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術後眼内炎との鑑別を要した未治療糖尿病患者における白内障術後早期の糖尿病虹彩炎の1例

2025年8月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(8):1054.1057,2025c術後眼内炎との鑑別を要した未治療糖尿病患者における白内障術後早期の糖尿病虹彩炎の1例福田泰雅石田友香厚東隆志井上真杏林大学医学部眼科学教室CEarlyPostoperativeDiabeticIritisAfterCataractSurgeryinanUntreatedDiabeticPatientRequiringDi.erentiationfromPostoperativeEndophthalmitisYasumasaFukuda,TomokaIshida,TakashiKotoandMakotoInoueCDepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicineC白内障術後早期に眼内炎との鑑別を要した糖尿病虹彩炎の症例を経験した.症例はC45歳,男性.繰り返す両眼性の虹彩炎に対し加療歴があり,左眼白内障が進行したため前医で白内障手術が施行された.術後C3日目に霧視を訴え,術後眼内炎の疑いで当院へ紹介となった.初診時,左眼は視力(1.2),眼圧C15CmmHg,軽度の球結膜充血,角膜後面沈着物,前房蓄膿,フィブリン析出を認めた.硝子体混濁はなく,後極網膜に硬性白斑,耳側周辺部網膜に斑状出血を認めた.採血ではCHbA1c11.7%と高値であり,糖尿病治療は自己中断していた.経過より術後眼内炎ではなく糖尿病虹彩炎の再発と診断し,ステロイド点眼を強化して炎症所見は改善した.白内障手術後に虹彩炎が増悪すると,術後眼内炎と鑑別困難なことがある.虹彩炎の原因としてコントロール不良の糖尿病があり,白内障手術前の十分な血糖コントロールの必要性が示唆された.CWereportacaseofdiabeticiritisthatneededdi.erentiationfromendophthalmitisintheearlypostoperativephase.A45-year-oldmanwithahistoryofrecurrentbilateraliritisunderwentcataractsurgery.At3-dayspost-operative,heexperiencedfoggyvisionandwasreferredtoourhospitalduetoconcernsaboutendophthalmitis.Ini-tialCexaminationCshowedCaCbest-correctedCvisualCacuityCofC1.2CinChisCleftCeyeCandCanCintraocularCpressureCofC15CmmHg.CFindingsCincludedCmildCconjunctivalChyperemia,CkeraticCprecipitates,CpusCinCtheCanteriorCchamber,CandC.brinprecipitation.Notably,therewasnovitreousopacity,yettheretinaexhibitedhardexudatesanddothemor-rhages.CACbloodCtestCrevealedCanCelevatedCHbA1cClevelCof11.7%.CAfterCadministeringCtopicalCsteroids,CtheCin.ammationimproved.Hewasultimatelydiagnosedwithrecurrentdiabeticiritis,notendophthalmitis.Thiscasehighlightsthechallengesofdistinguishingtheseconditionspostcataractsurgery,andemphasizestheneedforglu-cosecontrolpriortotheprocedurebeingperformed.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(8):1054.1057,C2025〕Keywords:糖尿病虹彩炎,白内障手術,術後眼内炎.diabeticiritis,cataractsurgery,postoperativeendophthal-mitis.Cはじめに白内障術後の感染性眼内炎の特徴的な所見として角膜後面沈着物,前房蓄膿,前房フィブリン析出,Descemet膜皺襞などの虹彩炎所見や,硝子体混濁や網膜血管炎所見が知られている1.3).術後眼内炎を疑った場合は,失明を防ぐために早期の加療を行う必要がある1.3).術後眼内炎の鑑別診断としては,中毒性前眼部症候群(toxicCanteriorsegmentCsyndrome:TASS)を含む非感染性虹彩炎があげられる3,4).とくに糖尿病患者においては,まれであるが感染性眼内炎のように前房蓄膿や前房フィブリン形成を伴うことがあり3),糖尿病虹彩炎と感染性眼内炎との鑑別が困難となる.さらに,このような症例で糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)を有する場合には,網膜出血や白斑といった眼底所見も感染性眼内炎に類似するため,〔別刷請求先〕石田友香:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TomokaIshida,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversity,6-20-2Shinkawa,Mitaka-shi,Tokyo181-8611,JAPANC1054(120)0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(120)C10540910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1左眼の初診時所見a:前眼部細隙灯顕微鏡写真.軽度の球結膜の充血,前房細胞C3+,フレアC1+,角膜後面沈着物,前房蓄膿を認め瞳孔領にはフィブリンが析出していた.Cb:広角合成カラー眼底写真.硬性白斑,軟性白斑,網膜出血を認めた.c:Bモード超音波検査.硝子体混濁は認めなかった.鑑別がより困難となる.今回,筆者らは白内障術後眼内炎との鑑別を要した前房蓄膿を呈する糖尿病虹彩炎の症例を経験したので報告する.CI症例49歳,男性.手術中の合併症がなかった左眼白内障手術後C2日目より左眼の霧視が出現し,前医を受診した.術後眼内炎が疑われたため当科へ紹介となった.既往歴は,糖尿病(10年前に指摘,通院自己中断),両眼の単純CDR,詳細不明の繰り返す両虹彩炎であった.前医からC0.1%ベタメタゾン点眼C4回/日,0.5%モキシフロキサシン点眼C4回/日,ブロクフェナクナトリウム点眼C2回/日が処方されていた.初診時視力は右眼C0.5(0.7C×.5.25D(cyl.0.50DCAx170°),左眼C0.2(1.2C×IOL×.2.75D(cyl.1.50DAx5°).眼圧は右眼C19mmHg,左眼C15CmmHgであった.細隙灯顕微鏡所見では,右眼はCGrade2の核硬化度を有する白内障を認めた.左眼は眼内レンズ挿入眼であり,軽度の球結膜の充血,微塵状角膜後面沈着物,前房細胞C3+,フレアC1+,前房蓄膿,瞳孔領にはフィブリンの析出と,前部硝子体中にC1+の細胞がみられた(図1a).後.破損を含めた手術合併症の所見はなかった.両眼眼底に軟性白斑,硬性白斑,網膜出血を認めた(図1b).光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)では両眼ともに周辺部に散在する無灌流域を認め,前増殖CDR(pre-proliferativeDR:prePDR)の状態であった.左眼のBモード超音波検査では硝子体腔に高輝度な硝子体混濁はみられなかった(図1c).採血検査では血算と白血球分画は正常,C反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)はC0.01Cmg/dlと正常値であったが,血糖値がC320Cmg/dl,HbA1cがC11.9%と高値を認め,インスリン分泌能を示すCHOMA-bはC7.4%と低下,インスリン抵抗性を示すCHOMA-RはC4.6と上昇を認めた.腎機能はクレアチニンC0.77Cmg/dl,eGFR77.7ml/min,尿所見では尿糖がC4+,尿蛋白C2+,尿潜血C1+であった.鑑別として,TASS,術後感染性眼内炎,糖尿病虹彩炎が考えられた.本症例は両眼に虹彩炎の既往があったが,血糖コントロールが不良なために非感染性虹彩炎である糖尿病虹彩炎を再燃した可能性が高いと判断した.しかし,術後感染性眼内炎が完全には否定できなかったため,ステロイド点眼加療を強化し,増悪時は硝子体手術介入ができるように頻回に診察することとした.ベタメタゾン点眼液をC2時間おきに増量,瞳孔管理目的にトロピカミド・フェニレフリン塩酸塩をC1日C4回処方した.同時に内科による血糖コントロールも開始した.初診からC9時間後,矯正視力は(0.8),前房所見は細胞C3+,前房蓄膿は変化なかったが,フレアとフィブリンは改善傾向であった.眼底所見も著変認めなかった.初診からC3日目には矯正視力は(0.6),Descemet膜皺襞の増悪と虹彩後癒着が生じ(121)あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025C1055図2左眼の経過a,b:左眼の初診からC3日目の所見.Ca:前眼部細隙灯写真.初診時と比較し前房蓄膿が改善傾向となっていたが虹彩後癒着を認めた.b:広角合成カラー眼底写真.眼底所見は初診時と比較し,著変を認めなかった.Cc,d:左眼の初診からC7日目の所見.Cc:前眼部細隙灯写真.前房細胞がC±まで改善し,フィブリン析出,前房蓄膿は消失し,虹彩後癒着は残存していた.Cd:広角合成カラー眼底写真.初診時に比較し,軟性白斑(C.)が増加していた.Ce,f:左眼の初診からC3カ月の所見.Ce:前眼部細隙灯写真.炎症所見はすべて消失していたが虹彩後癒着は残存していた.Cf:広角合成カラー眼底写真.7日目に比較し,軟性白斑は不変であったが,網膜出血(.)の増加を認めた.ていたが,前房蓄膿は改善傾向となった(図2a).眼底所見も初診時と比較して著変を認めなかった(図2b).7日目には,前眼部所見は前房細胞C0.5+まで改善し,フィブリンと前房蓄膿は消失していたため,ベタメタゾン点眼をC1日C4回へ減量した(図2c).眼底は初診時と比較し軟性白斑が増加していた(図2d).術後3カ月時点では矯正視力は(1.2),前房内炎症所見はすべて消失したが虹彩後癒着の残存を認めた(図2e).眼底所見はC7日目時点と比較し,軟性白斑は不変であったが,網膜出血の増加を認めた(図2f).この時点でCHbA1cはC5.7%まで改善した.術後C4カ月でベタメサゾン点眼を中止したが術後C6カ月時点でも再燃なく経過している.なお,眼底所見は網膜出血が増加しCDRは悪化し,OCTAにて虚血範囲の増加がみられたため,DRは悪化していると判断し汎網膜光凝固を施行した.CII考按本症例は白内障術後早期に前房炎症を認め,糖尿病虹彩炎と感染性眼内炎やCTASSとの鑑別診断を要した.TASSは手術後C12.48時間以内に発症し,びまん性角膜浮腫,フィブリン析出,前房蓄膿の所見を認める急性の無菌性炎症反応であるC4.6).本症例の発症は術後C12.24時間が経過しているものの,角膜浮腫などの角膜所見に乏しいことからCTASSは否定的と考えた.また,感染性眼内炎における眼底所見では硝子体混濁や網膜血管の白線化,網膜出血,軟性白斑などが認められ1,2),DRの眼底所見では硬性白斑,軟性白斑,網膜斑状出血や点状出血が両眼性に認められる7.10).本症例では軟性白斑,網膜斑状出血がみられるものの,それらの所見は両眼性であること,点状出血や硬性白斑も伴うこと,硝子体混濁がみられないことから,感染性眼内炎による網膜血管炎というよりは,DRに伴う眼底所見である可能性が高いと考えられた.白内障術後眼内炎の所見は,既報では角膜後面沈着物,前房蓄膿,前房フィブリン,Descemet膜皺襞,硝子体混濁や網膜血管炎が報告されている1.3).白内障術後虹彩炎でもまれに前房蓄膿やフィブリン析出を示すことがあると報告されており,1,500例の白内障術後虹彩炎を検討したCMoham-madpourら3)の報告によると,2+以上の細胞を伴う虹彩炎はC1,500眼中C126眼で認められ,そのうちC8眼で前房蓄膿,48眼で前房フィブリン形成を認めたと報告している.Wata-nabeら11)の報告では,糖尿病患者のC1.6%で糖尿病虹彩炎がみられ,角膜後面沈着物,前房蓄膿,前房フィブリン形成を伴い,血糖コントロール不良患者に生じやすかった.本症例は血糖コントロール不良例であり,既往にあった原因不明の虹彩炎は,糖尿病虹彩炎であった可能性が高い.白内障手(122)術C2日後に生じた虹彩炎も血糖コントロール不良に伴う糖尿病虹彩炎の再燃であったと考えられ,術後の糖尿病虹彩炎の再燃を予防するためにも術前の血糖コントロールの重要性が示唆された.CSutoら12)は白内障術前の血糖コントロールの違いによる術後CDRの悪化率に有意差はなかったことを報告している.しかし,糖尿病の血糖コントロールが不良な場合,有意に術後感染のリスクが上がることが報告されている13,14).術後感染のリスクを減らすという意味においても,術前の血糖コントロールは重要であると考えられる.また,本症例では当院での内科による血糖コントロール開始後よりCDRが増悪している.中等.重度のCprePDRの症例では急速な血糖コントロールにより,優位にCDRが悪化したことが報告されている12).この現象はCEarlyworseningofdiabeticretinopathy(EWDR)とよばれており,血糖コントロールが急激に改善した後C3.6カ月以内に患者のC10.20%に発生するとされている15).本症例でのCDRの悪化は,術後炎症のほかに急速な血糖コントロールに起因するCEWDRをみていたものと思われる.これらのことを考慮すると,本症例のような虹彩炎の既往もあり,prePDRを有するような血糖コントロール不良例においては,術後虹彩炎の再燃や,DRの悪化,感染のリスクを下げることを念頭に入れ,術前血糖コントロールは穏やかに行い,血糖コントロールが十分になされた後に白内障手術を行うことが重要であることが示唆された.CIII結論今回,白内障術後早期に,感染性眼内炎やCTASSとの鑑別に苦慮した糖尿病虹彩炎を有する症例を経験した.糖尿病患者では白内障手術前に血糖コントロールを行うことが重要であり,とくに糖尿病虹彩炎の既往がある血糖コントロール不良例については白内障術後の高度な虹彩炎に注意を要する必要性が示唆された.利益相反・福田泰雅なし・石田友香なし・厚東隆志[F]AlconJapanLtd.ClassIV[R]SantenCPharmaceuticalCCo.,CLtd.,CBayerCYakuhinCLtd.(Japan)C,CNovartisCPharmaKK(Japan)C,CKowaCCo.,CLtd.,CSenjuCPharmaceuticalCCo.,CLtd.,CAMOCInc.,CAlconCJapanCLtd.,CChugaiCPharmaceuticalCCO.,CLTD.,CBayerCYakuhin,CLtd,River.eldInc.,RohtoNittenCo.,Ltd.ClassII・井上真[F]AlconJapanLtd.,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.Class(123)IV[R]AlconCJapanCLtd.,CSantenCPharmaceuticalCCo.,CLtd.NovartisPharmaKK(Japan)C,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,CBayerCYakuhin,CLtd,CBayerCYakuhin,CLtd.,CHOYACCorporation,CCarlCZeissCMeditec.,CAMOCInc.,CKowaCCo.,CLtd.,LogicAndDesignInc.ClassII文献1)井上真:白内障術後眼内炎.臨眼75:168-172,C20212)MichaelSK,AlessandroAC,MarcoAZetal:Endophthal-mitis.SurvOphthalmolC43:193-224,C19983)MohammadpourCM,CJafarinasabCMR,CJavadiCMACetal:COutcomesCofCacuteCpostoperativeCin.ammationCafterCcata-ractsurgery.EurJOphthalmolC17:20-28,C20074)ServetC,ZeynepD,HusamettinAetal:Toxicanterior-segmentsyndrome(TASS)C.CClinCOphthalmolC8:2065-2069,C20145)MoshirfarM,WhiteheadG,BeutlerBCetal:Toxicante-riorsegmentsyndromeafterVerisyseiris-supportedpha-kicCintraocularClensCimplantation.CJCCataractCRefractCSurgC32:1233-1237,C20066)BodnarZ,ClouserS,MamalisN:Toxicanteriorsegmentsyndrome:updateConCtheCmostCcommonCcauses.CJCCata-ractRefractSurgC38:1902-1910,C20127)PortaCM,CBandelloF:DiabeticCretinopathy.CDiabetologiaC45:1617-1634,C20028)RamandeepCS,CKimCR,CChandranCACetal:DiabeticCreti-nopathy:AnCupdate.CIndianCJCOphthalmolC56:179-188,C20089)WilkinsonCCP,CFrederickCLFCIII,CRonaldCEKCetal:ProC-posedCinternationalCclinicalCdiabeticCretinopathyCandCdia-beticmacularedemadiseaseseverityscales.Ophthalmolo-gyC110:1677-1682,C200310)RajvardhanCA,CSonyCS,CPrateekN:AsymmetricCdiabeticCretinopathy.IndianJOphthalmolC69:3026-3034,C202111)WatanabeCT,CKeinoCH,CNakayamaCKCetal:ClinicalCfea-turesofpatientswithdiabeticanterioruveitis.BrJOph-thalmolC103:78-82,C201912)SutoC,HoriS,KatoSetal:E.ectofperioperativeglyce-micCcontrolCinCprogressionCofCdiabeticCretinopathyCandCmaculopathy.ArchOphthalmolC124:38-45,C200613)WongCTY,CCheeSP:TheCepidemiologyCofCacuteCendo-phthalmitisaftercataractsurgeryinanAsianpopulation.OphthalmologyC111:699-705,C200414)NagakiCY,CHayasakaCS,CKadoiCCCetal:BacterialCendo-phthalmitisaftersmall-incisioncataractsurgery:e.ectofincisionCplacementCandCintraocularClensCtype.CJCCataractCRefractSurgC29:20-26,C200315)FeldmanBS,LargerE,MassinP:Earlyworseningofdia-beticCretinopathyCafterCrapidCimprovementCofCbloodCglu-cosecontrolinpatientswithdiabetes.DiabetesMetabC44:C4-14,C2018あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025C1057

