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増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対する 緑内障チューブシャント手術

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):506.509,2022c増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術石黒聖奈桑山創一郎野崎実穂森田裕小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学CClinicalOutcomesofTube-ShuntSurgeryinCasesofProliferativeDiabeticRetinopathy-AssociatedNeovascularGlaucomaKiyonaIshiguro,SoichiroKuwayama,MihoNozaki,HiroshiMoritaandYuichiroOguraCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciencesC目的:増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対して施行した緑内障チューブシャント手術の術後成績を後ろ向きに検討した.対象および方法:緑内障チューブシャント手術を施行しC12カ月以上経過を追えたC21例C23眼を対象とし,術前後の眼圧,点眼スコア,合併症を評価項目とした.結果:術後平均観察期間はC40.5±27.1カ月であった.術前平均眼圧はC27.8±10.6CmmHg,術後C12カ月平均眼圧はC14.6±4.9CmmHgと有意に低下(p<0.01)し,平均点眼スコアも術前C3.6±1.3,術後C1.6±1.7と有意に減少した(p<0.01).術後C1カ月以内の早期合併症は高眼圧(7眼),硝子体出血(4眼),脈絡膜.離(1眼),後期合併症は眼圧再上昇(5眼),硝子体出血(4眼)であった.結論:血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は術後C1年において比較的良好な眼圧下降効果を認めた.CPurpose:ToCretrospectivelyCevaluateCtheCoutcomesCofCtube-shuntCsurgeryCinCcasesCofCproliferativeCdiabeticCretinopathy-associatedCneovascularglaucoma(NVG).CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC23CeyesCofC21CNVGpatientswhounderwenttube-shuntsurgeryfromDecember2012toJune2019,andwhowerefollowedformorethan12-monthspostoperative.Mainoutcomemeasuresincludedintraocularpressure(IOP),numberofglau-comaCmedicationsCused,CandCsurgicalCcomplications.CResults:TheCmeanCfollow-upCperiodCwasC40.5±27.1Cmonths.CMeanCIOPCdecreasedCfromC27.8±10.6CmmHgCtoC14.6±4.9CmmHg(p<0.05),CandCtheCnumberCofCglaucomaCmedica-tionsCusedCdecreasedCfromC3.6±1.3CtoC1.6±1.7(p<0.01).CComplicationsCobservedCwithinC1-monthCpostoperativeCwereChighIOP(n=7eyes),Cvitreoushemorrhage(n=4eyes),CandCchoroidaldetachment(n=1eye),CandCthoseCobservedCbetweenC1-andC12-monthsCpostoperativeCwereChighIOP(n=5eyes)andCvitreoushemorrhage(n=4eyes).CConclusion:Tube-shuntCsurgeryCwasCfoundCrelativelyCe.ectiveCforCIOPCreduction,CdecreaseCofCglaucomaCmedicationsused,andcontrolofIOPinNVGpatientsfor1-yearpostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):506.509,C2022〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,アーメド緑内障バルブ,血管新生緑内障,増殖糖尿病網膜症,術後合併症,点眼スコア.Baerveldtglaucomaimplant,Ahmedglaucomavalve,neovascularglaucoma,proliferativedia-beticretinopathy,postoperativecomplications,numberofglaucomamedications.Cはじめに血管新生緑内障の閉塞隅角緑内障期には,従来,線維柱帯切除術が行われていたが,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障では,線維柱帯切除術の手術成績がとくに不良であることが知られている1).糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障の特徴として,比較的年齢が若く,硝子体手術をはじめとした手術既往を有している場合が多いため,線維柱帯切除術の術後の炎症や瘢痕形成に影響を与え,眼圧下降が得られにくいと考えられている2).わが国では,緑内障チューブシャント術がC2012年に保険〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,Kawasumi1,Mizuho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPANC506(114)適用収載となり,マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった場合や,手術既往により結膜の瘢痕化が高度な場合,線維柱帯切除術の成功が見込めない場合,また他の濾過手術が技術的に施行困難な場合が適応とされている3).さらに,血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術の有効性も報告されている4,5).当院でもC2012年から血管新生緑内障に対し緑内障チューブシャント術を施行しており,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtCglaucomaCimplant:BGI)の術後C6カ月における良好な眼圧下降効果を報告している6).今回,アーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)を加えC12カ月以上経過を追えた増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術の手術成績について後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2012年C12月.2019年C6月に名古屋市立大学病院で増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し,緑内障チューブシャント手術を施行し,12カ月以上経過を追えたC21例23眼(男性C15例,女性C6例,平均年齢C54.9C±12.4歳)について検討した.術前,術後の視力・眼圧,術前・術後の点眼スコア(緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠内服をC2点),早期(術後C1カ月以内)・後期(術後C1カ月以降)合併症について検討した.今回使用したCBGIは,硝子体手術既往眼ではプレート面積がC350CmmC2でチューブにCHo.manElbowをもつCBG102-350,硝子体手術未施行眼ではプレート面積がC250CmmC2の前房タイプのCBG103-250である.術式は,強膜半層弁を作製し,チューブをC7-0あるいはC8-0バイクリル糸で結紮していたが,術後低眼圧の症例がみられたことから,その後は3-0ナイロン糸をステントとして留置する方法に変更した.術前に炭酸脱水酵素阻害薬内服下でも眼圧がC20CmmHg以上の場合では,9-0ナイロン糸でCSherwoodスリットを作製した.AGVはプレート面積がC184CmmC2のCFP7を使用し,全例毛様体扁平部に留置した.既報5)に基づき手術成功率(生存率)をCKaplan-Meier法で解析した.生存(手術成功)の定義は既報5)と同様に,①視力が光覚弁以上,②眼圧がC22CmmHg未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものとした.数値は平均値±標準偏差で記載し,統計学的検定にはCWilcoxon検定を用いCp<0.05を有意差ありとした.II結果BGIを18例20眼,AGVを3例3眼に施行した.BGIは前房タイプがC2眼,毛様体扁平部留置タイプがC18眼であった.AGVはC3眼とも毛様体扁平部に留置した.前房タイプを挿入したC1例C2眼を除き,硝子体手術未施行眼には,硝子体手術を併用し,チューブを毛様体扁平部に留置した.治療歴として,汎網膜光凝固および白内障手術は全例で施行されており,硝子体手術はC17眼(BGIではC15眼,AGVではC2眼)に行われ,術前に血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)阻害薬が投与されていたのはC8眼(BGI5眼,AGV3眼)であった.BGIを施行されたC4眼で線維柱帯切除術の既往があり,うちC2眼は複数回線維柱帯切除術が施行されていたが,硝子体手術は未施行であった.術後経過観察期間はC12.91カ月(40.5C±27.1カ月)であった.平均眼圧の推移は術前C27.8C±10.6CmmHg,1週間後C12.9±9.3CmmHg,1カ月後C14.5C±5.1CmmHg,3カ月後C14.9C±3.2CmmHg,12カ月後にはC14.6C±4.9CmmHgと,術前眼圧と比較し有意な眼圧下降を認めた(p<0.01).また,最終受診時もC12.7C±4.7CmmHgと有意に低下していた(p<0.01)(図1).また,logMAR視力はC0.2以上の変化を改善あるいは悪化としたとき,改善C10眼(43.5%),不変C6眼(26.0%),悪化C7眼(30.5%)で,logMAR視力は術前C1.40C±0.88,最終受診時はC1.36C±1.18と有意差は認めなかった.しかしながら,光覚弁消失となった症例がC2眼あり,どちらも術後眼圧再上昇に対し毛様体レーザーを施行した症例であった.点眼スコアは,術前のC3.6C±1.3から最終受診時C1.6C±1.7と有意な減少を認めた(p<0.01)(図2).術後C1カ月以内の早期合併症は,高眼圧をC7眼に認めた.3眼は薬物治療を開始した(表1).2眼は術後にCSherwoodslitを追加し,さらにチューブ結紮糸を抜糸したが,うちC1眼はそれでも眼圧コントロールがつかず,最終的に光覚弁消失となった.1眼はCSherwoodslitを追加,1眼はチューブ先端の硝子体切除を追加した.硝子体出血はC4眼でみられ,3眼で硝子体手術を行い,1眼は自然消退した.脈絡膜.離を伴う低眼圧がC1眼みられたが,脈絡膜.離は自然消退した.術後C1カ月以降の後期の合併症(表2)は,眼圧が再上昇しコントロール不良となったものがC5眼あった.3眼はMMCを併用しプレート周囲の被膜を切除したが,1眼はそれでも眼圧下降が得られず硝子体手術を併用しCBGIを毛様体扁平部に挿入,もうC1眼も眼圧下降が得られず毛様体レーザーをC3回施行したが視力は光覚弁消失となった.MMC併用プレート周囲被膜切除を施行しなかったC2眼中C1眼は毛様体レーザーを施行,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射および汎網膜光凝固の追加を行い,その後眼圧上昇は認めていな654平均眼圧(mmHg)点眼スコア3210100図2術前・術後での点眼スコア緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠図1術前・術後での平均眼圧の推移内服をC2点とした.点眼部は術前のC3.6から最終受診時の時点で術前最終受診時Wilcoxonsignedranktest,*p<0.01術前1週1カ月3カ月6カ月1年最終受診時平均眼圧は術前と比較してC1週間後,1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後,最終受診時の時点で有意に下降していた(p<0.01).表1術後早期合併症(術後1カ月以内)高眼圧7眼(C30%)硝子体出血4眼(C17%)脈絡膜.離を伴う低眼圧1眼(C4%)高眼圧を認めたC7眼のうち,3眼に薬物治療を開始し,2眼はCSherwoodslitを追加しチューブ結紮糸を抜糸した.1眼はCSherwoodslit追加した.1眼はチューブ先端の硝子体切除を追加した.C1.01.6と有意な減少を認めた(p<0.01).表2術後後期合併症(術後1カ月以降)眼圧再上昇5眼(23%)硝子体出血4眼(17%)眼圧再上昇のC5眼のうち,3眼はCMMCを併用しプレート周囲の被膜を切除.1眼は毛様体レーザーを施行,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射を行った.硝子体出血のC4眼のうち,2眼は硝子体手術,1眼は硝子体手術とCVEGF阻害薬硝子体内注射,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射のみを行った.CIII考按0.8生存率0.60.40.20.0月数図3Kaplan.Meier生存曲線生存の基準を①視力が光覚弁以上,②眼圧はC22CmmHg036912今回筆者らは増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し緑内障チューブシャント手術を施行し,12カ月以上経過観察できたC23眼について後ろ向きに検討した.術後C1年の成功率はC78.9%であり,既報でもC1年後におけるCBGI手術の成功率C60.0%,AGV手術の成功率C90.0%と同様に良好な結果を得ている7).今回の検討では,血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は,術後C1年において比較的良好な眼圧下降効果を認めた.術後後期の眼圧再上昇に対してCMMC併用のプレート周囲被膜切除術を行ったC3眼はすべてCBGI術後であり,うちC2眼は追加手術が必要となった.過去の報告でも,プレート周囲の被膜による眼圧再上昇例に対しては,プレート被膜切除よりも追加手術を施行したほうがよいことが示唆されている8,9)ため,現在当院ではCMMC併用プレート周囲被膜切除術は行わず,緑内障インプラント追加や毛様体レーザー追加をする方針をとっている.脈絡膜.離を伴う低眼圧がC1眼みられ脈絡膜.離は自然消退したが,この症例は術中にチューブの結紮のみを行った症例であった.この症例を経験後,3-0ナイロン糸をステント未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものを生存とした.生存率は術後3カ月後で84.2%,6カ月後でC78.9%,12カ月後もC78.9%であった.い.また,硝子体出血はC4眼に認め,2眼は硝子体手術(うちC1眼はC3回施行),1眼は硝子体手術およびCVEGF阻害薬硝子体内注射,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射を行った.術後C3カ月の生存率はC84.2%,術後C6カ月およびC1年の生存率はC78.9%であった(図3).としてチューブに挿入するようになり,術後の脈絡膜.離は出現しなかったことから,3-0ナイロン糸によるステント留置は術後早期の脈絡膜.離を防ぐのに有効と考えられる.本研究の限界として,21例C23眼と症例数が少ない点,使用した緑内障チューブシャントも,BGI20眼に対しCAGVがC3眼と偏りがある点,硝子体手術の既往や術前のCVEGF阻害薬使用が術後合併症に及ぼす影響を論じるには症例が少ない点があげられる.また,血管新生緑内障も,急激に血管新生を生じた活動性の高いタイプや,新生血管の活動性は低いが周辺虹彩前癒着が高度で眼圧の高いタイプなど,さまざまな違いがある.今後,活動性の同じ血管新生緑内障に対して,術前にCVEGF阻害薬を使用したCBGIおよびCAGV施行症例数を同程度そろえ,その術後成績を検討する必要があると考える.今回の研究からも,緑内障チューブシャント手術は,増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し有効な術式と考えられた.今後も,術後の眼圧再上昇を防ぐ治療方針,合併症のより良い対処の確立が,緑内障チューブシャント手術の手術成績をさらに向上させると思われた.文献1)MeganCK,CChelseaCL,CRachaelCPCetal:AngiogenesisCinCglaucoma.ltrationsurgeryandneovascularglaucoma:Areview.SurvOpthalmolC60:524-535,C20152)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20093)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C4版,20184)ShenCCC,CSalimCS,CDuCHCetal:TrabeculectomyCversusCAhmedGlaucomaValveimplantationinneovascularglau-coma.ClinOphthalmolC5:281-286,C20115)東條直貴,中村友子,コンソルボ上田朋子ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント手術の治療成績.日眼会誌121:138-145,C20176)野崎祐加,富安胤太,野崎実穂ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの手術成績.あたらしい眼科35:140-143,C20187)SudaCM,CNakanishiCH,CAkagiCTCetal:BaerveldtCorCAhmedglaucomavalveimplantationwithparsplanatubeinsertionCinCJapaneseCeyesCwithCneovascularglaucoma:C1-yearoutcomes.ClinOphthalmolC12:2439-2449,C20188)RosentreterCA,CMelleinCAC,CKonenCWWCetal:CapsuleCexcisionandOlogenimplantationforrevisionafterglauco-madrainagedevicesurgery.GraefesArchClinExpOph-thalmolC248:1319-1324,C20109)ValimakiCJ,CUusitaloH:ImmunohistochemicalCanalysisCofCextracellularmatrixblebcapsulesoffunctioningandnon-functioningglaucomadrainageimplants.ActaOphthalmolC92:524-528,C2014***

