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抗VEGF治療セミナー:抗VEGF治療によるポリープ状脈絡膜血管症のポリープ閉塞率

2025年3月31日 月曜日

●連載◯153監修=安川力五味文133抗VEGF治療によるポリープ状脈絡膜星野順紀群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学血管症のポリープ閉塞率ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)は,日本人を含むアジア人に多くみられる病型である.PCVはC1型黄斑新生血管の端部にポリープがみられることを特徴とし,ポリープの閉塞は一つの治療目標と考えられている.本稿では,各抗CVEGF治療薬によるポリープの閉塞率について述べる.ポリープ閉塞の意義ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvascu-lopathy:PCV)は,他の病型の新生血管型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmaculardegeneration:nAMD)と比べて網膜下出血が生じる頻度が高く,黄斑下に及ぶ出血による高度視力低下をきたす懸念がある.残存するポリープ状病巣(ポリープ),とくにクラスター型やサイズが大きいポリープは,広範な網膜下出血の危険因子である.また,ポリープの閉塞は,抗CVEGF薬硝子体内注射による治療回数や投与間隔,再燃率と相関する.このように,PCV治療におけるポリープの残存は治療予後と相関するため,その閉塞は重要な治療目標の一つと考えられる.抗VEGF治療によるポリープ閉塞率現在,わが国でCnAMDに保険適用がある抗CVEGF薬は,ラニビズマブ,アフリベルセプトC2Cmg,ブロルシズマブ,ファリシマブ,アフリベルセプトC8Cmgである.上市されて間もないアフリベルセプトC8Cmgによるポリープ閉塞率はまだ報告がないため,ここではその他の抗CVEGF薬による導入期治療後のポリープ閉塞率について述べる.ラニビズマブによる導入期治療後のポリープ閉塞率は,国際共同試験CEVERESTstudyIとCIIで,それぞれ33%1),23%2),わが国における多施設共同前向き試験FujisanCstudyでC30%と報告されている3).ラニビズマブ単独でのポリープ閉塞率が約C30%であるのに対して,EVERESTstudyでは,ラニビズマブ併用光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)からC3カ月後のポリープ閉塞率は約C70%と報告されており1,2),PDTの併用により閉塞率は高くなる.PCVに対するアフリベルセプトC2Cmgの治療成績は,わが国の多数の施設で検討されている.それらの検討ではアフリベルセプトC2Cmgの導入期治療後のポリープ閉塞率はおおむねC50%程度(85)と報告されており,ラニビズマブと比べて閉塞率は高い.現行の抗CVEGF薬の中でもっともモル投与量が高いブロルシズマブは,導入期治療後のポリープ閉塞率がおおむねC80%程度と報告されており,先行薬のラニビズマブやアフリベルセプトC2Cmgと比べ高率に閉塞する.VEGF-Aとアンジオポエチン-2を標的としたバイスペシフィック抗体製剤であるファリシマブでは,導入期治療後のポリープ閉塞率は筆者らの検討ではC61%4),Mukaiらの報告ではC50%5)と,閉塞率はアフリベルセプトC2Cmgと同等かそれよりやや高いと考えらえる.アフリベルセプトC8Cmgを除く現行の抗CVEGF薬の中ではブロルシズマブがもっともポリープ閉塞率が高いが,ブロルシズマブは他の抗CVEGF薬と比べて眼内炎症の発症率が高いため,リスクとベネフィットを考慮した治療選択が必要である.また,抗CVEGF薬による治療でポリープが閉塞しないCPCV患者も存在する.EVERESTstudyでも示されたように,PDTの併用によりポリープ閉塞率は高くなるため,ポリープが残存し,抗VEGF薬治療に抵抗するCPCV患者に対してはCPDT併用を積極的に考慮してもよいと考える.抗VEGF治療とOCTAを用いたポリープ内血流の評価ポリープを検出するゴールドスタンダードは,インドシアニングリーン蛍光眼底造影であるが,近年では光干渉血管撮影(opticalCcoherenceCtomographyCangiogra-phy:OCTA)によって非侵襲的なポリープ内血流の評価が可能となった.これまでに,OCTABスキャンにおけるポリープ内血流と治療成績の相関を検討した報告がある.Changらは,アフリベルセプトC2Cmgによる導入期治療後のポリープ内血流シグナルの消失率はC37.5%であり,導入期治療後の血流の程度によって網膜下液の消退率に差があることを報告している6).Fukuyamaらは,アフリベルセプトC2Cmg併用CPDTからC3カ月後のポリープ内血流シグナルの消失率がC45.7%であり,あたらしい眼科Vol.42,No.3,20253490910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1導入期治療後のポリープ閉塞例上段:治療前.インドシアニングリーン蛍光眼底造影でポリープと異常血管網が検出される.下段:ファリシマブによる導入期治療後.ポリープは閉塞し,drymaculaとなっている.治療前導入期治療後治療C2週後の血流の有無は早期再発や治療抵抗性と関連することを報告している7).筆者らはブロルシズマブによる導入期治療後のポリープ内血流シグナルと治療予後を検討し,導入期治療後にC64.3%で血流シグナルは消失し,血流シグナルの有無とC1年間の治療回数や最終予定投与間隔が相関することを報告している8).これらの報告から,OCTAを用いたポリープ内血流の評価においても,ブロルシズマブでその消失率が高いと考えられる.また,ポリープ内の血流シグナルの有無はCPCVの治療反応性と相関するため,OCTAによるポリープ内血流評価はCPCVの治療予後予測に有用であると考える.文献1)KohCA,CLeeCWK,CChenCLJetal:EVERESTstudy:e.cacyCandsafetyofvertepor.nphotodynamictherapyincombi-nationCwithCranibizumabCorCaloneCversusCranibizumabCmonotherapyinpatientswithsymptomaticmacularpolyp-oidalchoroidalvasculopathy.RetinaC32:1453-1464,C20122)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCaCrandom-izedCclinicalCtrial.CJamaCOphthalmologyC135:1206-1213,C350あたらしい眼科Vol.42,No.3,2025図2OCTAでのポリープ内血流消失例上段:治療前.EnfaceOCTAで,橙赤色隆起病巣に一致してポリープが描出され(),BスキャンOCTAではポリープに一致した急峻な網膜色素上皮.離内に血流シグナルが検出される.下段:ブロルシズマブによる導入期治療後.EnfaceOCTAで描出されていたポリープは不明瞭となり(),BスキャンCOCTAで血流シグナルは消失している.C20173)GomiCF,COshimaCY,CMoriCRCetal:InitialCversusCdelayedCphotodynamicCtherapyCinCcombinationCwithCranibizumabCforCtreatmentCofCpolypoidalCchoroidalvasculopathy:TheCFujisanStudy.CRetinaC35:1569-1576,C20154)MatsumotoCH,CHoshinoCJ,CNakamuraCKCetal:Short-termCoutcomesCofCintravitrealCfaricimabCforCtreatment-naiveCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC261:2945-2952,C20235)MukaiCR,CKataokaCK,CTanakaCKCetal:Three-monthCout-comesCofCfaricimabCloadingCtherapyCforCwetCage-relatedCmaculardegenerationinJapan.SciRepC13:8747,C20236)ChangCCJ,CHuangCYM,CHsiehCMHCetal:FlowCsignalCchangeCinCpolypsCafterCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactortherapy.PLoSOneC15:e0241230,C20207)FukuyamaCH,CKomukuCY,CArakiCTCetal:AssociationCofC.owCsignalsCwithinCpolypsConCopticalCcoherenceCtomogra-phyangiographywithtreatmentresponsesaftercombina-tiontherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina42:942-948,C20228)HoshinoCJ,CMatsumotoCH,CNakamuraCKCetal:PredictingCtreatmentCoutcomesCofCintravitrealCbrolucizumabCforCpol-ypoidalCchoroidalCvasculopathyCthroughCnoninvasiveCassessmentCofCpolypoidalClesionCbloodC.owCwithCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CSciCRepC14:961,C2024(86)

