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緑内障セミナー:呼吸機能と眼圧の関連

2025年10月31日 金曜日

●連載◯304監修=福地健郎 中野 匡
304.呼吸機能と眼圧の関連寺内 稜東京慈恵会医科大学眼科学講座
近年のビッグデータ解析から,呼吸機能と眼圧には関連性があると報告されている.慢性閉塞性肺疾患(COPD)では眼を含むさまざまな臓器で血流障害・低酸素血症をきたしていると考えられ,眼科疾患との関連が注目されている.●はじめに
眼圧下降療法は緑内障に対する唯一のエビデンスのある治療法であり,眼圧についての知見を深めることは緑内障診療において重要である.眼圧は常に一定の値をとるのではなく,さまざまな要因の影響を受けながら常に変動している.たとえば,血圧や血糖値が高いと眼圧は高くなる.短期的な変動としては日内変動がよく知られており,長期的には日本人の眼圧は加齢とともに低下する.近年では,大規模な臨床情報を扱うビッグデータ研究によって全身因子と眼圧との新たな関連性があいついで発見されている.筆者らは呼吸器疾患と眼の関連に着目し,全国C28万人の眼圧データを用いて,スパイロメトリーで測定された呼吸機能と眼圧の関連を調査した1).C
●閉塞性換気障害と眼圧
本調査では,人間ドック受診者C283,199名(平均C51.7C±10.3歳)を対象に,非接触型眼圧計およびスパイロメトリーの測定結果を用いた.代表的な呼吸機能評価の指標である一秒率(FEV1%),対標準一秒率(%CFEV1),対標準努力肺活量(%CFVC)(図 1)と眼圧値の関連を検討し,血圧や血糖値などの既知の眼圧影響因子は共変量として調整した.その結果,FEV%と眼圧には正の相関があることが示唆された(b=0.0115,95%CCI:0.013~0.016,p<0.001).FEV%は呼吸機能障害のなかでも閉塞性換気障害を評価す1る代表的な指標であり,70%未満の場合は閉塞性障害が疑われる.FEV%がC95~100%の健常者C4,940名とCFEV%がC60%未満1のC2,288名を比較すると,後者の眼圧は1前者と比較してC0.89mmHg低いことが明らかになった(図 2).この結果から,呼吸機能は眼圧に対する独立した影響因子であることが示唆され,その効果量がC1CmmHg弱にまで及ぶとすれば,臨床的なインパクトは決して小さくないと考えられた.(85)

● COPDは眼圧を下げる?閉塞性換気障害をきたす代表的な疾患として慢性閉塞性肺疾患(chronicCobstructiveCpulmonarydisease:COPD)があげられるが,本調査ではCFEV%が低いグループで喫煙率が高かったため,閉塞性換気1障害の原因としてCCOPDが関与していることが示唆された.このことからCCOPDによる閉塞性換気障害の増悪に伴って眼圧が低下する可能性が考えられた.COPDでは血管収縮に働くエンドセリンC1の血清中濃度が上昇している(図 3).この影響が眼組織にも及んでいるとすれば,エンドセリンC1による過剰な血管収縮によって毛様体の血流障害・低酸素状態が引き起こされ,房水産生能が障害される可能性がある.実際のところ,COPD患者に対して光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomogra-phy angiography:OCTA)を実施した研究では,低酸素状態の悪化と関連して網膜表層・深層および視神経乳頭周囲の血管密度は低下し,中心窩無血管域の有意な拡大も認められた2).さらにCCOPDでは脈絡膜厚が菲薄化しているとの報告もある3).これらの知見をふまえると,COPDにおいて房水産生能が低下しているという仮説は十分考慮に値すると思われる.一方でCCOPDでは肺に溜めた空気を吐き出す際に努力呼吸となる.これに伴い胸腔内圧が上昇し,頭部からの静脈還流が低下することで眼圧が上昇する可能性も考えられる.このようにCOPDでは眼圧を低下させる機序と上昇させる機序の両方が考えられるが,筆者らの研究結果を考慮すると,眼圧低下に作用する機序がより強く影響しているものと思われる.C
● COPDと緑内障COPDは眼圧だけでなく緑内障そのものとの関連も指摘されている.UKBiobankのC85,369名を対象とした研究では,肺機能検査の各指標と眼圧は正の相関を示すとともに,緑内障の有病率と有意な逆相関の関係がああたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  1303 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 

一秒率対標準一秒率図 1 換気障害の分類換気障害は閉塞性および拘束性に大別される.閉塞性換気障害は慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息が代表的な疾患であり,一秒率が低下する.拘束性障害は肺線維症や間質性肺炎などで対標準肺活量が低下する.

ることが明らかにされた4).また,8,941名を対象とした韓国からの報告でも,COPDは女性において緑内障のリスクになることが示唆されている5).COPDが緑内障リスクを高める機序は不明であるが,眼圧上昇を介さずに網膜の微小血管障害や虚血性変化などが関与している可能性がある.C
●ま と め
このように近年の大規模データを用いた研究を中心に,呼吸機能と眼の関連があいついで報告されている.睡眠時無呼吸症候群と緑内障の関連はすでによく知られているが,COPDを含めた他の呼吸器疾患も緑内障診療において重要かもしれない.前述の通りCCOPDが眼圧や緑内障発症に影響を及ぼす機序については仮説の範疇を出ず,ほとんど解明されていないのが現状であり,今後のさらなる研究が期待される.C1304  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,202590 to 95 85 to 90 80 to 85 75 to 80 70 to 75 65 to 70 60 to 65 under 60 
-1.5-1.0-0.5 0.0 0.5 眼圧(mmHg)図 2 1秒率( FEV1%)と眼圧の関係 FEV1%がC95%以上のグループを基準としてCFEV%の低下に伴う眼圧の変化を示す.年齢,性別,BMI,血圧1,HbA1c,心拍数,ヘマトクリット,喫煙,飲酒,運動習慣などを共変量として調整した.図 3 慢性閉塞性換気障害( COPD)が眼圧に与える影響COPDでは努力呼吸に伴う胸腔内圧上昇により頭部からの静脈還流が低下し,眼圧上昇をきたす機序が考えられる.一方で過剰なエンドセリン1の産生は,毛様体への血流障害を引き起こし,房水産生能を低下させる可能性がある.文   献1)TerauchiCR,CFukaiCK,CFujimotoCSCetal:RelationshipCbetween intraocular pressure and pulmonary function. Sci RepC15:21187,C2025
2)Songur MS, .ntepe YS, Bayhan SA et al:The alterations ofCretinalCvasculatureCdetectedConCopticalCcoherenceCtomography angiography associated with chronic obstruc-tive pulmonary disease. Clin Respir JC16:284-292,C2022
3)Alim S, Demir HD, Yilmaz A et al:To evaluate the e.ect ofCchronicCobstructiveCpulmonaryCdiseaseConCretinalCandCchoroidalCthicknessesCmeasuredCbyCopticalCcoherenceCtomography. J OphthalmolC2019:7463815,C2019
4)YuCJ,CZhangCY,CKamCKWCetal:LungCfunctionCasCaCbio-markerCforglaucoma:TheCUKCBiobankCStudy.CInvestCOphthalmol Vis SciC66:48-48,C2025
5)LeeCJS,CKimCYJ,CKimCSSCetal:IncreasedCriskCofCopen-angleCglaucomaCinCnon-smokingCwomenCwithCobstructiveCpatternCofCspirometricCtests.CScienti.cCReportsC12:16915,C2022

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屈折矯正手術セミナー:ICL縦固定の実際

2025年10月31日 金曜日

●連載◯305監修=稗田 牧 神谷和孝 305. ICL縦固定の実際北澤世志博アイクリニック東京
有水晶体後房レンズのCimplantable collamer lens(ICL)は,ホールの開発により虹彩切除が不要になったことで必ずしも横固定にする必要がなくなった.そこでレンズのサイズ選択に悩む場合やトーリックCICLで回旋を避けるために縦固定が施行されている.しかし,縦固定用のサイズ決定方法が未確立の現時点では,全症例を縦固定にするのではなく横固定と縦固定を使い分けることが望ましい.● ICLが耳側切開&横固定であった理由
スターサージカル社(以下,STAAR社)の有水晶体後房レンズCimplantableCcollamerlens(ICL)はC2010年に厚労省の承認を受けたが,当時はホールがなく,虹彩切開・切除が必要であった.そのため切除した房水循環の穴がレンズで閉鎖されないようにレンズは水平に固定しなければならなかった.その後C2014年にホールCICLが登場して虹彩切除は不要になったが,レンズ挿入時に透明水晶体に触れないように,また眼内に挿入後に回転させる必要がないことから,レンズは耳側切開挿入で水平固定が安全とされた.また,トーリックCICLは乱視軸が垂直方向に入っていたため,レンズは水平方向,すなわち横固定にしなければならなかった.C
● ICL縦固定の必要性

ICLにはC12.1,12.6,13.2,13.7のC4サイズがあるが,術後にレンズと水晶体との距離(vault)が極端なChighvaultやClowvaultになり,レンズのサイズ交換が必要になることがあった.実際,筆者がC2007年C11月~2025年C8月にCICLを挿入したC16,609例C33,067眼のうち,ホールCICL 15,687例C31,246眼においてサイズ交換が必要となったケースがC30例C38眼(0.12%)あった.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomorgaphy:OCT)のCCASIA2に推奨サイズと術後予想Cvaultが表示されるCNK式とCKS式が搭載されて,サイズの問題はかなり減った.しかし,両式の推奨サイズが異なる場合は,術後予想CvaultがC500Cμmに近いサイズを選択していたが,結果として全体でC18.8%が術後Chighvaultに,そしてC16.9%がClowvaultになった(図 1).また,トーリックCICLでは,サイズが小さく極端なClow vaultにな(83)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 
るとレンズが縦に90°
回転したり,vaultが十分あるにもかかわらずレンズが回旋することで乱視矯正効果が減弱してしまうケースが散見された.このような場合には一つ大きなサイズに入れ替えて縦固定にするとレンズの再回旋が防げることから,レンズを縦固定にするという発想が生まれた.つまり,ホールICLの開発によりレンズは必ずしも水平方向に固定する必要がなくなり,トーリックの回旋を防ぐためにもレンズは最初から縦固定にするほうがよいのではないかとの考えから,縦固定1,2)の臨床成績が報告されている.また,STAAR社が縦固定用のトーリックICLの生産を増やしたこともあり,レンズの縦固定が一般的に施行されるようになった.C● ICL横固定縦固定v.s.筆者はCASIA2による推奨サイズが両式で異なる場合を中心に,サイズ選択に迷う場合にはサイズが大きいほうのレンズを縦固定にする方法を採用した.選択した割合(%) 100 ■ low vault ■ normal vault ■ high vault 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0サイズ図 1 両式の推奨サイズが異なった症例の術後 Vault(207眼)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  1301 
横固定(4,627眼)縦固定(613眼)Normal vaultを 200~800μmと定義0.9%3.1%4.4% 100.0 ■ low vault ■ normal vault ■ high vault 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 
40.0 30.0
図 2 選択したレンズのサイズ(固定方向別) 20.0 10.0レンズのサイズを方向別にみると,横固定ではC12.6がC0.0 12.1 12.6 13.2 13.7全体割合(%)