増殖糖尿病網膜症の術後経過と血小板機能との 関連についての検討

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):496.500,2022c増殖糖尿病網膜症の術後経過と血小板機能との関連についての検討佐藤圭司重城達哉藤田直輝関根伶生向後二郎高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CExaminationoftheRelationshipBetweenthePostoperativeOutcomesofVitrectomyforProliferativeDiabeticRetinopathyandPlateletFunctionKeijiSato,TatsuyaJujo,NaokiFujita,ReioSekine,JiroKogoandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicineC目的:増殖糖尿病網膜症(PDR)の術後経過と血小板機能との関連を調べ,血小板機能がCPDRの術後予後予測につながるのかについて検討した.方法:対象はC2018年C1月.2020年C5月にCPDRに対して硝子体手術を施行したC59例C68眼.術後硝子体出血(VH)の有無によってC2群に分け,両群間で血小板機能との相関について比較検討した.結果:術後CVHをきたした群(H群)はC33眼(31例),VHをきたさなかった群(N群)はC35眼(32例)であった.年齢はCH群C57.4±11.0歳,N群C57.9±10.8歳であった.血小板数(103/μl)はCH群C224.2±74.8,N群C224.5±60.4であった.平均血小板容積(.)はCH群C8.2±1.1,N群C8.4±1.0であった.血小板分布幅(.)はCH群C17.1±0.6,N群C17.1±0.6であった.群間比較ではCWilcoxon順位和検定を施行したが,術後CVHの有無と血小板機能はいずれも各項目において有意差認めなかった(p>0.05).結論:今回の検討では,PDRの術後成績と血小板機能との間に明らかな有意差は認めなかった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcorrelationCbetweenCtheCpostoperativeCoutcomesCofCvitrectomyCforCproliferativediabeticretinopathy(PDR)andplateletfunction,andwhetherplateletfunctioncouldbeafactorforthepredictionofsurgicaloutcomes.Methods:Thisretrospectivestudyinvolvedtheanalysisofthemedicalrecordsof68eyesof59patientswhounderwentvitrectomyforPDRfromJanuary2018throughMay2020.Thepatientsweredividedintotwogroupsaccordingtothepresence(GroupH)orabsence(GroupN)ofpostoperativevitreoushemorrhage(VH),CandCtheCcorrelationCbetweenCplateletCfunctionCandCpostoperativeCVHCwasCinvestigatedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:ThereCwereC33eyes(31Cpatients,Cmeanage:57.4±11.0years)inCGroupCHCandC35eyes(32Cpatients,meanage:57.9±11.0years)inGroupN.InGroupHandGroupN,theplateletcount(103/μl)wasC224.2C±74.8CandC224.5±60.4,theaverageplateletvolume(.)was8.2±1.1and8.4±1.0,andtheplateletsizedistribution(.)was17.1±0.6CandC17.1±0.6,Crespectively.CTheCWilcoxonCrank-sumCtestCwasCusedCforCstatisticalCcomparativeCanalysisofeachitembetweenthetwogroups,andthe.ndingsrevealednostatisticallysigni.cantdi.erencesforeachitem(p>0.05).Conclusion:Inthisstudy,nostatisticallysigni.cantdi.erenceswerefoundbetweenthetwogroupsinrelationtothecorrelationbetweentheoccurrenceofpostoperativeVHandplateletfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):496.500,C2022〕Keywords:増殖糖尿病網膜症,術後硝子体出血,血小板容積指数.proliferativediabeticretinopathy,postopera-tivevitreoushemorrhage,plateletvolumeindex.Cはじめに報告された1,2).血小板機能の指標は血小板容積指数(platelet糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)と血小板機能Cvolumeindex:PVI)とよばれ,血小板数(plateletcount:との間に関係性があるとC2019年CJiらの施行したメタ解析でPLT),平均血小板容積(meanplateletvolume:MPV),血〔別刷請求先〕佐藤圭司:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:KeijiSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki,Kanagawa216-8511,JAPANC496(104)小板分布幅(plateletdistributionwidth:PDW)が含まれる.PDWは血小板の大きさの分布幅を反映しており,数値が大きいほど血小板容積に不均一性があることを意味している.近年CPVIは脳血栓や心筋梗塞に深いかかわりをもつという報告がある3).とくにサイズの大きな血小板は小さいものと比較して血小板内酵素活性が高く,粘着・放出さらに凝集能も亢進しており,血栓形成に積極的に関与するといわれている4).心筋梗塞などの心血管疾患とCPVIとの関連に言及している論文は比較的多いが,DRとの関連に関して言及しているものは少ない.そのため,DRにおける術後予後予測因子として有益性を有する可能性が考えられたが,それに関する検討は行われていない.PVIは血算を測定することで得られる安価で簡便なパラメータであり,術前採血検査は手術に際して必須であるため4),手術に際して低侵襲の予後予測因子となりうるのではないかと考えた.今回,術後の硝子体出血の有無とCPVIの関連を調べ,PVIがCPDR術後予後予測に有用か検討した.CI対象および方法本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会の承認を得たものである.増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)の診断にて手術加療が必要な患者に対し,手術の必要性や合併症の可能性について十分に説明を行い,同意を得た.本研究はC2018年C1月.2020年C5月に聖マリアンナ医科大学病院にてPDRに対して経毛様体扁平部硝子体切除(parsplanavitrectomy:PPV)を施行したC59例C68眼を対象とした後ろ向き観察研究を行った.データはカルテを遡ることにより得られたものを使用し,術後硝子体出血(vitreoushem-orrhage:VH)の有無によってC2群に分け(あり群:H群,なし群:N群),両群間で血小板機能との相関について比較検討を行った.PPVは眼底透見不可能なCVH,進行性牽引性網膜.離(retinaldetachment:RD),線維血管増殖膜(.brovascularmembrane:FVM)などのCPDRの合併症に対して施行された.除外基準はCPDRに対するレーザー光凝固術を除く過去の硝子体手術の既往,既存の血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)の存在,術中のシリコーンオイルの使用とした.すべての手術はC3人の熟練した硝子体手術の術者によって施行された.すべての患者は局所麻酔下で標準的なCPPVを施行され,白内障を伴う患者においては同時に超音波乳化吸引術も施行された.すべてのCPPVはC25もしくはC27ゲージトロカールシステム(AlconCConstella-tion:Visionsystem)と高速硝子体カッター(10,000回転/分)を用いて実施され,全例に硝子体ゲル可視化のためにトリアムシノロンアセトニド硝子体注射が施行された.VHは術後C4週間以内に発生したものと定義した.術前検討項目は年齢,性別,PLT,MPV,PDW,HbA1c,眼軸長,術前眼圧,術前ClogMAR矯正視力,赤血球ヘマトクリット値,クレアチニン値,推算糸球体濾過量(estimatedCglomerularC.ltrationrate:eGFR),LDLコレステロール値,HDLコレステロール,中性脂肪,尿素窒素,入院時収縮期血圧,入院時拡張期血圧,空腹時血糖値,bodymassindex(BMI),高血圧の有無,白内障手術施行の有無,抗血小板薬内服の有無,抗凝固薬内服の有無,経口血糖降下薬使用の有無,インスリン使用の有無,スタチン系経口内服薬の有無,利尿薬内服の有無,喫煙の有無,ブリンクマン指数,人工透析の有無,術前レンズの状態,術前レーザー網膜光凝固術施行の有無,術前抗血管内皮細胞増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)硝子体注射施行の有無とした.術後の検討項目は白内障手術施行の有無,術中ガス置換の有無および種類,術後ClogMAR矯正視力(1,3,6,12カ月),観察期間(月)とした.統計学的処理はCJMP13(SASCInstituteCInc.,USA)を用いて行った.2群間の有意差の比較においてはCWilcoxon順位和検定,PearsonのCc2検定およびCFisherの正確検定を行った.MPVに影響を与えると報告されているメトホルミン内服およびスタチン系内服を交絡因子として多変量ロジスティック回帰分析を施行した.CII結果術後VHの有無でC2群間に分けて(あり群:H群,なし群:N群)群間比較を行った.各検討項目における対象患者の特性について表1に示した.観察対象はC59例C68眼であり,H群はC31例C33眼,N群は32例C35眼であった.そのうちC5例は左右眼でCH群,N群の両方を含む結果となった.性別,年齢,高血圧の有無,高脂血症の有無,内服歴,術前の眼情報,喫煙歴,ブリンクマン指数,BMI,人工透析有無などで両群間比較を行ったが,いずれの各検討項目においても明らかな有意差を認めなかった(p>0.05).しかし,入院時空腹時血糖値においてCH群C160.3C±59.9(mg/dl),N群C134.6±41.2(mg/dl)と有意差を認めた(p=0.03).患者の術前採血項目での検討結果を表2に示した.PLTはCH群でC224.2C±74.8(10C3/μl),N群でC224.5C±60.4(10C3/μl)であった.MPVはCH群でC8.2C±1.1(.),N群はC8.4C±1.0(.)であった.PDWはCH群でC17.1C±0.6(.),N群でC17.1C±0.6(.)であった.PVIのどの項目においても有意差は認めなかった(p>0.05).その他の検討項目である,HbA1c,ヘマトクリット,LDLコレステロール,HDLコレステロール,中性脂肪,クレアチニン,eGFR,ヘモグロビン,尿素窒素いずれにおいても明らかな有意差を認めなかった(p>0.05).術後の患者特性を表3に示した.術後C6カ月目での表1患者特性および術前情報特性術後VHなし(N群)術後VHあり(H群)p値観察眼(例)35(32)33(31)性別(男性/女性)C27/8C29/4C0.34年齢(歳)C57.9±10.8C57.4±11.0C0.17高血圧,眼(%)22(63)27(82)C0.11高脂血症,眼(%)9(26)14(42)C0.20経口血糖降下薬,眼(%)27(77)23(70)C0.59メトホルミン内服,眼(%)9(26)8(24)C1.0インスリン使用,眼(%)15(43)13(39)C0.80経口抗凝固薬,眼(%)4(11)5(15)C0.73経口抗血小板薬,眼(%)7(20)11(33)C0.28スタチン系高脂血症薬,眼(%)9(26)13(39)C0.30利尿薬内服,眼(%)16(46)13(39)C0.63術前眼圧(mmHg)C14.3±3.3C13.3±3.6C0.29術前ClogMARBCVAC1.0±0.6C1.1±0.8C0.93眼軸長(mm)C23.8±1.7C24.2±1.2C0.10術前レンズ状態;水晶体/眼内レンズ(眼)C26/9C25/8C1.0手術目的硝子体出血,眼(%)24(68)30(91)牽引性網膜.離,眼(%)2(6)0(0)線維血管増殖膜,眼(%)7(20)3(9)糖尿病黄斑浮腫,眼(%)2(6)0(0)喫煙,眼(%)23(66)22(67)C1.0ブリンクマン指数(喫煙本数C×年数)C866.1±862.1C717.8±526.9C0.75BMI(kg/mC2)C26.6±6.6C25.8±5.0C0.85入院時収縮期血圧(mmHg)C133.9±17.3C137.2±16.9C0.43入院時拡張期血圧(mmHg)C74.2±1.8C78.3±1.8C0.11入院時空腹時血糖(mg/dCl)C134.6±41.2C160.3±59.9C0.03術前抗CVEGF薬硝子体注射,眼(%)28(80)25(76)C0.77術前レーザー網膜光凝固術,眼(%)15(43)12(36)C0.63人工透析,眼(%)26(71)22(67)C0.59表2術前採血における検討項目表3術後情報術後VHなし術後VHあり術後VHなし術後VHあり特性(N群)(H群)p値特性(N群)(H群)p値PLT(10C3/μl)C224.5±60.4C224.2±74.8C0.90白内障手術,眼(%)25(71)19(58)C0.31MPV(.)C8.4±1.0C8.2±1.1C0.32ガス置換,眼(%)6(17)7(21)C0.69PDW(.)C17.1±0.6C17.1±0.6C0.88空気,眼(%)2(6)2(6)HbA1c(%)C7.0±1.4C7.0±1.9C0.66SF6眼(%)3(9)5(15)ヘマトクリット(%)C38.7±5.3C37.8±5.7C0.47C3F8眼(%)1(3)0(0)LDL(mg/dl)C107.4±35.5C113.3±53.7C0.85術後ClogMARBCVAHDL(mg/dl)C49.8±15.3C52.2±19.0C0.881カ月C0.47±0.48C0.51±0.54C1.0TG(mg/dl)C112.1±76.7C153.3±125.8C0.593カ月C0.36±0.35C0.31±0.31C0.61Cr(mg/dl)C2.6±2.9C3.4±3.6C0.546カ月C0.35±0.19C0.19±0.33C0.02eGFR(ml/分/1.73CmC2)C49.7±53.3C38.2±31.1C0.4312カ月C0.17±0.22C0.15±0.29C0.44Hb(g/dl)C15.8±17.5C12.7±2.0C0.63観察期間(月)C7.3±4.7C7.4±0.8C0.98BUN(mg/dl)C29.8±17.0C28.4±18.9C0.47表4MPVに関する多変量ロジスティック回帰分析の結果logMAR矯正視力はCH群で有意に低値(p=0.02)であった特性オッズ比95%信頼期間p値が,その他の項目においては明らかな有意差を認めなかったCMPVC0.370.03.4.01C0.41(p>0.05).観察期間はCH群でC7.4C±0.8,N群でC7.3C±4.7でメトホルミンC0.920.30.2.81C0.88あった.スタチンC1.880.67.5.29C0.23C多変量ロジスティック回帰分析の結果を表4に示した.メトホルミン内服,スタチン内服を考慮しても,MPVと術後VHとの間に明らかな有意差は認めなかった(p>0.05).CIII考按Jiら1)はCDR患者ではコントロール群と比較してCMPVが有意に高値であった(standardCmeandi.erence:SMD[95%Ccon.denceinterval:CI]=0.92[0.60.1.24])と報告しており,Jiら2)はCDR患者ではコントロール群と比較してPDWが有意に高値であった(SMD[95%CCI]=1.04[0.68.1.40])とも報告している.このように近年CDRと血小板機能との間に関連性があるとの報告がなされている.また,Wakabayashiら5)は多変量解析の結果,PDR術後C4週間以内の早期出血の術前予後予測因子として術前硝子体内VEGF濃度においてのみ有意差を認めた(oddsratio:OR[95%CCI]=5.1[1.29.20.33])と報告しているが,術後CVHの有無に関する予後予測因子としてCPVIが有益であるかについての検討はされていない.そのため本研究ではCDRの術後成績とCPVIとの関連を調べ,PVIがCDRの術後予後予測につながるのかについて検討を行った.表1では患者の術前特性についての結果を示しているが,入院時空腹時血糖値において有意差を認めた(p=0.03).既報では空腹血糖値と硝子体出血との関連についての報告はないが,Kangらは高血糖と血管内皮細胞の機能障害の関連について報告しており6),空腹時血糖値はその時点での糖尿病コントロールを反映しているため,高血糖が血管内皮細胞の障害を引き起こすことで血管の脆弱性が生じ,術後の硝子体出血を生じる可能性が考えられた.表2においてはCPVIであるCPLT,MPV,PDWおよびその他の術前採血項目の群間比較の結果を示しているが,いずれの項目においても明らかな有意差を認めなかった.前述のように,JiらはCMPV,PDWとCDRの間に関連を認めたと報告している1,2)が,本検討において術後CVHの有無とCPVIの値に有意差は示されなかった.本検討では対象が全例PDR患者であり,重症な患者間での比較検討を行ったため有意差は認められなかった可能性が考えられた.表3では術後の患者特性について示している.白内障手術施行の有無,ガス置換の有無,観察期間いずれも両群間で有意差を認めなかった.術後C6カ月のClogMAR最良矯正視力において統計的に有意差を認めた(p=0.02)が,12カ月では有意差を認めておらず(p>0.05),これに関してはサンプルサイズの小ささが原因であり信頼性が低いと考えられるため,今後症例数を増やしてさらなる検討が必要であると考えられた.経口血糖降下薬であるメトホルミンや脂質異常症治療薬であるスタチン系の内服薬はCMPVを減少させると報告されている7,8).そのためメトホルミンおよびスタチン系内服薬の影響を受けてCMPVがC2群間比較において有意差を示さなかった可能性が考えられた.表4はメトホルミンおよびスタチン内服の有無をCMPVの交絡因子として考え,多変量ロジスティック回帰分析を施行した結果を示している.結果は多変量ロジスティック回帰分析でもCPDR術後CVHとCMPVとの間には有意差を認めなかった(OR[95%CI]=0.37[0.03.4.01]).Wakabayashiらの報告5)では,抗血小板薬,抗凝固薬の内服,高血圧の有無などの因子は術後C4週間以内のCVHにおいて有意差を認めなかったと報告しているが,本検討においても同様の結果を示した.また,Wakabayashiらの報告5)では術前硝子体内CVEGF濃度は術後CVHのリスクであるとしているが,本検討においては術前硝子体内CVEGF濃度の測定を行っておらず,今後の検討課題として考えられた.本研究はC59例C68眼と少数での検討結果であり,今後は対象者を増やし検討を行うことでさらに精度の高い結果を得られる可能性がある.今回の検討では術後C4週間以内のCVHの有無を予後予測の目的指標として選択しており,今後はその他の指標である,網膜感度,黄斑浮腫の出現の有無などPVIがその他のCVH以外の術後予後因子と相関するか検討を行っていく必要があると考えられた.CIV結語今回の検討ではCPDR術後CVHの予測因子として,PVIは有意な指標としては機能しなかった.しかしCPVIは術前採血より簡単に求めることができるため,低侵襲の術後予後予測因子としての有益性に関してはさらなる検討の余地があると考えられた.また,入院時空腹時血糖が高値である場合,術後硝子体出血をきたしやすい可能性が示唆された.文献1)JiCS,CZhangCJ,CFanCXCetal:TheCrelationshipCbetweenCmeanplateletvolumeanddiabeticretinopathy:asystem-aticreviewandmeta-analysis.DiabetolMetabSyndrC12:C11-25,C20192)JiCS,CNingCX,CZhangCBCetal:PlateletCdistributionCwidth,CplateletCcount,CandCplateletcritCinCdiabeticretinopathy:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCPRISMACguide-lines.Medicine(Baltimore)C98:29,C20193)GhoshalK,BhattacharyyaM:Overviewofplateletphysi-ology:itsChemostaticCandCnonhemostaticCroleCinCdiseaseCpathogenesis.SciWorlelJC2014:781857,C20144)嵯峨孝,青山隆彦,竹越忠美:高齢男性の血小板数および血小板容積の変化ならびにそれらの変化に及ぼす諸因子の影響.日本老年医学会雑誌32:270-276,C19955)WakabayashiCY,CUsuiCY,CTsubotaCKCetal:PersistentCoverproductionofintraocularvascularendothelialgrowthfactorasacauseoflatevitreoushemorrhageaftervitrec-tomyCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CRetinaC37:2317-2325,C20178)SivriCN,CTekinCG,CYaltaCKCetal:StatinsCdecreaseCmean6)KangCH,CMaCX,CLiuCJCetal:HighCglucose-inducedCendo.plateletvolumeirrespectiveofcholesterolloweringe.ect.thelialprogenitorcelldysfunctionDiabVascDisResC14:CKardiolPolC71:1042-1047,C2013C381-394,C20179)KimCKE,CYangCPS,CJangCECetal:AntithromboticCmedica-7)Dolas.kI,SenerSY,Celeb.Ketal:Thee.ectofmetfor.tionCandCtheCriskCofCvitreousChemorrhageCinCatrialC.b.minonmeanplateletvolumeindiabeticpatients.Plateletsrillation:KoreanCNationalCHealthCInsuranceCServiceC24:118-121,C2013CNationalCohort.YonseiMedJC60:65-72,C2019***

