‘術後硝子体出血’ タグのついている投稿

増殖糖尿病網膜症の術後経過と血小板機能との 関連についての検討

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):496.500,2022c増殖糖尿病網膜症の術後経過と血小板機能との関連についての検討佐藤圭司重城達哉藤田直輝関根伶生向後二郎高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CExaminationoftheRelationshipBetweenthePostoperativeOutcomesofVitrectomyforProliferativeDiabeticRetinopathyandPlateletFunctionKeijiSato,TatsuyaJujo,NaokiFujita,ReioSekine,JiroKogoandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicineC目的:増殖糖尿病網膜症(PDR)の術後経過と血小板機能との関連を調べ,血小板機能がCPDRの術後予後予測につながるのかについて検討した.方法:対象はC2018年C1月.2020年C5月にCPDRに対して硝子体手術を施行したC59例C68眼.術後硝子体出血(VH)の有無によってC2群に分け,両群間で血小板機能との相関について比較検討した.結果:術後CVHをきたした群(H群)はC33眼(31例),VHをきたさなかった群(N群)はC35眼(32例)であった.年齢はCH群C57.4±11.0歳,N群C57.9±10.8歳であった.血小板数(103/μl)はCH群C224.2±74.8,N群C224.5±60.4であった.平均血小板容積(.)はCH群C8.2±1.1,N群C8.4±1.0であった.血小板分布幅(.)はCH群C17.1±0.6,N群C17.1±0.6であった.群間比較ではCWilcoxon順位和検定を施行したが,術後CVHの有無と血小板機能はいずれも各項目において有意差認めなかった(p>0.05).結論:今回の検討では,PDRの術後成績と血小板機能との間に明らかな有意差は認めなかった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcorrelationCbetweenCtheCpostoperativeCoutcomesCofCvitrectomyCforCproliferativediabeticretinopathy(PDR)andplateletfunction,andwhetherplateletfunctioncouldbeafactorforthepredictionofsurgicaloutcomes.Methods:Thisretrospectivestudyinvolvedtheanalysisofthemedicalrecordsof68eyesof59patientswhounderwentvitrectomyforPDRfromJanuary2018throughMay2020.Thepatientsweredividedintotwogroupsaccordingtothepresence(GroupH)orabsence(GroupN)ofpostoperativevitreoushemorrhage(VH),CandCtheCcorrelationCbetweenCplateletCfunctionCandCpostoperativeCVHCwasCinvestigatedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:ThereCwereC33eyes(31Cpatients,Cmeanage:57.4±11.0years)inCGroupCHCandC35eyes(32Cpatients,meanage:57.9±11.0years)inGroupN.InGroupHandGroupN,theplateletcount(103/μl)wasC224.2C±74.8CandC224.5±60.4,theaverageplateletvolume(.)was8.2±1.1and8.4±1.0,andtheplateletsizedistribution(.)was17.1±0.6CandC17.1±0.6,Crespectively.CTheCWilcoxonCrank-sumCtestCwasCusedCforCstatisticalCcomparativeCanalysisofeachitembetweenthetwogroups,andthe.ndingsrevealednostatisticallysigni.cantdi.erencesforeachitem(p>0.05).Conclusion:Inthisstudy,nostatisticallysigni.cantdi.erenceswerefoundbetweenthetwogroupsinrelationtothecorrelationbetweentheoccurrenceofpostoperativeVHandplateletfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):496.500,C2022〕Keywords:増殖糖尿病網膜症,術後硝子体出血,血小板容積指数.proliferativediabeticretinopathy,postopera-tivevitreoushemorrhage,plateletvolumeindex.Cはじめに報告された1,2).