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眼内レンズセミナー:高度遠視化を生じた後囊破裂を伴う外傷性白内障の1例

2025年7月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋458.高度遠視化を生じた後.破裂を伴う柴田哲平久保江理外傷性白内障の1例金沢医科大学病院眼科鈍的眼外傷による後.破裂を伴う外傷性白内障の経過で,進行性遠視を生じた症例を報告する.患者はC37歳の女性で,右眼の鈍的外傷後に後.破裂と外傷性白内障を発症,受傷C3年後の屈折値は遠視化を呈し白内障手術が実施した.鈍的外傷による孤立性CPCTは,屈折変化を誘発し,遠視化を引き起こすことがある.●はじめに鈍的眼外傷は,角膜内皮変形,虹彩根部裂離,外傷性白内障,水晶体脱臼など,さまざまな症状を引き起こす可能性1)がある.これらの症状の中で,後.破裂(poste-riorcapsuletear:PCT)は外傷性白内障や水晶体脱臼に伴って生じることがあるが,単独で発生することはまれである2).外傷性白内障は視力の急激な低下を引き起こすことが多く,受傷直後に手術が行われる場合が一般的である.今回は,鈍的眼外傷による孤立性のCPCTが原因で徐々に進行する顕著な遠視を呈した,まれな症例を取りあげる.また,鈍的外傷による白内障での遠視性変化のメカニズムおよび老視矯正眼内レンズ(presby-opiaCcorrectedCintraocularlens:PC-IOL)挿入のための外科的管理について解説する.C●症例報告患者はC37歳の女性.子どもが投げたスリッパが右眼に当たったあとに,視界のぼやけと光過敏を訴え,近医眼科を受診した.右眼の前眼部細隙灯顕微鏡検査では,水晶体C11時方向に外傷性CPCT,硝子体混濁が認められた(図1a).右眼の裸眼視力は右眼C20/32,左眼C20/16で,正視(+0D)を示していた.この時点で外科的治療の希望はなかった.受傷からC3年後,視力低下のため当院へ紹介となった.右眼の屈折値は+8.0Dと遠視化を呈し,矯正視力は右眼C20/50,左眼C20/16で,屈折値は右眼〔+8.0D.0.74DAx20°〕,左眼〔C.0.32D.0.29DAx90°〕であった.眼圧は両眼ともにC19.0mmHgで,瞳孔径は右眼3.4Cmm,左眼C3.2Cmm,前眼部光干渉断層計検査では,平均角膜屈折力はC44.27D,左眼はC44.43Dであり,Aモード超音波検査による眼軸長は両眼ともにC22.20Cmmで左右差は認めなかった.細隙灯顕微鏡検査では,角膜や虹彩の異常は認められなかったが,右眼の水晶体はPCT部位の混濁と硝子体軽度混濁が観察された(図(79)1b).網膜の所見は両眼とも正常であった.前眼部光干渉断層計では,右眼の水晶体線維の歪みとCPCTが認められ,水晶体核部には亀裂がみられた(図2).手術はフェムトセカンドレーザーを使用した連続円形切.と核分割が行われ,PCT部位の拡大予防のため粘弾性物質によるCdelineationを施行した.超音波乳化吸引術にて水晶体を慎重に吸引したのち,25.0DのCPC-IOL(AcrySofIQVivityExtendedVisionIOL,アルコン社)を.内に挿入した.術後C1カ月で右眼の裸眼視力は20/20,屈折値はC0.00DC.0.70DAx163°となり,IOLの.内固定は良好で,偏心や傾斜も正常範囲内であった(図3).C●考察鈍的外傷による外傷性白内障は小児男児に多くみられるものの,孤立性CPCTに関する文献は少ない3).鈍的外傷は,前後軸方向の圧縮と同時に赤道面の膨張を引き起こし4),これが若年患者において弾性の高い後.と前部硝子体の強固な癒着によって破裂すると考えられる.本症例では,スリッパが右眼全体に与えた外力が赤道面での遠心力を生じ,上記の現象で孤立性CPCTを引き起こしたと考えられる.また,本症例では,初期に視力低下がなく,長期にわたる経過観察で進行性遠視と水晶体混濁が生じたため手術適応となった.過去の報告において,水晶体の線維配列や水分含有量の変動が屈折率の変化をもたらすことが示唆されており5,6),本症例の遠視化の原因としては,水晶体の液化などの内部組成変化が遠視を引き起こしたと推測している.フェムトセカンドレーザーを使用した手術手技は,本症例のようなCPCTを伴う外傷性白内障においても,後.への負担が少なく連続円形切.や核分割ができるため,有用である7).また,粘弾性物質によるCdelineationはCPCTの拡大予防に重要な手技の一つである.あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025C8630910-1810/25/\100/頁/JCOPYab図1受傷直後と3年後の前眼部写真a:受傷直後.水晶体の混濁と硝子体細胞が確認できる.Cb:受傷C3年後の当院での前眼部所見.後.破裂部位の水晶体.の混濁と硝子体混濁生じている.(文献C8より転載)図3術後1カ月の前眼部写真眼内レンズは.内に固定され,屈折や偏心,傾斜も正常範囲内であった.(文献C8より転載)●まとめ本症例は,孤立性CPCTを伴う外傷性白内障のまれな事例であり,3年の経過中に進行性遠視を生じた.本研究は,鈍的外傷やCPCTが水晶体の構造と屈折率の変化をもたらす可能性を示している.フェムトセカンドレーザーを用いた手術は,外傷性CPCTの術中管理に有効な手段の一つある.図2当院での前眼部OCT所見水晶体核部の線維の亀裂()と後.部の破裂()が確認できる.(文献C8より転載)文献1)CanavanYM,ArcherDB:Anteriorsegmentconsequenc-esCofCbluntCocularCinjury.COphthalmologyC66:549-555,C19822)SaikaCS,CKinCK,COhmiCSCetal:PosteriorCcapsuleCruptureCbyCbluntCocularCtrauma.CJCCataractCRefractSurgC23:139-140,C19973)MansourAM,MahmoudO,RolaNetal:Isolatedposteri-orCcapsularCruptureCfollowingCbluntCheadCtrauma.CClinCOphthalmolC8:2403-2407,C20144)ChoudharyCN,CSameerCR,CShubhdaCSCetal:PosteriorCcap-suleCruptureCwithCherniationCofClensCfragmentCfollowingCbluntCocularCtrauma.CIntCMedCCaseCRepCJC9:305-307,C20165)TanimuraN,NatsukoH,HisanoriMetal:VisualfunctionandCfunctionalCdeclineCinCpatientsCwithCwaterclefts.CInvestCOphthalmolVisSciC60:3652-3658,C20196)OkamotoF,SoneH,NonoyamaTetal:Refractivechang-esindiabeticpatientsduringintensiveglycaemiccontrol.BrJOphthalmolC84:1097-1102,C20007)PragerAJ,SurendraB:Femtosecondlaser-assistedcata-ractsurgeryinmanagementofposteriorcapsuletearfol-lowingCbluntCtrauma.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC19:C100742,C20208)ShibataCT,CSekiCY,CSeidaCYCetal:ProgressiveChyperopicCrefractiveCchangesCafterCposteriorCcapsuleCtearCfollowingCbluntCocularCtrauma.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC34:C102032,C2024C

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く エビデンスに基づくコンタクトレンズ診療(1)

2025年7月31日 木曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く19.エビデンスに基づくコンタクトレンズ診療(1)土至田宏聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学/川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C10章は「エビデンスに基づく診療(EBP)」の概念をコンタクレンズ診療にどう応用するかを解説している1).今回はその前半部分をまとめる.導入とエビデンスレベルの考え方エビデンスに基づく診療(evidence-basedpractice:EBP)は,科学的根拠に加えて臨床家の経験や患者の価値観を考慮し,最適な医療判断を導く枠組みである.1990年代に提唱されたCevidence-basedCmedicine(EBM)の概念は,コンタクトレンズ(CL)診療においても応用されている.そこでは単なる経験則や慣習ではなく,研究の成果を踏まえた意思決定が求められている.EBPは,信頼性の高い科学的エビデンス,臨床家の専門的判断,患者の価値観や生活状況,の三要素によって成り立っている.これにより,研究成果を鵜呑みにするのではなく,現状に即した柔軟かつ実践的な対応が可能となる.エビデンスには階層構造が存在し,一般にシステマティック・レビューやメタアナリシスが最上位とされ,無作為化比較試験,前向きコホート研究,ケースコントロール研究,症例報告・専門家の意見,の順に位置づけられる.ただし,信頼性の序列のみで価値を判断するのではなく,臨床的妥当性や応用可能性も併せて検討されるべきである.一方で,CLの分野ではCEBPの浸透は未だ限定的である.たとえば“evidence-basedpracticeANDCcontactlenses”でCPubMed検索を行うと,2021年時点で関連文献はわずかC65報程度にとどまっており,他分野よりも少ない.背景としては対照群を設けた厳密な無作為化比較試験の実施が困難であることや,製品間比較や観察的研究が主流である点があげられる.一方で,CL研究には同一被験者によるクロスオーバー試験,左右眼で異なるレンズを同時比較するコントララテラル試験,片眼のみを対象とするモノアイズ試験など,独特の研究デザインが多く用いられる.これらはCEBMの階層における位置づけがむずかしいという課題がある.無作為化比較試験が少ない領域では,TearFilmand(77)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPYOcularCSurfaceSociety(TFOS)やCInternationalCMyo-piaInstitute(IMI)などによる国際ワークショップでのコンセンサスが,実践的ガイドラインとして重要な役割を果たしている.TFOSDryEyeWorkshopII(DEWSII)やマイボーム腺機能不全(meibomianCglandCdys-function:MGD)ワークショップ,CL不快感に関する報告などは,科学的厳密性に加えて現場の視点も踏まえた有益な資料といえる.さらに,症例報告や患者の主観的体験も臨床において重要である.とくに,まれな合併症や特異的反応,素材・ケア製品に関する情報などは,たとえエビデンスレベルが低くとも実践の参考になる場合が多い.CL診療におけるCEBPは,限られた文献や多様な研究デザインを適切に解釈し,個々の患者に応じて柔軟に活用する姿勢が求められる.今後は,さらなるエビデンスの蓄積と,それを臨床に落とし込む力の両立が重要である.問診と適応評価CLの処方における初診時の評価は,単なる視力矯正の適否を判断するためだけではなく,装用の安全性と継続可能性を左右するためにも,きわめて重要なプロセスである.ここでは装用リスクを事前に把握し,適応の可否を判断するための問診と評価項目が体系的に示されている.問診では,装用目的(視力補正,外観,スポーツ,治療など)を明確にし,過去のCCL装用歴,装用中断やトラブルの有無,および眼や全身の疾患歴を確認することが必須である.とくに,アレルギー疾患,ドライアイ,MGD,眼瞼炎,自己免疫疾患,薬剤使用歴などは,装用リスクを増大させる要因であり,慎重な評価が求められる.また,生活背景や職業(長時間のデジタル端末使あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025C861用や乾燥環境など),装用の動機,希望する装用時間,ケアにかけられる時間など,患者の生活様式に基づいた聞き取りも重要である.患者の協力度や衛生観念もコンプライアンスを左右する因子であり,評価の対象とすべきである.視力矯正の適応としては,近視,遠視,乱視,不正乱視などがあげられるが,斜視や両眼視機能異常などがある場合は,CL装用が症状を悪化させる可能性もある.とくに不同視や無水晶体眼ではCCLの利点が大きい一方で,初期対応には専門的判断が求められる.適応判断にはリスク評価が不可欠であり,臨床ではこれを明示的に行うことが勧められている.過去の報告では,初期段階で不適応リスクを見逃したことが,のちの中止や合併症につながったケースも少なくない.TFOSCDEWSIIなどの診断基準やCContactCLensCDryCEyeQuestionnaire-8(CLDEQ-8),StandardPatientEvaluC-ationofEyeDrynessQuestionnaire(SPEED),Schein質問票(ScheinDryCEyeCQuestionnaire)などのスクリーニングツールを活用することで,ドライアイやCCL不快感の予測が可能となる.さらに,眼瞼縁の観察,マイボーム腺の評価,涙液量と質,瞼裂幅や睫毛の状態など,前眼部の詳細な観察も装用前に行っておくべきである.このように,初診時の問診と適応評価はCCL装用の成否を決定づける出発点であり,単なる確認作業ではなく,将来的な安全性と快適性の担保を目的とした臨床判断を行うためのものである.前眼部所見の評価CL装用者に対する前眼部所見の評価は,安全な継続装用の可否を判断するうえで不可欠である.本章では診療の各段階で実施すべき検査項目とその評価指標が,エビデンスに基づいて体系的に整理されている.CL装用に先立ち,結膜充血,角膜上皮障害,涙液層安定性などの観察を行う.とくに非侵襲的涙液破壊時間や,フルオレセインによる染色パターン,涙液メニスカス高などは,ドライアイやコンタクトレンズ不快感(contactlensdiscomfort:CLD)のリスクを予測する指標として有用である.MGDの有無,睫毛の汚れ,眼瞼縁の形態変化なども併せて観察する必要がある.装用開始後はCCLによる眼表面への影響を継続的に確認する.角膜上皮染色像は,不適切なレンズフィッティングや乾燥のサインであり,素材や装用時間,ケア方法の見直しが必要となる.とくにソフトCCL装用者においては,レンズエッジ部の接触による輪状の染色像や巨大乳頭結膜炎などの早期発見が重要である.角膜新生血管や微細な角膜混濁は,慢性的な酸素不足や機械的刺激の蓄積によって生じるものであり,定期検査での診断が重要となる.加えて,Efronscaleなどの臨床基準を活用することで主観的な評価のばらつきを抑え,経時的な変化を客観的に捉えることができる.これらの所見評価は,単なるモニタリングではなく,装用継続の可否判断,素材変更や装用指導の根拠となる.とりわけ,CLDや脱落の主因が眼表面の異常であることは数多く報告されており,前眼部の微細な変化を見逃さず,早期に介入する姿勢が求められる.したがって,前眼部所見の定期的かつ系統的な評価は,CL診療における質の保証と患者満足度の維持に不可欠である.文献1)Wol.sohnCJS,CDumbletonCK,CHuntjensCBCetal:CLEARC-Evidence-basedCcontactClensCpractice.CContactCLensCandCAnteriorEyeC44:368-397,C2021