視路疾患の構造と機能のFUSION

2025年8月31日 日曜日

視路疾患の構造と機能のFUSION後藤克聡*三木淳司**川崎医科大学眼科学1教室CFusionofStructureandFunctionofVisualPathwayDiseasesKatsutoshiGotoandAtsushiMikiCDepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchoolはじめに視路病変が存在すると障害部位に応じた特徴的な視野障害をきたすため,視路疾患における視野検査は病巣診断に有用である.視路は,外側膝状体までは網膜神経節細胞(retinalCganglioncell:RGC)の軸索で構成されており,外側膝状体でシナプスを介して中継細胞(視放線)に視覚情報が伝達され,後頭葉の一次視覚野に投射される.外側膝状体までの視路が障害を受けると,障害部位に対応するCRGCとその軸索が逆行性に変性・萎縮する.これらの網膜内層構造の変化は,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)による乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryCretinalCnerve.berlayer:cpRNFL)厚や黄斑部の網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚を測定することで,客観的かつ詳細な定量評価が可能となる.視路疾患では,視野検査だけでなくCOCTを併用して評価することでより病巣診断の精度が向上しており,視機能と網膜構造をCFUSIONして評価することが重要である.本稿では,視路疾患においてCOCTによる構造評価と視野検査による視機能評価を組み合わせることで診療に役立つ症例や注意点について述べる.CI視交叉疾患下垂体腺腫を代表とする視交叉疾患では,両眼の鼻側半網膜由来の交叉線維が障害されるため,典型的には両耳側半盲を生じる.鼻側交叉線維は視神経乳頭のおもに水平象限に入射するため,鼻側交叉線維が障害を受けると乳頭耳側の乳頭黄斑束および乳頭鼻側の鼻側放射状線維が優先的に菲薄化する.その結果,視神経乳頭における水平象限の萎縮を生じ,これを帯状萎縮(bandatrophy)または蝶ネクタイ状萎縮(bow-tieatrophy)とよぶ.視交叉部圧迫性視神経症による帯状萎縮は,緑内障性視神経症でみられる垂直性の視神経萎縮と対照的な所見である.しかし,帯状萎縮は正確には水平象限だけでなく視神経乳頭の垂直象限でも萎縮しており,鼻側交叉線維が乳頭の上下にも入射するためと考えられる.完全耳側半盲眼における鼻側交叉線維の分布を検討した報告では,視神経乳頭のC2時とC5時方向に分布のピークが存在することが示されている1).GCC解析では,中心窩垂直経線を基準として鼻側領域の選択的な菲薄化を呈する.これらの網膜内層菲薄化は視交叉部障害に特異的な所見であるため,診断的価値が高い(図1).OCTは視交叉疾患による網膜内層菲薄化の検出だけでなく,視野障害との整合性の確認に有用なツールとなる.両耳側半盲は視交叉疾患の存在を示唆する重要な所見であるが,視野検査は検者の技術が影響すること,自覚的検査であるため患者の理解・協力性・疲労・集中力に影響を受けること,幼小児や高次脳機能障害の患者では実施が困難であること,などが実臨床では問題となる.一方,OCTは視野検査の実施が困難な症例においても検査が行いやすく,両耳側半盲の予測に有用な他覚的検査となる可能性がある2).視力や視野障害による固視不良の症例では,測定領域が黄斑部であるCGCCのほうが視神経乳頭を測定領域とするCcpRNFLよりも撮影しやすい2).OCTは視交叉病変の存在や両耳側半盲の予測に有用であるが,鼻側視野が正常な耳側半盲眼において,鼻側領域だけでなく耳側領域のCGCC菲薄化がみられることがある.この場合は,視交叉部での圧迫が鼻側交叉線維だけでなく耳側非交叉線維にも及んでいる可能性がある.視交叉圧迫の程度が強く,圧迫が長期間であったと考えられる患者ではCGCCがびまん性に菲薄化する.耳側領域のCGCCが菲薄化するほかの理由として,傍中心窩領域での鼻側交叉線維と耳側非交叉線維の重なり合い(naso-temporalCover-lap)の存在が示唆されている3).視交叉部腫瘍性病変におけるCOCTと視機能との関連については,術前のCHumphrey視野計によるCMD値が-10CdB以〔別刷請求先〕後藤克聡:〒701-0192岡山県倉敷市松島C577川崎医科大学附属病院眼科Reprintrequests:KatsutoshiGoto,DepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashikicity,Okayama701-0192,JAPANCb右眼左眼ac左眼右眼図1視交叉疾患の構造と機能(症例1)40歳代,男性.矯正視力は両眼ともにC0.4,限界フリッカ値は右眼C21CHz,左眼C24CHz,RAPDは陰性であった.a:眼底写真では両眼ともに明らかな異常所見はないようにみえる.b:RTVue-100COCT(Optovue社)によるCcpRNFL解析(上段)と黄斑部CGCC解析(下段).cpRNFL解析では両眼の水平象限の菲薄化(帯状萎縮)(赤色:p<1%),GCC解析では両眼の中心窩垂直経線を基準に鼻側領域の選択的な菲薄化(赤色:p<1%)がみられた.なお,RTVue-100による黄斑部CGCC厚は中心窩から耳側C0.75Cmmの部位を中心として直径C6×6Cmmの領域が解析される(視神経乳頭は解析領域に含まれない).c:Goldmann視野検査で両耳側半盲が検出された.d:ガドリニウム造影CT1強調画像.下垂体腺腫による視交叉圧排がみられた(.).下の中期.後期の患者において,術前のCcpRNFL厚がC80μm以上の患者では術後にCMD値がC10CdB以上改善することが報告されている4).GCC厚による検討では,術前CGCCが厚い患者ほど術後視野が良好であったとされている5).つまり,術前のCcpRNFLやCGCCの菲薄化が軽度の患者は腫瘍摘出後の視機能が回復するが,菲薄化がある程度以上だと視機能回復は困難となる(図2).そのため,下垂体腺腫などの視交叉部腫瘍性病変における術前COCTは視機能予後の予測にも活用することができる.CII視索症候群一側の視索病変が存在すると,障害部位と同側眼の耳側非交叉線維と対側眼の鼻側交叉線維が直接障害を受けるため,対側の同名半盲,対側眼の相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillarydefect:RAPD)陽性,半盲性視神経萎縮のC3徴候を呈する(図3).以前に筆者らは他覚的にCRAPDを定量できる瞳孔記録計RAPDxを用いて,視索症候群におけるCRAPDの検討を行った6).その結果,視索症候群は全例で対側眼にCRAPD陽性がみられ,その平均CRAPD振幅はC0.49±0.18ClogCunits6)であった.また,筆者らが報告した視神経疾患のCRAPD振幅はC1.91±1.41Clogunits,正常眼のCRAPD振幅はC0.02±0.11(.0.24.0.24)logunitsであった7).そのため,視索症候群でみられるCRAPD振幅は正常眼よりも大きい値を示すものの視神経疾患よりは低い値であるため,臨床的には小さいRAPDに相当するといえる.しかし,脳障害の対側眼におけるCRAPD陽性検出は,視索症候群の診断の一助となる有用な所見であるため,同名半盲をみた場合はCRAPDの有無を注意深く観察することが重要である.半盲性視神経萎縮は,各眼で視神経萎縮の部位が垂直象限または水平象限と直交する所見である.鼻側半盲をきたす同側眼では視神経乳頭のおもに垂直象限に入る耳側非交叉線維が菲薄化して砂時計様萎縮(hourCglassatrophy)を,耳側半盲をきたす対側眼では視交叉部障害と同様の帯状萎縮を呈左眼右眼e術後2W術後4M術後6M図2視交叉疾患におけるOCTによる視機能予後の予測(症例2)50歳代,女性.矯正視力は右眼光覚なし,左眼C0.1,限界フリッカ値は右眼測定不能,左眼C30CHz,RAPDは右眼陽性であった.a:眼底写真では右眼の視神経乳頭蒼白化がみられた.b.cpRNFL解析(上段)と黄斑部CGCC解析(下段).平均CcpRNFL厚は右眼C62.6Cμm,左眼はC78.4Cμm,GCC厚は右眼C61.1Cμm,左眼はC79.7Cμmで,右眼はCcpRNFLおよびCGCC解析でともにびまん性の菲薄化(赤色:p<1%)左眼はCcpRNFL解析で帯状萎縮を反映する水平象限の菲薄化(赤色:p<1%),GCC解析で中心窩垂直経線を基準に鼻側領域の菲薄化(赤,色:p<1%)がみられた.c:Goldmann視野計による検査では,右眼は鼻側視野のみ残存,左眼は耳側半盲が検出された.d.ガドリニウム造影CT1強調画像.下垂体腺腫による視交叉圧排がみられた(.).e:術後CHumphrey視野検査とCGoldmann視野検査.下垂体腺腫の摘出後,左眼の視力および視野は術後C2週でC0.7,MD値.10.01CdB,術後C4カ月でC0.6,MD値.6.43CdB,術後C6カ月で術前に比べて耳側視野の改善がみられた.右眼の視力は術後C6カ月で手動弁とやや改善したが,視野の改善はなかった,する.半盲性視神経萎縮は視索障害に特異的な所見であるたする.筆者らの検討では,視索障害に起因する同名半盲パタめ診断的価値が高いが,検眼鏡的観察ではその変化が明瞭でーンの菲薄化検出は,黄斑部網膜内層解析のなかでも網膜神ない患者も少なくない.OCTは半盲性視神経萎縮の検出に経線維層を含まない神経節細胞層+内網状層(ganglionCcell有用であるが,cpRNFL解析はCGCC解析ほど半盲性変化をClayer+innerplexiformClayer:GCL+IPL)解析が優れてい明瞭に検出することができない8).黄斑部網膜内層解析では,ることが明らかとなった6).半盲性視神経萎縮の検出には中心窩垂直経線を基準として同側眼で耳側領域,対側眼で鼻enfaceや光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)側領域が選択的に菲薄化し,同名半盲パターンの菲薄化を呈も有用である9)(図4).左眼右眼図3視索症候群における構造と機能(症例3)40歳代,男性.視力は両眼ともにC1.5と良好であるが,RAPDは右眼陽性で,瞳孔記録計CRAPDxによるCRAPD振幅は右眼C0.41Clogunitsと右眼の対光反射がやや減弱していた.Ca:眼底写真では両眼ともに明らかな異常所見はないようにみえる.Cb:cpRNFL解析(上段)と黄斑部CGCC解析(下段).右眼はCcpRNFL解析で帯状萎縮を反映する水平象限の菲薄化(赤色:p<1%),GCC解析で中心窩垂直経線を基準に鼻側領域で菲薄化(赤色:p<1%)がみられた.左眼はCcpRNFL解析で上方から耳側を含めた下方のおもに垂直象限の菲薄化(砂時計様萎縮)(赤色:p<1%),GCC解析で中心窩垂直経線を基準に耳側領域の菲薄化(赤色:p<1%)が検出された.Cc:Goldmann視野検査では右同名半盲が検出され,対側眼(右眼)のCRAPD陽性,半盲性視神経萎縮のC3徴候がみられため,左視索症候群と診断された.III外側膝状体より後方の視路障害先天性の後頭葉障害では,シナプスを越えてCRGCや視神経に変性・萎縮をきたすことが知られており,視索障害と同様の半盲性視神経萎縮が観察されていた.一方,後天性の後頭葉障害では半盲性視神経萎縮は生じないとされてきた.しかし,同名半盲を伴う後天性後頭葉障害の患者において,半盲側に対応するCGCCの菲薄化がみられ,経シナプス逆行性変性の可能性が示唆された10).この変化は通常の検眼鏡的眼底検査ではとらえることがむずかしく,これまで見逃されてきた可能性がある.筆者らの検討C10.13)では,後頭葉病変発症後の早期にみられなかった網膜内層菲薄化が経過とともに緩除かつ進行性に出現すること,同名半盲パターンの菲薄化はCcpRNFLよりもGCCで顕著でとくに中心網膜に強いこと,GCC菲薄化は発症後C1年半.2年で出現すること,cpRNFL菲薄化はC24カ月で顕著になること,網膜内層菲薄化がみられない症例も存在することが明らかとなっている.しかし,外側膝状体梗塞を含めた前部視路の直接的な逆行性変性の可能性を考慮する必要がある.CIV視路疾患におけるOCTと視野のPitfall視路疾患のCOCTでは結果の読影や解釈に注意が必要である.黄斑部網膜内層解析における両眼の鼻側領域の選択的な菲薄化の存在は両耳側半盲を予想できるが,必ず両耳側半盲の視野障害を呈するとは限らず,OCTによる構造変化と視野障害は乖離することがある(図5).視交叉部腫瘍性病変では,両耳側半盲を呈している状態であってもCOCTで網膜内層菲薄化がみられないこともある(図6).これは,腫瘍による視交叉圧迫はあるものの,RGCとその軸索の変性には及んでいない状態と考えられる.つまり,OCTで検出できる網膜内層菲薄化は初期にはみられず病期進行に伴い出現するタイムラグがあるため,病態や視機能を必ずしも正確に反映していないことに留意する必要がある.GCCで両耳側半盲パターンの菲薄化がみられても頭蓋内疾患ではなく網膜疾患による二次的変化の可能性もあるため,cpRNFLやCGCC解析だけでなく,症例に応じてCBスキャン画像による網膜外層ラインや脈絡膜の観察,眼底自発蛍光などの他の眼底イメージングもあわせて評価を行っておく(図7).つまり,両耳側半盲様の構造変化や視野障害がみられた場合は,視路疾患または網膜疾患の可能性,その両方がオーバーラップしている可能性を念頭におく必要がある.また,OCTの機種によっては,cpRNFL解析における帯状萎縮が垂直象限の菲薄化として検出されることがある14).そのため,機種によって結果が異なることを念頭におき,使用しているCOCTの特徴右眼左眼enface図4視索症候群におけるenfaceおよびOCTA(症例3)上段:enfaceでは,対側眼(右眼)の帯状萎縮,同側眼(左眼)の砂時計様萎縮を反映する神経線維層欠損が低反射領域(黒色)として明瞭にみられる(.).下段:OCTAでは,両眼ともに神経線維層欠損に一致する部位で放射状乳頭周囲毛細血管の密度減少(.)がみられ,その減少は対側眼で顕著である.右眼図5視路疾患におけるOCTと視野のピットフォール(症例4)20歳代,男性.a:ガドリニウム造影CT1強調画像.下垂体腺腫による視交叉圧排(.)がみられる.b:黄斑部CGCC解析で両眼ともに中心窩垂直経線よりも鼻側領域の選択的な菲薄化(赤色:p<1%)がみられ,両耳側半盲が予想される.c:Goldmann視野計による検査では右眼は中心および鼻側視野欠損,左眼は耳側半盲がみられ,両耳側半盲ではなく左同名半盲様を呈した.bc右眼左眼図6視路疾患におけるOCTと視野のピットフォール(症例5)50歳代,女性.下垂体腺腫.a:ガドリニウム造影CT1強調画像.b:Goldmann視野.c:cpRNFL解析(上段)と黄斑部CGCC解析(下段).腫瘍による視交叉圧排(aの.)で両耳側半盲がみられるが,cpRNFLやCGCC解析で菲薄化は検出されなかった.Ca右眼左眼b左眼右眼e図7視路疾患におけるOCTと視野のピットフォール(症例6)70歳代,男性.両眼)中心性漿液性脈絡網膜症.a:RS-3000advance2(ニデック)による黄斑部CGCC解析では両眼ともに中心窩垂直経線を基準に鼻側領域の選択的な菲薄化(赤色:p<1%)がみられた(RS-3000advance2による黄斑部CGCC厚は中心窩を中心として直径1.5Cmm,4.5Cmm,9.0Cmmの領域が解析される).b:Goldmann視野検査で両耳側半盲が検出され,視交叉部病変の存在が疑われた.c:ラインスキャン(水平断)のCBスキャン画像では両眼ともに脈絡膜が肥厚(▲)し,中心窩鼻側領域のCellipsoidzone(EZ)欠損および外顆粒層菲薄化(→)がみられた.d:眼底自発蛍光ではCGCC菲薄化部位に一致して網膜色素上皮の萎縮に伴う低蛍光(.)がみられた.e:頭部CMRI(FLAIR画像)で異常所見はなかった.を把握して読影する,あるいは目的に応じて撮影機種を選択るCRGCとその軸索が逆行性に変性・萎縮するため,OCTですることも必要と考えられる.これらの問題点から,OCTは網膜内層菲薄化としてとらえることができる.この網膜内のみでは視路疾患の診断を行うことはできず,ほかの視機能層菲薄化は障害部位に対応する特徴的なパターンを示し,そ検査や画像検査とあわせて総合的に評価することが重要であのなかでも視交叉や視索の障害では特異的な半側網膜の菲薄る.化として検出できるため診断の一助となる.OCTは視路疾患において視機能と構造変化の整合性や視機能の予後予測なおわりにど,局在診断に+aの情報を取得することができるため有用外側膝状体までの視路が障害を受けると障害部位に対応すであるが,脳内視路病変による網膜内層菲薄化は急性期には文献1)UedaCK,CKanamoriCA,CAkashiCACetal:EvaluationCofCtheCdistributionCpatternCofCtheCcircumpapillaryCretinalCnerveC.breClayerCfromCtheCnasalChemiretina.CBrCJCOphthalmolC99:1419-1423,C20152)後藤克聡,三木淳司,荒木俊介ほか:頭蓋咽頭腫に高次脳機能障害を合併し,両耳側半盲の予測に光干渉断層計が有用であった小児のC1例.神経眼科C36:191-198,C20193)AkashiCA,CKanamoriCA,CUedaCKCetal:TheCdetectionCofCmacularanalysisbySD-OCTforopticchiasmalcompres-sionCneuropathyCandCnasotemporalCoverlap.CInvestCOph-thalmolVisSciC55:4667-4672,C20144)Danesh-MeyerCHV,CPapchenkoCT,CSavinoCPJCetal:InvivoCretinalnerve.berlayerthicknessmeasuredbyopti-calCcoherenceCtomographyCpredictsCvisualCrecoveryCafterCsurgeryCforCparachiasmalCtumors.CInvestCOphthalmolCVisCSciC49:1879-1885,C20085)TiegerCMG,CHedgesC3rdCTR,CHoCJCetal:GanglionCcellCcomplexClossCinCchiasmalCcompressionCbyCbrainCtumors.CJNeuroophthalmolC37:7-12,C20176)GotoK,MikiA,YamashitaTetal:QuantitativeanalysisofCmacularCinnerCretinalClayerCusingCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomographyCinCpatientsCwithCopticCtractCsyn-drome.JOphthalmol2017:3596587,C20177)TakizawaCG,CMikiCA,CMaedaCFCetal:AssociationCbetweenCaCrelativeCa.erentCpupillaryCdefectCusingCpupil-lographyandinnerretinalatrophyinopticnervedisease.ClinOphthalmolC9:1895-1903,C20158)KanamoriCA,CNakamuraCM,CYamadaCYCetal:Spectral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCdetectsCopticCatro-phyCdueCtoCopticCtractCsyndrome.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:591-595,C20139)GotoCK,CMikiCA,CYamashitaCTCetal:RetinalCnerveC.berClayerandperipapillarycapillarydensityreductiondetect-edusingopticalcoherencetomographyenfaceimagesandangiographyCinCopticCtractCsyndrome.CJCNeuroophthalmolC39:253-256,C201910)YamashitaCT,CMikiCA,CIguchiCYCetal:ReducedCretinalCganglioncellcomplexthicknessinpatientswithposteriorcerebralCarteryCinfarctionCdetectedCusingCspectral-domainCopticalcoherencetomography.JpnJOphthalmolC56:502-510,C201211)GotoCK,CMikiCA,CYamashitaCTCetal:SectoralCanalysisCofCtheCretinalCnerveC.berClayerCthinningCandCitsCassociationCwithCvisualC.eldClossCinChomonymousChemianopiaCcausedCbyCpost-geniculateClesionsCusingCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomography.CGraefesCArchCClinCExpCOphthal-molC254:745-756,C201612)YamashitaCT,CMikiCA,CGotoCKCetal:PreferentialCatrophyCofthecentralretinalganglioncellsinhomonymoushemi-anopiaCdueCtoCacquiredCretrogeniculateClesionsCdemon-stratedusingswept-sourceopticalcoherencetomography.CActaOphthalmol96:e538-e539,C201813)YamashitaCT,CMikiCA,CGotoCKCetal:EvaluationCofCsigni.cancemapsandtheanalysisofthelongitudinaltimecourseCofCtheCmacularCganglionCcellCcomplexCthicknessesCinacquiredoccipitalhomonymoushemianopiausingspec-tral-domainCopticalCcoherenceCtomography.CNeuroophthal-mologyC44:236-245,C201914)NakamuraCM,CIshikawa-TabuchiCK,CKanamoriCACetal:CBetterCperformanceCofCRTVueCthanCcirrusCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCinCdetectingCbandCatrophyCofCtheCopticCnerve.CGraefesCArchCClinCExpCOph-thalmolC250:1499-1507,C2012***