血小板機能の指標は血小板容積指数(platelet糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)と血小板機能Cvolumeindex:PVI)とよばれ,血小板数(plateletcount:との間に関係性があるとC2019年CJiらの施行したメタ解析でPLT),平均血小板容積(meanplateletvolume:MPV),血〔別刷請求先〕佐藤圭司:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:KeijiSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki,Kanagawa216-8511,JAPANC496(104)小板分布幅(plateletdistributionwidth:PDW)が含まれる.PDWは血小板の大きさの分布幅を反映しており,数値が大きいほど血小板容積に不均一性があることを意味している.近年CPVIは脳血栓や心筋梗塞に深いかかわりをもつという報告がある3).とくにサイズの大きな血小板は小さいものと比較して血小板内酵素活性が高く,粘着・放出さらに凝集能も亢進しており,血栓形成に積極的に関与するといわれている4).心筋梗塞などの心血管疾患とCPVIとの関連に言及している論文は比較的多いが,DRとの関連に関して言及しているものは少ない.そのため,DRにおける術後予後予測因子として有益性を有する可能性が考えられたが,それに関する検討は行われていない.PVIは血算を測定することで得られる安価で簡便なパラメータであり,術前採血検査は手術に際して必須であるため4),手術に際して低侵襲の予後予測因子となりうるのではないかと考えた.今回,術後の硝子体出血の有無とCPVIの関連を調べ,PVIがCPDR術後予後予測に有用か検討した.CI対象および方法本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会の承認を得たものである.増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)の診断にて手術加療が必要な患者に対し,手術の必要性や合併症の可能性について十分に説明を行い,同意を得た.本研究はC2018年C1月.2020年C5月に聖マリアンナ医科大学病院にてPDRに対して経毛様体扁平部硝子体切除(parsplanavitrectomy:PPV)を施行したC59例C68眼を対象とした後ろ向き観察研究を行った.データはカルテを遡ることにより得られたものを使用し,術後硝子体出血(vitreoushem-orrhage:VH)の有無によってC2群に分け(あり群:H群,なし群:N群),両群間で血小板機能との相関について比較検討を行った.PPVは眼底透見不可能なCVH,進行性牽引性網膜.離(retinaldetachment:RD),線維血管増殖膜(.brovascularmembrane:FVM)などのCPDRの合併症に対して施行された.除外基準はCPDRに対するレーザー光凝固術を除く過去の硝子体手術の既往,既存の血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)の存在,術中のシリコーンオイルの使用とした.すべての手術はC3人の熟練した硝子体手術の術者によって施行された.すべての患者は局所麻酔下で標準的なCPPVを施行され,白内障を伴う患者においては同時に超音波乳化吸引術も施行された.すべてのCPPVはC25もしくはC27ゲージトロカールシステム(AlconCConstella-tion:Visionsystem)と高速硝子体カッター(10,000回転/分)を用いて実施され,全例に硝子体ゲル可視化のためにトリアムシノロンアセトニド硝子体注射が施行された.VHは術後C4週間以内に発生したものと定義した.術前検討項目は年齢,性別,PLT,MPV,PDW,HbA1c,眼軸長,術前眼圧,術前ClogMAR矯正視力,赤血球ヘマトクリット値,クレアチニン値,推算糸球体濾過量(estimatedCglomerularC.ltrationrate:eGFR),LDLコレステロール値,HDLコレステロール,中性脂肪,尿素窒素,入院時収縮期血圧,入院時拡張期血圧,空腹時血糖値,bodymassindex(BMI),高血圧の有無,白内障手術施行の有無,抗血小板薬内服の有無,抗凝固薬内服の有無,経口血糖降下薬使用の有無,インスリン使用の有無,スタチン系経口内服薬の有無,利尿薬内服の有無,喫煙の有無,ブリンクマン指数,人工透析の有無,術前レンズの状態,術前レーザー網膜光凝固術施行の有無,術前抗血管内皮細胞増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)硝子体注射施行の有無とした.