■ 12.1 ■ 12.6 ■ 13.2 ■ 13.7 ■ 12.1 ■ 12.6 ■ 13.2 ■ 13.7 
65.1%ともっとも多く,ついでC13.2,12.1の順となったのに対して,縦固定ではC13.2がC56.4%ともっとも多く,ついでC12.6,12.1の順となった(図 2).また,縦固定を施行するようになって術後Cvaultは全体でC78.3%がCnor-malvaultとなり,lowvaultはC6.7%,highvaultは15.0%でChigh vaultやClow vaultの症例を減らすことができた(図 3).とくに縦固定にした症例だけをみると,全体のうちC84.3%がCnormalvaultでClowvaultはC10.4%,highvaultはC5.2%で,多くの症例で適切な術後vaultを得ることができた(図 4).それならば全症例を縦固定で施行すればよいのではないかという意見もあるが,今回の結果はあくまでもレンズのサイズ選択で悩む場合においてのみ縦固定を施行した結果であること,さらに全症例を縦固定にした場合はレンズのサイズがC4サイズしかないことからClow vaultやChigh vaultの症例が増えることが予想される.また,縦固定は横固定よりも術後Cvaultが有意に低く,術前の予想Cvaultとの差も大きいという報告3)もあり,現時点では両式の推奨サイズを参考に基本的には横固定とするが,サイズ選択に悩む場合は縦固定をオプションとして採用するのが最善の方法と考えられる.C●適切なサイズ選択の限界と今後
ICLの術後Cvaultは両式のたび重なる改良やサイズ選択に悩む場合に大きめのレンズを縦固定にすることで適切になる症例が増えるが,それでも完全に問題が解決されたわけではなく,少数例ではあるが術後にサイズ交換が必要になることもある.近年,機械学習による縦固定の術後Cvault予想式の報告4)や両式の縦固定用のノモグラムも開発中であること,さらにCSTAAR社はCICLのサイズ自体を現在のC4サイズからC6サイズに増やす計画C1302  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025サイズ図 3 サイズごとの術後 Vault(全症例 5,240眼)
割合(%) 100.0 ■ low vault ■ normal vault ■ high vault 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 サイズ図 4 サイズごとの術後 Vault(縦固定のみ 613眼)
であり,近い将来,レンズのサイズ問題で入れ替える必要がなくなることに期待したい.文   献1)Kamiya K, Ando W, Hayakawa H et al:Vertically .xated posteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCthrough a superior corneal incision. Ophthalmol Ther 11:C701-710,C2022
2)LeeCY,CHanCSB,CAu.arthCGUCetal:VerticalCimplantableCcollamer lens as a novel method to increase rotational sta-bility. PLoS One 19:e0308830,C2024
3)Ouchi M:Vault of the phakic intraocular lens during ver-tical and horizontal .xation within patient comparison. Sci Rep 15:10002,C2025
4)ShimadaCR,CKatagiriCS,CHoriguchiCHCetal:PredictionCofCvaultsCinCeyesCwithCverticalCimplantableCcollamerClensCimplantation. J Cataract Refract SurgC51:45-52,C2025

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眼内レンズセミナー:Marfan症候群における毛様体突起と毛様溝の形成不全

2025年10月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木 洋461. Marfan症候群における毛様体突起と 杉浦 毅 杉浦眼科 毛様溝の形成不全 
Marfan症候群を有し水晶体偏位をきたしたC3例C6眼を観察した.6眼とも毛様体突起は正常眼でみられる眼内に向かう突起がほとんどなく,毛様体突起の幅は細く萎縮していた.毛様体突起間の隙間も大きく,毛様体突起同士の癒合も認めなかった.このため毛様溝は形成されていなかった.●はじめにMarfan症候群における水晶体偏位はCZinn小帯断裂によって発症するが,その原因となっているであろう毛様溝と毛様体突起についての研究はわずかしかない.Palvinらは,超音波生体顕微鏡(ultrasoundCbiomicros-copy:UBM)を用いてCMarfan症候群の生体眼を調べ,Zinn小帯断裂と毛様体突起の平坦化を認めたと報告した1).筆者はCMarfan症候群によって水晶体亜脱臼をきたしたC3例C6眼において,眼内レンズ毛様溝縫着術時に眼内内視鏡を用いて毛様溝を観察し,毛様体突起の形成不全を認めたので報告する2).C
●症   例はじめにCMarfan症候群を有さない無水晶体眼の毛様溝を示す(図 1).毛様体突起は太く内側に張り出し,その根元の部分では隣同士が癒合し面を形成している.この面と虹彩裏面で毛様溝が形成される.症例C1はC46歳,女性.水晶体亜脱臼のため水晶体摘出術と眼内レンズ毛様溝縫着術を両眼に施行した.眼内レンズ縫着の前に,内視鏡で観察したところ,両眼とも毛様体突起の幅は細く萎縮していて眼内に向って張り出す突起がなかった.毛様体突起間の隙間も大きく,正常眼でみられる毛様体突起同士の癒合も認めなかった.このため,毛様溝も形成されていなかった(図 2).症例C2はC53歳,男性.両眼の水晶体亜脱臼のため水晶体摘出術と眼内レンズ毛様溝縫着術を施行した.内視鏡による観察で,両眼とも症例C1と同様の毛様体突起の形成不全を認めた(図 3).症例C3はC41歳,男性.36歳時に右眼の,41歳時に左眼の水晶体亜脱臼を発症し,水晶体摘出術と眼内レンズ毛様溝縫着術を施行した.内視鏡による観察で,右眼は毛様体突起の形成不全を認めた.左眼は,10時方向の毛様体突起は隣同士の癒合をわずかに認め,面をわずかに形成していたが,毛様溝を形成するほどの毛様体突(81)起の張り出しはなかった(図 4).C
●考   按Marfan症候群における水晶体偏位は,変異フィブリリン-1蛋白質により,Zinn小帯が脆弱化して生じる3).しかし,毛様体突起の形成不全も関係している可能性がある.ここで問題となるのは,Zinn小帯の脆弱化と毛様体突起の形成不全のどちらが先に起こるかである.Zinn小帯の脆弱化が先だと仮定すると,脆弱なCZinn小帯は,胎生期に毛様体突起を十分に内側に牽引できないため,毛様体突起は内側に張り出すように形成されないと推測される.一方,毛様体突起の形成不全が先だと仮定すると,毛様体突起が十分形成されないため,水晶体赤道部と毛様体突起の距離が長くなり,Zinn小帯が引き延ばされて脆弱になると推測される.筆者は,水晶体.内摘出術後C16年とC21年を経た無水晶体眼の毛様溝をCUBMと眼内内視鏡で観察したが,どちらも毛様体突起は萎縮していなかった4).この事実から,毛様体突起の形成不全が先に生じて,Zinn小帯を引き延ばして細くなり,さらに,変異フィブリリン-1蛋白質の作用もあって,Zinn小帯の脆弱性と断裂を生じると推論するが,今後の研究課題である.文   献1)PavlinCCJ,CBuysCYM,CPathmanathanT:ImagingCzonularCabnormalitiesCusingCultrasoundCbiomicroscopy.CArchCOph-thalmolC116:854-857,C1998
2)SugiuraCT,CSakimotoT:CiliaryCprocessesCandCciliaryCsul-cusChypoplasiaCinCMarfanCsyndrome.CJCRSCOnlineCCaseCRepC12:e00136,C2024
3)ZeiglerCS,CSloanCB,CJonesJA:TheCpathophysiologyCandCpathogenesisCofCMarfanCsyndrome.CAdvCExpCMedCBiolC1348:185-206,C2021
4)Sugiura T, Kaji Y, Tanaka Y:Anatomy of the ciliary sul-cusCand the optimumCsiteCofCneedleCpassage forCintraocularClensCsutureC.xationCinCtheClivingCeye.CJCCataractCRefractCSurgC44:1247-1253,C2018

あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1299 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 
図 1 Marfan症候群を有さない無水晶体眼の毛様溝の内視鏡画像

図 2 症例 1(46歳,女性)の毛様溝の内視鏡画像 a:右眼C2時方向,Cb:右眼C8時方向,Cc:左眼C10時方向,Cd:左眼C4時方向.
図 3 症例 2(53歳,男性)の毛様溝の内視鏡画像 a:右眼C2時方向,Cb:右眼C8時方向,Cc:左眼C10時方向,図 4 症例 3(41歳,男性)の毛様溝の内視鏡画像 d:左眼C4時方向.右眼はC36歳時,左眼はC41歳時.Ca:右眼C2時方向,Cb:右眼8時方向,Cc:左眼C10時方向,Cd:左眼C4時方向.

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 未来のコンタクトレンズ技術(2)

2025年10月31日 金曜日

■オフテクス 提供■ コンタクトレンズセミナー 英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く
22. 未来のコンタクトレンズ技術( 2)土至田 宏聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学/川崎市立多摩病院眼科
英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の最終章「コンタクトレンズ技術の将来像(Contact lens technologies of the future)」1)を前回に引き続き紹介する.
オキュラーサーフィスへのドラッグデリバリー薬物送達の手段としてコンタクトレンズ(CL)を用いるために,多様な材料・構造・放出制御技術が考えられている.点眼薬による治療では,涙液・瞬目・角膜バリアの影響により薬物の生体利用率が低く(5%未満),頻回点眼においてはアドヒアランス低下や全身吸収に伴う副作用のリスクも課題となる.これに対し,CLをドラッグデリバリーシステム(drugCdeliveryCsystem:DDS)として用いれば,薬物を持続的かつ高い精度で眼表面に供給することが可能となる.もっとも基本的なアプローチは,レンズの材料自体に薬剤を含浸・吸着させる手法であるが,単純な含浸では初期バースト放出が避けられず,制御された持続放出には限界がある.このため,薬物放出を制御するための多様な技術が考案されている.分子インプリンティングによる方法は,薬物の分子構造に対応する空間をレンズ内に構築し,薬物の再結合に特異性をもたせることで,放出速度を緩徐にするものである.とくに,アセタゾラミドや非ステロイド性抗炎症薬のCketorolacなどで有効性が示されている.ナノ粒子やリポソームの担持による手法は,薬物を含むナノキャリアをレンズ内に分散させ,これらからの徐放を通じて薬物の時間依存的放出を制御するアプローチである.ヒアルロン酸やカルボキシメチルセルロースなどの高分子と組み合わせることで,粘着性や持続性を向上させる設計も検討されている.層状構造や多層コーティングを用いて中間層に薬剤を保持し,外層を拡散バリアとして機能させることで薬物の流出速度を抑制し,持続性の向上を図るレンズも報告されている.ポリマー被覆やイオノマー膜の利用などにより,特定の薬剤放出プロファイルの設計が可能となる.光応答性材料を利用し,外部光刺激により薬物放出をオンデマンドに制御する技術も研究されている.紫外線(79)や近赤外線などを用いて,光照射に応じて化学構造が変化し,薬物が遊離するシステムが構築されている.また,温度応答性材料や磁気応答性材料も理論的には応用可能であり,外的制御因子を利用した放出制御技術は今後の展開が期待される.実臨床への応用に向けては,安全性,生体適合性,レンズの光学的・物理的特性の保持,製造工程での安定性など,多くの課題も残されているが,点眼薬に代わる新たな投薬手段としてのポテンシャルはきわめて高い.とくにラタノプロストやチモロールなどの緑内障治療薬,ステロイド,抗菌薬,抗真菌薬,抗アレルギー薬などで有望な結果が得られている.