網膜疾患と眼底視野計の臨床応用

2025年8月31日 日曜日

《第13回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科42(8):1042.1046,2025c網膜疾患と眼底視野計の臨床応用馬場隆之千葉大学大学院医学研究院眼科学CClinicalApplicationsofFundusPerimetryforRetinalDiseasesTakayukiBabaCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicine,ChibaUniversityCIなぜ網膜感度を測定するのか?視機能を評価する方法として,まず思い浮かぶのは視力検査であろう.眼科診療において,視力の評価は必須であるが,視機能の評価には多くの手法がある.視力以外の視機能評価法の代表が視野検査である.最高矯正視力は固視点における二点弁別閾の最小値を評価しており,中心視の解像力をみているものである.一方で,視野検査は各測定点における光覚感度をみているもので,まったく別の機能を評価しているといえる.視野検査は動的視野検査と静的視野検査に大きく分けられる.静的視野検査といえば,Humphrey視野計が代表格であるが,眼底視野計もこの仲間に入る.眼底視野計の特徴として,つぎのようなものがある.C1.中心窩外病変の視機能評価病変が中心窩外に存在するとき,矯正視力は良好であるが,患者は暗点を自覚することがある.このような場合に,眼底視野計を用いることにより,眼底病変に一致した暗点が検出される.治療により網膜感度が改善することも観察できるので,患者の見え方の辛さに寄り添った診療を行うことができる(図1).C2.視力検査では検出不能な微細な視機能変化の検出中心性漿液性脈絡網膜症では,網膜下液が中心窩下にみられるにもかかわらず,矯正視力はC1.0という症例がよくある.眼底視野計では,網膜下液に一致した部位の網膜感度が低下する.また,治療により網膜下液が吸収されると,視力は1.0のままであるが,眼底視野計で測定した網膜感度は改善することが多い.C3.眼底を基準とするフォローアップ眼底視野計には,前回の測定条件を記憶させておくことができる.一定の期間を空けて眼底視野計による検査を繰り返図1トキソプラズマ脈絡網膜炎a:黄斑の耳上側に病巣がみられる.中心視力はC0.8だが,傍中心暗点を自覚している.b:眼底視野計では,黄斑の耳上側に著しい網膜感度の低下がみられ,病巣および自覚症状と一致している.〔別刷請求先〕馬場隆之:〒260-8670千葉市中央区亥鼻C1-8-1千葉大学大学院医学研究院眼科学Reprintrequests:TakayukiBaba,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicine,ChibaUniversity,1-8-1Inohana,Chuo-ku,Chiba-shi,Chiba260-8677,JAPANC1042(108)図2固視点の変化AMDの症例.Ca:治療前.固視点(C.)は中心C2°の円外にはみ出ている.Cb:治療後.固視点は中心C2°の円内に収まっており,固視が安定していることがわかる.表1Humphrey視野計(HFA)と眼底視野計の比較HFACmaiaCMP3CCOMPASS眼底画像なしSLO(グレー)カラーカラー画角C-36°×36°45°円形C60°解像度C-1,024×1,024CpixC4,016×3,008CpixC2,592×1,944Cpix視標サイズCGoldmannI-VGoldmannIIIのみGoldmannI.CVCGoldmannIII最小瞳孔径C2.5CmmC4CmmC3Cmm背景輝度C31.5CasbC4CasbC4/31.4CasbC31.4Casb視標呈示投影CLEDCLEDCLED視標最大輝度C10,000CasbC1,000CasbC10,000CasbC10,000Casb視標最小輝度C0.1CasbC0.25CasbC4Casbダイナミックレンジ0.C50CdB0.C36CdB0.C34CdB0.C50CdB眼底視野計のダイナミックレンジはほぼCHumphrey視野計(HFA)と同等となっている.SLO:ScanningLaserOphthalmoscopy,pix:ピクセル(画素,数値が大きいほど解像度が高い),asb:アポスチルブ(輝度の単位,数値が大きいほど明るい).せば,眼底のどの部分の網膜感度がどの程度悪化・改善しているのか,正確にフォローアップすることができる.C4.固視点の観察眼底視野計には,眼球の微動を追尾する機能が備わっているが,これにより固視点の微動をとらえることが可能である.治療前であれば視線が一定せず,固視点のばらつきも大きいが,治療により視機能が改善すると視線が一定し,固視点のばらつきが小さくなる(図2).CII網膜感度の測定方法眼底視野計(maia,MP3,COMPASS)とCHumphrey視野計の比較を表1に示す.LEDが眼底視野計の視標提示に用いられるようになり,Humphrey視野計に近いダイナミックレンジで網膜感度の測定を行えるようになった.また,背景輝度もほぼCHumphrey視野計と同じ条件となり,日常の見え方に近い状態での網膜感度測定が可能となっている.トラッキング機能も向上しており,固視微動のみならず,ある程度の粗動まで追従できるため,検者が調整する頻度が減った.また,眼底画像も広角・高解像度に改良されている.CIII眼底疾患における網膜感度眼底視野計を用いた眼底疾患の評価をいくつかの疾患で紹介する.C1.糖尿病網膜症糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)の患者では,黄斑浮腫の機能評価に使用することが有用である1).漏出の多い部分,浮腫の程度が高度な部分で網膜感度が低下し,時間経過とともに網膜感度が変化する様子が記録できる.ま図3DRa:黄斑の耳側から下方にかけて,著しい網膜感度の低下がみられる().b:フルオレセイン蛍光眼底造影にてこの領域()には無血管域が存在していることがわかる.図4AMDa:黄斑下方にオレンジ病巣と網膜下出血がみられる.中心視力はC0.4である.Cb:インドシアニングリーン蛍光造影にてポリープが観察される.Cc:網膜下出血に一致して,眼底視野計では網膜感度の低下がみられる.Cd:抗CVEGF薬による治療後,視力はC0.5にやや改善した.網膜感度は出血のみられた領域で大きく改善している.た,図3のように,網膜虚血の領域では網膜感度が低下するの網膜出血や漿液性網膜.離が中心窩に及ばない患者では,ので,蛍光造影検査を行わなくても,ある程度は網膜の循環視力の低下をきたさないが,病変部分の網膜感度は低下す状態を推測することができる.る2).図4のポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalC2.加齢黄斑変性vasculopathy:PCV)症例は中心から遠ざかる向きに出血が加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)みられたため,中心視力はC0.4と比較的保たれていたが,抗図5病的近視a:黄斑の鼻側にみられる網脈絡膜萎縮の領域では網膜感度が非常に低い.一方で,黄斑周囲では中等度の網膜感度低下を示す.b:OCTでは中心窩.離と網膜分離がみられる.図6固視標の違いによる中心網膜感度a:デフォルトの十字型の固視標.中心網膜感度はC18CdBである.Cb:円形の固視標.中心の視標が固視標と重ならず,中心網膜感度はC31CdBである.血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬による治療後に低下していた網膜感度が正常近くまで改善した.C3.病的近視近視性網脈絡膜萎縮の部分では,著しい網膜感度低下を生じる3).図5の症例では,中心窩を含む網膜分離症があり,そのための網膜感度低下がみられているが,萎縮の部分ではさらに網膜感度は低下し,ほぼC0CdBとなっている.CIV検査上の注意点眼底視野計による検査はCHumphrey視野計と同様,暗室で行われることが多いが,暗順応は必ずしも必要ない.ただし,非常に強い光を眼底にあてた場合(眼底写真撮影など)は少し時間をあけると網膜感度を正確に調べることができる4).また,視標の配置を自由に設定できるので,Hum-phrey視野計と同じ配置にしてもよいが,測定点が多いと測定に時間がかかり,被検者の疲労から固視がぶれ,反応が遅延し正確な結果が得られないため,注意が必要である.中心の網膜感度を測定したいときには,固視標もデフォルトの十字のものではなく,中心が空いている円形の固視標(図6)のほうが,視標と固視標の重なりがないため有用である5).文献1)BabaT:Detectingdiabeticretinalneuropathyusingfun-dusperimetry.IntJMolSciC22:10726,C20212)NizawaCT,CKitahashiCM,CBabaCTCetal:ImprovementsCofCretinalsensitivityafterintravitrealinjectionofa.iberceptinCeyesCwithCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tionCwithCorCwithoutCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.COphthalmologicaC244:347-360,C20213)KakisuCM,CBabaCT,CIwaseCTCetal:RelationshipCbetweenCretinalCsensitivitiesCandCopticalCcoherenceCtomographicC.ndingsineyeswithmyopicchorioretinalatrophy.EurJOphthalmolC32:NP24-NP28,C20224)HanCRC,CGrayCJM,CHanCJCetal:OptimisationCofCdarkCadaptationCtimeCrequiredCforCmesopicCmicroperimetry.CBrJOphthalmolC103:1092-1098,C20195)NizawaCT,CBabaCT,CKitahashiCMCetal:Di.erentC.xationCtargetsa.ectretinalsensitivityobtainedbymicroperime-tryCinCnormalCindividuals.CClinCOphthalmolC11:2011-2015,C2017C***

