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難治性緑内障に対するAhmed緑内障バルブを用いたチューブシャント手術成績

2025年7月31日 木曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(7):898.903,2025c難治性緑内障に対するAhmed緑内障バルブを用いたチューブシャント手術成績韓昇熙木嶋理紀菊地香澄田川義晃董震宇新海晃弘石田晋北海道大学大学院医学研究院眼科学教室CSurgicalOutcomesandComplicationsofAhmedGlaucomaValveImplantationinPatientswithRefractoryGlaucomaShokiKan,RikiKijima,KasumiKikuchi,YoshiakiTagawa,DongZhenyu,AkihiroShinkaiandSusumuIshidaCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversityC目的:難治性緑内障に対するCAhmed緑内障バルブを用いたチューブシャント手術成績を検討する.対象および方法:北海道大学病院においてC2017年C12月.2023年C9月にCAhmed緑内障バルブを用いたチューブシャント手術を施行し,術後C6カ月以上の経過観察が可能だった連続症例C73例C82眼を,診療録をもとに後ろ向きに検討した.surgicalsuccessを術後C6カ月以降,眼圧がC5CmmHg以上C21CmmHg以下で推移し,観察期間中に眼内炎や光覚消失等の重篤な合併症を生じず,かつ追加の緑内障手術を施行しなかった症例と定義し,チューブ先端の挿入部位別の生存率を検討した.結果:男性C56眼,女性C26眼,手術時平均年齢はC59.5±17.8歳,平均経過観察期間はC25.5±19.5カ月だった.チューブ挿入部位は前房C10眼,毛様溝C57眼,硝子体腔C15眼だった.眼圧は術前C27.8±11.0CmmHg,術後C24カ月C13.4±4.3CmmHgと有意に低下した(p<0.01).術後C24カ月の累積生存率は全体でC86.3%,挿入部位別では前房C52.5%,毛様溝C92.4%,硝子体腔C86.7%だった.結論:難治性緑内障において,Ahmed緑内障バルブを用いたチューブシャント手術は有意に眼圧を下降させた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCoutcomesCofCAhmedCGlaucomaValve(AGV,CNewCWorldMedical)implantationCforrefractoryglaucoma.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved82eyesof73glaucomapatientswhounder-wentAGVimplantationfromDecember2017toSeptember2023andwerefollowedforatleast6-monthspostop-erative.CInclusioncriteria:patientsCwithCnoCseriouscomplications(endophthalmitisCorClossCofvision)andCnoCneedCforadditionalglaucomasurgeryduringthefollow-upperiod.Results:Meanpatientageatsurgerywas59.5±17.8Cyears,andthemeanfollow-upperiodwas25.5±19.5months.TheAGVinsertionsiteswereanteriorchamber(n=10eyes),Cciliarysulcus(n=57eyes),CandCvitreouscavity(n=15eyes).CMeanCintraocularpressure(IOP)preCsur-geryCwasC27.8±11.0CmmHg,CyetC13.4±4.3CmmHgCatC24-monthsCpostoperative,Csigni.cantlylower(p<0.01).CAtC24Cmonths,thecumulativesurvivalratewas86.3%overall,andbyinsertionsitewas52.5%intheanteriorchamber,92.4%CinCtheCciliaryCsulcus,Cand86.7%CinCtheCvitreousCcavity.CConclusion:InCpatientsCwithCrefractoryCglaucoma,CAGVimplantationsigni.cantlyreducedIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(7):898.903,C2025〕Keywords:Ahmed緑内障バルブ,眼圧下降効果,合併症,毛様溝.Ahmedglaucomavalve,IOPreductione.ect,complications,ciliarysulcus.Cはじめに高度な患者,線維柱帯切除術の成功が見込めない患者,ほかロングチューブシャント手術は緑内障に対して施行されるの濾過手術が技術的に施行困難な患者が適応とされてい濾過手術の一つであり,代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除る1).術が不成功に終わった患者,手術既往により結膜の瘢痕化が当施設でも上記に従い,いわゆる難治性の緑内障に対して〔別刷請求先〕韓昇熙:〒060-8648札幌市北区北C15条西C7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室Reprintrequests:ShokiKan,DepartmentofOphthalmologyFacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicineHokkaidoUniversity,North15West7,Kitaku,Sapporo-city060-8638,JAPANC898(114)ロングチューブシャント手術を実施している.また,当施設の患者では視野障害が後期であったり,角膜内皮細胞数が少なかったり,房水産生低下が予想されたりする例が多い.そのため,術直後の低眼圧による合併症を避けるための圧調整弁を有するCAhmed緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)を使用する機会が多い.しかし,チューブの閉塞や露出,内皮障害,濾過胞瘢痕化による眼圧上昇など,術後に留意する点数が多くあり2),また報告ごとに頻度が異なる3.12)のは患者背景が異なるためと考えられる.そのため,当施設でのCAGVを用いたロングチューブシャント手術の術後成績および合併症について調査した.CI対象および方法2017年C12月.2023年C9月に北海道大学病院でCAGVを用いたチューブシャント手術を施行し,術後C6カ月以上の経過観察が可能だったC73例C82眼を対象とし,診療録をもとに後ろ向きに検討した.術後C6カ月以降に眼圧がC5CmmHg以上C21CmmHg以下で推移し,追加の緑内障手術を必要とせず,かつ術後合併症による眼内炎や光覚消失を生じなかった患者を,術後の緑内障点眼使用数にかかわらずCsurgicalsuc-cess症例と定義した.手術前後の眼圧の推移,緑内障点眼剤数の推移,術後合併症,累積生存率について検討した.緑内障点眼剤数は緑内障配合点眼薬についてはC2剤とし,炭酸脱水酵素阻害薬内服は回数を点眼とは別に計算した.術後合併症のうち一過性高眼圧については,術後C6カ月以内で緑内障点眼の有無を問わず眼圧C22CmmHg以上となり,その後眼圧が低下して追加の緑内障手術が不要だったものと定義した.チューブ先端は,無硝子体眼および硝子体手術を同時に実施する必要のある患者では硝子体腔へ,水晶体を温存する必要のある患者では前房へ,それ以外の患者では毛様溝へ挿入し,必要に応じて白内障手術を併施した.手術はCTenon.下麻酔による局所麻酔または,全身麻酔にて施行した.AGVは全例CFP7を使用し,結膜を切開後,上直筋と外直筋または下直筋と外直筋の間に留置した.チューブは原則自己強膜弁で被覆したが,線維柱帯切除術後などで強膜の菲薄がある場合は保存強膜を用いた.2022年C3月.2023年C9月の連続症例には術中にトリアムシノロンアセトニドC40Cmg後部CTenon.下注射(posteriorCsub-Tenoninjection:STTA)を原則施行したが,明らかなステロイドレスポンダーの患者には投与を避けた.また,終了時にデキサメタゾンの結膜下注射を施行した.術後点眼として抗菌薬点眼とベタメタゾン点眼を使用し,白内障手術を併施したものについては非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalanti-in.ammatoryCdrugs:NSAIDs)点眼も併用した.また,術後の緑内障点眼追加については各担当医の判断で行われた.統計解析は眼圧や点眼剤数についてはCWilcoxonの符号付き順位検定を,累積生存率についてはClog-rank検定を,その他の検定にはC|2検定や対応のないCt検定を適宜使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.本研究はヘルシンキ宣言に則り行われ,北海道大学病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号CNo.016-0056).診療録を用いた後ろ向き研究のため,インフォームド・コンセプトはオプトアウトによって取得された.CII結果男性C56眼,女性C26眼,手術時平均年齢はC59.5C±17.8歳,平均経過観察期間はC25.5C±19.5カ月だった.緑内障病型は,広義の原発開放隅角緑内障がC35眼(42.7%),血管新生緑内障がC14眼(17.1%),ぶどう膜炎続発緑内障・落屑緑内障がともにC7眼(8.5%)ずつ,アトピー性緑内障・小児緑内障がともにC5眼(6.1%)ずつ,外傷緑内障がC3眼(3.7%),その他のものがC3眼(3.7%)であった.過去の内眼手術の平均回数はC2.5C±1.0(0-5)回で,うち緑内障手術については平均C1.8±1.1(0-5)回であった.眼圧の変化・緑内障点眼剤数の変化を図1に示す.術前平均眼圧はC27.8C±11.0CmmHg,術後平均眼圧はC6カ月C15.8C±6.7mmHg,12カ月C14.4C±5.1CmmHg,24カ月C13.4C±4.3CmmHg,36カ月C13.2C±3.4CmmHg,48カ月C14.9C±4.0CmmHg,60カ月C16.7±5.8CmmHgと下降し,観察期間中どの観察時点でも有意な低下を認めた.緑内障点眼剤数については,術前平均C3.8±0.9であり,術後C36カ月までのすべての時点で術前と比較し有意に低下したが,42カ月以降は有意差がなかった.炭酸脱水酵素阻害薬の内服については,術前はC1日あたり平均C1.3C±1.1錠だったが,術後は内服を必要とした患者はいなかった.全体の累積生存率は,術後C6カ月でC93.9%,12カ月で90.5%,24カ月でC86.3%,36カ月でC81%,60カ月でC57.8%だった(図2a).チューブの挿入部位は,毛様溝へ挿入した患者がC57眼(69.5%)ともっとも多く,ついで硝子体腔がC15眼(18.3%),前房がC10眼(12.2%)であった.チューブ先端の挿入部位別の累積生存率は図2bのとおり有意差がみられ(log-rank検定,p=0.01),術後6,12,24,36,48,60カ月は挿入部位別でそれぞれ前房C70.0%,52.5%,52.5%,52.5%,52.5%,52.5%,毛様溝C100%,98.0%,92.4%,85.3%,85.3%,68.2%,硝子体腔C86.7%,86.7%,86.7%,86.7%,86.7%,0%であった.術後合併症の種類・割合は表1のとおりとなり,一過性の高眼圧がC40眼(48.8%)ともっとも多くみられた.また,重篤な合併症として駆逐性出血,水疱性角膜症が各C1眼ずつ生mmHg剤数***p<0.001,**p<0.01,*p<0.05(mean±SD)505303202*404101*************************00術前136121824303642485460カ月n=82n=60n=42n=38n=29n=21n=14n=12n=10n=9Wilcoxonの符号付き順位検定.図1術後眼圧・緑内障点眼剤数の変化左軸が眼圧,右軸が点眼剤数,下方に症例数(n).どの観察時点でも眼圧は術前と比較し有意な低下をした.緑内障点眼剤数は,術後C36カ月までは術前と比較して有意に低下したが,42カ月以降は有意差がなかった.Cab100%100%80%80%生存率生存率20%20%0%0%60%60%40%40%01224生存期間(月)生存期間(月)log-rank検定,p=0.01図2累積生存率a:全症例,Cb:チューブ挿入部位別.術後C24カ月で全体C86.3%,挿入部位別で前房C52.5%,毛様溝C92.4%,硝子体腔C86.7%で部位別では有意差がみられた.じ,駆逐性出血を起こした眼が光覚消失し,水疱性角膜症を生じた眼は,後に全層角膜移植を行い視力は改善した.術中にCSTTAを施行したものがC21眼,施行しなかったものがC61眼であった.その患者の内訳を表2に示す.施行時期の選定の違いにより,経過観察期間は有意にCSTTA施行眼が短かった.手術時年齢もCSTTA施行眼が有意に若年であった.チューブ先端の挿入部位も有意差があり,STTA施行眼は施行しなかった眼よりも硝子体腔に挿入した割合が高かったが,挿入位置として一番多いのは毛様溝だった(それぞれC52%,75%).一過性高眼圧がみられたのはそれぞれ12眼(57.1%),28眼(45.9%)であり,STTA施行の有無と一過性高眼圧に有意な関連性はみられなかった(C|2検定,Cp=0.37).一過性高眼圧の発症時期はCSTTAを施行した眼でC2.4C±1.5カ月,STTAを施行しなかった眼でC1.6C±1.0カ月とCSTTA施行した眼でやや遅い傾向はあるものの,有意差はみられなかった(対応のないCt検定,p=0.056).またそのときの最高眼圧についてもそれぞれ平均C31.4C±13.0mmHg,31.2C±5.5CmmHgと有意差はなかった(対応のないt検定,p=0.94).累積生存率についても図3に示すとおり有意差はみられなかった(log-rank検定,p=0.90).表1術後合併症の発生症例数術後合併症発生症例数一過性の高眼圧(2C2CmmHg以上)チューブ先端の位置不良(挿入しなおした症例)インプラントの露出(追加の結膜縫合,または強膜パッチを実施した症例)40眼(C48.8%)4眼(4C.9%)3眼(3C.7%)複視の自覚2眼(2C.4%)駆逐性出血1眼(1C.2%)水疱性角膜症1眼(1C.2%)光覚消失1眼(1C.2%)表2STTA施行あり/なしの症例の内訳STTA施行あり20例21眼STTA施行なし54例61眼p値経過観察期間C10.9±6.4カ月C24.1±13.2カ月<C0.001***手術時年齢C52.8±21.8歳C61.7±15.8歳C0.05*性別男15眼(71%)41眼(67%)C0.72女6眼(29%)20眼(33%)チューブ先端位置前房2眼(10%)8眼(13%)C0.02*毛様溝11眼(52%)46眼(75%)硝子体腔8眼(38%)7眼(12%)術前平均眼圧(mmHg)C31.9±11.1CmmHgC27.6±10.0CmmHgC0.07過去の内眼手術回数(うち緑内障手術回数)C2.3±1.3回(C1.7C±1.2回)C2.6±1.0回(C1.9C±1.0回)C0.23C0.57術前緑内障点眼剤数C4.0±0.8回C3.7±0.9回C0.09術前炭酸脱水酵素阻害薬内服数C1.5±1.1錠/日C1.3±1.1錠/日C0.67III考按今回の患者の術前の緑内障手術の既往は平均C1.8C±1.1回であり,多くの患者は代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術を施行したが,良好な眼圧下降が得られなかったことが推測できる.複数回の代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が不奏効であった患者が多かったにもかかわらず,今回累積生存率はC2年でC86.3%であり,AGVを用いたチューブシャント手術は難治性の緑内障に対してよい適応であると考える.わが国での既報では,豊田ら3)が血管新生緑内障に対する手術成績を報告しており,過去の緑内障手術回数が平均C3回程度とかなり難治性の患者が対象だったが,術後C2年の累積生存率はC71.4.83.3%と,今回の検討同様に良好な結果であった.海外からの報告は緑内障手術既往があるものが半数を超える報告7)もあるが,半数未満からC2割程度のものが多く4.6,8.11),なかにはC9割が緑内障初回手術のもの6)もあり,対象患者が大きく異なることが推測される.また,今回チューブの挿入部位別に検討したところ,毛様溝へのチューブ挿入症例の生存率が良好な結果となった.既報では前房と毛様溝4,5),あるいは前房と硝子体腔6)へのチューブ挿入例を比較し,術後眼圧や累積生存率には有意差がないことが報告されている.今回の検討では,挿入部位により患者の年齢や緑内障の病型などの疾患背景の偏りが大きく,単純な比較はむずかしいと考える.前房へのチューブ挿入は,毛様溝と比較すると術後の角膜内皮細胞の減少率が大きいことが知られており5),また,硝子体腔への挿入は硝子体の郭清が必要である.毛様溝へのチューブ挿入は,手技の煩雑さや前房出血・誤挿入のリスクはある4,5)ものの,今回は追加の硝子体手術が必要なほど出血が遷延した患者はなかった.このことからも,硝子体手術未実施の患者に対しては,毛様溝へのチューブ挿入はよい適応であると考えられる.AGVを用いたチューブシャント手術の合併症として頻度が高く,治療上問題となるものが一過性の高眼圧である.こ100%80%60%40%STTAありSTTAなし20%0%01224364860生存期間(月)log-rank検定,p=0.90図3STTA施行の有無と累積生存率STTA施行あり群となし群で累積生存率に有意差はみられなかった.生存率れはプレート周囲組織が炎症細胞やサイトカインに曝露することで,術後数週.数カ月に発症する眼圧上昇といわれており2),頻度はC23.4.73.2%C7.11)と報告によるばらつきが大きい.今回はC48.8%であり,既報と同程度と考えられた.一過性高眼圧を抑制する手段として術中のトリアムシノロンアセトニドの後部CTenon.下注射の報告7,8)があったため,2022年C3月.2023年C9月までのステロイドレスポンダーの既往がある症例を除く連続症例にトリアムシノロンアセトニドの後部CTenon.下注射を施行したが,施行した群と施行しなかった群で,一過性高眼圧期発症の頻度や最高眼圧,累積生存率には有意差はみられなかった.既報7,8)では一過性高眼圧の頻度をC2.3割に抑え,発症までの時期を遅らせたり7),最高眼圧を低下させたり8)することが報告されているが,累積生存率やC6カ月以降の眼圧や点眼数には有意差がないとされている.今回の患者で一過性高眼圧の頻度が低下しなかった原因の一つは,施行した群としなかった群で年齢に有意差があり,施行群のほうが若年だったため,術後発症のステロイドレスポンダーが混在した可能性が考えられた.また,手術時の年齢が若年であることがリスク因子であるとの報告10)もあり,今後年齢をそろえての比較が必要と考えられた.今回術後の緑内障点眼追加については,各担当医の判断に委ねられており,統一基準がなかったが,術後早期の緑内障点眼追加による房水産生抑制が一過性高眼圧抑制に効果的という報告11)もあり,点眼の基準を揃えての検討も必要である.その他の合併症として,術後眼内炎がなく,駆逐性出血による光覚消失がC1例だけだった.難治性の患者が多かったが,重篤な合併症が少なかった.この点からも難治性の症例に適した術式であると考えられた.また,複視の自覚についてはC2例だけであるが,中心視野が障害されている患者も多いため,実際に眼球運動障害が出現していた患者はもっと多いことが推測される.Robbinsら12)はC4%程度に斜視が出現することを報告しており,斜視が出現した患者は若年で,視力が良好であったと報告している.今後の適応拡大によって,より若年で視機能良好である眼が対象になった場合,術前のインフォームドコンセントが重要となる.CIV結論難治性緑内障に対するCAGVを用いたロングチューブシャント手術は有効である.また,硝子体手術が未実施の患者に対しては,毛様溝へのチューブ挿入がよい適応である.術後合併症として,一過性高眼圧や複視には注意が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C2022C2)浪口孝治:チューブシャント手術の術後管理.眼科手術C37:35-38,C20243)豊田泰大,徳田直人,塚本彩香ほか:血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント術(プレートのあるもの)の中期成績.あたらしい眼科39:1539-1543,C20224)BayerA,OnolM:ClinicaloutcomesofAhmedglaucomavalveCinCanteriorCchamberCversusCciliaryCsulcus.CEye(Lond)31:608-614,C20175)KimCJY,CLeeCJS,CLeeCTCetal:CornealCendothelialCcellCchangesandsurgicalresultsafterAhmedglaucomavalveimplantation:ciliarysulcusversusanteriorchambertubeplacement.SciRepC11,C12986,C20216)QinCVL,CKaleemCM,CContiCFFCetal:Long-termCclinicalCoutcomesCofCparsCplanaCversusCanteriorCchamberCplace-mentCofCglaucomaCimplantCtubes.CJCGlaucomaC27:440-444,C20187)TuralbaAV,PasqualeLR:HypertensivephaseandearlycomplicationsCafterCAhmedCglaucomaCvalveCimplantationCwithintraoperativesubtenontriamcinoloneacetonide.ClinCOphthalmolC11:1311-1316,C20148)YazdaniS,DoozandehA,PakravanMetal:AdjunctiveTriamcinoloneCAcetonideCforCAhmedCGlaucomaCValveImplantation:ARandomizedClinicalTrial.EurJOpthal-molC27:411-416,C20179)Nouri-MahdaviK,CaprioliJ:Evaluationofthehyperten-siveCphaseCafterCinsertionCofCtheCAhmedCglaucomaCvalve.CAmJOphthalmolC136:1001-1008,C200310)OzalpCO,C.lguyCS,CAtalayCECetal:RiskCfactorsCforChyper-tensiveCphaseCafterCAhmedCglaucomaCvalveCimplantation.CIntOphthalmolC42:147-156,C202211)PakravanCM,CRadCSS,CYazdaniCSCetal:E.ectCofCearlyCtreatmentCwithCaqueousCsuppressantsConCAhmedCglauco-maCvalveCimplantationCoutcomes.COphthalmolC121:1693-1698,C201412)RobbinsCL,CGosekiCT,CLawCSKCetal:StrabismusCafterCAhmedCglaucomaCvalveCimplantation.CAmCJCOphthalmolC222:1-5,C2021***