写真セミナー:ヘアアイロンによる角膜熱傷

2025年7月31日 木曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史494.ヘアアイロンによる角膜熱傷小林桂福岡秀記京都府立医科大学眼科学教室図2図1のシェーマ①白色変性図1初診時前眼部所見輪部には達しない角膜表層の白色変性を認めた.図3図1のフルオレセイン所見白色変性に一致した約50%の上皮欠損を認める.図4受傷から25日目の前眼部所見角膜表層の変性は消失し,透明化した.(75)あたらしい眼科Vol.42,No.7,20258590910-1810/25/\100/頁/JCOPYヘアアイロンは高温の熱を利用して毛髪のスタイリングを行うための美容機器である.若年女性を中心に比較的身近な電化製品として利用されているが,近年ヘアアイロンによる熱傷が増加している.過去26年間で約10倍になったという報告もある1).症例は21歳の女性.自宅で頭髪のセット中に誤ってヘアアイロンが右眼に当たり受傷した.受傷直後から右眼の痛みと流涙,視界のぼやけがあり,前医を受診し,筆者らの施設に紹介となった.初診時,右眼角膜表層に輪部には達しない白色変性と,変性部に一致した約50%の上皮欠損を認めた(図1~3).視力は右眼0.02(n.c.)であった.前眼部光干渉断層計では,変性は角膜上皮内にとどまり,角膜実質には到達していなかったが,.5.8D程度の不正乱視を認めた.受傷当日から,ガチフロ点眼液0.3%を4回/日,リンデロン点眼液0.1%を4回/日,リンデロンA眼軟膏を眠前1回,プレドニゾロン10mg/日の3日間内服を開始した.受傷翌日に角膜表層の白色変性は脱落し,角膜は透明化したものの,中央部の上皮欠損は残存していた.視力は右眼0.3(0.7×sph.2.25D)であり,不正乱視は.1.0Dまで改善した.受傷から5日目には角膜混濁および上皮欠損は消失し,視力は右眼(0.9×sph.1.00D(cyl.0.50DAx100°)であった.受傷後25日目も角膜の透明性は保図5角膜表面とヘアアイロンの接触たれ,上皮欠損なく経過していた(図4).視力は(1.2×sph.2.00D)まで改善した.点眼はすべて終了とし,以降は近医での経過観察とした.ヘアアイロンによる角膜熱傷は,200℃にも及ぶ高熱によって角膜上皮の凝固壊死をきたすことで起こる.熱・化学外傷の重症度分類としてRoper-Hall分類,Dua分類,木下分類などがあり,受傷時の角膜輪部障害の範囲が視力予後の推測に有用とされている2).本症例では,角膜輪部上皮障害がなかったため,早期に角膜上皮化が得られた3).また,熱による角膜外傷では熱エネルギーの95%は涙液や角膜上皮に吸収され,その後角膜深部へと熱が流出するため,ヘアアイロン外傷のように一瞬の接触にとどまる場合は角膜実質まで障害が至らない可能性がある4).ヘアアイロンによる角膜熱傷においては,球面である角膜表面に平坦なヘアアイロンが接触するため,輪部が傷害される可能性は低いと考えられる(図5).角膜熱傷では,受傷後3.4週頃にコラーゲンの変性を生じ,突然の角膜穿孔をきたすという報告もあり5),角膜所見の改善が得られたあとも慎重な経過観察が必要であり,事前に患者に角膜穿孔のリスクを説明しておくことも重要である.文献1)馬場國昭,徳田リツ子,馬場淳徳:有床診療所における26年間の熱傷統計.熱傷46:21-32,20202)千森瑛子,福岡秀記,濱端久仁子ほか:熱・化学外傷による角膜輪部障害の程度と予後に関する検討.日眼会誌125:725-731,20213)LeQ,XuJ,DengSX:Thediagnosisoflimbalstemcellde.ciency.OculSurf16:58-69,20184)武藤哲也,町田繁樹:ヘアアイロンにより生じた角膜熱傷の1例.臨床眼科76:101-104,20225)小泉範子,木下茂:眼部化学外傷,熱傷.救急医学22:1747-1750,1998

総説:生理活性脂質から眼圧の謎に迫る!