前眼部光干渉断層計画像のディープラーニングを用いた円錐角膜の進行予測

2025年8月31日 日曜日

《第13回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科42(8):1037.1041,2025c前眼部光干渉断層計画像のディープラーニングを用いた円錐角膜の進行予測神谷和孝昭和医科大学保健医療学部CPredictionofKeratoconusProgressionUsingDeepLearningofAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomographyMapsKazutakaKamiyaCSchoolofNursingandRehabilitationSciences,SHOWAMedicalUniversityCはじめに円錐角膜は,角膜傍中央部が進行性に菲薄化して前方突出し,不正乱視や近視化によって,進行するほど視機能低下を生じる(図1).最近の疫学調査では,約C375人にC1人が発症すると報告されており1),日常臨床の現場において遭遇しやすい疾患の一つである.レーシック(laserCinCsituCker-atomileusis:LASIK)後の角膜拡張症を回避し,視力予後を正確に把握する観点から,本疾患のスクリーニングや病期分類は重要である.また,角膜クロスリンキング(cornealcross-linking:CXL)の手術適応を適切に判断する観点から,進行予測も重要な課題となっている.すなわち,本疾患は正確な診断だけでなく,長期的にどの程度進行するのかを予測することが必要不可欠であるといえる.本来,円錐角膜の診断は角膜形状に対する画像解析が基本となっており,画像診断を得意とする人工知能(arti.cialintelligence:AI)が活用しやすく,Maedaらは,エキスパートシステムを用いてスクリーニング精度向上に貢献することを世界に先駆けて報告している2).畳み込みニューラルネットワークを用いたディープラーニング(深層学習)は,人間の意志による特徴量を定義せずに,画像情報全体にある特徴量を効率よく抽出し学習可能である.さらに,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)は,従来のプラチドリング式角膜形状解析と異なり,角膜前後面形状情報が取得可能であることから,臨床の現場で広く普及しつつある.筆者らは,これまで本疾患の角膜後面形状データ(とくに高さ情報)が早期診断や病期分類に役立つことを報告してきた3.5).本疾患は若年者を主体として長期的に進行していく症例が図1円錐角膜の前眼部写真角膜の菲薄化が著明であり,不正に前方突出している.多いが,従来はどんなエキスパートの見地からも人間の目では進行例を正確に予測することは困難であり,経時的な変化を一定期間観察する必要があった.もしCAIを使って一時点の画像情報のみで進行の有無を判断できれば,患者負担や侵襲も少なく,CXL手術適応を適切に判断し,その後の疾患の進行に伴う視機能低下を未然に防げる可能性が考えられる.本稿では,前眼部COCTを用いて角膜前後面形状画像のディープラーニングによる円錐角膜の進行予測能について検討して得られた知見を紹介し6),AIによる進行予測の現状と課題について考える.〔別刷請求先〕神谷和孝:〒226-8555神奈川県横浜市緑区十日市場町C1865昭和医科大学保健医療学部Reprintrequests:KazutakaKamiya,M.D.,Ph.D.,SchoolofNursingandRehabilitationSciences,SHOWAMedicalUniversity,1865Tokaichibacho,Midori-ku,Yokohama-shi,Kanagawa226-8555,JAPANC図2前眼部OCTによる角膜形状解析角膜前面曲率,後面曲率,前面高さ,後面高さ,全屈折力,角膜厚のカラーコードマップが取得できる.I対象と方法東京大学病院および宮田眼科病院において円錐角膜と診断され,前眼部COCT(CASIASS-1000,トーメーコーポレーション)の撮像データが得られ,かつC1年間以上の経過観察が可能であった連続症例C218例C218眼を対象とした.過去C1年間における最大角膜屈折力がC1D以上増加,あるいは自覚乱視度数がC1D以上増加を伴う視力低下をC2回以上満たした症例を進行例と定義し,進行例と非進行例の二群に分類した.まず,両群の前眼部COCTによる撮像データからカラーコードバーを除外したうえで,それぞれ角膜前面曲率,後面曲率,前面高さ,後面高さ,全屈折力,角膜厚の計六つのカラーコードマップを取得した(図2).次に,これらを無作為に等分したC5グループに分けて,ディープラーニングと分割交差検証を行った.これらC4グループの各画像情報について,特徴量を定義せず,そのまま畳み込みニューラルネットワークを用いたディープラーニング(プラットフォーム:Pytorch,ネットワークモデル:ResNet18)により角膜前面曲率,後面曲率,前面高さ,後面高さ,全屈折力,角膜厚による各分類器を作成したあと,残りC1グループに対して検証することを組み合わせを替えてC5通り行う交差検証を行い,正解率(accuracy),感度(sensitivity),特異度(speci.city),適合率(precision)を算出した(図3).各年代別のサブグループ(20歳未満,20.29歳,30.39歳,40歳以上)に分けて進行例および非進行例の六つの分類器の出力ヒストグラムに基づいて,デシジョンツリーとなる調整アルゴリズムを設計した.最初のステップでは,すべての入力データを各年代サブグループに分類し,残りの部分は六つの分類器の出力ヒストグラムの分布に基づいて構築した(図4).CII結果進行性円錐角膜と非進行性円錐角膜を区別するディープラーニングの出力データを表1に示す.各マップ別の分類器による正解率は,後面高さマップがC79.8%ともっとも高く,次いで前面曲率マップC77.5%,後面曲率マップC75.7%,前面高さマップC75.2%,全屈折力マップC72.9%,角膜厚マップC72.0%の順であった.これらの六つの分類器のなかで五つ以上を進行例とすると正解率はC79.4%であった.補正アルゴリズムを適用することによって,感度を低下させること進行あり図4各分類器出力に対する年代別補正アルゴリズム(文献C6より改変引用)なく特異度が向上し,正解率がC84.9%と向上した(表2).る一時点での診察において進行をある程度予測できれば,多CIII現状と課題くの眼科医にとってCCXL手術適応を考えるうえで臨床的有用性が高いといえる.円錐角膜の進行に対しては,CXL手術が唯一のエビデン本研究の位置づけとして,特徴量を一切定義せず,前眼部スを有する治療となっていて,近年確実に普及しつつある.OCTを用いた角膜形状画像に注目してディープラーニングしかし,進行の判断には経時的な経過観察が必要であり,あを用いて進行予測する研究は過去にない試みと考えられる.表1各分類器によるディープラーニングによる出力データa:前面高さマップカテゴリー陽性陰性正解率感度特異度適合率進行ありC152C4C0.752C0.974C0.194C0.752進行なしC50C12b:前面曲率マップカテゴリー陽性陰性正解率感度特異度適合率進行ありC151C5C0.775C0.968C0.290C0.774進行なしC44C18c:後面高さマップカテゴリー陽性陰性正解率感度特異度適合率進行ありC148C8C0.798C0.949C0.419C0.804進行なしC36C26d:後面曲率マップカテゴリー陽性陰性正解率感度特異度適合率進行ありC153C3C0.757C0.981C0.194C0.754進行なしC50C12e:全屈折力マップカテゴリー陽性陰性正解率感度特異度適合率進行ありC148C8C0.729C0.949C0.177C0.744進行なしC51C11f:角膜厚マップカテゴリー陽性陰性正解率感度特異度適合率進行ありC138C18C0.720C0.885C0.306C0.762進行なしC43C19表2進行性円錐角膜と非進行性円錐角膜のディープラーニングによる出力データa:アルゴリズム補正なしカテゴリー陽性陰性正解率感度特異度適合率進行ありC147C9C0.794C0.942C0.419C0.803進行なしC36C26b:アルゴリズム補正あり一方,本研究の限界として,ほかの母集団による外部検証がされておらず,症例数も十分とはいえないこと,現実的な問題としてハードコンタクトレンズの影響を完全に除外できないことがあげられる.最終的な円錐角膜の進行の判断は,あくまでも医師の総合的診断によってなされるべきであり,AIを用いることで補完的な役割を果たしているに過ぎない.しかし,どんなエキスパートの視点でも正確な進行予測は困難である現状を鑑みると,進行をある程度予測できればCCXL手術適応を考えるうえで多くの眼科医にとって一助となりうる.そのほかにもカテゴリー陽性陰性正解率感度特異度適合率進行ありC149C7C0.849C0.955C0.581C0.851進行なしC26C36Cハイリスク症例を見きわめられれば,入念な経過観察を行うなど,実践的な観点から役立つ可能性もある.今後は症例数を増加させてさらなる精度向上をめざし,最終的には社会実装の実現に向けて継続的な取り組みを行いたい.文献1)GodefrooijCDA,CdeCWitCGA,CUiterwaalCCSCetal:Age-speci.cCincidenceCandCprevalenceCofkeratoconus:aCnationwideCregistrationCstudy.CAmCJCOphthalmolC175:C169-172,C20172)MaedaCN,CKlyceCSD,CSmolekCMKCetal:AutomatedCkera-toconusCscreeningCwithCcornealCtopographyCanalysis.CInvestOphthalmolVisSciC35:2749-2757,C19943)KamiyaK,AyatsukaY,KatoYetal:Keratoconusdetec-tionusingdeeplearningofcolour-codedmapswithante-riorsegmentCopticalCcoherencetomography:aCdiagnos-ticaccuracystudy.BMJOpenC9:e031313,C20194)IshiiR,KamiyaK,IgarashiAetal:Correlationofcornealelevationwithseverityofkeratoconusbymeansofanteri-orCandCposteriorCtopographicCanalysis.CCorneaC31:253-258,C20125)KamiyaK,IshiiR,ShimizuKetal:Evaluationofcornealelevation,CpachymetryCandCkeratometryCinCkeratoconicCeyesCwithCrespectCtoCtheCstageCofCAmsler-KrumeichCclassi.cation.BrJOphthalmolC98:459-463,C20146)KamiyaK,AyatsukaY,KatoYetal:Predictionofkera-toconusCprogressionCusingCdeepClearningCofCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomographyCmaps.CAnnCTranslCMedC9:1287,C2021***