緑内障眼の黄斑部血管・灌流密度および網膜神経節細胞複合体厚と中心視野:セクター別構造と機能の関係

2025年7月31日 木曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(7):892.897,2025c緑内障眼の黄斑部血管・灌流密度および網膜神経節細胞複合体厚と中心視野:セクター別構造と機能の関係大内達央*1山下力*1,2荒木俊介*1,2後藤克聡*1三宅美鈴*1水上菜美*1春石和子*1,2家木良彰*1八百枝潔*3三木淳司*1,2*1川崎医科大学眼科学1*2川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科*3やおえだ眼科CSectoralStructure-FunctionRelationshipsBetweenMacularVesselandPerfusionDensity,RetinalGanglionCellComplexThickness,andCentralVisualFieldinGlaucomatousEyesTatsuhiroOuchi1),TsutomuYamashita1,2),SyunsukeAraki1,2),KatsutoshiGoto1),MisuzuMiyake1),NamiMizukami1),KazukoHaruishi1,2),YoshiakiIeki1),KiyoshiYaoeda3)andAtsushiMiki1,2)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,2)CUniversityofMedicalWelfare,3)YaoedaEyeClinicCDepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,Kawasaki目的:緑内障眼における網膜表層の黄斑部血管密度(mVD:単位面積あたりの血管の長さ),灌流密度(mPD:単位面積あたりの血管面積の割合),網膜神経節細胞複合体(GCC)厚と中心視野障害(中心C10-2)との関連を検討した.対象・方法:対象は広義原発開放隅角緑内障C24例C37眼(MD値:.9.1±9.4CdB)とした.年齢,眼軸長を共変量,症例をランダム効果とした線形混合モデルにおいて,mVD,mPD,GCC厚とCMD値,セクター別CTD値の関連を検討した.結果:mVD,GCC厚はCMD値と有意な関連がみられた(mVD:StandardizedCb=0.38,GCC厚:Standard-izedCb=0.72).セクター別の解析ではCmVD,GCC厚はすべてのセクターで平均CTD値と有意な関連がみられた.結論:緑内障眼のCmVD,GCC厚は対応する中心視野との関連を示し,GCCの菲薄化がもっとも緑内障性視野障害の程度を反映する指標であることが示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCtheCrelationshipCbetweenCmacularCvesseldensity(mVD;lengthCofCvesselsCperCunitarea),macularperfusionCdensity(mPD;areaCpercentageCofCvesselsCperCunitarea),CandCganglionCcellCcomplex(GCC)thicknessCinCglaucomatousCeyesCandCtheirCassociationCwithCcentralCvisual.eld(VF)defects(central10-2).CSubjectsandMethods:Weanalyzed37eyesfrom24patientswithwide-angleprimaryopen-angleglaucoma(MDvalue:.9.1±9.4dB).Linearmixed-e.ectsmodelswithsubject-levelrandomintercepts,adjustedforageandaxi-alClength,CwereCusedCtoCexamineCtheCassociationsCbetweenCmVD,CmPD,CGCCCthickness,CandCbothCmeanCdeviation(MD)andsector-speci.ctotaldeviation(TD)values.Results:MVDandGCCthicknessweresigni.cantlyassoci-atedwithMDvalues(mVD,Standardizedb=0.38;GCCthickness,Standardizedb=0.72).SectoralanalysisfoundthatCmVDCandCGCCCthicknessCwereCsigni.cantlyCassociatedCwithCaverageCTDCvaluesCinCallCsectors.CConclusion:CmVDandGCCthicknessinglaucomatouseyeswereassociatedwiththecorrespondingcentralVF,indicatingthatGCCthinningisareliableindicatoroftheseverityofglaucomatousVFdamage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(7):892.897,C2025〕Keywords:黄斑部血管密度,黄斑部灌流密度,網膜神経節細胞複合体厚,中心視野,光干渉断層計.macularves-seldensity,macularperfusiondensity,retinalganglioncellcomplexthickness,centralvisual.eld,opticalcoherencetomographyCはじめに害をきたす1).光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-緑内障は特徴的な視神経乳頭の構造的異常と進行性の網膜phy:OCT)を用いた黄斑部の網膜神経節細胞複合体(gan-神経節細胞の消失を引き起こし,障害部位に対応する視野障glioncellcomplex:GCC)厚解析は,緑内障の診断,進行評〔別刷請求先〕大内達央:〒701-0192岡山県倉敷市松島C577川崎医科大学眼科学C1Reprintrequests:TatsuhiroOuchi,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki,Okayama701-0192,JAPANC892(108)abc図1mVD,mPD,GCC解析,HFAのセクター分け(右眼)a:mVD,mPD解析:黄斑部6.0C×6.0mmのAngioスキャン(256C×256枚)を測定し,網膜表層(始端層ILM/0Cμm.IPL/INL+8Cμm)のCmVD,mPDを計測した.Cb:GCC解析:黄斑部C6.0C×6.0CmmのC3Dスキャン(256C×256枚)を測定し,GCC厚を計測した.Cc:HFA:mVD,mPD,GCC解析のCG-Chartmap解析領域に対応させて,四つのセクターに分割した平均Ctotaldeviation(TD)値を算出した.mVD,mPD,GCC解析の解析範囲と視野検査の測定範囲が一致している.価に有用であると報告されており2.4),緑内障診療に必要不可欠なパラメータである.近年,造影剤不要で非侵襲的に短時間で網脈絡膜血管を描出できる光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)が登場した.OCTAは緑内障性変化に伴う網膜表層の血管密度の減少をとらえることが可能で,血管密度の減少は乳頭周囲網膜神経線維層,黄斑部網膜内層の菲薄化と一致し5),緑内障性視野障害と関連が強い6)と報告されている.Leeら7)はCCirrusHD-OCTで計測した乳頭周囲血管密度,灌流密度が緑内障性視野障害と関連がみられたと報告している.しかし,筆者らが調べた限り,黄斑部血管密度(macularCvesseldensity:mVD),黄斑部灌流密度(macularCperfu-siondensity:mPD),GCC厚と緑内障性視野障害との関連性を黄斑部のセクター別に解析範囲を一致させて検討した報告はない.そこで本研究では,mVD,mPD,GCC厚の解析範囲と視野検査の測定範囲を一致させ,セクター別にmVD,mPD,GCC厚と視野障害の関連性を検討した.CI対象および方法対象はC2020年C4月.2024年C3月に川崎医科大学附属病院眼科においてCOCT撮影,Humphrey.eldanalyzer(HFA,CCarlZeissMeditecAG社)による静的視野検査,光学式眼軸長測定(OA-2000,トーメーコーポレーション)が施行された原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleglaucoma:POAG)および正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)とした.本研究の選択基準は,①最高矯正視力がC0.8以上,②mVD,mPD,GCC厚とCHFAを同日に測定している者,③緑内障・白内障以外の眼科疾患を有さない者とした.本研究は後方視的研究として実施され,川崎医科大学・同附属病院倫理委員会の承認のもと(承認番号C5798-00),ヘルシンキ宣言に準拠して行われた.mVD,mPD,GCC厚の測定はCRS-3000CAdvanceC2(spectralCdomainOCT:NIDEK,蒲郡)を用いた.本装置は,光源波長C880Cnm,スキャンレートC85,000A-scans/秒,深さ方向C7Cμmである.mVD,mPDの測定のスキャンプロトコルは黄斑部C6.0C×6.0CmmのCAngioスキャン(256C×256枚)とし,網膜表層(始端層CILM/0Cμm.IPL/INL+8Cμm)のCmVD,mPDを計測した.mVDは血管細線化画像から算出され,単位面積あたりの血管の長さ(mmC.1)を示すパラメータである.mPDは二値化画像から算出され,単位面積あたりの血管面積の割合(%)を示すパラメータである.GCC厚の測定のスキャンプロトコルは黄斑部C6.0C×6.0CmmのC3Dスキャン(256C×256枚)とした.signalCstrengthindexがC8未満のデータは除外した.各セクターのCmVD,mPD,GCC厚はCG-Chartmapの内円と外円の平均値から算出した(図1a,b).視野測定はCHFA(中心C10-2プログラム,SITA-StandardもしくはCSITA-Fast)を用いた.固視不良C20%以上,偽陽性C15%以上,偽陰性C33%以上のいずれかに該当するデータは除外した.視野障害とCmVD,mPD,GCC厚との関連性を評価するため,視野検査結果をCmVD,mPD,GCC厚のCG-Chartmap解析領域に対応させて,四つのセクターに分割した平均Ctotaldeviation(TD)値を算出した(図1c).統計学的解析は,線形混合モデルを用いてCmVD,mPD,GCC厚とCmeandeviation(MD)値の関連性を検討した.目的変数をCMD値,固定効果をCmVD,mPD,GCC厚とし,年齢,眼軸長を共変量として解析した.症例ごとにC1眼またはC2眼を解析対象に含めたため,症例をランダム効果としてモデルに組み込み,両眼間の相関を補正した.各セクター別のCmVD,mPD,GCC厚とCTD値の関連性も同様の方法で表1患者背景早期.後期早期緑内障中期緑内障後期緑内障眼数C37C9C15C13POAG/NTG(眼)C20/17C4/5C6/9C10/3性別(男性/女性)13/24人1/8人4/11人8/5人年齢(歳)C64.27±10.49C63.11±12.07C64.67±9.77C64.62±10.97視力(logMAR)C.0.11±0.06C.0.10±0.07C.0.14±0.05C.0.16±0.28屈折度数(D)C.3.69±2.69C.3.81±3.09C.3.48±2.91C.3.85±2.33眼軸長(mm)C25.57±1.44C25.45±1.79C25.55±1.61C25.68±1.01中心C30-2MD(dB)C.11.22±6.53C.3.15±1.80C.9.24±1.75C.17.44±4.14VFI(%)C66.18±21.27C91.42±5.81C72.35±7.63C46.76±15.27中心C10-2MD(dB)C.9.11±7.83C.3.03±4.05C.7.55±4.75C.15.12±8.78PSD(dB)C9.42±5.02C4.98±4.65C10.52±4.47C11.22±4.25MD(dB)平均値±標準偏差.POAG:primaryCopen-angleCglaucoma,NTG:normal-tensionglaucoma,MD:meandeviation,PSD:patternstandarddeviation,VFI:visual.eldindex.C555000MD(dB)MD(dB)-5-5-5-10-10-10-15-15-15-20-20-20-25-25-25-30-30-30-35-35-35-40-40-400246810010203040505060708090100110mVD(mm-1)mPD(%)GCC厚(μm)図2mVD,mPD,GCC厚とMD値の関係mVD,GCC厚はCMD値と有意な関連がみられた.表2mVD,mPD,GCC厚とMD値の関連性MD値b95%信頼区間CPvalueCAICCmVD(mmC.1)C0.38C0.18C2.75<C0.05C150.9mPD(%)C0.32C.0.02C0.52C0.06C152.4GCC厚(Cμm)C0.72C0.40C0.83<C0.01C130.8Cb:標準化偏回帰係数,AIC:Akaike’sInformationCriterion.検討した.また,赤池情報量基準を用いてモデル適合度を判定した.統計学的分析は,統計解析ソフトCSPSSCStatistics23.0(SPSSJapan)を使用した.危険率C5%未満を統計学的に有意とした.CII結果本研究の対象はC30名C37眼(早期:9眼,中期:15眼,後期:13眼),平均年齢±標準偏差はC64.3C±10.5歳であった(表1).mVD,GCC厚はMD値と有意な関連がみられた〔mVD:標準化偏回帰係数(Cb)=0.38,p<0.05,GCC厚:Cb=0.72,p<0.01〕(図2).赤池情報量基準によるCMD値とのモデル適合度はCGCC厚,mVD,mPDの順で良好であった(mVD:150.9,mPD:152.4,GCC厚:130.8)(表2).各セクター別の解析ではCmVD,GCC厚はすべてのセクターでCTD値と有意な関連がみられた(図3)〔(上耳側セクター)mVD:Cb=0.40,p<0.01,GCC厚:Cb=0.55,p<0.01,(上鼻側セクター)mVD:Cb=0.35,p<0.05,GCC厚:Cb=0.66,p<0.01,(下耳側セクター)mVD:Cb=0.49,p<0.01,GCC厚:Cb=0.67,p<0.01,(下鼻側セクター)mVD:Cb=0.42,p<0.05,GCC厚:Cb=0.77,p<0.01〕.