2025年7月31日 木曜日

あたらしい眼科C42(7):849~858,2025c第35回日本緑内障学会須田記念講演生理活性脂質から眼圧の謎に迫る!ApproachingtheMysteryofIntraocularPressurefromBioactiveLipidMediators!相原一*はじめに緑内障は視神経と視野に特徴的変化を有し,通常は眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる機能的構造的異常を特徴とする疾患である.原発閉塞隅角緑内障の発作時にはあまりの急性高眼圧のため,眼底血圧を超えた高眼圧が網膜と視神経乳頭の血流障害を引き起こすが,早期に血流が再開すれば視神経障害も改善しうる.隅角閉塞による高眼圧と二次的な視神経障害については,解剖学的機序による房水流出障害によるものなので本稿では触れない.緑内障のほとんどを占める開放隅角での視神経障害は,慢性進行性神経変性疾患で,乳頭陥凹拡大を伴い,局所的な網膜神経線維層欠損が徐々に拡大する.乳頭陥凹拡大には篩板の変形を伴う.眼圧が存在するかぎり常に陥凹を拡大する方向に圧ストレスがかかっていると考えられる.病的に眼圧よりも脳脊髄圧が高いならば,視神経乳頭後部まで存在するくも膜下腔の脳脊髄圧により視神経は絞扼されるため,乳頭浮腫を起こす.眼圧がC0に近い低眼圧でも病態的には同様で,乳頭浮腫を起こし,視力は低下する.つまり眼圧が低すぎると低眼圧網膜症乳頭浮腫を惹起するし,高すぎると緑内障性視神経症を,極端に高いと虚血も伴う.正常眼の健常眼圧も10~20CmmHg(平均C14ぐらい)で正規分布しているということは,乳頭組織でバランスのよい眼圧には個体間で幅があることを示している.もっとも眼圧は日中のある時間に測定しているだけなので,実際の眼圧変動は未知である.乳頭陥凹には大きさ,深さ,形状に個体差があり,先天的な小乳頭から巨大乳頭,さらに時間経過は証明できないが,徐々に乳頭陥凹が拡大,変形することもある.篩板が変形し軸索障害を起こすような乳頭陥凹拡大の原因は,単に乳頭での圧バランスの問題なのか,近視のように眼軸長伸展に伴うものなのか,あるいは篩板を構成している細胞や血管,血流の異常なのか,はたまた網膜神経節細胞軸索自身の異常なのか,またこの多因子がどのように関与しているのか証明は困難である.ただし,唯一確かなのは,常に存在する眼圧は,それがどんな値でも視神経乳頭に対して外向きの陽圧であれば,物理的に陥凹は拡大するということである.生涯で眼圧は基本的にあまり変わらないことが疫学調査などで明らかになっているが,一つの眼で眼圧を経時的に生涯追った研究はない.眼圧が高くなるから陥凹拡大が進んで緑内障になるのか,眼圧に変化がなくても圧ストレスを受ける視神経乳頭が脆弱になるのか,あるいは両者なのか,難問である.そもそも眼圧とは何なのか.眼圧は眼球内での独立した水の生理的な循環で成り立つ特殊機能である.房水が毛様体で産生されて隅角から線維柱帯あるいは毛様体経由で眼外に流出する.房水流出路はきわめて複雑な組織で,残念なことに血液と異なり水の流れは生体内で可視化できない.眼圧と緑内障について色々考え出して早35年経つが,変わらない目標は眼圧についてもっと知りたいということである.眼圧さえ制御できれば視神経障害は防げるに違いない.表1に筆者の考える謎を列挙した.ぜひとも多くの研究者にこの謎を解いてほしい.きっと緑内障の治療に役に立つはずである.*MakotoAihara:東京大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕相原一:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部眼科学教室C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(65)C849表1眼圧の謎生理的な眼圧の謎・なぜC10~21.mmHgであるのか,正常眼では血圧以上に個体差があるのはなぜか.・生涯一定の眼圧なのか.・個体の大きさも眼球の大きさも異なるのになぜ脊椎動物では同じ眼圧なのか.・日内,日々,季節変動があるのはなぜか.・眼内圧は本当はいくつなのか,終日測定する方法は.・下げる薬剤はあるのに上げる薬剤がないのはどうしてか.・血圧のように体内制御機構はないのか.・房水動態のCGoldman理論は正しいのか.・眼圧は眼内組織に均等に同じ圧がかかっているのか.・生活習慣や遺伝子,環境の影響はあるのか・体位変動はあるが,その眼圧変動は影響がないのか.仰臥位では高いが緑内障が進むわけでもない.緑内障の眼圧の謎・なぜ眼圧が高くなったのか.・緑内障眼では生涯かけて眼圧が経時的に上がってきているのか.・各種開放隅角緑内障病型での眼圧上昇の機序はなにか.・落屑緑内障の眼圧変動はなぜか.・なぜ開放隅角でも急に上昇するのか.本総説は,この眼圧の謎解きに生理活性脂質を鍵として挑戦した,筆者と多くの共同研究者たちの成果である.個人的な研究の変遷も含めた,科学的というよりやや散文的な記述が多いがご容赦いただきたい.CI生理活性脂質プロスタグランジンと筆者緑内障に興味をもったため,大学院では神経を研究したかったが,眼科内で基礎研究する環境はあまり整ってなかった.そこで縁あって基礎医学の生化学,のちの細胞情報学部門に入れていただいた.当時の教授,清水孝雄先生は脂質生化学の大家で,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)などを産生するためのアラキドン酸カスケードの脂質合成経路の解明にすでに着手されていた.ちょうど神経可塑性の分子機構という研究プロジェクト予算を獲得されていたため,筆者は大脳海馬の錐体細胞とミクログリアが生理活性脂質の一つである血小板活性化因子を介した相互作用を呈していることを研究することになった.生理活性脂質とは,主として膜構成成分である脂質二重層から切り出された脂肪酸の代謝物から産生される生体機能をもつ物質の一群である.生体膜から産生されて代謝も早いため,細胞組織局所で働く性質をもつが,生体内各組織でさまざまな機能を有し,また脂質自体は摂取するものに大きく依存するので,われわれの生活習慣にも大きく関与している.脂質は取り込んで産生され分解されるものだが,それを司っている酵素群は遺伝的に制御されている.今でこそ脂質研究リピドミクスは,ジェネティクス,プロテオミクスに続いて盛んになってきた分野だが,当時は大学院の教室がその先端を担っていた.ちょうどその頃,緑内障分野では,PGの一つであるCPGF2Caが低用量で眼圧を下げ,しかも当時の第一選択薬である交感神経Cb受容体遮断薬よりも下げるという画期的な発見がなされた.学生のときにはCPGF2Caは生殖関係に重要であると習ったばかりであったが,局所作用を有する生理活性脂質らしく,異なる臓器ではまったく異なる重要な働きをすることを改めて認識した知見であった.眼球は閉鎖空間で脈絡膜以外は血管の透過性は低くバリア機能が強い組織であることから,房水は組織の維持に重要な役割を果たしている.つまり生理活性脂質は房水中のメディエーターとして眼球内でなにか重要な働きをなすだろうと予想した.CPGF2a誘導体のラタノプロストが発売され早C25年,単剤でC1日C1回の点眼で最大の眼圧下降効果が得られ,全身副作用がない点で,未だに第一選択薬の不動の地位を維持しているが,当時はきわめて画期的な薬剤であり,各社こぞって類似薬トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストを上市することとなった.ただし,図1にあるように,PGF2Caの代謝物に類似したウノプロストンは別として,いわゆるCPG関連薬の中ではビマトプロストがやや眼圧下降効果が強く,かつ化学構造式もプロスタマイド型とされ,他のC3剤と差別化されていプロスト系図1プロスタグランジン関連薬(FP受容体作動薬)の構造式FP受容体が眼圧下降に重要なのか,ビマトプロストは他C3剤と比較してプロドラッグとしては分解されにくく,FP受容体とは結合しない可能性が示唆され,論議をよんでいた.た.一方では眼内移行後は他のC3剤と同様なCPGF2Ca類似構造式になるため,他のC3剤と同様に振る舞うはずで同じではないかとの論争があった.これらC4剤のCPG関連薬の眼圧下降機序は,細胞外マトリックスの分解を伴うぶどう膜強膜路の流出抵抗の改善以外は不明で,点眼後すぐに下がる機序や眼圧下降の分子メカニズムについては未知であった.元はCPGF2Caから開発された薬剤であるから,眼圧下降の分子学的作用機序としてプロスタノイドCFP受容体の存在と活性化が必須と予想された.戦略的にはCFP受容体欠損マウスで確認する必要があったが,当時としてはマウスで眼圧を測定する方法がなかったため,解明に糸口がなかった.CII生理活性脂質リゾフォスファチジン酸と筆者2001年に,のちに緑内障眼圧下降薬として上市されるCROCK阻害薬の最初の前臨床報告がなされた.現在,同僚で東京大学眼科准教授の本庄恵先生と熊本大学名誉教授の谷原秀信先生の京都大学時代の画期的な研究である.ROCK阻害薬は細胞内のCRho-ROCKシグナル活性化による細胞骨格変化や細胞外マトリックスの産生経路を阻害する薬剤で,緑内障関連では主として線維柱帯からの房水流出組織に対して,明確な生化学的な作用機序を有する薬剤である.それまでの房水産生を抑制する薬剤やぶどう膜強膜路に効くとされるも作用機序が未だに明確ではないCFP受容体作動薬とは異なり,房水流出の主経路である線維柱帯路の組織変化また房水静脈圧の下降により流出抵抗を下げるという,本来の房水動態,しかも主経路の流出抵抗の軽減により眼圧下降を行う新規作用機序を有する点で画期的であった1).この細胞内シグナルカスケードの活性化は生理的には流出抵抗を維持,あるいは過剰であれば線維化瘢痕化を促進し,眼圧上昇に至る組織抵抗を惹起すると考えたが,活性化には房水中の因子が関与すると推測した.大学院時代の脂質関連の知識では細胞内CRho-ROCKシグナルの上流のCG蛋白共役型受容体活性化物質はいくつかあるが,とくに活性化が強い生理活性脂質として,リゾフォスファチジン酸(lysophosphatidicacid:LPA)やスフィンゴシンC1リン酸(sphingosineC1-phos-phate:S1P)があることに気がついた.LPAはその合成酵素オータキシン(autotaxin:ATX)により産生され,Rho-ROCKシグナルを介した線維化や炎症,浮腫などを惹起することが知られていた(図2).そこでLPAやCS1Pが房水中にある可能性をもとに当時の質量分析計で測定を試みたが,当時検出感度が低いことと房水量の少なさで検出はできず,頓挫することとなった.MigrationProliferationSurvival線維芽細胞誘導接着内皮透過性亢進上皮アポトーシスTGFb活性化,IL.8分泌図2Rho-ROCKシグナルと活性化因子の一つであるATX-LPA経路組織瘢痕化,炎症を惹起することが判明しており,房水中に存在し,房水流出抵抗を上昇させる.(AlbersCHHMGCetal:PNASC107:7257-7262,C2010)IIIマウスの眼圧測定開発と遺伝子改変マウスの応用前述のように,疾患モデル動物の開発は病態解明に重要である.とくに遺伝子改変動物として有用なマウスを緑内障分野で応用することは当然の流れだったが,最大の課題は眼圧測定ができないことであった.しかし,幸運にもC2000年に留学し,マウスの眼圧測定方法の開発に着手する時間ができた.そして,眼圧値はヒトと同じであること,日内変動は日内リズムに制御されていること,房水動態もヒトと同様に存在すること,体位によって変動すること,高眼圧モデルマウスの作製など2~6),マウス眼を緑内障研究に応用できるようになったのである.となれば大学院時代からの宿題の一つであるCFP受容体と眼圧下降の関係を解き明かすことができる.帰国後に着手した結果,予想通りCFP受容体欠損マウスではベースライン眼圧は変わらないものの,PG関連薬は一切眼圧が下がらなかった7).また,ビマトプロストはそれ自身がCFP受容体とそのスプライスバリアントの結合受容体に作用することも判明した8)(図3).いずれにしろCFP遺伝子が眼圧下降に必要であり,骨格がCPGF2Caと類似しているためにCPG関連薬とよばれていたラタノプロストを含めたC4薬剤は,FP受容体作動薬(FP作動薬)とよぶほうが正しいと考える.現在,PG骨格は有しないがプロスタノイドCEP2受容体結合力の高いオミデネパグイソプロピルもあるが,こちらはCPG関連薬とはいえず,FP作動薬と区別するためにCEP2受容体作動薬とするのが適切で,ほかの交感神経系眼圧下降薬と同様,作用機序が明確な名称を与えるほうが望ましいと考える.プロスタノイド受容体のいくつかは眼圧に関与する可能性が高く,実際CFPとCEP3受容体の両方に作用する薬剤もC2025年秋に承認見込みであるし,DP受容体の眼圧下降作用も報告されている(図4).予想通り生理活性脂質は眼内で全身と異なる特異的な作用を有することが判明した.今後は眼内での生理活性脂質とさまざまな眼疾患病態や眼圧との関係が解明されることを願っている.CIV生理活性脂質リゾフォスファチジン酸と合成酵素のオートタキシンによる新展開繰り返しになるが,開放隅角での眼圧上昇の原因は細胞外マトリックスの増加による組織瘢痕化であるが,そHOHHOHHOHOHOプロスタグランジンF2aプロスタマイドF2aHOHOHCH3CH3HHOHHHOHプロスタグランジンF2a誘導体プロスタノイドFPFPプロスタマイドFP受容体spliceFP受容体variant図3FP作動薬とFPおよびプロスタマイドFP受容体の関係PG関連薬は基本的にプロドラッグで点眼され,角膜で分解され酸型になってCFP受容体に結合する.ビマトプロストも一部は酸型に分解されるが,それ自身もCFPとCFPのスプライスバリアントの複合受容体に結合することが判明した.したがって,いずれにしろ作用点はCFP遺伝子による転写産物であることから,眼圧下降にはCFP受容体が必須である.(OtaCT,CAiharaM:IOVS,C2005,OtaCT,CAiharaM:BrJOphthalmolC2007)図4プロスタノイド受容体一覧と眼圧下降への関与生体内機能は組織により異なることが生理活性脂質の特徴である.FP,EP2受容体作動薬そして,FPとCEP3のデュアル作動薬が開発された.の原因は明確ではなかった.過去には原発開放隅緑内障ROCK阻害薬は眼圧上昇の原因の一つである流出路(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)では房水中の瘢痕化を抑制する点で明確である.そこで問題は組織瘢CTGFb2の濃度が高いことが報告されていたが9),開放痕化による抵抗上昇の原因究明であるが,筆者らは隅角のほかの病型では高くないことから,高眼圧の原因2015年から本庄恵先生の参画でいよいよCRho-ROCKにはCTGFb2やステロイド以外の房水因子が関与するこシグナルと眼圧の関係を解き明かす機会を得て,高性能とが予想される.の質量分析計によるCATX測定とCLPA合成酵素のCATXLPA産生酵素:Autotaxin総LPA********************2.52.0200Sensitivity0.00.20.40.60.81.0Autotaxin(mg/l)1501.51001.0***p<0.001500.5**p<0.01*p<0.0500図5緑内障各病型の前房水中ATXおよび総LPAの定量controlNTGPOAGSOAGXFGcontrolNTGPOAGSOAGXFG房水中CATX,CLPAは眼圧が高い病型ほど高いことから,BABが破綻した状態ではCLPAにより流出路抵抗が上がる可能性がある.またCATX-LPA活性化により流出路瘢痕化促進し眼圧が上昇した.(HonjoCM,CIgarashiCN,CAiharaCMCetal:InvestOphthalmolVisSciC2018)CATX,TGF.b1.3濃度による緑内障病型診断ROC曲線→LASSO法による4因子を用いると各単因子と比較してもっともよい感度で緑内障病型(NTG,POAG,XFG,SG)を診断(p<0.05).ROC:receiveroperatingcharacteristicLASSO(AROC=0.764.p=0.0155)LASSO:leastabsoluteshrinkageandselectionoperator;ATX(0.700.p<0.001)AUC:areaunderthereceiveroperatingcharacteristicTGFB1(0.657.p<0.001)TGFB2(0.548.p<0.001)curve.TGFB3(0.628.p<0.001)Speci.city図6房水因子による緑内障病型診断(IgarashiCN,CHonjoCM,CAsaokaR:SciRepC2021,CIgarashiCN,CHonjoCM,CYamagishi-KimuraCRCetal:SciRepC2021)を高感度測定系により,房水中のCATX-LPA経路の定病型ほど房水中の因子が高いことが判明した10).1.00.80.60.40.20.0量化に成功した.ATX-LPA経路の活性化は短期的には細胞骨格の変化,長期的には細胞外マトリックスの増加をきたすことで組織瘢痕化へと向かう.