白血病治療が硝子体手術予後に影響したと考えられる 増殖糖尿病網膜症の1 例

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):491.495,2022c白血病治療が硝子体手術予後に影響したと考えられる増殖糖尿病網膜症の1例延藤綾香*1,2小林崇俊*2河本良輔*2大須賀翔*2佐藤孝樹*2喜田照代*2池田恒彦*3*1北摂総合病院眼科*2大阪医科薬科大学眼科学教室*3大阪回生病院眼科CACaseofProliferativeDiabeticRetinopathyinwhichLeukemiaTreatmentPossiblyA.ectedthePrognosisofVitrectomyAyakaNobuto1,2)C,TakatoshiKobayashi2),RyosukeKomoto2),SyoOsuka2),TakakiSato2),TeruyoKida2)andTsunehikoIkeda3)1)DepartmentofOphthalmology,HokusetsuGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,OsakaKaiseiHospitalC目的:白血病を合併した糖尿病網膜症は増悪しやすいことが報告されている.今回,白血病治療が硝子体手術予後に影響したと考えられる増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)のC1例を経験したので報告する.症例:47歳,男性.左眼視力低下で初診.左眼は虹彩炎と硝子体出血で眼底透見不良.右眼はCPDRによる眼底出血と線維血管性増殖膜,Roth斑を認めた.内科で糖尿病,慢性骨髄性白血病(chronicmyeloidleukemia:CML)と診断された.左眼は牽引性網膜.離を認め,化学療法開始後早期のCCML寛解前に経毛様体扁平部硝子体切除(parsCplanavitrectomy:PPV)を施行した.術中増殖膜と出血の処理に苦慮し,術後に再出血を認めたため再手術を施行したが前眼球癆となった.右眼は汎網膜光凝固術を施行し,CMLの寛解後,硝子体出血と牽引性網膜.離に対しCPPVを施行した.術後経過は良好で矯正視力はC0.7に改善した.結論:CMLを合併したCPDRに対するCPPV施行の際は,CMLに対する内科的治療による全身状態改善のうえで手術を施行したほうが良好な手術成績が期待できる可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCproliferativeCdiabeticretinopathy(PDR)inCwhichCleukemiaCtreatmentCpossiblyCa.ectedtheprognosisofvitrectomy.CaseReport:A47-year-oldmalepresentedwiththeprimarycomplaintofvisuallossinhislefteye.Uponexamination,hislefteyehadiritisinwhichthefunduswasnotvisibleduetovitre-oushemorrhage.Hisrighteyehadretinalhemorrhage,.brovascularmembrane,andRothspots.Hewasdiagnosedwithdiabetesandchronicmyeloidleukemia(CML)C.Parsplanavitrectomy(PPV)wasperformedpreCMLremis-sionCdueCtoCtractionalCretinaldetachment(TRD)inChisCleftCeye.CDueCtoCintraoperativeCdi.cultyCinCtreatingCtheC.brovascularmembraneandhemorrhage,postoperativere-bleedingoccurred,soreoperationwasperformed.How-ever,CphthisisCbulbiCoccurred.CPPVCwasCperformedCinChisCrightCeyeCafterCpanretinalCphotocoagulationCandCCMLCremissionCdueCtoCvitreousChemorrhageCandCTRD,CandCtheCvisualCacuityCultimatelyCrecoveredCtoC0.7CpostCsurgery.CConclusion:InCPDRCcasesCcomplicatedCwithCCML,CitCmayCbeCpossibleCtoCobtainCbetterCsurgicalCoutcomesCifCPPVCsurgeryisperformedpostCMLremission.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):491.495,C2022〕Keywords:慢性骨髄性白血病,増殖糖尿病網膜症,寛解,硝子体手術,硝子体出血.chronicmyeloidleukemia,proliferativediabeticretinopathy,remission,vitrectomy,vitreoushemorrhage.C〔別刷請求先〕延藤綾香:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:AyakaNobuto,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANCはじめに糖尿病と白血病はともに網膜出血や軟性白斑,漿液性網膜.離などの眼病変を生じる疾患であり,それぞれの眼病変に関する報告は多数みられる1).しかし,糖尿病網膜症(dia-beticretinopathy:DR)に白血病を合併した増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)に関しての報告は少なく,内科的治療と硝子体手術の関係や,手術後の視力予後についてはあまり明らかになっていない.今回筆者らは,白血病治療の状況が硝子体手術の予後に影響したと考えられるCPDRのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:47歳,男性.初診:2016年C4月.主訴:両眼のかすみ,左眼視力低下.既往歴:2型糖尿病(未加療),慢性骨髄性白血病(chronicmyeloidleukemia:CML),橋本病,高尿酸血症.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2014年の会社検診で高血糖を指摘されていたものの放置していた.2016年C3月下旬に両眼のかすみと左眼視力低下を自覚し,近医を受診したところ,左眼硝子体出血と右眼の散在性の網膜内出血,Roth斑様所見を認めた.典型的なCDRの所見ではなかったため内科受診を指示され,4月上旬に大阪医科薬科大学附属病院(以下,当院)血液内科での採血でCCMLが疑われ,HbA1c11.7%とコントロール不良のC2型糖尿病も認めた.4月中旬の近医眼科再診時に左眼視力が指数弁まで低下しており,左眼眼圧C38CmmHgと高値で血管新生緑内障を認めたため,4月下旬に当院眼科(以下,当科)紹介受診した.初診時採血結果:白血球数C156.4C×103/μl,赤血球数C454C×104/μl,ヘモグロビン量C11.9Cg/dl,血小板数C470C×103/μl,白血球分画は芽球C2.0%,前骨髄球C1.0%,骨髄球C26.5%,後骨髄球C3.5%,桿状核好中球C32.5%,分葉核好中球17.0%,単球C0.5%,好酸球C2.5%,好塩基球C9.5%,リンパ球C5.0%であり,白血球の著明な増多と幼若化,血小板の増加を認めた.また,HbA1c11.7%と高値でクレアチニン0.75Cmg/dl,血中尿素窒素C9Cmg/dl,eGFR91Cml/min/1.73Cm2と腎機能障害は認めなかった.初診時眼所見:視力はCVD=0.06(0.2C×sph.7.00D(cylC.1.00DAx180°),VS=30Ccm/m.m(n.c.)で,眼圧は右眼15CmmHg,左眼C33CmmHgであった.前眼部は右眼に軽度白内障を認め,左眼は軽度白内障に加えて虹彩炎,虹彩新生血管を認めた(図1).眼底はCDRには非典型的なCRoth斑を伴う散在性の眼底出血を認め,左眼は硝子体出血により透見不良であったが,増殖性変化を認めた(図2).また,術前超音波検査CBモードでは,左眼に後部硝子体腔の出血と下方に扁平な牽引性網膜.離を疑う像を認め(図3),術前蛍光造影(fluoresceinangiography:FA)では,左眼は硝子体出血のため撮影できなかったが,右眼は上鼻側・下鼻側を中心に新生血管を認め,網膜全体に無灌流領域も認めた(図4).経過:翌日に血液内科でCCMLの確定診断となり,内科治療が開始された.当科初診時は白血病のコントロールは不良であったため,まず左眼の血管新生緑内障に対して抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬治療施行予定としたが,本人の費用負担困難のため消炎目的にステロイド結膜下注射を施行した.徐々に消炎し眼圧下降も認めたが,左眼硝子体出血は残存していたため,5月に経毛様体扁平部硝子体切除術(parsplanaCvitrectomy:PPV)および白内障手術を施行した.術中は増殖膜の範囲が広く,とくに鼻側は癒着が強固で,双手法での膜処理中に多数の医原性裂孔を生じた.また,術中の出血が易凝血性でその処理にも苦慮した.術中網膜.離が胞状に拡大したため,液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展し,人工的後部硝子体.離作製および増殖膜処理を続行したが,赤道部から周辺側は硝子体が残存した.気圧伸展網膜復位術後に裂孔周囲と後極を除く網膜全体に汎網膜光凝固を施行し,最後にシリコーンオイルタンポナーデを行い,手術を終了した.術後は眼圧上昇を認め,計C4回の前房穿刺を施行したが,眼圧コントロール不良であり,大量の前房出血もきたしていたため,6月にC2度目の左眼CPPVを施行した.まず前房洗浄とシリコーンオイル抜去を行い,眼内レンズは下方に脱臼していたため摘出した.眼底は網膜前面に厚い黄色調の凝血塊を広範囲に認めたが,癒着が強固であったため双手法でも完全に除去することは困難であり,周辺部の人工的後部硝子体.離作製も不完全なまま,最後にシリコーンオイルを再注入し手術を終了した.しかし,その後もシリコーンオイル下で出血が持続し,前房出血と角膜染血症のため眼底透見不能となった.3回目の手術も考慮したが,患者がこれ以上の手術治療を希望しなかったため,経過観察とした.その後左眼は前眼球癆の状態となった.右眼は計C3回の網膜光凝固術を施行(合計C1,000発照射)し経過をみていたが,7月に硝子体出血を認めた.内科治療に関してはC7月時点でCCMLは寛解となり,糖尿病もCHbA1c5.7%とコントロール良好となっていた.血液検査結果は白血球数C5.64C×103/μl,赤血球数C474C×104/μl,ヘモグロビン量C12.3Cg/dl,血小板数C191C×103/μl,白血球分画は芽球0%,前骨髄球C0%,骨髄球C0%,後骨髄球C0%,桿状核好中球C0%,分葉核好中球C67.5%,単球C8.0%,好酸球C0.5%,好塩基球C0.5%,リンパ球C23.5%であり,左眼初回手術時よりも改善していた.右眼硝子体出血は改善を認めなかったため,PPVを施行した.左眼同様に線維血管性増殖膜を広範囲に認め,左眼同様鼻側を中心に後部硝子体は未.離かつ癒図1初診時前眼部写真a:右眼.軽度白内障を認める.明らかな炎症初見は認めない.Cb:左眼.軽度白内障,虹彩炎を認める.Cc:左眼虹彩.虹彩新生血管を認める.Cab図2初診時眼底写真a:右眼.糖尿病網膜症には非典型的なCRoth斑を伴う散在性の眼底出血(△)を認める.Cb:左眼.硝子体出血により透見不良であるが,増殖性変化を認める.図3左眼術前超音波検査Bモード硝子体出血,網膜.離を疑う像を認める.図4右眼術前蛍光造影写真上鼻側・下鼻側を中心に新生血管を認め,網膜全体に無灌流領域を認める.b図5右眼術後画像a:眼底写真.汎網膜光凝固術を施行し,再出血は認めなかった.Cb,c:網膜光干渉断層写真.術後経過良好であり,矯正視力はC0.7まで改善した.着が強固であったため,双手法で慎重に膜処理を行った.術中の出血は左眼のように易凝血性ではなく,比較的処理しやすく,術中医原性裂孔も形成しなかった.人工的後部硝子体.離作製は周辺部までほぼ完遂でき,汎網膜光凝固を追加し,タンポナーデなしで手術を終了した.その後の経過も良好で,右眼矯正視力はC0.7に改善した(図5).II考按白血病における眼病変は,白血病細胞の直接浸潤によるもの,貧血,血小板減少,白血球増多などの造血障害によるもの,中枢神経白血病に二次的に生じるもの,に大別される.白血病細胞の直接浸潤による眼病変としては,網膜浸潤による大小さまざまな網膜腫瘤2)や,脈絡膜への浸潤による二次的な網膜色素上皮障害の結果生じた漿液性網膜.離3,4)や,血管周囲への浸潤による静脈周囲の白鞘化5)などがみられることがある.そのほか造血障害により網膜出血,Roth斑,軟性白斑,網膜血管の拡張・蛇行,毛細血管瘤,新生血管,網膜静脈閉塞症,硝子体出血などが2,3,6)生じることがあり,中枢神経白血病により二次的に乳頭浮腫や視神経萎縮などの視神経症が生じることもある5).また,前眼部病変としては,結膜充血や虹彩実質の菲薄化,虹彩異色,虹彩腫脹,偽前房蓄膿など多彩な病変をきたすことがある7).治療は内科的な白血病治療が主体であり,眼病変は全身状態と相関することも多いことから,治療や再発の指標となることが多いとされている8).DRと白血病の合併に関しては,DRに白血病が合併した場合,網膜症が増悪しやすいことが報告されている1,9.11).ChawlaらはCCMLを合併したC6例を報告し,3例は糖尿病発症時にCCMLの診断がついていたが,3例はCPDRの診断後にCCMLが判明したとしている.そして,6例C12眼ともにCPDRに進行し,うちC4眼が血管新生緑内障を併発し予後不良であったとしている1).Figueiredoらは糖尿病とCCMLを合併したC55歳,男性が,良好な血糖コントロールにもかかわらず,中等度の非CPDRから急速に両眼のCPDRおよび血管新生緑内障に進行したと報告している9).Melbergらはインスリン依存性の糖尿病をC9年間患っていたC16歳,女性が,急性リンパ性白血病を併発した後,6カ月という短期間に重度のCPDRへと進行し,失明に至ったと報告している10).網膜症増悪の原因としては,糖尿病,白血病ともに微小血管障害を生じるため,合併した場合に血管閉塞が増悪し,さらに貧血による組織の低酸素状態が関連すると考えられている.したがって,糖尿病の血糖コントロールに見合わないDRの急速な進行を認めた場合には,採血などによる全身精査を行い,白血病を伴う場合には,内科・眼科双方からの迅速かつ積極的な治療介入が視力の維持に重要となる.今回の症例では,コントロール不良の糖尿病に加えてCMLを合併し,明らかな貧血は認めなかったものの,PDR,白血病性網膜症の双方により重症の増殖性変化が生じたと考えられた.左眼は化学療法開始後早期のCCML寛解前に二度のCPPVを施行したが,増殖性変化が強く,術中の医原性裂孔形成や出血の処理に苦慮した結果,複数回の再手術を要し,最終的に前眼球癆となった.一方,右眼は眼底透見可能であったため,PPV前に汎網膜光凝固術を施行することができ,さらにCCMLと糖尿病の内科的コントロールを行った後に硝子体手術を行い,術後矯正視力がC0.7まで改善した.Raynorらはコントロール不良の糖尿病に加えて,CMLを合併したC61歳,男性が,わずかC1年の間に単純網膜症からCPDRへと急激に進行したが,光凝固治療に加えて,白血病に対する化学療法が,全身状態の改善とともに網膜症の進行抑制にも奏効した可能性を報告している11).これらのことより,初診時の網膜症重症度の左右差や,右眼では術前に汎網膜光凝固術を施行できたことも視力予後が良好となった一因と考えられる.CMLを合併したCPDRに対して硝子体手術を施行する際には,内科的治療により血液検査所見および全身状態を改善させたうえで手術を施行したほうが,良好な手術成績が期待できる可能性が示唆された.文献1)ChawlaCR,CKumarCS,CKumawatCDCetal:ChronicCmyeloidCleukaemiaacceleratesproliferativeretinopathyinpatientswithCco-existentdiabetes:ACriskCfactorCnotCtoCbeCignored.EurJOphthalmolC31:226-233,C20192)原雄将,嘉村由美,及川亜希ほか:両眼視力低下を契機に診断された小児慢性骨髄性白血病のC1例.日眼会誌C114:459-463,C20103)渡辺美江,西岡木綿子,川野庸一ほか:漿液性網膜.離を初発症状とした急性骨髄性白血病のC1例.あたらしい眼科C14:1567-1570,C19974)KincaidCMC,CGreenWR:OcularCandCorbitalCinvolvementCinleukemia.SurvOphthalmolC27:211-232,C19835)柳英愛,高橋明宏,加藤和男ほか:慢性骨髄性白血病に伴う網膜症のC1例.眼臨82:735-757,C19886)大越貴志子,草野良明,山口達夫ほか:血液疾患における眼底所見について.臨眼43:239-243,C19907)若山美紀,稲富勉:白血病細胞による虹彩浸潤病巣.あたらしい眼科22:337-338,C20058)木村和博,園田康平:内科医のための眼科の知識.日本臨床内科医会会誌26:242-245,C20119)FigueiredoCLM,CRothwellCRT,CMeiraD:ChronicCmyeloidCleukemiaCdiagnosedCinCaCpatientCwithCuncontrolledCprolif-erativeCdiabeticCretinopathy.CRetinCCasesCBriefCRepC9:C210-213,C201510)MelbergCNS,CGrandCMG,CRupD:TheCimpactCofCacuteClymphocyticCleukemiaConCdiabeticCretinopathy.CJCPediatrCHematolOncolC17:81-84,C199511)RaynorCMK,CCloverCA,CLu.AJ:LeukaemiaCmanifestingCasCuncontrollableCproliferativeCretinopathyCinCaCdiabetic.Eye(Lond)C14:400-401,C2000***

増殖糖尿病網膜症に対する25 ゲージ,27 ゲージ 小切開硝子体手術成績の比較

2022年3月31日 木曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(3):350.353,2022c増殖糖尿病網膜症に対する25ゲージ,27ゲージ小切開硝子体手術成績の比較関根伶生重城達哉佐藤圭司四方田涼佐々木寛季向後二郎高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CComparativeStudyof25-vs27-GaugeVitrectomyforProliferativeDiabeticRetinopathyReioSekine,TatsuyaJujo,KeijiSato,RyoYomoda,HirokiSasaki,JiroKogoandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicineC目的:増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)に対するC25ゲージ(G)・27CG硝子体手術成績を比較し,27CG硝子体手術の安全性と有効性について検討する.方法:対象はC2012年C12月.2019年C12月に聖マリアンナ医科大学病院にてCPDRに対し単一術者が手術を施行し,6カ月以上経過観察が可能であったC128眼.25CG群とC27CG群に分け,視力,眼圧,手術時間,再手術の有無を後ろ向きに検討した.結果:25G群はC46眼,27G群はC82眼であった.logMAR矯正視力は両群とも術前と比較し,術後C1,3,6カ月で有意に改善が得られたが,各時期において両群間での有意差は認められなかった.手術時間はC25CG群C98.0分,27CG群C80.6分,再手術はC25CG群でC11眼(24%),27G群で8眼(10%)といずれも有意にC27CG群が少なかった(各Cp<0.05).結論:PDRにおいて,27CG硝子体手術の成績はC25CGと同等であったが,再手術が少なく有用である可能性が示唆された.CPurpose:Tocomparativelyexaminethesurgicaloutcomesof25-gauge(G)vs27-Gvitrectomyforprolifera-tivediabeticretinopathy(PDR).Methods:Thisretrospectivestudyinvolved128eyeswithPDRthatunderwentvitrectomybetweenDecember2012andDecember2019.Visualacuity(VA),intraocularpressure,operationtime,andCpostoperativeCcomplicationsCwereCcomparedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:ThereCwereC46CeyesCinCtheC25-Ggroupand82eyesinthe27-Ggroup.Bothgroupsshowedsigni.cantimprovementinlogarithmofminimalangleofresolution(logMAR)correcteddistanceVA(CDVA)at1-,3-,and6-monthspostoperative.However,nosigni.cantCdi.erenceCinClogMARCCDVACwasCfoundCbetweenCtheCtwoCgroups.CBetweenCtheC25-andC27-GCgroups,Cthemeanoperationtimewassigni.cantlyshorterinthe27-Ggroup(98.0vs80.6minutes,respectively)andthereoperationratewassigni.cantlylowerinthe27-Ggroup(24%Cvs10%,respectively).Conclusion:Thesurgicaloutcomesof27-GvitrectomyforPDRwereequivalenttothoseof25-Gvitrectomy,yetwithashorteroperationtimeandalowerreoperationrate.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(3):350.353,C2022〕Keywords:25ゲージ硝子体手術,27ゲージ硝子体手術,増殖糖尿病網膜症,矯正視力,手術時間.25-gaugevit-rectomy,27-gaugevitrectomy,proliferativediabeticretinopathy,correcteddistancevisualacuity,operation-time.Cはじめに27ゲージ(G)硝子体手術はC2010年にCOshimaらにより開発された1).27CG硝子体手術は従来のC25CGと比較し術後炎症の軽減,創部の早期治癒,切開創を無縫合で終えることが可能であることから,結膜が温存され眼表面の涙液層の安定や術後逆起乱視の低減化により術後早期の視機能改善が得られると考えられている2,3).また,術後の創口閉鎖不全による低眼圧や眼内炎などの術後合併症発生リスクが少なく,安全な手術方法とされている.Mitsuiらは網膜前膜においてC27CGとC25CGを前向きに比較検討し,同等の治療成績を認め,27CGの安全性と有効性を報告している4).さらに裂孔原性網膜.離においても網膜復位率・術後視力・術後眼圧とも〔別刷請求先〕重城達哉:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:TatsuyaJujo,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANC350(88)にC27CGはC25CGと同等の成績であったと報告され5),今後も27CG硝子体手術はその有用性から,複雑な疾患まで適応が拡大していくと考えられる.増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)は新生血管の破綻により硝子体出血をきたし,硝子体手術が必要となることが多々ある.また,線維血管性増殖膜が形成されると硝子体と網膜との間に強固な癒着が生じ,牽引性網膜.離が発生するために術中に多くの処理を要することがある.27CG硝子体カッターはC25CGと比較し開口部が先端にあり,増殖膜と網膜の間隙に滑り込ませるなどして,より繊細な作業を行えるために,PDRにおいてC27CG硝子体手術は有用である可能性が考えられる.そこで今回の目的はCPDRに対し手術を施行したC25G,27G硝子体手術の手術成績を後ろ向きに比較することでPDRにおけるC27CG硝子体手術の安全性と有効性について検討した.CI対象および方法本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会の承認を得たものである.PDRの診断にて手術加療が必要である患者に対し,手術の必要性や合併症の可能性について十分に説明を行い,インフォームド・コンセントを得て,患者と医師が署名した手術同意書を作成したうえで行った.対象はC2012年C12月.2019年C12月に聖マリアンナ医科大学病院にてCPDRに対し硝子体手術を施行され,6カ月以上経過観察が可能であったC128眼.手術は全例同一術者により施行された.術者は眼科歴C20年以上で増殖糖尿病網膜症の手術に豊富な経験をもつ者である.硝子体手術はCConstellationCVisionSystem(AlconCLabo-ratories)を使用した.2012年C12月.2015年C9月の手術は25G硝子体システムを使用し,2015年C10月.2019年C12月の手術はC27CG硝子体システムを使用した.手術は硝子体手術単独または水晶体再建術併用硝子体術を行い,全例で強膜内陥術の併用は行わなかった.手術終了時のタンポナーデは必要に応じ,六フッ化硫黄ガス(SFC6),八フッ化プロパンガス(CC3F8),シリコーンオイル(SO)に置換し手術を終了した.検討項目は術前,術後C1カ月,3カ月,6カ月時の矯正視力と眼圧,再手術の有無,タンポナーデの有無とし,25CG群とC27CG群とに分け,データを収集した.検討方法は小数視力をClogMAR換算し,各群で術前後の視力と眼圧をWelchのCt検定にて比較検討し,各群間での視力と眼圧をMann-WhitneyのCU検定を用いて検討を行った.各群間での再手術の有無とタンポナーデの有無についてはCc2検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果患者背景を表1に示した.25G群はC46眼,27G群はC82眼であった.性別はC25CG群で男性C31眼,女性C15眼であり,27CG群は男性C58眼,女性C24眼であった.平均年齢はC25CG群でC54.6C±14.4,27G群でC56.5C±11.7であった.眼軸長は25G群でC23.6C±1.0Cmm,27CG群でC23.9C±1.3Cmmであった.増殖膜の処理を行った症例数はC25CG群でC33眼,27CG群で47眼であった.術前眼圧はC25G群でC14.3C±2.9CmmHg,27G群でC14.4C±3.5CmmHgであった.術前ClogMAR矯正視力はC25G群でC0.93C±0.60,27CG群でC0.95C±0.68とそれぞれの項目で両群間に有意差は認められなかった(p>0.05).視力の推移を図1に示した.術C1カ月後のClogMAR矯正視力はC25G群でC0.64C±0.48,27G群でC0.65C±0.65,術C3カ月後はC25G群でC0.54C±0.49,27G群でC0.54C±0.50,術C6カ月後ではC25CG群はC0.48C±0.55,27CG群はC0.43C±0.44であり両群ともにベースラインと比較し術C1カ月後から有意な改善を得ることができた(各Cp<0.01).しかし,各時点でのlogMAR矯正視力に両群間で有意差は認められなかった.術後翌日,1,3,6カ月後の眼圧の推移を図2に示した.術後翌日の眼圧はC25G群でC14.9C±7.6CmmHg,27CG群でC15.7±7.4CmmHgであり,いずれの群においても術前眼圧と有意差は認められなかった.術後C1カ月はC25CG群でC13.8C±3.0CmmHg,27CG群でC14.5C±4.2CmmHg,術後C3カ月はC25CG群でC14.3C±3.6mmHg,27G群でC14.6C±3.3mmHg,術後C6カ月は25CG群で13.9C±3.1mmHg,27CG群で15.0C±3.6CmmHgであり,ベースラインと比較して有意差は認められなかった.また,各時点での両群間においても眼圧に有意差は認められなかった.術翌日の低眼圧(<5CmmHg)はC25CG群でC2眼(4.3%),27CG群でC3眼(3.7%)であり,低眼圧発生の割合も有意差は認められなかった(p=0.85).手術方法,タンポナーデ,手術時間,再手術件数について表2に示した.手術方法はC25G群で白内障併用がC27眼,27CG群でC39眼であり,有意差は認めなかった.タンポナーデを行った症例はC25G群でCSFC6がC5眼,CC3F8がC4眼,SOがC6眼であり,27CG群でCSFC6がC9眼,SOがC6眼でタンポナーデを行った割合に有意差は認めなかった.手術時間は25G群でC98.0C±46.1分,27CG群でC80.6C±37.7分と有意に27CG群が短かった.術後C6カ月以内に再手術を要した症例はC25G群でC11眼,27G群でC8眼であり有意にC27G群が少なかった.CIII考按本研究結果においてC25CGとC27CGともに術後矯正視力は術前より有意に改善を得ることができたが,ゲージ間での有意な差は認められなかった.Naruseらは網膜上膜において術表1患者背景25CG群27CG群Cpvalue性別男性(眼)C31C58C0.69女性(眼)C15C24年齢(年)C54.6±14.4C56.5±11.7C0.26眼軸(mm)C23.6±1.0C23.9±1.3C0.10増殖膜処理(眼)C33C47C0.11術前眼圧(mmHg)C14.3±2.9C14.4±3.5C0.43術前ClogMAR矯正視力C0.93±0.60C0.95±0.68C0.42各項目において,両群間に有意差はなかった(p>0.05).C27G25G*27G25G*1.2*16.5****16logMAR矯正視力0.80.60.4眼圧(mmHg)15.51514.51413.5130.212.50pre1day1M3M6Mpre1M3M6M経過期間経過期間図2眼圧の推移図1視力の推移*p>0.05.両群とも術前と比べ術C1,3,6カ月の眼圧に有*p<0.05.両群とも術前と比べて術C1,3,6カ月で有意に意差はなかった.また術前,術後C1日,1カ月,3カ月,6視力は改善していた.また術前,術後1,3,6カ月時点で両カ月において両群間で眼圧の有意差はなかった.群間に視力は有意差を認めなかった.表2術中,術後転帰の比較術式タンポナーデ手術時間(分)再手術C25CGCPEA+IOL+VIT:2C7眼VIT単独:1C9眼CSF6:5眼CC3F8:4眼SO:6眼C98.0±46.18眼C27CGCPEA+IOL+VIT:3C9眼VIT単独:4C3眼CSF6:9眼SO:6眼C80.6±37.711眼p値C0.23C0.07C0.04C0.03各群で術式,タンポナーデの有無に有意差はなかった(p>0.05).手術時間,再手術件数は有意にC27CG群が少なかった(p<0.05).PEA:phacoemulsi.cation,IOL:intraocularClens,VIT:vitrectomy,CSF6:sulfurChexa.uoride,C3F8:per.uoropropane,SO:siliconoil.1カ月後の視力改善はC25CGと比較し,C27CGが早期に得るこであることが示唆された.とができると報告した6).その要因としてはゲージが小さい眼圧は両群間において,各時期で有意差は認められなかっことにより術後炎症が抑えられること,また角膜形態に与えた.また,術翌日の低眼圧の発症率はC25CG群がC4.3%,2C7CGる影響を少なくすることがあげられる.しかし,CNaruseら群がC3.7%であり有意差は認められなかった.CTakashinaらはCPDRにおいてはC25CGとC27CGで視力の改善に有意差はなはC27CGトロカールの斜め穿刺により,C25CGの同様の方法とかったと報告した7).今回の筆者らの結果も同様であり,比較し,術後低眼圧の発症率を低下させたと報告した8).筆PDRにおけるC27CG硝子体手術はC25CGと同等に有用な術式者らの結果では有意差は認められなかったものの,術翌日の眼圧に関してはC27CG群のほうが安定していた.これらより,PDRの硝子体手術においてもC25CGと同様にC27CGにて安定した術後眼圧を得ることができたと考えられた.術中および術後転帰に関しては,両群間でタンポナーデを行った症例数に有意差はなかったが,手術時間,6カ月以内の再手術件数は25CG群と比較しC27CG群が有意に少なかった.硝子体切除効率はC27CGと比較し,ゲージの大きいC25CGのほうが高く,より硝子体処理を短時間で行うことが可能である4,6).本研究は前向き無作為ではないため患者背景の影響は考慮しなくてはならないが,27CGとC25CGで増殖膜の処理を行った症例数に有意差がなかったため,増殖膜の処理の有無による手術時間への影響は少なかったと考えられる.しかし,PDRにおいてC27CG群で有意に手術時間を短縮できた要因としては,27CGカッター,鑷子,剪刀のほうがC25CGと比較し繊細な操作を行うことができるため,増殖膜の処理時間を短縮することができたこと,また術中網膜.離を起こす症例を少なくすることができた可能性があると考えられた.そしてその優位性が再手術の件数を少なくすることができた要因ではないかと考えられた.しかし,各群間での増殖膜の範囲,処理時間の検討を行えていないため今後の検討課題とした.術者のClearningcurveの影響については,手術技術に関して経験豊富な術者が施行したことから,その影響は少ないと考えられる.また,27CG硝子体システム移行後のC3カ月以内の手術成績とそれ以降の手術成績とを比較し,結果の傾向に違いは認められなかったため,その点の影響も少なかったと考えられた.増殖糖尿病網膜症に対するC27CG硝子体手術は従来のC25CGと同等の手術成績を得ることができ,有用な手術方法である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)OshimaCY,CWakabayashiCT,CSatoCTCetal:AC27-gaugeCinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessmicro-incisionCvitrectomyCsurgery.COphthalmologyC117:93-102,C20102)GozawaCM,CTakamuraCY,CMiyakeCSCetal:ComparisonCofCsubconjunctivalCscarringCafterCmicroincisionCvitrectomyCsurgeryusing20-,23-,25-and27-gaugesystemsinrab-bits.ActaOphthalmolC95:e602-e609,C20173)TekinK,SonmezK,InancMetal:EvaluationofcornealtopographicCchangesCandCsurgicallyCinducedCastigmatismCaftertransconjunctival27-gaugemicroincisionvitrectomysurgery.IntOphthalmolC38:635-643,C20184)MitsuiCK,CKogoCJ,CTakedaCHCetal:ComparativeCstudyCofC27-gaugeCvsC25-gaugeCvitrectomyCforCepiretinalCmem-brane.Eye(Lond)C30:538-544,C20165)OtsukaCK,CImaiCH,CFujiiCACetal:ComparisonCofC25-andC27-gaugeCparsCplanaCvitrectomyCinCrepairingCprimaryCrhegmatogenousretinaldetachment.JOphthalmol2018:C7643174,C20186)NaruseCS,CShimadaCH,CMoriR:27-gaugeCandC25-gaugeCvitrectomyCdayCsurgeryCforCidiopathicCepiretinalCmem-brane.BMCOphthalmolC17:188,C20177)NaruseCZ,CShimadaCH,CMoriR:SurgicalCoutcomeCofC27-gaugeCandC25-gaugeCvitrectomyCdayCsurgeryCforCpro-liferativeCdiabeticCretinopathy.CIntCOphthalmolC39:1973-1980,C20198)TakashinaCH,CWatanabeCA,CTsuneokaH:PerioperativeCchangesoftheintraocularpressureduringthetreatmentofepiretinalmembranebyusing25-or27-gaugesuture-lessCvitrectomyCwithoutCgasCtamponade.CClinCOphthalmolC11:739-743,C2017***

毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術後に 発症した網膜剝離に対してシリコーンオイル注入を行った1 例

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1216.1220,2021c毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術後に発症した網膜.離に対してシリコーンオイル注入を行った1例雲井美帆*1松田理*1松岡孝典*1橘依里*1辻野知栄子*1大鳥安正*1木内良明*2*1独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科*2広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学CACaseofSiliconeOilInjectionforRetinalDetachmentthatOccurredPostParsPlanaBaerveldtImplantSurgeryMihoKumoi1),SatoshiMatsuda1),TakanoriMatsuoka1),EriTachibana1),ChiekoTsujino1),YasumasaOtori1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,2)DepartmentofOphthalmology,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalandHealthSciencesC目的:バルベルト緑内障インプラント手術後に発症した網膜.離に対してシリコーンオイル注入が有用であった例を報告する.症例報告:53歳,女性.1999年(35歳時)に糖尿病網膜症による硝子体出血,血管新生緑内障を発症し,両眼に複数回の硝子体手術,線維柱帯切除術を施行された.右眼眼圧コントロールが不良のため,2013年にバルベルト緑内障インプラント手術(毛様体扁平部挿入型)を施行された.2017年C6月右眼の視力が急激に低下し,大阪医療センター眼科を受診した.右眼の視力はC50Ccm手動弁,眼圧C5CmmHgで黄斑まで及ぶ網膜.離を認め,硝子体茎離断術,シリコーンオイル注入を行った.術後,網膜は復位しており眼圧はC15CmmHg以下で推移している.術後C2年半まで再.離や眼圧上昇,シリコーンオイル漏出の合併症なく経過している.結論:バルベルト挿入眼にもシリコーンオイル注入が可能であったが,眼圧上昇やシリコーンオイル漏出の可能性があり,注意深い経過観察が必要である.CPurpose:ToreportacaseofsiliconeoilinjectionforretinaldetachmentthatoccurredpostBaerveldtGlauco-maImplant(BGI)(Johnson&JohnsonVision)surgery.Casereport:A53-year-oldAsianfemalepresentedwiththecomplaintofseverevisonlossinherrighteye.In2013,shehadundergoneparsplanBGIsurgeryinherrighteyeduetopoorcontrolofintraocularpressure(IOP).In2017,retinaldetachmentwasoccurredinherrighteye,andCparsplanaCvitrectomy(PPV)andCsiliconeCoilCinjectionCwasCperformed.CResults:ForC2.5-yearsCpostoperative,CtheIOPinherrighteyehasremainedunder15CmmHg,withnoapparentleakageorrecurrenceofretinaldetach-ment.Conclusion:PPVcombinedwithsiliconeoilinjectionwasfoundusefulforretinaldetachmentthatoccurredinaneyepostBGIsurgery,however,strictfollow-upisrequiredinsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(10):1216.1220,C2021〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,網膜.離,増殖糖尿病網膜症,硝子体手術,シリコーンオイル.Baer-veldtCglaucomaCimplant,CretinalCdetachment,CproliferativeCdiabeticCretinopathy,CparsCplanaCvitrectomy,CsiliconeCoil.Cはじめに続発緑内障,血管新生緑内障,角膜移植後などで線維柱帯切除術が困難な症例や,線維柱帯切除術による眼圧下降が不十分な難治性緑内障,結膜瘢痕が強い症例ではチューブシャント手術が必要となる.チューブシャント手術は,チューブからプレートへ房水を漏出させ,プレート周囲の線維性の被膜により濾過胞を形成し眼圧を下降させる.チューブの留置位置により前房型,毛様体扁平部型があり,術者,症例により使い分けられている1).わが国で使用可能なロングチューブシャントにはバルブのあるもの(アーメド緑内障バルブ),〔別刷請求先〕雲井美帆:〒540-0006大阪府大阪市中央区法円坂C2-1-14独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科Reprintrequests:MihoKumoi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,2-1-14Hoenzaka,ChuoKu,OsakaCity,Osaka540-0006,JAPANC1216(84)バルブのないバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI)がある.硝子体手術の既往がある場合には毛様体扁平部型を使用する例が増加しているが2),それに伴いチューブシャント手術後の網膜硝子体疾患の合併症例も増加している3).なかでも網膜.離はC6%と報告されている4).難治網膜.離に対してはシリコーンオイル(siliconeoil:SO)注入が必要になる可能性があるが,チューブへのCSOの迷入,眼圧上昇などの危惧があり5)世界でも報告は少なく,わが国ではCBGI留置眼へのCSO注入の報告は確認できなかった.今回毛様体扁平部挿入型CBGI手術後に網膜.離を合併し,SO注入をした症例を経験したので報告する.CI症例53歳,女性.1999年(35歳時)に糖尿病網膜症による両眼の硝子体出血,血管新生緑内障を発症した.右眼はC1999年C4月に初回の線維柱帯切除術,6月に硝子体茎離断術,白内障同時手術を施行された.眼圧コントロール不良のため,その後線維柱帯切除術・濾過胞再建術を合計C8回行われ,2013年C1月にCBGIを用いたチューブシャント手術(毛様体扁平部挿入型)を下耳側に施行された.左眼も複数回の硝子体手術,線維柱体切除術を施行されたがC2002年に失明状態となった.2017年C6月,右眼の急激な視力低下を自覚し大阪医療センター眼科受診した.視力低下時の右眼視力はC50Ccm手動弁,左眼は光覚弁で眼圧は右眼C5CmmHg,左眼C25CmmHgであった.右眼の結膜は全周が瘢痕化しており下耳側にCBGIが留置されていた.前眼部に帯状角膜変性があり透見性が不良であったが,下方網膜に裂孔を原因とする網膜.離を認めた.角膜内皮細胞密度は右眼C518個/mm2であった.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)でも黄斑部にまで及ぶ網膜.離があり(図1a),硝子体手術を施行した.術中所見(図2)結膜は非常に癒着が強い状態であった.結膜を切開しCBGIを露出すると,房水の漏出が確認された.BGIのチューブをC6-0バイオソルブで結紮し,輪部から13Cmmの位置に輪状締結術(#240)を施行した.BGI部分では後方のプレートの上から留置した.その後硝子体茎離断術(parsplanaCvitrectomy:PPV)を行った.BGIのチューブ先端は硝子体腔内にあり,周囲に網膜.離や増殖膜はなかCb図1黄斑部光干渉断層計所見a:.離時,b:術後C3カ月.図2術中所見a:全周に結膜瘢痕があった.b:下耳側にCBGIのチューブを確認した.被膜に覆われており,切開により房水の漏出があった.c:輪状締結術を行った.d:全体に増殖膜があり,下方にC6カ所の裂孔があった.Cab図3動的視野検査所見a:手術C6カ月前,b:術後C1カ月.硝子体手術前後で,V-4イソプターに著明な変化はなかった.眼圧(mmHg)1412108642000.511.5術後日数(年)図4術後眼圧経過術後C2年半まで眼圧はC15CmmHg以下で経過している.22.53った.網膜は後極から周辺部にかけて増殖膜が強く張っており下方に牽引性の裂孔をC6カ所確認した.可能なかぎり増殖膜を除去し,牽引が除去できない部位は網膜切開を追加した.最後にCSOを注入して終了した.経過:術翌日,SOの割合はC9割程度であった.術後眼圧はC10CmmHg程度で推移した.術後C1カ月後の動的視野検査では網膜.離発症のC6カ月前の視野検査と比較すると,黄斑部の.離のため視野の感度低下はあるがCV-4イソプターでは著明な変化はなかった(図3).術後C3カ月の時点で黄斑部の網膜は復位していた(図1b).術後C2年半経過時にも眼圧は緑内障点眼なしでC15CmmHg以下で経過している(図4).周辺部の増殖組織は完全な除去が困難であり,SO抜去によって眼球癆になる可能性があるため,SOは抜去せずに経過を観察している.帯状角膜変性の増強はあるが,右眼視力は0.01(0.01C×sph+1.5D(cyl.1.5DAx180°),であった.細隙灯顕微鏡検査で確認できるようなCSOの漏出はないが,硝子体腔のCSOはC7割程度に減少していた.CII考按近年,難治性緑内障に対しチューブシャント手術が行われる症例が増加してきており6),毛様体扁平部に留置されたBGI手術後に発症する網膜.離はC6%4),その他のチューブシャント手術も含めたものではC3%との報告がある7).チューブシャントによって房水柵機能が破綻され眼内に増殖因子が分泌されるため4),糖尿病網膜症が落ち着いていない状況でCBGIを挿入すると網膜症が悪化する可能性があると報告されている7).本症例はCBGI手術後C4年C5カ月で牽引性網膜.離を発症しており,増殖糖尿病網膜症の悪化やCBGI留置が網膜.離の原因になった可能性がある.糖尿病網膜症や血管新生緑内障の患者にチューブシャント手術を行う場合はとくに増殖膜の形成や網膜.離に注意する必要がある.チューブシャント手術後の網膜.離については,硝子体手術が有効であるとの報告があり,Benzらによると,初回からCPPVを施行したものでは全例術後再.離は起こらなかったとしている8).それに対してCPPVを行わずに網膜復位術や気体網膜復位術を行ったC3例では全例再.離を起こしPPVが必要になった8).治療についてはCPPVを選択し,網膜復位が困難な例ではCSO注入も検討する必要がある.本症例では周辺部に増殖膜による牽引性網膜.離を発症しており,すべての増殖膜除去が困難であったため輪状締結とPPV,SO注入を行ったが,術後C2年半まで再.離なく経過している.チューブシャント手術眼へのCSO注入ではオイルの漏出が問題となる.チューブにCSOが閉塞し眼圧が上昇するとさら漏出を起こしやすくなるため,チューブシャント手術後でSOの漏出によって再手術が必要になった例が今までにも報告されている.FribergらはCBGI(無水晶体眼,前房型,上方)でチューブからのCSOの漏出と眼圧上昇のためオイル抜去が必要になった症例を報告している9).Chanらは上方のBGI留置後に増殖糖尿病網膜症・網膜.離を発症し,SO注入を行ったC5カ月後の漏出を経験しているが,その際下方にチューブを移動させ再漏出を防いだと報告している10).SOは房水より比重が軽いため,チューブからの漏出を予防するにはCSOとの接触を減少させる下方へのチューブ設置が有利と思われる.本症例では下耳側の毛様体扁平部挿入型CBGI留置眼にCSOがC9割程度注入された.現在術後C2年半経過しており,SOはC70%程度に減少している.SOの減少は睡眠中などの臥位での漏出が疑われるが,チューブが下方に留置されていることから比較的脱出しにくくなっていると考えられる.結膜下にCSOが漏出している可能性はあるが,眼圧上昇や再.離,漏出による眼球運動障害,結膜腫脹はなく,検眼鏡的に確認できるようなCSOの貯留所見はない.しかしながら,Moralesら11),Nazemiら12)は下方に留置されたチューブ眼でも,シリコーン漏出や閉塞による眼圧上昇のため再手術が必要になった例を報告しており,今後も注意深い経過観察が必要と思われる.場合によっては毛様体の光凝固やマイクロパルスなどチューブシャント手術以外の眼圧下降方法も検討が必要である7).BGI硝子体腔留置術後の網膜.離に対してCSOを使用した硝子体手術は有効な選択肢であるが,長期予後については不明であるため,術後のCSO減少や眼圧上昇については注意する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)千原悦夫:チューブシャント手術の適応とチューブの選択.緑内障チューブシャント手術のすべて,メジカルビュー社,p16-19,20132)GandhamCSB,CCostaCVP,CKatzCLJCetal:AqueousCtube-shuntCimplantationCandCparsCplanaCvitrectomyCinCeyesCwithCrefractoryCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC116:189-195,C19933)LuttrullCJK,CAveryCRL,CBaerveldtCGCetal:InitialCexperi-enceCwithCpneumaticallyCstentedCbaerveldtCimplantCmodi.edforparsplanainsertionforcomplicatedglaucoma.OphthalmologyC107:143-150,C20004)SidotiCPA,CMosnyCAY,CRitterbandCDCCetal:ParsCplanaCtubeCinsertionCofCglaucomaCdrainageCimplantsCandCpene-tratingCkeratoplastyCinCpatientsCwithCcoexistingCglaucomaCandcornealdisease.OphthalmologyC108:1050-1058,C20015)NguyenCQH,CLloydCMA,CHeuerCDKCetal:IncidenceCandCmanagementCofCglaucomaCafterCintravitrealCsiliconeCoilCinjectionforcomplicatedretinaldetachments.Ophthalmol-ogyC99:1520-1526,C19926)ChenCPP,CYamamotoCT,CSawadaCACetal:UseCofCanti-.brosisCagentsCandCglaucomaCdrainageCdevicesCinCtheCAmericanCandCJapaneseCGlaucomaCSocieties.CJCGlaucomaC6:192-196,C19977)LawSK,KalenakJW,ConnorTBJretal:Retinalcompli-cationsCafterCaqueousCshuntCsurgicalCproceduresCforCglau-coma.ArchOphthalmolC114:1473-1480,C19968)BenzCMS,CScottCIU,CFlynnCHWCJrCetal:RetinalCdetach-mentCinCpatientsCwithCaCpreexistingCglaucomaCdrainagedevice:anatomic,CvisualCacuity,CandCintraocularCpressureCoutcomes.RetinaC22:283-287,C20029)FribergCTR,CFanousMM:MigrationCofCintravitrealCsili-coneoilthroughaBaerveldttubeintothesubconjunctivalspace.SeminOphthalmolC19:107-108,C200410)ChanCCK,CTarasewiczCDG,CLinSG:SubconjunctivalCmigrationCofCsiliconeCoilthroughCaCBaerveldtCparsCplanaCglaucomaimplant.BrJOphthalmolC89:240-241,C200511)MoralesJ,ShamiM,CraenenGetal:Siliconeoilegress-ingCthroughCanCinferiorlyCimplantedCahmedCvalve.CArchCOphthalmolC120:831-832,C200212)NazemiPP,ChongLP,VarmaRetal:Migrationofintra-ocularsiliconeoilintothesubconjunctivalspaceandorbitthroughCanCAhmedCglaucomaCvalve.CAmCJCOphthalmolC132:929-931,C2001***