赤池情報量基準によるモデル適合度はすべてのセクターでGCC厚,mVD,mPDの順で良好であった(表3)〔(上耳側セクター)mVD:176.5,mPD:175.4,GCC厚:164.5,(上鼻側セクター)mVD:131.5,mPD:133.7,GCC厚:116.0,ST5500-5-5-5Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)Totaldeviation(dB)-25-30-35-25-30-35-25-30-35-40-40-40102030405060708090100mPD(%)GCC厚(μm)024681012mVD(mm-1)SN50-5-10-15-20-25-30-3550-5-10-15-20-25-30-3550-5-10-15-20-25-30-35-40-40-400246810121401020304050605060708090100110120mVD(mm-1)mPD(%)GCC厚(μm)IT50-5-10-15-20-25-30-3550-5-10-15-20-25-30-3550-5-10-15-20-25-30-35-40-40-40246805060708090100mPD(%)GCC厚(μm)010mVD(mm-1)102030405060IN50-5-10-15-20-25-30-3550-5-10-15-20-25-30-3550-5-10-15-20-25-30-35-40-40-400mPD(%)図3mVD,mPD,GCC厚とTD値のセクター別の関係上方セクター(ST,SN)では,mVD,GCC厚がCTD値と関連がみられ,下方セクター(IN,IT)では,mVD,mPD,GCC厚がCTD値と関連がみられた.すべてのセクターでCGCC厚がCTD値ともっとも関連が強かった.024681012mVD(mm-1)1020304050605060708090100110120GCC厚(μm)(下耳側セクター)mVD:177.5,mPD:178.9,GCC厚:CIII考按164.0,(下鼻側セクター)mVD:163.5,mPD:165.2,GCC厚:141.7〕.本研究ではCmVD,mPD,GCC厚の解析範囲と視野検査表3mVD,mPD,GCC厚とTD値のセクター別の関連性b95%信頼区間CPCvalueCAICCSTmVD(mmC.1)C0.40C0.48C3.02<C0.01C173.5mPD(%)C0.23C.0.02C0.59C0.10C175.4GCC厚(Cμm)C0.55C0.25C0.75<C0.01C164.5CSNmVD(mmC.1)C0.35C0.10C1.48<C0.05C131.5mPD(%)C0.25C.0.03C0.28C0.12C133.7GCC厚(Cμm)C0.66C0.17C0.41<C0.01C116.0CITmVD(mmC.1)C0.49C1.15C4.79<C0.01C177.5mPD(%)C0.45C0.17C0.85<C0.01C178.9GCC厚(Cμm)C0.67C0.36C0.78<C0.01C164.0CINmVD(mmC.1)C0.42C0.34C2.91<C0.05C163.5mPD(%)C0.34C0.01C0.55<C0.05C165.2GCC厚(Cμm)C0.77C0.35C0.66<C0.01C141.7Cb:標準化偏回帰係数,AIC:Akaike’sInformationCriterion.の測定範囲を一致させ,mVD,mPD,GCC厚と緑内障性視野障害の関連性を検討した.その結果,mVD,GCC厚はMD値と有意な関連がみられ,視野障害が強いほどCmVDの低下およびCGCCの菲薄化を示した.赤池情報量基準によるMD値とのモデル適合度はCGCC厚,mVD,mPDの順で良好であった.既報では,早期緑内障においてmPDよりGCC厚のほうが視野障害との関連が強いこと8)や,後期緑内障でもCGCC厚は進行の検出が可能であること9),緑内障診断力はCmPDよりCGCC厚のほうが優れていること10)が報告されている.また,Chenら11)は中心C10-2視野における構造と機能の関係が,乳頭周囲灌流密度,GCC厚,乳頭周囲網膜神経線維層厚,mPDの順で強く,黄斑部解析においてはCOCTAパラメータよりもCOCTパラメータのほうが視野障害との関連が強いことを示している.本研究ではmVD,mPDのC2種のCOCTAパラメータとCGCC厚を比較し,黄斑部における構造と機能の関係を詳細に検討したが,既報と同様にCGCC厚のほうが視野障害との関連が強かった.よって,OCTによるCGCC厚解析はCOCTAによるCmVD,mPD解析よりも緑内障性視野障害の程度をより鋭敏に示す指標であることが示唆された.この理由として,GCC厚解析は網膜神経節細胞が密に集中する黄斑部12)が測定領域であり,測定値のダイナミックレンジが広いため13),微小な構造的変化を検出する能力に優れていることが考えられる.対照的に,mVD,mPD解析では測定値のダイナミックレンジが狭く,黄斑部の血流は乳頭周囲に比べて乏しいため,GCC厚と比較して視野障害との関連が弱かった可能性がある.一方で,GCC厚の測定値には血管やグリア細胞などの非神経要素が含まれており,測定値が理論的に減少する限界(.oore.ect)がみられる14,15)が,mVDおよびCmPDはC.oore.ectの影響を受けにくく,進行した緑内障眼における構造と機能の関係の評価に有用である可能性がある6).今後,症例数を増やし,mVD,mPD,GCC厚と緑内障性視野障害の関連性を病期別に検討する必要がある.筆者らが調べた限り,mVD,mPD,GCC厚と緑内障性視野障害との関連性を黄斑部のセクター別に解析範囲を一致させて検討した報告は本研究が初めてである.その結果,すべてのセクターでCGCC厚がもっとも関連が強く,赤池情報量基準によるモデル適合度はCGCC厚がもっとも良好であった.CAkiyamaら8)はCmPD,GCC厚と緑内障性視野障害のCEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)セクター別の関連性を検討し,上下セクターにおいてCmPDよりもGCC厚のほうが強い関連を示したと報告している.本研究は既報と同様の結果であった.しかし,Akiyamaらの検討8)で用いられたCETDRSセクターは,黄斑疾患に基づいて設計された分割法であり,水平経線で分割していないため,緑内障に特徴的な上下象限の非対称性を考慮できていないことが問題点としてあげられる.一方,本研究で用いたCG-Chartマップは緑内障解析に特化した分割法で,水平経線で分割し,視野との対応関係を一致させた解析が可能であった.そのため,緑内障による構造的変化を考慮した分割法を用いた本研究は,既報よりもCmVD,mPD,GCC厚と緑内障性視野障害との関連を詳細に検討できたと考えられる.よって,緑内障眼の黄斑部のセクター別解析において,GCCの菲薄化がもっとも緑内障性視野障害の程度を反映する指標である可能性が高いと考えられる.本研究の限界として,多数例の検討ではなく,長眼軸長のデータが含まれる点,HFAの測定プログラムが統一されていないため測定データの一貫性に課題がある点,病期別での検討ができていない点,POAG眼とCNTG眼の両者を区別せずに解析を行った点などがあげられる.POAG眼とCNTG眼のCOCTAパラメータの違いに関しては,さまざまな結果が報告されている16.18)が,Xuら18)は黄斑部の血管密度はPOAG眼とCNTG眼で同等であることを示しており,両者を区別せずに解析を行ったことが本研究の結果に与える影響は少ないと考えられる.本研究では,緑内障眼の黄斑部解析はCmVD,GCC厚が対応する中心視野との関連を示し,GCCの菲薄化がもっとも緑内障性視野障害の程度を反映する指標であることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)GarasCA,CVarghaCP,CHolloG:DiagnosticCaccuracyCofCnerveC.breClayer,CmacularCthicknessCandCopticCdiscCmea-surementsCmadeCwithCtheCRTVue-100CopticalCcoherenceCtomographCtoCdetectCglaucoma.Eye(Lond)C25:57-65,C20113)MwanzaCJC,CDurbinCMK,CBudenzCDLCetal:GlaucomaCdiagnosticaccuracyofganglioncell-innerplexiformlayerthickness:comparisonCwithCnerveC.berClayerCandCopticCnervehead.OphthalmologyC119:1151-1158,C20124)KimCHJ,CLeeCSY,CParkCKHCetal:GlaucomaCDiagnosticCAbilityofLayer-by-LayerSegmentedGanglionCellCom-plexbySpectral-DomainOpticalCoherenceTomography.GlaucomaC57:4799-4805,C20165)AkagiT,IidaY,NakanishiHetal:MicrovascularDensi-tyCinCGlaucomatousCEyesCWithCHemi.eldCVisualCFieldDefects:AnCOpticalCCoherenceCTomographyCAngiogra-phyStudy.AmJOphthalmolC168:237-249,C20166)MoghimiCS,CBowdCC,CZangwillCLMCetal:MeasurementC.oorsCandCdynamicCrangesCofCopticalCcoherenceCtomogra-phyCandCangiographyCinCglaucoma.COphthalmologyC126:C980-988,C20207)LeeCMW,CYuCHY,CParkCKSCetal:ACcomparisonCofCperi-papillaryCvesselCdensityCbetweenCsubjectsCwithCnormal-tensionglaucomaandprimaryopen-angleglaucomawithsimilarCextentsCofCglaucomatousCdamage.CSciCRepC13:9258,C20238)AkiyamaCK,CSaitoCH,CShiratoCSCetal:DiagnosticCabilityCandsectoralstructure-functionrelationshipofcircumpap-illaryandmacularsuper.cialvesseldensityinearlyglau-comatouseyes.SciRepC12:5991,C20229)BelghithCA,CMedeirosCFA,CBowdCCCetal:StructuralCChangeCCanCBeCDetectedCinCAdvanced-GlaucomaCEyes.CInvestOphthalmolVisSciC57:OCT511-OCT518,C201610)RaoHL,PradhanZS,WeinrebRNetal:AcomparisonoftheCdiagnosticCabilityCofCvesselCdensityCandCstructuralCmeasurementsofopticalcoherencetomographyinprima-ryopenangleglaucoma.PLoSOneC12:e0173930,C201711)ChenCHSL,CLiuCCH,CWuCWCCetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCofCtheCsuper.cialCmicrovascula-tureCinCtheCmacularCandCperipapillaryCareasCinCglaucoma-tousCandChealthyCeyes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:C3637-3645,C201712)CurcioCCA,CAllenKA:TopographyCofCganglionCcellsCinChumanretina.JCompNeurolC300:5-25,C199013)HouH,MoghimiS,ProudfootJAetal:Ganglioncellcom-plexCthicknessCandCmaculaCvesselCdensityClossCinCprimaryCopenCangleCglaucoma.COphthalmologyC127:1043-1052,C202014)SihotaCR,CSonyCP,CGuptaCVCetal:DiagnosticCcapabilityCofCopticalcoherencetomographyinevaluatingthedegreeofglaucomatousCretinalCnerveC.berCdamage.CInvestCOphthal-molVisSciC47:2006-2010,C200615)MwanzaCJC,CBudenzCDL,CWarrenCJLCetal:RetinalCnerveC.berClayerCthicknessC.oorCandCcorrespondingCfunctionalClossinglaucoma.BrJOphthalmolC99:732-737,C201516)BojikianKD,ChenCL,WenJCetal:Opticdiscperfusioninprimaryopenangleandnormaltensionglaucomaeyesusingopticalcoherencetomography-basedmicroangiogra-phy.PLoSONEC11:e0154691,C201617)ScripsemaCNK,CGarciaCPM,CBavierCRDCetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCanalysisCofCperfusedCperipapillaryCcapillariesCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCnormal-tensionCglaucoma.CInvestCOphthalmolCVisCSciC57:OCT611-OCT620,C201618)XuH,ZhaiR,ZongYetal:Comparisonofretinalmicro-vascularCchangesCinCeyesCwithChigh-tensionCglaucomaCornormal-tensionglaucoma:AquantitativeopticcoherencetomographyCangiographicCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC256:1179-1186,C2018***