緑内障セミナー:MIGSで用いる手術用隅角鏡

2025年3月31日 月曜日

●連載◯297監修=福地健郎中野匡297.MIGSで用いる手術用隅角鏡三重野洋喜京都府立医科大学眼科学教室低侵襲緑内障手術(MIGS)では,隅角構造の正確な観察が不可欠である.手術用隅角鏡は直接型と間接型のC2種類に分類される.直接型は高倍率と優れた視認性が,間接型は眼球や頭部の傾斜を必要とせずに隅角をC360°観察できることが特徴である.各隅角鏡の特性を理解し,自身に適した手技を習得することがCMIGSの成功につながる.●はじめに緑内障治療の分野では,低侵襲緑内障手術(microまたはCminimumCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)が注目を集めている.現在わが国で広く行われているMIGSには,マイクロフックトラベクロトミー,トラベクトーム,iStentCinjectW,KahookCDualBlade,suturetrabeculotomy眼内法(以下,SLOT)が存在し,さらにHydrusなど新しいデバイスが次々と使用できるようになるなど,まさにCMIGS全盛期といっても過言ではない.ほとんどのCMIGSは房水流出の首座である隅角にアプローチするものであり,その成功には隅角構造を正確に観察することが不可欠である.手術用隅角鏡は隅角観察を実現するための重要な機器であり,直接型と間接型のC2種類に分類され,それぞれ異なる特性をもつ.本稿では,手術用隅角鏡の特徴とその使用例,またそのトレーニング方法について解説する.C●直接型隅角鏡の特徴直接型隅角鏡の最大の特徴は,高い倍率と優れた視認性にある(図1).これにより,精密な操作に対応でき,また最近では導入コストの安いディスポーザブルレンズも使用可能となっている.わが国で用いられる代表的な直接型隅角鏡を表1に示す.一方で,患者の頭位調整や顕微鏡の傾斜が必要となることが課題であり,全周方向の隅角の観察や手術をするには困難を伴う.C●間接型隅角鏡の特徴間接型隅角鏡は,眼球や頭部の傾斜を必要とせず,隅角鏡を移動させることで隅角全周の観察が可能な点が特徴である.全周方向の周辺虹彩前癒着があるような場合でも,患者の体位調整を行うことなく対応可能である(図2).全身麻酔で気管挿管されているような患者にも問題なく使用できる.わが国で用いられる代表的な間接型隅角鏡を表2に示す.一方で,直接型に比べて視認性や視野が制限される場合があるほか,隅角鏡の価格が比較的高価である.間接型隅角鏡によっても視野や倍率が異なる(図3)ため,自分に合った隅角鏡を選ぶ必要がある.表1代表的な直接型隅角鏡図1直接型隅角鏡を用いた手術所見直接型隅角鏡(iprismS)を用いて,眼内ドレーンの挿入を行っているところ.優れた視認性のディスポハンズフリーとCiprismSはディスポーサブル製品である.ディスポハンズフリーは自立式ともとCMIGSが施行できる.なっている.スワンヤコブヒルディスポハンズフリーCiprismS外観ミラー接眼部径C視野C倍率オートクレーブ直接9.5CmmC90°C1.20倍可能直接9CmmC90°C1.20倍可能C直接15.5CmmC90°C1.20倍─C直接8.7Cmm150°1.10倍─(83)あたらしい眼科Vol.42,No.3,20253470910-1810/25/\100/頁/JCOPY表2代表的な間接型隅角鏡モリゴニオCAhmedアップライトダブルミラーオートクレーパブル外観ミラー接眼部径C視野C倍率オートクレーブ間接11.5CmmC110°C0.80倍不可間接10CmmC120°C1.30倍可能間接11.2CmmC45°C1.30倍可能間接9.0Cmm90°1.20倍可能視野や倍率は隅角鏡によって大きく違う.価格は直接型隅角鏡と比較すると高額なものが多い.図2間接型隅角鏡を用いた手術所見間接型隅角鏡(モリゴニオトミーレンズ)を用いて,隅角癒着解離術を行っているところ.眼球や頭部の傾斜を必要とせず,隅角鏡を移動させることで隅角全周の観察が可能である.(a).(c)のC3カ所にサイドポートを作ることで,全周方向の周辺虹彩前癒着をはずすことができる.C●使用方法とトレーニング手術用隅角鏡を効果的に使用するためには,器具の特性を十分に理解し,適切なトレーニングを行う必要がある.当院では,MIGSはおもに間接型隅角鏡(モリゴニオトミーレンズ)1)を用いて行っている.間接型隅角鏡はC2個の内蔵ミラーを有し,視軸と隅角鏡,手術用顕微鏡が一直線になっているときに隅角が観察できるよう設計されている.そのため,隅角鏡や眼球のわずかな傾きにより,本来のダブルミラー像が得られず,対側の隅角がシングルミラー像として映ったり,隅角がまったく映らなくなったりする.当院では,新しくCMIGSを始める術C348あたらしい眼科Vol.42,No.3,2025図3間接型隅角鏡における見え方の違い顕微鏡の倍率は同じにして,隅角鏡を眼球の上に載せたところ.左はモリゴニオトミーレンズ(視野C110°,倍率C0.80倍),右はアップライトレンズ(視野C45°,倍率C1.30倍)である.者には,まずは視軸と隅角鏡,モリゴニオトミーレンズを一直線に維持できるように,術中にモリゴニオトミーレンズを触って慣れるところから始めてもらう.隅角癒着解離術やCSLOTはとくにトレーニングに適しており,積極的に行ってもらっている.SLOTは右眼・左眼に関係なく,一方向挿入から始めることで,術者は手技に慣れることができる.SLOTでは切開範囲(360°かC180°か)や切開部位によるC1年後の手術成績に違いがない2,3)ことが報告されており,術者の手勝手がよいところでやるとよい.まずは自分が手技を確実に行える型を作ることが自信につながり,手術成績が安定することにもつながる.文献1)MoriK,IkushimaT,IkedaYetal:Double-mirrorgonio-lensCwithCdualCviewingCsystemCforCgoniosurgery.CAmJOphthalmolC143:154-155,C20072)SatoT,KawajiT:12-monthrandomisedtrialof360°Cand180°CSchlemm’scanalincisionsinsuturetrabeculotomyabinternoCforCopen-angleCglaucoma.CBrCJCOphthalmolC105:C1094-1098,C20213)WaldenerCDM,CChabanCY,CPennyCMDCetal:SegmentalCsutureCgonioscopy-assistedCtransluminaltrabeculotomy:CComparisonCofCsuperiorCversusCinferiorChemisphereCout-comes.JGlaucomaC32:396-406,C2023(84)

