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屈折矯正手術:前眼部OCTを用いたICLサイズの決定

2019年8月31日 土曜日

監修=木下茂●連載231大橋裕一坪田一男231.前眼部OCTを用いたICLサイズの決定五十嵐章史山王病院アイセンターICLはCsulcusCtoCsulcus(STS)に固定する眼内レンズであるが,そのサイズ決定には従来のCwhiteCtoCwhite(WTW)に比べ,前眼部COCTを用いたCangleCtoCangle(ATA)を用いた予測式のほうが術後Cvaultは良好である.●はじめにICL(ImplantableCollamerLens,STAAR社)は長期的に安定した屈折,良好な術後視機能に加え,2007年のCHoleICL(ICLKS-AquaPORT)により術後合併症が大幅に改善され,現在国内でもっとも手術件数が増加している屈折矯正手術である.一方で,ICLサイズの決定に関してはCSTAAR社の推奨するCICLサイズ計算式は症例ごとに術後Cvaultがばらつく傾向があり,より適切なCICLサイズを予測する式の構築が課題であった.そこで筆者らは新たなメルクマールとして最新の前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で得られるCangletoangle(ATA)に注目し,新たなCICLサイズ計算式(KS式)を構築したので解説する.C●メルクマールとしてのATA現在CSTAAR社が推奨するCICLサイズ計算式はCwhiteCtowhite(WTW)/前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD)を用いる方法で,過去のCmeta-analysis1)においても報告者により術後Cvaultがばらついている.これはCWTWがレンズ固定位置であるCsulcustosulcus(STS)との相関性が弱いこと,WTW測定値の再現性が不良であることが理由として考えられる.筆者らは以前,一部毛様体が描出可能であった北里大学式前眼部OCTを用いて健常眼のCSTSとCWTW,ATAの相関性を検証した.その結果,STSとCWTWには相関性を認めなかったが,STSとCATAには相関性を認めた.また,最新のCsweptCsourceOCTであるCCASIA2(トーメーコーポレーション)において,WTWとCATAの再現性を検討2)したが,ATAの再現性のほうが良好であった(図1).C●新たなICLサイズ計算式(KS式)新たなCICLサイズ式を構築するにあたり,ICL手術を施行し術後C3カ月経過したC23例C44眼を対象に,術後Cvaultに影響する術前因子を検出するため重回帰解析を行った2).目的変数を術後Cvault,説明変数を年齢,性別,自覚等価球面度数,眼圧,平均角膜屈折力,ACD,眼軸長,角膜厚,ATA,WTW,挿入したCICLサイズのC11項目とした.その結果,挿入したCICLサイズ(p<0.001,Cr=1.41),ATA(p<0.001,Cr=.1.14),C12,50Measurement1-2(μm)1,000750500250WTWATAMeasurement1-2(mm)Measurement1-2(mm)AverageofMeasurement1and2(mm)AverageofMeasurement1and2(mm)図1WTWとATAの再現性(Bland.Altman法)2人の検者で時間を変えCWTWとCATAをC2度計測している.横軸にC2回の検査の平均値を,縦軸にC2回の検査の差を示す.点線はC95%信頼区間の上限値・下限値を示し,幅が狭いほど再現性は良好であるため,左図のCATAのほうが再現性良好である.00.00.10.20.30.40.50.60.70.80.91.01.1ICLsize-ATA(mm)図2術後vaultと挿入したICLサイズとATAの差縦軸に術後Cvault,横軸に挿入したCICLサイズとCATAの差を示す.有意な相関(r=0.59,p<0.001)を認め,この近似式をKS式としている.(73)あたらしい眼科Vol.36,No.8,2019C10430910-1810/19/\100/頁/JCOPY図3CASIA2におけるKS式とN.K式最新のソフトウエアにアップデートしたCCASIA2では,前眼部撮像することでCKS式とCN-K式が自動的に表示される.選択するCICLサイズに対する術後予想Cvaultが表示されるため,術者の好みでサイズを選ぶことが可能である.平均角膜屈折力(p=0.004,Cr=0.32),年齢(p=0.02,Cr=.0.26)のC4因子が術後Cvaultに関与することがわかり,とくに強い関係を示した挿入したCICLサイズとATAに注目した.図2にCICLサイズとCATAの差,術後Cvaultの相関性を示す.術後CvaultとCICLサイズとATAの差は有意な相関を認め(SpearmanC’sCrankCcor-relationCcoe.cient,Cr=0.59,p<0.001),この近似式で得られた術後Cvault(μm)=660.9×(ICLサイズC.ATA)+86.6(adjustedR2=0.41)をCKS式とした2).C●臨床におけるKS式の精度KS式は現在CCASIA2に搭載されており,一般的に使用することができる.また,前述のCKS式はマニュアルでCATAを測定した結果から算出した式であるが,より検者の誤差をなくすため,最新式は自動測定のCATAを用いた式に改良してある.KS式の特徴としては,従来のCWTW/ACDを用いたサイズ計算と異なり,選択するICLサイズによって術後の予測Cvaultが表示されるため,術者の好みでレンズサイズを選択できることである(図3).筆者はやや小さめのサイズ(術後Cvaultが小さめ)を好むため,術後予想Cvault500Cμmを少し下回るレンズを選択するが,術後Cvaultは良好である.課題としては選択するCICLサイズがC12.1Cmmでは予想CvaultよりC1044あたらしい眼科Vol.36,No.8,2019術後Cvaultがやや小さめに,13.2Cmm以上のレンズでは予想よりやや大きめになる傾向がみられることで,一定の傾向がすでに判明しているため今後改良予定である.C●おわりにCASIA2には本稿で紹介したCKS式のほかに,中村らが考案したCN-K式3)も搭載されている(図3).N-K式は強膜岬間距離をメルクマールの一つとして採用しており,KS式と式の構成は異なる.どちらがよいかは不明であるが,CASIA2で前眼部撮像することで自動的に二つの式が表示されるため,両方の結果を吟味し,ICLサイズ選択を行うのがよいだろう.文献1)PackerM:Meta-analysisandreview:e.ectiveness,safe-ty,CandCcentralCportCdesignCofCtheCintraocularCcollamerClens.ClinOphthalmol10:1059-1077,C20162)IgarashiA,ShimizuK,KatoSetal:PredictabilityofthevaultCafterCposteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.JCataractRefractSurg.Inpress3)NakamuraT,IsogaiN,KojimaTetal:ImplantableColla-merCLensCsizingCmethodCbasedConCswept-sourceCanteriorCsegmentopticalcoherencetomography.AmJOphthalmolC187:99-107,C2018(74)