チューブ断裂による過剰濾過により低眼圧をきたしたロングチューブシャント術後の1例

2025年7月31日 木曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(7):887.891,2025cチューブ断裂による過剰濾過により低眼圧をきたしたロングチューブシャント術後の1例川村光*1池田華子*1,2沼尚吾*1森雄貴*1三宅正裕*1須田謙史*1亀田隆範*1辻川明孝*1*1京都大学大学院医学研究科眼科学教室*2大阪医科薬科大学医学部眼科学教室CACaseofHypotonyDuetoOver.ltrationfromTubeDisruptionafterLong-TubeShuntSurgeryHikaruKawamura1),HanakoO.Ikeda1,2)C,ShogoNuma1),YukiMori1),MasahiroMiyake1),KenjiSuda1),TakanoriKameda1)andAkitakaTsujikawa1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversityC多重手術後の原発開放隅角緑内障症例に対して緑内障インプラント手術を施行後に,低眼圧と脈絡膜.離が出現した.改善の兆しがなく,チューブ再結紮目的で行った再手術にてチューブを確認したところ,吸収糸での結紮部位付近でチューブが断裂していた.チューブ断端を縫合し,チューブ内にC3-0ナイロン糸をステント糸として留置した.術後C30日目にステント糸を抜去し,以降は眼圧C8CmmHg前後で推移した.ロングチューブシャント手術後に低眼圧が遷延する場合は,チューブの断裂の可能性をも考慮に入れる必要がある.CFollowingglaucomaimplantsurgeryinacaseofprimaryopen-angleglaucomawithahistoryofmultiplepre-vioussurgeries,hypotonyandchoroidaldetachmentwereobserved,withnosignsofimprovement.Duringasubse-quentCsurgery,CitCwasCdiscoveredCthatCtheCtubeCwasCrupturedCnearCtheCligationCsiteCofCtheCabsorbableCsuture.CForCtreatment,theseveredendsofthetubeweresutured,andthen3-0nylonthreadwasinsertedasastentwithinthetube.At30-dayspostoperative,thestentwasremovedandintraocularpressure(IOP)inthateyeremainedataroundC8CmmHg.CInCcasesCofCprolongedClowCIOPCfollowingClong-tubeCshuntCsurgery,CtheCpossibilityCofCaCrupturedCtubeshouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(7):887.891,C2025〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,チューブ断裂,3-0ナイロン糸.Bearveldtglaucomaimplant,tubedisruption,3-0nylon.CはじめにBaerveldt緑内障インプラント(BaerveldtCglaucomaimplant:BGI)は眼外への房水流出を増加させる目的で眼内に挿入する緑内障インプラントの一つである.BGIとマイトマイシンCC併用線維柱帯切除術との前向き比較試験にて,多重手術眼ではCBGI手術のほうが線維柱帯切除術より累積失敗率が低く1),初回手術眼では累積失敗率に有意差がない2)と報告されている.わが国では,線維柱帯切除術が不成功に終わった,成功が見込めない,手術既往により結膜の瘢痕化が高度であるなどの症例に実施することが推奨されている3).BGIは調圧弁がなく,術後早期の低眼圧防止のためチューブを吸収糸で結紮する必要があり,結紮糸が溶けるまでの間の高眼圧予防目的でチューブにCSherwoodslitを入れる4).ステント糸をチューブ内に留置してリップコードとし,術後の眼圧に応じてステント糸を抜去し,眼圧を調整することもある5).BGIの術後合併症の一つに,過剰濾過に伴う低眼圧があり,チューブ結紮が不十分または結紮の解除が原因と考〔別刷請求先〕池田華子:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町C54京都大学大学院医学研究科眼科学教室Reprintrequests:HanakoO.Ikeda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Shogoin-kawahara-cho54,Sakyo,Kyoto606-8507,JAPANCえられる場合には,再手術にてチューブ結紮を追加することがある.今回筆者らは多重手術後の眼圧コントロール不良眼にCBGI挿入術を実施,術後に低眼圧と脈絡膜.離が遷延し,チューブ再結紮目的に行った再手術時にチューブ断裂を認めたC1例を経験したので報告する.CI症例79歳,女性.50歳代に両眼強度近視・原発開放隅角緑内障の診断を受け,55歳時に両眼線維柱帯切除術,73歳時に両眼白内障手術を施行した.75歳時に左眼眼内レンズ偏位に対して硝子体手術ならびに眼内レンズ強膜内固定術を施行した.75歳時まで,眼圧下降点眼薬下で両眼眼圧C10CmmHg台前半を推移していた.79歳時に左眼眼圧が上昇し,眼圧下降点眼薬C5剤とアセタゾラミド内服下で左眼眼圧C15CmmHg前後となった.視野はC60歳代に両眼ともに中心視野が欠損し,その後も視野狭窄が進行していた.治療方針の相談目的にて当科紹介となった.当科初診時の視力は右眼C0.03(0.09C×sph.4.75D(cylC.1.00DCAx135°),左眼C0.02(0.09C×sph.7.00D(cyl.3.0CDAx60°),眼圧は,眼圧下降点眼薬C5剤およびアセタゾラミドC250Cmg2錠分C2内服下にて,右眼C10CmmHg,左眼C14mmHgであった.両眼眼内レンズ挿入眼,隅角検査にて開放隅角で特記すべき所見はなく,両眼C11時方向結膜に濾過手術痕と周辺虹彩切除,左眼耳上側に眼内レンズ摘出および強膜内固定術による結膜瘢痕を認めた.眼軸長は右眼C29.8mm,左眼C28.8mm,視野は両眼湖崎分類CVb期だった.眼圧上昇した左眼に関して,眼圧C10CmmHg台前半で視野狭窄が進行していたこと,多重手術後かつ硝子体切除済みであったことから,左眼耳上側にCBGIを挿入,チューブ先端は毛様体扁平部から硝子体腔内へ挿入する方針とした.CII初回BGI挿入術BGI(BGI-101-350)のチューブはC8-0バイクリル糸でC3カ所結紮し,SherwoodslitをC3カ所作成した.耳上側にBGIのプレートを挿入し,角膜輪部よりC9Cmmの強膜にC5-0ダクロン糸で固定した.チューブ先端を硝子体腔内に留置し,チューブをC9-0ナイロン糸で強膜に固定した.チューブを保存強膜片で被覆し,結膜縫合を行った.BGI挿入術翌日より眼圧C2CmmHg程度の低眼圧と全周性に丈の高い脈絡膜.離を認めた.眼圧上昇する兆候を認めず(図1),チューブ結紮が不十分なことによる過剰濾過を疑い,術後C7日目に再手術にてCBGIを確認することにした.結膜を切開し,チューブを被覆した保存強膜片を.離して確認したところ,もともとチューブを結紮していたバイクリル糸のうち,一番プレート側のC1糸が確認できず,その付近でチューブが断裂し,断裂部位からの多量の房水流出を認めた(図2).房水流出を抑制するため,断裂部位より角膜側にてC8-0バイクリル糸でC1カ所チューブを結紮した(図2).再手術翌日より左眼圧がC34CmmHgに上昇し,眼圧下降点眼薬とアセタゾラミド内服を再開,眼球マッサージを開始した.再手術C2週間以降は,眼圧下降薬使用下C14-18CmmHgで推移した.結紮したバイクリル糸の吸収を待つも眼圧は下降せず,アセタゾラミド内服を中止するとC20CmmHg以上に上昇した(図1).前眼部光干渉断層計(OCT)でCBGIを観察したところ,チューブ内腔は開通していたが,プレート上の濾過胞形成が不良であった(図3a).プレート付近の過度な瘢痕形成により通水が不十分である可能性が疑われたため,BGI再建術を実施することとした.CIIIBGI再建術結膜を切開したところ,BGIプレートおよびチューブ周囲に瘢痕組織を認めた.チューブ断端部周囲の瘢痕組織を除去したところ,房水の漏出を認めた.BGIプレート周囲の瘢痕組織を.離・除去した.チューブ内にC3-0ナイロン糸をステント糸として留置し,チューブ断端同士をC10-0ナイロン糸でC2カ所縫合した(図4).プレート上にわずかに房水が流出していることを確認した.BGIチューブを保存強膜片で被覆縫合し,結膜を縫合した.ステント糸の片端を結膜切開創から結膜上に出し,固定した(リップコード).BGI再建術後,数日は眼圧C3CmmHg前後の低値であったが,上昇傾向となり退院した(図1).そのあとに眼圧がさらに上昇したため,眼圧下降点眼薬および眼球マッサージを再開した.ステント糸は再建術後C30日目に抜去した.術後C47日目には眼圧はC13CmmHgに低下し,前眼部COCTでプレート上の濾過胞が良好に形成されていた(図3b).以降の半年間は眼圧の再上昇がなく,眼圧下降薬C2剤(ラタノプロスト,チモロール配合薬)にてC8CmmHg前後で推移している(図1).CIV考按BGI手術後に低眼圧を呈し,再手術時にCBGIのチューブが断裂していた症例を経験した.チューブ結紮追加で眼圧が上昇したが,そののち良好な眼圧コントロールが得られなかったため,BGI再建術を行った.BGI周囲の瘢痕組織を除去後,チューブ内にステント糸を挿入し,断端同士を縫合した.ステント糸抜去後,濾過胞形成および眼圧下降は良好である.本症例において術翌日からの低眼圧は,チューブが断裂したことによる過剰濾過が原因であった.チューブは吸収糸での結紮部位付近で断裂していた.BGI挿入初回手術の操作を録画映像にて見返したところ,結膜とCTenon.によるCBGI左眼眼圧(mmHg)353025201510501D4D7D8D11D15D1M2M3M4M5M1D3D6D9D13D19D30D33D47D2M3M7M眼圧下降点眼薬アセタゾラミド4剤内服図1BGI挿入術実施後の左眼眼圧の推移図2術後7日目のBGI確認とチューブ結紮a:チューブが断裂し(.),断裂部位からの多量の房水流出を認めた.断裂部位より角膜側にてC8-0バイクリル糸でC1カ所チューブを結紮した(.).b:チューブ結紮部のシェーマ.被覆時にプレートが角膜輪部側へ押される場面が確認できり高眼圧をきたした症例が報告されている6).BGIのチューた.術中や術終了時にチューブの断裂や付近からの房水流出ブは厚み約C0.3Cmmで原材質がシリコンであることを考慮すは認めなかったことから,チューブによじれる力が加わり,ると,吸収糸による結紮にて負荷がかかった部位によじれる術終了後翌日までの間に結紮部位が断裂した可能性が考えら力が加わったことが断裂の一因となった可能性がある.れた(図5).チューブ断裂を予防する方法としては,プレートを緩みがロングチューブシャント術後にチューブ断裂を認めた症例ないように固定する5),結膜とCTenon.の被覆時にプレートの報告は見当たらなかったが,術後にチューブのよじれによ偏位がないか確認すること,などが考えられる.図3BGI再建術前後の前眼部OCT画像a:BGIプレート(#)上の濾過胞形成は不良である(→).b:BGI再建術後C47日目にはCBGIプレート(#)上の濾過胞が良好に形成された(*).b3-0ナイロン図4BGI再建術a:BGIプレート周囲の瘢痕組織を.離・除去した.チューブ内にC3-0ナイロン糸をステント糸として留置し,チューブ断端同士をC10-0ナイロン糸でC2カ所縫合した(.).b:チューブ断端のシェーマ.BGI挿入術後に低眼圧を認めた際,チューブの早期開放による過剰濾過と考えた.しかし,チューブの再結紮目的で行った再手術にてチューブ断裂を認めた.断端より角膜側のチューブを再結紮し,結紮糸吸収による眼圧下降を期待したが,チューブ断端が瘢痕組織により閉鎖したことで想定していた眼圧調整が困難となった.チューブ断裂を認めた時点で,BGIチューブを端端縫合しプレートまでの房水流出路を保つことができれば,BGI再建・被膜除去術を回避できた可能性もある.BGI再建術時には,術後の低眼圧予防としてチューブ内に3-0ナイロン糸をステントとして留置し,術後の眼圧推移を見ながら抜去できる様にリップコードとした.Sherwoodslitを作成し,3-0ナイロン糸を留置したCBGIチューブの房水流出能は,生理的な眼球の房水流出能に近いとの報告もあり7),BGI周囲に瘢痕が過度に形成されることを懸念し,本症例では吸収糸による再度のチューブ結紮は行わなかった.BGI再建術後数日は眼圧が低めで推移したものの,術後C9日目に眼圧がC18CmmHgに上昇しており,チューブ結紮することなく低眼圧遷延を予防することができた.BGIプレート周囲の線維性被膜は術後C4.6週間で形成されること8),術後早期の過度な房水漏出は過度な炎症と被膜増殖をもたらし,濾過胞形成不良と眼圧上昇に関連すること9)から,BGIチューブ内に留置したC3-0ナイロン糸は術後所見に応じてC4.68週後に抜去したとの報告がある10).本症例ではCBGI再建術後C9日目に眼圧上昇を認めたが,眼圧下降点眼薬と眼球マッサージにて眼圧調整しつつ,術後C30日目にステント糸を抜去した.以降は良好な濾過胞形成およびb図5BGI挿入初回手術時の操作a:BGI挿入初回手術の操作を録画映像で見返したところ,結膜とCTenon.によるCBGI被覆時にプレートが角膜輪部側へ押される場面が確認できた.b:BGI被膜時のシェーマ.眼圧下降を得られており,ステント糸抜去時期は適切であったと考えられる.BGI手術後に吸収糸での結紮部位付近でチューブ断裂をきたし,過剰濾過をきたした症例を経験した.チューブ内にステント糸を挿入してリップコードとし,断端同士を縫合,BGIを再建することで良好な眼圧下降を得られた.ロングチューブシャント術時にはチューブ断裂につながる力を加えないように注意するとともに,術後の低眼圧遷延時にはチューブの断裂も念頭におく必要がある.利益相反川村光なし池田華子なし沼尚吾なし森雄貴なし三宅正裕:ノバルティス・ファーマ株式会社,第一三共株式会社須田謙史なし亀田隆範なし辻川明孝:キヤノン株式会社,株式会社ファインデックス,参天製薬株式会社,住友ファーマ株式会社文献1)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TreatmentCout-comesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyafter.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmolC153:789-803,C20122)GeddeCSJ,CFeuerWJ,CLimCKSCetal:TreatmentCOutcomesCinCtheCPrimaryCTubeCVersusCTrabeculectomyCStudyCafterC5CYearsCofCFollow-up.COphthalmologyC129:1344-1356,C20223)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:118.C20224)SherwoodCMB,CSmithMF:PreventionCofCearlyChypotonyCassociatedCwithCMoltenoCimplantsCbyCaCnewCoccludingCstenttechnique.OphthalmologyC100:85-90,C19935)谷戸正樹:緑内障ロングチューブシャント手術実践マニュアル,日本医事新報社,p18-21,20236)朝岡聖子,本田理峰,山ロ昌大ほか:バルベルト緑内障インプラントにおけるチューブのよじれを整復したC1例.あたらしい眼科C34:899-902,C20177)BreckenridgeCRR,CBartholomewCLR,CCrossonCCECetal:COut.owCresistanceCofCtheCBaerveldtCglaucomaCdrainageCimplantandmodi.cationsforearlypostoperativeintraocu-larpressurecontrol.JGlaucomaC13:396-399,C20048)MoltenoCAC,CFucikCM,CDempsterCAGCetal:FactorsCcon-trollingcapsule.brosisaroundMoltenoimplantswithhis-topathologicalCcorrelation.COphthalmologyC110:2198-2206,C20039)HongCCH,CArosemenaCA,CZurakowskiCDCetal:GlaucomaCdrainagedevices:asystematicliteraturereviewandcur-rentcontroversies.SurvOphthalmolC50:48-60,C200510)StringaCF,CChenCR,CAgrawalP:One-yearCoutcomesCfol-lowingCinternalCligationCsutureCremovalCinC350Cmm2CBaer-veldtCtubeCimplantCsurgery.CJCCurrCGlaucomaCPractC16:C20-23,C2022C***