屈折矯正手術セミナー:ICL挿入術後の中毒性前眼部症候群にどう対応するか

2025年3月31日 月曜日

●連載◯298監修=稗田牧神谷和孝298.ICL挿入術後の中毒性前眼部症候群に五十嵐章史代官山アイクリニックどう対応するかImplantableCcollamerlens(STAAR社)挿入術後の中毒性前眼部症候群(TASS)は感染性眼内炎と異なり,自覚症状が軽度で,病状の進行は緩徐で,前房内に限局した強い炎症が特徴である.治療はステロイド治療によく反応するため,予後は良好であるが,常に感染性眼内炎の可能性を視野に入れて慎重に治療を行う必要がある.●ICL挿入術後のTASS中毒性前眼部症候群(toxicCanteriorCsegmentCsyn-drome:TASS)は,白内障手術などの内眼術後に急性発症する病態で,「術中に前房内に混入した物質により起こる無菌性眼内炎」と定義される1).原因としては,レンズ製造工程内での異物混入,灌流液,手術器具,術中使用薬剤などさまざまなものが考えられており,エンドトキシンの関与も指摘されている.現在,世界的に多数の白内障手術が行われているが,TASSの報告はまれである.一方で,ICL挿入術後のCTASSは,国内に限定しても定期的に散見される時期がある.筆者の記憶では,ICL挿入術後のCTASSについて国内複数施設のまとまった報告例が出たのは過去にC3回あり,最初は中村が報告したC2018年C12月.2019年C10月に生じたC20例C24眼である2).この報告ではほとんどの症例でCICL前面にフィブリンの析出を伴う強い前房内炎症が生じた一方で,患者の訴えは霧視感が主で,疼痛はあまりなく,軽度であった.ステロイド治療に反応し,最終的には全例良好な視力へ改善している.原因は不明であったが,発生が一部のロットに偏っていたことなどから,ICL製造・出荷時になんらかの形で残存したエンドトキシンの関与が疑われた.次の報告はC2021年12月.2022年9月に生じた国内6施設,13例18眼である.これは筆者が関与したものも含まれているが,TASSが発生した施設は,使用したインジェクターがSTAAR社専用のものではなく,白内障手術で用いられているアキュジェクトユニフィット(WJ-60MCII,Medicel社)であった施設に限られたことから,このインジェクターが主因とされた.もちろんこのインジェクターは白内障手術で世界的にも多数例に使用されており,同時期に白内障手術ではCTASSの報告はほとんどないことから,ICLとこのインジェクターの組み合わせがなんらかの影響を及ぼしたものと考えられた.この報告でもステロイド治療に反応し,全例矯正視力はC1.2以(81)上へ改善した.そして直近のCTASS発生は,2023年末.2024年の春頃に国内全域で散見されたものになる.全国の複数施設で発生が報告されており,当院では2023年12月.2024年4月の間に14例14眼のTASSを認めた.C●ICL挿入術後のTASSの特徴上記の当院でのCTASS発生は未だ原因不明であるが,このC14例をもとにCTASS発症例の特徴を他誌で報告した3).まず当院での同時期におけるCTASS発生率はC1.34%(14/1047例),全例片眼のみの発症で,平均年齢はC31.3±4.7歳(25.41歳),男性C5眼・女性C9眼であった.5日(0C.0±患者の訴えから推測される平均発症日は1.1.2日)と急性発症であり,訴えとして霧視感(85.7%),充血(64.3%),疼痛(35.7%)の順で多く,所見としては前房内のフィブリン析出(50%),前房蓄膿(7.1%)であり,硝子体混濁を生じた例はなかった.全例でCTASS発症眼と僚眼(未発症眼)と矯正視力,角膜厚,等価球面度数を経時的(術前,発症日,治療後C1週間,治療後1カ月)に比較した.その結果,矯正視力はCTASS発症眼で低下を認めるものの,発症日(WilcoxonCsignedCranktest,p=0.11),治療後C1週(p=0.07),1カ月(p=0.052)と有意差はなく,視力低下が比較的軽度で,治療後は全例C1.2以上と予後が良好であった.また,角膜厚はCTASS発症眼では発症日に有意に厚く(p<0.001)なり,治療後C1週間(p=0.008)まで有意差が生じ,1カ月(p=0.69)で左右差はなくなった(図1).そして等価球面度数もCTASS発症眼では発症日(p=0.001),治療後1週間(p=0.02)で有意な近視化を認め,1カ月(p=0.21)で屈折差はなくなった(図2).つまり,角膜厚増加と近視化がCTASS発症時の特徴的所見と考えられた.C●ICL挿入術後TASSの治療方針当院では以下のように対応した.①軽症例(前房内の炎症が強いもののフィブリン析出やあたらしい眼科Vol.42,No.3,20253450910-1810/25/\100/頁/JCOPY角膜厚(μm)図1TASS発症眼と未発症眼の角膜厚の変化TASS発症眼は未発症眼と比べ,中心角膜厚は発症時に有意に厚く(p<0.001)なっており,治療後C1週間もまだ厚くなる傾向(p=0.008)が残存し,治療後C1カ月で左右差がなくなった(p=0.69).-10.00pre発症日1W1MN=14N=14N=14N=11図2TASS発症眼と未発症眼の自覚等球面度数の変化TASS発症眼は未発症眼と比べ,自覚等価球面度数は発症時(p=0.01),治療後C1週間(p=0.02)で有意な近視化を認め,1カ月で左右差はなくなった(p=0.21).自覚等価球面度数(D)2.000.090.210.040.11-2.00-6.24-0.09-0.39-0.020.00-4.00-6.00-6.17-8.00p=0.01p=0.02p=0.21図3TASS重症例の前眼部写真とOCT像前房内はCICL前後面にフィブリンの析出を認め,散瞳不良となり眼底透見不能であったため,感染性眼内炎も疑い,前房洗浄時にレンズを摘出した症例.摘出後,眼底異状はなくCTASSと診断し,ステロイド治療をしたところ急速に改善し,摘出後C1カ月でレンズ再挿入を行い,術後裸眼視力C2.0に改善した.前房蓄膿がない場合):ステロイド点眼の頻回投与(1.2時間おき)とステロイド(プレドニゾロンC10Cmg)の内服をC3日.1週間行う.②中等例(前房内の炎症が強くフィブリン析出もしくは前房蓄膿を伴う場合):軽症例治療に加え前房洗浄およびステロイド結膜下注射を追加する.③重症例(前房内炎症が強くフィブリン析出もしくは前房蓄膿を伴い,眼底の状態が確認できない場合):中等例治療に加えCICLレンズ摘出を行う(図3).TASS治療において前房洗浄を行うことが有効か否かは意見が分かれるところであるが,筆者の経験では,前房洗浄を行ったほうが自覚・他覚症状が急速に改善する傾向があり,フィブリン析出や前房蓄膿を生じる場合は抗菌薬を加えた灌流液で前房洗浄をすぐに行うようにしている.C●感染性眼内炎との鑑別臨床現場においてCICL挿入術後に突然前房内に強いC346あたらしい眼科Vol.42,No.3,2025炎症が生じると,感染なのかCTASSなのかをみきわめるのは非常にむずかしい.TASSの場合は,①充血や自覚症状(疼痛,視力低下)が弱いこと,②前房内に炎症が限局すること,③発症時は角膜厚が肥厚し,近視化すること,④病状の進展が緩徐であること,が特徴である.ただしCTASSと診断しても,常に感染性眼内炎の疑いを捨てず,治療当日は数時間おきに患者に自覚症状に悪化がないか聞くように注意している.TASSの場合は上記治療を行うと,少なくともその後悪化することはない.文献1)Hernandez-BogantesE,Ramirez-MirandaA,Olivo-PayneAetal:Toxicanteriorsegmentsyndromeafterimplanta-tionofphakicimplantablecollamerlens.IntJOphthalmolC12:175-177,C20192)中村友昭:ICL後のCTASS.CIOL&RSC35:599-609,C20213)五十嵐章史:後房型有水晶体眼内レンズ.OCULISTAC140:C59-66,C2024(82)

眼内レンズセミナー:瞳孔不整に対する虹彩縫合・縫着

2025年3月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋早田光孝454.瞳孔不整に対する虹彩縫合・縫着昭和大学藤が丘リハビリテーション病院眼科瞳孔不整は,羞明,グレア,ハロー,コントラスト感度の低下,近見障害,高次収差の増加など,視機能への影響が出る場合がある.本稿では,緑内障発作によって散瞳状態となった症例と外傷後に生じた虹彩離断症例への瞳孔形成術を紹介する.●はじめに瞳孔不整の原因には,先天性,外傷,医原性などによる虹彩損傷があげられる.その種類は多様であるようにも思えるが,おもには4タイプに分類される(図1)1).虹彩が部分的に欠損している虹彩部分欠損型,広範囲で虹彩が欠損している虹彩広範囲欠損型,虹彩根部が隅角から離断する虹彩離断型,瞳孔括約筋の障害による不可逆的に散瞳する瞳孔散瞳型である.患者によっては,瞳孔異常により羞明,グレア,ハロー,コントラスト感度の低下,近見障害,高次収差の増加など視機能に影響が出る場合がある.本稿では,緑内障発作後の散瞳型と外傷性虹彩離断型の瞳孔不整に対して,水晶体再建術と虹彩縫合,縫着を施行した例を紹介する.●緑内障発作にて瞳孔散大した症例60歳,女性.右眼緑内障発作のため受診した.左眼浅前房,眼圧は右眼40mmHg,左眼33mmHg,視力は右眼0.03(n.c.),左眼0.4(1.2×+0.75D.1.25DAx10°)であった.高浸透圧薬点滴後も高眼圧が持続し,眼痛も強く,同日,右眼水晶体再建術を施行した.術後視力は右眼1.0(n.c.),術後眼圧は右眼16mmHgとなるが,右眼の瞳孔散大が生じ,羞明が残存した(図2).そのため,後日,虹彩縫合による瞳孔形成を施行した(図3).全周性に虹彩を鑷子で中心に向かって伸展したのち,6時方向に10-0プロリン長針にて虹彩を通糸したあと,サイドポートより糸を引き出し眼外で結紮し,眼内に結び目を移動させ縫合した.従来は,2回糸を巻いたのち結紮する方法を2回施行するSiepserslipknottech-nique2)が主流であったが,4回糸を巻いたのち1回のみ結紮を施行するsinglepassfourthrow法3)を用いることで,手技を簡略化することが可能となった.同様の操作を12時方向にも施行した.瞳孔径は,術前6.9mmから3.9mmへ減少した.当症例では,患者希望により再度,虹彩縫合を追加し,最終瞳孔径は2.5mmとなり,羞明は消失した.●外傷性虹彩離断と白内障をきたした症例32歳,男性.数年前,ゴム製造の作業中に左眼を打撲,外傷性虹彩離断を生じた.最近になり白内障が進行し,視力低下を生じたために当院を紹介受診した.150°近い上方の虹彩離断で,虹彩が帯状に瞳孔中央に垂れ下がり,二重瞳孔を生じていた(図4a).水晶体再建術と同時に瞳孔形成を施行した(図4b~d).離断した虹彩を誤吸引しないように,虹彩リトラクターにて固定したのち,通常通り水晶体再建術を施行し,眼内レンズを.内固定した.オビソートにて縮瞳後,瞳孔整復のため,離断した虹彩範囲に合わせ,3カ所に強膜フラップを作製した.フラップ下にて虹彩面で部分欠損型広範囲欠損型散瞳型離断型図1瞳孔不整の形状の分類(文献1より転載)(79)あたらしい眼科Vol.42,No.3,20253430910-1810/25/\100/頁/JCOPY図2症例1の初診時と水晶体再建術後の所見a:急性緑内障発作にて角膜浮腫,中等度散瞳を認める.b:白内障手術後.角膜浮腫は消失し,視力は改善したが,瞳孔散瞳が残る.図4症例2に対する瞳孔形成の術中写真a:外傷により虹彩上方に150°近い離断があり,瞳孔中央へ虹彩が垂れ下がり,二重瞳孔を生じている.瞳孔中央に白内障も生じている.b,c:離断部に合わせて,強膜フラップ下にて,虹彩を硝子体鑷子で引き出し(b),強膜へ縫着した(c).d:虹彩を3カ所で縫着し,瞳孔はほぼ正円に整復された.前房穿刺後,硝子体鑷子を用いて離断した虹彩を把持,強膜よりわずかに引き出して,瞳孔状態をみながら10-0ナイロン糸にてフラップ下へ縫着した.離断した虹彩は整復され,術後視力は改善し,羞明などの訴えもなく経過良好である.●おわりに瞳孔不整に対する虹彩縫合,縫着は,虹彩伸展が得られない患者,虹彩が微弱な患者,虹彩が広範囲に欠損するような患者には対応できない面もあるが,短期ならび図3症例1に対する瞳孔形成の術中写真a:前.鑷子にて虹彩の伸展性を確かめながら,全周に虹彩を瞳孔中心へ向かって引く.b:10-0プロリン長針にて虹彩を2カ所通糸する.c:サイドポートより糸を引き出すとループが形成される.d:ループの中に糸の終端を4回巻きつける.e:糸の両端を慎重に引くと,結び目が眼内へ移動し,虹彩が結紮される(singlepassfourthrow法).f:同様の操作を12時方向にも施行した.瞳孔径は約3.9mmに縮小した.に長期的合併症検証結果1)からは,比較的安全性は高く,積極的に用いてもよい手技であると考える.また,医原性で瞳孔不整を生じることもあるため,リカバリーショットとしても身につけておくと重宝する場合がある.文献1)早田光孝,西村栄一,渡邉早弥子ほか:虹彩縫合による瞳孔形成の安全性についての検討.日眼会誌126:689-695,20222)SiepserSB:Theclosedchamberslippingsuturetech-niqueforirisrepair.AnnOphthalmol26:71-72,19943)NarangP,AgarwalA,AgarwalAetal:Twofoldtech-niqueofnonappositionalrepairwithsingle-passfour-throwpupilloplastyforiridodialysis.JCataractRefractSurg44:1413-1420,2018