抗菌コンタクトレンズ抗菌CCLは感染症予防を目的とした次世代CCL技術として注目されている.とくに,角膜感染症(例:感染性角膜炎)は視力に深刻な影響を及ぼすことがあり,予防的なアプローチの必要性が高まっている.近年の研究では,レンズ表面や内部に抗菌性物質を導入することで,レンズ自体が抗菌バリアとして機能する可能性が示されている.その設計はおもに,①銀ナノ粒子などの直接的な殺菌作用をもつ素材をレンズ材料に組み込む方法,②抗菌薬をレンズ内に含浸させ,装用中に徐々に放出させるドラッグデリバリー型,③バイオフィルム形成を抑制するための表面改質技術を活用したもの,に大別される.動物実験やCinvitro試験により,多くの抗菌CCLが細菌増殖を抑制する効果が示されており,とくに緑膿菌や黄色ブドウ球菌といった眼感染症の主要な起因菌に対する有効性が確認されている.さらに,薬剤徐放機能を組み合わせることで治療用CCLとしての応用も期待されており,術後感染予防や角膜損傷の治癒促進など,臨床的価値は高いと考えられる.一方で,長期装用における安全性や抗菌成分の安定あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1297 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 性・毒性,さらには耐性菌出現の可能性など,解決すべき課題も多い.今後は規制面での整備や製造コストの抑制,さらには臨床での有効性の実証が求められる.将来的には,個別化医療やスマートレンズ技術との融合により,より高機能かつ安全性の高い抗菌CCLの実現が期待されている.

セラノスティクスセラノスティクス(theranostics)は,治療(therapy)と診断(diagnostics)を融合させた新しい医療概念であり,CL技術においてもその応用が進められている.とくにオキュラーサーフィス(眼表面)は薬物送達や生体情報のモニタリングに適した部位であり,CLをプラットフォームとすることで,個々の患者に最適化された治療・診断の一体化が可能となる可能性が高い.セラノスティックCCLの実装には,リアルタイムでの生体マーカー検出と,同時またはタイミング制御された薬剤放出機能の融合が必要である.具体的には,涙液中のグルコース,炎症性サイトカイン,pH,浸透圧などのバイオマーカーを感知し,それに応じて薬剤を放出するスマートな設計が提案されている.また,これらの検出には,ナノテクノロジーやマイクロセンサー,光学的・電気化学的センシング技術の応用が必須である.近年では,緑内障やドライアイ,アレルギー性結膜炎,角膜感染症などの慢性眼疾患に対して,患者の状態に応じて薬剤放出量を自動制御する機構の開発が試みられている.これにより,過剰投与や副作用のリスクを軽減し,治療効果の最大化をめざすことが可能となる.さらに,セラノスティクスの応用は疾患の早期検出やモニタリングにも拡大しており,たとえば糖尿病網膜症に対する涙液中グルコース濃度の継続的測定を通じた血糖コントロール支援,炎症性眼疾患の活動性モニタリングによる再発予測といった臨床的有用性が期待されている.一方で,複雑なデバイス構成や電源供給,眼表面における生体適合性,長期使用における安定性と安全性など,解決すべき課題も多い.今後は,これらの技術的障壁の克服に加え,個別化医療の流れのなかで,セラノスティクスCCLが眼科診療の新たなスタンダードとなることが期待されている.文   献1)JonesCL,CHuiCA,CPhanCCMCetal:CLEARC-ContactClensCtechnologiesCofCtheCfuture.CContCLensCAnteriorCEyeC44:C398-430,C2021C

写真セミナー:メトトレキサート硝子体内注射による角膜上皮障害

2025年10月31日 金曜日

写真セミナー監修/福岡秀記 山口剛史曽谷 令 497. メトトレキサート硝子体内注射による神戸大学医学部附属病院眼科角膜上皮障害楠原仙太郎神戸大学大学院医学研究科外科学講座眼科分野

図 2 図 1のシェーマ①点状表層角膜障害②渦巻き状角膜症図 1 メトトレキサート硝子体内注射による角膜上皮障害渦巻き状角膜症のフルオレセイン染色後の前眼部写真.角膜周辺部に異常上皮への染色がみられ,中央部に向かって渦巻き状の染色像を呈している.角膜中央部には点状病変が確認できる.

図 3 メトトレキサート投与前のカラー眼底画像生検C1カ月後.黄斑部および黄斑部耳側に黄白色網膜下病変を認める.乳頭鼻側の瘢痕は網膜下生検によるものである.図 4 メトトレキサート投与終了後のカラー眼底画像黄白色網膜下病変は消失している.
(77)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1295 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 眼内悪性リンパ腫の治療のためメトトレキサート(以下,MTX)硝子体内注射を施行し,経過中に角膜上皮障害を発症した症例を紹介する.患者は85歳,女性.左眼に多数の黄白色隆起性網膜下病変を認めた.眼所見から眼内悪性リンパ腫(硝子体網膜リンパ腫)が強く疑われた.硝子体混濁が軽度であったため,硝子体生検に加え網膜下生検を実施した結果,B細胞眼内悪性リンパ腫の確定診断に至った.全身精査で他臓器病変が確認されず,患者が予防的全身治療を希望されなかったことから,眼局所治療としてCMTX硝子体内注射を選択した.寛解導入治療として週C2回のCMTX硝子体内注射を開始したところ,6回目のCMTX投与後に視力低下と渦巻き状角膜症を認めたため,MTX投与を一時中断した(図 1, 2).1カ月の休薬により角膜上皮障害が軽快したことから,MTX硝子体内注射を再開した.20回目のMTX投与後に網膜下病変は完全に消失したため,硝子体内注射は中止とした.以降再発なく経過している(図 3, 4).MTX硝子体内注射は全身化学療法に比して副作用が少なく,眼局所病変に対する制御効果が高いことから,眼内悪性リンパ腫の初期治療として選択されることが多い.筆者らの施設(以下,当院)では初報のプロトコールに準拠し,MTX(400Cμg/0.1Cml)を週2回(4週間),週C1回(8週間),月C1回(9カ月間),計C25回のスケジュールで施行している1).葉酸拮抗薬であるCMTXは,角膜上皮細胞に対して毒性を示すことが知られており,繰り返し硝子体内に投与することにより,本症例のように渦巻き状角膜症が生じ,休薬が必要となる場合もある.しかし,休薬や投薬間隔の延長によって改善が得られることが多い.また,ヒアルロン酸点眼による表層保護や葉酸製剤の内服といった支持療法の有用性も示されている2,3).一方,病勢が強くCMTX治療の継続を優先せざるを得なかったケースでは,角膜障害が遷延し,最終的に不可逆的な視力障害を残した患者も当院で経験している.また,本症例では結膜や角膜輪部の充血は伴っていなかったが,MTX治療中に輪部炎を生じ,それに伴い上皮障害を生じた症例も報告されている4).そのため,各回のCMTX硝子体内注射後には眼表面の詳細な観察を行い,障害が認められた場合には病勢や視機能への影響を考慮し,休薬や支持療法の導入を含めた適切な対応を速やかに検討することが重要である.葉酸製剤は全身投与において,MTXによる副作用を軽減する効果があることが知られており,硝子体内注射に伴う角膜障害に対しても有効であったとの報告がある3).当院では,角膜上皮障害が出現した際にはCMTXの投与を一時中止し,活性型葉酸製剤の内服を併用している.本症例では,MTX硝子体内注射中に生じた角膜上皮障害により一時的な治療中断を余儀なくされたが,MTX休薬により速やかに角膜病変の改善が認められたことから,その後のCMTX硝子体内注射継続が可能となり,網膜下病変の寛解が得られた.本症例はCMTX治療の効果と副作用を正確に評価し,適切な対応を行うことの重要性を示す一例である.しかし,眼内悪性リンパ腫患者のC60~80%は経過中に中枢神経系リンパ腫を発症し,その場合の生命予後は不良である.2009年にわが国で行われた多施設後ろ向き研究では,原発眼内悪性リンパ腫のC5年生存率はC61.1%であった5).MTX硝子体内注射は眼内病変には有効である一方,中枢神経系リンパ腫進展への抑制効果は限定的であるため,生命予後の改善を見すえた集学的な治療戦略の確立が望まれる.文   献1)FrenkelCS,CHendlerCK,CSiegalCTCetal:IntravitrealCmetho-trexateCforCtreatingCvitreoretinallymphoma:10CyearsCofCexperience. Br J OphthalmolC92:383-388,C2008
2)GorovoyCI,CPrechanondCT,CAbiaCMCetal:ToxicCcornealCepitheliopathy after intravitreal methotrexateCand its treat-mentCwithCoralCfolicCacid.CCorneaC32:1171-1173,C2013
3)Jeong Y, Ryu JS, Park UC et al:Corneal epithelial toxici-tyCafterCintravitrealCmethotrexateCinjectionCforCvitreoreti-nallymphoma:ClinicalCandCinCvitroCstudies.CJCClinCMedC9:2672,C2020
4)Sahay P, Maharana PK, Temkar S et al:Corneal epithelial toxicity with intravitreal methotrexate in a case of B-cell lymphomaCwithCocularCinvolvement.CBMJCCaseCRepCbcr2018226005,C2018
5)KimuraCK,CUsuiCY,CGotoH;JapaneseCIntraocularCLymphomaStudy Group:Clinical features and diagnostic signi.cance ofCtheCintraocularC.uidCofC217CpatientsCwithCintraocularClymphoma. Jpn J OphthalmolC56:383-389,C2012