多施設による緑内障患者の実態調査2024年版─薬物治療─

2025年7月31日 木曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(7):881.886,2025c多施設による緑内障患者の実態調査2024年版─薬物治療─小林大航*1,2井上賢治*1塩川美菜子*1國松志保*3富田剛司*1,2石田恭子*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院*3西葛西・井上眼科病院CMulti-institutionalsurveyforglaucomain2024─drugtherapy─TaikoKobayashi1,2)C,KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),GojiTomita1,2)CandKyokoIshida2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter,3)NishikasaiInouyeEyeHospitalC目的:現状の緑内障患者の実態をアンケート調査して,さらに経時的変化を検討する.対象と方法:本調査に賛同したC82施設に外来受診した緑内障および高眼圧症患者C6,323例C6,323眼を対象とした.病型と,レーザーおよび手術既往歴,使用薬剤を調査した.2020年に行った前回調査とも比較した.結果:病型は正常眼圧緑内障C45.6%,原発開放隅角緑内障C33.1%,続発緑内障C7.8%などであった.使用薬剤数はC1.8C±1.4剤であった.単剤はCFP作動薬C61.9%,2剤はCFP/Cb配合剤C56.4%が各々最多だった.配合剤使用はC3剤C91.3%,4剤C94.2%で前回調査より増加した.単剤はEP2作動薬が,2剤はCFP/Cb配合剤が前回調査より増加した.レーザーと手術既往は前回調査より増加した.結論:単剤はCFP作動薬,2剤はCFP/Cb配合剤が依然として最多だった.3剤以上での配合剤使用,レーザー既往,手術既往は調査ごとに増加している.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcurrentCstatusCofCglaucomaCtherapyCthroughCaCsurvey,CandCfurtherCexamineCchangesovertime.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved6,323glaucomaandocularhypertensionpatientsseenat82participatingfacilities.Diseasetype,historyofsurgery/laser-surgery,andmedicationsusedwereinves-tigatedandcomparedwiththeprevious2020survey.Results:Subtypesincludednormal-tensionglaucoma(45.6%)C,primaryCopen-angleCglaucoma(33.1%)C,CandsecondaryCglaucoma(7.8%)C.CFPCagonistsCandCFP/bcombinationCdrugsweremostcommonlyusedinsingle-medication(61.9%)anddual-medication(56.4%)therapies,respective-ly,andofthecombinationdrugsused,91.3%involved3medicationsand94.2%involved4medications,anincreaseCcomparedtothe2020survey.Comparedtotheprevioussurvey,EP2agonists(monotherapy)andFP/bcombina-tiondrugs(dual-medication)wereusedmorefrequentlyandthenumberofsurgicalandlaser-surgeryproceduresperformedChadCincreased.CConclusions:ComparedCtoCtheCpreviousCsurvey,CFPagonists(monotherapy)andCFP/bcombinationdrugs(dual-medicationtherapy)remainedCtheCdrugsCmostCcommonlyCused,CwithC3CorCmoreCmedica-tionsCusedCmoreCfrequentlyCinCtheCcombinationCdrugs,CandCtheCnumberCofCsurgicalCandClaser-surgeryCproceduresCperformedhadincreased.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(7):881.886,C2025〕Keywords:眼科医療施設,多施設,緑内障治療薬,緑内障実態調査,配合剤.ophthalmologymedicalfacility,drugforglaucoma,surveyforglaucoma,combinationeyedrops.Cはじめに日本緑内障学会による緑内障診療ガイドライン第C5版が2022年に改訂された1).緑内障性視野障害進行抑制に対して唯一根拠が明確に示されている治療は眼圧下降で,わが国において現在の開放隅角緑内障治療の第一選択は薬物治療である.新たな作用機序を有する眼圧下降薬,新規配合剤が使用可能となり,薬物治療を行ううえでの選択肢は増えている.緑内障診療ガイドライン第C4版がC2018年に改訂されて以降,EP2作動薬(オミデネパグイソプロピル)と新規配合剤(ブリモニジン/ブリンゾラミド,リパスジル/ブリモニジン)が使用可能になった.そこで,眼科専門病院やクリニックにおける多施設での緑内障患者実態調査をC2007年に開始した2).〔別刷請求先〕小林大航:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:TaikoKobayashi,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3KandaSurugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(97)C881表1研究協力施設(82施設)1ふじた眼科クリニックC22あいりす眼科クリニックC43おがわ眼科C64たじま眼科・形成外科C2苫小牧しみず眼科C23かさい眼科C44綱島駅前眼科C65やなせ眼科C3有楽町駅前眼科C24みやざき眼科C45眼科中井医院C66母心堂平形眼科C4アイ・ローズクリニックC25はしだ眼科クリニックC46市ヶ尾眼科C67ヒルサイド眼科クリニックC5飯田橋藤原眼科C26にしかまた眼科C47さいとう眼科C68さいはく眼科クリニックC6中山眼科医院C27久が原眼科C48あおやぎ眼科C69藤原眼科C7白金眼科クリニックC28田宮眼科C49本郷眼科C70ふじもと眼科クリニックC8高輪台眼科クリニックC29そが眼科クリニックC50吉田眼科C71大原ちか眼科C9小川眼科診療所C30明大前西アイクリニックC51のだ眼科麻酔科医院C72かわぞえ眼科クリニックC10もりちか眼科クリニックC31ほりかわ眼科久我山井の頭通りC52みやけ眼科C73いまこが眼科医院C11鈴木眼科C32広沢眼科C53高根台眼科C74槇眼科医院C12良田眼科C33小滝橋西野眼科クリニックC54大島眼科医院C75むらかみ眼科クリニックC13駒込みつい眼科C34いなげ眼科C55おおあみ眼科C76川島眼科C14赤羽すずらん眼科C35眼科松原クリニックC56いずみ眼科クリニックC77鬼怒川眼科医院C15菅原眼科クリニックC36しらやま眼科クリニックC57サンアイ眼科C78お茶の水井上眼科クリニックC16うえだ眼科クリニックC37赤塚眼科はやし医院C58さいき眼科C79井上眼科病院C17江本眼科C38氷川台かたくら眼科C59林眼科医院C80西葛西・井上眼科病院C18えづれ眼科C39えぎ眼科仙川クリニックC60のいり眼科クリニックC81大宮・井上眼科クリニックC19的場眼科クリニックC40西府ひかり眼科C61石井眼科クリニックC82札幌・井上眼科クリニックC20錦糸町おおかわ眼科クリニックC41東小金井駅前眼科C62やながわ眼科C21江戸川のざき内科眼科C42後藤眼科C63ふかさく眼科そののち,2009年に第C2回3),2012年に第C3回4),2016年に第C4回5),2020年に第C5回の緑内障患者実態調査6)を実施した.そこで今回は,緑内障診療ガイドライン第C5版に合わせて新たに第C6回緑内障患者実態調査を実施し,緑内障患者の最新の実態を解明した.加えて前回調査の結果6)と比較し,経年変化を解析した.CI対象と方法本調査は,緑内障患者実態調査の趣旨に賛同した全国C82施設においてC2024年C3月C10.16日に施行した.調査目的は緑内障患者への薬物治療の実態把握である.協力施設を表1に示す.調査期間内に外来受診した緑内障および高眼圧症患者全例を対象とした.今回の調査から緑内障病型として初めて前視野緑内障(preperimetricCglaucoma:PPG)を入れた.総症例数はC6,323例,男性C2,765例,女性C3,558例,平均年齢C69.2C±13.3歳(5.100歳)であった.緑内障の診断と治療は緑内障診療ガイドライン1)に則り,主治医の判断で行った.調査は調査票(図1)を用いて行った.調査票に年齢,性別,病型,使用薬剤,レーザー治療と緑内障手術の既往を記載し回収した.片眼症例は患眼,両眼症例は右眼を調査した.患者背景,使用薬剤数,単.5剤の使用薬剤を調査した.前回の調査と同様に薬剤は一般名での収集とした.配合剤はC2剤として解析した.さらに,2020年に行った前回調査の結果6)と比較した.今回調査の各薬剤分布の比較にはC|2検定,Fisherの直接法,今回調査と前回調査の患者背景の年齢比較には対応のないCt検定,使用薬剤数の比較にはCMann-Whit-neyのCU検定,男女比,レーザー治療既往症例,手術既往症例の比較にはC|2検定,Fisherの直接法を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.CII結果今回の調査での病型は正常眼圧緑内障C2,882例(45.6%),原発開放隅角緑内障C2,090例(33.1%),続発緑内障C492例(7.8%),前視野緑内障C344例(5.4%)などであった(図2).レーザー治療既往症例はC312例(4.9%),緑内障手術既往症例はC571例(9.0%)であった(表2).レーザー治療の内訳は,選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveClaserCtrabeculo-図1調査票正常眼圧緑内障45.651.0**原発開放隅角33.1**緑内障31.07.8続発緑内障8.25.40.1**4.4前視野緑内障高眼圧症5.4原発閉塞隅角今回調査3.54.2**緑内障前回調査0.2小児緑内障0.10102030405060図2前回調査との比較(手術既往症例,レーザー治療既往症例比較)*p<0.05,**p<0.001(C|2plasty:SLT)174例(55.8%),レーザー虹彩切開術(Laseriridotomy:LI)はC120例(38.5%),その他C18例(5.8%)であった.緑内障手術の内訳は,線維柱帯切除術C300例(52.6%),線維柱帯切開術C111例(19.5%),iStent手術C87例(15.3%),チューブシャント手術C14例(2.5%),隅角癒着解離術(GSL)6例(1.1%)などであった.使用薬剤数は平均C1.8C±1.4剤で,その内訳は無投薬C739検定,Fisherの直接法比較)例(11.7%),単剤C2,473例(39.1%),2剤C1,435例(22.7%),3剤C838例(13.3%),4剤C513例(8.1%),5剤C266例(4.2%),6剤C53例(0.8%),7剤C6例(0.1%)であった.使用薬剤の内訳を以下に示す.単剤はCFP作動薬C1,532例(61.9%),b遮断薬C476例(19.2%),EP2作動薬C255例(10.3剤2).3図,ROCK阻害薬62例(2.5%)などであった(%)はCFP/Cb配合剤C810例(56.4%),FP作動薬+b遮断薬C116表2前回調査との比較(|2検定)例(8.1%),CAI/Cb配合剤C115例(8.0%),FP作動薬+点眼CAI112例(7.8%)などであった(図4).2剤で最多となったCFP/b配合剤の内訳は,ラタノプロスト/カルテオロール配合剤C451例(55.7%),ラタノプロスト/チモロール配合剤C199例(24.6%),トラボプロスト/チモロール配合剤C61例(7.5%),タフルプロスト/チモロール配合剤C99例(12.2%)であった.3剤,4剤,5剤の薬剤内訳を表3に示す.配合剤使用例はC3剤C765例(91.3%),4剤C483例(94.2%),5剤C264今回調査前回調査p値症例数6,323例5,303例男女比2,765:C3,5582,347:C2,956C0.58平均年齢C69.2±13.3歳(5.C100歳)C68.7±13.1歳(1C1.C101歳)C0.09手術歴レーザー歴571例(C9.0%)312例(C4.9%)366例(C6.9%)220例(C4.1%)<C0.05<C0.01FP作動薬1,4131,532*476b遮断薬473107255*EP2作動薬962*ROCK阻害薬58イオン開口5747点眼CAI391578*a2作動薬14ab遮断薬136今回調査a1遮断薬67前回調査経口CAI41その他402004006008001,0001,2001,4001,600図3前回調査との比較(単剤使用比較)*p<0.05,**p<0.001(C|2検定)FP作動薬:FP受容体作動薬,EP2:EP2受容体作動薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.CFP/b配合剤521810**FP+b116149**CAI/b配合剤115146*FP+点眼CAI112143**82FP+a2851041**CAI/a2配合剤032**27a2/b配合剤FP+ROCK2517a2+EP2916b+EP213今回調査9b+a235前回調査a2/ROCK配合剤08*50その他420100200300400500600700800900図4前回調査との比較(2剤比較)*p<0.05,**p<0.001(C|2検定)FP:FP受容体作動薬,EP2:EP2受容体作動薬,Cb:b遮断薬,Cab:ab遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,Ca2:a2刺激薬,ROCK:ROCK阻害薬.表33,4,5剤の処方内訳使用薬剤数処方薬剤組み合わせ患者数(例)割合(%)FP作動薬+CAI/b配合剤C21325.4%C3剤FP/b配合剤+点眼CCAIC14317.1%CFP/b配合剤+a2作動薬C11914.2%その他C36343.3%FP/b配合剤+CAI/a2配合剤C18536.1%4剤CFP作動薬+CAI/b配合剤+a2作動薬C7514.6%CFP/b配合剤+ROCK/a2配合剤C346.6%その他C21942.7%FP/b配合剤+CAI/a2配合剤+ROCK阻害薬C11844.4%5剤CFP作動薬+CAI/b配合剤+ROCK/a2配合剤C3814.3%FP作動薬+CAI/b配合剤+a2作動薬+ROCK阻害薬C3011.3%その他C8030.0%※配合剤はC2剤としてカウントし,使用ボトル数での試算はしていない.また,6剤以上の使用報告もあるが,件数は統計に必要なサンプル数を満たさなかった.例(99.2%)であった.配合剤C2本(4剤)使用はC4剤C229例(44.6%),5剤C186例(69.9%)であった.今回の調査結果をC2020年の前回調査10)の結果と比較した(表2).平均年齢は今回と前回で同等であった.病型は今回が前回に比べて原発開放隅角緑内障,前視野緑内障が有意に多く,原発閉塞隅角緑内障,正常眼圧緑内障が有意に少なかった(p<0.001).レーザー治療既往症例は今回のC312例(4.9%)が前回のC220例(4.1%)に比べて有意に多かった(p<C0.01).緑内障手術既往症例は今回のC571例(9.0%)が前回のC366例(6.9%)に比べて有意に多かった(p<0.05).平均使用薬剤数は,今回調査で前回に比べて有意に増加した(p=0.05).使用薬剤数の分布では,単剤およびC2剤の使用が有意に減少し(p<0.05),5剤以上の使用が有意に増加した(p<0.001).単剤使用において,FP作動薬の使用率は前回調査と同等だったが,EP2作動薬(p<0.0001)およびROCK阻害薬(p<0.0001)の使用が有意に増加した.2剤使用では,FP/Cb配合剤の使用が有意に増加(p<0.0001),CCAI/b配合剤の使用が有意に減少(p<0.001)し,CAI/Ca2配合剤の使用が有意に増加した(p<0.001).3剤以上の使用に関して,配合剤の使用率はC3剤(p<C0.001),4剤(p<0.001),5剤(p<0.001)でいずれも有意に増加した.とくに,4剤では配合剤C2本の使用での処方が可能となり,今回調査でC44.6%にみられた.5剤では,配合剤C2本の使用が前回調査に比べて有意に増加した(p<C0.001).6剤以上の使用例もあったが,統計解析に必要なサンプル数を満たさなかった.III考按今回調査では,緑内障病型は正常眼圧緑内障C45.6%,原発開放隅角緑内障C33.1%と広義の原発開放隅角緑内障がC8割近くを占めた.多治見スタディ7)や過去の緑内障患者実態調査2.6)とも同様であった.また今回調査では,前回に比べて原発開放隅角緑内障が有意に増加し,原発閉塞隅角緑内障が有意に減少した.日本国民の屈折が近視化していることが一因と考えられる.緑内障診療ガイドライン第C4版にて,今までなかった緑内障の概念として前視野緑内障が定義された.前回調査は第C4版の発表後であったために前視野緑内障はC0.1%であったが,今回調査では前視野緑内障はC5.4%と有意に増加した.前視野緑内障の診断増加により,正常眼圧緑内障は今回調査C45.6%で前回調査C51.1%に比べて有意に減少した.レーザー治療既往症例は今回調査のC312例(4.9%)のほうが前回のC220例(4.1%)に比べて有意に多かった.レーザー種別では,レーザー虹彩切開術が今回C120例(38.5%)と前回のC151例(68.6%)に比べて有意に減少した.一方で,選択的レーザー線維柱帯形成術は今回調査でC174例(55.8%)と,前回のC68例(30.9%)に比べて有意に増加した.狭隅角,閉塞隅角症例の第一選択は白内障手術が選択されているためと考えられ,選択的レーザー線維柱帯形成術が増加しているのは,その効果や安全性が報告されている8)ためと考えられる.手術既往症例は今回調査でC9.0%と,前回のC6.9%に比べて有意に増加した.高齢化に伴う緑内障症例の増加と前回調査からの経年による進行例の増加によるものと考えた.術式にも変化があった.線維柱帯切除術は今回調査でC300例(52.6%)と前回のC263例(71.9%)から有意に減少した.一方で,低侵襲手術として負担が少なく,合併症も少ないCMinimallyInvasiveGlaucomaSurgeryの増加が今回調査に反映され,たとえば,iStent手術は今回調査C87例(15.3%)は前回調査C5例(1.4%)に比べて有意に増加した.使用薬剤数は今回調査で前回に比べて有意に多かった.配合剤が多数使われるようになったことなどが原因と考えられる.今回調査では単剤,2剤が有意に減少し,5剤が有意に増加した.配合剤の使用が増加したことが要因と考えられる.3剤以上の使用例では配合剤を使用する割合はC9割を超えた.また,配合剤の種類が増えたことによりC4剤以上の使用例で配合剤C2本を使用することも可能となった.今回調査の単剤の使用薬剤はCFP作動薬C61.9%,Cb遮断薬19.2%,EP2作動薬C10.3%の順であった.FP作用薬,Cb遮断薬が多いのは過去の緑内障患者実態調査C2.6)と同様であった.EP2作動薬は前回調査に比べて有意に増加したが,プロスタグランジン関連眼窩周囲症の副作用が少ない点8)が影響したと考えられた.2剤ではCFP/Cb配合剤がもっとも多く,ついでCFP作動薬+b遮断薬,CAI/Cb配合剤の順で,前回調査と同様だった.FP/Cb配合剤は有意に増加した.FP作動薬を単剤使用した後の治療強化として,FP/Cb配合剤が選択されていると考えられる.今回調査ではCCAI/Cb配合剤は有意に減少した.CAI/Ca2配合剤は有意に増加した.Cb遮断作用のないCa2作動薬を選択する傾向があると考えられる.また,前回調査から今回調査の間にCROCK/Ca2配合剤が使用可能となり,2剤目以降の選択も多様化したと考えた.今回調査ではC3剤以上についても検討した.3剤での配合剤使用例は今回調査ではC9割を超えており,前回調査9)と比べて有意に増加した.4剤での配合剤使用例も今回調査ではC9割を超えた.新規配合剤の登場により,前回調査では少なかったC4剤,5剤での配合剤C2本使用例の増加がめだった.従来の点眼本数を減らすことができて点眼アドヒアランス向上も見込めることから,配合剤は積極的に使用される傾向にあると考えられる.全体のまとめとしては,眼科医療施設における緑内障患者は原発開放隅角緑内障(広義)が多い.平均使用薬剤数はC1.8C±1.4剤であった.単剤はCFP作動薬が,2剤はCFP/Cb配合剤が依然として最多である.3剤は配合剤を使用する割合が9割以上を占め,4剤使用以上ではC2種類の配合剤使用が著明に増加した.本論文は第C35回日本緑内障学会で発表した.謝辞:本調査にご参加いただき,ご多忙にもかかわらず診療録の調査,記載,集計作業にご協力頂いた各施設の諸先生方に深く感謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査.薬物治療..あたらしい眼科C25:1581-1585,C20083)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年版C.薬物治療..あたらしい眼科28:874-878,C20114)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設による緑内障実態調査C2012年版C.薬物治療..あたらしい眼科C30:851-856,C20135)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─薬物治療─.あたらしい眼科34:1035-1041,C20176)黒田敦美,井上賢治,井上順治ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2020年度版─薬物治療─.臨床眼科C75:C377-385,C20217)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:TheprevalenceofpriC-maryopen-angleglaucomainJapanese.theTajimistudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20048)GazzardG,EvgeniaK,DavidGetal:LaseringlaucomaandCocularhypertension(LiGHT)trial:six-yearCresultsCofCprimaryCselectiveClaserCtrabeculoplastyCversusCeyeCdropsforthetreatmentofglaucomaandocularhyperten-sion.OphthalmologyC130,C139-151,C20239)InoueCK,CShiokawaCM,CKatakuraCSCetal:PeriocularCadverseCreactionsCtoCOmidenepagCIsopropyl.CAmCJCOph-thalmolC237:114-121,C2022***