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 医療用コンタクトレンズ(3)

2025年3月31日 月曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く15.医療用コンタクトレンズ(3)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C8章は医療用コンタクトレンズを取りあげている.今回はその第C3回として,医療用コンタクトレンズ使用における合併症,装用者に対する指導などに関する部分を解説する.はじめにコンタクトレンズ(CL)は,屈折異常の矯正だけでなく,円錐角膜や眼表面疾患に対する医療用として使用されることがある.今回は医療用CCLについての第C3回で1),医療用CCL使用における合併症とその予防,点眼薬との関係,装用者に対する装用方法・ケアの方法の指導についてである.医療用コンタクトレンズと予防的抗菌薬の使用治療用CCLの夜間装用に伴う細菌性角膜炎のリスクを軽減するために,局所的な予防的抗菌薬(可能であれば防腐剤を含まないもの)を使用することと,酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲル(siliconehydrogel:SiHy)素材の使い捨てCCLを選択することが推奨されている.しかし,52人の眼科医を対象とした調査では,バンデージCCL使用時に予防的抗菌薬を使用する割合は42.3%にとどまり,予防的抗菌薬を使用していても細菌性角膜炎が発生した例が報告されている.このことから,予防的抗菌薬使用の強固なエビデンスは確立されていないといえる.さらに,バンデージCCL装用中の長期的な予防的抗菌薬使用は,薬剤耐性菌の増加や結膜.内細菌叢の変化につながる可能性があり,注意が必要である.予防的抗菌薬を治療用CCLと同時に使用する場合は,薬剤を定期的に変更することで薬剤耐性菌出現のリスクを低減できる可能性がある.他疾患の治療のため点眼中の患者に対する医療用コンタクトレンズの使用①副腎皮質ステロイドと非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidalanti-in.ammatorydrugs:NSAIDs)Invitroの研究では,副腎皮質ステロイドとCNSAIDの局所投与が角膜毒性を引き起こす可能性が示唆されて(77)いる.さらにCCL装用によって薬剤の滞留時間が延長し,角膜毒性が悪化する恐れがある.一方,1%プレドニゾロン酢酸塩にC2分間浸したソフトCCL(SCL)をウサギに装用した実験では,SCLを装用せずに点眼した群と比較して,薬剤が長時間にわたり効率的に角膜および前房内に伝達されることが確認された.②自己血清点眼,その他の血液製剤遷延性上皮欠損(persistentCepithelialdefect:PED)の患者に対し自己血清点眼とバンデージCSCLを組み合わせた治療を行ったところ,約C11~14日でCPEDが治癒したとの報告がある.また,PED治癒後にバンデージCSCLを除去したあとも自己血清点眼を継続した群では,PEDの再発率が有意に減少したとされている.さらに,Sjogren症候群患者を対象とした前向き研究では,自己血清点眼群とバンデージCSCL群のいずれも眼表面疾患指数(ocularsurfacediseaseindex:OSDI)が有意に改善したが,とくにバンデージCSCL群のCOSDIスコアがより良好であった.医療用コンタクトレンズによる合併症①細菌性角膜炎SiHy素材の医療用CSCLを使用しているC6,188人の患者(6,385眼)を対象とした中国での大規模調査では,42カ月間の抗菌薬予防投与中にC0.13%(8人)が細菌性角膜炎を発症したと報告されており,年間発生率は10,000人あたりC3.7人であった.また,高齢者や角膜移植患者は細菌性角膜炎発症のリスクが高く,夜間装用もリスク増加要因とされている.予防的抗菌薬の使用により細菌性角膜炎発症リスクを軽減させる可能性はあるもの,医療用CCLが適応となる自己免疫疾患や炎症性疾患の患者の多くは,局所的または全身的に副腎皮質ステロイドまたは免疫抑制薬の治療を受けているため,感染症あたらしい眼科Vol.42,No.3,2025C3410910-1810/25/\100/頁/JCOPYを発症するリスクが高く,注意が必要である.②角膜炎症CL起因急性充血(contactClensCinducedCacuteCredeye:CLARE)は,ハイドロゲルレンズを夜間装用した患者で初めて報告された.CLAREの症状は,重度の球結膜および角膜輪部の充血,角膜中間周辺部の浸潤,軽度のフルオレセイン染色が認められるものの,角膜潰瘍や他の角膜感染の徴候がないことが特徴である.CLARE様の症状が,バンデージCSCL装用者で報告されており,その原因には,夜間装用中にレンズに付着した黄色ブドウ球菌が関連していると推測された.③強膜レンズ装用時の低酸素症従来の酸素透過性の低い強膜レンズでは,角膜浮腫や血管新生が一般的な合併症であったが,現在の強膜レンズは酸素透過性が高いため,これらの問題は改善されつつある.日中に適切に装着している場合には,4.5%以上の角膜浮腫を生じることは少ないが,装用C8時間後に2%程度の軽度の角膜浮腫が観察されることがある.とくに角膜移植後や閉瞼条件下では,強膜レンズによる角膜浮腫のリスクが高くなるため,適切なフィッティングだけでなく,長時間装用や夜間装用は避けるべきである.④合併症リスクと対応策治療用CCL使用中の合併症は,基礎疾患や異常な眼環境に起因する場合が多い.しかし,患者や医療従事者がこれをCCL装用に関連づけて中止するケースがある.治療用CCLの使用が必要である患者にとって,治療用CCLは生活の質を大幅に改善することが多い.そのため,合併症の原因を正確に推定し対応するだけでなく,CLの種類,デザイン,素材およびケア方法の最適化を通じて装用の継続を可能とすることが重要である.患者への指導と教育①装脱着通常のCCLと同様,装脱着前には必ず石鹸での手洗いを行うなどの指導が必須であるが,子どもや低視力者の場合には,家族にもレンズの取り扱い方法についての指導が必要になる.また,強膜レンズの装用に使用する補助具(プランジャー,強膜カップなど)は,使用後に洗浄と消毒が必要である.②装用時間治療用CCL(とくに強膜レンズ)を装用すると,機能的な視力や快適さが得られる.そのため,治療用CCL装用者の多くが長時間装用しており,平均C10時間以上装着する患者がC59%に上るとの報告がある.長時間装用に伴う合併症リスクを認識し,適切な指導を行う必要がある.③コンプライアンス基礎疾患を有する患者はコンプライアンスが比較的良好であるとされているが,点眼薬の使用方法や装用期間を守らずに細菌性角膜炎を発症した事例が報告されている.とくに強膜レンズでは,涙液交換がほとんど行われず,密閉性が高いため,汚染リスクが高く,正しいケア方法の指導が重要となる.また,強膜レンズを装用中に点眼する場合は,レンズ下への点眼の侵入を防止するために,レンズを取りはずし,洗浄・消毒を行う必要があるなど,レンズの取り扱いも複雑である.おわりに今回はCCLEARレポートの第C8章の後半を要約し解説した.CLは,屈折矯正だけでなく,他に有効な医療的・外科的選択肢がない希少疾患の治療において,重要な役割を果たしている.そのため,医療用CCLの進歩や合併症など安全性についての知識の更新は今後も必要である.文献1)YacobsCDS,CCarrasquilloCKG,CCottrellCPDCetal:CLEARC.CMedicalCuseCofCcontactClenses.CContactCLensCandCAnteriorCEyeC44:289-329,C2021