チューブシャント手術の適応と使い分け

2025年10月31日 金曜日

チューブシャント手術の適応と使い分け Indications and Di.erentiation for Tube Shunt Surgery廣岡一行*はじめにチューブシャント手術(ロングチューブ)にはいくつかのデバイスがあるが,2011年に Baerveldt緑内障インプラント(Baerveldt glaucomaimplant:BGI),2014年に Ahmed緑内障バルブ(Ahmed glaucomavalve:AGV)がわが国で承認された.正式承認を契機に,2012年に日本緑内障学会から発行された「緑内障診療ガイドライン第 3版」の補遺にチューブシャント手術に関するガイドラインが公表された.海外では,①代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった症例,②結膜の瘢痕化が高度な症例,③線維柱帯切除術の成功が見込めない症例,④濾過手術が技術的に施行困難な症例に対して行われてきたのを受け,通常の線維柱帯切除術の施術が困難である,奏効が期待できない,あるいは従来の線維柱帯切除術では重篤な合併症が予測される症例に適応を限定すべき,と記された.国内承認後10年以上が経過した現在におけるチューブシャント手術の適応とBGI,AGVの使い分けについて解説する. 
I チューブシャント手術の適応観血的緑内障手術は,流出路再建術と濾過手術の二つに大別される.緑内障の病期,術前眼圧,年齢,視野障害の進行速度などを勘案して術後の目標眼圧を設定し,術式を選択する.とくに流出路再建術は病型により手術効果に差が生じるため,病型も術式選択には重要になってくる.筆者らの施設における線維柱帯切開術(眼内法)の手術成績は,線維柱帯切開術単独での累積手術成功率(成功基準:18 mmHg未満,かつ術前よりも 20%以上の眼圧下降など)は 3年で 25%となっている1).また,白内障手術併用の線維柱帯切開術では累積手術成功率(成功基準:18 mmHg未満,かつ術前よりも 20%以上の眼圧下降など)は 3年で 47.7%となっている2).単独手術では手術の効果自体も弱く,白内障との同時手術であっても時間とともに手術の効果は減弱し,眼圧コントロールが不十分となる患者が増えてくる.また,血管新生緑内障やぶどう膜炎による続発緑内障では線維柱帯切開術の効果が期待できないため,これらの患者では濾過手術が必要になってくる.チューブシャント手術の適応を考える際には,同じ濾過手術である線維柱帯切除術との比較が必要になってくる.Primary Tube versusTrabeculectomy(PTVT)Studyは,眼科手術の既往のない緑内障眼に対して BGI(101-350)の前房内挿入とマイトマイシン C(Mitomy -cinC:MMC)併用線維柱帯切除術を無作為に割り当てた多施設共同研究である.5年後の累積手術不成功率(成功基準:眼圧 6 mmHg以上 21 mmHg以下で,眼圧下降率が 20%以上など)は BGIが 42%で線維柱帯切除術が 35%であった(p=0.21).低眼圧(5 mmHg以下)による手術不成功が BGIでは 0眼であったのに対して,線維柱帯切除術では 5眼(13%)にみられた.また,5年後の平均眼圧は BGIが 13.4 ±3.5 mmHgであり,線維柱帯切除術が 13.0 ±5.2mmHgであった(p=0.52).*KazuyukiHirooka:広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕 廣岡一行:〒734-8551広島市南区霞 1-2-3 広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学(眼科学)(1)(71) 12890910-1810/25/\100/頁/JCOPY 一方で,5年後の緑内障点眼数はCBGIがC2.2C±1.3であったのに対して,線維柱帯切除術がC1.3C±1.4であった(p<0.001)3).PTVTStudyの結果において,初回手術におけるCBGIと線維柱帯切除術の間には緑内障点眼数で差がみられたものの,明確な優劣は示されなかった.CTubeCversusTrabeculectomy(TVT)Studyは線維柱帯切除術または白内障手術の既往のある緑内障眼に対して,BGI(101-350)の前房内挿入とCMMC併用線維柱帯切除術を無作為に割り当てた多施設共同研究である.5年後の累積手術不成功率(成功基準:眼圧C6CmmHg以上C21.mmHg以下で,眼圧下降率がC20%以上など)はBGIがC29.8%で線維柱帯切除術がC46.9%であり(p=0.002),BGIのほうが良好であった.低眼圧(5CmmHg以下)による手術不成功がCBGIではC3眼(13%)であったのに対して,線維柱帯切除術ではC13眼(31%)にみられた.5年後の平均眼圧はCBGIがC14.4C±6.9CmmHgであり,線維柱帯切除術がC12.6C±5.9CmmHgであった(p=0.12).またC5年後の緑内障点眼数はCBGIがC1.4C±1.3であったのに対して,線維柱帯切除術がC1.2C±1.5であった(p=0.23)4).眼圧下降は両手術とも同程度であるが,BGIのほうが線維柱帯切除術に比べて高い成功率であったと結論づけられている.しかし,線維柱帯切除術では低眼圧による不成功が多かったため,結果の解釈には注意を要すると思われる.CTVTStudy,PTVTStudyともに難治性緑内障である血管新生緑内障は除外されている.緑内障手術既往のない血管新生緑内障眼に対してCBGI(102-350,103-250,101-350)とCMMC併用線維柱帯切除術を無作為に割り当てた多施設共同研究では,1年後の累積手術成功率(成功基準:21CmmHg以下,かつ術前よりもC20%以上の眼圧下降など)はCBGIがC59.1%,線維柱帯切除術がC61.6%であった(p=0.71).BGIは術前眼圧C38.9C±12.0CmmHgであったのが術後C2年でC13.3C±6.3CmmHg,線維柱帯切除術では術前眼圧C33.1C±9.3.mmHgであったのが術後C2年でC13.6C±2.5.mmHgに低下し,BGIと線維柱帯切除術では術後C2年での眼圧に差を認めなかった(p=0.90).2年後の緑内障点眼数はCBGIがC1.3C±1.6であったのに対して,線維柱帯切除術がC0.6C±1.5であった(p=0.41)5).2段階以上の視力低下がCBGIでC8眼(34.8%)であったのに対して,線維柱帯切除術ではC3眼(11.1%)であった(p=0.04).術後早期の合併症はCBGIと線維柱帯切除術では差がなかったものの,晩期の合併症はチューブの露出が最多でC5眼(21.3%)にみられ,その結果CBGIのほうが多くなった.したがって,血管新生緑内障に対する初回手術としてのCBGIと線維柱帯切除術との間に手術成績の差はみられなかったものの,合併症に関してはCBGIのほうが多いという結果になった.初回の線維柱帯切除術が不成功に終わった場合につぎの手術として再度線維柱帯切除術を行った場合とCAGVを行った場合とで比較したメタ解析では,術後C3年までの平均眼圧は両手術間で差は無かったが,眼内炎を含む重篤な合併症がCAGVでC1.18%,線維柱帯切除術で0.45%とCAGVで多かったことから,初回の線維柱帯切除術が不成功に終わった場合は再度の線維柱帯切除術を推奨している6).日本緑内障学会の濾過胞感染多施設共同研究で得られたデータの二次利用解析で,5年後の累積手術不成功率(成功基準:眼圧C5mmHg以上C21mmHg以下で,眼圧下降率がC20%以上など)は,初回の線維柱帯切除術ではC72.7%,2回目の線維柱帯切除術ではC72.6%,3回目以上ではC51.4%であり(p=0.0073),3回目以降の線維柱帯切除術,すなわちC2回以上の線維柱帯切除術の既往があると線維柱帯切除術の手術成績は悪くなった(図 1)7).これらの結果から,2回の線維柱帯切除術が不成功に終わり,3回目の手術を考える際にチューブシャント手術が選択肢としてあがってくるのではないかと思われる.ただし,術後の眼圧がC10CmmHg前後と非常に低い眼圧が望まれるような症例に対しては,チューブシャント手術は適切な選択肢にはならないと米国眼科学会(AmericanCAcademyCofCOphthalmolo-gy:AAO)が報告している8).つぎに術後の合併症について考えてみたい.BGIと線維柱帯切除術の術後合併症の頻度はCTVTStudyではそれぞれC39%とC60%(p=0.004)9),また,PTVTCStudyではそれぞれC34%とC48%となっており(p=0.046)10),いずれの報告でも線維柱帯切除術ではCBGIに比べて合併症が多い結果となった.早期合併症で線維柱帯切除術に創口からの房水漏出が多くみられ(11.12%),術後1290  あたらしい眼科 Vol.C42,No.C10,2025(72)累積手術成功率(%)100 50 0 
30 60(月)図 1 緑内障手術既往回数による線維柱帯切除術の累積手術成功率
図 2 チューブ前房挿入後の前眼部所見 a:チューブ前房挿入.b:チューブ後房挿入.表 1 チューブシャント手術の適応①代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった症例②手術既往により結膜の瘢痕化が高度な症例③線維柱帯切除術の成功が見込めない症例④ほかの濾過手術が技術的に施行困難な症例(緑内障診療ガイドライン第C5版より作成)===-累積手術成功率(%)表 2 平均眼圧と緑内障点眼数BGI(n=247) AGV(n=267) p値 術前 眼圧C 31.8±11.8.mmHgC 31.2±10.9.mmHg  C0.53 点眼数C 3.3±1.1C 3.3±1.1  C0.60 術後1年 眼圧C 13.6±5.9.mmHgC 15.9±5.3.mmHg <C0.001 点眼数C 1.4±1.4C 1.8±1.3  C0.003 術後2年 眼圧C 14.2±6.0.mmHgC 15.3±6.0.mmHg  C0.069 点眼数C 1.2±1.4C 1.9±1.4 <C0.001 術後3年 眼圧C 13.8±4.8.mmHgC 15.3±4.8.mmHg  C0.007 点眼数C 1.3±1.4C 1.9±1.4 <C0.001 術後4年 眼圧C 13.9±4.6.mmHgC 15.8±5.4.mmHg  C0.002 点眼数C 1.5±1.4C 2.1±1.5 <C0.001 術後5年 眼圧C 13.2±4.7.mmHgC 15.8±5.2.mmHg <C0.001 点眼数C 1.5±1.4C 1.9±1.5  C0.023 
(文献C14より改変引用)C100 AGV90 BGI 80 70 60 50 40 30 20 10 0 
0 6 121824303642485460(月)図 3 AGVと BGIの累積手術不成功率–

線維柱帯切除術の適応

2025年10月31日 金曜日

線維柱帯切除術の適応 Clinical Indications for Performing Trabeculectomy Surgery井上俊洋*はじめに一般的に低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglau-comasurgery:MIGS)は従来の濾過手術に比べて,小切開・眼内アプローチ(abinterno)で房水流出を改善する手術群をさす.組織損傷や瘢痕リスクが少なく,回復が早く安全性が高いという特徴は前項のとおりであり,わが国でも急速に普及し,件数が増加している1).一方で,濾過手術のC1種で歴史が古い線維柱帯切除術は,以前はもっとも一般的な緑内障手術であった2)が,少なくとも件数においてはCMIGSが大部分を占めると思われる流出路再建術が線維柱帯切除術を凌駕している.さらに,プレートのあるチューブシャント手術の件数も徐々に増加傾向にあり,件数が横ばいの線維柱帯切除術は,緑内障手術のなかで占める割合が減少しているといえる.しかし,線維柱帯切除術が一定の件数を維持していることも事実であり,現代でも必要な症例が存在すると考えられる.MIGS全盛の時代に,線維柱帯切除術が果たすべき役割とその立ち位置を,エビデンスを交えて再考する.C