Florid Diabetic Retinopathy の1 例

2021年5月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科38(5):588.594,2021cFloridDiabeticRetinopathyの1例石郷岡岳喜田照代大須賀翔河本良輔佐藤孝樹小林崇俊池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CACaseofReversalFloridDiabeticRetinopathyGakuIshigooka,TeruyoKida,ShouOosuka,RyohsukeKohmoto,TakakiSato,TakatoshiKobayashiandTsunehikoIkedaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC目的:Floriddiabeticretinopathy(FDR)は若年女性に多く,線維性増殖膜を伴わずに視神経乳頭周囲に隆々とした放射状の新生血管を認める病態で,急速に網膜症が悪化しやすいとされている.今回筆者らはCFDRのC1例を経験したので報告する.症例:19歳,女性.近医にて糖尿病網膜症を指摘され大阪医科大学附属病院眼科紹介受診となった.初診時視力は両眼とも矯正C1.0で,自覚症状はとくに認めなかった.11歳時にC1型糖尿病を指摘されていたが,血糖コントロール不良でCHbA1cはC12%,定期的な眼科受診も受けていなかった.眼底は両眼とも視神経乳頭周囲に放射状の太い新生血管を認めたが黄斑浮腫はみられなかった.フルオレセイン蛍光造影検査では新生血管からの漏出を認めた.ただちに汎網膜光凝固を開始した.同時に内科にて持続皮下インスリン注入療法(continuoussubcutaneousinsu-lininfusion:CSII)が開始され,HbA1cは徐々に低下し,8%程度になった.その後右眼に後部硝子体.離の進行による硝子体出血をきたしたが,自然吸収した.初診C1年C3カ月後の時点で網膜症は鎮静化し,矯正視力は両眼ともC1.0を維持している.結論:FDRのC1例を経験した.早期の網膜光凝固と,CSIIによる厳格な血糖コントロールがCFDRの進行抑制に有効であったと考えられるが,今後も注意深い経過観察が必要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofC.oridCdiabeticretinopathy(FDR).CCasereport:AC19-year-oldCfemaleCwasCreferredtoourhospitalduetodiabeticretinopathy.Sincetheageof11,shehadpoorlycontrolledandveryunsta-bletype1diabetes.Shehadnotundergoneregularophthalmologyexaminations,andherHbA1cwas12%.Oph-thalmoscopicCexaminationCrevealedCthatCherCbest-correctedCvisualacuity(BCVA)wasC1.0CinCbothCeyes,CandCthatCsheChadCnoCsymptoms.CHowever,CfundusCexaminationCshowedCretinalCneovascularizationCradiallyCaroundCtheCopticCdiscinbotheyes.Fluoresceinangiographyshowedsomeleakagefromtheneovascularizations,andpanretinalpho-tocoagulationwasimmediatelyperformedinbotheyes.Simultaneously,aninternistatourhospitalinitiatedcontin-uoussubcutaneousinsulininfusion(CSII)therapy,andtheHbA1cgraduallydeclinedto8%.VitreoushemorrhageoccurredCdueCtoCtheCprogressionCofCposteriorCvitreousCdetachment,CyetCitCwasCspontaneouslyCabsorbed.CAtC1-yearCand3-monthspostinitialpresentation,herFDRhasimprovedandBCVAinbotheyeshasbeenmaintainedat1.0.Conclusion:WeCreportCaCyoungCpatientCwithCFDRCinCwhomCearlyCretinalCphotocoagulationCandCgoodCandCstableCmetaboliccontrolofdiabetesviaCSIIwase.ectiveinsuppressingtheprogressionofFDR.However,strictfollow-upisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(5):588.594,C2021〕Keywords:.orid糖尿病網膜症,若年女性,増殖糖尿病網膜症,1型糖尿病,汎網膜光凝固..oriddiabeticreti-nopathy,youngfemale,progressivediabeticretinopathy,type1diabetes,panretinalphotocoagulation.Cはじめに1972年にCBeaumontとCHollowsが急速に進行する予後不良CFloridCdiabeticretinopathy(FDR)は増殖糖尿病網膜症のCPDRの特殊型を報告し,急激な虚血に対する二次性変化(progressiveCdiabeticretinopathy:PDR)の特殊型である.であると提唱した1).1976年にCKohnerらはC1型糖尿病,40〔別刷請求先〕石郷岡岳:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:GakuIshigooka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-city,Osaka569-8686,JAPANC歳未満,非増殖糖尿病網膜症からCPDRまたはその危険がきわめて高い状態に至るまでC6カ月未満で進行するこの特殊型をCFDRとした2).Lattanzioらはその危険因子として若年(平均C27歳),女性,インスリン依存性糖尿病の罹病期間がC15年以上であること,血糖コントロールの不良をあげている3).FDRでは両眼性に視神経乳頭周囲に隆起性で「サンゴ状」とも称される4)放射状の新生血管を認める.フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)ではこの新生血管は通常よりも漏出が軽度なことがあるため注意が必要で3.5),また黄斑浮腫の合併の程度も症例による差が大きい6).一般に,FDRの発症早期は視力良好であるが,急速に網膜症が悪化しやすいとされている1.5).そのため,早期診断と適切な汎網膜光凝固(panretinalCphotocoagulation:PRP),必要に応じて硝子体手術の選択が重要となる3.7).今回筆者らはCFDRと考えられる若年女性のC1例について経験したので報告する.CI症例患者:19歳,女性.身長C162.2cm,体重C63kg,BMI(bodymassindex)24.主訴:自覚症状なし.家族歴:特記事項なし.既往歴:出生時特記事項なし.現病歴:8年前にC1型糖尿病と診断を受け,強化インスリン療法が開始されたが,血糖コントロールは不良で,病識にも乏しく,HbA1cはC12%程度で推移していた.他院と当院で計C4回教育入院したが,退院後血糖コントロール状況は再度増悪し改善しなかった.Ca3年前に持続皮下インスリン注入療法(continuoussubcu-taneousCinsulininfusion:CSII)であるセンサー付ポンプ療法が導入されたが,本人の病識や治療への意欲が薄く,操作の煩雑性などを理由に数カ月で中止となった.血糖コントロールの改善はみられず,低血糖発作を月に数回繰り返していた.7年前より近医眼科に通院を開始し,年C1回程度受診していた.2018年C6月近医受診時,両眼に点状,しみ状出血を生じており単純糖尿病網膜症と診断された.2019年C2月末,両眼視神経乳頭周囲に著明な放射状の新生血管と左眼には視神経乳頭上に増殖膜がみられ,大阪医科大学附属病院眼科(以下,当科)紹介となった.初診時所見:初診時視力CVD=1.2,VS=0.8(1.5C×.1.5D).眼圧CRT=16CmmHg,LT=19CmmHg.前眼部中間透光体に異常なく,虹彩に新生血管はみられなかった.眼底検査で両眼視神経乳頭周囲に放射状に伸長する新生血管を認め,左眼は視神経乳頭上に線維血管性増殖膜を伴っていた.両眼に多数のしみ状出血を認めるものの硬性白斑,軟性白斑はみられず,視神経乳頭周囲以外に明らかな新生血管は認めなかった(図1).両眼の光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomog-raphy:OCT)では,明らかな糖尿病黄斑浮腫は認められず,中心窩陥凹は保たれていた(図2).FAを施行したところ,両眼中間周辺部に無灌流領域を生じていた.網膜新生血管からの漏出を認めたが,漏出の程度は軽度であった(図3).経過:当科初診時,患者より就職活動中で定期的な通院が困難であるとの申し出があったが,眼科だけでなく当院代謝内科の定期的な通院を指示した.初診時よりCPRPの必要性を説明したが,内科治療に専念したいとの患者希望により,PRPの同意は得られなかった.しかし,同年C4月右眼飛蚊症を自覚,右眼後極部に網膜前出血を生じていた.患者よりCb図1初診時眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼とも視神経乳頭から放射状に伸長する新生血管を認める.左眼は線維血管性増殖膜を認める.b図2フルオレセイン蛍光造影検査の写真a:右眼,Cb:左眼.中間周辺部に網膜無灌流域を認めるが,視神経乳頭周囲の新生血管からの漏出は比較的軽度である.糖尿病黄斑浮腫も併発している.PRPの積極的希望があったため同日右眼よりCPRPを開始した.左眼は同年C5月初めよりCPRPを開始し両眼ともにC1,000発程度(アルゴンレーザーにてC150CmW,250Cμm,200Cmsec,yellow,SuperQuadレンズ)照射された(図4).同年C7月より内科にてCCSIIが再開され,HbA1cは徐々に低下しC8%程度まで改善した.その後患者の希望によりCCSIIは中止となったが,強化インスリン療法にて血糖値は悪化せず同程度で推移している.初診C1年C3カ月後の時点で両眼の新生血管は初診時に比べて退縮傾向であり,糖尿病網膜症は鎮静化した(図5).矯正視力は両眼ともにC1.0を維持しており,現在もHbA1cは8%程度で推移している.CII考按若年女性のコントロール不良C1型糖尿病患者におけるFDRのC1例を経験した.本症例においては早期の網膜光凝固と,CSIIによる厳格な血糖コントロールがCFDRの進行抑制に有効であったと考えられた.FDRは詳細な発症機序について明らかにされていないが,広範で急速な血液網膜関門の破綻を生じる虚血変化により著明な新生血管を生じると考えられている1.5).Kohnerらは,図3OCT画像a:右眼,b:左眼.FAで蛍光漏出を認めるが,OCTでは中心窩陥凹は保持されていた.図4PRP施行後の眼底写真a:右眼,b:左眼.右眼はCPRP施行後に硝子体出血をきたした.硬性白斑の出現は認めなかった.図5現在(初診より1年3カ月後)の眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼新生血管は退縮傾向であり,右眼硝子体出血は吸収されている.血中成長ホルモン(growthhormone:GH)濃度高値が原因とする仮説を示し,かつてCPDRの治療であった下垂体焼灼術の有効性を報告した2).ただし下垂体破壊術はその副作用の面から現在,標準治療とはなっていない3).わが国においても高取らが乳頭周囲に新生血管を伴うCPDRのC4例に下垂体破壊術を施行した症例を報告し,有効例における内分泌機能検査ではアルギニン負荷後のCGH抑制を認めたとしている8).Kitanoらは低血糖発作を繰り返すC2型糖尿病のCFDRのC2例において血清中のインスリン様増殖因子(insulinlikegrowthfactor:IGF)-1の濃度上昇と硝子体中の血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の濃度上昇を示し,FDRの発症につながる可能性を示した9).若年者におけるGH,IGF-1の血中濃度高値を背景として,広汎な血液網膜関門の破綻が生じることで硝子体中CVEGFの濃度が上昇し,FDRの特徴である著明な血管新生と網膜症の急速進行をきたしていると考えられる.なお上述した危険因子である女性に関して,その理由について既報では検討されていない.近年,網膜には性ホルモン受容体が存在し,その発生や維持に関与していることが明らかになり,網膜症における性ホルモンの関与が推察されている10).しかし,エストロゲン投与を行ったコホート研究で糖尿病網膜症の重症度や糖尿病黄斑浮腫の発症率との関連は認めなかったとする報告11)もあり,エストロゲンと糖尿病網膜症との関連は不明である.一方でCGH分泌量は性差による影響が大きく,男性は睡眠に関連したCGH分泌が顕著であるのに対して,女性では男性より高頻度のCGHのパルス状分泌がみられ12,13),男性に対するエストロゲン投与によりCGH分泌パターンが女性化したとの報告もある14).エストロゲンはGHの分泌や機能に関して調節機構を有している15)ため糖尿病網膜症,とくにCFDRの発症においてはエストロゲンが二次的に関与している可能性が考えられる.FDRでみられる視神経乳頭周囲の放射状の新生血管は通常よりも漏出が軽度なことがあり6),本症例でも蛍光漏出は少なかったので注意が必要である.FDRにおける新生血管も通常のCPDRでみられる新生血管と構造が異なるのかもしれない.過去の報告では,FDRの黄斑浮腫は,血液網膜関門の破綻につながる著明な虚血性変化が原因である可能性が指摘されており7),Gaucherらは通常の糖尿病黄斑浮腫はPRP後炎症性反応により増悪するが,FDRではC17例中C15眼でCPRPおよび血糖コントロールにより速やかに浮腫や視力が改善し再発はなかったと報告した6).若年発症で血糖コントロール不良のC1型糖尿病ではCFDRが生じていることがあり3),早期に眼底検査を施行し,内科的治療と並行してPRPなどの適切な眼科的治療の時期を逃さず施行することが重要と考えられる.FDRにおいてはCPRPを早急に施行することが治療の原則であるが,経過中に硝子体手術が必要となる症例も多く,予後は概して不良とされている1.7).また,通常のCPRPよりもより多くの照射数が必要とされる3,7).LattanzioらはCFDRに対してCPRPを施行した後に硝子体手術が必要となった群と,初診時より硝子体手術の適応であった群に分けて,その予後について比較検討をしており,最終視力が前者は平均0.47であるのに対して後者は平均C0.14と不良で,さらに失明に至る危険性も後者が前者のC6倍であったと示した3).PRPとトリアムシノロンアセトニド硝子体注射の併用が新生血管の蛍光漏出に対して有効であったとする報告16)や,硝子体手術とベバシズマブの併用が網膜症と視力両者の改善に有効であるとする報告もみられる17).FDRにおいては強化インスリン療法やCCSIIの有用性を示した報告が散見される18.20).CSIIに関してはインスリン頻回注射に比べてCHbA1cの改善と重症低血糖に対してメタ解析で優位性を示されており21),米国ではC1型糖尿病患者の40%がCCSIIを行っていると報告されている22)が,わが国におけるC2011年時点でのCCSIIの使用はC4,000.5,000人程度である23).CSIIを含むインスリン療法の向上により,血糖コントロール不良や低血糖発作が減少したことはCFDRの発症を低下させたことに寄与している可能性がある.ただしCCSII導入開始後網膜症が増悪し,FDRを生じた例もあり18,19)注意を要する.この悪化原因としては急速な血糖是正による網膜血流の低下が疑われている18).わが国においてもCCSII療法によりC10%で開始後C0.3.4年の短期間で前増殖糖尿病網膜症まで進展しCPRPを要したが,その後もCSII継続により網膜症が安定化したとする報告がある24).内科的治療のみで,FDRが自然に退縮したとする報告もあり25),早期の内科的治療の介入は視力を保持するうえでもとくに重要と考えられる.なお,わが国におけるCFDRの報告は少ない.上述した高取らの下垂体破壊術を施行した乳頭周囲に新生血管を伴う増殖糖尿病網膜症C4例8),KitanoらのC2型糖尿病のCFDR2例9)のほか,北室のC1例26)の報告がある.また,小嶋らはC57眼のCPDR症例のうちCPRPの施行後も急速に増悪するC.oridtypeがC21%であったと報告している27).わが国でのCFDRの報告が少ないことに関しては,GH,IGF-1の血中濃度の違いで日本人に生じにくい,あるいはCSIIを含めたインスリン療法の向上に伴う血糖コントロールの改善により発症が抑制されているなどの可能性がある.本症例は血糖コントロール不良の期間が長い若年C1型糖尿病の女性患者で典型的なCFDR像である.本症例においては発症前に一度CCSIIを試されているが,血糖是正に至っておらず,発症原因になったとは考えにくい.低血糖発作は網膜症悪化要因と疑われており18),以前より血糖コントロール不良でありかつ頻回に低血糖発作を生じていたことが,FDRを発症する原因であった可能性がある.PRPを施行するとともに内科的治療を行うことで血糖是正を長期的に図ることで新生血管の退縮,網膜症の鎮静化を得られた例であった.CIII結語今回,若年女性のコントロール不良C1型糖尿病患者におけるCFDRのC1例を経験した.本症例においては早期の網膜光凝固と,CSIIによる厳格な血糖コントロールがCFDRの進行抑制に有効であったと考えられた.若年発症のC1型糖尿病の患者にはCFDRが生じている可能性がある3)ので,長期の血糖コントロール不良,低血糖発作を繰り返す患者では定期的に眼底検査を施行し,初期CFDRを早期に診断し,内科的治療と並行してCPRPなどの適切な眼科的治療時期を逃さず施行することが重要である.本症例は今後も注意深い経過観察が必要である.文献1)BeaumontCP,CHollowsFC:Classi.cationCofCdiabeticCreti-nopathy,CwithCtherapeuticCimplications.CLancetC299:419-425,C19722)KohnerEM,HamiltonAM,JoplinGFetal:Floriddiabet-icCretinopathyCandCitsCresponseCtoCtreatmentCbyCphotoco-agulationorpituitaryablation.Diabetes25:104-110,C19763)LattanzioCR,CBrancatoCR,CBandelloCFMCetal:FloridCdia-beticretinopathy(FDR):aClong-termCfollow-upCstudy.CGraefesArchClinExpOphthalmol239:182-187,C20014)AhmadCSS,CGhaniSA:FloridCdiabeticCretinopathyCinCaCyoungpatient.JOphthalmicVisRes7:84-87,C20125)KingsleyR,GhoshG,LawsonPetal:Severediabeticret-inopathyinadolescents.BrJOphthalmolC67:73-79,C19836)GaucherCD,CFortunatoCP,CLecleire-ColletCACetal:Sponta-neousresolutionofmacularedemaafterpanretinalphoto-coagulationin.oridproliferativediabeticretinopathy.Ret-ina29:1282-1288,C20097)FavardCC,CGuyot-ArgentonCC,CAssoulineCMCetal:FullCpanretinalphotocoagulationandearlyvitrectomyimproveprognosisCofC.oridCdiabeticCretinopathy.COphthalmologyC103:561-574,C19968)高取悦子,高橋千恵子,劉瑞恵ほか:糖尿病性網膜症に対する下垂体破壊術施行例の臨床経過について.糖尿病C20:205-217,C19779)KitanoS,FunatsuH,TanakaYetal:VitreousLevelsofIGF-1CandCVEGFCinCFloridCDiabeticCRetinopathy.CInvestCOphthalmolVisSci46:347-347,C200510)GuptaPD,JoharKSr,NagpalKetal:Sexhormonerecep-torsCinCtheChumanCeye.CSurvCOphthalmolC50:274-284,C200511)KleinCBE,CKleinCR,CMossSE:ExogenousCestrogenCexpo-suresandchangesindiabeticretinopathy.TheWisconsinEpidemiologicCStudyCofCDiabeticCRetinopathy.CDiabetesCCareC22:1984-1987,C199912)ObalFJr,KruegerJM:GHRHandsleep.SleepMedRevC8:367-377,C200413)VanCCauterCE,CEsraTasali:EndocrineCphysiologyCInC:CRelationCtoCsleepCandCsleepCdisturbance.CprinciplesCandCpracticeCofCsleepmedicine(KrygerCMH,CRothCT,CDemenWC,eds)C.6thed,p203-204,Elsevier,201714)FrantzCAG,CRabkinMT:E.ectsCofCestrogenCandCsexCdif-ferenceConCsecretionCofChumanCgrowthChormone.CJCClinCEndocrinolMetabC25:1470-1480,C196515)LeungKC,JohannssonG,LeongGMetal:Estrogenreg-ulationCofCgrowthChormoneCaction.CEndocrCRevC25:693-721,C200416)BandelloCF,CPognuzCDR,CPirracchioC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パノラマ光干渉断層血管撮影が有用であった妊娠中の増殖糖尿病網膜症