眼内レンズ:低加入度数分節眼内レンズ「レンティスコンフォート」の臨床

2019年8月31日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋393.低加入度数分節眼内レンズ大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科「レンティスコンフォート」の臨床レンティスコンフォートは遠方から中間距離まで広い明視域をもちながら,ハロー/グレアといった不快な光学現象がきわめて少ない,非常に優れた眼内レンズである.プレート型の眼内レンズであることから,挿入に際しては,従来のオープンループ型眼内レンズと若干異なった取り扱いが必要である.注意点を順守して操作を行うことにより,スムースな挿入が可能で,良好な固定が得られる.●はじめにレンティスコンフォート(参天製薬)は保険診療の枠内で使用できる眼内レンズであり,広い明視域をもちながら,不具合の少ない眼内レンズである1).ただし,形状がプレート型であり,これまでのオープンループタイプとは若干異なった挿入操作が必要となる.挿入のコツおよび術後の安定性について解説する.C●挿入前の準備現行のインジェクター(ACCUJECTUNI.TWJ-60MII)の場合,2.4Cmmの切開創が必要となる.連続円形切.(continuousCcircularcapsulorhexis:CCC)はなるべく大きく作製する(図1).5.5mmよりは大きく,6.0mm程度でよい.親水性の眼内レンズなので,保存液に浸水した形で届けられる.急激な温度変化は避ける必要がある.冷蔵庫で冷やしていた状態から急激に体温レベルまで温度が変化すると,光学部が白濁することがある.これは一過性の現象で,翌日には消失するが,このことを知らないとあわてることになる.C●挿入操作粘弾性物質をカートリッジに塗布する(図2a).容器から眼内レンズを取り出し(図2b),カートリッジに装.する(図2c).レンズを溝に差し込むだけなので,この操作はきわめて容易である.カートリッジの蓋を閉め,プランジャーを前進させて準備完了(図2d).カートリッジ先端を前房内に挿入し,眼内レンズを押し出していく(図2e).眼内レンズが水平に出るように方向を調整しながら,プランジャーを押す(図2f).通(71)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1前.切開連続円形切.(CCC)はなるべく大きく作製する.常はインジェクターの回転操作は必要なく,単純に押し出すだけでよい.プランジャーは押し出しすぎないほうがよい.プランジャーの先端部は若干太くなっており,この部分が眼内に深く入ってしまうと,創口から抜き出しにくくなる.手前部分の挿入方法にはいくつかのバリエーションがあるが,一つの方法を示す.T字フックで手前のホールを引っかけ(図2g),まず左に振って左の肩を.内に挿入し,次に右に戻しながら右の肩を.内に挿入する(図2h).眼内レンズ裏の粘弾性物質は必ず洗浄する(図2i).レンズが大きいので,粘弾性物質が後.との間にトラップされやすい.裏面,表面ともに洗浄して挿入は完了である(図2j).あたらしい眼科Vol.36,No.8,2019C1041図2挿入操作a:粘弾性物質をカートリッジに塗布する.b:容器から眼内レンズを取り出す.c:カートリッジに装.する.d:プランジャーを前進させる.Ce:カートリッジ先端を前房内に挿入し,眼内レンズを押し出す.Cf:眼内レンズが水平に出るように方向を調整しながらプランジャーを押す.Cg:T字フックで手前のホールを引っかける.Ch:左に振って左の肩を.内に挿入し,次に右に戻しながら右の肩を.内に挿入する.i:眼内レンズ裏の粘弾性物質は必ず洗浄する.j:表面も洗浄して挿入は完了.C●術後安定性文献.内に挿入されたレンティスコンフォートの安定性1)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlensは非常に高い.治験のC120症例ではレンズ偏位はC0%,Cwith+1.5dioptersnearaddition.SciRep,inpress.グリスニングや表面散乱(sub-surfaceCnanoCglisten-ing:SSNG)も0%,YAGレーザー後.切開を必要とした後発白内障の発生率はC0.8%であった.

コンタクトレンズ:眩しさの種類

2019年8月31日 土曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一58.眩しさの種類●はじめに明るさの代表的な評価指標には,どの程度の明るさで照らされているか(単価面積への入射光束)という指標である照度(単位はlx)と,照明や物体がどの程度輝いているか(ある方向から見た単位面積あたりの明るさ)の指標である輝度(単位はcd/m2)がある.私たちは,100,000lxの晴天の太陽から0.001lxの夜空まで,とても広い範囲の明るさのなかで生活している.輝度は環境に大きく異存するが,太陽が約16億cd/m2,満月が約3,000cd/m2,液晶ディスプレイが100.300cd/m2である.一般に明るいほうが視機能は向上するが,明るすぎると視機能は逆に低下する.このとき生じた眩しさは,羞明(photophobia)やグレア(glare)とよばれる(図1).グレアはその定義が分野によって若干異なるが,眩しさによる不快感が生じた状態である不快グレア(discom-fortglare),視機能が低減する状態である減能グレア(disabilityglare),極度の高い輝度により視覚が一時的に大きく損なわれる不能グレア(blindingglare)があ川守田拓志北里大学医療衛生学部視覚機能療法学る.また,液晶ディスプレイなどで生じやすいが,高輝度の照明などの光が光沢のある表面で反射し,生じたグレアを反射グレア(re.ectiveglare)という(図2).グレアの感覚自体は,網膜の障害を防ぐための危険回避と考えられるが,視力やコントラスト感度を低下させ,縮瞳に伴う調節の誘発からdefocusを増加させ,網膜像を劣化させる(図3).そして,不快感のスコアも上昇させ,疲労も増加させうる.100.1,000cd/m2が比較的高い視機能を維持できる範囲である.グレアの評価法として,自覚検査ではグレア視力,グレアコントラスト感度がある.また,主観アンケート評価にはグレアスケールやvisualanalogscale(VAS)が用いられる.他覚的検査には,HDAnalyzer(Visiomet-rics社)による前方散乱解析,PentacamHR(Oculus社)やCASIA2(トーメーコーポレーション)などによる後方散乱解析がある.環境においては光源の輝度など物理特性を計測するか,その他照明設計においてはグレアの回帰モデルなどが用いられる.最近ではPCの計算精度や速度が上昇していることから,光学シミュレーションで検証を行うことも可能になってきている.●グレアへの対策グレアの原因と機序は,人の視覚系によるものと環境によるものに大別することができる.人の視覚系に関しては,角膜や水晶体などの眼球光学系から網膜・神経系図1グレアのイメージ疑似白内障体験グラスを用いて撮影した.図2反射グレア(69)あたらしい眼科Vol.36,No.8,201910390910-1810/19/\100/頁/JCOPY図3散乱による網膜像の劣化光学設計ソフトCODEV(Synopsis社)で作成した正常眼モデル(左)と白内障眼モデル(右).まで多くの経路が関与しており,原因と機序は完全に解明されていない.グレアは,白内障やドライアイ,角膜混濁,硝子体混濁などで起こりやすくなる.これは,光が屈折する組織の境界面や混濁領域通過前後で屈折率差が大きく,散乱が起こりやすいためと思われる.加齢により白内障罹患率は上昇することから,グレアの訴えも加齢により増加する.グレア錯視など平面を見ていてもグレアの感覚が生じることから,中枢系も関与していることが示唆される.また,暗順応している場合や,虹彩での散乱が少ない欧米人でグレアが起きやすいと考えられている.光学的には短波長のほうが散乱が大きく,羞明を引き起こしやすいとされる1).環境に関しては,輝度が高い,立体角が大きい,点光源などで起きやすい2).近年は液晶あるいは有機エレクトロルミネッセンス(electro-luminescence:EL)ディスプレイ,自動車のレーザーやLEDヘッドライト,街路灯や家庭内照明など,光が関与する多くの分野においてスペック競争が起こり,高輝度化する傾向にある.そのため,グレアが生じやすい環境となっている.対策としては,グレアを引き起こす疾患に対する治療などで原因を除去することが最優先されるべきであるが,治療が適応外,あるいは本人の意向など,何らかの理由で除去することがむずかしい場合には,グレアの種類や程度に応じた,できるかぎりの対策を考えていく必要がある.環境については,屋内であれば液晶あるいは有機ELディスプレイの輝度や照明の照度を適切な範囲にすることが望ましく,技術的には自動輝度調整機構なども多く取り入れられるようになってきている.これらは視機能の低下を防ぐだけでなく,疲労の軽減や生産性を高める可能性もある.屋外など高い照度への対策が必要な場合には,眼鏡あるいはコンタクトレンズなどの可逆的な方法で光源の光量を見かけ上,低下させることも有効と思われる.最近では,調光レンズであるトランジションズライトインテリジェントレンズ(HOYA)や夜間運転において対向車のヘッドライトや道路照明の反射を軽減するZEISSDriveSafeLenses(CarlZeiss),調光コンタクトレンズACUVUEOASYSwithTransitions(ジョンソン・エンド・ジョンソン)が登場し,注目されている.環境に応じて眼内入射光を適切な範囲に調整し,環境光によるストレスを下げ,理想的な状態に近づける設計は今後も増えると予想され,発展が期待される.羞明あるいはグレアは疾患の有無にかかわらず起こるが,我慢している人も多く,視機能への影響を把握し,その症状を軽視せずに対応することが重要である.文献1)魚里博,平井宏明,福原潤ほか:散乱.眼光学の基礎(西信元嗣編),p94-96,金原出版,19902)入倉隆:グレア.視覚と照明(入倉隆),p92-103,裳華房,2014PAS120