つまり房水中の活性が高ければ,房水流出路の瘢痕化が促進され,流出抵抗が増加し結果として眼圧が上がることになる.結果として,予想通り図5のように緑内障病型により,ATX-LPA経路の活性化が異なるものの,眼圧が高いさらに同じく瘢痕化を促進する機序を有するCTGFCb1,2,3も病型により異なっており,組み合わせることで落屑緑内障(exfoliativeglaucoma:XFG)も判別できることがわかった11)(図6).今まで筆者らの開放隅角緑内障(openangleCglaucoma:OAG)病型分類は隅角が開放で,落屑や色素,炎症や内眼手術,外傷の有無での定性的な見た目の分類でしかなく,病態には基づいていな正常な状態瘢痕化房水流出路図7房水脂質メディエーターによる病型診断,予後予測と治療ATXが活性化していればCLPAも増加し,流出路瘢痕化を惹起し,眼圧が上昇する可能性がある.今回CATX阻害薬が販売されていたが,コンセプトとしては眼圧を下げるより,上がらないようにする薬剤をめざす.(HonjoCM,CAiharaCMCetal:InvestOphthalmolVisSciC2018,CHonjoCM,CAiharaCMCetal:InvestOphthalmolVisSciC2018,CIgarashiCN,CAiharaCMCetal:SciCRepC2018,CIgarashiCN,CAiharaCMCetal:SciCRepC2020,CNaganoCN,CAiharaCMCetal:Biol.CPharm.CBull.C2019,NakamuraCN,CAiharaM:MolVisC2021,HonjoCM,CAiharaM:SciRepC2021,CLiuCM,CAiharaCMCetal:BiomoleculesC2022)い.実際,正常眼圧緑内障(normalCtensionCglaucoma:NTG)との診断の房水中でも異常に高いCATX活性を有する検体が混じっており,もしかすると外来での眼圧測定が低いだけでCPOAGやCXFGである可能性も示唆される.とくにCXFGは診断がむずかしく,落屑物質が一部に出ていたり,散瞳しないとみつからない患者では自分を含め見逃す可能性が高い.したがって,房水因子の測定に基づく診断ができればより病型に沿った治療法が確立するに違いない.さらに今後は眼圧上昇因子を抑制するためにCXFG特異的な治療法が開発できるはずであり,既存の眼圧下降薬のように眼圧上昇の病態が異なるさまざまな病型のCOAGに対して,取りあえず平均的には有効である薬剤とは一線を画すことになるであろう.現在,ATX阻害薬の開発をめざしており,将来が楽しみである.一時的にはCRho-ROCKシグナル抑制を介した眼圧下降,長期的には瘢痕抑制による眼圧上昇抑制という機序を有することになる(図7).CVATX-LPA経路活性化による開放隅角高眼圧モデル動物の開発緑内障動物モデルというと,当然高眼圧で乳頭陥凹が生じるモデルが理想である.乳頭構造がヒトにもっとも類似しているのはサルであり,レーザーを線維柱帯に照射し物理的に流出障害を起こして高眼圧にすることができる.ただし,残念ながら高額で研究応用にはきわめてハードルが高い.一方,動物モデルとしては,遺伝子操作が容易で安価で分子生物学的ツールが揃っている点でマウスの有用性が高いことはいうまでもない.2000年頃から眼圧が測定できるようになったため,ようやく高眼圧モデルは種々開発された.しかし,高眼圧となる原因が明確でないため,これまでのマウスモデルは流出路組織を外科的に閉塞する手法が採られていた.これらの方法では,たとえ乳頭や網膜神経節細胞(retinalCgan-glioncell:RGC)の組織学的変化がみられても,不安定な眼圧,短い持続性,炎症惹起などヒトの緑内障性視神経症とは異なる状況を呈していた.前項のように筆者らはCOAGの眼圧上昇の原因の一つとして,組織変化による流出抵抗上昇を惹起する房水因子であるCLPAを見いだした.したがって,房水中のATX-LPA経路が活性化すれば高眼圧になる可能性が高いため,CreLoxPシステムを用いて脂質であるCLPAの合成酵素であるCATXをマウス眼の局所に高発現させることを試みた.結果として,現在作製した第一系統のマウスは眼内CATXの発現とともに徐々に高眼圧となLysoPLD(ATX活性)601~2週間をピークに3M持続するATX活性増強40LysoPLDactivity(nmol/mL/4h)20少なくとも2Mはコントロールと比べ慢性的に4mmHg高眼圧を呈する0**組織傷害,炎症もなく,開放隅角の高眼圧マウスを作るのが夢だった!IOP(mmHg)2116116**0714212835424956637077849198Daysafterlastdosestudent’st.test,vscontrol*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001図8ATX発現誘導によるOAGマウスモデルの前房水ATX活性と眼圧変化(ShimizuCS,CHonjoCM,CLiuCMCetal:InvestOphthalmolVisSciC2024)Out.owfacilityの低下centralperipheralControlATXTgControlATXTgOut.owfacility(μL/min/mmHg)0.0250.020.0150.0051,00000controlATX網膜周辺部のRGC密度低下隅角瘢痕化の増加(3M)3,000*ATXTg2,000controlControlATXTg0.01CollagenIaSMADAPIControlATXTgcentralperiTg(n=16-20)*One-tailedstudent’st-test,p<0.05**p<0.01studentt-testF.actinDAPI図9ATX発現誘導によるOAGマウスモデルの房水流出抵抗増加と線維柱帯細胞の混雑ATX高発現マウス眼では隅角の線維化により房水流出が抑制され高眼圧,ひいては網膜CRGCの周辺からの低下を惹起した.(ShimizuCS,CHonjoCM,CLiuCMCetal:InvestOphthalmolVisSciC2024)り,少なくともC2カ月間は開放隅角のまま炎症もなく慢組織変化を伴わない,緑内障患者の高眼圧病態に基づい性的に正常眼と比較して約C30%程度の眼圧上昇を示した慢性高眼圧マウスモデルを作製できた.た12)(図8).房水動態ではCout.owfacilityの有意な低下,組織学的には線維柱帯へのCcollagenCIやCaSMAのCVI眼圧センサー機械受容体活性化と増加が起きており,ATXが隅角の線維化を促進し抵抗生理活性脂質が上昇したと考えられる.また,網膜周辺部のCRGCの低眼圧であれば低眼圧黄斑症や脈絡膜.離が生じる減少がみられた(図9).念願かなってようやく外科的なし,高眼圧であれば緑内障性視神経症が生じ,いずれにTM細胞線維化収縮?TM細胞線維化収縮?図10線維柱帯のPiezo1,TRPV4機械受容体による眼圧制御とPGE2(UchidaT:PLoSOne,2021)しろ視機能は障害されることになる.さらに脊椎動物の眼圧は魚類から皆C10~20.mmHg前後で保存されているのである.となれば眼圧は,脊椎動物が生きていくために必須であることは相違なく,自己制御機構が存在すると考えた.そこで筆者らは機械受容体に着目した.機械受容体は感覚受容体群であり,眼の表面でも痛覚などに関与しているが,眼内でも眼圧変動で組織が伸展するため,作動する可能性がある.まず,ヒト線維柱帯細胞に高発現している機械受容体のCPiezo1とCTRPV4に着目した.線維柱帯細胞のシート培養に眼圧上昇により惹起されると考えられる伸展刺激や受容体作動薬を加えると,まず既報通り細胞内カルシウム濃度が上昇し,興味深いことに生理活性脂質のCPGEC2が放出された13,14).受容体を刺激すると線維柱帯細胞の形態が変化しゲルが収縮するが,PGEC2はその収縮を濃度依存性に有意に抑制した.これは圧変化に対する自己調節能の一つではないかと考える.つまり眼圧上昇により線維柱帯が物理的に伸展するとそれを抑制するために局所的にCPGEC2が産生され伸展を抑制して線維柱帯路の房水流出を維持する可能性が示唆された.臨床病理学的に緑内障眼では線維柱帯細胞が減少することが示されているが,圧変化に反応する線維柱帯細胞が反応しなければ眼圧が制御できなくなることが想像できる(図10).PGEC2以降の細胞内シグナルは未解明であるが,偶然にも現在緑内障眼圧下降薬として認可されているCPGEC2受容体の一つであるCEP2受容体の作動薬オミデネパグは房水流出促進の作用がサルで証明されているが,機械受容体を介した眼圧上昇を抑制するためCPGEC2が反応する生理的作用と同様の薬理作用に基づくのかもしれない.CVIIまとめ今回,長年にわたる多くの研究協力者のおかげで,眼内の生理活性脂質に着目して,眼圧の生理的あるいは病的な病態の解明に挑むことができた.前眼部の眼内内層組織は房水と接しており,房水動態が眼圧を維持し,また血管がない房水流出路は房水を介して組織と細胞に情報を伝達する.生理活性脂質は局所で作用し直ちに代謝され失活するため,前眼部のような房水で維持される閉鎖空間には有意義な役割を有するに相違ない.現にC3種類のプロスタノイド受容体の作動薬が眼圧下降薬として開発された.筆者らの報告した生理活性脂質のCATX-LPA経路は流出路障害を呈する高眼圧病態の一つに過ぎないが,その阻害薬が眼圧上昇抑制に有用かも知れない(図11).一方,TGFCbファミリーや炎症,酸化ストレス,老化など,ほかの隅角瘢痕化の要因はまだ存在するはずである.また,眼圧上昇には房水産生過多の病態も存在するであろう.眼圧の制御因子にも生理活性脂質が関与し図11生理活性脂質と眼圧制御房水と関連組織の生理活性脂質のバランスが眼圧制御に重要.ている可能性も見いだした.しかし,これらはほんの一部で,房水動態そのもの,またその病態の解明にはまだ多くの研究が必要である.マウスの慢性高眼圧モデルは今後の乳頭での軸索障害とそれに伴うCRGC神経線維と細胞体の障害の解明に有用と思われるが,マウスは篩板構造がヒトと明らかに異なるのが欠点であり,マーモセットのような小型サル類での研究が行えれば,緑内障性視神経症の本態である乳頭陥凹に伴う神経軸索障害の詳細が解明されると考える.最後にこれまでの研究にご協力いただいた多くの研究者,同窓会の皆様,そしてとくに,山岸―木村麗子,村田博史,佐伯忠賜朗,太田貴史,靏我英和,本庄恵,内田貴俊,五十嵐希望,清水翔太の各氏には,名前をあげさせていただき感謝申しあげる.文献1)HonjoCM,CTaniharaCH,CInataniCMCetal:E.ectsCofCrho-associatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632ConCintraocularCpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:137-144,C20012)AiharaCM,CLindseyCJD,CWeinrebRN:ReductionCofCintraoc-ularCpressureCinCmouseCeyesCtreatedCwithClatanoprost.CInvestOphthalmolVisSciC43:46-150,C20023)AiharaCM,CLindseyCJD,CWeinrebRN:EpiscleralCvenousCpressureCofCmouseCeyeCandCe.ectCofCbodyCposition.CCurrCEyeResC27:355-362,C20034)AiharaCM,CLindseyCJD,CWeinrebRN:AqueousChumorCdynamicsCinCmice.CInvestCOphthalmolCVisCSciC44:5168-5173,C20035)AiharaCM,CLindseyCJD,CWeinrebRN:Twenty-four-hourpatternCofCmouseCintraocularCpressure.CExpCEyeCResC77:C681-686,C20036)AiharaCM,CLindseyCJD,CWeinrebRN:ExperimentalCmouseCocularhypertension:establishmentCofCtheCmodel.CInvestCOphthalmolVisSci44:4314-4320,C20037)OtaCT,CAiharaCM,CSaekiCTCetal:TheCe.ectsCofCprostaglanC-dinCanaloguesConCprostanoidCEP1,CEP2,CandCEP3Creceptor-de.cientCmice.CInvestCOphthalmolCVisCSciC47:3395-3399,C20068)LiangCY,CWoodwardCDF,CGuzmanCVMCetal:Identi.cationCandCpharmacologicalCcharacterizationCofCtheCprostaglandinCFPCreceptorCandCFPCreceptorCvariantCcomplexes.CBrJPharmacolC154:1079-1093,C20089)InataniCM,CTaniharaCH,CKatsutaCHCetal:TransformingCgrowthCfactor-betaC2ClevelsCinCaqueousChumorCofCglauco-matousCeyes.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC239:C109-113,C200110)HonjoCM,CIgarashiCN,CKuranoCMCetal:Autotaxin-Lyso-phosphatidicCAcidCPathwayCinCIntraocularCPressureCRegu-lationCandCGlaucomaCSubtypes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC59:693-701,C201811)IgarashiCN,CHonjoCM,CAsaokaCRCetal:AqueousCautotaxinCandCTGF-betasCareCpromisingCdiagnosticCbiomarkersCforCdistinguishingCopen-angleCglaucomaCsubtypes.CSciCRepC11:1408,C202112)ShimizuCS,CHonjoCM,CLiuCM,CAiharaM:AnCautotaxin-inducedCocularChypertensionCmouseCmodelCre.ectingCphys-iologicalCaqueousCbiomarker.CInvestCOphthalmolCVisCSciC65:32,C202413)UchidaCT,CShimizuCS,CYamagishiCRCetal:MechanicalstretchCinducesCCa(2+)in.uxCandCextracellularCreleaseCofPGE(2)throughCPiezo1CactivationCinCtrabecularCmesh-workCcells.CSciRepC11:4044,C202114)UchidaCT,CShimizuCS,CYamagishiCRCetal:TRPV4CisCacti-vatedCbyCmechanicalCstimulationCtoCinduceCprostaglandinsCreleaseCinCtrabecularCmeshwork,CloweringCintraocularCpres-sure.CPLoSOneC16:e0258911,C2021