術後の検討項目は白内障手術施行の有無,術中ガス置換の有無および種類,術後ClogMAR矯正視力(1,3,6,12カ月),観察期間(月)とした.統計学的処理はCJMP13(SASCInstituteCInc.,USA)を用いて行った.2群間の有意差の比較においてはCWilcoxon順位和検定,PearsonのCc2検定およびCFisherの正確検定を行った.MPVに影響を与えると報告されているメトホルミン内服およびスタチン系内服を交絡因子として多変量ロジスティック回帰分析を施行した.CII結果術後VHの有無でC2群間に分けて(あり群:H群,なし群:N群)群間比較を行った.各検討項目における対象患者の特性について表1に示した.観察対象はC59例C68眼であり,H群はC31例C33眼,N群は32例C35眼であった.そのうちC5例は左右眼でCH群,N群の両方を含む結果となった.性別,年齢,高血圧の有無,高脂血症の有無,内服歴,術前の眼情報,喫煙歴,ブリンクマン指数,BMI,人工透析有無などで両群間比較を行ったが,いずれの各検討項目においても明らかな有意差を認めなかった(p>0.05).しかし,入院時空腹時血糖値においてCH群C160.3C±59.9(mg/dl),N群C134.6±41.2(mg/dl)と有意差を認めた(p=0.03).患者の術前採血項目での検討結果を表2に示した.PLTはCH群でC224.2C±74.8(10C3/μl),N群でC224.5C±60.4(10C3/μl)であった.MPVはCH群でC8.2C±1.1(.),N群はC8.4C±1.0(.)であった.PDWはCH群でC17.1C±0.6(.),N群でC17.1C±0.6(.)であった.PVIのどの項目においても有意差は認めなかった(p>0.05).その他の検討項目である,HbA1c,ヘマトクリット,LDLコレステロール,HDLコレステロール,中性脂肪,クレアチニン,eGFR,ヘモグロビン,尿素窒素いずれにおいても明らかな有意差を認めなかった(p>0.05).術後の患者特性を表3に示した.術後C6カ月目での表1患者特性および術前情報特性術後VHなし(N群)術後VHあり(H群)p値観察眼(例)35(32)33(31)性別(男性/女性)C27/8C29/4C0.34年齢(歳)C57.9±10.8C57.4±11.0C0.17高血圧,眼(%)22(63)27(82)C0.11高脂血症,眼(%)9(26)14(42)C0.20経口血糖降下薬,眼(%)27(77)23(70)C0.59メトホルミン内服,眼(%)9(26)8(24)C1.0インスリン使用,眼(%)15(43)13(39)C0.80経口抗凝固薬,眼(%)4(11)5(15)C0.73経口抗血小板薬,眼(%)7(20)11(33)C0.28スタチン系高脂血症薬,眼(%)9(26)13(39)C0.30利尿薬内服,眼(%)16(46)13(39)C0.63術前眼圧(mmHg)C14.3±3.3C13.3±3.6C0.29術前ClogMARBCVAC1.0±0.6C1.1±0.8C0.93眼軸長(mm)C23.8±1.7C24.2±1.2C0.10術前レンズ状態;水晶体/眼内レンズ(眼)C26/9C25/8C1.0手術目的硝子体出血,眼(%)24(68)30(91)牽引性網膜.離,眼(%)2(6)0(0)線維血管増殖膜,眼(%)7(20)3(9)糖尿病黄斑浮腫,眼(%)2(6)0(0)喫煙,眼(%)23(66)22(67)C1.0ブリンクマン指数(喫煙本数C×年数)C866.1±862.1C717.8±526.9C0.75BMI(kg/mC2)C26.6±6.6C25.8±5.0C0.85入院時収縮期血圧(mmHg)C133.9±17.3C137.2±16.9C0.43入院時拡張期血圧(mmHg)C74.2±1.8C78.3±1.8C0.11入院時空腹時血糖(mg/dCl)C134.6±41.2C160.3±59.9C0.03術前抗CVEGF薬硝子体注射,眼(%)28(80)25(76)C0.77術前レーザー網膜光凝固術,眼(%)15(43)12(36)C0.63人工透析,眼(%)26(71)22(67)C0.59表2術前採血における検討項目表3術後情報術後VHなし術後VHあり術後VHなし術後VHあり特性(N群)(H群)p値特性(N群)(H群)p値PLT(10C3/μl)C224.5±60.4C224.2±74.8C0.90白内障手術,眼(%)25(71)19(58)C0.31MPV(.)C8.4±1.0C8.2±1.1C0.32ガス置換,眼(%)6(17)7(21)C0.69PDW(.)C17.1±0.6C17.1±0.6C0.88空気,眼(%)2(6)2(6)HbA1c(%)C7.0±1.4C7.0±1.9C0.66SF6眼(%)3(9)5(15)ヘマトクリット(%)C38.7±5.3C37.8±5.7C0.47C3F8眼(%)1(3)0(0)LDL(mg/dl)C107.4±35.5C113.3±53.7C0.85術後ClogMARBCVAHDL(mg/dl)C49.8±15.3C52.2±19.0C0.881カ月C0.47±0.48C0.51±0.54C1.0TG(mg/dl)C112.1±76.7C153