写真:家族性LCAT欠損症

2019年8月31日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦細谷比左志423.家族性LCAT欠損症ホワイティうめだ眼科クリニック,JCHO神戸中央病院眼科楠山元子細谷友雅兵庫医科大学眼科学講座図2図1のシェーマ①中央付近にモザイク状の混濁パターンがみられる.②角膜輪部近くに老人環様混濁がみられ,混濁の周囲にはわずかに透明体も認められる.図1症例の前眼部写真両眼角膜に著明な混濁を認める.周辺部には老人環様の混濁もみられ,中央付近はモザイク状の混濁がみられる.本人によると,子どもの頃から自分で黒目が濁っていると思っていたとのことである.図4前眼部光干渉断層計(CASIAR)像混濁は角膜実質の表層から深層まで均一にみられる.図3スリット写真水晶体がかろうじて透見できるが,白内障の有無は不明である.(67)あたらしい眼科Vol.36,No.8,2019C10370910-1810/19/\100/頁/JCOPY家族性レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(lecithinecholesterolacyltransferase:LCAT)欠損症は,1967年にNorumとGjoneにより最初に報告1)されて以来,わが国を含め世界で約C30家系の報告がなされている.常染色体劣性遺伝をするおよそ100万人にC1人という非常にまれな疾患で,コレステロール代謝を司るCLCAT活性が遺伝的に低下しているために,角膜混濁を含む,全身に異常をきたす疾患2)である.LCATは血中コレステロールのエステル化を担い,コレステロール代謝の最初のステップを支配する非常に重要な酵素である.その特徴的徴候として,HDLコレステロール値の異常な低下,遊離コレステロールの組織への異常沈着,とくに角膜への沈着による角膜混濁,腎機能障害,蛋白尿,貧血,赤血球膜の脂質組成の異常によると思われる赤血球形態の異常(標的赤血球,大小不同など)がみられる.今回の症例は,内科より紹介されて偶然発見された家族性CLCAT欠損症のC1例である.症例はC71歳,女性で,内科入院中に担当医が患者の角膜混濁に気づき,眼科へ紹介され受診した.初診時視力はCRV=0.06(n.c.),CLV=0.01(n.c.)であった.眼圧は正常範囲内.両眼角膜実質に全層性の著明なすりガラス状混濁(図1,2)を認め,老人環も認めた.水晶体はかろうじて透見できるが白内障の程度は不明(図3)で,眼底はほとんど透見不能であった.前眼部光干渉断層計(CASIACR,トーメーコーポレーション)では角膜実質の表層から深層に均一に分布する混濁(図4)を認めた.患者本人によると,小学生の頃から自分で黒目(角膜)が白いことに気づいていたとのこと.今まで何度か眼科を受診したが,どの眼科でもきちんとした診断はなされなかったとのことである.著明な角膜実質混濁がみられ,すぐ上の兄にも同様に両眼の角膜混濁がみられる点から,家族性CLCAT欠損症を疑い,全身検査を施行した.当疾患の診断基準ではHDLコレステロール値低値が重要であるが,本症例では,2~4Cmg/dl正常値C40~150Cmg/dl)と非常な低値であり基準を満たしていた.特徴的徴候の蛋白尿,腎機能障害,角膜混濁,貧血(Hb9.2Cg/dl.正常値C11.4~14.6g/dl),赤血球形態の異常(標的赤血球,大小不同)のすべてを満たしており,家族性CLCAT欠損症が強く疑われた.そこでCLCAT活性を測定したところ,70未満(正常値C235~550)と低値であり家族性CLCAT欠損症と診断した.鑑別診断としてムコ多糖症,タンジール(Tangier)病,魚眼病,アポリポ蛋白CA1異常症があげられるが,全身検査結果と徴候が異なることからいずれも否定的である.今回のような両眼の著明な角膜混濁を診察した場合,頻度は非常に少ないが,家族性CLCAT欠損症も疑って血液検査や全身的検査もすべきであると思われた.文献1)Norum,CKR,CGjoneE:FamilialCplasmalecithine:choles-terolCacyltransferaseCde.ciency.CScandCJCClinCLabCInvestC20:231-243,C19672)木下誠:家族性CLCAT欠損症.日本臨床C52:144-149,C1994C