I 流出路再建術の限界と濾過手術の適応(表 1)MIGSは多様なデバイス・手技が存在するうえに歴史が比較的浅いため,それぞれの長期成績はまだ限られており,エビデンスの蓄積が十分とはいえない.また,多くのCMIGSが分類される流出路再建術は,基本的にSchlemm管レベルの抵抗除去にとどまり,外眼静脈側表 1 流出路再建術( MIGS含む)ではなく濾過手術を選ぶポイント・歴史が長くエビデンスが蓄積されている術式が多い・眼圧下降効果が大きい・流出路再建術既往眼に適応可能・幅広い病型に適応可能の抵抗や上強膜静脈圧により眼圧下降効果が限られる.とくに低い目標眼圧が求められる症例では,MIGSが十分な眼圧管理を実現できない可能性がある3).したがって,濾過手術が必要とされる理由は,より低い目標眼圧が求められる症例の存在による.例をあげると,後期緑内障や正常眼圧緑内障で長期に視神経の進行を防ぐには,眼圧をきわめて低く,たとえばC10CmmHg以下にコントロールする必要がある.とくに,家族歴や低い眼灌流圧など,緑内障進行に対する危険因子を有する場合には,低い目標眼圧が強く求められる.MIGSを含む流出路再建術ではそのレベルに届かないことが多く,ここに濾過手術の存在意義がある.さらに,いったん流出路再建術で眼圧が下降したものの,再上昇した場合にも濾過手術が必要となることが多い.流出路再建術を行ったあとに,視野進行により目標眼圧を下方修正する必要に迫られた場合も,濾過手術が有用である.適応となる病型が幅広いことも濾過手術の特徴である.流出路再建術が基本的に一部の開放隅角緑内障を適応とするのに対し,濾過手術はほぼすべての病型に適応可能である.ただ
*ToshihiroInoue:熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座〔別刷請求先〕 井上俊洋:〒860-8556熊本市中央区本荘C1-1-1 熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座(1)(65)C12830910-1810/25/\100/頁/JCOPY 表 2 濾過手術のなかで線維柱帯切除術を選ぶポイント・歴史が長くエビデンスが蓄積されている・幅広い背景因子,病型に適応可能・角膜内皮細胞数の面で有利な傾向・インプラント露出のリスクがない・もっとも低い目標眼圧を設定可能結論として,プリザーフロの普及にかかわらず,大きな眼圧下降効果を求めるためには線維柱帯切除術が必要といえる.添付文書におけるプリザーフロの禁忌・禁止として,つぎの患者には使用しないこととなっている.①閉塞隅角緑内障,②本品使用部位に結膜瘢痕,結膜切開手術歴,その他の結膜病変(結膜菲薄化,翼状片など),③活動性虹彩血管新生,④眼部の活動性炎症(例:眼瞼炎,結膜炎,強膜炎,角膜炎,ぶどう膜炎),⑤前房内硝子体脱出,⑥前房眼内レンズ,⑦シリコーンオイル注入眼.線維柱帯切除術の病型・既往に対する守備範囲は,エクスプレスと同様,プリザーフロより広いと考えられる.C

III 濾過手術のなかでの線維柱帯切除術 vsプレートのあるチューブシャントプレートのあるチューブシャント手術は,MMCを併用しても結果があまり変わらないという点で,線維柱帯切除術とは少し異なる眼圧下降メカニズムを有する手術である.わが国では,Baerveldt緑内障インプラント
(以下,Baerveldt),Ahmed緑内障バルブ(以下,Ahmed)が主流である.近年,バルブのないCAhmedクリアパス,さらにそのチューブ径を細くしたものが認可されている.各インプラントの詳細は次項に譲る.いずれもわが国ではC2012年以降の導入であるが,欧米ではMMC併用線維柱帯切除術と同等の歴史があり,経験値の蓄積と長期経過のエビデンスを有する.両者を比較したエビデンスもある程度蓄積されており,前述のメカニズムの違いもあって,線維柱帯切除術との住み分けは理解しやすい.そのため,プレートのあるチューブシャントが導入されて長い時間が経過するが,線維柱帯切除術が選択されるべき症例は多く残っているといえる.線維柱帯切除術と比較して,プレートのあるチューブシャント手術の利点は,なんといっても手術瘢痕を有する症例など,濾過胞が潰れやすいとされる症例に強いところであろう.白内障および/もしくは緑内障手術既往眼に対するCRCTであるCTVTstudyのC5年成績では,眼圧下降効果はCBaerveldtが優り,術後早期合併症はBaerveldtで少なく,術後晩期合併症の発生率は同等で,合併症に対する再手術率は同等であった.いわゆるハイリスク眼において,Baerveldtは線維柱帯切除術より効果は高く,安全性は同等か優れることが確認された11).一方で,手術既往のないCPOAGに対するCRCTであるCPTVTstudyのC5年成績では,累積成功確率では有意差がないものの,術後C1年およびC3年の平均眼圧は線維柱帯切除術のほうが低く,緑内障点眼数も術後C5年まで線維柱帯切除術のほうが少なかった.一方で合併症は早期合併症の確率のみ有意差があり,線維柱帯切除術のほうが多かった12).したがって,いわゆるローリスク眼では,線維柱帯切除術のほうが眼圧コントロールで勝るが,早期の安全性はやや劣るという結果となった.ただし,眼圧コントロールの面ではサブグループ解析があり,術前眼圧が低いほど線維柱帯切除術の成績がよく,逆に術前眼圧が高い群ではCBaerveldtが優秀な傾向があった.角膜内皮に対する影響は,線維柱帯切除術のほうが有利であるが,チューブを硝子体腔に挿入する場合には角膜内皮への影響は極端に少なくなる13).インプラント露出の心配がないことも線維柱帯切除術の利点となる.一方で,緑内障点眼薬の副作用であるプロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandinCassociatedCperiorbitopa-thy:PAP)が与える影響の違いも,近年注目されている.線維柱帯切除術の眼圧下降効果がCPAPの重症度に大きな影響を受けるのに対し14),AhmedではCPAPの影響は有意ではなかったことが報告され15),PAPの程度も術式選択の際に考慮に入れる必要があることがわかっている.以上の結果を基にして考えると,プレートのあるチューブシャント手術と比較した場合には,手術既往がなく,術前眼圧が低い症例において有利であり,全緑内障手術のなかでも線維柱帯切除術がもっとも強く眼圧下降効果を発揮すると考えられる.C

IV 線維柱帯切除術の問題点(表 3)線維柱帯切除術は眼圧下降効果が強いぶん,高度な脈絡膜.離や低眼圧黄斑症といった,視力を脅かす低眼圧関連の合併症に注意する必要がある.とくに駆逐性出血を生じれば,失明にいたることも珍しくない.また,房水漏出や虚血性濾過胞(図 1)から濾過胞炎・眼内炎(図
(67)あたらしい眼科 Vol.C42,No.C10,2025  C1285 表 3 線維柱帯切除術の問題点・低眼圧関連の合併症のリスクが高い・年余にわたる濾過胞関連感染症のリスクがある・術式と術後管理の習得に経験を要する・術後管理が煩雑・DUESおよび結膜瘢痕の影響を受けやすいDUES:deepeningCofCupperCeyelidCsalcus.
図 2 線維柱帯切除術後の眼内炎全周の眼球結膜に高度の充血と,前房蓄膿を認める.
図 1 線維柱帯切除術後の虚血性の濾過胞年余にわたる濾過胞炎・眼内炎のリスクがあるため,医療者・患者の心配と,日常生活上の注意が継続し,生活の質を下げることにつながりうる.
図 3 眼内炎に至った濾過胞の所見濾過胞周囲に高度の充血と,濾過胞の混濁を認める.表 4 実臨床での術式選択のポイント・患者の年齢,治療歴,全身的な併存症,現病歴といった背景を確認・自覚症状,緑内障手術に対する患者の考えを確認・所見から緑内障病型,視野進行度,眼圧レベルを把握し,目標眼圧を設定・情報を総合的に評価して,患者と相談しながら術式を決定・専門家としての情報提供を行い,推奨術式まで提案するC–

MIGSの適応と課題

2025年10月31日 金曜日

MIGSの適応と課題Which Minimally Invasive Glaucoma Surgery(MIGS)Approach for Which Patients?奥住奈南美* 盛 崇太朗*
はじめに
近年,さまざまなデバイスや術式の登場により,緑内障手術は多様化が進んでいる.選択肢が増えたこと自体は,患者一人ひとりに対してより適切な治療を提供できるという点で歓迎すべきことである.一方で,かつてのように緑内障手術が線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)一択であった時代と比べると,術者は多様な選択肢のなかから患者ごとに最適な術式を選ばなければならず,その分判断の負担も増しているのが現状である.本稿では,広義の低侵襲緑内障手術〔minimally inva-sive(または micro-invasive)glaucomasurgery:MIGS〕としてわが国で行われている各術式の特徴をとりあげ,それぞれの長所・短所を解説する.さらに,従来のトラベクレクトミーと比較しながら,読者が患者に応じた最適な術式を選択できるよう手助けすることを目的とする. 
I 緑内障手術の分類
MIGSという用語は,IkeAhmed教授らのグループによって初めて提唱された1).その定義は以下の 5項目をすべて満たす術式とされている.①トラベクレクトミーに伴う低眼圧や脈絡膜出血といった重篤な合併症が少なく,高い安全性を有すること②生理的な房水流出経路を大きく損なうことなく,眼組織への侵襲が最小限であること③角膜切開を通じた眼内アプローチであること④ 20%以上の眼圧下降,あるいは少なくとも点眼薬を 1剤以上減らす眼圧下降効果があること
⑤術後,患者が速やかに日常生活に復帰できる(ダウ
ンタイムが短い)こと,また白内障手術との併用に適していること本稿では,図 1に示すように緑内障手術を大きく二つ
に分類する.すなわち,隅角手術と濾過手術である.前者は,Schlemm管や線維柱帯に対して外科的アプローチを行い,ステントを挿入するあるいは切開することで房水流出を改善する術式のことをさし,多くの MIGSデバイスがこのカテゴリーに属する.このうちステントを挿入するものを眼内ドレーン挿入術,ステントを挿入せずに外科的に切開するものを流出路再建術に細分類する.一方で,房水を生理的経路以外に誘導する術式を濾過
手術と称し,トラベクレクトミーやロングチューブシャント手術に加えて,低侵襲濾過手術としての位置づけをもつプリザーフロマイクロシャント(以下,プリザーフロと表記)やエクスプレスなどがこれに該当する.なお,プリザーフロは MIGSという用語が一般化した後に登場したデバイスであり,MIGSに分類されることもある2,3).しかし,上記の定義②および③を厳密には満たさないことから,minimally invasive bleb sur-gery(MIBS)4)や less invasive glaucoma surgery(LIGS)5)といった呼称が用いられることもある.本稿では,プリザーフロを含めた広義の低侵襲緑内障手術をMIGSと定義し,議論を進める.*Nanami Okuzumi & Sotaro Mori:神戸大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕 奥住奈南美:〒650-0017 兵庫県神戸市中央区楠町 7-5-2 神戸大学医学部眼科学教室(1)(55) 12730910-1810/25/\100/頁/JCOPY 