2020年1月31日 金曜日

《第24回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科37(1):84?88,2020?パノラマ光干渉断層血管撮影が有用であった妊娠中の増殖糖尿病網膜症竹内怜子*1鈴木克也*1渋谷文枝*1野崎実穂*1蒔田潤*2小椋祐一郎*1*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2福井赤十字病院ACaseofaPregnantWomanwithProliferationDiabeticRetinopathyEvaluatedbyPanoramicOpticalCoherenceTomographyAngiographyRyokoTakeuchi1),KatsuyaSuzuki1),FumieShibuya1),MihoNozaki1),JunMakita2)andYuichiroOgura1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)FukuiRedCrossHospital症例:27歳,女性.1型糖尿病があり,増殖糖尿病網膜症(PDR),糖尿病黄斑浮腫に対し福井赤十字病院眼科で両眼汎網膜光凝固術および両眼アフリベルセプト硝子体注射を受けていたが,2017年5月に妊娠が判明.妊娠継続を強く希望したため,トリアムシノロンアセトニド後部Tenon?下注射(STTA)への治療変更と網膜光凝固が追加された.糖尿病黄斑浮腫治療に対するセカンドオピニオンのため2017年7月(妊娠15週)に名古屋市立大学病院眼科を受診した.初診時,パノラマ光干渉断層血管撮影(OCTA)で視神経乳頭および網膜に新生血管を認めた.出産まではSTTAを行い,出産後硝子体手術を受けることを勧めた.2018年1月に出産し,前医で両眼硝子体手術施行した.2018年6月当院再診時,パノラマOCTAで両眼の新生血管の退縮が確認された.考察:パノラマOCTAは非侵襲的に実施でき,妊婦・授乳婦のPDRの経過観察に有用と考えられた.Purpose:Toreportthecaseofapregnantwomanwithproliferationdiabeticretinopathy(PDR)evaluatedbypanoramicopticalcoherencetomographyangiography.CaseReport:Thisstudyinvolveda27-year-oldpregnantwomanwithtype1diabetesmellituswhowasreferredtotheNagoyaCityUniversityHospitalforasecondopin?ionregardingtheappropriatetreatmentforPDRanddiabeticmacularedema.Shehadpreviouslyundergonepan?retinalphotocoagulationandvitreousinjectionsofa?iberceptinbotheyesatanotherhospital.InMay2017,shebecamepregnant,andunderwentsubtenon’striamcinoloneacetonide(STTA)injectioninadditiontoretinalphoto?coagulation,andsubsequentlyvisitedourhospitalinJuly2017.Atherinitialvisit,panoramicopticalcoherencetomographyangiography(OCTA)showedneovascularizationintheopticdiscandretina.Weadvisedhertocon?tinuetheSTTAinjectionsandundergovitrectomyaftershehadgivenbirth.InJanuary2018,shegavebirthandsubsequentlyunderwentvitrectomyinbotheyes.InJune2018,OCTAshowedregressionoftheneovasculariza?tion.Conclusions:SinceOCTAisabletoevaluatetheretinalvasculaturenon-invasively,panoramicOCTAisuse?fulforfollow-upofPDRinpregnantorlactatingwomen.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(1):84?88,2020〕Keywords:増殖糖尿病網膜症,糖尿病黄斑浮腫,妊婦,パノラマ光干渉断層血管撮影,新生血管.proliferativediabeticretinopathy(PDR),diabeticmacularedema(DME),pregnant,panoramicopticalcoherenttomographyan?giography(OCTA),neovascularization.はじめに糖尿病網膜症の診断,評価にはフルオレセイン蛍光眼底造影検査(?uoresceinangiography:FA)が用いられてきたが1),造影剤に対するアレルギーなど検査が実施困難な症例も存在する2).また,妊娠中のFAに関しては安全性が確立されておらず,施行は避けるべきであるとされている3).今回,パノラマ光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomog?raphyangiography:OCTA)が経過観察に有用であった妊〔別刷請求先〕竹内怜子:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:RyokoTakeuchi,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPAN84(84)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1初診時超広角走査型レーザー検眼鏡(黄斑部から中間周辺部までを抜粋,California,Optos)網膜出血,軟性白斑,汎網膜光凝固瘢痕を認める.娠中の増殖糖尿病網膜症の1例を経験したので報告する.I症例患者:27歳,女性.主訴:両眼視力低下.現病歴:8歳時に1型糖尿病を指摘されインスリン導入されている.2010年から福井赤十字病院眼科にて眼底検査を定期的に受けており,2012年に初めて左眼軟性白斑を含む糖尿病網膜症を指摘された.2015年5月にFAを施行し無灌流領域は認めなかったが,2016年12月に両眼網膜出血,黄斑浮腫の悪化を認めたためFAを再度施行のうえ2017年2月に両眼汎網膜光凝固を施行した.2017年3月に再度両眼黄斑浮腫が悪化し,妊娠していないことを確認のうえ両眼アフリベルセプト硝子体内注射を行った.しかし2017年5月に妊娠が判明し,その後黄斑浮腫の再発を認めた.挙児希望は強く,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)阻害薬の妊婦に対する安全性は確立されていないため,治療をトリアムシノロンアセトニド後部Tenon?下注射(sub-tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)へ変更し,網膜光凝固を追加のうえ妊娠継続とした.その後も黄斑浮腫が遷延し,セカンドオピニオン目的で2017年7月に名古屋市立大学附属病院眼科を紹介受診となった.初診時所見:妊娠15週,ヘモグロビンA1c8.0%.視力は右眼0.1(0.2×?2.00D),左眼0.1(0.5×?1.50D(cyl?0.50DAx165°).眼圧は右眼13mmHg,左眼11mmHg.両眼前眼部および中間透光体に特記する異常はなかった.両眼眼底には網膜出血,軟性白斑,黄斑浮腫,網膜光凝固瘢痕,視神経乳頭新生血管,網膜新生血管を認めた(図1,2).TritonDRIOCT(トプコン)を用いて9mm×9mmの網膜全層のOCTA画像7枚を撮影し,付属ソフトウェア(IMA?GEnet6,トプコン)を用いて手動合成することでパノラマ図2初診時OCT(CirrusOCT,CarlZeiss)網膜下液を伴った黄斑浮腫を認める.OCTA画像を作成した(図3).パノラマOCTAでは,両眼無灌流領域,視神経乳頭新生血管,網膜新生血管を認めるとともに,一部の新生血管は高い活動性を示唆する微小血管の密な増殖がみられた.経過:当院初診時も妊娠継続を希望していたため,糖尿病黄斑浮腫に対してSTTAを継続し,出産後にVEGF阻害薬の硝子体内投与もしくは硝子体手術を提案した.2017年10月の当院再診時には両眼硝子体出血と左眼硝子体網膜牽引の悪化を認めた.2018年1月に出産,同月前医にて両眼硝子体手術を施行し,後部硝子体?離の作製と内境界膜?離を行った.2018年4月に右眼硝子体出血が生じたため,2018年5月に再度硝子体手術が施行された.2018年6月に当院を再診した.図3初診時パノラマOCTA(9mm×9mm7枚)上段:無灌流領域(?)と視神経乳頭,網膜新生血管(?)を認める.下段:乳頭部の拡大(a)および同部のBスキャン画像(b)でも硝子体腔内に伸展する乳頭部新生血管が確認できる.図4再診時広角走査型レーザー検眼鏡(黄斑部から中間周辺部までを抜粋,California,Optos)網膜出血,新生血管の改善を認める.2018年6月再診時所見:視力は右眼0.1(0.15×?2.00D),左眼0.1(0.7×?1.00D(?0.75DAx170°).眼圧は右眼13mmHg,左眼10mmHg.両眼とも黄斑浮腫が消失し,網膜出血の減少と新生血管の退縮を認めた(図4).12mm×12mmの網膜全層のOCTA画像6枚から作成したパノラマOCTAでも両眼視神経乳頭新生血管,網膜新生血管の退縮が確認でき,一部ループ状血管の残存を認めるが新生血管の血管密度は低下していた(図5).II考按妊娠中の増殖糖尿病網膜症患者に対し,パノラマOCTAを用いて経過観察を行った1例を経験した.OCTAは非侵襲的に網膜血管状態を評価可能であり,FAの実施が困難な患者に実施可能である.近年はOCTAを用いることにより,図5再診時パノラマOCTA(12mm×12mm,6枚)右眼に無灌流領域(?)を認めるが,新生血管の退縮,活動性の低下(?)を認める.乳頭部の拡大(a)と同部のBスキャン画像(b)でも乳頭部新生血管の消失を認める.糖尿病網膜症の悪化が早期に発見できる可能性も報告されている4,5).従来のOCTAは画角が6mm程度と狭いというデメリットがあったが,最近開発された複数枚のOCTA画像からパノラマ画像を作成する手法では,解像度を落とすことなく周辺網膜まで観察できるというメリットがある6).星山らは,妊娠9週の1型糖尿病合併妊婦に対し,パノラマOCTAを用いて無灌流領域を評価し汎網膜光凝固を実施し,その有用性を報告している7).本症例においても,治療前後のパノラマOCTA画像を撮影することで,治療効果の判定を非侵襲的に行うことができた.しかしながらOCTAを用いた糖尿病網膜症の評価は,従来のFAと異なる点もある.OCTAでは汎網膜光凝固の瘢痕が描出されないため,光凝固の有効性の評価は無灌流領域に対する光凝固の程度ではなく,新生血管や網膜内細小血管異常の退縮を用いて評価する必要がある.また,OCTAでは蛍光漏出を観察できないため,新生血管の形態や活動性の評価においても,enface画像だけでなくBスキャン画像を組み合わせて評価を行い,新生血管の三次元的な伸展を評価すべきである8).石羽澤らは,PDRにおけるFAとOCTAを比較し,網膜新生血管の密な微小血管増殖がFAでの蛍光漏出と相関し,新生血管の活動性を反映しており,活動性の低下した新生血管では微小血管は減少し成熟した血管構造が残ることを報告している9).このようにOCTAと従来のFAとの差を理解し評価を行う必要があるものの,パノラマOCTAはOCTA画像5?6枚で作成可能であり,非侵襲的に網膜周辺部の血管状態を評価することができる.パノラマOCTAは本症例を含め妊婦,授乳婦やアレルギーのためFAが施行できない症例における糖尿病網膜症の治療方針決定や治療前後の効果判定に有用であると考えられた.文献1)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Classi?cationofdiabeticretinopathyfrom?uores?ceinangiograms:ETDRSreportnumber11.Ophthalmol-ogy98:807-822,19912)XuK,TzankovaV,LiCetal:Intravenous?uoresceinangi?ography-associatedadversereactions.CanJOphthalmol51:321-325,20163)湯澤美都子,小椋祐一郎,髙橋寛二ほか;眼底血管造影実施基準委員会:眼底血管造影実施基準(改訂版).日眼会誌115:67-75,20114)TakaseN,NozakiM,KatoAetal:Enlargementoffovealavascularzoneindiabeticeyesevaluatedbyenfaceopti?calcoherencetomographyangiography.Retina35:2377-2383,20155)SuzukiK,NozakiM,TakaseNetal:Associationoffovealavascularzoneenlargementanddiabeticretinopathypro?gressionusingopticalcoherencetomographyangiography.JVitreoRetinDis2:343-350,20186)ZhangQ,LeeCS,ChaoJetal:Wide-?eldopticalcoher?encetomographybasedmicroangiographyforretinalimag?ing.SciRep6:22017,20167)星山健,平野隆雄,若林真澄ほか:パノラマOCTangi?ographyが治療方針決定に有用であった増殖糖尿病網膜症の2例.眼科59:67-74,20178)PanJ,ChenD,YangXetal:Characteristicsofneovascu?larizationinearlystagesofproliferativediabeticretinopa?thybyopticalcoherencetomographyangiography.AmJOphthalmol192:146-156,20189)IshibazawaA,NagaokaT,YokotaHetal:Characteristicsofretinalneovascularizationinproliferativediabeticreti?nopathyimagedbyopticalcoherencetomographyangiog?raphy.InvestOphthalmolVisSci57:6247-6255,2016◆**

増殖糖尿病網膜症患者への周術期管理としての医療福祉支援の介入

2019年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科36(11):1451.1455,2019c増殖糖尿病網膜症患者への周術期管理としての医療福祉支援の介入間瀬陽子*1杉本昌彦*1,3板橋大介*1一尾享史*1松原央*1近藤峰生*1濱岡和弥*2鈴木志保子*2内田恵一*2*1三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室*2三重大学医学部附属病院医療福祉支援センターCMedicalWelfareInterventionasPreoperativeCareforProliferativeDiabeticRetinopathyYokoMase1),MasahikoSugimoto1,3)C,DaisukeItabashi1),AtsushiIchio1),HisashiMatsubara1),MineoKondo1),KazuyaHamaoka2),ShihokoSuzuki2)andKeiichiUchida2)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)MedicalWelfareSupportCenter,MieUniversityHospitalC目的:増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)において,周術期治療の一環として術前早期から医療福祉支援の介入を行うことの重要性を検討する.症例:症例1)50歳,男性.両眼CPDR.唯一眼である左眼に対して硝子体手術を施行した.退院後の自宅療養を念頭に術前より支援介入し,身体障害認定と介護保険取得などの公的支援の申請を行った.症例2)56歳,男性.両眼CPDRに対して硝子体手術を施行した.術前より,退院後の自立生活への復帰が困難と予想されたため,公的支援の申請とともに施設入所に向けた支援の介入を行った.症例3)54歳,男性.両眼CPDR.唯一眼である右眼に対して硝子体手術を施行した.退院後早期の自立生活は困難と考え,術前より支援介入を行った.公的支援の申請とともに施設入所を検討し,本人の希望する就労支援も並行して行った.結論:PDRに対する周術期治療の一環として,医療福祉支援の介入を術前早期から積極的に行うことでスムーズに退院後の生活に移行可能となることが示された.CPurpose:Toinvestigatetheimportanceofmedicalwelfareinterventionaspreoperativecareforproliferativediabeticretinopathy(PDR)C.CaseReports:Case1involveda50-year-oldmalea.ictedwithbilateralPDR.Sincehewasblindinhisrighteye,weperformedvitreoussurgeryonhislefteye.Postsurgery,weappliedfornursing-careinsuranceandacquiredadisabilitycerti.cateforhishomecare.Case2involveda56-year-oldmalea.ictedwithbilateralPDR.Weperformedvitreoussurgeryonbotheyes.Sincewedeterminedthathewouldnotbeabletoleadanindependentlife,wearrangedforhimtomovetoanursinghome.Case3involveda54-year-oldmalea.ictedCwithCbilateralCPDR.CSinceCheCwasCblindCinChisCleftCeye,CweCperformedCvitreousCsurgeryConChisCrightCeye.CSincewedeterminedthathewouldnotbeabletoleadanindependentlife,wesuggestedthatheshouldbemovedtoanursinghomewhilewewereprovidingreinstatementsupport.Conclusion:ThemedicalwelfareinterventionaspreoperativecareforPDRcontributestoasmoothtransitiontolifeafterleavingthehospital.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(11):1451.1455,C2019〕Keywords:医療社会福祉士,医療福祉支援,早期介入,増殖糖尿病網膜症.medicalsocialworker,medicalwel-faresupport,earlyintervention,proliferativediabeticretinopathy.Cはじめに降下薬などによる治療の進歩,そして眼科受診への患者啓発糖尿病は永らくわが国における失明原因の上位であったが一般的になってきたことがこれに寄与する3).また,眼科が1),直近の報告では第C3位となり,遺伝性疾患である網膜的には,光干渉断層計に代表される画像診断と小切開硝子体色素変性よりも低い順位となった2).内科的には,新規血糖手術などの治療の革新が寄与している4,5).しかし,増殖糖〔別刷請求先〕杉本昌彦:〒514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:MasahikoSugimoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-175Edobashi,Tsu,Mie514-8507,JAPANC尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)に対する手術を受けた患者のなかでも,内科無治療例や治療コンプライアンス不良例,眼科受診がなかった例などでは術後視力改善が不良であったとする報告もあるように6),治療診断技術の進歩した現在でも,これら糖尿病放置例などに併発する重篤なCPDRの治療には難渋する.また,2014年の失明原因調査では,身体障害認定時の年齢層についても言及されている1).加齢黄斑変性による失明は高齢者層に多いが,糖尿病を原因とするものはより年齢の低い中壮年層に多いとされている.このことから,糖尿病網膜症により視力障害に至った患者は,より長期にわたり視機能低下と向き合っていかなければならないことが推察される.中途視覚障害者が日常生活に復帰するためには,身体障害者福祉支援法に基づく支援などのさまざまな社会的支援が必要である.しかし,眼科手術は低侵襲となり,医学的に必要な入院期間は短くなってきている.保険診療上も在院日数の短縮化が求められ,入院期間内に今後の支援計画を立案・実施することは困難である.このため,術前の外来通院時から術後の社会復帰に向けての調整を開始する機会が増えてきた.その計画を実施する過程は複雑であるため,眼科医のみでは対応困難であり,医療社会福祉士(medicalsocialwork-er:MSW)などの専任スタッフによる介入が必要である.今回筆者は,PDRによる視機能低下患者の社会生活への復帰に向けて,周術期管理の一環として早期からCMSWらと連携して医療福祉支援の介入を行い,退院後の日常生活へ移行できたC3症例を経験した.これらの症例から,眼科手術加療のみではなく,治療の一環としての支援介入を行っていくことの重要性について検討する.CI症例〔症例1〕患者:50歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:糖尿病,うつ病.現病歴:20年前に糖尿病を指摘されたが無治療のまま放置.右眼はC2.3年前に視機能を喪失.2017年C11月,唯一眼である左眼の視力低下を主訴に近医を受診した.両眼のPDRを認め,加療目的に当院紹介受診となった.内科的には未治療糖尿病を認め,HbA1cはC11.8%であった.初診時眼科検査所見:視力は右眼光覚なし,左眼C0.01(矯正不能),眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C13CmmHgであった.前眼部には両眼白内障(右眼核硬度CIV度,左眼CII度)を認めた.右眼底は白内障のため透見不能で,超音波CBモード上,網膜全.離を認めた.左眼底はCPDRを認めた(国際分類,図1a).眼科治療経過:右眼は,視機能喪失から長期経過後であり,すでに光覚弁消失しており,加療適応はなかった.当院糖尿病内分泌内科にて血糖コントロールの後,左眼に対して白内障手術と硝子体手術(シリコーンオイル留置)を施行した.術後経過良好で,オイル抜去も実施し網膜症は鎮静化した(図1b).術後C1年を経過し,左眼視力C0.08(矯正不能)に回復している.医療福祉支援介入:本症例は自宅から失踪後,路上生活者となっており,その課題は生活拠点がない点であった.外来初診当初から,視機能低下による当科ならびに内科での継続療養や経済面などの背景から,今後の独居生活が困難と判断した.以上の点を踏まえ,入院前より当院医療福祉支援センターに依頼し,家人とも連絡を取りCMSW,患者家族,医療スタッフ,市役所生活保護担当者など複数の職種を交えた面談を複数回実施した.具体的な内容としては,生活保護や障害年金などの受給による金銭面での負担軽減,介護保険制度の利用,身体障害認定の申請などである.これらを準備しながら在宅療養のサポートや長期療養施設への入所などの退院後の生活拠点を模索した.最終的には配食,送迎サービス,ヘルパーの利用などで家族の負担を最小限としたうえでの自宅療養となった.また,手術施行後も内科への定期通院は途絶えることなく継続できている.〔症例2〕56歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:糖尿病.現病歴:生活保護受給中で独居.以前,糖尿病を近医内科で指摘されていたが無治療のまま放置していた.2014年C2月,1カ月前から続く両眼の視力低下を主訴に近医眼科を受診した.両眼のCPDRを認め,手術加療目的に当院紹介となった.HbA1cはC7.4%,空腹時血糖値はC176Cmg/dlであり,糖尿病性腎症〔糖尿病性腎症病期分類(改訂)3期〕による腎機能低下(血中クレアチニンC1.35Cmg/dl,eGFR44.0Cml/Cmin/1.73Cm2)とそれに伴う貧血(ヘモグロビンC12.1Cg/dl)を認めた.初診時眼科検査所見:矯正視力は右眼C0.4,左眼C0.4,眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部には,両眼白内障(右眼核硬度CII度)を認めた.眼底は両眼でPDR,とくに右眼では硝子体出血も認めた(国際分類,図2a).眼科治療経過:眼底は透見可能であり,外来で両眼の汎網膜光凝固(pan-retinalphotocoagulation:PRP)を開始した.経過中に両眼の硝子体出血と増殖性変化が増悪し,矯正視力も右眼C0.1,左眼C0.1と低下したため,両眼に対して白内障手術と硝子体手術を施行した.術後,網膜症は沈静化したが黄斑部障害も遷延したため矯正視力は右眼C0.06,左眼C0.05にとどまった(図2b).また,経過中に腎機能の悪化のため透析導入となった.医療福祉支援介入:本症例での課題点としては,身寄りが図1症例1の左眼眼底写真a:術前所見.遷延した硝子体出血に伴う硝子体混濁と増殖膜(.)を認める.網膜光凝固は未実施である.Cb:術後所見.硝子体混濁と増殖膜は除去され,網膜症の沈静化を認める.図2症例2の右眼眼底写真a:術前所見.再発と寛解を繰り返す硝子体出血に伴う硝子体混濁を認める.Cb:上方網膜に網膜光凝固が実施されている.術後所見.硝子体出血は除去され,汎網膜光凝固が全周に実施されている.網膜症の沈静化を認めるが矯正視力は0.05にとどまる.なく独居であること,経済的問題から継続治療に問題があることであった.このため外来通院時より,医療福祉支援センターの介入を依頼した.また,当科入院中にC2度の自殺企図もあり,退院後に自宅での日常生活が困難であることが予想された.すでに生活保護を受給し,介護保険の認定と透析導入に伴う身体障害の認定も受けていた.当科入院後には,これら利用中の支援内容の見直しをまず行い,生活拠点の立ち上げを中心に支援を継続した.医療スタッフや市役所の生活保護担当者と連携し,施設への入所支援や,透析施設への送迎について計画した.この結果,患者は入所費用が保護費内に収まる住宅型有料老人ホームへの入所となり,同時に介護保険を利用することで透析施設への通院介助サービスが利用可能となった.〔症例3〕54歳,男性.主訴:両眼視力障害.患者背景:生活保護受給中で独居.20年前に健診で糖尿病を指摘されたが放置していた.2年前から内科加療開始となり,継続加療していたものの通院期間が空くなどコンプライアンスが悪く,血糖コントロールは不良であった.既往歴:糖尿病,高血圧症,心不全,糖尿病性腎症,気管支喘息.現病歴:2016年C6月,両眼の視力低下を主訴に近医眼科を受診した.両眼のCPDRを指摘され,右眼にはCPRPを施行された.左眼には白内障手術と硝子体手術を他院で施行されたが,白内障手術終了時に急性心不全を生じたため手術中断し,内科転科加療となった.経過中に左眼は再度の硝子体出図3症例3の右眼眼底写真a:術前所見.硝子体出血と網膜大血管に沿って伸展した増殖膜(.)を認める.Cb:術後所見.血管の白線化と一部増殖膜の残存(.)を認めるが,網膜症は沈静化している.血と血管新生緑内障を発症し,眼圧上昇に伴う角膜混濁を生じた.右眼は経過中に硝子体出血を繰り返し,両眼の手術加療目的に当院紹介受診となった.当院初診時のCHbA1cは10.8%であった.初診時眼科検査所見:右眼矯正視力はC0.4,左眼は眼前手動弁であり,眼圧は右眼C18CmmHg,左眼C53CmmHgであった.前眼部所見は,右眼に白内障(核硬度CII度)を認め,左眼は眼内レンズ挿入眼であった.また,左眼角膜浮腫と虹彩新生血管を認めた.眼底所見は両眼にCPDRを認めた(国際分類,図3a).眼科治療経過:左眼は初回硝子体手術後に増悪したCPDRと血管新生緑内障と診断し,2017年C2月に硝子体手術を施行した.術後は降圧点眼C3種(ビマトプロスト,ドルゾラミド塩酸塩,リパスジル塩酸塩水和物)によりC20CmmHgに降圧したが,その後光覚は消失した.優位眼である右眼は経過中のC2017年C3月に硝子体再出血を生じ,視力は眼前手動弁に低下した.このため,当科入院となり,右眼に対し白内障+硝子体手術を施行した.術後,矯正視力は右眼C1.2に改善した(図3b).医療福祉支援介入:本例の課題点としては身寄りがないことに加え,当院紹介以前から優位眼である右眼は硝子体出血を繰り返し,両眼の視機能低下による行動制限を認めた点である.このため,今後の自立した生活が困難となる可能性が高く,外来の時点で医療支援介入が必要と判断した.MSWとともに現在の状態で追加利用可能な制度について検討し,生活保護の申請を行った.しかし,右眼の視機能改善に伴い,身体障害認定はきびしく,介護保険申請もむずかしいと判断した.この優位眼の再出血は術後も繰り返し,しばしば生活に支障をきたした.経過中に,救護施設などへの入居も検討したC1454あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019が,本人の希望もあり,配食サービスを利用する形で自宅療養を継続することになった.また,復職希望が強く,上記に並行して就労支援も継続している.また,手術施行後も内科への定期通院は途絶えることなく継続できている.CII考按外来通院時から,PDRの入院手術加療を念頭に治療の一環として医療福祉支援の介入を行い,スムーズに退院後の生活に移行できたC3症例を経験した.PDRに対する手術成績は向上してきているが,糖尿病患者は複雑な背景事情をもつ場合が多く,必ずしも眼科治療を行ったのみでは日常生活に復帰できないことがある.3症例で共通した問題点は,就労困難による金銭面の負担軽減と,退院後の受け入れ先の調整を要した点であった.これらに対し,①生活保護受給,②介護保険の利用,③身体障害認定,④生活拠点の候補策定,に分けて計画した.まず①や②により金銭負担を軽減し,その後に退院後の生活拠点決定に向けて調整する,という方針で対応した.金銭負担の軽減という見地では,生活保護を申請することが重要である.厚生労働省が行った生活保護受給者に関する調査では,受給者には糖尿病や肝炎など重症化すると完治がむずかしくなる疾患の割合が高いとされ(厚生労働省:生活保護受給者の健康管理支援等について.https://www.mhlw.Cgo.jp/.le/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-SoumukaC/0000052441_1.pdf),糖尿病と貧困が密接に関連していることが推察される.今回のC3症例はいずれもC50歳代であり生産年齢層だが,全例で生活保護の受給を要した.糖尿病の重症化に伴い視機能低下に至り,就労困難となったことが受給の理由であり,前述の統計結果を如実に裏付けている.今回のC3症例ではいずれも介護保険制度の利用を計画し(112)た.介護保険制度は高齢者対象という印象があるが,65歳未満の非高齢者であっても規定された特定疾病であれば申請可能である(厚生労働省:特定疾病の選択基準の考え方.https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/gaiyo3.html).眼科領域では糖尿病網膜症が適応疾患である.申請を行えば認定前であっても暫定でサービスを利用できるため,加療開始時から申請することで,今後の生活の骨格を早期から組み立てることが可能となる.今回のC3症例はC65歳未満であったが,特定疾病である背景事情を加味しながら申請した.非高齢者であるため,今後長期の介護支援が必要となることが予想され,とくに手術前の早期からその利用について検討するべきである.身体障害は視機能によっては認定されないこともあるが,一般に認定までC1.2カ月を要し,取得後の障害福祉サービスの利用にはさらに時間を要するため,外来通院中の早い時期から申請を検討する必要がある.円滑に利用していくためには術前の視機能をもとに申請を行わざるをえない場面もある.この場合,治療後に視機能改善が得られれば,再認定申請を行うことが必要である.症例C3では出血消退時の優位眼の視力が良好であったため取得しなかったが,再認定を前提とした一時的な取得を試みることも可能であったと考えられた.また,今回の症例C1やC2のように網膜症が沈静化し,眼底所見の改善が得られても視機能の改善が得られなかった症例もあった.これらに対しては,今後視機能を有効に活用していくためにロービジョンケアにつないで,拡大鏡などの補装具や拡大読書器をはじめとする日常生活用具の使用を勧めていく必要がある.これらは概して高額であるが,身体障害に該当すれば補装具意見書を提出することで費用負担が軽減される.患者の生活の質の向上につながり,この点においても身体障害の申請は有用である.以上の観点から,身体障害認定に該当するか否かを適切に判断し,可能な範囲で積極的に利用していく必要がある.退院後の療養先の選定は患者自身がどの程度自立しているか,また家族などの支援者からどの程度の協力を得られるかが重要である.これは患者の背景事情に依存するため,個別対応が必要となる.患者や家族の意向を確認しながら療養先を選定するが,自宅療養となった場合には介護者の身体的・金銭的負担が発生する.介護保険制度によるヘルパー,配食サービス,送迎,往診などの利用を組み合わせることで,負担の軽減を念頭に計画しなければならない.また,独居者や介護困難な環境である場合には,本人の意向や自立レベルにより,施設入所も検討する.入所施設としては慢性期施設と救護施設があげられる.慢性期施設としては,介護施設・身体障害者関連入所施設(訓練施設)・療養型病床などがあるが,入所期間が限定され,一定期間後に再度療養先を選定する必要がある点が問題である.救護施設とは,身体や精神の障害や何らかの課題を抱えており,日常生活を営むことが困難な人が利用する福祉施設であり,長期入所が可能であるが,現在の住居を完全に引き払う必要がある.就労などその後の自立した社会復帰を考える際には再度居住先を探す必要があり,これが退所を妨げてしまうことが問題である.また,インスリン自己管理ができないなど,継続した医療介助が必要となる症例もあり,療養先選定に影響を与える.今回の症例C2では,施設入所に抵抗感が強く,市役所の生活保護担当者とともに繰り返し面談を行い,救護施設への入所に至った.しかし,症例C3は生活保護を受給しているものの,再就労を含めた自立を希望していた.再就労に障壁となる施設入所は受け入れず,自宅療養となっている.このように患者背景事情に応じ,療養先を選定し,その決定には医療スタッフやCMSWのみならず,退院後も継続的に患者とかかわる地域担当者との連携が重要である.医療技術の発展に伴い,PDRの治療成績は向上してきたが,今回のC3症例では必ずしも良好な視機能改善を得たとはいえず,失明を防止し,進行を食い止めたにすぎない.幸い,いずれも今回の介入をきっかけに生活基盤も整い,その後の眼科・内科治療を継続できている.このように本疾患は治療のみならず社会的な背景を踏まえた対応が必要であり,手術をすることで治療が終了するわけではない.治療後のより早期の社会復帰をめざして向き合うことが重要である.これには時間をかけた対応が必要であるため,長期的な視点で術前の外来通院の時点から今後の療養を想定し,専門領域の治療のみならず医療福祉支援の介入を治療の一環として積極的に行う必要がある.文献1)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌118:495-501,C20142)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandcausesofvisualimpairmentinJapan:the.rstnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyimpairedindividuals.JpnJOphthalmol63:26-33,C20193)中野早紀子,山本禎子,山下英俊ほか:増殖糖尿病網膜症手術後の良好な視力予後に関連する因子の検討.臨眼C61:C1747-1753,C20074)山下英俊,阿部さち,後藤早紀子ほか:糖尿病網膜症の予防と新しい治療.学術の動向15:26-32,C20105)花井徹,小柴裕介,渋木宏人ほか:50歳未満の増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績.臨眼C55:1195-1198,C2001.6)Itoh-TanimuraCM,CHirakataCA,CItohCYCetal:RelationshipCbetweencompliancewithophthalmicexaminationspreop-erativelyandvisualoutcomeaftervitrectomyforprolifer-ativediabeticretinopathy.JpnJOphthalmol56:481-487,C2012.C