写真セミナー:HHV-6関連角膜内皮炎に合併した水疱性角膜症

2025年3月31日 月曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史490.HHV-6関連角膜内皮炎に合併した草野雄貴くまもと森都総合病院眼科水疱性角膜症図2図1のシェーマ①CKPに一致した角膜上皮~角膜実質の浮腫②軽度の毛様出血図1当科初診時の前房部写真3時からC6時の部位に角膜浮腫と角膜後面沈着物(KP)を認めた.軽度の充血も伴っている.図3DSAEK後の前眼部写真図4DSAEK後2年8カ月の前眼部OCT移植片は透明性を保っている.移植片の接着は良好である.(75)あたらしい眼科Vol.42,No.3,2025C3390910-1810/25/\100/頁/JCOPYウイルス性角膜内皮炎の疑いで筆者の病院を紹介受診した40歳の女性の症例を提示する.右眼の視力低下を主訴として近医眼科を受診し,角膜浮腫および角膜内皮細胞密度の減少(789/mm2),円形に連なる灰白色の角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KP)が認められ,ウイルス性角膜内皮炎疑いで当院に紹介となった.前医では,右眼にタフルプロスト・チモロールマレイン酸塩配合薬点眼C1回/日,デキサメサゾン点眼C4回/日,およびリパスジル点眼C2回/日が開始されていた.当院初診時の右眼視力は(1.0C×cyl.1.50DAx110°),眼圧C13CmmHgであった.角膜内皮細胞密度は測定不能であった.右眼のCKPに一致する部位の角膜上皮~実質に浮腫が認められ,前房内細胞は+1であった(図1,2)眼底検査と視野検査では緑内障性変化を認め,続発緑内障が疑われた.左眼にはとくに異常所見を認めなかった.右眼の前房水マルチプレックスCPCR検査を施行し,ヒトヘルペスウイルス(humanherpesvirus:HHV)-1,HHV-2,VZV,CMV,HHV-7,EBV,HTLV,トキソプラズマ,梅毒は陰性であったが,HHV-6のみ陽性であったため,HHV6関連角膜内皮炎と診断した.治療のためゾビラックス眼軟膏右眼C5回/日を追加したが,角膜浮腫の範囲が徐々に拡大したため,バルガンシクロビル内服(900mgをC2回/日,21日間.それ以降はC1回/日)を開始した.その後,眼圧がC23CmmHgに上昇したため,ブリモニジン点眼C2回/日を追加した.しかし,水疱性角膜症に至り,視力は(0.07C×cly.1.25DAx90°)に低下した.患者は角膜移植を希望したため,角膜内皮移植(DescemetC’sCstrippingCautomatedCendo-thelialkeratoplasty:DSAEK)を行った.周術期のウイルス抑制を目的としてCDSAEKのC3カ月前からガンシクロビルC0.5%点眼C4回/日を開始した.手術は問題な1.50DAx100°)C.cly(0.75D+sph×2.く終了し,視力(1まで回復した.術後,前房内細胞やCKPの再発はなく,ガンシクロビル点眼は漸減終了した.角膜内皮細胞密度は低下しているものの,術後C2年C8カ月でも透明治癒を得られている(図3,4).HHV-6は,1986年にCAIDS患者から初めて分離され,亜型であるCHHV-6AおよびCHHV-6Bに分類されている.HHV-6Aの臨床的意義は未だ明らかではないが,HHV-6Bは一般集団のC90%以上に潜伏感染しているとされ,突発性発疹のおもな病原体として知られている.また,角膜炎,ぶどう膜炎,視神経炎,眼内炎など,眼部の感染症との関連が指摘されている.HHV-6関連角膜炎の臨床症状には,角膜浮腫,角膜後面沈着物,眼圧上昇などがある1,2).杉田ら3)の研究によれば,角膜炎のC65眼を対象に行ったマルチプレックスCPCR解析の結果,1.5%からCHHV-6DNAが検出された.このことは,HHV-6感染あるいは再活性化が眼炎症性疾患の病因に関与している可能性を示唆するものである.今回の症例は,マルチプレックスCPCRでCHHV-6のみが陽性となった角膜内皮炎のC1例である.本症例では,角膜浮腫,KPの出現,眼圧上昇といった臨床症状が観察され,バルガンシクロビル内服により一時的な改善がみられたものの,最終的には水疱性角膜症に至った.そのため,DSAEKを施行し,術後経過は良好であった.また,先行研究ではCHHV-6はCCMVやCHSV-1などの他のヘルペスウイルスと共に検出されることが多いとされるが,本症例ではCHHV-6のみが検出された点が特異であった.HHV-6関連角膜内皮炎は不可逆的な角膜内皮障害を引き起こして角膜移植を要する場合があるため,眼科医による長期の慎重な観察が求められる.文献1)OndaCM,CNiimiCY,COzawaCKCetal:HumanCherpesvirus-6CcornealCendotheliitisCafterCintravitrealCinjectionCofCranibi-zumab.BMCOphthalmol19:19,C20192)OnoT,IwasakiT,TeradaYetal:Long-termoutcomeincornealCendotheliitisCwithCmolecularCdetectionCofCherpesCsimplexvirus1andhumanherpesvirus6:acasereport.BMCOphthalmol22:48,C20223)SugitaS,ShimizuN,WatanabeKetal:Virologicalanaly-sisinpatientswithhumanherpesvirus6-associatedocu-larCin.ammatoryCdisorders.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:4692-4698,C2012

症候性の遺伝性網膜ジストロフィ

2025年3月31日 月曜日

症候性の遺伝性網膜ジストロフィSyndromicInheritedRetinalDystrophy林孝彰*はじめに遺伝性網膜ジストロフィ(inheritedCretinalCdystro-phies:IRD)は,IRD単独で発症する非症候性と,全身合併症を伴う症候性の二つに分類される1,2).非症候性IRDの代表的な疾患は網膜色素変性(retinitispigmen-tosa:RP)と黄斑ジストロフィであり,これらについては診断ガイドラインが出版されている2,3).一方,症候性CIRDは希少疾患であるため,日常診療で遭遇する機会は少ないものの,その疾患概念や関連する眼外症状について整理し,理解しておくことは重要である.症候性CIRDには多くの疾患が含まれる.本稿ではUsher症候群,Bardet-Biedl症候群,Alstrom症候群,Senior-Loken症候群,脳回状脈絡膜萎縮,筋強直性ジストロフィC1型,ミトコンドリア病,脊髄小脳変性症について解説する.CIUsher症候群Usher症候群(Ushersyndrome:USH)は,RPに感音性難聴が合併し,常染色体潜性遺伝形式をとる疾患である.発症時期と重症度によって以下の三つのタイプに分類される.タイプC1:先天性の重度難聴,10歳前後に発症するRP,両側前庭機能障害を伴う.原因遺伝子としてCCDH23,MYO7A,PCDH15,USH1C,CIB2,USH1Gが報告されている.タイプC2:先天性の高音障害型難聴,思春期以降に発症するCRPを伴う.前庭機能は正常である.原因遺伝子としてCUSH2A,CGPR8,DFNB31が報告されている.タイプC3:進行性の難聴を伴う.RPの発症時期はさまざまで,発症しても他のタイプより軽症である.前庭機能障害の有無・発症時期もさまざまである.原因遺伝子としてCCLRN1とCPDZD7が報告されている.USH2A遺伝子は,USHタイプC2でもっとも頻度の高い原因遺伝子として知られている.USH2A変異(用語解説参照)はCUSHだけでなく,非症候性CRPの原因となることも明らかにされている4).USH2A変異の種類として,非症候性CRPではミスセンス変異(塩基置換によってコードされるアミノ酸が変化する変異)の割合が圧倒的に高い.一方,USHのケースでは,非症候性RPに比べてミスセンス変異の割合が低く,スプライスサイト変異や短縮型変異の割合が高い.日本人CRPを対象とした研究における原因遺伝子別頻度は,EYS遺伝子に続いてCUSH2AがC2番目に高かった5).USHと診断された自験例をC2例紹介する.症例C1は32歳,男性.幼少期より夜盲を自覚,また,聴力障害も指摘されていた.21歳時に視野異常を自覚,その後,感音性難聴に対して補聴器装用となった.眼底に網膜血管狭小化,粗造な網膜色調,骨小体様色素沈着物を認めた(図1a).眼底自発蛍光では,色素沈着に一致した低蛍光斑,黄斑部のリング状過蛍光を認めた(図1b).全視野網膜電図(electroretinogram:ERG)で混合応答は平坦化していた.Goldmann視野では,両眼ともに中心*TakaakiHayashi:東京慈恵会医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕林孝彰:〒105-8461東京都港区西新橋C3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(65)C329図1症例1(Usher症候群)の左眼眼底写真と眼底自発蛍光a:37歳時の眼底写真で,網膜血管狭小化,粗造な網膜色調,骨小体様色素沈着物を認める.Cb:37歳時の眼底自発蛍光では,色素沈着に一致した低蛍光斑,黄斑部のリング状過蛍光を認める.C_C-図2症例3(Bardet-Biedl症候群)の眼底写真9歳,女児.Ca:右眼.b:左眼.視神経乳頭の軽度腫脹,黄斑変性に加え網膜粗造化の所見を両眼に認める.表12種類のBBS1スプライスサイト変異に変異予測プラグラムを用いたスプライシングへの影響BBS1変異スプライシングへの影響変異予測プログラム影響を与える部位(CNM_024649.5)SpliceAIスコアPangolinスコアC1.Cc.124+2T>GCDonorLoss/SpliceLossC1.000.87.2bpC2.Cc.723+2T>GCDonorLoss/SpliceLossC0.990.86.2bpスコアはC0.1の範囲となり,0.8以上(太字)の場合,高確率でスプライシングに影響を与える.杆体系応答LLRLRLRR_混合応答錐体系応答30HzFlicker応答30msR:右眼.L:左眼.図3症例4(Alstrom症候群)の全視野網膜電図先天眼振による眼球運動の影響がみられるが,杆体系応答,混合応答,錐体系応答,30-HzFlicker応答は消失している.(文献C7より改変引用)表22種類のSCLT1スプライスサイト変異に変異予測プラグラムを用いたスプライシングへの影響SCLT1変異スプライシングへの影響変異予測プログラム影響を与える部位(CNM_144643.4)SpliceAIスコアPangolinスコアC1.Cc.1218+4dup(C4-128952765-A-AA)CDonorLoss/SpliceLossC0.860.664bpC2.c.1631A>CGCDonorLoss/SpliceLossC0.950.84.1bpスコアはC0.1の範囲となり,0.8以上(太字)の場合,高確率でスプライシングに影響を与える.図4症例6(脳回状脈絡網膜萎縮)の左眼眼底写真21歳,女性.赤道部から周辺部にかけて境界明瞭な癒合した脈絡網膜萎縮がみられる.C_Ca19q13.3219番染色体(CTG)CnCDMWDCSIX55′遺伝子エクソン1-15C3′UTR遺伝子C3′DMPK遺伝子(NM_004409.5)Cb正常例症例CEGPsCEGPs1,600~2,300回程度の正常バンド※→CTGのリピート伸長正常バンド→E:EcoRIG:BglIPs:PstI←正常バンド図5DMPK遺伝子の構造,症例7(筋強直性ジストロフィ1型)の遺伝学的検査結果a:DMPK遺伝子C3′UTR(untranslatedregion:非翻訳領域)のCTGリピートの異常伸長部位を示す.Cb:正常例と症例C7(61歳,男性)におけるサザンブロット法によるCDMPK遺伝子解析の結果,本症例でC1,600.2,300回のCCTGリピート伸長()がみられる.a左眼右眼b杆体系応答錐体系応答電圧50μV/Div電圧100μV/Div電圧50μV/Div電圧100μV/Div混合応答0255075100125150175200225010203040506070809030HzFlicker応答01020304050607080900336690図6症例7(筋強直性ジストロフィ1型)の臨床所見61歳,男性.Ca:Goldmann視野では,両眼ともに求心性視野狭窄,ならびに中心暗点(II-4視標)を認める.Cb:全視野網膜電図で,杆体系応答は著しい振幅低下,混合応答の振幅低下,錐体系・30HzFlicker応答の軽度振幅低下を認める.それぞれの波形の上段が右眼C,下段が左眼を示す.図7症例8(maternallyinheriteddiabetesanddeafness)の眼底写真37歳,女性.Ca:右眼.b:左眼.中心窩を取り囲むように網脈絡膜萎縮が両眼にみられる.(亀谷アイクリニック亀谷修平先生のご厚意による)図8症例9(脊髄小脳変性症7型)の眼底写真25歳,女性.Ca:右眼.b:左眼.黄斑部の萎縮性病変を両眼に認める.杆体系応答200μV混合応答200μV錐体系応答100μV30HzFlicker応答50μV50ms50ms図9症例9(脊髄小脳変性症7型)の全視野網膜電図25歳,女性.杆体系応答の振幅は正常,混合応答の振幅は軽度低下,錐体系・30HzFlicker応答の振幅低下を認める.(文献C16より改変引用)(10リピート)(43~57リピート)図10症例9(脊髄小脳変性症7型)の遺伝学的検査結果ATXN7遺伝子のCCAGリピート数を決定するため,GeneMapperSoftwareを用いた遺伝学的検査を実施したところ,10リピートの正常アレルに加え異常伸長アレル(43.57リピート)もみられる.(文献C16より改変引用)–