.3±125.8C0.593カ月C0.36±0.35C0.31±0.31C0.61Cr(mg/dl)C2.6±2.9C3.4±3.6C0.546カ月C0.35±0.19C0.19±0.33C0.02eGFR(ml/分/1.73CmC2)C49.7±53.3C38.2±31.1C0.4312カ月C0.17±0.22C0.15±0.29C0.44Hb(g/dl)C15.8±17.5C12.7±2.0C0.63観察期間(月)C7.3±4.7C7.4±0.8C0.98BUN(mg/dl)C29.8±17.0C28.4±18.9C0.47表4MPVに関する多変量ロジスティック回帰分析の結果logMAR矯正視力はCH群で有意に低値(p=0.02)であった特性オッズ比95%信頼期間p値が,その他の項目においては明らかな有意差を認めなかったCMPVC0.370.03.4.01C0.41(p>0.05).観察期間はCH群でC7.4C±0.8,N群でC7.3C±4.7でメトホルミンC0.920.30.2.81C0.88あった.スタチンC1.880.67.5.29C0.23C多変量ロジスティック回帰分析の結果を表4に示した.メトホルミン内服,スタチン内服を考慮しても,MPVと術後VHとの間に明らかな有意差は認めなかった(p>0.05).CIII考按Jiら1)はCDR患者ではコントロール群と比較してCMPVが有意に高値であった(standardCmeandi.erence:SMD[95%Ccon.denceinterval:CI]=0.92[0.60.1.24])と報告しており,Jiら2)はCDR患者ではコントロール群と比較してPDWが有意に高値であった(SMD[95%CCI]=1.04[0.68.1.40])とも報告している.このように近年CDRと血小板機能との間に関連性があるとの報告がなされている.また,Wakabayashiら5)は多変量解析の結果,PDR術後C4週間以内の早期出血の術前予後予測因子として術前硝子体内VEGF濃度においてのみ有意差を認めた(oddsratio:OR[95%CCI]=5.1[1.29.20.33])と報告しているが,術後CVHの有無に関する予後予測因子としてCPVIが有益であるかについての検討はされていない.そのため本研究ではCDRの術後成績とCPVIとの関連を調べ,PVIがCDRの術後予後予測につながるのかについて検討を行った.表1では患者の術前特性についての結果を示しているが,入院時空腹時血糖値において有意差を認めた(p=0.03).既報では空腹血糖値と硝子体出血との関連についての報告はないが,Kangらは高血糖と血管内皮細胞の機能障害の関連について報告しており6),空腹時血糖値はその時点での糖尿病コントロールを反映しているため,高血糖が血管内皮細胞の障害を引き起こすことで血管の脆弱性が生じ,術後の硝子体出血を生じる可能性が考えられた.表2においてはCPVIであるCPLT,MPV,PDWおよびその他の術前採血項目の群間比較の結果を示しているが,いずれの項目においても明らかな有意差を認めなかった.前述のように,JiらはCMPV,PDWとCDRの間に関連を認めたと報告している1,2)が,本検討において術後CVHの有無とCPVIの値に有意差は示されなかった.本検討では対象が全例PDR患者であり,重症な患者間での比較検討を行ったため有意差は認められなかった可能性が考えられた.表3では術後の患者特性について示している.白内障手術施行の有無,ガス置換の有無,観察期間いずれも両群間で有意差を認めなかった.術後C6カ月のClogMAR最良矯正視力において統計的に有意差を認めた(p=0.02)が,12カ月では有意差を認めておらず(p>0.05),これに関してはサンプルサイズの小ささが原因であり信頼性が低いと考えられるため,今後症例数を増やしてさらなる検討が必要であると考えられた.経口血糖降下薬であるメトホルミンや脂質異常症治療薬であるスタチン系の内服薬はCMPVを減少させると報告されている7,8).そのためメトホルミンおよびスタチン系内服薬の影響を受けてCMPVがC2群間比較において有意差を示さなかった可能性が考えられた.表4はメトホルミンおよびスタチン内服の有無をCMPVの交絡因子として考え,多変量ロジスティック回帰分析を施行した結果を示している.結果は多変量ロジスティック回帰分析でもCPDR術後CVHとCMPVとの間には有意差を認めなかった(OR[95%CI]=0.37[0.03.4.01]).Wakabayashiらの報告5)では,抗血小板薬,抗凝固薬の内服,高血圧の有無などの因子は術後C4週間以内のCVHにおいて有意差を認めなかったと報告しているが,本検討においても同様の結果を示した.また,Wakabayashiらの報告5)では術前硝子体内CVEGF濃度は術後CVHのリスクであるとしているが,本検討においては術前硝子体内CVEGF濃度の測定を行っておらず,今後の検討課題として考えられた.本研究はC59例C68眼と少数での検討結果であり,今後は対象者を増やし検討を行うことでさらに精度の高い結果を得られる可能性がある.