血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの手術成績

2018年1月31日 水曜日

《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科35(1):140.143,2018c血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの手術成績野崎祐加富安胤太野崎実穂森田裕吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学CClinicalExperiencewithBaerveldtGlaucomaImplantinNeovascularGlaucomaYukaNozaki,TanetoTomiyasu,MihoNozaki,HiroshiMorita,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences目的:増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対して施行した,バルベルト緑内障インプラント(BGI)手術の術後成績を後ろ向きに検討した.対象および方法:BGI手術(前房タイプC2眼,硝子体タイプC10眼)を施行した10例C12眼を対象とした.術前後の眼圧,点眼スコア,合併症について検討した.結果:平均年齢C52.2歳,術後経過観察期間はC26.7±13.2カ月で,平均眼圧は術前C31.3±102.mmHgから術後C6カ月C13.9±4.6CmmHgと有意に低下し(p<0.05),平均点眼スコアは術前C4.2±0.8から術後C1.8±1.9と有意に減少した(p<0.05).術後C1カ月以内の早期合併症は,一過性高眼圧(7眼),硝子体出血(3眼),脈絡膜.離(2眼)であった.後期合併症はC3眼で硝子体出血,プレート周囲の線維性増殖組織による高眼圧を認めた.結論:血管新生緑内障に対するCBGI手術は,短期的には良好な眼圧下降効果を認めた.CPurpose:ToCevaluateCtheCe.cacyCofCtheCBaerveldtCglaucomaCimplant(BGI)inCneovascularCglaucoma(NVG)CassociatedCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CPatientsandMethod:TenCpatients(12Ceyes)whoCunderwentBGIwereevaluated.Outcomeassessmentswereintraocularpressure(IOP),numberofglaucomamedicationsandcomplications.Results:Meanagewas52.2yearsandaveragefollow-upperiodwas26.7months.MeanIOPwassigni.cantlydecreased,from31.3±10.2CmmHgto13.9±4.6CmmHg(p<0.05).Thenumberofglaucomamedicationswasalsosigni.cantlydecreased,from4.2±0.8CtoC1.8±1.9(p<0.05).ComplicationsincludedhighIOP(7eyes),vit-reoushemorrhage(3eyes),choroidaldetachment(2eyes)within1monthofsurgery.Latecomplicationswerevit-reousChemorrhage(3Ceyes)andChighCIOP(3Ceyes).CTheCsuccessCrateCwasC90.1%CatCmonthC6.CConclusion:BGIise.ectiveincontrollingIOPelevationassociatedwithNVG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(1):140.143,C2018〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,血管新生緑内障,増殖糖尿病網膜症,術後合併症,点眼スコア.CBaerveldtglaucomaimplant,neovascularglaucoma,proliferativediabeticretinopathy,postoperativecomplications,Cnumberofglaucomamedications.Cはじめに血管新生緑内障に対する治療は,開放隅角期では,網膜虚血を改善させるために,汎網膜光凝固や血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬などが用いられるが,虚血を改善しても眼圧が下降しない場合や,閉塞隅角期には,線維柱帯切除術が多く施行されてきた.しかし,血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の手術成績は,術後の出血や炎症による瘢痕形成のため,他の緑内障に対する成績よりも不良である1,2).VEGF阻害薬を併用することにより血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の成績は良好になるという報告3)もあるが,長期手術成績はCVEGF阻害薬併用有無で変わらないともいわれている4).また,血管新生緑内障の約三分の一は,糖尿病網膜症が原因と報告されているが5),糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障の特徴としては,比較的年齢が若いこと,硝子体手術を含む複数回の手術既往がある場合が多い点があげられる.〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,Nagoya467-8601,JAPAN140(140)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(140)C1400910-1810/18/\100/頁/JCOPY若年者,硝子体手術既往は,線維柱帯切除術の予後不良因子としても知られていることから2,6),糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対して,線維柱帯切除術以外の術式が望まれている.一方,バルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglauco-maimplant:BGI)は,複数回の緑内障手術が無効であった症例や結膜瘢痕症例など,難治性緑内障に対して,眼圧下降効果が期待されており7),血管新生緑内障に対する有効性も国内からいくつか報告されている8.10).2012年C4月から,わが国でCBGI手術が保険収載され,名古屋市立大学病院でもC2012年から血管新生緑内障に対するCBGI手術を施行している.今回,術後C6カ月以上経過を追えた,増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対するCBGIの手術成績について,後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2012年C12月.2016年C3月に,名古屋市立大学病院で増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し,BGI手術を施行し,術後C6カ月以上経過観察できたC10例C12眼(男性C7眼,女性C5眼,平均年齢C52.2C±12.2歳)であった(表1).術前,術後の眼圧,術前・術後の点眼スコア(緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠内服をC2点とした),早期(術後C1カ月以内)・後期(術後C1カ月以降)の術後合併症について検討した.今回使用したCBGIデバイスは,硝子体手術既往眼ではプレート面積がC350CmmC2でチューブにCHo.manCelbowをもつBG102-350を使用し,硝子体手術未施行眼ではプレート面積がC250CmmC2の前房タイプのCBG103-250を挿入した(現在は当院で用いていない).術式は,強膜半層弁を作製し,チューブをC7-0あるいはC8-0バイクリル糸で完全閉塞するまで結紮し,術前に炭酸脱水酵素阻害剤内服下でも眼圧が20CmmHg以上の症例では,9-0ナイロン糸でCSherwoodスリットを作製した.強膜弁はC9-0ナイロン糸で縫合し,結膜はC8-0バイクリル糸で縫合した.チューブ内へのステント留置は行わなかった.生存(手術成功)の定義は,①視力が光覚弁以上,②眼圧はC22CmmHg未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものとした.生存率をCKaplan-Meier法で解析した.数値は平均値C±標準偏差で記載し,統計学的検定にはCWilcoxon検定を用いCp<0.05を有意差ありとした.CII結果10例C12眼のうち,使用したCBGIデバイスは,前房タイプがC2眼,経毛様体扁平部タイプがC10眼であった.治療の既往として,汎網膜光凝固,白内障手術は全例C12眼で施行されており,硝子体手術はC10眼,線維柱帯切除術はC4眼で既往がありC4眼中C2眼は複数回線維柱帯切除術が施行されていたが,硝子体手術は未施行だった(表1).BGI手術までに,汎網膜光凝固術を除いて平均C2.6回の手術既往があった.術前にCVEGF阻害薬の硝子体注射を行ったのはC12眼中C1眼のみであった.術後経過観察期間は平均C26.7C±13.2(6.54)カ月であった.全症例における術前平均眼圧はC31.3C±10.2CmmHg,術翌日にはC13.0C±10.3CmmHgまで低下を認めた.1週間後にはC10.4±3.3CmmHg,1カ月後にはC15.9C±7.6CmmHg,3カ月後にはC14.3C±3.7CmmHg,6カ月後にはC13.9C±4.6CmmHgと有意な低下を認めた(p<0.05)(図1).また,平均点眼スコアは術前のC4.2C±0.8から,術後C6カ月の時点でC1.8C±1.9と有意な減少を認めた(p<0.05)(図2).LogMAR視力は,術前C1.5C±0.7,術後C6カ月の時点でC1.4C±0.7と有意差は認めなかった(p=0.82).角膜内皮細胞密度は,全例では経過を追えなかったが,術前C2579.5C±315.0/Cmm2,術後C6カ月でC2,386.2C±713.4/mm2(n=6)と有意な減少はみられなかった.術後C1カ月以内の早期合併症は,硝子体出血をC3眼に認め,2眼に硝子体手術を施行した.さらに低眼圧による脈絡膜.離をC2眼に認め,そのうちC1眼にチューブ結紮を追加施行した.チューブ先端に硝子体が嵌頓していたC1眼を含むC7眼で一過性高眼圧を認め,1眼にCSherwoodスリット追加,1眼に硝子体手術を施行しチューブ先端の硝子体嵌頓を解除した.術後C1カ月以降の後期合併症は,3眼に硝子体出血を認め,硝子体手術を施行した.また,プレート周囲の線維性増殖組織(被膜)形成による高眼圧をC3眼で認め,線維性被膜を切開除去し,マイトマイシンCCを使用しプレート周囲の癒着を解除した.生存率は術後C6カ月後でC90.1%,1年後でC68.2%,3年生存率はC68.2%であった(図3).緑内障の追加手術を必要とした症例は,前房型CBGIを挿入したC38歳のC1例C2眼と,硝子体型CBGIを挿入したC52歳のC1眼のC3眼に認めた.前房型CBGIを挿入した症例では,右眼は術後C1カ月後には眼圧がC33CmmHgまで上昇したため,点眼薬C3剤,炭酸脱水酵素阻害薬内服を開始したが,その後も眼圧がC22CmmHgを超えており,この症例がC6カ月時点での死亡例となった.2年後にマイトマイシンCCを併用したプレート上の線維性増殖組織を除去したが,その後も再度眼圧上昇を認めたため,2年C7カ月後に硝子体手術を行いCBGI経毛様体扁平部タイプを再挿入した.左眼は術後C10カ月に眼圧が再上昇したため,右眼と同様にマイトマイシンCCを併用しプレート周囲の線維性増殖組織除去を施行し,以後は点眼のみで眼圧は安定していた.もうC1眼はC52歳の症例であり,術後眼圧コントロ(141)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C141表1対象の内訳症例性別年齢周辺虹彩前癒着HbA1c(%)白内障手術硝子体手術線維柱帯切除術C1男C65なしC8.6〇〇(1)C2女C7580%C6.3〇〇(1)C3女C38100%C6.2〇〇(3)C4女C38100%C6.5〇〇(2)C5男C4325%C5.7〇〇(2)〇(1)C6女C5850%C7.1〇〇(1)C7女C58なしC7.1〇〇(2)〇(1)C8男C52なしC6.6〇〇(2)C9男C50なし不明〇〇(1)C10男C3910%C9.6〇〇(1)C11男C6725%C11.1〇〇(1)C12女C56なしC6.4〇〇(1)全例で白内障手術が施行されており,2眼を除いてC10眼で硝子体手術の既往があった.45405353041500術前術翌日1週間後1カ月後3カ月後6カ月後術前術後図1術前・術後での平均眼圧の推移図2術前・術後での平均点眼スコアの推移平均眼圧は術前と比較して術翌日,1週間後,1カ月後,3カ月術前のC4.25本から術後C6カ月の時点でC1.8本と後,6カ月後の時点で有意に下降していた(p<0.05).C有意な減少を認めた(p<0.05).C平均眼圧(mmHg)25点眼スコア320*15210ールは良好だったが,10カ月後に眼圧が再上昇したため,マイトマイシンCCを併用したプレート上線維性増殖組織除去を行ったものの,その後も高眼圧が続くため,レーザー毛様体破壊術を施行した.CIII考按今回筆者らは増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対してCBGI手術を施行し,6カ月以上経過観察できたC1220406080100120140160180眼について,後ろ向きに検討し,生存率はC6カ月でC90.1%,1年でC68.2%,2年でもC68.2%であった.BGI手術成績を,非血管新生緑内障と血管新生緑内障に分けて検討した海外の報告では,BGI手術成功率(1年)は非血管新生緑内障ではC79%であったが,血管新生緑内障では40%で有意に低く,自然消退しない硝子体出血がもっとも多い(17%)合併症であった12).2012年にわが国でもCBGI手術が承認されてから,国内からも血管新生緑内障を含む難治緑内障に対するCBGI手術成績がいくつか報告されている8.11).生存率の定義が多少異なるものもあり,今回の筆者らの検討のように増殖糖尿病網膜週数図3Kaplan.Meier生存曲線生存の基準を①視力が光覚弁以上,②眼圧はC22CmmHg未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わないの3条件を満たすものとした.生存率は術後C6カ月後(n=12)で90%,1年後(n=11)でC68.2%,2年生存率(n=11)はC68%であった.C症に続発する血管新生緑内障に限定はされていないが,成功率はC76.2.90.1%(1年),90.1.93.3%(2年)と非常に良好な成績が報告されている8.11).(142)今回の筆者らの検討では,硝子体出血を術後早期にも晩期にもC12眼中C3眼(25%)に認めている.東條らの報告では,35眼中C27眼(77.1%)に術前にCVEGF阻害薬の硝子体内注射を行っており,術後の硝子体出血はC35眼中C2眼(6%)に認めたのみであった.晩期の硝子体出血の原因は,汎網膜光凝固が不十分でCVEGF産生が抑えられていなかったことも原因と思われるが,筆者らの検討した症例のうち,術前にVEGF阻害薬の硝子体内注射を行ったのはC1眼のみであったことから,今後CBGI手術前にCVEGF阻害薬の硝子体内注射を併用すれば,術後早期の硝子体出血は減らせる可能性も考えられる.また,緑内障手術の追加が必要となったC3眼は,プレート周囲に線維性被膜が形成され眼圧が再上昇しており,3眼中C2眼は前房タイプのCBGI手術を施行していた.当院ではプレート面積がC250CmmC2の前房タイプのCBG103-250を当初使用していたが,今回検討したC2眼を含め術後の眼圧コントロール不良例が多い印象があり,現在はプレート面積C350CmmC2のCBG101-350を使用している.線維柱帯切除術やチューブシャント手術は,Tenon.下に房水を導く濾過手術であり,房水はCTenon.下では被膜に覆われるが,過剰に被膜形成が進むと眼圧上昇が起こる.国内の他の施設からは,プレート周囲の線維性被膜形成の報告はみられていないが,Rosentreterらは,プレート周囲の被膜による眼圧再上昇症例に対して,プレート周囲の被膜切開を施行した群と,緑内障インプラントの追加手術を行った群を比較し,被膜切開群では,有意に術後の眼圧が高く,さらに追加の手術が必要な症例がみられたと報告し,被膜切開では長期に眼圧下降させられないとしている13).今回の筆者らの検討した症例でも,3眼中C2眼はマイトマイシンCCを併用してプレート周囲の線維性被膜切開をしても眼圧の再上昇があり,1眼では硝子体手術および経毛様体扁平部タイプのCBGIを追加,もうC1眼は視力が術前(0.02)から光覚弁となったため毛様体破壊術を追加した.プレート周囲の被膜を免疫組織学的に検討した報告では,眼圧上昇を伴う被膜のほうが,より多くのフィブロネクチン,テネイシンやラミニン,IV型コラーゲンを認め,活動性の高い創傷治癒機転が働いていることが示唆されている14)ことから,BGI後いったん被膜が形成され眼圧上昇した際には,マイトマイシンCCを併用した被膜切開でも無効になる可能性が高く,初めからCBGIの追加含め,他の手術の追加を考慮するべきかもしれない.しかし,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障では,輪状締結術がすでに施行されている症例や,複数の象限で線維柱帯切除術が施行されている症例もあり,追加の手術の選択にも難渋することが少なくない.今後,できるだけ過剰な被膜形成を惹起しないCBGI手術の術式や薬物併用などの確立が,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対するCBGI手術の治療成績を上げるうえで重要になると思われた.(143)利益相反:小椋祐一郎(カテゴリーCF:ノバルティスファーマ株式会社),吉田宗徳(カテゴリーCF:ノバルティスファーマ株式会社)文献1)KiuchiCY,CSugimotoCR,CNakaeCKCetCal:TrabeculectomyCwithmitomycinCfortreatmentofneovascularglaucomaindiabeticpatients.OphthalmologicaC220:383-388,C20062)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularCglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20093)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Bene.ciale.ectsofpreoperativeCintravitrealCbevacizumabConCtrabeculectomyCoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmolC88:C96-102,C20104)TakiharaCY,CInataniCM,CKawajiCTCetCal:CombinedCintra-vitrealCbevacizumabCandCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCversustrabeculectomywithmitomycinCaloneforneo-vascularglaucoma.JGlaucomaC20:196-201,C20115)BrownCGC,CMagargalCLE,CSchachatCACetCal:NeovascularCglaucoma.CEtiologicCconsiderations.COphthalmologyC91:C315-320,C19846)InoueT,InataniM,TakiharaYetal:Prognosticriskfac-torsforfailureoftrabeculectomywithmitomycinCaftervitrectomy.JpnJOphthalmolC56:464-469,C20127)植田俊彦,平松類,禅野誠ほか:経毛様体扁平部CBaer-verdt緑内障インプラントの長期成績.日眼会誌115:581-588,C20118)小林聡,竹前久美,杉山祥子:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの治療成績.臨眼C79:C1251-1257,C20169)宮城清弦,藤川亜月茶,北岡隆:経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラントの手術成績と合併症.あたらしい眼科33:1183-1186,C201610)東條直貴,中村友子,コンソルボ上田朋子ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント手術の治療成績.日眼会誌121:138-145,C201711)石塚匡彦,忍田栄紀,町田繁樹:無硝子体眼におけるバルベルト緑内障インプラントを用いたチューブシャント手術の短期成績.臨眼71:605-609,C201712)CampagnoliCTR,CKimCSS,CSmiddyCWECetCal:CombinedCparsCplanaCvitrectomyCandCBaerveldtCglaucomaCimplantCplacementCforCrefractoryCglaucoma.CIntCJCOphthalmolC8:C916-921,C201513)RosentreterCA,CMelleinCAC,CKonenCWWCetCal:CapsuleCexcisionandOlogenimplantationforrevisionafterglauco-madrainagedevicesurgery.GraefesArchClinExpOph-thalmolC248:1319-1324,C201014)ValimakiCJ,CUusitaloCH:ImmunohistochemicalCanalysisCofCextracellularmatrixblebcapsulesoffunctioningandnon-functioningglaucomadrainageimplants.ActaOphthalmolC92:524-528,C2014あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C143