黄斑ジストロフィ

2025年3月31日 月曜日

黄斑ジストロフィMacularDystrophy角田和繁*はじめに黄斑ジストロフィ(maculardystrophy)とは,遺伝学的要因により黄斑部に進行性の機能障害をきたす疾患の総称である.日本眼科学会の診断ガイドラインにより,卵黄状黄斑ジストロフィ(Best病),Stargardt病,オカルト黄斑ジストロフィ(三宅病),錐体ジストロフィ/錐体-杆体ジストロフィ,X連鎖性若年網膜分離症(先天網膜分離症),中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ,およびその他の黄斑ジストロフィに分類されている1,2).黄斑ジストロフィの発症原因となる遺伝子についてはこれまでに数多く報告されているが,未だに原因遺伝子が特定できない患者も多く,全症例のなかでも網羅的遺伝学的検査によって原因特定に至るのは約60%程度と考えられている2).上述の疾患分類はおもに眼底所見(検眼鏡的所見)や電気生理学的所見を中心とした表現型(phenotype)をもとに確立されたものである.しかし,網膜ジストロフィに対する遺伝子治療の研究が進むとともに,表現型ではなく,遺伝型(genotype)をもとにした分類の重要性が高まりつつある.たとえばPRPH2遺伝子による網膜障害は,網膜色素変性と黄斑ジストロフィのどちらも生じることが知られており,それらの症例は一括して「PRPH2遺伝子関連網膜ジストロフィ」とよばれることがある.黄斑ジストロフィの臨床診断にあたっては,初発症状,症状経過,家族歴を詳細に聴取したうえで,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)などの画像検査や,網膜電図(electroretinogram:ERG),眼電位図(electrooculogram:EOG)などの電気生理学的検査を包括的に行う必要がある.なお臨床の現場では,前述の6分類のいずれにも当てはまらない「その他の黄斑ジストロフィ」の患者が多くみられることも重要なポイントである.本稿では診断ガイドラインの分類に従い,黄斑ジストロフィのうち卵黄状黄斑ジストロフィ(Best病),Star-gardt病,オカルト黄斑ジストロフィ,中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィおよびその他の黄斑ジストロフィについて解説する.なお,錐体ジストロフィ/錐体-杆体ジストロフィとX連鎖性若年網膜分離症については,それぞれ本特集の別項目で解説されている.I卵黄状黄斑ジストロフィ(Best病)ベストロフィン蛋白の異常に関連した黄斑ジストロフィはベストロフィン症(bestrophinopathy)と総称され,代表疾患として卵黄状黄斑ジストロフィ(Best病),常染色体潜性ベストロフィノパチー,さらに成人発症卵黄様黄斑変性症があげられる.卵黄状黄斑ジストロフィ(Best病)は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の黄斑ジストロフィであり,Best1遺伝子の異常を原因とする(図1)3).Best1遺伝子は網膜色素上皮細胞の基底膜に存在する蛋白質であるベストロ*KazushigeTsunoda:東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部〔別刷請求先〕角田和繁:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(57)321図1Best病の眼底所見,眼底自発蛍光,OCT所見a:卵黄期(8歳,男児).矯正視力1.0.眼底写真(左)では,黄斑部に卵黄様物質の沈着を認める.眼底自発蛍光(右)では卵黄様物質の部位に一致したリポフスチン様物質の過蛍光を認める().b:炒り卵期(45歳,男性).矯正視力0.3.眼底写真(左)では黄斑部の楕円形病変部と,その内部に散在する網膜下沈着物を多数認める.眼底自発蛍光(右)では楕円形病変部の辺縁に過蛍光を認める().c:炒り卵期(45歳,男性)のOCT所見.黄斑部に網膜下液が貯留し,視細胞外節は中心窩を除いて萎縮している.本症例では,網膜色素上皮層が中心部において肥厚している.い前卵黄期,眼底に卵黄様物質が沈着する卵黄期(図1a),卵黄が崩れて下方に貯留する偽蓄膿期,黄色斑がまだらになる炒り卵期(図1b),黄斑部に萎縮性変化をきたす萎縮期のC5期に分類されている5).このうち卵黄期の「卵黄状病変」が特徴的とされるが,眼底に卵黄様の変化がみられる期間は無症状であることが多く,実際に眼科を受診するのは卵黄期を過ぎた患者が大半である.すなわち,通常の診療で典型的な卵黄期病変をみる機会はきわめて少ない.また,偽蓄膿期以降には黄斑部にドーム状の漿液性網膜.離が観察されるため,中心性漿液性脈絡網膜症と誤って診断されるケースが非常に多い.さらに,萎縮期には脈絡膜新生血管を生じるケースもある.視力は中心窩における視細胞外節の有無に依存しており,このため,萎縮期に至らないうちは眼底所見の割に視力低下が軽度である患者も多い.視力低下を訴える時期には学童期から中年以降までと幅があり,自覚症状の出現年齢にばらつきがある.全視野CERGは多くの患者で正常であるが,EOGでは基礎電位の低下,Arden比の低下が顕著にみられる6).Best病の診断にはとくに眼底自発蛍光が有用であり,卵黄期,偽蓄膿期,および炒り卵期にみられる黄色のリポフスチン様物質の分布に一致して,強い過蛍光が両眼性に観察される(図1a,b).卵黄期のリポフスチン様物質は次第に漿液性の網膜下液に置換され,偽蓄膿期以降では中心性漿液性脈絡網膜症によく似たCOCT所見がみられることが多い(図1c).また,Best病と臨床的特徴が類似しているものの,同じCBest1遺伝子の変異を両アレルにもつことで発症する常染色体潜性(劣性)ベストロフィノパチー(autoso-malCrecessivebestrophinopathy:ARB)の症例報告が増えてきている7,8).ARBではCBest病と同様に眼底異常が黄斑部に限定した症例から,リポフスチン様物質の蓄積が黄斑部を越えて後極の広範囲に広がる患者まで多彩である.一般的に,ARBはCBest病に比べて網膜障害範囲が広く重症といわれているが,実際には両親を含めた遺伝学的検査を施行しないとCBest病との正確な鑑別は困難である.また,経過中に網膜色素上皮層の変性に伴い脈絡膜新生血管を生じる症例があるため,注意深い経過観察が必要である.さらに,Best病とCARBに共通した特徴として遠視および狭隅角が知られており,とくに中年以降には狭隅角に伴う眼圧上昇に注意する必要がある.なお,家族歴がなく成人期に発症するタイプは,成人発症卵黄様黄斑変性症(adult-onsetvitelliformmaculardystrophy:AVMD)とよばれている.眼底所見はCBest病に類似しているが黄斑部病変が小さく,EOGも正常か軽度の異常を示す.遺伝学的にはCBest1遺伝子に変異を認める患者も含まれるが頻度は高くはなく,PRPH2遺伝子に異常を認める患者も知られている.臨床的にBest病とCAVMDの区別が困難な患者もときおりみられる.CIIStargardt病黄斑部における網膜外層の萎縮病変および黄斑部周囲に散在する多発性黄色斑(.eck)を特徴とする黄斑ジストロフィで,ABCA4遺伝子の異常を原因とする常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患である(図2)9,10).ABCA4蛋白はCvisualcycleにおいて視細胞外節円板における膜輸送蛋白質として機能しており,同蛋白の機能不全によってリポフスチンの主要成分であるCDi-retinoid-pyridini-umethanolamine(A2E)が網膜色素上皮層に蓄積することで細胞障害を引き起こすと考えられている.若年発症例では,10歳前後で両眼の視力低下を主訴に来院することが多い.初期には黄斑部萎縮,黄色斑などの検眼鏡的所見は明瞭ではないが,OCTで観察すると明らかな視細胞変性がみられる.また,フルオレセイン蛍光造影における背景蛍光の低下(darkchoroid)も特徴的な所見である.とくに進行期においては,眼底自発蛍光で黄斑部の楕円形低蛍光(図2a),黄色斑に一致した斑状の過蛍光(図2b),および視神経乳頭周囲の眼底自発蛍光が正常に保たれるCperipapillaryCsparing(図2c)など,本疾患に特徴的な所見が多くみられる.小児期の進行は比較的早く,数年のうちに黄斑部萎縮が進行し,視力が低下していく.一方で,発症年齢が20歳以上の晩期発症例においては中心窩が長期的に温存されことが多く(中心窩回避),視力予後は比較的よいとされる.このようにCABCA4遺伝子異常による病(59)あたらしい眼科Vol.42,No.3,2025C323図2Stargardt病の眼底所見(左)と眼底自発蛍光所見(右)a:小児期にみられる典型的な黄斑部萎縮所見(10歳,男児.矯正視力C0.2).まだ黄色斑は出現していない.眼底自発蛍光では楕円形の蛍光低下領域がみられる().b:黄斑部の萎縮と黄斑部周囲に黄色斑がみられる晩期発症型の所見(41歳,男性.矯正視力C0.4).眼底自発蛍光では黄色斑に一致した過蛍光がみられる().c:病変が後極を超えて広範囲に広がるものの,中心窩回避により視力良好な症例(44歳,男性.矯正視力C0.8).視神経乳頭周囲には自発蛍光の異常がみられないCperipapillarysparingが観察される().bad図3オカルト黄斑ジストロフィの眼底所見,眼底自発蛍光,ERG,OCT所見a:28歳,男性.矯正視力C0.5.眼底写真(左),眼底自発蛍光(右)はともに正常である.Cb:多局所CERG.両眼において,黄斑部に相当する領域での振幅低下がみられる().c:黄斑部局所CERG.5°,10°,15°の刺激に対する応答がいずれも健常者に比べて減弱している.d:OCT所見.黄斑部においてCinterdigitationzoneが消失し,ellipsoidzoneは不明瞭化,膨潤化している(楕円内).とくに中心窩におけるCEZの不明瞭化が顕著であるが,黄斑部周囲のCEZは明瞭である.=図4中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィの眼底写真および眼底自発蛍光a:眼底写真では萎縮病巣のなかに脈絡膜血管が観察される(44歳,男性,矯正視力C0.5).b:眼底自発蛍光では,自発蛍光の消失領域がまだ中心窩に及んでいないことがわかるが,さらに進行すると円形の萎縮病巣となる.図5その他の黄斑ジストロフィの眼底写真および眼底自発蛍光50歳,女性.矯正視力C1.2.全視野CERGにおける錐体反応が正常であるため「その他」に分類されているが,黄斑ジストロフィとしては非常によくみられるタイプである.同じ眼底所見でも,全視野CERGにおける錐体反応が低下している症例は「錐体ジストロフィ」に分類されることになる.眼底写真(Ca),眼底自発蛍光(Cb)において,中心窩が温存されている様子がわかる().—