基礎研究コラム:98.眼表面における病的角化(扁平上皮化生)

2025年7月31日 木曜日

眼表面における病的角化(扁平上皮化生)吉岡誇はじめに眼表面は体表面に露出した特殊な粘膜上皮細胞であり,マイボーム腺,涙腺,角膜上皮や結膜上皮細胞などから構成される複合的な組織です1).非角化の粘膜上皮から角化扁平上皮への病理学的変化を病的角化(扁平上皮化生)とよびます.この過程では,杯細胞の消失に始まり,上皮細胞の肥厚,粘膜上皮特異的なサイトケラチンの発現減少,さらに皮膚に特徴的なサイトケラチンやインボルクリン,フィラグリンといった角質層特異的な蛋白の発現上昇が起こります.病的角化は重症ドライアイ,Sjogren症候群,ビタミンCA欠乏症に加えて,Stevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡などの難治性眼表面疾患の重症例の一部に生じることが知られていましたが,そのメカニズムは不明でした.病的角化における遺伝子発現変動近年,網羅的遺伝子発現解析とバイオインフォマティクス的手法を用いた病態解明がさまざまな領域で盛んに行われています.これらの手法を眼表面の病的角化で用いた報告はまだなく,筆者らは,Stevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡,そして前部ぶどう腫による閉瞼障害による兎眼のため角化をきたした組織を用いて,病的角化上皮細胞と非角化結膜上皮(結膜弛緩症)を網羅的遺伝子発現解析で比較しました(図1)2).その結果,角化に関連する遺伝子に加えて,脂質代謝などの遺伝子群が有意に発現上昇していることが明らかになりました.これらの遺伝子をさらにバイオインフォマティクス的手法を用いて解析することでCMYBL2,FOXM1,図1病的角化を伴う症例(上段)とコントロール(下段)の前眼部写真a:前部ぶどう膜腫,Cb:Stevens-Johnson症候群,Cc:眼類天疱瘡,Cd~f:結膜弛緩症.(文献C2より転載)京都府立医科大学眼科学教室SREBF2といった転写因子がこの病態に関連しうることが明らかになりました.さらに脂質代謝にかかわる遺伝子の中でもCAKR1B15,RDH12,CRABP2,RARB,RARRES3といったビタミンCA代謝関連遺伝子が有意に発現変動していることが明らかになりました2).ビタミンCAは細胞内で酸化されることで活性型となり,さまざまな作用を有するとされます.病的角化した細胞内ではビタミンCAは非活性化されており,ビタミンCA刺激が減少していることが示唆されました.さまざまな疾患に由来する病的角化した結膜上皮細胞は,相対的にビタミンCA刺激が減少しているという共通したメカニズムが存在する可能性が示唆されました.今後の展望難治性眼表面疾患における病的角化は,深刻な視力低下をきたし,有効な治療法は未だありません.しかし,病的角化における細胞内活性型ビタミンCA欠乏の改善や,今回明らかになった転写因子を標的とした治療が開発されれば,点眼により予防あるいは治療が可能となるかもしれません.文献1)ThoftRA,FriendJ:Biochemicaltransformationofregen-eratingCocularCsurfaceCepithelium.CInvestCOphthalmolCVisCSciC16:14-20,C19772)YoshiokaH,UetaM,FukuokaHetal:Alterationofgeneexpressioninpathologicalkeratinizationoftheocularsur-face.InvestOphthalmolVisSciC65:37,C2024(91)あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025C8750910-1810/25/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:266.眼痛のない術後眼内炎(中級編)

2025年7月31日 木曜日

266眼痛のない術後眼内炎(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに従来,術後眼内炎には眼痛を伴うことが多いとされてきたが,近年,眼痛を自覚しない術後眼内炎が増加している1).術後眼内炎の診断に際して眼痛に重点をおくと,結果的に治療が遅れることになりかねないので注意が必要である.C●症例提示患者はC1週間前に左眼の白内障手術を受け,術後経過良好であったが,3.4日前から視力低下を訴えていた.しかし,眼痛も充血もなかったため自己判断で放置していた.1週間後の再診時.前房内のフィブリン析出と著明な硝子体混濁を認め,矯正視力は眼前指数弁に低下していた.しかし眼痛はまったくなく,毛様充血もほとんど認めなかった(図1).超音波CBモード検査では膜様の著明な硝子体混濁を認めた(図2)ため,術後眼内炎を疑い,急いで硝子体手術を施行した.眼底には白線化した網膜血管および網膜出血を広範囲に認めた(図3).硝子体を周辺部まで切除したのち,抗菌薬の硝子体内注射を施行して手術を終了した.術後,矯正視力はC0.8に改善した.C●眼痛のない術後眼内炎の診断のポイントOrmerodら2)はCcoagulase-negativeCStaphylococcusによる術後眼内炎C90例のうちC84%が,Endophthalmi-tisVitrectomyCStudyCGroupの報告3)ではC74%が有痛性であったとしている.これらの報告は水晶体.外摘出術が主流であった時期で,現在では超音波水晶体乳化吸引術が一般的となり,低侵襲であるため,有痛性の術後眼内炎は少なくなっているとする報告が多い1,4).細隙灯顕微鏡所見で一見炎症が軽度のように見えても,今回の症例のように眼底の状態が予想以上に重症化している図1細隙灯顕微鏡所見前房内にフィブリン析出を認めるが,毛様充血はほんど認めない.図2超音波Bモード所見硝子体腔内には膜様の著明な硝子体混濁を認める.図3硝子体手術の術中所見白線化した網膜血管と網膜出血を広範囲に認める.ことも多い.診断には必ず超音波CBモード検査を行い,著明な膜状の硝子体混濁を認めた場合には,早急に治療を開始する必要がある5).文献1)加賀玲子,永瀬聡子,伊藤亜紀子ほか:痛みを訴えなかった白内障術後CCNS眼内炎の1例.あたらしい眼科C25:C375-378,C20082)OrmerodCLD,CHoCDD,CBeckerCLECetal:EndophthalmitisCcausedbythecoagulase-negativestaphylococci.1.DiseaseCspectrumCandCoutcome.COphthalmologyC100:715-723,C19933)EndophthalmitisCVitrectomyCStudyCGroup:ResultsCofCtheCendophthalmitisCvitrectomyCstudy.CACrandomizedCtrialCofCimmediateCvitrectomyCandCofCintravenousCantibioticsCforCtheCtreatmentCofCpostoperativeCbacterialCendophthalmitis.CArchOphthalmolC113:1479-1496,C19954)清水直子,清水公也:白内障手術後眼内炎の発症頻度と予防.臨眼51:211-214,C19975)新里悦朗,三島弘,松本長太:眼内炎に対する硝子体手術時期について─超音波学的検討.眼紀C36:1903-1907,C1985C(89)あたらしい眼科Vol.42,No.7,20258730910-1810/25/\100/頁/JCOPY