視覚再生をめざしたオプトジェネティクス治療の現状と展望

2025年7月31日 木曜日

視覚再生をめざしたオプトジェネティクス治療の現状と展望OptogeneticTherapiesforVisionRestoration:CurrentStatusandFutureDirections堅田侑作*はじめに網膜の変性疾患,とりわけ網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)は進行性に視細胞および網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)細胞が障害され失明に至る主要な原因であり,その発症頻度は世界でおよそC5,000人にC1人と報告されている1).国内では中途失明原因の第二位を占める.加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)やCRPなどの網膜変性疾患では,光受容細胞である杆体細胞や錐体細胞が不可逆的に機能を喪失し,その結果として重篤な視力障害をきたす.しかし興味深いことに,網膜の内層に位置する双極細胞や網膜神経節細胞(retinalCganglioncell:RGC)などは末期まで生存するケースが多いことが知られている2).これらの残存する内層神経細胞を活用できれば,失われた視覚機能の一部を取り戻すことができる可能性がある.近年,このコンセプトにもとづき,オプトジェネティクス(光遺伝学,用語解説参照)を視覚再生に応用する研究が精力的に行われている.オプトジェネティクスによる治療は,遺伝子導入により残存する網膜神経細胞に光感受性蛋白質を発現させ,本来は光に反応しない細胞に人工的に光受容能を付与するというアプローチである2).このアプローチは原因遺伝子によらない(mutation-agnosticな)遺伝子治療であり,網膜外層の細胞(視細胞やCRPE細胞)の生存を必要としない点で革新的な特徴を有する2).本稿では,オプトジェネティクスを用いた視覚再生の原理と開発動向について概説し,各アプローチの特徴や治験状況(表1)をまとめる.図1にオプトジェネティクスによる視覚再生の概念図を示す.外因性の光受容体遺伝子を導入された内層網膜細胞が,環境光やデバイスから照射された光刺激を電気信号に変換し,網膜神経回路を介して脳に伝達される様子を模式的に描いている.光受容細胞を失った網膜においても,このようにして残存細胞から視覚情報を脳に送る経路を再構築することが本手法の狙いである.CIオプトジェネティクスによる視覚再生の戦略1.光感受性蛋白質の種類と特性オプトジェネティクスでは,光感受性蛋白質(オプシン)を網膜に導入することで,視覚を再建する.使われるオプシンにはおもに三つのタイプがある(表2)2).Ca.微生物型オプシンチャネルロドプシン-2(Channelrhodopsin-2:ChR2)(用語解説参照)は青色光で陽イオンチャネルを開き,細胞を脱分極させる.反応が速く(ミリ秒単位),即時的な興奮を起こせるが,細胞内に信号を増幅する仕組みをもたないため,強い光が必要になる.暗い場所や自然光レベルでは反応が不十分なことがあり,特殊なゴーグルなどの使用が検討されることもある.赤色光で作動するCChrimsonRやCReaChR,高感度型のCChronos,CaC2+透過性を高めたCCatChなど,多くの改良型も開発されている3~6).*YusakuKatada:慶應義塾大学医学部眼科学教室,(株)レストアビジョン〔別刷請求先〕堅田侑作:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室(1)(57)C8410910-1810/25/\100/頁/JCOPY表1オプトジェネティクスによる視覚再生のおもな開発シーズと特徴微生物型動物型キメラ型開発主体CRetroSense(Allerganが買収)CGensightBiologicsCBionicSightCNanoscopeTheraputicsCVedereBio(Novartisが買収)CRestoreVision開発コードCRST-001CGS030CBS01CMCO-010CRV-001オプシンCChannelrhodopsin2CChrimsonRCChronosFPCMulti-CharacteristicOpsin(MCO)錐体オプシンCGHCR感受波長青色青.赤色青.赤色青.赤色青.赤色青.赤色標的細胞CRGCCRGCCRGCON型双極細胞ON型双極細胞ON型双極細胞特徴感度が低い専用ゴーグルを用いて光増幅専用ゴーグルを用いて光増幅比較的高感度内在性のCG蛋白質シグナル増幅により高感度だが,CRPE障害が重篤な場合に懸念内在性のCG蛋白質シグナルにより高感度.進行抑制効果も技術元ウェイン州立大学発ソルボンヌ大学発ワイル・コーネル医科大学発カリフォルニア大学バークレー校発慶應義塾大学・名古屋工業大学発開発の進捗状況第C1/2相試験完了(安全性確認)CNatMed2021.第C1/2相試験中(一部有効性報告)第C1/2相試験中(一部有効性報告)インド第C1/2相試験米第C2/3相試験完了(有効性報告)非臨床開発中第C1/2相試験中治験番号CNCT02556736CNCT03326336CNCT04278131CNCT04945772CJRCT2033240611各国の大学発スタートアップが中心となって開発が進められている.(視細胞が変性消失)図1オプトジェネティクスによる視覚再生の概念図光感受性蛋白質の遺伝子を導入し,RP患者でも残存するCRGCや双極細胞を光受容体のように変えることで視覚再生を期待する技術である.表2光感受性蛋白質(オプシン)の種類と特性オプシン感度自立性備考微生物型低C○感度の低さを克服するため,ゴーグルデバイスとの組み合わせ,変異体の作製などの試みがなされる.異種蛋白質発現による免疫原性の懸念もある.動物型高C×11-cisレチナールの供給があること,つまりCRPEの残存が前提であり,現状では治験に入ったものではない.キメラ型高C○ハイブリッド化することにより,微生物型と保留類型の特徴を両立する.微生物型に比べて特異性が高いため,標的細胞へのデリバリーが課題となる.おもに上記のC3タイプがあり,さまざまなオプシンの研究開発が進められている.初期の例として,2006年にCBiらがCChR2をCRGCに発現させた盲目マウスで,ERGや視覚誘発電位の回復を報告した3).日本では,東北大学の富田らがC2007年に,RCSラットの網膜にCAAVでCChR2を導入し,高齢でも光応答が得られることを示した12).さらにC2008年,LagaliらはCChR2をCON型双極細胞に導入し,より生理的な視覚回路の活性化に成功している4).そののち,感度や応答特性の向上を目的にさまざまな改良が進められた.Flanneryらはマウス,ラット,犬などのモデルでCAAV-ChR2を用い,行動試験での視覚改善を報告した5).ただし,ChR2は高照度の光を必要とするため,自然光環境での有用性には限界があるとされた.この課題に対し,Roskaらは高感度型のCOpto-mGluR6を開発し,2015年に変性マウス網膜での有効性を示した8).暗所の水迷路試験でも視覚行動の改善がみられ,G蛋白質による信号増幅によって少ない光でも反応が得られることが確認された.さらに筆者らはC2023年,GHCRを網膜変性マウスに導入し,微弱な光での網膜・視床の電気応答,行動改善を示した.加えて,GHCR導入群では網膜変性の進行が抑えられており,視覚刺激による神経保護作用の可能性も示唆された8).このように,国内外でさまざまな改良型オプシンと標的細胞を用いた検証が進められ,オプトジェネティクス療法は実用化に向けて着実に前進している.CIII臨床試験の現状と開発シーズの動向オプトジェネティクスによる視覚再生は,2010年代後半から世界各地で臨床試験が開始されはじめた.表1に主要な開発シーズ(アプローチ)の特徴と進捗状況をまとめる.以下,代表的なプロジェクトについて解説する.C1.臨床応用に向けたおもなプロジェクトa.ChR2を用いた網膜神経節細胞標的療法世界初の臨床試験として報告されたのは,上記非臨床での最初の概念実証を報告したCWayneStateUniversi-tyからライセンスを受けた米国のスタートアップCRet-roSense社(後にCAllergan社が買収)によるCRST-001である.RST-001はCAAV2ベクターでCChR2をCRGCに発現させる治療法で,2016年にCRP患者を対象とした第C1/2相臨床試験が開始された.この試験はおもに安全性評価を目的としており,重篤な有害事象なく経過したと報告されている(第C1/2相試験の結果は正式な学術論文としては未公表だが,プレスリリースなどで安全性と一部の患者での光知覚向上が言及された).しかし,ChR2の感度の問題から,高強度の光刺激装置なしで有意な視力改善を得ることは困難であったと推測される.RST-001の後続開発について公表情報は少ないが,この試験は初のオプトジェネティクスの臨床応用として歴史的意義がある.Cb.ChrimsonRを用いた網膜神経節細胞療法+ゴーグルフランスのパリ視覚研究所(InstitutdelaVision)やソルボンヌ大学の研究成果をもとに設立されたスタートアップのCGenSight社は,ChR2より長波長で作動する赤色光感受チャネルロドプシンCChrimsonRを用いた治療法であるCGS030を開発し,RP患者を対象に臨床試験を行っている.GS030ではCAAV2ベクターでCChrim-sonRをCRGCに発現させ,さらに患者が着用するゴーグル型装置によって周囲の映像を取得・増幅し,可視光レーザーで網膜に投影するというシステムを組み合わせている.2021年には,この試験に参加したフランスの患者において部分的視機能の回復が達成されたとの報告がなされた6).NatureMedicine誌に報告されたこのケースでは,重度の視力障害だった患者が遺伝子治療後にゴーグルを装用し訓練を行った結果,大型の物体を認識・把持できるようになり,視野計測でも光刺激に対する応答が確認されたとしている.これはオプトジェネティクス療法によるヒトでの初めての有効性実証であり,大きな注目を集めた.現在,GenSight社の臨床試験(PIO-NEER試験)は用量漸増や効果検証が進められている.ChrimsonRは波長C590Cnm付近の橙色光で活性化するため,青色光のCChR2に比べて網膜への光透過や安全性で有利と考えられる.ただし,ゴーグル装置による映像強調が不可欠であり,治療の複雑さや装置依存性が課題として残る.844あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025(60)c.マルチキャラクタリスティック・オプシンによる双極細胞療法米国CNanoscopeCTherapeutics社は,独自に開発したマルチキャラクタリスティック・オプシン(multi-char-acteristicopsin:MCO)という人工オプシンを用いてON型双極細胞に光感受性を付与するアプローチを推進している.MCOは複数の光特性を併せもつ設計がなされており,広い波長帯の環境光でも活性化可能であることが特徴とされる(具体的な分子実態は公表されていないが,複数の変異を組み込んだCChR2ベースのチャネルと考えられる).AAV2ベクターを硝子体内投与し,網膜の双極細胞にCMCOを発現させる治療法CMCO-010は,米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA)からCRPおよびCStargardt病に対してファストトラック指定およびオーファン(希少疾病用医薬品)指定を受けている.注目すべきは,近年報告された臨床試験結果である.Nanoscope社は重度のCRP患者を対象に第2/3相試験(RESTORE試験)を実施し,主要評価項目であるベースラインからC52週後の最良矯正視力(bestCcorrectedCvisualacuity:BCVA)の有意な改善を達成したと発表した14).具体的には,ベースラインで指数弁以下(20/3,200相当)であった視力が,高用量群ではC1年後にC20/1,500,1年半後にC20/900程度まで改善したとされる.低用量群でもC20/1,300前後への改善がみられ,視力スコアでC3行以上の改善(logMARでC0.3以上の改善)を示した患者は半数以上に上ったという.さらに深刻な有害事象は報告されておらず,安全性も良好であった.学会報告レベルではあるが,この結果は,オプトジェネティクス療法が「視力(文字判読能力)」の向上につながった初めての例といえる.MCO-010は外部デバイスを必要とせず,日常光で機能しうる点も患者の負担を軽減する.Nanoscope社は今後CFDAとの協議のうえで生物製剤承認申請(biologicsClicenseCapplica-tion:BLA)をめざすとしており,数年以内に実用化の可能性がある.Cd.日本における開発日本でもオプトジェネティクス療法の臨床応用に向けた動きが加速している.富田らは黎明期よりオプトジェネティクス視覚再生研究を牽引し,長波長感受性オプシンCmVChR114)がアステラス製薬にライセンス供与され,2016年より開発が進められたが,2021年に中止となった.第一三共はC2020年より神取・角田氏の高感度チャネルロドプシン(GtCCR4)を用いた遺伝子治療開発に参画した.名古屋工業大学・三菱CUFJキャピタルとの共同研究(OiDE)でCGtCCR4の最適化と有効性評価に成功し15),その成果を受けて,開発を進めていた提携ベンチャーを買収し,自社開発へ移行.現在,治験開始に向けた準備を進めている.筆者が代表を務める慶應義塾大学・名古屋工業大学発ベンチャーのCRestoreVision社は,先述のCGHCRを用いた遺伝子治療薬CRV-001の開発を進めている.RV-001はCAAVベクターにCGHCR遺伝子を搭載したもので,網膜色素変性症を対象とした第C1/2相試験を2025年より開始した.日本では始めてのオプトジェネティクス療法の治験であり,キメラ型オプシンを使ったものとしては世界初の臨床試験である.GHCRはより高感度で生理的なシグナルを再現できることから,より自然で実用的な視覚再生効果が期待される.安全性と探索的に有効性を確認するための治験であり,現在CRPにより光覚を失った眼をもつ患者を対象に被験者の募集を行っている(図2).Ce.その他の動向上記以外にも,情報が限られるが,米国ワイル・コーネル医科大学発のスタートアップであるCBionicSight社はCRGCにチャネルロドプシンを発現させ,独自のビジュアルプロセッサで符号化したパターン刺激を投与するアプローチで治験開始されている.また,中国でもZM-02(JungMo社)やCUGX-201(UnicornGene社)など,オプトジェネティクス製剤の臨床試験が開始されている.また,眼科領域外ではあるが,グルタミン酸受容体チャネルに光開閉性の化学修飾を付加した光スイッチ型薬剤(Photoswitch)を利用して網膜神経細胞を一時的に感光化する手法も研究されている16).これは遺伝子治療ではなく,光感受性化合物の反復投与により視機能を補助するアプローチで,米国で初期の臨床試験が行われた.もっとも,本稿の主眼である遺伝子治療型オプト(61)あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025C845図2被験者募集の告知現在,慶應義塾大学病院では被験者の募集を行っている.-

神経栄養因子を用いた網膜色素変性に対する視細胞保護遺伝子治療の臨床試験

2025年7月31日 木曜日

神経栄養因子を用いた網膜色素変性に対する視細胞保護遺伝子治療の臨床試験ClinicalTrial.ofNeurotrophicFactorGeneTherapyinPatientswithRetinitisPigmentosa池田康博*はじめに筆者が網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)に対する遺伝子治療の研究を始めたのはC1990年代の終わりごろであるが,抗血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)治療のように眼内へ薬剤を頻回に投与することは臨床的に非常にハードルの高い時代であった.一回の眼内投与で完結する治療法はないかと考え,遺伝子治療にたどり着いた.また,当時はゲノム編集遺伝子治療のように病気の原因となっている遺伝子を正常に戻すということが患者の眼内でできるようになるような状況でもなかった.そもそも,病因遺伝子を調べる遺伝子診断の技術もまだまだ未熟であった.そのため,種々の病因遺伝子によりCRPで生じる視細胞死(アポトーシス)を何らかの薬で抑制できないだろうかと考え,神経栄養因子とよばれる蛋白質のもつ神経保護効果に着目した(図1a).遺伝子という形で眼内へ薬(神経栄養因子)の設計図を投与し,遺伝子導入された細胞から薬を分泌させる(図1b).薬の製造工場を眼のなかに造るイメージである.本稿では,神経栄養因子を用いたCRPに対する視細胞保護遺伝子治療研究とそれに基づく臨床応用について紹介する.CI神経栄養因子による神経保護治療神経栄養因子とは神経細胞の生存維持や分化誘導などに影響する蛋白質の総称で,神経成長因子(nervegrowthfactor:NGF),脳由来栄養因子(brain-derivedCneurotrophicfactor:BDNF),毛様体由来神経栄養因子(ciliaryCneurotrophicfactor:CNTF)などが有名であるが,それぞれがさまざまな神経細胞の細胞死(アポトーシス)を抑制する生理作用を有することが知られている.これらの神経栄養因子は,筋萎縮性側索硬化症(amy-otrophicClateralsclerosis:ALS)やアルツハイマー病などの神経変性疾患の治療薬として臨床応用されたが,これまで十分な治療効果が得られていなかった1).しかし,CNTF遺伝子を導入した細胞を封じ込めたカプセルNT-501(ENCELTO)を毛様体扁平部に固定して硝子体内に留置し(図2),硝子体腔中に持続的にCCNTF蛋白質を分泌させるという臨床試験(第C3相)において,黄斑部毛細血管拡張症(maculartelangiectasia:MacTel)2型の患者に対する治療効果が証明され,最近,米国で神経保護作用を有する治療法として承認された2).今後,神経保護治療が見直されることが期待されている.多くの神経栄養因子のなかから筆者が選んだのは,色素上皮由来因子(pigmentCepithelium-derivedfactor:PEDF)である.ヒト胎児網膜色素上皮(retinalCpig-mentepithelium:RPE)細胞の培養上清から抽出された分泌型の糖蛋白で,その生理作用として神経保護効果と強力な血管新生抑制効果を併せもつことが知られていたため3,4),RPや緑内障だけでなく糖尿病網膜症や加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)*YasuhiroIkeda:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕池田康博:〒889-1692宮崎県宮崎市清武町木原C5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野(1)(51)C8350910-1810/25/\100/頁/JCOPYa発症遺伝子治療(SIV.hPEDF投与)bhPEDF蛋白質SIV.hPEDF視細胞RPE細胞視機能年齢病気の進行を遅らせることを目的とする図1視細胞保護遺伝子治療のコンセプトa:遺伝子治療により,RPの進行を抑制させることを目的とする.Cb:網膜にCSIV-hPEDFを遺伝子導入すると,RPE細胞から神経栄養因子であるChPEDF蛋白質が分泌される.図2眼内に留置されるカプセルNT-501(ENCELTO).https://www.encelto.com/about-encelto/(ENCELTOのホームページより抜粋引用)abWistarUntreatedSIV-EmptySIV-hPEDFMergeTUNELAIFPEDFreceptorミトコンドリアAIFアポトーシス図3PEDFによる視細胞保護のメカニズムa:RPモデル動物であるCRCSラットの網膜組織.未治療群(UntreatedとCSIV-Empty)では,アポトーシスを起こしている視細胞(TUNEL陽性細胞,緑色)にCAIFの核内移行(赤色)が認められる.一方,治療群(SIV-hPEDF)ではアポトーシスが抑制されている.b:PEDFはCBcl-2の発現亢進を介して,AIFのミトコンドリアからの放出を抑制することでアポトーシスを防止している.(文献C8より改変引用)AAVベクターLVベクター主流◎眼への臨床応用少ない△弱い△遺伝子発現高い△催炎性・免疫原性約4.5kb△搭載遺伝子図5術中眼底写真38G針を用いてCDVC1-0401(SIV-hPEDF)を網膜下投与し,bleb(網膜.離)が形成されている().—’C