時の人 山上 聡 先生

2019年8月31日 土曜日

日本大学医学部視覚科学系眼科学分野主任教授山やま上がみ聡さとる先生昭和2年,その前年に日本大学が東京の神田駿河台に開設した「附属駿河台病院」(現在の日本大学病院の前身)に眼科が設置された.大正14年に医学部(当時は専門部医学科という名称だった)が誕生してわずか2年後のことである.日大眼科の歴史はこの時に始まった.昭和10年,医学科は現在の東京都板橋区にキャンパスと病院(現在の日本大学医学部附属板橋病院)を新設し,そちらに本拠を移した.それ以来,眼科も板橋と駿河台の両方に立脚して運営されてきた.***日大眼科は,これまで板橋では前眼部を専門とする歴代教授陣(国友昇先生,北野周作先生,澤充先生など)が,駿河台では網膜硝子体を専門とする教授陣(加藤謙先生,松井瑞夫先生,湯沢美都子先生など)がそれぞれの医局を育ててきたという伝統がある.もちろん両病院間の相互交流は活発で,専門外来の運営も共同で行われている.このように日大眼科は両病院を中心に切磋琢磨し,日本の眼科臨床と研究の中核として発展してきた.この特色と歴史のある日大眼科を3年前から率いているのが,今回ご登場いただいた山上聡先生である.第9代主任教授として山上先生が就任したのは2016年4月.角膜移植手術,角膜研究を専門とする山上先生の就任で,これまで培われてきた日大眼科の実力が,さらに厚みをましたことは間違いないと言えるだろう.就任から今日までの間に手術件数は約2倍となり,医局入局者も合計18人と安定した医局運営が続いている.***山上先生は1988年に金沢大学医学部を卒業し,東京大学医学部眼科学教室に入局した.早くから角膜疾患を自身のテーマに据え,学位論文(東京大学)も角膜移植に関する研究だった.1995年に自治医科大学眼科講師となり,1998年にはハーバード大学スケペンス眼研究所(SchepensEyeResearchInstitute)に留学し,角膜移植の免疫反応の研究に携わった.2002年に東大大学院医学系研究科角膜組織再生医療寄附講座の客員助教授となり,角膜移植の免疫反応の研究継続,角膜の免疫担当細胞の研究,角膜再生医療の研究と再生医療による眼表面再建などの臨床研究をチームの中心となってリードした.まさに角膜一筋といった感がある.2008年からは東京女子医科大学東医療センター眼科の准教授として,また2011年からは東大医学部附属病院の角膜移植部部長として,角膜移植や再生医療の臨床と研究に手腕を発揮してきた.2016年に日大眼科の主任教授に就任してからは,優秀な眼科医を育てるための後期研修の充実に気を配りつつ,研究者として角膜移植の免疫反応,再生医療によらない眼表面再建,コンタクトレンズのドラッグデリバリーの研究などを率先して指導している.山上先生は,医局員や大学院生には医学研究を行う基礎的な技術や方法論を身につけてもらいたいと考えている.しかしそれだけではなく,研究には,常に「なぜだろう」と疑問をもち,それを解決しようとするリサーチマインドが欠かせないという.さらに,研究に没頭するためには十分な収入と研究時間も必要である.だから,それらを提供できるように環境を整備することも自分の任務であると先生は言う.そのうえで,患者さんの利益を第一に考えた高い臨床レベルを維持するべく,眼科スタッフ全体をまとめていくことに日々腐心しておられる.***先生の趣味はゴルフだが,「スコアは数年前より悪くなっている」とのこと.先生は4歳と6歳のかわいい盛りのお子さんのパパでもある.趣味のゴルフより,お子さんたちと過ごす時間のほうが優先されるのは当然である.スコアが伸びないのも無理はない.(65)あたらしい眼科Vol.36,No.8,201910350910-1810/19/\100/頁/JCOPY

斜視のボツリヌス治療

2019年8月31日 土曜日

斜視のボツリヌス治療BotulinumToxinfortheTreatmentofStrabismus清水有紀子*はじめに斜視治療には,プリズム装用による光学的治療や感覚面を主とする訓練などがあるが,眼位そのものを物理的に改善させる方法は手術のみであった.2015年に日本でも斜視に対してボツリヌス毒素製剤(ボトックスCTM:以下,BTX)が承認され,治療の新たな選択肢となった.しかし,どのような症例にCBTX治療が適しているのか,手術との兼ね合いや位置づけについては標準化されておらず,一部の施設での実施にとどまっている.本稿では斜視に対するCBTX治療について筆者の経験を中心に述べる.CI作用機序BTXは,神経終末に作用してアセチルコリンの放出を阻害し筋収縮を抑制する.神経終末の変化は注射後早期に起こるが,臨床的には2~3日後に効果が現れ,1~2週間以内に効果が安定する.その後C3~4カ月で,神経終末に側鎖が形成されて筋収縮力は徐々に回復し,BTXの効果が減弱する.斜視の治療として用いるには,BTXを外眼筋に注射して,筋の収縮力を弱めることにより眼位の矯正をめざす.たとえば内斜視の場合は内直筋にCBTXを注射すると,内転作用が弱くなり眼位が改善される.斜視手術との違いは,筋収縮を弱める作用に限ることから,後転術の適応となる筋がおもな対象となり,短縮前転術のような効果は得られない.また,薬理作用そのものはC3カ月程度で減弱することが手術ともっとも異なる点である.CII使用上の注意添付文書では,斜視に対するCBTX治療の規定の講習を受けた医師が,12歳以上の斜視患者に対して投与できる.目的とする筋に確実に注射するために,筋電計を用いるか外科的露出により注射部位を同定することが条件となっている.禁忌は妊婦および授乳婦と全身性の神経筋接合部の障害をもつ症例である.神経筋接合部障害の代表ともいえる重症筋無力症による斜視は,外転神経麻痺や急性内斜視と紛らわしいことがある.外眼筋に使用するCBTXは少量ではあるが,治療を行う前に重症筋無力症の鑑別にはとくに注意を要する.CIIIBTX治療の選択一般的に,プリズム装用で複視が改善されない斜視に対しては,眼位を矯正するために手術が選択される.手術は長年の実績があり,その手技や効果が確立されており,通常の手術で治癒の見込みが高ければ手術が第一選択となる.裏を返せば,BTX治療が選択肢となるのは,手術の適応や術量決定がむずかしいとか,他の理由ですぐに手術を選べない症例である.たとえば,急性期の甲状腺眼症は消炎治療を行うが,治療中に斜視が改善することも悪化することもある.手術の要否の見きわめと術式や術量を決定するために,通常は消炎し安定するまで数カ月待つ必要がある.このように,症状の見きわめを*YukikoShimizu:ツカザキ病院眼科〔別刷請求先〕清水有紀子:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久C68-1ツカザキ病院眼科C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(59)C1029図1筋電計と電極筋電計に皮膚に貼付する基準電極と電極付き針のコードをつないだ状態.電極付き針にはC1Cmlのシリンジを接続している.図3記録した筋電図(解析後)電極付き針を刺入した状態で眼球運動させると,筋の収縮時には反応音が大きくなり正しい位置に刺入されていることが確認できる.図2筋に刺入した状態右眼の内直筋に刺入し筋電図を確認する.薬液の拡散を減らす目的で,注入する薬液量はC0.05Cmlに固定し,濃度を変更して投与単位数を調整している.角膜カバーを使用している.眼球の接線方向に刺入するため,余程の勢いをつけなければ実際には穿孔しない.一般的にはドレープは使用せず,外来の処置ベッドなどで行われることが多い.通常の治療終了後は痛みや出血はないため,眼帯は不要でそのまま帰宅できる.CVBTX治療の利点1.簡便さと低侵襲BTX治療の大きな特徴に,①外来で点眼麻酔下に短時間で治療が可能,②結膜やCTenon.への侵襲が小さい,③治療後の痛みや異物感,出血がない,④筋の移動がなく反復投与が可能である,などがあげられる.BTXの準備が必要になるが,受診日の状態によっては当日に治療を行うことも可能である.高齢で短時間しか仰臥位が維持できない,通院回数を減らしたい,本人や病院の予定で手術日程が先になるなどの状況で,複視の軽減を強く希望する場合につなぎ治療として簡便に実施できる利点がある.C2.可逆性約C3カ月で薬剤自体の効果が減弱することは一見不利に思われるが,一時的な効果を目的としたり,シミュレーションとして利用する方法がある.精査や経過観察に期間を要する症例の当面の眼位を矯正したい場合や,術量決定が困難で手術では過矯正が心配される場合に,BTX治療の可逆性が有利になる.具体例として,外転神経麻痺による内斜視は自然治癒が期待できるため,通常はC3~6カ月の経過観察後に症状が残存すれば手術を行う.この経過観察期間中の複視は角度が大きいとプリズム装用も困難となるが,発症1~2カ月の時期にCBTX治療を行うと複視や代償頭位を軽減できる1).もしも,BTX治療後に過矯正となってもC3カ月で薬理作用が減弱するために,その後の治療や最終予後に悪影響はない.C3.単独治療の可能性複数回の投与を含めると,BTXのみで手術を回避できる症例がある.術後の痛みや充血がなく低侵襲であることと合わせると,MRIや手術を待つ間にCBTX治療を行って,それだけで症状が改善すれば患者にとっては大きなメリットがある.CVIBTX治療の欠点1.効果の減弱効果の減弱は最大の欠点であり,持続する斜視の治療としては不適当である.間欠性外斜視や慢性期の麻痺性斜視にCBTXを単独治療として用いると,効果の減弱する数カ月後には眼位が元に戻ってしまうため,特別な事情がない場合はCBTX治療より手術を優先するほうがよい.C2.不安定性同じ量のCBTXを注射しても,症例によって,また同じ症例でもC1回目とC2回目で斜視角の変化量が異なることがある.このような効果の不安定性も実施にあたっては大きな欠点といえる.効果の違いの原因が症例の背景にあるのか,注射部位などの手技によるものかは現在わかっていない.自験例ではCBTX1単位あたりの斜視角の変化量(最大変化時)は内斜視C15例でC2~54.4(平均C14.7±13.4,中央値C15)プリズムと非常に大きな幅があり,投与量の決定や治療効果の予測を困難にしている.目標より低矯正の場合は追加治療を考慮し,過矯正の場合は自然経過で薬剤の効果が減弱することで改善される.C3.合併症BTX治療の合併症としてもっとも多いのは眼瞼下垂である.海外の報告ではC10~50%2),わが国の治験時のデータではC17%とされている.ついで一過性上下偏位8.3~18.5%2)が続く.自験例でも,2Cmm以上の上眼瞼挙筋能の低下を眼瞼下垂に含めると過半数に生じ,程度が強い場合は整容的に問題となる.眼瞼下垂も上下偏位もその程度にかかわらず,3カ月以内に全例改善し,あらかじめ十分に説明しておくと最終的には問題とならない.しかし,拡散した薬液が,他の外眼筋や神経にして起こると考えられるこれらの合併症は,発生や程度の予測ができない点が手術に比べて不利といえる.発生機序について,筋電図の確認時に筋膜を損傷し,そこから薬(61)あたらしい眼科Vol.36,No.8,2019C1031図4後転内斜視(17歳,女性)a:治療前.遠見C35⊿内斜視,チトマスステレオテスト(TST)40”.Cb:治療後.右眼内直筋にC1.25単位CBTX注射後C24カ月経過.遠見2⊿内斜位,TST40”を維持.