運転外来における高齢視野障害患者の運転の特徴

2025年8月31日 日曜日

《第13回日本視野画像学会原著》あたらしい眼科42(8):1031.1036,2025c運転外来における高齢視野障害患者の運転の特徴平賀拓也*1國松志保*1岩坂笑満菜*1佐藤菜摘子*1千葉るい*1黒田有里*1桑名潤平*2伊藤誠*2広田雅和*3溝田淳*1井上賢治*4*1西葛西・井上眼科病院*2筑波大学システム情報系*3帝京大学医療技術部視能矯正学科*4井上眼科病院CCharacteristicsofOlderDriverswithVisualFieldImpairmentinaDrivingAssessmentClinicTakuyaHiraga1),ShihoKunimatsu-Sanuki1),EminaIwasaka1),NatsukoSato1),RuiChiba1),YuriKuroda1),JunpeiKuwana2),MakotoItoh2),MasakazuHirota3),AtsushiMizota1)andKenjiInoue4)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InstituteofSystemsandInformationEngineering,UniversityofTsukuba,3)COrthoptics,FacultyofMedicalTechnology,TeikyoUniversity,4)InouyeEyeHospitalCDepartmentof目的:高齢視野障害患者の自動車事故のリスクと運転行動を,ドライビングシミュレータ(DS)を用いて検討した.対象と方法:運転外来を受診したC162例に対し,視力検査,Humphrey視野検査(HFA24-2),認知機能検査(MMSE),DSを施行した.DS時には据え置き型眼球運動計測装置にて視線の広がりを求めた.HFA24-2データを基に両眼重ね合わせ視野(IVF)を算出し,DS事故とCIVFの不一致率を調べた.対象を若年群(50歳未満:34名),中年群(50歳以上C70歳未満:76名),高齢群(70歳以上:52名)に分類して比較検討した.結果:高齢群は若年群,中年群と比較して,視野障害度に差がないもののCMMSEスコアは低く,DS事故は多く,水平方向の視線の広がりは小さく(p<C0.005),DS事故とCIVFの不一致率は有意に高かった(p<0.0001).結論:70歳以上のドライバーは,視野障害やその他の要因による自動車事故のリスクを理解する必要がある.CPurpose:Toinvestigatemotorvehiclecollision(MVC)riskanddrivingbehaviorinolderdriverswithvisual.eld(VF)impairmentCusingCaCdrivingsimulator(DS)C.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC162Cpatients(patientage:<50years[n=34]C,50-70years[n=76]C,and.70years[n=52])fromCourCdrivingCassessmentCclinicCwhoCunderwentDS(HondaCMotorCo.)testingCwithCtheCHumphreyCFieldCAnalyzerC24-2CSITA-SCprogram(HFA24-2)C.CWeCcalculatedCtheCintegratedVF(IVF)basedConCtheCHFAC24-2Cdata.CEyeCmovementsCduringCtheC5-minuteDStestweremeasuredwitheyetracking(TobiiProNano),andthestandarddeviationofthexcoordi-natewasusedtoassessthehorizontalspreadofsearch.ThediscordancebetweenMVCsintheDSandtheIVFwasdeterminedbyexaminingeye-trackingdatainarecordingoftheDStest.Results:Althoughtherewerenosigni.cantdi.erencesinHFA24-2meandeviationvaluesamongthethreeagegroups,MVCsintheDSincreasedandChorizontalCspreadCofCsearchCwasClowerCinCtheColdestgroup(p<0.0001,Cp=0.0004)C.CDiscordanceCbetweenCDSCMVCsCandCtheCIVFCincreasedCwithage(i.e.,8.3%,9.9%,Cand37.5%;p<0.0001)C.CConclusion:DriversCaged>70CyearsshouldbeawareoftheriskofMVCsduetoVFimpairmentandotherfactors.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(8):1031.1036,C2025〕Keywords:ドライビングシミュレータ,高齢視野障害患者.drivingsimulator,DS,olderdrivers.はじめにわが国では,社会全体の高齢化に伴い,高齢運転者の自動車事故が問題となっている.わが国のC2023年のC70歳以上の運転免許保有者数はC1,362万人(運転免許保有者のC16.6%)に達しており,2001年のC70歳以上の運転免許保有者数C396万人(当時の運転免許保有者数のC5.2%)と比較して,高齢運転者の人数および比率は大幅に増加している1).一方で,交通事故死者数はC2001年からC2023年にかけて,飲酒運転防止対策などにより年々減少傾向にある.しかし,2023年の年齢層別免許保有者C10万人あたり死亡事故件数は,70.〔別刷請求先〕平賀拓也:〒134-0088東京都江戸川区西葛西C3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:TakuyaHiraga,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(97)C103174歳でC2.92件,75.79歳でC4.19件,80.84歳でC5.67件,85歳以上ではC9.75件と,年齢が高くなるにつれて多くなっており,高齢運転者の死亡事故のリスクは高いといえる2).視野障害を伴う多くの眼疾患は加齢により増加し,視野障害を自覚しないまま進行することが多い.視野障害をきたす代表的な疾患である緑内障の有病率は,40歳以上ではC5.0%だが,70歳代ではC10.5%,80歳以上ではC11.4%と高齢者に多い3).視野障害が進行すると自動車事故のリスクが増加するとの報告も多く4.7),自動車事故を減少させるためには,視野障害患者のなかでも,とくに高齢視野障害患者に対する安全運転指導が必要と考える.では,高齢視野障害患者にはどのような特徴があるのだろうか.西葛西・井上眼科病院(以下,当院)はC2019年C7月に,速度一定の条件下で,視野障害患者が事故を起こしやすい場面を再現するアイトラッカー搭載ドライビングシミュレータ(drivingsimulator:DS)を用いた「運転外来」を開設した8).この外来では,DSを使用して,視野障害が原因の事故発生リスクについて患者およびその家族に説明を行っている.筆者らは過去に,運転時に水平方向への視線の広がりが大きいほどCDS事故が少ないこと9,10),DS事故のなかには視野障害では説明できないCDS事故と視野障害との不一致例があること11)を報告してきた.今回,高齢視野障害患者の視線の広がりやCDS事故と視野障害の不一致率を若年・中年視野障害患者と比較することにより,高齢視野障害患者の運転の特徴を明らかにして,どのような運転指導が適切か検討した.CI対象と方法2019年C7月からC2024年C2月までに,当院運転外来を受診した視野障害患者C183例(緑内障C149例,網膜色素変性17例,脳血管障害・脳腫瘍C17例,男性:女性=143:40)に対して,視力検査,Humphrey視野計CSITACStandard24-2プログラム(HFA24-2),両眼開放CEstermanテスト,運転調査(1週間あたりの運転時間,運転目的,過去C5年間の事故歴の有無),認知機能検査(mini-mentalCstateCexami-nation:MMSE)を行い,DSを施行した.また,HFA24-2をもとに,既報に基づき12,13)両眼重ね合わせ視野(integrat-edvisual.eld:IVF)を作成し,上下半視野ごとの平均網膜感度を算出した.視力検査,MMSE,DSは同一日に実施し,視力は普通自動車免許取得基準(両眼でC0.7以上,一眼でC0.3以上)を満たす患者を対象とした.HFA24-2および両眼開放CEster-manテストはCDS実施日の前後C3カ月以内に実施した結果を使用した.HFA24-2では,固視不良がC33%以上,偽陽性がC15%以上,偽陰性がC20%以上の場合は対象から除外した.運転評価のためのCDSはエコ&安全運転教育用CDSであるHondaセーフティナビ(本田技研工業)を改変したものを使用した.運転条件を統一するために速度は一定とし,ハンドル操作はなく危険を感じたらブレーキを踏むのみとしており,所要時間は練習走行約C3分,本走行約C5分とした.運転場面は,信号や右折車,止まれの標識,側方からの飛び出しなどがあり,14場面中の事故件数を記録した11).また,運転時の視線の動きは,据え置き型視線計測装置CTobiiCProX3-120およびCTobiiProNano(TobiiTechnology社)を使用し,サンプリングレートをC100CHzに統一して解析した.解析にあたっては,5分間の走行中の視線の動きをC10ミリ秒ごとに記録し,走行中のすべての視線指標記録の水平方向(x),垂直方向(y)の視線の座標位置(視線の動きの標準偏差,視線水平/垂直Cstandarddeviation:SD)を求め「視線の広がり」と定義した(図1).視線の広がりの数値が大きいほど眼の動きが大きく,数値が小さいほど眼の動きが小さいことを示している9).さらに,サンプリングレートをC100CHzで測定し,0.5°内にC60ミリ秒以上視線が留まったものを「注視」と定義した.つぎに,IVF網膜感度がC20CdB以下の視野障害部位と一致する事故・一致しない事故に分類した.今回はリプレイ画像を用いて,対象物(信号,止まれの標識,右折してくる対向車,側方からの飛び出し)を注視せず,対象物が視野障害に重なり,DS事故が起きたと考えられる場合を「DS事故とCIVFの一致」(図2a),対象物を注視した,あるいは対象物が視野障害に重ならずにCDS事故が起きた場合を「DS事故とCIVFの不一致」と定義した(図2b).また,DS事故とCIVFの不一致件数を全CDS事故件数で割った値を「DS事故とCIVFの不一致率」とした.対象物と視野障害部位の重なりの判定は,DS施行後に,医師および視能訓練士の計C3名以上がリプレイ映像を確認し,DS事故が視野障害部位と一致しているかどうかを判定した.解析にあたっては,対象を若年群(50歳未満),中年群(50歳以上C70歳未満),高齢群(70歳以上)に分けて,年齢,性別,1週間の運転時間,MMSECtotalscore,完全矯正視力(logMAR),視野障害度〔meandeviation:MD(dB)〕,Estermanスコア,IVF上下半視野平均網膜感度(dB),DS事故件数,視線の広がり(ピクセル),DS事故とCIVFの不一致率を比較した.比較にあたってはCKruskal-Wallis検定を行い,Steel-Dwass検定を用いて多重比較を行った.年齢とCDS事故件数,水平方向の視線の広がりの比較にあたっては,Spearmanの順位相関係数を用いて検討した.統計学的検討にはCJMPバージョンC14.0を用い,p<0.05を統計学的に有意と判定した.本研究は,当院倫理委員会の承認のもと(「視野障害患者に対する高度運転支援システムに関する研究」(課題番号:C201906-1)に行い,各対象者よりインフォームドコンセントを得た.aVerticaleyeposition(ピクセル)02004006008001,0001,2001,4001,6001,80001002003004005006007008009001,000Horizontaleyeposition(ピクセル)bVerticaleyeposition(ピクセル)02004006008001,0001,2001,4001,6001,80001002003004005006007008009001,000Horizontaleyeposition(ピクセル)図1視線の動き(視線の広がり)が大きい例と小さい例の比較走行中のすべての視線指標記録をCxy座標軸にプロットしたもの.Ca:全視線指標が中央にまとまって分布している.視線の動きの幅が小さいことを示す.Cb:全視線指標が水平方向にばらついて分布している.視線の動きの幅が大きいことを示す.CII結果運転外来を受診したC183例のうち,車酔いによりCDSを途中で中止したC5例,視野検査の信頼性が低かったC3例,認知症の疑いがあったC2例,視線解析の信頼性がC50%以下であったC11例を除いたC162例〔年齢C22.87歳,61.2C±13.9歳(平均±SD),男性:女性=126:36〕を対象とした.対象疾患の内訳は,緑内障C133例,網膜色素変性C16例,脳血管障害・脳腫瘍C13例,視野良好眼のCMD値はC.11.95±7.15CdB,視野不良眼のCMD値はC.18.27±8.31CdBであった.対象としたC162例を,若年群(50歳未満:34例),中年群(50歳以上C70歳未満:76例),高齢群(70歳以上:52例)のC3群に分けて比較した結果を表1に示す.高齢群は若年群および中年群と比較してCMMSECtotalscore,視力良好眼,視力不良眼の視力は有意に低かった(p=0.0002,p=0.0083,Cp=0.013,Kruskal-Wallis検定).一方で,性別,1週間の運転時間,視野良好眼,視野不良眼のCMD値,Estermanスコア,IVF上半・下半視野の平均網膜感度は年齢群による有意差はみられなかった.また,高齢群ほど,DS事故件数(99)は有意に多く,水平方向の視線の広がりは有意に小さかった(p=0.0004,p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).しかし,垂直方向の視線の広がりについては年齢群による有意差はみられなかった.DS事故とCIVFの不一致率は,年齢とともに増加した(8.3C±25.4%,9.9C±27.3%,37.5C±44.7%,p<C0.0001)(図3).年齢とCDS事故件数,年齢と水平方向の視線の広がりは,それぞれ有意な相関が認められた(rs=0.28,p=0.0003,rs=.0.40,p<0.0001,Spearman順位相関係数)(図4a,b).CIII考按筆者らは,高齢視野障害患者の運転の特徴について,若年群(50歳未満)34例,中年群(50歳以上C70歳未満)76例,高齢群(70歳以上)52例に分けて比較検討した.その結果,高齢群は若年群および中年群と比較して,認知機能,視力が低下し,DS事故件数が多く,DS事故とCIVFの不一致率が高く,水平方向の視線の広がりが小さかった.若年群および中年群と比較して,高齢群の認知機能や視力が低下していたのは,加齢に伴い認知機能が低下しているたあたらしい眼科Vol.42,No.8,2025C1033IVFIVF図2DS事故とIVFの一致例(上段)とDS事故とIVFの不一致例(下段)上段:下方視野障害のために,白いトラックが見えず衝突した例.C●は視線の位置.Ca:IVFのグレースケール.Cb:通常CDS画面.Cc:運転場面にCIVFを重ねたもの.下段:白いトラックを何度も見ていたにも関わらずに衝突した例.視線の位置(C●)がトラックに重なった時点で,ブレーキを踏めば停止できる距離であった.d:IVFのグレースケール.Ce:通常CDS画面.Cf:運転場面にCIVFを重ねたもの.表1患者背景若年群(n=34)中年群(n=76)高齢群(n=52)p値年齢(歳)C41.1±7.3C60.4±6.0C76.8±4.8<C.0001+性別(男性:女性)28:660:2C038:1C0C0.66++1週間の運転時間(h/w)C9.1±12.5C6.6±12.2C4.5±8.8C0.48+MMSEtotalscoreC29.2±1.3C29.1±1.3C27.9±2.1C0.0002+視力良好眼視力(logMAR)C.0.04±0.08C.0.03±0.08C.0.0004±0.01C0.0083+視力不良眼視力(logMAR)C0.13±0.07C0.17±0.05C0.26±0.06C0.013+視野良好眼CMD(dB)C.13.74±8.56C.11.61±6.97C.11.26±6.33C0.42+視野不良眼CMD(dB)C.19.15±9.06C.17.90±7.27C.19.19±7.10C0.50+EstermanスコアC75.6±28.3C85.5±18.7C80.1±18.2C0.067+IVF上半視野の平均網膜感度(dB)C18.47±9.88C21.37±9.16C19.69±8.74C0.53+IVF下半視野の平均網膜感度(dB)C22.24±9.97C24.79±8.72C23.00±8.32C0.51+DS事故件数(件)C0.9±1.4C1.0±1.7C2.1±2.1C0.0004+DS事故とCIVFの不一致率(%)C8.3±25.4C9.9±27.3C37.5±44.7<C.0001+水平方向の視線の広がり(ピクセル)C205.7±42.4C189.7±42.2C159.4±33.3<C.0001+垂直方向の視線の広がり(ピクセル)C96.0±23.1C87.1±21.2C89.8±19.7C0.15+平均±SD値/+Kruskal-Wallis検定++Fisher正確確率検定MMSE:mini-mentalstateexamination,logMAR:logarithmoftheminimumangleofresolution,MD:meandevi-ation,IVF:integratedvisual.eld,DS:drivingsimulator(n=162)100DS事故と視野障害との不一致利率(%)806040200若年群中年群高齢群8.3±25.4%9.9±27.3%37.5±44.7%年齢群Kruskal.Wallis検定,Wilcoxon検定図3DS事故-視野障害との不一致率(年齢群別)水平線は全体平均,ひし形の中央線は各群の平均値,ひし形の縦の長さは平均のC95%信頼区間を表している.ひし形の横の長さは被験者数に対応している.若年群・中年群と比較して,高齢群はCDS上の事故と視野障害との不一致率が高い.Cab40035030025020015010050DS事故件数(件)76500202530354045505560657075808590202530354045505560657075808590年齢(歳)年齢(歳)図4年齢とDS事故件数の相関(a),年齢と水平方向の視線の広がりの相関(b)a:年齢とCDS事故件数は有意な相関が認められた(rs=0.28,p=0.0003,Spearman順位相関係数).b:年齢とCDS事故件数は有意な相関が認められた(rs=.0.40,p<0.0001,Spearman順位相関係数).め11),また,緑内障患者が高齢になるほど罹病期間が長く,進行例が多くなるためと考える.今回は,高齢群で水平方向への視線の動きが小さく,DS事故件数が多くなっていた.水平方向への視線の動きは,左右からの車や自転車,歩行者の飛び出しなど,危険を発見するために必要である14).Romoserらは,高齢ドライバーC18名(年齢C72.87歳,平均C77.7歳)と経験豊富な若年ドライバーC18名(年齢C25.55歳,平均C35歳)を対象に,視線の動きを記録しながら,DSを走行させ,3カ所の交差点進入時のCscanningbehaviorについて評価した.その結果,高齢ドライバーは,交差点進入時に前方の進路方向を注視し,左右の危険な場所をCscanしていないため,若年ドライバーと比較してCscanningCperformanceが劣っており,高齢ドライバーは交差点での事故のリスクが高い可能性があると報告している15).筆者らの検討でも高齢群ほど水平方向への視線の広がりが小さく,DS事故件数が多かったことから,高齢視野障害患者では,左右への視線の動きが小さいことが,DS事故の増加につながる可能性があると考えた.CLeeSSらは,高齢緑内障患者では,scanningbehaviorを変えることで,運転技能と安全性が向上する可能性があると報告している16).深野らは,過去にCDS事故と視線の動きの関連について,水平方向への視線の広がりが大きい群と,それが小さい群に分けて比較検討した.その結果,水平方向への視線の広がりが大きい群は,DS事故件数が少なく,危険を予測しながら運転していたと報告している10).今回の結果では,高齢群において水平方向の視線の動きが小さく,DS事故件数が多い傾向が見られた.このことから,高齢視野障害患者に対して,危険を予測しながら運転するように指導する安全運転教育を行うことで,視線の動きが左右に広がり,自動車事故の減少が期待できると考えた.今回,高齢群では視野と一致しない自動車事故が増えていた.小原らは過去に,高齢群は若年群および中年群と比較して,DS事故とCIVFの不一致率が高かったと報告している11).今回,症例数を増やしても同様の結果が得られた.高齢視野障害患者は,視野障害が原因ではない認知機能や判断力,運動能力の低下による事故が増えるため,DS事故とIVFの不一致率が高くなったと考えた.自動車の運転は,認知,判断,操作のC3要素で成り立っている17).交通事故は,このC3要素のいずれかで運転者のミスが生じることにより発生する.高齢視野障害患者は,認知,判断,操作の能力が低下することに加えて,視野障害により認知の失敗のリスクが高くなり,さらに運転事故のリスクは高くなることが考えられるため,高齢視野障害患者の運転指導においては,視野障害部位にあわせて,どのような運転場面で事故リスクが高まるかを周知し,注意喚起を行うことが重要である.今回の結果から,高齢視野障害患者では視線の左右の動きが小さかったことから,危険予測をするように目を左右によく動かすように指導する必要がある.さらに,高齢視野障害患者では視野と一致しないCDS事故が増えることから,視野障害に起因する事故と,それ以外の運動能力の低下などで起きた事故とを分けて説明することも大事である.今後は,運転外来受診後に再度CDSを行うことにより,視線の広がりやCDS事故件数に改善がみられるのか,DSを用いた訓練が可能であるかどうかを検討していきたい.本研究は,トヨタモビリティー基金およびCJSPS科研費21K09737の助成を受けたものである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)警察庁交通局運転免許課:運転免許統計(令和C5年版).警察庁CWebサイト.https://www.npa.go.jp/publications/Cstatistics/koutsuu/menkyo/r05/r05_main.pdf2)警察庁交通局:令和C5年における交通事故の発生状況について.警察庁CWebサイト.https://www.npa.go.jp/bureau/Ctra.c/bunseki/nenkan/060307R05nenkan.pdf3)疫学調査委員会:日本緑内障学会多治見疫学調査報告書(2000-2001年),日本緑内障学会,20124)JohnsonCCA,CKeltnerJL:IncidenceCofCvisualC.eldClossCinC20,000CeyesCandCitsCrelationshipCtoCdrivingCperformance.CArchOphthalmolC101:371-375,C19835)OwsleyCC,CBallCK,CMcGwinCGCetal:VisualCprocessingCimpairmentCandCriskCofCmotorCvehicleCcrashCamongColderCadults.JAMAC279:1083-1088,C19986)McGwinG,XieA,MaysAetal:Visual.elddefectsandtheCriskCofCmotorCvehicleCcollisionsCamongCpatientsCwithCglaucoma.InvestOphthalmolVisSciC46:4437-4441,C20057)TanabeCS,CYukiCK,COzekiCNCetal:TheCassociationCbetweenprimaryopen-angleglaucomaandmotorvehiclecollisions.InvestOphthalmolVisSciC52:4177-4181,C20118)平賀拓也,國松志保,野村志穂ほか:運転外来にて認知機能障害が明らかになったC2例.あたらしい眼科C38:1325-1329,C20219)平賀拓也,國松志保,深野佑佳ほか:運転外来におけるドライビングシミュレータ事故に関与する因子.臨眼77:C1296-1302,C202310)深野佑佳,國松志保,平賀拓也ほか:運転外来における視野障害患者のドライビングシミュレータ事故と視線の動きの関連.臨眼78:1220-1226,C202411)小原絵美,野村志穂,國松志保ほか:西葛西・井上眼科病院運転外来における視野障害と事故との関連.あたらしい眼科40:257-262,C202312)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCA:PredictingbinocC-ularCvisualC.eldCsensitivityCfromCmonocularCvisualC.eldCresults.InvestOphthalmolVisSciC41:2212-2221,C200013)CrabbCDP,CFitzkeCFW,CHitchingsCRACetal:ACpracticalCapproachCtoCmeasuringCtheCvisualC.eldCcomponentCofC.tnesstodrive.BrJOphthalmolC88:1191-1196,C200414)UdagawaCS,COhkuboCS,CIwaseCACetal:TheCe.ectCofCcon-centricCconstrictionCofCtheCvisualC.eldCtoC10CandC15CdegreesConCsimulatedCmotorCvehicleCaccidents.CPLosCOneC13:e0193767,C201815)RomoserCMR,CPollatsekCA,CFisherCDLCetal:ComparingCtheCglanceCpatternsCofColderCversusCyoungerCexperienceddrivers:scanningCforChazardsCwhileCapproachingCandCenteringCtheCintersection.CTranspCResCPartCFCTra.cCPsy-cholBehavC16:104-116,C201316)LeeCSS,CBlackCAA,CWoodJM:ScanningCbehaviorCandCdaytimeCdrivingCperformanceCofColderCadultsCwithCglauco-ma.JGlaucomaC27:558-565,C201817)三村將,藤田佳男:2.安全運転と認知機能.日老医誌C55:191-196,C2018***