世界で行われている遺伝子治療の臨床試験

2025年7月31日 木曜日

世界で行われている遺伝子治療の臨床試験OngoingGlobalGeneTherapyClinicalTrials林孝彰*はじめに遺伝子治療には大きく分けて二つの方法がある.一つは,患者から得たリンパ球などをいったん体外に取り出して培養処理を行い,目的の遺伝子や相補的CDNA(complementaryDNA:cDNA)(用語解説参照)を導入・発現させたあとに再び体内に戻す方法(exvivo遺伝子治療)である.もう一つは,遺伝子やCcDNAを運搬するベクターを全身または特定の部位に直接投与し,体内で目的の遺伝子を働かせる方法(invivo遺伝子治療)である.Invivo遺伝子治療のベクターとして,アデノ随伴ウイルス(adeno-associatedvirus:AAV)ベクターがしばしば使用される.脊髄性筋萎縮症に対して,2020年に日本で最初のCinvivo遺伝子治療薬ゾルゲンスマが承認された.この薬剤は,AAVserotype9(AAV9)ベクターを使用し,点滴静注による全身投与を行う.AAV9に対する抗体の影響を受けるため,抗CAAV9抗体が陰性の患者が対象となる.そして,2023年に両アレル性CRPE65遺伝子変異(用語解説参照)を有する遺伝性網膜ジストロフィ(inheritedCretinaldystrophy:IRD)患者C4例を対象とした国内第C3相臨床試験(A11301試験)でその安全性が確認され,ボレチゲンネパルボベク(ルクスターナ注)が国内初のCIRD治療薬として保険適用となった.ルクスターナ注は,RPE65cDNAが組み込まれたCAAV2ベクター(図1)を用いた代表的な局所投与によるCinvivo遺伝子治療薬である.一方で,海外に目を向けるとさまざまなCIRDや遺伝性視神経症に対する遺伝子治療の臨床試験が活発に行われている.本稿では,海外における最新の遺伝子治療に関する臨床試験について紹介する.CI遺伝子補充療法遺伝子補充療法は,遺伝子全体の機能が失われることによって発症する常染色体潜性(autorosmalCreces-sive:AR)遺伝やCX連鎖潜性(X-linkedrecessive:XL)遺伝に起因するCIRDを対象とし,失われた遺伝子機能を補うことで視機能の回復や症状の改善をめざす治療法である.母系遺伝のCLeber遺伝性視神経症(LeberhereditaryCopticCneuropathy:LHON)に対しても臨床試験が実施されている.この方法では,変異遺伝子から転写・翻訳された変異蛋白質を除去できるわけではない.C1.RPE65関連IRDルクスターナ注は,日本で保険収載されている唯一の遺伝子治療薬であり,硝子体手術を行い網膜下に投与する(図1).本治療により視機能が改善する一方で,2022年に投与後の脈絡網膜萎縮の発生1)が報告された.この合併症は,第C3相試験では報告されていなかった有害事象である.2024年には米国ミシガン大学のCDr.Bommakantiらにより,治療を受けたC187眼中C27眼(14例,14.4%)で脈絡網膜萎縮が発生したと報告され*TakaakiHayashi:東京慈恵会医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕林孝彰:〒105-8461東京都港区西新橋C3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座(1)(41)C8250910-1810/25/\100/頁/JCOPYabインジェクションAAV2カプシドカニューレ5’ITRAAV2ベクター(ルクスターナ注)hRPE65promoterRPE65cDNApA3’ITR硝子体腔網膜下ヘ注入図1ルクスターナ注の構造と投与部位a:ルクスターナ注の遺伝子構造は,AAV2複製に必要なC2本鎖CDNAからなる反復配列(invertedterminalrepeat:ITR)が5′と3′端に,ヒトCRPE65プロモータ(hRPE65promoter),その下流にCRPE65CcDNAとCpolyAシグナル(pA)が配列している.網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)で発現されるように工夫されている.Cb:ルクスターナ注は,日本で保険収載されている唯一の遺伝子治療薬であり,硝子体手術を行い,網膜下に投与される.Cabc図2コロイデレミア症例の眼底自発蛍光写真黄斑部の残存自発蛍光(preservedauto.uorescence:PAF)面積は,年齢とともに縮小している.Ca:16歳,PAF33.31CmmC2.Cb:27歳,PAF18.37CmmC2.c:52歳,PAF3.32CmmC2.(文献C3より改変引用)図3RPGR遺伝子変異(p.Trp164Cys)を有するRPの眼底写真網脈絡膜萎縮に加えて周辺部に黒色沈着物がみられる.エクソン1.14ORF15RPGR3′遺伝子5′15851152RPGRORF15NCAAVベクター治療薬(AAV5.hRKp.RPGR)AAV5カプシドBotaretigenesparoparvovec図4RPGR遺伝子構造,RPGRORF15蛋白質構造,RPGR遺伝子治療薬RPGR遺伝子から翻訳されたCRPGRORF15蛋白質は視細胞で発現している.とくにC568アミノ酸からなるORF15領域(p.Glu585.p.Lys1152)は,グルタミン酸(Glu)/グリシン(Gly)に富んだ配列を含んでいる.遺伝子治療薬Cbotaretigenesparoparvovec(AAV5-hRKp.RPGR)は,ORF15遺伝子を組み込まれ,視細胞特異的に発現させるためにヒトロドプシンキナーゼ(hkGRK1)プロモータが選択されている.4),RPGR遺伝子変異の約C60%が,この領域に密集している.しかし,ORF15領域はショートリード(用語解説参照)による次世代シークエンサ解析での塩基配列決定が困難であるため,ロングリード(用語解説参照)解析やCSanger法による解析が推奨される.ORF15遺伝子を組み込んだCAAV5ベクター(図4)による遺伝子治療薬CbotaretigeneCsparoparvovec(AAV5-hRKp.RPGR,CJanssenPharmaceuticals/ジョンソン・エンド・ジョンソン)の第C1/2相試験(NCT03252847)が報告されている6).対象はC5歳以上の男子,用量漸増試験で,成人では本剤を低容量,中容量,高容量に分け,視力不良眼の網膜下に投与された.3名の小児例には中容量が投与された.対照群ではC26週後に実際の治療が行われ,対照群(治療C26週後)と治療群(治療C52週後)で比較検討された.安全性に関しては,ステロイド治療でコントロール可能な眼炎症以外の有害事象はみられなかった.治療群において,網膜感度と視機能に有意な改善が確認された6).現在は第C3相試験(NCT04671433,NCT04794101)が進行中で,日本では東京医療センター(NCT05926583)で行われている.C4.Leber遺伝性視神経症LHONは,ミトコンドリアCDNAの変異によって発症する母系遺伝の疾患である.なかでもCND4遺伝子のm.11778G>A変異はもっとも頻度が高く,かつ重症型として知られている.ヒトのミトコンドリアCDNAは16,569bpからなり,37遺伝子を含んでいる.すべての遺伝子にイントロンが存在しないという特徴がある.LenadogeneCnolparvovec(LUMEVOQ,CGenSightBiologics社)は,AAV2ベクターにCND4遺伝子を組み込んだ遺伝子治療薬である.強力にCND4蛋白を発現させる目的で網膜神経節細胞に特異的なプロモータ設計が困難であったことから,組織非特異的なヒトサイトメガロウイルスプロモータが選択されている.m.11778G>A変異を有するCLHON症例を対象に,二つの第C3相ランダム化比較試験が実施された.RESCUE試験(NCT02652780)およびCREVERSE試験(NCT02652767)では,発症からC6.12カ月以内の症例の片眼に対し,硝子体注射でClenadogeneCnolparvovecが単回投与された.注目すべき結果は,治療眼のみならず非治療眼においても視力の改善が確認された点である.さらに,両試験の長期追跡調査として行われたRESTORE試験(NCT03406104)では,lenadogenenolparvovec投与からC5年後の成績が報告された7).この追跡研究により,両眼の視力の改善効果がC5年間持続していることが確認され,本治療の長期的有効性が示唆された.また,試験中に死亡した被検者C2例の死体眼組織を用いた解析では,投与眼のみならず非投与眼においても治療薬の存在が確認され,両眼の網膜神経節細胞に遺伝子が導入されていたことが明らかとなった7,8).今後,日本でもClenadogeneCnolparvovecの臨床試験が実施されることを期待したい.CIIアンチセンスオリゴヌクレオチド治療遺伝子補充療法は,ARやCXL遺伝によるCIRDをおもな対象とする治療である.一方で,ヘテロ接合変異によって発症する常染色体顕性(autosomaldominant:AD)遺伝によるCIRDは遺伝子補充療法の対象とはならない.アンチセンスオリゴヌクレオチド(antisenseoligonu-cleotidesASOs)は,15.30塩基程度の短いC1本鎖RNAまたはC1本鎖CDNA配列であり,転写された特定のCmRNAに相補的に結合することで,mRNAからの翻訳を阻害し,スプライシングの調節を行うように設計されている.ASOsの対象は,機能獲得型変異(用語解説参照)によるCAD遺伝だけでなく,スプライシング異常を伴うCAR遺伝のCIRDにも広がっている.たとえば,AR遺伝のCLeber先天黒内障(LeberCcongenitalCamau-rosis:LCA)の原因となるCCEP290遺伝子(NM_025114.4)イントロンC26における変異(c.2991+1655A>G,rs281865192)によるCLCA10では,新たなスプライスドナー部位(crypticsplicesite)が形成され,異常なスプライシングによって余分なエクソンが挿入されたmRNAが生成され,結果として短縮型変異蛋白質(p.Cys998Ter)が産生される(図5).Sepofarsen(17-mer2′-O-methyl-modi.edphosphorothioateantisenseRNAoligonucleotide,CProQRCTherapeutics社)は,この異常スプライシングを抑制するために設計されたC1本鎖CRNA型のCASOs治療薬である.Sepofarsenは硝子828あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025(44)abSepofarsenの硝子体注射イントロン26イントロン26CEP290c.2991+1655A>Gc.2991+1655A>GPre-mRNA(mRNAの前駆体)変異Sepofarsen変異に相補的結合転写転写mRNA過剰転写産物エクソン26*エクソン27128bpp.Cys998Ter(短縮型変異)正常転写産物図5CEP290遺伝子変異とアンチセンスオリゴヌクレオチド治療薬(sepofarsen)の作用機序a:イントロンC26のCc.2991+1655A>G変異によって新たなスプライス部位が出現し,エクソンC26とC27の間に過剰転写産物が生成され,結果的に短縮型変異(p.Cys998Ter)が引き起こされる.Cb:sepofarsenの硝子体注射によって,変異部位に相補的に結合し,正常のCCEP290転写産物が産生される.編集されたCEP290遺伝子切断されたDNAPre-mRNAmRNA正常転写産物図6ゲノム編集治療薬(EDIT-101)の作用機序EDIT-101は,2種類のガイドCRNA(gRNA-323とCgRNA-64)と,黄色ブドウ球菌由来のCCas9ヌクレアーゼ(視細胞特異的ロドプシンキナーゼプロモータ下で発現)で構成されている.EDIT-101は,AAV5ベクターを用いて網膜下に投与される.視細胞に取り込まれたCEDIT-101は,gRNA-323とCgRNA-64が,CEP290遺伝子・イントロンC26内変異(c.2991+1655A>G)の両側の特異的CDNA配列を認識し結合する.そののち,Cas9のヌクレアーゼ活性により標的部位の二本鎖CDNAが切断される.DNA修復機構である非相同末端結合によって切断されたCDNA末端が再結合されることで変異が除去され,正常なCCEP290CmRNAが発現する.伝子に依存しないアプローチが可能となっている.プロモータにはCON型双極細胞に特異的に発現するCGRM6遺伝子のプロモータが使用されている.第C2b相試験(RESTOREランダム化比較試験,NCT04945772)では,重度の視覚障害を有するCRPのC18例を対象として,MCO-010の効果が評価された.1年後の評価で,プラセボ群と比較してすべての症例で視力およびモビリティテストのスコアが改善したことが,2023年C4月C27日付けのプレスリリース(https://nanostherapeutics.com/press-releases/)で発表された.さらに,2年後の時点でも視力の改善が持続しているとの報告がC2024年C10月C31日に発表された(同上).MCO-010は,RPだけでなくCStargardt病に対しても臨床試験が進行している.2024年C9月C12日には,Stargardt病を対象した第2相試験(STARLIGHT試験,NCT05417126)の試験完了報告と第C3相試験計画の発表がなされた(同上).今後,さまざまなCIRDに対してCMCO-010を用いた臨床試験の展開が期待される.また,国内においても慶應義塾大学眼科でCRV001(光センサー蛋白質・キメラロドプシンを取り入れたCAAV遺伝子治療薬)を用いた光遺伝学治療のC1例目の実施・完了がC2025年C2月C13日にプレスリリースされた(https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/).CVStargardt病に対する治療Stargardt病は,ABCA4遺伝子の両アレル変異によって発症するCAR遺伝の黄斑ジストロフィである.遺伝子補充療法ではCAAVベクターが広く用いられるが,AAVベクターに搭載可能なCcDNAサイズの上限は約C4.7kbに制限されている.一方で,Stargardt病の原因であるCABCA4遺伝子のCcDNAサイズは約C6.7kbと大きく,単一のCAAVベクターに組み込むことができないという課題があった.この問題点を解決するために開発されたのがCDualAAVベクター技術(mRNACtranssplicingによる再構成)である.この技術により,ViGeneron社(ドイツ)のCVG801というC2種類のCAAVベクターを用いて,全長CABCA4mRNAの発現が可能であることが確認された13).2024年C12月にはCVG801が米国CFDAにより承認され(https://vigeneron.com/news-events/),第C1/2相試験が開始予定されている.Stargardt病に対して,視サイクル(図7)の調節を目的とした経口薬の臨床試験が行われている.エミクススタト塩酸塩(emixustathydrochloride,以下エミクススタト,窪田製薬ホールディングス)とCtinlarebant(BeliteBio社)について紹介する.エミクススタトは,萎縮型加齢黄斑変性の進行を遅らせる目的で開発されたが,プラセボ群との比較において病変拡大率に有意差はみられなかった14).その後,RPE65阻害作用(図7)が確認され,2017年に米国でStargardt病と診断されたC23例(18歳以上)を対象とした第C2相試験(NCT03033108)が実施された.この試験では,2.5Cmg,5CmgCor10Cmgの用量で投与され,視サイクルを制御する作用が確認された15).とくに,10mg投与で最大の抑制効果が示された.一方で,暗順応の遅延や色覚異常(dyschromatopsia)といった眼科的副作用も報告された.2022年には,第C3相試験(NCT03772665)が完了し,10CmgのエミクススタトまたはプラセボをC1日C1回,24カ月間投与する試験が実施された.194例のCStargardt病患者を対象とし,眼底自発蛍光(fundusauto-.uorescence:FAF)で撮像された黄斑萎縮領域(de.nitelyCdecreasedauto.uorescence:DDAF)の進行率が評価された.その結果,全体では治療群とプラセボ群の間に有意差はみられなかった16).しかし,ベースラインで小さなCDDAFを有していたC55例のサブ解析では,治療群(34例)の病変進行がプラセボ群(21例)と比較してC40.8%抑制されていたことが示された16).この結果を受けて,今後は小さなCDDAFを有する症例に限定した臨床試験が行われる可能性がある.Tinlarebantは,レチノール結合蛋白質C4(RBP4)へのレチノールの結合を阻害することで,レチノール(all-trans-retinol)の網膜色素上皮(retinalCpigmentCepithe-lium:RPE)への供給量を減少させ,毒性代謝物(bis-retinoids)の蓄積を抑制する作用を有する(図7).若年Stargardt病患者を対象とした第C3相試験(DRAGON試験,NCT05244304)が現在進行中であり,2025年C2月C27日の中間解析結果で,本剤の忍容性は良好,安全性プロファイルもこれまでの知見と一致していると発表(47)あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025C831RBP-all-trans-RolChoroidalcirculationRBP4エミクススタトRPE65RPETinlarebantRetinyl11-cis-RolestersLRATRDH5all-trans-Roi11-cis-RalIRBPIRBPall-trans-Roi11-cis-RalRDH12RhodopsinABCA4RHO視細胞外節(RodOS)図7視サイクルにおける経口薬(エミクススタトとtinlarebant)の作用部位エミクススタトは,RPEに発現しているCRPE65阻害作用によって視サイクルを制御する薬剤である.一方,tinlarebantは,レチノール結合蛋白質C4(RBP4)の作用を阻害することで,レチノール(all-trans-retinol:all-trans-Rol)のCRPEへの供給量を減少させる薬剤である.—