今回の検討では術後C4週間以内のCVHの有無を予後予測の目的指標として選択しており,今後はその他の指標である,網膜感度,黄斑浮腫の出現の有無などPVIがその他のCVH以外の術後予後因子と相関するか検討を行っていく必要があると考えられた.CIV結語今回の検討ではCPDR術後CVHの予測因子として,PVIは有意な指標としては機能しなかった.しかしCPVIは術前採血より簡単に求めることができるため,低侵襲の術後予後予測因子としての有益性に関してはさらなる検討の余地があると考えられた.また,入院時空腹時血糖が高値である場合,術後硝子体出血をきたしやすい可能性が示唆された.文献1)JiCS,CZhangCJ,CFanCXCetal:TheCrelationshipCbetweenCmeanplateletvolumeanddiabeticretinopathy:asystem-aticreviewandmeta-analysis.DiabetolMetabSyndrC12:C11-25,C20192)JiCS,CNingCX,CZhangCBCetal:PlateletCdistributionCwidth,CplateletCcount,CandCplateletcritCinCdiabeticretinopathy:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCPRISMACguide-lines.Medicine(Baltimore)C98:29,C20193)GhoshalK,BhattacharyyaM:Overviewofplateletphysi-ology:itsChemostaticCandCnonhemostaticCroleCinCdiseaseCpathogenesis.SciWorlelJC2014:781857,C20144)嵯峨孝,青山隆彦,竹越忠美:高齢男性の血小板数および血小板容積の変化ならびにそれらの変化に及ぼす諸因子の影響.日本老年医学会雑誌32:270-276,C19955)WakabayashiCY,CUsuiCY,CTsubotaCKCetal:PersistentCoverproductionofintraocularvascularendothelialgrowthfactorasacauseoflatevitreoushemorrhageaftervitrec-tomyCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CRetinaC37:2317-2325,C20178)SivriCN,CTekinCG,CYaltaCKCetal:StatinsCdecreaseCmean6)KangCH,CMaCX,CLiuCJCetal:HighCglucose-inducedCendo.plateletvolumeirrespectiveofcholesterolloweringe.ect.thelialprogenitorcelldysfunctionDiabVascDisResC14:CKardiolPolC71:1042-1047,C2013C381-394,C20179)KimCKE,CYangCPS,CJangCECetal:AntithromboticCmedica-7)Dolas.kI,SenerSY,Celeb.Ketal:Thee.ectofmetfor.tionCandCtheCriskCofCvitreousChemorrhageCinCatrialC.b.minonmeanplateletvolumeindiabeticpatients.Plateletsrillation:KoreanCNationalCHealthCInsuranceCServiceC24:118-121,C2013CNationalCohort.YonseiMedJC60:65-72,C2019***

糖尿病網膜症術後に硝子体出血が遷延化した症例のVascular Endothelial Growth Factor濃度

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1260あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(00)260(122)0910-1810/09/\100/頁/JCLS14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(2):260262,2009cはじめに増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に硝子体出血が遷延化する症例がある.活動性の高い症例や若年者などに多い印象を受けるが,その遷延化の原因として術後に新生血管が維持されている可能性も否定できない.新生血管の維持には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が必要である1).VEGFはIL(インターロイキン)-1,TNF(腫瘍壊死因子)-aなどの炎症性サイトカインで誘導されることが知られており2,3),手術侵襲や術中の光凝固が炎症を惹起し,活動性の高い症例では術後VEGFが上昇し,新生血管が維持され術後の硝子体出血を遷延化させている可能性がある.しかし,硝子体術後に硝子体液のVEGF濃度を検討した報告は少なくその詳細は不明である.