Cyclophorometerを用いた回旋複視の定量と手術

2019年8月31日 土曜日

Cyclophorometerを用いた回旋複視の定量と手術UsingaCyclophorometerforQuanti.cationofRotationalDeviationinRectusMuscleTranspositionSurgery林孝雄*はじめに回旋複視とは,左右の像が傾いて二重に見える症状であり,眼球の前後を軸とした回旋偏位,すなわち眼球の子午線(12時と6時を結ぶ線)が傾く状態が大きいときに自覚される.眼球上部(12時の位置)が耳側に傾く場合を外方回旋,逆に鼻側に傾く場合を内方回旋という(図1).回旋複視を矯正する方法は,プリズムなどの光学的治療法では不可能で,外眼筋の移動術が必要となる.回旋斜視に対する手術のうち,斜筋の手術は疼痛を伴うので全身麻酔を必要とするが,4直筋の移動術は局所麻酔下で行える.このとき,筆者らは回旋の矯正効果を術中に調べるために回旋偏位測定装置Cyclophorometer(南旺光学)を使用している.Cyclophorometerとは,自覚的な回旋偏位を測定する検査機器(図2)であり,頭部外傷による両側性滑車神経麻痺の患者の術中定量を目的として開発された1).本稿では,回旋斜視の種類,Cyclophorometerを用いた回旋複視の定量方法と麻痺性斜視の診断,および回旋斜視に対する術式の選択方法を示し,局所麻酔下での術中にCyclophorometerを用いた回旋斜視矯正手術について述べる.I回旋斜視の種類外方回旋している場合を外方回旋斜視,内方回旋している場合を内方回旋斜視といい,単眼のことも両眼のこ右眼左眼図1眼球の回旋眼球の子午線(12時と6時を結ぶ線)の上部が耳側に傾くのを外方回旋,鼻側に傾くのを内方回旋という.ともありうる.ただし,回旋偏位は,上下直筋あるいは斜筋の麻痺や過動などで起こるので,純粋な回旋のみの斜視はまれで,上下偏位や水平偏位を伴っていることが多い.上下筋の麻痺による回旋および上下斜視の状態を表1に示す.II回旋偏位の定量と麻痺筋の診断回旋斜視の定量方法は,自覚的検査法として大型弱視鏡検査,Maddox二重杆試験,ニューサイクロテストなどがあり,他覚的検査法には眼底写真撮影法などが一般的である.上下筋4筋の単独麻痺の場合,9方向むき眼位のどの部位で上下偏位や回旋偏位が大きいかがわかれば,麻痺筋の診断がつけられる.すなわち,それぞれの筋には最大作用部位(図3)があり,麻痺すればその部位での上下偏位や回旋偏位が最大値を示す.*TakaoHayashi:帝京大学医療技術学部視能矯正学科〔別刷請求先〕林孝雄:〒173-8606東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医療技術学部視能矯正学科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(53)1023赤いBagolini緑のMaddox杆目盛りダイヤル線条レンズ(測定眼)(固視眼)図2Cyclophorometer固視眼側には赤いBagolini線条レンズ,測定眼側には緑のMaddox杆がそれぞれ垂直方向に配置されている.点光源を覗くと,赤いBagolini線条レンズ越しでは,固視が容易にできるように点光源が見え,その左右に赤い線が見える.緑のMaddox杆越しでは点光源は見えず,緑の線のみが見える.ダイヤルを回して赤と緑の両線が平行になったときの角度(°)が目盛りに表され,この値が自覚的な回旋偏位度となる.表1上下筋の麻痺による回旋および上下斜視回旋上下上直筋麻痺外方回旋斜視下斜視下直筋麻痺内方回旋斜視上斜視上斜筋麻痺外方回旋斜視上斜視下斜筋麻痺内方回旋斜視下斜視直筋と斜筋のそれぞれの麻痺により,回旋斜視のみではなく上下斜視も生じる.a上・下転作用(緑:上転,赤:下転)上直筋下斜筋下斜筋上直筋下直筋上斜筋上斜筋下直筋右眼左眼b回旋作用(青:内方回旋,茶:外方回旋)下斜筋上直筋上直筋下斜筋上斜筋下直筋下直筋上斜筋右眼左眼図3上下筋の最大作用部位a:上・下転作用では,上直筋の上転は外上転時,下直筋の下転は外下転時,下斜筋の上転は内上転時,上斜筋の下転は内下転時に,それぞれもっとも大きく働く.b:回旋作用では,上直筋の内方回旋は内上転時,下直筋の外方回旋は内下転時,下斜筋の外方回旋は外上転時,上斜筋の内方回旋は外下転時にもっとも大きく働く.自覚的斜視角(°)右眼固視ab+2+2+1R/L2R/L1R/L1Ex2Ex2Ex2+3+2+1R/L6R/L5R/L3Ex4Ex4Ex5+3+2+2R/L9R/L7R/L6Ex5Ex6Ex8左右R:右,L:左,Ex:外方回旋図4右眼滑車神経麻痺の大型弱視鏡検査所見右眼滑車神経麻痺では,左下での下転作用が弱くなるためR/L(右上斜視)9°と最大となっており,右下での内方回旋作用が弱くなるためEx(外方回旋)8°と最大となっている.図5大型弱視鏡検査の回旋偏位定量用視標大型弱視鏡では,自覚的な回旋偏位が測定できる.固視眼にaの視標,測定眼にbの視標を入れ,bの十字がaの緑4枠の隙間に傾きなく収まるように被検者の返答を聞きながら,検者がbを回旋させて回旋偏位量をみる.ab図6Hessスクリーンを利用した回旋偏位の測定aのようにHessスクリーンの固視点に点光源を置き,bのようにCyclophorometer越しに見させる.9方向むき眼位での固視点で行えば,それぞれの位置での回旋偏位が測定できる.表2回旋斜視に対する一般的な術式斜筋上下直筋水平直筋外方回旋斜視上斜筋前部前転術(原田-伊藤法)上直筋耳側移動術内直筋上方移動術下斜筋弱化術下直筋鼻側移動術外直筋下方移動術内方回旋斜視上斜筋弱化術上直筋鼻側移動術内直筋下方移動術下斜筋強化術下直筋耳側移動術外直筋上方移動術斜筋手術は全身麻酔下で,上下・水平直筋の移動術は基本的に局所麻酔下で行う.ab図7Cyclophorometerでの術中回旋偏位測定a:視能訓練士に洗眼直前に回旋偏位量を測定してもらう.ペンライトを上方にアームで固定して点光源とし,外方回旋側から緑と赤の線が平行になったところと,内方回旋側から同様に平行になったところの回旋偏位量を測定する.写真の症例は,上下偏位のない内方回旋9°の患者なので,緑のMaddox杆の上に付属のプリズムのアタッチメントを当て,緑と赤の線が上下にずれて一直線にならないように見せて,両線の平行具合がわかりやすいようにしている.b:下直筋を1.25筋幅耳側移動して仮縫合した状態で,清潔なリネンに触れないように再度回旋偏位を測定してもらう.このとき,外方回旋側から外方回旋偏位が2°,内方回旋側から内方回旋偏位が3°と,上述した約10°以内の融像域内に入っており,さらに,天井に印した横線も自覚的に傾いたり,ダブって見えたりしていないことを確認したので,そのまま仮縫合をほどき,本縫合をして手術を終了した.