考える手術:43.Finesse Flex Loopの使い方

2025年7月31日 木曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅FinesseFlexLoopの使い方中条慎一郎三重大学大学院医学系研究科臨床医学講座眼科学アルコン社のFinesseFlexLoop(以下,Finesse)は,網膜硝子体手術において広く臨床現場で使用されている.本デバイスは,「一貫性(Consistency)」と「柔軟性(Flexibility)」の二つの設計理念により開発されており,それぞれに機能的特徴がある.一貫性の面では,独自のニチノールループを採用しており,内境界膜(ILM)の厚さのおよそ85%まで侵入可能な構造が特徴である.これにより,ILMの.離をはじめとする膜処理操作において,安定した深度での介入Finesseの使用場面で頻度が高いのは,後部硝子体.離(PVD)作製後に網膜表面に残存した後部硝子体皮質の除去である.後部硝子体皮質の残存は,とくに裂孔原性網膜.離手術において重要な問題となる.裂孔縁や後極部に残存した皮質が牽引力を及ぼし,裂孔の非閉鎖や再.離を引き起こす可能性があり,さらに,残存皮質を足場として増殖膜が形成され,増殖硝子体網膜症(PVR)へ進展するリスクも高まる.そのため,術中にFinesseを用いて確実に後部硝子体皮質を除去することは,術後成績の向上に重要である.さらに近年では,Finesseの特異なループ形状と高い操作性を応用した新たな術式の可能性が考えられている.たとえば,眼内レンズ(IOL)強膜内固定術(Yamane法)の術後にフランジが硝子体側に脱落し,IOLが偏位する症例に,Finesseを用いて脱落したフランジを眼外へ摘出して再固定することが可能となる(動画1).また,眼内の棒状異物摘出に際しても,本器具のループ構造を利用して安全かつ確実な異物除去が可能である(動画2).このように,Finesseの応用的手技の有用性が認識されつつあり,今後さらに活用の幅が広がることが期待される.聞き手:裂孔原性網膜.離の手術の際に,後部硝子体皮網膜面への付着の様子をみて判断しています.近視眼の質を除去するかしないかの見きわめはどのようにしてい症例では,後部硝子体.離が生じていても,後部硝子体ますか?皮質が分離して網膜表面に残存することが多く,注意が中条:マキュエイドなどの硝子体可視化剤を使用して,必要です.そして,後部硝子体皮質を除去するべきであ(87)あたらしい眼科Vol.42,No.7,20258710910-1810/25/\100/頁/JCOPY考える手術ると判断した場合は,とくに裂孔と後極の間に残存している皮質を丁寧に除去するようにしています.この部位の硝子体皮質の残存が増殖すると,場合により網膜裂孔に牽引が生じ再開通による再.離が生じることもあります.聞き手:Finesseを使った,強膜内固定術後のIOL脱臼症例に対しての再固定方法について教えてください.中条:まずは,すでに固定されているフランジの位置を術前や術中に確認します.もし自施設の症例であれば,前回の手術ビデオやカルテの記録も確認しておくとよいです.その位置の180°対側の位置に27Gトロッカーを留置します.刺入角度は,ダブルニードル法と同様の刺入角度で,角膜輪部から内側に20°,虹彩表面から下方に5°の方向です.次に,そのトロッカーからFinesseを挿入し,脱落しているフランジにループを通し,なるべくフランジ側の先端にループをかけるのがコツです.そうでないと,眼外に引き出す際にハプティクスが折れてしまうことがあります.眼外にハプティクスを引き抜く際は,Finesseを完全に引き抜く前にトロッカー(ポート)を抜去しておきます.これは,Finesseがハプティクスを把持した状態ではトロッカー内を通過しないためです.既存のフランジを一度切除して新しいフランジを再形成します.既存のフランジより大きいフランジを作るのがポイントです.ただし,ハプティクスの長さに余裕がない場合は,既存のフランジをパクレンで再凝固して利用します.聞き手:硝子体鑷子を用いるよりも,Finesseを使用することのメリットは何ですか?中条:硝子体鑷子を用いてIOL強膜内固定術を補助する手法はこれまでも報告1)されていますし,実際に鑷子でも操作自体は可能だと考えます.しかし,脱落したフランジを硝子体鑷子で把持した場合,眼外に引き出す過程でハプティクスの把持がむずかしく,引き出すことに苦労することを経験しています.一方,Finesseでは,ループをフランジの根元に掛けて閉じることで確実に固定できるため,把持力の面で硝子体鑷子より優れていると考えています.また,脱落したハプティクスのキャッチの点でも,その角度や位置によっては,鑷子での把持が困難となる場合もあります.Finesseであれば,単にループを引っ掛けて閉じるという簡便な操作ですみます.872あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025聞き手:そもそも,なぜ術後にフランジが硝子体腔側に脱落するのでしょうか?中条:術後にフランジが硝子体腔内に脱落することはまれな合併症です.ただし,動画でお見せした症例では,ダブルニードル法を行う際に30G肉薄針ではなく,27G針が使用されていました.27G針で作製した場合,フランジのサイズが小さいと,強膜トンネルの径とフランジサイズのミスマッチにより術後に逸脱しやすい可能性があると考えています.もしダブルニードル法を27G針で行う場合は,術後のフランジ脱落の可能性を考慮して30G肉薄針を使用する場合よりも大きいフランジのサイズを意識することが重要かもしれません.聞き手:実際にこのような症例に出会ったとき,IOLを摘出して新たに固定するほうがよいでしょうか?それともこのFinesseを使った手法を試すのがよいでしょうか?中条:とてもむずかしい判断ですが,今のところ明確な適応は決まっていません.ただし,このFinesseを使った方法はIOL摘出と比べて簡便にできますし,前房内の操作を行わなくてすむので,角膜内皮が少ない症例では内皮障害のリスクも避けやすくなります.これらの点からも,この手法を選択するメリットはあると思います.聞き手:この方法によるデメリットは何かありますか?中条:最大の懸念は,IOLハプティクスをさらに短縮することによる術後の屈折変化です.IOLの固定位置がより前方(すなわち角膜側)に移動し,その結果として術後屈折が近視方向へずれる可能性があります.このような屈折変化を予防する工夫として,トロッカーの刺入位置を通常の位置より時計方向にずらすことが有効である可能性があります.これにより,フランジの引き出し角度や長さを調整し,IOLの前方移動を最小限に抑えることが期待されます.ただし,どの程度ハプティクスが短縮されると有意な屈折変動が生じるのか,あるいは刺入位置をどれだけずらせば屈折変動を抑制できるのかといった点については,現在検討中であり,今後の検証課題として取り組んでいるところです.文献1)JujoT,KogoJ,SasakiH,SekineRetal:27-gaugetro-car-assistedsuturelessintraocularlens.xation.BMCOphthalmol21:8,921(88)

抗VEGF治療セミナー:血腫移動術─硝子体手術のpros and cons

2025年7月31日 木曜日

●連載◯157監修=安川力五味文137血腫移動術――硝子体手術の石田友香杏林大学医学部付属杉並病院眼科Cprosandcons黄斑下の網膜下出血の移動術には,硝子体手術を併用し組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)を網膜下に注入しガス置換し周辺に移動させる方法と,tPAとガスを硝子体内投与して移動させる方法がある.どちらの方法がよいのかはまだ議論の余地がある.どちらにしても,加齢黄斑変性の場合には術後の継続的な抗VEGF療法が視力維持に必要である.はじめに網膜下出血による網膜ダメージの原因は,ヘモグロビンからヘモジデリンが放出される際の酸化ストレス,凝血塊が収縮する際の機械的なもの,脈絡膜と距離を作るために栄養が行き届かないこと,などが考えられている1).網膜細動脈瘤破裂や新生血管型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)が網膜下出血の原因となる.血腫移動術の方法は同じであるが,AMDは術後の管理も念頭において治療方針を考える必要がある点でより複雑であるため,本稿ではCAMDに伴う黄斑下出血の治療を中心に話を進める.近年,丈の高い症例では抗CVEGF療法単独よりもガスを用いた血腫移動術のほうが視力予後がよいことや2),抗CVEGF療法単独より硝子体手術併用の血腫移動術のほうが視力予後が良好であることが報告され3),現在は積極的に血腫移動術が施行されているが,その方法についてはまだ議論の余地がある.血腫移動術の歴史1990年代に,凝血塊を溶解することのできる酵素の組織プラスミノーゲンアクチベーター(tissueplasmino-genactivator:tPA)が導入され,硝子体手術を併用し網膜下注入し,溶けた血液を網膜切開からドレナージする方法が開発された4).この方法は今でも大量の出血の場合にはパーフルオロカーボンなども用いて行われることがあり,知っておくべき術式である.しかし,この方法は術後網膜.離のリスクがあり,2001年,Haupertらがマイクロカニューレを使用してCtPAを網膜下に注入して空気またはガス置換し,伏臥位で血腫を移動するという,より侵襲の少ない方法を提唱し,現在ではこの手術方法が主流となっている.さらにC2008年にはLinco.らが術後伏臥位でなくともC40°くらいの下向きで同等の結果を得られることを示した5).この方法は血腫(85)を黄斑から移動させることを目的としており,周辺の視野はよくはならない.合併症として術後の裂孔原性網膜.離(5%),硝子体出血(7.5%)が報告されている3).応用として,硝子体手術を行い網膜下にCtPAと空気を入れて伏臥位にするという方法も提唱されている6).2016年にCKitagawaらは,抗CVEGF薬とCtPAを硝子体内投与したのちに,pureな六フッ化硫黄(SF)ガスを注入し,伏臥位で血腫を黄斑から移動させる方法6を提唱した7).彼らはC20眼中C1眼で網膜.離,3眼で硝子体出血を生じたと報告している.この方法は,硝子体のある眼に液体と気体を入れるため,眼圧上昇にはかなり注意が必要であり,網膜中心動脈閉塞に気をつけて処置を行う必要がある.筆者の病院では,抗CVEGF薬を投与した翌日に入院してもらい,SFガスC0.5Cmlを硝子体内投与し,伏臥位をとってもらい,62日くらいで血腫が移動しなければ網膜下手術にふみきっている.エビデンスから,どの方法がよいのかtPA+ガスの硝子体内投与と,硝子体手術によるCtPAを用いた黄斑下手術のどちらがよいのかが近年論じられている.2016年にCdeJongらはC24例のランダム化比較試験を行い,抗CVEGF薬+tPA+ガスの硝子体内投与と,抗CVEGF薬硝子体内注射とCtPA網膜下投与の硝子体手術とで術後C6週間での出血の体積に有意差なしとした8).2022年にCMunらが報告したC236眼の後ろ向き研究では,観察のみ,抗CVEGF単独,tPA注入+ガス,網膜下手術の四つを比較し,12カ月後の視力に有意差はなかった9).ただし,症例は加療開始が発症から平均7日以上と動物実験で示されている網膜ダメージの始まるC3日を越しており,すでに不可逆的なダメージが起きている症例である可能性がある.さらに,2023年に行われた無作為化比較試験,他施設,前向きのC90症例の臨床研究において,硝子体手術+網膜下CtPA+ガス置換,頭をC45°でC3日間保つ方法と,あたらしい眼科Vol.42,No.7,20258690910-1810/25/\100/頁/JCOPYabcd図177歳,男性a:加齢黄斑変性に対する抗CVEGF療法で通院中であったが,網膜下出血を生じた.合成カラー写真.Cb:OCTでは網膜下の出血を認める.Cc:抗CVEGF薬投与翌日にCSFC6ガスC0.5ml硝子体内投与.Cd:その翌日の合成カラー写真.黄斑の網膜下出血が下方に移動している.Ce:光干渉断層計でも黄斑下の出血が移動したことがわかる.硝子体内CtPAとCSFガスの注入で同様の姿勢をC3日間継続する方法が比較さ6れたが,3カ月後,6カ月後の視力に有意差はなかった10).この研究ではC2乳頭経未満の症例は除外され,2.5乳頭経がC64%,5乳頭経以上が29%であったため,小型の血腫については不明である.網膜下手術の後の継続的な抗CVEGF薬による治療が視力維持につながることが知られているが,無硝子体眼においては抗CVEGF薬のCwashoutが早く,また,tPAの網膜毒性も動物実験から示されており,硝子体手術の是非と,tPAは網膜下投与と硝子体内投与のいずれがよいのかについては,さらに検討する必要がある.おわりに網膜下出血の治療方法については,そもそもわが国ではCtPAも適応外使用であり,使用には手続きが必要である.また,今まで述べたように良い点,悪い点があり,今後も治療方法については十分な議論が必要である.文献1)HochmanCMA,CSeeryCCM,CZarbinMA:PathophysiologyCandmanagementofsubretinalhemorrhage.CSurvOphthal-mol42:195-213,C19972)ShinCJY,CLeeCJM,CByeonSH:Anti-vascularCendothelialCgrowthfactorwithorwithoutpneumaticdisplacementforsubmacularhemorrhage.AmJOphthalmolC159:904-914.Ce1,C20153)SniateckiJJ,Ho-YenG,ClarkeBetal:Treatmentofsub-macularChemorrhageCwithCtissueCplasminogenCactivatorCandCpneumaticCdisplacementCinCage-relatedCmacularC870あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025図2網膜下にtPAを入れている様子硝子体手術で硝子体を郭清ののち,25ゲージのポートから網膜下注入針を入れてC38ゲージの細い針()を外套から出して,内境界膜を.離しておいた部分に押しあて,手術機器のCviscousC.uidcontrol(VFC)systemを用いて一定の圧力で網膜内にCtPAを注入している.網膜に無理に刺さなくても,内境界膜を部分的に.離しておけば,そっと押しあてて注入するだけで,低い注入圧で網膜下に入っていく.高圧で注入すると黄斑円孔を生じるので注意する.Cdegeneration.EurJOphthalmolC31:643-648,C20214)PeymanGA,NelsonNCJr.,AlturkiWetal:Tissueplas-minogenCactivatingCfactorCassistedCremovalCofCsubretinalChemorrhage.OphthalmicSurg22:575-582,C19915)Linco.CH,CKreissigCI,CStopaCMCetal:AC40CdegreesCgazeCdownCpositionCforCpneumaticCdisplacementCofCsubmacularhemorrhage:clinicalCapplicationCandCresults.CRetinaC28:C56-59,C20086)KadonosonoCK,CArakawaCA,CYamaneCSCetal:Displace-mentCofCsubmacularChemorrhagesCinCage-relatedCmacularCdegenerationwithsubretinaltissueplasminogenactivatorandair.OphthalmologyC122:123-128,C20157)KitagawaCY,CShimadaCH,CMoriCRCetal:IntravitrealCtissueCplasminogenCactivator,Cranibizumab,CandCgasCinjectionCforCsubmacularhemorrhageinpolypoidalchoroidalvasculopa-thy.OphthalmologyC123:1278-1286,C20168)deJongJH,vanZeeburgEJ,CeredaMGetal:intravitre-alversussubretinaladministrationofrecombinanttissueplasminogenCactivatorCcombinedwithCgasCforCacuteCsub-macularhemorrhagesduetoage-relatedmaculardegen-eration.CAnCexploratoryCprospectiveCstudy.CRetinaC36:C914-925,C20169)MunY,ParkKH,ParkSJetal:ComparisonoftreatmentmethodsCforCsubmacularChemorrhageCinCneovascularCage-relatedmaculardegeneration:conservativeversusactivesurgicalstrategy.CSciRepC2022:14875,C202210)GabrielleCPH,CDelyferCMN,CGlacet-BernardCACetal:Sur-gery,CtissueCplasminogenCactivator,CantiangiogenicCagents,CandCage-relatedCmaculardegenerationCstudy:ACrandom-izedcontrolledtrialforsubmacularhemorrhagesecondaryCtoCage-relatedCmacularCdegeneration.COphthalmologyC130:947-957,C2023(86)