赤字:狭義の MIGS(Ahmedの 5要件を満たすもの),緑字:広義の MIGS.図 1 わが国における緑内障手術分類設定できるという利点がある.当初,谷戸はマイクロフックを用いた術式として,2カ所の角膜サイドポートから 2象限(180.240°)の切開を標準としていた17).しかしその後,1象限切開と 2象限切開との間で術後成績に有意差がないことが報告され18),スーチャートラベクロトミーにおいても 180°と 360°切開の前向きランダム化比較試験で眼圧下降率に差がなかったこと19),さらには 2023年の国際多施設共同研究において,120°・240°・360°の切開を比較しても眼圧下降や点眼薬数の減少に差がなかったこと20)が報告され,切開範囲を拡大しても眼圧下降効果に影響しないという結論に至っている.谷戸自身も現在は 1象限切開を標準としているようである21).特筆すべきは,術後早期合併症に関しては切開範囲が小さいほうが少ないという点である.切開範囲が狭いほど前房出血の頻度が低く19.21),一過性高眼圧の発生率が有意に低下することが示されている19). 
IV 流出路再建術の適応基準
流出路再建術の適応基準については,「緑内障診療ガイドライン第 5版」においても明確な記載はなく,現時点ではエビデンスに基づいた標準化がなされていないのが現状である.したがって,以下に述べる内容は筆者らの臨床経験に基づく一つの見解に過ぎないが,筆者らは以下の 2点を濾過手術ではなく流出路再建術を考慮すべき手術適応の目安としている.① Humphrey視野検査における平均偏差(MD)値が .12 dB以下の中等度緑内障であること②固視点近傍の中心 4点において,いずれも閾値が0 dB以下の絶対暗点を認めないこと①の基準設定においては,緑内障患者における主経路における生理的な房水流出能の低下が視野障害の重症度とある程度相関すると仮定しているためである.すなわち,進行期の緑内障では線維柱帯や Schlemm管に対する術式を施しても,集合管より末梢の排出経路まで房水排出の機能低下が及んでいる可能性が高く,流出路再建術の効果は限定的であると考えている.また,②の基準に関しては,流出路再建術が濾過手術と異なり術後に一時的な眼圧上昇をきたしやすいという特性を考慮している.濾過手術と違い,とくに眼内アプローチの流出路再建術の場合,術中や術後の逆流性出血の排出先がない.そのため濾過手術よりも出血を原因とする創部閉塞による一過性高眼圧をきたしやすい.中心視野にすでに障害を認める患者では,この一過性高眼圧によって急激な視力低下をきたすリスクがある(図 2).したがって,中心視野に絶対暗点を有する患者では,流出路再建術の適応に慎重であるべきと考えている.さらに,対側眼に視機能を有しない唯一眼の患者についても,低侵襲緑内障手術のほうが一見適しているように思われる一方で,術後出血によって急激に視機能を失う可能性を無視できない.とくに落屑緑内障では,Zinn小帯の脆弱性から前房出血が硝子体出血へ波及しやすく,視機能に深刻な影響を及ぼすことがある.高齢者では,このような視力障害に起因する生活の質(quality oflife:QOL)の低下が,認知症の進行リスクを高める可能性も指摘されている.出血量そのものは術者が完全に制御できるものではないため,こうしたリスクを十分に評価し,術式の選択には細心の注意をはらう必要がある.とくに,高リスク患者においてやむを得ず流出路再建術を選択する場合は,術後早期に前房穿刺を積極的に行い,出血の排出を促すことで視機能の早期改善と, ghost cell glaucomaの病態発症を防ぐことでの眼圧の正常化に努めるべきである. 
V 流出路再建術における白内障同時手術のメリット
従来の眼外法線維柱帯切開術から,眼内ドレーン挿入術,さらにトラベクトームやマイクロフックを用いた低侵襲の流出路再建術に至るまで,一貫して白内障との同時手術が眼圧下降効果を増強することが報告されている22.24).この効果の要因として,筆者らは隅角の開大が関与していると考えている.2015年に報告されたシステマティックレビューでは,白内障手術,とくに超音波乳化吸引術が隅角を広げるとともに,毛様体を後方に移動させることで眼圧を低下させるとされている25).さらに,開放隅角緑内障においても白内障手術により隅角がさらに拡大することが確認されており26),この機序は白内障手術単独による眼圧下降(57)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025   1275 

図 2 マイクロフック施行後に視機能が低下した POAGの症例( 74歳,男性)比較的進行した核白内障を認め,マイクロフックを併用した白内障手術を施行した.術C1週間後にC40CmmHgと一過性高眼圧を認め,その後すぐに眼圧は正常値に下降したが,不可逆的な中心視野障害による低視力に至った.Ca:術前.視力(0.8),眼圧C19CmmHg,点眼本数C4成分.Cb:術C1年後.視力(0.8),眼圧C14mmHg,点眼本数C3成分.a 

図 3 両眼高眼圧で喘息・統合失調症があり点眼が困難な症例( 71歳,男性)プリザーフロ術後早期から視力が温存され,眼圧下降が得られた.a:術前.右眼視力C0.3(1.2),左眼視力C0.2(0.6).右眼眼圧C21 mmHg,左眼眼圧C30CmmHg.術前点眼C3剤+炭酸脱水酵素阻害薬服用.Cb:術後初回診察(術C2週後).右眼視力C0.4(1.0),左眼視力C0.1(0.6).右眼眼圧C6mmHg,左眼眼圧C6mmHg.点眼C0成分.-

図 4 トラベクレクトミー施行後に脈絡膜.離が持続した落屑緑内障の症例( 87歳,女性)術C2週後より脈絡膜.離が出現し,追加縫合などの処置を経て術C5カ月後に脈絡膜.離は改善したが,術C8カ月後に網膜.離まで進展した.反対眼の高眼圧に対してはプリザーフロを選択,脈絡膜.離が出現したが,自然に改善した.術前:右眼視力(0.8),左眼視力(0.9).右眼眼圧C26CmmHg,左眼眼圧C17CmmHg.術前点眼C5成分.左眼術C5カ月後:右眼視力(0.03),左眼視力(0.7).右眼眼圧17mmHg,左眼眼圧C6mmHg.術後点眼C0成分.
a
プリザーフロ 7カ月後 b 

図 5 右眼 POAGの症例( 70歳,男性)右眼プリザーフロ挿入後に角膜内皮減少の進行が止まらず,プリザーフロ後術C8カ月でプリザーフロ抜去とトラベクレクトミーを施行した.Ca:右眼術前.視力(1.2),眼圧C45CmmHg,点眼成分C5成分.Cb:右眼プリザーフロC3カ月後.視力(1.2),眼圧10mmHg,点眼C0成分.Cc:右眼トラベクレクトミーC6カ月後.視力(1.2),術後眼圧C8mmHg,術後点眼C0成分.
おわりに
近年のCMIGSを中心とした低侵襲緑内障手術の進歩により,術者は多様な選択肢から患者の病態や生活背景に応じた最適な術式を選ぶことが求められている.術式ごとの眼圧下降効果や合併症リスク,術後管理の容易さなどを正しく理解し,個々の患者に即した判断を行うことが,治療成績の向上のみならず,患者のCQOL維持にも直結する.とくに,術後早期合併症や視機能への影響を最小限に抑えるには,術前の視野評価や対側眼の状態もふまえた適応判断が不可欠である.今後はエビデンスの集積と適応基準の標準化が期待されるが,それまでは各術式の特徴と限界を熟知したうえで,慎重かつ柔軟な術式選択が望まれる.文   献1)SahebCH,CAhmedI:Micro-invasiveCglaucomasurgery:CcurrentCperspectivesCandCfutureCdirections.CCurrentCOpi-nons OphthalmolC23:96-104,C2012
2)FeaCAM,CGhilardiCA,CBovoneCDCetal:ACnewCandCeasierCapproachCtoCpreser.oCmicroshuntCimplantation.CClinCOph-thalmolC16:1281-1288,C2022
3)GambiniCG,CCarlaCMM,CGiannuzziCFCetal:PreserF-loRMicroShunt:anCoverviewCofCthisCminimallyCinvasiveCdevice for open-angle glaucoma. Vision 6:12,C2022
4)KonopiC.skaCJ,CGo.aszewskaCK,CSaeedE:MinimallyCinva-siveCblebCsurgeryCversusCminimallyCinvasiveCglaucomasurgery:aC12-monthCretrospectiveCstudy.CSciCRepC14:C12850,C2024
5)Lim KS, Garcia-Feijoo J, Klabe K:Management practices and surgical techniques for ab externo less invasive glau-coma surgery:a literature review and expert recommen-dations.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmol:doi:
10.1007/s00417-025-06843-4 EpubCaheadCofCprint
6)AhmedCIIK,CFeaCA,CAuCLCetal:ACprospectiveCrandom-izedCtrialCcomparingChydrusCandCiStentCmicroinvasiveCglaucomaCsurgeryCimplantsCforCstandaloneCtreatmentCofopen-angleCglaucoma:TheCCOMPARECStudy.COphthal-mologyC127:52-61,C2020
7)FechtnerCRD,CVoskanyanCL,CVoldCSDCetal:Five-year,Cprospective,Crandomized,Cmulti-surgeonCtrialCofCtwoCtra-becularCbypassCstentsCversusCprostaglandinCforCnewlyCdiagnosedCopen-angleCglaucoma.COphthalmolCGlaucomaC2:156-166,C2019
8)IwasakiCK,CTakamuraCY,COriiCYCetal:PerformancesCofCglaucomaCoperationsCwithCKahookCDualCBladeCorCiStentCcombined with phacoemulsi.cation in Japanese open angle glaucoma patients.CInt J OphthalmolC13:941-945,C2020