今回,糖尿病網膜症術後に硝子体出血の遷延化がみられた症例の初回手術時と再手術時に硝子体液を採取し,そのVEGF濃度を検討したので報告する.〔別刷請求先〕小林貴樹:〒020-8505盛岡市内丸19-1岩手医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakakiKobayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicine,19-1Uchimaru,Morioka020-8505,JAPAN糖尿病網膜症術後に硝子体出血が遷延化した症例のVascularEndothelialGrowthFactor濃度小林貴樹早坂朗石部禎黒坂大次郎岩手医科大学医学部眼科学講座VascularEndothelialGrowthFactorLevelofVitreousHumorinPersistentVitreousHemorrhageafterVitrectomyinProliferativeDiabeticRetinopathyTakakiKobayashi,AkiraHayasaka,TadashiIshibeandDaijiroKurosakaDepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後にみられる硝子体出血の遷延化に血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が関与しているかどうかを検討した.方法:増殖糖尿病網膜症に対し硝子体手術を施行し,初回手術後に硝子体出血が遷延化した症例のうち,VEGF濃度の測定が可能であった5例5眼を対象とした.初回手術後,316週に再手術を行い,各手術時に硝子体液を採取し,VEGF濃度をenzyme-linkedimmunosor-bentassay(ELISA)法で測定した.結果:VEGF濃度は初回手術時1,510±1,518.1pg/ml,再手術時62.6±86.5pg/mlであり,再手術時のVEGF濃度は低下していた.結論:今回の症例では硝子体液中のVEGF濃度は術後316週の時点で著しく低下しており,硝子体出血の遷延化にVEGF濃度は影響していない可能性がある.Todeterminewhethervitreoushumorvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)levelisrelatedtopersistentvitreoushemorrhageaftervitrectomyforproliferativediabeticretinopathy,weevaluated5eyesof5patientswhounderwentvitrectomyforproliferativediabeticretinopathyandhadpersistentvitreoushemorrhageafterthepri-maryoperation.Thepatientsunderwentreoperationat3-16weeksaftertheprimaryoperation.Weobtainedvit-reoushumorateachoperationandmeasuredVEGFlevelbyusingtheenzyme-linkedimmunosorbentassaymeth-od.VEGFlevelwas1,510±1,518.1pg/mlattheprimaryoperationandhaddecreasedto62.6±86.5pg/mlatreoperation.TheVEGFlevelinthevitreoushumorofthesecasesdecreasedremarkablyat3-16weeksaftertheprimaryoperation.ThereisapossibilitythatVEGFleveldoesnotinuencetheprotractionofpostoperativevitre-oushemorrhage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):260262,2009〕Keywords:糖尿病網膜症,血管内皮増殖因子,術後硝子体出血,硝子体.diabeticretinopathy,vascularendothelialgrowthfactor,postoperativevitreoushemorrhage,vitreous.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009261(123)I対象および方法1.対象2004年10月2007年3月の間に岩手医科大学眼科で硝子体手術を施行し,術後に硝子体出血が2週間以上遷延化した糖尿病網膜症症例のうち,初回手術時と再手術時の硝子体液のVEGF濃度を測定しえた5例5眼を対象とした.内訳は男性3例3眼,女性2例2眼,年齢2864歳(平均46.4±14.2歳)であった.増殖糖尿病網膜症5例5眼,うち1例1眼で血管新生緑内障を伴っていた.初回手術の216週に再手術を行った.