緑内障セミナー:強度近視眼の視野異常

2025年7月31日 木曜日

●連載◯301監修=福地健郎中野匡301.強度近視眼の視野異常秋山果穂東京大学医学部眼科学教室強度近視眼では,眼軸長の伸長に伴って視神経や網膜に多様な変化を生じ,Mariotte盲点拡大など特有の視野異常や,peripapillaryCintrachoroidalcavitationなどの特徴的な視神経乳頭所見を呈する.近視性構造変化に伴う視野異常のメカニズムや進行は,典型的な緑内障と異なる可能性があり,慎重な観察が求められる.●はじめに近視は世界的に増加の一途をたどっており,この傾向はわが国を含む東アジアで顕著である.2050年には強度近視の人口はC2000年のC7.5倍にあたる約C10億人に達すると予測されている1).近視は緑内障の重要なリスク因子であり,今後,強度近視緑内障のさらなる増加が懸念される.強度近視眼では,眼軸長の伸長に伴って視神経や網膜に多様な変化を生じ,検鏡的な緑内障の評価がむずかしいとされているだけでなく,特有の視野異常を呈することがある.そのため,緑内障との鑑別が困難になるケースが多く,注意が必要である.C●強度近視眼に伴う視野異常強度近視眼においてもっとも頻度の高い視野異常はMariotte盲点の拡大であり(図1),強度近視眼のC9.5.25.6%で認められる2,3).Mariotte盲点の拡大は,傍乳頭網脈絡膜萎縮(peripapillaryCatrophy:PPA)の拡大や乳頭傾斜に関連して生じる.PPAは眼軸長の増加にCb図1Mariotte盲点拡大伴う視神経周囲の層構造(網膜色素上皮-Bruch膜-脈絡膜-強膜)のずれにより生じるが4),このうち網膜色素上皮細胞の欠損したCPPAbやCPPAcの拡大が絶対暗点として現れると考えられている.また,強度近視眼では,網膜神経線維の過剰な屈曲や伸展により,非典型的な視野異常や全般的な感度低下を呈する5).全般的な感度低下には,網膜・脈絡膜の過伸展だけでなく,屈折矯正に伴う変視や小視も関与している可能性がある5).実際に,近視が強くなるほど視野検査のCmeandeviation(MD)値が低下することが知られており2),MD値のみを用いた評価には注意が必要である.そのため,強度近視眼の視野異常を評価する際には,視野感度低下のパターンを観察することが有用である.さらに,びまん性・限局性網脈絡膜萎縮や後部ぶどう腫といった強い眼球構造変化を伴う病的近視眼では,網膜病変に対応した視野異常がみられることがあるため,定期的な散瞳検査や眼底写真による網膜所見の評価が必要である(図2).図2病的近視眼の眼底写真びまん性網脈絡膜萎縮および限局性脈絡膜萎縮(→)を認める.乳頭周囲には広範な傍乳頭網脈絡膜萎縮を認める().a:屈折.11Dの強度近視眼の眼底写真.傍乳頭網脈絡膜萎縮の拡大を認める().Cb:同症例のCHumphery30-2視野検査でCMariotte盲点に連続した視野感度低下を認める.(83)あたらしい眼科Vol.42,No.7,20258670910-1810/25/\100/頁/JCOPY図3中心30°視野と中心10°視野a:屈折.9Dの強度近視眼の眼底写真.Cb:OCT像で下耳側に細い神経線維束欠損を認める().c:Humphery30-2視野検査では明らかな異常所見を認めない.d:Humphery10-2視野検査ではCOCT所見に一致した中心視野障害を認める.緑内障診療における静的視野検査は中心C30°内の評価が標準的であるが,強度近視緑内障眼ではごく早期から乳頭黄斑線維の障害が生じ,中心C10°内の視野異常を呈する5).中心C10°内の視野異常は中心C30°の視野検査では過小評価されることもあるため,強度近視眼においては早期に中心C10°の視野検査を実施することが望ましい(図3).C●強度近視眼に伴う視神経構造変化強度近視眼では,peripapillaryCintrachoroidalCcavita-tion(PICC),篩状板欠損,prelaminarschisisといったさまざまな視神経構造変化を呈し,視野障害との関連が示唆されている.PICCはCPPAに隣接して認められる境界明瞭な黄色の領域であり,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では脈絡膜内に洞様構造が観察される.最近の研究では,PICCの半数以上に対応する視野障害を認められなかったものの,PICCに伴って網膜の断裂・菲薄化を生じると,対応する視野感度が低下することが報告されている6)(図4).このことからも,近視性変化の強い眼では,典型的な緑内障とは異なる機序で視野感度低下を生じている可能性が示唆される.強度近視に伴うこれらの視野異常は必ずしも進行性でC868あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025図4Peripapillaryintrachoroidalcavitation(PICC)a:傍乳頭網脈絡膜萎縮に隣接してCPICCを認める().b:aの→位置でのCOCT像で,PICC部位に一致して網膜の断裂を認める().はない場合もあるが,近視性と緑内障性の視野異常はしばしば合併しており,視野障害の進行がないか慎重な経過観察が求められる.C●おわりに強度近視眼では近視性構造変化に伴う視野異常がしばしば認められ,眼圧非依存性の視野障害メカニズムが存在する可能性がある.しかし,その詳細については未解明の点が多い.近年のCOCT技術の進歩により,視神経深部の詳細な構造評価が可能になっただけでなく,近視性構造変化に伴う循環障害や生体力学的特性の変化などにも注目が集まっている.今後のさらなる研究を通じて,近視性視野障害のメカニズムの解明に期待したい.文献1)HoldenCBA,CFrickeCTR,CWilsonCDACetal:GlobalCpreva-lenceCofCmyopiaCandChighCmyopiaCandCtemporalCtrendsCfrom2000through2050.OphthalmologyC123:1036-1042,C20162)DingCX,CChangCRT,CGuoCXCetal:VisualC.eldCdefectCclassi.cationCinCtheCZhongshanCOphthalmicCCenter-BrienCHoldenVisionInstituteHighMyopiaRegistryStudy.BrJOphthalmolC100:1697-1702,C20163)LinCF,CChenCS,CSongCYCetal:Classi.cationCofCvisualC.eldCabnormalitiesCinChighlyCmyopicCeyesCwithoutCpathologicCchange.OphthalmologyC129:803-812,C20224)SaitoH,KambayashiM,AraieMetal:Deepopticnerveheadstructuresassociatedwithincreasingaxiallengthinhealthymyopiceyesofmoderateaxiallength.AmJOph-thalmolC249:156-166,C20235)ZhangX,JiangJ,KongKetal:Opticneuropathyinhighmyopia:GlaucomaCorChighCmyopiaCorCboth?CProgCRetinCEyeResC99:101246,C20246)AkiyamaCK,CAokiCS,CShiratoCSCetal:VisualC.eldCofCeyesCwithperipapillaryintrachoroidalcavitationanditsassocia-tionCwithCdeepCopticCnerveCheadCstructuralCchanges.COph-thalmolGlaucomaC2025.Inpress(84)

屈折矯正手術セミナー:ICL術後の眼内炎

2025年7月31日 木曜日

●連載◯302監修=稗田牧神谷和孝302.ICL術後の眼内炎小島隆司名古屋アイクリニック後房型有水晶体眼内レンズであるCICLの挿入手術は眼内手術であり,眼内炎が起こりうる.眼内炎のリスクはC6,000眼にC1例程度と非常にまれであるが,報告例はある.水晶体を温存する手術であるため,硝子体内まで感染が波及することはまれで,多くは前房内に限局し,最終的には視力回復が得られている.白内障手術に準じた術野の清潔操作,術後C1週間の注意深い経過観察,術後眼内炎を疑ったときの迅速な対応が重要である.●ICL術後眼内炎の特徴一般的に白内障手術などの眼内手術における術後眼内炎は,急性眼内炎と遅発性眼内炎に分けられ,急性は数日からC1週間以内に発症し,遅発性は術後C1カ月以降に起こる.後房型有水晶体眼内レンズであるCimplantableCcollamerlans(ICL)の術後眼内炎は白内障術後眼内炎と異なり,硝子体まで波及することはまれで,前房に限局することが多い.それに対して無菌性眼内炎である中毒性前眼部症候群(toxicanteriorsegmentsyndrome:TASS)は手術翌日,48時間以内に強い炎症が起こりやすく,眼内炎で認められる眼痛などがほとんどないことが特徴である.一般的に,白内障術後眼内炎の起炎菌はグラム陽性菌が多く,患者自身の眼表面の常在菌由来と考えられている.わが国ではコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulasenegativeStaphylococcus:CNS.メチシリン耐性CCNSを含む),腸球菌,黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を含む),レンサ球菌の順に多く,腸球菌の頻度が高いことが特徴とされている1).これまでにCICL術後に培養陽性であった報告では,術後C4日目とC5日目に発症した表皮ブドウ球菌の症例2,3)は急性眼内炎に相当し,一方,術後C5カ月とC3カ月で発症したCCutibacteriumacnesによる遅発性眼内炎の症例4,5)では,ICL術後眼内炎も白内障術後の眼内炎と同様に急性眼内炎と遅発性眼内炎に分かれ,起炎菌に関しても,白内障術後の起炎菌と同様に結膜常在菌が原因と考えられる.C●ICL術後眼内炎の疫学Allanらは1998年1月.2006年12月に21カ国234名の術者を対象に匿名のオンライン調査を実施し,ICL手術後に眼内炎を発症した症例数を調査した6).その結果,95名(40%)の術者から回答があり,合計C17,954眼のCICL移植が行われた中で,3名の術者がそれぞれC1例ずつ眼内炎を報告した.これは発生率C0.0167%(約6,000眼にC1例)の割合に相当する.白内障術後の眼内炎の発症率はC0.025%とされており7),ICL術後眼内炎も同程度の発症率であると推測される.C●ICL術後感染予防対策手術後に眼内炎を発症しないような対策が重要である.以下に白内障手術でも用いている筆者の眼内炎予防を考えた手術の流れを示す(図1).①ドレーピングをしっかり行い,睫毛が術野に出ないようにする.白内障手術と同様に睫毛と睫毛根部を完全に消毒することはできないため,術野に睫毛が入らないようにしっかりとドレービングを行う.②術中にC0.25%ポビドンヨード液で洗浄する.開瞼器を装着したあと,ICLを挿入する前にC0.25%ポビドンヨード液で眼表面を洗い流し,眼表面に滞留している細菌をシャットアウトする.③角膜切開創は自己閉鎖させ,ある程度の眼圧を維持する.ICLは白内障手術より大きなC3.2Cmm程度の角膜切開が必要である.この切開創を自己閉鎖させるためには,2Cmm程度の角膜トンネル作製と,術後のハイドレーションを十分にすることが重要である.筆者は自己閉鎖が得られやすいC2.9Cmm弧状ナイフを使用している.また,手術を終わる際の眼圧が低すぎると,眼球の変形により創が開き,眼外から眼内へ水が流れる可能性があるため,適度な眼圧で終わることも重要である.④術後の経過観察をしっかり行う.前述のように術後C3日目の悪化時期にチェックできるように,筆者の施設では手術翌日,手術C3日目,手術C1週を術後早期検査のルーチンとしている.(81)あたらしい眼科Vol.42,No.7,20258650910-1810/25/\100/頁/JCOPY①睫毛を術野に出さずしっかりドレー②ドレーピング後にイソジン洗眼しマ③ICL挿入前に再度イソジン洗眼ピングイボーム腺からの分泌物を洗い流す⑤角膜切開創をしっかりハイドレーシ⑥閉鎖を確認ョンする④ICL裏側の粘弾性物質をしっかり抜く図1筆者が行っているICL手術時の感染予防対策●他の疾患との鑑別術後眼内炎はCTASS,ぶどう膜炎との鑑別が必要である.TASSとは内眼手術後に発症し,「術中に前房内に混入した物質により起こる無菌性眼内炎」と定義される.その起炎物質としては塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤,消毒薬,エンドトキシン,眼内レンズの残留研磨剤などがあげられる.ICL後のCTASSに関しては,ICLの施行件数が増えるにつれ報告が増えている.TASSと眼内炎の鑑別はむずかしいが,発症時期に関しては,TASSも急性のものと遅発性のものがあり,48時間以内に起こることが多く,眼内炎よりより早期に起こる傾向がある.眼痛に関しては,眼内炎が強い痛みがあるのに対して,TASSは炎症の割に痛みが弱い傾向がある.ぶどう膜炎も急性と遅発性があり,症状は多彩である.鑑別のためには既往歴の確認,前房水の塗抹検鏡,培養検査,前房水CPCRなどが有用である.C●術後眼内炎を疑った時眼内炎の治療8)に準じて行う必要があるが,前述したように前房に限局していることが多いため,早期のCICL摘出,前房洗浄が有効である.痛みがほとんどなく,術後翌日から生じるフィブリン形成などはCTASSであることが多いが,臨床所見のみから鑑別することは非常にむずかしい.迷ったら,眼内炎を疑ったほうがよいと思われる.C866あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025文献1)原二郎:発症時期からみた白内障術後眼内炎の起炎菌─CPropionibacteriumacnesを主として.あたらしい眼科20:C657-660,C20032)DavisCMJ,CEpsteinCRJ,CDennisCRFCetal:Culture-positiveCendophthalmitisCafterCimplantationCofCintraocularCcollamerClens.JCataractRefractSurgC35:1826-1828,C20093)KaurM,TitiyalJS,SharmaNetal:Successfulre-implan-tationCofCimplantableCcollamerClensCafterCmanagementCofCpost-ICLCmethicillin-resistantCStaphylococcusCepidermidisCendophthalmitis.CBMJCCaseCRepC2015:bcr2015212708,C20154)RobbinsCCC,CSobrinCL,CMaCKKCetal:Culture-negativeCCacnesCendophthalmitisCfollowingCimplantationCofCaCphakicCimplantableCcollamerClens.CJCVitreoretinCDisC5:258-260,C20205)WilkinsonCS,CEtheridgeCT,CMonsonCBKCetal:ChronicCpostoperativeCCutibacteriumCacnesCendophthalmitisCwithCimplantableCcollamerClens.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC26:101500,C20226)AllanCBD,CArgeles-SabateCI,CMamalisN:EndophthalmitisCratesafterimplantationoftheintraocularcollamerlens:CsurveyCofCusersCbetweenC1998CandC2006.CJCCataractCRefractSurgC35:766-769,C20097)OshikaCT,CHatanoCH,CKuwayamaCYCetal:IncidenceCofCendophthalmitisCafterCcataractCsurgeryCinCJpapan.CActaCOphthalmolScandC85:848-851,C20078)馬詰和比古:白内障術後眼内炎の予防と治療戦略,白内障術後眼内炎の治療.眼科手術37:445-448,C2024(82)