保険承認された遺伝子治療(RPE65関連網膜症に対する遺伝子補充治療)

2025年7月31日 木曜日

保険承認された遺伝子治療(RPE65関連網膜症に対する遺伝子補充治療)Insurance-ApprovedGeneTherapy(GeneAugmentationTherapyforRPE65-RelatedRetinopathy)角田和繁*はじめに網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)は,網膜関連遺伝子の異常によって網膜視細胞および網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)細胞がゆっくりと変性し,夜盲,視野狭窄,視力低下などをきたす疾患である.本疾患に対しては,これまでさまざまな治療の試みがなされてきたが,2023年6月にRPE65遺伝子異常を原因とする網膜ジストロフィ(RPE65関連網膜症)を対象とした遺伝子補充治療薬(用語解説参照)が国内において初めて保険収載され,現在は国内の2施設で治療が行われている.現在のところ,対象はRPE65関連網膜症に限られているが,それ以外にも多くの原因遺伝子を対象とした臨床治験が海外を中心に行われている(特集の別項目参照).このため,RPの診療にあたっては正確な遺伝学的診断に加えて,「その患者が現時点で治療の対象となるかどうか」という新たな視点での対応が求められるようになってきている.本稿では,国内で初めて承認された網膜遺伝子治療の対象疾患であるRPE65関連網膜症について,その診断と治療の概要を解説する.I治療に対するさまざまな取り組みRPに対しては,国内においてもさまざまな治療の試みが行われてきた.発症初期~中期にかけての網膜の機能維持を目的とした治療としては,内服治療薬(分岐鎖アミノ酸,代替レチノイド,リードスルー薬など),網膜下への神経保護因子の遺伝子導入治療(特集の別項目参照),経皮膚電気刺激療法などの開発や臨床治験が行われてきた.また,重症患者に対して新たな視機能獲得を目的とした治療としては,人工網膜(光に反応して脳に電気信号を送るチップを眼内に埋め込む),網膜再生医療(iPS細胞を用いた網膜視細胞移植),オプトジェネティクス(障害された視細胞の代わりに光感受性蛋白の遺伝子を網膜内に導入する.特集の別項目参照)などの開発や臨床治験が進められている.これらの治療法の多くは,基本的に原因遺伝子の種類に限定されない治療法である.一方で,RPの原因遺伝子ごとに行われる個別化医療として,遺伝子補充治療,遺伝子編集治療,アンチセンスオリゴヌクレオチドに代表されるmRNA修飾治療等の臨床治験が,おもに国外においてさまざまな網膜関連遺伝子に対して行われてきた.そして2017年には,RPE65関連網膜症に対する遺伝子補充治療薬ボレチゲンネパルボベク(ルクスターナ注)が米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)に承認され,わが国においても,国内における第3相試験を経て2023年に保険収載されるに至った.II本治療の対象疾患本治療の対象疾患はRPE65関連網膜症に限定されるが,その表現型はどのようなものであろうか.RPには*KazushigeTsunoda:東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部〔別刷請求先〕角田和繁:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部(1)(33)8170910-1810/25/\100/頁/JCOPY100種類程度の原因遺伝子が知られ,それぞれの遺伝子が関与する蛋白質の機能や局在によって,網膜障害のパターンや重症度などが異なっている.このうちCRPE65遺伝子がコードする蛋白はCRPE細胞におけるビタミンAサイクル(visualcycle)において重要な役割を果たす酵素(レチノイドイソメロヒドロラーゼ)であり,この酵素の働きが障害されることで杆体視細胞の機能が傷害される.ビタミンCAサイクルに関する遺伝子は,ほかにもCLRAT,RDH5,RLBP1などが知られているが,いずれもその異常によって杆体機能が低下し,夜盲を生じることが特徴である.RPE65遺伝子の異常によって生じる代表的な病態として,Leber先天盲(LeberCcongenitalamaurosis:LCA)および,早期発症重症網膜ジストロフィ(early-onsetCsevereCretinaldystrophy:EOSRD)があげられ1,2),一般外来で診察する定型CRPとはその臨床所見や症状経過がやや異なっている.遺伝形式は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)であり,兄弟での発症がみられることがあるが,家族歴のない患者も多い.本遺伝子に関連して定型CRPや網膜変性を生じない白点状眼底(fundusalbipunctatus)などの表現型を示す患者もあるが,頻度は高くない.LCAの本来の定義としては,①出生後数カ月~1年以内に重度の視覚障害がみられ,②症状に比べて眼底の異常所見が軽度であり,③全視野網膜電図(electroretC-inogram:ERG)が消失もしくは重度の減弱を示し,④常染色体潜性(劣性)の遺伝形式を示す患者をさす1).また,重度の視力障害とともに,眼振,羞明,夜盲,乳児期にみられるCoculo-digitalsign(自分の手で眼球を強く押さえるしぐさ)などが特徴的な所見である.ただし現在では,発症がC1歳以内であれば視力障害がそれほど重症でなくてもCLCAと診断される傾向にある.LCAに関連する代表的な遺伝子はC20種類以上知られているが,特筆すべき点として,RPE65遺伝子異常によるCLCAは他の遺伝子異常によるCLCAに比べると症状がやや軽く,若年期にはある程度の視機能が残されている患者が多いことがあげられる3~7).このため,LCAの特徴とされるCoculo-digitalCsignはCRPE65関連網膜症では観察されることがなく,また,なんらかの全身合併症を伴うこともまれであるとされている.一方のCEOSRDはLCAより発症が遅いものの,5歳までに発症するCRPの重症型である.ただし,両者の違いは厳密ではなく,LCAとCEOSRDは同一のスペクトラム上に置かれた疾患と考えてよい2).結論として,RPE65関連網膜症の表現型は定型CRPよりも重症であるものの,LCAよりもやや軽症な網膜ジストロフィと要約できる.RPE65関連網膜症の自然経過については,これまでに欧米を中心に多くの報告がなされてきた.共通して指摘されているのは,早期から強い夜盲と視野狭窄,視力不良がみられるものの,幼児期~10代半ばまでの期間は視力が大きく変化しないことである3~7).具体的には,10代までの矯正小数視力はCWHOの弱視基準であるC0.3を下回る患者が多いものの,多くの患者ではC0.1以上を維持しており,ロービジョンケアによって書字,識字が可能な場合も多い.しかし,10代後半~20歳以降には視力低下が著しく,40代ではほぼ全例でCWHOの失明基準であるC0.05を下回る.一方で,求心性視野狭窄は早期から徐々に進行して行く傾向にある.これらの進行過程はCEYS,RPGRなど,ほかの代表的な遺伝子異常による定型CRPに比べるとかなり早いといえる.CIIIRPE65関連網膜症に対する遺伝子補充治療RPE65関連網膜症に対する遺伝子補充治療薬ルクスターナ注はC2012年に米国で第C3相試験が開始され,2017年にCFDAによって承認された.翌C2018年にはEUにおいても承認され,2024年C7月現在,世界のC49の国または地域で承認され,すでにC701症例に対して治療が行われている.国内においても日本人を対象とした有効性と安全性を検討するため,2021年に第C3相試験としてC4例の患者に投与された.そしてC2023年C6月に厚生労働省より製造販売承認を受けている.ルクスターナ注は正常ヒトCRPE65蛋白質(hRPE65)を発現する遺伝子の導入を目的としたウイルスベクターであり,アデノ随伴ウイルスC2型(adeno-associatedvirus2:AAV2)が使用されている.投与方法は網膜下投与であり,治療にあたっては通常のC3ポート硝子体手術が行われる.すなわち,硝子体を除去し後部硝子体.離を完成したのち,網膜下投与カニューレを用いて後極818あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025(34)a図1RPE65関連網膜症と定型RPの広角眼底写真および眼底自発蛍光a:RPE65関連網膜症(34歳,女性).眼底写真(左)では周辺網膜の粗造な色調と血管狭細化が著明であるが,骨小体様変化はみられない.眼底自発蛍光(右)では,黄斑部周囲を除いてびまん性の低蛍光所見が広範囲に観察される.RPE層の欠損を示す蛍光消失領域は見られない.Cb:定型CRP(EYS関連網膜症,31歳,男性).眼底写真(左)では周辺網膜の広範囲に骨小体様変化が見られる.眼底自発蛍光(右)では,骨小体様変化の分布に一致した斑状の蛍光消失領域(黒く写った部分)が観察される.図2遺伝子補充治療に適したRPE65関連網膜症RPE65関連網膜症のC17歳,女性.左眼矯正視力は(0.09).a:眼底写真では血管アーケード周囲の粗造な網膜色調と血管狭細化が著明であるが,骨小体様変化は見られない.Cb:眼底自発蛍光では,黄斑部周囲を除いてびまん性の低蛍光所見が広範囲に観察される.Cc:後極部のCOCTでは,外顆粒層(①)と視細胞CellipsoidCzone(EZ)(②)の萎縮が観察されるものの,まだ十分に残存していることが確認できる.網膜色素上皮層(③)も広範囲で残存している.図3遺伝子補充治療に適さないRPE65関連網膜症RPE65関連網膜症のC29歳,男性.左眼矯正視力は光覚弁.Ca:眼底写真では血管アーケード周囲の粗造な網膜色調と血管狭細化が著明であるが,骨小体様変化は見られない.Cb:眼底自発蛍光では,黄斑部周囲を除いてびまん性の低蛍光所見が広範囲に観察される.Cc:後極部のCOCTでは,外顆粒層(①)と視細胞CellipsoidCzone(EZ)(②)の萎縮が進行して広範囲において消失している.傍中心窩ではCRPE層の萎縮が進行し,Bruch膜が露出している(③).遺伝子補充治療薬:遺伝子機能の喪失によって傷害された組織に対し,ウイルスベクターを用いて正常な遺伝子を核内に補充することで,正常な蛋白質を作り機能を回復させる治療法.ウイルスによって運搬可能な遺伝子の大きさに限りがあるため,原因遺伝子のサイズが小さい網膜疾患が治療の対象となる.眼底自発蛍光(FAF):CRPEに蓄積したリポフスチンを起源とする自発蛍光を二次元的に描出する眼底イメージング法.初期の網膜病変を鋭敏に検出することが可能で,また非侵襲的に繰り返し撮影ができるため,遺伝性網膜疾患の診断においてはフルオレセイン蛍光眼底造影に代わって必須の検査項目となっている.おもにCHeidelberg社製のCHeidelbergCRetinaCAngiograph(CHRA)を用いる方法と,オプトス社製の超広角眼底撮影を用いる方法が一般的であるが,とくにCHRAは解像度とコントラストに優れているため,臨床研究や臨床治験において主要な評価項目として用いられている.両アレル性:常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患において,原因となる病的バリアントが,父由来,母由来のそれぞれの遺伝子に存在していること.これを証明するためには,患者の両親の遺伝子検査を行い,それぞれのバリアントがヘテロで存在することを確認する必要がある.体潜性遺伝(劣性遺伝)が想定される場合には,まず大学病院等の網膜専門医に精査を依頼して治療の可能性を含めて精査することが望まれる.CV治療の現状と治療に適した時期本治療は日本網膜硝子体学会が発行した「ルクスターナ注適正使用指針」に準じて行われている.患者の選択にあたってもっとも重要なポイントは,「病態がRPE65遺伝子の両アレル性(用語解説参照)の変異によるもの」であり,かつ,治療の時点で「十分な生存網膜細胞を有することが確認されている」ことである(図2,3).現在,国内の治療施設は東京医療センターおよび神戸アイセンターのC2施設に限定されており,保険収載後,2025年C6月の時点でC5症例C8眼に対して本治療が施行された.すでに海外ではC700以上の症例に対して治療が行われており,治療成績や合併症に関して多くの報告がある.治療効果については,米国第C3相臨床試験の結果と同様に,ほとんどの症例で網膜感度や視野の改善が報告されている15~17).また,治療時の年齢がC20歳以下の若年者のほうが,より治療効果が高いことが示されている.一方,治験終了後に報告された治療後の網膜所見として,薬物注入の数カ月以降に出現する網脈絡膜萎縮があげられている17~19).これは薬液を注入したCblebの周囲に治療前にはみられなかった網脈絡膜萎縮が出現するものであるが,現在のところ夜盲の改善等の治療効果に及ぼす影響は少ないと考えられている.国内においては「ルクスターナ注適正使用指針の留意事項」として,「若年者の治療が推奨される(一部抜粋)」,「網膜生存網膜細胞の評価は慎重に行うべきである.評価にあたっては,OCTを用いて後極部に十分な網膜外層構造(RPE層から外顆粒層にかけて)が残存していることを確認する(一部抜粋)」,「治療侵襲による視機能への影響を上回る治療効果が得られることが期待できる患者を治療対象とする」等の留意点が示されており,すでに網膜萎縮が進行して治療効果が期待できない患者については対象から外すことが求められている(図2,3).おわりにこれまで遺伝性網膜疾患において有効な治療法はなかったが,RPE65関連網膜症に対してはCAAV2を用いた遺伝子補充治療がC2023年から国内でも実施されるようになった.海外ではすでにC2017年から治療が開始され,有効性と効果の持続性が確認されており,薬剤に起因した重篤な合併症の報告はない.ただし,本治療の対象患者数は非常に少なく,また治療に適した年齢も限られているため,今後さらに多くの患者を対象とした新たな治療法が実現することが期待されている.C■用語解説■文献1)denCHollanderCAI,CRoepmanCR,CKoenekoopCRKCetal:CLeberCcongenitalamaurosis:genes,CproteinsCandCdiseaseCmechanisms.ProgRetinEyeRes27:391-419,C20082)KumaranN,MooreAT,WeleberRGetal:Lebercongeni-talCamaurosis/early-onsetCsevereCretinaldystrophy:clini-calCfeatures,CmolecularCgeneticsCandCtherapeuticCinterven-tions.BrJOphthalmolC101:1147-1154,C20173)ChungDC,BertelsenM,LorenzBetal:Thenaturalhis-822あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025(38)—