硝子体手術のワンポイントアドバイス:267.Ocular decompression retinopathy(初級編) 

2025年8月31日 日曜日

267Oculardecompressionretinopathy(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにOculardecompressionretinopathyは急激な眼圧の低下に続発して生じる網膜中心静脈閉塞症様の多数の網膜出血をきたす病態1)である.急性閉塞隅角緑内障に対する治療後や緑内障濾過手術に続発したとする報告が多い2)が,硝子体手術関連でも生じることがある3).C●症例症例C1はC62歳,男性.前医で水晶体前房内亜脱臼による急性緑内障をきたし,水晶体.内摘出術,眼内レンズ強膜内固定を施行された.その際に下方の虹彩根部からの出血が持続して硝子体出血となり,眼圧がC60CmmHgに上昇したため急遽紹介となった.前房穿刺後に緊急手術で硝子体切除を施行した.術中所見として眼底の耳側~上方にかけて散在性の網膜内出血を認めた(図1).術後,眼圧は低下し出血は徐々に吸収した.症例C2はC43歳,男性.右眼に活動性の高い増殖糖尿病網膜症を認めた(図2a).初回硝子体手術後に再出血をきたし,眼圧がC50CmmHgに上昇したため,前房穿刺後に再手術を施行した.術中所見として眼底の広範囲に多数の網膜内出血を認めた(図2b).術後,出血は徐々に吸収したが,中心窩の出血が器質化して視力はC0.05にとどまった.C●Oculardecompressionretinopathyと硝子体手術今回のC2例は,いずれも硝子体手術施行前に前房穿刺で急速に眼圧を低下させたことが誘因でCoculardecom-pressionCretinopathyが生じ,硝子体手術時に初めて確認された可能性が高い.一方でCAgarwalらは硝子体手術中の眼圧変動によりCocularCdecompressionCretinopa-thyをきたした症例を報告している3).既報では,濾過手術など急激な眼圧低下後C1~2日以内に出現すること(89)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1症例1の硝子体手術中所見眼底の耳側から上方にかけて散在性の網膜内出血を認める.Cab図2症例2の術前眼底写真(a)と硝子体手術中所見(b)活動性の高い増殖糖尿病網膜症(a)に対して硝子体手術を施行した.術後に再出血,眼圧上昇をきたし再手術を施行したところ,眼底の広範囲に多数の網膜内出血を認めた(b).が多いとされているが,前房穿刺施行後数分で生じたとする報告もある4).発症機序としては急激な眼圧低下により網膜血流量が増加し,血管の自動調節能が制御不能となり静脈が破綻する説などがある1).通常は自然吸収されるが,中心窩に出血が生じて遷延すると永続的な視力低下をきたす.文献1)MukkamalaCSK,CPatelCA,CDorairajCSCetal:OcularCdecom-pressionCretinopathy:aCreview.CSurvCOphthalmolC58:C505-512,C20132)FechtnerCRD,CMincklerCD,CWeinrebCRNCetal:Complica-tionsofglaucomasurgery.Oculardecompressionretinopa-thy.ArchOphthalmolC110:965-968,C19923)AgarwalCL,CPradhanCD,CAgrawalCNCetal:IntraoperativeCocularCdecompressionCretinopathyCduringC23CgaugeCtrans-conjunctivalvitrectomy:acasereport.IntMedCaseRepJC12:389-392,C20194)PrinceCJ,CFleischmanD:ImmediateCmanifestationCofCocu-lardecompressionretinopathyfollowinganteriorchamberparacentesis.CaseRepOphthalmolC10:287-291,C2019あたらしい眼科Vol.42,No.8,20251023