増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラントの初期成績

2016年2月29日 月曜日

《第20回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科33(2):291.294,2016c増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラントの初期成績上原志保田中克明太田有夕美豊田文彦榛村真智子木下望高野博子梯彰弘自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Short-TermClinicalOutcomesofBaerveldtGlaucomaImplantviaParsPlanaforNeovascularGlaucomainProliferativeDiabeticRetinopathyShihoUehara,YoshiakiTanaka,AyumiOta,FumihikoToyota,MachikoShimmura,NozomiKinoshita,HirokoTakanoandAkihiroKakehashiDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,SaitamaMedicalCenter目的:増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラント(ParsPlanaBGI)によるチューブシャント手術の初期の眼圧下降効果の検討.対象および方法:眼圧コントロール不良な増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対し2014年8月.2015年2月にParsPlanaBGIによるチューブシャント手術が行われた4例4眼.結果:術後観察期間は平均100日.全症例において緑内障点眼薬および炭酸脱水酵素阻害薬内服併用なく眼圧コントロール良好となった.1症例において入院中に脳梗塞が疑われ施行した頭部単純CT検査にて,ParsPlanaBGIが適切な位置に留置されているのが確認できた.結論:術後初期段階において良好な眼圧が得られており,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対し本術式は有効であると考えられた.Purpose:Toevaluateshort-termfollow-upresultswiththeBaerveldtglaucomaimplant(BGI)withadrainagetubefromtheparsplanainpatientswithneovascularglaucomafromproliferativediabeticretinopathy.Meth-ods:Thestudyincluded4eyesof4patientswithneovascularglaucomafromproliferativediabeticretinopathy.AllunderwentBGIimplantationviatheparsplanabetweenAugust2014andFebruary2015.Results:Thepatientswerefollowedfor100days.Intraocularpressure(IOP)waswellcontrolledwithoutdrugsinallcases.Onepatientunderwentheadcomputedtomography(CT)becauseofsuspectedcerebrovasculardisease.TheCTscanshowedthattheBGIwaswellpositioned.Conclusions:BGIviatheparsplanaisausefulmethodofobtainingashort-termIOP-loweringeffectinpatientswithneovascularglaucomafromproliferativediabeticretinopathy.BGIpositioncanbecheckedeasilybyheadCT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):291.294,2016〕Keywords:毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラント,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障,頭部単純CT検査.Baerveldtglaucomaimplantviatheparsplana,proliferativediabeticretinopathy,neovascularglaucoma,simplecomputedtomography.はじめに血管新生緑内障は眼圧コントロール不良で最終的にはトラベクレクトミーを施行することになるが,その手術成績は決して満足できるものではない.筆者らは以前に血管新生緑内障に対し水晶体前.温存経毛様体扁平部水晶体切除,毛様体扁平部までの徹底的な硝子体切除と眼内レーザー,シリコーンオイル充.の術式にて良好な眼圧下降が得られることを報告した1).しかしながらこの術式においても周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が進行した症例では最終的にトラベクレクトミーを要する.バルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI)は房水もしくは硝子体液を眼球赤道付近の結膜下にシャントさせるデ〔別刷請求先〕上原志保:〒330-8503埼玉県さいたま市大宮区天沼町I-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:ShihoUehara,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,SaitamaMedicalCenter,1-847Amanumachou,Omiya-ku,Saitama-shi,Saitama330-8503,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(131)291 バイスで1990年から米国で用いられ,有効性と安全性が検証されてきた2).日本では,2012年から保険適用になり,当科は2014年から眼圧コントロール不良な難治症例を対象に施行している.BGIはシリコーン製のチューブとそれに接続するシリコーン製のプレートで構成されている.房水もしくは硝子体液をチューブに通してプレートに流出させ,プレート周囲に形成される結合織の被膜を通して周囲組織に房水を吸収させることで,眼圧を下げる仕組みである.また,バリウムが染み込ませてあるため,X線検査にて移植位置が確認できる3).今回筆者らは,この毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラント(ParsPlanaBGI)を眼圧コントロール不良な増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し使用し,良好な結果を得たので報告する.I症例1.手術方法今回のParsPlanaBGIの基本術式は,硝子体手術後に角膜輪部基底において6.5×6.5mmの強膜フラップを作製し,角膜輪部より3.5mmの毛様扁平部の位置からHoffmannelbowをつなげたチューブを硝子体腔内に挿入した.Hoffmannelbowは9/0ナイロンで強膜床に縫着しプレートの両翼を外直筋および上直筋下に位置させた後,強膜に5/0非吸収糸で縫着した.チューブは8/0吸収糸で結紮し,結紮部より輪部側のチューブへ8/0吸収糸の針でスリット状の穴開けをした(Sherwoodslit).強膜フラップは9/0ナイロンで閉鎖し,結膜縫合はリークのないように輪部に10/0ナイロンでブロッキングスーチャーを置いた.2.各症例の経過症例は,2014年8月.2015年2月に増殖糖尿病網膜症患者で血管新生緑内障と診断され,BGI手術を受けた4症例4眼である.平均年齢58歳,全症例男性,術前の平均眼圧は44.3mmHg,平均入院期間20日であった.症例1は,49歳,男性,術眼右眼,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障があり,術前視力はVD=s.l.(+),VS=s.l.(.)(幼少時外傷眼),術前眼圧は56mmHg.既往は,汎網膜光凝固,硝子体切除術2回(毛様体光凝固1回),トラベクレクトミー2回を施行している.BGI術後のブレブ形成はなく,デバイスの露出も認められなかった.眼圧は術後133日で15mmHgと下降し,虹彩ルベオーシスも消退した.症例2は,69歳,男性,術眼左眼,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障があり,術前視力はVD=0.2(n.c.),VS=0.01(0.05),術前眼圧は31mmHg.既往は,汎網膜光凝固,白内障手術,硝子体切除術(シリコーンオイル注入)を施行している.BGI術後のブレブ形成はなくデバイスの露出も認められなかった.眼圧は術後125日で12mmHgと下降し虹彩ルベオーシスも消退した.症例3は,69歳,男性,術眼左眼,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障があり,周辺虹彩前癒着もすでに認められて0102030405060術前週間後2週間後1カ月後2カ月後3カ月後4カ月後:症例1:症例2:症例3:症例4眼圧(mmHg)図1症例3の頭部CT図24症例の眼圧経過表1術後経過症例観察期間(日数)転機術前視力術前眼圧最終視力最終眼圧点眼種類数ダイアモックス内服123413312511726良好良好良好良好s.l.0.05m.m.0.556314646m.m.0.080.040.615129120000なしなしなしなし292あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(132) いた.術前視力はVD=0.5(1.0),VS=m.m.,術前眼圧は46mmHg.既往は,白内障手術,網膜光凝固術,抗VEGF薬硝子体注射3回を施行している.この症例のみ硝子体切除術が施行されていなかったので,硝子体切除術とBGI手術の同時手術を施行した.術後のブレブ形成はなくデバイスの露出も認められなかった.眼圧は術後117日で9mmHgと下降し,前房出血,虹彩ルベオーシスも消退した.また,入院中に脳梗塞が疑われ施行した頭部CT検査にて,ParsPlanaBGIが適切な位置に留置されているのが確認できた(図1).症例4は,45歳,男性,術眼左眼,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障があり,周辺虹彩前癒着もすでに認められていた.術前視力はVD=0.6(1.2),VS=0.2(0.5),術前眼圧は46mmHg.既往は,抗VEGF薬硝子体注射1回,硝子体切除術2回(シリコーンオイル注入・抜去)を施行している.BGI手術後も高眼圧が続き,Sherwoodslitが有効に機能していない可能性があったため,術後7日目にチューブ部分の結紮糸を切除した.その後の眼圧は術後26日で12mmHgと下降し虹彩ルベオーシスも消退した.今回のBGI手術症例において術後4カ月では,眼圧下降作用のある点眼および炭酸脱水酵素阻害薬内服の併用なく4症例すべて眼圧コントロール良好であり,虹彩新生血管も消退した(図2,表1).II考按今まで増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対するBGI手術の報告は少ない.Chalamらは毛様体光凝固術とBGI手術の手術成績について,毛様体光凝固術30症例とBGI手術18症例を比較し報告している4).この報告では,手術後6カ月間において6mmHg以上21mmHg以下の眼圧にコントロールされたのは,BGI手術18症例中17症例(94.4%)であった.これまで,白人を対象としたParsPlanaBGIの手術の成績では1年成功率が84.6%とされており2,5),それと比較し遜色のない初期成績であった.当科では,このParsPlanaBGIを採用する以前は糖尿病患者に続発する眼圧コントロール不良なPASを伴う血管新生緑内障に対してはmitomycinC併用線維柱帯切除術を標準術式としてきた.したがって今回のParsPlanaBGIを使用したシャント手術の効果を評価するため,2008年11月.2013年11月の過去5年間に,糖尿病患者でPASを伴う血管新生緑内障に対して施行したmitomycinC併用線維柱帯切除術の14症例(平均年齢59.3歳,男性10人,女性4人)を対照症例として比較した.14例のうち,観察期間は120日にて再手術なく経過したのは11症例であった(生存率78.5%).11症例すべてにてプロスタグランジン関連薬,交感神経b遮断薬,交感神経刺激薬,交感神経a1遮断薬,副(133)交感神経刺激薬,炭酸脱水酵素阻害薬などのなかから2.4種類を組み合わせて併用していた.再手術なく経過した11症例であってもすべて降圧薬使用され(100%),BGI手術症例の降圧薬使用率(0%)と比較すると統計学的な有意差(Fisherの直接確立計算法)(p<0.001)が認められた.また,BGI手術の合併症として以下のようなものが報告されている.チューブの術後閉塞,チューブ・プレートの露出,チューブの偏位・後退,房水漏出,術後感染,眼内炎,術後低眼圧,術後高眼圧,角膜障害,浅前房,悪性緑内障,前房出血,前房蓄膿,慢性虹彩炎,フィブリン反応,虹彩癒着・萎縮,瞳孔偏位,白内障,脈絡膜.離,減圧網膜症,.胞状黄斑浮腫,硝子体出血,低眼圧黄斑症,網膜.離,複視,斜視,眼球運動障害,眼瞼下垂,違和感,眼球癆などである6).GeddeらによってBGI手術とmitomycinC併用線維柱帯切除術の合併症発生率の比較が報告7)されている.これによると術中合併症の発生率に有意差はなかったが,術後1カ月以内の早期合併症ではBGI手術(21%)と比較しmitomycinC併用線維柱帯切除術(37%)が有意に高かった(p=0.012).しかしながら,術後1カ月目以降の合併症は,BGI手術(34%)とmitomycinC併用線維柱帯切除術(36%)で有意差を認めなかった.縫合部や濾過胞からの漏出,濾過胞に起因する違和感はmitomycinC併用線維柱帯切除術で多く,BGI手術では遷延性角膜浮腫や,チューブ特有の合併症(露出,閉塞)が認められた.視力低下や再手術を要する重篤な合併症の発生率は,BGI手術(19%)とmitomycinC併用線維柱帯切除術(14%)では同程度であった2,6).当科では,術後1カ月以内の早期合併症はBGI手術では脈絡膜.離,前房出血,硝子体出血,角膜障害が4症例中3症例(75%)で認められたが,すべて消退した.術後1カ月目以降の合併症は4症例中0症例(0%)であった.MitomycinC併用線維柱帯切除術では,早期合併症(フィブリン反応,術後高眼圧,前房出血,硝子体出血,脈絡膜.離)は14症例中13症例(92.8%),術後1カ月目以降の合併症(虹彩癒着,濾過胞縮小,角膜障害)は14症例中3症例(21.4%)であった.このことからも,現時点では従来のトラベクレクトミー手術での眼圧コントロール不良な症例に対しこれらのチューブシャント手術が勧められているが,増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障に対しては合併症発生率の高いトラベクレクトミーより優先される術式となる可能性がある.今回筆者らは少数例での短期的な結果ではあるが,BGI手術の4症例すべてにおいて薬物治療の必要のないレベルまでの良好な眼圧コントロールを得ることができ,また合併症発生率も有意差を認めたので,BGIによるチューブシャント手術の優位性が期待されるが,今後の症例の蓄積が必要である.また,今回の症例で得られた教訓としてはSherwoodslitを作製しても術後のブレブ形成はない場合が多く,またあたらしい眼科Vol.33,No.2,2016293 Sherwoodslit自体が機能しなければ早期の眼圧下降効果も得られない症例があり,そのような症例に対してはチューブの結紮を解除することも手段として選択しなければいけないということである.個々の症例でSherwoodslitの作り方やチューブ結紮の加減を変えていくことが必要であるかもしれない.今回は角膜内皮に対するダメージを危惧して前房留置型のシャントチューブデバイスは使用しなかった.前房留置型のシャントチューブのデバイスでも角膜内皮へのダメージは少ないとの報告8)もあるが,増殖糖尿病網膜症の症例では手術する時点で角膜内皮細胞密度がすでに低下している症例が多くある.また,血管新生緑内障は網膜虚血が根本にあるため高眼圧でさらに虚血が進行し悪循環になっている.網膜虚血からくるVEGFの産生はある程度,汎網膜光凝固などの治療で抑えられるが,眼圧自体をコントロールできなければこの悪循環から逃れることはできない.このようなメカニズムおよび増殖糖尿病網膜症が硝子体手術の必要な網膜硝子体疾患であることから考えると,硝子体手術を行ったうえでのParsPlanaBGIによるチューブシャント手術は増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障に対する治療としてはもっとも妥当な治療と考えられる.筆者らは,増殖糖尿病網膜症に続発する新生血管緑内障の症例では,硝子体留置型のデバイスを勧めたい.また,デバイスの位置確認にはCT検査が有用であることも確かめられた.III結論増殖糖尿病網膜症に伴う4症例の血管新生緑内障に対し硝子体手術後にParsPlanaBGIによるチューブシャント手術を施行した.すべての症例で薬物治療の必要がなく,良好な眼圧コントロールが得られた.今回のBGI手術は過去の当センターでのmitomycinC併用線維柱帯切除術よりも成績が良かった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KinoshitaN,OtaA,ToyodaFetal:Surgicalresultsofparsplanavitrectomycombinedwithparsplanalensectomywithanteriorcapsulepreservation,endophotocoagulation,andsiliconoiltamponadeforneovascularglaucoma.ClinOphthalmol5:1777-1781,20112)植田俊彦,平松類,禅野誠ほか:経毛様体扁平部Baerveldt緑内障インプラントの長期成績.日眼会誌115:581588,20113)石田恭子:バルベルトR緑内障インプラント手術.あたらしい眼科30:355-356,20134)ChalamKV,GandhamS,GuptaSetal:ParsplanamodifiedBaerveldtimplanversusneodymium:YAGcyclophotocoagulationinthemanagementofneovascularglaucoma.OphthalmicSurgLasers33:383-393,20025)VarmaR,HeuerDK,LundyDCetal:ParsplanaBaerveldttubeinsertionwithvitrectomyinglaucomasassociatedwithpseudophakiaandaphakia.AmJOphthalmol119:401-407,19956)白土城照,鈴木康之,谷原秀信ほか:緑内障診療ガイドライン(第3版)補遺緑内障チューブシャント手術に関するガイドライン.日眼会誌116:388-393,20127)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal:TreatmentoutcomesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)Studyafterfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol153:789803,20128)ChiharaE,UmemotoM,TanitoM:PreservationofcornealendotheliumafterparsplanatubeinsertionoftheAhmedglaucomavalve.JpnJOphthalmol56:119-127,2012***294あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(134)