遺伝子検査を読み解くための遺伝学の基本

2025年7月31日 木曜日

遺伝子検査を読み解くための遺伝学の基本BasicKnowledgeofGeneticstoProperlyInterpretGeneticTestResults浦川優作*はじめに近年,さまざまな疾患と遺伝子の関係が明らかになってきており,遺伝性の疾患についても多くのことが解明されてきた.眼科領域の遺伝性疾患である網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)をはじめとする遺伝性網膜ジストロフィ(inheritedCretinaldystrophy:IRD)はその代表例である.IRDは夜盲,視野狭窄,視力低下をおもな症状とする進行性の網膜変性疾患である.IRDと診断された患者にとっては,治療法がない,失明する可能性があるということだけでなく,遺伝するということがわかったときのインパクトは大きく,今後の人生設計にも大きな影響を及ぼす可能性がある.一方で,実臨床においてCRPE65を原因とするCIRDに対して遺伝子治療が始まった.治療方針の決定には遺伝学的検査が不可欠であり,それだけではなく自身の子どもへの遺伝的リスクを知りたいという患者も少なくない.遺伝学的検査で得られる情報を有効活用するために,本稿では遺伝学的検査の検査結果を解釈するための遺伝や遺伝子診断の基本をまとめた.CIIRDの遺伝学的特徴IRDは,その原因となる遺伝子がきわめて多様であることが最大の特徴である.類縁疾患を含めると,現在までにC250を超える原因遺伝子が報告されている1).多くの遺伝性疾患では,特定の疾患に対して原因遺伝子が一対一で対応するのに対し,IRDでは一つの疾患(たとえばCRP)に対して多数の異なる遺伝子が原因となりうる.この現象を「遺伝的異質性(geneticCheterogene-ity)」とよび,IRDの診療において非常に重要な概念である.原因遺伝子の違いは,疾患の進行速度や重症度といった予後,さらには眼所見を含む臨床像(病像)の違いにも影響する.そして,遺伝形式も原因遺伝子によって異なることが知られており,正確な遺伝カウンセリングを行ううえで必須の情報となる.遺伝学的検査により原因遺伝子が同定されると遺伝形式も確定されることになり,同胞や子どもへの影響の大きさが評価できる.遺伝形式を知ることは,患者やその家族にとっては非常に重要なことであり,遺伝について知るということが検査を受ける動機になることは少なくない.CII遺伝形式遺伝性疾患は,その疾患が家族内でどのように伝わるかを示す「遺伝形式」によって分類される.IRDのおもな遺伝形式には,常染色体顕性遺伝(優性遺伝),常染色体潜性遺伝(劣性遺伝),X連鎖性遺伝がある.それぞれの遺伝形式で血縁者が同病である確率が大きく異なるため,原因遺伝子が同定されることにより遺伝形式が確定することは,血縁者への影響を判断するうえで非常に重要である.遺伝形式は家族歴を聴取することである程度予測できる場合もあるが,最終的に遺伝形式を確定するためには遺伝学的検査により原因遺伝子を同定す*YusakuUrakawa:藤田医科大学医学部先端ゲノム医療科〔別刷請求先〕浦川優作:〒470-1192愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪C1-98藤田医科大学医学部先端ゲノム医療科(1)(27)C8110910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1ADの典型的な家系図各世代に少なくとも一人の罹患者が存在している.また,性別図2ARの典型的な家系図に関係なく罹患している.同胞には罹患者がいるが,上の世代,下の世代ともに罹患者はいない.図3XLの典型的な家系図女性を挟んだ男性のみが罹患している,c.性腺モザイク卵巣または精巣の生殖細胞(卵子や精子のもとになる細胞)にのみ遺伝子の病的バリアントが存在し,ほかの組織には存在しない状況を性腺モザイクとよぶ.この病的バリアントは,受精後の発生の早い段階で,生殖細胞になる予定の細胞に突然変異が起こることで生じると考えられている.病的バリアントは生殖細胞に限られているため,親自身は無症状であり,遺伝学的検査でも病的バリアントは検出されない.一方で,その子どもは受精卵のときから病的バリアントを有している可能性があり,遺伝性疾患を発症する可能性がある.Cd.浸透率の低い遺伝性疾患ADの遺伝子の場合,一部の遺伝子では病的バリアントをもっていても必ずしも発症しない(不完全浸透)ことが報告されている.家系内で症状が現れない世代が存在し,弧発例のようにみえることがある.Ce.XL母親が病的バリアント保持者で,その息子のみが発症し,ほかに男性の罹患者がいない場合がある.母方の家系で偶然男性へは遺伝していない場合や男性の家系員がいない場合に見かけ上は弧発例にみえる場合がある.Cf.情報不足家系情報が不正確であったり,軽症で未診断の家族がいたりする場合,見かけ上は弧発例となることがある.弧発例の遺伝的リスク評価を行う際には,詳細な家族歴の聴取が非常に重要である.弧発例の場合の遺伝形式はCARのことが多いが,弧発例だからCARであると決めつけることにはリスクが生じる.ADやCXLの場合もありえるため,遺伝学的検査前の情報提供時にはすべての可能性について説明しておくことが望ましい.CIV家系図の聴取と作成家系図は遺伝医療において遺伝学的なリスク評価を行うために用いられ,家系内での罹患状況から遺伝形式を推測するために不可欠なツールである.遺伝学的リスク評価を行ううえでは,家系員の情報が多ければ多いほうが正確な評価が可能になるが,原則C3世代にわたって父方,母方両方の家系の家族歴を確認する必要がある.患者本人だけでなく血縁者の罹患状況,診断時年齢,亡くなっている場合は死亡年齢や生前の病歴を聴取する.眼科疾患では患者側が家族の視力のことに注意しがちであるが,夜盲があったかどうか,日常生活での不自由があるかどうか,自動車,自転車を利用していたかどうかなども参考になる情報である.また,IRDはCAR形式の遺伝子が原因であることが珍しくないため,患者や同病の血縁者の両親が近親婚であったかどうかの確認も忘れてはならない.ほかにも,症候性のIRDの可能性を検討するために,難聴の有無や,心疾患,腎疾患があるかどうかも確認しておくことが望ましい.家系図は医療者あるいは医療機関どうしでのやり取りが発生するため,共通の記載方法を用いることが望ましい.遺伝医療においては,米国遺伝カウンセラー学会(NationalCSocietyCofCGeneticCounselors:NSGC)の提唱する表記方法が国際的に用いられている2).CV遺伝子診断と原因遺伝子日本国内においては,RPE65網膜症を疑う患者に対して保険診療でCIRDパネル検査が実施可能となった.IRDに対する遺伝子診断はこれまでにいくつかの研究で実施されており,日本国内での原因遺伝子の同定率が明らかになりつつある.保険診療に先駆けて実施された遺伝子診断に関する先進医療では,82遺伝子の網羅的遺伝子解析にてCIRD患者C100名中C41名に原因遺伝子が同定された3).同定された遺伝子でもっとも頻度が高かったのはCEYSであり,15名(37.5%)であった.同定された遺伝子の遺伝形式は,ADがC2例(4.9%),ARが34例(82.9%),XLがC5例(12.2%)であり,多くの患者がCARの遺伝形式であった.遺伝子診断の注意点としては,検査で同定されたバリアントの解釈と遺伝形式に矛盾がないか確認することである.たとえば,ADの遺伝形式である遺伝子(RHOやCPRPH2など)では,病的バリアントが一つ同定されると,それが疾患の原因であると考えられる.ARの場合は同じ遺伝子の病的バリアントがヘテロ接合で二つ同定されるか,同じバリアントがホモ接合である場合に,両方の遺伝子の機能に影響を与えていると考えるため,バリアントの情報だけでなく接合(ホモなのかヘテロな814あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025(30)

遺伝学的検査IRDパネルシステムの特徴と臨床的意義

2025年7月31日 木曜日

遺伝学的検査IRDパネルシステムの特徴と臨床的意義CharacteristicsandClinicalSigni.canceofGeneticTestingIRDPanelSystem前田亜希子*はじめに遺伝性網膜ジストロフィ(inheritedCretinalCdystro-phy:IRD)において,遺伝学的検査CPrismGuideCIRDパネルシステム(シスメックス社)が保険収載され,国内における検査実施体制の整備が進んでいる.検査によりCRPE65関連網膜症患者の確定診断が可能なことから,RPE65遺伝子治療が実施可能となっている.保険収載されたCPrismGuideIRDパネルシステムの特徴と臨床的意義について解説する.CI遺伝学的検査の実施の流れ疾患に対する遺伝的要因を明らかにするために,疾患原因遺伝子の解析を行う検査を「遺伝学的検査」という.日本医学会や日本眼科学会のガイドラインでは,遺伝学的検査の実施体制について定められており,検査の前後に遺伝カウンセリングを提供することと,解析結果についてエキスパートパネル(用語解説参照)とよばれる専門家会議で検討することが求められている1,2).IRDに対する遺伝学的検査は,図1に示す流れで実施されている.現在,国内にC12の検査実施施設があり,それぞれにおいてエキスパートパネルによる結果の検討が行われている.CII遺伝学的検査IRDパネルシステムIRDは,網膜の機能や構造維持に必要な遺伝情報の変異に起因する疾患群で,網膜色素変性(retinitisCpig-mentosa:RP)や錐体ジストロフィが代表疾患である.正常と考えられる標準遺伝子配列と異なる配列をバリアント(用語解説参照)というが,IRDでは,疾患発症に関与する病的バリアント検出の必要性が高まっている.遺伝学的検査とは,病的バリアントを検出し,疾患原因遺伝子を同定することである.遺伝子解析には,サンガーシーケンス,次世代シーケンシング(nextgenerationCsequencing:NGS)を用いたパネル検査,全エクソームシーケンス(wholeexomesequencing:WES),全ゲノムシーケンス(wholeCgenomesequencing:WGS)などが用いられる.サンガーシーケンスはC1977年に開発されたCDNAシーケンシング技術であり,現在も解析に広く用いられている.高精度で,特定の遺伝子やエクソンの解析に適するが,NGSに比べ低スループットであり,大規模解析には不向きである.NGSパネル検査は,特定の疾患関連遺伝子のみを対象とするため,高精度かつ迅速な診断が可能である.一方,WESは全エクソーム領域を解析し,新規病因変異の探索に有用であるが,非コード領域の変異は検出できない.WGSは全ゲノムを対象とし,コーディング領域と非コーディング領域を網羅的に解析できるが,コストとデータ解析の負担が大きい.目的に応じて適切な手法を選択することが重要である.遺伝学的検査を含む体外診断検査には体外診断薬(invitrodiagnostics:IVD)と自家調整試薬(laboratoryCdevelopedtest:LDT)がある(表1).海外では検査施*AkikoMaeda:神戸アイセンター病院〔別刷請求先〕前田亜希子:〒650-0047神戸市中央区港島南町C2-1-8神戸アイセンター病院(1)(21)C8050910-1810/25/\100/頁/JCOPYステップ1ステップ2ステップ3ステップ4図1遺伝学的検査の実施フロー遺伝学的検査は多くの専門職の協力により実施される.表1IVDとLDTIVDCLDT定義承認された体外診断用医薬品・医療機器医療施設や研究機関で自家開発される検査開発・承認薬機法に沿った審査・承認医療施設や研究機関内で開発・使用薬機法の適用ありなし表2PrisumGuideIRDパネルシステムに搭載されている82遺伝子1群:治療のある遺伝子CRPE652群:治療開発が進められている遺伝子CABCA4,CBEST1,CCEP290,CCHM,CCNGA1,CCNGA3,CCNGB1,CCNGB3,CCYP4V2,CLRAT,CMERTK,CMYO7A,CPDE6A,CPDE6B,CPRPF31,CRDH12,CRDH5,CRHO,CRLBP1,CRP2,CRPGR,CRS1,CUSH2A3群:国内の網羅的解析でC2家系以上が報告されている遺伝子CADGRV1,CC8orf37,CCACNA1F,CCDH23,CCERKL,CCFAP410,CCRB1,CCRX,CDRAM2,CEYS,CGNAT2,CGUCA1A,CGUCY2D,CIMPDH1,IMPG2,KCNV2,MAK,NR2E3,NRL,NYX,PCARE,PDE6G,CPOC1B,CPRCD,CPROM1,CPRPF8,CPRPH2,CRP1,CRP1L1,RP9,SAG,SNRNP200,TOPORS,TULP14群:海外で複数の報告ありなどの遺伝子CAIPL1,CCA4,CCDHR1,CCLRN1,CDHDDS,CFAM161A,CFSCN2,CGRK1,CIDH3B,CIQCB1,CKLHL7,CNMNAT1,CPDE6C,CPRPF3,CPRPF6,CRBP3,CRGR,CRGS9BP,CROM1,CRPGRIP1,CSEMA4A,CSPATA7,TTC8,ZNF513図2わが国におけるIRD原因遺伝子の同定率神戸アイセンター病院においてC39またはC50遺伝子パネル検査を用いた研究解析では,原因遺伝子の同定率はC50.9%であった.原因遺伝子としてはCEYS,CUSH2A,CRHO,RPGRが高頻度で同定された.ab図3異なる原因遺伝子が類似する自家蛍光像を示す例a:EYS,USH2A,RHO,RPGRを原因遺伝子とするCRPはそれぞれ所見が類似することがある.Cb:ABCA4とCPRPH2を原因遺伝子とする黄斑ジストロフィも所見が類似している.-