考える手術:円錐角膜合併の白内障治療の戦略

2025年8月31日 日曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅円錐角膜合併の白内障治療の戦略北澤耕司京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学円錐角膜は一般的に思春期から20代前半に発症し,数年から数十年かけて徐々に角膜が菲薄化し,前方に突出する疾患である.有病率は約2,000人に1人とされているが,近年,前眼部OCTを用いた詳細な角膜形状解析の報告では,35歳以上の約50人に1人が円錐角膜またはその疑いがあるとされている.角膜が非対称に突出するため光学系に歪みを生じ,重症例では白内障手術時の立体視や術野の把握が困難になることがある.視認性の確保のためには,粘稠型の粘弾性物質を角膜上に塗布し,屈折率を変化させることで術確保するように努める.軽症例では角膜切開も可能だが,トンネル長を意識した創口作製が重要である.円錐角膜では角膜の前方突出により前房深度が4.0mmを超える患者も多く,サイドポート作製時には器具の角度調整に注意が必要である.前房容積も大きいため,十分な粘弾性物質の注入により前房を安定させることが重要である.さらに,角膜混濁を伴う場合も少なくなく,混濁部位を避けながらの核処理が求められる.核処理においても同様に,長眼軸による深い前房を考慮し,確実に分割できるように溝掘り,またはフックなどの器具の挿入角度や深度の調整を行うことが大切である.重度の円錐角膜では屈折力の異常により,後発白内障に対するYAGレーザーの焦点が合わず,YAGレーザーを実施できないこともある.そのため,眼内レンズの長期安定性および後発白内障予防の観点からも,連続円形切.ではフルカバーをめざすことが重要である.聞き手:円錐角膜眼に対して白内障手術を行う際に,もえて,角膜の突出も高度です.さらに,円錐角膜眼ではっとも注意している点は何ですか?強度近視を伴うことも多く,角膜のみならず強膜の剛性北澤:市中病院で経験する円錐角膜眼は比較的軽症例がも低下していることが少なくありません.したがって,多いですが,大学病院に紹介されてくる患者は重症例が創口の設計には常に注意を払っています.具体的には,中心です.当院で手術を行っている円錐角膜眼のうち,基本的に強角膜切開を選択するようにしています.半数以上はAmsler-Krumeich分類でステージ3.4に円錐角膜眼は眼球が大きく,deep-setな眼は少ない該当します(表1).これらの患者では角膜の菲薄化に加ため,強角膜切開の作製自体は一般的な症例よりも容易(87)あたらしい眼科Vol.42,No.8,202510210910-1810/25/\100/頁/JCOPY考える手術表1Amsler-Krumeich分類GradesCharacteristicsStage1EccentricsteepingMyopiaandastigmatism<5.00DMeancentralKreadings<48.00DStage2Myopiaandastigmatismfrom5.00to8.00DMeancentralKreadings<53.00DAbsenceofscarringMinimumcornealthickness>400μmStage3Myopiaandastigmatismfrom8.00to10.00DMeancentralKreadings<53.00DAbsenceofscarringMinimumcornealthicknessfrom300to400μmStage4RefractionnotmeasurableMeancentralKreadings<55.00DCentralcornealscarringMinimumcornealthickness200μmStageisdeterminedifoneofthecharacteristicsapplies.D:Diopter,K:Keratometry.なことが多いです.ただし,強膜が薄いこともあるため,切開の深さには細心の注意を払い,トンネル長が短くならないよう,しっかりとしたトンネルを作製するよう心がけています.軽症例では角膜切開を選択することもありますが,将来的な進行や角膜移植の可能性を考慮し,基本的には角膜切開は避けるようにしています.聞き手:角膜の突出が強い円錐角膜眼で白内障手術を行う際に,とくに気をつけている点はありますか?北澤:突出により前房深度が非常に深くなるため,白内障手術の操作は通常とは大きく異なります.私が担当する患者の多くは,前房深度は強度近視眼と同程度の3.5mm以上で,そのうち約2割は4.0mm以上です.このような深い前房では,連続円形切.(continuouscurvi-linearcapsulorrhexis:CCC)や核処理の操作角度に工夫が必要です.とくにサイドポートの角度には注意しており,通常より立て気味に作製することで,操作時に創口に余分な力がかからず,角膜の歪みを最小限に抑えるようにしています.また,術中の視認性向上のために,常にビスコートを角膜上に塗布して人工的に屈折力を調整しています.重症例では角膜の歪みにより視界が不鮮明で,立体感がつかみにくいことも多いためです.最近では3D手術システムを用いることもあります.これにより,術中の見え方に違和感が少なくなり,非常に快適に手術が行えると感じています.聞き手:重症の円錐角膜では角膜混濁を伴うこともありますが,その際の注意点はありますか?北澤:角膜混濁が中央からやや下方に位置していることが多く,ちょうど核処理の視野と重なることがあります.その場合は,混濁部位を避けて核を処理するようにしています.角膜全体が混濁しているような重症疾患とは異なり,局所的な混濁が多いため,通常の手術手技を意識しながら半盲目的に核処理を進めることもあります.また,前述の通り前房が深く,眼軸が長く,Zinn小帯が伸びている場合も多いため,器具が想定より浅く入ってしまうことがあります.フックの操作や溝掘りの際の角度・深さの調整にはとくに注意が必要です.さらに,角膜屈折力が強いため,術中に見えている方向と実際の動きが一致しないことがあります.そのため,視覚情報だけに頼らず,手指の感覚に基づいて操作することも多いです.聞き手:CCCの大きさについては何か意識されていることはありますか?北澤:円錐角膜では角膜屈折力が強いため,術後のYAGレーザー時にピントが合わず,照射が困難となることがあります.頻度としてはまれですが,YAGが行えないケースも経験しています.そのため,後発白内障の予防の意味でも,CCCでは光学部全体をフルカバーすることを常に意識しています.また,円錐角膜眼では前房が不安定で,眼内レンズの回旋が起きやすいため,屈折の安定性を保つためにも完全なCCCが重要だと考えています.1022あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025(88)

抗VEGF治療セミナー:わが国における3タイプの新生血管型加齢黄斑変性に対する抗VEGF治療

2025年8月31日 日曜日

●連載◯158監修=安川力五味文米田圭佑138わが国における3タイプの新生血管型今関雅也加齢黄斑変性に対する抗VEGF治療竹内大防衛医科大学校眼科新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)の抗CVEGF治療に関しては,ランダム化比較試験(RCT)により有効性が示されているが,日常臨床ではCRCTプロトコールが必ずしも再現されているわけではなく,実臨床での有効性を評価することが重要である.さらに,nAMDのサブタイプにより,治療効果に差があることが知られている.本稿では,第一世代の抗CVEGF薬のCnAMDに対する実臨床での治療効果を三つのサブタイプ別に評価した,わが国での多施設共同研究の結果を紹介する.はじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は,わが国の視覚障害の主要原因であり,新生血管型CAMD(neovascularAMD:nAMD)と萎縮型AMD(atrophicAMD:aAMD)がある.nAMDはAMDによる重度の視力低下と失明のうちC90%を占める.nAMDの診療ガイドラインはC2024年に更新されたが1),nAMDは典型CAMD(typicalAMD:tAMD),網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousCproliferation:RAP),ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)のC3サブタイプに分類される2).本稿では,わが国の多施設共同研究グループCJ-CRESTで行った第一世代の抗CVEGF薬であるラニビズマブとアフリベルセプトC2CmgのCnAMDに対する実臨床での治療効果を,3サブタイプ別に評価した結果3)について述べる.対象本研究は,J-CRESTグループに所属するC9医療機関にて,新たにCnAMDと診断され,ラニビズマブ(0.5mg)またはアフリベルセプト(2.0Cmg)による治療が開始されたC621例を対象とした.抗CVEGF治療開始後に白内障手術を受けたC19例とC1年間抗CVEGF治療を継続できなかったC102例を除外し,少なくともC1年以上抗VEGF治療を継続できたC500例について解析した.結果500例中,tAMDが268例,PCVが200例,RAPが32例であった.平均年齢はCRAP患者がCtAMDまたはPCV患者よりも有意に高く,女性の割合,対眼に黄斑病変を認める割合もCRAP患者がCtAMDまたはCPCV患者よりも有意に高く,過去の報告と同様であった.表1はサブタイプ別のベースライン時の患眼,対眼の(85)logMAR視力,各CSD-OCT所見を示している.患眼および対眼のClogMAR視力はCRAP患者がCtAMDまたはPCV患者よりも有意に悪く,中心窩網膜厚もCRAP患者がCtAMDまたはCPCV患者よりも有意に厚かった.一方,中心窩下脈絡膜厚はCPCV患者がCtAMDまたはRAP患者よりも有意に厚かった.SD-OCT所見では,網膜下液はCtAMDおよびCPCVで,網膜内液はCRAP患者でより多くみられ,漿液性網膜色素上皮.離と網膜下出血はCPCV患者でCtAMDまたはCRAPより多く観察された.硬性白斑および網膜下高反射物質はC3つのサブタイプ間で有意差はなかった.nAMD全体では,150例(30.0%)がラニビズマブ,350例(70.0%)がアフリベルセプトを投与され,ラニビズマブとアフリベルセプトの比率はC3つのサブタイプ間で有意差はなかったが,RAP患者ではラニビズマブがより多く使用されている傾向があった.表2にラニビズマブとアフリベルセプトの治療開始後C1年間の投与回数を示す.投与回数は全体でC5.3±2.4回であり,PCV患者(5.6±2.5回)がもっとも多く,次いでCtAMD患者(5.2±2.4回),RAP患者(4.5±1.9回)であり,PCVとRAPの間には有意差があった.ラニビズマブとアフリベルセプトの比較では,全体でラニビズマブがC5.6±2.5回,アフリベルセプトがC5.2±2.4回でラニビズマブがやや多かったがほぼ同等であり有意差はなく,サプタイブ別でも同様の結果であった.投与法は全体でC267例(53.4%)がCPRN(proCrenata:必要に応じて)法C222例(44.4%)がCTAE(treatandextend)法C11例(2.2%)がC2カ月ごとであり,PRNの割合はCtAMDまたはCPCV患者と比較してCRAP患者で有意に高かった.nAMD全体ではC45例(9.0%)で薬剤切り替えが行われ,PCV患者ではラニビズマブからアフリベルセプトへの切り替えが有意に多かった.tAMD,PCV,RAP患者における抗CVEGF治療開始あたらしい眼科Vol.42,No.8,202510190910-1810/25/\100/頁/JCOPY表1tAMD,PCV,RAP患者のベースライン時視力およびSD-OCT所見tAMD(n=268)PCV(n=200)RAP(n=32)p値*患眼のClogMARVA平均(標準偏差)中央値(範囲)0.43(C0.48)0.30(C.0.18~4)0.38(C0.52)0.22(C.0.18~4)0.62(C0.44)0.61(C0.05~C1.52)C0.0013対眼のClogMARVA平均(標準偏差)中央値(範囲)0.18(C0.52)0(.0.18~3)0.22(C0.76)0(.0.18~6)0.53(C0.76)0.15(C.0.18~3)C0.0036患眼の平均中心窩網膜厚(SD)(C140)C334Cμm(C132)C349Cμm(C179)C438CμmC0.0040患眼の平均中心窩下脈絡膜厚(SD)SD-OCT所見(%)硬性白斑(n=488)網膜内液(n=498)網膜下高反射物質(n=500)網膜下液(n=500)網膜下出血(n=493)漿液性網膜色素上皮.離(n=500)(C85.5)C252Cμm70(C27.2)69(C25.8)106(C39.9)223(C83.2)87(C33.0)122(C45.5)(C93.9)C274Cμm62(C31.2)42(C21.1)82(C41.4)178(C89.0)90(C45.2)142(C71.0)(C90.0)C214Cμm15(C46.9)30(C96.8)16(C51.6)22(C68.8)10(C33.3)20(C62.5)C0.0011C0.0678<C0.0001C0.4513C0.0085C0.0230<C0.0001*統計解析は,連続変数については一元配置分散分析(ANOVA)を,カテゴリカル変数についてはC|二乗検定を用いて,tAMD,PCV,RAPのサブタイプ間で比較を行った.表2ラニビズマブとアフリベルセプトの治療開始後1年間の投与回数の比較全体ラニビズマブアフリベルセプトp値*tAMD5.2(2.4)5.2(2.3)5.2(2.4)C0.9213CPCV5.6(2.5)6.1(2.7)5.4(2.4)C0.1097CRAP4.5(1.9)4.8(2.0)4.3(1.9)C0.2445C*Mann.WhitneyのCU検定前とC1年後の平均ClogMAR視力を表3に示す.抗VEGF薬開始後C1年後の平均ClogMAR視力は,nAMD全体(0.42C±0.50からC0.31C±0.40),tAMD(0.43C±0.48からC0.33C±0.40),PCV(0.38C±0.52からC0.24C±0.38)でベースラインと比較して有意に改善したが,RAP患者(0.62C±0.44からC0.56C±0.47)では改善はみられなかった.アフリベルセプトが最初の抗CVEGF薬であった場合は,nAMD全体(0.43C±0.53からC0.30C±0.41),tAMD(0.42C±0.50からC0.31C±0.40),PCV患者(0.41C±0.57からC0.24C±0.38)でベースラインと比較してC1年後のClogMAR視力の有意な改善が認められたが,RAP患者では認められなかった.ラニビズマブが最初の薬剤であった場合は,PCV患者(0.34C±0.39からC0.23C±0.38へ)では有意な改善がみられたが,tAMD患者(0.44C±0.41からC0.40C±0.41へ),RAP患者(0.50C±044からC0.43±0.37へ)ではみられなかった.この原因としては,維持期ではC1カ月ごと投与が推奨されているラニビズマブとC2カ月ごと投与のアフリベルセプトの治療開始後C1年間の投与回数がほぼ同等であったことがあげられる.おわりに本研究はCJ-CRESTに所属する名古屋市立大学の加藤C1020あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025表3tAMD,PCV,RAP患者におけるベースラインおよび抗VEGF治療開始後1年のlogMAR視力の比較tAMD(n=268)ラニビズマブ(n=150)アフリベルセプト(Cn=350)PCV(n=200)ラニビズマブ(n=150)アフリベルセプト(Cn=350)RAP(n=32)ラニビズマブ(n=150)アフリベルセプト(Cn=350)平均ClogMAR視力(標準偏差)ベースライン1年後0.43(C0.48)0.33(C0.40)0.44(C0.41)0.40(C0.41)0.42(C0.50)0.31(C0.40)0.38(C0.52)0.24(C0.38)0.34(C0.39)0.23(C0.38)0.41(C0.57)0.24(C0.38)0.62(C0.44)0.56(C0.47)0.50(C0.44)0.43(C0.37)0.71(C0.43)0.65(C0.52)p値*C0.0010C0.5483C0.0005C0.0022C0.0274C0.0009C0.5211C0.8366C0.6359*Mann.WhitneyのCU検定亜紀,安川力,鹿児島大学の寺崎寛人,坂本泰二,兵庫医科大学の山本有貴,五味文,聖マリアンナ医科大学の重城達哉,山口大学の湧田真紀,木村和博,三重大学の松原央,近藤峰生,徳島大学の三田村佳典,川崎・多摩アイクリニックの高木均の各先生にご協力いただいた.今後は第二世代を含めた抗CVEGF薬の実臨床でのnAMD治療における比較が,わが国の多施設共同研究により検討されることを期待する.文献1)日本網膜硝子体学会新生血管型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ:新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン.日眼会誌116:680-698,C20242)高橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか;厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班加齢黄斑変性治療指針作成ワーキンググループ:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌C116:1150-1155,C20123)YonedaCK,CTakeuchiCM,CYasukawaCTCetal:Anti-VEGFCtreatmentCstrategiesCforC3CsubtypesCofCneovascularCage-relat-edCmacularCdegenerationCinCaCclinicalsetting:ACmulticenterCcohortCatudyCinCJapan.COphthalmolCRetinaC7:869-878,C2023(86)

