられる.前者の診断にはmagneticresonanceangiographyやvenography,後者には冠状断での造影magneticresonanceimagingを行う必要がある.その他,髄膜炎後の頭蓋内圧亢進や,肥満や薬剤による良性頭蓋内圧亢進も原因となりうる10)が,これらを鑑別するための必要な検査を即座にすべて行うことは困難である.本症例では早期に視神経乳頭の発赤・腫脹が明らかであったため,最も頻度の高い頭蓋内占拠性病変の可能性を考え頭部CTを行ったが,特記すべき所見はなかった.翌日OCTで網膜下液の貯留があり,VKHの可能性が高いと判断できた.初診時の細隙灯顕微鏡検査も用いた詳細な眼底検査では滲出性網膜.離は明らかでなく,約2週間後に網膜下液が出現したことから,従来の考えでは乳頭浮腫型VKHに分類される.ただし,後極部型を含めた急性期のVKHに対するOCTで脈絡膜皺襞の報告があるように11),本症例のOCTでもわずかな網膜下液や脈絡膜皺襞を認めていることから,従来乳頭浮腫型VKHとされていた症例でもOCTでは網膜・脈絡膜に変化を生じていた可能性が考えられた.また,今回の症例では網膜下液や脈絡膜皺襞は消失したが,最終的に残存していながら視力が改善した報告もある12)ことから,VKHの経過中に生じる視力低下の原因は脈絡膜皺襞ではなく,網膜下液貯留によるものだと考えられた.OCTにより従来乳頭浮腫型VKHとされていた症例も非侵襲的に滲出性網膜.離などの網膜・脈絡膜の変化を捉えることが可能であり,早期診断・治療に役立つと考えられる.文献1)杉浦清治:Vogt-小柳-原田病.臨眼33:411-421,19792)北市伸義,北明大州,大野重昭ほか:交感性眼炎.臨眼62:650-655,20083)赤松雅彦,村上晶,沖坂重邦ほか:最近6年間に経験した原田病の臨床的検討.臨眼39:169-173,19974)北明大州,寺山亜希子,南場研一ほか:Vogt-小柳-原田病新鮮例に対するステロイド大量療法とパルス療法の比較.臨眼58:369-372,20045)瀬尾亜希子,岡島修,平戸孝明ほか:良好な経過をたどった原田病患者の視機能の検討─特に夕焼け状眼底との関連.臨眼41:933-937,19876)島千春,春田亘史,西信良嗣ほか:ステロイドパルス療法を行った原田病患者の治療成績の検討.あたらしい眼科25:851-854,20087)大出尚郎:視神経炎と誤りやすい網膜症・視神経網膜症.あたらしい眼科20:1069-1074,20038)峠本慎,河原澄枝,木本高志ほか:乳頭浮腫型原田病の臨床的特徴.日眼会誌107:305,20039)RajendramR,EvansM,KhranaRNetal:Vogt-Koyanagi-Haradadiseasepresentingasopticneuritis.IntOphthalmol27:217-220,200710)中村誠:乳頭が腫れていたら.あたらしい眼科24:1553-1560,200711)GuptaV,GuptaA,GuptaPetal:Spectral-domaincirrusopticalcoherencetomographyofchoroidalstiriationsseenintheacutestageofVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol147:148-153,200912)NodaY,SonodaK,NakamuraTetal:AcaseofVogt-Koyanagi-Haradadiseasewithgoodvisualacuityinspiteofsubfovealfold.JpnJOphthalmol47:591-594,2003***