外眼筋Plication手術

2019年8月31日 土曜日

外眼筋Plication手術ProcedureforRectusMusclePlication木村友剛*木村徹*はじめに水平斜視に対する手術において,筋強化手術のスタンダードは短縮術である.しかし,短縮術は後転術に比較して術操作がむずかしく,介助者にも慣れが必要で,一定のラーニングカーブが存在する術式である.たとえば,筋付着部や筋腹を切除した際には断端からの出血は避けられないが,とくに高齢者や抗凝固薬内服中の症例では出血が多く生じ,その後の術操作に支障をきたすことがある.また,強膜から切離した後の筋はていねいに扱う必要があるが,筋が菲薄化している症例では操作の途中で筋線維が裂けてしまい,強膜との縫合が困難になることがある.近年,短縮術と類似した術式であるCplicationの術後成績が相次いで報告されており,短縮術と比較してさまざまな利点をもつことがわかってきた.本稿では新しい術式であるCplicationについて概説する.CIPlicationの特徴Plicationでは筋を付着部から切離せず低侵襲であることに起因するさまざまな利点がある.術中の利点として,筋断端からの出血が生じないため術野の視認性が良好で,術操作が容易となる.また,術量が多い短縮術では,切離した筋を前方に引っ張りつつ強膜へ縫着するため,とくに介助者に慣れが必要であるが,plicationは術量が多くても比較的操作が容易である.術後の利点として,lostmuscleを生じる可能性がなくなる.また,切腱しないため前眼部虚血を回避できる可能性が示唆されており,3筋同時手術が可能であった症例も報告されている1).さらに,術後に過矯正が生じ修正を余儀なくされた場合でも,早期であれば筋と強膜との縫合をはずすことにより,ある程度の修正を行うことが可能である2).欠点としては,新しい術式のため長期経過が不明であることがあげられる.また,筋を切離しないため筋移動術を同時に行うことができない.したがって,回旋偏位をもつ斜視やCAV型の斜視に対しては,他の後転筋に対して移動術を組み合わせることで対処する必要がある.現段階でのCplicationの積極的な適応としては,前眼部虚血の発症リスクが高い高齢者や糖尿病患者に対する症例,3筋同時手術を行う必要性がある症例,術後の矯正量の予測がむずかしい非共同性斜視や再手術症例などが考えられる.CII手技筋を折りたたむ手技に関して大きく分けて二つの方法が報告されており,筋を結膜側に凸に折りたたむ方法2)と強膜側に凸に折りたたむ方法3)がある.どちらの方法が優れているかは,まだはっきりしていない.結膜側に凸となる方法のほうが前毛様体の循環を温存しやすく,前眼部虚血に対して有用であるとの主張がある一方,強*YugoKimura&*ToruKimura:木村眼科内科病院〔別刷請求先〕木村友剛:〒737-0029広島県呉市宝町C3-15木村眼科内科病院C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(47)C1017図1Plication術中所見a:付着部から予定量をマーキングしたあと,筋の中央と上下端のC3点で通糸する.筋付着部前端の強膜へ通糸したあと,2-1-1で結紮する.Cb:始めの結紮で筋が折りたたまれ,筋の上下端が付着部に寄っていることを確認したあと,介助者に結び目を把持してもらう.その後C1-1で緩みのないように結紮する.C-に当てはめて術量を決定した場合では,直線回帰式に当てはめるとCplicationでは外斜視でCRC2がC0.69,内斜視でCR2がC0.97,短縮術では外斜視でCRC2がC0.69,内斜視でCR2がC0.95であり,plicationは短縮術と同等の効果があると報告されている3).また,他施設での術後経過の報告においても,plicationは短縮術と同じ術量を採用している6.8).一方,当院では短縮術よりもC1,2Cmm程度少なめに定量を行っている9).理由として,短縮術は筋付着部のちょうど上下端の強膜に通糸しているのに対し,plicationでは筋の付着部前方の強膜に通糸しており,若干の前転効果が生じているためと考えている.したがって,若干の手技の違いによって差はあるがCplica-tionは短縮術と同程度の効果があるとみなしてよいと考えている.また,外斜視に対する後転短縮術では,術前眼位が大きくなるにつれC1Cmmあたりの矯正効果が大きくなることが知られている10).初川らの報告によると,後転短縮それぞれC1Cmmあたりの矯正効果は,術前眼位がC30プリズム以上の症例はC30プリズム以下の症例より約C1プリズム多くなることが示されている11).自験例においても術量C1Cmmあたりの矯正効果は,短縮術C50例では平均C3.1プリズム,plication57例では平均C3.7プリズムで,術前眼位との相関係数は短縮術がCRC2=0.23(p<0.001),plicationがCRC2=0.12(p=0.001)と正の相関を認めた.Plicationにおいても,大角度の外斜視では過矯正にならないような術量の決定に注意する必要がある.CIV術後眼位経過水平斜視に対する片眼手術においては,内外直筋の後転術と短縮術が基本的な術式であるが,近年,後転+短縮術と後転+plicationを比較した術後早期の成績が報告されている.術後C1年程度の経過観察期間では,外斜視においても,内斜視においても,術式の違いによる術後眼位には差がないとする報告が多い.術後成功率において,Hustonらは内斜視のCplicationがC95.5%,短縮が89.2%,外斜視のCplicationがC77.4%,短縮がC96.2%6),SonwaniらはCplicationがC55.6%,短縮がC63.6%8),筆者らはCplicationがC67%,短縮がC60%9)で,いずれの報告でも差を示さなかった.しかし,Alkharashiらは,plicationでは成功率が有意に劣っており,術後C6.12週の成功率はCplicationがC58%,短縮がC89%であったことを報告している12).一方で,plicationは短縮術と比較して有利な術後経過を示す可能性が報告されている.間欠性外斜視に対するCplicationは,短縮術と術C1年後の眼位と成功率には差がなかったが,術C1週間後と術C1カ月後の眼位の比較においてCplicationは平均C1.7プリズムの戻りがあったのに対し短縮術はC3.8プリズムの戻りがあり,plicationは短縮術よりも術後早期の戻り量が少ないことが示されている.そのため,plicationでは術直後の意図的な過矯正を大きくしなくてもよく,術後早期の複視を自覚する症例を減らすことが可能であったことが報告されている9).長期の眼位経過に関してまだ検討された報告はないが,積極的にCplicationを行う理由の一つになりうるかもしれない.また,外斜視術後の外転制限は,短縮術と同様に術量が多い場合は必発である.術後の外方視時に生じる複視に関して留意する必要があるが,術後眼位の戻りとともに軽減する.CV術後結膜創の経過Plicationの術量が多い症例では,術後に折りたたまれた筋が盛り上がってみえる.しかし,多くの症例で術後数カ月の経過で結膜の盛り上がりは平坦化し消退する(図2a,b).一方で,内直筋のCplicationを行った症例で,結膜の盛り上がりが残存した症例も存在する(図2c,d).CVI術後過矯正の修正Plicationの有利な点として,術後過矯正であった場合に,術後早期であれば縫合した結紮をはずすことで眼位の修正が可能であることがあげられている2).通常の短縮術後の再手術では,筋を強膜や結膜との癒着をはずして筋を十分露出したあとに後転するが,手技に手間がかかり,また術後眼位の予測は良好とはいえない.しかし,plication術後早期の再手術の場合は,手術時の侵襲が少なく容易に元に戻すことが可能である.一般的には,術後早期は眼位が安定せず,戻りが生じる可能性も(49)あたらしい眼科Vol.36,No.8,2019C1019術1週間後術2カ月後図2結膜創の変化a:内直筋C6Cmmのplication.術C1週間後.結膜下に折りたたまれた筋が盛り上がっている.Cb:術C2カ月後.結膜充血は改善し,結膜創はほぼ平坦化している.c:内直筋C7CmmのCplication,術C1週間後.結膜創の盛り上がりを認める.d:術C2カ月後.結膜創の盛り上がりが残存している.図3過矯正のため術後3日目に再手術を行った例a:筋付着部後方の結膜下に折りたたまれた筋を認める().b:筋上下端の縫合を切除することで,筋はほぼ正常な形でもとに戻った(:初回手術時に筋上下端に通糸した部位).図4過矯正のため術後1カ月で再手術を行った例a:筋付着部前端に吸収糸が残存しているが,折りたたまれた筋はすでに平坦化している().b:筋の表面の結合組織をはずし結紮した糸を除去したが,折りたたまれた筋同士が癒着している(:筋の付着部上下端).