9)Asaoka R, Nakakura S, Mochizuki T et al:Which is more e.ectiveCandCsafer?CComparisonCofCpropensityCscore-matchedCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyCandCiStentCinject. Ophthalmol TherC12:2757-2768,C202310)AlCYousefCY,CStrzalkowskaCA,CHillenkampCJCetal:Com-parisonCofCaCsecond-generationCtrabecularbypass(iStentinject)toCabCinternotrabeculectomy(Trabectome)byCexact matching. Graefes Arch Clin Exp OphthalmolC258:C2775-2780,C202011)WeinerCAJ,CWeinerCY,CWeinerA:IntraocularCpressureCafterCcataractCsurgeryCcombinedCwithCabCinternoCtrabecu-lectomyCversusCtrabecularCmicro-bypassstent:anCintra-subjectCsame-surgeonCcomparison.CJCGlaucomaC29:773-782,C202012)Guedes J, Amaral DC, de Oliveira Caneca K et al:Kahook DualCBladeCgoniotomyCversusCiStentCimplantationCcom-binedCwithphacoemulsi.cation:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis. J GlaucomaC34:232-247,C202513)MatsuoCM,CFukudaCH,CBuathongCJCetal:ComparisonCofC1-year e.ectiveness between phaco-microhook ab-interno trabeculotomyCandCphaco-iStentCtrabecularCmicro-bypassCstentCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCwithClow-teenCintraocularCpressure.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC263:193-200,C202514)SmithR:ACnewCtechniqueCforCopeningCtheCcanalCofCSch-lemm.CPreliminaryCreport.CBrCJCOphthalmolC44:370-373,C196015)Tanihara H, Negi A, Akimoto M et al:Surgical e.ects of trabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArch OphthalmolC111:1653-1661,C199316)FrancisCBA,CSeeCRF,CRaoCNACetal:AbCinternoCtrabecu-lectomy:developmentCofCaCnoveldevice(Trabectome)CandCsurgeryCforCopen-angleCglaucoma.CJCGlaucomaC15:C68-73,C200617)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:Short-termCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgeryCinCJapaneseeyes:initialCcaseCseries. Acta OphthalmolC95:e354-e360,C201718)MoriCS,CMuraiCY,CUedaCKCetal:ComparisonCofCe.cacyCandCearlyCsurgery-relatedCcomplicationsCbetweenCone-quadrant and two-quadrant microhook ab interno trabec-ulotomy:aCpropensityCscoreCmatchedCstudy.CActaCOph-thalmolC99:898-903,C202119)Sato T, Kawaji T:12-month randomised trial of 360°Cand 180°CSchlemm’s canal incisions in suture trabeculotomy ab internoCforCopen-angleCglaucoma.CBrCJCOphthalmolC105:C1094-1098,C202120)ZhangCY,CYuCP,CZhangCYCetal:In.uenceCofCgoniotomyCsizeConCtreatmentCsafetyCandCe.cacyCforCprimaryCopen-angleCglaucoma:ACMulticenterCStudy.CAmCJCOphthalmolC256:118-125,C202321)SugiharaCK,CIdaCC,COhtaniCHCetal:ComparisonCofCstand-
1280  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025(62)–’C

毛様体光凝固術の使いどころ

2025年10月31日 金曜日

毛様体光凝固術の使いどころ The Role and Timing of Cyclophotocoagulation in Glaucoma Management谷戸正樹*
はじめに現在,日本で行われている毛様体光凝固術には,マイクロパルス経強膜毛様体光凝固(micropulse transscleral cyclophotocoagulation:mpTSCP),内視鏡的毛様体光凝固(endoscopiccyclophotocoagulation:ECP),連続波経強膜毛様体光凝固(continuous-wave transscleralcyclophotocoagulation:cwTSCP)がある(表 1).また,cwTSCPを低出力長凝固時間で行う方法を緩徐毛様体光凝固(slow cyclophotocoagulation:slowCPC)とよぶ.経強膜法では,波長が長く組織深達度が高い 810 nmダイオードレーザーが用いられるのに対し,直接凝固を行う ECPでは波長が短い 532 nmグリーンレーザーが用いられる.ECP, cwTSCP,slowCPCでは,房水産生の場である毛様体ひだ部を凝固することで房水産生抑制による眼圧下降が図られる.一方で,mpTSCPでは毛様体ひだ部の後端から扁平部に相当する領域を凝固することで,房水産生抑制に加えてぶどう膜強膜経路を介した房水排出促進による眼圧下降が図られる.加えて,ひだ部の収縮による線維柱帯の後方牽引がピロカルピン様に作用し,線維柱帯 Schlemm管経路の房水排出促進が得られる可能性も推測されている.それぞれの術式は,侵襲度が異なるため,その適応にも大きな違いがある. I mpTSCP 

1. 特   徴レーザーの ON/OFFを繰り返すマイクロパルス(micropulse:MP)波を用いた毛様体光凝固の方法である.レーザー休止期間に熱拡散が促されるため,熱凝固による組織破壊が少ないとされる.本術式の眼圧下降効果の作用機序は,毛様体色素上皮および毛様体無色素上皮に閾値以下の細胞損傷を与え,房水産生を直接抑えることによる房水産生抑制,毛様体扁平部付近の細胞外マトリックスのリモデリングによるぶどう膜強膜流出の増加,毛様体筋収縮に伴うピロカルピン様効果による線維柱帯流出路の排出促進と考えられている.外眼手術であり,短時間で施行できるため,外来でも施行可能である.わが国では 2017年に mpTSCPを行うための装置である CycloG6(Iridex社,わが国での取り扱いはトプコンヘルスケア社)が承認された(図 1a).本機器に接続できるプローブには cwTSCP用の GプローブとmpTSCP用の MP3プローブがある(図 1b).もともとの MP3プローブは先端形状(フットプレート)が大きく,瞼裂狭小眼やプロスタグランジン関連眼窩周囲症が強い患者では照射しづらいという欠点があった.現在では,フットプレートが小さく改良された MP3プローブRev2がおもに用いられる.最近では,mpTSCPを行うことができる機器として,Vitra810(Lumibird Medical社,わが国での取り扱いはルミバードメディカルジャパン社)も登場している(図 2).フットプレートをはずして使用するため,先端が小さく操作性がよいという特徴がある.mpTSCPでは,輪部から2~3 mmの場所で強膜に垂*Masaki Tanito:島根大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕 谷戸正樹:〒693-8501 島根県出雲市塩冶町 89-1 島根大学医学部眼科学講座(1)(47) 12650910-1810/25/\100/頁/JCOPY 
表 1 毛様体光凝固術の種類術式 英語(略語) 光源 発振方式 凝固部位 標準的な凝固条件 眼圧下降機序 おもな適応 マイクロパルス経強膜毛様体光凝固  micropulse trans-scleral cyclophotoco-agulation(mpTSCP)  810 nm diode マイクロパルス波(0 .5 msec ON, 1.1 msec OFF= Duty cycle 31.3%) 毛様体ひだ部,扁平部(角膜輪部から2~3mm)  Duty cycle 25%~ 31.4%,2,000~ 2,500 mW, 160秒/全周(3時 9時を除く) 房水産生抑制ぶどう膜強膜経路房水排出増加線維柱帯 Schlemm管経路房水排出増加 活動性炎症のない緑内障内眼手術が困難な症例ECP施行不能症例(有水晶体眼など) 内視鏡的毛様体光凝固  endoscopic cyclopho-tocoagulation(ECP)  532 nm green 連続波 毛様体ひだ部(眼内から直接凝固) 200~3 00 mW, 3~4秒,数十発/全周 房水産生抑制 チューブシャント手術無効例チューブシャント手術施行不能例 連続波経強膜毛様体光凝固  continuous-wave transscleral cyclopho-tocoagulation(cwTSCP)  810 nm diode 連続波 毛様体ひだ部(角膜輪部から 1.2~ 1.5mm程度) 2,000 mW, 1秒,20~2 5発/3/4周(3時 9時を除く) 房水産生抑制 有効な視機能が残存しない高眼圧症例 緩徐毛様体光凝固  slow cyclophotoco-agulation(slowCPC)  810 nm diode 連続波 毛様体ひだ部(角膜輪部から 1.2~ 1.5mm程度) 1,000~ 1,250 mW,3~4秒,20~2 5発/3/4周(3時 9時を除く) 房水産生抑制 有効な視機能が残存しない高眼圧症例 
ab 
Gプローブ

MP3プローブ Rev2
図 1 Cyclo G6(Iridex社)の外観 a:本体.b:プローブ.(トプコンヘルスケア社のホームページより転載)ab 
図 2 Vitra810(Lumibird Medical社)の外観 a:本体.b:プローブ.(ルミバードメディカルジャパン社ホームページより転載) a 

図 3 mpTSCPの照射方向と照射部位 a:mpTSCPで用いられる専用プローブ(MP3プローブ)は,毛様体ひだ部後端から扁平部を凝固するために,輪部から 2~3 mmで強膜に垂直方向にレーザー照射を行うようデザインされている. b:照射部位をなぞるように連続照射する.長後毛様体動脈,神経への照射を避けるため,3時と 9時は照射しない.
図 4 mpTSCPの術中所見Peters奇形に伴う緑内障(小児例).有水晶体眼であるためECPは施行できない.Cab図 5 MTレーザーファイバカテーテル(ファイバーテック社)ECP専用カテーテルであるCMTレーザーファイバカテーテルのプローブ形状(Ca)と断面の模式図(Cb).(a:ファイバーテック社提供)

液晶カラーモニタ画像記録装置専用光源装置専用画像装置

図 6 MTレーザーファイバカテーテルの機器構成(ファイバーテック社提供)C120°

図 7 ECPの凝固範囲2カ所の角膜サイドポートから全周の凝固を行うことができる.
図 8 ECPの術中所見角膜サイドポートから挿入したカテーテルで直視下に毛様体ひだ部を凝固する.毛様体突起の形状が大きく変化せず,表面が白くなる程度()の凝固が適切である.表 2 ECPの適応よい適応 要注意 緑内障の特徴 チューブシャント手術効果不十分チューブシャント手術施行不能 房水産生能低下症例 原発開放隅角緑内障 血管新生緑内障 病型 若年開放隅角緑内障 ぶどう膜炎 小児緑内障 高齢者 

図 9 cwTSCPの照射方向と照射部位 a:cwTSCPで用いられる専用プローブ(Gプローブ)は,毛様体ひだ部を凝固するために,輪部からC1.2~1.5 mmの位置で視軸方向にレーザー照射を行うようデザインされている.Cb:cwTSCPでは,1象限6~8発程度の照射を行う.専用プローブは,先端のフットプレートの半分の幅が適切な照射間隔になるように設計されている.プレートのサイドの位置でつぎの照射を行っていくと,ちょうどいい照射数が得られる.
図 10 Gプローブによる毛様体光凝固( slowCPC)の術中所見本症例では,pop音が発生しない条件で施術している.Aqueous Humor Formation(μ l/min)2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0Age(年)青線:加齢による房水産生能の変化,緑線:毛様体光凝固により 3.mmHgの眼圧下降を得たときの房水産生能の変化,赤線:毛様体光凝固により 11.mmHgの眼圧下降を得たときの房水産生能の変化.図 11 年齢(横軸)と房水産生量(縦軸)の関係(CC-BYの規定に基づき文献C7より転載)C-