当科では硝子体術後に硝子体手術の遷延化がみられた場合,初回手術の23週後に再手術を行っているが,症例4ではしばらく再手術の希望がなかったために16週後に施行することになった.出血傾向,抗凝固薬の投与が行われている症例はなかった.2.方法VEGF濃度の測定はQuantikineRhumanVEGFimmuno-assayキット(R&DSystems社,MN,USA)を用いて,enzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)法で行った.すなわち,抗VEGFモノクローナル抗体が固相化されたプレートの各ウェルに検体および標準液を注入し,室温で2時間抗原抗体反応を行った.結合しなかった抗原を十分に洗浄した後,ペルオキシダーゼ標識抗VEGFポリクローナル抗体を加え室温で2時間反応させた.過剰な抗体を十分洗浄して除去した後,酵素反応基質液で発色させ,各ウェルの吸光度を測定した.標準液の測定値から検量線を作成し,各検体のVEGF濃度を算出した.硝子体の採取については,全症例でインフォームド・コンセントを得て行った.方法は,初回手術の場合は硝子体手術を行う際,毛様体扁平部に3ポートを作製した後,眼内灌流を行う前にポリプロピレンチューブを装着した硝子体カッターを眼内に挿入し,硝子体をチューブ内に吸引し,そこから0.20.6ml採取した.再手術の場合は,手術の際にツベルクリンシリンジ付き30ゲージ針を毛様体扁平部に刺入し硝子体液を0.10.2ml採取した.検体は速やかに冷凍し,測定まで80℃で凍結保存した.3.統計解析初回手術時と再手術時の硝子体液中VEGF濃度の統計解析にはMann-Whitney’sUtestを用いた.II結果各検体のVEGF濃度の結果を表1に示した.初回手術時の硝子体中VEGF濃度は64.33,080pg/ml(1,510±1,518.1pg/ml)であった.再手術時に採取された硝子体液のVEGF濃度は15.6134pg/ml(62.6±86.5pg/ml)で,初回手術時に対する再手術時のVEGF濃度の割合は7.825.5%であった.全例で初回手術時よりVEGF濃度は有意に低下していた(p<0.05).III考按糖尿病網膜症の硝子体手術後に硝子体出血が遷延化する症例では,手術時の網膜光凝固による網膜のablationが不十分でVEGF分泌が維持され,新生血管が消退していない可能性があるのみならず,手術侵襲により炎症が惹起され一過性にVEGF発現が増加し増殖性変化が高まっている可能性も否定できない2,3).Itakuraら4)はそれを裏付けるように術後536日の長期にわたり硝子体中にVEGFが高いレベルで遷延化して保たれていることを報告している.筆者らは術後再出血を起こす症例では,再増殖や前部硝子体線維血管増殖(anteriorhyaloidalbrovascularproliferation:AHFVP)に移行する例があり,そのような例では術中の徹底した網膜光凝固により網膜のablationを行っても術後VEGF濃度が上昇していることを報告した(第59回日本臨床眼科学会,2005).また,遷延化が長引けばVEGFが依然上昇しており,増殖性変化が進行するのではないかといった危惧も出てくると思われる.そこで今回,術後硝子体出血が遷延化した症例のVEGF濃度を調査し,初回手術時とどのように違っているかを検討した.しかしながら今回の症例では硝子体液中のVEGF濃度は術後216週の時点で著しく低下しており,そのレベルは初回手術時の4.324.5%になっていることが明らかとなっ表1各症例の概要と硝子体液のvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)濃度症例年齢・性疾患再手術までの期間初回手術時のVEGF(pg/ml)再手術時のVEGF(pg/ml)初回手術時のVEGF濃度に対する再手術時のVEGF濃度の割合(%)128歳・男性PDR2週1,87045924.5264歳・女性PDR3週64.315.624.3346歳・女性PDR2週1,4101107.8438歳・男性PDR2週38152.213.7556歳・男性NVG+PDR16週3,0801344.4PDR:増殖糖尿病網膜症,NVG:血管新生緑内障.———————————————————————-Page3262あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(124)た.このことから初回手術により再手術時にはVEGF分泌が大幅に抑制されていたことがわかり,硝子体出血の遷延化にVEGF濃度は大きく影響していないことが考えられる.今回の症例でVEGF濃度が低下したにもかかわらず硝子体出血が遷延化した原因については,消退途中の新生血管からや術中の網膜裂孔から術後も出血が持続した可能性が考えられる.今回検討した症例のなかにも術中裂孔が生じたものが2例存在した.出血傾向のある症例や抗凝固剤を服用している症例はなかったが,何らかの原因で止血しにくい状態にあったものと思われる.また,新生血管の維持にはVEGFの供給が必要である1)が,網膜光凝固によってVEGF供給が減少しても新生血管の消退までにタイムラグがあり,出血が遷延化している可能性もある.VEGF濃度は個々の症例によってバリエーションがあり,正常値を規定するのは困難であると思われる.