錐体優位の網膜ジストロフィ

2025年3月31日 月曜日

錐体優位の網膜ジストロフィCone-DominantRetinalDystrophy溝渕圭*はじめに本稿では遺伝性網膜疾患(inheritedretinaldystro-phy:IRD)において錐体機能不全を呈する疾患として,錐体ジストロフィ(conedystrophy:COD),錐体-杆体ジストロフィ(cone-roddystrophy:CORD),全色盲(杆体一色覚,青錐体一色覚)について解説する.前半は,錐体機能が優位に障害されるIRDの代表的な疾患として,COD/CORDをとりあげ,後半では全色盲について述べる.COD/CORDの一般的な特徴には,進行性の視力障害,両眼性の黄斑変性・萎縮の存在,そして全視野刺激網膜電図(electroretinogram:ERG)で錐体系応答の減弱があげられる.しかし,臨床の現場では,黄斑変性・萎縮がほとんど認められない患者や晩期まで視力が維持される患者など,典型的な特徴に当てはまらない例もあり,診断に苦慮することが少なくない.現在までにCOD/CORDの原因と考えられる遺伝子は50程度報告されており,その数だけ臨床的な多様性が存在する.このような遺伝的背景の多様性が,臨床所見だけで診断を下すことを困難にしている要因の一つである.このため,次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析の重要性は今後さらに高まると考えられる.全色盲(杆体一色覚,青錐体一色覚)は先天性の錐体機能不全を呈するきわめてまれなIRDである.弱視として経過観察されている患者も少なくなく,実際の頻度は報告以上に高いと考えられる.そのため,正確な診断には臨床的特徴の把握が重要となる.全色盲の一般的な特徴はCOD/CORDと類似するものの進行に乏しく,生来視力が良好な時期がない点で鑑別可能である.一方で,杆体一色覚と青錐体一色覚の鑑別には色刺激ERGおよび遺伝子解析が有用であるが,いずれの検査も結果の解釈・評価がむずかしい点が課題となる.I錐体/杆体ジストロフィ1.概要COD/CORDは黄斑部を越えて眼底の広範囲に錐体機能不全を呈する疾患の総称であり,多くの場合に黄斑ジストロフィに分類される.一般的な特徴として,両眼性に進行性の黄斑部病変を呈すること,それに伴い視力低下,羞明(まぶしさ),色覚異常の悪化,そして遺伝性疾患であることがあげられる.日本では,遺伝性網膜疾患のなかで網膜色素変性についで頻度が高いとされるが,その発症率は欧米と比べると約5分の1程度と推定されている1).原因遺伝子や遺伝形式は多岐にわたり,日本では常染色体潜性遺伝形式が多いと考えられている2).2.臨床症状と検査所見本疾患の診断には,眼底写真,眼底自発蛍光(fundusauto-.uorescence:FAF),光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),ERGがおもに用いられる.かつては蛍光造影検査が広く使用されてきたが,現在はFAFにとって代わられ,必須の検査ではなくな*KeiMizobuchi:東京慈恵会医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕溝渕圭:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(49)313図1錐体ジストロフィ/錐体-桿体ジストロフィ(COD/CORD)の眼底所見上段:40歳.Ca:眼底写真では黄斑部から視神経乳頭にかけて黄斑変性・萎縮を認める.b:FAFでは萎縮部位に一致して低蛍光がみられ,その周囲に過蛍光が存在する.c:OCTでは,中心窩にCEZを含む外層網膜の消失および著しい菲薄化を認めるが,耳側網膜には外顆粒層(ONL),外境界膜(ELM),EZが温存されている.下段:68歳.Cd:眼底写真では黄斑変性・萎縮が著明に拡大し,その範囲が視神経乳頭やアーケード血管を越えている.Ce:FAFにおいても低蛍光部位(黄斑変性・萎縮)が拡大し,周囲の過蛍光領域がアーケード血管周囲まで広がっていることが確認される.f:OCTにおいても外層網膜の消失および欠損が進行しており,撮像範囲内に外層網膜が温存されている部位は確認できない.(文献C3より改変引用)10代30代30代30代60代60代controlKA34615y.oKA24830y.oKA24435y.oJU125931y.oJU098368y.oJU125869y.o100μV100μV100μV100μV50μV50μV図2錐体ジストロフィ/錐体-桿体ジストロフィのERG所見10代の症例:錐体系応答は著しく振幅が減弱しているが,杆体系応答の振幅は正常範囲内である.30代の症例:錐体系応答はほとんど検出されないが,杆体系応答はC10代の症例と同様に温存されている.60代の症例:錐体系応答だけでなく,杆体系応答の振幅も減弱している.この結果より,錐体機能だけでなく杆体機能も年齢依存性に増悪することがわかる.(文献C3より改変引用)ab図3中心窩の網膜構造が温存された錐体ジストロフィ/錐体-桿体ジストロフィの眼底所見a:FAF(右から2番目)では黄斑変性・萎縮に一致した低蛍光を認めるが,中心窩は正常所見である.OCT(一番右)でも中心窩のみ外境界膜,ellipsoidzoneを含む外層網膜がわずかに温存されており,変性が中心窩を回避していることがわかる.Cb:傍中心窩に過蛍光および低蛍光所見を認めるが,中心窩は正常所見である.OCT(一番右)において傍中心窩にCEZを含む外層網膜の欠損を一部認めるが,撮像範囲のほとんどで変性が回避されていることが明らかである.(文献C4より改変引用)ab図4Stargardt病の眼底所見a:初回検査時.FAF(中央)では黄斑変性・萎縮に一致する低蛍光を認め,黄色斑は低蛍光と過蛍光の両方を示している.OCT(右)では黄斑変性・萎縮に一致して著しく外層網膜が消失・菲薄化している.Cb:7年後検査時.眼底写真(左)およびCFAF(中央)では,黄斑変性・萎縮が拡大し,黄色斑の数および分布範囲が増大・拡大している.OCT(右)においても消失・菲薄化している外層網膜の範囲が広がっていることが明らかである.(文献C5より改変引用)ac図5典型的な杆体一色覚の眼底所見,全視野刺激ERG,視力の経過a:眼底写真(左)およびCFAF(中央)では明らかな変化を確認できない.OCT(右)ではCEZは視認可能であるが撮像範囲のすべてで不明瞭となっている.その他の外境界膜,外顆粒層などの外層網膜の異常所見を認めない.Cb:全視野刺激CERG.杆体系応答は正常範囲内であり,一方で錐体系応答は反応を認めない.Cc:視力の経過.15年の経過観察期間で矯正視力は小数視力でC0.1(logMAR視力でC1.0に該当)程度で推移しており,停止性であることが示唆される.(文献C7より改変引用)a20-40μVμVμVμVμV0-20-60-80050100150ms杆体応答(0.010cd・s/m2)60504030050100150ms050100150ms最大応答(3.0cd・s/m2)フラッシュ応答(10.0cd・s/m2)642μV302010020-1010-200-30-8-20020406080020406080100-20020406080-10msmsms錐体応答30HzFlicker応答S-錐体応答(3.0cd・s/m2背景光30cd・s/m2)(3.0cd・s/m2背景光:30cd・s/m2(青色光:0.25cd・s/m2赤色背景:560cd/図6S錐体一色覚の症例における眼底所見とERG所見a:眼底写真(左)およびCFAF(中央)では明らかな変化を認めない.OCT(右)では中心窩のCEZが不明瞭でCfovealbulgeも消失している.杆体一色覚と非常に類似した眼底所見であることがわかる.Cb:全視野刺激CERGでは杆体系応答および錐体系応答は杆体一色覚と同様に杆体系応答が正常範囲内で,錐体系応答は消失している.色刺激CERG(右下)はCS錐体応答でC40ミリ秒付近(→)に反応を認める.