斜視診療での前眼部OCTの活用

2019年8月31日 土曜日

斜視診療での前眼部OCTの活用TheApplicationofAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomographyforStrabismus鈴木寛子*稲垣理佐子**はじめに前眼部三次元光干渉断層計(3-dimensionalanteriorsegmentopticalcoherencetomography,以下,前眼部OCT)は測定光に長波長の赤外光が用いられ,透明組織だけでなく可視光では透過しない不透明組織の描出ができるよう開発された.現在では従来のtimedomain方式からFourierdomain(FD)方式に改良され,測定時間はtimedomain方式の10倍以上の速さとなり,短時間で高解像度の画像の撮影が可能となった.FD-OCTにはspectraldomain(SD)方式とswept-source(SS)方式がある.前眼部OCTはおもに角膜・前房の撮影では円錐角膜や角膜の移植後の評価,角膜潰瘍や角膜外傷の観察などに用いられる.角膜形状解析では,角膜の前面と後面を含む全体の形状解析,トーリックの眼内レンズを用いた手術の術前検査にも有用である.隅角の撮影では,前房隅角の定量測定を行い,閉塞隅角のスクリーニングや術前術後の観察や,水晶体・濾過胞・強膜の観察などにも使用されている.I前眼部OCTの斜視診療への応用斜視の診療では,数年~数十年前に一度斜視手術を受けたが,再び斜視になったため斜視を治したいと来院される患者がいる.しかし,以前の手術から年月が経過している場合,診療録が残っていなかったり,患者自身の記憶が曖昧であったりと,過去にどんな手術を受けたか,また以前はどんな斜視であったかがわからないという場面に遭遇する.その際には,まず過去の写真から以前の斜視の状態を確認する.検査では細隙灯顕微鏡を用い,結膜の瘢痕をみつけることで,以前手術を受けた筋を想定することができる.しかし,以前の手術が小切開で行われている場合や,瘢痕がきれいで目立たない場合は見逃す可能性がある.結膜に瘢痕がみられたとしても,前転されているのか,後転されているのか,後転量はどれくらいなのかの情報を細隙灯顕微鏡検査から知ることは不可能である.そこで,CTやMRI,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)などを用いることで,手術を受けた外眼筋の情報を得る方法が行われる.しかし,CTは被爆の影響があること,MRIは時間と費用がかかること,UBMは接触性で小児には不可能であることなど,その使用には制限がある.近年,前眼部OCTが斜視の診療においても外眼筋の観察に利用されるようになってきた.2011年にLuiらは前眼部OCTで撮影した筋肉の低反射帯を外眼筋とし,斜視眼の筋付着部を術前に前眼部OCTで測定した値,術中に筋肉の付着部をカリパスで測定した値とに相関があることを報告した1).CTやMRIは外眼筋全体を撮影するのに対し,前眼部OCTでの外眼筋撮影は付着部付近に限られ,得られる画像はUBMの画像と似ている.また,前眼部OCTは非接触性であるため,患者に侵襲を与えず撮影可能で*HirokoSuzuki:浜松医科大学医学部眼科学講座**RisakoInagaki:浜松医科大学医学部附属病院眼科〔別刷請求先〕稲垣理佐子:〒431-3192静岡県浜松市東区半田山1-20-1浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(39)1009表1各機械の特徴特徴および長所短所CT外眼筋全体を撮影する被爆の影響がある画像が荒いMRI外眼筋全体を撮影するシネモードでは外眼筋の収縮伸展が評価できる眼球運動制限があっても撮影可能時間・費用がかかるUBM付着部の描出にすぐれる接触性である前眼部OCT短時間で撮影可能非接触性である付着部の描出にすぐれる小児でも可能眼球運動制限があると撮影不能斜視に関しては保険請求ができない図1外直筋(低反射帯)図2外直筋を後転し低反射帯が不鮮明図3内直筋図4上直筋図5下直筋図6右眼外直筋付着部計測図7眼底用のOCTに前眼部モジュールを設置図8眼底用のOCTに前眼部モジュールオプションをつけて撮影した外直筋b強膜岬外直筋d強膜岬内直筋図9計測方法a:外直筋側前眼部COCT写真.:強膜岬,:結膜上皮,*:外直筋.b:aのシェーマ.結膜上皮~強膜に垂線を引くように「結膜~強膜までの厚さ」を計測した.c:内直筋側前眼部COCT写真.:強膜岬,:結膜上皮,*:内直筋.d:cのシェーマ.結膜上皮~強膜に垂線を引くように「結膜~強膜までの厚さ」を計測した.(文献C13より改変引用)図10外直筋後転・前転術前後の前眼部OCT像a:外直筋術前,b:外直筋後転術後,c:外直筋前転術後.(文献C13より改変引用)図11内直筋後転・前転術前後の前眼部OCT像a:内直筋術前,b:内直筋後転術後,c:内直筋前転術後.(文献C13より改変引用)図12外斜視症例(88歳,男性)の細隙灯顕微鏡写真a:右眼外直筋側,b:右眼内直筋側.幼少期にC2回の斜視手術を受けているが,はっきりした結膜瘢痕は認めない.図13図12の症例の前眼部OCT像a:右眼内直筋側.隅角底よりC9.5Cmm後方に内直筋と思われる低反射帯を認める.Cb:右眼外直筋側.隅角底より7.7Cmm後方に外直筋と思われる低反射帯を認める.-’C