たとえば,症例2では64.2pg/mlで増殖性変化をきたしていたのに対し,症例5では3,080pg/mlであった.VEGFは糖尿病網膜症を悪化させる主要因であるが,レセプターなどの感受性の問題や抑制因子の問題5,6),他の増殖因子の介入7,8)などでどの値までVEGFレベルを下げればよいのかは症例ごとに変化してくるものと考えられる.今回は糖尿病網膜症の主要因であるとされているVEGFのみを検討したが,その他の因子により新生血管が維持されている可能性は否定できず,今後の検討が必要である.今回対象になった症例はすべて初回手術時に網膜最周辺部まで徹底した光凝固を施行した.Itakuraらは術後長期にわたり硝子体中にVEGFが高いレベルで保たれていると報告しているが,そのなかで網膜光凝固をどの程度どの範囲まで施行したかについては触れられておらず4),光凝固による網膜ablationの程度の違いが今回の結果との違いになったことが考えられる.今回の結果より,硝子体出血が遷延化した症例の再手術を行う場合は,初回手術で最周辺部までの徹底した光凝固を施行したのであれば,明らかに不足している箇所への追加にとどめ,さらなる鎮静化目的の積極的な凝固斑の間隙への追加は必要ないものと考えられる.光凝固の追加でVEGFの分泌を減少させることには症例によっては限界があると思われ,過剰な凝固は視機能の低下を招くおそれも考えられる.また,超音波エコーなどで網膜離や再増殖が確認されない症例では再手術をせず,しばらく経過をみるのも選択肢の一つであると思われる.今回の症例でも,先に測定しえた症例2,3,5で再手術時にVEGF濃度が上昇していないことがわかっていたので,症例1,4では再手術時に明らかに少ない箇所に光凝固をわずかに追加するにとどめた.しかし,再出血や網膜症の再燃はみられず良好な経過をたどっている.今回の症例は術後遷延化した硝子体出血の症例であった.手術で硝子体出血が消退し,しばらく沈静化していたものに再出血を起こした場合は,今回とは異なりVEGFが上昇している可能性もあると考えられる.これについては今後の検討が必要であるが,AHFVPや強膜創血管新生など重篤な変化に移行している場合もあり注意が必要であると思われる.文献1)TolentinoMJ,MillerJW,GragoudasESetal:Vascularendothelialgrowthfactorissucienttoproduceirisneo-vascularizationandneovascularglaucomainanonhumanprimate.ArchOphthalmol114:964-970,19962)KvantaA:Expressionandregulationofvascularendo-thelialgrowthfactorinchoroidalbroblasts.CurrEyeRes14:1015-1020,19953)YoshidaS,OnoM,ShonoTetal:Involvementofinter-leukin-8,vascularendothelialgrowthfactor,andbasicbroblastgrowthfactorintumornecrosisfactoralpha-dependentangiogenesis.MolCellBiol17:4015-4023,19974)ItakuraS,KishiN,KotajimaMetal:Persistentsecretionofvascularendothelialgrowthfactorintothevitreouscavityinproliferativediabeticretinopathyaftervitrecto-my.Ophthalmology111:1880-1884,20045)SprangerJ,OsterhoM,ReimannMetal:Lossoftheantiangiogenicpigmentepithelium-derivedfactorinpatientswithangiogeniceyedisease.Diabetes50:2641-2645,20016)OgataN,NishikawaM,NishimuraTetal:Unbalancedvitreouslevelsofpigmentepithelium-derivedfactorandvascularendothelialgrowthfactorindiabeticretinopathy.AmJOphthalmol134:348-353,20027)FunatsuH,YamashitaH,NakanishiYetal:AngiotensinIIandvascularendothelialgrowthfactorinthevitreousuidofpatientswithproliferativediabeticretinopathy.BrJOphthalmol86:311-315,20028)RuberteJ,AyusoE,NavarroMetal:IncreasedocularlevelsofIGF-1intransgenicmiceleadtodiabetes-likeeyedisease.JClinInvest113:1149-1157,2004***