網膜中層障害

2025年3月31日 月曜日

網膜中層障害InheritedRetinalDystrophyofMiddleRetinalLayers小南太郎*はじめに光受容のプロセスは,まず網膜の最外層に存在する視細胞で光を受容し,光が電気信号に変換されたのちに視細胞から双極細胞や神経節細胞を通じて外層から内層へと伝達され,最終的に視神経を介して脳の視覚中枢に送られる.このどこに障害が生じても視覚障害が生じるが,遺伝性網脈絡膜疾患では網膜外層の視細胞に障害が生じる網膜色素変性がもっとも代表的な疾患である.しかし,遺伝性網脈絡膜疾患のなかには,双極細胞の障害や網膜間細胞接着不全を起こす網膜中層障害といえる疾患がある.網膜中層障害は眼底に異常が出にくい場合や,網膜電図が特徴的な変化を起こす場合があり,その診断には注意を要する.本項では網膜中層疾患の代表的な停在性夜盲と先天性網膜分離症について概説する.CI先天停在性夜盲1.概要先天停在性夜盲(congenitalCstationaryCnightCblind-ness:CSNB)は,生まれつき夜盲を呈し,かつ非進行性の網膜疾患である.小口病などの眼底が異常なものと,眼底が正常な狭義のCCSNBに分類される.狭義のCSNBはCSchubert-Bornschein型,Riggs型,Nouga-ret型に分かれるが,このうちCSchubert-Bornschein型はCON型双極細胞機能不全による完全型CCSNBと,ON型・OFF型双極細胞への伝達障害が生じる不全型CSNBに分かれる1~5).網膜中層障害を扱う本稿では完全型CCSNBと不全型CCSNBについて解説する.CSNBは学童期に視力低下で受診する場合が多い.弱視や心因性視力障害との鑑別が重要である.治療法はないが,その名のとおり非進行性で,学童期に視力不良であっても青年期には(0.7)以上の視力となり運転免許も取得できる場合がある.C2.病態完全型CCSNBの病因遺伝子としてCNYX,CTRPM1,GRM6などが知られており,ON型双極細胞機能障害が生じる.杆体に障害がなくとも,杆体で受け取った情報を伝達するCON型細胞に障害(図1)があることから暗所視が障害され夜盲が生じる.不全型CCSNBの病因遺伝子としてCCACNA1Fとrodconerodcone図1視細胞から双極細胞へのシグナル伝達の模式図a:完全型.ON型双極細胞の機能障害.b:不全型.ON型,OFF型双極細胞への不完全な伝達障害.*TaroKominami名古屋大学医学部附属病院眼科〔別刷請求先〕小南太郎:〒466-8560名古屋市昭和区鶴舞町C65名古屋大学医学部附属病院眼科C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(43)C307表1完全型先天停在性夜盲(CSNB)と不全型CSNBの違い完全型不全型屈折異常(強度)近視近視~遠視夜盲あり少ないERG杆体反応なし減弱ERG杆体-錐体最大応答陰性型陰性型(律動様小波あり)ERG錐体反応幅広のCa波減弱ERGFlicker応答振幅正常減弱遺伝形式伴性潜性,常染色体潜性伴性潜性,常染色体潜性おもな病因遺伝子CNYX,TRPM1,GRM6CCACNA1F,CABP4正常完全型先天停在性夜盲不全型先天停在性夜盲100μV杆体応答反応なし反応あり50ms杆体-錐体最大応答200μV25ms陰性型100μ錐体応答25ms幅広のa波反応減弱30Hz25μVFlicker応答反応減弱25ms図2ERG波形の違いab杆体応答フラッシュ最大応答錐体応答Flicker応答(30Hz)図3完全型CSNBの所見16歳,男性.NYX遺伝子変異検出.Ca:眼底写真.近視性の眼底変化がある.b:OCTでも長眼軸によるものと思われる弯曲がめだつ.c:ERGはフラッシュ応答で陰性型を呈し,杆体応答は検出されないが,錐体応答,Flicker応答の振幅は減弱が確認されない.錐体応答で幅広のCa波が検出される.杆体応答フラッシュ最大応答錐体応答Flicker応答(30Hz)図4不全型CSNBの所見26歳,男性.CACNA1F遺伝子変異検出.眼底写真(Ca)やCOCT(Cb)に特記すべき異常はないが,ERG(Cc)はフラッシュ最大応答で陰性型を呈し,杆体系・錐体系・Flicker応答の反応は減弱している.杆体応答フラッシュ最大応答錐体応答Flicker応答(30Hz)図5先天網膜分離症の画像所見と網膜電図所見7歳,男性.RS1遺伝子変異,就学時健診の視力不良で受診.Ca:黄斑部に車軸様変化を認める.b:OCTで網膜分離所見を認める.Cc:全視野CERGのフラッシュ最大応答でCb波振幅がCa波振幅を下回る陰性型のCERGを認める.図6周辺の反射と耳下側の胞状の網膜分離所見27歳,男性.左眼の広角眼底写真.RS1遺伝子変異.一見すると網膜.離と思えるような,耳下側の大きな内層孔を伴う胞状の網膜分離がある().OCTでは網膜内層の牽引および網膜分離が認められるが,視細胞と網膜色素上皮は接着しており,網膜.離ではないことを確認している.3歳児健診で内斜視の指摘があり初診して以来,20年以上にわたる経過観察をしているが,著明な悪化傾向はない.周辺には小口病~網膜震盪症類似の網膜反射もみられる().図7先天網膜分離症の網膜分離が軽減する経過先天網膜分離患者(RS1遺伝子変異,男性)のC48歳,49歳,50歳,51歳時の左眼のCOCT(水平断)所見を示す.経時的に網膜分離は軽減したが(),51歳時にはエリプソイドゾーンが不鮮明になるなど外層の萎縮がみられ,患者は左眼の見えにくさを訴えている.