20 30 40 50 60 70 80 90 

SLTのタイミング

2025年10月31日 金曜日

SLTのタイミングRecommended Timing for Selective Laser Trabeculoplasty(SLT)片井麻貴*
I 選択的レーザー線維柱帯形成術( SLT)とは線維柱帯形成術の目的は,レーザーを線維柱帯に照射し房水流出率を改善することである.なかでも選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplas-ty:SLT)は,選択的光熱分解論に基づいた線維柱帯のメラニン色素含有細胞のみに作用させるレーザー治療である.通常は,組織にレーザーを照射すると,内部にエネルギーが蓄積され,さらに照射を続けると外へ放熱し,周囲組織が傷害される.そこで,照射エネルギーが周囲に拡散しない程度の短時間照射を用いて標的組織のみを熱分解させ,最小限に合併症を抑えつつ効果を狙った治療が SLTである1,2)(図 1).たとえば,この選択的光熱分解論を用いたレーザー治療として,形成外科の分野ではタトゥー除去があげられる.タトゥーの色素部のみを破壊し皮膚組織は温存されるため,処置を受けたあと,腫れや赤み,痛みなどの症状が落ち着き通常の生活に戻るまでの期間(いわゆるダウンタイム)は手術に比べて短縮される3).SLTも従来のアルゴンレーザー線維柱帯形成術(argon laser tra-beculoplasty:ALT)と異なり,線維柱帯の熱変性やSchlemm管の障害を生じにくい低侵襲な方法であり,反復照射も可能とされていることが特徴である1). II SLTの適応症例(表 1)
SLTに適した症例として,病型別では,原発開放隅角緑内障(primary openangle glaucoma:POAG),高眼圧症(ocularhypertension:OHT),落屑緑内障,色素緑内障,ステロイド緑内障,瞳孔ブロックを解除した原発閉塞隅角緑内障(primary angle closure glauco-ma:PACG),混合型緑内障などがあげられる.これらのほか,妊娠,授乳やアドヒアランス不良など点眼治療に支障がある場合や,副作用により点眼できないなどなんらかの理由で薬物治療が継続できない場合,また,緑内障手術の適応があるが手術同意が得られない場合も代替治療として用いられる4).患者自身が薬物治療そのものを望まない場合も SLTの適応があると考えられ,点眼の副作用の認知度が向上したのか,ここ数年で理由として散見されるようになり,施行例が増加している.一方で,ぶどう膜炎後の続発緑内障は周辺虹彩後癒着がなくても強い炎症が惹起される場合が多く適応外となり,ほか血管新生緑内障,外傷緑内障も避けるべきである.緑内障手術既往例も Schlemm管が虚脱している場合は効果が小さい. III SLTの作用機序
SLTの作用機序は,照射により色素細胞が活性化し炎症が生じる→サイトカインが放出され5)抗炎症細胞貪食能を増大6)→ Schlemm管内細胞の空胞が増加し透過性が亢進→房水流出抵抗減少,とされている.このような房水流出抵抗減少を目的とした流出路再建術の効果を期待するには,Schlemm管以降の流出路を担う集合管*Maki Katai:NTT東日本札幌病院眼科〔別刷請求先〕 片井麻貴:〒060-0061 北海道札幌市中央区南 1条西 15丁目 NTT東日本札幌病院眼科(1)(39) 12570910-1810/25/\100/頁/JCOPY 照射エネルギーが周囲に拡散しない表 1 SLTの適応症例短時間照射で標的組織のみ熱分解 
thermal con.nement=熱を閉じ込める
この段階で照射ストップ!このまま照射を続けると…

放熱.周囲組織傷害図 1 選択的光熱分解論
組織にレーザーを照射すると通常は内部にエネルギーが蓄積され,さらに照射を続けると外へ放熱され,周囲組織が傷害される.そこで,照射エネルギーが周囲に拡散しない程度の短時間照射を用いて合併症を最小限に抑える.適した症例 適応なし/慎重に適応 ・原発開放隅角緑内障 ・高眼圧症 病型 ・続発開放隅角緑内障,落屑緑内障,色素緑内障,ステロイド緑内障 ・ぶどう膜炎続発緑内障・血管新生緑内障・外傷緑内障 ・瞳孔ブロックを解除した原 ・緑内障手術既往例 発閉塞隅角緑内障 ・混合型緑内障 ・点眼治療の効果が不十分 背景 ・点眼治療に支障がある;妊娠,授乳,アドヒアランス不良など・副作用により点眼できない ・緑内障手術の適応があるが 手術同意が得られない ・患者が薬物治療を望まない 
表 2 LiGHT trial 36カ月の目標眼圧における治療効果点眼群 SLT群 36カ月後の平均眼圧(標準偏差) 16.3 mmHg( ±3.87) 16.6 mmHg( ±3.62) 36カ月後の目標眼圧における1眼あたりの薬剤数 点眼なし 16( 3.0%) 419( 78.2%) 1剤 346( 64.6%) 64( 12.0%) 2剤 99( 18.5%) 21( 3.9%) 3剤 35( 6.5%) 4( 0.8%) 4剤 3( 0.6%) 1( 0.2%) 36カ月で目標眼圧達成眼 499( 93.1%) 509( 95.0%) トラベクレクトミー追加要 11( 1.8%) 0(0%) 
36カ月の時点で SLT群の 78.2%は点眼なしで目標眼圧が達成された.追加でトラベクレクトミーを要したのは点眼群で 11眼であるのに対し,SLT群では 0眼であった.(文献 12より改変引用)= 36 
表 3 LiGHT trial 6年後の目標眼圧における治療効果点眼群 SLT群 p値 72カ月後の平均眼圧(標準偏差) 15.4CmmHg(C±3.9) 16.3CmmHg(C±4.0) <C0.001 72カ月後の目標眼圧達成眼 429眼(C94.7%) 437眼(C94.2%)  C0.73  点眼なし 106眼(C23.0%) 338眼(C71.9%) <C0.001  点眼・緑内障手術治療なし 83眼(C18.0%) 328眼(C69.8%) <C0.001 病状の進行 147眼(C26.8%) 107眼(C19.6%)  C0.01 トラベクレクトミー追加要 32眼(C5.8%) 13眼(C2.4%) <C0.001 
72カ月で眼圧はCSLT群のほうが高かった(p<0.001).薬物,緑内障手術治療追加なしで目標眼圧以下の維持が可能だったのはCSLT群のほうが多く,病状の進行をきたしたのは点眼群のほうが多かった(p=0.006).トラベクレクトミーを要したのは点眼群でC32眼(5.8%)であったのに対し,SLT群ではC13眼(2.4%)であった(p<0.01).(文献C13より改変引用)表 4 LiGHT trial 3年経過後に SLTに切り替え治療強化として SLTを追加施行した 6年後の目標眼圧における治療効果と SLT群との比較点眼群(n=549) SLT群(n=547) p値 点眼のみ(n=373) SLTへ切替(n=128) SLTを追加(n=48) 72カ月で目標眼圧達成眼 282眼(C94.9%) 108眼(C94.7%) 39眼(C92.9%) 437眼(C94.2%)C 0.16  点眼なし 21眼(C6.9%) 72眼(C63.2%) 13眼(C31.0%) 338眼(C71.9%)C NA  点眼・手術治療なし 10眼(C3.3%) 69眼(C60.5%) 4眼(C9.5%) 64眼(C12.0%) <C0.01 トラベクレクトミー追加要 20眼(C5.4%) 3眼(C2.3%) 9眼(C18.7%) 13眼(C2.4%) <C0.01 
72カ月時点でCSLTに切り替えたC69眼(60.5%)は追加の点眼・手術治療を必要としなかった.点眼群でC6年後にトラベクレクトミーを必要とした症例C32眼のうち,20眼は点眼治療のままの症例で,3年後にCSLTに切り替えていたのはC3眼,治療強化としての追加CSLTをうけていたのはC9眼であった.(文献C15より改変引用)表 5 LiGHT trial 72カ月後にトラベクレクトミーを受けずに目標眼圧に達した,点眼群から SLTへ切り替えた症例の治療強度SLT前 72カ月後で点眼群からCSLTへ切り替え目標眼圧達成眼数(%) 点眼数 眼数 点眼・緑内障手術なし 1剤併用 2剤併用 3剤以上併用 1剤 74眼 62眼(C83.8%) 9眼(1C2.2%) 2眼(2C.7%) 1眼(1C.4%) 2剤 25眼 6眼(2C4.0%) 9眼(C36.0) 9眼(3C6.0%) 1眼(4C.0%) 3剤以上 6眼 1眼(1C6.7%)C 0 1眼(1C6.7%) 4眼(6C6.7%) 
72カ月時点で追加の点眼・緑内障手術治療を必要としなかったCSLTに切り替えたC62眼(83.8%)は点眼C1剤からC.rst-line SLTへの切り替え症例であり,早期タイミングCSLT施行の良好な効果が示された. (文献C15より改変引用) (mmHg) 20  18  16.3  16   眼圧15.414  13.0  12  13.0  13.2  13.4  13.2  13.2  =12 10 SLT前  12 12  12  12  12  .rst-line  second-line  (カ月)  
図 2 12カ月の SLT前後の眼圧変化 .rst-lineSLT群では,SLT前の平均眼圧C16.3CmmHgはCSLT後C12カ月でC13.4mmHgとなった(p<0.001).second-lineSLT群では,SLT前の平均眼圧C15.4mmHgはC12カ月で13.2CmmHgとなり(p=0.005),両群とも有意に低下した.(文献C18より改変引用)=

表 6 12カ月,24カ月での基準 A,Bの成功率全症例 .rst-line SLT群 second-line SLT群 12カ月 24カ月 12カ月 24カ月 12カ月 24カ月 基準CA 83.8% 73.7%C 89.2%*C 76.3%C 68.0%*C 69.0% 基準CBC 19.2%C 31.6%C 23.0%§C 36.1%C 8.0%§C 23.7% 
*p=0.011 C§p=0.046基準A:CΔOP≧20%,基準CB:眼圧下降薬の追加点眼,SLTの反復,緑内障手術の追加を伴わない眼圧下降率≧20%.両基準ともC.rst-lineSLT群の成功率がCsecond-lineSLT群よりも高かった(それぞれp=0.011,0.046).2年時点でグループ別にみると,.rst-lineSLT群では基準CAでC76.3%,基準CBでC36.1%の成功率であったのに対し,second-line SLT群では基準AでC69.0%,基準CBでC23.7%の成功率であった.表 7 SLTの眼圧下降に関連する因子12カ月 24カ月 成功に関連する因子 *SLT前の眼圧が高い(p=0.005)*CCTが薄い(p=0.029)*3カ月後の眼圧下降が大きい(p<0C.001) §診察までの期間が長い(p<0C.001)C§年齢が若い(p=0.044)C§ベースライン眼圧が高い(p<0C.001)C§CCTが薄い(p<0C.001)C 不成功に関連する因子 *SLT前の眼圧が低い(p=0.030)*眼圧下降薬を使用している(p=0.002) *低いベースライン眼圧(p<0C.001)*CCTが厚い(p<0C.001) 
*Cox比例ハザード回帰分析 C§線形混合効果モデル(mmHg) 20 15 10 5

眼圧
.rst-line group second-line group 
0 SLT前  1  3  6  9  12  18  24 (カ月) 図 3 24カ月の SLT前後の眼圧変化 
2年でC.rst-line SLTでは平均眼圧がC16.7CmmHgからC13.7CmmHgに低下し,second-line SLTでは,平均眼圧15.9CmmHgからC13.2CmmHgに低下した.(文献C19より改変引用)= –’C