緑内障セミナー:前房出血スコアリングシステム「SU-RLC」

2025年8月31日 日曜日

●連載◯302監修=福地健郎中野匡302.前房出血スコアリングシステム「SU-RLC」原野晃子島根大学医学部眼科学講座低侵襲緑内障手術後の前房出血はだれしも経験する術後合併症である.術後数日間の浮遊赤血球や液面形成は術後早期の眼圧上昇に関与し,血餅は長期的な眼圧上昇に関与する可能性がある.前房出血を種類別に評価する前房出血スコアリングシステムは個別化医療の新たなツールになりうる.●はじめに眼内出血は誰もが経験する眼内手術の合併症であり,低侵襲緑内障手術における前房出血はほぼ必発である.筆者らは,術後の前房出血のグレーディングシステムとして,島根大学前房出血スコアリングシステム「SU-RLC」を報告した1).本誌では,術後前房出血が術後の経過に及ぼす影響や,手術別の前房出血の程度などを紹介する.C●SU-RLCSU-RLCは,眼内出血を「R(redCbloodcells):浮遊赤血球」「L(layerformation:液面形成)」「C(bloodclot:血餅)」のC3要素に分け,それぞれの程度をC3桁の数字で表す評価方法である(表1).評価の実際を図1に示す.C●術後早期の前房出血と術後眼圧の関係筆者らはCmicrohookab-internotrabeculotomy(以下,μLOT)とCiStentの術後眼内出血の程度を,SU-RLCを用いて解析した.術後C3日目まではCμLOT群がCiStent群よりも術後前房出血が多く,術後C2日間はCμLOT群で術後眼圧が高かった.しかし,術後C3日目以降C2群間に差はみられなくなった.この結果から,術後早期の前房出血は眼圧上昇に関与するが,術後しばらく経過し出血が引くと眼圧は下がる傾向があると考えられた.また,単変量解析にて「C:血餅」の値と術後C3カ月目の眼圧に正の相関が出たことから,Cスコアは長期的な眼圧上昇に関係する可能性が示唆された.同研究においてCCスコア上昇のリスク因子として近視・若年があげられており,近視・若年者は術後血餅の発生に注意が必要である.他の研究でも,Cスコアは術後眼圧上昇と関係することが示唆されている.μLOTの術後前房出血による液面形成がある患者の中で,血餅あり・なしを比較した報(83)告では,術後C1週間目の眼圧は,血餅がある群のほうがない群よりも有意に高く,血餅がある群の術後スパイクの眼圧は,血餅がない群よりも有意に高かった2).RLCスコアの中でもとくにCCスコアは,術後早期と長期的な眼圧・術後眼圧スパイクに関係する可能性がある.抗凝固薬・抗血小板薬の内服と前房出血の関係については,iStentにおいては内服群でCRLCスコアが高値となったが,μLOTでは内服の有無で差が出なかった1).このことから抗凝固薬・抗血小板薬は少なくとも前房出血の増加に関与している可能性があるが,μLOTのようにもともと出血量が多い手術では,内服の有無での微量な差は検出できない可能性がある.筆者の施設では眼内手術全般において,原則術前の抗血小板薬・抗凝固薬を中止していないが,大量の抗凝固薬・抗血小板薬の内服のある場合やCiStentの場合は,術後の眼内出血が予想より多くなる可能性があるため,術前に術後眼内出血が起こることを十分に説明している.C●線維柱帯切除術の切開範囲と前房出血μLOTは,線維柱帯を切開することで房水流出抵抗を低下させ,眼圧下降を図る緑内障手術である.線維柱帯の切開範囲と眼圧下降効果の関係については現在も議論されているところである.C360°切開とC180°切開を検討した筆者らの前向きランダム化比較試験では,術後C1年目の生存率に有意差はなく,術後の前房出血の液面形成の頻度は,360°切開群で有意に増加した3).また,傾向スコアマッチングを用いて,μLOTと白内障手術の同時手術を両側切開または鼻側切開したC1年成績の比較を行った筆者らの研究でも4),術後C1年の眼圧・薬剤数に差はなく,前房出血による液面形成(Lスコア)の頻度は,両側切開群のほうが高くなった.μLOT単独(白内障手術なし)においても同様に眼圧下降率に差はなく,RスコアとCLスコアは有意に両側切開のほうが高くなった5).眼内出血特に血餅は術後眼圧を高くするという研究結果もふまえ,筆あたらしい眼科Vol.42,No.8,202510170910-1810/25/\100/頁/JCOPY表1島根大学前房出血評価システム「SU-RLCスコア」図1島根大学前房出血評価スコアリングシステム「SU-RLC」の例a:R=3(浮遊赤血球により虹彩紋理がまったく見えない),L=1(1Cmm未満の液面形成あり,..),CC=1(血餅あり).診療録には「RLC311」と記載する.b:R=2(浮遊赤血球により虹彩紋理がぼやけて見える),L=0(液面形成なし),C=0(血餅なし).診療録には「RLC200」と記載する.スコアC0C1C2C3CR浮遊赤血球なし浮遊赤血球あり虹彩紋理が明瞭に観察できる浮遊赤血球あり虹彩紋理が明瞭に観察できない多数の前房内浮遊赤血球あり虹彩紋理が観察できないCL液面形成なし1Cmm(2角膜厚)までの液面形成瞳孔領下縁までの液面形成瞳孔領下縁を超える液面形成CC血餅なし血餅ありR:浮遊赤血球,L:液面形成,C:血餅.者らの施設では前房出血をできるだけ抑えるために基本的に鼻側切開のみとしている.しかし,線維柱帯を半周程度切開するよりも全周切開したほうが房水流出抵抗が下がるというヒト献眼での研究6)や,全症例での解析では術後成績に差は認めなかったが,眼圧がC21CmmHg以上の高眼圧症例のみで比較するとC360°切開のほうがC240°切開に比べて眼圧コントロール不良・追加の緑内障手術の頻度が低かったという報告がある7).現在,どのような症例で切開範囲を広げる必要があるのかは議論されているところであり,さらなる研究が必要である.C●おわりにひとまとめに眼内出血といってもCRスコア,Lスコア,Cスコアはそれぞれ術後に及ぼす影響が異なる可能性がある.出血は術後眼圧を短期的にも長期的にも高くすることが示唆されており,できるだけ出血を減らす工夫をする必要がある.客観的な前房出血の指標であるSU-RLCは術後成績との関連などの評価に利用できるため,ぜひ臨床で活用していただきたい.文献1)IshidaCA,CIchiokaCS,CTakayanagiCYCetal:ComparisonCofCpostoperativeChyphemasCbetweenCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyCandCiStentCusingCaCnewChyphemaCscoringCsystem.JClinMedC10:5541,C20212)ChiharaCE,CChiharaT:ConsequencesCofCClotCformationCandhyphemapost-internaltrabeculotomyforglaucoma.JGlaucomaC33:523-528,C20243)SatoT,KawajiT:12-monthrandomisedtrialof360°Cand180°CSchlemm’scanalincisionsinsuturetrabeculotomyabinternoCforCopen-angleCglaucoma.CBrCJCOphthalmolC105:C1094-1098,C20214)SugiharaCK,CShimadaCA,CIchiokaCSCetal:ComparisonCofCphaco-Tanitomicrohooktrabeculotomybetweenpropensi-ty-score-matchedC120-degreeCandC240-degreeCincisionCgroups,JClinMedC12:7460,C20235)SugiharaCK,CIdaCC,COhtaniCHCetal:ComparisonCofCstand-aloneTanitomicrohooktrabeculotomybetweenunilateralandbilateralincisiongroups.JClinMedC14:1976,C20256)RosenquistR,EpsteinD,MelamedSetal:Out.owresis-tanceofenucleatedhumaneyesattwodi.erentperfusionpressuresCandCdi.erentCextentsCofCtrabeculotomy.CCurrCEyeResC8:1233-1240,C19897)YokoyamaCH,CTakataCM,CGomiF:One-yearCoutcomesCofCmicrohooktrabeculotomyversussuturetrabeculotomyabinterno,GraefesArchClinExpOphthalmolC260:215-224,C2022C1018あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025(84)

屈折矯正手術セミナー:眼内レンズ度数計算式Kane formula

2025年8月31日 日曜日

●連載◯303監修=稗田牧神谷和孝303.眼内レンズ度数計算式Kaneformula森洋斉宮田眼科病院Kaneformulaは,生体計測値と性別情報を用いて高精度な眼内レンズ(IOL)度数計算を可能にするアルゴリズムであり,現在はCWEB上で利用可能である.従来式に比較して予測精度が高く,現在もっとも普及しているCBarrettCUniversalCII式と同等以上とされている.また,トーリックCIOLのスタイル算出や円錐角膜にも対応している点も特徴的である.●Kaneformulaの概要Kaneformulaは,2017年にCJ.Kaneによって発表されたCWEB上で利用可能な眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算アルゴリズムである(図1).従来の計算式と比較して,より多くの生体計測パラメータを活用している点が特徴としてあげられる.具体的には,眼軸長(axiallength:AL),角膜屈折力(keratometry:K値),前房深度(anteriorchamberdepth:ACD),水晶体厚(lensthickness:LT),中心角膜厚(centralcor-nealthickness:CCT)といった詳細な眼球情報に加え,患者の性別も入れることで,術後の屈折値を高精度に予測することを可能にしている.このアルゴリズムは,精密な理論光学モデルと機械学習を含む高度なビッグデータ解析技術を融合させることにより,異常眼軸長眼のように眼球形態のプロポーションが標準的な範囲から逸脱している患者においても,高い予測精度を維持できるよう綿密に設計されている.また,トーリックCIOLのスタイルと軸を算出する機能も備わっており,特筆すべき点として,これまで予測が困難であった円錐角膜例にも対応できるという利点をもっている.C●予測精度Kaneformulaをはじめとする新世代の計算式は,図1Kaneformulaのデータ入力画面https://www.iolformula.comC(81)あたらしい眼科Vol.42,No.8,202510150910-1810/25/\100/頁/JCOPY表1Kaneformulaと各計算式の屈折誤差の割合の比較屈折誤差の割合C≦±0.25D(C%)p値C≦±0.50D(C%)p値C≦±1.0D(C%)p値CKaneC60.7C86.5C99.2CHillC54.5C0.022C83.4C0.063C98.9C1.00CBarrettC49.7<C0.001C82.3C0.015C98.9C1.00CHaigisC52.5C0.009C81.2C0.004C97.8C0.182CSRK/TC59.3C0.542C86.0C0.789C99.4C1.00CMcNemar’stest.p値はCKaneformulaとの比較.SRK/TやCHo.erQ,Haigisといった従来の計算式に比較して予測精度が高いことが複数の研究によって明らかにされている.Saviniら1)の前向き研究では,15種類の計算式を用いて予測精度を比較した結果,屈折誤差C±0.5D以内の割合がC90%以上であったのは,EVO,Hill-RBF,そしてCKaneformulaのみであったと報告している.さらに,別の前向き研究2)では,24種類の計算式を対象とした比較が行われ,KaneformulaはVRG-Fについで優れた予測精度であったことが示された.筆者の施設における単一CIOL挿入の連続症例C356例C356眼のデータにおいても,KaneformulaはCHill-RBF(ver.3.0)やCBarrettU2,Hagisよりも良好な予測精度が得られたことが確認されている(表1)3).とくにCKaneformulaの予測精度はCALやCK値などの生体計測値に影響を受けにくいことが示めされた.従来の計算式は異常眼軸長眼への対応がむずかしく,予測精度が低いために補正が必要とされてきた.しかし,Kaneformu-laは調整なしに高い予測精度が得られることが期待される.BarrettU2も眼軸長に影響を受けにくいとされているが,最近のメタ解析によるとCKaneformulaは長・短眼軸眼ともにCBarrettU2よりも予測精度が高いことが示されている.なお,CCTやCLTはオプション入力となっており必須ではないが,短眼軸長眼,steep角膜眼,浅前房眼ではCLTを入力しないと精度が低下することが指摘されているので注意が必要である.C●円錐角膜例におけるKaneformulaの有効性不正乱視を伴う円錐角膜眼では,角膜前後面曲率比の異常や非対称な形状のために,通常の計算式では予測精度が低く,とくに遠視側へ誤差を生じやすいことが知られている.Kaneformulaは円錐角膜にも対応しており,計算画面上のCkeratoconusアイコンをクリックすることで,円錐角膜用の計算(Kane-KC)を行うことができる仕組みになっている.Kaneらの多施設研究4)によれば,Kane-KCの平均絶対誤差はC0.81Dともっとも小さく,C1016あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025(文献C3より引用)約C50%で屈折誤差C±0.50D以内に達した.とくに平均誤差がC0.04Dとほぼゼロであり,従来式でみられた遠視ずれが改善されている点が注目されている.わが国の多施設研究5)においても,Kane-KCは従来式と比較して高い予測精度を示していた.しかし,円錐角膜の重症例においてはCBarrettTrue-K(WEBのみ円錐角膜に対応した式が使用可能)のほうが予測精度良好であった.今後,バージョンアップにより,さらなる精度向上が期待される.C●今後の展望Kaneformulaは,現在わが国でもっとも普及しているCBarrettU2と比較して同等以上の予測精度を有している.しかし,BarrettU2が多くの生体計測装置に搭載されているのに対し,KaneformulaはCWEB上でのみ利用可能という欠点がある.オンライン計算式は場所を選ばずに使用できる利点があるものの,データ入力の手間やヒューマンエラーといった課題も存在する.今後,各種生体計測装置への搭載が望まれる.文献1)SaviniCG,CHo.erCKJ,CBalducciCNCetal:ComparisonCofCfor-mulaCaccuracyCforCintraocularClensCpowerCcalculationCbasedonmeasurementsbyaswept-sourceopticalcoher-encetomographyopticalbiometer.JCataractRefractSurgC46:27-33,C20202)VoytsekhivskyyOV,Ho.erKJ,TutchenkoLetal:Accu-racyof24IOLpowercalculationmethods.CJRefractSurg39:249-256,C20233)徳田祥太,森洋斉,徳永忠俊ほか:Kaneformulaの予測精度の検討.IOL&RSC36:251-257,C20224)KaneJX,ConnellB,YipHetal:AccuracyofintraocularlensCpowerCformulasCmodi.edCforCpatientsCwithCkeratoco-nus.OphthalmologyC127:1037-1042,C20205)YokogawaT,MoriY,ToriiHetal:Accuracyofintraocu-larlenspowerformulasineyeswithkeratoconus:Multi-centerstudyinJapan.GraefesArchClinExpOphthalmol262:1839-1845,C2024(82)