間欠性外斜視の読書時の視線解析

2019年8月31日 土曜日

間欠性外斜視の読書時の視線解析TheAnalysisofReadingPerformanceinPatientswithIntermittentExotropia広田雅和*不二門尚**I間欠性外斜視と行反復間欠性外斜視は子供においてもっとも発症頻度の高い外斜視である1).間欠性外斜視患者は注意が散漫になったときや,屋外で強い太陽光を浴びたとき,疲労が蓄積したときに一眼が外方へ偏位する2,3).検査所見としては,輻湊近点の延長や融像幅の低下が報告されている.日常生活における間欠性外斜視の症状の一つに読書能力の低下があげられる4).間欠性外斜視患者を対象とした読書中の眼球運動解析については,衝動性眼球運動中の両眼共同性が健常者と比較して悪化することや,衝動性眼球運動後のドリフトが増大することが報告されている5).間欠性外斜視患者が読書中に自覚する症状の一つに読書中の行反復があげられる.健常者は読書中,行頭から行末まで文字を読んだ後,次の行頭へ視線を移動し続く文章を読み進める(図1a).一方で一部の間欠性外斜視患者は行末まで文字を読んだ後,次の行頭ではなく同じ行の行頭へ視線が戻ってしまう.行反復がしばしば起こる6)(図1b).筆者らのグループでは,300Hzで両眼の視線位置を記録可能なvideo-oculography(TobiiProTX300:Tobii社)を用いて間欠性外斜視患者が読書中に自覚する行反復を他覚的に定量評価した7).読書能力は年齢と相関があるため,対象は輻湊不全型間欠性外斜視と診断された8名(平均±標準偏差24.0±5.8歳;幅16~32歳)と年ab図1読書中の視線移動通常は行頭から行末まで文字を読んだ後,次の行頭へ視線を移動し続く文章を読み進める(a).一部の間欠性外斜視患者は行末まで文字を読んだ後,次の行頭ではなく同じ行の行頭へ視線が戻ってしまい,話のつじつまが合わなくなり,同じ行の行頭と行末を往復する行反復がしばしば起こる(b).齢をマッチングした健常者10名(26.1±3.8歳;20~34歳)とした.読書内容は横読みの日本語小説(芥川龍之介作『羅生門』)を採用した.視距離は60cm,フォントサイズは10.5ポイント,行幅は15°,行間0.47°,行数42行のコンテンツを計2ページ被験者に読書してもらい,読書中の眼球運動をVOGで記録した.VOGの測定誤差が±0.5°であることから水平眼球運動のみを解析対象とした.間欠性外斜視群と健常群を比較したところ,行反復が起きたときは特徴的な水平眼球運動がみられた(図2).間欠性外斜視患者は健常者よりも読書中の行反復回数が有意に多いことが示された(図3).加えて,間欠性外斜視群は健常群よりも改行に伴う衝動性眼球運動中の両眼共同性が悪く,水平眼位ずれ量が有意に開散側へ偏位し*MasakazuHirota:帝京大学医療技術学部視能矯正学科**TakashiFujikado:大阪大学大学院生命機能研究科特別研究推進講座〔別刷請求先〕広田雅和:〒173-8605東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医療技術学部視能矯正学科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(33)1003図2読書中の行反復時の眼球運動同じ文章(Ca)を読書中,健常者は行末まで文章を読んだあと,次の行頭へ視線を移動させているが(Cb),間欠性外斜視患者は行頭と行末を視線が往復する行反復を起こしている(Cc).図4改行に伴う衝動性眼球運動中の両眼共同性縦軸のプラス表記はディスプレイの中央より右側,マイナス表記は左側をそれぞれ示している.間欠性外斜視患者(a)は健常者(Cb)よりも改行に伴う衝動性眼球運動中の両眼共同性が悪い.行反復回数(回)10864200.0-0.5-1.0-1.5-2.0-2.5-3.0水平眼位ずれ量(度)図6読書中の行反復回数と衝動性眼球運動中の水平眼位ずれ量の関係間欠性外斜視群において,読書中の行反復回数と開散方向への水平眼位ずれ量の間には有意な相関が認められた(R2=0.71,p=0.009,Singlelinearregressionanalysis).図7手術効果斜視手術を受けた間欠性外斜視患者は術後の行反復回数(術前C8回,術後C1回,Ca),水平眼位ずれ量(術前-3.03±0.75°,術後-0.96±0.54°,Cb)ともに術前よりも改善していた.図8スマートフォン読書中の眼位ずれ水平眼位ずれは正の値が内方偏位,負の値が外方偏位をそれぞれ示す.垂直眼位ずれは正の値が上方偏位,負の値が下方偏位をそれぞれ示す.上部のヒストグラムは水平眼位ずれの密度分布を示す.間欠性外斜視患者(Ca)はスマートフォン読書中に両眼視しているとき,両眼視しているときと一眼が外方偏位しているときがみられた.健常者(Cb)はスマートフォン読書中常に両眼視を維持していた.=****ab単眼視頻度(%)***100100***(T)Control(T)Control(T)Control50cm30cm20cmX(T)50cm30cm20cmスマートフォン視聴距離図9スマートフォンの視距離と単眼視頻度a:間欠性外斜視群(n=11)と健常群(n=15)の比較.すべてのスマートフォン視距離において,間欠性外斜視群は健常群よりも単眼視頻度が有意に高かった.Cb:間欠性外斜視群の群内比較.スマートフォン視距離20Ccmでは視距離C50Ccmよりも有意に単眼視頻度が高かった.***:p<0.001,Mann-WhitneyUtest.*:p<0.05,Wilcoxonsignedranktest.Cabc101010888666444222000020406080100020406080100単眼視頻度(%)図10スマートフォン読書中の単眼視頻度と読書速度の関係スマートフォン視距離C50Ccmでは有意差を認めなかった(RC2=0.12,p=0.29,Ca).一方で,視距離C30Ccm(R2=0.49,p=0.01,Cb)とC20cm(RC2=0.38,p=0.02,Cc)においては,スマートフォン読書中に単眼視している頻度と読書速度の間に有意な負の相関を認めた.cps:characterspersecond.020406080100読書速度(cps)806040200806040200